説明

表示装置

【課題】発光光の損失を抑えつつ、視野角特性を向上させることが可能な表示装置を提供する。
【解決手段】発光部16R,16G,16Bからの入射光に基づいてマイクロレンズアレイ13から射出される光の射出角θoが、観察面に対する垂直方向を中心として±5°以内となるように、マイクロレンズアレイ13における各マイクロレンズの傾斜角φが設定されている。これにより、表示光がほぼ観察面の正面方向へ射出されると共に、後方への光損失が回避されるか、あるいは最小限に抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子および反射鏡構造を備えた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューターなどのシステムにおいて、液晶表示装置やプラズマディスプレイ装置、有機EL(ElectroLuminescence)表示装置、発光ダイオード素子を用いた表示装置などが開発され、表示装置の軽量化や薄型化が著しい。特に自発光型の表示装置は、画質、消費電力、薄型化などの点で有利である。
【0003】
これらの表示装置においては、発光素子からの光取り出し効率を上げるため、様々な構造が用いられている。例えば、発光素子の形状を工夫したり、発光素子からの光を有効利用できるように発光素子の外部にリフレクタ部(反射鏡、導光部)を設けたりすることで光取り出し効率を上げている(例えば、特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2007−248484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の表示装置では、発光素子の製造ばらつきなどによる個体差や、周辺構造の形状ばらつき、発光素子と周辺構造との位置ずれ等により、発光素子からの光の放射角度分布において、画素ごとにばらつきが生じてしまう。そのため、観察者が表示装置を見る角度によって、強度ずれや色度ずれが発生するという問題があった。このような斜め方向から見たときの強度ずれや色度ずれは、表示画質を著しく低下させる原因となる。
【0006】
なお、このような強度ずれや色度ずれを低減するため、拡散シートを使用する方法も考えられるが、強い拡散効果を得ようとするほど、一般には後方への光損失が増えてしまうことになる。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、発光光の損失を抑えつつ、視野角特性を向上させることが可能な表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の表示装置は、各画素に配置された発光素子と、この発光素子の観察面側に配置されたマクロレンズアレイとを備えたものである。ここで、上記発光素子からの入射光に基づいてマイクロレンズアレイから射出される光の射出角が、上記観察面に対する垂直方向を中心として±5°以内となるように、マイクロレンズアレイにおける各マイクロレンズの傾斜角が設定されている。
【0009】
本発明の表示装置では、発光素子からの光(入射光)がマイクロレンズアレイへ入射すると、その入射光はマイクロレンズアレイ内で屈折や透過、反射がなされたのち、マイクロレンズアレイから射出され、表示光となる。このとき、この射出光の射出角が観察面に対する垂直方向を中心として±5°以内となるように、各マイクロレンズの傾斜角が設定されていることにより、表示光が、ほぼ観察面の正面方向へ射出される。また、拡散シートのような拡散効果は利用されていないため、後方(観察面の反対方向)への光損失が、回避されるか、あるいは最小限に抑えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表示装置によれば、発光素子からの入射光に基づいてマイクロレンズアレイから射出される光の射出角が、観察面に対する垂直方向を中心として±5°以内となるように、マイクロレンズアレイにおける各マイクロレンズの傾斜角が設定されているようにしたので、表示光をほぼ観察面の正面方向へ射出することができると共に、後方への光損失を回避あるいは最小限に抑えることができる。よって、発光光の損失を抑えつつ、視野角特性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る表示装置(有機EL表示装置1)の断面構成を表すものである。この有機EL表示装置1では、例えば、ガラスなどよりなる駆動用基板11の上に、後述する複数の発光部16R,16G,16Bがそれぞれ画素10R,10G,10Bにマトリクス状に配置されている。また、駆動用基板11の上には、映像表示用の画素駆動回路である信号線駆動回路や走査線駆動回路(図示せず)が形成されている。具体的には、駆動用基板11と対向基板18との間には、駆動用基板11側から、発光部16R,16G,16Bおよびリフレクタ部17、封止層12、マイクロレンズアレイ13、充填層14および接着層15が、この順に積層されている。
