説明

表示素子

【課題】簡単な構成で製造も困難でなく、小型化や集積化も容易で大面積のディスプレイを構成することができ、単独の表示素子で色表示を迅速に、可変に制御することができる表示素子を提供する。
【解決手段】表示素子において、屈折率の異なる複数の透明薄膜からなる積層体に電界を印加し、積層体中の透明薄膜の厚さを電界により変化させることで、入射光に対する反射光または透過光の波長分布を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率の異なる複数の透明薄膜の積層を有し、特定の波長域の光を反射あるいは透過する表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、デジタル化された画像などの二次元情報を表示するため、さまざまな表示装置が開発されてきた。一般的には多数の表示素子が二次元的に配列された形式のディスプレイを用いて、表示しようとする二次元情報を構成する画素の一つ一つに各表示素子を対応させ、それぞれの画素値に応じて、電気的な信号を送り駆動、表示させる方法がよく採られる。
【0003】
そこで各表示素子に求められるのは、適切な駆動信号に基づいて、表示に必要な応答を迅速に行うこと、また、全体としての品質(解像度など)を落とさないため、小型化でき、高密度に配列でき、大画面が可能で、製造の難度、コストが高くないといった特徴である。
【0004】
一方、従来のカラー表示素子は、RGB(赤、緑、青)の3原色を用いてカラー表示を行うため、R、G、Bに対応する3つのサブピクセルを必要としてきた。すなわち、本来の1画素を表現するのに、3個の表示素子の並列的な配置を必要とした。そのため、開口率が低い、つまり画素の占める面積当たりの表示面積率が小さく、RGB各色の表示効率がよくないという課題があった。
【0005】
これに対して、望ましいのは、単独の表示素子で1色を表示するのではなく、RGBの任意の色を表示可能にすることであった。このために、上述したような求められる性能を落とさずに、単独の表示素子で、表示できる色を可変にするための技術が開発されてきた(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0006】
1画素、すなわち単独の表示素子でRGBの任意の色を表示する方式として、カイラルネマティック液晶を3層の積層にする方式がある。すなわち、RGBの色表示を並列ではなく、積層して3層に分担させることで、1画素でRGBの任意の色表示を可能にしようというものである。
【0007】
しかしながら、複数の基板を用いることになるため、製造プロセスが煩雑になるという問題があった。また、高精細の画像を表示するためには、視差の観点から、フィルム基板や、薄いガラス板を使用しなければならないという困難さがあった。
【0008】
それに対して、特許文献1では、屈折率の異なる複数の薄膜を一対の電極で挟み、電圧を印加することで液晶層の屈折率を変化させ、1画素でRGBの任意の色表示を行う表示素子の技術を提案している。これは、屈折率の異なる複数の薄膜を光学的な干渉フィルタとして機能させるものである。電界により屈折率を変化させることで、干渉フィルタによる反射波長、あるいは透過波長を変化させ、表示色を変化させている。
【0009】
しかしながらこの方式では、干渉フィルタの機能を発揮させるために、流動性の高い液晶を100nm程度の厚みに成膜しなければならず、製造プロセスが困難である。特に、大面積の表示素子形成には不向きである。
【0010】
非特許文献1によれば、微細加工したハーフミラーと固定ミラー(シリコン基板)を、空隙を介して積層した表示素子を用いて、ハーフミラーの支持部をアクチュエータにより駆動することで、ハーフミラーと固定ミラーの距離を変化させ、1画素でRGBの任意の色表示を行う技術を提案している。これもミラー間での光の共振(フィゾー干渉計)により、ミラー間隔に応じた波長の光のみを取り出すというものである。
【0011】
しかしながら、電気信号により駆動するアクチュエータを利用して、表示色を変えるという点は効果的であるが、1画素当たりのミラー駆動に少なくとも2箇所のアクチュエータが必要であり、微小画素の高密度配列が難しく、表示素子の高精細化が困難である。
【0012】
非特許文献2では、カラー表示素子ではないが、シート上に平面的に配列された微小なアクチュエータが、有機トランジスタ配列と貼り合わされ、駆動されることで、各アクチュエータ(ベンダー)が互いに独立に変位し、リアルタイムに点字表示を形成する技術が提案されている。
【0013】
こういったアクチュエータの利用は、色表示とその表示色変更に応用できるかもしれないという点で興味深い。しかしながら、変位量を稼ぐためにベンド型のアクチュエータを利用していることからも分かるように、こういった方法ではやはり解像度に限界があり、表示素子の高精細化は困難である。
