説明

表示装置用基板

【課題】インクジェット法等の塗布法による機能膜の形成に際し、液状の機能膜材料がバンクを乗り越えて混合することを防止しつつ、未充填領域の発生を抑制することができると共に、生産性に優れた表示装置用基板を提供する。
【解決手段】基板上にバンクが形成された表示装置用基板であって、(1)上記バンクは、組成が共通でインク溶媒に対する接触角が異なる樹脂層が積層された構造を有し、かつ上層側のインク溶媒に対する接触角が相対的に高い表示装置用基板、(2)上記バンクは、組成が共通でドライエッチング速度が異なる樹脂層が積層された構造を有し、かつ上層側のドライエッチング速度が相対的に遅い表示装置用基板、及び、(3)上記バンクは、組成が共通で重量平均重合度が異なる樹脂層が積層された構造を有し、かつ上層側の重量平均重合度が相対的に大きい表示装置用基板のいずれか、又は、(1)〜(3)の形態を組み合わせたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置用基板、その製造方法、液晶表示装置及び有機エレクトロルミネセンス表示装置に関する。より詳しくは、インクジェット装置等の塗布装置を用いてカラーフィルタ等の機能膜の形成が行われる表示装置用基板、その製造方法、及び、これらを用いてなる液晶表示装置、有機エレクトロルミネセンス表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶テレビの市場は急激に拡大しており、大型の液晶テレビの需要も増大してきている。更なる大型液晶テレビの普及のためには、製造コストの低減が求められ、特に主要部材であるカラーフィルタ(CF)基板の製造コストを低減することが求められている。また、大型液晶テレビ用のCF基板には、高色純度が求められ、例えば、NTSC比が72%以上であることが求められる。これを実現するためには、光抜けの少ないCF基板を作製することが重要である。
【0003】
CF基板の製造コスト低減に有効な技術としては、インクジェット方式を用いて着色層を形成する技術が注目されており、これによれば、従来のフォトリソグラフィを用いた着色層形成プロセスを大幅に簡略化することが可能である。このインクジェット方式を用いて高精細な着色層の形成を行う場合には、基板上に着弾させたインク液滴を乾燥固化させるまで所望の位置に保持しておく必要があることから、例えば、CF基板の絵素領域の周囲に仕切り部材(バンク)を設け、バンク内にインク(液状の機能膜材料)を滴下する方法等が用いられる。
【0004】
このようなインクジェット方式によるCF基板の着色層形成技術に関し、インクがバンクを乗り越えて混合してしまうことを防止するために、バンクにフッ素系ガスを用いたプラズマ処理を施し、バンクの撥インク性を高める技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このようなプラズマを利用した表面改質方法は簡便で効果が大きいという利点を有するものの、バンク表面の改質に利用した場合、プラズマ照射によりバンク全体を撥インク性にしてしまい、バンクの上面のみならずテーパ部(側面)まで高撥インク性になってしまうため、バンクパターンのエッジ部でインクのハジキ・充填抜けが発生してしまう。その結果、CF基板において絵素周辺の光抜けが発生し、高色純度を得ることが困難となるという点で改善の余地があった。すなわち、仕切り部材であるバンクの上面においては、インクがバンクを乗り越えて流出するのを防ぐために撥インク性が求められ、一方バンクのテーパ部(側面)においては、インクが絵素領域内に均一に濡れ拡がり、未充填領域が発生しないようにインクに対して高い親インク性(濡れ性)が求められることとなる。
【0005】
これに関し、遮光層である金属薄膜上に撥水性樹脂によるバンクを形成する方法や、断面が逆テーパ形状の隔壁(バンク)を形成した後、隔壁表面にフッ素化処理を施す方法等が開示されている(例えば、特許文献2、3参照。)。しかしながら、前者の方法では、工程数及び製造コストが共に増加し、生産性が低いという点で改善の余地があった。また、後者の方法では、逆テーパ形状の制御が困難であり、バンク剥がれの発生や、着色層とバンクとの間に気泡が入るおそれがあるという点で改善の余地があった。
【0006】
