説明

表示装置、表示方法、プログラム、および、光学特性表示システム

【課題】サンプルの光学特性値を簡便に利用することができる。
【解決手段】本発明による表示装置(100)は、処理部(10)と、特定サンプルに照射された光の特定波長の散乱係数及び吸収係数を記憶する記憶部(20)と、処理部(10)が記憶部(20)に記憶された特定波長の散乱係数及び吸収係数に対して所定の処理を行った結果を表示する、表示部(30)とを備える。また、本発明による光学特性表示システム(200)は、表示装置(100)と、特定サンプルの散乱係数及び吸収係数を計測する光学特性値計測装置(300)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示装置、表示方法、プログラム、および、光学特性表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
サンプルの特性は光を用いて測定可能である。例えば、サンプルに光を照射してその反射光や透過光を検出することによってサンプルの反射率及び透過率を比較的簡単に測定することができる。しかしながら、サンプルの反射率及び透過率はサンプルの厚さ等に依存して相対的に変化するものであり、これ自体でサンプルの特性を十分に表したことにはならない。
【0003】
サンプルの固有の特性として光学特性値が知られており、特に、生体物質の光学特性値が注目されている。光学特性値には吸収係数および散乱係数がある。吸収係数μは吸収によって光の強度が1/eになるまでに進む距離の逆数[単位:mm−1]であり、散乱係数μは散乱によって光の強度が1/eとなるまでに進む距離の逆数[単位:mm−1]である。また、異方性因子gは一回の散乱による散乱パターンの非等方性を表す。このパラメーターgは1から−1までの値を示し、g=1、0、−1のときはそれぞれ完全な前方散乱、等方散乱、後方散乱になる。また、換算散乱係数μ’はμ×(1−g)と表される。
【0004】
非特許文献1には、逆モンテカルロ法を用いて透過光強度および散乱光強度を吸収係数および散乱係数に変換する装置が開示されている。この装置では、積分球に対してサンプルをある位置に固定してサンプルの反射率を測定し、積分球に対してサンプルの位置を変更した上でサンプルの透過率を測定し、この反射率及び透過率から吸収係数および散乱係数が取得される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】田中ら、「近赤外における生体組織の光学特性測定」、日本機械学会熱光学講演会論文集、平成9年11月5〜7日、No.97−25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1は、吸収係数および散乱係数の決定手法に言及しているものの、吸収係数および散乱係数の有効な利用態様について言及していない。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、サンプルの光学特性値を簡便に利用することができる表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による表示装置は、処理部と、特定サンプルに照射された光の特定波長の散乱係数及び吸収係数を記憶する記憶部と、前記処理部が前記記憶部に記憶された前記特定波長の前記散乱係数及び前記吸収係数に対して所定の処理を行った結果を表示する表示部とを備える。
【0009】
ある実施形態において、前記記憶部は、前記特定サンプルを含む複数のサンプルのそれぞれに照射された光の前記特定波長の散乱係数及び吸収係数を記憶しており、前記表示部は、前記処理部が前記複数のサンプルのそれぞれに照射された光の前記特定波長の前記散乱係数及び前記吸収係数に対して前記所定の処理を行った結果を比較して表示する。
【0010】
ある実施形態において、前記表示部は、前記特定波長の前記吸収係数と前記散乱係数から得られた換算散乱係数との関係を示すグラフを表示する。
【0011】
ある実施形態において、前記特定波長は405nmを含む。
【0012】
ある実施形態において、前記特定波長は664nmを含む。
【0013】
ある実施形態において、前記記憶部は、前記特定サンプルに照射された光の前記特定波長を含む複数の波長のそれぞれの散乱係数及び吸収係数を記憶し、前記表示部は、前記処理部が前記複数の波長のそれぞれの前記散乱係数及び前記吸収係数に対して前記所定の処理を行った結果を表示する。
【0014】
ある実施形態において、前記記憶部は、前記特定サンプルを含む複数のサンプルのそれぞれに照射された光の前記特定波長を含む複数の波長のそれぞれの散乱係数及び吸収係数を記憶し、前記表示部は、前記処理部が前記複数のサンプルのそれぞれについて前記複数の波長のそれぞれの前記散乱係数及び前記吸収係数に対して前記所定の処理を行った結果を比較して表示する。
【0015】
本発明による光学特性表示システムは、上記に記載の表示装置と、前記特定サンプルの前記散乱係数及び前記吸収係数を計測する光学特性値計測装置とを備える。
【0016】
ある実施形態において、前記光学特性値計測装置は、前記特定サンプルの反射率及び透過率を測定する測定部と、前記特定サンプルの前記反射率及び前記透過率に基づいて前記散乱係数及び前記吸収係数を取得する取得部とを有する。
【0017】
ある実施形態において、前記測定部は、前記特定サンプルに照射された光の一部であって、前記サンプルにおいて反射された反射光に基づいて前記特定サンプルの反射率を測定する反射率測定部と、前記光のうちの前記一部とは異なる一部であって、前記特定サンプルを透過した透過光に基づいて前記特定サンプルの透過率を測定する透過率測定部とを有する。
【0018】
本発明による表示方法は、記憶部から、特定サンプルに照射された光の特定波長の散乱係数及び吸収係数を読みだす工程と、前記特定波長の散乱係数及び吸収係数に対して所定の処理を行った結果を表示する工程とを包含する。
【0019】
本発明によるプログラムは、記憶部から、特定サンプルに照射された光の特定波長の散乱係数及び吸収係数を読みだす工程と、表示部が、処理部が前記特定波長の散乱係数及び吸収係数に対して所定の処理を行った結果を表示する工程とを実行させる。
【発明の効果】
【0020】