【特許文献1】特開平5−134266号公報
【非特許文献1】小口、初澤、”静電駆動型ディスプレーの研究”、[online]、平成18年4月1日、東京工業大学精密工学研究所、[平成18年4月28日検索]、インターネット〈URL:http://www.pme.pi.titech.ac.jp/research/old/display/display.htm〉
【非特許文献2】Kato,Iba,Sekitani,Noguchi,Hizu, "A Flexible,Lightweight Braille Sheet Display with Plastic Actuators Driven by An Organic Field-Effect Transistor Active Matrix", IEEE International Electron Devices Meeting, Washington, DC, December 5-7,2005, #5.1, pp.105-108.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、単独の表示素子でRGBの任意の色表示を行うには、様々な問題がある。構造が複雑になったり、構成要素に制約が掛かることで、製造上の困難が生じたり、解像度の点で限界があり、高精細化に困難が生じたり、大面積化が困難であったりする。
【0015】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、簡単な構成で製造も困難でなく、小型化や集積化も容易で大面積のディスプレイを構成することができ、単独の表示素子で色表示を迅速に、可変に制御することができる表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0017】
1. 屈折率の異なる複数の透明薄膜からなる積層部と、前記透明薄膜のそれぞれに電界を印加するための電極と、を含む積層体を備えた表示素子であって、前記透明薄膜はそれぞれ、印加された電界に応じて厚さが変化する材料で形成された、ことを特徴とする表示素子。
【0018】
2. 前前記複数の透明薄膜は、それぞれポリマー薄膜である、ことを特徴とする1に記載の表示素子。
【0019】
3. 前記複数の透明薄膜のうち少なくとも二つは、その屈折率差が0.3以上である、ことを特徴とする1または2に記載の表示素子。
【0020】
4. 前記積層体は、前記積層部を10層以上積層して含む、ことを特徴とする1乃至3の何れか1項に記載の表示素子。
【0021】
5. 前記積層体は、前記複数の透明薄膜をそれぞれ挟む形で配置される複数の電極を有する、ことを特徴とする1乃至4の何れか1項に記載の表示素子。
【0022】
6. 前記複数の電極は、それぞれ有機導電性薄膜である、ことを特徴とする1乃至5の何れか1項に記載の表示素子。
【0023】
7. 複数の前記積層体が、二次元的に配置されており、それぞれの前記積層体が互いに独立に電界印加される、ことを特徴とする1乃至6の何れか1項に記載の表示素子。
【0024】
8. 二次元的に配置された前記積層体のそれぞれに対応してTFT素子が配置され、対応する前記TFT素子により、それぞれの前記積層体が互いに独立に電界印加される、ことを特徴とする7に記載の表示素子。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、表示素子において、屈折率の異なる複数の透明薄膜からなる積層部を含む積層体に電界を印加し、積層体中の透明薄膜の厚さを電界により変化させることで、入射光に対する反射光または透過光の波長分布を変化させることにより、簡単な構成で製造も困難でなく、小型化や集積化も容易で大面積のディスプレイを構成することができ、単独の表示素子で色表示を迅速に、可変に制御することができる表示素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施形態を図を参照して説明する。
【0027】
(表示素子1の構成)
図1を用いて、第1の実施形態として表示素子1の構成を説明する。図1は表示素子1の概略構成を示す断面図である。図には単独の表示素子として示してあるが、一般的には、後述するように多数の表示素子を二次元的にアレイ配置し、例えば画像などの二次元的な表示のために用いられる。
【0028】
図において、1は表示素子であり、支持体としての基板20に形成されたTFT(薄膜トランジスタ)素子30と、さらにその上に形成された積層体10とからなる。
【0029】
