説明

血管形成の阻害のためのRTEF−1変異体およびその使用

転写エンハンサー因子1−関連(RTEF−1)のドミナントネガティブ(DN)変異体について記載される。DN RTEF−1ポリペプチドは、細胞の転写を変化させるため細胞を直接標的にしてもよいし、核酸発現ベクターで送達してもよい。VEGFの産生の阻害方法と、それによる癌などの血管形成障害の処置方法とについて記載する。たとえば、ある態様では、DN RTEF−1を用いて加齢黄斑変性症(AMD)などの眼の血管形成障害を処置してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2007年6月6日に出願された米国出願第60/942,249号(この全体の開示は、放棄せずにその全体において参考として本明細書に具体的に援用される)への優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は分子生物学の分野に関し、特に、血管形成(blood vessel formation)(血管形成)に関わるプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
TEA DNA結合ドメイン遺伝子ファミリーのメンバーに転写エンハンサー因子1−関連(RTEF−1:transcriptional enhancer factor 1−related)遺伝子がある。TEA DNA結合ドメイン遺伝子ファミリーは、Aspergillus nidulans、酵母、Drosophila、マウスからヒトに至るまでよく保存されている。TEA DNA結合ファミリーのタンパク質は様々な遺伝子の活性化と抑制との両方に関与し、他のタンパク質と一緒になってその個々の機能を改変する場合がある(非特許文献1)。心臓、骨格筋、膵臓、胎盤、脳および肺など、様々な哺乳動物組織で、こうした遺伝子の特定のメンバーの発現が確認されている(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。単一遺伝子からmRNAの選択的スプライシングにより転写エンハンサー因子−1(TEF−1)のアイソフォームが膵臓などの単一組織内で同定されてきた(Zuzarteら、2000;Jiangら、2000)。哺乳動物の眼内のこうした遺伝子の発現プロファイルは報告されていない。
【0004】
RTEF−1遺伝子の転写物はニワトリ組織で最初に同定され、心筋および骨格筋に集中していることが明らかになった(非特許文献4)。ニワトリRTEF−1は筋細胞特異的CAT(M−CAT)シスDNAエレメントに結合し、筋肉特異的遺伝子の発現を調節し、十分な転写活性化のため筋肉特異的補助因子を要求する。2166ヒト結腸直腸癌cDNAライブラリーのランダムスクリーニングにより、部分的cDNA RTEF−1配列が同定されたため、心臓cDNAライブラリーから、トリRTEF−1の全長ヒトホモログが単離されるようになっている(非特許文献2;Frigerioら、1995)。ヒト組織のノーザンブロット解析では、骨格筋および膵臓で最も高レベルの発現が、心臓、腎臓および胎盤では低レベルの発現が示されたのに対し、肝臓、肺または脳ではメッセージが検出されなかった(非特許文献2)。RTEF−1のマウスホモログのノーザンブロット解析からは、ヒトと異なる組織発現パターンが示唆される。成体マウスでは肺組織で発現が最も高レベルで、腎臓、心臓および骨格筋では極めて低レベルで、肝臓、胸腺、脾臓および脳では検出不可能な量であったのに対し、マウス胚骨格筋はRTEF−1メッセージに富んでいた(Yockeyら、1996)。マウス骨格筋細胞では、全長遺伝子と比較してエクソン5を欠いている、RTEF−1の選択的スプライシングによるマウスアイソフォームが同定されている(Yockeyら、1996)。
【0005】
低酸素状態下の網膜組織中で上方制御されることが知られているプロ血管新生因子の1つに血管内皮細胞増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)がある(Youngら、1997;Pierceら、1996;Donahueら、1996;Pe’erら、1995)。近年、全長RTEF−1タンパク質がVEGFプロモーターに結合するだけでなく、たとえば、ウシ大動脈内皮細胞(BAEC:bovine aortic endothelial cell)中の低酸素状態下でVEGFの発現を上方制御することも確認された(Shieら、2004)。マイクロアレイ解析からは、低酸素状態下のBAEC中でRTEF−1の発現が3倍上方制御されることが明らかになった。驚いたことに、RTEF−1は、M−CATモチーフではなく、VEGFプロモーター内のSp1エレメントとの相互作用を介してVEGF遺伝子活性化に関与している。さらに、RTEFによるVEGFの発現は、低酸素誘導因子(HIF−1)および低酸素応答エレメント(HRE:hypoxia responsive element)活性化経路と無関係に行われる(Shieら、2004)。
【0006】
腫瘍の血管形成および異常な血管新生など、種々の血管形成障害にはVEGFの過剰発現が関係していると考えられてきた。たとえば、VEGFが、未熟児網膜症(ROP:retinopathy of prematurity)および他の眼の血管新生疾患(Lashkariら、2000;Miller,1997;Vannayら、2005;Youngら、1997)の発症および重症度に重要な役割を果たしていることは十分に確認されている。こうした障害におけるVEGFの顕著な役割を踏まえて、VEGF活性を阻害する多くの治療戦略が開発されてきた。しかしながら、現在のVEGF遮断療法は一般に、細胞外VEGFと同族の細胞表面受容体との相互作用を阻害する。したがって、VEGFの産生を阻害する方法など、VEGF遮断に代わる戦略が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】KanekoおよびDePamphilis、Dev Genet,(1998)22:43−55
【非特許文献2】Stewartら、Genomics,(1996)37:68−76
【非特許文献3】Yasunamiら、Biochem. Biophys. Res. Commun.(1996)228:365−70
【非特許文献4】Farranceら、J. Biol. Chem.(1996)271:8266−74
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の実施形態では、本発明は、1つまたは複数の内部欠失を含むRTEF−1アミノ酸配列を含む単離されたドミナントネガティブ(DN:dominant negative)RTEF−1ポリペプチドを提供する。本明細書で使用する場合、ドミナントネガティブという語は、配列番号1で例示されるようなインタクトなRTEF−1ポリペプチドの活性をRTEF−1変異体が抑制または低下させることを意味する。たとえば、ある態様では、DN RTEF−1変異体は、細胞に発現すると、VEGFプロモーター活性を阻害または低下させるポリペプチドと定義することができる。さらに、場合によっては、DN RTEF−1は、低酸素またはRTEF−1(たとえば、配列番号1、配列番号2または配列番号4)によるVEGFプロモーター活性を低下または阻害するポリペプチドと定義することもできる。ある態様では、RTEF−1アミノ酸配列は、哺乳動物のRTEF−1アミノ酸配列であってもよく、好ましくはヒトRTEF−1アミノ酸配列である。
【0009】
したがって、ある態様では、アミノ酸の内部欠失を1つまたは複数を含むDN RTEF−1ポリペプチドを提供する。たとえば、場合によっては、DN RTEF−1は、エクソン3、4、5、6、7、8、9または10によってコードされるアミノ酸の欠失を含んでもよい。たとえば、ある特定の実施形態では、DN RTEF−1は、エクソン4、5、6、7、8および/または9によってコードされるアミノ酸配列の全部の欠失を含んでも構わない。さらに、ある特定の場合には、DN RTEF−1は、エクソン3によってコードされる最後の約5アミノ酸の欠失またはエクソン10によってコードされる最初の約11アミノ酸の欠失など、エクソン3および/またはエクソン10にアミノ酸の部分欠失を含んでもよい。さらに、DN RTEF−1は、ヒトRTEF−1配列などの野生型RTEF−1配列に対するアミノ酸置換を含んでも構わないことを当業者であれば理解するであろう。したがって、場合によっては、DN RTEF−1は、欠失していないアミノ酸領域の野生型RTEF−1配列(たとえば、配列番号1、配列番号2または配列番号4)と約または少なくとも約70、75、80、85、90、95、98または99パーセント同一である、アミノ酸の内部欠失を1つまたは複数含むRTEF−1ポリペプチドと定義することができる。いくつかの非常に特定の態様では、RTEF−1ドミナントネガティブポリペプチドは、配列番号3(651bp cDNAによってコードされるアミノ酸配列)と約または少なくとも約70、75、80、85、90、95、98または99パーセント同一であるRTEF−1アミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの非常に特定の態様では、DN RTEF−1ポリペプチドは、配列番号3が示す配列を含んでもよい。本発明が意図するDN RTEF−1ポリペプチドのさらなる実施形態は、発明を実施するための形態に記載する。
【0010】
いくつかのさらなる態様では、DN RTEF−1ポリペプチドは、細胞内部移行(cell internalization)部分を含んでもよい。場合によって、細胞内部移行部分をDN RTEF−1ポリペプチドと連結しても、コンジュゲートしてもよい。たとえば、DN RTEF−1はリポソーム小胞との複合体として提供してもよく、したがって、このポリペプチドは細胞膜を通過することができる。さらに、いくつかの特定の実施形態では、細胞内部移行部分は、ペプチド、ポリペプチド、アプタマーまたはアビマー(avimer)(たとえば、米国特許出願公開第2006/0234299号および同第2006/0223114号を参照されたい)配列であってもよい。たとえば、細胞内部移行部分は、HIV tat、HSV−1外皮タンパク質VP22またはDrosophilaアンテノペディア(antennopedia)由来のアミノ酸を含んでもよい。ある種のさらなる態様では、細胞内部移行部分は、Wrightら(2003) and Rothbardら(2000)に記載されたポリ−アルギニン、メチオニンおよびグリシンペプチドなどの操作された内部移行部分であってもよい。たとえば、細胞内部移行部分は、本明細書に例示するRMRRMRRMRR(配列番号23)であってもよい。したがって、場合によっては、ポリペプチド細胞内部移行部分およびDN RTEF−1ポリペプチドは、融合タンパク質を含んでもよい。
【0011】
したがって、場合によっては、細胞内部移行部分およびDN RTEF−1配列を含むDN RTEF−1融合タンパク質を提供する。こうした融合タンパク質は、細胞内移行(internalizing)部分とDN RTEF−1ポリペプチド配列とを隔てる(seperating)1つまたは複数のアミノ酸配列をさらに含んでもよいことを当業者であれば理解するであろう。たとえば、場合によっては、リンカー配列がこうした2つのドメインを隔ててもよい。たとえば、リンカー配列は、ポリグリシンリンカーなど、多くの立体構造の自由または自由度を持つ「柔軟な」アミノ酸を含んでもよい。場合によっては、リンカー配列は、プロテイナーゼ切断部位を含んでもよい。たとえば、ある態様では、リンカー配列は、細胞内プロテイナーゼにより認識され、切断される切断部位を含んでもよく、このため、この融合タンパク質が細胞内に移行したならば、DN RTEF−1配列が細胞内内部移行配列から遊離する。
【0012】
本発明のさらなる態様では、細胞内部移行部分は細胞標的化部分とさらに定義することができる。この標的化部分は、特定の細胞受容体を発現する細胞など、選択した細胞の集団だけに結合したり、それに取り込まれたりする部分である。こうした細胞標的化は、たとえば、細胞表面タンパク質に結合する抗体、増殖因子、ホルモン、サイトカイン、アプタマーまたはアビマーを含んでもよい。本明細書で使用する場合、抗体という語は、IgA、IgM、IgE、IgG、Fab、F(ab’)2、一本鎖抗体またはパラトープペプチドをいう場合がある。場合によっては、本発明の細胞標的化部分は、網膜細胞、内皮細胞、虹彩細胞または神経細胞などの特定のタイプの細胞を標的にしてもよい。なおさらなる態様では、本発明の細胞標的化部分は、癌細胞結合部分と定義することができる。たとえば、いくつかの非常に特異的な場合には、本発明の細胞標的化部分は、gp240またはHer−2/neuなどの(such a)癌細胞関連抗原を標的にしてもよい。
【0013】
なお本発明のさらなる態様では、DN RTEF−1ポリペプチドは、細胞輸送シグナル(たとえば、細胞分泌シグナル、核移行シグナルまたは核外移行シグナル)または酵素もしくは蛍光タンパク質などのレポーターポリペプチドのようなアミノ酸配列をさらに含んでもよい。好ましい態様では、たとえば、DN RTEF−1ポリペプチドは、細胞分泌シグナルを含む。たとえば、DN RTEF−1ポリペプチドは、本明細書に例示するように、IL−2分泌シグナル配列(MYRMQLLSCIALSLALVTNS、配列番号22)などのヒト遺伝子由来の分泌配列を含んでもよい。したがって、場合によっては、DN RTEF−1ポリペプチドは、細胞内部移行部分および細胞分泌シグナルを含んでもよく、したがって、このポリペプチドはある細胞から分泌され、周囲の細胞に取り込まれることができる。
【0014】
本発明のさらなる実施形態では、上記のようなDN RTEF−1ポリペプチドをコードする配列を含む単離された核酸配列を提供する。したがって、本明細書に記載のDN RTEF−1ポリペプチドまたはポリペプチド融合タンパク質のいずれかをコードする核酸配列も、本発明の一部に含まれる。遺伝コードの縮重により、種々の核酸配列を用いて同一のポリペプチドをコードできることを当業者であれば理解するであろう。場合によっては、たとえば、任意の特定のアミノ酸をコードするコドンを変化させて、細胞の発現を促進したり、ゲノムRTEF−1遺伝子座で核酸が組み換わる可能性を低下させたりしてもよい。
【0015】
好ましい態様では、DN RTEF−1ポリペプチドをコードする核酸配列は発現カセットに組み込まれる。本明細書で使用する場合、「発現カセット」という語は、細胞、より詳細には真核細胞中でDN RTEF−1の発現を可能にする追加の核酸配列を組み込んだものを意味する。こうした追加配列は、たとえば、プロモーター、エンハンサー、イントロン配列(たとえば、DN RTEF−1コード領域の前後またはその中)またはポリアデニル化シグナル配列を含んでもよい。当業者であれば、発現カセットに組み込まれる配列を用いて、DN RTEF−1の発現特性を変化させてもよいことを認識するであろう。たとえば、細胞型特異的な条件プロモーター配列または誘導性プロモーター配列を用いて、DN RTEF−1を選択した細胞型または増殖条件に限定してもよい。たとえば、場合によっては、本発明のRTEF−1発現カセットに低酸素誘導性プロモーターを用いてもよい。さらに、場合によっては、癌細胞または眼の細胞において増強活性を持つプロモーターを用いても構わない。さらに、RTEF−1ポリペプチド配列に対してある種の改変を行い、たとえば、本明細書に例示するようにDN RTEF−1の開始コドンをATGに変更して効率的な翻訳を促進するなど、発現カセットからの発現を増強することも意図している。
【0016】
なお本発明のさらなる態様では、DN RTEF−1コード配列をウイルス発現ベクターなどの発現ベクターに組み込んでもよい。本発明に従って使用するウイルス発現ベクターには、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、SV−40、レトロウイルスおよびワクシニアウイルスのベクター系があるが、これに限定されるものではない。ある種の好ましい態様では、レトロウイルスベクターは、レンチウイルスベクターとさらに定義できる。場合によっては、こうしたレンチウイルスベクターは、参照によって本明細書に援用される米国特許出願公開第2003/0008374号および同第2003/0082789号に記載されたような自己不活性化(SIN:self−inactivating)レンチウイルスベクターであってもよい。
【0017】
なおさらなる実施形態では、本発明は、RTEF−1依存性転写活性を低下させたり、阻害したりする方法に関する。本明細書で使用する場合、RTEF−1依存性転写活性という語は、配列番号1、配列番号2または配列番号4などの全長または十分に活性なRTEF−1ポリペプチドの発現が関係する転写、またはそれにより増強される転写をいう。したがって、いくつかの点で、本発明は、VEGFプロモーター活性(およびその活性によるVEGF発現)を阻害したり、低下させたりする方法であって、細胞中にDN RTEF−1ポリペプチドを発現させることを含む、方法を提供する。このため、特定の実施形態では、血管形成障害を有する患者を処置するための方法であって、上述のようなRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチドをコードするRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチドまたは核酸発現ベクターを含有する治療用組成物を有効量で患者に投与することを含む、方法を提供する。好ましい態様では、本明細書に記載の方法を用いてヒト患者を処置することができる。
【0018】
本明細書で使用する場合、血管形成障害という語は、眼血管新生、動静脈奇形、冠動脈再狭窄(coronary restenosis)、末梢血管再狭窄、糸球体腎炎、関節リウマチまたは癌(腫瘍血管新生反応など)などの好ましからぬ血管新生反応に関連する障害をいう。したがって、場合によっては、本発明の方法を用いて、黄斑変性症(加齢黄斑変性症(AMD:age−related macular degeneration)など)、角膜移植片拒絶反応、角膜血管新生、未熟児網膜症(ROP:retinopathy of prematurity)および糖尿病性網膜症などの眼障害を処置してもよい。たとえば、本発明の方法を用いて、滲出型またはドライ型AMDを処置してもよい。したがって、場合によっては、本発明の方法を用いてpredominantly classic病変、minimally classic病変およびoccult with no classic病変などの多くのAMD関連の眼病変を処置しても構わない(Gragoudasら、2004)。
【0019】
