説明

血液から核酸を抽出する方法

本発明は、血液から核酸、特にゲノムのデオキシリボ核酸(DNA)を単離する改善された方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液から、核酸、特にゲノムのデオキシリボ核酸(DNA)を単離する改善された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全血からの核酸、特にゲノムDNAの精製及び単離の方法は従来技術で既知である。しかしながら、その適用方法は、非常に複雑で、且つさらに非常に手間がかかり、時間がかかることが分かっている。これとは別に、細胞物質又は細胞核の単離に加えて、方法の大半は、プロテイナーゼの存在下での相対的に長いインキュベート時間、次いで、任意で数回のフェノール抽出を必要とする(Nucleic Acid Res., 3:2303-2306と同様にManiatis et al., 分子クローニング:実験室マニュアル9,17〜9,18ページ)。
【0003】
これらの短所を考慮して、コストをできるだけ抑えるのみならず、核酸又はゲノムDNAの収率並びにその純度を高めることも意図された代替方法が、以来開発されている。そのような方法は、カオトロピック塩の使用に基づく(Anal. Biochem., 180:276-278, 1989と同様にNucl. Acid Res., 15:9611, 1987)。
【0004】
従って、検査中の血液試料が、粒子の形態、たとえば、シリカの形態で存在するマトリクス物質の存在下にてカオトロピック物質で処理される方法が、とりわけ、欧州特許出願第0389063号に開示されている。これは、これらの条件下で核酸が細胞から遊離し、次いで好適なシリカ系のマトリクス物質に結合するという知識に基づく。核酸を処理するマトリクス物質は、たとえば、遠心分離によってその後反応溶液から分離することができる。上清液を分離した後、マトリクス物質は、1回の、又は必要に応じて複数回の洗浄工程に供される。
【0005】
しかしながら、上述の方法はそれぞれ、非常に時間がかかり、各個々の試料に対してもう一度手間をかける物質の移動と必然的に連結し、さらに汚染のリスクと関連する望ましくない遠心分離の工程を含むという短所を有する。さらに、これらの方法は、自動化できないという深刻な短所に悩まされている。
【非特許文献1】Nucleic Acid Res., 3:2303-2306
【非特許文献2】Maniatis et al., 分子クローニング:実験室マニュアル9,17〜9,18ページ
【非特許文献3】Anal. Biochem., 180:276-278, 1989と同様にNucl. Acid Res., 15:9611, 1987
【特許文献1】欧州特許出願第0389063号
【発明の開示】
【0006】
従って、本発明の目的は、従来技術の方法における短所を回避することにあり、特に、時間がかかること及び上記の手間のかかる遠心分離工程すべてを回避し、特に自動化することができる、血液から核酸、特にゲノムDNAを単離する方法を提供する。さらに、汚染のリスク及び結果として生じる生物学的に汚染された廃棄物を最少限に減らすべきである。さらに、このように得られる核酸又はゲノムDNAは、追加の処理工程なしで、その後の反応、たとえば、増幅反応、特にPCRに使用できる形態で使用できるべきである。この必要条件は、たとえば、遺伝子型決定などのような多数の様々な調査方法のためのゲノムDNAの必要性から生じる。
【0007】
ゲノムDNAの予備単離に提示される必要条件は、特に、とりわけ遺伝子型決定の本質的な出発材料を代表し、遅延なく、外来核酸で汚染されることなく、できるだけ迅速に精製されなければならないゲノムDNAを、所望のその後の反応、特に:
PCRに基づく遺伝子型決定;
ヒトゲノムにおけるSNP解析;
遺伝的フィンガープリントの構築(法医学、犯罪学);
診断的遺伝子型決定(たとえば、嚢胞性の線維症、ライデン型第5因子);
マーカーの同定のための試料からの複数の又は多重化のPCRを実行すること;
一次PCR増幅に基づく制限断片長多型;
定量PCRを実行すること、において用いることができるということである。
【0008】
本発明で提案される方法によって上述の目的が達成され、そのために、先ず、溶解によって遊離される細胞核及びミトコンドリアを吸着することができるコーティングを提供される反応容器中の赤血球溶解緩衝液に、分析中の血液試料を接触させる。
【0009】
さらに、吸着する物質は、反応容器の境界壁に固定されないマトリクス物質の形態であることもできる。有利には、増幅反応又はPCRが実行できるような、及び特定の実施態様では、複数の又は多数の試料の所望の反応を自動的に実行できるような方法で、内部でコーティングされた反応容器を設計する。
