説明

衝撃試験装置

【課題】実製品と同等の被検体に対して衝撃を与え、その被検体の内部構造に掛かる衝撃を観察ないし解析することにある。
【解決手段】X線発生器1から照射されたX線ビーム9内で被検体4に衝撃を与え、当該被検体4から透過してくるX線強度分布であるX線透過像を、高速度カメラ11を備えたX線検出器3で毎秒100フレーム以上の速度で連続撮影し、デジタルの透過像に変換し記録する。この記録されたデジタルの透過像を、表示手段8,13によって毎秒100フレーム以上の速度から所定の低減倍の速度のもとにスローモーションで動画表示し、前記被検体の内部構造の状態を観察する衝撃試験装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の構造体に衝撃を加えたときの影響を解析する衝撃試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、構造体である携帯電話、携帯情報端末などのモバイル機器が普及してきている。これら機器は、携行可能な状態で使用されることから、落下や衝突などの衝撃を受ける機会が多い。そこで、対衝撃性能を高めた製品を作るため、実際の製品、例えば携帯電話などを使って衝撃試験が行われている。
【0003】
従来、衝撃試験に関する技術は、振動計付きの被検体を落下させ、被検体に加わる衝撃を振動計で測定し、その外観から被検体に生じる影響を調べ、また振動計の測定データを表示し、衝撃の強さや方向性を観察するものが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、他の衝撃試験に関する技術は、衝撃を受ける被検体を高速度カメラで撮影し、その映像から衝撃特性(時間−変形量特性等)を取得し、この取得された衝撃特性から被検体の衝撃時の材料特性(応力−歪特性)を得るものが提案されている(特許文献2)。
【0005】
さらに、他の衝撃試験に関する技術としては、被検体の落下・衝突を高速度カメラで撮影し、そのカメラの映像から被検体の瞬間的な歪や加速度を解析し、衝撃に対する被検体の振舞いを調べ、被検体を構成する部材の設計に反映させ、対衝撃性能を高める試みが行われている。この衝撃試験は、例えば被検体の外形の目標点となる数箇所を定めてマークを施し、その数箇所のマーク等の位置を時系列的に測定し、マーク位置での加速度、マーク間距離の変化などから歪の大きさを求めるものがある。
【特許文献1】特開2007−024507号公報
【特許文献2】特開2006−258588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、以上のような高速度カメラを用いた衝撃試験は、被検体の対衝撃性能を高めるため、専ら被検体の外部形体のみを測定するものであって、被検体内部がどのような衝撃を受けているか全く不明であり、試験としては不十分である。
【0007】
衝撃試験としては、被検体内部の部品の取り付け状態の変化や各部品に掛かる加速度などを把握しない限り、対衝撃性能の高い被検体を作ることは難しい。具体的には、被検体が携帯電話である場合、その携帯電話の破損しやすい内部の基板とIC部品との接合部や電池などは検査できない。携帯電話の対衝撃性能を高めるためには、基板、基板取付け部品、電池などの歪や加速度などを解析することが望ましい。
【0008】
また、被検体の内部構造の衝撃を解析する場合、例えば試験時のみ透明な外枠に代えて試験することも考えられるが、内部構造が受ける衝撃は外枠構造の材質、形状に大きく依存するので、実際に即した試験ではなくなってしまう問題がある。
【0009】
更に言えば、衝撃試験自体は内部の部品を守るために外枠をいかに設計するかを目的とすることが多く、別の外枠に代えて試験することは本末転倒である。
【0010】
本発明は上記事情にかんがみてなされたもので、実製品と同等の被検体に対して衝撃を与え、その被検体の内部構造に掛かる衝撃を観察ないし解析する衝撃試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に対応する衝撃試験装置は、内部構造を持つ構造体である被検体に衝撃を与える衝撃付与手段と、少なくとも被検体が衝撃を受けている間、被検体にX線を照射する第一のX線発生器と、この第一のX線発生器から照射されて前記被検体を透過してくるX線を検出し可視光透過像に変換して出力する第一のX線可視光変換手段と、この第一のX線可視光変換手段から出力される可視光透過像を毎秒100フレーム以上の速度で連続撮影しデジタルの透過像に変換して記憶する第一の高速度カメラと、この第一の高速度カメラに記憶された透過像を、毎秒100フレーム以上の速度から所定の低減倍の速度のもとにスローモーションにより動画表示する表示手段とを備えた構成である。
【0012】
このような手段を講じたことにより、被検体を透過してくるX線による透過像を適宜な低減倍の速度のもとにスローモーションにより動画表示するので、被検体の内部構造に掛かる衝撃を容易に観察できる。
【0013】
請求項2に対応する衝撃試験装置は、請求項1に対応する衝撃試験装置の構成に新たに、少なくとも被検体が衝撃を受けている間、被検体の外観像を毎秒100フレーム以上の速度で連続撮影しデジタルの外観像に変換して記憶する第二の高速度カメラと、第一および第二の高速度カメラの同期をとるための共通のトリガ信号を発生するトリガ信号発生手段とをさらに設け、トリガ信号を受けて同期撮影する第一および第二の高速度カメラで被検体の透過像と外観像とを連続撮影して記憶する構成である。
【0014】
このような手段を講じたことにより、被検体を透過してくるX線による透過像及び外観像を適宜な低減倍の速度のもとにスローモーションで動画表示するので、被検体の内部構造及び外観に加わる衝撃を容易に観察できる。
