説明

血圧降下用組成物

【課題】優れた血圧降下作用を発揮し、しかも安全性が高く、経口摂取で有効な作用を奏する血圧降下用組成物又は血圧降下剤を提供すること。
【解決手段】相乗的有効成分として(I)γ−アミノ酪酸と(II)アデノシンとを含有する血圧降下用組成物又は血圧降下剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた血圧降下作用を発揮して高血圧状態を改善する血圧降下用組成物又は血圧降下剤に関する。さらに、該血圧降下用組成物又は血圧降下剤を含有する高血圧改善用医薬品、食品並びに飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国においては、高齢化や食生活の欧米化に伴い、高血圧疾患は年々増加の一途をたどっている。高血圧疾患は、脳卒中や心臓病などを引き起こす原因となることから、高血圧改善の作用を有する物質が注目を集め、その製品化が検討されてきた。
【0003】
これまでに、麹を有効成分とする高血圧改善剤が知られている(特許文献1参照)。また、降圧物質として、γ−アミノ酪酸が同定されている(非特許文献1参照)。しかし、それらの作用の詳細は十分明らかになっていなかった。
【特許文献1】特公平03−031170号公報
【非特許文献1】Yasuhiro Kohama et al :Isolation and Identification of Hypotensive Principles in Red-Mold Rice Chem. Pharm. Bull. 35(6), 2484-2489, (1987).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、優れた血圧降下作用を発揮し、しかも安全性が高く、経口摂取で有効な作用を奏する血圧降下用組成物又は血圧降下剤を提供することを主な目的とする。更に、それらの有効な利用形態を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として、鋭意検討を重ねた結果、アデノシンとγ−アミノ酪酸とが相乗的に作用して、顕著な血圧降下作用を奏することを見出し、更に検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、相乗的な有効成分として、γ−アミノ酪酸とアデノシンとを含有する血圧降下用組成物又は血圧降下剤、並びに該血圧降下用組成物又は血圧降下剤を含有する高血圧改善用医薬品、食品並びに飲料に関する。
【0007】
項1:相乗的有効成分として(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを含有する血圧降下用組成物。
【0008】
項2:(I)と(II)とを、重量比で1:0.1〜1:10の割合で含有する、項1に記載の血圧降下用組成物。
【0009】
項3:相乗的有効成分として(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを含有する血圧降下剤。
【0010】
項4:(I)と(II)とを、重量比で1:0.1〜1:10の割合で含有する、項3に記載の血圧降下剤。
【0011】
項5:項1に記載の血圧降下用組成物又は項3に記載の血圧降下剤を含有する高血圧改善用医薬組成物。
好ましくは、相乗的有効成分として(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを重量比で1:0.1〜1:10の割合で含有する血圧降下用組成物又は血圧降下剤を含有する高血圧改善用医薬組成物である。
【0012】
項6:項1に記載の血圧降下用組成物又は項3に記載の血圧降下剤を含有する高血圧改善用食品。
好ましくは、相乗的有効成分として(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを重量比で1:0.1〜1:10の割合で含有する血圧降下用組成物又は血圧降下剤を含有する高血圧改善用食品である。
【0013】
項7:項1に記載の血圧降下用組成物又は項3に記載の血圧降下剤を含有する高血圧改善用飲料。
好ましくは、相乗的有効成分として(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを重量比で1:0.1〜1:10の割合で含有する血圧降下用組成物又は血圧降下剤を含有する高血圧改善用飲料である。
