説明

表示素子の製造方法

【課題】大面積のパネルでも大型の光照射装置を必要とせずに短時間で製造することができ、かつ、遮光性の基板でも貼り合わせすることができる表示素子の製造方法を提供する。
【解決手段】塗布装置12と、該塗布装置に接続された光照射装置13とを備える複合装置11を用いて、カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤とを含有し、光照射により硬化反応が開始し、光を遮断した後にも暗反応で硬化反応が進行するシール剤Bを第1の接続対象部材21に塗布し、塗布と同時又は塗布直後に該シール剤に光を照射する工程1と、前記第1の接続対象部材に、前記シール剤を介して第2の接続対象部材を重ね合わせる工程2とを有する表示素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大面積のパネルでも大型の光照射装置を必要とせずに短時間で製造することができ、かつ、遮光性の基板でも貼り合わせすることができる表示素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報技術の発達、情報化社会の進展に伴って、電子機器、携帯情報端末等が盛んに研究、開発されている。これらの電子機器等の多くには、情報を利用者に迅速かつ正確に伝達するため、情報を表示する表示素子が備え付けられている。
【0003】
このような電子機器等に備え付けられる表示素子としては、例えば、液晶表示素子、有機若しくは無機エレクトロルミネッセンス(EL)表示素子、又は、これらの表示素子にタッチパネルを装着したタッチスクリーン等の電子光学表示素子が、薄型化で軽量化が可能であることから種々研究、開発されている。
有機EL表示素子は、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持された薄膜構造体を有する。この有機発光材料層に一方の電極から電子が注入されるとともに他方の電極から正孔が注入されることにより有機発光材料層内で電子と正孔とが結合して自己発光を行うことから、バックライトを必要とする液晶表示素子等と比較して視認性がよく、より薄型化が可能であり、しかも直流低電圧駆動が可能であるという利点を有しており、次世代ディスプレイとして着目されている。
【0004】
ところが、このような有機EL表示素子は、有機発光材料層や電極が外気に曝されるとその発光特性が急激に劣化し寿命が短いという問題があった。従って、有機EL表示素子の安定性及び耐久性を高めることを目的として、有機EL表示素子の有機発光材料層や電極を大気中の水分や酸素から遮断する封止技術が不可欠となっている。
【0005】
特許文献1には、上面発光型有機EL表示素子等において、有機EL表示素子基板の間に光硬化性接着剤を満たして光を照射して封止する方法が開示されている。しかしながら、光硬化性接着剤を用いた場合には、光照射時に発生するガスが素子内に充満したり、素子が直接光にさらされたりするために素子の劣化が促進するという問題があった。また、金属配線のため光の当らない部分がある場合や紫外線吸収剤を含有する基板を封止する場合には、光硬化性接着剤の硬化が不充分になるという問題があった。更に、ディスペンサーで塗布された光硬化性接着剤が、液ダレのために塗布幅よりも広がり、特定の領域以外に意図せずにはみ出すことがあった。加えて、大型パネルを製造する場合には、大面積の光照射が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−357973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、大面積のパネルでも大型の光照射装置を必要とせずに短時間で製造することができ、かつ、遮光性の基板でも貼り合わせすることができる表示素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、塗布装置と、該塗布装置に接続された光照射装置とを備える複合装置を用いて、カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤とを含有し、光照射により硬化反応が開始し、光を遮断した後にも暗反応で硬化反応が進行するシール剤を第1の接続対象部材に塗布し、塗布と同時又は塗布直後に該シール剤に光を照射する工程1と、上記第1の接続対象部材に、上記シール剤を介して第2の接続対象部材を重ね合わせる工程2とを有する表示素子の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、光照射により硬化反応が開始し、光を遮断した後にも暗反応で硬化反応が進行するシール剤を、塗布装置と、該塗布装置に接続された光照射装置とを備える複合装置を用いて塗布し、塗布と同時又は塗布直後に光照射することにより、大面積のパネルでも大型の光照射装置を必要とせずに短時間で製造することができ、かつ、遮光性の基板でも貼り合わせすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の表示素子の製造方法は、塗布装置と、該塗布装置に接続された光照射装置とを備える複合装置を用いてシール剤を第1の接続対象部材に塗布し、塗布と同時又は塗布直後に該シール剤に光を照射する工程1を有する。上記複合装置と後述するシール剤とを用いることにより、大型パネルを製造する場合であっても、大面積の光照射を必要としない。