【0015】
請求項3に対応する衝撃試験装置は、請求項1または請求項2に対応する衝撃試験装置の構成に新たに、各透過像および各外観像の何れか一方または両方の画像上に現れる被検体の内部構造、外表面の特徴点を時間を追って、または遡って追跡し、当該特徴点の二次元空間での軌道を算出するデータ処理部を設けた構成である。
【0016】
このような手段を講じたことにより、被検体の内部構造を追跡することで特徴点の位置の時間変化としての画像上の軌道を求めることができる。ここで、実空間での軌道が透過像の透過方向に対して直交する面内、あるいはこの面から大きくずれない範囲の場合には、画像上の軌道に定数を掛けて実空間での軌道を算出できる。
【0017】
さらに、実空間での軌道を時間で1回微分して速度、2回微分して加速度を求めることができる。また、複数の特徴点の軌道を求めることで、歪の時間変化を求めることができる。これにより、被検体の内部構造の動き、変形、ずれ等を解析できる。
【0018】
また、請求項4に対応する衝撃試験装置は、請求項1に対応する衝撃試験装置の構成に新たに、少なくとも被検体が衝撃を受けている間、第一のX線発生器とは異なる照射方向から被検体にX線を照射する第二のX線発生器と、この第二のX線発生器から照射されて被検体を透過してくるX線を検出し可視光透過像に変換して出力する第二のX線可視光変換手段と、この第二のX線可視光変換手段から出力される可視光透過像を毎秒100フレーム以上の速度で連続撮影しデジタルの透過像に変換して記憶する第二の高速度カメラと、前記第一および第二の高速度カメラの同期をとるための共通のトリガ信号を発生するトリガ信号発生手段とをさらに設け、トリガ信号を受けて同期撮影する第一および第二の高速度カメラにより被検体の異なる方向から透過してくる透過像を連続撮影して記憶する構成である。
【0019】
このような手段を講じたことにより、被検体の異なる方向から透過してくるX線による透過像をそれぞれ単独あるいは並べて適宜な低減倍でスローモーションで動画表示するので、被検体の内部構造、外観に加わる衝撃を容易に観察できる。すなわち、被検体が衝撃を受けたときの内部構造の動き、変形、ずれ等をスローモーションで2方向から観察できる。
【0020】
また、請求項5に対応する衝撃試験装置は、請求項4に対応する衝撃試験装置の構成に新たに、第一および第二の高速度カメラにそれぞれ記憶された各透過像上に現れる被検体の内部構造の特徴点を時間を追って、または遡って追跡し、それぞれの特徴点の三次元空間での軌道を算出するデータ処理部を設けた構成である。
【0021】
このような手段を講じることにより、被検体の内部構造に掛かる衝撃を3次元的に解析でき、また、請求項3に対応する衝撃試験装置と同様の分析結果を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、実製品と同等の被検体に対して衝撃を与え、その被検体の内部構造に掛かる衝撃の状態を適切に観察ないし解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明に係る衝撃試験装置の第1の実施形態を示す構成図である。
衝撃試験装置は、X線発生器1、X線制御器2、X線検出器3、被検体4を放出する放出器5、放出器5から放出される被検体4の落下直下に配置される衝突部材6、この衝突部材6に取り付けられるトリガ信号発生器7、データ処理部8等により構成される。
【0024】
なお、被検体4としては、内部構造を備えた構造体であって、各種の携行機器がそれに該当するが、ここでは例えば携帯電話を想定して説明する。また、放出器5及び衝突部材6は請求項に記載の衝撃付与手段に相当する。
【0025】
X線発生器1は、X線管及び高電圧発生部から成り、例えばX線制御器2のパネルから操作設定される管電圧、管電流のもとに所要の強度を持ったX線ビーム9を照射する。また、X線制御器2は、データ処理部8と連携し、当該データ処理部8からの設定指示に従ってX線発生器1に管電圧、管電流を設定する構成であってもよい。
【0026】
X線検出器3は、X線発生器1と対向する位置に配置され、X線発生器1のX線焦点Fから照射されるX線の一部のX線ビーム9を検出し撮影する機能を持っている。
【0027】
X線検出器3は、2次元の空間分解能でX線を検出するもので、X線可視光変換手段としてのX線II(イメージインテンシファイア)10と高速度カメラ11とより成る。X線II10はX線検出面10aで検出されるX線の強度分布であるX線透過像を可視光の透過像に変換し、出力面10bから出力する。なお、X線II10としては残光の少ないものが使用される。
【0028】
高速度カメラ11は、レンズ、CCDセンサまたはCMOSイメージセンサなどの撮像素子、AD変換器、メモリ部11a等よりなる。この高速度カメラ11は、X線II10の出力面10b上の可視光透過像をレンズを通して撮像素子の上に結像するとともに、撮像素子で電気信号に変換し、この電気信号をAD変換器にてデジタルデータ(デジタル画像)に変換し、メモリ部11aに記憶する。
【0029】
高速度カメラ11は、100フレーム毎秒以上の速度で連続撮影するものが使用される。通常の動画撮影用カメラは30フレーム毎秒で連続撮影して記憶し、30フレーム毎秒の同じ速度で再生し動画表示するが、高速度カメラ11では100フレーム毎秒以上で連続撮影して記憶し、30フレーム毎秒の速度で再生表示することによってスローモーション表示が可能である。
【0030】
従って、高速度カメラ11は、100フレーム毎秒以上で連続撮影した一連の透過像を順次メモリ部11aに記憶する。メモリ部11aは、有効容量が例えば10Gバイトとすると、1Mバイトの透過像を約10,000フレーム分記憶できる。
