説明

血管内皮機能改善組成物

【課題】血管内皮細胞のNO産生を促進し、血管内皮機能を改善する組成物を提供すること。
【解決手段】大豆に、麹菌培養物を添加、混合し、25〜55℃で、12〜168時間反応させることにより、血管内皮機能を改善する組成物を得る。さらに、前記組成物を、分画分子量3000の限外濾過膜、逆相系のC18カラムクロマトグラフィーや陽イオン交換クロマトグラフィーなどで分離・精製することにより、有効成分が濃縮され、組成物の血管内皮機能改善効果が高まった血管内皮機能を改善する組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆に麹菌培養物を添加、混合して一定条件で得られる血管内皮機能改善組成物に関する。詳しくは、血管内皮細胞の一酸化窒素(以下、NOという)産生を促進して血管内皮機能を改善する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内皮細胞由来のNOは、血管弛緩作用、血小板凝集抑制作用、抗血栓形成作用、抗増殖作用、抗炎症作用、抗酸化ストレス作用などの血管のホメオスタシス維持に関わる様々な生理活性作用を有している。高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙、老化などの危険因子により、血管内皮機能障害が生じ、それに伴うNO産生低下による血管のリモデリング(動脈硬化)が進展し、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)や脳卒中などの原因となる(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
多くの心血管疾患では、血管内皮細胞機能不全の状態となるNO産生異常が深く関わっており、その治療には血管内皮細胞におけるNO産生を改善する方法が考えられている。その方法としては、硝酸薬(NOドナー)投与、L-Arginine(NO合成酵素の基質)投与、NO合成酵素遺伝子の導入などが挙げられる。しかしながら、硝酸薬の長期投与に関しては、心筋梗塞(主な原因が動脈硬化)を対象とした臨床試験において、予防効果は立証されていない(例えば、非特許文献2参照)。また、L-Arginine投与は、高脂血症患者の血管内皮依存性弛緩反応を改善することが知られているが、成長ホルモン分泌刺激作用など目的と異なる生体反応を引き起こすことが問題となる(例えば、非特許文献3参照)。さらに、NO合成酵素遺伝子の導入については、標的細胞への特異的な導入方法や遺伝子の発現の調節など多くの課題がある。そのため、このような医薬品の形態ではなく、日常的、継続的に摂取でき、さらに副作用の少ない血管内皮機能改善効果を有する食品素材が求められている。
【0004】
従来、血管内皮機能改善効果を有する食品素材として、クロロゲン酸、カフェ酸、フェルラ酸が知られている(例えば、特許文献1参照)。血管内皮機能を改善するには、血管内皮細胞に依存したNO産生を促進することが重要であるが、これらの物質については、血管内皮細胞依存性についての解析がされていない。また、前腕部を外部から加圧した後、圧負荷を解除することで反応性充血を起こし、動脈血流の増加を測定しているが(血流依存性血管弛緩反応測定法)、血液中のNO産生の動向については確認がされていない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−261444号公報
【非特許文献1】下川宏明(Shimokawa H)著、「Primary endothelial dysfunction:atherosis」、Journal of Molecular and Cellular Cardiology、 (オランダ)、エルゼビア(Elsevier)、1999年1月, 31(1)、p.23−37
【非特許文献2】「GISSI−3: effects of lisinopril and transdermal glyceryl trinitrate singly and together on 6−week mortality and ventricular function after acute myocardial infarction. Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell’infarto Miocardico」, THE Lancet, (オランダ)、エルゼビア(Elsevier)、1994年、343、p.1115−1122
