説明

血小板凝集抑制剤

【課題】安全性と抗血小板効果に優れ、副作用が少なく、幅広い作用機序を有し、虚血性循環障害の予防または治療に用いることができる血小板凝集抑制剤を提供する。また、飲食品または医薬品の形態である、前記血小板凝集抑制剤を提供する。
【解決手段】コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物から選択される1以上の化合物を含有する血小板凝集抑制剤。本発明の血小板凝集抑制剤は、優れた抗血小板効果を示す。それら有効成分はいずれも古くから食品として摂取されてきた成分であり、安全性に優れることから、本発明の血小板凝集抑制剤は、飲食品、または医薬品の形態で、虚血性循環障害の予防または治療に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板凝集抑制剤に関する。より詳細には、ウィスキー中の成分であるコニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物からなる群より選択される1以上の化合物を有効成分として含有する血小板凝集抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血栓とは、一般に血管内で血液が固まった状態をいい、血管内皮の損傷、炎症、潰瘍等の現象があることによってその箇所に血小板等が集まり、膠着血栓を生じ、内腔狭窄や閉塞を生じる。
【0003】
心筋梗塞や脳梗塞を代表とする虚血性循環障害は、血小板等の凝集を通じて血栓が形成されることに起因しており、日本人の死因に占める割合は28%以上と非常に大きい(厚生労働省、2005年人口動態統計特殊報告)。
【0004】
現在、虚血性循環障害の治療及び予防には抗血小板薬(アスピリンなど)や血栓溶解薬(tPAなど)が用いられている。しかし、脳梗塞の治療に用いられている血栓溶解薬の使用には、発症からの時間や治療を行う施設などに厳しい制限があり、その適応となる患者は少ない。また、抗血小板薬には、薬物耐性の問題など、解決すべき点もある。さらに、虚血性循環障害の治療及び予防には長期的な投薬が一般的であるが、長期投薬によって副作用を引き起こすこともあり、問題になっている。
【0005】
厚生労働省は、平成2年に生活習慣についてのアンケートを実施した。40〜59歳の男性のうち回答の得られた約2万人を対象に、飲酒と脳卒中発症との関連を11年間追跡調査して大規模な疫学データを得たところ、1日1合未満の適量飲酒群で、脳梗塞のリスクが低下していることが明らかとなった。これは、アルコール飲料の主成分であるエタノールによって、血中の悪玉コレステロールの減少と善玉コレステロールの上昇が引き起こされ、血液が固まりにくくなるためであると考えられている。
【0006】
また、赤ワインに含まれるポリフェノールの一種であるレスベラトロール(Resveratrol)は血小板凝集抑制作用を有することが報告されている(非特許文献1)。しかし、トロンボキサンA受容体アゴニストU46619誘発性血小板凝集に対するレスベラトロールの抑制作用は部分的である(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Olas et al., Platelets 16, 251-260, 2005
【非特許文献2】Yang et al., European Journal of Pharmacology 583, 148-155, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、抗血小板効果に優れ、副作用が少ない血小板凝集抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ワインに限らず樽の中で熟成を重ねたウイスキーなどの酒類中には、ポリフェノール類を始め、非常に多種の化合物が含まれている。本発明者らは、それらの化合物中に、レスベラトロールよりも強い血小板凝集抑制作用を有する化合物が含まれている可能性があると考えた。そして、酒類に含まれる様々な成分、およびその代謝物の中から強い血小板凝集抑制作用を有する成分を鋭意探索し、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物に顕著な血小板凝集抑制作用があることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は次の[1]〜[6]である。
[1]コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物からなる群より選択される1以上の化合物を有効成分として含有する、血小板凝集抑制剤。
[2]有効成分が、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、および/またはエラグ酸の代謝物であるユーロリシンAである、[1]の血小板凝集抑制剤。
[3]有効成分がユーロリシンAである、[2]の血小板凝集抑制剤。
[4]虚血性循環障害の予防または治療のための、[1]〜[3]のいずれかに記載の血小板凝集抑制剤。
[5]飲食品の形態である、[1]〜[4]のいずれかに記載の血小板凝集抑制剤。
[6]医薬品の形態である、[1]〜[4]のいずれかに記載の血小板凝集抑制剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の血小板凝集抑制剤は、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及び/またはそれらの代謝物を含有することにより、優れた抗血小板効果を示し、しかも副作用が少なく、飲食品、または医薬品の形態で、虚血性循環障害の予防または治療に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、コラーゲン(3μg/mL)刺激に対する各種酒類関連成分の血小板凝集抑制作用を示す。
【図2】図2は、U46619(3μM)刺激に対する各種酒類関連成分の血小板凝集抑制作用を示す。
【図3】図3は、アデノシン二リン酸(10μM)-アドレナリン(10μM) 混合薬 (ADP/Adr) 刺激に対する各種酒類関連成分の血小板凝集抑制作用を示す。
【図4】図4は、トロンビン(0.03U/mL) 刺激に対する各種酒類関連成分の血小板凝集抑制作用を示す。
【図5】図5は、コラーゲン(3μg/mL)刺激に対するWi/レスベラトロールの血小板凝集抑制作用を示す。
【図6】図6は、コラーゲン(3μg/mL)刺激に対するW2/コニフェリルアルデヒドの血小板凝集抑制作用を示す。
【図7】図7は、コラーゲン(3μg/mL)刺激に対するW6/シナピルアルデヒドの血小板凝集抑制作用を示す。
【図8】図8は、コラーゲン(3μg/mL)刺激に対するW9/ユーロリシンAの血小板凝集抑制作用を示す。
【図9】図9は、U46619(3μM)刺激に対するW9/ユーロリシンAの血小板凝集抑制作用を示す。
【図10】図10は、アデノシン二リン酸(10μM)-アドレナリン(10μM) 混合薬(ADP/Adr) 刺激に対するW9/ユーロリシンAの血小板凝集抑制作用を示す。
【図11】図11は、トロンビン(0.03U/mL)刺激に対するW9/ユーロリシンAの血小板凝集抑制作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
血小板凝集抑制剤
本発明の血小板凝集抑制剤は、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物から選択される1以上の化合物を有効成分として含有し、血小板凝集を抑制する作用を有する。
i)有効成分
本発明の血小板凝集抑制剤は、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物から選択される1以上の化合物を有効成分として含有する。
<コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸>
コニフェリルアルデヒド、およびシナピルアルデヒド、およびエラグ酸は、ウィスキーに含まれる成分である。その構造式を以下に示す。
コニフェリルアルデヒド:
【0014】
【化1】