当業者であれば、本発明の方法と組み合わせて、または併用して追加の血管形成阻害療法を用いてもよいことを理解するであろう。こうした追加の療法については、本明細書に記載した方法の前後またはほぼ同時に施してもよい。たとえば、追加の血管形成阻害療法は、VEGFおよび/またはFGFシグナル経路を拮抗することができる。したがって、場合によってはおよび追加の療法は、VEGF、VEGF受容体、FGFまたはFGF受容体に結合する抗体を投与する(administration)ことを含んでもよい。ある種の特異的態様では、本発明の方法および組成物を、AVASTIN(登録商標)(ベバシズマブ)、LUCENTIS(登録商標)(ラニビズマブ)、MACUGEN(登録商標)(ペガプタニブナトリウム)または抗炎症剤と併用して使用しても構わない。したがって、ある特定の場合には、薬学的に許容されるキャリア中にDN−RTEF−1組成物およびベバシズマブまたはペガプタニブナトリウムを含む治療用組成物を提供する。なおさらなる態様では、血管形成を調節する遺伝子を本発明の方法と併用して送達してもよい。たとえば、いくつかの態様では、血管形成を調節する遺伝子は、組織メタロプロテアーゼ阻害物質、エンドスタチン、アンジオスタチン、エンドスタチンXVIII、エンドスタチンXV、クリングル1〜5、PEX、マトリックスメタロプロテイナーゼ−2のC末端ヘモペキシンドメイン、ヒトプラスミノーゲンのクリングル5ドメイン、エンドスタチンとアンジオスタチンとの融合タンパク質、エンドスタチンとヒトプラスミノーゲンのクリングル5ドメインとの融合タンパク質、インターフェロンγ誘導モノカイン(Mig)、インターフェロン−α誘導タンパク質10(IP10)、MigとIP10との融合タンパク質、可溶性FLT−1(fins様チロシンキナーゼ1受容体)およびキナーゼ挿入ドメイン受容体(KDR:kinase insert domain receptor)遺伝子であってもよい。ある種の特異的態様では、こうした血管新生レギュレーター遺伝子を、参照によって本明細書に援用する米国特許第7,122,181号に記載されたレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターを用いて送達してもよい。
【0020】
上記のように、ある態様では、本発明は、癌を処置するための方法を提供する。したがって、場合によっては、記載の方法を用いて腫瘍への血流を制限ないし減少させることで、腫瘍増殖または転移を抑制することができる。ある場合には、本明細書の方法を用いて転移性癌を阻害または処置してもよい。本発明の方法により、種々の癌のタイプを処置することができ、たとえば、処置対象の癌は、膀胱癌、血液癌、骨癌、骨髄癌、脳癌、乳癌、結腸癌、食道癌、眼癌、胃腸癌、歯肉癌、頭部癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、鼻咽頭癌、頸部癌、卵巣癌、前立腺癌、皮膚癌、胃癌、精巣癌、舌癌または子宮癌であってもよい。さらに、本発明の方法と組み合わせて、または併用して追加の抗癌療法剤を用いてもよい。こうした追加の療法については、本発明の方法の前後または同時に施すことができる。たとえば、追加の抗癌療法は、化学療法、外科的療法、免疫療法または放射線療法であってもよい。
【0021】
本発明のDN RTEF−1組成物については、患者に局所投与しても、全身投与してもよいことを意図している。たとえば、本発明の方法は、DN RTEF−1組成物の局部投与、静脈内投与、皮内投与、動脈内投与、腹腔内投与、病巣内投与、頭蓋内投与、関節内投与、前立腺内投与、胸膜内投与、気管内投与、眼内投与、鼻腔内投与、硝子体内投与、膣内投与、直腸内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、結膜下投与、膀胱内投与、粘膜投与、心膜内投与、臍帯内投与、眼球内投与、経口投与、吸入投与、注射投与、注入投与、持続注入投与、標的細胞を直接浸す局部灌流による投与、カテーテルを介した投与または洗浄による投与を含んでもよい。上述のように、場合によっては、DN RTEF−1組成物を眼に送達し、投与は、たとえば、局部投与でも、結膜下投与でも、眼周囲投与でも、眼球後投与でも、テノン嚢下投与でも、前房内投与でも、硝子体内投与でも、眼内投与でも、網膜下投与でも、後強膜近傍投与でも、上脈絡叢投与でもよい。ある態様では、DN RTEF−1組成物を眼内注射、局部投与(たとえば、点眼製剤で)により眼に局所投与してもよい。
【0022】
いくつかのさらなる実施形態では、組成物を滴下投与できる出口を備えたビンに入れられた本発明の医薬組成物を提供する。ある場合には、ビンに入れられた医薬組成物は反復投与量を含み、ある態様では、ビンは片目または両目に投与する単回投与単位を含み、好ましくは、単回投与単位は製剤の1〜2滴である。本明細書で使用する場合、「ビン」という語は、アンプル、点眼器またはシリンジなどの任意の液体用容器をいう。
【0023】
本発明の方法および/または組成物の文脈で考察される実施形態は、本明細書に記載の任意の他の方法または組成物に関して用いてもよい。したがって、ある方法または組成物に関する実施形態を他の方法および本発明の組成物に用いても構わない。
【0024】
本明細書で使用する場合、「1つの(a)または(an)」は、1つを意味することもあれば、複数を意味することもある。特許請求の範囲(単数または複数)で使用するとき、「1つの(a)または(an)」は、「を含む(comprising)」という語と併用して使用する場合、1つを意味することもあれば、複数を意味することもある。
【0025】
特許請求の範囲で「または(or)」という語を使用する場合、代替物のみ、あるいは、代替物が相互に排他的であると明示的な記載がない限り、「および/または(and/or)」を意味するが、本開示では、代替物のみおよび「および/または」に言及する定義が妥当と考える。本明細書で使用する場合、「別の(another)」は、少なくとももう1つ、あるいはそれ以上を意味することができる。
【0026】
本出願において「約(about)」という語を使用する場合、ある値に、その値の判定に用いる装置、方法に固有の誤差変動または研究対象間に存在する変動が含まれることを示す。
【0027】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明により明らかになるであろう。ただし、詳細な説明および個々の例は本発明の好ましい実施形態を示すものとはいえ、例示のみを目的としていることを理解すべきである。このため、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、この詳細な説明により様々な変更および変形が当業者に明らかになるであろう。
【0028】
以下の図面は本明細書の一部であり、本発明のある種の態様をさらに説明するために記載されている。図面と共に本明細書に示す具体的な実施形態の詳細な説明を参照すれば、本発明の理解が深まるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1A〜B:低酸素ではRTEF−1のmRNAスプライシングが変化する。網膜および虹彩内皮細胞を低酸素状態に置き、RTEF−1スプライシングをRT−PCRにより解析した。図1A、RT−PCRにより同定されたRTEF−1スプライスバリアントの配列図である。各スプライスバリアントの非翻訳領域のエクソン配列(斜め線の網掛け)およびアミノ酸コード領域(無地の枠)を示す。さらに、推定RTEF−1機能ドメインも図示しており、格子枠はTEA DNA結合ドメイン(アスタリスクは予想されるαへリックスの位置を示す)を、黒地の枠は核移行シグナル(エクソン4)を、縦線網掛けは活性化ドメイン(プロリンリッチドメイン(PRD:Proline Rich Domain))を、横線網掛けはエクソン9および10の2個のSTYドメインを示す。図1B、ヒト網膜血管内皮細胞(RVEC:retinal vascular endothelial cell)の初代培養から調製したRTEF−1特異的RT−PCR産物を示すアガロースゲル電気泳動像である。レーン1および4:DNAラダー;レーン2:正常酸素圧条件下でRVECから調製したcDNAにより得られた2個の産物(大きさは1305bpおよび936bp);レーン3:低酸素状態下でRVECから調製されたcDNAにより得られた3個の産物(大きさは1305bp、936bpおよび447bp)。
【図2】図2:RTEF−1変異体は、VEGFプロモーターを活性化または抑制する。表記のRTEF−1変異体を含む発現ベクターと共にVEGFプロモーターレポーターコンストラクト(分泌アルカリホスホターゼを誘導するVEGFプロモーター)を293T細胞にトランスフェクトした。結果は、pSEAP−VEGFプロモーターと、1305bp(レーン1)、936bp(レーン2)、651bp(レーン3)、ss−651−RMR bp(レーン6)または447bp(レーン4)RTEF−1変異体を含むpcDNA発現コンストラクトとのトランスフェクションから6時間後の培地中のAP活性を示す。レーン5は、インサートのないpcDNA対照プラスミドをコトランスフェクトしたときの対照VEGFプロモーター活性を示す。
【図3】図3:RTEF−1によるVEGFプロモーター活性の調節は、4つのSP1結合部位を含むVEGFプロモーター部分に左右される。細胞に、1305bp(レーン1)、936bp(レーン2)、651bp(レーン3)、ss−651bp(レーン6)または447bp(レーン4)RTEF−1変異体を含むpcDNA発現コンストラクトと、インタクトなVEGFプロモーター(黒地の枠)またはヌクレオチド−113〜−57が欠失したVEGFプロモーター(白地の枠)を含むレポーターベクターとを上記のようにトランスフェクトした。レーン5は、インサートのないpcDNA対照プラスミドをコトランスフェクトしたときの対照VEGFプロモーター活性を示す。
【図4】図4:651bpのRTEF−1はドミナントネガティブとして働く。細胞に、pSEAP−VEGFおよび1305bp(レーン1、2)、936bp(レーン3、4)または447bp(レーン5、6)RTEF−1変異体を単独で(レーン1、3および5)、あるいはss−651−RMR bp RTEF−1変異体を加えて(レーン2、4および6)上記のようにトランスフェクトした。
【図5】図5A〜C:RTEF−1ポリペプチドの検出。RTEF−1に特有ではあるが、天然の変異体がそれぞれ共有するアミノ酸配列に対して抗体を作製した。図5Aは、RTEF−1から関連転写因子までの領域のアミノ酸アライメントである。抗体作製に使用したアミノ酸配列を下線で示す。図5B:抗RTEF−1抗体によるイムノブロット像。解析に使用した細胞ライセートは、pcDNA空ベクター(レーン2および8)または1305bp(レーン3、9)、936bp(レーン4、10)、651bp(レーン5、11)もしくは447bp(レーン6、11)RTEF−1変異体のpcDNA発現ベクターをトランスフェクトした細胞から得た。各RTEF−1変異体の検出を楕円で示す。レーン1および7は分子量マーカーである。レーン1〜6は、レーン7〜12の像の過剰曝露を示す。図5C:抗RTEF−1抗体を用いて、pcDNA 651bpのRTEF−1発現ベクターをトランスフェクトした細胞のRTEF−1変異体を検出したイムノブロット像。予想される約24kDaポリペプチドを矢印で示す。
【図6】図6A〜B:眼におけるRTEF−1変異体の発現。図6A:正常な霊長類眼組織中のRTEF−1発現を示すイムノブロット像。網膜(レーン1)、脈絡膜(レーン2)および虹彩(レーン3)の組織ライセートのタンパク質についてイムノブロット解析を行った。Mは分子量マーカーを示す。図6B:RTEF−1特異的プライマーを用いて生成された半定量的RT−PCR産物を可視化するため、エチジウムプロミドで染色したアガロースゲル像。レーン1はCRAO網膜RNAの結果、レーン2は対照網膜RNAの結果を示す。
【図7】図7A〜D:霊長類眼組織中のRTEF−1発現の免疫組織化学解析。図7A〜B:RTEF−1の強い染色が虹彩(I)、毛様体(CB)、視神経(ON)および網膜(R)に局在しているように見える。角膜(C)および水晶体(L)は、RTEF−1抗体ハイブリダイゼーションで陰性であった。図7C〜D:RTEF−1の最も強い染色が神経節細胞層(GCL:ganglion cell layer)および内顆粒層(INL:inner nuclear layer)に認められる。染色は、細胞質と核との両方に局在しているように見える。外層では染色があまり認められない。
【発明を実施するための形態】
【0030】
近年、癌およびAMDなどの血管形成障害の処置を目的として、血管新生のシグナル伝達を阻害するための多くの戦略が開発されているところである。特に、VEGFと細胞表面受容体の1つまたは両方との結合の阻害によるVEGFのシグナル伝達の遮断に着目した戦略が多い。しかしながら、こうした戦略は、異常な血管形成を惹起するVEGFの初期産生に対処できない。したがって、VEGFの産生を阻害する新規な方法および組成物は、VEGF遮断と、それによる血管形成の処置との新しい方法になる可能性がある。このため、ある態様では、本発明は、VEGFの活性化に不可欠なドミナントネガティブ転写因子を提供する。さらに、本発明は細胞内プロセスの標的化にも関するため、本発明の治療剤は、特定の細胞型を標的にし、それにより、好ましからぬ全身性副作用を低下させることができる。したがって、本発明は、血管形成障害を処置する新規な方法および/または現在のVEGF遮断戦略の有効性を高める方式を提供する。
【0031】
RTEF−1は多機能性転写因子ファミリーのメンバーであり、低酸素によるVEGFの転写など、VEGFの転写の活性化因子であることが明らかになっている。しかしながら、本明細書に示すように、細胞ではRTEF−1の複数のスプライスバリアントが産生され、RNAの選択的スプライシングバリアントから産生されるRTEF−1ポリペプチドでは、転写機能が変化している(図1A、B)。特に(It particular)、約651塩基対のRTEF−1転写物は、VEGFプロモーター活性を阻害するポリペプチドを産生する(図2、レーン3および5を比較)。さらに、このRTEF−1変異体は、分泌シグナルおよび細胞内移行ポリペプチドとの融合タンパク質として形成される場合、より効果的なVEGFプロモーターの阻害剤となることも明らかになった図2のレーン6)。重要な点として、図4に示すように、651bpのRTEF−1転写物由来のポリペプチドは、ドミナントネガティブに作用する。つまり、このポリペプチドは、VEGFプロモーター活性を低下させるばかりでなく、他の(a other)RTEF−1タンパク質アイソフォームによるVEGFプロモーターの増強作用も遮断する。さらに、図6および7に示すように、RTEFは眼の組織に発現するため、眼の血管新生障害の発症において重要であることが示唆される。今回の研究では、VEGFの産生におけるRTEF−1の活性化が、血管新生障害の発症に関与する一要因である可能性が示される。したがって、本発明の方法および組成物は、血管新生を早い段階で予防する手段になる可能性がある。
【0032】
本発明は、新規なDN RTEF−1ポリペプチドの根拠および血管形成障害を予防ないし阻害するための、その使用を提供する。DN RTEF−1ポリペプチドについては、VEGFの産生を遮断するため細胞内環境に直接送達しても、標的細胞に発現させてもよい。こうしたドミネートネガティブポリペプチドは、VEGFの新たな産生のみならず、通常、低酸素状態などにおいてRTEF−1により刺激を受けるVEGFの産生も下方制御する。したがって、本発明の組成物を用いて、新たな血管形成(blood vessel formation)を増加させる標的細胞および標的組織の能力を低下させることができる。これは、たとえば、血管の浸潤が直接の病因であるAMDなどの眼の血管新生障害に非常に有益である。さらに、DN RTEF−1を用いて、新たな血管形成(blood vessel formation)により栄養素を獲得する腫瘍の能力を低下させることで、腫瘍または腫瘍転移を処置することもできる。したがって、腫瘍増殖を遅延させる、および/または腫瘍退縮を誘導する方法も提供する。さらに、発明の組成物は細胞内の早期の転写を標的にしているため、本発明の組成物を用いれば、特異的な細胞標的化/細胞内部移行部分を使用して効果があった組織を標的にして、それにより、標的以外の他の組織の副作用を抑えることもできる。
【0033】
I.ドミネートネガティブRTEF−1ポリペプチド
本明細書では、多くのRTEF−1変異体が記載され、機能的特徴付けが行われている。たとえば、本明細書で具体的に研究した4つの配列は、以下のアミノ酸配列を含む。
【0034】
1305bpのヒトRTEF−1のcDNAによってコードされる配列番号1は、以下の配列を持つ434アミノ酸タンパク質である:
【0035】
【化1】

936bpのヒトcDNAによってコードされる配列番号2は、以下の配列を持つ311アミノ酸タンパク質である:
【0036】
【化2】

651bpのヒトcDNAによってコードされる配列番号3は、以下の配列を持つ216アミノ酸タンパク質である:
【0037】
【化3】

447bpのヒトcDNAによってコードされる配列番号4は、以下の配列を持つ148アミノ酸タンパク質である:
【0038】
【化4】

上述のように本発明のある態様では、ドミナントネガティブ(DN)RTEF−1ポリペプチドは、アミノ酸の内部欠失を1つまたは複数含んでもよい。たとえば、場合によっては、DN RTEF−1は、エクソン3、4、5、6、7、8、9または10によってコードされるアミノ酸の欠失を含んでもよい。たとえば、ある態様では、DN−RTEF1は、配列番号3のアミノ酸配列またはその誘導体を含む。
【0039】
【化5】

本発明のさらなる態様では、転写機能を維持したまま、DN RTEF−1ポリペプチドを1つまたは複数のアミノ置換でさらに修飾してもよい。たとえば、同等の親水性を持つアミノ酸との置換であれば、1つまたは複数の位置でアミノ酸置換を行ってもよい。タンパク質に相互作用的な生物学的機能を与えるにはアミノ酸のハイドロパシックインデックスの重要性が、当該技術分野において一般に理解されている(Kyte & Doolittle,1982)。アミノ酸の相対的なハイドロパシック特性は得られるタンパク質の二次構造に関与し、さらにタンパク質と、他の分子、たとえば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原および同種のものとの相互作用を規定していることが認められている。したがって、RETF−1配列においてそうした保存的置換を行ってもよく、置換を行ってもVEGFプロモーター活性を抑えるRETF−1配列の活性および能力に対する作用は軽微にとどまるであろう。米国特許第4,554,101号に詳述されているように、アミノ酸残基には以下の親水性値が付与されている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパルタート(+3.0±1);グルタマート(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);トレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(0.5);ヒスチジン−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(2.3);フェニルアラニン(−2.5);トリプトファン(−3.4)。こうした値を指標として用いてもよく、その場合、親水性値が±2以内にあるアミノ酸の置換は好ましいものであり、±1以内であれば特に好ましく、±0.5以内であれば、特に一層好ましい。したがって、本明細書に記載のDN RTEF−1ポリペプチドのいずれかを、あるアミノ酸と、異なってはいるものの同等の親水性値を持つ同種のアミノ酸との置換により修飾してもよい。親水性が+/−1.0または+/−0.5ポイント以内のアミノ酸を同種と見なす。
