説明

衛星航法受信装置

【課題】周波数の異なる複数の送信信号を受信する場合に、各受信信号をA/D変換と同時に周波数変換して得たIF信号からベースバンド信号を復調するに際して、可変局所信号発生器に数値制御発振器を使用し、1個のサンプリングクロックを用いながらも、それら複数の受信信号に対して正常な直交復調が実現できるようにする。
【解決手段】A/D変換部で生成するIF信号の周波数を、入力するRF信号とサンプリングクロックの周波数とから決まる複数の周波数の内の最低の周波数に選択し、そのIF信号を前段ミキサ部でサンプリングクロックの1/4の周波数の局所信号で乗算してから、数値制御発振器を使用した可変局所信号発生部で発生する局所信号により、後段ミキサ部においてベースバンド信号を復調する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星航法受信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPSによる衛星測位システムは広く普及している。2005年の段階では、送信中心周波数が1575.42MHzでC/Aコードという擬似雑音信号(以下PNコード)によリスペクトラム拡散されたL1C/A信号が民間で利用されている。近年、GPSシステムとしてのアップデートとして、送信中心周波数が1227.6MHzでL2Cコードと呼ばれるPNコードでスペクトラム拡散されたL2C信号や、送信中心周波数が1176.45MHzでI5.Q5と呼ばれるPNコードでスペクトラム拡散されたL5信号の開発が進んでいる。
【0003】
さらに欧州では、ガリレオシステム(非特許文献1)が開発され、中心周波数がGPSと同一の1575.42MHzのE2−L1−E1信号、中心周波数が1278.75MHzのE6信号、中心周波数が1207.14MHzのE5b信号、中心周波数がGPSのL5と同一の1176.45MHzのE5a信号等が、送信される予定である。
【0004】
地上で衛星からの送信信号を受信する衛星航法受信装置は、従来、1つの送信信号を受信するだけでよく、従来では図4に示す構造がとられてきた。GPS L1信号の受信について説明する。アンテナ10で受信した送信信号(RF信号)は、アナログ回路20におけるRF回路21のバンドパスフィルタ2111でGPSのL1信号の帯域が選択され、増幅器2112で増幅され、A/D変換部22において、TCXO等からなる基準信号発生器30で発生したクロックCLKにより離散化と量子化が行われる。
【0005】
このA/D変換部22では、RF信号の周波数frよりも低い周波数fcのクロックCLKがサンプリングに使用され、A/D変換と同時に周波数変換が行われる。この周波数変換で得られるIF信号の周波数f1には、後段で処理しやすいように0に近い最も低い周波数が選択される。この周波数変換では、(1)式によりIF信号の周波数f1が得られる。
f1=fr−n×fc (1)
nは0を含む正の整数(n=0,1,2,3、・・・)である。nとしては、|fr−n×fc|が最小となるような値が選択される。
【0006】
例えばfr=80MHz、fc=50MHzの場合、n=1とすれば周波数f1=30MHzとなるが、n=2とした場合はf1=−20MHzとなる。しかし、実際には負の周波数は存在しないので、正の周波数に折り返された20MHzを選択した方が、IF信号の周波数f1は低くなる。
【0007】
40は同時に受信できるようにm個のチャネル部411〜41mを有するデジタル回路、50はこのチャネル部411〜41mを制御する制御部である。ここでは、チャネル部411を代表して動作を説明する。チャネル部411は、フィルタ4111、ミキサ部4112’、可変局所信号発生部4113、およびコード逆拡散部4114を備える。フィルタ4111としては、IF信号の帯域の中心周波数f1がRF信号の帯域より低いため、より急峻な特性のものが使用できる。
【0008】
可変局所信号発生部4113は、クロックCLKの周波数fcに基づき互いに直交した信号SI,SQを発生させ、ミキサ部4112’に入力させる。これにより、ミキサ部4112’においてフィルタ4111の出力信号をベースバンド信号I,Qに直交分離する。制御部50は、クロックCLKの周波数fcの誤差、衛星および移動体(本衛星航法受信装置)によるアンテナ位置の移動により生じるドップラシフトによる影響等を無くするように、入力されるIF信号と直交信号SI,SQとのミキサ部4112’における混合結果を判定して、可変局所信号発生部4113を制御する。