【0013】
発光部16R,16G,16Bはそれぞれ、画素10R,10G,10Gに対応する領域に形成されており、赤色波長領域,緑色波長領域,青色波長領域の光を発する自発光型の発光素子(有機EL素子)により構成されている。図2は、この有機EL素子の断面構成(Z−X断面構成)を詳細に表したものである。有機EL素子は、駆動用基板11の側から、上述した画素駆動回路の駆動トランジスタ(図示せず)、ミラーとしての第1電極161、有機層である正孔注入層162、正孔輸送層163、発光層164および電子輸送層165、ならびにハーフミラーとしての第2電極166が、この順に積層された構造(共振器構造)となっている。このような共振器構造により、これら発光部16R,16G,16Bから発せられた光は、角度依存の配光特性を有するようになっている。
【0014】
これらの有機EL素子は、窒化ケイ素(SiNx)や樹脂などの封止層12により被覆され、更にこの封止層12上に後述するマイクロレンズアレイ13および充填層14を間にして、ガラスなどよりなる対向基板15が接着層15により全面にわたって貼り合わされることにより、封止されている。なお、駆動トランジスタは、封止層12に設けられた開口部12−1を介して第1電極161に電気的に接続されている。
【0015】
第1電極161は、例えば、AgまたはAg合金にITO(インジウム・スズ複合酸化物)を積層した電極により構成されている。
【0016】
発光部16R,16G,16Bにおける有機層は、上述したように、第1電極161の側から順に、正孔注入層162,正孔輸送層163,発光層164および電子輸送層165を積層した構成を有するが、これらのうち発光層164以外の層は、必要に応じて設ければよい。また、このような有機層は、有機EL素子の発光色によってそれぞれ構成が異なっていてもよい。正孔注入層161は、正孔注入効率を高めるためのものであると共に、リークを防止するためのバッファ層である。正孔輸送層163、発光層164への正孔輸送効率を高めるためのものである。発光層164は、電界をかけることにより電子と正孔との再結合が起こり、光を発生するものである。この発光層164は、詳細は後述するように、電荷輸送性を有するホスト材料と、発光性を有するドーパント材料(ゲスト材料)とを含んでいる。電子輸送層165は、発光層164への電子輸送効率を高めるためのものである。なお、電子輸送層165と第2電極166との間に、例えば厚みが0.3nm程度であり、LiF,Li2 Oなどよりなる電子注入層(図示せず)を設けてもよい。
【0017】
発光部16Rの正孔注入層162は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)あるいは4,4’,4”−トリス(2−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)により構成されている。発光部16Rの正孔輸送層163は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、ビス[(N−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン(α−NPD)により構成されている。発光部16Rの発光層164は、例えば、厚みが10nm以上100nm以下であり、ホスト材料である9,10−ジ−(2−ナフチル)アントラセン(ADN)(ホスト材料)に、ドーパント材料である2,6≡ビス[4´≡メトキシジフェニルアミノ)スチリル]≡1,5≡ジシアノナフタレン(BSN)を30重量%混合したものにより構成されている。発光部16Rの電子輸送層165は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、8≡ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3 )により構成されている。
【0018】
発光部16Gの正孔注入層162は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、m−MTDATAあるいは2−TNATAにより構成されている。発光部16Gの正孔輸送層163は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、α−NPDにより構成されている。発光部16Gの発光層164は、例えば、厚みが10nm以上100nm以下であり、ホスト材料であるADNに、ドーパント材料であるクマリン6(Coumarin6)を5体積%混合したものにより構成されている。発光部16Gの電子輸送層165は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、Alq3 により構成されている。
