説明

血管内皮機能改善剤及び一酸化窒素産生促進剤

【課題】高血圧症等の生活習慣病に伴い悪化した血管内皮機能を改善する作用に優れた血管内皮機能改善剤及び一酸化窒素産生促進剤を提供する。
【解決手段】柑橘類由来のポリフェノール類を有効成分として含有することを特徴とする血管内皮機能改善剤又は一酸化窒素産生促進剤であって、好ましくは、前記ポリフェノール類は、柑橘類の果実からの極性溶媒抽出物として配合されるものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮機能改善剤及び一酸化窒素産生促進剤に係り、詳しくは、柑橘類由来のポリフェノール類を有効成分として配合する血管内皮機能改善剤及び一酸化窒素産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高カロリー食、飲酒・喫煙、運動不足、ストレス等の生活習慣が原因で生ずる病気として、肥満、高血圧、高血糖、高脂血症等の生活習慣病が知られている。これらの生活習慣病は、心筋梗塞、脳梗塞等の循環器系疾患の主要な原因の一つとされる動脈硬化症の危険因子として知られ、社会的に重大な問題となっている。動脈硬化症の症状は、食生活の改善、適度な運動による生活習慣の改善以外に根本的な治療法が確立されていないのが現状である。一般に、動脈硬化症の危険因子である生活習慣病のうち複数種類の生活習慣病を併発している症状をメタボリック症候群という。メタボリック症候群に該当する人は、動脈硬化症に伴う心筋梗塞や脳梗塞を発症するリスクが一段と高くなるとともに、発症した場合にその予後を悪化させる。
【0003】
最近、動脈硬化症の要因の一つに血管内皮細胞の内皮機能低下が関与していることが確認されてきた。血管内皮細胞は、内皮由来弛緩因子の放出等による血管拡張調節の他、血液凝固抑制物質の放出による血液凝固調節等により、単球接着抑制及び血栓形成阻害等により血管内皮を保護し、動脈硬化を抑制する。
【0004】
しかしながら、高血圧等の生活習慣病によって血管内皮に損傷が発生すると、内皮由来弛緩因子の放出の低下による血管拡張機能の低下、及び炎症による血液凝固抑制機能の低下等による内皮機能の低下が生ずる。血管内皮機能の低下は、動脈硬化症を悪化させるとともに、それに伴う心筋梗塞や脳梗塞等の循環器病を発症させたり、症状を悪化させる。現在、高血圧等の生活習慣病によって生ずる血管内皮機能の悪化に対する予防薬や治療薬の開発が急務となっている。
【0005】
従来より、特許文献1に開示されるように、副作用を伴うことがない天然成分由来の抽出物が血管内皮機能の一つである血管拡張調節において、内皮由来弛緩因子の一つである一酸化窒素(NO)の放出を促進させる作用を有することが知られている。一般に、一酸化窒素は、生体内においてアルギニンから一酸化窒素合成酵素(NOS)により合成され、ずり応力(血流及び血液粘性により内皮細胞が受ける抵抗力)が働くと一酸化窒素合成酵素の活性が高められることが知られている。また、一酸化窒素は、血管平滑筋弛緩作用の他、プロスタグランジンI(PGI)産生による血小板凝集抑制作用、及び血栓の原因とされる細胞接着因子の産生抑制作用等により血管内皮機能の改善作用を発揮することが知られている。一酸化窒素はこれらの作用により、抗動脈硬化作用を発揮するものと期待される。
【特許文献1】特開2005−298429号公報
【特許文献2】特開平9−48969号公報
【特許文献3】特開2005−225847号公報
【特許文献4】特開2006−321772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般にレモン等の柑橘類には、エリオシトリン等のポリフェノール類が多く含有されていることが知られている。従来より、特許文献2〜4に開示されるように、柑橘類由来のエリオシトリン等のポリフェノール類には抗酸化性、コレステロール及び中性脂肪等の脂質低減作用、抗肥満作用等を有していることが知られている。
【0007】