【0009】
ミキサ部4112’で分離されたベースバンド信号I,Qは、コード逆拡散部4114に入力し、送信信号と同一の周波数、同一の位相のPNコードにより受信信号のスペクトラムが集約される。なお、可変局所信号発生部4113には、一般にはクロックCLKの周波数fcに依存した数値制御発振器(NCO)が用いられる。
【0010】
以上説明した図4の衛星航法受信装置では、1つの周波数の送信信号を受信するだけでよいため、クロックCLKの周波数fcとして任意の周波数を選択する事ができる。
【0011】
しかし、前述したとおり、GPSでもL1、L2C、L5の3個の周波数の信号が送信され、ガリレオでもE2−L1−E1、E6、E5b、E5aの4個の周波数の信号が送信される。よって、これらすべてを受信するためには、共通帯域を利用した場合でも、最大5個の周波数の信号の受信が必要となる。
【0012】
そこで、これらに対応するため、アナログ回路20を複数個用意して、1個のクロックCLKによってA/D変換と周波数変換を実施し、各受信周波数に応じたIF信号を得ることが考えられるが、ここで得られるIF信号の中心周波数は様々となり、希望するIF信号を選択するのは困難である。これは、後記するように、可変局所信号発生部4113で用いられる出力周波数に制約があるからである。
【0013】
図5はこれを説明するための可変局所信号発生部4113に使用する数値制御発振器60の回路図、図6〜図8はその動作説明図である。図5において、61は多ビットレジスタ(ここでは、4ビットの例とする。)、62は加算器、63はスイッチである。制御部50によって、出力すべき直交信号SI,SQの周波数設定値を加算器62に加え、またスイッチ63を切り替えて初期位相設定値をレジスタ61にプリセットしたのち、スイッチ63を加算器62の側に切り替えてクロックCLKを入力させると、レジスタ61の内容は、図5(d)に示すように変化する。これにより、レジスタ61の最上位ビットMSBとその1ビット下位のMSB−1から、90度の位相情報をもつ出力信号を得ることができる。
【0014】
ここでは、周波数設定値を「2」としているので、数値制御発振器60の出力周波数fnco1(=MSBの周波数)は、fnco1=2/24×Fc=1/8・fcとなる。また、初期位相を「2」としているので、レジスタ61の出力は「0010」から開始する。MSB−1ビット(3ビット目)の出力周波数fnco2はfnco2=2×fncoとなる。
【0015】
直交信号SI,SQの周波数は、MSBとMSB−1を組み合わせて得られる。この例では、(MSB,MSB−1)の組み合わせで、「0,0」=0度、「0,1」=90度、「1,0」=180度、「1,1」=270度の情報を得ることで、直交信号SI,SQを表現する事が出来る。以上のように、数値制御発振器60の出力可能な最高周波数はfnco1=1/8・fcであり、直交信号SI,SQを出力する場合は、MSB−1ビット目がfnco2=1/4・fcとなる。
【0016】
また、周波数設定値を「3」(=0011)とした場合は、図7に(g)示すように、位相ジッタは生じるものMSBの周波数fnco1は平均的には 3/16・fc(<1/4・fc)となり、また、MSB−1の周波数fnco2はその2倍の周波数となることから、90度の位相情報を取得可能である。
【非特許文献1】“L1 band part of Galileo Signal in Space ICD(SIS ICD)”、 Galileo Joint Undertaking、2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、周波数設定を「6」(=0110)とした場合は、図8に示すように、MSBの周波数fnco1は平均的には 6/16・fcとなり、1/4・fcを超えている。また、MSB−1の周波数Fnco2は 1/4・fcとならず、この状態からは90度の位相情報の取得は不可能である。また、位相情報の誤差は非常に大きい。
【0018】
このように、周波数fcのクロックCLKで動作する数値制御発振器60を使用して90度の位相情報を取り出すためには、MBSの周波数fnco1として1/4・fc以下であることが条件である。クロックCLKの周波数fcとIF信号の周波数f1には、f1≦1/4・fcの制約が存在する。しかし、先に説明した(1)式の条件を満足させるのみでは、IF信号の周波数f1が1/4・fc以下になるという保証はない。
【0019】