また、凸部(バンク)の上面が撥インク性となり、凸部により区切られた凹部(基板面)が親インク性となるように表面処理をする技術も提案されている(例えば、特許文献4、5参照。)。特許文献4、5では、その具体的手法として、凸部をフッ素系化合物等の撥インク処理剤で表面処理することが開示されており、特許文献4には、撥インク性を示す層を凸部の上部に塗布し、親水性基を有する界面活性剤等で凹部を表面処理することが記載されており、特許文献5には、更に紫外線等のエネルギー線の照射により凹部を親インク性にすることが記載されている。しかしながら、これらの技術は、凸部(バンク)の側面の濡れ性まで最適化したものではないことから、絵素周辺の光抜けを防止して、より高色純度のCF基板を作製するうえで、未だ工夫の余地があった。
このように従来においては、バンク側面の濡れ性を簡便な方法により効果的に制御することが可能な技術が求められていた。
【特許文献1】特許第3328297号明細書
【特許文献2】特開2000−221319号公報
【特許文献3】特開2002−62422号公報
【特許文献4】特開平9−203803号公報
【特許文献5】特開平9−230129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、インクジェット法等の塗布法による機能膜の形成に際し、液状の機能膜材料がバンクを乗り越えて混合することを防止しつつ、未充填領域の発生を抑制することができると共に、生産性に優れた表示装置用基板、その製造方法、及び、これらを用いてなる液晶表示装置、有機エレクトロルミネセンス表示装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、インクジェット法等の塗布法による機能膜の形成に際し、未充填領域の発生を抑制することができる手段について種々検討したところ、基板上に形成されるバンクの構成に着目した。そして、上層側を下層側よりも高撥水性にしたバンク構成とすることにより、液状にされた機能膜材料を基板上に塗布して機能膜を形成する際に、液状の機能膜材料がバンクを乗り越えて混合することを防止しつつ、バンク内での未充填領域の発生を抑制することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、基板上にバンクが形成された表示装置用基板であって、(1)上記バンクは、組成が共通でインク溶媒に対する接触角が異なる樹脂層が積層された構造を有するものであり、かつ上層側のインク溶媒に対する接触角が相対的に高い表示装置用基板、(2)上記バンクは、組成が共通でドライエッチング速度が異なる樹脂層が積層された構造を有するものであり、かつ上層側のドライエッチング速度が相対的に遅い表示装置用基板、及び、(3)上記バンクは、組成が共通で重量平均重合度が異なる樹脂層が積層された構造を有するものであり、かつ上層側の重量平均重合度が相対的に大きい表示装置用基板のいずれか、又は、(1)〜(3)の形態を組み合わせたものである。なお、本発明の表示装置用基板では、バンクの少なくとも一部が上記(1)〜(3)の形態の特徴を有していればよく、その全体が上記(1)〜(3)の形態の特徴を有していなくてもよい。上記(1)〜(3)の形態は、いずれも上層側を下層側よりも高撥水性にしたバンク構成において実現されるものであり、この場合、バンク上層側の撥水性が高いことにより、液状の機能膜材料がバンクを乗り越えて混合することを防止することができ、また、バンク下層側(テーパ部)の親水性が高いことにより、バンク内の隅部等に未充填領域が発生することを抑制することができる。更に、本発明では、バンクが同一組成の樹脂層の積層体からなり、露光条件等の重合条件の調整等により上層側と下層側とを作り分けることができるので、生産性においても優れている。
なお、上記(1)の形態の表示装置用基板は、上記(2)及び/又は(3)の形態の表示装置用基板に対してCF等のフッ素系ガスを用いたプラズマ処理を行うことにより得ることができるものである。
【0010】
本発明において、バンク(土手)は、複数の機能膜形成領域同士を隔てる構造物(凸物)であれば特に限定されるものではない。また、上記(1)の形態におけるインク溶媒としては、アルコール系の溶媒、例えばカルビトール系の溶媒が好適に用いられる。更に、上記(2)の形態におけるドライエッチング速度とは、Oガスを用いたアッシングを行ったときの速度である。