本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、柑橘類由来のポリフェノール類が、血管内皮機能の改善作用及び一酸化窒素の産生促進作用を有することを新たに見出したことによりなされたものである。その目的とするところは、高血圧症等の生活習慣病に伴い悪化した血管内皮機能を改善する作用に優れた血管内皮機能改善剤及び一酸化窒素産生促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明の血管内皮機能改善剤は、柑橘類由来のポリフェノール類を有効成分として含有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の血管内皮機能改善剤において、前記ポリフェノール類は、柑橘類果実由来の極性溶媒抽出物として配合されることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明の血管内皮機能改善剤は、エリオシトリンを有効成分として含有することを特徴とする。
請求項4に記載の発明の一酸化窒素産生促進剤は、柑橘類由来のポリフェノール類を有効成分として含有することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の一酸化窒素産生促進剤において、前記ポリフェノール類は、柑橘類果実由来の極性溶媒抽出物として配合されることを特徴とする。
請求項6に記載の発明の一酸化窒素産生促進剤は、エリオシトリンを有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高血圧症等の生活習慣病に伴い悪化した血管内皮機能を改善する作用に優れた血管内皮機能改善剤及び一酸化窒素産生促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、本発明の血管内皮機能改善剤を具体化した第1の実施形態を詳細に説明する。
第1の実施形態の血管内皮機能改善剤は、有効成分として柑橘類由来のポリフェノール類を含有する。この有効成分である柑橘類由来のポリフェノール類によって、血管内皮細胞から内皮由来弛緩因子の遊離を促進し、動脈硬化症の要因の一つである血管の内皮機能を改善する作用を発揮する。血管の内皮は、通常一層の扁平な血管内皮細胞で覆われている。血管内皮細胞は、流動性の維持・調節機能、及び脈管の内外間の物質又は細胞の移動調節機能等の血管内皮機能により血管の恒常性を維持する上で重要な役割を果たしている。流動性の維持・調節は血管内皮細胞による血管の弛緩・収縮調節機能の他、血液凝固促進・抑制物質の放出による血液凝固の調節機能によって行なわれている。細胞の移動調節は、血管接着因子の発現調節等の機能によって行なわれている。最近、これらの血管内皮細胞による内皮機能低下が動脈硬化症の要因の一つであることが確認されている。本実施形態の血管内皮機能改善剤は、有効成分である柑橘類由来のポリフェノール類により動脈硬化症の要因の一つである血管内皮細胞の内皮機能低下を改善する作用を発揮する。
【0013】
本実施形態の血管内皮機能改善剤は、上述した有効成分により血管内皮細胞から内皮由来弛緩因子の一つである一酸化窒素(NO)の放出を促進する。一酸化窒素は、生体内においてアルギニンから一酸化窒素合成酵素(eNOS)により合成され、ずり応力(血流及び血液粘性により内皮細胞が受ける抵抗力)が働くと一酸化窒素合成酵素の活性が高められることが知られている。本実施形態の血管内皮機能改善剤は、上述した有効成分により血管内皮細胞中における一酸化窒素合成酵素の活性を高める作用を有する。一酸化窒素は、グアニレートシクラーゼの活性化→サイクリックGMPの上昇→細胞外へカルシウムイオンの流出→血管平滑筋弛緩の一連の情報伝達系によって、血管平滑筋の弛緩作用による血管拡張作用(降圧作用)を発揮する。したがって、本実施形態の有効成分によって、降圧作用を有効に発揮するものと思料される。
【0014】
また、一酸化窒素は、上記の血管平滑筋弛緩作用の他、プロスタグランジンI(PGI)産生促進による血小板凝集抑制作用、及び血栓の原因とされる細胞接着因子の発現を抑制する作用等により血管内皮機能の改善作用を発揮することが知られている。一酸化窒素はこれらの作用により、抗動脈硬化作用を発揮するものと期待される。尚、そのプロスタグランジンIは、血管内皮細胞に直接働いて、細胞内のcAMP濃度を上昇させ、一酸化窒素の産生を相乗的に促進させる。以上により、第1の実施形態の血管内皮機能改善剤は、上述した有効成分により一酸化窒素合成酵素の活性を高め、一酸化窒素の産出を促進し、降圧作用、血小板凝集抑制作用及び抗血栓作用等を発揮することによって血管内皮機能の改善を図るものと期待される。