そこで、異なる周波数の複数のクロックを用いて各受信信号をサンプリングすれば、上記の問題を解決することはできる。しかし、これによれば、デジタル回路40が受信信号の個数分だけ必要となり、その回路規模が増大してしまう。また、スーパへテロダイン等の方式で受信信号の数と同数のシンセサイザを用いても、上記内容は解決できるが、アナログ回路規模の増大、並びに各IF信号が生成されるまでの周波数成分が異なり、信号間の遅延時間が異なってしまうという問題がある。
【0020】
本発明の目的は、周波数の異なる複数の送信信号を受信する場合に、各受信信号をA/D変換と同時に周波数変換して得たIF信号からベースバンド信号を復調するに際して、可変局所信号発生器に数値制御発振器を使用し、1個のサンプリングクロックを用いながらも、それら複数の受信信号に対して正常な直交復調が実現できるようにした衛星航法受信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、請求項1にかかる発明は、アンテナで受信した信号を異なる周波数帯域に制限して個々に増幅する複数(i個)のRF回路と、該各RF回路から出力するアナログ信号を混合する混合部と、該混合部の出力信号をクロックによりサンプリングしてデジタル信号に変換すると共に周波数変換するA/D変換部とを有するアナログ部と、前記クロックを入力し直交した第1の局所信号を生成する直交固定局所信号発生部と、前記A/D変換部の出力信号を入力する複数のチャネル部とを有するデジタル部を備え、前記各チャネル部は、前記A/D変換部の出力信号と前記第1の局所信号とを乗算する前段ミキサ部と、前記クロックを入力し直交した第2の局所信号を生成する数値制御発振器を使用した可変局所信号発生部と、前記前段ミキサ部の出力信号と前記第2の局所信号とを乗算する後段ミキサ部と、該後段ミキサ部の出力信号に対して逆拡散を行うコード逆拡散部と有し、前記クロックの周波数をfc、前記A/D変換部に入力される混合された複数の受信周波数成分を各々fri、前記A/D変換部の出力信号に含まれる複数の周波数成分を各々f1i、前記第1の局所信号の周波数を1/4・fcとして、f1iの周波数の絶対値である|fri−ni・fc|を最小とするような0を含む正の整数niを各々選択して前記A/D変換部で周波数変換を行うことで、複数の前記前段ミキサ部の出力信号の周波数成分f2iを、各々
f2i=fri−(ni+0.25)fc
として得、前記前段ミキサ部の出力信号の周波数成分f2iが各々前記クロックの周波数fcの1/4以下になるようにしたことを特徴とする。
請求項2にかかる発明は、アンテナで受信した信号を異なる周波数帯域に制限して個々に増幅する複数(i個)のRF回路と、該各RF回路から出力するアナログ信号を共通のクロックにより個々にサンプリングしてデジタル信号に変換すると共に周波数変換する複数のA/D変換部とを有するアナログ部と、前記各A/D変換部の出力信号を取り込みその内の1つを選択し複数に分岐して出力する受信信号選択部と、前記クロックを入力し直交した第1の局所信号を生成する直交固定局所信号発生部と、前記受信信号選択部の出力信号を入力する複数のチャネル部とを有するデジタル部を備え、前記各チャネル部は、前記受信信号選択部の出力信号と前記第1の局所信号とを乗算する前段ミキサ部と、前記クロックを入力し直交した第2の局所信号を生成する数値制御発振器を使用した可変局所信号発生部と、前記前段ミキサ部の出力信号と前記第2の局所信号とを乗算する後段ミキサ部と、該後段ミキサ部の出力信号に対して逆拡散を行うコード逆拡散部と有し、前記クロックの周波数をfc、前記各A/D変換部に入力される複数の受信周波数を各々fri、前記各A/D変換部の出力信号の周波数を各々f1i、前記第1の局所信号の周波数を1/4・fcとして、f1iの周波数の絶対値である|fri−ni・fc|を最小とするような0を含む正の整数niを各々選択して前記各A/D変換部で周波数変換を行うことで、複数の前記前段ミキサ部の出力信号の周波数f2iを、各々
f2i=fri−(ni+0.25)fc
として得、前記前段ミキサ部の出力信号の周波数f2iが前記クロックの周波数fcの1/4以下になるようにしたことを特徴とする。