【0040】
II.細胞内部移行部分および標的化部分
本明細書で使用する細胞内部移行部分は、細胞膜を通ってDN RTEF−1の輸送を仲介する、DN RTEF−1との(共有結合または非共有結合による)複合体であれば、どのような分子でも構わない。こうした内部移行部分は、ペプチドでも、ポリペプチドでも、ホルモンでも、増殖因子でも、サイトカインでも、アプタマーでも、アビマーでもよい。さらに、細胞内部移行部分は、非特異的な細胞内移行を仲介してもよいし、標的細胞の亜集団内に取り込まれる細胞標的化部分であっても構わない。
【0041】
たとえば、ある実施形態では、本発明に使用する細胞標的化部分は抗体である。原則として、抗体という語は、以下に限定されるものではないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、ミニボディー、ジボディー、トリボディーのほか、Fab’、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体およびその任意の混合物などの抗体フラグメントを含む。場合によっては、細胞標的化部分は、一本鎖抗体(scFv)であることが好ましい。関連する実施形態では、細胞標的化ドメインは、アビマーポリペプチドであってもよい。したがって、場合によっては、本発明の細胞標的化コンストラクトは、DN RTEF−1およびscFvまたはアビマーを含む融合タンパク質である。いくつかの非常に特定の実施形態では、細胞標的化コンストラクトは、一本鎖抗体に融合されたDN RTEF−1ポリペプチドを含む融合タンパク質である。
【0042】
本発明のある態様では、細胞標的化部分は、増殖因子であってもよい。たとえば、本発明による細胞標的化部分として、トランスフォーミング増殖因子、上皮増殖因子、インスリン様成長因子、線維芽細胞増殖因子、Bリンパ球刺激因子(BlyS:B lymphocyte stimulator)、ヘレグリン、血小板由来増殖因子、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)または低酸素誘導因子を用いてもよい。こうした増殖因子を用いれば、同族の増殖因子受容体を発現する細胞にコンストラクトを到達させることができる。たとえば、VEGFを用いてFLK−1および/またはFlt−1を発現する細胞を標的にしてもよい。なおさらなる態様では、細胞標的化部分は、ポリペプチドBlySであっても構わない(米国特許出願公開第第2006/0171919号を参照されたい)。
【0043】
本発明のさらなる態様では、細胞標的化部分は、ホルモンであってもよい。本発明に使用するホルモンの一部の例として、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ゴナドトロピン放出ホルモン、アンドロゲン、エストロゲン、甲状腺刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体ホルモン、プロラクチン、成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、抗利尿ホルモン、オキシトシン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、コルチコトロピン放出ホルモン、ソマトスタチン、ドーパミン、メラトニン、チロキシン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、糖質コルチコイド、ミネラルコルチコイド、アドレナリン、ノルアドレナリン、プロゲステロン、インスリン、グルカゴン、アミリン、エリトロポイチン、カルシトリオール、カルシフェロール、心房性ナトリウム利尿ペプチド、ガストリン、セクレチン、コレシストキニン、ニューロペプチドY、グレリン、PYY3−36、インスリン様成長因子−1、レプチン、トロンボポエチン、アンジオテンシノーゲン、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17、IL−18、IL−19、IL−20、IL−21、IL−22、IL−23、IL−24、IL−25、IL−26、IL−27、IL−28、IL−29、IL−30、IL−31、IL−32、IL−33、IL−34、IL−35またはIL−36があるが、これに限定されるものではない。上記で論じたように、ホルモンを含む標的化コンストラクトにより、表記のホルモンの細胞外(extracelluar)受容体を含む細胞集団を標的にする方法が可能になる。
【0044】
本発明のなおさらなる実施形態では、細胞標的化部分はサイトカインであってもよい。たとえば、本発明による標的化部分として、IL1、IL2、IL3、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8、IL9、IL10、IL11、IL12、IL13、IL14、IL15、IL−16、IL−17、IL−18、顆粒球コロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、白血病抑制因子、エリスロポエチン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、オンコスタチンM、白血病抑制因子、IFN−γ、IFN−α、IFN−β、LT−β、CD40リガンド、Fasリガンド、CD27リガンド、CD30リガンド、4−1BBL、TGF−β、IL1α、IL−1β、IL−1RA、MIFおよびIGIFのどれを用いてもよい。
【0045】
本発明のある態様では、本発明の細胞標的化部分は、癌細胞標的化部分であってもよい。表面分子を異常発現するある種の癌細胞は周囲の組織に比べて特有であることがよく知られている。したがって、こうした表面分子に結合する細胞標的化部分を用いれば、DN RTEF−1を癌細胞に特異的に標的化送達することができる。たとえば、細胞標的化部分を肺癌細胞、乳癌細胞、脳癌細胞、前立腺癌細胞、脾臓癌細胞、膵臓癌細胞、頸部癌細胞、卵巣癌細胞、頭頸部癌細胞、食道癌細胞、肝臓癌細胞、皮膚癌細胞、腎臓癌細胞、白血病癌細胞、骨癌細胞、精巣癌細胞、結腸癌細胞または膀胱癌細胞に結合させ、それに取り込ませてもよい。癌細胞の個々の癌マーカーの発現または発現レベルによって癌細胞標的化DN RTEF−1の有効性が異なる場合があることを当業者であれば理解するであろう。したがって、ある態様では、標的DN RTEF−1で癌を処置するための方法であって、癌が特定の細胞表面マーカーを発現するかどうか(あるいはその程度)を判定することと、マーカー遺伝子またはポリペプチドの発現レベルに応じて、DN RTEF−1標的療法剤(therapy)(または別の抗癌療法剤(therapy))を癌細胞に投与することとを含む方法を提供する。
【0046】
上記で論じたように、本発明による細胞標的化部分は、たとえば、抗体であってもよい。たとえば、本発明による細胞標的化部分は、メラノーマ細胞などの皮膚癌細胞に結合することができる。gp240抗原は様々なメラノーマで発現するが、正常組織では発現しないことが明らかになっている。このため、本発明のある態様では、DN RTEF−1およびgp240に結合する細胞標的化部分を含む細胞標的化コンストラクトを提供する。場合によっては、gp240結合分子は、ZME−018(225.28S)抗体または9.2.27抗体などの抗体であってもよい。より一層好ましい実施形態では、gp240結合分子は、scFvMEL抗体などの一本鎖抗体であってもよい。
【0047】
本発明のなおさらなる特定の実施形態では、細胞標的化コンストラクトを乳癌細胞に誘導してもよい。たとえば、抗Her−2/neu抗体など、Her−2/neuに結合する細胞標的化部分をDN RTEF−1にコンジュゲートしてもよい。こうした細胞標的化コンストラクトの一例として、一本鎖抗Her−2/neu抗体scFv23およびDN RTEF−1を含む融合タンパク質がある。また、本発明の組成物および方法には、Her−2/neuに結合するscFv(FRP5)などの他のscFv抗体を用いてもよい(von Minckwitzら、2005)。
【0048】
本発明のある追加の実施形態では、発明による癌細胞標的化部分が、複数のタイプの癌細胞に対して結合能を持つことを想定している。たとえば、8H9モノクローナル抗体およびこれに由来する一本鎖抗体は、乳癌、肉腫および神経芽細胞腫に発現する糖タンパク質に結合する(Ondaら、2004)。別の例として、様々なタイプの癌に発現するMUC−1抗原に結合する、米国特許出願公開第2004/005647号およびWinthropら、2003に記載の細胞標的化薬がある。したがって、ある実施形態では、本発明の細胞標的化コンストラクトが、複数のタイプの癌または腫瘍を標的にできることが理解されるであろう。
【0049】
III.抗体の作製方法
以下の方法は、最も一般的な抗体作製法のいくつかの代表例である。
【0050】
A.ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体については、動物を用いて抗原の皮下(sc)または腹腔内(ip)注射を複数回行って産生させるのが一般的である。本明細書で使用する場合、「抗原」という語は、抗体の作製に使用する任意のポリペプチドをいう。本発明に従って使用する抗原は、癌の細胞表面マーカーポリペプチドおよび眼特異的細胞表面マーカーを含む。
【0051】
抗原または標的アミノ酸配列を含むフラグメントを、免疫対象の種に免疫原性を持つタンパク質、たとえば、キーホールリンペットヘモシニアン、血清アルブミン、ウシチログロブリンまたは大豆トリプシン阻害剤に、二官能性物質または誘導体化剤、たとえば、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基によるコンジュゲーション)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基による)、グリタルアルデヒド、コハク酸無水物、SOCl、またはRおよびRが異なるアルキル基であるRN=C=NRを用いてコンジュゲートすると有用である場合がある。
【0052】
免疫原性コンジュゲートまたは誘導体で動物を免疫するには、コンジュゲートの1μgの1mg(それぞれウサギまたはマウス)と3容のフロイント完全アジュバントとを組み合わせ、この溶液を複数の部位に皮内注射する。1ヶ月後、フロイント完全アジュバントに加えたコンジュゲートの当初量の1/5〜1/10で、皮下注射により複数の部位で動物を追加免疫する。7〜14日後、動物を脱血し、その血清の特異的な抗体価をアッセイする。力価がプラトーになるまで動物を追加免疫する。好ましくは、抗原は同じだが、別のタンパク質との、および/または別の架橋結合試薬によるコンジュゲートで動物を追加免疫する。また、コンジュゲートについては、組換え細胞培養を用いてタンパク質の融合体として作製してもよい。さらに、ミョウバンなどの凝集剤を用いて免疫応答を高める。
【0053】
B.モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、実質的に均一な抗体の集団から得られる。すなわち、集団を構成する個々の抗体は、わずかながら存在するかもしれない、自然発生する可能性がある突然変異を除いて同一である。したがって、修飾語句「モノクローナル」は、多種類の抗体の混合物ではないという抗体の性質を示す。
【0054】
たとえば、本発明のモノクローナル抗体は、Kohler & Milstein(1975)が最初に記載したハイブリドーマ法を用いて作製してもよいし、組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)を用いて作製してもよい。
【0055】
ハイブリドーマ法では、マウス、あるいはハムスターなど他の適当な宿主動物を上述のように免疫し、免疫に使用するタンパク質に特異的に結合する抗体を産生するリンパ球、または産生する能力があるリンパ球を誘導する。あるいは、リンパ球はインビトロで免疫してもよい。その後、ポリエチレングリコールなどの好適な融合剤を用いて、リンパ球を骨髄腫細胞と融合し、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding 1986)。
【0056】
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、好ましくは、融合していない親の骨髄腫細胞の増殖および生存を阻害する1つまたは複数の物質を含む好適な培養基に播種し、増殖させる。たとえば、親の骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠損している場合、ハイブリドーマの培養基は一般に、HGPRT−欠損細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む(HAT培地)。
【0057】
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、かつ選択した抗体産生細胞からの安定かつ高レベルの抗体発現を支持し、HAT培地などの培地に感受性がある細胞である。中でも好ましい骨髄腫細胞株は、Salk Institute Cell Distribution Center,San Diego,Calif.USAから入手できるMOPC−21およびMPC−11マウス腫瘍、およびアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection),Rockville,Md.USAから入手できるSP−2細胞由来の株など、マウスの骨髄腫株である。
【0058】
ハイブリドーマ細胞が増殖している培養基を、標的抗原に対するモノクローナル抗体の産生についてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性を、免疫沈降か、あるいはラジオイムノアッセイ(RIA:radioimmunoassay)または酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA:enzyme−linked immunoabsorbent assay)などのインビトロ結合アッセイにより判定する。
【0059】
モノクローナル抗体の結合親和性は、たとえば、Munson & Pollard(1980)のスキャッチャード解析により判定できる。
【0060】
所望の特異性、親和性および/または活性を持つ抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定したら、クローンを限界希釈法でサブクローニングし、標準的な方法で増殖させる、Goding(1986)。このための好適な培養基として、たとえば、ダルベッコ変法イーグル培地またはRPMI−1640培地がある。さらに、ハイブリドーマ細胞は、動物の腹水腫瘍としてインビボで増殖させてもよい。
【0061】
サブクローンにより分泌されるモノクローナル抗体については、たとえば、プロテインAセファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティークロマトグラフィーのような従来の免疫グロブリン精製手順で培養基、腹水または血清から好適に分離する。
【0062】
本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(たとえば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブにより)容易に単離し、配列決定できる。本発明のハイブリドーマ細胞は、こうしたDNAの好ましい供給源となる。単離したならば、DNAを発現ベクターに組み込み、次いで、本来ならば免疫グロブリンタンパク質を産生しないサルのCOS細胞、チャイニーズハムスターの卵巣(CHO:Chinese hamster ovary)細胞または骨髄腫細胞などの宿主細胞にトランスフェクトし、この組換え宿主細胞でモノクローナル抗体を合成する。また、たとえば、ヒト重鎖および軽鎖定常ドメインのコード配列で相同的なマウスの配列を置換したり、Morrisonら(1984)、非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部または一部を免疫グロブリンコード配列に共有結合的に結合したりしてDNAを修飾してもよい。このようにして、本明細書に記載した任意の個々の抗原に対して結合特異性を持つ「キメラ」または「ハイブリッド」抗体を調製する。
【0063】
一般に、こうした非免疫グロブリンポリペプチドにより、本発明の抗体の定常ドメインを置換したり、本発明の抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインを置換したりして、標的抗原に対する特異性を持つ1つの抗原結合部位および別の抗原に対する特異性を持つもう1つ抗原結合部位を含むキメラ二価抗体を作製する。
【0064】
また、キメラ抗体またはハイブリッド抗体は、架橋剤を含む方法など、タンパク質合成化学における既知の方法を用いてインビトロで調製してもよい。たとえば、ジスルフィド交換反応を用いるか、チオエーテル結合の形成により、免疫毒素を構築することができる。このための好適な試薬の例として、イミノチオラートおよびメチル−4−メルカプトブチルイミダートが挙げられる。
【0065】
診断用途では、一般に本発明の抗体を検出可能な部分で標識する。検出可能な部分は、直接的あるいは間接的に、検出可能なシグナルを発生できる任意のものでよい。たとえば、検出可能な部分は、H、14C、32P、35Sまたは125Iなどの放射性同位元素、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミンまたはルシフェリンなどの蛍光または化学発光化合物;ビオチン;H、14C、32P、35Sもしくは125Iなどの放射性同位体標識またはアルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼもしくは西洋わさびペルオキシダーゼなどの酵素であってもよい。
【0066】
抗体を検出可能な部分に別々にコジュゲートするには、Hunterら(1962);Davidら(1974);Painら(1981);and Nygren(1982)が記載した方法など、当該技術分野において任意の公知の方法を用いればよい。
【0067】
本発明の抗体は、競合結合アッセイ、直接的および間接的サンドイッチアッセイおよび免疫沈降アッセイ(Zola,1987)など、任意の既知のアッセイ方法に用いてもよい。
【0068】