【0014】
項8:(I)アデノシン及び(II)γ−アミノ酪酸を、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有する項6に記載の高血圧改善用食品。
具体的には、相乗的有効成分として、(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有している血圧降下用組成物を含有する高血圧改善用食品、又は相乗的有効成分として、(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有している血圧降下剤を含有する高血圧改善用食品である。
好ましくは、相乗的有効成分として、(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを、重量比で1:0.1〜1:10の割合で、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有している血圧降下用組成物を含有する高血圧改善用食品、又は相乗的有効成分として、(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを、重量比で1:0.1〜1:10の割合で、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有している血圧降下剤を含有する高血圧改善用食品である。
【0015】
項9:天然物が紅麹である項8に記載の高血圧改善用食品。
【0016】
項10:(I)アデノシン及び(II)γ−アミノ酪酸を、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有する項7に記載の高血圧改善用飲料。
具体的には、相乗的有効成分として、(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有している血圧降下用組成物を含有する高血圧改善用飲料、又は相乗的有効成分として、(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有している血圧降下剤を含有する高血圧改善用飲料である。
好ましくは、相乗的有効成分として、(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを、重量比で1:0.1〜1:10の割合で、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有している血圧降下用組成物を含有する高血圧改善用飲料、又は相乗的有効成分として、(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを、重量比で1:0.1〜1:10の割合で、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有している血圧降下剤を含有する高血圧改善用飲料である。
【0017】
項11:天然物が紅麹である項10に記載の高血圧改善用飲料。
【0018】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
【0019】
血圧降下用組成物
本発明の血圧降下用組成物は、有効成分として、アデノシンとγ−アミノ酪酸の2成分を含有する。アデノシンとγ−アミノ酪酸は相乗的に作用して、優れた血圧降下作用を奏する。
【0020】
アデノシンとγ−アミノ酪酸との含有割合は、相乗的な作用が奏される範囲であれば特に限定されないが、好ましくは、重量比で、1:0.1〜1:10程度であり、より好ましくは、1:0.2〜1:2程度、更に好ましくは1:0.5〜1:1程度である。
【0021】
本発明の血圧降下用組成物は、アデノシンとγ−アミノ酪酸の2成分を混合して、或いは、該2成分と他の適当な成分とを混合して、調製される。該組成物は、アデノシンとγ−アミノ酪酸それぞれを合成または天然物から抽出して得て、それらを混合して得られるものでもよい。また2成分を含有する天然物から抽出して得られる抽出物又はエキス或いはそれらの調製物でもよい。好ましくは、本発明の血圧降下用組成物において、アデノシンとγ−アミノ酪酸は、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有される。アデノシン及び/又はγ−アミノ酪酸を合成する場合の合成方法の種類は特に限定されない。またアデノシン及び/又はγ−アミノ酪酸を天然物から抽出して得る場合の天然物の種類も特に限定されないが、天然物には、例えば、紅麹が含まれる。また、抽出方法も特に限定されないが、例えば、水や含水アルコールを抽出溶媒として抽出する方法等が含まれる。