積層体10は、電界により変形可能な、それぞれ屈折率の異なる2種類の材料からなる透明薄膜、すなわち第1の透明薄膜11と第2の透明薄膜12、そしてそれらの透明薄膜に電界を印加するための一対の電極、すなわち第1の電極15と第2の電極16とが図のように積層されている。
【0030】
積層体10の積層構成は以下のようである。
【0031】
第1の透明薄膜11の層と第2の透明薄膜12の層とが互いに積層されて積層部を構成し、それがさらに10層以上に渡って繰り返し積層されている。そして第1の透明薄膜11と第2の透明薄膜12との界面には、第1の電極15の層と第2の電極16の層とが、これも互い違いになるように挿入されている。すなわち、第1の電極15の層と第2の電極16の層との間には、第1の透明薄膜11の層または第2の透明薄膜12の層が互い違いに一つずつ挟み込まれるようになっている。これにより上記透明薄膜の積層部に効率的に電界を印加することができる。
【0032】
第1及び第2の透明薄膜は、有機ポリマーを用いて形成されており、それぞれ屈折率N1、N2、厚さT1、T2である。これらは電界駆動によりアクチュエータとして機能する。これらの透明薄膜の厚さが電界に応じて変化することによる表示素子としての動作については後述する。
【0033】
第1及び第2の電極は、上記透明薄膜の積層部に電界を印加するために、上記のように透明薄膜の界面に、互いに導通しないように絶縁部17を挟んで配置されており、一方がコモン電極38に、他方が後述する駆動用のTFT素子30のドレイン電極35に結合するよう構成されている。
【0034】
TFT素子30の構成は以下のようである。
【0035】
基板20の上には一部にゲート電極33が設けられる。ゲート電極33はゲート絶縁膜31によって覆われ、そのゲート絶縁膜31を挟んで、ゲート電極33と対応する位置に半導体部36が設けられる。ゲート絶縁膜31の上には、さらにソース電極34とドレイン電極35が設けられ、前述の半導体部36がその両者をつなぐ役目を担っている。すなわち、ゲート電極33に信号電圧が印加されることにより、半導体部36に導通が成立し、ソース電極34にかかる電位が、ドレイン電極35にかかることになる。
【0036】
ソース電極34、半導体部36、ドレイン電極35は、バッシべーション層32によってカバーされる。但しパッシべーション層32にはコンタクトホール37が設けられ、ドレイン電極35が上述した第2の電極16と電気的に結合されている。またパッシべーション層32上にはコモン電極38が設けられ、やはり上述した第1の電極15と電気的に結合している。すなわちゲート電極33への信号電圧印加操作により、コモン電極38とソース電極35間にかかる電圧が、第1の電極15と第2の電極16との間にかかる、すなわち、第1の透明薄膜11及び第2の透明薄膜12の層にかかり、その膜厚変化をもたらすことになる。
【0037】
(表示素子2の構成)
図2を用いて、第2の実施形態として表示素子2の構成を説明する。図2は表示素子2の概略構成を示す断面図である。表示素子1の場合と同様に、図には単独の表示素子として示してあるが、一般的には、後述するように多数の表示素子を二次元的にアレイ配置して用いられる。
【0038】
図において、2は表示素子であり、支持体としての基板20に形成されたTFT素子30と、さらにその上に形成された積層体10とからなる。
【0039】
積層体10は、電界により変形可能な、それぞれ屈折率の異なる2種類の材料からなる透明薄膜、すなわち第1の透明薄膜11と第2の透明薄膜12、そしてそれらの透明薄膜に電界を印加するための一対の電極、すなわち第1の電極15と第2の電極16とが図のように積層されている。
【0040】
積層体10の積層構成は、表示素子1の場合とは異なる。以下のようである。
【0041】
第1の透明薄膜11の層と第2の透明薄膜12の層とが互いに積層されて積層部を構成し、それがさらに10層以上に渡って繰り返し積層されているのは同様である。しかし、第1の透明薄膜11と第2の透明薄膜12との界面には、第1の電極15の層も第2の電極16の層も、挿入されてはいない。すなわち、第1の電極15の層と第2の電極16の層は、透明薄膜の積層部からなる積層体の最上端部と最下端部とに1層ずつ設けられ、その一対の第1の電極15の層と第2の電極16の層とで透明薄膜の層全体を挟み込むようになっている。
【0042】
第1及び第2の透明薄膜は、有機ポリマーを用いて形成されており、それぞれ屈折率N1、N2、厚さT1、T2である。これらが電界駆動によりアクチュエータとして機能するのは表示素子1と同様である。異なるのは電界のかけ方だけである。これらの透明薄膜が電界に応じて膜厚変化することによる表示素子としての動作については後述する。
【0043】