競合結合アッセイは、限られた量の抗体との結合に際して、標識標準物質(精製した標的抗原またはその免疫学的に反応する部分であってもよい)が被検サンプルアナライトと競合する能力を利用する。被検サンプルの抗原の量は、抗体に結合する標準物質の量に反比例する。結合する標準物質の量を判定しやすくするため、通常、競合の前後に抗体を不溶化して、抗体に結合している標準物質およびアナライトを、非結合のままである標準物質およびアナライトと簡便に分離できるようにする。
【0069】
サンドイッチアッセイでは、検出対象のタンパク質の異なる免疫原性部分またはエピトープに各々結合できる、2種の抗体を使用する。サンドイッチアッセイの場合、固体支持体に固定化した第1の抗体が被検サンプルアナライトに結合し、次いでアナライトに第2の抗体が結合するため、不溶性の3者の複合体が形成される。David & Greene、米国特許第4,376,110号。第2の抗体自体については、検出可能な部分で標識してもよいし(直接的サンドイッチアッセイ)、検出可能な部分で標識した抗免疫グロブリン抗体を用いて測定してもよい(間接的サンドイッチアッセイ)。たとえば、サンドイッチアッセイの1つのタイプとしてELISAアッセイがあり、この場合、検出可能な部分は酵素である。
【0070】
C.ヒト化抗体
既に論じたように、本発明の方法に使用する抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体でも、そのフラグメントでもよい。ただし、いくつかの態様では、処置対象の被検体に免疫応答(immune respose)を引き起こさないように、抗体をヒト化した方が好ましい。非ヒト抗体をヒト化する方法は、当該技術分野において周知である。通常、ヒト化抗体は、非ヒトである供給源から1つまたは複数のアミノ酸残基が導入されている。こうした非ヒトアミノ酸残基は、多くの場合、「インポート」残基と呼ばれ、一般に「インポート」可変ドメインから取り出す。ヒト化は本質的に、Winterおよび共同研究者(Jonesら、1986);Riechmannら、1988;Verhoeyenら、1988)に従って、齧歯動物のCDRまたはCDR配列で、対応するヒト抗体の配列を置換することにより行うことできる。したがって、こうした「ヒト化」抗体は、キメラ抗体であり(Cabilly, supra)、インタクトなヒト可変ドメインより実質的に小さなドメインが、対応する非ヒト種由来の配列により置換されている。実際のヒト化抗体は一般に、いくつかのCDR残基、場合によってはいくつかのFR残基も、齧歯動物抗体の類似部位由来の残基で置換されているヒト抗体である。
【0071】
たとえば、標的細胞に結合し、細胞内に取り込まれる能力など、抗原に対する高親和性および他の好ましい生物学的特性を保持しつつ抗体をヒト化することが重要である。この目的を実現するには、好ましい方法に従い、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを用いて、親配列および様々な概念的ヒト化産物を解析するプロセスによりヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般に入手可能であり、当業者によく知られている。選択した候補免疫グロブリン配列の予想される三次元立体構造を図解で表示するコンピュータープログラムが有用である。そうした表示を調べれば、候補免疫グロブリン配列の機能において想定される残基の役割の解析、すなわち、候補免疫グロブリンの抗原への結合能に影響を与える残基の解析が可能になる。このようにして、コンセンサス配列およびインポート配列からFR残基を選択し、組み合わせると、標的抗原(単数または複数)に対する親和性の向上など、所望の抗体特性を実現できる。一般に、CDR残基は、抗原結合の作用に直接的に非常に大きく関与している。詳細については、1991年6月14日に出願された米国特許出願第07/715,272号の一部継続出願である1992年8月21日に出願された米国特許出願第07/934,373号を参照されたい。
【0072】
D.ヒト抗体
ヒトモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法で作製することができる。ヒトモノクローナル抗体を作製するためのヒト骨髄腫およびマウス−ヒトヘテロミエローマ細胞株については、たとえば、Kozbor(1984) and Brodeurら(1987)により記載されている。
【0073】
現在では、内在性免疫グロブリンが産生されなくても、免疫によりヒト抗体のレパートリーを創出できるトランスジェニック動物(たとえば、マウス)を作製することができる。たとえば、生殖系列変異のキメラマウスを用いて抗体重鎖の結合領域(J)遺伝子を同型接合的に欠損させると、内在性抗体の産生が完全に阻害されることが記載されている。こうした生殖系列変異マウスにヒト生殖系列免疫グロブリンの遺伝子アレイを移行すれば、抗原の攻撃によりヒト抗体が産生される。たとえば、Jakobovitsら(1993);Jakobovitsら(1993)を参照されたい。
【0074】
あるいは、ファージディスプレイ技術(McCaffertyら、1990)を用いて、非免疫ドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからインビトロでヒト抗体および抗体フラグメントを作製することもできる。この手法に従い、M13またはfdなどの糸状バクテリオファージのメジャーコートタンパク質またはマイナーコートタンパク質の遺伝子のどちらかに、抗体Vドメイン遺伝子をインフレームでクローニングし、ファージ粒子の表面に機能的抗体フラグメントとして提示させる。
【0075】
この糸状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAのコピーを含むため、抗体の機能特性に応じて選択を行えば、同時にその特性を示す抗体をコードする遺伝子を選択することにもなる。こうした点で、このファージは、B細胞の特性の一部と類似している。ファージディスプレイは、様々なフォーマットで行うことができる。総説として、たとえば、Johnsonら(1993)を参照されたい。ファージディスプレイには、V遺伝子セグメントの複数の供給源を用いてもよい。Clacksonら(1991)は、免疫したマウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さいランダムなコンビナトリアルライブラリーから、多様な抗オキサゾロン抗体を単離した。感作されていないヒトドナーのV遺伝子のレパートリーを作成してもよく、Marksら(1991)またはGriffithら(1993)が記載した技法に本質的に従って、多様な抗原(自己抗原を含む)に対する抗体を単離することができる。自然免疫応答の場合、抗体遺伝子は、高い頻度で突然変異を積み重ねる(体細胞突然変異)。変化がある程度導入されると親和性が高まり、高親和性の表面免疫グロブリンを提示しているB細胞は、優先的に複製され、その後の抗原の攻撃の際に分化する。「鎖シャフリング」と呼ばれる手法を用いれば、この自然のプロセスを模倣できる(Marksら、1992)。この方法では、非免疫ドナーから得られたVドメイン遺伝子の天然変異体(レパートリー)のレパートリーで重鎖および軽鎖V領域遺伝子を順次置換して、ファージディスプレイにより得られた「一次」ヒト抗体の親和性を向上させることができる。この技法を用いれば、nM範囲の親和性を持つ抗体および抗体フラグメントを作製できる。非常に大きなファージ抗体レパートリー(「マザーオブオールライブラリー」とも呼ばれる)を作成する戦略がWaterhouseら(1993)により記載されており、こうした大きなファージライブラリーからの高親和性のヒト抗体の直接的な単離が報告されている。また、遺伝子シャフリングを用いても、出発齧歯動物抗体と同等の親和性および特異性を持つヒト抗体を齧歯動物抗体から得ることができる。「エピトープインプリンティング」とも呼ばれるこの方法によれば、ファージディスプレイ手法で得られた齧歯動物抗体の重鎖または軽鎖Vドメイン遺伝子をヒトVドメイン遺伝子のレパートリーで置換して、齧歯動物−ヒトキメラを作製する。抗原の選択が、機能的抗原結合部位を回復できるヒト可変領域の単離につながる。すなわち、エピトープがパートナーの選択を支配する(インプリントする)。このプロセスを繰り返して残りの齧歯動物Vドメインを置換すると、ヒト抗体が得られる(1993年4月1日公開の国際公開第93/06213号を参照されたい)。この手法は、齧歯動物抗体のCDRグラフティングによる従来のヒト化と異なり、齧歯動物由来のフレームワークまたはCDR残基を含まない完全なヒト抗体を提供する。
【0076】
IV.核酸分子
ある態様では、DN RTEF−1ポリペプチドをコードする本発明は、核酸分子に関する。ある態様では、DN RTEF−1核酸配列を核酸ベクターに組み込む。「ベクター」という語を使用する場合、核酸配列を挿入して核酸配列の複製が可能な細胞に導入できる、キャリア核酸分子をいう。核酸配列は「外来」であってもよい。外来とは、ベクターを導入する細胞にとって異質であるか、あるいは、その配列は細胞内の配列と同種であるが、宿主細胞の核酸内でその配列が通常確認されない位置にあることを意味する。ベクターとして、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルスおよび植物ウイルス)および人工染色体(YACなど)が挙げられる。当業者であれば、標準的な組換え技法によりベクターを構築することができるであろう(たとえば、どちらも参照によって本明細書に援用するManiatisら、1988 and Ausubelら、1994を参照されたい)。
【0077】
「発現ベクター」という語は、転写され得るRNAをコードする核酸を含む遺伝子コンストラクトをいう。場合によっては、RNA分子はその後タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに翻訳されるが、たとえば、アンチセンス分子またはリボザイムの生成においては、翻訳されない場合もある。発現ベクターは、様々な「制御配列」を含んでもよい。制御配列とは、個々の宿主細胞において、作動可能に連結されたコード配列の転写、場合によっては翻訳に必要な核酸配列をいう。ベクターおよび発現ベクターは、転写および翻訳を決定する制御配列に加えて、以下に記載する他の機能に役立つ核酸配列も含んでもよい。
【0078】
A.プロモーターおよびエンハンサー
「プロモーター」は、転写の開始および速度を制御する核酸配列の一領域である制御配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼおよび他の転写因子などの調節タンパク質および分子が結合して、特異的転写核酸配列を開始する遺伝子エレメントを含んでもよい。「作動的に配置された」、「作動的に連結された」、「制御下」および「転写制御下」という語句は、プロモーターが、核酸配列の転写の開始および/または発現を制御するため、その配列に関して適切な機能的位置および/または方向にあることを意味する。
【0079】
プロモーターは通常、RNA合成の開始部位の位置を決める働きをする配列を含む。その最もよく知られた例としてTATAボックスがあるが、たとえば、哺乳動物の末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターおよびSV40後期遺伝子のプロモーターのようにTATAボックスを欠損したプロモーターの中には、開始部位に重なる別のエレメントがそれ自体で開始場所を決める働きをするものもある。さらに、転写開始の頻度を調節するプロモーターエレメントもある。一般に、こうしたエレメントは開始部位から上流30 110bp領域に位置するが、多くのプロモーターが、開始部位の下流にも機能エレメントを含むことが明らかになっている。コード配列をプロモーター「の制御下」に置くには、転写リーディングフレームの転写開始部位の5’末端を、選択したプロモーターの「下流」(すなわち、3’)に配置する。「上流の」プロモーターがDNAの転写を刺激し、コードされたRNAの発現を促進する。
【0080】
プロモーターエレメント間のスペースは融通が利く場合が多いため、各エレメントが相互に逆になったり、移動したりしてもプロモーター機能は保持される。tkプロモーターの場合、活性を低下させずに、プロモーターエレメント間のスペースを50bpまで拡大することができる。個々のエレメントは、プロモーターに応じて、協同的にも、あるいは独立的にも機能して転写を活性化できると考えられる。プロモーターは、「エンハンサー」と併用する場合もあれば、そうでない場合もある。エンハンサーとは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用性制御配列をいう。
【0081】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエクソンの上流に位置する5’非コード配列を単離して得られるような、核酸配列に天然に関連するものであってもよい。こうしたプロモーターは、「内在性」という場合がある。同様に、エンハンサーも、核酸配列の下流あるいは上流に位置する、その配列に天然に関連するものであってもよい。あるいは、核酸コードセグメントを組換えまたは異種プロモーターの制御下に置いても、いくつかの利点が得られるであろう。組換えまたは異種プロモーターとは、天然環境において核酸配列に通常関連しないプロモーターである。また、組換えまたは異種エンハンサーとは、天然環境において核酸配列に通常関連しないエンハンサーである。こうしたプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、任意の他のウイルスまたは原核生物細胞もしくは真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、および非「天然の」、すなわち、様々な転写調節領域の様々なエレメントおよび/または発現を変化させる突然変異を含むプロモーターまたはエンハンサーを含めてもよい。たとえば、組換えDNAの構築に最も多く使われているプロモーターとして、βラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトースおよびトリプトファン(trp)プロモーター系が挙げられる。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列については合成的に生成する以外にも、本明細書に開示した組成物と共に組換えクローニングおよび/またはPCR(商標)などの核酸増幅技術を用いて生成してもよい(各々参照によって本明細書に援用する米国特許第4,683,202号および同第5,928,906号を参照されたい)。さらに、ミトコンドリア、葉緑体および同種のものなど、非核性オルガネラ内の配列の転写および/または発現を指令する制御配列を用い得ることも意図している。
【0082】
当然ながら、発現のために選択したオルガネラ、細胞型、組織、器官または生体においてDNAセグメントの発現を効果的に指令するプロモーターおよび/またはエンハンサーを用いることが重要である。分子生物学の当業者であれば、通常、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサーおよび細胞型の組み合わせの使用について知っている(たとえば、参照によって本明細書に援用するSambrookら1989を参照されたい)。使用するプロモーターは、構成的であっても、組織特異的であっても、誘導性であっても、および/または、組換えタンパク質および/またはペプチドの大規模な作製に都合がよいなど、適当な条件下で、導入したDNAセグメントの高レベルの発現を指令するのに有用であってもよい。プロモーターは、異種性でも、内在性でも構わない。
【0083】
さらに、(たとえば、真核生物プロモーターデータベースEPDB、http://www.epd.isb−sib.ch/のように)任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせを用いて発現を誘導してもよい。もう1つの可能な実施形態として、T3、T7またはSP6細胞質発現系の使用がある。真核細胞では、送達複合体の一部としてまたは他の遺伝子発現コンストラクトとして適当な細菌ポリメラーゼを供給すれば、ある種の細菌プロモーターからの細胞質転写が可能である。
【0084】
組織特異的プロモーターまたはエレメントの種類およびその活性の特徴付けを行うアッセイは、当業者によく知られている。こうした領域の非限定的な例には、ヒトLIMK2遺伝子(Nomotoら1999)、ソマトスタチン受容体2遺伝子(Kraus et.al.,1998)、マウス精巣上体レチノイン酸結合遺伝子(Lareyre et.al.,1999)、ヒトCD4(Zhao−Emonet et.al.,1998)、マウスα2(XI)コラーゲン(Tsumaki,et.al.,1998)、D1Aドーパミン受容体遺伝子(Lee,et.al.,1997)、インスリン様成長因子II(Wu et.al.,1997)およびヒト血小板内皮細胞接着分子−1(Almendro et.al.,1996)がある。
【0085】
B.開始シグナルおよび内部リボソーム結合部位
また、コード配列の効率的な翻訳には、特異的開始シグナルが必要な場合もある。こうしたシグナルには、ATG開始コドンまたはそれに隣接する配列がある。ATG開始コドンを含む外来性転写制御シグナルの供給が必要な場合もある。当業者であれば、こうしたことを容易に判定し、必要なシグナルを供給できるであろう。インサート全体の翻訳を確保するには、所望のコード配列のリーディンフレームと開始コドンが「インフレーム」でなければならないことはよく知られている。外来性の転写制御シグナルおよび開始コドンは、天然であっても、あるいは合成であってもよい。適切な転写エンハンサーエレメントを加えることで、発現の効率が高まる場合がある。
【0086】
本発明のある実施形態では、内部リボソーム侵入部位(IRES:internal ribosome entry site)エレメントを用いて多重遺伝子またはポリシストロニックメッセージを生成する。IRESエレメントは、5’メチル化キャップ依存的翻訳のリボソームスキャニングモデルを介さずに、内部部位で翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg,1988)。ピコルナウイルスファミリーの2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)由来のIRESエレメント(Pelletier and Sonenberg,1988)、および哺乳動物メッセージ由来のIRES(Macejak and Sarnow,1991)が記載されている。IRESエレメントは、異種のオープンリーディングフレームに結合できる。IRESにより分断された複数のオープンリーディングフレームがそれぞれ一緒に転写され、ポリシストロニックメッセージが生成され得る。IRESエレメントにより、各オープンリーディングフレームはリボソームに到達し、効率的に翻訳を行うことができる。同義遺伝子については、単一のメッセージを転写する単一のプロモーター/エンハンサーを用いて効率的に発現させることができる(参照によって本明細書に援用する米国特許第5,925,565号および同第5,935,819号を参照されたい)。