【0031】
放出器5は、常時は例えば適宜なアーム(図示せず)などで被検体4を支え、所定のタイミングで支えを外すことにより、被検体4を落下させる構造となっている。
【0032】
放出器5は、被検体4の落下方向にガイド板または所要形状のガイド筒体などのガイド部5aが設けられている。ガイド部5aは、表面が摩擦の少ない材料で作られ、被検体4が少ない摩擦抵抗で滑って落下し、X線ビーム9内を通過して放出器5真下の衝突部材6に衝突する。被検体4をガイド部5aに沿って滑らす理由は、被検体4の落下中の回転を抑え、被検体4を安定な姿勢で衝突部材6に衝突させる為である。
【0033】
また、ガイド部5aの下端部と衝突部材6の間は少なくとも被検体4の長さ以上の空間距離を有し、さらに好ましくは被検体4の長さ以上であって、被検体4が衝突部材6に衝突して跳ね返ってガイド部5aの下端部に接触しない程度の空間距離が望ましい。これにより、高速度カメラ11は、被検体4がガイド部5aに衝突しない状態で衝突及び跳ね返りを撮影できる。
【0034】
衝突部材6としては、衝突の衝撃を変えて試験する必要から、様々な材質(例えばプラスチック材、コンクリート材等)で作られたものに交換できるように複数用意する。
【0035】
この衝突部材6にはトリガ信号発生器7が取り付けられている。トリガ信号発生器7は例えば歪センサ(ストレインゲージ)と電気回路とより成り、被検体4が衝突したときの衝突部材6の振動を歪センサの電気抵抗の変化により検出する。電気回路は歪センサ出力を振動信号として取り出し、この振動信号レベルが所定値を超えたときに電気的なトリガ信号を発生し、このトリガ信号を高速度カメラ11に送信する。
【0036】
高速度カメラ11は、被検体4の落下直前あるいは被検体4が衝突する直前から撮影を開始しその透過像をメモリ部11aに順次記憶し、有効容量に達すれば前に戻って順次上書きしながら繰り返し記憶していくが、トリガ信号発生器7から送られてくるトリガ信号を受信したときをトリガ点とし、予め高速度カメラ11に任意に設定される比率に従って撮影中の透過像のメモリ部11aへの記憶制御を実施する。従って、高速度カメラ11はトリガ点よりも前の透過像もメモリ部11aに記憶している。
【0037】
例えば高速度カメラ11に設定された比率がトリガ点前10%、トリガ点後90%とすると、図2に示すようにトリガ点から高速度カメラ11で撮影された透過像をメモリ部11aの有効容量の90%に達するまで上書きを続け、トリガ点よりも10%前で撮影が終了する。その結果、トリガ点前10%にトリガ点後90%を足せば、メモリ部11aの有効容量を有効に利用し、被検体4の衝突前から衝突後の衝撃の状態を撮影することが可能となる。
【0038】
データ処理部8は、通常のパーソナルコンピュータと同等の処理機能を有するものであって、キーボード、マウスなどの入力部12及び表示部13が接続され、内部的には、CPU、内部メモリ部、メモリ部11aとのインタフェースが設けられ、必要に応じてディスク等の外部記憶装置が接続されている。
【0039】
データ処理部8は、高速度カメラ11と接続され、メモリ部11aに記憶される透過像を読み取り、所要の処理を実行し、透過像データなどを表示部13に動画表示する。
【0040】
さらに、衝撃試験装置には、図示されていないが、X線発生器1、X線検出器3、放出器5、衝突部材6、トリガ信号発生器7を覆うX線遮蔽部分等が設けられている。
【0041】
次に、以上のような衝撃試験装置の動作について説明する。
操作者は、まず、X線発生器1から照射されるX線ビーム9の中に入るように被検体4を固定し、仮撮影を実施し、必要な条件を設定する。具体的には、X線制御器2のパネルからX線発生器1に管電圧、管電流を仮設定し、X線発生器1からX線ビーム9を照射する。被検体4を通ったX線の透過像はX線II10、高速度カメラ11で撮像され、メモリ部11aに記憶させた後、データ処理部8が読み取り、表示部13に表示する。この表示された透過像を観察しながら、管電圧、管電流、撮影速度、高速度カメラ11のゲインを繰り返し調整し、最適なX線条件及び撮影条件を設定する。
【0042】
以上のような条件設定を終えると、放出器5に被検体4を保持させる。
操作者は、X線制御器2を操作してX線発生器1を起動し、当該X線発生器1のX線焦点FからX線ビーム9を照射した状態とする。ここで、高速度カメラ11が撮影を開始し、高速度撮影とメモリ部11aへの上書きを繰り返しつつ保存する。
【0043】
その結果、被検体4を透過したX線ビーム9は、X線II10の検出面10aでX線透過像として検出され可視光透過像に変換されて出力面10bから出力される。高速度カメラ11は、その出力面10bから出た可視光透過像を高速度撮影して電気的なデジタルデータ(デジタル画像)に変換し、メモリ部11aの最旧画像に対して上書きを繰り返しつつ最新画像として順次記憶し続ける。
【0044】
このとき、放出器5から被検体4を落下させる。この被検体4はガイド部5a及びX線ビーム9を通って落下し、衝突部材6に衝突する。トリガ信号発生器7は被検体4が衝突したときにトリガ信号を高速度カメラ11に送信する。高速度カメラ11はトリガ信号発生器7からのトリガ信号を受信したときをトリガ点とし、前述したようにトリガ点からメモリ部有効容量の90%の画像を撮影・記憶した時点で撮影を終了する。その結果、高速度カメラ11のメモリ部11aにはトリガ点(衝突時点)の前10%、トリガ点の後90%の時系列的な透過像が記憶された状態となる。
【0045】
操作者はX線制御器2を通してX線発生器1のX線照射を停止させる。