本発明による表示装置は、特定波長の散乱係数及び吸収係数に対して所定の処理を行った結果を表示することにより、サンプルの光学特性値を簡便に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による表示装置の実施形態の模式図である。
【図2】図1に示した表示装置における表示部に表示される表示画面の模式図である。
【図3】図1に示した表示装置における表示部に表示される表示画面の模式図である。
【図4】(a)〜(d)は、それぞれ、がん細胞が付与した後で光線力学的治療を行う前後のマウスのがん細胞近傍を示した図である。
【図5】本実施形態の表示装置における表示部に表示される表示画面の模式図である。
【図6】本実施形態の表示装置における表示部に表示される表示画面の模式図である。
【図7】本実施形態の表示装置における表示部に表示される表示画面の模式図である。
【図8】本発明による光学特性表示システムの実施形態の模式図である。
【図9】本実施形態の光学特性表示システムにおける光学特性値計測装置の模式図である。
【図10】モンテカルロ法を説明するための模式図である。
【図11】(a)および(b)はそれぞれ本実施形態の光学特性表示システムの光学特性値計測装置における測定部の模式図である。
【図12】(a)および(b)はそれぞれ本実施形態の光学特性表示システムの光学特性値計測装置における取得部の模式図である。
【図13】図12(b)に示した取得部における散乱係数および吸収係数の取得方法を説明するためのフローチャートである。
【図14】本実施形態の光学特性表示システムにおける光学特性値計測装置の模式図である。
【図15】本実施形態の光学特性表示システムの光学特性値計測装置における積分球およびサンプル近傍の模式図である。
【図16】本実施形態の光学特性表示システムにおける光学特性値計測装置の模式図である。
【図17】本実施形態の光学特性表示システムにおける光学特性値計測装置の模式図である。
【図18】本実施形態の光学特性表示システムにおける光学特性値計測装置の模式式図である。
【図19】本実施形態の光学特性表示システムにおける光学特性値計測装置の模式図である。
【図20】本実施形態の光学特性表示システムにおける光学特性値計測装置の模式図である。
【図21】(a)、(b)、(c)はそれぞれ本実施形態の光学特性表示システムの光学特性値計測装置における入射光生成部近傍の光学系の模式図である。
【図22】本実施形態の光学特性表示システムにおける光学特性値計測装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明による表示装置の実施形態を説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
以下、図1を参照して本発明による表示装置の実施形態を説明する。本実施形態の表示装置100は、処理部10と、記憶部20と、表示部30とを備えている。記憶部20は、特定サンプルに照射された光の特定波長の吸収係数及び散乱係数を記憶している。処理部10は、記憶部20に記憶された特定波長の吸収係数及び散乱係数に対して所定の処理を行い、表示部30はその結果を表示する。このような表示装置100により、サンプルの光学特性値を簡便に利用することができる。
【0024】
例えば、表示装置100は、パーソナルコンピュータで具現化されてもよい。処理部10は中央処理演算装置(Central Processing Unit:CPU)であり、記憶部20はハードディスクまたは光ディスクであり、表示部30はモニタである。処理部10は、例えば、記憶部20に記録されたプログラムに基づいて表示部30に所定の結果を表示させる。
【0025】
サンプルは生体物質であってもよく、サンプルは被験者から抽出したものであってもよい。ここでは、例示として、がん細胞を付与した後で、光線力学的治療(Photodynamic therapy:PDT)を行う前後のマウスから抽出されたものをサンプルとして用いる。
【0026】
例えば、記憶部20には、サンプルの波長405nmの吸収係数及び散乱係数が記憶されている。例えば、処理部10は、吸収係数と、散乱係数から得られた換算散乱係数とのマッピング処理を行い、表示部30は、処理結果を表示する。
【0027】
図2に、表示部30における表示画面の模式図を示す。ここでは、表示部30は、波長405nmの吸収係数と吸収係数から得られた換算散乱係数との関係を示すグラフを表示している。図2において、x軸は吸収係数μを示し、y軸は換算散乱係数μ’を示す。表示部30により、吸収係数μ及び換算散乱係数μ’の大きさを視覚的に確認することができる。
【0028】
ヘモグロビンは波長405nmの光を比較的大きく吸収することが知られており、吸収係数μはヘモグロビンの濃度を大きく反映している。なお、上述したように、換算散乱係数μ’は異方性因子gおよび散乱係数μを用いて、換算散乱係数μ’はμ×(1−g)と表される。ここでは、異方性パラメータgの値は可視域ではほぼ0.9であることが知られているため、異方性パラメータgを0.9としている。
【0029】
なお、図2では表示部30は1つのサンプルに対する結果を示したが、本発明はこれに限定されない。表示部30は複数のサンプルに対する結果を比較して表示してもよい。
【0030】
この場合、記憶部20は、複数のサンプルのそれぞれに照射された光の特定波長の吸収係数及び散乱係数を記憶しており、処理部10は、複数のサンプルのそれぞれについて特定波長の吸収係数及び散乱係数に対して所定の処理を行い、表示部30はこれらの結果を比較して表示する。なお、本明細書において異なるサンプルとは、対象(例えば、被験者)の異なるサンプルだけでなく、対象が同じ場合でも、条件が異なる(例えば、周囲状況や日時)サンプルも意味する。
【0031】
例えば、記憶部20は、複数のサンプルのそれぞれに照射された光の波長405nmの吸収係数及び散乱係数を記憶している。ここでは、サンプルとして、がん細胞を付与したマウス、および、その後に光線力学的治療を行い異なる期間経過したマウスから抽出したものを用いている。処理部10は、複数のサンプルのそれぞれについて波長405nmの吸収係数及び散乱係数に対して所定の処理を行い、表示部30はこれらの結果を比較して表示する。
【0032】