【0015】
シナピルアルデヒド:
【0016】
【化2】

【0017】
エラグ酸:
【0018】
【化3】

【0019】
コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、およびエラグ酸は、ウイスキーから抽出して得ることもできるし、市販品を用いることもできる。また、公知の方法によって化学合成にて得ることもできる。
【0020】
コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、およびエラグ酸の抽出に用いるためのウイスキーは、熟成後のものであればどのようなものでも良く、熟成(貯蔵)後のウイスキー原酒、ブレンド(ヴァッティング)後または熟後のウイスキーを用いることができる。いずれのウイスキーからも、本発明の血小板凝集抑制剤に用いるエラグ酸、コニフェリルアルデヒド、及びシナピルアルデヒドを調製することができ、同様な効果を得ることができる。ウイスキーからエバポレーター等によってアルコール分を除去し、その後、凍結乾燥機等を用いて水分を蒸発させると、ウイスキー中の不揮発成分(コンジェナー)が得られる。このコンジェナーは、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、およびエラグ酸を含む抽出物として、そのまま本発明の血小板凝集抑制剤に用いることができる。また、このコンジェナーをさらに精製して、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒドまたはエラグ酸を得ることができる。各化合物の精製法や精製の度合いは、当業者が適宜選択することができる。
【0021】
エラグ酸は、本明細書の実施例に示すインビトロの試験においては血小板凝集抑制作用を示していない。しかし、後述するように、エラグ酸の代謝物であるユーロリシンAが強い血小板凝集抑制作用を有する。このことから、インビボの試験系においては、エラグ酸の投与によって強い血小板凝集抑制作用を示すものと考えられる。
<コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸の代謝物>
本発明の血小板凝集抑制剤は、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、またはエラグ酸のそれぞれの代謝物を有効成分として含有することができる。特にエラグ酸の代謝物を好適に用いることができ、なかでもユーロリシンA(Urolithin A)をもっとも好適に用いることができる。ユーロリシンAは、以下の式I
【0022】
【化4】