【0019】
発光部16Bの正孔注入層162は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、m−MTDATAあるいは2−TNATAにより構成されている。発光部16Bの正孔輸送層163は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、α−NPDにより構成されている。発光部16Bの発光層164は、例えば、厚みが10nm以上100nm以下であり、ホスト材料であるADNに、ドーパント材料である4,4´≡ビス[2≡{4≡(N,N≡ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)を2.5重量%混合したものにより構成されている。発光部16Bの電子輸送層165は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下であり、Alq3 により構成されている。
【0020】
第2電極166は、例えば、厚みが5nm以上50nm以下であり、アルミニウム(Al),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ナトリウム(Na)などの金属元素の単体または合金により構成されている。中でも、マグネシウムと銀との合金(MgAg合金)、またはアルミニウム(Al)とリチウム(Li)との合金(AlLi合金)が好ましい。
【0021】
リフレクタ部17は、発光部16R,16G,16Bの観察面側(ここでは、発光部16R,16G,16Bの両端側)に配置されている。このリフレクタ部17は、図1に示したように、発光部16R,16G,16Bからの発光光Loutを、観察面側へ導くための反射鏡として機能している。したがって、このようなリフレクタ部17の少なくとも表面は、反射率の高い金属材料(例えば、銀(Ag)やアルミニウム(Al)など)等により構成される。
【0022】
封止層12は、発光部16R,16G,16B内の有機層に水分などが侵入することを防止するためのものであり、透過水性および吸水性の低い材料により構成されると共に十分な厚みを有している。また、封止層12は、発光層164で発生した光に対する透過性が高く、例えば80%以上の透過率を有する材料により構成されている。このような封止層12は、例えば、厚みが0.5μm〜7.0μm程度であり、無機アモルファス性の絶縁性材料や、樹脂材料により構成されている。具体的には、無機アモルファス性の絶縁性材料としては、アモルファスシリコン(α−Si),アモルファス炭化シリコン(α−SiC),アモルファス窒化シリコン(α−Si1-x x )およびアモルファスカーボン(α−C)が好ましい。これらの無機アモルファス性の絶縁性材料は、グレインを構成しないので透水性が低く、良好な封止層12となる。また、封止層12は、ITOのような透明導電材料により構成されていてもよい。なお、無機材料としては、酸化シリコン(SiO),酸化アルミニウム(Al),ITOおよび酸化窒化シリコン(SiO)などが好ましい。また、封止層12に用いられる樹脂材料としては、例えば、熱硬化型樹脂や紫外線硬化型樹脂などが挙げられる。
【0023】
対向基板18は、発光部16R,16G,16Bの第2電極166の側に位置しており、封止層12、マイクロレンズアレイ13、充填層14と共に発光部16R,16G,16Bを封止するものである。対向基板18は、発光部16R,16G,16Bで発生した光に対して透明なガラスなどの材料により構成されている。この対向基板18には、例えば、カラーフィルタ層(図示せず)が設けられており、発光部16R,16G,16Bで発生した光を取り出すと共に、発光部16R,16G,16Bならびにその間の配線において反射された外光を吸収し、コントラストを改善するようになっている。この対向基板18にはまた、ブラックマトリクス層(図示せず)が設けられている。
【0024】
マイクロレンズアレイ13は、発光部16R,16G,16Bの観察面側に配置されており、発光部16R,16G,16Bからの発光光Lout(マイクロレンズアレイ13への入射光)における放射角度分布ばらつきを均一化させるためのものである。ここでは、マイクロレンズアレイ13における各マイクロレンズは、観察面側(発光部16R,16G,16Bとは反対側)に凸部を有している。
【0025】
このマイクロレンズアレイ13では、発光部16R.16G,16Bからの入射光に基づいてマイクロレンズアレイ13から射出される光の射出角が、観察面に対する垂直方向を中心として±5°以内となるように、各マイクロレンズの傾斜角が設定されている。具体的には、図3を参照すると、各マイクロレンズの傾斜角φが、以下の(11)式を満たすように設定されている。これにより、詳細は後述するが、表示光がほぼ観察面の正面方向(観察面に対する垂直方向)へ射出されるようになっている。なお、各マイクロレンズの傾斜角φは、各マイクロレンズのアスペクト(レンズアスペクト)hと言い換えることができる。具体的には、図3に示したように、レンズアスペクトhは、レンズ高さをH、レンズ直径をRとすると、各マイクロレンズの傾斜角φを用いて、h=(H/R)=(1/2)×tanφと表すことができる。