図3に、表示部30における表示画面の模式図を示す。表示部30では、複数のサンプルの結果と比較して表示が行われる。光線力学的治療を行うと、換算散乱係数が減少し、2日経過後に換算散乱係数及び吸収係数の両方が減少する。一方、光線力学的治療を行ってから7日経過すると、換算散乱係数及び吸収係数はいずれも増大する。参考のために、図4(a)から図4(d)に、それぞれ、光線力学的治療を行う前、光線力学的治療を行ってから1日後、2日後、及び7日後のマウスのがん細胞近傍を示す。
【0033】
なお、上述した説明では、所定の処理は、吸収係数と散乱係数から得られた換算散乱係数とのマッピングであって、表示部は、吸収係数と換算散乱係数との関係を示すグラフを表示したが、本発明はこれに限定されない。
【0034】
一般に、吸収係数と散乱係数から得られた換算散乱係数を用いて、光侵達深さδは、δ=√(1/(3×μ×(μ+μ’)))と表される。また、光線力学的治療において、例えば、波長664nmの光が用いられる。ここで、同一対象(例えば、同じ被験者)における、治療開始からの経過期間の異なるサンプルの波長664に対する光侵達深さの変化を説明する。
【0035】
例えば、記憶部20は、異なるサンプルのそれぞれに照射された光の波長664nmの吸収係数及び散乱係数を記憶している。この場合、処理部10は、複数のサンプルのそれぞれについて波長664nmの吸収係数及び散乱係数に対して所定の処理を行う。具体的には、処理部10は、光侵達深さδを得るための演算を行う。表示部30は、その結果を表示する。
【0036】
図5に、治療開始からの経過日数に対する光侵達深さの変化を示す。治療開始から経過するほど光侵達深さが低下することが理解される。
【0037】
なお、上述した説明では、記憶部20は、405nmまたは664nmといった特定波長の散乱係数及び吸収係数を記憶し、処理部10は特定波長の散乱係数及び吸収係数に対して所定の処理を行ったが、本発明はこれに限定されない。記憶部20は、特定サンプルに照射された所定の範囲内の複数の波長の散乱係数及び吸収係数を記憶し、処理部10は複数の波長のそれぞれの散乱係数及び吸収係数に対して所定の処理を行い、表示部30はその結果を表示してもよい。例えば、記憶部20は、特定サンプルに照射された光の波長600nmから850nmにわたって散乱係数及び吸収係数を記憶し、処理部10が波長600nmから850nmの範囲の散乱係数及び吸収係数に対して所定の処理を行い、表示部30はその結果を表示してもよい。
【0038】
図6に、波長に対する光侵達深さの変化を示す。図6から理解されるように、波長が高いほど光侵達深さは大きくなる。
【0039】
あるいは、記憶部20は、複数のサンプルのそれぞれに照射された光の複数の波長のそれぞれの散乱係数及び吸収係数を記憶し、処理部10は、複数のサンプルのそれぞれについて複数の波長のそれぞれの散乱係数及び吸収係数に対して所定の処理を行い、表示部30はこれらの結果を比較して表示してもよい。例えば、記憶部20は、複数のサンプルのそれぞれに照射された光の波長600nmから850nmにわたって散乱係数及び吸収係数を記憶し、処理部10が複数のサンプルのそれぞれについて波長600nmから850nmに範囲の散乱係数及び吸収係数に対して所定の処理を行い、表示部30はこれらの結果を比較して表示してもよい。
【0040】
図7に、経過時間の異なるサンプルについての波長に対する光侵達深さの変化を示す。図7から理解されるように、治療から経過期間が長いほど、光侵達深さは低下する。このように、同一対象のサンプルでも、その特性が変化するため、この結果を治療計画に反映させることができる。
【0041】
なお、サンプルの散乱係数及び吸収係数は光学特性値計測装置を用いて計測される。
【0042】
以下、図8を参照して光学特性表示システムを説明する。光学特性表示システム200は、表示装置100と、サンプルの散乱係数及び吸収係数を計測する光学特性値計測装置300とを備えている。光学特性値計測装置300は特定サンプルの反射率及び透過率を別々に測定し、反射率及び透過率に基づいて散乱係数及び吸収係数を取得してもよい。なお、この散乱係数及び吸収係数が記憶部20に記録される。
【0043】
あるいは、光学特性値計測装置300は、反射率及び透過率を一度に測定し、この反射率及び透過率に基づいて散乱係数及び吸収係数を取得してもよい。
【0044】
以下、図9を参照して、反射率及び透過率を一度に測定可能な光学特性値計測装置300を説明する。光学特性値計測装置300は、サンプルSの反射率及び透過率を測定する測定部310と、反射率及び透過率に基づいてサンプルSの散乱係数及び吸収係数を取得する取得部320とを備える。取得部320において取得された散乱係数及び吸収係数は記憶部20に記憶される。
【0045】
測定部310は、サンプルSに照射された光の一部であって、サンプルSにおいて反射された反射光に基づいてサンプルSの反射率を測定する反射率測定部312と、光のうちの上記反射光となる光とは異なる一部であって、サンプルSを透過した透過光に基づいてサンプルSの透過率を測定する透過率測定部314とを有する。ここでは、サンプルSに照射される光は異なる波長を有しているが、後述するように、サンプルSに照射される光は単波長であってもよい。
【0046】
測定部310は以下のようにサンプルSの反射率及び透過率を測定する。反射率測定部312は、サンプルSのない状態の光の強度とサンプルSのある状態の反射光の強度との比から反射率を測定する。同様に、透過率測定部314は、サンプルSのない状態の光の強度とサンプルSのある状態の透過光の強度との比から透過率を測定する。測定部310は、反射率測定部312とともに透過率測定部314を有しており、サンプルSに入射した光の反射光および透過光に基づき反射率および透過率を一度に測定することできる。なお、本明細書において、特に言及しない限り、反射率は散乱反射率を意味する。
【0047】
上述したように、取得部320は、サンプルSの反射率及び透過率に基づいてサンプルSの散乱係数及び吸収係数を取得する。例えば、取得部320は、例えば、逆モンテカルロ(Inverse Monte Carlo)法を用いてサンプルSの散乱係数及び吸収係数を取得する。
【0048】