【0023】
で表される化合物である。
コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、またはエラグ酸の代謝物は、それぞれを酵素処理等の当業者が通常行う方法によって処理することにより調製し、回収することができる。また、公知の方法によって化学合成することもできる。たとえば、ユーロリシンAは、実施例1に記載した方法で合成することができる。
ii)血小板凝集抑制作用
血小板凝集については、以下のようなメカニズムが知られている。まず、血管壁が損傷すると、血管内皮細胞下組織のコラーゲンが露出し、そのコラーゲンに血漿中のvon Willebrand因子(vWF:フォン・ウィルブランド因子)が結合する。血小板はvWFと結合するか、あるいは、GPVIなどのコラーゲン受容体を介してコラーゲンと直接結合することにより、血管内皮細胞下組織に粘着する。このようにして活性化された血小板の細胞内ではCa2+濃度が上昇し、血小板凝集反応が誘導される。それと同時に、活性化された血小板からはADPやセロトニンなどが放出され、新たに血小板凝集反応を誘導する。活性化された血小板の細胞内Ca2+濃度が上昇するメカニズムは、3つの系が知られている:(1)血小板細胞膜上の受容体にコラーゲン、トロンビン、またはエピネフリンが結合することによって、細胞内のホスホリパーゼA(PLA)が活性化し、細胞内のアラキドン酸カスケードを介してトロンボキサンA(TXA)の生成を促進し、Ca2+濃度を上昇させる;(2)血小板細胞膜上のADP受容体にADPが結合すると、細胞内のアデニル酸シクラーゼ(AC)が抑制されて、cAMP濃度が低下し、細胞内Ca2+濃度を上昇させる;(3)血小板細胞膜上のセロトニン受容体にセロトニンが、あるいはトロンボキサンA受容体にトロンボキサンAが結合することによって、細胞内のホスホリパーゼC(PLC)が活性化し、細胞内のイノシトールリン脂質系を介してイノシトール三リン酸の生成を促進し、Ca2+濃度を上昇させる。
【0024】
本発明の血小板凝集抑制剤は、(1)コラーゲン刺激を介した系を阻害し、血小板凝集反応を抑制する。また、ユーロリシンAを有効成分として含む場合は、(1)コラーゲン刺激を介した系、および(2)ADPを介した系を阻害し、またトロンボキサンA(TXA)の上昇刺激による血小板凝集反応をも抑制するという、幅広い作用機序を有する。幅広い作用機序を有することにより、多彩な刺激による血小板の活性化をも抑制することが可能になる。
<血小板凝集抑制効果の測定>
血小板凝集抑制効果の測定には、当業者が通常用いるいかなる方法をも用いることができるが、たとえば実施例に記載した方法で測定することができる。具体的には、血小板懸濁液をキュベットに入れ、3分間プレインキュベートし、1mM CaCl溶液と共に、3分間、37℃、回転数1000rpmにて撹拌する。さらに被験物質を加えて5分間プレインキュベートし、血小板凝集惹起剤(コラーゲン、トロンボキサンA受容体刺激薬:U46619、アデノシン二リン酸−アドレナリン混合薬、またはトロンビン)を加えた後、血小板凝集を測定する。血小板凝集は、標準的なアグリゴメーター(PAM-6C、Merbanix、Tokyo、Japan)を用いた比濁法によって測定することができる。
<虚血性循環障害の予防または治療>
本発明の血小板凝集抑制剤は、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物から選択される1以上の化合物を有効成分として含有することにより、血小板の凝集を抑制し、虚血性循環障害の予防または治療に用いることができる。虚血性循環障害の例としては、虚血性心疾患、虚血性脳疾患、虚血性肺疾患、腎梗塞、急性腸管膜閉塞症、急性動脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症などが挙げられるが、これに限定されない。
飲食品
本発明の血小板凝集抑制剤は、例えばサプリメントのようにコニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物から選択される1以上の化合物を有効成分として含有する飲食品、ならびに一般の飲食品にコニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物から選択される1以上の化合物を配合して、その飲食品に血小板凝集抑制効果を付与した機能性食品(健康補助食品、栄養機能食品、特別用途食品、特定保健用食品等の健康食品、動物用サプリメントを含む)、動物用飼料等、経口摂取される形態のものであることができる。本発明ではこれらを総称して飲食品という。
【0025】
本発明の飲食品には、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物の効果を損なわない、すなわち、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物との配合により好ましくない相互作用を生じない限り、必要に応じて、他の生理活性成分、例えば、ミネラル;ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA等のビタミン類;栄養成分;香料;色素などの他の添加物を混合することができる。これらの添加物はいずれも医薬品、飲食品に一般的に用いられるものが使用できる。
