説明

血管新生促進療法用ケイ素含有生分解性材料

本発明は血管新生低下及び/もしくは障害を伴う疾患並びに/又は血管新生率増加が治癒過程に必要な疾患の予防及び/又は治療用ケイ素含有生分解性材料に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血管新生低下及び/もしくは障害を伴う疾患並びに/又は血管新生率増加が治癒過程に有益となる疾患の予防及び/又は治療用ケイ素含有生分解性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生とは、主に先に形成された毛細血管系からの出芽による小血管(毛細血管)の増殖を意味する。これは血管壁を形成するために必要な内皮細胞、周皮細胞及び平滑筋細胞が種々の血管新生増殖因子(例えば線維芽細胞増殖因子(FGF)や血管内皮細胞増殖因子(VEGF))により活性化される複雑なプロセスである。血管新生は生物学的及び医学的に極めて重要である。現代医療では、血管新生原理の治療応用を血管新生抑制療法と血管新生促進療法の2種類に分類している。血管新生促進蛋白療法は血管新生能の高い増殖因子、主に線維芽細胞増殖因子1(FGF−1)と血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を利用しており、臨床実績はこれらの増殖因子で最高である。他方、上皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来内皮細胞増殖因子(PD−ECGF)及び血小板由来増殖因子(PDGF)並びにトランスフォーミング増殖因子(TGF)等の増殖因子もある程度の血管新生能をもつ。特にFGF−1では臨床試験で既に有望な実績が得られており、ヒト心筋で新生血管を検出し、(患者の運動耐容能増加を伴う)心筋潅流の改善をもたらすことが可能になっている。
【0003】
ケイ素は微量元素であり、結合したケイ酸の形態で人体に重要である。ケイ素は組織の強度と弾力性に関与する蛋白質の基本要素である。また、結合組織、骨、皮膚、毛髪、爪及び血管にも含まれている。更に、ケイ素は所謂免疫系と呼ばれる生体防御系を強化し、創傷治癒を促進する。ケイ素不足は成長障害、骨安定性の低下と骨粗鬆症の危険増加、早発脱毛症に繋がり、爪が割れやすくなり、皮膚変化をもたらす。考えられる皮膚変化としては、弾力性低下による皮膚の皺形成増加、乾燥、落屑、角化増加、痒み、肥厚及び痛みを伴う亀裂が挙げられる。更に、所謂免疫系と呼ばれる生体防御系はケイ素不足により弱まり、感染し易くなる。所定の疾患の予防又は治療用のケイ素含有化合物が記載されている。しかし、ケイ素含有化合物が血管新生プロセスを誘導又は促進することもでき、従って、血管新生促進療法に期待できることは従来知られていなかった。
【0004】
US2006/0178268A1は骨、軟骨、皮膚、動脈、結合組織、関節、毛髪、爪及び皮膚疾患、骨粗鬆症、リウマチ性疾患、動脈硬化症、関節炎、心血管疾患、アレルギー疾患並びに変性疾患の治療用として非コロイド状ケイ酸及びホウ酸から構成される水溶液を記載している。
【0005】
US2006/0099276A1は第四級アンモニウム化合物、アミノ酸もしくはアミノ酸源又はその組合せの共存下でケイ素化合物をオリゴマーに加水分解することによりシリカ誘導体を製造する方法を開示している。シリカ押出物は感染症、爪、毛髪、皮膚、歯、コラーゲン、結合組織及び骨疾患、骨減少症の治療用薬剤並びに変性(老化)プロセスに対する細胞形成用薬剤として使用することができる。
【0006】
US6,335,457B1はケイ酸をポリペプチドと錯化させた固体物質を開示している。この特許はこの固体物質を含有する治療薬として使用可能な混合物も開示している。
【0007】
WO2009/018356A1は前立腺癌、結腸・直腸癌、肺癌、乳癌、肝臓癌、神経細胞癌、骨癌、HIV症候群、関節リウマチ、多発性硬化症、エプスタイン・バール・ウイルス感染症、線維筋痛症、慢性疲労症候群、糖尿病、ベーチェット症候群、過敏性腸症候群、クローン病、褥瘡、栄養障害性潰瘍、放射線療法もしくは化学療法による免疫系低下、血腫又はその併発等の疾患の予防又は治療用としての、リン酸ナトリウム化合物とアンモニウム化合物とケイ酸塩を含有する混合物に関する。
【0008】
WO2009/052090A2はケイ酸塩を含有する組成物を使用して炎症性疾患、自己免疫疾患、細菌又はウイルス感染症及び癌を治療する方法を記載している。
【0009】
US2003/0018011A1は抗アレルギー剤又は抗炎症剤としての、脂肪酸と水溶性ケイ酸ポリマーを含有する医薬組成物に関する。
【0010】
US5,534,509はアレルギー、炎症、疼痛の治療用又は末梢血液循環もしくは知覚異常の改善用の医薬組成物であって、活性剤として水溶性ケイ酸ポリマーと不活性担体として糖又は糖アルコールを含有する医薬組成物に関する。
【0011】
DE19609551C1はポリヒドロキシケイ酸エチルエステルを主体とする生体吸収性(連続)繊維の製造について記載している。前記繊維は生分解性及び/又は生体吸収性(インプラント)材料の強化用繊維として使用されている。前記繊維は生分解性複合材料の製造に使用することもできる。
【0012】
WO01/42428A1は皮膚インプラントの製造方法として、皮膚細胞を栄養溶液の表面に置床し、DE19609551C1に記載の繊維から構成される表面エレメントを利用して増殖させる方法を記載している。
【0013】
EP1262542A2は細胞、組織及び臓器のインビトロ作製方法として、DE19609551C1に記載の繊維マトリックスを細胞支持及び/又は誘導構造として使用する方法に関する。
【0014】
WO2006/069567A2は多層創傷被覆材に関し、その1層ではDE19609551C1に記載の繊維マトリックスも使用している。多層創傷被覆材は慢性糖尿病性・神経障害性潰瘍、慢性下腿潰瘍、褥瘡、二次治癒感染創、特にアブレーションによる裂傷又は擦過傷等の非炎症性一次治癒創等の創傷の治療に使用することができる。
【0015】