【0022】
本発明の血圧降下用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で適宜他の成分を配合することができる。また本発明の血圧降下用組成物は、公知の方法に従って、適当な形態、例えば、液状、粉末状、顆粒状、ペースト状等の形態に適宜調製して用いることができる。
【0023】
本発明の血圧降下用組成物は、食品用組成物や医薬用組成物として用いることができる。また、医薬用組成物や食品や飲料等に添加させて、添加物として用いることもできる。また、試薬用組成物として用いることもできる。
【0024】
本発明の血圧降下用組成物は、摂取されることにより、優れた血圧降下作用を発揮して、高血圧状態を改善する。
【0025】
本発明の血圧降下用組成物の摂取量は、改善すべき高血圧状態や、適用対象の年齢、性別等の条件に応じて、適宜設定することができるが、通常、アデノシンとγ―アミノ酪酸を合わせた摂取量として、0.5mg〜5g/日程度、望ましくは1mg〜100mg/日程度である。
【0026】
血圧降下剤
本発明の血圧降下剤は、有効成分として、アデノシンとγ−アミノ酪酸の2成分を含有する。アデノシンとγ−アミノ酪酸は相乗的に作用して、優れた血圧降下作用を奏する。
【0027】
アデノシンとγ−アミノ酪酸との含有割合は、相乗的な作用が奏される範囲であれば特に限定されないが、好ましくは、重量比で、1:0.1〜1:10程度であり、より好ましくは、1:0.2〜1:2程度、更に好ましくは1:0.5〜1:1程度である。
【0028】
本発明の血圧降下剤は、アデノシンとγ−アミノ酪酸の2成分の混合物或いは該2成分と他の適当な成分の混合物を適宜調製して又は製剤化して製造される。該混合物は、アデノシンとγ−アミノ酪酸それぞれを合成または天然物から抽出して得て、それらを混合して得られるものでもよい。また2成分を含有する天然物から抽出して得られる抽出物又はその調製物でもよい。好ましくは、本発明の血圧降下剤において、アデノシンとγ−アミノ酪酸は、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有される。アデノシン及び/又はγ−アミノ酪酸を合成する場合の合成方法の種類は特に限定されない。またアデノシン及び/又はγ−アミノ酪酸を天然物から抽出する場合の天然物の種類も特に限定されないが、天然物には、例えば、紅麹が含まれる。また、抽出方法も特に限定されないが、例えば、水や含水アルコールを抽出溶媒として抽出する方法等が含まれる。
【0029】
本発明の血圧降下剤には、本発明の効果を損なわない範囲で適宜他の成分を配合することができる。また本発明の血圧降下剤は、それ自体、又は公知の方法に従って、各種の賦形剤や担体等と組み合わせて、適当な形態、例えば、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、ペースト、溶剤等に調製して用いることができる。
【0030】
本発明の血圧降下剤は、それ自体を食品や飲料、医薬として用いることもできる。具体的には、ドリンク剤や経口剤として用いることができる。また、医薬用組成物や食品、飲料等に添加させて、添加物として用いることもできる。また、研究・試験用試薬として用いることもできる。
【0031】
本発明の血圧降下剤は、摂取されることにより、優れた血圧降下作用を発揮して、高血圧状態を改善する。
【0032】
本発明の血圧降下剤の摂取量又は投与量は、改善すべき高血圧状態や、適用対象の年齢、性別等の条件に応じて、適宜設定することができるが、通常、アデノシンとγ―アミノ酪酸を合わせた摂取量として、0.5mg〜5g/日程度、望ましくは1mg〜100mg/日程度である。
【0033】
高血圧改善用医薬組成物
本発明の血圧降下用組成物又は血圧降下剤は、薬学的に許容できる担体と組み合わせて、高血圧改善を目的とした医薬組成物或いは高血圧改善作用を有する医薬組成物として用いることができる。
