説明

衝撃吸収ユニット

【課題】後突衝撃に応じてシートバックが後方へ傾動する際、シートバックの前後傾動方向に対して垂直方向へ衝撃が加わった場合においても衝撃吸収部材で後突衝撃を吸収可能にすることを目的とする。
【解決手段】シートクッション11およびシートバック12を有する車両用シート10において、シートクッション11に対してシートバック12の傾斜角を調節するリクライニング装置20と併用される衝撃吸収ユニット100であって、シートクッション11またはシートバック12のいずれか一方に固定される衝撃吸収部材110と、衝撃吸収部材110とリクライニング装置20とを連結する連結部材120と、連結部材120の移動を規制する規制部材130を備え、規制部材130により連結部材120のシートバック12側面に対する垂直方向への移動を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートのシートクッションに対してシートバックを傾動させるリクライニング装置に用いられる衝撃吸収ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に追突事故等が発生した場合、車両用シートに着座する着座者はシートバックに強く押し付けられる後突衝撃を受けるが、この後突衝撃の影響をできるだけ少なくする為に、後突衝撃を吸収しながらシートクッションに対してシートバックの後方への傾きを序序に変化させる後突衝撃吸収技術として、例えば、特許文献1に示す車両用シートが提案されている。
【0003】
この車両用シートは、シートクッションの骨格を形成するシートクッションフレームに取り付けられた一対のサイドフレームと、サイドフレームに回転ヒンジを介して取り付けられたシートバックフレームとを備えており、回転ヒンジの下方のシートバックフレームに締結部材を取り付け、サイドフレームに締結部材を挿通する挿通孔と衝撃吸収手段を形成している。
【0004】
ここで、衝撃吸収手段は、締結部材を挿通する挿通孔近傍に設けられ、車両が後突衝撃を受けた場合、人体の移動によりシートバックフレームの下部が押圧されて締結部材が衝撃吸収手段を変形させながら後方へ移動することでシートバックフレームの傾動する衝撃を吸収している。
【0005】
【特許文献1】特開2005−186670
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記に記載する車両用シートは、車両に後突衝撃が加わった際にシートバックが前後傾倒方向の後方へ傾動する場合においては、後突衝撃を吸収することが可能である。しかし、車両に加わる後突衝撃は、シートバックの前後傾動方向だけの衝撃ではなく、シートバックの前後傾動方向に対して垂直方向に加わる衝撃もあると考えられる。ここで、車両用シートにシートバックの前後傾動方向に対して垂直方向の衝撃が車両用シートに加わった場合、締結部材は衝撃吸収手段側へ移動する力が働きづらいことから衝撃吸収手段において、後突衝撃を吸収することは困難であると考えられる。
【0007】
本発明は上記の課題を解決する為に成されたものであって、後突衝撃に応じてシートバックが後方へ傾動する際、シートバックの前後傾動方向に対して垂直方向へ衝撃が加わった場合においても衝撃吸収部材で後突衝撃を吸収可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、シートクッションおよびシートバックを有する車両用シートにおいて、シートクッションに対してシートバックの傾斜角を調節するリクライニング装置と併用される衝撃吸収ユニットであって、シートクッションまたはシートバックのいずれか一方に固定される衝撃吸収部材と、衝撃吸収部材とリクライニング装置とを連結する連結部材と、連結部材の移動を規制する規制部材を備えることを技術的特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、衝撃吸収部材は、外周縁であるリム部と、リム部の内周面の一部を形成し半径方向略中間部位に備えるハブ部と、ハブ部の側面を形成し半径方向に延出するスポーク部とで構成されており、リム部に形成する取付け穴の外周でハブ部の内周面の一部分が、スポーク部に形成する幅狭部に当接することを技術的特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、後突衝撃が衝撃吸収ユニットおよびリクライニング装置に加わった場合において、衝撃吸収ユニットの規制部材は、連結部材のシートバックフレーム側面に対する垂直方向の移動を規制しているため、シートバックフレームと衝撃吸収部材とリクライニング装置を係合した状態を保つことができる。これにより、後突衝撃に応じてシートバックが後方へ傾動する時の回動力を衝撃吸収ユニットの衝撃吸収部材で確実に吸収することが可能となる。
【0011】