【0087】
C.マルチプルクローニングサイト
ベクターは、複数の制限酵素部位を含む核酸領域であるマルチプルクローニングサイト(MCS:multiple cloning site)を含んでもよく、ベクターを消化するには、標準的な組換え技法と共にどのマルチプルクローニングサイトを用いてもよい(たとえば、参照によって本明細書に援用するCarbonelli et.al.,1999,Levenson et.al.,1998,and Cocea,1997を参照されたい)。「制限酵素消化」とは、核酸分子の特異的場所でのみ機能する酵素による核酸分子の触媒的切断をいう。こうした制限酵素の多くが市販されている。こうした酵素の使用は、当業者により広く理解されている。頻繁には、MCS内で切断する制限酵素を用いてベクターを直線化または断片化して、外来性の配列をベクターにライゲートできるようにする。「ライゲーション」とは、相互に近接していても、していなくてもよい2つの核酸フラグメント間にホスホジエステル結合を形成するプロセスをいう。制限酵素およびライゲーション反応に関する技法は、組換え技術の当業者によく知られている。
【0088】
D.スプライシング部位
転写された真核生物RNA分子の大部分ではRNAスプライシングが行われ、イントロンが一次転写物から除去される。真核生物のゲノム配列を含むベクターで、タンパク質発現のため転写物のプロセシングが適切に行われるには、ドナーおよび/またはアクセプタースプライシング部位が必要な場合がある(たとえば、参照によって本明細書に援用するChandler et.al.,1997を参照されたい)。
【0089】
E.終結シグナル
本発明のベクターまたはコンストラクトは通常、少なくとも1つの終結シグナルを含む。「終結シグナル」または「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写物の特異的終結に関与するDNA配列からなる。したがって、ある実施形態では、RNA転写物の産生を終了させる終結シグナルを意図している。インビボで望ましいメッセージレベルを得るにはターミネーターが必要な場合もある。
【0090】
真核生物系では、ターミネーター領域は、新しい転写物が部位特異的に切断され、ポリアデニル化部位が露出されるようにする特異的なDNA配列をさらに含む。この配列は、特殊な内在性ポリメラーゼにシグナルを送り、転写物の3’末端に約200A残基の配列(ポリA)を付加する。このポリAテールでRNA分子が修飾されると安定性が高まり、翻訳の効率が高まると考えられる。したがって、真核生物を含む他の実施形態では、ターミネーターはRNA切断のためのシグナルを含むことが好ましく、ターミネーターシグナルは、メッセージのポリアデニル化を促進することが一層好ましい。ターミネーターおよび/またはポリアデニル化部位エレメントはメッセージレベルを増強し、そのカセットが他の配列に読み取られるのを最小限に抑える役目を果たすことができる。ある特定の場合には、ポリアデニル化シグナルは、米国特許出願公開第2005/0175591号に記載されているようなニューロピリン1からのシグナルであってもよい。
【0091】
本発明での使用を意図しているターミネーターは、本明細書に記載した、または当業者に公知の任意の転写ターミネーターを含み、たとえば、ウシ成長ホルモンターミネーターなどの遺伝子の終結配列またはSV40ターミネーターなどのウイルス終結配列があるが、これに限定されるものではない。ある実施形態では、終結シグナルは、配列切断などにより、転写可能または翻訳可能な配列がなくてもよい。
【0092】
F.複製起点
ベクターは、宿主細胞中でベクターを増殖させるため、複製を開始する特異的核酸配列である1つまたは複数の複製起点部位(「ori」と呼ばれる場合もある)を含んでもよい。あるいは、宿主細胞が酵母の場合、自己複製配列(ARS:autonomously replicating sequence)を用いてもよい。
【0093】
G.選択可能なマーカーおよびスクリーニング可能なマーカー
本発明のある実施形態では、発現ベクターにマーカーを組み込むことで、本発明の核酸コンストラクトを含む細胞をインビトロまたはインビボで同定することができる。こうしたマーカーが細胞に同定可能な変化を与えれば、発現ベクターを含む細胞を容易に同定できるであろう。通常、選択可能なマーカーは、選択を可能にする特性を与えるマーカーである。マーカーが存在すると選択が可能になるのがポジティブ選択可能マーカーであり、マーカーが存在すると選択ができなくなるのがネガティブ選択可能マーカーである。ポジティブ選択可能マーカーの例として、薬剤耐性マーカーがある。
【0094】
薬剤選択マーカーを組み込むと、ほとんどの場合、形質転換体のクローニングおよび同定の助けになり、たとえば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対する耐性を与える遺伝子は、有用な選択可能なマーカーである。各条件が実施されると形質転換体の識別が可能になる表現型を与えるマーカー以外にも、比色分析に基礎を置くGFPのようなスクリーニング可能なマーカーなどの他のタイプのマーカーも意図している。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk:thymidine kinase)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT:chloramphenicol acetyltransferase)などのスクリーニング可能な酵素を用いてもよい。さらに、当業者であれば、FACS分析との併用が可能な免疫学的マーカーの使用方法も知っているであろう。使用するマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現するのあれば、重要でないと考えられる。別の選択可能およびスクリーニング可能なマーカーも当業者によく知られている。
【0095】
H.プラスミドベクター
ある実施形態では、宿主細胞の形質転換に使用するプラスミドベクターを意図している。一般に、そうした宿主には、宿主細胞に適合する種に由来するレプリコンおよび制御配列を含むプラスミドベクターを用いる。ベクターは通常、複製部位のほか、表現型による形質転換細胞の選抜を可能にするマーキング配列を含む。非限定的な例では、大腸菌種由来のプラスミドpBR322の誘導体を用いて大腸菌を形質転換することが多い。pBR322はアンピシリンおよびテトラサイクリン耐性の遺伝子を含んでおり、したがって、形質転換細胞の同定を容易にする手段となる。pBRプラスミドまたは他の微生物プラスミドもしくはファージは、たとえば、微生物体がそれ自身のタンパク質発現のために使用できるプロモーターをさらに含むか、あるいは含むように改変する必要がある。
【0096】
さらに、こうした宿主に関しては、宿主微生物に適合性があるレプリコンおよび制御配列を含むファージベクターを形質転換ベクターとして用いてもよい。たとえば、ファージλGEMTM11を、宿主細胞、たとえば、大腸菌LE392の形質転換に使用できる組換えファージベクターの作製に用いても構わない。
【0097】
さらに、有用なプラスミドベクターとして、pIN ベクター(Inouye et.al.,1985);およびグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST:glutathione S transferase)可溶性融合タンパク質の作製に使用し、後に精製および分離されるか、切断されるpGEXベクターが挙げられる。他の好適な融合タンパク質には、βガラクトシダーゼ、ユビキチンおよび同種のものとの融合タンパク質がある。
【0098】
好適な培地は多くあり、LBのような任意の好適な培地を用いて、発現ベクターを含む細菌の宿主細胞、たとえば、大腸菌を増殖させる。ある種のベクターを用いて組換えタンパク質の発現を誘導するには、当業者には明らかなように、あるプロモーターに特異的な薬と宿主細胞とを接触させて、たとえば、IPTGを培地に加えたり、あるいは、インキュベーション温度を高温に切り替えたりする。通常2〜24時間かけてさらに細菌を培養した後、遠心分離により細胞を集め、洗浄して残った培地を取り除く。
【0099】
I.ウイルスベクター
個々のウイルスについては、細胞に感染したり、受容体を介したエンドサイトーシスにより細胞に進入したりする能力、および宿主細胞ゲノムに統合され、安定かつ効率的にウイルス遺伝子を発現する能力があれば、外来核酸を細胞(たとえば、哺乳動物細胞)に導入する魅力的な候補物質となる。本発明のDN RTEF−1成分は、DN RTEF−1ポリペプチド(pollypeptide)をコードするウイルスベクターであってもよい。本発明の核酸の送達に用いてもよいウイルスベクターの非限定的な例を以下に記載する。
【0100】
1.アデノウイルスベクター
特定の核酸の送達方法では、アデノウイルス発現ベクターを使用する。アデノウイルスベクターはゲノムDNAに組み込まれる能力が低いことが知られている。しかし、こうした特徴はあるものの、その代わりにこのベクターでは高効率の遺伝子導入が得られる。「アデノウイルス発現ベクター」とは、(a)コンストラクトのパッケージングを支持し、(b)その中にクローニングされている、組織または細胞特異的コンストラクトを最終的に発現する、十分なアデノウイルス配列を含有するコンストラクトを含むことを意味する。遺伝子構造またはアデノウイルスが36kbの直鎖状二本鎖DNAウイルスであることが分かっており、大きなアデノウイルスDNA断片を7kbまで外来配列で置換できる(Grunhaus and Horwitz,1992)。
【0101】
2.AAV(adeno associated virus)ベクター
アデノウイルスを使用したトランスフェクションにより、核酸を細胞に導入してもよい。アデノウイルス結合系を用いると、細胞系のトランスフェクション効率が高まることが報告されている(Kelleher and Vos,1994;Cotten et.al.,1992;Curiel,1994)。本発明のDN RTEF−1発現カセットの送達に使用するベクター系として、アデノ随伴ウイルス(AAV)が注目される。その理由として、アデノ随伴ウイルスは組み込まれる頻度が高いうえ、非分裂細胞に感染できるため、たとえば、組織培養(Muzyczka,1992)またはインビボで遺伝子を哺乳動物細胞に送達するのに有用である。AAVは、感染できる宿主域も広い(Tratschin et.al.,1984;Laughlin et.al.,1986;Lebkowski et.al.,1988;McLaughlin et.al.,1988)。rAAVベクターの作製および使用に関する詳細は、それぞれ参照によって本明細書に援用する米国特許第5,139,941号および同第4,797,368号に記載されている。
【0102】
3.レトロウイルスベクター
レトロウイルスは、遺伝子を宿主ゲノムに組み込み能力、大量の外来遺伝子材料を導入する能力、幅広い種および細胞型に感染する能力ならびに特殊な細胞株にパッケージングされる能力により、治療用のDN RTEF−1送達ベクターとして有望である(Miller,1992)。
【0103】
DN RTEF−1レトロウイルスベクターを構築するには、特定のウイルス配列の代わりに(たとえば、DN RTEF−1をコードする)核酸をウイルスゲノムに挿入して、複製欠損のウイルスを作製する。ビリオンを作製するため、gag、polおよびenv遺伝子を含むが、LTRおよびパッケージング成分を含まないパッケージング細胞株を構築する(Mann et.al.,1983)。cDNAを含む組換えプラスミドを、レトロウイルスのLTRおよびパッケージング配列と共に特殊な細胞株に(たとえば、リン酸カルシウム沈殿により)導入すると、パッケージング配列により組換えプラスミドのRNA転写物がウイルス粒子にパッケージングされ、その後、培養基に分泌される(Nicolas and Rubenstein,1988;Temin,1986;Mann et.al.,1983)。次いで、組換えレトロウイルスを含む培地を回収し、任意に濃縮し、遺伝子導入に使用する。レトロウイルスベクターは、多様な細胞型に感染することができる。しかしながら、組み込みおよび安定発現には、宿主細胞の分裂が不可欠である(Paskind et.al.,1975)。
【0104】
レンチウイルスは、一般的なレトロウイルス遺伝子gag、polおよびenvに加えて、制御または構造機能を持つ他の遺伝子を含む複雑なレトロウイルスである。レンチウイルスベクターを用いた血管形成阻害分子の送達方法は、以前に記載されており、たとえば、参照によって本明細書に援用する米国特許第7,122,181号を参照されたい。レンチウイルスベクターは、当該技術分野において周知である(たとえば、Naldini et.al.,1996;Zufferey et.al.,1997;Blomer et.al.,1997;米国特許第6,013,516号および同第5,994,136号を参照されたい)。レンチウイルスのいくつかの例として、ヒト免疫不全ウイルス:HIV−1、HIV−2およびサル免疫不全ウイルス:SIVが挙げられる。レンチウイルスベクターは、HIV病原性遺伝子を多重弱毒化して作製されており、たとえば、遺伝子env、vif、vpr、vpuおよびnefが欠失しているため、生物学的に安全である。
【0105】
組換えレンチウイルスベクターは非分裂細胞への感染が可能で、インビボとエキソビボとで遺伝子導入および核酸配列の発現に用いることができる。たとえば、好適な宿主細胞に、パッケージング機能、すなわち、gag、polおよびenvならびにrevおよびtatを有する2つ以上のベクターをトランスフェクトする、非分裂細胞への感染が可能な組換えレンチウイルスが、参照によって本明細書に援用する米国特許第5,994,136号に記載されている。エンベロープタンパク質を、抗体または特定の細胞型の受容体を標的化した特定のリガンドと連結して、組換えウイルスを標的化してもよい。ウイルスベクターは、たとえば、ベクターに目的の配列(制御領域など)を、特異的な標的細胞の受容体リガンドをコードする別の遺伝子と一緒に挿入した時点で、標的特異的となる。
【0106】
4.他のウイルスベクター
本発明では、他のウイルスベクターをワクチンコンストラクトとして用いてもよい。ワクシニアウイルス(Ridgeway,1988;Baichwal and Sugden,1986;Coupar et.al.,1988)、シンドビスウイルス、サイトメガロウイルスおよび単純ヘルペスウイルスなどのウイルス由来のベクターを用いても構わない。こうしたベクターは、様々な哺乳動物細胞にとっていくつかの魅力的な特徴を備えている(Friedmann,1989;Ridgeway,1988;Baichwal and Sugden,1986;Coupar et.al.,1988;Horwich et.al.,1990)。
【0107】
5.改変ウイルスによる送達
送達対象の核酸は、特異的な結合リガンドを発現するように設計してある感染性ウイルスに組み込んでもよい。この場合、このウイルス粒子は、標的細胞の同族の受容体に特異的に結合し、その内容を細胞に送達する。ウイルスエンベロープへのラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学修飾を利用して、レトロウイルスベクターの特異的標的化を可能にするように設計された新しいアプローチが開発された。この修飾により、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝実質細胞の特異的感染が可能になり得る。
【0108】
レトロウイルスのエンベロープタンパク質および特異的細胞受容体に対するビオチン化抗体を用いた、組換えレトロウイルスを標的化する別のアプローチも設計された。この抗体を、ビオチン成分を介してストレプトアビジンに結合させた(Roux et.al.,1989)。主要組織適合性複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を用いて、この表面抗原を持った様々なヒト細胞がインビトロでエコトロピックウイルスに感染することが明らかになった(Roux et.al.,1989)。
【0109】
J.ベクターによる送達および細胞の形質転換
本発明に使用されるオルガネラ、細胞、組織または生体を形質転換するために核酸を送達する好適な方法は実質的に、核酸(たとえば、DNA)をオルガネラ、細胞、組織または生体に導入できるのであれば、本明細書に記載の、あるいは当業者に知られているどのような方法でもよいと考えられる。こうした方法として、エキソビボでのトランスフェクション(Wilson et.al.,1989,Nabelら、1989)、マイクロインジェクション(Harland and Weintraub,1985;参照によって本明細書に援用する米国特許第5,789,215号)などの注射(それぞれ参照によって本明細書に援用する米国特許第5,994,624号、同第5,981,274号、同第5,945,100号、同第5,780,448号、同第5,736,524号、同第5,702,932号、同第5,656,610号、同第5,589,466号および同第5,580,859号)などによるDNAの直接送達;エレクトロポレーション(参照によって本明細書に援用する米国特許第5,384,253号;Tur−Kaspa et.al.,1986;Potter et.al.,1984);リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb,1973;Chen and Okayama,1987;Rippe et.al.,1990);DEAEデキストランに続くポリエチレングリコールの使用(Gopal.,1985);直接音波負荷(Fechheimer et.al.,1987);リポソームによるトランスフェクション(Nicolau and Sene,1982;Fraley et.al.,1979;Nicolau et.al.,1987;Wong et.al.,1980;Kaneda et.al.,1989;Kato et.al.,1991)および受容体を介したトランスフェクション(Wu and Wu,1987;Wu and Wu,1988);微粒子銃(それぞれ参照によって本明細書に援用する国際公開第94/09699号および同第95/06128号;米国特許第5,610,042号;同第5,322,783号 同第5,563,055号、同第5,550,318号、同第5,538,877号および同第5,538,880号);炭化ケイ素繊維による撹拌(Kaeppler et.al.,1990;それぞれ参照によって本明細書に援用する米国特許第5,302,523号および同第5,464,765号);アグロバクテリウムによる形質転換(それぞれ参照によって本明細書に援用する米国特許第5,591,616号および同第5,563,055号);PEGによるプロトプラストの形質転換(Omirulleh et.al.,1993;それぞれ参照によって本明細書に援用する米国特許第4,684,611号および同第4,952,500号);乾燥/阻害によるDNAの取り込み(Potrykus et.al.,1985)およびこうした方法の任意の組み合わせがあるが、これに限定されるものではない。こうした技法を用いて、オルガネラ(単数または複数)、細胞(単数または複数)、組織(単数または複数)または生体(単数または複数)を安定に形質転換しても、一過性に形質転換してもよい。