モンテカルロ法を用いると、特定の散乱係数及び特定の吸収係数に対応する特定の反射率及び特定の透過率を得ることができる。以下に、図10を参照してモンテカルロ法を説明する。モンテカルロ法では、光を多くの光子(群)に分け、それが散乱体(サンプルS)に衝突して方向を変え、また、吸収を受ける光のエネルギー粒子として扱う。所定の散乱係数及び所定の吸収係数を予め所定の値に設定し、この条件でモンテカルロ法を用いて計算を行うことにより、所定の散乱係数及び所定の吸収係数に対応する所定の反射率及び所定の透過率が得られる。
【0049】
取得部320は、測定部310において測定された反射率及び透過率とほぼ等しい所定の反射率及び所定の透過率が得られるまで所定の散乱係数及び所定の吸収係数の少なくとも一方の値を変化させながら計算を繰り返し、測定された反射率及び透過率とほぼ等しい所定の反射率及び所定の透過率が得られると、所定の反射率及び所定の透過率に対応する所定の散乱係数及び所定の吸収係数をサンプルSの散乱係数及び吸収係数として取得する。このように、サンプルSの散乱係数及び吸収係数は、逆モンテカルロ法で取得することができる。
【0050】
例えば、取得部320は、所定の反射率及び所定の透過率と、測定部310において測定された反射率及び透過率とを比較し、反射率の差および透過率の差がそれぞれ所定の値以下の場合、所定の散乱係数及び所定の吸収係数をサンプルSの散乱係数及び吸収係数と決定してもよい。また、反射率の差および透過率の差の少なくとも一方が所定の値よりも大きい場合、所定の散乱係数及び所定の吸収係数の少なくとも一方を先に設定した所定の値とは異なる値に設定し、新たに設定した所定の散乱係数及び所定の吸収係数に対応する反射率及び透過率と、測定部310において測定された反射率及び透過率との比較を行う。このような手順を繰り返すことにより、サンプルSの散乱係数及び吸収係数を取得することができる。以上のようにして、サンプルSの散乱係数および吸収係数が計測される。
光学特性値計測装置300によれば、サンプルSの反射率及び透過率を一度に測定することができ、サンプルSの散乱係数および吸収係数を簡便に取得することができる。
【0051】
図11(a)に、測定部310の模式図を示す。反射率測定部312は、積分球312aと、光検出部312bとを有している。積分球312aは、サンプルSに対してサンプルSに照射される光の進行方向とは反平行な方向に配置される。光検出部312bは、積分球312aを通過した反射光を検出する。
【0052】
透過率測定部314は、積分球314aと、光検出部314bとを有している。積分球314aは、サンプルSに対してサンプルSに照射される光の進行方向とは平行な方向に配置される。光検出部314bは、積分球314aを通過した透過光を検出する。
【0053】
サンプルSは、積分球312aと積分球314aとの間に配置される。なお、積分球312aおよび積分球314bは等しくてもよく、異なってもよい。本明細書において、積分球312aを第1積分球と呼び、積分球314aを第2積分球と呼ぶことがある。
【0054】
光検出部312b、314bはそれぞれフォトディテクタであってもよい。あるいは、光検出部312b、314bはそれぞれ分光器であってもよい。分光器312b、14bにより、サンプルSに照射される光がさまざまな波長を有していても、反射光および透過光の各波長の強度を測定することができる。
【0055】
また、分光器312bとして、波長ごとに異なる分光器を用いてもよい。例えば、分光器312bとして、可視領域及び近赤外領域の光の分光を行う分光器と、中赤外領域の光の分光器を別々に用いてもよい。あるいは、これらの分光器を分光器312bとして同時に用いてもよい。同様に、分光器314bとして、可視領域及び近赤外領域の光の分光を行う分光器と、中赤外領域の光の分光器を別々に用いてもよい。あるいは、これらの分光器を分光器312bとして同時に用いてもよい。
【0056】
なお、上述した説明では、反射率測定部312および透過率測定部314は積分球312a、314aをそれぞれ有しており、反射光全体及び透過光全体の強度を検出し、その結果に基づいてサンプルSの散乱係数および吸収係数を求めたが、本発明はこれに限定されない。一部の反射光及び一部の透過光から、サンプルSの散乱係数および吸収係数を求めてもよい。ただし、この場合、反射光強度及び透過光強度が減少するとともに光検出部312b、314bの正確な位置を特定することが必要となる。
【0057】
なお、図11(a)に示した測定部310では、反射率測定部312、透過率測定部314がそれぞれ光検出部312b、314bを有していたが、これに限定されない。
【0058】
図11(b)に示すように、測定部310は、反射率測定部312および透過率測定部314のそれぞれに共有される光検出部310bを有していてもよい。光検出部310bは、積分球312aおよび積分球314aを通過した反射光および透過光の両方を検出する。
【0059】
光検出部310bはフォトディテクタであってもよく、あるいは、分光器であってもよい。また、分光器310bとして、波長ごとに異なる分光器を用いてもよい。例えば、分光器310bとして、可視領域及び近赤外領域の光の分光を行う分光器と、中赤外領域の光の分光器を別々に用いてもよい。
【0060】
図12(a)に、取得部320の模式図を示す。取得部320は、記憶部322および係数決定部324を有している。
【0061】
記憶部322は、所定の散乱係数および所定の吸収係数に対応する所定の反射率および所定の透過率を記憶している。係数決定部324は、記憶部322に記憶された所定の散乱係数および所定の吸収係数と所定の反射率および所定の透過率との対応関係に基づいて、サンプルSの反射率及び透過率に対応するサンプルSの散乱係数および吸収係数を決定する。
【0062】
ここで、記憶部322及び記憶部20を比較して説明する。記憶部322には、反射率、透過率、吸収係数及び散乱係数が記憶されており、計測した反射率及び透過率から吸収係数及び散乱係数が波長ごとに求められる。なお、記憶部322には、さらに、サンプルの厚さおよび検出器位置が記憶されていてもよく、吸収係数及び散乱係数は反射率及び透過率に加えてサンプルの厚さに応じて求められてもよい。
【0063】
これに対して、記憶部20には、波長、吸収係数及び散乱係数が記憶されており、波長から吸収係数及び散乱係数が求められ、必要であれば、この収係数及び散乱係数からの他の光学特性値(光進達深さなど)が求められる。なお、記憶部20には、さらに、サンプル情報(種類、測定条件など)が記憶されていてもよく、吸収係数及び散乱係数は、波長だけでなくサンプル情報に応じて求められてもよい。