【非特許文献3】マーク・エー・クレガ−ら(Creager M A et al.)著、「L−arginine improves endothelium−dependent vasodilation In hypercholesterolemic humans」、The Journal of Clinical Investigation、(米国)、臨床試験米国協会(The American Society for Clinical Investigation)1992年、90、 p.1248−1253
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、血管内皮細胞のNO産生を促進し、血管内皮機能を改善する組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題解決のため、鋭意検討を重ねた結果、大豆に麹菌培養物を添加、混合し、25〜55℃で12〜168時間反応させて得られる組成物に、血管内皮細胞由来のNO産生を促進する作用があることを見出し、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
1)大豆に、麹菌培養物を添加、混合し、25〜55℃で12〜168時間反応させて得られる血管内皮機能改善組成物。
2)分画分子量が3000以下であり、逆相系のC18クロマトグラフィーにて水で溶出されることを特徴とする上記1)記載の血管内皮機能改善組成物。
3)分画分子量が3000以下であり、陽イオン交換樹脂に吸着することを特徴とする上記1)記載の血管内皮機能改善組成物。
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の血管内皮機能改善組成物は、食経験が豊富な原料から得られる旨みの強い組成物であることから、副作用がほとんどない血管内皮機能改善効果を有する食品素材として、日常的、継続的に摂取することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の血管内皮機能改善組成物は、大豆に、麹菌培養物を添加、混合し、反応させることにより得ることができる。
【0011】
本発明で用いる大豆としては、黄大豆、赤大豆、黒大豆などが挙げられるが、好ましくは黄大豆を原料として使用する。また、大豆の形態は、丸大豆(全脂大豆)、脱脂大豆どちらでもよく、割砕した大豆、粉末状にした大豆なども使用可能である。
これらの大豆を、加圧蒸煮、無圧蒸煮、乾熱加熱などの加熱処理をして変性させる。これらの加熱処理のうち、工業的に応用されている加圧蒸煮が好ましく、1.5〜7kg/cm、120〜180℃、10〜600秒処理して熱変性させた大豆、あるいは4〜8kg/cm、200〜280℃、1〜10秒処理した後に、大気中に放出して膨化させた熱変性大豆を使用する。
【0012】
次に、本発明で用いる麹菌培養物は、大豆や小麦、ふすま等を培地とし、麹菌を接種して培養することにより得られるものである。その製造方法の違いにより、液体麹培養物、固体麹培養物に分類されるが、本発明においてはどちらも利用することができる。
例えば、液体麹培養物は、大豆や小麦、ふすま等を1〜5%含む液体培地に麹菌を接種し、25〜40℃で、30〜96時間培養して得ることができる。また、固体麹培養物は、大豆や小麦等を含む固体培地に麹菌を接種し、25〜40℃で、24〜48時間培養した後、水を培養物の重量に対して2〜4倍添加して得ることができる。
なお、麹菌は、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・タマリイ(Aspergillus tamarii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)など食経験があるものなら任意に選択できるが、好ましくはアスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・オリゼーを使用する。
【0013】
本発明の血管内皮機能改善組成物は、前記した大豆に、上記の麹菌培養物を添加、混合し、反応させることにより得ることができる。反応の条件は、麹菌培養物を終濃度10〜70%、好ましくは30〜50%、大豆を終濃度5〜40%、好ましくは15〜30%、食塩を終濃度1〜25%、好ましくは6〜18%、さらに水を終濃度10〜85%混合し、大豆と食塩の終濃度が前記の範囲になるように調製した後、25〜55℃、好ましくは30〜50℃で、攪拌速度10〜150rpm にて、12〜168時間、好ましくは24〜144時間反応させる。温度が25℃未満だと、反応に長時間を要するとともに、酵素反応が不十分で、旨味成分のアミノ酸の溶出が少なく呈味の点で劣り、55℃を超えると褐変により色が濃くなるとともに酸化臭が生じる。また、反応時間が12時間未満でも、酵素反応が不十分で呈味が劣り、168時間を越えると、コストや生産効率の点から工業的な応用が難しくなる。反応液量は、目的の収量に応じて、数十ml〜数十tにすることが可能である。また、適宜香味向上のために、サッカロミセス(Saccharomyce)属等の酵母を添加して(10〜10個/ml)、同時に発酵させることも可能である。