WO2008/086970A1、WO2008148384A1、PCT/EP2008/010412及びPCT/EP2009/004806は特に、本発明により使用可能な他のポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物の製造について記載している。これらの化合物は一般に医療、医療工学、フィルター技術、バイオテクノロジー及び絶縁材料産業において生体吸収性材料として使用すると記載されている。これらの材料を創傷治療及び創傷治癒の分野で有利に使用できることも記載されている。例えば外科用縫合材料又は強化用繊維として繊維を使用することができる。表在性創傷の手当て、体液(例えば血液)の濾過又はバイオリアクターの分野における培養基材として不織布材料を使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0178268号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0099276号明細書
【特許文献3】米国特許第6,335,457号明細書
【特許文献4】国際公開第2009/018356号
【特許文献5】国際公開第2009/052090号
【特許文献6】米国特許出願公開第2003/0018011号明細書
【特許文献7】米国特許第5,534,509号明細書
【特許文献8】独国特許第19609551号明細書
【特許文献9】国際公開第01/42428号
【特許文献10】欧州特許出願公開第1262542号明細書
【特許文献11】国際公開第2006/069567号
【特許文献12】国際公開第2008/086970号
【特許文献13】国際公開第2008148384号
【特許文献14】PCT/EP2008/010412
【特許文献15】PCT/EP2009/004806
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
血管新生低下及び/もしくは障害を伴う疾患並びに/又は血管新生率増加が治癒過程に有益となる疾患の予防及び/又は治療用として(例えば繊維又は不織布の形態の)上記生分解性ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物を使用できることは従来技術に開示されていない。ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物を創傷治療及び創傷治癒に使用することは上記文献に記載されており、創傷治癒が血管新生促進プロセスに結び付けられることは知られているが、上記生分解性ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物を一般に血管新生促進療法に使用することは従来技術に記載されていない。他のケイ素含有化合物についてもまだ記載されていないという事実から見ても、これらを血管新生促進療法に使用できることは意外である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
従って、本発明は血管新生低下及び/もしくは障害を伴う疾患並びに/又は血管新生率増加が治癒過程に有益となる疾患の予防及び/又は治療用ケイ素含有生分解性材料に関し、前記ケイ素含有生分解性材料はポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物であり、但し、慢性糖尿病性・神経障害性潰瘍、慢性下腿潰瘍、褥瘡、二次治癒感染創、特にアブレーションによる裂傷又は擦過傷等の非炎症性一次治癒創等の創傷は除外する。本発明は血管新生低下及び/もしくは障害を伴う疾患並びに/又は血管新生率増加が治癒過程に有益となる疾患の予防及び/又は治療用医薬品の製造における本発明のケイ素含有生分解性ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物の使用も包含し、但し、慢性糖尿病性・神経障害性潰瘍、慢性下腿潰瘍、褥瘡、二次治癒感染創、特にアブレーションによる裂傷又は擦過傷等の非炎症性一次治癒創等の創傷は除外する。
【0019】
本発明は、以下の特許文献、即ちDE19609551C1、WO01/42428A1、EP1262542A2、WO2006/069567A2、WO2008/086970A1、WO2008148384A1、PCT/EP2008/010412及びPCT/EP2009/004806に記載されているような新血管新生に関連する用途での本発明の材料の使用を含まない。WO2006/069567A2には、慢性糖尿病性・神経障害性潰瘍、慢性下腿潰瘍、褥瘡、二次治癒感染創、特にアブレーションによる裂傷又は擦過傷等の非炎症性一次治癒創等の創傷の治療用多層創傷被覆材の要素としてのポリヒドロキシケイ酸エチルエステル繊維不織布材料の使用が記載されている。EP1262542A2は本発明のポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物の各種組織工学的使用について記載している。本発明による「組織工学的使用」なる用語はEP1262542A2に記載されている製品、方法及び使用を対象とする。従って、血管新生促進療法に関する限り、本発明はEP1262542A2に記載されている本発明のケイ素含有生分解性材料の再生医療使用を含まない。
【0020】
「ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物」なる用語は一般式H[OSi12(OH)(OC6−xOH(式中、xは2〜5を表し、n>1(ポリマー)である)の化合物を意味する。本発明のケイ素含有生分解性材料は好ましくは繊維、繊維マトリックス、粉末、モノリス及び/又はコーティング形態の材料である。この種のケイ素含有生分解性材料は本発明によると、
a)テトラエトキシシランの加水分解・縮合反応を少なくとも1回実施する工程と、
b)好ましくは反応系を穏和に混合しながら蒸発させて単相溶液を生成する工程と、
c)単相溶液を冷却する工程と、
d)熟成させてシリカゾル材料を生成する工程と、