請求項3にかかる発明は、アンテナで受信した信号を異なる周波数帯域に制限して個々に増幅する複数(i個)のRF回路と、該各RF回路から出力するアナログ信号を混合する混合部と、該混合部の出力信号をクロックによりサンプリングしてデジタル信号に変換すると共に周波数変換するA/D変換部とを有するアナログ部と、前記クロックを入力し直交した第1の局所信号を生成する直交固定局所信号発生部と、該第1の局所信号と前記A/D変換部の出力信号とを乗算する共通の段ミキサ部と、該共通の前段ミキサ部の出力信号を入力する複数のチャネル部と有するデジタル部を備え、前記各チャネル部は、前記クロックを入力し直交した第2の局所信号を生成する数値制御発振器を使用した可変局所信号発生部と、前記共通の前段ミキサ部の出力信号と前記第2の局所信号とを乗算する後段ミキサ部と、該後段ミキサ部の出力信号に対して逆拡散を行うコード逆拡散部と有し、
前記クロックの周波数をfc、前記A/D変換部に入力される混合された複数の受信周波数成分を各々fri、前記A/D変換部の出力信号に含まれる複数の周波数成分を各々f1i、前記第1の局所信号の周波数を1/4・fcとして、f1iの周波数の絶対値である|fri−ni・fc|を最小とするような0を含む正の整数niを各々選択して前記A/D変換部で周波数変換を行うことで、前記共通の前段ミキサ部の出力信号の周波数成分f2iを、各々
f2i=fri−(ni+0.25)fc
として得、前記共通の前段ミキサ部の出力信号の周波数成分f2iが各々前記クロックの周波数fcの1/4以下になるようにしたことを特徴とする。
請求項4にかかる発明は、アンテナで受信した信号を異なる周波数帯域に制限して個々に増幅する複数(i個)のRF回路と、該各RF回路から出力するアナログ信号を共通のクロックにより個々にサンプリングしてデジタル信号に変換すると共に周波数変換する複数のA/D変換部とを有するアナログ部と、前記各A/D変換部の出力信号を取り込みその内の1つを選択し複数に分岐して出力する受信信号選択部と、前記クロックを入力し直交した第1の局所信号を生成する直交固定局所信号発生部と、該第1の局所信号と前記受信信号選択部の各出力信号とを乗算する複数の前段ミキサ部と、該複数の前段ミキサ部の出力信号を入力する複数のチャネル部と有するデジタル部を備え、前記各チャネル部は、前記クロックを入力し直交した第2の局所信号を生成する数値制御発振器を使用した可変局所信号発生部と、前記前段ミキサ部の出力信号と前記第2の局所信号とを乗算する後段ミキサ部と、該後段ミキサ部の出力信号に対して逆拡散を行うコード逆拡散部と有し、前記クロックの周波数をfc、前記各A/D変換部に入力される複数の受信周波数を各々fri、前記各A/D変換部の出力信号の周波数を各々f1i、前記第1の局所信号の周波数を1/4・fcとして、f1iの周波数の絶対値である|fri−ni・fc|を最小とするような0を含む正の整数niを各々選択して前記各A/D変換部で周波数変換を行うことで、複数の前記前段ミキサ部の出力信号の周波数f2iを、各々
f2i=fri−(ni+0.25)fc
として得、前記前段ミキサ部の出力信号の周波数f2iが前記クロックの周波数fcの1/4以下になるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、A/D変換部で生成するIF信号の周波数を、入力するRF信号とサンプリングクロックの周波数とから決まる複数の周波数の内の最低の周波数に選択し、そのIF信号を前段ミキサ部でサンプリングクロックの1/4の周波数の第1の局所信号で乗算するので、その前段ミキサ部の出力信号をサンプリングクロックfcの1/4以下の周波数にすることができ、このため、可変局所信号発生部における数値制御発振器の出力周波数をサンプリングクロックfcの1/4以下にし正常な直交信号を発生させて、直交復調を行うことが可能となる。つまり、周波数の異なる複数の送信信号を受信する場合に、1つのサンプリングクロックを使用して、回路規模増大や遅延時間の問題を生じることなく、衛星航法受信回路を構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[第1の実施例]
図1は本発明の第1の実施例の衛星航法受信装置の構成を示すブロック図である。10はアンテナ、20Aはアナログ回路、30は周波数fcのクロックCLKを発生する基準信号発生器、40Aはデジタル回路、50は制御部である。
【0024】
アナログ回路20Aは、第1〜第iのi個のRF回路211〜21iを備える。iの値は2以上の整数であり、受信を希望するRF周波数の数に設定される。例えばGPSのL1とL2Cだけを受信する場合はi=2であり、GPSおよびガリレオの全周波数を受ける場合はi=5である。今後新しく衛星航法システムが開発された場合は、さらにiを増やせばよい。ここでは、各々のRF信号1、RF2,・・・,RFiの中心周波数をfr1、fr2,・・・,friとする。第1のRF回路211を代表して説明すれば、ここには中心周波数をfr1に合わせたバンドパスフィルタ2111と増幅回路2112が内蔵されている。図1ではバンドパスフィルタと増幅部は1段ずつしか記載していないが、各段数は必要に応じて増加すればよい。