本実施形態の有効成分である柑橘類由来のポリフェノール類としては、具体的にはフェルラ酸等のフェノールカルボン酸類、フラボノイド類が重合したタンニン類、フラボノイド類、及び還元糖とフラボノイドが結合したフラボノイド配糖体等を挙げることができる。これらの中でも、フラボノイド、及び還元糖とフラボノイドが結合したフラボノイド配糖体等のフラボノイド類が好ましい。
【0015】
フラボノイドとしては、例えばフラボン、及びフラバノン等が挙げられる。還元糖としては、例えばグルコース、及びルチノース等が挙げられる。具体的にはフラバノン類としてエリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニン等が挙げられる。フラバノン類は、天然物として還元糖が結合したフラバノン配糖体(フラボノイド配糖体)の形で多く存在するためフラバノン配糖体を適用してもよい。フラバノン配糖体としては、ルチノースとの配糖体であるエリオシトリン及びヘスペリジン、グルコースとの配糖体であるエリオディクティオール−7−グルコシド、並びにネオヘスペリジオースとの配糖体であるナリンジン等が挙げられる。
【0016】
ポリフェノール類の配合形態としては、ポリフェノール類を含有する柑橘類を構成する素材そのまま有効成分として配合する方法、柑橘類から極性溶媒を用いて抽出される極性溶媒抽出物を有効成分として配合する方法、及び柑橘類から精製された精製物を有効成分として配合する方法が挙げられる。これらの中で、入手が容易であるとともに不純物の少ない極性溶媒抽出物を適用することが好ましい。ポリフェノール類を含有する柑橘類としては、レモン、ライム、グレープフルーツ、スダチ、ユズ、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、サワーオレンジ、はっさく、温州みかん、イヨカン、ダイダイ、カボス、ポンカン等が挙げられる。これらは単独で原料として用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて原料として用いられてもよい。これらの中で、ポリフェノール類を多く含有するレモン、ライム及びスダチが好ましく、レモンが特に好ましい。レモンの果実には、ポリフェノール類の中でも特にエリオシトリン、及びヘスペリジン等のフラバノン(フラボノイド)配糖体が多量に含有されている。
【0017】
極性溶媒を用いて抽出される極性溶媒抽出物をポリフェノール類が含有される有効成分として適用する場合、最も簡便には、柑橘類又はその構成成分からなる原料を極性溶媒に浸漬させた後に撹拌又は放置する抽出工程により得られる。極性溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、水、グリセリン、氷酢酸等が挙げられ、安価であることから水が好適に用いられる。これらは単独で用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。前記極性溶媒抽出物中には、前記ポリフェノール以外にも不純物としてペクチン等が同時に高含有されている。なお、この極性溶媒抽出物は、必要に応じてペクチン等を除去することも可能である。
【0018】
極性溶媒抽出物は、有効成分であるポリフェノール類を含み、好ましくはポリフェノール類を主成分としている。前記ポリフェノール類を主成分とするとは、前記極性溶媒に含まれるポリフェノール類の含有量が他のどの成分よりも高いことを指し、ポリフェノール類を好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上含有していることを指す。
【0019】
ポリフェノール類を含有する原料(素材)としては、柑橘類の葉、果実、又はその果実の構成成分の一部を含有するものが用いられる。これらの中で、ポリフェノール類を大量に得られやすい柑橘類の果実の果汁、果皮(アルベド、フラベド)、じょうのう膜及びさのう等が好ましく用いられる。原料としては果実をそのまま用いてもよいが、製造に要する手間を省くとともに果実の有効利用を容易に図ることができるために、果実から果汁を搾汁した後の搾汁残渣を用いるのが最も好ましい。この搾汁残渣には、果皮と、じょうのう膜と、さのうの一部と、種子と、搾汁しきれなかった極少量の果汁とが含まれている。