高速度カメラ11は、撮影が終了すると、メモリ部11aに記憶された透過像をデータ処理部8に送信する。あるいは、データ処理部8は、高速度カメラ11に送信指令を送信し、高速度カメラ11から透過像を送信させる。データ処理部8は送信されてくる透過像を例えば内部メモリ部または外部記憶装置(図示せず)に記憶する。
【0046】
データ処理部8は、高速度カメラ11のメモリ部11aから得られた透過像の表示及び解析処理を行う。
すなわち、データ処理部8は、内部メモリ部に記憶された透過像を1枚ずつ静止画像として表示することも可能であるが、例えば30フレーム毎秒で時系列に透過像を順次読み出し、表示部13に動画表示することも可能である。例えば、3000フレーム毎秒で透過像を撮影したとすると、100倍の低減倍でスローモーション表示できる。
【0047】
図3は被検体4(例えば携帯電話)が衝突部材6に衝突した瞬間の透過像17の一例を示す模式図である。
【0048】
同図において、被検体4は外枠4a、基板4b、電池4c(例えばリチウムイオンポリマー電池)などからなる。基板4b上にはIC4d,4e、コンデンサ4f、抵抗4g等が取り付けられ、電池4cには電源端子4hが設けられている。4i,4jはBGA(ボールグリッドアレイ)である。なお、この透過像17は衝突の瞬間に基板4bの面にほぼ直交する方向から撮影した状態を表している。
【0049】
従って、衝突部材6に衝突した瞬間の被検体4の透過像17を目視可能な状態でスローモーション表示すれば、衝突時の被検体4の内部構造の歪やずれなどを全体的に観察できる。例えば、電源端子4hの接触具合やずれ具合を観察できる。ちなみに、電源端子4hは一瞬でも接続箇所が離脱すると、被検体4のICに記憶された内容が消去される等の問題を発生する箇所である。
【0050】
次に、データ処理部8による透過像の解析処理例について、図3を参照して説明する。
まず、歪補正処理を実行する。解析結果の正確性を確保する観点から、前処理としての透過像17の歪補正処理を行う。ここで、歪補正とはX線II10や高速度カメラ11のレンズによって生じる画像歪を消去する補正である。なお、歪補正については、公知の種々の補正方法があるが、ここでは、例えば多項式を用いた補正処理を行う。
【0051】
補正処理は、補正前の透過像(画像)をP(x,y)、補正後の透過像(画像)をP´(n,m)とすると、すべての画素(n,m)に対し、下式に示す多項式の演算式により補正後の透過像P´(n,m)を求めるものである。
x=Σl=0〜5Σk=0〜5{al,k・nl} (1)
y=Σl=0〜5Σk=0〜5{bl,k・nl} (2)
P´(n,m)=P(x,y) (3)
なお、al,k、bl,kは予め較正で求めておいた定数である。
【0052】
すなわち、x,yは、式(1)、(2)に示すように、nとmの5次式により求められる。通常、xとyは整数とならないので、式(3)の右辺は例えば1次補間(直線補間)により計算する。ここでは、解析対象となる透過像Pのすべてに対し、順次歪補正処理を実施し、補正後の透過像P´を取得し、例えば内部メモリ部に記憶していく。以下の処理はすべて歪補正後の透過像P´(=透過像17)を用いて行うものとする。
【0053】
次に、特徴点設定処理を実行する。操作者は、図3に示す1枚の透過像17上で追跡点となる特徴点をROI指定することによって設定する。特徴点としては、例えば画像濃度の大きな点や画像濃度の変化が大きな点などであって、例えば小さい四角形ROI(感心領域)を設定すると、このROI内で特徴点が画像処理において一意的に決められる。例えばコンデンサ4f、抵抗4gの重心、電池4c、基板4b、IC4eなどの角の点、あるいはIC4eを接合するBGA4jのうちの1個のボールの重心等が特徴点として挙げられる。ここでは、例えば基板4bの四隅の点A,B,C,Dが特徴点であり、同時に追跡点でもある。
【0054】
引き続き、特徴点軌道決定処理を実行する。この特徴点軌道決定処理は、解析対象とするすべての透過像17に対し、時系列の順番、あるいは時系列の逆順に従って特徴点の位置を求めていくことによって追跡し、順次各透過像17の四隅の点A,B,C,Dを決定していく。なお、特徴点を追跡する画像処理は既に公知の技術であるので、ここでは詳細は記載しない。特徴点の追跡は、隣接する画像間で互いに近い位置にある特徴点を同一点(例えばA点)として同定することで行われる。
【0055】
この特徴点軌道決定処理により、各透過像17の四隅の点A,B,C,Dを時系列的に追跡し、各点の位置を把握することにより軌道を決定できる。すなわち、時系列な時間ごとの画像上の各点の横/縦の位置、n(t)、m(t)を求めることができる。
【0056】
ところで、今、衝突時の短時間の軌道のみを解析する場合、基板4bの姿勢はあまり変化せず、この短時間の間、基板4bの面にほぼ直交する方向からの透過像が得られる。この条件下では、基板4dの各点での1画素サイズは一定である。画素サイズをps(mm/画素)とすると、各点の実空間での軌道は、下式に基づいてmm単位で求められる。
【0057】
g(t)=ps・n(t) ……(4)
h(t)=ps・m(t) ……(5)
次に、所要とする微分処理を実行する。この微分処理は、まず、式(4)、式(5)により求められたg(t)、h(t)をそれぞれtで微分し、速度の横/縦成分u(t)、v(t)を求めた後、この求めたu(t)、v(t)に対して、更にtで微分し、各点の加速度α(t)、β(t)を求める。
【0058】
以上の処理により、基板4bの各点の加速度が求まることで、基板4bの受けた力を知ることができる。また、基板4bの各点の位置g(t)、h(t)から基板4bにおける歪の時間変化を知ることができる。
【0059】