第1及び第2の電極は、上記透明薄膜の積層部に電界を印加するために、上記のように透明薄膜全体の上下端部に、互いに導通しないように配置されており、一方が駆動用のTFT素子30のコモン電極38に、他方がドレイン電極35に結合するよう構成されているのも表示素子1と同様である。TFT素子30の構成は表示素子1の場合と同様であり、説明は省略する。
【0044】
(表示素子の駆動)
図3は、表示素子の二次元的な配置とそれに応じた表示素子の駆動回路を示す図である。図3を用いて、表示素子配列の駆動について説明する。
【0045】
図3において、1aは、図1または図2で示した単独の表示素子に相当する。但し断面図ではなく、上面から見た図となっている。複数の表示素子が図のように平面的に配列され、表示素子アレイ5が構成されているものとする。但し、配列の方法、及びそれに応じた駆動の方法は種々あり、これに限定されるものではない。
【0046】
これらの配列は、共通の基板20の上に駆動回路、あるいは配線といった形で、統合的に形成されているものである。従って、逐一図示はしていないが、TFT素子30の形成に当たり、コモン電極38など、各表示素子に共通化できるものは、一括配線となっている。ゲート電極33やソース電極34への信号などは配列に応じてマトリクス的に駆動するように構成される。また各表示素子毎に独立して制御する積層体10も独立して形成される。
【0047】
図3において、51はコモン電極であり、パッシべーション層32上に図のように配線される。これにより、すべての表示素子の第1の電極15に結合し、共通の電位を与えることができる。また、53は信号バスラインであり、各表示素子のソース電極34を通じて、第2の電極16に信号電位を与える。ソース電極34が第2の電極16に信号電位を与えるかどうかは、52のゲートバスラインの信号と絡めたマトリクス駆動により決まってくる。
【0048】
なお、ゲートバスライン52に信号を与えるのは、54のゲート用ドライバICであり、信号バスライン53に信号を与えるのは55の信号用ドライバICである。従ってこの両者の出力する信号の組み合わせで、マトリクス的に各表示素子が駆動される。すなわち、各表示素子毎の積層体に電界をかけたりかけなかったりする動作が決定される。
【0049】
(電界による膜厚変化と表示素子の動作)
二次元的に配置された表示素子は、ディスプレイとして用いることができる。本実施形態では、電界により変形(膜厚が変化する)可能なポリマー薄膜を用いて、電界駆動のアクチュエータとして機能させることにより、光学的に反射光あるいは透過光の波長を変化させる、すなわち、干渉フィルタとして波長選択を行いながら、透明薄膜の厚さを制御することで選択波長自体をも変えるというものである。
【0050】
図4に反射型のディスプレイとした場合の表示素子の断面図を示す。図4を用いて表示素子としての動作、すなわち電界による駆動と反射の特性制御について説明する。
【0051】
図4(a)は電圧印加がない場合の、そして図4(b)は電圧印加を行った場合の、それぞれ断面図を示す。但し、動作原理を示すため、積層体10と基板20のみを図示し、ディスプレイとして駆動用の電極や配線類は省略している。それぞれ上端の電極15と下端の電極16間に信号電圧の印加がない、またはあるときの動作を説明する。
【0052】
図において、L1とL2は第1及び第2の透明薄膜であり、それぞれ例えば、屈折率が1.35と1.65とする。図に示すようにL1とL2は積層されて積層部を構成し、かつその積層部が10層重ねられている。L1とL2の積層部全体の上端と下端にそれぞれ透明導電膜15と16が形成され、その積層体10全体がガラス基板20上に形成されている。ガラス基板の積層体と反対側の面には光吸収層21が設けられている。
【0053】
上記は、反射型の表示の場合であり、光が上方から入射し、かつ観察も上方から行う場合である。同様にして透過型の表示も可能である。
【0054】
このような屈折率の異なる薄層を積層した場合の反射光同士が干渉し、特定の選択された波長の光のみを返す干渉フィルタの原理はよく知られている。上記積層体10は光を受けて、この干渉フィルタの原理に従って機能し、特定の選択された波長の光のみを返すことで特定の色を表示する。
【0055】
例えば、上方から白色光が入射してくる。光は積層体10中に入射するが、多数あるL1とL2の積層の界面で透過する光と反射する光が生ずる。屈折率の異なる多層膜の界面で多重反射して光路長の変わった光が互いに干渉することによって、光路長の差に見合った特定波長の光が選択されて、通過または反射するようになる。
【0056】
図4(a)においては、上方から入射した白色光に対して、Rで示す長波長の光が選択的に反射される。但し、積層体10中での多重反射の状況は図示していない。これによってこの表示素子は赤い色を表示しているように見える。
【0057】