【0034】
本発明の医薬組成物は、種々の形態に調製することができ、例えば、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、ペースト、溶剤等の形態に適宜調製することができる。
【0035】
本発明の医薬組成物には、本発明の血圧降下用組成物又は血圧降下剤のほか、高血圧を改善又は血圧を降下させるための成分を更に配合することができる。
【0036】
更に、本発明の医薬組成物には、通常医薬組成物に配合される成分、例えば、各種栄養素、防腐剤、乳化剤、可溶化剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0037】
本発明の医薬組成物の投与方法は経口投与が好ましく、本発明の医薬組成物は、高血圧改善用経口剤として好適に用いることができる。
【0038】
本発明の高血圧改善用医薬組成物は、摂取又は投与されることにより、優れた血圧降下作用を発揮して、高血圧状態を改善する。
【0039】
本発明の医薬組成物の摂取量又は投与量は、改善すべき高血圧状態や、適用対象の年齢、性別等の条件に応じて、適宜設定することができる。
【0040】
高血圧改善用食品
本発明の血圧降下用組成物又は血圧降下剤は、各種食品に含有させて、食品の形態で用いることができる。
【0041】
本発明の血圧降下用組成物又は血圧降下剤を含有する食品は、血圧降下作用を有する食品又は高血圧改善作用を有する食品であり、健康食品や特別用途食品、より具体的には、保健機能食品、特定保健用食品又は栄養機能食品などとして、好適に用いることができる。
【0042】
本発明の食品の種類は特に限定されず、例えば、パン、ビスケット、クッキー、シリアル、キャンディー、味噌等として用いることができる。
【0043】
本発明の食品には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常食品に用いられる他の成分、例えば、各種栄養素、動植物成分、賦形剤、甘味料、香味剤、着色剤、防腐剤などを適宜配合することができる。
【0044】
本発明の食品は、摂食又は経口摂取されることにより、優れた血圧降下作用を発揮して、高血圧状態を改善する。
【0045】
本発明の食品の摂取量は、改善すべき高血圧状態や、適用対象の年齢、性別等の条件に応じて、適宜設定することができる。
【0046】
高血圧改善用飲料
本発明の血圧降下用組成物又は血圧降下剤は、各種飲料に含有させて、飲料の形態で用いることができる。
【0047】
本発明の血圧降下用組成物又は血圧降下剤を含有する飲料は、血圧降下作用を有する飲料又は高血圧改善作用を有する飲料であり、健康食品や特別用途食品、より具体的には、保健機能食品、特定保健用食品又は栄養機能食品などとして好適に用いることができる。
【0048】
本発明の飲料の種類は特に限定されず、例えば、各種清涼飲料水、栄養ドリンク、スープ、汁等として用いることができる。
【0049】
本発明の飲料には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常飲料に用いられる他の成分を配合することができる。他の成分には、例えば、各種栄養素、動植物成分、甘味料、香味剤、着色剤、防腐剤などが含まれる。
【0050】
本発明の飲料は、摂取されることにより、優れた血圧降下作用を発揮して、高血圧状態を改善する。
【0051】
本発明の飲料の摂取量は、改善すべき高血圧状態や、適用対象の年齢、性別等の条件に応じて、適宜設定することができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明の血圧降下用組成物又は血圧降下剤は、摂取することで、優れた血圧降下作用を発揮して、高血圧状態を有効に改善する。
【0053】
本発明の血圧降下用組成物又は血圧降下剤は、有効成分として、アデノシンとγ−アミノ酪酸を含有するものであり、該2成分の相乗作用により、顕著な血圧降下作用を奏する。しかも、2成分が相乗的に作用することで、単独成分の量が軽減され、作用が穏やかで、安全性も高い。このように、本発明の血圧降下用組成物又は血圧降下剤は、優れた血圧降下作用を示し、しかも穏やかに高血圧状態の改善を達成するという顕著な効果を奏する。
【0054】