【0011】
上記塗布装置は特に限定されないが、ディスペンサーやコーターが好ましく用いられる。
上記ディスペンサーとしては、例えば、圧力式ディスペンサー、スクリュー式ディスペンサー、ジェットディスペンサー等が挙げられる。
上記コーターとしては、例えば、バーコーター、スリットコーター、スロットダイコーター、ナイフコーター等が挙げられる。
【0012】
ディスペンサーと、該ディスペンサーに接続された光照射装置とを備える複合装置を用いて、シール剤を塗布する方法を説明するための模式的な正面図を図1に示した。
図1(a)、(b)に示す複合装置11は、ディスペンサー12と、該ディスペンサー12に接続された光照射装置13とを備える。ディスペンサー12は、内部にシール剤を充填するためのシリンジ12aと、該シリンジ12aの外周面を把持している把持部12bとを備える。光照射装置13は、光照射装置本体13aと、光照射部13bとを備える。複合装置11では、把持部12bと光照射装置本体13aとが接続されている。従って、ディスペンサー12と光照射装置13との距離を小さくすることができ、ディスペンサー12の吐出部と、光照射部13bとの距離を小さくすることができる。更に、ディスペンサー12と光照射装置13とを同じ速度で容易に移動させることができる。なお、シリンジ12aと光照射装置本体13aとが直接接続されていてもよい。
【0013】
図1(a)に示すように、塗布及び光の照射の際には、複合装置11を矢印Aの方向に移動させながら、第1の接続対象部材21の上面に、シリンジ12aからシール剤を塗布し、シール剤層22を形成する。また、塗布しながら、ディスペンサー12に接続された光照射装置13の光照射部13bから、矢印Bで示すようにシール剤層22に光を照射する。
【0014】
第1の接続対象部材21の上面に形成されたシール剤層22の流動をより一層抑制する観点からは、ディスペンサー12と光照射装置13とを移動させながら、塗布と光の照射とが行われることが好ましい。更に、光の照射までの時間を高精度に制御する観点からは、ディスペンサー12と光照射装置13とを同じ速度で移動させることが好ましい。ただし、複合装置11を移動させずに台31を移動させて、塗布と光照射とを別々に行ってもよい。
【0015】
図1ではディスペンサーの例を示したが、ディスペンサーに代えてコーターを用いてもよい。
スリットコーターと、該スリットコーターに接続された光照射装置とを備える複合装置を用いて、シール剤を塗布する方法を説明するための模式的な正面図を図2に示した。図2に示す複合装置111は、スリットコーター112と、該スリットコーター112に接続された光照射装置113とを備える。スリットコーター112は、スリットノズル112aを備える。光照射装置113は、光照射装置本体113aと、光照射部113bとを備える。コーターの場合、光照射には線光源を用いる。
【0016】
図2に示すように、塗布及び光の照射の際には、複合装置111を矢印Aの方向に移動させながら、第1の接続対象部材121の上面に、スリットコーター112のスリットノズル112aからシール剤を塗布し、シール剤層122を形成する。また、塗布しながら、スリットコーター112に接続された光照射装置113の光照射部113bから、矢印Bで示すようにシール剤層122に光を照射する。
【0017】
上記シール剤は、光の照射により硬化反応が開始し、光を遮断した後にも暗反応で硬化反応が進行するものである。このようなシール剤を用いることにより、金属配線のため光の当らない部分がある場合や紫外線吸収剤を含有する基板を封止する場合であっても確実にシール剤を硬化させることができる。また、光照射時にガスが発生したり、素子が直接光にさらされたりすることによる素子の劣化を防止することができる。例えば、該シール剤を、有機EL表示素子を封止するための封止板に塗布し、光を照射してシール剤を活性化した後に光を遮断し、封止板と薄膜構造体とを貼り合わせることで、熱や光にさらすことなく有機EL表示素子を封止することができる。
【0018】
上記シール剤は、光を照射した後、硬化反応が進行して接着ができなくなるまでの使用可能時間が1分以上であることが好ましい。上記シール剤の使用可能時間が1分未満であると、発光層を封止する前に硬化が進行してしまい、充分な接着強度を得られなくなることがある。
【0019】
上記シール剤は、カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤とを含有する。
