説明

血管拡張による血流促進性医薬及び健康食品組成物

【課題】血管を拡張する作用を有し、それによってヒトの各種疾病、障害を抑制または軽減する新規素材を提供する。
【解決手段】牛各部コラーゲン、豚皮コラーゲンおよび魚鱗コラーゲンから選ばれたコラーゲン由来のタンパク質を加水分解して得られるペプチドを有効成分とする組成物を医薬組成物および健康食品組成物として用いることによって、血管拡張効果を奏せしめ、それによって血流性低下に伴う肩凝り、頭痛、冷え症等の各種症状を抑制、改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管拡張作用を有し、それにより肩凝り、頭痛、冷え症およびそれに関連する機態低下症状を抑制、改善することができる医薬および健康食品組成物に関し、さらに詳しくは、コラーゲン由来のタンパク質を加水分解して得られたペプチドを有効成分とする上記医薬および健康食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血液循環を改善することは、肩凝り、冷え性、頭痛、手足のしびれなどの症状の改善、疲労回復、末端組織および毛髪の新陳代謝の促進に繋がる。血液循環の改善により、全体としては末端組織に酸素、栄養が十分行き渡り、炭酸ガス、乳酸など老廃物が回収され、入浴後のような心地よい状態になり、身体が温まり、疲労、神経痛、更年期障害が解消するなどの症状が改善される。
【0003】
血流を促進するメカニズムは幾つかある。一つは赤血球の変形能向上による血液流動性の増加であり、もう一つは血管を拡張することによる血流量の増加である。前者に関する従来技術としては、例えばナツメおよびその抽出物により赤血球の変形能低下を防止するものがあり(特許文献1および特許文献2参照)、また、赤血球、白血球、血小板など血液成分の粘性を下げ、血液流動性を改善するコラーゲンペプチドに関する報告もある(特許文献3参照)。
【0004】
また、次のような各種天然物またはその抽出物による血流改善効果の報告があるが、その血流改善のメカニズムについては必ずしも明確ではない。例えば、サフランまたはサフランの抽出物(特許文献4参照)、タンポポとヨモギのエキス(特許文献5参照)、牛の内臓と骨を粥状に煮沸したもの(特許文献6参照)、蓮根の節と根毛の焼焦物(特許文献7参照)、ムラサキサツマイモの水溶性抽出物(特許文献8参照)、テアニン含有物(特許文献9参照)、地黄(特許文献10参照)、イヌゴマのサポニン(特許文献11参照)の例が知られている。
【0005】
また、血管拡張の認められた例としてはウサギの耳の血管をイワシ筋肉由来ペプチドが拡張することが報告されている(特許文献12参照)。しかし、現象面だけの報告であって、人に対する有効例の報告や用途については記載されていない。
近年、種々の血流改善メカニズムによる血流改善物質の更なる開発が求められている。
【特許文献1】特開平05−210639号公報
【特許文献2】特開平07−61933号公報
【特許文献3】特許第3197547号明細書
【特許文献4】特開平10−287576号公報
【特許文献5】特開昭60−160856号公報
【特許文献6】特開昭54−41354号公報
【特許文献7】特開昭53−133646号公報
【特許文献8】特開2001−145471号公報
【特許文献9】特開2000−247878号公報
【特許文献10】特開2000−169385号公報
【特許文献11】特開平07−233191号公報
【特許文献12】特許2732056号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、血管を拡張する作用を有し、それによって血液循環を改善して肩凝り、冷え性、頭痛、疲労、更年期障害を抑制または軽減し、新陳代謝を促進する新規素材を提供することを目的とし、さらにかかる作用を有する健康食品、医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、牛各部コラーゲン、豚皮コラーゲンおよび魚鱗コラーゲンから選ばれたコラーゲン由来のタンパク質を加水分解して得たペプチド類を主体とする成分を、ウサギの耳の血管を用いてスクリーニングした結果、これらのペプチド類に血管を拡張する効果が存在することを見出した。すなわち、上記タンパク質の酸またはアルカリによる加水分解、および/または酵素プロテアーゼによる加水分解により得られるペプチド類を含む成分を、そのまま、または精製して、ウサギに経口投与して血管の拡張を確認した。
【0008】
これらのウサギの耳で認められた血管拡張は血流の増加に繋がり、その結果、血圧低下効果、肩凝り、冷え性および頭痛の改善効果、疲労回復効果、更年期障害の抑制および軽減効果、新陳代謝の促進による育毛効果、皮膚の状態改善効果など幅広い効果が確認された。
【0009】
したがって本発明は、上記タンパク質の加水分解により得られたペプチドを有効成分とする血管拡張による血流促進性医薬および健康食品組成物に関する。
【0010】