【0064】
あるいは、図12(b)に示すように、取得部320は、計算部326をさらに有してもよい。計算部326は、モンテカルロ法を用いて所定の散乱係数および所定の吸収係数から所定の反射率および所定の透過率を計算し、所定の反射率および所定の透過率を記憶部322に記憶させる。
【0065】
ここで、図13を参照して、記憶部322、係数決定部324および計算部326を有する取得部320によるサンプルSの吸収係数および散乱係数の計算方法を説明する。
【0066】
S52において、計算部326は、モンテカルロ法を用いて、所定の吸収係数μ及び所定の散乱係数μに対応する所定の反射率R及び所定の透過率Tを計算する。ここでは、μおよびμがそれぞれ最小値であるとする。この場合、μを一定にしてμは間隔a1 ごとにXまで変化し、各μ、μのペアに対して対応する所定の反射率R及び所定の透過率Tが計算される。その後、μを間隔s1だけ変化させてμは最小値から間隔a1ごとにXまで変化し、同様に、所定の吸収係数μ及び所定の散乱係数μの各ペアに対して対応する所定の反射率R及び所定の透過率Tが計算される。このようにして、μも最小値から間隔s1ごとにYまで変化させる。以上から、所定の吸収係数μ及び所定の散乱係数μに対応する所定の反射率R及び所定の透過率Tが得られる。
【0067】
S54において、記憶部322は、計算部326において計算された所定の吸収係数μ及び所定の散乱係数μに対応する所定の反射率及び所定の透過率を記憶する。記憶部322は、計算部326において所定の吸収係数μ及び所定の散乱係数μの各ペアに対して対応する所定の反射率R及び所定の透過率Tの計算結果が得られるごとにこの対応関係を記憶してもよいし、全ての計算結果が得られた後に各対応関係を記憶してもよい。
【0068】
S12において、測定部310はサンプルSの反射率及び透過率を測定する。ここでは、所定の波長λの反射率R及び透過率Tに着目する。
【0069】
S14において反射率R及び透過率Tに近い所定の反射率R及び所定の透過率Tを求める。例えば、計算部326は、((R−R+(T−T0.5が最小となる所定の反射率R及び所定の透過率Tのペアを求める。ここでは、このペアを反射率Rci及び透過率Tciと示す。
【0070】
S16において測定された反射率Rとこの反射率Rciとの差、および、測定された透過率Tとこの透過率Tciとの差が、それぞれ所定の値よりも小さいか確認する。例えば、係数決定部324は、│R−Rci│/R<0.005、および、│T−Tci│/T<0.005の両方を満たすか判定する。この判定は、計算部326を利用して行ってもよい。なお、記憶部322には、所定の反射率Rci及び所定の透過率Tciに対応する所定の吸収係数μ及び所定の散乱係数μが記憶されている。ここでは、これらの所定の吸収係数μ及び所定の散乱係数μを吸収係数μac及び散乱係数μscと示す。
【0071】
S16において少なくともいずれか一方が満たされない場合、S56において、さらに細かい間隔で所定の吸収係数μ及び所定の散乱係数μを変化させて、それに対応する所定の反射率R及び所定の透過率Tを計算する。例えば、計算部326は、μac±aの範囲およびμsc±sの範囲で、間隔an+1、sn+1(an+1<a、sn+1<s)の所定の吸収係数μ及び所定の散乱係数μを用意し、これらの所定の吸収係数μ及び所定の散乱係数μに対応する所定の反射率R及び所定の透過率Tを計算する。S54において、記憶部322は、これらの対応関係を記憶する。
【0072】
再び、S14において反射率R及び透過率Tに近い所定の反射率R及び所定の透過率Tを求める。例えば、計算部326は、(R−R+(T−T0.5が最小となる所定の反射率R及び所定の透過率Tのペアを求める。ここでは、このペアを反射率Rci及び透過率Tciと示す。以下、同様に、S16において反射率の差および透過率の差が所定の値よりも低くなるまでS56、S54、S14、S16を繰り返す。
【0073】
S16において、両方が満たされる場合、S18において、係数決定部324は、これらの吸収係数μac及び散乱係数μscを取得すべき吸収係数μ及び散乱係数μと決定する。以上のようにして、所定の波長λに対する吸収係数μ及び散乱係数μが決定される。その後、S20において所定の波長を波長λi+1に更新され、同様に、所定の波長λi+1に対する吸収係数μ及び散乱係数μの取得が行われる。このようにして、サンプルSの各波長に対する吸収係数及び散乱係数を取得することができる。
【0074】
なお、図14に示すように、サンプルSに照射される光は入射光生成部330において生成されてもよい。なお、入射光生成部330において生成される光は、可視域から中赤外域までの波長を有することが好ましい。例えば、入射光生成部330は、キセノンランプ、ハロゲンランプおよびスーパーコンティニウム光源(SC光源)の少なくとも1つを含む。あるいは、入射光生成部330はレーザであってもよく、入射光生成部330から単波長の光が出射されてもよい。入射光生成部30からの光は、その反射光及び透過光が検出可能な強度でサンプルSに絞られた状態で平行に入射することが好ましい。
【0075】
なお、詳細は後述するが、取得部320は、反射率が5%以上または透過率が10%以上の場合に散乱係数および吸収係数の取得を行い、反射率が5%未満かつ透過率が10%未満の場合に、散乱係数および吸収係数の取得を行わなくてもよい。
【0076】
なお、典型的には、サンプルSは一対のプレートの間に挟まれる。例えば、プレートはガラスから形成される。特に、サンプルSが生体物質を含む場合、サンプルSが一対のプレートによって押しつぶされると、サンプルSの特性が変動してしまう。
【0077】
このため、図15に示すように、光学特性値計測装置300は、サンプルSを挟む一対のプレートsa、sbの間の距離を調整するサンプル厚調整部340をさらに備えることが好ましい。サンプル厚調整部340は、例えば、マイクロメーターから構成され、サンプル厚調整部340はμm単位でサンプルの厚さを調整可能である。なお、一般に、サンプルが厚いほど、反射率が増加し、サンプルSが薄いほど、透過率が増加する。
【0078】
なお、サンプル厚調整部340によるサンプルSへの圧力を測定する圧力センサを設けてもよい。圧力センサを用いることにより、サンプルSへの負荷がかかりすぎることを抑制することができる。
【0079】