e)シリカゾル材料から紡糸して繊維もしくは繊維マトリックスを生成する工程、及び/又はシリカゾル材料を乾燥、特に噴霧乾燥もしくは凍結乾燥して粉末を生成し、場合により粉末を溶媒に溶解して液体製剤を生成する工程、及び/又はケイ素含有生分解性材料で被覆しようとする対象物をシリカゾル材料で被覆する工程、及び/又はシリカゾル材料を注型してモノリスを生成する工程
により製造することができる。
【0021】
本発明によると、本発明のケイ素含有生分解性材料は繊維、繊維マトリックス(不織布)、粉末、液体製剤及び/又はコーティングの形態であることが好ましい。
【0022】
本発明の別の態様において、本発明のケイ素含有生分解性材料は上記のように製造され、工程a)ではテトラエトキシシランを初期pH0〜≦7で場合により水溶性溶媒、好ましくはエタノールの存在下で温度0℃〜80℃にて酸触媒反応に供し、工程b)では4℃で剪断速度10s−1における粘度が0.5〜2Pa・sの範囲になるまで単相溶液を蒸発させる。
【0023】
本発明の別の態様において、ケイ素含有生分解性材料は上記のように製造され、工程a)ではSi化合物に対して1:1.7〜1:1.9の範囲、好ましくは1:1.7〜1:1.8の範囲のモル比の硝酸水溶液を使用して酸触媒反応を実施する。工程a)における加水分解・縮合反応は20〜60℃、好ましくは20〜50℃の温度で少なくとも1時間実施することが好ましい。工程a)における加水分解・縮合反応は数時間、例えば8時間又は16時間進めることが好ましい。一方、この反応を4週間実施することもできる。本発明の好ましい1態様において、工程(b)は閉鎖型装置内で実施され、場合により蒸発中の成分の分圧を下げるために化学的に不活性なキャリアガスを1〜8m/h(好ましくは2.5〜4.5m/h)で連続供給下に、好ましくは4℃で剪断速度10s−1における混合物の粘度が0.5〜30Pa・sになるまで、好ましくは4℃、剪断速度10s−1で0.5〜2Pa・s、特に好ましくは約1Pa・s(4℃、剪断速度10s−1で測定)になるまで反応系を80rpmまで(好ましくは20rpm〜80rpm)で穏和に撹拌しつつ、反応温度30℃〜90℃、好ましくは60〜75℃、より好ましくは60〜70℃にて圧力1〜1013mbar、好ましくは圧力<600mbarで蒸発させることにより溶媒(水、エタノール)を除去しながら(好ましくはロータリーエバポレーター又は撹拌機付き容器で)混合することが可能である。本発明の別の態様では、工程c)においてケイ素含有生分解性材料を2℃〜4℃まで冷却することが好ましい。熟成(工程d)もこの低温で実施することが好ましい。熟成は数時間又は数日間から約3〜4週間まで実施することができる。工程d)における熟成工程は、4℃で剪断速度10s−1におけるゾルの粘度が30〜100Pa・sとなり、損失係数が2〜5(4℃,10[1/s],1%変形)となるまで実施することが好ましい。
【0024】
工程e)におけるシリカゾル材料からの紡糸は紡糸法により実施することが好ましい。前記紡糸工程は例えばDE19609551C1及びDE10 2004 063 599 A1に記載されているように、通常条件下で実施することができる。本発明の好ましい1態様では、総ゾルスループットに対して少なくとも80g/hのスループットに達するようにシリカゾル材料の紡糸中の圧力を選択する。
【0025】
紡糸した繊維を紡糸直後に紡糸塔内と同一の温湿度条件(即ち、例えば空気湿度〜19%、温度〜25℃)に30〜60分間暴露することが好ましい。以下、この工程を調温調湿処理と言う。この工程により得られた繊維を調温調湿処理繊維と呼ぶ。
【0026】
別の好ましい態様では、調温調湿処理繊維を使用前に、少なくとも35%の空気湿度(室温)に1〜30分間、好ましくは1〜10分間暴露する(表2も参照)。
【0027】
粉末を生成する場合のシリカゾル材料の乾燥は噴霧乾燥又は凍結乾燥により実施することが好ましい。発明のモノリス又は繊維の粗砕及び粉砕により粉末を得ることもできる。液体製剤を生成するには、粉末を溶媒に溶解する。適切な溶媒は用途(例えば注射溶液又は懸濁液)に応じて水性又は油性とすることができる。
【0028】
ケイ素含有生分解性材料で被覆しようとする対象物をシリカゾル材料で被覆するには、シリカゾルへの浸漬又はシリカゾルの散布もしくはスピンコーティングもしくは噴霧により実施することが好ましい。
【0029】
モノリスを生成するために、工程d)のシリカゾル材料を注型後、乾燥することもできる。
【0030】
更に、本発明のケイ素含有生分解性材料の製造に関するより詳細な情報については、DE19609551C1、WO01/42428A1、EP1262542A2、WO2006/069567A2、WO2008/086970A1、WO2008148384A1、PCT/EP2008/010412及びPCT/EP2009/004806を参照されたい。
【0031】
本発明の趣旨では、「生分解性」なる用語は本発明のポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物が(例えば創傷の)組織変性中に一般に認められる典型的な条件に暴露した場合に分解する性質を意味する。本発明のポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物は本発明の趣旨では特に37℃にサーモスタット制御された0.05M Tris pH7.4 緩衝液(Fluka 93371)中で48時間後、好ましくは36時間後、特に好ましくは24時間後に分解する場合に「生体分解性」ないし「生分解性」である。
【0032】
「血管新生低下及び/もしくは障害を伴う疾患並びに/又は血管新生率増加が治癒過程に有益となる疾患」なる用語は血管新生促進療法により治療(又は予防)することができる全疾患を意味する。このような疾患としては、
a)貧血、狭心症、(末梢)動脈閉塞症、動脈硬化症、バージャー病、心筋梗塞、特に心筋、肺の虚血、心筋症、鬱血性心不全、冠動脈再狭窄等の冠動脈疾患、遺伝性出血性毛細血管拡張症、高コレステロール血症、虚血性心疾患、心筋性強皮症、血管内膜肥厚、血管閉塞、動脈硬化性末梢血管疾患、門脈圧亢進症、子癇前症、リウマチ性心疾患、高血圧、血栓塞栓症等の血液循環及び/又は心臓血管系疾患、