【0014】
本発明の血管内皮機能改善組成物をさらに限外濾過膜、各種クロマトグラフィー(イオン交換、疎水、親水、ゲル濾過等)で分離・精製することにより、有効成分が濃縮され、組成物の血管内皮機能改善効果を高めることが可能となる。
例えば、得られた組成物を、分子量の大きい夾雑物を除くために限外濾過膜の分画分子量3000〜10000の膜で処理し、透過した低分子量の画分を得る。分画分子量3000以上の画分には、血管内皮細胞に依存したNO産生を促進する効果が確認されないので、好ましくは、限外濾過膜の分画分子量3000の膜で処理をして透過液を回収する。さらに、逆相系のC18クロマトグラフィーにて、水で溶出させる条件下では、得られた組成物の有効成分は樹脂に結合しないので、樹脂に結合した夾雑物質を除く目的で、水溶出の非吸着画分を回収して、血管内皮機能改善効果が高められた組成物が得られる。逆相系のC18樹脂とは、オクタデシル基をシリカゲルあるいはポリマー基材に化学結合した樹脂であり、球型と破砕型のどちらも使用可能であるが、好ましくは、圧力損失の少ない球型を使用する。また、得られた組成物の有効成分は、一定の条件下において、陽イオン交換樹脂に吸着する。限外濾過膜透過画分を陽イオン交換クロマトグラフィーに供し、非吸着の夾雑物質を除いた後、ギ酸アンモニウムやNaClなどの塩で溶出させることで、有効成分が濃縮し、血管内皮機能改善効果が高められた組成物を得ることもできる。陽イオン交換クロマトグラフィーの樹脂としては、スルホン酸基を交換基として持つ強酸性陽イオン交換樹脂や、カルボン酸基を交換基として持つ弱酸性陽イオン交換樹脂など、いずれも使用可能である。
【0015】
本発明において、血管内皮機能改善とは、血管内皮細胞に依存したNO産生を促進することをいう。その評価は、マグヌス装置を用いて、血管内皮細胞の有無による血管弛緩反応、およびNO合成酵素阻害剤などの各種阻害剤を反応系に加えたときの血管弛緩反応を確認することで行う。つまり、血管内皮機能改善効果を有する組成物を反応させた場合に、血管内皮細胞を有した標本では血管弛緩反応を示すが、血管内皮細胞を剥離した標本や、反応系にNO合成酵素阻害剤を予め添加した場合には、血管弛緩反応を示さない。これらの条件を満たしていれば、血管内皮細胞に依存したNO産生を促進しているということができる。また、実験動物に上記血管内皮機能改善効果を有する組成物を摂取させ、血漿のNO/NOの上昇や血圧上昇抑制を評価することでも確認できる。
本発明の血管内皮機能改善組成物は、上記の評価により血管内皮細胞に依存したNO産生を促進していることが確認されており、血管内皮機能改善効果を有している。
【0016】
本発明の血管内皮機能改善組成物は、各種飲食品に添加し、機能性飲食品として利用することができる。本発明である血管内皮機能改善組成物を添加する飲食品としては、特に限定されないが、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液および調整用粉末を含む)、味噌汁等のスープ類、醤油、粉末醤油、中華の素、だしの素、マヨネーズ、ケチャップ、食酢等の調味料、マーガリン等の油脂含有食品、蕎麦、うどん、中華麺、即席麺等の麺類、かまぼこ、天ぷら等の魚介類加工食品、ハム、ソーセージ等の畜肉類加工食品、ゼリー、グミ等の半固形状食品、ピーナツペースト、カレー等のペースト状食品、ガム、豆腐、サプリメントなどの固形状食品等が挙げられる。
【0017】
本発明の血管内皮機能改善組成物は、血管内皮機能改善剤、動脈硬化、高血圧、血栓症の予防および治療剤として利用することができる。これら各種予防および治療剤は、血管内皮機能改善組成物に、賦形剤、糖類、香料、乳化剤および保存料の一種または二種以上を適宜含むことにより製造することができる。これら各種予防および治療剤の製品形態は特に制限されずに、使用形態に合わせて適宜選択でき、例えば錠剤、粉末、顆粒、カプセル剤、ペースト、乳化液、溶液等が挙げられる。
【0018】
以下、実施例を示し、本発明を説明するが、本発明の技術的範囲はこれによって何ら限定されることはない。
【実施例1】
【0019】
<血管内皮改善組成物の製造例1>