また、図16に示すように、光学特性値計測装置300は、サンプルSを設置した後、測定部310がサンプルSの反射率及び透過率を測定し、取得部320が反射率及び透過率に基づいてサンプルSの吸収係数及び散乱係数を取得するように測定部310および取得部320に実行させる処理部350をさらに備えてもよい。処理部350は、プログラムに基づいて測定部310および取得部320(必要に応じて入射光生成部330)が所定の動作を行うように実行させてもよい。
【0080】
図17に、光学特性値計測装置300のより具体的な模式図を示す。サンプルSはプレートによって挟まされる。例えば、プレートは光学結晶板を含む。
【0081】
ここでは、2つの分光器310b1、310b2を用いている。分光器310b1は可視領域および近赤外領域の波長の光の分光を行い、分光器310b2は中赤外領域の波長の光の分光を行う。
【0082】
また、ここでは、入射光生成部330の光源は、測定する波長に応じて交換される。具体的には、入射光生成部330の光源として可視領域(例えば、波長350nm以上750nm以下)の光を出射する光源、近赤外領域(例えば、波長750nm以上2.5μm以下)の光を出射する光源、中赤外領域(例えば、波長2.5μm以上12.5μm以下)の光を出射する光源が交換して用いられる。
【0083】
また、入射光生成部330から出射される光の波長に応じて積分球312a、314aを変更してもよい。例えば、波長350nm以上2.5μm以下の光に対してはスペクトラロンでコーティングされた積分球を積分球312a、314aとして使用し、波長2.5μm以上12.5μm以下の光に対しては金でコーティングされた積分球を積分球312a、314aとして使用する。これにより、積分球312a、314a内の拡散反射を効率的に行うことができる。
【0084】
また、サンプル厚調整部340は、波長350nm以上2.5μm以下の光に対して調整単位100μmで100μm以上5mm以下の範囲で厚さの調整が可能であり、波長350nm以上2.5μm以下の光に対して調整単位0.5μmで13mm以下の範囲で厚さの調整が可能である。
【0085】
以上により、例えば、広帯域の波長にわたってサンプルSの散乱係数および吸収係数を計測することができる。
【0086】
なお、サンプルSとして生体物質を用いることが好ましい。生体物質は、軟組織であってもよく、硬組織であってもよい。一般に生体物質の散乱係数および吸収係数は変化しやすいため、取得しにくいが、光学特性値計測装置300によれば、これらの物質に固有の特性を示す散乱係数および吸収係数も簡便に計測することができる。例えば、光学特性値には吸収係数μ、散乱係数μ、異方性パラメータgおよび屈折率nがあるが、一般的な生体物質では、異方性パラメータgの値は可視域ではほぼ0.9であることが知られているため、異方性パラメータgは0.9とされる。また、屈折率nを水の屈折率と等しく1.33にされる。生体物質の散乱係数および吸収係数を簡便に取得できることにより、データベース化を図るとともに治療や診断への活用が期待される。
【0087】
以下に、図18を参照して光学特性値計測装置300Aを説明する。光学特性値計測装置300Aは、反射率測定部312および透過率測定部314を含む測定部310と、取得部320と、入射光生成部330とを備えている。ここでは、積分球312a、314aは互いに等価なものである。なお、図18は、測定部310bの分光器310bおよび取得部320を省略して図示している。
【0088】
光学特性値計測装置300Aは、さらに、ミラー331a、凸レンズ332a、凹レンズ333a、凹レンズ334a、凸レンズ335aを有しており、ミラー331aと凸レンズ332aとの間に絞りLa、凹レンズ333aと凹レンズ334aとの間に絞りLb、凸レンズ335aと積分球312aとの間に絞りLcが設けられている。
【0089】
サンプルSは2枚のスライドガラスに挟まれる。例えば、2枚のスライドガラス(S−1112、松浪硝子工業)にサンプルを挟むことにより、サンプルSの表面の凹凸による拡散を抑制できる。例えば、サンプルSとして疑似生体材料が用いられる。なお、サンプルへの加圧によってサンプルの吸収係数μおよび散乱係数μが増加することがあるため、スライドガラスでサンプルを圧縮しないように挟む。また、スライドガラス間の距離は、既知の厚さのスペーサーを用いて調整される。
【0090】
積分球312a、314aは外部光によるノイズを低減するために、暗室内に設置される。積分球312a、314aは、それぞれ外径100.0mm、内径83.82mm、入射ポート径10.0mm、サンプルポート径10.0mmである。なお、積分球312aおよび314a内で光が完全に反射するように、積分球312a、314aの内部表面に、反射率が99%を超えるBaSOが塗布されていることが好ましい。例えば、積分球312a、314aとして、Lab sphere社製のCSTM−3P−GPS−033−SLが用いられる。
【0091】
入射光生成部330において生成される光の波長は広帯域であることが好ましい。例えば、入射光生成部330から波長220nm以上2000nm以下の範囲の光が出射されることが好ましい。この場合、広い波長域にわたって各波長の反射率及び透過率を測定し、各波長の反射率及び透過率に基づいて散乱係数および吸収係数を取得することができる。
【0092】
ここでは、入射光生成部330としてキセノンランプ、電源およびランプハウスが用いられる。例えば、浜松ホトニクス社製のキセノンランプ(L2274(GS))、電源(C8849)および、ランプハウス(E7536)が用いられる。
【0093】
例えば、絞りLaとして虹彩絞り(IDC−025、シグマ光機株式会社)が用いられ、凸レンズ332aとして、平凸レンズ(SLB−50.8−70P、シグマ光機株式会社)が用いられ、凹レンズ333aとして、両凹レンズ(SLSQ−50.8−60N、シグマ光機株式会社)が用いられる。また、凹レンズ334aとして両凹レンズ(KBC043、Newport)が用いられ、凸レンズ335aとして両凸レンズ(φ=30mm、f=30mm)が用いられ、絞りLcとして虹彩絞り(IDC−003、シグマ光機株式会社)が用いられる。
【0094】