そして、本発明の血圧降下用組成物又は血圧降下剤を含有する医薬組成物、食品又は飲料も、優れた血圧降下作用を示し、しかも穏やかに高血圧状態を改善させるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0056】
実施例及び実験例
【0057】
材料及び方法
1.被験物質
紅麹ドリンクを次のように製造した。蒸煮滅菌した蒸米にMonascus pilosus IFO4520を植菌し、30℃で9日間好気的に培養した後、熱処理により紅麹菌と酵素を失活させ、更に乾燥して得た紅麹を13倍量の温水(50℃)で適度に循環しながら2時間抽出し、濃縮した紅麹エキスを得た。得られた紅麹エキスを主原料(全体の3.5%)とし、副原料として香料、酸味料、カラメル、甘味料を用いて、水に添加・溶解して、紅麹ドリンクを製造した。このドリンクのアデノシンおよびγ―アミノ酪酸の含有量を、アデノシンは高速液体クロマトグラフ法、γ−アミノ酪酸はアミノ酸分析法で分析した結果、アデノシンの含有量は1.8mg/100ml、γ―アミノ酪酸の含有量は2.4mg/100mlであった。
また、アデノシン(SIGMA)を購入し、注射用水(大塚製薬工場)に溶解して使用した。同様に、γ−アミノ酪酸(GABA)(SIGMA)を購入し、注射用水(大塚製薬工場)に溶解して使用した。
【0058】
2.使用動物
高血圧自然発症ラット(SHR)(日本エスエルシー(株))は、予備飼育の後、一般状態に異常がみられなかった動物を選択し、実験1では体重275〜334g(14週齢)、実験2では体重271〜338g(14週齢)、実験3では体重286〜319g(14週齢)の動物を使用した。飼料は、基本飼料の給餌期間以外は、固形飼料(ラボMRストック、日本農産工業(株))を自由摂取させた。飲料水は給水瓶により自由摂取させた。
なお、飼育や実験操作などは、全て、日本薬理学会指針ならびに(株)新薬開発研究所・中央研究所「動物実験管理に関する指針」に従って実施した。
【0059】
3.飼料組成(基本飼料)
基本飼料は、AIN組成に準拠し、辻ら(家政誌, 44, 109-114, (1993))の組成に従い調製した半純化飼料で、1%食塩を添加した。基本飼料は、カゼイン(純正化学)、ラード(純正化学)、ミネラルMIX(日本クレア)、ビタミンMIX(日本クレア)、塩化コリン(純正化学)、セルロース(旭化成)、塩化ナトリウム(和光純薬)及びショ糖(TTGHグラニュー糖、東洋精糖)により調製した。
【0060】
4.試験方法
動物の収縮期血圧(SBP)および心拍数(HR)は、実験飼料摂取前,5,10及び15日後に、小動物無加温型非観血式血圧計(MK-2000、室町機械(株))を用いて測定した。紅麹ドリンクは、基本飼料摂取開始翌日より、1日1回15日反復経口投与した。アデノシン、GABA、GABA+アデノシンは、基本飼料摂取開始翌日より、1日1回15日間反復投与した。血圧測定は被験物質の投与2時間後に行なった。
【0061】
5.投与量および群構成
紅麹ドリンクとアデノシンの血圧降下作用を検討した実験(実験1)では、注射用水を経口投与した対照群、紅麹ドリンク5mL/kg、およびアデノシン0.09、0.3および0.9mg/kg(5mL/kg)の計5群とし、1群8匹を使用した。なお、紅麹ドリンク5mLにはアデノシンが0.09mg含まれていることから、紅麹ドリンクとアデノシン0.09mg/kgの群は同じ量のアデノシンを経口投与したことになる。
【0062】
紅麹ドリンクとGABAの血圧降下作用を検討した実験(実験2)では、注射用水を経口投与した対照群、紅麹ドリンク5mL/kg、およびGABA0.12、0.40および1.20mg/kg(5mL/kg)の計5群とし、1群6匹を使用した。なお、紅麹ドリンク5mLにはGABAが0.12mg含まれていることから、紅麹ドリンクとGABA0.12mg/kgの群は同じ量のGABAを経口投与したことになる。
【0063】
紅麹ドリンクとアデノシン+GABAの血圧降下作用を検討した実験(実験3)では、
注射用水を経口投与した対照群、紅麹ドリンク5mL/kg、およびGABA0.12mg/kg +アデノシン0.09mg/kg (5mL/kg)の計3群とし、1群8匹を使用した。なお、紅麹ドリンク5mLにはGABAが0.12mg、アデノシンが0.09mg含まれていることから、紅麹ドリンクとGABA+アデノシンの群は同じ量のGABAとアデノシンを経口投与したことになる。