図4(b)では、図4(a)の表示素子に対して、積層体10に電界が印加されている。この電界の作用によって、透明薄膜L1とL2は変形を生ずる。図では厚さ方向に縮小している、すなわち厚みが薄くなっている。
【0058】
この厚みの減少により、光路長の縮小が起こり、干渉フィルタとして選択される波長が短くなる。すなわち、図4(b)においては、上方から入射した白色光に対して、Bで示す短波長の光が選択的に反射される。これによってこの表示素子は青い色を表示しているように見える。
【0059】
このようにして、電界の印加の有無により、表示素子の色表示を変えることができる。図4の(a)と(b)では、R(赤)とB(青)であったが、電界の強さを変えることにより、中間の波長のG(緑)の光を反射させることも可能である。
【0060】
なお、干渉フィルタとしての機能を十分に発揮させるためには、それぞれの透明薄膜の屈折率が異なるのみならず、屈折率差が0.3以上あることが望ましい。また、透明薄膜の積層部も10層以上繰り返し積層されていることが望ましい。これら屈折率差や積層数の条件を選択することにより、反射率を高くできるため、表示素子としての視認性を向上することができる。
【0061】
図5は表示素子を用いたRGB3原色による色表示について、従来の表示素子(b)と、本方式の表示素子(a)との表示の違いを示す。B、G、Rは、それぞれ青、緑、赤の表示を示す。Bkは黒、すなわち色表示なしを示す。左から順に、それぞれB、G、Rを表示している3通りの状態を示す。
【0062】
従来の表示素子は、図5(b)に示すように、単独の表示素子では1色しか表示できないため、RGB3色の表示を行う3種の表示素子を平面的に並べて、どれか一つを選択的に表示させることで色表示を行っていた。従って図のように面積当たりの色表示の効率が悪い上、解像度を再現する上でも不利であった。
【0063】
本方式の表示素子では、図5(a)に示すように、単独の表示素子、つまり1画素でマルチカラー表示が可能である。つまり干渉フィルタの選択波長を変化させることにより、一つの表示素子で、信号のかけ方により、RGB(赤、緑、青)の任意の色表示が可能になる。
【0064】
このように本実施形態に係る表示素子は、一つ一つの素子毎に任意の色表示させることができ、色表示の効率がよい上に、一つの素子を小型化できるので、高解像度が望める。また製造上の困難もなく、大画面も可能である。
【0065】
(表示素子の構成材料)
図1及び図2で示したような表示素子を構成する部材について説明する。積層体10を構成する透明薄膜、絶縁部、電極、基板について代表的な材料を述べる。
【0066】
変形可能な透明薄膜(11、12)を形成する材料としては、さまざまな有機物の材料が知られている。それらは、いわゆる高分子アクチュエータとして知られているものであり、電界、あるいは他の力学的ではない刺激で、膨潤・収縮、屈曲などの変形を起こす材料である。低エネルギーで今までにない生物的な柔らかい動きを実現でき、さまざまな分野から関心を持たれている。
【0067】
上記表示素子においては、電界による伸縮を利用するものであるが、公知のさまざまな高分子アクチュエータを利用することができる。中でも好ましい材料としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフッ化ビニリデン、シリコーンゴムなどを挙げることができる。
【0068】
絶縁部(31、17など)用の材料としては、さまざまな絶縁性材料が知られており、実質的に電流が流れないものであれば特に制限はない。ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂等の高分子、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウムなどの無機酸化物や窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン等の無機チタン酸塩類が挙げられる。
【0069】
電極(15、16など)用の材料としては、さまざまな導電性材料が知られており、実用可能なレベルでの導電性があれば特に限定することなく用いることができる。具体的には、白金、金、ペースト状のものを含む銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、グラファイトやグラッシーカーボン及びカーボンペーストを含む炭素、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物等を用いることができる。
【0070】