【0020】
抽出工程では、原料中に含まれる極性溶媒溶解成分(親水性成分)を極性溶媒中に抽出させた後、原料の不溶性成分と極性溶媒とを分離する固液分離を行う。この固液分離により、極性溶媒抽出液が得られる。固液分離は遠心分離や膜分離等により行われるのが好ましい。固液分離後、極性溶媒抽出液を濃縮及び乾燥することにより粉末状の極性溶媒抽出成分を得ることもできる。抽出液の濃縮及び乾燥は、減圧濃縮及び真空乾燥により行われるのが好ましい。尚、抽出時間は1時間以上であるのが好ましい。
【0021】
この抽出工程後の極性溶媒抽出液は、ポリフェノール類の濃度を高めるために、引き続き濃縮工程を行うのが好ましい。濃縮工程は、多孔質合成吸着樹脂(以下、「吸着樹脂」という)に吸着させる吸着処理を行った後、吸着樹脂を洗浄する洗浄処理を行い、引き続き吸着樹脂からポリフェノール類を溶出させる溶出処理を行うものである。この濃縮処理により、極性溶媒抽出成分はポリフェノール類以外の成分が効率的に除去され、ポリフェノール類の含有率が高くなる。吸着樹脂はポリフェノール類に対して高い吸着性を発揮するものが用いられる。吸着樹脂の材質としてはスチレン系合成吸着樹脂材料やアクリル系合成吸着樹脂材料が挙げられる。吸着樹脂の具体例としてはデュオライトS−861、ES−865、アンバーライトXAD−4、アンバーライトXAD−7、アンバーライトXAD−16(いずれもローム・アンド・ハース社製)、ダイヤイオンHP20、セパビーズSP207、セパビーズSP700(いずれも三菱化学社製)等が挙げられる。
【0022】
洗浄処理は、水等の極性溶媒をカラムに供して吸着樹脂を洗浄する処理であり、吸着樹脂から極性溶媒抽出成分中のポリフェノール類以外の成分を主に取除く。この洗浄処理は、ポリフェノール類の極性溶媒への溶出速度が極性溶媒抽出成分中の他の成分に比べて遅いことを利用している。洗浄に使われる水は加熱されていない状態でカラムに供されてもよいが、40〜100℃に加熱された状態でカラムに供されるのがポリフェノール類以外の成分を効率的に取除くことができるために好ましい。
【0023】
溶出処理は溶出用溶媒をカラムに供する処理であり、吸着樹脂に残っている極性溶媒抽出成分を溶出用溶媒中に溶出させる。この溶出処理により、極性溶媒抽出成分は溶出用溶媒に溶解した状態で得られる。溶出用溶媒としてはエタノール等のアルコール、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、グリセリン、氷酢酸等の有機溶媒や水等が挙げられる。これらの中でも、極性溶媒抽出成分を効率的に溶出させることができるために、水、エタノール等のアルコール、グリセリン、氷酢酸等の極性溶媒が好ましく、エタノール等のアルコールがより好ましい。さらに、アルコールは、取扱いが容易なためにエタノールが好ましい。
【0024】
以上のように、得られた溶出液は、そのまま本実施形態の血管内皮機能改善剤の有効成分(ポリフェノール類)含有素材として利用することが可能である。また、必要に応じて濃縮、乾燥又は水希釈した状態で利用することも可能である。
【0025】
本実施形態の血管内皮機能改善剤は、主に血管内皮機能の改善作用を効果・効能とする医薬品、医薬部外品、健康食品、健康飲料、栄養補助食品、動物用医薬品、飼料等に適用することができる。
【0026】
本実施形態の血管内皮機能改善剤を医薬品として使用する場合は、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0027】
本実施形態の血管内皮機能改善剤を飲食品として使用する場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって、例えば、粉末状、錠剤状、顆粒状、液状(ドリンク剤等)、カプセル状、シロップ、キャンディー等の形状に加工して健康食品製剤、栄養補助食品等として使用することができる。前記飲食品としては、具体的にはスポーツドリンク、茶葉、ハーブなどから抽出した茶類飲料、牛乳やヨーグルト等の乳製品、ペクチンやカラギーナン等のゲル化剤含有食品、グルコース、ショ糖、果糖、乳糖やデキストリン等の糖類、香料、ステビア、アスパルテーム、糖アルコール等の甘味料、植物性油脂及び動物性油脂等の油脂等を含有する飲料品や食料品が挙げられる。また、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤等を適宜添加してもよい。