【0010】
驚くべきことに、赤血球の溶解によって遊離された細胞の構成成分、たとえば、細胞核及びミトコンドリアと同様に白血球も、赤血球溶解緩衝液の存在下で、ポリアニオン構造を持つポリマー、特にカルボン酸又はそのほかの酸、たとえば、スルホン酸又はホスホン酸又は広い意味での酸としてのフェノールの官能基を呈するアニオン系ポリマーに結合することが見い出されている。この点で、独創的な添加される赤血球溶解緩衝液は好ましくは赤血球を溶解し、白血球は無傷のままであり、又はそれらが細胞小器官(細胞核及びミトコンドリア)として残る限りでは、単に溶解される。細胞小器官は完全に無傷のままでなければならないというわけではないが、少なくともその限りでは、ポリアニオン構造を持つポリマーへの細胞小器官の表面の吸着は生じるうる。核酸自体が言及されるポリマーに弱く結合することが示されているので、細胞小器官の破壊はここでは、進行しすぎて細胞小器官から核酸が遊離するようには意図されない。内部に組み込まれたDNAを有する細胞の残骸は同様にポリマーマトリクスに結合することができる。たとえば、ヘモグロビンのようなそのほかの干渉する血液構成成分はすべて、反応溶液を除くことによって、又は好適な洗浄緩衝液によりポリアニオン系ポリマーのマトリクスを洗浄することによって溶解後、できる限り分離することができる。
【0011】
従来技術に時折記載されるような核酸を直接結合することに代わる上述の細胞小器官のマトリクスへの吸着は、この目的でのポリアニオン構造を有するポリマーの使用と同様に、その後に任意で行われるPCRのpH値と比べて、溶解工程におけるpH値を変える必要はないが、不変のままでもよいという利点を有する。それによって、中和又は異なったpH値の調整を果たすさらなる手順工程を導入することを回避することができる。
【0012】
血液試料を安定化させ、可能性のある分解反応を防ぐ又は遅らせるために、回収後、可能な限り速やかに血液試料を凍結させ、凍結試料又は融解試料を本発明に係る方法に供することが有利でありうる。
【0013】
細胞溶解に必要とされる溶解緩衝液は、従来技術で知られており、市販もされている。たとえば、「キアゲン緩衝液FG1」「キアゲン緩衝液C1」又は「ゲントラRBC溶解溶液」。実際、原則として、その構成成分が赤血球を溶解することが可能であるいかなる緩衝液も使用することができる。一例として、155mMの塩化アンモニウムと10mMの炭酸水素カリウムを含む緩衝溶液が言及されてもよい。さらに、好適な緩衝液は当業者に既知であり、無機酸又は有機酸の塩を含むことができる。それらは好ましくは、たとえば、トリスのようなpH−緩衝液、界面活性剤及び任意で金属イオン封鎖剤により補完された、たとえば、塩化カリウム及び塩化マグネシウムのようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化合物の水溶液に基づく。無機酸又は有機酸の特に好ましい塩は、100〜500mMの間の、たとえば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム又は、たとえば、酒石酸アンモニウムのような有機アンモニウム塩のようなアンモニウム塩、並びに0.01〜5重量%の濃度のアニオン系、中和系又はカチオン系の界面活性剤である。例示となる好ましい界面活性剤は、SDS、チャップス、ツイーン20、トリトン又はカトリモックスである。
【0014】
原則として、ポリマーから形成されるアニオン構造はすべてコーティング素材として好適であり、カルボキシル化されたポリマー、コポリマー、ターポリマー又はこれらポリマーの混合物が好ましい。たとえば、カルボキシル官能基を任意で様々な程度にエステル化することができる、スチレン、ビニルメチルエーテル、直鎖又は分枝鎖のアルケン類、たとえば、1−オクタデセン又はイソプロペン、及びマレイン酸又はアクリル酸に基づくコポリマーを採用することができる。好ましい例示となるアクリル酸アルキルエステル類には、以下のアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ビニル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ミリスチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸セチル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ミリスチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸セチルが挙げられ、アクリル酸メチルエステルが特に好ましい。