上記カチオン重合性化合物としては、分子内に少なくとも1個のカチオン重合性の官能基を有する化合物であれば特に限定されない。上記カチオン重合性の官能基としては、例えば、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、ビニルエーテル基、エピスルフィド基、エチレンイミン基等の官能基が挙げられる。なかでも、硬化後に高い接着性と耐久性とを発現することから、分子内に少なくとも1個のエポキシ基を有するエポキシ化合物が好適である。
【0020】
上記エポキシ化合物は特に限定されないが、芳香族エポキシ樹脂が好適である。
上記芳香族エポキシ樹脂としては、例えば、下記式(1)で表されるもの等のTBBPA型、下記式(2)で表されるもの等の三官能型、ビフェニル型、ナフタレン型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ジシクロペンタジエン型、テトラフェニロールエタン型等が挙げられる。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
また、上記芳香族エポキシ樹脂として、フェノキシ樹脂を用いてもよい。
上記フェノキシ樹脂は特に限定されないが、重量平均分子量が5万〜10万、エポキシ当量が7000〜1万であるものが好適である。
このようなフェノキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、「jER1256」、「jER4250」、「jER4275」、「jER1255HX30」(以上、三菱化学社製)、「YP−50S」(新日鐵化学社製)等が挙げられる。
【0024】
上記エポキシ化合物の他の例としては、エポキシ基含有モノマーやエポキシ基含有オリゴマーの付加重合体、例えば、エポキシ基を含有するポリエステル樹脂、エポキシ基を含有するポリウレタン樹脂、エポキシ基を含有するアクリル樹脂等のエポキシ基含有樹脂等が挙げられる。この際、硬化後の樹脂に適度な柔軟性を付与するために、可撓性のエポキシ樹脂を用いることも可能である。
これらのエポキシ化合物は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
上記光カチオン重合開始剤としては、イオン性光酸発生タイプのものであってもよいし、非イオン性光酸発生タイプであってもよい。
上記イオン性光酸発生タイプの光カチオン重合開始剤としては、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩類、鉄−アレン錯体、チタノセン錯体、アリールシラノール−アルミニウム錯体等の有機金属錯体類等が挙げられる。
なかでも、下記式(3)で表される嵩高いボロン酸を対イオンとする塩からなる光カチオン重合開始剤は、電極とシール剤との界面で電極の酸化が発生しにくく耐久性に優れることから好適である。
【0026】
【化3】

【0027】
このような光カチオン重合開始剤のうち市販されているものとしては、例えば、下記式(4)で表される「PI−2074」(ローディア社製)等が挙げられる。
【0028】
【化4】

【0029】
また、ヨウ素を含む光カチオン重合開始剤は、長波長の光を吸収できることから、硬化開始波長を長波長側にできることが期待できるが、一方で活性が高いものの、分解によりヨウ素が遊離して、得られるシール剤の硬化物が着色してしまうことがある。
この場合、着色することなく硬化開始波長を長波長側にできることから、下記式(5)で表される「TAG−371R」、下記式(6)で表される「TAG−372R」(いずれも、東洋インキ社製)、下記式(7)〜(9)で表される光カチオン重合開始剤を用いることが好ましい。
【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
【化7】

【0033】
【化8】

【0034】
【化9】

【0035】
上記非イオン性光酸発生タイプの光カチオン重合開始剤は特に限定されず、例えば、ニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、N−ヒドロキシイミドスホナート等が挙げられる。
上記光カチオン重合開始剤としては、高分子量化又は多量化したものを用いることが好ましい。上記光カチオン重合開始剤が酸を発生してカチオン重合を開始させた後には、その残存物がアウトガスとなって素子を劣化させたりすることがあるが、高分子量化又は多量化した光カチオン重合開始剤を用いれば、アウトガスの発生を抑制できる。
上記光カチオン重合開始剤を高分子量化又は多量化する方法は特に限定されず、例えば、分子内に少なくとも1つの水酸基を有しかつ光照射により酸を発生する化合物と、分子内に水酸基と反応する官能基を2つ以上有する化合物とを反応させる方法等が挙げられる。なかでも、分子内に2つ以上の水酸基を有しかつ光照射により酸を発生する化合物と、無水カルボン酸又はジカルボン酸とを反応させる方法が好適である。