従って、以上述べた第1の実施の形態によれば、被検体4を透過したX線による透過像を表示部13にスローモーションで動画表示することにより、被検体4の内部構造に掛かる衝撃を観察することができる。すなわち、衝撃を受けたときの被検体4の内部構造の動き、変形、ずれ等をスローモーションで観察できる。また、被検体4の内部構造に掛かる衝撃を解析することができる。
【0060】
詳しくは、被検体内部の特徴点の透過像上での軌道n(t)、m(t)を求めることができる。また、実空間での軌道が透過像の透過方向に対し直交する面内、あるいはこの面から大きくずれない範囲である場合には、透過像上での軌道に画素サイズを掛けて実空間での軌道g(t)、h(t)を求めることができる。さらに、実空間での軌道を時間tで1回微分して速度、2回微分して加速度を求めることができる。また、複数の特徴点の軌道を求めることにより、歪の時間変化を取得できる。その結果、被検体4の内部構造の動き、変形、ずれ等を容易に解析できる。
【0061】
(第1の実施の形態の変形例)
(1) 第1の実施の形態における衝撃試験は、被検体4を自然落下させた状態で衝突部材6に衝突させているが、例えば自然落下でなく、放出器5から被検体4に速度を与えた状態で放出し、衝突部材6に衝突させてもよい。この場合、放出器5と衝突部材6との間の距離を広げずに大きな衝撃を与えることが可能となり、これにより装置を小型にすることができる。また、第1の実施形態では、ガイド部5aを用いて、被検体4の回転を抑えて衝突させているが、逆に被検体4を回転させながら衝突させ、その衝撃の種類を多様に変えて試験を行うこともできる。また、被検体4を動かす代わりに、衝突部材6を動かして被検体4に衝突させて衝撃を与える構成であってもよい。また、2つの衝突部材で被検体4を挟みこむように衝撃を与える構成でもよい。
【0062】
(2) 第1の実施の形態では、高速度カメラ11で撮影された透過像を一旦メモリ部11aに記憶したが、直接データ処理部8の内部メモリ部または外部記憶装置に記憶してもよい。また、高速度カメラ11からアナログの透過像を出力し、データ処理部8でアナログの透過像をデジタルの透過像に変換し、内部メモリ部などに記憶する構成であってもよい。
【0063】
(3) 第1の実施の形態では、トリガ信号発生器7は、歪センサの出力信号レベルからトリガ信号を取り出しているが、歪センサではなく、例えば被検体4が横切るタイミングを捉える光電スイッチ、レーザ変位計や衝突部材6に取り付けて振動音を検出するマイクロフォン、加速度計を用いて、トリガ信号を取り出してもよい。
【0064】
(4) 第1の実施の形態では、X線可視光変換手段としてX線II10を用いたが、マイクロチャンネルプレート等を用いてもよい。
【0065】
(5) 第1の実施の形態では、被検体4として携帯電話を想定し、当該携帯電話の内部構造の1つである例えば基板4bの衝撃解析を行う処理について説明したが、これに限られるものでなく、透過像が得られるすべての構造体について衝撃試験を実施でき、かつ内部構造の透過像に追跡可能な特徴点があれば、衝撃解析を行うことができる。
【0066】
(6) また、図4に示すような衝撃試験装置の構成であっても構わない。この衝撃試験装置は、図1に示す全構成に新たに、被検体4の外観像を撮影するための高速度カメラ21と、複数の高速度カメラ11,21の同期を取るためのクロック信号を発生するクロック発生部22と、ミラー23とを追加した構成である。なお、高速度カメラ21は高速度カメラ11と同じ構成、機能を有するものが使用される。
【0067】
高速度カメラ21は、X線ビーム9に対して45°で挿入されたミラー23から反射されてくる像を撮影することで、透過像と同じ方向からの可視光による被検体4の外観像を撮影するように設定される。ただし、違う方向からの被検体4の外観像を撮影する場合にはミラー23が不要であって、被検体4に向けて直接撮影するように設定すればよい。
【0068】
高速度カメラ21は、レンズの物空間主点H及びカメラ光軸がそれぞれX線焦点FとX線光軸の鏡像に一致するように配置すれば、被検体4の外観像とX線透過像が同じ視点から見た同じパースペクティブ(遠近法)の画像となって正確に重ね合せができるので、適宜に表示部13に重ね合せ表示あるいは並列表示することができる。
【0069】
また、透過像を高拡大率で撮影する場合は、被検体4の衝突位置をX線焦点Fに近づけるとともに、ミラー23及び高速度カメラ21を衝突位置とX線検出器3との間に配置する。この場合には外観像とX線透過像は視点が異なってしまうが、ミラー23が邪魔になることなく、X線透過像の倍率を上げることができる。
【0070】
この衝撃試験装置においては、クロック発生部22は、共通のクロック信号を高速度カメラ11,21に送信し、これらカメラ11,21の同期を取って撮影を行う。また、これと並行してトリガ信号発生器7が振動を検出し、その振動信号レベルがしきい値を超えたときに共通のトリガ信号を高速度カメラ11,21に送出し、これら2つのカメラ11,21の撮影の同期をとっている。ここで、トリガ信号発生器7とクロック発生部22は2つのカメラ11,21の同期を取るための手段である。トリガ信号発生器7は撮影周期単位の大まかな同期を取る役割を持ち、クロック発生部22は撮影周期内で正確に同期をとる役割を持っている。
【0071】
このような構成によれば、被検体4の衝突時の動きによるX線透過像と可視光による外観像とを時間を合わせて同時に高速度で撮影でき、X線透過像と外観像それぞれを使った動画表示や衝撃解析ができる。また、X線透過像と外観像とを並べ、あるいは重ねて動画表示したり、X線透過像と外観像を使った外表面及び内部を合わせた衝撃解析を行うことができる。
【0072】