b)骨/軟骨修復、骨欠損、骨折、骨成長、軟骨疾患、椎間板変性、変形性関節症、骨粗鬆症、脊髄骨折、線維筋痛症、多発性筋炎等の骨、軟骨及び筋肉に関連する疾患、
c)中枢神経系又は末梢神経系の虚血、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、自律神経性ニューロパチー、動脈瘤、脳梗塞、脳卒中、脳血管疾患、脳血管低潅流、痴呆、癲癇、虚血性末梢性ニューロパチー、軽症認知障害、多発性硬化症、神経損傷、パーキンソン病、ニーマン・ピック病、多発ニューロパチー、統合失調症、脊髄損傷、中毒性ニューロパチー等の中枢神経系疾患、
d)緑内障、網膜症等の眼疾患、
e)クローン病、胃潰瘍、腸虚血、過敏性腸症候群、膵炎、潰瘍性大腸炎等の胃腸疾患、
f)糖尿病、糖尿病性足病変、糖尿病性末梢血管疾患等のホルモン又は代謝疾患、
g)アレルギー、肥満細胞症、シェーグレン病、移植片拒絶反応、膠原病におけるシェーグレン症候群等の組織欠損、皮膚筋炎、全身性エリテマトーデス、クレスト症候群、シャープ症候群等の免疫系疾患、
h)敗血症性ショック等の感染症、
i)腎症、頭蓋内圧亢進、腎虚血等の腎疾患、
j)歯垢、歯周病等の口腔疾患、
k)勃起不全等の生殖器系疾患、
l)喘息、気管支肺異形成症、肺炎、呼吸窮迫症候群等の呼吸器疾患、
m)非特異性皮膚炎、褥瘡性潰瘍、皮膚虚血、皮膚潰瘍、糖尿病性壊疽、糖尿病性皮膚潰瘍、裂傷、疥癬、強皮症、皮膚損傷、熱傷、手術創、創傷治癒等の皮膚疾患、
n)血管不全、血管再狭窄、血管炎、血管痙攣、ウェゲナー肉芽腫症等の血管疾患、
o)脱毛症、乳酸アシドーシス、四肢虚血、肝硬変、肝虚血、ミトコンドリア脳筋症、サルコイドーシス、(特に事故、手術又は奇形による)軟部組織欠損、組織及び/又は臓器の自家移植片で治療される疾患等の他の疾患
が挙げられる。
【0033】
「血管新生低下及び/もしくは障害を伴う疾患並びに/又は血管新生率増加が治癒過程に有益となる疾患」なる用語は好ましい1態様では以下の群:
a)特に心筋の虚血等の血液循環及び心臓血管系疾患、
b)中枢神経系又は末梢神経系の虚血等の中枢神経系疾患、
c)歯垢、歯周病等の口腔疾患、
d)軟部組織欠損、組織及び/又は臓器の自家移植片で治療される疾患
から選択される疾患を意味する。
【0034】
本発明は更に組織及び/又は臓器の自家移植片で治療される疾患の治療用自家移植片と組合せた本発明のケイ素含有生分解性材料(の使用)に関する。この方法では、血管新生を改善し、従って、既存組織への自家移植片のより迅速な取込みとより良好な定着を達成するために、自家移植片の補助材料として本発明のケイ素含有生分解性材料を使用する。
【0035】
本発明は更に、エトキシ基含量が少なくとも20%、好ましくは少なくとも25%、特に好ましくは25〜30%であるケイ素含有生分解性材料としてのポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物に関する。好ましくは、このエトキシ基含量をもつポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物は繊維又は繊維マトリックスの形態である。
【0036】
エトキシ基含量は紡糸後1〜4週間以内にZeiselの公知標準エーテル開裂法により測定され、測定までの期間中、ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物は低い空気湿度(即ち、例えばヨーロッパ特許出願第EP09007271号に記載されているように吸湿剤を入れたパッケージの内側)で保存される。
【0037】
本発明の別の好ましい目的はケイ素含有生分解性材料としての繊維又は繊維マトリックスの形態のポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物に関し、前記繊維又は繊維マトリックスは圧縮率が少なくとも17%、好ましくは20%、特に好ましくは少なくとも25%である。
【0038】
圧縮率は、
a)少なくとも2種類の異なる圧力で繊維マトリックスの形態のポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物の厚さを測定する段階と、
b)測定値の対(測定された厚さと圧力)を圧力の対数に対する厚さとしてグラフにプロットする段階と、
c)(d/d)=(p/p−b(式中、pは0.25kPaの圧力を表し、dはpにおける繊維マトリックスの厚さの計算値であり、bは曲線の指数である)により回帰分析する段階と、
d)k=(1−d1.25/d)(式中、d1.25は1.25Paでの回帰分析から計算した厚さに対応する)による回帰分析に基づいて圧縮率[k]を計算する段階
により測定される。
【0039】
圧縮率は紡糸後1週間以内に測定され、測定までの期間中、ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物は低い空気湿度(即ち、例えば吸湿剤を入れたパッケージの内側)で保存される。
【0040】
ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物の適切な用量は一般に1日体重1kg当たり合計0.001〜100mgであり、単回又は複数回に分けて投与される。1日当たり0.01〜25mg/kg、より好ましくは0.1〜5mg/kgの用量を使用することが好ましい。しかし、ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物は生分解性であるため、上記よりも高用量の化合物を投与することもでき、例えばモノリスの形態でデポー剤として皮下投与した場合には例えば長期間の間に体内で分解し、血管新生促進プロセスを助長することができる。
【0041】