上記(1)の形態において、上層側のインク溶媒に対する接触角は、50°以上であることが好ましく、下層側のインク溶媒に対する接触角は、40°以下であることが好ましい。上層側と下層側とのインク溶媒に対する接触角の差は、10°以上であることが好ましい。また、上記(2)の形態において、上層側に対する下層側のドライエッチング速度の比(下本発明において、バンク(土手)は、複数の機能膜形成領域同士を隔てる構造物(凸部)であれば特に限定されるものではない。また、上記(1)の形態におけるインク溶媒としては、アルコール系の溶媒、例えばカルビトール系の溶媒が好適に用いられる。更に、上記(2)の形態におけるドライエッチング速度層側/上層側)は、1.5以上であることが好ましい。更に、上記(3)の形態において、下層側に対する上層側の重量平均重合度の比(上層側/下層側)は、1.3以上であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、基板上にバンクが形成された表示装置用基板であって、(4)上記バンクは、組成が共通でインク溶媒に対する接触角が異なる樹脂領域を有するものであり、かつバンク隅部のインク溶媒に対する接触角が相対的に低い表示装置用基板、(5)上記バンクは、組成が共通でドライエッチング速度が異なる樹脂領域を有するものであり、かつバンク隅部のドライエッチング速度が相対的に高い表示装置用基板、及び、(6)上記バンクは、組成が共通で重量平均重合度が異なる樹脂領域を有するものであり、かつバンク隅部の重量平均重合度が相対的に小さい表示装置用基板のいずれか、又は、(4)〜(6)の形態を組み合わせたものでもある。また、上記(1)〜(3)の形態と組み合わせたものであってもよい。なお、上記(4)〜(6)の形態におけるバンク隅部とは、例えば、図7に示すように、バンク31が四角形の辺を構成する場合には、四角形の頂点近傍(図7中、点線で囲まれる部分)が該当する。また、本発明の表示装置用基板では、バンク隅部の少なくとも1つが上記(4)〜(6)の形態の特徴を有していればよく、その全てが上記(4)〜(6)の形態の特徴を有していなくてもよい。上記(4)〜(6)の形態は、いずれもバンク隅部をバンクの他の部分よりも高親水性にしたバンク構成において実現されるものであり、この場合、バンク隅部の親水性が高いことにより、バンク内の隅部に未充填領域が発生することを抑制することができる。更に、本発明では、バンクが同一組成の樹脂層からなり、露光条件等の重合条件の調整等によりバンク隅部と他の部分とを作り分けることができるので、生産性においても優れている。
なお、上記(4)の形態の表示装置用基板は、上記(5)及び/又は(6)の形態の表示装置用基板に対してCF等のフッ素系ガスを用いたプラズマ処理を行うことにより得ることができるものである。
【0012】
上記(4)の形態において、バンク隅部以外の部分のインク溶媒に対する接触角は、50°以上であることが好ましく、バンク隅部のインク溶媒に対する接触角は、40°以下であることが好ましい。バンク隅部以外の部分とバンク隅部とのインク溶媒に対する接触角の差は、10°以上であることが好ましい。また、上記(5)の形態において、バンク隅部以外の部分に対するバンク隅部のドライエッチング速度の比(バンク隅部/バンク隅部以外の部分)は、1.5以上であることが好ましい。更に、上記(6)の形態において、バンク隅部に対するバンク隅部以外の部分の重量平均重合度の比(バンク隅部以外の部分/バンク隅部)は、1.3以上であることが好ましい。
【0013】
本発明では、上記バンクは、光硬化性及び熱硬化性を有する樹脂により形成されたものであることが好ましい。この場合、バンク樹脂材料側からの光照射、現像、焼成(熱硬化)、フッ素プラズマ処理という一連の処理により、上記(1)〜(3)の形態を実現することができる。さらには、上記バンク樹脂材料側からの光照射に関して、バンク樹脂材料の隅部とバンク樹脂材料の隅部以外の部分との光照射量に差をつけ(光照射量:隅部以外の部分>隅部)、現像、焼成(熱硬化)、フッ素プラズマ処理という一連の処理を行うことで、上記(1)〜(3)の形態と上記(4)〜(6)の形態とを組み合わせた形態を実現することができる。
また、上記バンクは、遮光性を有することが好ましい。この場合、バンクを遮光部材として利用することが可能であり、例えば、液晶表示装置等で用いられるカラーフィルタ基板のブラックマトリクスとしてバンクを利用することができる。
【0014】