【0025】
各RF回路211〜21iの出力信号RF1、RF2,・・・,RFiは混合器23で混合されて1つの信号になってから、周波数fr1、fr2,・・・,friよりも低い(又は同一の)周波数fcのクロックCLKによりA/D変換部22において離散化および量子化が行われ、同時にIF信号IF11,IF12,・・・,IF1iに周波数変換が行われる。このサンプリングでは、RF信号1,RF2,・・・,RFiに対応して以下の周波数f11,f12,・・・,f1iのIF信号が生成される。
f11=fr1−n1・fc (n1=0,1,2,3,・・・)
f12=fr2−n2・fc (n2=0,1,2,3,・・・)
f12i=fri−ni・fc (ni=0,1,2,3,・・・) (2)
なお、0を含む正の整数n1は|fr1−n1・fc|が最小となる値に、0を含む正の整数n2は|fr2−n2・fc|が最小となる値に、・・・、0を含む正の整数niは|fri−ni・fc|が最小となる値に、それぞれ設定する。これにより、最低周波数のIF信号が得られる。
【0026】
例えば、fr1=80MHz、fc=50MHzの場合、n1=1とすれば周波数f11=30MHzとなるが、n1=2とした場合はf11=−20MHzとなる。しかし、実際には負の周波数は存在しないので、正の周波数に折り返された20MHzを選択した方が、周波数f11は低くなる。
【0027】
デジタル回路40Aは、複数の衛星を同時に受信し、また同一周波数又は異なる周波数のIF信号を同時に受信できるように、m個のチャネル部411〜41mと直交固定局所信号発生部42を有し、制御部50はこのチャネル部411〜41mを制御する。ここでは、チャネル部411を代表して動作を説明する。チャネル部411は、フィルタ4111、後段ミキサ部4112、可変局所信号発生部4113、コード逆拡散部4114、および前段ミキサ部4115を備える。
【0028】
フィルタ4111としては、IF信号IF11の周波数f11がRF信号RF1の周波数fr1より低いため、より急峻な特性のものが使用できる。例えば通過帯域は、GPSのL1信号を受信する場合にはその中心周波数の±1MHzに設定する。また、GPSのL5信号を受信する場合はその中心周波数の±10MHzに設定する。
【0029】
フィルタ4111の出力信号は前段ミキサ4115に入力してそこで周波数変換・直交分離される。この前段ミキサ部4115には、直交固定局所信号発生部42で発生した直交する第1の局所信号S2I,S2Qが入力している。この第1の局所信号S2I,S2Qの周波数は、クロックCLKの周波数fcを1/4分周した1/4・fcである。クロックCLKの1/4周期が90度に相当するため、直交固定局所信号発生部42は2ビットカウンタ等で簡単に構成できる。
【0030】
前段ミキサ4115で周波数変換・直交分離された後の同相成分IF21Iと直交成分IF21Qの周波数f21は、差分を採用すると、
f21=f11−1/4・fc (3)
である。このように元のIF信号IF11の周波数f11に対してそれぞれ1/4・fcの周波数だけ低下している。
【0031】
この同相成分IF21Iと直交成分IF21Qは後段ミキサ部4112に入力する。この後段ミキサ部4112には、可変局所信号発生部4113から、クロックCLKの周波数fcに基づき生成された直交する第2の局所信号S1I,S1Qが入力している。したがって、後段ミキサ部4112では、同相成分IF21IとS1Iの乗算、直交信号IF21QとS1Qの乗算が行われ、ベースバンド信号I,Qが出力する。なお、このときの乗算では差分が取り出されるようにする。この後段ミキサ部4112としては、複素型が望ましい。可変局所信号発生部4113には、図3で説明したのと同様にクロックCLKの周波数fcに依存した数値制御発振器(NCO)が用いられる。
【0032】
制御部50は、クロックCLKの周波数fcの誤差、衛星および移動体によるアンテナ位置の移動により生じるドップラシフトによる影響等を無くするように、入力されるIF信号と第2の局所信号S1I,S1Qとの後段ミキサ部4112における混合結果を判定して、可変局所信号発生部4113を図3で説明したのと同様に制御する。後段ミキサ部4112から出力するベースバンド信号I,Qは、コード逆拡散部4114において、送信信号と同一の周波数、同一の位相のPNコードにより受信信号のスペクトラムが集約される。