【0064】
6.統計学的処理
成績は平均値および標準誤差で示した。2群間の有意差検定は、F検定の後、P>=0.05の場合はStudent’s t-test, P<0.05の場合はAspin-Welch t-testを用いて検討し、P<0.05の場合を有意差ありとした。
【0065】
実験1:アデノシンの血圧降下作用
アデノシンとγ−アミノ酪酸を含有する紅麹ドリンクを調製し、アデノシンを単独で用いた場合と、紅麹ドリンクという形態でγ−アミノ酪酸と併用させた場合の血圧降下作用を比較した。
【0066】
得られた結果を図1に示す。
【0067】
対照群(注射用水を経口投与した群)は、基本飼料摂取5日後で摂取前の値に比べ、収縮期血圧は上昇し、以後15日まで一定であった。紅麹ドリンク(SS-BL)(5ml/kg)は収縮期血圧の上昇が認められず、15日後まで軽度ではあるが、収縮期血圧が低下した。アデノシン0.09mg/kgは、5日後では収縮期血圧の変化は認められなかったが、10および15日後で上昇が認められた。対照群の収縮期血圧に対し、紅麹ドリンク(5ml/kg)およびアデノシン0.09mg/kgは、5,10および15日後の全てにおいて有効な低値を示した。更に高用量のアデノシン0.3mg/kgおよび0.9mg/kgでは、0.09mg/kgより更に収縮期血圧は低値を示した。しかし、0.9mg/kg投与での5日後の一過性の低下を除き、両者は紅麹ドリンクの収縮期血圧を下回ることはなく、15日後においては、紅麹ドリンクと有意差が認められた。
【0068】
このように、紅麹ドリンクに含まれるアデノシン量の1倍量(0.09mg/kg)、3.3倍量(0.3mg/kg)、10倍量(0.9mg/kg)のアデノシンをラットに単独投与した結果、アデノシンの1倍量では紅麹ドリンクの33%程度の血圧降下作用、3.3倍量、10倍量で紅麹ドリンクの60%程度の血圧降下作用であった。
【0069】
実験2:γ−アミノ酪酸(GABA)の血圧降下作用
アデノシンとγ−アミノ酪酸を含有する紅麹ドリンクを調製し、γ―アミノ酪酸を単独で用いた場合と、紅麹ドリンクという形態でアデノシンと併用させた場合の血圧降下作用を比較した。
【0070】
得られた結果を図2に示す。
【0071】
対照群(注射用水を経口投与した群)は、基本飼料摂取5日後で摂取前の値に比べ、収縮期血圧は上昇し、以後15日までほぼ一定の割合で上昇した。紅麹ドリンク(SS-BL)(5ml/kg)は5日後に血圧降下がみられ、その後僅かに上昇したが、摂取前に比べ低い値で推移した。γ―アミノ酪酸0.12mg/kgは摂取前に比べ収縮期血圧は上昇したが、5、10、および15日後の全てにおいて対照群よりも低い値であった。更に高用量のγ―アミノ酪酸0.40mg/kgおよび1.20mg/kgでは、0.12mg/kgより更に収縮期血圧は低値を示したが、両者は紅麹ドリンクの収縮期血圧を下回ることはなく、15日後においては紅麹ドリンクと有意差が認められた。
【0072】
紅麹ドリンクに含まれるγ−アミノ酪酸量の1倍量(0.12mg/kg)、3.3倍量(0.4mg/kg)、10倍量(1.2mg/kg)のγ−アミノ酪酸をラットに単独投与した結果、γ−アミノ酪酸の1倍量では44%程度の血圧降下作用、3.3倍量、10倍量のγ−アミノ酪酸では紅麹ドリンクの70%程度の血圧降下作用であった。
【0073】
実験3:アデノシン+γ−アミノ酪酸(GABA)の血圧降下作用
アデノシンとγ−アミノ酪酸を含有する紅麹ドリンクを投与した場合、アデノシンとγ―アミノ酪酸を併用させた場合の血圧降下作用を比較した。
【0074】
得られた結果を図3に示す。
【0075】
対照群(注射用水を経口投与した群)は、基本飼料摂取5日後で摂取前の値に比べ、収縮期血圧は上昇し、以後15日までほぼ一定の割合で上昇した。紅麹ドリンク(SS-BL)(5ml/kg)は5日後に多少の血圧降下がみられ、その後僅かに上昇したが、対照群に比べ有意に低い値で推移した。
【0076】
紅麹ドリンクに含まれる量と同じ量のアデノシンとγ―アミノ酪酸を併用した群(GABA0.12mg/kg+アデノシン0.09mg/kg)では、収縮期血圧はほぼ一定の値で推移し、対照群に比べ有意に低い値であったが、紅麹ドリンク5mg/kgと同程度(統計的に有意差無し)であった。
【0077】