【0028】
第1の実施形態の血管内皮機能改善剤によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の血管内皮機能改善剤では、柑橘類由来のポリフェノール類を有効成分として含有する。したがって、摂取により血管内皮機能改善作用を有効に発揮することができる。
【0029】
(2)本実施形態の血管内皮機能改善剤では、有効成分である柑橘類由来のポリフェノール類によって、一酸化窒素合成酵素の活性化により、内皮由来弛緩因子(一酸化窒素)の産生を促進する。したがって、一酸化窒素による血管拡張作用(降圧作用)、血小板凝集抑制作用、及び抗血栓作用(抗動脈硬化作用)の発揮を期待することができる。
【0030】
(3)また、血管内皮機能の低下は、動脈硬化の危険因子とされている。したがって、本実施形態の血管内皮機能改善剤は、有効成分により抗動脈硬化作用を発揮し、動脈硬化症改善剤又は動脈硬化症予防剤として、特にそれらの疾患に罹患している人に好適に用いることができると期待される。
【0031】
(4)また、動脈硬化症は、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、腎不全、閉塞型動脈硬化症等の循環器病の原因とされる症状であるため、本実施形態の血管内皮機能改善剤をそれらの循環器病の改善剤又は予防剤として適用することができるとものと期待される。
【0032】
(5)本実施形態では、原料として天然の植物である柑橘類を基礎としていることから、安全に摂取することができるとともに副作用の心配がない。
(6)本実施形態では、ポリフェノール類は、好ましくは柑橘類の果実からの極性溶媒抽出物として配合することができるためポリフェノール類を高濃度に配合することができる。
【0033】
(7)ポリフェノール類を含む原料として、柑橘類の果実から果汁を搾汁した後の搾汁残渣を用いることにより、これら柑橘類の果汁を用いるのと比較して、極めて容易に大量のポリフェノール類を得ることができる。さらに、前記搾汁残渣は、前記柑橘類の果汁を含む飲料品等を製造する際に大量に廃棄されるものであることから、極めて安価に入手することができるうえ、食品リサイクル法の観点からもより好ましい。
【0034】
なお、上記実施形態の血管内皮機能改善剤は、次のように変更して具体化することも可能である。
・上記実施形態の血管内皮機能改善剤は、有効成分である柑橘類由来のポリフェノール類によって、血管内皮細胞から内皮由来弛緩因子の一つである一酸化窒素の放出を促進する。したがって、柑橘類由来のポリフェノール類を有効成分とする一酸化窒素産出促進剤として適用することができる。一酸化窒素産出促進剤は、血管拡張作用(降圧作用)による血圧降下剤、血小板凝集抑制作用による血小板凝集抑制剤、及び抗血栓作用による抗血栓剤としてそれぞれ適用することができるものと期待される。
【0035】
・従来より、更年期においては、一酸化窒素の産生を促すエストロゲン分泌の減少のために一酸化窒素の産生量が低下し、これにより血管内皮機能が障害され、肩こり、冷え性等の更年期障害が惹き起こされることが知られている。上記実施形態の血管内皮機能改善剤により血管内皮機能を改善することはこれらの更年期障害の症状予防にも有効であると期待される。
【0036】
・上記実施形態の血管内皮機能改善剤は、好ましくは高血圧症等の生活習慣病に伴い血管内皮機能が悪化した患者の治療に適用される。しかしながら、治療の用途のみならず、健常者が血管内皮機能の悪化を予防するための予防剤として摂取してもよい。
【0037】
・上記実施形態の血管内皮機能改善剤は、ヒト以外にも、ウマ、ウシ、ブタのような家畜(非ヒト哺乳動物)、ニワトリ等の家禽、或いは犬、猫、ラット及びマウス等のペットに投与してもよい。
【0038】
(第2の実施形態)
以下、本発明の血管内皮機能改善剤を具体化した第2の実施形態を詳細に説明する。