なお、この第6の変形例において、クロック発生部22を省略することができる。この場合、各高速度カメラ11,21はそれぞれの内部クロックで撮影を行うので、撮影タイミングに位相ずれが生ずるが、共通のトリガ信号で同期をとっているので、同期の誤差は撮影周期以下となり、用途により使用可能である。
【0073】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、一方向の透過像から衝撃解析を行う例について説明したが、例えば特徴点が透過像の奥行き方向に移動する場合には像倍率が変化するので、適切な解析結果が得られない場合がある。また、複数の特徴点が互いに透視方向に対し直交する面内に存在する場合はよいが、奥行き方向にずれている点同士が相対的に移動している場合にはパースペクティブ(遠近画法)のある位置関係となり、解析誤差が大きくなる。
【0074】
そこで、第2の実施の形態では、X線発生器1とX線検出器3とを2組用いて、透過方向の異なる2方向からの透過像を同期をとって同時に連続撮影し、被検体4の変化を立体的に解析する構成である。これは、2方向の透過像より着目する特徴点(追跡点)の3次元的な動きを求めることで可能になる。
【0075】
図5は本発明に係る衝撃試験装置の第2の実施形態を示す構成図である。同図において、図1と同一または等価な構成部分には同一符号を付し、その説明を省略する。なお、この衝撃試験装置は、被検体4が衝突部材6に衝突する方向から見た状態を表したものであり、被検体4及び放出器5は説明の便宜上、図示省略している。
【0076】
この衝撃試験装置は、図1に示す全構成に新たに、X線発生器31、X線制御器32、X線検出器33、クロック発生部34を追加した構成である。X線発生器31およびX線制御器32はそれぞれX線発生器1およびX線制御器2と同じ構成及び機能を有している。X線検出器33は、X線検出器3と同じ構成及び機能を持ったものであって、X線II35と高速度カメラ36とからなる。
【0077】
この衝撃試験装置では、透過像の撮影方向が色々設定可能であるが、ここでは一番単純な例を挙げて説明する。
まず、2組の撮影系における位置を設定する。ここで、座標系としては、O点を原点とし、衝撃の方向(垂直方向)をz軸とする直交座標系xyzを設定する。X線発生器1とX線検出器3よりなる第一撮影系は、X線光軸(X線焦点F1とX線検出面10a中心を結ぶ線)がx軸に合うように位置設定し、X線発生器31とX線検出器33よりなる第ニ撮影系は、X線光軸(X線焦点F2とX線検出面35a中心を結ぶ線)がy軸に合うように位置設定する。
【0078】
クロック発生部34は、2つの高速度カメラ11,36に接続され、共通のクロック信号を高速度カメラ11,36に送信し、これらカメラ11,36の同期をとりながら連続撮影する。トリガ信号発生器7は、歪センサで検出された振動信号レベルがしきい値を超えたときにトリガ信号を発生し、2つの高速度カメラ11,36に送出して2つの高速度カメラ11,36の撮影の同期をとる。ここで、トリガ信号発生器7とクロック発生部34は2つのカメラ11,36の同期をとるための手段である。トリガ信号発生器7は撮影周期単位の大まかな同期をとる役割を持ち、クロック発生部34は撮影周期内で正確に同期をとる役割を持っている。
【0079】
高速度カメラ11,36は、前述したように共通のクロック信号に基づいて撮影を行うと共に、第1の実施の形態で説明したように共通のトリガ信号を受信したときをトリガ点とし、当該トリガ点の前10%、トリガ点の後90%の透過像をメモリ部11a、36aに記憶して撮影を終了する。これにより、同時刻、かつ時系列的に2方向の透過像を順次記憶することができる。
【0080】
データ処理部8は、第1の実施の形態と同様の解析処理を行うが、衝突解析の内容が異なってくる。
【0081】
次に、この実施の形態における衝撃試験装置の作用について説明する。
第1の実施の形態と同様に、2つの高速度カメラ11,36が同期を取りながら被検体4の透過像を撮影し、対応するメモリ部11a、36aに時系列的に記憶する。そして、X線発生器1、31からのX線照射を停止した後、メモリ部11a,36aに記憶された透過像をデータ処理部8に送信する。あるいは、データ処理部8は、高速度カメラ11、36に送信指令を送信し、高速度カメラ11、36から透過像を送信させる。データ処理部8は送信されてくる透過像を例えば内部メモリ部に順次記憶していく。
【0082】
データ処理部8は、高速度カメラ11、36のメモリ部11a、36aから収集した透過像の表示及び解析処理を行う。ここで、高速度カメラ11、36から収集した透過像の一枚は、例えば図3に示すような透過像である。この透過像の表示は、第1の実施の形態と同様にデータ処理部8の表示部13に1枚ずつ静止画像として表示することもできるが、30フレーム毎秒で時系列的に順次切換えて動画表示することもできる。例えば3000フレーム毎秒で撮影したとすると、100倍のスローモーション表示となる。動画表示は、高速度カメラ11または36で撮影された透過像のどちらか一方を選択して表示するか、あるいは同期を取りながら両方の画像を並べて動画表示することもできる。
【0083】
次に、データ処理部8による透過像の解析処理例について、図6及び図7を参照して説明する。
まず、第1の実施の形態と同様に歪補正処理を実行する。解析結果の正確性を確保する観点から、衝突解析の対象とするすべての透過像に対し、第1の実施の形態と同様に各透過像の歪補正処理を行う。以下の処理はすべて歪補正後の透過像を用いて行う。
【0084】
次に、特徴点設定処理を実行する。この特徴点設定処理は、2つの撮影系のそれぞれ1枚の透過像上に特徴点を設定する。
【0085】