【0026】
本発明の飲食品は、慣用の飲食品材料に有効成分であるコニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物から選択される1以上の化合物を添加、配合して調整する形態であってもよく、例えば、ジュース、牛乳、コーヒー飲料、茶飲料等の飲料、スープ等の液状食品、ヨーグルト等のペースト状食品、ゼリー、グミ等の半固形状食品、クッキー、ガム等の固形状食品、ドレッシング、マヨネーズ等の油脂含有食品等のどのような形態でもよい。
【0027】
本発明の飲食品には、有効成分であるコニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物から選択される1以上の化合物を、所望の効果が得られる有効量で含有する形態として使用できる。
医薬品
本発明の血小板凝集抑制剤は、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物から選択される1以上の化合物をそのままの形態で、又は薬学的に許容される添加剤を配合した医薬品の形態で使用してもよい。
【0028】
本発明の医薬品の形態であることを特徴とする血小板凝集抑制剤は、薬理学的に許容される担体、希釈剤もしくは賦形剤等と共に、一般的な方法により目的に応じて製剤化できる。希釈剤、担体の例としては、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等の液体希釈剤、グルコース、シュークロース、デキストリン、シクロデキストリン、アラビアガム等固体希釈剤又は賦形剤を挙げることができる。また、製剤化において一般的に使用される乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤等を適宜配合することもできる。
【0029】
本発明の医薬品の形態であることを特徴とする血小板凝集抑制剤には、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物の効果を損なわない、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物との配合により好ましくない相互作用を生じない限り、必要に応じて、他の生理活性成分、例えば、ミネラル;ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、等のビタミン類;栄養成分;香料;色素などの他の添加物を混合することができる。これらの添加物はいずれも医薬品、飲食品に一般的に用いられるものが使用できる。
【0030】
本発明の医薬品の形態であることを特徴とする血小板凝集抑制剤は、その形態は特に制限されるものではなく、例えば、粉末状、顆粒状、錠剤状などの固体状;溶液状、乳液状、分散液状等の液状;またはペースト状等の半固体状等の、任意の形態に調整することができる。具体的な剤形としては、散剤、顆粒剤、細粒剤、錠剤、丸剤、トローチ剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤を含む)、チュアブル剤、溶液剤などが例示できる。
【0031】
本発明の本発明の医薬品の形態であることを特徴とする血小板凝集抑制剤には、有効成分であるコニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物から選択される1以上の化合物を、所望の効果が得られる有効量で含有する形態として使用できる。
【0032】
本発明の本発明の医薬品の形態であることを特徴とする血小板凝集抑制剤の投与量や投与形態は、対象、病態やその進行状況、その他の条件によって適宜選択すればよい。
本発明を以下の実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
酒類に関連する各種成分の血小板凝集抑制効果の測定
(サンプルの調製)
被験サンプルは、以下に示す13種のサンプルを対象とした。なお、結果を示す際の便宜上、各サンプルにID番号をつけた。
<ウイスキー関連成分>
・W1/山崎12年コンジェナー(凍結乾燥品)
エバポレーターによって、アルコール分を飛ばし、その後、凍結乾燥機により水分を蒸発させ、ウイスキー中の不揮発成分(コンジェナー)を得た。
・W2/コニフェリルアルデヒド(Coniferyl Aldehyde)(SIGMA ALDRICH)
・W3/エラグ酸(Ellaic Acid)(SIGMA ALDRICH)
・W4/リオニレシノール(Lyoniresinol)
WO2006/068254に記載の方法により合成した。
・W5/シナピン酸(Sinapic Acid)(SIGMA ALDRICH)
・W6/シナピルアルデヒド(Sinapyl Aldehyde)(SIGMA ALDRICH)
・W7/シリングアルデヒド(Syring Aldehyde)(ナカライテスク株式会社)
・W8/シリング酸(Syringic Acid)(ナカライテスク株式会社)
・W9/ユーロリシンA(Urolithin A)
ユーロリシンAは、以下に示す方法にて合成した。
【0034】
【化5】