第2の実施形態の血管内皮機能改善剤は、有効成分としてエリオシトリンを含有する。この有効成分であるエリオシトリンによって、血管内皮細胞から内皮由来弛緩因子の遊離を促進し、動脈硬化症の要因の一つである血管の内皮機能を改善する作用を発揮する。本実施形態の血管内皮機能改善剤は、エリオシトリンにより、血管内皮細胞における一酸化窒素合成酵素の活性を高める作用を有するとともに、血管内皮細胞から一酸化窒素(NO)の放出を促進する。一酸化窒素は、血管平滑筋の弛緩作用による血管拡張作用(降圧作用)を有するため、本実施形態の有効成分によって、降圧作用を有効に発揮するものと思料される。
【0039】
第1の実施形態において説明したように、一酸化窒素は、上記の血管平滑筋弛緩作用の他、プロスタグランジンI(PGI)産生による血小板凝集抑制作用、及び血栓の原因とされる細胞接着因子の発現を抑制する作用(抗動脈硬化作用)等により血管内皮機能の改善作用を発揮することが知られている。以上により、第2の実施形態の血管内皮機能改善剤は、有効成分であるエリオシトリンにより一酸化窒素合成酵素の活性を高め、一酸化窒素の産出を促進し、降圧作用、血小板凝集抑制作用及び抗血栓作用等を発揮することによって血管内皮機能の改善を図るものと期待される。
【0040】
第2の実施形態の有効成分であるエリオシトリンは、eriodictyol-7-O-β-rutinosideとも呼ばれる。エリオシトリンは、フラバノンのエリオディクティオール7位の水酸基にルチノースが結合したフラバノン配糖体である。
【0041】
エリオシトリンの配合形態としては、生合成品、化学合成品、天然素材から極性溶媒を用いて抽出された抽出品又は精製品を適用することができる。エリオシトリンを含有する天然素材としては、例えば野菜、果実等が挙げられるが、好ましくは、第1の実施形態で例示した柑橘類及びミント類が挙げられる。
【0042】
このエリオシトリンは、柑橘類の果実由来の親水性成分やミント類の葉由来の親水性成分に含まれるポリフェノール類の一つであり、例えばレモンの果実から得られる親水性成分中のエリオシトリンの含有量は約33質量%である。このため、エリオシトリンは柑橘類由来のポリフェノール類の構成成分の一つとして、単独で摂取させた個体に対し高い血管内皮機能の改善作用を発揮する。
【0043】
天然素材から極性溶媒を用いて抽出する方法を用いる場合、例えば以下の方法を用いることができる。柑橘類の果実若しくはその構成成分又はミント類の葉を原料とし、該原料から極性溶媒により極性溶媒抽出成分を抽出する抽出工程を行った後、抽出工程により得られる極性溶媒抽出液からエリオシトリンを分取する分取工程を行うことにより得られる。エリオシトリンを得るための抽出工程については、前記第1の実施形態と同一工程を採用することができる。前記柑橘類の中でも、エリオシトリンの含有量が高いために香酸柑橘類が好ましく、レモン、ライム及びスダチがより好ましく、レモンが特に好ましい。一方、果実の構成成分の中でも、エリオシトリンの含有量が高いために果汁及び果皮が好ましく、果皮がより好ましい。例えば、レモンの果実におけるエリオシトリン濃度は、果皮では1540ppmであり果汁では216ppmである。また、ライムの果実におけるエリオシトリン濃度は、果皮では1280ppmであり果汁では197ppmである。また、ミント類としてはペパーミント、スペアミント等が挙げられ、エリオシトリンの含有量が高いためにペパーミントが好ましい。例えば、乾燥されたペパーミントの葉1kg中には、エリオシトリンが1〜5g含有されている。
【0044】
分取工程は、抽出工程により得られる極性溶媒抽出液をクロマトグラフィーで分画することにより、極性溶媒抽出液中のエリオシトリンを分取する工程である。この分取工程により、エリオシトリンは、クロマトグラフィーに用いられる溶媒に溶解した状態、即ちエリオシトリン溶液として得られる。クロマトグラフィー担体の具体例としてはイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等が挙げられる。クロマトグラフィーに用いられる溶媒としては水等が挙げられる。
【0045】
この分取工程では、エリオシトリン溶液を得た後、必要に応じてエリオシトリン溶液を濃縮及び乾燥して粉末化することにより、粉末状のエリオシトリンを得る。エリオシトリン溶液の濃縮及び乾燥は、減圧濃縮及び真空乾燥により行われるのが好ましい。さらに、エリオシトリンの純度を高めるために、粉末状をなすエリオシトリンの再結晶を複数回繰り返すのが好ましい。
【0046】