【0110】
V.治療方法
A.医薬調製物
本発明の方法に使用する治療用組成物については、薬理学的に許容される形に製剤化してもよい。「薬学的または薬理学的に許容される」という語句は、必要に応じてヒトなどの動物に投与したとき、有害反応、アレルギー反応または他の有害な反応を引き起こさない分子的実体および組成物をいう。少なくとも1種のDN RTEF−1ポリペプチドまたは核酸活性成分を含む医薬組成物の調製については、参照によって本明細書に援用するRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.Mack Printing Company,1990に例示されているように、本開示によって当業者に知られることになる。さらに、動物(ヒトなど)への投与では、調節物は、FDAの生物学的基準(FDA Office of Biological Standards)が求めるような無菌性、発熱性、一般的な安全性および純度基準に適合する必要があることは言うまでもない。
【0111】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容されるキャリア」には、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、酸化防止剤、防腐剤(たとえば、抗菌薬、抗真菌薬)、等張剤、吸収遅延剤、塩類、防腐剤、薬剤、薬剤安定剤、ゲル、バインダー、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、着香剤、色素、当業者に知られているような同様の材料およびそれらの組み合わせが含まれる(たとえば、参照によって本明細書に援用するRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,1990を参照されたい)。薬学的に許容されるキャリアは、好ましくはヒトへの投与用に製剤化されている。一方、ある実施形態では、イヌなどの非ヒト動物への投与用に製剤化されているが、(たとえば、政府規制により)ヒトへの投与が認められない薬学的に許容されるキャリアの使用が望ましい場合がある。キャリアが活性成分と不適合でない限り、従来のどのようなキャリアも治療用組成物または医薬組成物での使用を意図している。
【0112】
被検体に投与される本発明の組成物の実際の投薬量については、患者の体重、状態の重症度、処置対象の病型、過去または現在の治療介入、特発性および投与経路など、身体的および生理的要因から判定することができる。いずれにしろ、投与に責任を負う開業医が、組成物中の活性成分(単数または複数)の濃度および個々の被検体に対する適切な用量(単数または複数)を判定することになる。
【0113】
ある実施形態では、医薬組成物は、たとえば、少なくとも約0.1%の活性化合物を含んでもよい。他の実施形態では、活性化合物は、1単位の重量の約2%〜約75%または約25%〜約60%、さらに、たとえば、そこから導き出せる任意の範囲を含んでもよい。他の非限定的な例では、用量はまた、1回の投与につき約1マイクログラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重、約10マイクログラム/kg/体重、約50マイクログラム/kg/体重、約100マイクログラム/kg/体重、約200マイクログラム/kg/体重、約350マイクログラム/kg/体重、約500マイクログラム/kg/体重、約1ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム/kg/体重、約10ミリグラム/kg/体重、約50ミリグラム/kg/体重、約100ミリグラム/kg/体重、約200ミリグラム/kg/体重、約350ミリグラム/kg/体重、約500ミリグラム/kg/体重から、約1000mg/kg/体重またはそれ以上、さらにそこから導き出せる任意の範囲を含んでもよい。本明細書に記載した数字から導き出せる範囲の非限定的な例では、上述の数字に基づき、約5mg/kg/体重〜約100mg/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重〜約500ミリグラム/kg/体重などの範囲を投与することができる。
【0114】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、哺乳動物の眼への使用に好適である。たとえば、この製剤は、溶液、懸濁液またはゲルであってもよい。いくつかの実施形態では、この組成物を、硝子体内埋め込み製剤のような生分解性埋め込み製剤または結膜表面に添加するように設計された眼内挿入物などの眼内挿入物により投与する。いくつかの実施形態では、治療薬は、医療装置または埋め込み型装置をコーティングしている。
【0115】
好ましい態様では、滴剤形態の水溶液を用いて本発明の製剤を眼に使用する。こうした滴剤については、単回投与アンプルから送達してもよい。単回投与アンプルは、好ましくは無菌であり、したがって、製剤には静菌成分が不要な場合がある。あるいは、好ましくは送達の際に製剤から防腐剤を抽出する装置を含んでいてもよい反復投与ビンから、滴剤を送達しても構わない。そうした装置は、当該技術分野において公知である。
【0116】
他の態様では、目蓋の下に添加する溶解可能な挿入物になっている濃縮ゲルまたは類似のビヒクルとして本発明の成分を眼に送達してもよい。
【0117】
さらに、本発明の治療用組成物は、液体溶液あるいは懸濁液として注射用組成物の形で投与してもよい;注射前の液体中の溶液または懸濁液に好適な固形を調製してもよい。こうした調製物は、さらに乳化しても構わない。こうした目的のための典型的な組成物は、薬学的に許容されるキャリアを含む。たとえば、この組成物は、リン酸塩緩衝生理食塩水1ミリリットル当たりヒト血清アルブミンを10mg、25mg、50mgまたは最大約100mg含んでもよい。他の薬学的に許容されるキャリアとしては、水溶液、塩類、防腐剤、緩衝液および同種のものなどの無毒性の賦形剤が挙げられる。
【0118】
非水性溶媒の例として、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油およびエチルオレアートなどの注射用有機エステルがある。水性キャリアには、水、アルコール/水溶液、食塩水溶液、塩化ナトリウム、リンゲルデキストロースなどの非経口ビヒクルがある。静脈内ビヒクルには、液体および栄養補液がある。防腐剤としては、抗菌剤、酸化防止剤、キレート化剤および不活性ガスが挙げられる。様々な成分医薬組成物のpHおよび厳密な濃度は、周知のパラメーターによって調整する。
【0119】
さらなる製剤は、経口投与に好適である。経口製剤は、たとえば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムおよび同種のものなどの典型的な賦形剤を含む。この組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、徐放性製剤または散剤の形態をとる。経路が局部の場合、形態は、クリームでも、軟膏剤でも、軟膏でも、噴霧剤でもよい。
【0120】
治療用組成物の有効量については、初期の目的に基づき判定する。「単位用量」または「投薬量」という語は、被検体に使用するのに好適な物理的に分離した単位をいい、各単位は、その投与、言い換えれば、適切な経路および処置レジメンに伴い、上記で論じた所望の応答が得られるように計算された所定量の治療用組成物を含む。処置剤の数と単位用量とに従って投与される量は、所望の保護作用によって異なる。したがって、場合によっては、たとえば、被検体の血清中インスリンまたはグルコースのレベルの変化を測定して投薬量を決定してもよい。
【0121】
また、治療用組成物の正確な量は開業医の判断によっても左右される場合があり、1人1人異なる。用量に影響する要因として、患者の身体的および臨床的状態、投与経路、処置の初期の目的(特定の血清中インスリンまたはグルコース濃度の達成と症状の軽減との対比など)ならびに個々の治療物質の効力、安定性および毒性が挙げられる。
【0122】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、哺乳動物の眼に使用するのに好適である。たとえば、この製剤は、溶液でも、懸濁液でも、ゲルでもよい。いくつかの実施形態では、この組成物を、硝子体内埋め込み製剤のような生分解性埋め込み製剤または結膜表面に添加するように設計された眼内挿入物などの眼内挿入物により投与する。いくつかの実施形態では、治療薬は、医療装置または埋め込み型装置をコーティングしている。
【0123】
好ましい態様では、滴剤形態の水溶液を用いて本発明の製剤を眼に使用する。こうした滴剤については、単回投与アンプルから送達してもよい。単回投与アンプルは、好ましくは無菌であり、したがって、製剤には静菌成分が不要な場合がある。あるいは、好ましくは送達の際に製剤から防腐剤を抽出する装置を含んでいてもよい反復投与ビンから、滴剤を送達しても構わない。そうした装置は、当該技術分野において公知である。
【0124】
他の態様では、目蓋の下に添加する溶解可能な挿入物になっている濃縮ゲルまたは類似のビヒクルとして本発明の成分を眼に送達してもよい。
【0125】
B.追加の療法
上記のように、ある態様では、他の血管形成阻害療法または抗癌療法と組み合わせて、あるいはそれと併用して本発明の治療方法を用いてもよい。
【0126】
1.化学療法
本発明のある実施形態では、化学療法剤と併用してDN RTEF−1を投与する。本発明による方法には、たとえば、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ニトロースウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合剤、タキソール、パクリタキセル、ゲムシタビエン、ナベルビン、ファルネシル−タンパク質タンスフェラーゼ阻害剤、トランス白金、5−フルオロウラシル、ビンクリスチン、ベルケイド、ビンブラスチンおよびメトトレキサートまたは前記の任意のアナログまたは誘導変異体を用いてもよい。
【0127】
2.放射線治療
本発明のある種のさらなる実施形態では、DN RTEF−1組成物を用いて放射線療法に対する細胞の感受性を高める。放射線治療として、たとえば、γ線、X線および/または腫瘍細胞への放射性同位元素の直接送達が挙げられる。本発明の方法によれば、場合によっては、マイクロ波および/またはUV照射を用いても構わない。X線の線量範囲は、長期間(3〜4週間)の場合、1日50〜200レントゲン、単回照射では2000〜6510レントゲンである。放射性同位元素の投与量は種々様々であり、同位元素の半減期、放射される放射線の強度およびタイプならびに新生細胞による取り込みによって異なる。
【0128】
「接触させる」および「曝露する」という語は、本明細書で細胞に用いる場合、治療用コンストラクトと化学療法剤または放射線治療剤とを標的細胞に送達したり、標的細胞の近位に直接導入したりするプロセスをいう。細胞の殺傷または増殖停止を実現するには、細胞を殺傷する、あるいは細胞分裂を阻止するのに効果的な量を組み合わせて、2つの薬を細胞に送達する。
【0129】
3.免疫療法
免疫療法は通常、癌細胞を標的として破壊する免疫エフェクター細胞および分子の力を借りる。免疫エフェクターは、たとえば、腫瘍細胞の表面上の何らかのマーカーに対して特異的な抗体であってもよい。抗体は単独で治療のエフェクターとしての役割を果たしてもよいし、実際に細胞の殺傷を行う他の細胞をリクルートしてもよい。また、抗体については、薬剤またはトキシン(化学療法薬、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)にコンジュゲートし、単に標的化剤の機能を果たすだけでもよい。あるいは、エフェクターは、直接的あるいは間接的に腫瘍細胞標的と相互作用する表面分子を含むリンパ球であってもよい。細胞傷害性T細胞およびNK細胞など、様々なエフェクター細胞がある。
【0130】
したがって、免疫療法を遺伝子治療と併用して併用療法の一部として用いてもよい。併用療法の一般的なアプローチを以下で考察する。通常、腫瘍細胞は、標的化に適した、すなわち、他の大部分の細胞には存在しない何らかのマーカーを持っているはずである。多くの腫瘍マーカーが存在しており、本発明においては、そのどれも標的化に好適である。一般的な腫瘍マーカーとして、癌胎児性抗原、前立腺特異的抗原、泌尿器腫瘍関連抗原、胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG−72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erb B、Her−2/neu、gp240およびp155が挙げられる。
【0131】
4.遺伝子
なお別の実施形態では、本発明の細胞標的化コンストラクトの前、後または同時に治療用ポリヌクレオチドを投与する遺伝子治療。DN RTEF−1を、1つまたは複数の他の遺伝子産物をコードするベクターと併用して送達すれば、標的組織に対する過剰増殖抑制作用が総合される場合がある。本発明には種々の遺伝子が包含され、たとえば、DN RTEF−1組成物と併用してp53をコードする遺伝子を送達してもよい。
【0132】
5.手術
癌患者の約60%が、予防的手術、診断的手術または病期分類的手術、治療的手術および対症的手術など、ある種の手術を受ける。治療的手術とは癌の処置であり、本発明の処置、化学療法、放射線治療、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫療法および/または代替療法など、他の療法と併用して行ってもよい。本発明のDN RTEF−1療法剤(therapy)は、単独で用いても、切除前に腫瘍の大きさを縮小させるようなネオアジュバント療法として細傷害性療法と組み合わせて用いてもよいし、あるいは、腫瘍の一部または全部の摘出後に手術台を滅菌するなど、術後アジュバント療法として用いてもよい。
【0133】
治療的手術は、癌性組織の全部または一部を物理的に除去、切除および/または破壊する切除を含む。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することをいう。手術による処置には、腫瘍切除以外にも、レーザー手術、冷凍手術、電気手術および顕微手術(Mohs手術)がある。さらに、本発明を、表在性癌、前癌または周辺の正常組織の除去と併用して用いてもよいことも意図している。
【0134】
癌性の細胞、組織または腫瘍全体の一部を切除する際、体内に空洞が形成されることある。この領域については、追加の抗癌療法剤(therapy)を用いて、灌流、直接注射または局所投与により処置を行ってもよい。こうした処置を、たとえば、1、2、3、4、5、6または7日間ごとに、あるいは1、2、3、4および5週間ごとに、あるいは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12ヶ月間ごとに繰り返してもよい。この処置剤の投薬量も様々であって構わない。
【0135】
6.他の薬
さらに、本発明と併用して、あるいは前述した任意の他の癌療法と組み合わせて、ホルモン療法を用いてもよい。乳癌、前立腺癌、卵巣癌または子宮頸癌など、ある種の癌の処置にホルモンを用いれば、テストステロンまたはエストロゲンなどの一定のホルモンのレベルを低下させたり、その作用を遮断させたりできる。この処置は、処置の選択肢として、または転移のリスクを低下させるため、少なくとも1つの他の癌療法と組み合わせて用いられることが多い。
【実施例】
【0136】
以下に、本発明の種々の態様をさらに説明するため、実施例を記載する。以下の実施例に開示される技法は、本発明の実施に際してよく機能する、本発明者が発見した技法および/または組成物であり、したがって、本発明の実施に好ましい方法を構成すると考えられるものと当業者は理解すべきである。しかしながら、本開示に照らして、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、開示した個々の実施形態において多くの変更が可能であり、やはり類似または同様の結果が得られることも当業者は理解すべきである。
【0137】
(実施例1)
実験方法
初代眼血管内皮細胞の単離および培養
ヒト細胞および組織の使用についてはすべて、承認された施設内審査委員会のプロトコルに準じて行われた。確立したプロトコルを用いて、ヒト網膜から単離した内皮細胞の初代培養を樹立し、mRNAの供給源として使用した(Kandaら、1998;Silvermanら、2005)。死後24時間以内の匿名のドナー(Lion’s Eye Bank,Portland,OR)からヒト死体眼を得た。ドナーは、循環器疾患または眼疾患の既往がなく、年齢は16〜42歳であった。簡単に説明すると、こうした網膜および虹彩組織を無菌的に切開し、ドナーの眼から分離し、0.2%コラゲナーゼ(Sigma Chemical Co,,St Louis,MO)で消化し、マウスモノクローナル抗ヒトCD31抗体でコートした磁性ビーズ(Dynal Biotech,Inc.,Lake Success,NY)を用いて、内皮細胞(EC:endothelial cell)を他の細胞型から単離した。ECを、10%ウシ胎仔血清および抗生物質を補充した完全MCDB−131培地(Clonetics/BioWhittaker, Walkersville,MD)で培養した。2〜5回継代細胞を使用した。磁性ビーズによる分離を2回実施後、EC培養を形態学的基準、CD31およびvon Willebrand因子の発現ならびにアセチル化低密度リポタンパク質の取り込みで評価したところ、99.5%以上純粋であった(Silvermanら、2005)。
【0138】
低酸素の誘導。
【0139】
直径60mmの培養皿で網膜および虹彩内皮細胞を80%コンフルエンスまで培養し、次いで気密なモジュレーターインキュベーターチャンバー(Billups−Rothenberg,Del Mar,CA)に導入した。チャンバーに、1%O、5%COおよび残りがNの混合ガスを正確に5分間流し、次いでチャンバーをシールし、37℃の加湿インキュベーターに入れた。8時間後、チャンバーに再び低酸素混合ガスを5分間流し、シールし、8時間さらにインキュベートしてから、もう一度流し、さらに8時間インキュベートした時点で、全RNAを単離した。
【0140】
全RNAの抽出およびRT−PCR