【0033】
以上のように、本実施例においては、直交固定局所信号発生部42と前段ミキサ部4115によって、RF信号FR1の周波数fr1と2番目のIF信号IF21I,IF21Qの周波数f21とクロックCLKの周波数fcとの関係は、(2)式、(3)式より、以下の通りとなる。
f21=f11−1/4・fc
=(fr1−n1・fc)−1/4・fc (4)
前述したように、|fr1−n1・fc|(=f11)は最小になるようにn1の値が設定される。この結果、「fr1−n1・fc」と「fr1−(n1+1)・fc」とは符号が異なり、その差は周波数fcであることから、最小となる周波数f11の絶対値は1/2・fc以下となる。さらに、前段ミキサ部4115の作用により、「f21≦f11−1/4・fc」が得られることで、(4)式は、
f21≦|f11|−1/4・Fc≦(1/2-1/4)Fc=1/4・Fc
を確実に満足することができる。
【0034】
従って、可変局所信号発生器4113で用いる数値制御発振器60の出力周波数を1/4fc以下となるように使用することが可能となり、これにより直交位相情報を確実に出力する事が可能となる。(4)式を一般化すると、
f2i=fri−(ni+0.25)fc (5)
となる。ただし、整数ni=0,1,2,・・・であり、このniは、|fri−ni・fc|が最小となる値である。
【0035】
図3に本実施例を用いた場合の後段ミキサ部4112に入力するIF信号の周波数例を示す。ここでは、クロック周波数fc=40MHzとした。従来例(図4)では、f1≦1/4・fc=10MHzを受信周波数A,C,Eにおいて満足できていないが、本実施例では、周波数A〜Eの全てにおいて、f2i≦1/4・fc=10MHzを満足できている。例えば、周波数Aにおいては受信周波数は1575.42MHz、n=ni=39であり、従来例では|1575.42−39×40|=15.42MHzであり、1/4・fc=10MHzよりも高い。これに対して、本実施例では、|1575.42−(39+0.25)×40|=5.42MHzであり、1/4・fc=10MHzより低くすることができる。
【0036】
[第2の実施例]
図2は第2の実施例の衛星航法受信装置の構成を示すブロック図である。第1の実施例との相違点は、アナログ回路20Bにおいて、i個のA/D変換部211〜21iを設けて、i個のRF回路211〜21iの出力信号RF1〜RFiをそのA/D変換部211〜21iにおいてそれぞれ同一周波数fcのクロックCLKでサンプリングして、離散化、量子化、および周波数変換を行い、また、デジタル回路40Bに受信信号選択部43を設けて、制御部50からの指示によって、A/D変換部211〜21iから出力するIF信号IF11〜IF1iのうちの1つを選択して第1〜第mのチャネル部411〜41mに入力させるようにした点である。
【0037】
本実施例においても、前段ミキサ部4115を設けることで、前記した(5)式を満足させることができ、例えばチャネル部411では、後段ミキサ部4112に入力するIF信号の周波数f21の値を、クロックCLKの周波数fcの1/4以下にすることができる。
【0038】
また、第1の実施例と異なり、各A/D変換部211〜21iから出力されるIF信号IF11〜IF1iは互いに独立した信号であるため、デジタル回路40Bに内蔵した複数の受信チャネル部411〜41mに、各々1つだけ選択して入力させる受信信号選択部43により、前段ミキサ部4115から出力するIF信号IF21I,IF21Q、および後段ミキサ部4112から出力するベースバンド信号I,Qには、第1の実施例の場合と異なり他の信号を含まない。
【0039】
このため、例えば、第1の実施例では、受信チャネル部411がRF信号RF1を受信する場合、各RF回路211〜21iの各バンドパスフィルタの通過帯域の雑音、およびRF信号RF2,・・・、RFi自身が雑音となってしまうが、第2の実施例では、例えば、A/D変換部211から出力されるIF信号IF11のみを受信信号選択部43で選択でき、そのように問題は生じない。受信信号選択部46はセレクタ回路などで容易に実現でき、任意の組み合わせで設定できるよう、制御部50Bから制御される。
【0040】
[その他の実施例]