n1×sin(φ+θo)=n2×sin(φ−θi) ……(11)
但し、
n1:マイクロレンズアレイ13の射出側(充填層14)における屈折率
n2:マイクロレンズアレイ13の屈折率
θi:マイクロレンズアレイ13への入射光の入射角
θo:マイクロレンズアレイ13からの射出光の射出角(−5°≦θo≦5°)
【0026】
ここで、このようなマイクロレンズアレイ13では、射出光の射出角θo=0°となるように各マイクロレンズの傾斜角φを設定した場合、表示光における平均ピーク角度とレンズアスペクトhとの関係は、例えば図4に示したようになる。なお、マイクロレンズアレイ13の屈折率に応じて射出角θoも変化するため、マイクロレンズアレイ13の屈折率が1.3〜2.0の場合について、それぞれ示している。
【0027】
なお、各マイクロレンズは放物面や球面などの曲面の場合もあるが、図4では、レンズアスペクトhから求めた傾斜角φを、傾斜角の平均として用いている。また、レンズアスペクトhによって射出角θoが定まるため、レンズピッチやレンズの配置はランダムでよい。また、各マイクロレンズの形状も必ずしも同一である必要はない。
【0028】
また、マイクロレンズアレイ13における各マイクロレンズのピッチdMLA1と、発光部16R,16G,16Bの大きさ(ピッチ)dELとの間では、以下の(12)式を満たすようにするのが好ましい。すなわち、マイクロレンズアレイ13における各マイクロレンズのピッチdMLA1が、発光部16R,16G,16Bの大きさ(ピッチ)dELの(1/2)以下となっているのが好ましい。詳細は後述するが、発光部16R,16G,16Bに対するマイクロレンズアレイ13の位置がずれても、放射角度分布が変化しないようになるからである。
MLA1≦0.5×dEL ……(12)
【0029】
さらに、マイクロレンズアレイ13は、発光部16R,16G,16Bの近傍に配置するのが好ましい。具体的には、マイクロレンズアレイ13と発光部16R,16G,16Bとの距離は、画素10R,10G,10Bの画素ピッチよりも短いほうが好ましい。マイクロレンズアレイ13と発光部16R,16G,16Bとの距離が大きくなり過ぎると、拡散効果によって画素がぼやけて見えてしまうからである。
【0030】
このようなマイクロレンズアレイ13は、例えば、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂またはレジスト材料などにより構成され、例えば、以下のようなリソグラフィー法を用いて形成される。この方法では、まず、Si基板上に、レジスト材料を、スピンコートにより塗布する。次いで、その上に、六方配置で円形開口が並んだマスクおよび拡散板を配置し、露光および現像することにより、レジストがマイクロレンズアレイ形状となった基板が得られる。そして、その基板にNi電鋳を行うことによってNi金型を作製し、その型を用いて、UV硬化樹脂をUV硬化させることにより、マイクロレンズアレイが得られる。
【0031】
充填層14は、マイクロレンズアレイ13と接着層15との隙間を充填して平坦化するためのものであり、例えば、マイクロレンズアレイ13よりも低屈折または高屈折である材料や、空気などにより構成されている。
【0032】
接着層15は、マイクロレンズアレイ13および充填層14と対向基板18との間を接着するためのものであり、例えば、接着シートや塗布用接着剤などにより構成されている。
【0033】
次に、本実施の形態の有機EL表示装置1の作用および効果について説明する。
【0034】
この有機EL表示装置1では、図示しない画素駆動回路から供給される駆動信号により、各発光部16R,16G,16Bにおける有機EL素子において、第1電極161および第2電極166の間に駆動電流が流れることにより、正孔と電子とが再結合し、発光層165において発光が起こる。この発光層165からの光は、第2電極16,封止層12,マイクロレンズアレイ13,充填層14,接着層15および対向基板18を透過し、表示装置外部へ取り出される。これにより、駆動信号に基づいた映像表示がなされる。
【0035】
その際、各発光部16R,16G,16Bから発せられた各色光(発光光Lout)は、封止層12を通過してマイクロレンズアレイ13へ入射する。一方、そのような各色光(発光光Lout)の一部は、図1に示したようにリフレクタ部17において反射されたのち、マイクロレンズアレイ13へ入射する。そして、このマイクロレンズアレイ13内で屈折、透過または全反射された入射光は、前方の充填層14、接着層15および対向基板18を通過し、表示光として外部へ射出される。
