説明

血液成分分離方法

【課題】 血液成分分離の際にフィルターユニットと血液バッグ類を簡便に収容し、かつ遠心力でフィルターユニットの破損を防ぐ手段を提供する。
【解決手段】 遠心による血液成分の分離方法であって、粒子捕捉フィルターによって内部を仕切られた可撓性のハウジングからなる少なくとも1つのフィルターユニットと少なくとも1つの血液バッグユニットとがチューブにより接続されたバッグシステムを遠心カップ内部に収容し、該バッグシステム内の血液に遠心力を印加することにより血液成分の分離を行なう工程を含み、さらに該フィルターユニットを該遠心カップ内に筒状に配置する工程(ただし筒状の該フィルターユニットはその筒状部の軸方向が遠心力方向と概ね一致するように配置される)を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子捕捉のためのフィルターユニットを有するバッグシステムを用いて血液を遠心分離する工程を含む血液成分分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含む哺乳類動物の血漿や血清は、血漿製剤、血漿分画製剤、又はバイオテクノロジー医薬等の種々の製品の製造用原料として用いられているが、潜在的にウィルス混在の危険性がある。これまでに、血漿や血清中のウィルスを除去する方法がいくつか提案されてきたが、その一つにフィルターによるウィルス除去法がある。この方法が他の方法に比べて優れている点は、ウィルスの種類、ウィンドウ期、及びエンベロープの存在の有無に関わらず、特定の大きさ以上のウィルスであれば、そのフィルターの分画能により確実に除去できるという点である。
【0003】
血漿のように多くの成分からなる液体をフィルターによって濾過する際には、その成分の一部によってフィルターの目詰まりが生じ、濾過速度が低下するという問題がある。そのような濾過速度の低下を防ぐ手段として、一般的にはフィルターの面積を大きくすることにより単位面積辺りの濾過量を減じる手段が採用されているが、フィルターユニットが大型化するという問題が生じる。
【0004】
一方、献血血液より濾過前の血漿を得るためには、まず遠心分離によって血漿と血球成分とを分離する工程が不可欠であり、従って、ウィルス除去のためのフィルターユニットが血液成分分離用バッグユニット(以下、本明細書において「血液バッグユニット」と呼ぶ。)に無菌的に接合されていることが望ましい。このようにフィルターユニットと血液バッグユニットとが結合されているシステムを用いる場合には、血液成分を遠心分離する際に血液バッグユニットと共にフィルターユニットも遠心機の遠心カップ内に収容することが必要となる。
【0005】
フィルターユニットを遠心カップに収める方法として、特許文献1には遠心カップの上端の外周部でフィルターユニットを支えるための保護治具が開示されている。しかしながら、この前記保護治具は遠心カップの外周にぴったり載る寸法でなければならず、遠心カップの寸法が違えば同一寸法の保護治具は使用できず、汎用性に欠けるという問題がある。そして、該保護治具を使った場合には、フィルターユニットは保護治具の上に固定され、血液バッグユニットは遠心カップ内に収納した状態となるが、この状態で遠心分離を行なうと血液バッグユニットが遠心力により沈み込み、前記フィルターユニットを繋ぐチューブがちぎれる恐れがある。さらに、前記保護治具は金属のような剛体からなることが推奨されているが、このような素材でできた保護治具では遠心カップとの間に血液バッグユニットやチューブが挟まれた場合にチューブが破れたりちぎれたりする等の恐れがある。また、フィルターユニットが大きい場合には保護治具内にフィルターを収めることは難しく、フィルターユニットが可撓性であって折り畳むことができたとしても、遠心力によって押さえ付けられることにより、折り目部でユニットが破損する恐れがある。
【0006】
特許文献2には偏平状フィルターユニット及び血液バッグユニットを遠心カップに収容する際にフィルターユニットを保持し遠心方向に平行に収納するためのフィルター支持体が開示されている。しかしながら、遠心カップの直径よりも大きなフィルターユニットの場合にはこのような支持体に収めることは困難であり、フィルターユニットが可撓性であって折り畳むことができたとしても、遠心力により折り目部に負荷がかかり、ユニットが破損する恐れがある。
特許文献3にはフィルターユニットと血液バッグユニットとの間に保護体を介在させ、前記フィルターユニットに加わる遠心力を前記バッグ類で支える血液成分分離方法が開示されているが、フィルターユニットが遠心カップの開口部よりも大きい場合には収納することが困難であり、フィルターユニットが可撓性であって折り畳むことができたとしても、遠心力により折り目部に負荷がかかり、ユニットが破損する恐れがある。
【0007】