ミラー331aが入射光生成部330から出射された光の進行方向を変化させ、絞りLaにより、所定のビーム径が得られる。また、凸レンズ332aおよび凹レンズ333aにより、ビームは擬似的に平行化される。このビームが絞りLbを通過した後、凹レンズ334a、凸レンズ335aおよび絞りLcによって絞られたビーム径1mmのビームが積分球312a内に入射する。
【0095】
積分球312a、314aのサンプルポート径は、拡散反射率Rおよび透過率Tの測定誤差を少なくするように設定される。測定サンプルは、積分球312a、314aのサンプルポートを覆い、また、サンプルに入射したビームの端からサンプルポートの端までの距離は、1/(μ+μ’)で規定される横方向への光の伝搬距離よりも長い。これは、サンプル側面で光が損失し、光学特性値を取得する際、吸収係数μを過大評価することを防ぐためである。
【0096】
サンプルSの拡散反射光および透過光は積分球312a、314aの内部表面で拡散反射され、最終的に検出ポートからコア径600μmのマルチモードファイバー(QP600−1−VIS−NIR、 Ocean Optics)を通して分光器310bに伝送される。分光器310bとして、例えば、高分解能分光器(Maya2000−Pro; 200−1100nm、Ocean Optics)を用いて、波長350nm〜1000nmの拡散反射率R及び透過率Tを測定する。この分光器310bの受光感度は、およそ0.32 Counts/e、波長分解能は、0.41nm〜0.48nmである。ここでは、逆モンテカルロ法が用いて、拡散反射率Rおよび透過率Tに基づいてサンプルSの吸収係数および散乱係数を取得する。
【0097】
光学特性値計測装置300Aは、波長350nm〜1000nmの可視〜近赤外領域において組織の光学特性を定量的に評価できる。光学特性値計測装置300Aは、例えば、光治療への応用として用いられる。悪性新生物等の治療に用いられている光線力学療法やレーザー凝固治療前後の生体組織の光学特性値を取得することにより、さらに高度な光治療が期待される。今後、医療において、定量的な光診断・治療技術の需要は、ますます増加していくと考えられる。
【0098】
図19に、光学特性値計測装置300Bの模式図を示す。光学特性値計測装置300Bは、反射率測定部312および透過率測定部314を含む測定部310と、取得部320と、入射光生成部330とを備えている。ここでは、積分球312a、314aは互いに等価なものである。なお、図19は、測定部310bの分光器310bおよび取得部320を省略して図示している。
【0099】
光学特性値計測装置300Bは、さらに、凹面ミラー331bと、平面ミラー332bと、凸レンズ333bとを有しており、凹面ミラー331bと平面ミラー332bとの間に絞りla、凸レンズ333bと積分球312aとの間に絞りLbが設けられている。積分球312a、314aのサイズは3.3インチであり、絞りla、Lbはそれぞれ直径4mm、1mmであり、凸レンズ333bのfは12.0mmである。
【0100】
ここで、赤外の波長の光の生成に着目する。例えば、入射光生成部として白色光源を用いて中赤外域の測定を行うことが考えられる。
【0101】
以下、図20を参照して光学特性値計測装置300Cを説明する。図20には、光学特性値計測装置300Cにおいて用いられる光を生成する入射光生成部330Aの模式図を示す。入射光生成部330Aは、光源330と、放物面ミラー331cと、放物面ミラー332cと、ビームスプリッタ333cと、固定ミラー334cと、移動ミラー335cと、反射ミラー336cとを有している。入射光生成部330Aにおいて生成された光は、平面ミラー337cおよび放物面ミラー338cによって反射されて積分球312aに入射される。なお、この入射光生成部330Aは、フーリエ変換赤外分光(Foruier Transform infrared spectroscopy:FTIR)装置の光源としても用いられる。
【0102】
なお、図20に示した光学特性値計測装置300Cでは、平面ミラー337cは、入射光生成部330Aから出射された光を放物面ミラー338cに向けてほぼ直角に反射したが、これに限定されない。平面ミラー337cは、入射光生成部330Aから出射された光を放物面ミラー338cに向けて直角とは異なる角度で反射してよい。
【0103】
なお、上述した説明では、入射光生成部330Aと積分球312aとの間に、平面ミラー337cおよび放物面ミラー338cが設けられていたが、これに限定されない。放物面ミラー338cの前に、平面ミラー337cに代えて放物面ミラー337cが設けられてもよい。
【0104】
図21(a)は光学特性値計測装置300Cにおける入射光生成部330Aと積分球312aとの間の光学系の模式図である。ここでは、入射光生成部330Aと積分球312aとの間に、放物面ミラー337c、338cが設けられている。放物面ミラー337cの焦点距離は170mmであり、放物面ミラー338cの焦点距離は40mmであり、放物面ミラー337c、338cの焦点は互いにほぼ一致している。放物面ミラー338cにおいて反射された光が積分球312aに入射される。
【0105】
なお、放物面ミラー338cと積分球312aとの間にさらに放物面ミラーが配置されてもよい。
【0106】
図21(b)は光学特性値計測装置300Cにおける入射光生成部330Aと積分球312aとの間の光学系の模式図である。ここでは、放物面ミラー338cと積分球312aとの間に、放物面ミラー337c、338cに加えて放物面ミラー338c1が設けられており、放物面ミラー338c1において反射された光が積分球312aに入射される。
【0107】
あるいは、図20に示した模式図では、放物面ミラー338cにおいて反射された光が積分球312aに入射されたが、これに限定されない。
【0108】
図21(c)は光学特性値計測装置300Cにおける入射光生成部330Aと積分球312aとの間の光学系の模式図である。ここでは、放物面ミラー338cと積分球312aとの間に、平面ミラー337c、放物面ミラー338cに加えて、平凹レンズ39cが設けられており、放物面ミラー338cにおいて反射された光は平凹レンズ339cを介して積分球312aに入射される。
【0109】
あるいは、赤外域の光を生成するために、入射光生成部330Bは別の構成を有してもよい。
【0110】