図6は特徴点の一例を示す模式図である。なお、透過像はX線焦点側から見た左右の向きで表示するものとする。表示部13の図示左側には第一撮影系で撮影された1枚の透過像41、図示右側には第二撮影系で撮影された1枚の透過像42がそれぞれ並べて表示される。
【0086】
操作者は、表示された透過像41,42上で特徴点を設定する。例えば基板4bの四隅の点A,B,C,Dは、特徴点であり、同時に追跡点となる。
【0087】
引き続き、特徴点軌道決定処理を実行する。この特徴点軌道決定処理は、解析対象とするすべての透過像41、42に対し、時系列の順番、あるいは時系列の逆順に従って特徴点を求めて追跡することで、順次各透過像41の四隅の点A,B,C,Dの位置を決定する。なお、特徴点を求める画像処理は既に公知の技術であるので、ここでは詳細は記載しない。特徴点の追跡は、隣接する画像間で互いに近い位置にある特徴点を同一点(例えばA点)として同定することで行われる。
【0088】
この特徴点軌道決定処理により、各透過像41、42の四隅の点A,B,C,Dの位置を求めることにより、2方位それぞれの画像上で軌道を決定できる。すなわち、各透過像41、42上の各点について、第一撮影系による透過像41上の軌道、n1(t)、m1(t)および第二撮影系による透過像42上の軌道、n2(t)、m2(t)を求めることができる。
【0089】
次に、透過像上の軌道n1(t)、m1(t)およびn2(t)、m2(t)から3次元空間における軌道x(t)、y(t)、z(t)を求めるが、その一例として以下の手順に従って求める。
【0090】
まず、センタ平面(原点Oを通り光軸と直交する面)へX線に沿って投影した点の位置g、hは次式の計算式から求める(図6参照)。
【0091】
g1(t)=ps1・{n1(t)−n0} ……(6)
h1(t)=−ps1・{m1(t)−m0} ……(7)
g2(t)=ps2・{n2(t)−n0} ……(8)
h2(t)=−ps2・{m2(t)−m0} ……(9)
ここで、n0、m0は透過像上の原点Oの位置,すなわち画像中央である。また、ps1、ps2は原点Oの位置での画素サイズ(mm/画素)であって、予め定めた既知の定数である。
【0092】
さらに、「(t)」を省略し、上式のg1、h1、g2、h2を用いて、
x=r1・g2・(r2−g1)/(r1・r2+g1・g2) ……(10)
y=−r2・g1・(r1+g2)/(r1・r2+g1・g2) ……(11)
z1=h1・(r1+x)/r1 ……(12)
z2=h2・(r2+y)/r2 ……(13)
z=(z1+z2)・2 ……(14)
を順次計算し、実空間上での軌道x(t)、y(t)、z(t)を計算する。ここで、r1はX線焦点F1と原点Oとの距離、r2はX線焦点F2と原点Oとの距離である。
【0093】
なお、式(10)〜式(14)については、図7に示す追跡点の3次元空間での位置を計算する幾何図から導出できるが、詳細は省略する。
【0094】
要は、実空間上での軌道x(t)、y(t)、z(t)を求めることは、図7に示すように、追跡点に対するX線に沿った2方向の投影ラインLp1とLp2との交点のxyz座標を求める問題である。ここで、注意する点は、一般にg,hは測定誤差を含んでいるので、Lp1とLp2は接近するが、厳密には交わらないことである。
【0095】
そこで、図7の下段に示すように、z軸方向から見て互いに交差する2点P1(高さz1)とP2(高さz2)の中点を交点Pとして計算する。これは、未知数3(xyz)に対して既知数4(g1、g2、h1、h2)であって、測定値に冗長性を含んでいることから測定値を平均して求めることに相当し、統計精度を上げることができる。さらに、式(14)では、z1とz2に1対1の重みを掛けて平均しているが、それらの重みの割合を変えてもよい。例えば基板4bを正面方向から透視した測定値h1を重視し、z1の方に大きな重みを掛けて平均してもよい。
【0096】
次に、微分処理を実行する。この微分処理は、3次元空間でのx(t)、y(t)、z(t)をそれぞれtで微分することにより、速度の3次元成分であるvx(t)、vy(t)、vz(t)を求める。また、これらvx(t)、vy(t)、vz(t)をそれぞれtで微分して各点の加速度αの3次元成分であるαx(t)、αy(t)、αz(t)を求める。これにより、基板4bの各点の加速度を求めることにより、基板4bの受けた力が判る。さらに、基板4bの各点の位置x(t)、y(t)、z(t)から基板4bの歪の時間変化を知ることができる。
【0097】
従って、以上述べた第2の実施形態によれば、被検体4を異なる方向で透過したX線による透過像をそれぞれ単独あるいは並べてスローモーションで動画表示することにより、被検体4の内部構造に掛かる衝撃を観察できる。すなわち、衝撃を受けたときの被検体4の内部構造の動き、変形、ずれ等をスローモーションで2方向から観察できる。
また、この実施の形態によれば、被検体4の内部構造に掛かる衝撃を3次元的に解析することができる。
【0098】
詳しくは、被検体4の内部構造の特徴点を追跡することで特徴点の位置の時間変化として画像上の軌道を求めた後、2つの異なる方向の透過像上の軌道から実空間での軌道を求めることができる。
【0099】
さらに、実空間での軌道を時間tで1回微分して速度、2回微分して加速度を求めることができる。また、複数の特徴点の軌道を求めることにより、歪の時間変化なども求めることができる。これにより、被検体4の内部構造の動き、変形、ずれ等を解析できる。
【0100】
(第2の実施の形態の変形例)
(1) この第2の実施の形態においても、第1の実施の形態の変形例をそのまま適用できる。
(2) 第2の実施の形態では、第一撮影系と第二撮影系とのX線光軸が90°で交差するように設定したが、必ずしも90°で交差するように設定する点に限られない。
【0101】