特許文献4にはローターにフィルターユニットの固定手段を有する遠心分離機が開示されているが、フィルターユニットが大きい場合にはローター上面又は内部に固定することは困難であり、フィルターユニットが可撓性であって折り畳むことができたとしても、遠心力により折り目部に負荷がかかり、ユニットが破損する恐れがある。
上記のように、血液成分からウィルス等の粒子を除くために十分な濾過面積を有するフィルターユニットと血液バッグユニットとを組み合わせて遠心カップに収納して簡便かつ安全に血液成分を分離する方法は従来知られていなかった。
【特許文献1】米国特許第5100564号明細書
【特許文献2】特開平6−245998号公報
【特許文献3】特開平6−254153号公報
【特許文献4】特開平7−47303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、血液バッグを用いて遠心力を用いた血液成分の分離を行うにあたり、血液バッグとフィルターユニットとを組み合わせたバッグシステムを安全に遠心カップ内に収容して血液成分の分離を行なう方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、血液バッグとフィルターユニットとを組み合わせたバッグシステムを遠心カップ内に収容するにあたり、可撓性のフィルターユニットを遠心カップの内周に沿って筒状に折り曲げて収容することにより、フィルターユニットを遠心カップ内に簡便に収容できるだけでなく、遠心力によるフィルターユニットやチューブの破損を防ぐことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明により、遠心による血液成分の分離方法であって、粒子捕捉フィルターによって内部を仕切られた可撓性のハウジングからなる少なくとも1つのフィルターユニットと少なくとも1つの血液バッグユニットとがチューブにより接続されたバッグシステムを遠心カップ内部に収容し、該バッグシステム内の血液に遠心力を印加することにより血液成分の分離を行なう工程を含み、さらに該フィルターユニットを該遠心カップ内に筒状に配置する工程(ただし筒状の該フィルターユニットはその筒状部の軸方向が遠心力方向と概ね一致するように配置される)を含む方法が提供される。
【0011】
上記発明の好ましい態様によれば、該遠心カップの内部が単一の空間からなり、該フィルターユニットを該遠心カップ内に筒状に配置し、該血液バッグユニットを筒状の該フィルターユニットの筒状部内側に収容する上記の方法;該遠心カップの内部が少なくとも2以上の空間に仕切られており、それらのうちの少なくとも1の空間に該フィルターユニットを筒状に配置し、かつ他の空間に血液バッグユニットを収容する上記の方法;該粒子捕捉フィルターがウィルス、細菌、真菌、原虫、寄生虫、病原性プリオン、白血球、又は細胞由来粒子のうち少なくとも一つ以上を捕捉可能なフィルターである上記の方法;及び該フィルターユニットのフィルター面積が200平方センチメートル以上、600平方センチメートル以下である上記の方法が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、血液バッグユニットとフィルターユニットとを組み合わせたバッグシステムを遠心カップ内に収容して遠心力を用いた血液成分の分離を行うにあたり、大型のフィルターユニットを用いてもフィルターユニットの破損などを生じることなく、バッグシステムの遠心カップ内への収容も簡便に行なうことができるので、安全かつ簡便に血液成分の分離を行なうことができる。また、本発明の方法は、特に血液由来成分よりウィルスのような微小な病原体を取り除くための大面積フィルターを有するバッグシステムを用いる場合に好適に適用可能であり、血液成分の分離後、無菌的に簡便に病原体粒子を除去した血液由来成分を調製するために有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の好ましい態様の一例について具体的に説明するが、本発明は添付の図面に記載された特定の好ましい態様に限定されることはない。
図1は、本発明の方法に従いフィルターユニット1と血液バッグユニット(採血バッグ3及び血漿貯留バッグ5並びに白血球除去フィルター4からなるバッグ)とがチューブにより接続されたバッグシステムを遠心カップ2に収容する一態様を示した図である。