【0015】
アクリル酸又はメタクリル酸の分枝鎖又は直鎖のC1〜C12のアルキルエステル類が好ましく、特に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシル又はマレイン酸アルキルエステル類、たとえば、マレイン酸メチルエステルである。
【0016】
たとえば、スルホン酸基又はホスホン酸基又はフェノール基又はそれらの混合物を持ち、ポリアニオン構造を形成するそのほかのポリマーを採用することも可能であり、ホモポリマーの形態での又はコポリマーの構成成分としてのポリスチレンスルホン酸が、代表例として言及されてもよい。
【0017】
フェノール系化合物は主鎖の構成成分であることもできるが、それらはポリマー骨格の側鎖に位置することが好ましい。一般に、フェノール基は重合後にポリマーに導入することもできる。しかしながら、フェノール基がすでにモノマーの構成成分であれば、特に均質な分布が得られる。たとえば、それらは、アミン基のような置換基を介してアクリル酸、メタクリル酸又はそれらの誘導体のような重合可能なモノマーに結合することができる。ポリマー骨格からの側鎖においてフェノールのさらに大きな空間を得るために、追加の化合物が、重合可能な構成成分とフェノール基の間で架橋として作用することができる。特に好ましく使用されるフェノール系化合物は、チラミンである。
【0018】
ポリアニオン構造を形成することが可能であるポリエステルによってさらに好適なポリマーが説明される。一般に、モノマー自体が、重合後、アニオン部位を構成する又は形成する基を持つことができる。さらに、ポリエステルは、たとえば、ポリエステルに存在する不飽和部位又は他の官能基を介してその後、アニオンを形成する基も提供されうる。
【0019】
少なくとも1つの追加のアニオン官能性を含むコハク酸、アジピン酸、フタル酸又はマレイン酸のようなジカルボン酸、及びアルコール類としての酒石酸又は二価アルコール又は三価アルコールは、モノマーとして好ましく使用される。マレイン酸をモノマーとして使用する場合、ポリマー中のマレイン酸の残りの二重結合を、たとえば、アクリル酸又はメタクリル酸のようなアニオン形成基を続いて導入するのに利用するとき、追加のアニオン官能性なしで、二価又は三価のアルコールを重合に使用することができる。
【0020】
ポリアニオン構造を形成することが可能であるコポリマーは好ましくは、スチレンと無水マレイン酸に基づいたカルボキシル化ポリマーによって具現される。この点で、コポリマーは、5〜95重量%、好ましくは25〜95重量%、特に好ましくは50〜95重量%のマレイン酸単位を持つ。
【0021】
ポリアニオン構造を形成することが可能であるコポリマーは好ましくは、同様に、メチルビニルエーテルとマレイン酸に基づいたカルボキシル化ポリマーによって具現される。コポリマーは、たとえば、ポリ(メチルビニルエーテル−alt−マレイン酸)として提示されることができ、
【化1】

そのカルボキシル基は部分的に、たとえば、メチル基によってエステル化することができる。
【0022】
ここで、ポリ(メチルビニルエーテル−alt−マレイン酸)コポリマーは、1.0・103〜2.5・106、好ましくは1.0・104〜2.2・106、及び特に好ましくは1.9・106〜2.1・106の範囲内の分子量を有する。
【0023】
以下が特に好ましい:
ポリ(メチルビニルエーテル−alt−マレイン酸)分子量:1,980,000
ポリ(イソブチレン−alt−マレイン酸)分子量:3,250,000
ポリスチレン−co−マレイン酸、50重量パーセントのマレイン酸
ポリスチレン−co−マレイン酸、25重量パーセントのマレイン酸
ポリスチレン−co−マレイン酸、14重量パーセントのマレイン酸
ポリイソプレン−graft−マレイン酸、7重量パーセントのマレイン酸
モル比1:1のポリ(マレイン酸−1−オクタデック−1−エン)
ポリ(メチルビニルエーテル−alt−マレイン酸)分子量:1,250,000
部分的にメチルエステルとしてのポリスチレン−alt−マレイン酸
ポリ(アクリル酸−co−アクリル酸メチルエステル)
ポリスチレンスルホン酸
【0024】
カルボキシル化ポリマーは、多数のほかの技術的適用に採用されているので、これらポリマーの製造は、従来技術で周知であり、その大多数は市販されている。
【0025】
カルボキシル基を持つモノマーのラジカル重合によってさらなるポリマーを製造することができる。
【0026】