また導電性材料としては、導電性ポリマーを好適に用いることもできる。導電性ポリマーとしては、例えばポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、及びこれらの誘導体、類縁対、これらを構成するモノマーもしくはオリゴマーを構成成分として有するポリマーに、必要に応じ適切な添加剤を加えたもので、実用可能なレベルの導電性を有していれば問題なく使用することができる。具体的には、例えばポリアニリンとポリスチレンスルホン酸やカルボン酸の錯体、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸やカルボン酸の錯体なども好適に用いられる。
【0071】
さらに導電性材料として金属微粒子を含有する分散物を用いることもできる。金属微粒子を含有する分散物としては、例えば公知の導電性ペーストなどを用いてもよいが、粒子径が1nmから50nm、好ましくは1nmから10nmの金属微粒子を含有する分散物が好ましい。微粒子として含有される金属の種類は、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、亜鉛、等を挙げることができる。これらの金属微粒子を、主に有機材料からなる分散安定剤を用いて、水や任意の有機溶剤である分散媒中に分散した分散物を用いて電極を形成するのが好ましい。なお、このような金属微粒子分散物の作製方法としては、ガス中蒸発法、スパッタリング法、金属蒸気合成法などの物理的生成方法や、コロイド法、共沈法などの、液相で金属イオンを還元して金属微粒子を生成する化学的生成法が挙げられる。
【0072】
支持体としての基板20は、ガラス基板でもよいし、樹脂基板でもよい。ガラス基板の場合は、特に材料が制限されるものではないが、一般に液晶ディスプレイ等に用いられているものが使用できる。樹脂基板の場合、例えばプラスチックフィルムシートを用いることができる。プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルムが挙げられる。このようにプラスチックフィルムを用いることで、ガラス基板を用いる場合に比べて軽量化を図ることができ、可搬性を高めるとともに衝撃に対する耐性を向上できる。
【実施例】
【0073】
(実施例1:反射型の表示素子)
図2に示したような構成で反射型の表示素子を作製し、電界印加による色表示を実施した例を説明する。適時、図2及び図3を参照する。
【0074】
まず基板上に有機TFT素子部分を作製した条件について述べる。
【0075】
基板としては、ITO膜を表面に125nm形成したガラス基板を用いた。ガラス基板のサイズは、200mm×200mmである。この基板にレジストを約1μmの厚みで形成し、露光、現像、ITO膜のエッチング、レジスト剥離の各工程を経て、ゲート電極、ゲートバスを設けた。ここで用いたフォトマスクは、TFTを基板状に10×10の計100配置するパターンである。
【0076】
次いで、TEOS(テトラエトキシシラン)ガスを用いたプラズマCVD(化学気相成長法)で、ゲート絶縁膜として500nmのSiO2膜を形成した。
【0077】
洗浄後、半導体材料としてポリ(3−ヘキシルチオフェン)をクロロホルムに0.3質量%の濃度で溶かした溶液を用いて、インクジェット法により、絶縁膜上のゲート電極に対応する部分に適量を滴下した。
【0078】
さらにPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)・PSS(ポリスチレンスルホン酸)をインクジェツト法により適量滴下することで、ソース電極、ドレイン電極を作製した。
【0079】
PVA(ポリビニルアルコール)水溶液をスピンコートしたパッシべーション層を形成した後、フォトリソグラフィによりコンタクトホールを設け、ホール部にカーボンブラックを滴下し、さらにパッシべーション層上にも、透明薄膜を形成する領域に同材料で第2の電極を形成した。
【0080】
次に、積層体部分(アクチュエータ部分)を作製した条件について述べる。
【0081】
変形可能な透明薄膜用として、シリコンレジンを溶媒で溶かした第1の溶液とポリフッ化ビニリデンを溶媒で溶かした第2の溶液を用意した。それぞれの溶液は粘度がおよそ10Pa・sになるように調整した。
【0082】
次いで、15mm×15mmの凸部(画素に対応)を、10×10で計100個有する印刷用のスタンプを2種類用意した。スタンプの材料はポリジメチルシロキサンとした。なお本実施例では用いていないが、微細な画素を作成するにはマイクロコンタクトプリンティング法などを用いればよい。
【0083】
第1の溶液と第2の溶液を交互に基板上に印刷し、積層した。なお、印刷後に溶媒を蒸発させるため、印刷は120℃のホットプレート上で行い、且つ、印刷は30秒程度の間隔をおいて行った。また、各薄膜を形成後にその都度、厚み方向に適切な電界を印加し、薄膜の帯電量、分極量を適切な状態に揃えた。
【0084】