可撓性のフィルターユニット1は渦巻状に巻かれて筒状に成形されており、この状態で遠心カップ2の内部に配置されている。筒状のフィルターユニット1は、その軸方向(筒状の該フィルターユニットを円柱とみなしたときの円柱軸方向のことである)が、遠心カップ2に印加される遠心力方向(遠心機中では該遠心カップ2の円形断面に垂直な下向き方向に、すなわち遠心カップ2の底面方向へ向けて遠心力が印加される)と概ね一致するように配置されている。遠心分離の際には、フィルターユニット1に対しても上記方向に遠心力が加わるが、フィルターユニット1が筒状に収容されていることにより、遠心力によるフィルターユニット1の変形が抑制される。また、該遠心カップ2の内壁に沿ってフィルターユニット1が収容されていることにより、遠心分離中に該フィルターユニット1の振動や移動を防ぐこともでき、該フィルターユニット1及びチューブなどの破壊が生じない。採血バッグ3及び血漿貯留バッグ5並びに白血球除去フィルター4からなる血液バッグユニットは、上記のように遠心カップ内部に収容されたフィルターユニット1により形成される筒上部の内側に収容されている。この状態で所定の回転数及び時間で血液の遠心分離を行なうと、血液は採血バッグ3中で比重に従い血漿と血球成分に分離される。
【0014】
上記遠心分離の後、該採血バッグ3から血漿を押し出して白血球除去フィルター4へと導き、該フィルターを通過させることによって血漿中の白血球を除去することができる。さらに、白血球を除去したこの血漿をチューブを通過させ、フィルターユニット1へと導くことができる。フィルターユニット1は、その内部に設けられた粒子捕捉フィルターによって内部空間が2つに仕切られており、そのうちの1つの空間に上記の血漿を導入することができる。血漿はチューブを通って粒子捕捉フィルターに到達し、該粒子捕捉フィルターを通過した血漿はフィルターユニット1内の他の空間に到達し、その後、フィルターユニット1を出て排出用のチューブへと導かれる。この排出用のチューブを通った血漿は血漿貯留バッグ5へと導かれ、該血漿貯留バッグ内に貯留される。この状態でチューブを溶断することにより血漿貯留バッグ内に血漿を密封することができ、血液センター等の所定の施設へと配送することが可能となる。もっとも、このような血液処理の工程は国や地域、あるいは施設によって異なるため、所望の血漿を得るために適宜の工程を付加し、あるいは白血球除去工程を省略するなど適宜の修飾ないし改変を加えることができる。例えば、白血球除去を輸血直前にベッドサイドで行うような場合は、上記工程から白血球除去の工程を省略することもできる。
【0015】
図2は大型のフィルターユニットを用いる態様を示した図である。例えば、一つの遠心カップ内にバッグシステムを収容することが困難となるような場合、例えばフィルターユニットが極度に大きい場合には、図2に示すように内部を仕切り板221で2つの空間に仕切られた遠心カップ22を用いることで、フィルターユニット21を該空間の一方の内周に沿って筒状に配置し、採血バッグ3、血漿貯留バッグ5、白血球除去フィルター4を備えた血液バッグユニットを遠心カップ内のもう一方の空間に収容することもできる。上記の2つの空間の容積を適当に設計することにより、該フィルターユニット21が遠心中に該遠心カップ22内で変形し、あるいは振動又は移動したりすることを防ぐこともできる。
【0016】
本明細書において、フィルターとは、多孔質体からなる構造物で、一方の面から他方の面に連通する多数の微細な孔を有し、かつ特定の粒子を選択的に分離除去できる孔径又は表面親和性を有する基材を意味する。フィルター面に対して液体を加える側を1次側、透過した液体が出る側を2次側とする。
多孔質体とは、微細な孔を多数有する基材のことをいい、その材質、厚さ、形状、寸法等は限定されない。多孔質体の材質としては、有機材料、無機材料、又は有機材料と無機材料からなる複合材料であってもよい。その中でも、有機材料、とりわけ、有機高分子材料は、切断等の加工性に優れるため好ましい素材である。有機高分子としては、例えば、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコー ル、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリスルホン、セルロース、セルロースアセテート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリトリフルオロクロロビニル、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエーテルスルホン、ポリ(メタ)アクリレート、ブタジエン−アクリロニトリルコポリマー、ポリエーテル−ポリアミドブロツクコポリマー、エチレン−ビニルアルコールコポリマー等が挙げられるが、多孔質体はこれらに限定されるものではない。
【0017】