本発明の材料又はその前駆体(例えば工程d)における上記シリカゾル材料)は製薬で通常使用される担体物質、賦形剤、崩壊調節剤、結合剤、滑沢剤、吸着剤、希釈剤、矯味剤、着色剤等を添加して所望の剤形に加工することができる。Remington’s Pharmaceutical Science,15th ed.Mack Publishing Company,East Pennsylvania(1980)参照。
【0042】
本発明の材料は適切な剤形で経口、粘膜(例えば舌下、頬側、直腸、鼻腔内又は膣)、非経口(例えば皮下、筋肉内、ボーラス注射、関節内、静脈内)、経皮又は局所(例えば皮膚への直接塗布又は露出させた臓器もしくは創傷への局所塗布)の各経路で投与することができる。
【0043】
特に、経口用には錠剤、コーティング錠、フィルムコーティング錠、カプセル剤、ピル剤、散剤、顆粒剤、トローチ剤、懸濁液剤、乳剤又は溶液剤が考えられる。
【0044】
錠剤、コーティング錠、カプセル剤等は例えば工程d)で得られたシリカゾル材料を錠剤形状又はカプセル剤形状の型に注型してモノリスを作製することにより上記のように得ることができる。他方、通常の方法により粉末状の上記本発明の材料から錠剤及びカプセル剤を製造することもできる。例えば不活性希釈剤(例えばデキストロース、糖、ソルビトール、マンニトール、ポリビニルピロリドン)、崩壊剤(例えばトウモロコシ澱粉又はアルギン酸)、結合剤(例えば澱粉又はゼラチン)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム又はタルク)及び/又はデポー効果を得るための添加剤(例えばカルボキシポリメチレン、カルボキシメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース又はポリ酢酸ビニル)等の公知添加剤を本発明の材料又はその前駆体に添加することができる。錠剤は数層から構成することもできる。本発明の材料を収容するカプセル剤は例えば本発明の材料又はその前駆体をラクトースやソルビトール等の不活性担体と混合し、ゼラチンカプセルに封入することにより製造することができる。同様に、コーティング錠は錠剤と同様に製造した裸錠を錠剤コーティングに通常使用される物質(例えばポリビニルピロリドンもしくはセラック、アラビアガム、タルク、二酸化チタン又は糖)でコーティングすることにより製造することができる。コーティング錠の皮膜も数層から構成することができ、錠剤について上記に挙げた添加剤を使用することができる。
【0045】
非経口用には、注射及び輸液製剤が考えられる。関節内注射には、同様に製造された結晶懸濁液を使用することができる。筋肉内注射には、水性及び油性注射溶液剤又は懸濁液剤等の液体製剤と、対応するデポー製剤が利用される。直腸投与には、坐剤、カプセル剤、(例えば浣腸剤形態の)溶液剤並びに全身及び局所療法用軟膏の形態で本発明の材料を使用することができる。更に、膣用薬も製剤として挙げることができる。注射溶液剤や懸濁液剤等の液体製剤は例えば粉末状の上記本発明の材料に適切な水性又は油性溶媒を加えることにより得ることができる。他の型の製造も当業者に公知である。本発明の材料の溶液剤又は懸濁液剤は更にサッカリン、チクロ又は糖等の呈味改良剤及び例えばバニリン又はオレンジエキス等の着香剤を含有することができる。更に、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の懸濁助剤又はp−ヒドロキシ安息香酸エステル等の防腐剤も含有することができる。適切な坐剤は例えばトリグリセリド又はポリエチレングリコール又はその誘導体等の適切な担体を混合することにより製造することができる。上記溶液剤は(例えば注射又は口腔リンスにより)例えば歯垢や歯周病の治療に使用することもできる。
【0046】
経皮用パッチ、又は局所用ジェル、軟膏、脂肪軟膏、クリーム、ペースト、粉末、乳剤及びチンキ剤も考えられる。膏薬剤は好ましくは従来技術に記載されているように本発明の材料から作製された繊維又は繊維マトリックス(不織布)から構成される。
【0047】
本発明の別の態様では、例えばコーティングしようとする対象物ないし物品を工程d)で上記シリカゾル材料に浸漬したり、前記シリカゾル材料を散布又はスピンコーティング又は噴霧することにより、本発明の材料又はその前駆体をコーティング法によりコーティングすることができる。インプラント、自家移植片、人工血管、義歯又は心臓弁、特に好ましくは自家移植片、義歯及び心臓弁にシリカゾル材料を塗布することが好ましい。
【0048】
上記製剤は更に、製造工程中に添加することができる他の活性医薬成分も含有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】VEGFと繊維マトリックス形態の本発明の材料(PKEE=ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物)をヒト内皮細胞(インビトロ)に加え、表面マーカーCD31に対する特異抗体で検出した新血管新生を示す。対照はVEGF又はPKEEを加えないヒト内皮細胞の新血管新生を示す(陰性対照)。
【図2】VEGFと繊維マトリックス(不織布)形態の本発明の材料(PKEE=ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物)をヒト内皮細胞(インビトロ)に加え、ヴォン・ヴィレブランド因子(vWF)に対する特異抗体で検出した新血管新生を示す。K=陰性対照。
【図3】ヒト内皮細胞におけるVEGFと繊維マトリックス(不織布)形態の本発明の材料の新血管新生の定量的評価。K=陰性対照;S/CD31=本発明の材料を使用し、CD31抗体により新血管新生を検出;S/vWF=本発明の材料を使用し、vWF抗体により新血管新生を検出;V/CD31=VEGFを使用し、CD31抗体により新血管新生を検出;V/vWF=VEGFを使用し、vWF抗体により新血管新生を検出。*=対照に対してp<0.05(スチューデントのt検定)。