多数の方法を用いてポリアニオン系ポリマー又はカルボキシル化ポリマーを反応容器の限定壁に堆積することができ、それらは、液体の状態で、又は溶解の結果生じる混合物における懸濁液の形態で、又はディップスティックの形態で存在することができる。ポリマー融解物でコーティングすることによって所望の官能化層を作製することができる。反応容器が射出成形で製造される限りでは、射出成形に先立って射出成形用化合物に添加物としてポリマーを組み入れる可能性もあり、同様に、射出成形に先立って射出金型のすべて又は一部をポリマーでコーティングすることが可能であり、反応容器の形成後、所望のコーティングが得られる。反応容器の内壁にポリアニオン構造を形成するために使用されるポリマーの膜を堆積する可能性もあり、たとえば、深絞り法によって所望の幾何学的形状を製造する可能性もある。好ましくは、好適な溶媒に溶解したポリアニオン系ポリマーを用いてコーティングを行う。さらに、ポリマーが先ず、前駆体の形態で溶液に存在し、そこから、所望の構造を持つポリマーが反応の過程になって初めて形成されるという可能性も存在する。
【0027】
当業者に既知の好適なポリマーを選択する際、従来技術で既知の湿式化学法(硫酸/過酸化水素)を用いることによって、又は常圧プラズマ処理によって当初製造された官能化されていない反応容器の表面の所望の官能化を得るさらなる可能性が存在する。
【0028】
その後の工程において、たとえば、典型的な増幅反応、たとえば、PCRが続くことができ、それは、従来技術で周知の反応条件下で行うことができる。このために、特定の工程調整は必要としない。反応溶液を先ず、45〜最高100℃の温度範囲、好ましくは80〜98℃の温度範囲、特に好ましくは94〜96℃に加熱する際、核酸又はゲノムDNA(熱溶解)が遊離され、それによってその後のPCRで利用できる状態となる。
【0029】
さらなる実施態様では、ポリアニオン構造を形成することが可能であるポリマーが溶解緩衝液又は溶解される混合物の追加成分として組み込まれていれば、容器表面のコーティング又は誘導体化を達成する必要はない。その際、gDNAを含有するミトコンドリアや細胞核のような細胞構成成分の結合は、PCR容器壁では起きないが、むしろ液体相で直接起きる。これによって、言及された細胞構成成分とカルボキシル化ポリマーから成る複合体がもたらされ、それは、PCR容器における溶解及びインキュベートの間容器壁に付着することができる。従って、コーティングは溶解と同時に生じ、すなわち、液体相ですでに結合された細胞構成成分は、カルボキシル化ポリマーと共に容器壁上に析出される。
【0030】
あらゆる実施態様で、gDNAを含有する細胞構成成分は、溶解及びポリアニオン系ポリマーの任意の洗浄後、後に残り、記載されたようにさらに処理することができ、又は検出することができ、及び定量することができる。
【0031】
このように、血液試料の溶解からその後の所望の反応の開始までの分析を1つの容器で行うことにおいて、発明の方法は、作業工程の数及び試料の汚染のリスクを有意に減らすだけでなく、試料はもはやピペット操作する必要がないので、生物学的に汚染された廃棄物の有意な減少もそれに関連する。
【0032】
さらなる素材の節約は、現在の市販のキットの構成が相対的に大量のgDNA(通常20μg)の単離用に寸法化されているという事実から生じる。多数の応用分野(たとえば、個々のマーカーの解析)について、これは過剰寸法化である。本発明の溶液は、10ngのgDNAの調製用に寸法化することができるので、追加の素材が節約される。双方の節約(少ない作業工程、小さなキット)は、特定のプラスチック品(たとえば、射出成形されたポリプロピレン部品を伴う複合材における穿孔シリカ膜)及び緩衝溶液の全体的な素材使用をかなり低下させる。第2に、素材使用の低減は、相当する前駆体の製造のためのエネルギー費用も低下させる。
【0033】
作業の簡略化及び時間の節約又は自動化の可能性を根拠にして遠心分離工程を省くことが好ましいが、本発明の方法についてさえ、追加の1又は複数の遠心分離工程を統合する可能性は依然としてある。有利には、これらは、赤血球溶解緩衝液との血液試料の接触の後、且つ、溶解の結果生じる反応混合物を除く前に存在する。遠心分離によって、遠心分離工程の非存在下よりも有意にさらに強く細胞小器官をマトリクスに結合させることが示されている。これは、洗浄工程において、自体マトリクスから離脱し、洗浄溶液と共に除かれる細胞小器官の喪失、すなわち、単離された核酸の喪失が低下するという利点を有する。
【0034】
遠心分離工程を本発明の方法に統合する場合、それは、溶解溶液の望ましくない構成成分を沈殿させ、所望の構成成分を別の容器に移すことでなく、それは、汚染をもたらしうる。そうではなくむしろ、廃棄されると想定される上清液を分離する一方で、所望の構成成分を容器に吸着させ、残し続ける。それによって、本方法では、汚染のリスクを低減する。
【0035】