【0036】
上記分子内に少なくとも1つの水酸基を有しかつ光照射により酸を発生する化合物のうち市販されているものとしては、例えば、スルホニウム塩骨格を有する三新化学社製「SI−80L」、ADEKA社製「SP−170」、ヨードニウム塩骨格を有するサートマー社製「CD−1012」等が挙げられる。
【0037】
また、上記分子内に水酸基と反応する官能基としては、カルボキシル基、イソシアネート基等が挙げられ、上記分子内に水酸基と反応する官能基を2つ以上有する化合物は特に限定されないが、無水カルボン酸又はジカルボン酸が好適である。
上記無水カルボン酸としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
上記ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等の脂肪酸や、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族酸等が挙げられる。
これらの光カチオン重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記シール剤中における上記光カチオン重合開始剤の含有量は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は10重量部である。上記光カチオン重合開始剤の含有量が0.1重量部未満であると、光カチオン重合が充分に進行しなかったり、反応が遅くなりすぎたりすることがある。上記光カチオン重合開始剤の含有量が10重量部を超えると、反応が速くなりすぎて作業性が低下したり、反応が不均一になったりすることがある。
【0039】
上記シール剤は、更に、水酸基を有する脂肪族炭化水素及び/又はポリエーテル化合物を含有することが好ましい。上記水酸基を有する脂肪族炭化水素やポリエーテル化合物は、上記シール剤の光カチオン重合反応を阻害することから、適当量を配合することにより光照射後の使用可能時間及び硬化時間を制御する反応調節剤としての役割を果たし、作業性を大幅に向上させることができる。
【0040】
上記水酸基を有する脂肪族炭化水素としては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多官能水酸基含有化合物が挙げられる。
上記ポリエーテル化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。なかでもポリアルキレンオキサイドが好適に用いられ、ポリオキシテトラメチレングリコールが特に好適に用いられる。
【0041】
上記ポリアルキレンオキサイドの末端は特に限定されず、水酸基であってもよいし、他の化合物によりエーテル化、エステル化されていてもよいし、エポキシ基等の官能基となっていてもよく、水酸基、エポキシ基等は上記カチオン重合性化合物と反応するので好適である。
【0042】
上記ポリエーテル化合物としては、ポリアルキレンオキサイド付加ビスフェノール誘導体も好適に用いられ、特に末端が水酸基又はエポキシ基を有する化合物が特に好適に用いられる。これらのポリエーテル化合物のうち市販されているものとしては、例えば、リカレジンBPO−20E、リカレジンBEO−60E、リカレジンEO−20、リカレジンPO−20(いずれも新日本理化社製)等が挙げられる。
【0043】
上記ポリエーテル化合物の他の例としては、クラウンエーテルが挙げられる。
上記クラウンエーテルとしては、例えば、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6や、2−メチル−18−クラウン−6−エーテル、2−エチル−18−クラウン−6−エーテル等の1つのアルキル基を有する化合物や、2,3−ジメチル−18−クラウン−6−エーテル、2,3−ジエチル−18−クラウン−6−エーテル、2−メチル−18−クラウン−6−エーテル、メチル−18−クラウン−6−エーテル等の2つのアルキル基を有する化合物、2−アリロキシメチル−18−クラウン−6−エーテル、2−ヘドロキシメチル−18−クラウン−6−エーテル、ジシクロヘキサノ−18−クラウン−6−エーテル等の炭素数1〜20のアルキル基が他の官能基で置換された化合物等が挙げられる。
これらのポリエーテル化合物は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0044】
上記シール剤中における上記水酸基を有する脂肪族炭化水素及び/又は上記ポリエーテル化合物の含有量としては特に限定されず、必要とされる使用可能時間及び硬化時間に応じて適宜決定されるが、通常、上記カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限は1重量部、好ましい上限は30重量部であり、より好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は20重量部である。