本発明の表示装置用基板は、更にインク固化物により構成される機能膜がバンク内に設けられたものであることが好ましい。このような形態によれば、本発明の作用効果を充分に奏することが可能である。なお、インク固化物としては、インクジェット装置により吐出可能な液状材料(インク)を乾燥固化させたものであれば特に限定されるものではない。また、機能膜としては、着色材、導電性材料等の機能性材料を含有するものであれば特に限定されず、例えば、カラーフィルタ基板における着色層、有機エレクトロルミネセンス表示装置における発光層や正孔輸送層等の有機層、薄膜トランジスタ(TFT)アレイ基板等の配線基板における配線や画素電極等が挙げられる。中でも、本発明の表示装置用基板は、カラーフィルタ基板であることが好ましく、この場合には、バンク内の隅部等に着色層の未充填領域が発生することを抑制して絵素の周辺領域での光抜けを防止することが可能である。
【0015】
本発明の表示装置用基板の構成としては、上述した特徴を必須として表示装置用基板が通常有する構成要素を備えたものであればよく、その他の構成において特に限定されるものではない。例えば、カラーフィルタ基板であれば、通常では、基板上の画素毎にそれぞれ赤色、緑色及び青色の3色の着色層と、各着色層同士を隔てるバンクとが設けられ、その上層に保護膜、対向電極、配向膜等が積層配置された基板構成を有する。
【0016】
本発明は更に、基板上にバンクが形成された表示装置用基板の製造方法であって、上記表示装置用基板の製造方法は、少なくとも、バンク樹脂材料の表面(上層側)を半硬化させる工程と、バンク樹脂材料を本硬化させる工程と、バンク表面に撥水性及び/又は親水性を付与する表面処理を施す工程とを含む表示装置用基板の製造方法でもある。このような本発明の表示装置用基板の製造方法は、上記(1)〜(3)の形態の本発明の表示装置用基板を製造するのに好適である。
本発明は更に、基板上にバンクが形成された表示装置用基板の製造方法であって、上記表示装置用基板の製造方法は、少なくとも、光硬化性を有するバンク樹脂材料の隅部以外の部分の硬化度が隅部の硬化度よりも大きくなるように光照射量を変化させて露光する工程(半硬化工程)と、バンク樹脂材料を本硬化させる工程と、バンク表面に撥水性及び/又は親水性を付与する表面処理を施す工程とを含む表示装置用基板の製造方法でもある。このような本発明の表示装置用基板の製造方法は、上記(4)〜(6)の形態の本発明の表示装置用基板を製造するのに好適である。
なお、上記半硬化とは、バンク材料樹脂のバンクパターンに対応する部分のうち一部(上層側や隅部)のみを部分的に硬化させる硬化処理のことをいい、上記本硬化とは、バンク樹脂材料のバンクパターンに対応する部分を全体的に硬化させる硬化処理、又は、バンク樹脂材料のバンクパターンに対応する部分のうちで、半硬化されなかった部分を半硬化された部分よりも小さい硬化度で硬化させる硬化処理のことをいう。
これらの本発明の表示装置用基板の製造方法によれば、バンクを構成する樹脂材料(バンク樹脂材料)の半硬化及び本硬化を行った部分と本硬化のみを行った部分とでは、重量平均重合度及びドライエッチング速度等の特性に差が生じ、表面処理を行うことで、親撥水性(接触角)に差が生じることとなる。その結果、液状の機能膜材料がバンクを乗り越えて混合することを防止しつつ、バンク内の隅部等に未充填領域が発生することを抑制することが可能な表示装置用基板を製造することができる。また、本発明の表示装置用基板の製造方法では、半硬化工程、本硬化工程及び表面処理工程が連続する工程でなくてもよく、一般的には、半硬化工程と本硬化工程との間に実際のバンクパターンを形成するための工程(現像工程)が含まれる。
【0017】
本発明では、上記半硬化工程は、マスク越しの光照射によりバンク樹脂材料を半硬化させるものであり、上記本硬化工程は、基板両面からの光照射又は焼成によりバンク樹脂材料を本硬化させるものであることが好ましい。これにより、高い生産性を実現しつつ、バンク内の隅部等での未充填領域の発生が抑制された表示装置用基板を製造することが可能である。また、半硬化工程で照射する光量を調整することで、容易にバンクの親撥水性を制御することが可能である。
【0018】
また、上記表面処理工程は、酸素分圧を20%以下にしたフッ素系ガスを用いたプラズマ処理により行われるものであることが好ましい。これにより、バンクの所望の部分に充分な撥水性を付与することができる。プラズマ処理における酸素分圧は、5%以下であることがより好ましい。プラズマ処理に使用するフッ素系ガスとしては、CF、SF、CHF、C等が好適に用いられる。