本発明においてタンパク質の加水分解は、酸またはアルカリによる分解、プロテアーゼを用いる酵素分解が一般的に用いられる。酸またはアルカリは、有機、無機いずれの酸、アルカリを用いてもよく、酸加水分解の場合はpH1〜4の範囲、アルカリ加水分解の場合はpH8〜13の範囲が好ましい。分解時の温度、時間などの反応条件は適宜設定する。
【0011】
プロテアーゼとしては、ペプシン、パンクレアチン、パパイン、プロレザー(天野製薬社製)、サモアーゼ(大和化成社製)、スミチームAP、スミチームMP、スミチームFP(いずれも新日本化学社製)、その他、一般的に用いられるプロテアーゼ活性を有する酵素を用いることができる。反応の際、酵素の使用濃度、反応のpHや反応温度、その他の条件などは、各酵素剤毎に最適な条件を選択すればよい。
【0012】
酸、アルカリによる加水分解では、反応の進行を一定に調節することは必ずしも易しくはない。したがって厳密な反応管理が必要である。さらに、酸またはアルカリによる加水分解処理と酵素による加水分解を併用することができる。酸またはアルカリによる処理後、続いてタンパク分解酵素処理を行うことによって、ペプチドの低分子化が進み、低分子ペプチド類の比率が高まる。低分子のペプチドは消化管で吸収され易く、血管拡張効果が高いので、このようにして低分子ペプチドの比率を高めることが望ましい。ただ、人の消化管内では高分子のペプチドも消化管のペプシン、トリプシン、およびペプチダーゼにより低分子ペプチドを生成するため、低分子以外のペプチドでも効果が認められる。しかし、低分子ペプチドの方が短時間で確実に効果の発現するものと考えられる。したがって、ペプチドの分子量については、低分子ペプチドの比率の高い方が望ましいが、食品として利用する場合は中、高分子ペプチドを含んでいても同様に血管拡張の効果が認められる。
【0013】
各タンパク質の加水分解によって得られたペプチド成分は反応物をそのまま用いてもよいが、ペプチド成分を濃縮精製して用いてもよい。濃縮精製処理は、電気透析膜による脱塩処理、イオン交換樹脂による脱塩・濃縮処理、活性炭による脱色、脱臭および濃縮処理、有機溶媒による沈殿処理により行うことができる。それぞれの成分は液体のまま用いてもよいが、噴霧乾燥、凍結乾燥を施すことによって粉末化することもできる。また、クロマトグラフィーを用いて更に精製したものを用いることもできる。
【0014】
加水分解処理される上記タンパク質原料は上記ミルクタンパク質原料をそのまま用いることもできるが、原料に脂肪分が多い場合は、分解物中に脂肪分が残って酸化を受け、異臭、異味を発生したりすることが多いので、精製されたタンパク質であることが望ましい。したがって、予め油分を分離した原材料を利用することが望ましい。
【0015】
血管の拡張効果の確認はウサギの耳を用いて行った。すなわち、ウサギに試料を経口投与し、耳の血管の変化を視覚的に確認し、その写真から面積計算ソフトを使って血管拡張の程度の数値化を行った。以下に示す実施例ではすべてこの方法により血管拡張効果を確認した。
【0016】
本発明においては、コラーゲン由来のタンパク質の加水分解物による血管の血管拡張の結果、血流が増加し、それによって栄養分の末端組織への移行が改善されると共に老廃物の移行も改善されるものと推定される。その結果、ヒトで肩凝り、頭痛、冷え性の抑制、軽減の目的に使用できる。また、血液循環の改善によって、循環器系のみならず神経系、内分泌系、免疫系の関係する生理機能の改善もはかられ、睡眠障害、更年期障害の抑制および改善を目的に使用できる。また、末梢組織からの炭酸ガス、乳酸その他老廃物を適宜回収し、末梢組織への酸素、栄養成分が十分に供給されることから、疲労回復、さらには皮膚状態の改善、美容効果、育毛効果も得られる。これらの効果についてはヒトでの試験の結果を実施例として示した。
【0017】
本発明の上記コラーゲン由来のタンパク質加水分解物の使用態様としては、食品添加剤として一般食品に添加したり、健康食品組成物または医薬組成物として用いることができる。また、上記タンパク質の加水分解物の形態は、水溶液、懸濁物、粉末、固体成型物などいずれでもよく、特に限定されない。したがって、幅広い一般食品に添加使用出来るし、健康食品、医薬品としてはカプセル剤、錠剤、粉末剤、顆粒剤、ドリンク剤などとして提供される。その場合に単味成分として使用するのみならず、他の呈味成分、増量剤、安定剤、および生薬、ハーブなどの機能性素材やその機能性成分と混合、併用して用いることができ、また、ビタミン、ミネラルなど栄養成分、食品として許容される素材などと混合、併用して用いることもできる。
【0018】