多孔質体の形状は、粒子を捕捉できる細孔を有するものであればよく、平板状、球状、棒状、繊維状、又は中空状等のいずれの形態であってもよい。このような例として、メッシュ、フィルム、シート、膜、板、不織布、濾紙、スポンジ、織物、編物、塊、糸、中空糸、又は粒子等が挙げられる。遠心力による濾過によって粒子を捕捉するにあたって、操作を行いやすいように粒子を捕捉する孔の大きさを簡単に制御できることや、フィルター及びハウジング作製の容易さ及びコスト等を考慮すると、メッシュ、フィルム、シート、濾紙、膜、板、不織布、スポンジ、又は粒子が好ましく、より好ましくは、メッシュ、フィルム、シート、濾紙、膜、不織布、又はスポンジである。 不織布とは、編織によらずに繊維又は糸の集合体が化学的、熱的、又は機械的に結合された布状のものである。繊維と繊維とが互いに接触して、摩擦により又は互いにもつれあうことにより一定の形状を保っている場合、これも機械的に結合されたということができる。織布とは、縦糸と横糸とが交錯してできた布地を意味する。
【0018】
多孔質体の孔の大きさには限定はないが、粒子を選択的に捕捉できるようにすることを考慮すると、平均孔径が0.05nm以上で500nm以下であることが好ましく、0.10nm以上で100nm以下がより好ましく、最も好ましくは0.15nm以上で80nm 以下である。粒子の選択的捕捉を容易にするためには、上記多孔質体を複数種類あるいは複数重ね合わせて使用してもよい。
多孔質体の平均孔径とは、例えば、水銀ポロシメーターで測定される値である。水銀ポロシメーターで測定する場合は、細孔径分布曲線における最大のピークを示す細孔径(直径)を平均孔径とすることができる。従って、多孔質体の平均孔径は、それよりも大きい直径を有する粒子が孔内に入り難いことを意味するものの、それ以上の直径を有する粒子が孔内に絶対に入らないことを意味するものではない。
【0019】
上記の多孔質体は、多孔質体の孔を塞がない程度に、親水性化合物により表面処理を施されていてもよい。その手法として、グラフトによる表面処理、電子線や放射線照射、又は高分子による表面コーティング等を用いることができる。グラフトによる表面処理に用いる親水性化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、フェノキシエチルアクリレートなどのアクリル酸又はメタクリル酸と多価アルコールのエステル類などの親水性モノマーやモノマーの混合物、並びに架橋可能なビニル基やアリル基等を有するポリエチレンオキサイド、ポリグリシドール、ポリビニルピロリドン、又はそれらの共重合体等が好適に用いられる。上記した架橋可能なビニル基やアリル基を主鎖又は側鎖に有する親水性ポリマーをフィルター表面にコーティングし、熱、放射線、又は架橋剤等で架橋することもでき、ポリビニルアルコールやエチレンビニルアルコール共重合体等の親水性のポリマーをフィルター表面にコーティングすることもできる。また、ポリエチレングリコールジアクリレート等のジアクリレート系化合物を親水性化合物に添加してから反応を行い、得られた反応生成物を架橋することもできる。
【0020】
本明細書において、「粒子」とは、フィルターの細孔にサイズ又は親和性によって捕捉される物を意味しており、有機物又は無機物のいずれであってもよい。サイズにより粒子を捕捉する場合にはフィルターの細孔の孔径は粒子の直径よりも小さいことが好ましいが、濾過処理中にフィルターの2次側への粒子の流出を防ぐことができればいかなる孔径であってもよい。粒子には、例えば、健康を害する粒子が含まれる。粒子が健康を阻害するものである場合には、粒子捕捉フィルターにより該粒子を捕捉することで、例えば輸血用血液の安全性を高めることができる。健康を阻害する粒子とはヒトの体内に入ることで健康を害する可能性のある粒子のことを意味しており、例えば、ウィルス、細菌、真菌、原虫、寄生虫、病原性プリオン、白血球の他、細胞破砕物のような細胞由来粒子のことである。
【0021】
粒子捕捉フィルターは可撓性のハウジングの内部空間を2つに仕切るように該ハウジング内に配置される。ハウジングの部材は、可撓性のハウジングを形成することができ、かつ血液に対して安全な部材であればその種類は特に限定されない。例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコー ル、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリスルホン、セルロース、セルロースアセテート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリトリフルオロクロロビニル、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエーテルスルホン、ポリ(メタ)アクリレート、ブタジエン−アクリロニトリルコポリマー、ポリエーテル−ポリアミドブロツクコポリマー、又はエチレン−ビニルアルコールコポリマー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ハウジング内部がフィルターで仕切られた構造を有することにより、濾過の前後において密閉系で処理することができ、特に輸血用血液のような清潔性が求められる場合に好ましい。
【0022】