更に、本発明の表示装置用基板の製造方法は、インクジェット装置を用いてバンク内にインク材料を塗布する工程を有することが好ましい。これにより、本発明の作用効果を充分に奏することが可能である。
【0019】
本発明はそして、上記表示装置用基板、又は、上記表示装置用基板の製造方法により製造された表示装置用基板を備えてなる液晶表示装置及び有機エレクトロルミネセンス表示装置でもある。本発明の液晶表示装置によれば、カラーフィルタ基板の着色層、薄膜トランジスタ(TFT)アレイ基板の配線や画素電極(ITO)等を高精度に形成し、表示品位を向上させることが可能である。また、本発明の有機エレクトロルミネセンス表示装置によれば、発光層や正孔輸送層等の有機層、配線、電極等を高精度に形成し、表示品位を向上させることが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の表示装置用基板によれば、インク溶媒に対する接触角、ドライエッチング速度及び重量平均重合度の少なくとも1つが異なる領域を有する単一組成の樹脂によりバンクが形成されていることから、インクジェット法等の塗布法による機能膜の形成に際し、液状の機能膜材料がバンクを乗り越えて混合することを防止しつつ、バンク内の隅部に未充填領域が発生することを抑制することができる。更に、露光条件等の重合条件の調整等により領域を作り分けることができるので、生産性においても優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に実施形態を掲げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0022】
〔実施形態1〕
図1(a)〜(f)は、実施形態1のカラーフィルタ(CF)基板の製造フローを示す断面模式図である。本実施形態では、フィルムタイプの感光性/遮光性樹脂を用いてブラックマトリクス(BM)を形成した場合について説明する。
【0023】
(1−1)BMの形成
まず、ガラス基板10上に密着性を上げるためのシランカップリング剤を塗布し、略200℃でベークを行った。続いて、UV(紫外)硬化性及び熱硬化性の両特性を有し、かつ遮光性を有する樹脂フィルム(膜厚:略1500〜2000nm)を100℃前後に昇温しながらラミネートし、樹脂層11をガラス基板10上に転写した(図1(a))。続いて、所望のBMパターンに対応する開口部を備えたフォトマスク12を用いて、波長365nmの光を含むUV光を樹脂層11側(表側)から略70mJ/cm(検出波長:365nm)照射し(図1(b))、現像を行った(図1(c))。続いて、膜剥がれ防止のために、樹脂層11側及びガラス基板10側の両側からUV光を照射(ポスト露光)した後(図1(d))、220℃で1時間のベークを行うことにより、BMパターン形成基板(表示装置用基板)を得た(図1(e))。このように作製したBMパターン形成基板によれば、BM(バンク)11は、図3(a)に示すように、樹脂の重量平均重合度が上層11a>下層11bの関係を満たす2層構造となっている。なお、図3(a)は、図1(e)に示すBMパターン形成基板の丸(点線)で囲んだ部分を拡大して示す断面模式図である。
【0024】
(1−2)アッシング(ドライエッチング)速度試験
BM上層11aとBM下層11bとの樹脂の重量平均重合度の差を調べるために、(1−1)で得たBMパターン形成基板を用いて、アッシング速度試験を行った。その試験結果を表1及び図5に示す。なお、表中のアッシング量は、各層のアッシング最大量を採用した。また、アッシング速度は、30秒アッシング後のアッシング量と60秒アッシング後のアッシング量との差に基づいて算出した。
【0025】
【表1】

【0026】
表1より、熱重合のみで形成されたBM下層11bは、光重合及び熱重合で形成されたBM上層11aに比べ、アッシング速度が略1.5倍速く、アッシング試験後、BM11は、図3(b)に示すような形状になっていた。これにより、BM下層11bは、BM上層11aに比べ、樹脂の重量平均重合度が小さいことが確認された。すなわち、実施形態1においては、BM11のパターニング後に両面からポスト露光が行われたが、ポスト露光後もBM上層11aとBM下層11bとで重量平均重合度が異なっていた。
【0027】
(1−3)フッ素プラズマ処理
次に、BM11の表面全体に撥液性を付与するために、(1−1)で得たBMパターン形成基板に対し、図4(a)に示すような真空排気系のドライエッチング装置を用いてフッ素プラズマ処理(CF/He=150〜300sccm/0〜500sccm、50〜150mTorr、200〜300W、60〜120sec、温度40℃)を行った。なお、フッ素プラズマ処理後のBM11は、上層11aよりも下層11bの方が粗い表面であった。