製造者のプロトコルに従い、RNAqueousキット(Ambion Inc,Austin,TX)を用いて全RNAを単離し、このRNA50ngを用いてオリゴdTプライマーで第一鎖を合成した(Superscript II,Stratagene,La Jolla,CA)。第二鎖PCR増幅には、標準的な条件を用いて、公開されたRTEF−1配列(NCBI受託# U63824)から設計した以下のプライマー、F1:5’−ttggagggcacggccggca−3’(配列番号20)およびR1:5’−tcattctttcaccagcctgta−3’(配列番号21)を使用した。増幅産物を電気泳動にかけ、1.5%アガロースゲルで可視化し、続いてゲルから精製し(Qiaquick Gel Extraction,Qiagen,Valencia,CA)、Abi310自動シーケンサーを用いて標準的なジデオキシヌクレオチドシーケンシングを行った。
【0141】
レポーター遺伝子解析
全長RTEF−1アイソフォームを、pcDNA3.1発現プラスミド(Invitrogen,Carlsbad,CA)に定方向にクローニングした。予想されるTTG開始コドンをフォワードプライマー配列内のATGに変換した。54bpの5’UTRおよび転写開始部位の上流1,082bpを含む1,136bpのヒトVEGF5’近位プロモーターフラグメントを、pSEAPレポータープラスミド(Clontech,Mountain View,CA)内の分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP:secretable alkaline phosphatase)遺伝子に5’側からクローニングした。欠失を持つプロモーターフラグメントを、最初にプロモーターの5’末端およびプロモーターの3’末端を増幅し、続いてこの増幅産物をライゲートして構築した。次いで、目的の領域を欠失したライゲートした産物を増幅し、プロモーターを持たないpSEAPベクターに定方向にクローニングした。トランスフェクション試験の前に検証のため、すべてのコンストラクトについて両鎖の配列決定を行った。
【0142】
トランスフェクションアッセイ。
【0143】
Amaxaヌクレオフェクション装置(Amaxa Inc,Gaithersburg,MD)、Amaxa試薬および標準的な製造者のプロトコルを用いて、トランスフェクションを行った。簡単に説明すると、293T細胞を、10%DMEM培地で80%コンフルエントまで培養し、トリプシン処理して回収した。ヌクレオフェクションごとに100万個の細胞を用いた。100万個の細胞を100ulのNucleofect溶液および全プラスミドDNA5μl(2μgを含む)に再懸濁し、エレクトロポレーションを行い(ヌクレオフェクション装置program #A023)、その後すぐに予め温めておいた1mlの培地に再懸濁し、6ウェルプレートの単一ウェルに播種した。細胞を16〜18時間回復させ、培地を慎重に除去し、ちょうど500mlの新鮮な培地と交換した。正確にインキュベーションから6時間後、150μlの培地を慎重に取り除き、その25μlを直ちにアッセイするか、あるいはその後のSEAP解析に備えて−20℃で保存した。25μlの培地アリコート3個を用いて、製造者のプロトコル(BD Biosciences,San Jose,CA)に従い、SEAP解析を行い、3つの数値すべてのSEAP値を平均して三重反復実験を比較した。
【0144】
1回の実験でコトランスフェクションをそれぞれ少なくとも3回繰り返し、別のプラスミド調製物(n=9〜12)で各実験を再び独立にさらに2回繰り返した。代表的な実験を図に示す。統計解析はスチューデントのt検定(両側)を用いて行い、1回の実験で3または4サンプルを比較した。多重比較はボンフェローニ補正を用い、P<0.01の場合に有意と判定した。
【0145】
コトランスフェクションアッセイ(2つのプラスミドを同じチューブで一緒にトランスフェクトした)ごとに、各プラスミドのコピー数を、使用した最大のプラスミドのコピー数と同等になるように調整した。プロモーターを持たないpSEAPベクター、およびインサートのないpcDNA3.1発現プラスミドを陰性対照とした。ヌクレオフェクション実験ごとに、2つの陽性対照プラスミド、SV40プロモーターpSEAPプラスミドおよびpGFPmaxベクターを同時にトランスフェクトして、効率的かつ同等のトランスフェクション効率を確保した。SV40プロモーターを持つpSEAPプラスミドをその後のSEAPタンパク質解析の陽性対照とした。また、pGFPmaxベクターも、各バッチの細胞のトランスフェクションの陽性対照とし、一貫したトランスフェクション効率を目視により確認できるようにした。293T細胞を用いたすべての実験では、ヌクレオフェクションによるトランスフェクション効率が一貫して80〜90%であった。
【0146】
(実施例2)
低酸素および正常眼血管内皮細胞内に存在するRTEF−1の新規なアイソフォーム
F1およびR1プライマー対を用いて、初代のヒト網膜血管内皮細胞(PRVEC:primary retinal vascular endothelial cell)および虹彩血管内皮細胞(PIVEC:primary iris vascular endothelial cell)の培養から調製したcDNAの増幅を行ったところ、約1305bpおよび936bpの産物が得られた(図1B)。同じプライマー対を用いて、mRNAを単離する前に24時間かけて低酸素状態下で培養しておいたPRVECから単離したcDNAの増幅を行ったところ、さらに約447bpの産物が得られた(図1B)。651bpのcDNAを、ヒト初代網膜血管内皮細胞(PRVEC)から単離した。
【0147】
シーケンシング解析により、最も大きな産物は、開始コドンから終止コドンまで1305bpの全長RTEF−1遺伝子(配列番号1)と同一であり、一方、936bp、651bpおよび447bpの転写物は、1305bpの産物の選択的にスプライシングされた転写物であることが確認された。コドンに関する以下の記載は、435コドンからなる1305bpの転写物の配列に従って番号を付けてある。このタンパク質の開始コドンは1、終止コドンは435である。1305bpの転写物のタンパク質部分をコードすると予想される11個のエクソンのうちの4個、エクソン5〜8は、936bp体からスプライシングされる(図1A)。447bpアイソフォームではエクソン5が欠落しているばかりでなく、珍しくエクソン7の中央においてインフレームでスプライシング現象が起き、エクソン7のGln−83からエクソン12内のコドンGln−425がスプライシングされる(図1A)。651bpのアイソフォームの場合、エクソン3の5’部分がエクソン10内のスプライス受容部位に直接スプライスされ、それにより転写物からエクソン4、5、6、7、8および9が完全に取り除かれる。
【0148】
1305bpの産物は、ヒトの心臓、骨格筋、膵臓および肺組織で最初に同定された転写エンハンサー因子−1関連(RTEF−1)遺伝子との同一性を示す(Stewartら、1996)。他の2つのRTEFアイソフォーム、エクソン5がAsp−119からGly−161まで欠落している変異体2(受託#NM_201441)およびMet−130で下流のタンパク質開始部位を用いる変異体3(受託#NM_201443)は、以前に報告されている。ヒト眼血管細胞内で同定された936bp、651bpおよび447bpのアイソフォームは、これまで他のヒト組織からはまったく同定されていない。
【0149】
全長1305bpの転写物は、434アミノ酸を含むポリペプチドをコードし、予想される分子量は約48.6kDaである。このポリペプチドは、50個の強塩基性アミノ酸(K、R)、47個の強酸性アミノ酸(D、E)、133個の疎水性アミノ酸(A、I、L、F、W、V)および124個の極性アミノ酸(N、C、Q、S、T、Y)を含む。予想される等電点は8.248であり、予想される電荷はpH7.0で4.799である。同定されたRTEF−1アイソフォームはそれぞれ非標準的なTTG(UUG)開始コドンを用いるため、アミノ末端はリジン残基であると思われる。
【0150】
936bpの転写物は、311アミノ酸を含むポリペプチドをコードし、予想される分子量は約35.6kDaである。このポリペプチドは、40個の強塩基性アミノ酸(K、R)、38個の強酸性アミノ酸(D、E)、93個の疎水性アミノ酸(A、I、L、F、W、V)および92個の極性アミノ酸(N、C、Q、S、T、Y)を含む。予想される等電点は8.037であり、予想される電荷はpH7.0で3.458である。
【0151】
651bpの転写物は、216アミノ酸を含むポリペプチドをコードし、予想される分子量は約24.4kDaである。このポリペプチドは、22個の強塩基性アミノ酸(K、R)、27個の強酸性アミノ酸(D、E)、60個の疎水性アミノ酸(A、I、L、F、W、V)および71個の極性アミノ酸(N、C、Q、S、T、Y)を含む。予想される等電点は6.039であり、予想される電荷はpH7.0で約−4.046である。この651bpのアイソフォームは、Thr−92後のエクソン3内からインフレームでエクソン10の中央のSer−311までスプライシングされる(番号はすべて、最も大きいRTEF−1アイソフォーム(配列番号1)に基づく)。したがって、651bpのアイソフォームは、エクソン2の全部、エクソン3の大部分(エクソン3の22アミノ酸のうち5アミノ酸が欠損)、エクソン10の大部分(エクソン10の最初の11アミノ酸が欠損)および完全なエクソン11および12を含む。この結果、TEA結合ドメインの大部分は保持されるものの、通常72アミノ酸TEAドメイン内に含まれる、予想される3個のαへリックスの1個および推定核移行シグナル(Leu−105からLys−109)が欠損している。651bpのアイソフォームではさらに、プロリンリッチドメイン(PRD:proline rich domain)活性化ドメインおよび最初のSTYドメイン(Ser−253からSer−271)も欠損している。興味深いことに、このエクソン10のスプライシング現象は、このエクソン内のSer−11(すなわち、エクソン10の11番目のアミノ酸)から開始され、ちょうどそこから2番目のSTYドメイン(Ser−253からSer−336)が始まる。このスプライシング現象により、推定核移行シグナルが欠損した部分的TEAドメインが直接STYドメインと融合される。
【0152】
447bpの転写物は148アミノ酸を含むポリペプチドをコードし、予想される分子量は約16.5kDaである。このポリペプチドは、22個の強塩基性アミノ酸(K、R)、17個の強酸性アミノ酸(D、E)、43個の疎水性アミノ酸(A、I、L、F、W、V)および40個の極性アミノ酸(N、C、Q、S、T、Y)を含む。予想される等電点は9.444であり、予想される電荷はpH7.0で5.561である。
【0153】
936bpおよび447bpのアイソフォームの予想されるタンパク質配列は共に、予想される3個のαへリックスおよび推定核移行シグナル(Leu−105からLys−109)を含有する72アミノ酸TEAドメイン(Asp−38からLys−109)を含む。しかしながら、C末端ドメインでは、エクソン7の最後の6アミノ酸からエクソン8の最初の19残基にまたがるプロリンリッチドメイン(Pro−189からPro−213)が447bpのアイソフォームから欠損している(図1A)。さらに、447bpのアイソフォームは、1個はエクソン9内に位置し、もう1個がエクソン10内にある2個のSTYドメイン(Ser−253からSer−271およびSer−311からSer−336)も欠損している(図1A)。このSTYドメインはセリン、トレオニンおよびチロシンなどのヒドロキシル基を持つ残基に富んだ領域である。
【0154】
(実施例3)
VEGFプロモーターからの発現に対する新規なRTEF−1アイソフォームの作用
1305bpのアイソフォームに由来するポリペプチドは、ウシ大動脈内皮細胞において、Sp1部位への結合を介してVEGFの転写の刺激因子として働くことが明らかになっている(Shieら、2004)。このため、新しいアイソフォームもヒトVEGFプロモーターからの発現を刺激できるかどうかを調べる研究を行った。54bpの5’UTRおよび転写開始部位の上流1,082bpからなる、ヒトVEGF遺伝子の5’近位プロモーターをpSEAPレポータープラスミドにクローニングし、RTEF−1アイソフォームをpcDNA発現ベクターにクローニングした。眼血管内皮細胞の初代培養へのプラスミドDNAの核トランスフェクトは難しいため、トランスフェクション研究では代わりの細胞株として293T細胞を用いた。VEGFプロモーター−レポータープラスミドにRTEF−1アイソフォームを1つずつコトランスフェクトしたところ、1305bp、936bpおよび447bpのアイソフォームは、VEGFプロモーターからレポーターの発現を上方制御することが示される(図2のレーン1、2および4)。しかしながら、興味深いことに、651bpのアイソフォームは、VEGFプロモーターからの発現を下方制御した(図2のレーン3)。全長1305bpのRTEF−1産物および936bpのアイソフォームは、バックグラウンドよりも3〜4倍有意に発現を増強し(P=0.001)、多重検定の補正後に、この2つのアイソフォーム間に差は認められなかった(P=0.01)。447bpのアイソフォームは、バックグラウンド発現よりも約10〜15倍(平均12×)発現を刺激した(P=0.0003)。コトランスフェクション実験を3回に分けて3回ずつ繰り返したが、結果は同じであった。
【0155】
651bpのアイソフォーム(図2のレーン3)は、VEGFプロモーターからの発現を対照(図2のレーン5)に対して有意に下方制御した(P=0.0026)。驚いたことに、651bpのアイソフォームの改変体である、以下に記載するSS−651bp−RMR産物(図2のレーン6)は、対照に対してVEGFプロモーターからの発現を抑制したばかりでなく(P=0.0009)、651bpのアイソフォームよりも発現の阻害作用が一層強力であった(P=0.0008)。651bpのアイソフォーム(図2のレーン3)は、対照で認められた発現と比較して約3倍発現を阻害したのに対し、SS−651bp−RMR体(図2のレーン6)は、その時の対照よりも約10倍発現を阻害した(図2のレーン5に示す)。SS−651bp−RMRの効力は、この分子が、産生細胞から分泌されると共に、隣接する細胞に移入する能力があることによる可能性が高い。
【0156】
ss−651−RMR bp RTEF−1は、N末端でヒトIL−2分泌シグナル配列(配列番号22)に融合し、C末端で内部移行部分(配列番号23)に融合したRTEF−1の651bpのアイソフォームのコード領域を含む。これにより、発現細胞から分泌され得、周囲の細胞への移入が可能な「ss−651−RMR」産物が得られた。
【0157】
(実施例4)
Sp1エレメントは、最大VEGFプロモーター活性には必要であるが、RTEFエンハンサー活性には必須なものではない
従来の研究から、全長RTEF−1アイソフォームはSp1エレメントに結合し、Sp1エレメントにVEGFプロモーター活性を増強させることが明らかになった。以前の研究では、このSp1部位の突然変異が−97〜−89bpにあると、RTEF−1エンハンサー活性が喪失した(Shieら、2004)。同じ研究では、−86〜−58bpの同じ領域内の他の3つのSp1部位が、RTEF−1エンハンサー活性に必須ではないことが確認された。新しいRTEF−1アイソフォームがエンハンサー活性にSp1部位を必要とするかどうか調べるため、−113bp〜−58bpの4つのSp1部位をすべて欠失したVEGFプロモーターをpSEAPベクターにクローニングし、各アイソフォームでコトランスフェクトした。全長VEGFプロモーターのバックグラウンドレポーター遺伝子の発現とSp1ネガティブVEGFプロモーターとを比較すると、Sp1エレメントが欠損する場合、レポーター発現が30倍と著しく減少する(図3)。このことから、近位プロモーター内の4個のSp1エレメントの少なくとも1個は、全体の発現の増強に必須であると考えられる。Sp1ネガティブおよび各アイソフォームによるコトランスフェクション実験でも同等レベルの発現の低下が見られた(図3、黒地の棒と白地の棒を比較されたい)。しかしながら、Sp1ネガティブプロモーターアッセイの各アイソフォームによるコトランスフェクション実験では、やはり同じ増強傾向が認められた(図3)。バックグラウンドに対する1305bp、936bpおよび447bpのアイソフォームの増強作用はそれぞれ、3倍、4倍および12倍。したがって、各アイソフォームのバックグラウンドに対する増強レベルは、VEGFプロモーター内にSp1エレメントが存在するどうかに関係なく同じである。
【0158】
651bpのアイソフォームは、VEGFプロモーター内のSp1が欠損していても、やはり対照よりも発現を阻害することができる。したがって、各アイソフォームに対するVEGFプロモーターの制御は同様であり、Sp1エレメントが存在するか否かに関わらず変わらない。651bpのフラグメントは、競合する形でVEGFプロモーターからの1305bp、936bpおよび447bpのアイソフォームのエンハンサー作用を阻害することができる。すなわち、通常VEGFプロモーターからの発現を上方制御する増強作用のある他のアイソフォームのいずれかと併用して651bpを大量に導入すると、一般にそのエンハンサー活性が競合的に阻害される。
【0159】
(実施例5)
651bpのRTEF−1のcDNA由来ポリペプチドにおけるドミナントネガティブ転写活性
651bpのアイソフォームが他のRTEF−1アイソフォームのVEGFプロモーター増強作用に与える作用を調べるため、239Tトランスフェクション実験をさらに行った。簡単に説明すると、細胞に、表記のRTEF−1エンハンサー発現コンストラクト(すなわち、1305bp、936bpまたは447bp)、VEGFレポーターベクターおよび651bpのRTEF−1アイソフォームあるいは空ベクター対照の発現プラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクション後、VEGFプロモーター活性を前述のようにレポーター遺伝子アッセイでアクセスした。この研究の結果を図4に示す。いずれの場合も、RTEF−1アイソフォーム(1305bp、936bpおよび447bp)のVEGFプロモーター活性に対する増強活性は、RTEF−1 651bpのアイソフォームの共発現により抑制された。
【0160】
(実施例6)
RTEF−1cDNA発現ベクターは、細胞中で予想されたポリペプチドを産生する
細胞中で指定のRTEF−1ポリペプチドが発現すること確認するため、293T細胞に、対照(空ベクター)のpcDNA発現ベクターまたは1305bp、936bp、651bpまたは447bpのcDNA配列の発現ベクターをトランスフェクトした。トランスフェクション後、細胞ライセートを、抗RTEF−1抗血清を用いてウエスタンブロットで解析した。抗RTEF−1抗血清については、全長配列のアミノ酸2〜14に対応するRTEF−1ペプチドに対して作製した。ウエスタンブロット用の抗体を、関連ヒトTEAタンパク質に特有であるが、トランスフェクトされたRTEF−1アイソフォームがそれぞれ共有するRTEF−1エピトープに誘導した(図5A)。研究の結果(図5B)から、トランスフェクト細胞では予想されたRTEF−1ポリペプチドが発現されたが、651bpのcDNA由来のポリペプチドの場合、発現レベルが非常に低かったことが明らかになる。