遠心分離には、100〜500,000rpm、さらに好ましくは500〜13,000rpm及び最も好ましくは1,000〜5,000rpmの速度が有利に採用される。
【0036】
試料サイズの低減に伴って、収率に損失をもたらすことなく、洗浄工程を削減できることも示されている。約20μLの通常使用される試料サイズについては、吸着した又は付着した細胞小器官の沈殿物にそのような量の阻害剤が見い出され、PCR増幅のようなその後に続く適用が危うくされうる。洗浄工程は、阻害剤からの干渉を減らし、全体的にそれを防ぎ、収率を上げることができる。しかしながら、試料サイズの低下はまた、洗浄工程の非存在下でさえ阻害剤の量が低下することを意味する。同時に、核酸のマトリクスへの結合は、特に1又は複数の遠心分離工程の追加の使用において、とても強いので収率の低下は生じないと思われる。
【0037】
本発明のさらなる主題は、核酸を含む細胞小器官を含む試料から核酸を得るためのキットであり、それは以下を包含する
a)1又は複数の空の反応容器の内壁上で固体形態にて、又は溶液状態若しくは分散状態における固形物として存在し、細胞小器官を吸着することが可能であるマトリクス物質、
b)1又は複数の赤血球溶解緩衝液、
c)1又は複数の空の反応容器の内壁にマトリクス物質が存在しない場合、任意で、1又は複数の反応容器、
d)任意で、1又は複数の洗浄溶液、
e)任意で、PCR反応を行うための試薬、及び
f)任意で、指示マニュアル。
【0038】
ポリアニオン構造を形成することが可能である前述のポリマー、コポリマー又はターポリマーが好ましくはマトリクス物質として使用される。
【0039】
好ましくは、反応容器は、生体試料の精製のために従来技術で使用されるような試料容器に関係する。この点で、それらは、個々の容器、又は複数の容器、たとえば、48穴若しくは96穴のプレートの集合体、又は従来技術で既知のそのほかの容器集合体であることができる。
【0040】
マトリクス物質は好ましくはこれら容器の内壁上に位置する。1又は複数のすでにコーティングされた試料容器が利用可能にされているように、上述のようにそれを予め壁上に固定又は吸着することができる。マトリクス物質を溶液中又は分散状態にて固形物として利用できるようにし、核酸を得るための上述の方法の間に添加される可能性もある。それは、溶解溶液及び試料の双方に加えることができ、空の反応容器に加えることができ、又は溶解物に加えることができる。
【0041】
マトリクス物質及び反応容器の素材は、溶解後のマトリクス物質が、反応容器の内壁に固定する又は吸着するような方法で選択されるべきである。上述のポリマーが使用される場合、特にプラスチック製の市販の試料容器を使用することができる。PCR反応容器の使用は、PCR反応を行うために調製された試料を再び移す必要がないという利点を有する。
【0042】
特に、マトリクス物質が試料容器コーティングとしてまだ存在しない場合、1又は複数の試料容器をキットに含めることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下の実施例は本発明を例示することが意図される。実施例は、決して限定することなく本発明の有利な実施態様を単に具現する。
【実施例1】
【0044】
1)DMSO(20mg/mL、ジメチルスルホキシド)に溶解された14重量%含量の無水マレイン酸を伴う50mLのポリスチレン−co−マレイン酸にN−(2−ヒドロキシエチルイミノ二酢酸)(250mg)を加え、60℃にて45分間加熱した。
【0045】
それに続く10倍のDMSOによる希釈によって、増幅反応用又はPCR用の反応容器をコーティングするための即時使用可の溶液を得た。
【化2】

【実施例2】
【0046】
2)DMSO(20mg/mL、ジメチルスルホキシド)に溶解された50重量%含量の無水マレイン酸を伴う50mLのポリスチレン−co−マレイン酸にN−(2−ヒドロキシエチル)イミノビス(メチルホスホン酸)(1.3g)を加え、60℃にて1時間加熱した。それに続く10倍のDMSOによる希釈によって、増幅反応用又はPCR用の反応容器をコーティングするための即時使用可の溶液を得た。
【化3】

【実施例3】
【0047】
3)N−Me−PVA(N−メチル−ポリビニルアミン)(50mg、0.877ミリモル)を2mLの水に溶解し、1.31ミリモルのブロモ酢酸(180mg、1.5当量)及び50μLのTEA(トリエチルアミン)を加えた後、12時間振盪した。これによって、増幅反応用又はPCR用の反応容器をコーティングするための即時使用可の溶液を得た。
【実施例4】
【0048】
4)ブロモ酢酸630mg(0.454ミリモル、0.8当量)をポリビニルアルコール0.2g(MW:9,000〜10,000)に加え、1.2gのK2CO3(9.08ミリモル、1.5当量)の添加後、12時間振盪した。これによって、増幅反応用又はPCR用の反応容器をコーティングするための即時使用可の溶液を得た。