請求項2の発明によれば、後突衝撃が衝撃吸収ユニットおよびリクライニング装置に加わった場合において、衝撃吸収ユニットの衝撃吸収部材に有するリム部がスポーク部の幅狭部と当接することで幅狭部の塑性変形を停止させることが可能であるため、塑性変形を停止するストッパー部材を衝撃吸収部材と別体に設ける必要がない。そのため、後突衝撃を吸収する為の衝撃吸収ユニットを低コストで提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】衝撃吸収ユニットを備えたリクライニング装置を搭載する車両用シートの側面図を示す図である。
【図2】衝撃吸収ユニットを備えたリクライニング装置を車両用シートのシートバックに設ける図を示す。
【図3】衝撃吸収ユニットの衝撃吸収部材を示す図である。
【図4】衝撃吸収ユニットの衝撃吸収部材が変形したときの図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の衝撃吸収ユニット100を備えたリクライニング装置20を搭載する車両用シート10の実施例について図面を用いて説明する。
【0014】
まず、車両用シート10について説明する。車両用シート10は、図1に示すように、着座者の座部を受けるシートクッション11と、このシートクッション11に傾動可能であって着座者の背部を受けるシートバック12とを備えている。この車両用シート10は、シートクッション11の骨格となるシートクッションフレーム11aの端部に設置されたリクライニング装置20を介してシートバック12の骨格となるシートバックフレーム12aが連結されており、リクライニング装置20の操作に応じてシートバック12がシートクッション11に対して傾動可能となっている。
【0015】
ここで、車両用シート10は、本実施例において後述する衝撃吸収ユニット100をシートバック12側に設けることから、シートバックフレーム12aに衝撃吸収ユニット100の衝撃吸収部材110をボルトやリベット等の固定具により固定するための取付け穴12bと衝撃吸収ユニット100の連結部材120を貫通可能な貫通穴12cを備える。この際、シートバック12の貫通穴12cの直径の長さは、後突時の衝撃を効率よく衝撃吸収部材110に伝達可能な大きさに設定する。
【0016】
リクライニング装置20は、図2に示すように、シートバック12側つまりリクライニング装置20とシートバックフレーム12aとの間に後述する衝撃吸収ユニット100の衝撃吸収部材110を設ける。このリクライニング装置20はシートバック12側の面に、衝撃吸収部材110を連結するための複数の突起20aが周方向等間隔に形成されている。また、リクライニング装置20は、略中央に形成される貫通穴20bに回転軸20c(図示しない)が挿通されており、回転軸20cを回転するための操作部材20d(図示しない)をシートクッションフレーム11a側に備える。
【0017】
次に、本発明に係る衝撃吸収ユニット100について図面を用いて説明する。
衝撃吸収ユニット100は、図2に示すように、後突衝撃に応じて傾動するシートバック12の衝撃を吸収する衝撃吸収部材110と、衝撃吸収部材110を連結する連結部材120と、連結部材120の移動を規制する規制部材130とで構成されている。
【0018】
衝撃吸収部材110は、塑性変形することにより衝撃を吸収可能な部材であって、図3に示すように、略円環状のリム部111と、略円環状のハブ部112と、半径方向に延出するスポーク部113とを備えており、リム部111の内縁の一部およびハブ部112の外縁の一部がスポーク部113により同一平面状にて同軸的に回動可能であって一体に形成されている。この衝撃吸収部材110は、本実施例において、シートバックフレーム12aとリクライニング装置20との間に介在するように設けられる。
【0019】
リム部111は、衝撃吸収部材110の外周側であって、後述するスポーク部113に連結される部位の間にシートバックブラケット12に有する取付け穴12bに対応する取付け穴111aが周方向等間隔に形成されている。このリム部111は、例えば、追突された車両に搭乗している着座者が車両用シート10のシートバック12に強く押し付けられる等によりシートバック12が後方へ傾動させる後突衝撃が作用する際には、後述するハブ部112に対して図3における時計回り方向(以下、後倒回動方向α)に回動させる方向に回動力が作用する。
【0020】
ここで、リム部111の取付け穴111aの外周面(後述するハブ部112のリム部111側の面)は、回転力が発生し後述するスポーク部113が塑性変形を行うと、スポーク部113の後倒回動方向側αの幅狭部113aに当接しストッパー111bとして機能する。
【0021】
ハブ部112は、衝撃吸収部材110の内周に略円環状に貫通される部位であって、リクライニング装置20に有する突起20aを貫通して係合可能な複数の係合穴112aと、後述する連結部材120を挿通しリクライニング装置20との連結を可能にする連結穴112bを形成する。ここで、連結穴112bは内周面において、連結部材120の外周面に係合可能に形成している。