【図4】抗vWF抗体による微小血管の染色に基づくヒト内皮細胞におけるVEGF(V)と繊維マトリックス形態の本発明の材料(S/T1=繊維マトリックスタイプI;S/T2=繊維マトリックスタイプII;S/T3=繊維マトリックスタイプIII;S/T4=繊維マトリックスタイプIV、製造例1参照)の新血管新生の定量的評価。K=陰性対照;*=対照に対してp<0.05(スチューデントのt検定)。
【図5】抗CD31抗体による微小血管の染色に基づくヒト内皮細胞におけるVEGF(V)と繊維マトリックス形態の本発明の材料(S/T1、S/T2、S/T3、S/T4=繊維マトリックスタイプI、タイプII、タイプIII、タイプIV)の新血管新生の定量的評価。K=陰性対照;*=対照に対してp<0.05(スチューデントのt検定)。
【図6】繊維マトリックス形態の本発明の各種材料(不織布;(S/T1、S/T2、S/T3、S/T4=繊維マトリックスタイプI、タイプII、タイプIII、タイプIV))の存在下と不在下(対照=K)におけるヒト内皮細胞の細胞培養上清のVEGF濃度の定量分析。#=対照及び繊維マトリックスタイプII〜IVに対してp<0.05(ANOVAテューキー検定);*=対照に対してp<0.05(スチューデントのt検定)。
【図7】ヒト内皮細胞における新血管新生に及ぼすスラミンの影響の定量分析であり、対照(K=ヒト内皮細胞単独;K+Su=ヒト内皮細胞にスラミンを添加)、本発明の材料を添加した場合(Si=本発明の材料単独;Si+Su=本発明の材料とスラミン)及びVEGFを添加した場合(V=VEGFを添加;V+Su=VEGFとスラミンを添加)について抗CD31抗体による微小血管の染色を比較した。#=対照に対してp<0.05(ANOVAテューキー検定)、*=スラミンを添加しない培養液に対してp<0.05(スチューデントのt検定)。図7から明らかなように、本発明の材料はVEGFを介して血管新生を誘導する。本発明の材料(Si)が存在する場合には、微小血管の面積百分率は約3.5倍(対照に対して;約350%)増加することが認められる。この効果をスラミンで増強することができる。
【実施例】
【0050】
1.ポリヒドロキシケイ酸エチルエステルからの本発明の繊維マトリックスの製造
加水分解・縮合反応原料として、TEOS(テトラエトキシシラン)1124.98gを撹拌機付容器に加えた。溶媒としてEtOH 313.60gを加えた。混合物を撹拌した。別に、1n HNO(55.62g)をHO(120.76g)で希釈し、TEOS−エタノール混合物に加えた。混合物を18時間撹拌した。
【0051】
この工程により得られた混合物を次にキャリアガス流の供給下で撹拌(60rpm)下に動粘度が1Pa・s(4℃、剪断速度10s−1)になるまで温度62℃で蒸発させた。
【0052】
次に密閉したポリプロピレン製熟成用ビーカーを静置直立させた中で動粘度が約55Pa・s(4℃、剪断速度10s−1)となり、損失係数が3.0となるまで溶液を温度4℃で熟成させた。
【0053】
熟成から得られたゾルを次に繊維状に紡糸した。繊維の製造は通常の紡糸装置で実施した。このために、−15℃まで冷却した加圧シリンダーに紡糸材料を仕込んだ。紡糸材料を加圧下にノズルから押出した。自由流動性の蜂蜜状材料は加圧シリンダーの下に配置した長さ2mの紡糸シャフト内にその自重により落下した。紡糸シャフト内の温度と湿度を制御した。温度は25℃とし、空気湿度は19%とした。紡糸したフィラメントはその円筒形状を実質的に維持しながら流動性のままであるため、揺動板に衝突すると、相互の接触面で数百本の繊維束(不織布)として結着した。得られた紡糸繊維を紡糸直後に紡糸塔内と同一の温湿度条件(即ち、例えば空気湿度19%、温度25℃)に35分間暴露した(紡糸繊維の調温調湿処理)。
【0054】
ポリヒドロキシケイ酸エチルエステルから合計8種類の異なる不織布(タイプI〜IV、A1、A2、B1及びB2)を製造した。紡糸繊維は直径約50μmである。不織布A1、A2、B1及びB2は紡糸スループットが異なる(従って、紡糸時間も異なる;表1参照)。表1に示すスループット(g/h)は総ゾルスループットを表す。目的のスループットが達成されるように紡糸容器内の圧力を調整する。
【0055】
【表1】

タイプI、タイプII、タイプIII及びタイプIVの不織布は上記調温調湿処理工程後から使用時までの保存用に不織布を包装するまでの間に空気湿度35%〜55%の環境に暴露する時間を変えた点が異なる(表2参照)。不織布をパッケージ内で保存中には、パッケージ内の空気湿度は吸湿剤の存在により著しく低下する。不織布の保存に適した包装は例えばヨーロッパ特許出願第EP09007271号に記載されている。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

製造条件を変えることにより、特に紡糸後の不織布の圧縮率とエトキシ基含量に関して種々の不織布特性が得られた(表3参照)。
【0058】
圧縮率は明細書に記載した手順を使用して厚さ測定(Wolf Messtechnik GmbH製精密厚さ測定器モデル2000)により測定し、計算した。
【0059】
エトキシ基含量はZeiselの標準エーテル開裂法により測定した。分析しようとする繊維マトリックスに内部標準溶液を加え、ヨウ化水素酸の添加後、気密ガラス容器内で120℃に1時間加熱した。存在する全エトキシ基はヨウ化エチルに変換される。得られたヨウ化エチルをガスクロマトグラフィーにより定量し、内部標準法により評価する。トルエンを標準とする。
【0060】
2.ヒト内皮細胞における新血管新生
試験構成:TCS Cellworks社(Buckingham,英国)製血管新生アッセイキットを新血管新生の測定に使用した。24ウェル細胞培養プレートを使用し、その底にヒト線維芽細胞とヒト内皮細胞から構成される単層をコンフルエントまで増殖させた。試験を実施するために必要な全細胞培養培地と、内皮細胞特異的表面抗原(CD31、ヴォン・ヴィレブランド因子=vWF)の検出用抗体もTCS Cellworks社から入手した。試験を実施するために、更に24ウェル細胞培養プレートに適したプラスチックインサート(各種基質を保持できるもの)を使用した。プラスチックインサートの内容物は細胞培養培地からの膜により分離される。他方、膜の透過性により、インサートの内容物と細胞培養培地の間では溶解物質の交換が可能である。