【実施例5】
【0049】
5)a)メタクリル酸のN−(4−メチルフェノール)アミドの合成
【化4】

302mg(2.2ミリモル)のチラミンを5mLのTHFに溶解し、570μLのトリエチルアミンと反応させ、0℃に冷却した。208mg(2ミリモル)の塩化メタクロイルをゆっくり加えた後、混合物を一晩撹拌した。次いでそれを1Mの塩酸で加水分解し、酢酸エチルで3回抽出した。回収した有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、次いで減圧下、溶媒を除いた(1.52ミリモル、収率:76%)。
【0050】
b)ポリメタクリル酸のN−(4−メチルフェノール)アミドの合成
【化5】

a)から得たモノマーをクロロホルムに溶解し、ヘラ先一杯のAIBNの添加の後、還流下で5時間加熱した。次いで、別のヘラ先一杯のAIBNを加え、混合物を一晩加熱した。次いで混合物を加水分解し、ジクロロメタンで2回抽出した。回収した有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、次いで減圧下で溶媒を除いた。赤っぽい樹脂が得られ、それをさらには精製しなかった。
エタノール中60mg/mLの濃度でコーティング溶液を調製した。
【実施例6】
【0051】
6)a)2−ヒドロキシ−3−アミノプロピル−N−(4−メチルフェノール)メタクリレートの合成
【化6】

5mLのジクロロメタン(DCM)中の302mg(2.2ミリモル)のチラミン及び284mg(2ミリモル)のメタクリル酸グリシジルエステルに300μLのトリエチルアミンをゆっくり加え、室温にて一晩撹拌した。次いで混合物を1Mの塩酸で加水分解し、酢酸エチルで3回抽出した。回収した有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、次いで減圧下で溶媒を除いた(1.36ミリモル、収率:68%)。
【0052】
b)ポリ2−ヒドロキシ−3−アミノプロピル−N−(4−メチルフェノール)メタクリレートの合成
【化7】

モノマーをクロロホルムに溶解し、ヘラ先一杯のAIBNの添加の後、還流下で5時間加熱した。次いで、別のヘラ先一杯のAIBNを加え、混合物を一晩加熱した。次いで混合物を加水分解し、ジクロロメタンで2回抽出した。回収した有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、次いで減圧下で溶媒を除いた。明るい黄色の樹脂が得られ、透析によってそれを精製した。
溶媒として水を用いてコーティング溶液(実施例9に類似)を調製した。
【実施例7】
【0053】
7)ポリマレイン酸−N−(4−メチルフェノール)アミドの合成
【化8】

500mgのポリ(無水マレイン酸)(約5.1ミリモルの無水マレイン酸)を680mg(4.95ミリモル)のチラミンと混合し、60℃にて12時間撹拌した。次いで透析によって精製を行った。
脱塩した水にて60mg/mLの濃度のコーティング溶液を調製した。
【実施例8】
【0054】
8)ポリ酒石酸コハク酸エステル
【化9】

1.5g(10ミリモル)の酒石酸を1g(10ミリモル)の無水コハク酸と混合し、60℃にて5時間加熱した。浅黄色の樹脂が得られ、透析によってそれを精製した。
脱塩した水にて60mg/mLの濃度のコーティング溶液を調製した。
【実施例9】
【0055】
9)コーティング手順
20mgのポリ(メチルビニルエーテル−alt−マレイン酸)を10mLの脱塩した水に溶解した。
ポリマーを完全に溶解した後、50μLのポリマー水溶液をポリプロピレン製の市販のPCR容器(8本)のそれぞれにピペットで入れた。室温にて20分のインキュベート時間後、ポリマー水溶液をPCR容器からピペットで取り出した。次いで120μLの水で容器を1回すすぎ、40℃にて乾燥させた。
【実施例10】
【0056】
10)PCR容器における血液試料の調製
50μLの溶解緩衝液(155mMのNH4Cl、10mMのKHCO3水溶液)を各PCR容器の空洞に入れ、10μLの血液をピペットで入れた。ピペットを10回出し入れすることによって血液試料を溶解緩衝液と十分に混合した。5分間のインキュベート時間の後、溶液を再び混合し、さらに15分後、PCR容器の液体内容物を廃棄し、次いで、120μLの洗浄緩衝液(1mMのトリス−HCl、0.5mMのEDTA、pH7.4+0.05%のノニデットP−40)で1回洗浄し、残留物がなくなるように廃棄した。最終的に、25μLのPCR反応混合物を加え、定量的リアルタイム(RT−PCR)を行った。相当する結果を図2に提示する。