本実施形態のエリオシトリンを有効成分として配合する血管内皮機能改善剤は、第1の実施形態と同様に主に血管内皮機能の改善作用を効果・効能とする医薬品、医薬部外品、健康食品、健康飲料、栄養補助食品、動物用医薬品、飼料等に適用することができる。
【0047】
第2の実施形態の血管内皮機能改善剤によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の血管内皮機能改善剤では、エリオシトリンを有効成分として含有する。したがって、摂取により血管内皮機能改善作用を有効に発揮することができる。
【0048】
(2)本実施形態の血管内皮機能改善剤では、有効成分であるエリオシトリンによって、一酸化窒素合成酵素の活性化により、内皮由来弛緩因子(一酸化窒素)の産生を促進する。したがって、一酸化窒素による血管拡張作用(降圧作用)、血小板凝集抑制作用、及び抗血栓作用(抗動脈硬化作用)の発揮を期待することができる。
【0049】
(3)また、有効成分により動脈硬化症改善剤又は予防剤として、及び動脈硬化症が原因とされる循環器病の改善剤又は予防剤として、特にそれらの疾患に罹患している人に好適に用いることができると期待される。
【0050】
その他、第1の実施形態と同様の構成については、同一の作用効果を期待することができる。
なお、上記実施形態の血管内皮機能改善剤は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0051】
・上記実施形態の血管内皮機能改善剤は、有効成分であるエリオシトリンによって、血管内皮細胞から内皮由来弛緩因子の一つである一酸化窒素の放出を促進する。したがって、エリオシトリンを有効成分とする一酸化窒素産出促進剤として使用してもよい。一酸化窒素産出促進剤は、血管拡張作用(降圧作用)による血圧降下剤、血小板凝集抑制作用による血小板凝集抑制剤、及び抗血栓作用による抗血栓剤としてそれぞれ適用することができるものと期待される。
【0052】
・上記実施形態の血管内皮機能改善剤は、第1の実施形態と同様に健常者が血管内皮機能の悪化を予防するための予防剤として摂取してもよい。
・上記実施形態の血管内皮機能改善剤は、第1の実施形態と同様にヒト以外の動物に投与してもよい。
【実施例】
【0053】
以下、試験例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
<試験例1:レモン果実からのポリフェノール類の抽出>
試験例1においては、レモンの果実の搾汁残渣からポリフェノール類含有成分として極性溶媒抽出成分を得た。即ち、まず抽出工程として、極性溶媒としての水を用い、レモンの果実をFMC搾汁機により搾汁することによって生じた搾汁残渣から極性溶媒抽出成分を抽出した。具体的には、搾汁残渣2kgを粉砕した後10Lの水を加え、常温(25℃)にて30分間浸漬させた。次いで、搾汁残渣及び水の混合液を濾過して濾液を得た後に濾液を遠心分離(9000rpm、20分間)し、遠心分離後の上澄みからなる粗抽出液を得た。
【0054】
続いて、濃縮工程の吸着処理として、粗抽出液をスチレン系の多孔質合成吸着樹脂(ローム アンド ハース社製のアンバーライトXAD−16)2Lが充填されたカラムに供し、粗抽出液中の成分を吸着樹脂に吸着させた。次いで、洗浄処理として18℃の水10Lをカラムに供して吸着樹脂を洗浄した後に、溶出処理として30体積%エタノール水溶液10Lをカラムに供し、吸着樹脂からポリフェノール類を溶出させた。続いて、溶出液を濃縮及び乾燥させることにより、レモンポリフェノール類を含有する粉末状の極性溶媒抽出成分(親水性成分)を得た。極性溶媒抽出成分中の各成分の含有量を表1に示す。
【0055】
【表1】

<試験例2:柑橘類の果実からのエリオシトリンの抽出>
試験例2においては、レモンの果実の搾汁残渣からエリオシトリンを得た。即ち、分取工程として、試験例1の親水性成分1gを水100mlに溶解させて溶液を調製した後、該溶液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてエリオシトリン溶液を分取した。ここで、HPLC条件を下記に示す。続いて、エリオシトリンの純度を高めるために、エリオシトリン溶液を用いて高速液体クロマトグラフィーを2回繰り返した。次いで、エリオシトリン溶液を濃縮及び乾燥させることにより、粉末状のエリオシトリンを得た。
【0056】
<HPLC条件>