【0022】
スポーク部113は、後突衝撃が加わると塑性変形をする部位であって、半径方向中間部位のうちシートバックフレーム12aが後突衝撃に応じて傾動する方向(後倒回動方向α)側に略V字状の切欠部113bを設けた幅狭部113aを備える。
【0023】
この幅狭部113bの周方向の幅寸法は、後突衝撃に応じてハブ部112がリム部111に対して相対回動するようにスポーク113が塑性変形し始めるときの衝撃に基づいて設定されるため、例えば、想定される後突衝撃が大きくなるほど幅狭部113aの周方向の幅寸法を大きく設定することにより、後突衝撃をスポーク部113の塑性変形でもって好適に吸収することができる。
【0024】
また、スポーク部113の半径方向中間部位のうち反後倒回動方向側に設ける切欠部113bは、後倒回動方向α側ほど半径方向の幅が狭くなるように形成される。これにより、後倒回動方向αに作用する回動力に応じてスポーク部113が幅狭部113aを起点として塑性変形し始めると、切欠部113bが潰れることで幅狭部113a近傍の塑性変形が止まり、リム部111に対するハブ部112の相対回動が所定の回動角度で止まり、後突時の衝撃によるシートバック12の後方への傾動が停止する。従って、後突衝撃を各スポーク部113の塑性変形でもって好適に吸収するとともに、衝撃吸収時のシートバック12の後方への傾動を所定の傾動位置で止めることができる。ここで、切欠部113bの半径方向への幅寸法は、シートバック12を後方へ傾動させる衝撃が作用する際にハブ部112とリム部111との相対回動が許容される回動角度(以下、許容相対傾動角度)に基づいて設定されるので、衝撃吸収部材110による衝撃吸収時のシートバック12の後方への傾動角度を調整することができる。
【0025】
連結部材120は、シートバックフレーム12aと衝撃吸収部材110とリクライニング装置20とを連結する部材であって、リクライニング装置20に有する回転軸20cを挿通可能なように略円筒状に形成しており、一端で衝撃吸収部材110とリクライニング装置20を連結しており、他端において後述する規制部材130によりシートバックフレーム12aに回動可能に保持されている。
【0026】
規制部材130は、後突衝撃が加わった際に連結部材120のシートバックフレーム12a側面に対する垂直方向の移動を規制すると共に衝撃吸収部材110を確実に作動させる部材であって、連結部材120の移動を規制する規制プレート130aと、規制プレートを保持する保持ブラケット130bで構成されている。
【0027】
規制プレート130aは、連結部材120のシートバックフレーム12の側面に対する垂直方向への移動を規制する部材であって、衝撃吸収部材110とリクライニング装置20とを連結していない側の連結部材120端部に設ける。この規制プレート130aは、円筒状に形成しており、内周面において連結部材120と固定しており、外周面において後述する保持ブラケット130bにより保持されている。
【0028】
保持ブラケット130bは、規制プレート130aを保持する部材であって、シートバックフレーム12の衝撃吸収部材110とリクライニング装置20を備える面とは対称な面に設けられる。この保持ブラケット130bは、内周面において規制プレート130aを回動可能に保持しており、外周面においてシートバック12に固定されている。
【0029】
上記に示す規制プレート130aと保持ブラケット130bで構成される規制部材130は、規制プレート130aにより連結部材120のシートバックフレーム12の側面に対する垂直方向への移動を規制されていることから、後突衝撃が加わった場合であっても、シートバックフレーム12aと衝撃吸収部材110とリクライニング装置20を係合した状態に保つことが可能であるため、衝撃吸収部材110を確実に作動させることが可能となる。また、規制部材130の保持ブラケット130bは、シートバックフレーム12aに固定されていることから後突衝撃を回動力に変換することが可能であって、衝撃吸収部材110の各スポーク部113に均等に衝撃を分散して塑性変形を行うことで回動力を吸収する。
【0030】
次に、衝撃吸収ユニット100を備えるリクライニング装置20の作用効果について説明する。
衝撃吸収ユニット100の衝撃吸収部材110は、シートバック12に対して後突衝撃が作用しない場合において、図3に示すように、リム部111とハブ部112との相対回動位置が維持されており各スポーク部113も塑性変形することはない。
【0031】
一方、例えば、追突された車両に搭乗している着座者が車両用シート10のシートバック12により強く押し付けられる等によりシートバック12を後方へ傾動させる後突衝撃が作用すると、衝撃吸収ユニット100の衝撃吸収部材110は、この後突衝撃に応じてシートバックフレーム12aを介して衝撃吸収部材110のハブ部112を後倒回動方向αへ急激に回動させる回転力が作用する。
【0032】