【実施例11】
【0057】
11)96穴プレートでのさらなる実験では、8穴の2列をそれぞれ以下のポリマーでコーティングした。
1+2:実施例5のポリ(メタクリル酸−N−(4−メチルフェノール)アミド)
3+4:ポリマレイン酸−N−プロピルアミド
5+6:実施例7のポリ(マレイン酸−N−(4−メチルフェノール)アミド)
7+8:実施例8のポリ酒石酸コハク酸エステル
9+10:ポリ(イソブチレン−alt−マレイン酸)
11:実施例9のポリ(メチルビニルエーテル−alt−マレイン酸)
【0058】
実施例のそれぞれに記載されたコーティング溶液をコーティングのために調製した。脱塩した水にて40mg/mLの濃度でポリマレイン酸−N−プロピルアミド溶液を調製した。ポリ(イソブチレン−alt−マレイン酸)は、1NのKOH中で5μL/mLの濃度で調製した。
ポリマーを完全に溶解した後、各ポリマー溶液50μLをポリプロピレン製の市販のPCR容器(8本)にピペットで入れた。室温にて5分間のインキュベート時間の後、PCR容器の液体内容物をピペットで取り出した。次いで容器を50℃にて1時間乾燥させた。
【0059】
次いで、実施例10の記載に従ってあとに続くPCR反応と一緒に、血液試料の調製を行った。使用したポリマーについて得られたCt値を図3に示し、検量線を用いて得られた計算された絶対収率を図4に示す。
【0060】
双方の図で説明された結果は、ポリフェノール類及びポリエステル類が本発明に係る好適なコーティング物質であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は以下のとおりである。実施例10に従ってPCR容器にて8試料が増幅され、それらは、実施例9に従ってポリ(ビニルメチルエーテル−マレイン酸)のコーティングを提供された。得られた結果を閾値の値(Ct値)として図1で提示する。
【図2】図2は以下のとおりである。5人の提供者から4つの異なった血液抽出管のそれぞれに採血した。実施例10で記載されるように、各試料/血液抽出管について4つの調製をPCR容器で行った。TacManプローブを用いてqPCRにてヒトβアクチン遺伝子の配列断片を増幅した。図2の棒グラフは、定量PCRの結果を説明する。各棒は、4つのPCR容器から平均されたct値を表す。
【図3】種々のポリマーでコーティングされた試料容器にて実施例11に従って調製された試料のPCR反応のCt値を示す。
【図4】検量線から算出された、実施例11に係る増幅の結果生じた核酸の絶対量を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液から核酸を得る方法であって、細胞小器官を吸着することができるマトリクスの存在下で、反応容器中の血液試料を赤血球溶解緩衝液と接触させ、溶解の結果生じる反応混合物を取り除き、マトリクスを任意で洗浄し、かつ吸着された血液構成成分から核酸が放出される温度に加熱し、さらに任意で核酸はその後の反応に供されることを特徴とする方法。
【請求項2】
核酸がゲノムDNAを具現することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マトリクス物質が反応容器の壁上で固体形態で又はディップスティックとして存在する、或いはマトリクス物質は、溶解開始時、液体又は分散された形態で存在し、溶解後、反応容器の壁上に固定される又は吸着されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
マトリクス物質が、ポリアニオン構造を形成することが可能であるポリマー、コポリマー又はターポリマー又はそれらの混合物であることを特徴とする上記請求項1〜3の1項に記載の方法。
【請求項5】
ポリアニオン構造を形成することが可能であるポリマー、コポリマー又はターポリマーが、ポリアニオン構造を形成することが可能であるポリカルボキシレート又はカルボキシル化ポリマー又はポリエステルであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ポリアニオン構造を形成することが可能であるポリマー、コポリマー又はターポリマーが、ビニルメチルエーテル、無水マレイン酸、スチレン、直鎖若しくは分枝鎖のアルケン類又はアクリル酸及びその誘導体に基づくカルボキシル化ポリマーであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アクリル酸誘導体が、1〜12の炭素原子を持つアクリル酸又はメタクリル酸の直鎖又は分枝鎖のC1〜C12のアルキルエステル、好ましくは、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ポリアニオン構造を形成することが可能であるポリマー、コポリマー又はターポリマーが、ホスホン酸基又はスルホン酸基又はフェノール基、好ましくはチラミン基又はそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項9】