上記の条件で印刷することで、シリコンレジンとポリフッ化ビニリデンは混ざることはなかった。またシリコンレジンは130nm、ポリフッ化ビニリデンは100nmの厚みが形成された。
【0085】
なお、同様の印刷条件で、それぞれの材料の単層を成膜後、屈折率を測定するとシリコンレジンは1.65、ポリフッ化ビニリデンは1.35であった。
【0086】
それぞれの材料を10回ずつ印刷することで積層体を形成した。
【0087】
最後にインクジェット法により、PEDOT・PSSで第1の電極を形成した。第1の電極は積層体の端面にも滴下することでパッシべーション層上面まで導通させることができた。各画素の第1の電極をパッシべーション層上で導通させることにより、コモン電極を形成した。
【0088】
最後に作製した反射型の表示素子に電界印加して反射光の色表示を観察した。
【0089】
上記表示素子は、電圧を印加しない状態で、およそ700nm付近にピークを有する光を反射した。反射率は62%で半値幅は120nmであった。目視では赤色に見えた。
【0090】
上記表示素子に90vの電圧を印加すると、550nm付近にピークを有する光を反射した。反射率は64%で、半値幅は120nmであった。目視では緑色に見えた。
【0091】
上記表示素子に180vの電圧を印加すると、430nm付近にピークを有する光を反射した。反射率は64%で、半値幅は120nmであった。目視では青色に見えた。
【0092】
以上の結果により、電圧を印加することで光路長が変化し、干渉色が変化したことが分かる。
【0093】
(実施例2:透過型の表示素子)
図2に示したような構成で透過型の表示素子を作製し、電界印加による色表示を実施した例を説明する。適時、図2を参照する。
【0094】
基板上に有機TFT素子部分を作製した条件については、反射型の表示素子の場合と同様である。但し、パッシべーション層上面の第2の電極については、PEDOT・PSSを滴下することで形成した。反射型の表示素子ではカーボンブラックで形成し、光吸収層を兼用していたが、透過型の表示素子では、透明導電膜であることが求められる。
【0095】
積層体部分(アクチュエータ部分)を作製した条件については、反射型の表示素子の場合と同様である。説明は省略する。
【0096】
最後に作製した透過型の表示素子に電界印加して色表示を観察した。基板の積層体と反対側の面から、バックライトを当て、積層体の側から透過光を観察した。
【0097】
上記表示素子は、電圧を印加しない状態で、およそ450から550nm付近にピークを有する光を透過した。透過率は32%で半値幅は200nm以上のブロードな光であった。目視では青緑色に見えた。
【0098】
上記表示素子に180vの電圧を印加すると、600から750nm付近にピークを有する光を透過した。透過率は44%で、半値幅は200nm以上であった。目視では赤っぽい橙色に見えた。
【0099】
以上の結果により、電圧を印加することで光路長が変化し、干渉色が変化したことが分かる。反射型の表示素子の場合と比べて透過率が低いのは、基板や電極の光吸収、特に短波長の光吸収が大きいからと考えられる。
【0100】
(実施例3:時計表示を行うパターン)
積層体の構成は、上記の表示素子と同様であるが、配列が図6に示すような7個の表示部61による時計表示のパターンとなっている表示素子を作製し、電界印加による色表示を実施した例を説明する。適時、図2及び図6を参照する。
【0101】
図6(a)は表示素子の配列パターンを示す図であり、図6(b)はAA’面での断面図である。
【0102】
基板作製については、ITO(酸化インジウム・スズ)付きガラス基板20上に駆動用の電極62をパターニングした。駆動用電極62は不図示の電源に接続する。
【0103】
PVA水溶液をスピンコートでコーティングし、パッシべーション層67を形成した後、レーザによりコンタクトホール63を形成した。これにより駆動用電極62と第2の電極65とが導通される。
【0104】
その後の積層体部分(アクチュエータ部分)を作製した条件については、実施例1と同様である。66と65が第1と第2の電極層であり、64が透明薄膜の積層部を示す。
【0105】
上記の表示素子列を7個の表示部61に対して各々独立に駆動し、時計表示の状態を観察した。
【0106】
色表示のレベルについては、実施例1と同様であった。また7個の表示部に独立して電圧を印加し、時計表示の状態確認したところ、0から9の数字、すなわち時計表示のパターンが目視により確認できた。
【0107】
上記のように、本実施形態によれば、表示素子において、屈折率の異なる複数の透明薄膜からなる積層体に電界を印加し、積層体中の透明薄膜を電界により膜厚変化させることで、入射光に対する反射光または透過光の波長分布を変化させることにより、簡単な構成で製造も困難でなく、小型化や集積化も容易で大面積のディスプレイを構成することができ、単独の表示素子で色表示を迅速に、可変に制御することができる表示素子を提供することができる。