【0035】
化合物1:800.0g(3.463mol)、CH2Cl2:9Lの懸濁液に、氷冷下1M BBrs/CH2Cl2溶液:7.6Lを10℃を超えないように2時間かけて滴下し、室温まで戻して一晩撹拌を続けた。
【0036】
【化6】

【0037】
反応終了確認後、氷水中に注入し、IPEを加えて有機層を取り出した。これを水洗浄、飽和食塩水洗浄した後、Na2SO4にて乾燥を行い、減圧下濃縮を行うことによって化合物2:740.2g(収率:98.5%)を白色結晶として得た。
【0038】
【化7】

【0039】
化合物2:740.2g(3.410mol)、DMA:13L、Cs2CO3:2777.4g(8.524mol)を投入し、激しく撹拌しながらBnBr:1458.0g(8.524mol)を注入し、室温にて一晩撹拌を続けた。
【0040】
【化8】

【0041】
氷水:70L中に注入し、酢酸エチル:34Lにて抽出を行った。有機層を水:20L、飽和食塩水:20Lにて順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、減圧下にて濃縮することによって化合物3:1354.6g(quant.)を得た。
【0042】
【化9】

【0043】
化合物3:1354.6g(3.410mol)、THF:8.8L、メタノール:5.1Lを仕込み、氷冷下2N NaOH aq.:5.1Lを注入し、室温に戻して2時間撹拌を続けた。
【0044】
【化10】

【0045】
反応終了確認後、水:15Lを注入し、IPE:10Lにて洗浄を行った。水層を氷冷下6N HCl aq.にて酸性化し、酢酸エチル:17Lにて抽出を行った。水:10L、飽和食塩水:10Lにて順次洗浄後、無水硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧下にて濃縮を行い、化合物4:877.3g(収率:83.8%)を得た。
【0046】
【化11】

【0047】
NaOH:227g(5.665mol)、水:2.8L、化合物4:870.0g(2.833mol)を仕込み、resolcinol:623.8g(5.665mol)を加え、1時間還流させた。室温まで冷却後、5wt%CuSO4 aq.:1.1Lを注入し、1時間還流させた。析出した結晶を濾取し、1N HCl:20L、酢酸エチル:30L、THF:15L中に加え溶解させた後、有機層を取り出した。飽和食塩水:30Lにて洗浄後、無水硫酸ナトリウム、及びシリカゲル:1kgを加え30分撹拌し、乾燥剤及びシリカゲルを濾別した。濾液を減圧下にて濃縮し、得られた残渣をTHF/ヘキサンにて再結晶することによって化合物5:474.3g(収率:52.6%)を得た。
【0048】
【化12】