脱脂大豆2.0%、醤油油0.4%を含む液体培地(1L)に、麹菌アスペルギルス・オリゼーの胞子を添加して、30℃で72時間培養することにより麹菌培養物を得た。次に、脱脂大豆411g、麹菌培養物755 ml、水655ml、食塩159g、酵母チゴサッカロミセス・ルキシーを1.5×10個/mlの割合で混合して(約2L)、39℃、100rpmで48時間、さらに45℃、100rpmで72時間培養して組成物を得た(本発明品1)。また、得られた組成物を電気透析法にて脱塩して食塩約0%の組成物を得た(本発明品2)。
【実施例2】
【0020】
<血管内皮改善組成物の製造例2>
実施例1で得られた組成物(本発明品2)1.8Lをさらに限外濾過膜UF3000(マイクローザーUF、SEP−1013型、旭化成株式会社)にて処理し、透過した分画分子量3000以下の溶液1.5Lを得た。続いて、逆相系のC18クロマトグラフィー(ダイソーゲルODS−B、粒子径50μm、ダイソー株式会社)18Lに供して、水を樹脂の3倍量、30%エタノールをカラムの3倍量、99%エタノールをカラムの3倍量流して、水で溶出した画分Aを9L,画分Bを9L,画分Cを36L、30%エタノール画分を54L、99%エタノール画分を54L得た。そのうち、水で溶出した画分C、すなわち逆相系のC18樹脂に非吸着の組成物を、ロータリーエバポレーター(MODEL RE−10E−100、柴田科学株式会社)にて濃縮後、凍結乾燥(RLE−103型、共和真空技術株式会社)して1.2gの組成物を得た(本発明品3)。
【実施例3】
【0021】
<血管内皮改善組成物の製造例3>
実施例2記載の限外濾過膜で透過した分画分子量3000以下の画分30mlを、強酸性陽イオン交換クロマトグラフィー(Dowex 50W X8−200 、SIGMA−ALDRICH社製)50mlに供し、樹脂の5倍量の水で非吸着画分を溶出させて除いた。次いで、10%ギ酸アンモニウム300mlを流して吸着画分を溶出し、得られた吸着画分を凍結乾燥(RLE−103型、共和真空技術株式会社)して130mg の組成物を得た(本発明品4)。
【実施例4】
【0022】
<調味料の製造>
実施例1で得た本発明品1を凍結乾燥(RLE−103型、共和真空技術株式会社)して得た粉末4%を、キッコーマン社製減塩醤油(8.5% NaCl)に混合した後、補塩をして12%NaCl、4%本発明品1を含む醤油を得た。
【実施例5】
【0023】
<錠剤の製造>
実施例1で得た本発明品2を凍結乾燥(RLE−103型、共和真空技術株式会社)した粉末5%、フロストシュガー65%、デキストリン22%、ショ糖エステル5%、ヒドロキシプロピルセルロース3%を混和し、打錠して250mgの錠剤を得た。1日あたり2〜4錠摂取する血管内皮機能改善作用を有する機能性飲食品(健康食品)を得た。
【実施例6】
【0024】
<摘出大動脈による内皮依存性NO産生の評価>
8週齢の雄性自然発症高血圧ラット(SHR)の胸部大動脈を摘出して2〜3mm幅のリング標本を調製した。この標本を95%O、5%CO混合ガスを通気した37℃のKrebs−Henseleit溶液を満たしたオーガンバス中に懸垂し、2gの張力を負荷した。ノルエピネフリン(終濃度10−7M)を添加して収縮反応が安定化したところに、アセチルコリン(終濃度10−6M)を添加して血管弛緩反応が80%以上を示すことを確認した。また、血管内皮細胞を剥離した標本は、アセチルコリンを添加して血管弛緩反応が起きないことを確認した。Krebs−Henseleit溶液を交換してアセチルコリンを充分洗浄した後に、ノルエピネフリン(終濃度10-7M)を添加して収縮反応を安定化させ、実施例1〜3記載の本発明品1〜4の凍結乾燥粉末を添加して、トランスデューサーで張力の変位を記録して評価した(ただし、本発明品1には塩が含まれており血管弛緩反応に影響を及ぼしている可能性がある)。表1に摘出大動脈の血管弛緩率(%)を示したが、本発明品1〜4はいずれも血管弛緩反応が確認された。
【0025】
【表1】

(N=6:平均値±標準偏差)
【0026】
