説明

血圧降下剤を含有する外用医薬組成物

【課題】経口薬として実績のある血圧降下薬を活性成分とし、かつ経皮吸収性に優れた外用医薬品組成物を提供する。
【解決手段】アンジオテンシンII受容体拮抗剤およびアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)から選ばれる血圧降下剤と、有機酸または有機アミンを含有することを特徴とする外用医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には、血圧降下剤の非経口投与用医薬組成物に関する。具体的には、経皮送達するための、血圧降下作用を有する医薬品の組成物に関する。また、本発明は皮膚透過促進剤としての有機酸および/または有機アミンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧は、脳卒中、虚血性心疾患、腎不全等の発症リスクを伴う、深刻な生活習慣病の一つであり、血圧降下剤を服用して血圧を正常範囲内にコントロールしながら、上記発症リスクを最小限に抑える治療が行われる。従って、長期間、場合によっては一生、服用する必要があり、患者のコンプライアンスおよびQOL(クオリティーオブライフ)の観点から決して好ましいものではない。
【0003】
一方、最近注目を集めている剤型として、医薬活性成分を経皮吸収させる、いわゆる経皮吸収型製剤がある。経皮吸収型製剤は、一般に、(1)静脈内投与のような侵襲を伴わない、(2)一過性に高い血中濃度ピークを形成しないため副作用の発現が少ない、(3)経口投与のような肝臓による初回通過効果の影響(肝臓での代謝)を受けない、(4)薬物の効果時間の持続性から投与回数を減らすことができる、など、経口医薬品や注射医薬品では得がたい特徴を有しており、患者のコンプライアンス、QOLの改善が期待できる優れた投与形態である。
【0004】
血圧降下剤の経皮吸収製剤としては、クロニジンを活性成分とするパッチ剤が報告され(特許文献1)、既に臨床応用されている。しかしながら、血圧降下剤の選択には、重篤度(高血圧の程度)、禁忌、患者と薬剤との相性(有効か否か)等を考慮しなければならず、患者のQOLを考慮すると、血圧降下薬の経皮吸収製剤の選択肢が数多くあることが望ましい。
【0005】
このような背景もあり、血圧降下薬(アンジオテンシンII阻害薬)の一つであるカプトプリルの経皮吸収製剤化が試みられている(特許文献2)。しかし、経皮吸収を促進させて臨床的有用性を高めるために、実際には、カプトプリルの類似体が活性成分として用いられている。これは、経口医薬品用途で開発された活性成分は、それ自体、経皮吸収に適した諸物性を備えていないため、経皮吸収製剤へと単純適用することへの難しさを示す典型である。
【0006】
従って、経口医薬品として使用実績のある血圧降下活性成分自体、特にアンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)またはアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)を経皮吸収製剤化する技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−172147
【特許文献2】特開平8−40896
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、経口血圧降下剤と実績のあるアンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)またはアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)を含有する非経口投与用医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、血圧降下作用を有する医薬活性成分と、有機酸あるいは有機アミンとの塩を組成物とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明はアンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)及びアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)から選ばれる血圧降下剤と有機アミンを含むことを特徴とする外用医薬組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、経口医薬品として実績のあるンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)及びアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)について、経口に代わる新たな投与経路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】バルサルタンを含有する試験液の浸透拡散性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるアンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)とは、アンジオテンシンIIがその受容体に結合することをブロックすることにより血圧降下作用を示す薬物を表す。例えば、オルメサルタンメドキソミル、アンデサルタンシレキセチル、テルミサルタン、バルサルタン、ロサンタン、カンデサルタン、イサベルタン、および、それらの薬学上許容される塩を挙げることができる。
【0014】
本発明におけるアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)とはアンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換するACE(アンジオテンシン変換酵素:angiotensin-converting enzyme)を阻害することにより降圧作用を示す薬物を表す。例えばアラセプリル、イミダプイル、デラプリル、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、リジノプリル、および、それらの薬学上許容される塩を挙げることができる。
【0015】
上記、血圧降下剤の中では、テトラゾール基を有するアンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)が好ましく、さらに好ましい具体的な例は、バルサルタンである。
【0016】
上記活性成分を、有機酸あるいは有機アミンと共存させることにより経皮吸収効率が高められる。この際、活性成分が酸性官能基、例えば、テトラゾール基、カルボキシル基、スルホン酸基を有する場合、有機アミンを用いると活性成分の経皮吸収性が高められる。塩基性官能基、例えばアミノ基などを有する場合、有機酸を用いると活性成分の経皮吸収性が高められる。酸性、塩基性の官能基を共に有する場合は、有機酸、有機塩基のどちらを用いてもよい。
【0017】
有機酸の例としては特に限定されず、例えばクエン酸、乳酸、酒石酸、グルコン酸、グリコール酸、りんご酸、フマル酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、酢酸、セバシン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、安息香酸、サリチル酸、インドメタシン、アスピリン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、ナプロキセン、スリンダク、ジフルニサル、アルドメット、アザルフィジン、バクロフェンなどを例示することができる。
【0018】
有機アミンの例としては、特に限定されず、例えばエチレンジアミン、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、アマンタジン、トラマドール、ジフェンヒドラミン、テルトロジン、トリプタノール、セルトラリンなどを例示することができる。テトラゾール基を有するアンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)に対しては、アミノアルコール類が好ましく、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンが特に好ましい。
【0019】
本発明の組成物を構成するために配合される血圧降下剤の配合量は制限されないが、外用剤組成物全量に対して、0.1〜50重量%となるような組成が好ましい。更に好ましくは、0.5〜30重量%である。
【0020】
本発明の組成物を構成するために使用される有機酸および有機アミンの量は、特に限定されないが、通常、上記血圧降下剤1モルに対して、0.5〜1.5モル、好ましくは0.8〜1.2モル比、更に好ましくは0.9〜1.1モル、特に好ましくは1.0モルである。
【0021】
本発明の組成物に係る外用剤としては、例えばテープ剤、パッチ剤、パップ剤、軟膏剤、クリーム剤を挙げることができるが、外用剤として用いられる剤形であれば、特に制限はない。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明の効果について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示す配合比に従って、バルサルタンを含有する組成液を調製した。具体的には、バルサルタン1mmol、有機塩基各1mmolを各々10mlのエタノールに溶解し、これらを混合した。混合溶液を30分間室温で攪拌し、エタノールを減圧留去した。残さに、バルサルタンが10重量%濃度となるようポリエチレングリコール(PEG-400)を加え、60℃で30分間攪拌して均一な溶液を得た。
【0023】
【表1】