スルホン酸基を含むポリマーが、ポリスチレンスルホン酸又はポリスチレンスルホン酸を伴うコポリマー/ターポリマーであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ポリアニオン構造を形成することが可能であるポリマー、コポリマー又はターポリマーが、スチレン及び無水マレイン酸に基づいたカルボキシル化ポリマーであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項11】
コポリマーが、5〜95重量パーセント、好ましくは25〜95重量パーセント、さらに好ましくは50〜95重量%のマレイン酸単位を含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ポリアニオン構造を形成することが可能であるコポリマー又はターポリマーが、メチルビニルエーテル及びマレイン酸に基づくカルボキシル化ポリマー、好ましくはコポリマーが、コポリマーポリ(メチルビニルエーテル−alt−マレイン酸)
【化1】

であり、その際、ポリ(メチルビニルエーテル−alt−マレイン酸)コポリマーは好ましくは、1.0・103〜2.5・106の範囲内、好ましくは1.0・104〜2.2・106の範囲内、さらに好ましくは1.9・106〜2.1・106の範囲内の分子量を有することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項13】
コポリマーポリ(メチルビニルエーテル−alt−マレイン酸)が、一部メチルエステルとして存在することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
赤血球溶解のために、無機酸又は有機酸の1又は複数のアルカリ塩、偽アルカリ塩又はアルカリ土類金属塩、1又は任意で複数のカチオン系界面活性剤並びに任意でpHを緩衝化するための物質を含む緩衝液が採用されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項15】
洗浄緩衝液として、トリス、キレート剤及び任意で界面活性剤を含む緩衝液又は水が採用されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項16】
洗浄後マトリクスに吸着した血液構成成分を、任意で水溶液中で、45〜100℃、好ましくは80〜98℃、さらに好ましくは94〜96℃の間隔での温度に加熱し、任意で増幅反応又はPCRに供することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項17】
血液試料を赤血球溶解緩衝液及びマトリクスに接触させた後、且つ、溶解の結果生じる反応混合物を取り除く前に、遠心分離工程が存在することを特徴とする請求項1〜16の1項に記載の方法。
【請求項18】
細胞小器官、好ましくは細胞核及びミトコンドリア、並びにポリカチオン構造を有するポリマー、コポリマー又はターポリマーから成る複合体。
【請求項19】
血液から核酸を得るためのキットであって、
a)1又は複数の空の反応容器の内壁上で固体形態にて、又は溶液状態若しくは分散状態における固形物として存在し、細胞小器官を吸着することが可能であるマトリクス物質、
b)1又は複数の赤血球溶解緩衝液、
c)1又は複数の空の反応容器の内壁にマトリクス物質が存在しない場合、任意で、1又は複数の反応容器、
d)任意で、1又は複数の洗浄溶液、
e)任意で、PCR反応を行うための試薬、及び
f)任意で、指示マニュアルを含むキット。
【請求項20】
マトリクス物質が、請求項4〜13に記載された物質である請求項20に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−507781(P2009−507781A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527418(P2008−527418)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【国際出願番号】PCT/EP2006/064652
【国際公開番号】WO2007/023057
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【出願人】(503470311)キアゲン アクティーゼルスカブ (2)
【Fターム(参考)】