【0049】
10%Pd/C:46.5g、THF:23.25L、化合物5:465gを仕込み、水素を吹き込みながら激しく撹拌を続けた。
HPLCにて反応終了確認後、Pd/Cを濾液で除き、濾液を減圧下にて濃縮を行うことによってユーロリシンA:327.0g(収率:98.1%)を黄色結晶として得た。
<ビール関連成分>
・B1/モルツコンジェナー(凍結乾燥品)
エバポレーターによって、アルコール分を飛ばし、その後、凍結乾燥機により水分を蒸発させ、ウイスキー中の不揮発成分(コンジェナー)を得た。
・B2/ホルダチン(Hordatine)
特開2006−273842の方法により合成した。
・B3/N−メチルチラミン(N-Methyltyramine)
Journal of American Chemical Society, 72: 1950, 2522-2523に記載の方法にて合成した。
<ワイン関連成分>
・Wi/レスベラトロール(Resveratrol)(LKT laboratories Incorporated)
(洗浄血小板の調製)
雄性ウサギ (日本白色種2.5-3.5kg) の全血を、ACD液(1/6血液量)、クエン酸(65mM)、クエン酸三ナトリウム(85mM)、ブドウ糖(2%)の入ったプラスティックチューブに入れ、その血液を、250×g、12分間、遠心分離することにより、多血小板血漿を得た。この多血小板血漿から、汚染された赤血球と白血球を取り除くため、90×gにて遠心分離し、その後、さらに450×g、15分間、室温(20-25℃)で遠心分離をした。得られた沈殿物を、タイロード/HEPES溶液(NaCl 138.3mM、KCl 2.68mM、MgCl2 1.0mM、NaHCO3 4.0mM、HEPES 10mM、ブドウ糖 0.1%、ウシ血清アルブミン 0.35%、pH6.35)で2回洗浄し、さらに、タイロード/HEPES溶液(pH7.35)を用いて再懸濁し、血小板数が3-5×108/mLになるよう調製した。
(血小板凝集抑制作用の測定法)
血小板凝集は、標準的なアグリゴメーター(PAM-6C、Merbanix、Tokyo、Japan)を用いた比濁法によって測定した。血小板懸濁液測定時の光透過率を0%、タイロード/HEPES溶液(pH7.35)測定時の光透過率を100%とした。血小板懸濁液(3×108/mL、0.3mL)をキュベットに入れ、3分間プレインキュベートし、1mM CaCl2 溶液と共に、3分間、37℃、回転数1000rpmにて撹拌した。さらに被験物質を加えて5分間プレインキュベートし、血小板凝集惹起剤(コラーゲン、トロンボキサンA2受容体刺激薬:U46619、アデノシン二リン酸-アドレナリン混合薬、またはトロンビン)を加えた後、血小板凝集を測定した。
結果
コラーゲン (3 μg/mL) 誘導性血小板凝集に対し、Wi/レスベラトロールの他、ウイスキー含有成分であるW2/コニフェリルアルデヒド、W6/シナピルアルデヒドおよびW9/ユーロリシンAが有意な血小板凝集抑制作用を示した(図1)。
【0050】
一方、U46619 (3 μM) やアデノシン二リン酸 (10 μM)-アドレナリン (10 μM) 混合薬によって誘導される血小板凝集に対しては、W9/ユーロリシンAのみが有意な血小板凝集抑制作用を示した。(図2、及び図3)
トロンビン誘発性血小板凝集に対しては、10 μg/mLで抑制効果を示す成分はなかった(図4)。
【実施例2】
【0051】
酒類関連成分による血小板凝集抑制作用の濃度依存性
次に、各種凝集惹起物質に対して有意な血小板凝集抑制作用を示した成分について、濃度依存性を検討した。
【0052】
コラーゲン誘導性血小板凝集に対し、Wi/レスベラトロールのIC50は1.5 μM(図5)、W2/コニフェリルアルデヒドは15 μM(図6)、W6/シナピルアルデヒドは25 μM(図7)、そしてW9/ユーロリシンAは10 μM(図8)であった。
【0053】
一方、U46619誘導性血小板凝集に対するW9/ユーロリシンAのIC50はおよそ20 μM(図9)、アデノシン二リン酸-アドレナリン混合薬誘導性血小板凝集に対するW9/ユーロリシンAのIC50は20 μMであった(図10)。W9/ユーロリシンAはさらに、130 μMにおいて部分的にトロンビン誘発性血小板凝集を抑制した(図11)。
【0054】
酒類に含まれる化合物中には、レスベラトロール以外にも幾つか血小板凝集抑制作用を示す成分が含まれていた。コラーゲン誘導性血小板凝集に対してはレスベラトロールが最も強い血小板凝集抑制作用を示したものの、ユーロリシンAはU46619やアデノシン二リン酸-アドレナリン混合薬誘導性血小板凝集に対しても凝集抑制作用を示し、最も幅広い作用機序を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、優れた抗血小板効果を示し、かつ副作用が少ない血小板凝集抑制剤を提供する。本発明の血小板凝集抑制剤は、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及び/またはそれらの代謝物を含有することにより、優れた抗血小板効果を示し、しかも副作用が少なく、飲食品、または医薬品の形態で、虚血性循環障害の予防または治療に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、エラグ酸、及びそれらの代謝物からなる群より選択される1以上の化合物を有効成分として含有する、血小板凝集抑制剤。
【請求項2】
有効成分が、コニフェリルアルデヒド、シナピルアルデヒド、および/またはエラグ酸の代謝物であるユーロリシンAである、請求項1の血小板凝集抑制剤。
【請求項3】
有効成分がユーロリシンAである、請求項2記載の血小板凝集抑制剤。
【請求項4】
虚血性循環障害の予防または治療のための、請求項1〜3のいずれか一項記載の血小板凝集抑制剤。
【請求項5】
飲食品の形態である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の血小板凝集抑制剤。
【請求項6】
医薬品の形態である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の血小板凝集抑制剤。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−280627(P2010−280627A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136249(P2009−136249)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】