「血液バッグユニット」とは、採血した血液を貯留するための可撓性の容器及び血液成分を分離した後の血漿を貯留する可撓性の容器、並びに上記容器をつなぐチューブを含むユニットであり、一般的には、採血バッグ及び血漿貯留バッグの2つのバッグを含み、さらに白血球除去フィルターなどの1又は2以上のユニットを含んでいてもよい。また、図1に示した態様のように、血液バッグユニットは、採血バッグと白血球除去フィルターとを含む部分、及び血漿貯留バッグの2つの独立した部分から構成されており、これらの2つの部分の間にフィルターユニットなどを介在させてもよい。血液バッグの材質としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコー ル、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリスルホン、セルロース、セルロースアセテート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリトリフルオロクロロビニル、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエーテルスルホン、ポリ(メタ)アクリレート、ブタジエン−アクリロニトリルコポリマー、ポリエーテル−ポリアミドブロツクコポリマー、又はエチレン−ビニルアルコールコポリマー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、本明細書において、バッグシステムとは、少なくとも1つのフィルターユニットと少なくとも1つの血液バッグユニットとがチューブにより接続されたシステムを意味している。
【0023】
該フィルターユニットと血液バッグユニットとを含む「バッグシステム」は、筒状に配置された該フィルターユニットの筒部内側に該血液バッグを収容することで、一つの遠心カップ内に該バッグシステムを収容して血液成分分離のための遠心操作を行なうことができ、さらに該フィルターユニットが遠心分離中に変形して、遠心カップ中心に向かって倒れることを防ぐことが可能になる。本明細書において、「筒状」とは、遠心カップの軸方向から見て、フィルターユニットが略円形となるように局面状に遠心カップに収納された状態を意味している。この局面は完全な円形でなくてもよいが、遠心カップの内周の半周以上を覆うように配置されていることが望ましく、図1又は図2に示すように数周させて渦巻状として配置しても差し支えない。該フィルターユニットを遠心カップ内側の側壁に沿うように筒状に配置することで、該フィルターユニットが遠心中に移動又は振動し、あるいは変形することを防ぐことができる。フィルターユニットを筒状に配置するにあたり、可撓性の平面形態のハウジングを渦巻状に巻いて筒状とし、この筒状のフィルターユニットを遠心カップの内部空間に配置することもできる。ハウジングを渦巻状に巻くにあたり1層の筒状部ができるようにしてもよいが、複数の層からなる筒状部ができるようにしてもよい。図1及び図2には複数の層からなる筒状部ができる場合を示した。
【0024】
なお、該フィルターユニットを遠心カップ内に収容する作業の効率などの観点から、必要に応じて該遠心カップ内側の側壁と該フィルターユニットの筒部側面との間に若干の空間を残してもよい。また、一つの遠心カップ内に該バッグシステムを収容することが困難な場合には、内部が少なくとも二つ以上の空間に仕切られた遠心カップの各空間に該フィルターユニット及び該血液バッグユニットをそれぞれ収容することもできる。該空間の容量を適切に設計することにより、筒状の該フィルターユニットが遠心分離中に倒れたり振動又は移動しないように適宜収容することが可能である。なお、バッグシステムを遠心カップ内に収容するにあたり、バッグシステムを構成する各ユニットの配置は、遠心カップ内でフィルターユニットが筒状に配置されており、かつ遠心力の印加により採血バッグ内で血液成分の分離ができるものであれば、特に限定されることはない。
【実施例】
【0025】
例1
ポリ塩化ビニル製の採血バッグ3に白血球除去フィルター4(ハウジング部材:ポリ塩化ビニル、フィルター部材:ポリエチレンテレフタレート)がポリ塩化ビニル製チューブによって接続されており、該白血球除去フィルター4の出口からウィルス捕捉フィルターを備えたフィルターユニット1へとチューブで接続されており、さらに該フィルターユニット1の出口からポリ塩化ビニル製の血漿貯留バッグ5へとチューブで接続されたバッグシステムを製造した。該フィルターユニットは長さ10cm、幅50cm、厚さ0.1cmであり、四辺が高周波溶着機によって溶着されている。
【0026】