【0061】
試験手順:被験培養プレートのウェル内の細胞を覆うようにウェル当たり300μlの細胞培養培地を加えた。次に、全ウェルにプラスチックインサートをセットした。ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物の試験の場合には、各場合にポリヒドロキシケイ酸エチルエステル繊維マトリックス1cmをインサートの内側に入れ、培地350μlを加えて覆うようにした。対照では、インサートに培地350μlを加え、陽性対照ではインサートに培地350μl+VEGF 2ng/mlを加え、陰性対照ではインサートに培地350μl+強力なVEGF阻害剤であるスラミン20μg/mlを加えた。培地又は培地の内容物を3日おきに完全又は部分的に交換しながら、培養プレートを7〜12日間培養した。図7に示すヒト内皮細胞における新血管新生に及ぼすスラミンの影響の定量分析では、ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル繊維マトリックス(Si+Su参照)又はVEGF(V+Su参照)と同時にスラミンを添加した。
【0062】
評価:血管新生率を測定するために、7〜12日間培養後に、インサートと培地を細胞培養プレートから取り出し、コンフルエントまで増殖させた細胞を製造業者の指示に従って細胞培養プレートの底に固定した。微小血管形成を検出するために、固定した標本を製造業者の指示に従って内皮細胞特異的抗体で染色した。同様に、VEGF−ELISAキット(R&D Systems,Abingdon,英国)を使用し、得られた全試験上清中のVEGF濃度を測定した。
【0063】
結果:夫々の培養液を内皮細胞特異的抗体で染色後、ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル繊維マトリックスと共にインキュベートした培養液では、CD31で染色後(図1)とvWF特異的抗体で染色後(図2)のいずれでも微小血管形成密度は未処理対照よりも高く、VEGF含有陽性対照における微小血管形成と同等以上であることが認められた。
【0064】
上記結果を定量分析するために、試験結果のデジタル写真を「ImageJ」画像処理ソフトウェアでデンシトメトリーにより評価した。図3〜5に示すように、血管の相対密度はポリヒドロキシケイ酸エチルエステル繊維マトリックスで処理したサンプル中のほうが対照培養液中よりも有意に高く、VEGFの存在下に維持した培養液と同等である。
【0065】
内皮細胞VEGF合成に及ぼすポリヒドロキシケイ酸エチルエステル繊維マトリックスの影響を分析するために、上記試験を12日間まで延長し、細胞生存を維持するために、培養培地を交換せずに、4日おきに新鮮な培地を補充した。こうして、試験全体のVEGFの累積量を確認することができ、従って、試験の検出限界を優に上回るVEGF量を確認することができた。図6に示すように、内皮細胞をポリヒドロキシケイ酸エチルエステル繊維マトリックスと共にインキュベートすると、アッセイにおけるVEGF合成は有意に亢進し、タイプIのポリヒドロキシケイ酸エチルエステル繊維マトリックスは他のシリカタイプに比較して有意に高いVEGF産生を誘導した。
【0066】
「血管密度」なる用語は新しく形成された毛細血管構造により覆われた培養プレート内の面積を総面積に対する割合で表す。血管密度は毛細血管構造を含まないプレートバックグラウンドの白面積に対して特異抗体により染色された毛細血管構造の白黒画像の黒画素の割合をデンシトメトリーにより測定することにより測定される。
【0067】
「微小血管の面積百分率」なる用語は(対照が100%に対応するものとして)空の面積の何パーセントが新血管新生により誘導される微小血管に占められるかを表す。このパラメーターをデンシトメトリーにより測定した。このために、培養液の白黒写真を黒画素(=内皮細胞の陽性抗体染色)の割合について検討した。
【0068】
3.本発明の材料の新血管新生のインビボ試験
本発明のポリヒドロキシケイ酸エチルエステル繊維マトリックス(A1、A2、B1及びB2)を動物モデル(ブタ;Middelkoop E,et al.,Porcine wound models for skin substitution and burn treatment.Biomaterials.2004 Apr;25(9):1559−67)で最も信頼できる臨床基準(nSHT=網状剥離植皮片;MDM=Dr.Suwelack Skin & Health Care AG.製品Matriderm(登録商標))と比較した。このために、ヨークシャーブタに3×3cm、深さ2.7mmの創傷(グレード3の開放創)を形成した。本発明のポリヒドロキシケイ酸エチルエステル繊維マトリックス(A1、A2、B1及びB2)と対照をこれらの開放創に移植し、比較した。各マトリックスを4箇所の異なる創傷に適用した。移植から13日後に創傷領域から生検を採取し、免疫組織化学試験を行った。血管について、ヴォン・ヴィレブランド因子(vWF;Ulrich MM,et al.,Expression profile of proteins involved in scar formation in the healing process of full−thickness excisional wounds in the porcine model.Wound Repair Regen.2007 Jul−Aug;15(4):482−90)を抗体で染色した。染色をデジタル画像解析により評価した。結果を定量化するためにNIS−Arソフトウェア(ニコン)を使用した。対照に比較して本発明の材料のvWF領域の明白な染色増加(約2.8倍)が認められた(表4参照)。