これらの効果を発揮させるためのヒトでの投与量はタンパク質加水分解物として0.5〜2000mg/kg・日が好ましく、10〜400mg/kg・日が更に好ましい。ただし、症状の種類、度合いには個人差があるため、かかる範囲に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、牛各部コラーゲン、豚皮コラーゲンおよび魚鱗コラーゲンから選ばれたコラーゲン由来のタンパク質を加水分解して得られたペプチドを含有する組成物を医薬および健康食品に用いることによって、血管拡張効果を奏することができ、それにより肩凝り、頭痛、冷え症およびそれに関連する機態低下症状を抑制、改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施の態様を製造例、実施例を示し、説明する。
(製造例1)
コラーゲンの加水分解物の例として、豚皮由来の膠および魚鱗から以下のようにして各ペプチドを得た。
市販の豚皮由来の膠2kgを粉砕し、塩酸酸性pH3.0の水4リットルに懸濁し、室温で3日間攪拌する。その後、塩酸でpH2に調整してブタ胃由来ペプシン(天野製薬製)40gを添加し、50℃で16時間保持した。反応後水酸化ナトリウムでpH5.0に調整し、50℃で10分間保持して酵素を失活させた。その後、遠心分離した上清液をDowex50(H+)カラムに吸着させ、水洗後、2Nアンモニア水で溶出しペプチド画分を得た。ペプチド溶出液は減圧濃縮後、凍結乾燥して膠由来のコラーゲンペプチド720g(試料1)を得た。
【0021】
また、市販の魚鱗由来の50%コラーゲン溶液1リットル(タイムリー社製)を用いて上記した方法と同様にペプシンによる分解、陽イオン交換樹脂による精製、凍結乾燥による粉末化を行い、魚鱗由来のコラーゲンペプチド265g(試料2)を得た。
【0022】
次に、上記製造例で得られた各試料の血管拡張効果を確認した実施例および使用例を示す。
【0023】
(実施例1)
体重1.5〜1.8kgの9週齢の雄ウサギ(Slc:JW・CSK)を1週間予備飼育後、実験に供した。飼育室は温度22℃±1℃、湿度50%、12時間サイクルの明暗周期とし、餌はLab Diet 5L95(日本SLC社製)を自由摂餌させ、水も自由に与えた。なお、試料を与える前は2時間絶食させた。体重1kg当たり試料1000mgを3〜10mlの生理食塩水に溶かし、経口ゾンデで強制摂取させた。
【0024】
ウサギの耳の血管状態測定は次のようにして行った。ウサギを採血箱に固定後、ウサギが落ち着き、耳血管の変化が見られなくなった時点でデジタルカメラで撮影し、この時点を0分とした。試料を摂取後10分後から写真撮影を開始し、血管の拡張が沈静化するまで10分おきに撮影を続けた。得られた写真を面積計算ソフトLIA32で面積計算を行い、数値化した。
【0025】
以上の測定を、製造例1で得た試料1〜2について行い、結果をグラフ化して図1に示した。図はタテ軸に測定血管断面積を0分の場合を1として数値化したものを示し、その時間経過後の変化を図示したものである。その結果、いずれの試料を用いてもウサギの耳血管拡張作用のあることが認められた。
【0026】
(実施例2)
試料1〜2をそれぞれ80%、還元麦芽糖水飴10%、デキストリン7%、蔗糖脂肪酸エステル3%(いずれも重量%)含む300mg重量の錠剤をそれぞれ製造した。
【0027】
(実施例3)
実施例2に記載した試料1〜2を含む錠剤を服用した後の指先の温度を測定した。試験はボランテアの中で冷え症の解消、または軽減の効果のあった人から10人のボランテアを選び、複数日にわたって試験した。試験は朝食抜きで、20℃、湿度50%に調整した部屋に入って1時間経過後から行い、試料1〜20を含むそれぞれの錠剤6錠を水50mlと共に服用して、手指先温度の変化を服用30分経過後サーミスタ温度計で測定し、0時間からの上昇温度で表記した。なお、1試料について2人のボランテアが試験し、その平均値を記録した。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ウサギの耳について行なったコラーゲン由来ペプチドの血管拡張作用の実験データを示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛各部コラーゲン、豚皮コラーゲンおよび魚鱗コラーゲンから選ばれたコラーゲン由来のタンパク質を加水分解して得られるペプチドを有効成分とする血管拡張による血流促進性医薬組成物。
【請求項2】
牛各部コラーゲン、豚皮コラーゲンおよび魚鱗コラーゲンから選ばれたコラーゲン由来のタンパク質を加水分解して得られるペプチドを有効成分とする血管拡張による血流促進性健康食品組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−348051(P2006−348051A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254371(P2006−254371)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【分割の表示】特願2003−35063(P2003−35063)の分割
【原出願日】平成15年2月13日(2003.2.13)
【出願人】(391017986)株式会社白子 (14)
【Fターム(参考)】