紅麹ドリンクに含まれる量と同じ量のアデノシンとγ―アミノ酪酸を併用投与した結果、紅麹ドリンクの95%程の降圧作用を示した。
【0078】
実験1〜3の結果から、アデノシン1倍量とγ−アミノ酪酸1倍量の投与は、アデノシン10倍量やγ−アミノ酪酸10倍量の投与よりも効果が強く、アデノシンとγ−アミノ酪酸は血圧降下作用について相乗効果があることがわかった(表1参照)。
【0079】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、アデノシンの血圧降下作用に関する実験結果を示す図面である。SS-BLは紅麹ドリンクを表す。それぞれの数値は、8例の平均値±標準誤差を表す。**p<0.01は対照群として比較してt-testで有意差有りを表す。#p<0.05、##p<0.01はアデノシン0.09mg/kg群と比較してt-testで有意差有りを表す。$p<0.05はアデノシン0.3mg/kg群と比較してt-testで有意差有りを表す。&p<0.05はアデノシン0.9 mg/kg群と比較してt-testで有意差有りを表す。
【図2】図2は、γ−アミノ酪酸の血圧降下作用に関する実験結果を示す図面である。SS-BLは紅麹ドリンクを表す。それぞれの数値は、6例の平均値±標準誤差を表す。*p<0.05、**p<0.01は対照群として比較してt-testで有意差有りを表す。#p<0.05、##p<0.01はGABA0.12mg/kg群と比較してt-testで有意差有りを表す。&&p<0.01はGABA0.40mg/kg群と比較してt-testで有意差有りを表す。\p<0.05はアデノシン1.20 mg/kg群と比較してt-testで有意差有りを表す。
【図3】図3は、アデノシンとγ−アミノ酪酸との併用による血圧降下作用に関する実験結果を示す図面である。SS-BLは紅麹ドリンクを表す。それぞれの数値は、8例の平均値±標準誤差を表す。**p<0.01は対照群として比較してt-testで有意差有りを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相乗的有効成分として(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを含有する血圧降下用組成物。
【請求項2】
(I)と(II)とを、重量比で1:0.1〜1:10の割合で含有する、請求項1に記載の血圧降下用組成物。
【請求項3】
相乗的有効成分として(I)アデノシンと(II)γ−アミノ酪酸とを含有する血圧降下剤。
【請求項4】
(I)と(II)とを、重量比で1:0.1〜1:10の割合で含有する、請求項3に記載の血圧降下剤。
【請求項5】
請求項1に記載の血圧降下用組成物又は請求項3に記載の血圧降下剤を含有する高血圧改善用医薬組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の血圧降下用組成物又は請求項3に記載の血圧降下剤を含有する高血圧改善用食品。
【請求項7】
請求項1に記載の血圧降下用組成物又は請求項3に記載の血圧降下剤を含有する高血圧改善用飲料。
【請求項8】
(I)アデノシン及び(II)γ−アミノ酪酸を、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有する請求項6に記載の高血圧改善用食品。
【請求項9】
天然物が紅麹である請求項8に記載の高血圧改善用食品。
【請求項10】
(I)アデノシン及び(II)γ−アミノ酪酸を、天然物の抽出物中に含まれる成分の形で含有する請求項7に記載の高血圧改善用飲料。
【請求項11】
天然物が紅麹である請求項10に記載の高血圧改善用飲料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−104156(P2006−104156A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295101(P2004−295101)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年7月30日 応用薬理研究会発行の「応用薬理 Vol.66 No.3/4」に発表
【出願人】(000102496)エスエス製薬株式会社 (50)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】