なお、第1および第2の実施例では、直交固定局所信号発生部42から出力する直交信号S2I,S2Qを各チャネル部411〜41mに入力しているが、第1の実施例では、デジタル回路40Aの入力部分に、共通の前段ミキサ部を設けて、ここで直交固定局所信号発生部42から出力する直交信号S2I,S2Qにより周波数変換を行い、その周波数変換信号を各チャネル部411〜41mに入力させるようにしてもよい。また、第2の実施例では、各チャネル部411〜41mの前段に個別に前段ミキサ部を設けて、ここで周波数変換を行い、その周波数変換信号を各チャネル部411〜41mに入力させるようにしてもよい。いずれの場合も、後段ミキサ部に入力され、第1および第2の実施例と同等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1の実施例の衛星航法受信装置の構成のブロック図である。
【図2】本発明の第2の実施例の衛星航法受信装置の構成のブロック図である。
【図3】第1の実施例と従来例の衛星航法受信装置の最終IF信号の周波数の説明図である。
【図4】従来例の衛星航法受信装置の構成のブロック図である。
【図5】可変局所信号発生部として使用する数値制御発振器の構成を示すブロック図である。
【図6】図5の数値制御発振器のレジスタを4ビットとした場合において、周波数設置値を「2」としたときの動作説明図である。
【図7】図5の数値制御発振器のレジスタを4ビットとした場合において、周波数設置値を「3」としたときの動作説明図である。
【図8】図5の数値制御発振器のレジスタを4ビットとした場合において、周波数設置値を「6」としたときの動作説明図である。
【符号の説明】
【0042】
10:アンテナ
20,20A,20B:アナログ部
21,211〜21i:RF回路、2111:バンドバスフィルタ、2112:増幅器
22、221〜22i:A/D変換部
30:基準信号発生器
40,40A,40B:デジタル部
411〜41m:チャネル部、4111:フィルタ、4112’:ミキサ部、4112:後段ミキサ部、4113:可変局所信号発生部、4114:コード逆拡散部、4115:前段ミキサ部、42:直交固定局所信号発生部、43:受信信号選択部
50:制御部
60:数値制御発振器、61:多ビットレジスタ、62:加算器、63:スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナで受信した信号を異なる周波数帯域に制限して個々に増幅する複数(i個)のRF回路と、該各RF回路から出力するアナログ信号を混合する混合部と、該混合部の出力信号をクロックによりサンプリングしてデジタル信号に変換すると共に周波数変換するA/D変換部とを有するアナログ部と、
前記クロックを入力し直交した第1の局所信号を生成する直交固定局所信号発生部と、前記A/D変換部の出力信号を入力する複数のチャネル部とを有するデジタル部を備え、
前記各チャネル部は、前記A/D変換部の出力信号と前記第1の局所信号とを乗算する前段ミキサ部と、前記クロックを入力し直交した第2の局所信号を生成する数値制御発振器を使用した可変局所信号発生部と、前記前段ミキサ部の出力信号と前記第2の局所信号とを乗算する後段ミキサ部と、該後段ミキサ部の出力信号に対して逆拡散を行うコード逆拡散部と有し、
前記クロックの周波数をfc、前記A/D変換部に入力される混合された複数の受信周波数成分を各々fri、前記A/D変換部の出力信号に含まれる複数の周波数成分を各々f1i、前記第1の局所信号の周波数を1/4・fcとして、
f1iの周波数の絶対値である|fri−ni・fc|を最小とするような0を含む正の整数niを各々選択して前記A/D変換部で周波数変換を行うことで、複数の前記前段ミキサ部の出力信号の周波数成分f2iを、各々
f2i=fri−(ni+0.25)fc
として得、前記前段ミキサ部の出力信号の周波数成分f2iが各々前記クロックの周波数fcの1/4以下になるようにしたことを特徴とする衛星航法受信装置。
【請求項2】
アンテナで受信した信号を異なる周波数帯域に制限して個々に増幅する複数(i個)のRF回路と、該各RF回路から出力するアナログ信号を共通のクロックにより個々にサンプリングしてデジタル信号に変換すると共に周波数変換する複数のA/D変換部とを有するアナログ部と、
前記各A/D変換部の出力信号を取り込みその内の1つを選択し複数に分岐して出力する受信信号選択部と、前記クロックを入力し直交した第1の局所信号を生成する直交固定局所信号発生部と、前記受信信号選択部の出力信号を入力する複数のチャネル部とを有するデジタル部を備え、