【0024】
一方、ゼラチン5%、ミリスチン酸イソプロピル3%、カルメロースナトリウム1%、ポリビニルアルコール3%、ポリソルベート80を1%、グリセリン12%、脱イオン水75%の混合液を60℃で30分間加熱攪拌して、均一溶液となったものを、直径5cm程度のビーカーに高さ4cmまで注ぎ入れ、冷蔵庫で一晩冷却してゲルを作製した。
【0025】
上記ポリエチレングリコール溶液1.5gを上記ゲルの表面に重層し、27℃で7日間放置した。上層から1cm〜4cmまでのゲルを1cm刻みで3つに分画し、各分におけるバルサルタン濃度を測定した(上層0cm〜1cm画分は、ポリエチレングリコール溶液と直接接触しているため、薬剤の浸透評価から除外した)。画分中に含有するバルサルタン量を重層棒グラフとして図1に示した。
【0026】
図1において、各試験液の浸透拡散性を比較すると、何も加えない場合(試験液No.1)に比べ、有機アミンを共存させるとバルサルタンの浸透拡散性が向上しており、特にジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンの効果は顕著である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンジオテンシンII受容体拮抗剤およびアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)から選ばれる血圧降下剤と、有機酸または有機アミンを含有することを特徴とする外用医薬組成物。
【請求項2】
テトラゾール基を有するアンジオテンシンII受容体拮抗剤と有機アミンを含有する請求項1記載の外用医薬組成物。
【請求項3】
前記アンジオテンシンII受容体拮抗剤が、オルメサルタンメドキソミル、アンデサルタンシレキセチル、テルミサルタン、バルサルタン、ロサンタン、カンデサルタン、イサベルタン、およびそれらの薬学上許容される塩からなる群から選択される請求項2記載の外用医薬組成物。
【請求項4】
前記有機アミンがアミノアルコール類である請求項2又は3記載の外用医薬組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物を含む経皮吸収製剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−207833(P2011−207833A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78631(P2010−78631)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】