【0028】
(1−4)接触角試験
BM11表面の撥液性(接触角の大きさ)を調べるために、(1−1)で得たBMパターン形成基板に対し、(1−3)と同様にフッ素プラズマ処理を施し、接触角試験を行った。その試験結果を表2及び図6に示す。なお、接触角の測定は、フッ素プラズマ処理を15秒行った状態のBM11及び120秒行った状態のBM11のそれぞれに対して行った。
【0029】
【表2】

【0030】
表2より、熱重合のみで形成されたBM下層11bは、光重合及び熱重合で形成されたBM上層11aに比べ、接触角が小さい(撥液性が小さい)ことが分かった。すなわち、樹脂の重量平均重合度が小さいほど、フッ素プラズマ処理によって表面に付与される撥液性が小さくなることが分かった。
【0031】
(1−5)着色層の形成
(1−3)でBM11表面にフッ素プラズマ処理を施したBMパターン形成基板に対し、インクジェット(IJ)装置を用いて、BM11間の絵素領域にインクを塗布した。このとき、BM上層11aの表面で発現される強い撥液性により、インクがBM11を乗り越えて隣のインクと混色することを防止することができた。また、BM下層11bの表面で発現される撥液性は若干弱いことから、BM11の隅部におけるインクの未充填領域の発生を抑制することができた。インクの着色後、乾燥や焼成等を経て、CF基板を完成させた(図1(f))。これにより、図3(c)に示すような、混色不良及び絵素領域の隅部からの光抜けが抑制された高表示品位のCF基板を得ることができた。
【0032】
すなわち、本実施形態では、CF基板におけるBM(バンク)11の形成に当たり、光及び熱のいずれによっても硬化可能な遮光性樹脂材料を用い、BM膜厚、露光条件、焼成条件等を制御しつつ光重合と熱重合とを併用することで、BM11を構成する樹脂の重量平均重合度が上層11a>下層11bとなった2層構造のBM11を形成した。これにより、続くフッ素系のガスを用いたプラズマ処理により、BM11のインクに対する接触角が上層11a>下層11bとなり、BM11のテーパ部(側面)におけるインクのハジキ・充填抜けを充分に低減することができた。その結果、BM11近傍の着色層13の膜厚が大きくなり、光抜けが抑制された高色純度のCF基板を作製することができた。
【0033】
〔実施形態2〕
図2(a)〜(e)は、実施形態2のカラーフィルタ(CF)基板の製造フローを示す断面模式図である。本実施形態では、液状の感光性/遮光性樹脂を用いてブラックマトリクス(BM)を形成した場合について説明する。
【0034】
(2−1)BMの形成
まず、ガラス基板10上に密着性を上げるためのシランカップリング材を塗布し、略200℃でベークを行った。続いて、UV(紫外)硬化性及び熱硬化性の両特性を有し、かつ遮光性を有する液状の樹脂材料をスピンコート、ダイコート又はノズルコート等の手法を用いて、膜厚が略1100〜1500nmとなるように成膜した後、120℃で略5分間のベークを行った(図2(a))。続いて、所望のBMパターンに対応する開口部を備えたフォトマスク12を用いて、樹脂層11側(表側)から365nmの光を含むUV光を略200mJ/cm(検出波長:365nm)程度照射し(図2(b))、現像を行った(図2(c))。続いて、220℃で1時間のベークを行うことにより、BMパターン形成基板(表示装置用基板)を得た(図2(d))。このようにして作製したBMパターン形成基板によれば、BM(バンク)11は、図3(a)に示すように、樹脂の重量平均重合度が上層11a>下層11bの関係を満たす2層構造となっている。なお、図3(a)は、図2(d)に示すBMパターン形成基板の丸(点線)で囲んだ部分を拡大して示す断面模式図である。
【0035】
(2−2)アッシング速度試験
(2−1)で得たBMパターン形成基板を用いて、アッシング速度試験を行った。その試験結果を表3及び図5に示す。なお、アッシング量やアッシング速度の算出方法については、表1と同様である。
【0036】
【表3】

【0037】
表3より、熱重合のみで形成された下層11bは、光重合及び熱重合で形成されたBM上層11aに比べ、アッシング速度が略1.7倍速く、アッシング試験後、BM11は、図3(b)に示すような形状になっていた。これにより、BM下層11bは、BM上層11aに比べ、樹脂の重量平均重合度が小さいことが確認された。