【0045】
上記シール剤は、更に、酸と反応するアルカリ性充填剤及び/又は酸を吸着するイオン交換樹脂を含有することが好ましい。上記シール剤は、光カチオン重合する際に酸を発生して、得られる表示素子の電極を腐食することがあるが、上記酸と反応するアルカリ性充填剤及び/又は上記酸を吸着するイオン交換樹脂を含有することにより、上記電極の耐久性を向上させることができる。
【0046】
上記酸と反応するアルカリ性充填剤としては、酸と中和反応する物質であれば特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩や炭酸水素塩等が挙げられる。
【0047】
上記酸を吸着するイオン交換樹脂としては、陽イオン交換型、陰イオン交換型、両イオン交換型のいずれも使用することができるが、特に塩化物イオンを吸着することのできる、陽イオン交換型及び両イオン交換型のものを用いることが好ましい。
【0048】
上記シール剤は、更に、充填剤を含有することが好ましい。上記充填剤を含有することにより、透湿性、接着強度、硬化収縮及び熱膨張率等を改善することができる。
上記充填剤は特に限定されず、例えば、コロイダルシリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、クレー等の粉体や、ガラスバルーン、アルミナバルーン、セラミックバルーン等の無機中空体や、ナイロンビーズ、アクリルビーズ、シリコンビーズ、フッ素樹脂ビーズ等の有機球状体や、塩化ビニリデンバルーン、アクリルバルーン等の有機中空体や、ガラス、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、セルロース等の単繊維等が挙げられる。
ただし、例えば、上記シール剤を用いて有機EL表示素子の薄膜構造体の表面を覆うようにして封止する場合等、シール剤の透明性が高いことが必要となる場合には、上記充填剤は透明であることが好ましく、またその配合量も必要最小限に抑えることが好ましい。
本発明の表示素子の製造方法では、上記複合装置により塗布と同時又は塗布直後に光を照射して部分的に硬化させてから封止することができるため、上記充填剤を含有させずとも確実に封止を行うことができる。
【0049】
上記シール剤は、更に、乾燥剤を含有することが好ましい。
上記乾燥剤は特に限定されず、例えば、シリカゲル、モレキュラーシーブ、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム等のアルカリ土類金属の酸化物等が挙げられる。
【0050】
上記シール剤は、更に必要に応じて、密着性向上剤、補強剤、軟化剤、可塑剤、粘度調整剤等の各種添加物を含有してもよい。
【0051】
上記シール剤の製造方法は特に限定されず、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリウムミキサー、ニーダー、三本ロール等の混合機を用いて、常温又は加温下で、カチオン重合性化合物、光カチオン重合開始剤、その他の配合物の各所定量を混合する方法が挙げられる。なお、上記シール剤の製造は光を遮断した状態で行うことが好ましい。
【0052】
上記シール剤は、光照射により硬化反応が開始し、光を遮断した後にも暗反応で硬化反応が進行することから、いったん光を照射して活性化させ、完全に硬化するまでに用いれば、光や熱にさらすことなく表示素子を封止することができる。更に、金属配線のため光の当らない部分がある場合や紫外線吸収剤を含有する基板を封止する場合であっても、確実に封止することができる。
【0053】
上記光の波長としては、上記光カチオン重合開始剤が、カチオン重合性化合物の重合又は硬化を開始させることができる波長であれば特に限定されず、上記光カチオン重合開始剤の感光波長に応じて適宜選択される。また、上記光の照射量としては特に限定されず、上記光カチオン重合開始剤の種類や量等により適宜決定される。このような波長及び照射量の光を照射する照射光源は特に限定されず、例えば、メタルハライドランプ、蛍光ランプ、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、DEEPUVランプ、発光ダイオード、エキシマーランプ、キセノン灯等が挙げられる。
これらの照射光源による照射は波長カットフィルターを介在させて行っても良い。
また、これらの照射光源による照射はミラーやレンズ、光ファイバー等により適宜照射部位に合わせて照射面積を拡大、縮小させてもよい。
なお、光を照射して上記シール剤を硬化させた後、必要に応じて加熱することにより、更に硬化を促進してもよい。
【0054】
本発明の表示素子の製造方法は、上記第1の接続対象部材に、上記シール剤を介して第2の接続対象部材を重ね合わせる工程2を有する。
【0055】