カラム:Shim-pack PREP-ODS(L) (50mm×250mm)
溶出溶媒:40体積%メタノール水溶液
流速:80ml/分
検出:UV280nm
<試験例3:極性溶媒抽出成分及びエリオシトリンによる一酸化窒素生成量の測定>
一酸化窒素は、半減期が数秒と短いため一酸化窒素の代謝産物濃度(NOx:NO、NO2−及びNO3−)を測定することにより一酸化窒素濃度とした。ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を無血清条件下にて培養し、上記各成分を所定量添加した後、NOxの生成量を(0、1、3時間後)において経時的に測定した。試験方法については、Biochem Biophys Res Commun 2003 Nov 21;311(3):625-8に準じて実施した。NOx生成量は0時間を1としてその比率を示す。結果を図1,2に示す。
【0057】
図1に示されるように、極性溶媒抽出成分5μg/ml以上添加した場合に、NOxの生成量が無添加に比べ相対的に増加傾向にあることが示される。極性溶媒抽出成分の配合量依存的にNOxの生成量が増加傾向にあることが確認された。また、極性溶媒抽出成分50μg/ml以上添加した場合には、NOxの生成量が有意に高まることが確認された。
【0058】
図2に示されるように、特に添加後3時間後においてはエリオシトリン配合量依存的にNOxの生成量が増加傾向にあることが確認された。
<試験例4:極性溶媒抽出成分及びエリオシトリンによる一酸化窒素合成酵素活性(NOS)の測定>
HUVECを無血清条件下にて培養し、上記各成分を所定量添加した後、一酸化窒素合成酵素活性を(0、1、3時間後)において経時的に測定した。測定方法は、ルシフェラーゼアッセイ法を用いた。試験方法については、Biochem Biophys Res Commun 2003 Nov 21;311(3):625-8に準じて実施した。一酸化窒素合成酵素活性は、0時間を1としてその比率を示す。結果を図3,4に示す。
【0059】
図3に示されるように、極性溶媒抽出成分の添加量が特に5μg/ml添加した場合に、NOS活性が増加傾向にあることが確認された。図4に示されるようにエリオシトリンを10μM添加した場合に時間の経過とともにNOS活性が上昇する傾向にあることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】レモンポリフェノール類含有成分として極性溶媒抽出成分を添加した場合のNOx生成量を測定したグラフ。
【図2】エリオシトリンを添加した場合のNOx生成量を測定したグラフ。
【図3】レモンポリフェノール類含有成分として極性溶媒抽出成分を添加した場合の一酸化窒素合成酵素(NOS)の活性を測定したグラフ。
【図4】エリオシトリンを添加した場合の一酸化窒素合成酵素(NOS)の活性を測定したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類由来のポリフェノール類を有効成分として含有することを特徴とする血管内皮機能改善剤。
【請求項2】
前記ポリフェノール類は、柑橘類果実由来の極性溶媒抽出物として配合されることを特徴とする請求項1に記載の血管内皮機能改善剤。
【請求項3】
エリオシトリンを有効成分として含有することを特徴とする血管内皮機能改善剤。
【請求項4】
柑橘類由来のポリフェノール類を有効成分として含有することを特徴とする一酸化窒素産生促進剤。
【請求項5】
前記ポリフェノール類は、柑橘類果実由来の極性溶媒抽出物として配合されることを特徴とする請求項4に記載の一酸化窒素産生促進剤。
【請求項6】
エリオシトリンを有効成分として含有することを特徴とする一酸化窒素産生促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−13080(P2009−13080A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174222(P2007−174222)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(308009277)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】