すると、シートクッションフレーム11aに連結されるリクライニング装置20および衝撃吸収部材110のリム部111は、現回動位置を維持することから、回動力が各スポーク部113のうちハブ部112に連結する部位のみを回動させるように作用する。
【0033】
ここで各スポーク部113は、半径方向中間部位に後倒回動方向α側に切欠部113bを形成している幅狭部113aをそれぞれ設けていることから、図4に示すように、回動力に応じて各幅狭部を起点に塑性変形が始まることとなる。
【0034】
各スポーク部113が塑性変形し始めると、幅狭部113a近傍が後倒回動方向αに移動するので、切欠部113bが潰れるように塑性変形することとなる。そして、各切欠部113bが潰れてしまい切欠部113bを構成する面が互いに当接してしまうと更なる後突衝撃が作用しない限り幅狭部113a近傍の塑性変形が止まるので、リム部111に対するハブ部112の相対回動が所定の角度で止まり、シートバック12の後方への傾動が停止することとなる。この際、ストッパー111bは、切欠部113bを構成する面が当接すると同時に幅狭部113aの切欠部113bを有しない側面と当接することで幅狭部113aの塑性変形を停止する。
【0035】
このように幅狭部113aが設けられていることから、各スポーク部113がいきなり破断することなく回動力に応じて各幅狭部113a近傍が徐々に塑性変形するので、シートバック12に作用する後突衝撃を好適に吸収することができる。
【0036】
よって衝撃吸収ユニット100は、上記に示すように、衝撃吸収部材110の各スポーク部113を塑性変形することで後突衝撃に応じて作用する回転力を吸収することが可能となる。ここで、衝撃吸収ユニット100は、規制部材130により連結部材120のシートバックフレーム12aの側面に対する垂直方向への移動を規制していることから、シートバックフレーム12aと衝撃吸収部材110とリクライニング装置20を係合した状態に保つことができるため、後突衝撃に応じて作用する回転力を衝撃吸収部材110により確実に吸収することが可能となる。
【0037】
具体的には、連結部材120は、規制部材130の規制プレート130aが保持ブラケット130bにより保持さていることからシートバックフレーム12a側面に対する垂直方向の移動が規制されており、シートバックフレーム12と衝撃吸収部材110とリクライニング装置20を係合している。そのため、衝撃吸収ユニット100は、後突衝撃によりシートバックフレーム12aがシートバックフレーム12a側面に対して垂直方向に歪んでしまった場合であっても、後突衝撃に応じて作用する回転力を吸収することが可能である。
【0038】
また、保持ブラケット130bは、規制プレート130aを保持すると共に後突衝撃に応じて作用するシートバック12の後方へ傾動する衝撃を後倒回動方向αへの回転力に変換する機能を有しており、後倒回動方向αへの回転力に変換することで、回転力を各スポーク部113に均等に伝達している。そのため、衝撃吸収部材110の各スポーク部113は略同時に塑性変形を行うことでシートバック12の後方へ傾動する回転力を吸収している。
【符号の説明】
【0039】
10 車両用シート
20 リクライニング装置
100 衝撃吸収ユニット
110 衝撃吸収部材
111 リム部
112 ハブ部
113 スポーク部
113a 幅狭部
113b 切欠部
120 連結部材
130 規制部材
130a 規制プレート
130b 保持ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションおよびシートバックを有する車両用シートにおいて、前記シートクッションに対して前記シートバックの傾斜角を調節するリクライニング装置と併用される衝撃吸収ユニットであって、
前記シートクッションまたは前記シートバックのいずれか一方に固定される衝撃吸収部材と、
該衝撃吸収部材と前記リクライニング装置とを連結する連結部材と、
該連結部材の移動を規制する規制部材を備えることを特徴とする衝撃吸収ユニット。
【請求項2】
前記衝撃吸収部材は、外周縁であるリム部と、
該リム部の内周面の一部を形成し半径方向略中間部位に備えるハブ部と、
該ハブ部の側面を形成し半径方向に延出するスポーク部とで構成されており、
前記リム部に形成する取付け穴の外周でハブ部の内周面の一部分が、スポーク部に形成する幅狭部に当接することを特徴とする請求項1記載の衝撃吸収ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−214195(P2012−214195A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100996(P2011−100996)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000143639)株式会社今仙電機製作所 (258)
【Fターム(参考)】