血管内皮細胞に依存した弛緩反応であるかは、血管内皮細胞を剥離した標本を用いて評価した。また、NO産生による血管弛緩反応であるかは、NO合成酵素の阻害剤であるNG−Nitro−L−Arginine methyl ester(L−NAME(10−4M)をノルエピネフリン添加15分前に添加して評価した。また、血管内皮細胞よりNOが産生された後にグアニル酸シクラーゼが活性化され、血管平滑筋でcGMPが上昇して血管弛緩反応が惹起されるが、そのグアニル酸シクラーゼの阻害剤であるメチレンブルー(5×10−5M)を添加して血管弛緩反応が阻害されるかを評価した。さらにNO産生以外の経路による血管弛緩反応ではないことを確認するため、シクロオキシゲナーゼの阻害剤であるインドメタシン(10−5M)を添加して、弛緩反応が阻害されないかを評価した。その結果、表2に示すように血管内皮細胞のある標本では、血管弛緩反応を示したのに対し、血管内皮細胞を剥離した標本では完全に阻害された。また、血管内皮細胞のある標本にNO合成酵素阻害剤(L−NAME)を添加した場合も、血管弛緩反応が完全に阻害された。さらに血管弛緩反応後にグアニル酸シクラーゼ阻害剤であるメチレンブルーを添加したところ、直ちに血管弛緩反応が阻害を受けたこと、シクロオキシゲナーゼ阻害剤(インドメタシン)を添加しても血管弛緩反応は変わらないことから、血管内皮細胞に依存したNO産生を促進して血管が弛緩していることが確認された。すなわち、本発明の血管内皮機能改善組成物により血管内皮細胞におけるNO産生が改善され、動脈硬化症、高血圧症、血栓症の予防にも有用であることが示された。
【0027】
【表2】

(0.5 mg/ml、N=6:平均値±標準偏差)
【実施例7】
【0028】
<自然発症高血圧ラット(SHR)の血漿NO/NOによる評価>
ラットは、室温25±1℃、湿度55±10% RH、照明時間は12時間(午前7時〜午後7時)の条件下で6週間飼育した。対照群(N=6)は、12%NaCl醤油をMF粉末飼料(オリエンタルバイオ社製)に混合して、餌100g中4%NaClになるように調製した餌を与えた。本発明群(N=6)は、実施例4記載の血管内皮改善組成物含有醤油をMF粉末飼料に混合して、餌100g中4%NaCl、1.3%本発明組成物になるように調製した餌を42日間与えた。ラットから採血した血液5mlを抗凝固剤入りの採血管(ベノジェクトII真空採血管、VP−NA050、テルモ株式会社)に添加した後、遠心分離にて血漿を調製した。次いで、血漿中のNOの変動を、NO/NO Assay Kit−F II(同仁化学研究所)にて評価した。血圧の評価は、8週齢のラットに血圧測定用の送信器TA11PA−C40(プライムテック社)を腹部大動脈にカニュレーションし、腹腔内に固定して2週間の回復期間を設けた後に、10分毎に10秒間連続的に42日間計測した。投与前、10、20、30、40日目の収縮期血圧値(24時間の平均値)を表3に示した。得られた結果の統計学的処理方法は、Student’s−t testで対照との比較を行った。
表3に示すように、本発明群は対照群と比較して有意に血漿NO/NO値が上昇し、血圧値の上昇が抑制されていることが確認された。本発明の血管内皮改善組成物のNO産生促進作用により血圧上昇が抑制されていることがわかる。本発明品の血管内皮機能改善組成物は、高血圧の予防に有用であることが示された。
【0029】
【表3】

(N=6:平均値±標準偏差、*p<0.05、 **p<0.01 vs.対照群)
【実施例8】
【0030】
<官能評価>
本発明の血管内皮機能改善組成物(本発明品1の凍結乾燥粉末)、酵母エキス、クロロゲン酸等カフェオイルキナ酸類を含む生コーヒー豆抽出物を評価した。各サンプル5%溶液を、それぞれ7段階の評点法にて絶対評価を実施した。表4に示すように旨味、甘味、酸味のバランスが良く調味料、健康食品に適していることがわかる。
【0031】
【表4】

(+3:非常に強い、+2:かなり強い、+1:やや強い、0:普通、−1:やや強い、−2:かなり弱い、−3:非常に弱い、N=12の平均値)
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明で得られる血管内皮機能改善組成物は、血管内皮細胞のNO産生を促進し、優れた抗動脈硬化、抗高血圧、抗血栓作用を有するため、摂取することにより様々な生活習慣病の予防を期待することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆に、麹菌培養物を添加、混合し、25〜55℃で12〜168時間反応させて得られる血管内皮機能改善組成物。
【請求項2】
分画分子量が3000以下であり、逆相系のC18クロマトグラフィーにて水で溶出されることを特徴とする請求項1記載の血管内皮機能改善組成物。
【請求項3】
分画分子量が3000以下であり、陽イオン交換樹脂に吸着することを特徴とする請求項1記載の血管内皮機能改善組成物。

【公開番号】特開2007−8846(P2007−8846A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190024(P2005−190024)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】