【0108】
なお、本実施形態では膜厚変化可能な透明薄膜として有機物を示したが、一部の層に無機物を用いてもよい。また、観察面を基板背面側に設定してもよい。そうすることで、透明薄膜の伸縮による視差のずれを解消することが可能になる。また、本実施形態では積層体として屈折率の異なる2層からなる積層部の繰り返しを示したが、積層部の層数は3層以上でもかまわない。また繰り返し数も任意である。
【0109】
本発明の範囲は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、それらの変更された形態もその範囲に含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】第1の実施形態としての表示素子1の概略構成を示す断面図である。
【図2】第2の実施形態としての表示素子2の概略構成を示す断面図である。
【図3】表示素子の二次元的な配置とそれに応じた表示素子の駆動回路を示す図である。
【図4】(a)電圧印加のない場合と(b)電圧印加のある場合の、反射型の表示素子の断面図を示す。
【図5】表示素子を用いたRGB3原色による色表示について、(a)本方式の表示素子と(b)従来方式の表示素子との表示の違いを示す図である。
【図6】配列が7個の表示部による時計表示のパターンとなっている表示素子の、(a)配列パターンを示す図と(b)その断面図である。
【符号の説明】
【0111】
1 表示素子1
2 表示素子2
1a 表示素子
5 表示素子アレイ
10 積層体
11 第1の透明薄膜
12 第2の透明薄膜
15 第1の電極
16 第2の電極
17 絶縁部
20 基板
21 光吸収層
30 TFT素子
31 ゲート絶縁膜
32 パッシベーション層
33 ゲート電極
34 ソース電極
35 ドレイン電極
36 半導体部
37 コンタクトホール
38 コモン電極
51 コモン電極
52 ゲートバスライン
53 信号バスライン
54 ゲート用ドライバIC
55 信号用ドライバIC
61 表示部
62 駆動用電極
63 コンタクトホール
64 透明薄膜の積層部
65 第2の電極
66 第1の電極
67 パッシべーション層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率の異なる複数の透明薄膜からなる積層部と、
前記透明薄膜のそれぞれに電界を印加するための電極と、
を含む積層体を備えた表示素子であって、
前記透明薄膜はそれぞれ、印加された電界に応じて厚さが変化する材料で形成された、
ことを特徴とする表示素子。
【請求項2】
前記複数の透明薄膜は、
それぞれポリマー薄膜である、
ことを特徴とする請求項1に記載の表示素子。
【請求項3】
前記複数の透明薄膜のうち少なくとも二つは、
その屈折率差が0.3以上である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の表示素子。
【請求項4】
前記積層体は、
前記積層部を10層以上積層して含む、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の表示素子。
【請求項5】
前記積層体は、
前記複数の透明薄膜をそれぞれ挟む形で配置される複数の電極を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の表示素子。
【請求項6】
前記複数の電極は、
それぞれ有機導電性薄膜である、
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の表示素子。
【請求項7】
複数の前記積層体が、二次元的に配置されており、
それぞれの前記積層体が互いに独立に電界印加される、
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示素子。
【請求項8】
二次元的に配置された前記積層体のそれぞれに対応してTFT素子が配置され、
対応する前記TFT素子により、それぞれの前記積層体が互いに独立に電界印加される、
ことを特徴とする請求項7に記載の表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−15485(P2008−15485A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130340(P2007−130340)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】