(3) 第2の実施の形態では、第一撮影系と第二撮影系とのX線光軸を狭角度で交差するように設定し、撮影した透過像をステレオ表示させることができる。この場合、例えば右目用画像を右目だけで見、左目用画像を左目だけで見ることにより、立体視する表示となる。この技術は既に公知である。例えば右目用画像と左目用画像とを時分割で切換え表示し、これに合わせて左側と右側を遮光/透光を交互に繰り返すような眼鏡で観察する方法等がある。
【0102】
(4) この第2の実施の形態では、2つの撮影系を用いたが、3つ以上の多数の撮影系で同時撮影することもできる。2つの撮影系の場合、一方の画像で偶然、被検体の向きが透過長が長い向きになれば、透過像が暗くなりすぎ、特徴点の追跡ができなくなって3次元空間での軌道を求めることができなくなるが、3つ以上の撮影系を用いることで防ぐことができる。すなわち、暗すぎ画像を除いた他の画像で軌道を求めることができる。また、撮影系が増えることで、測定値を平均して結果が求められ、統計精度を上げる効果を有する。
【0103】
その他、本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明に係る衝撃試験装置の第1の実施の形態を示す構成図。
【図2】図1に示すメモリ部に高速度で連続撮影した透過像を記憶する例を説明する図。
【図3】被検体の透過像の一例を示す模式図。
【図4】本発明に係る衝撃試験装置の第1の実施の形態における1つの変形例を説明する衝撃試験装置の構成図。
【図5】本発明に係る衝撃試験装置の第2の実施の形態を示す構成図。
【図6】第2の実施の形態における特徴点の追跡の一例を説明する模式図。
【図7】第2の実施の形態における特徴点の追跡による3次元空間での位置を計算する幾何図。
【符号の説明】
【0105】
1…X線発生器、3…X線検出器、4…被検体、4a…外枠、4b…基板、4c…電池、5…放出器、6…衝突部材、7…トリガ信号発生器、8…データ処理部、10…X線II、11…高速度カメラ、11a…メモリ部、13…表示部、21…高速度カメラ、22…クロック発生部、23…ミラー、31…X線発生器、33…X線検出器、34…クロック発生部、35…X線II、36…高速度カメラ、36a…メモリ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部構造を持つ構造体である被検体に衝撃を与える衝撃付与手段と、少なくとも前記被検体が衝撃を受けている間、前記被検体にX線を照射する第一のX線発生器と、この第一のX線発生器から照射されて前記被検体を透過してくるX線を検出し可視光透過像に変換して出力する第一のX線可視光変換手段と、この第一のX線可視光変換手段から出力される可視光透過像を毎秒100フレーム以上の速度で連続撮影しデジタルの透過像に変換して記憶する第一の高速度カメラと、この第一の高速度カメラに記憶された透過像を、前記毎秒100フレーム以上の速度から所定の低減倍の速度のもとにスローモーションで動画表示する表示手段とを備えたことを特徴とする衝撃試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃試験装置において、
少なくとも前記被検体が衝撃を受けている間、前記被検体の外観像を毎秒100フレーム以上の速度で連続撮影しデジタルの外観像に変換して記憶する第二の高速度カメラと、前記第一および第二の高速度カメラの同期をとるための共通のトリガ信号を発生するトリガ信号発生手段とをさらに設け、
前記トリガ信号を受けて同期撮影する前記第一および第二の高速度カメラにより前記被検体の透過像と前記外観像とを連続撮影して記憶することを特徴とする衝撃試験装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の衝撃試験装置において、
前記記憶された透過像および外観像の何れか一方または両方の各画像上に現れる前記被検体の内部構造、外表面の特徴点を時間を追って、または遡って追跡し、当該特徴点の二次元空間での軌道を算出するデータ処理部を設けたことを特徴とする衝撃試験装置。
【請求項4】
請求項1に記載の衝撃試験装置において、
少なくとも前記被検体が衝撃を受けている間、前記第一のX線発生器とは異なる照射方向から被検体にX線を照射する第二のX線発生器と、この第二のX線発生器から照射されて前記被検体を透過してくるX線を検出し可視光透過像に変換して出力する第二のX線可視光変換手段と、この第二のX線可視光変換手段から出力される可視光透過像を毎秒100フレーム以上の速度で連続撮影しデジタルの透過像に変換して記憶する第二の高速度カメラと、前記第一および第二の高速度カメラの同期をとるための共通のトリガ信号を発生するトリガ信号発生手段とをさらに設け、
前記トリガ信号を受けて同期撮影する前記第一および第二の高速度カメラにより前記被検体の異なる方向から透過してくる透過像を連続撮影して記憶することを特徴とする衝撃試験装置。
【請求項5】
請求項4に記載の衝撃試験装置において、
前記第一および第二の高速度カメラにそれぞれ記憶された各透過像上に現れる前記被検体の内部構造の特徴点を時間を追って、または遡って追跡し、当該特徴点の三次元空間での軌道を算出するデータ処理部を設けたことを特徴とする衝撃試験装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−276140(P2009−276140A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126161(P2008−126161)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【Fターム(参考)】