【0161】
(実施例7)
眼組織におけるRTEF−1のインビボ発現
さらに、正常な霊長類の眼組織を用いてRTEF−1アイソフォームの発現を研究した。各タンパク質アイソフォームに結合する抗RTEF−1抗体を用いたウエスタンブロット解析から、ある種の眼の組織でRTEF−1が発現することが明らかになった。RTEF−1の発現は脈絡膜で最も高く、網膜で最も低いようであった(図6A)。質量75kDのマーカーよりも移動が遅かった検出タンパク質産物は、全長RTEF−1(1305bp)アイソフォームであると思われる(図6A、上のパネル)。質量23kDと25kDのマーカーの間で移動している産物は、651bpのアイソフォームから生じたものと考えられる(図6A、下のパネル)。
【0162】
さらなる研究では、CRAOモデルを用いてRT−PCRによりRTEF−1アイソフォームの発現を調査した。その結果から、全長(1305bp)RTEF−1RNAは対照網膜組織に対してCRAO網膜で優先的に発現することが明らかにされた(図6B、レーン1とレーン2を比較されたい)。
【0163】
さらに、眼組織におけるRTEF−1発現の細胞分布を評価するため、RTEF−1結合抗体を用いて眼組織を免疫組織化学で解析した。その結果から、RTEF−1は虹彩、毛様体、視神経および網膜で発現することが明らかにされた(図7A〜B)。
【0164】
(実施例8)
RTEF−1アイソフォームの局在性
RTEF−1アイソフォーム(1305bp、651bpおよび447bp)をそれぞれpMAX−FP−Nベクター(Amaxa Inc,Gaithersburg,MD)にクローニングし、各アイソフォームのカルボキシル末端にそれぞれ別の蛍光タンパク質を融合した。1305bpのアイソフォームは緑色蛍光タンパク質(GFP:green fluorescent protein)と融合したのに対し、651bpのアイソフォームは赤色蛍光タンパク質(RFP:red fluorescent protein)、447bpのアイソフォームは黄色蛍光タンパク質(YFP:yellow fluorescent protein)と融合した。さらに、651bpのアイソフォームを、hIL−2分泌シグナルおよびRMR輸送モチーフを含むpHR−CMV−eGFPベクターにクローニングし、ss−651−RMR RTEF−1−GFP融合タンパク質を作製した。各コンストラクトをシーケンシング解析で確認した。ヒト293T細胞を、1ウェル当たり3×10細胞の密度で6ウェルプレートに蒔いた。細胞を、10%FBSおよび1×濃度のペニシリン−ストレプトマイシン−アムホテリシンを補充したDMEM培地で80%コンフルエントまで増殖させた。各コンストラクトを、Amaxa Nucleofecter II器具(Amaxa Inc,Gaithersburg,MD)を用いてエレクトロポレーションにより処理した293T細胞にトランスフェクトした。細胞を、5%CO、37℃で24時間インキュベートした。トランスフェクション反応をすべて蛍光活性用の蛍光顕微鏡で観察し、写真撮影してRTEF−1タンパク質アイソフォームの局在パターンを記録した。
【0165】
蛍光顕微鏡解析からは、核移行シグナルを含む2つのVEGF−エンハンサーRTEF−1アイソフォーム(1305bpおよび447bp)が細胞の核に局在していたことが確認される。さらに、阻害性アイソフォーム651は、細胞質中、核の外側および周囲に集中していることが分かった。しかしながら、hiL−2分泌シグナル配列およびRMR輸送モチーフを含むss−651−RMR RTEF−1アイソフォームは細胞核に局在していることが明らかになった。
【0166】
RTEF−1アイソフォームの局在パターンを確認するため、RTEF−1アイソフォームをトランスフェクトした細胞を用いて細胞画分ごとにウエスタンイムノブロット分析を行った。この研究では、細胞に2μgのRTEF−1アイソフォームをトランスフェクトし、24時間増殖させた。次いで、培地を無血清のDMEMに交換し、さらに48時間増殖させた。細胞画分を単離し、回収した。培地をTCAで処理して培地中の残留タンパク質を沈殿させた。3つのアイソフォームを識別しないRTEF−1特異的抗体を1/5000の濃度で用いてRTEF−1タンパク質の存在を検出した。核画分、細胞質画分および培地を、pcDNA空ベクター、または1305bp、936bp、651bp、ss−651−RMRもしくは447bpのRTEF−1変異体のpcDNA発現ベクターをトランスフェクトした細胞由来のサンプルを用いて解析した。その結果から、VEGFエンハンサーアイソフォーム1305bpおよび447bpが染色体DNAへの結合を介してVEGFの発現を増強することが明らかになった。一方、驚くべきことに、651bpのRTEF−1ネガティブドミナントアイソフォームは細胞質に局在していても、核に局在するエンハンサーRTEF−1アイソフォームの作用を競合的に阻害することができる。
【0167】
(実施例9)
RTEF−1タンパク質はヒト眼のメラノーマ細胞内に存在する
VEGFは、様々な眼の血管新生疾患の発症および眼腫瘍の樹立に関与する重要なタンパク質である。VEGF遺伝子の発現を調節するタンパク質を同定すれば、眼腫瘍の原因および進行の理解に資する。成人に最も好発する眼内癌は眼のメラノーマ(OM:ocular melanoma)であり、局部組織の損傷、視力喪失を引き起こす恐れがあり、転位しやすいため、患者の罹患率および死亡率に大きな影響を与える。
【0168】
様々なヒトRTEF−1アイソフォームは、VEGF5’近位プロモーター領域からの発現を示差的に増強できる。血管形成、炎症および腫瘍進行がVEGFの上方制御を介して起こるため、本発明者らは、メラノーマなどの血管新生したヒト眼腫瘍、場合によっては眼以外の他の腫瘍の発症および進展にRTEF−1が関わっている可能性があると考える。本発明者らは、ヒト眼のメラノーマ細胞内にRTEF−1タンパク質が存在するかどうかを免疫組織化学法で調べた。メラノーマ腫瘍を含むヒト眼の切片を、ヒトRTEF−1タンパク質を認識する抗体(ただし、3つのアイソフォームを識別しない)で染色した。切片を含むスライドを顕微鏡で調べた。その結果、ヒト眼のメラノーマ細胞内にRTEF−1タンパク質(赤色染色として観察)が存在することが明らかになった。このメラノーマ細胞はメラニン色素により褐色をしている。赤色および褐色染色した細胞は、RTEF−1タンパク質を含む腫瘍細胞である。こうした腫瘍細胞に高レベルのRTEF−1が認められることから、こうした細胞内でRTEF−1がVEGF遺伝子を上方制御し、細胞増殖および腫瘍増大を促進する可能性があることが示唆される。
【0169】
したがって、こうしたメラノーマ細胞で651bpのRTEF−1アイソフォームを用いれば、VEGF発現を抑制し、この種の眼腫瘍の増殖を阻害する可能性がある。651bpのRTEF−1アイソフォームの使用は、VEGF刺激性の腫瘍増大に依存する他の癌の治療にも有益かもしれない。
【0170】
本明細書に開示され、特許請求の範囲に記載された組成物および方法はすべて、本開示に照らして過度の実験を行うことなく作製し、実行することができる。好ましい実施形態によって本発明の組成物および方法を記載してきたが、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、組成物および方法ならびに本明細書に記載の方法のステップまたはステップの順序に変更を加えてもよいことが当業者には明らかであろう。より詳細には、同一または類似の結果が得られると考えられる場合、本明細書に記載の薬の代わりに化学的および生理学的に関係するある種の薬を用いてもよいことも明らかであろう。こうした当業者に明らかな類似の置換形態および変更形態はすべて、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の精神、範囲および概念内にあると見なす。
【0171】
参考文献
以下の参考文献は、例示的な手順の詳細を提供したり、本明細書に記載の例示的な手順の詳細を捕捉する他の詳細を提供したりする範囲で、参照によって個々に本明細書に援用する。
【0172】
【化6】

【0173】
【化7】

【0174】
【化8】

【0175】
【化9】

【0176】
【化10】

【0177】
【化11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチドであって、1つまたは複数の内部欠失を含むRTEF−1アミノ酸配列を含み、該ポリペプチドはVEGFプロモーター活性を低下させ、該RTEF−1アミノ酸配列はRTEF−1のエクソン2、3、10、11および12によってコードされるアミノ酸、およびRTEF−1のエクソン3、4、5、6、7、8、9および10によってコードされるアミノ酸の欠失を含む、RTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項2】
前記RTEF−1アミノ酸配列はエクソン3によってコードされる少なくとも16アミノ酸を含む、請求項1に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項3】
前記RTEF−1アミノ酸配列はエクソン10によってコードされる少なくとも36アミノ酸を含む、請求項1に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項4】
前記RTEF−1アミノ酸配列は配列番号3と少なくとも約95パーセント同一である、請求項1に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドは配列番号3に記載の配列を持つ、請求項4に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項6】
分泌シグナル配列をさらに含む、請求項1に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項7】
細胞内部移行部分をさらに含む、請求項1に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項8】
前記内部移行部分はペプチド、ポリペプチド、アプタマーまたはアビマーである、請求項7に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項9】
前記内部移行部分はHIV tat、HSV−1外皮タンパク質VP22またはDrosophilaアンテノペディア由来の内部移行配列を含む、請求項8に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項10】
前記内部移行部分はポリ−アルギニン、ポリ−メチオニンおよび/またはポリ−グリシンペプチドを含む、請求項8に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項11】
前記内部移行部分はアミノ酸配列RMRRMRRMRR(配列番号23)を含む、請求項7に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項12】
前記内部移行部分は抗体である、請求項7に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項13】
前記抗体内部移行部分は、IgA、IgM、IgE、IgG、Fab、F(ab’)2、一本鎖抗体またはパラトープペプチドである、請求項12に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項14】
細胞分泌シグナルおよび細胞内部移行部分をさらに含む、請求項1に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項15】
前記分泌シグナル配列はヒトIL−2分泌シグナル配列(配列番号22)を含む、請求項14に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項16】
配列番号3、配列番号22および配列番号23の配列を持つものとしてさらに定義される請求項15に記載の単離されたRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチド。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載のRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチドをコードする配列を含む、単離された核酸配列。
【請求項18】
核酸発現カセットとしてさらに定義される、請求項17に記載の単離された核酸配列。
【請求項19】
ウイルス発現ベクターとしてさらに定義される、請求項18に記載の単離された核酸配列。
【請求項20】
前記ウイルス発現ベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、SV−40、レトロウイルスまたはワクシニアウイルスベクターである、請求項19に記載の単離された核酸配列。
【請求項21】
前記ウイルス発現ベクターはアデノ随伴ウイルスである、請求項20に記載の単離された核酸配列。
【請求項22】
前記ウイルス発現ベクターはレンチウイルス発現ベクターである、請求項20に記載の単離された核酸配列。
【請求項23】
前記レンチウイルス発現ベクターはHIVベクターである、請求項22に記載の単離された核酸配列。
【請求項24】
前記発現カセットは細胞型特異的プロモーターまたは誘導性プロモーターを含む、請求項23に記載の単離された核酸配列。
【請求項25】
前記誘導性プロモーターは低酸素誘導性プロモーターである、請求項24に記載の単離された核酸配列。
【請求項26】
前記誘導性プロモーターは血管形成誘導性プロモーターである、請求項24に記載の単離された核酸配列
【請求項27】
第2の抗血管形成遺伝子をさらに含む、請求項17に記載の単離された核酸配列。
【請求項28】
血管形成障害を有する患者を処置するための方法であって、請求項1〜16のいずれか1項に記載のRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチドまたは請求項17〜27のいずれかに記載のRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチドをコードする核酸発現ベクターを含有する有効量の治療用組成物を該患者に投与することを含む、方法。
【請求項29】
前記血管形成障害は眼血管新生、動静脈奇形、冠動脈再狭窄、末梢血管再狭窄、糸球体腎炎または関節リウマチである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記血管形成障害は眼血管新生である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記障害は黄斑変性症、角膜移植片拒絶反応、角膜血管新生、未熟児網膜症(ROP)または糖尿病性網膜症である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記障害は加齢黄斑変性症(AMD)である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
第2の抗血管形成治療剤(therapy)を投与することをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記第2の抗血管形成治療剤は、VEGF、VEGF受容体、FGF、FGF受容体、ベバシズマブ、ラニビズマブまたはペガプタニブナトリウムに結合する抗体である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記血管形成障害は癌である、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記癌は転移性癌である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記癌は膀胱癌、血液癌、骨癌、骨髄癌、脳癌、乳癌、結腸癌、食道癌、眼癌、胃腸癌、歯肉癌、頭部癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、鼻咽頭癌、頸部癌、卵巣癌、前立腺癌、皮膚癌、胃癌、精巣癌、舌癌または子宮癌である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記癌は眼のメラノーマである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
第2の抗癌療法を施すことをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記第2の抗癌療法は化学療法、外科的療法、免疫療法または放射線療法である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記患者はヒトである、請求項28に記載の方法。
【請求項42】
前記治療用組成物は、請求項1〜17のいずれかに記載のRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチドを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項43】
前記治療用組成物は、請求項18〜27のいずれかに記載のRTEF−1ドミナントネガティブポリペプチドをコードする核酸発現ベクターを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項44】
前記治療用組成物は全身投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項45】
前記治療用組成物は局所投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項46】
前記治療用組成物は前記眼に投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項47】
前記治療用組成物は前記眼に局部的に、あるいは、眼内注射により投与される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記治療用組成物は点眼薬として投与される、請求項47に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−528663(P2010−528663A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511354(P2010−511354)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/066058
【国際公開番号】WO2008/154351
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(505098937)リサーチ ディベロップメント ファウンデーション (16)
【Fターム(参考)】