採血バッグ3に純水450mlを導入した後に導入用チューブを溶断し、図1のようにウィルス捕捉フィルターユニット1を渦巻状に巻いて筒状とし、直径10cm、高さ15.5cmの遠心カップ2の内部側壁に沿って収容した後、残りのバッグ類及び白血球除去ユニットを該フィルターユニットによって形作られる筒状部の内側に挿入し、遠心機に遠心カップ2を取り付けた。フィルターユニット1が遠心カップ2の内部に筒状に配置されていることで、フィルターユニット1の側面が遠心カップ2の内壁及びフィルターユニット1の側面の一部に接触するため、その摩擦抵抗によって収容時の形状を容易に保つことができ、該バッグシステムの遠心カップ2内への収容操作は容易であった。これを5000Gの遠心力で10分間遠心した後に取り出したところ、該フィルターユニット1並びに採血バッグ、血漿貯留バッグ、及び白血球除去フィルターを含む血液バッグユニットには全く損傷が認められなかった。
【0027】
比較例1
例1と同様のバッグシステムを用いて、該フィルターユニット1を10cm幅に折り畳んだ後に該遠心カップに挿入し、更にバッグ類及び白血球除去フィルターの収容を試みたところ、該フィルターユニット1の復元力によりカップ内で該フィルターユニット1が広がってしまい、広がらないように押さえながらバッグ類及び白血球除去フィルターを挿入せねばならず、しかも挿入されたバッグ類によって該フィルターユニット1が押さえつけられることにより、該フィルターユニットの折り畳まれた部分の溶着部で損傷が発生した。
【0028】
例2
例1と同様の構成のバッグシステムを、採血バッグ23に純水450mlを導入した後、図2のように内部を仕切り板221で二つの空間に仕切られた遠心カップ22の該空間の一方に、フィルターユニット21を筒状にして入れ、該空間のもう一方に残りのバッグ類及び白血球除去ユニットを入れて収容した。このようにして、該バッグシステムを遠心カップ22内に容易に収容することができた。遠心機に該遠心カップを取り付け、5000Gの遠心力で10分間遠心した後に取り出したところ、該フィルターユニット21並びに採血バッグ、血漿貯留バッグ、及び白血球除去フィルターを含む血液バッグユニットには全く損傷が認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の方法の一態様を示した模式図である。
【図2】本発明の方法の別の態様を示した模式図である。この態様では、内部を二つの空間に仕切られた遠心カップの内部にバッグシステムが収容されており、フィルターユニットと血液バッグユニットはそれぞれ別の空間に収容されている。
【符号の説明】
【0030】
1 フィルターユニット
2 遠心カップ
3 採血バッグ
4 白血球除去フィルター
5 血漿貯留バッグ
21 フィルターユニット
22 遠心カップ
221 仕切り板
23 採血バッグ
24 白血球除去フィルター
25 血漿貯留バッグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心による血液成分の分離方法であって、粒子捕捉フィルターによって内部を仕切られた可撓性のハウジングからなる少なくとも1つのフィルターユニットと少なくとも1つの血液バッグユニットとがチューブにより接続されたバッグシステムを遠心カップ内部に収容し、該バッグシステム内の血液に遠心力を印加することにより血液成分の分離を行なう工程を含み、さらに該フィルターユニットを該遠心カップ内に筒状に配置する工程(ただし筒状の該フィルターユニットはその筒状部の軸方向が遠心力方向と概ね一致するように配置される)を含む方法。
【請求項2】
該遠心カップの内部が単一の空間からなり、該フィルターユニットを該遠心カップ内に筒状に配置し、該血液バッグユニットを筒状の該フィルターユニットの筒状部内側に収容する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該遠心カップの内部が少なくとも2以上の空間に仕切られており、それらのうちの少なくとも1の空間に該フィルターユニットを筒状に配置し、かつ他の空間に血液バッグユニットを収容する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該粒子捕捉フィルターがウィルス、細菌、真菌、原虫、寄生虫、病原性プリオン、白血球、又は細胞由来粒子のうち少なくとも一つ以上を捕捉可能なフィルターである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該フィルターユニットのフィルター面積が200平方センチメートル以上、600平方センチメートル以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−116092(P2006−116092A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307553(P2004−307553)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】