図22に、光学特性値計測装置300Dの模式図を示す。光学特性値計測装置300Dにおいて、入射光生成部330Bは、波長可変Cr:フォルステライトレーザ330aと、Nd:YAGレーザ330bと、差周波発生素子330cとを有している。なお、波長可変Cr:フォルステライトレーザ330aのポンピングのために、波長可変Cr:フォルステライトレーザ330a1が用いられる。
【0111】
波長可変Cr:フォルステライトレーザ330aからは波長1.15〜1.36μmの光が出射される。Nd:YAGレーザ330bからは波長1064nmの光が出射される。波長可変Cr:フォルステライトレーザ330aおよびNd:YAGレーザ330bのそれぞれから出射された光は、差周波発生素子33 0cに入射される。差周波発生素子330cは、例えば、AgGaS(Type II)である。差周波発生素子330cからは、レーザ330aとレーザ330bと間の差周波の光が発生される。この場合、差周波発生素子330cから出射される光の波長は5.5μm以上10μm以下であり、強度は1mJである。なお、集光径は1mmであり、白色光の径は5mmである。この入射光生成部330Bのパワー密度は、白色光と比べて数千倍である。このような入射光生成部330Bは、赤外波長可変レーザとも呼ばれる。入射光生成部330Bから出射された光はビームスプリッタ331dおよび絞りLaを介して積分球312aに入射される。例えば、絞りLaの直径は1mmである。このような赤外波長可変レーザ330Bを用いることにより、赤外領域においてもビーム径を絞ることができるとともに十分な光強度が得られる。
【0112】
ただし、波長可変レーザでは出力が変動することがある。このため、リアルタイムで出力の変動を計測し、その結果を反映させてもよい。例えば、ビームスプリッタ331dによって反射された光を用いて入射光生成部330Bの出力を測定してもよい。光学特性値計測装置300Dでは正反射光をほとんど測定することなく拡散反射光のうちのほぼすべてを測定することができる。以上のように、光学特性値計測装置300Dを用いることにより、中赤外帯域の光の散乱係数及び吸収係数を取得することができる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、サンプルの光学特性値を簡便に利用することができる。
【符号の説明】
【0114】
10 処理部
20 記憶部
30 表示部
100 表示装置
200 光学特性表示システム
300 光学特性値計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の処理を行う処理部を備えた表示装置であって、
特定サンプルに照射された光の特定波長の散乱係数及び吸収係数を記憶する記憶部と、
前記処理部が前記記憶部に記憶された前記特定波長の前記散乱係数及び前記吸収係数に対して前記所定の処理を行った結果を表示する表示部と
を備える、表示装置。
【請求項2】
前記記憶部は、前記特定サンプルを含む複数のサンプルのそれぞれに照射された光の前記特定波長の散乱係数及び吸収係数を記憶しており、
前記表示部は、前記処理部が前記複数のサンプルのそれぞれに照射された光の前記特定波長の前記散乱係数及び前記吸収係数に対して前記所定の処理を行った結果を比較して表示する、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記表示部は、前記特定波長の前記吸収係数と前記散乱係数から得られた換算散乱係数との関係を示すグラフを表示する、請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記特定波長は405nmを含む、請求項1から3のいずれかに記載の表示装置。
【請求項5】
前記特定波長は664nmを含む、請求項2に記載の表示装置。
【請求項6】
前記記憶部は、前記特定サンプルに照射された光の前記特定波長を含む複数の波長のそれぞれの散乱係数及び吸収係数を記憶し、
前記表示部は、前記処理部が前記複数の波長のそれぞれの前記散乱係数及び前記吸収係数に対して前記所定の処理を行った結果を表示する、請求項1から5のいずれかに記載の表示装置。
【請求項7】
前記記憶部は、前記特定サンプルを含む複数のサンプルのそれぞれに照射された光の前記特定波長を含む複数の波長のそれぞれの散乱係数及び吸収係数を記憶し、
前記表示部は、前記処理部が前記複数のサンプルのそれぞれについて前記複数の波長のそれぞれの前記散乱係数及び前記吸収係数に対して前記所定の処理を行った結果を比較して表示する、請求項1から6のいずれかに記載の表示装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の表示装置と、
前記特定サンプルの前記散乱係数及び前記吸収係数を計測する光学特性値計測装置と
を備える、光学特性表示システム。
【請求項9】
前記光学特性値計測装置は、
前記特定サンプルの反射率及び透過率を測定する測定部と、
前記特定サンプルの前記反射率及び前記透過率に基づいて前記散乱係数及び前記吸収係数を取得する取得部と
を有する、請求項8に記載の光学特性表示システム。
【請求項10】
前記測定部は、
前記特定サンプルに照射された光の一部であって、前記サンプルにおいて反射された反射光に基づいて前記特定サンプルの反射率を測定する反射率測定部と、
前記光のうちの前記一部とは異なる一部であって、前記特定サンプルを透過した透過光に基づいて前記特定サンプルの透過率を測定する透過率測定部と
を有する、請求項9に記載の光学特性表示システム。
【請求項11】
記憶部から、特定サンプルに照射された光の特定波長の散乱係数及び吸収係数を読みだす工程と、
前記特定波長の散乱係数及び吸収係数に対して所定の処理を行った結果を表示する工程と
を包含する、表示方法。
【請求項12】
記憶部から、特定サンプルに照射された光の特定波長の散乱係数及び吸収係数を読みだす工程と、
表示部が、処理部が前記特定波長の散乱係数及び吸収係数に対して所定の処理を行った結果を表示する工程と
を実行させる、プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−63332(P2012−63332A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210308(P2010−210308)
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】