前記各チャネル部は、前記受信信号選択部の出力信号と前記第1の局所信号とを乗算する前段ミキサ部と、前記クロックを入力し直交した第2の局所信号を生成する数値制御発振器を使用した可変局所信号発生部と、前記前段ミキサ部の出力信号と前記第2の局所信号とを乗算する後段ミキサ部と、該後段ミキサ部の出力信号に対して逆拡散を行うコード逆拡散部と有し、
前記クロックの周波数をfc、前記各A/D変換部に入力される複数の受信周波数を各々fri、前記各A/D変換部の出力信号の周波数を各々f1i、前記第1の局所信号の周波数を1/4・fcとして、
f1iの周波数の絶対値である|fri−ni・fc|を最小とするような0を含む正の整数niを各々選択して前記各A/D変換部で周波数変換を行うことで、複数の前記前段ミキサ部の出力信号の周波数f2iを、各々
f2i=fri−(ni+0.25)fc
として得、前記前段ミキサ部の出力信号の周波数f2iが前記クロックの周波数fcの1/4以下になるようにしたことを特徴とする衛星航法受信装置。
【請求項3】
アンテナで受信した信号を異なる周波数帯域に制限して個々に増幅する複数(i個)のRF回路と、該各RF回路から出力するアナログ信号を混合する混合部と、該混合部の出力信号をクロックによりサンプリングしてデジタル信号に変換すると共に周波数変換するA/D変換部とを有するアナログ部と、
前記クロックを入力し直交した第1の局所信号を生成する直交固定局所信号発生部と、該第1の局所信号と前記A/D変換部の出力信号とを乗算する共通の段ミキサ部と、該共通の前段ミキサ部の出力信号を入力する複数のチャネル部と有するデジタル部を備え、
前記各チャネル部は、前記クロックを入力し直交した第2の局所信号を生成する数値制御発振器を使用した可変局所信号発生部と、前記共通の前段ミキサ部の出力信号と前記第2の局所信号とを乗算する後段ミキサ部と、該後段ミキサ部の出力信号に対して逆拡散を行うコード逆拡散部と有し、
前記クロックの周波数をfc、前記A/D変換部に入力される混合された複数の受信周波数成分を各々fri、前記A/D変換部の出力信号に含まれる複数の周波数成分を各々f1i、前記第1の局所信号の周波数を1/4・fcとして、
f1iの周波数の絶対値である|fri−ni・fc|を最小とするような0を含む正の整数niを各々選択して前記A/D変換部で周波数変換を行うことで、前記共通の前段ミキサ部の出力信号の周波数成分f2iを、各々
f2i=fri−(ni+0.25)fc
として得、前記共通の前段ミキサ部の出力信号の周波数成分f2iが各々前記クロックの周波数fcの1/4以下になるようにしたことを特徴とする衛星航法受信装置。
【請求項4】
アンテナで受信した信号を異なる周波数帯域に制限して個々に増幅する複数(i個)のRF回路と、該各RF回路から出力するアナログ信号を共通のクロックにより個々にサンプリングしてデジタル信号に変換すると共に周波数変換する複数のA/D変換部とを有するアナログ部と、
前記各A/D変換部の出力信号を取り込みその内の1つを選択し複数に分岐して出力する受信信号選択部と、前記クロックを入力し直交した第1の局所信号を生成する直交固定局所信号発生部と、該第1の局所信号と前記受信信号選択部の各出力信号とを乗算する複数の前段ミキサ部と、該複数の前段ミキサ部の出力信号を入力する複数のチャネル部と有するデジタル部を備え、
前記各チャネル部は、前記クロックを入力し直交した第2の局所信号を生成する数値制御発振器を使用した可変局所信号発生部と、前記前段ミキサ部の出力信号と前記第2の局所信号とを乗算する後段ミキサ部と、該後段ミキサ部の出力信号に対して逆拡散を行うコード逆拡散部と有し、
前記クロックの周波数をfc、前記各A/D変換部に入力される複数の受信周波数を各々fri、前記各A/D変換部の出力信号の周波数を各々f1i、前記第1の局所信号の周波数を1/4・fcとして、
f1iの周波数の絶対値である|fri−ni・fc|を最小とするような0を含む正の整数niを各々選択して前記各A/D変換部で周波数変換を行うことで、複数の前記前段ミキサ部の出力信号の周波数f2iを、各々
f2i=fri−(ni+0.25)fc
として得、前記前段ミキサ部の出力信号の周波数f2iが前記クロックの周波数fcの1/4以下になるようにしたことを特徴とする衛星航法受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−259363(P2007−259363A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84389(P2006−84389)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】