本発明の表示素子の製造方法を用いて有機EL表示素子を製造する方法としては、例えば、上記複合装置を用いて、上記シール剤を封止板上に塗布しながらシール剤に光を照射し、その後光を遮断し、シール剤が硬化するまでの間に、薄膜構造体を形成した基板の該薄膜構造体の周囲を封じるように封止板を貼り合わせて封止する方法等が挙げられる。
【0056】
上記封止板としては外部からの水分の浸入を防ぐ役割を果たし得るものであれば特に限定されず、例えば、ガラス板、無機物からなる保護膜等が好適である。上記無機物からなる保護膜としては特に限定されず、例えば、Si、Al、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)等が挙げられる。
【0057】
本発明の表示素子の製造方法を用いて有機EL表示素子を製造する場合、薄膜構造体の封止は常温及び常圧にて行うことができるが、薄膜構造体を封止する際に水分が浸入することを確実に防止するため、水分の制御が行われた空間内で行うことが好ましい。
薄膜構造体を上記シール剤により被覆する際、薄膜構造体の全体をシール剤で被覆するようにすることが好ましいが、必ずしも薄膜構造体の全体をシール剤で被覆する必要はなく、少なくとも、薄膜構造体を構成する材料のうち、外気と接触することで、水分や酸素に侵されたり、酸化されたりして有機EL表示素子の発光特性が劣化する部分をシール剤で被覆すればよい。従って、薄膜構造体の陽極の一部(外縁部付近や側面部分等)は被覆しなくてもよい。
【0058】
本発明の表示素子の製造方法は、有機EL表示素子の他、液晶表示素子等の製造にも好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、大面積のパネルでも大型の光照射装置を必要とせずに短時間で製造することができ、かつ、遮光性の基板でも貼り合わせすることができる表示素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(a)及び(b)は、ディスペンサーと、該ディスペンサーに接続された光照射装置とを備える複合装置を用いてシール剤を塗布する方法を説明するための模式的な正面図である。
【図2】スリットコーターと、該スリットコーターに接続された光照射装置とを備える複合装置を用いて、シール剤を塗布する方法を説明するための模式的な正面図である。
【図3】(a)は、実施例1で塗布したシール剤のシールパターン、(b)は、実施例2で塗布したシール剤のシールパターン、(c)は、実施例3で塗布したシール剤のシールパターンを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0062】
(有機EL表示素子基板の作製)
ガラス基板(25mm×25mm×0.7mm)にITO電極を1000Åの厚さで成膜したものを透明支持基板とした。上記透明支持基板をアセトン、アルカリ水溶液、イオン交換水、イソプロピルアルコールにてそれぞれ15分間超音波洗浄した後、煮沸させたイソプロピルアルコールにて10分間洗浄し、更にUV−オゾンクリーナ(日本レーザー電子社製、「NL−UV253」)にて直前処理を行った。次に、この透明支持基板を真空蒸着装置の基板フォルダに固定し、素焼きの坩堝にN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)を200mg、他の異なる素焼き坩堝にトリス(8−ヒドロキシキノリラ)アルミニウム(Alq)を200mg入れ、真空チャンバー内を、1×10−4Paまで減圧した。その後、α−NPD入りの坩堝を加熱し、α−NPDを蒸着速度15Å/sで基板に堆積させ、膜厚600Åの正孔輸送層を成膜した。次いでAlqの坩堝を加熱し、15Å/sの蒸着速度で膜厚600Åの発光層を形成した。その後、透明支持基板を別の真空蒸着装置に移し、この真空蒸着装置内のタングステン製抵抗加熱ボートにフッ化リチウム200mg、別のタングステン製ボートにアルミニウム線1.0gを入れた。その後真空槽を2×10−4Paまで減圧してフッ化リチウムを0.2Å/sの蒸着速度で5Å成膜した後、アルミニウムを20Å/sの速度で1000Å成膜した。窒素により蒸着器内を常圧に戻し透明支持基板を取り出して有機EL表示素子基板を得た。
【0063】
(シール剤の調製)
(光後硬化性シール剤A(周辺シール剤)の調製)
光カチオン重合性化合物としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「エピコート828」)80重量部、及び、ビスフェノールA型高分子量エポキシ樹脂(三菱化学社製、「エピコート1001」)20重量部に対して、光カチオン重合開始剤として上記式(8)で表されるトリフェニルスルホニウムボレート塩1重量部、硬化制御剤としてポリエチレングリコール(分子量1000)3重量部、シランカップリング剤(信越シリコーン社製、「KBM−403」)1重量部、及び、タルク40重量部を添加してホモディスパー型撹拌混合機(プライミクス社製、「ホモディスパーL型」)を用い、撹拌速度3000rpmで均一に撹拌混合して乳白色の光後硬化性シール剤Aを調製した。