【0069】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管新生低下及び/もしくは障害を伴う疾患並びに/又は血管新生率増加が治癒過程に有益となる疾患の予防及び/又は治療用ケイ素含有生分解性材料であって、ケイ素含有生分解性材料がポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物であり、但し、慢性糖尿病性・神経障害性潰瘍、慢性下腿潰瘍、褥瘡、二次治癒感染創、特にアブレーションによる裂傷又は擦過傷等の非炎症性一次治癒創等の創傷は除外する、前記ケイ素含有生分解性材料。
【請求項2】
材料が繊維、繊維マトリックス、粉末、液体製剤、モノリス及び/又はコーティングの形態である請求項1に記載のケイ素含有生分解性材料。
【請求項3】
a)テトラエトキシシランの加水分解・縮合反応を少なくとも1回実施する工程と、
b)好ましくは反応系を穏和に混合しながら蒸発させて単相溶液を生成する工程と、
c)単相溶液を冷却する工程と、
d)熟成させてシリカゾル材料を生成する工程と、
e)シリカゾル材料から紡糸して繊維もしくは繊維マトリックスを生成する工程、及び/又はシリカゾル材料を乾燥、特に噴霧乾燥もしくは凍結乾燥して粉末を生成し、場合により粉末を溶媒に溶解して液体製剤を生成する工程、及び/又はケイ素含有生分解性材料で被覆しようとする対象物をシリカゾル材料で被覆する工程、及び/又はシリカゾル材料を注型してモノリスを生成する工程
により製造された請求項2に記載のケイ素含有生分解性材料。
【請求項4】
工程a)においてテトラエトキシシランを初期pH0〜≦7で場合により水溶性溶媒、好ましくはエタノールの存在下で温度0℃〜80℃にて酸触媒反応に供し、
工程b)において4℃で剪断速度10s−1における粘度が0.5〜2Pa・sの範囲になるまで単相溶液を蒸発させる請求項3に記載の方法により製造されたケイ素含有生分解性材料。
【請求項5】
工程a)においてSi化合物に対して1:1.7〜1:1.9の範囲、好ましくは1:1.7〜1:1.8の範囲のモル比の硝酸水溶液を使用して酸触媒反応を実施する請求項4に記載のケイ素含有生分解性材料。
【請求項6】
血管新生低下及び/もしくは障害を伴う疾患並びに/又は血管新生率増加が治癒過程に有益となる疾患が、
a)貧血、狭心症、(末梢)動脈閉塞症、動脈硬化症、バージャー病、心筋梗塞、特に心筋、肺の虚血、心筋症、鬱血性心不全、冠動脈再狭窄等の冠動脈疾患、遺伝性出血性毛細血管拡張症、高コレステロール血症、虚血性心疾患、心筋性強皮症、血管内膜肥厚、血管閉塞、動脈硬化性末梢血管疾患、門脈圧亢進症、子癇前症、リウマチ性心疾患、高血圧、血栓塞栓症等の血液循環及び/又は心臓血管系疾患、
b)骨/軟骨修復、骨欠損、骨折、骨成長、軟骨疾患、椎間板変性、変形性関節症、骨粗鬆症、脊髄骨折、線維筋痛症、多発性筋炎等の骨、軟骨又は筋肉に関連する疾患、
c)中枢神経系又は末梢神経系の虚血、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、自律神経性ニューロパチー、動脈瘤、脳梗塞、脳卒中、脳血管疾患、脳血管低潅流、痴呆、癲癇、虚血性末梢性ニューロパチー、軽症認知障害、多発性硬化症、神経損傷、パーキンソン病、ニーマン・ピック病、多発ニューロパチー、統合失調症、脊髄損傷、中毒性ニューロパチー等の中枢神経系疾患、
d)緑内障、網膜症等の眼疾患、
e)クローン病、胃潰瘍、腸虚血、過敏性腸症候群、膵炎、潰瘍性大腸炎等の胃腸疾患、
f)糖尿病、糖尿病性足病変、糖尿病性末梢血管疾患等のホルモン又は代謝疾患、
g)アレルギー、肥満細胞症、シェーグレン病、移植片拒絶反応、膠原病におけるシェーグレン症候群等の組織欠損、皮膚筋炎、全身性エリテマトーデス、クレスト症候群、シャープ症候群等の免疫系疾患、
h)敗血症性ショック等の感染症、
i)腎症、頭蓋内圧亢進、腎虚血等の腎疾患、
j)歯垢、歯周病等の口腔疾患、
k)勃起不全等の生殖器系疾患、
l)喘息、気管支肺異形成症、肺炎、呼吸窮迫症候群等の呼吸器疾患、
m)非特異性皮膚炎、褥瘡性潰瘍、皮膚虚血、皮膚潰瘍、糖尿病性壊疽、糖尿病性皮膚潰瘍、裂傷、疥癬、強皮症、皮膚損傷、熱傷、手術創、創傷治癒等の皮膚疾患、
n)血管不全、血管再狭窄、血管炎、血管痙攣、ウェゲナー肉芽腫症等の血管疾患、
o)脱毛症、乳酸アシドーシス、四肢虚血、肝硬変、肝虚血、ミトコンドリア脳筋症、サルコイドーシス、軟部組織欠損、組織及び/又は臓器の自家移植片で治療される疾患等の他の疾患
から構成される群から選択される請求項1から5のいずれか一項に記載の血管新生低下及び/もしくは障害を伴う疾患並びに/又は血管新生率増加が治癒過程に有益となる疾患の予防及び/又は治療用ケイ素含有生分解性材料。
【請求項7】
ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物が少なくとも20%のエトキシ基含量をもつ請求項1から6のいずれか一項に記載の、血管新生低下及び/もしくは障害を伴う疾患並びに/又は血管新生率増加が治癒過程に有益となる、疾患の予防及び/又は治療用ケイ素含有生分解性材料。
【請求項8】
ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物が繊維及び/又は繊維マトリックスの形態であり、繊維及び/又は繊維マトリックスが少なくとも17%の圧縮率をもつ請求項1から7のいずれか一項に記載の、血管新生低下及び/もしくは障害を伴う疾患並びに/又は血管新生率増加が治癒過程に有益となる、疾患の予防及び/又は治療用ケイ素含有生分解性材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−520463(P2013−520463A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554316(P2012−554316)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052561
【国際公開番号】WO2011/104215
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(512219426)バイエル・イノベーシヨン・ゲー・エム・ベー・ハー (1)
【Fターム(参考)】