【0038】
(2−3)フッ素プラズマ処理
(2−1)で得たBMパターン形成基板に対し、(1−3)と同様の方法でフッ素プラズマ処理を行った。
(2−4)接触角試験
(2−1)で得たBMパターン形成基板に対し、(1−3)と同様にフッ素プラズマ処理を施し、接触角試験を行った。その試験結果を表4及び図6に示す。なお、接触角の測定条件等については、(1−4)と同様である。
【0039】
【表4】

【0040】
表4より、熱重合のみで形成された下層11bは、光重合及び熱重合で形成されたBM上層11aに比べ、接触角が小さい(撥液性が小さい)ことが分かった。
【0041】
(2−5)着色層の形成
(2−3)でBM11表面にフッ素プラズマ処理を施したBMパターン形成基板に対し、インクジェット(IJ)装置を用いて、BM11間の絵素領域にインクを塗布し、着色層13を形成した(図2(e))。本実施形態においても実施形態1と同様の作用効果を得ることができた。
【0042】
なお、本発明においては、上述の実施形態に示したように、BM11に用いられる樹脂は、UV硬化性及び熱硬化性の両特性を有することが好ましく、その形態(液状、フィルム状)は特に限定されるものではない。また、実施形態では、フッ素プラズマ処理に真空排気系のドライエッチング装置を用いたが、図4(b)及び(c)に示すような大気圧プラズマ装置を用いてもよい。大気圧プラズマ装置としては、図4(b)に示すダイレクトタイプのものが好ましく、この場合には、CF/N=5.0〜15slm/20〜50slm、300〜800W、搬送速度0.5〜 3m/min、温度25〜35℃の処理条件が好適である。更に、フッ素プラズマ処理に使用するガスとしては、CF以外にも、SF、CHF、C等のフッ素系ガスを用いてもよく、フッ素系ガスには、HeやN等の不活性ガスが混合されていてもよい。なお、Oガスを混合する場合には、O分圧は20%以下であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)〜(f)は、実施形態1のカラーフィルタ(CF)基板の製造フローを示す断面模式図である。
【図2】(a)〜(e)は、実施形態2のカラーフィルタ(CF)基板の製造フローを示す断面模式図である。
【図3】(a)は、実施形態で作製したBMパターン形成基板のBM部分を拡大して示す断面模式図である。(b)は、実施形態で作製したBMパターン形成基板におけるBM部分のアッシング試験後の形状を示す断面模式図である。(c)は、実施形態で作製したカラーフィルタ基板のBM隅部周辺を拡大して示す断面模式図である。
【図4】(a)は、真空排気系のドライエッチング装置の構成を示す断面模式図である。(b)及び(c)はそれぞれ、リモートタイプ及びダイレクトタイプの大気圧プラズマ装置の構成を示す断面模式図である。
【図5】実施形態1及び2で作製したBMパターン形成基板のアッシング試験の結果を示す図である。
【図6】実施形態1及び2で作製したBMパターン形成基板の接触角試験の結果を示す図である。
【図7】バンク隅部を説明する平面模式図である。
【符号の説明】
【0044】
10:ガラス基板
11:樹脂層(ブラックマトリクス;BM)
11a:BM上層(高重合度の樹脂層)
11b:BM下層(低重合度の樹脂層)
12:フォトマスク
13:着色層
13a:第1色層
13b:第2色層
13c:第3色層
20:高周波電源
21:真空チャンバ
22a:上(左)部電極
22b:下(右)部電極
23:被エッチング(プラズマ処理)部材
24:排気ポンプ
25:試料台(ステージ)
31:バンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にバンクが形成された表示装置用基板であって、
該バンクは、組成が共通でインク溶媒に対する接触角が異なる樹脂層が積層された構造を有するものであり、かつ上層側のインク溶媒に対する接触角が相対的に高い
ことを特徴とする表示装置用基板。
【請求項2】
基板上にバンクが形成された表示装置用基板であって、
該バンクは、組成が共通でドライエッチング速度が異なる樹脂層が積層された構造を有するものであり、かつ上層側のドライエッチング速度が相対的に遅い
ことを特徴とする表示装置用基板。
【請求項3】
基板上にバンクが形成された表示装置用基板であって、
該バンクは、組成が共通で重量平均重合度が異なる樹脂層が積層された構造を有するものであり、かつ上層側の重量平均重合度が相対的に大きい