【0064】
(光後硬化性シール剤B(透明シール剤)の調製)
光カチオン重合性化合物としてビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「jER806」)100重量部に対して、光カチオン重合開始剤として上記式(8)で表されるトリフェニルスルホニウムボレート塩1重量部、硬化制御剤としてポリエチレングリコール(分子量1000)3重量部、及び、シランカップリング剤(信越シリコーン社製、「KBM−403」)1重量部を添加してホモディスパー型撹拌混合機(プライミクス社製、「ホモディスパーL型」)を用い、撹拌速度3000rpmで均一に撹拌混合して、無色透明の光後硬化性シール剤Bを調製した。
【0065】
(実施例1)
図1(a)に示すようなディスペンサーと、該ディスペンサーに接続された光照射装置としての紫外線照射スポットランプとを備える複合装置を用意した。
複合装置を移動させながら、得られた光後硬化性シール剤Aを、図3(a)に示すパターンとなるように厚さ0.7mmのガラス製背面板の外周に塗布し、塗布と同時に、紫外線照射スポットランプを用いて、光後硬化性シール剤Aに365nmの紫外線を1000mJ/cm照射した。
その後、窒素ガスを流通させたグローブボックス中で、作製した有機EL素子基板と光後硬化性シール剤Aを塗布したガラス製背面板とを真空貼り合わせした後、10分間放置して光後硬化性シール剤Aを硬化させ、有機EL表示素子を得た。
【0066】
(実施例2)
ディスペンサーと、該ディスペンサーに接続された光照射装置としての紫外線照射スポットランプとを備える複合装置を用いて、得られた光後硬化性シール剤Aを、図3(b)に示すパターンとなるように厚さ0.7mmのガラス製背面板の外周に塗布し、塗布と同時に、紫外線照射ランプを用いて、光後硬化性シール剤Aに365nmの紫外線を1000mJ/cm照射し、外枠シール剤部を形成した。
次いで、この外枠シール剤部の内側に、得られた光後硬化性シール剤Bを図3(b)に示すパターンとなるように滴下し、同時に、滴下した光後硬化性シール剤Bに紫外線照射ランプを用いて365nmの紫外線を1000mJ/cm照射し、面シール剤部を形成した。
その後、窒素ガスを流通させたグローブボックス中で、有機EL素子基板と光後硬化性シール剤A及び光後硬化性シール剤Bを塗布したガラス製背面板とを真空貼り合わせした後、10分間放置してシール剤を硬化させ、有機EL表示素子を得た。
【0067】
(実施例3)
図2に示すようなスリットコーターと、該スリットコーターに接続された光照射装置としてのメタルハライドランプとを備える複合装置を用意した。
複合装置を移動させながら、得られた光後硬化性シール剤Bを、図3(c)に示すパターンとなるように厚さ0.7mmのガラス製背面板に塗布し、塗布と同時に、メタルハライドランプを用いて、光後硬化性シール剤Bに365nmの紫外線を1000mJ/cm照射した。
その後、窒素ガスを流通させたグローブボックス中で、有機EL素子基板と光後硬化性シール剤Bを塗布したガラス製背面板とを真空貼り合わせした後、10分間放置して光後硬化性シール剤Bを硬化させ、有機EL表示素子を得た。
【0068】
(比較例1)
得られた光後硬化性シール剤Aを、光照射装置を接続していないディスペンサーにて、実施例1と同じ図3(a)に示すパターンとなるように厚さ0.7mmのガラス製背面板の外周に塗布し、パターンを塗布し終えた後、高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を1000mJ/cm照射した。
その後、窒素ガスを流通させたグローブボックス中で、有機EL素子基板と光後硬化性シール剤Aを塗布したガラス製背面板とを真空貼り合わせした後、10分間放置して光後硬化性シール剤Aを硬化させ、有機EL表示素子を得た。
【0069】
(比較例2)
得られた光後硬化性シール剤A及び光後硬化性シール剤Bを、光照射装置を接続していないディスペンサーにて、実施例2と同じ図3(b)に示すパターンとなるように厚さ0.7mmのガラス製背面板に塗布し、パターンを塗布し終えた後、高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を1000mJ/cm照射した。
その後、窒素ガスを流通させたグローブボックス中で、有機EL素子基板と光後硬化性シール剤A及び光後硬化性シール剤Bを塗布したガラス製背面板とを真空貼り合わせした後、10分間放置して光後硬化性シール剤Bを硬化させ、有機EL表示素子を得た。
【0070】
(比較例3)
得られた光後硬化性シール剤A及び光後硬化性シール剤Bを、光照射装置を接続していないスリットコーターにて、実施例3と同じ図3(c)に示すパターンとなるように厚さ0.7mmのガラス製背面板に塗布し、パターンを塗布し終えた後、高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を1000mJ/cm照射した。