ことを特徴とする表示装置用基板。
【請求項4】
基板上にバンクが形成された表示装置用基板であって、
該バンクは、組成が共通でインク溶媒に対する接触角が異なる樹脂領域を有するものであり、かつバンク隅部のインク溶媒に対する接触角が相対的に低い
ことを特徴とする表示装置用基板。
【請求項5】
基板上にバンクが形成された表示装置用基板であって、
該バンクは、組成が共通でドライエッチング速度が異なる樹脂領域を有するものであり、かつバンク隅部のドライエッチング速度が相対的に高い
ことを特徴とする表示装置用基板。
【請求項6】
基板上にバンクが形成された表示装置用基板であって、
該バンクは、組成が共通で重量平均重合度が異なる樹脂領域を有するものであり、かつバンク隅部の重量平均重合度が相対的に小さい
ことを特徴とする表示装置用基板。
【請求項7】
前記バンクは、光硬化性及び熱硬化性を有する樹脂により形成されたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の表示装置用基板。
【請求項8】
前記バンクは、遮光性を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の表示装置用基板。
【請求項9】
前記表示装置用基板は、更にインク固化物により構成される機能膜がバンク内に設けられたものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の表示装置用基板。
【請求項10】
前記表示装置用基板は、カラーフィルタ基板であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の表示装置用基板。
【請求項11】
基板上にバンクが形成された表示装置用基板の製造方法であって、
該表示装置用基板の製造方法は、少なくとも、バンク樹脂材料の表面を半硬化させる工程と、バンク樹脂材料を本硬化させる工程と、バンク表面に撥水性及び/又は親水性を付与する表面処理を施す工程とを含むことを特徴とする表示装置用基板の製造方法。
【請求項12】
基板上にバンクが形成された表示装置用基板の製造方法であって、
該表示装置用基板の製造方法は、少なくとも、光硬化性を有するバンク樹脂材料の隅部以外の部分の硬化度が隅部の硬化度よりも大きくなるように光照射量を変化させて露光する工程と、バンク樹脂材料を本硬化させる工程と、バンク表面に撥水性及び/又は親水性を付与する表面処理を施す工程とを含むことを特徴とする表示装置用基板の製造方法。
【請求項13】
前記半硬化工程は、マスク越しの光照射によりバンク樹脂材料を半硬化させるものであり、
前記本硬化工程は、基板両面からの光照射又は焼成によりバンク樹脂材料を本硬化させるものである
ことを特徴とする請求項11又は12記載の表示装置用基板の製造方法。
【請求項14】
前記表面処理工程は、酸素分圧を20%以下にしたフッ素系ガスを用いたプラズマ処理により行われるものであることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の表示装置用基板の製造方法。
【請求項15】
前記表示装置用基板の製造方法は、インクジェット装置を用いてバンク内にインク材料を塗布する工程を有することを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の表示装置用基板の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれかに記載の表示装置用基板、又は、請求項11〜15のいずれかに記載の表示装置用基板の製造方法により製造された表示装置用基板を備えてなることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれかに記載の表示装置用基板、又は、請求項11〜15のいずれかに記載の表示装置用基板の製造方法により製造された表示装置用基板を備えてなることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−162882(P2006−162882A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353137(P2004−353137)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】