その後、窒素ガスを流通させたグローブボックス中で、有機EL素子基板と光後硬化性シール剤Bを塗布したガラス製背面板とを真空貼り合わせした後、10分間放置して光後硬化性シール剤Bを硬化させ、有機EL表示素子を得た。
【0071】
<評価>
実施例及び比較例について、シール剤の塗布にかかった時間、紫外線の照射にかかった時間、シール剤の硬化時間、及び、それらの合計時間を表1に示した。
【0072】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、大面積のパネルでも大型の光照射装置を必要とせずに短時間で製造することができ、かつ、遮光性の基板でも貼り合わせすることができる表示素子の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0074】
11 複合装置
12 ディスペンサー
12a シリンジ
12b 把持部
13 光照射装置
13a 光照射装置本体
13b 光照射部
21 第1の接続対象部材
22 シール剤層
31 台
111 複合装置
112 スリットコーター
112a スリットノズル
113 光照射装置
113a 光照射装置本体
113b 光照射部
121 第1の接続対象部材
122 シール剤層
131 台
201 ガラス製背面板
202 光後硬化性シール剤A
203 光後硬化性シール剤B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布装置と、該塗布装置に接続された光照射装置とを備える複合装置を用いて、カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤とを含有し、光照射により硬化反応が開始し、光を遮断した後にも暗反応で硬化反応が進行するシール剤を第1の接続対象部材に塗布し、塗布と同時又は塗布直後に該シール剤に光を照射する工程1と、
前記第1の接続対象部材に、前記シール剤を介して第2の接続対象部材を重ね合わせる工程2とを有する
ことを特徴とする表示素子の製造方法。
【請求項2】
塗布装置は、ディスペンサーであることを特徴とする請求項1記載の表示素子の製造方法。
【請求項3】
塗布装置は、コーターであることを特徴とする請求項1記載の表示素子の製造方法。
【請求項4】
カチオン重合性化合物は、芳香族エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の表示素子の製造方法。
【請求項5】
光カチオン重合開始剤は、下記式(3)で表されるボロン酸を対イオンとする塩であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の表示素子の製造方法。
【化1】

【請求項6】
光カチオン重合開始剤は、分子内に少なくとも1つの水酸基を有しかつ光照射により酸を発生する化合物と、分子内に水酸基と反応する官能基を2つ以上有する化合物との反応生成物であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の表示素子の製造方法。
【請求項7】
光カチオン重合開始剤は、分子内に2つ以上の水酸基を有しかつ光照射により酸を発生する化合物と、無水カルボン酸又はジカルボン酸との反応生成物であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の表示素子の製造方法。
【請求項8】
シール剤は、水酸基を有する脂肪族炭化水素及び/又はポリエーテル化合物を含有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の表示素子の製造方法。
【請求項9】
シール剤は、充填剤を含有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の表示素子の製造方法。
【請求項10】
シール剤は、酸と反応するアルカリ性充填剤及び/又は酸を吸着するイオン交換樹脂を含有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の表示素子の製造方法。
【請求項11】
シール剤は、乾燥剤を含有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の表示素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−123240(P2012−123240A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274507(P2010−274507)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】