【0036】
このとき、発光部16R,16G,16Bの製造ばらつきなどによる個体差や、リフレクタ部17を含む周辺構造の形状ばらつき、発光部16R,16G,16Bと周辺構造との位置ずれ等により、発光部16R,16G,16Bからマイクロレンズアレイ13への入射光の放射角度分布において、画素10R,10G,10Bごとにばらつきが生じている。そして、このような入射光の放射角度分布のばらつきが原因で、リフレクタ部17からの2つのピークの角度が、画素10R,10G,10Bごとに異なってしまうことがある。そのため、そのままでは、観察者が表示装置を見る角度によって強度ずれや色度ずれが発生し、表示画質が著しく低下してしまうことになる。
【0037】
そこで、本実施の形態では、前述したように、マイクロレンズアレイ13からの射出光の射出角が観察面に対する垂直方向を中心として±5°以内となるように、各マイクロレンズの傾斜角が設定されている。具体的には、各マイクロレンズの傾斜角φが上記(11)式を満たすように設定されている。これにより、放射角度分布にばらつきのある光がマイクロレンズアレイ13へ入射した場合でも、屈折や反射の過程においてほぼ同様の放射角度分布に整形されて射出される。すなわち、表示光が、ほぼ観察面の正面方向(垂直方向)へ射出されることになる。また、このとき、拡散シートのような拡散効果は利用されていないため、後方(観察面の反対方向)への光損失は、回避されるか、あるいは最小限に抑えられる。
【0038】
具体的には、例えば図5に示したようにして、表示光がほぼ観察面の正面方向(放射角度=0°付近の方向)へ射出される。なお、この図5では、LED(Light Emitting Diode)光源とマイクロレンズアレイ13との間にスリットを入れることにより、マイクロレンズアレイ13へ入射する光線角度を10°および20°に制限した場合について調べている。図4により、それぞれに対して最適なレンズアスペクトhが定まるため、そのようなレンズアスペクトhを持つマイクロレンズアレイ13を用いた。その結果、確かに10°,20°にピークをもっていた光源からの光が、マイクロレンズアレイ13を通すことにより、観察面の正面方向(放射角度=0°付近の方向)にピークをもつように変化したことが分かる。
【0039】
ここで、比較例に係る有機EL表示装置(マイクロレンズアレイ13を有しないもの)では、例えば図6(A)に示したように、前述した入射光の放射角度分布のばらつきが原因で、発光部16R,16G,16Bから直接マイクロレンズアレイ13へ到達する光のピークと、リフレクタ部17からの2つのピークとにより、合計3つのピークP101〜P103を持つ放射角度分布になっている。
【0040】
これに対し、本実施の形態の有機EL表示装置1では、マイクロレンズの傾斜角φが上記(11)式を満たすように設定されていることにより、例えば図6(B)に示したように、表示光がほぼ観察面の正面方向(放射角度=0°付近の方向)へ射出される。具体的には、入射光の放射角度分布のばらつきが原因でピークの位置にばらつきがあっても、ほぼ単一のピークをもつ同一の分布となる。そのため、ここでは画素10R,10G,10Bごとの色度ずれが観察されなくなった。
【0041】
また、本実施の形態では、前述したように、望ましくは、マイクロレンズアレイ13における各マイクロレンズのピッチdMLA1が、発光部16R,16G,16Bの大きさ(ピッチ)dELの(1/2)以下となっている。具体的には、上記(12)式を満たすようになっている。ここで、図7は、1mm角の光源(発光部16R,16G,16B)に対して、マイクロレンズアレイ13における各マイクロレンズのレンズピッチを変化させたときの放射角度分布図を示している。この図7によれば、レンズピッチが十分に小さいときには、平均化の効果により放射角度分布のグラフが一致する一方、光源に対して(1/2)の大きさ(図中の0.500mmピッチのグラフ)を超えてくると、グラフ形状がずれてくる(アライメントが難しくなってくる)ことが分かる。これは、以下の理由によるものである。すなわち、レンズピッチが光源に対して無視できないくらいに大きくなると、放射角度分布のグラフ形状に対して、マイクロレンズと光源との位置関係が影響しくることになる。その場合、マイクロレンズアレイ13を少し動かしただけで放射角度分布のグラフ形状が変化し、アライメントがシビアで扱いにくくなる。それに対し、レンズピッチが小さい場合、平均化の効果により、マイクロレンズアレイ13の位置がずれても、放射角度分布のグラフ形状は変化しないことになる。放射角度分布のグラフ形状がずれた場合、(言い換えると、角度に対する強度が変わると)、観察者にとってむらが発生したように見えることになる。
【0042】
なお、図8は、放射角度分布のグラフ形状の一致の尺度として、図7に示したそれぞれのレンズピッチについて、レンズピッチが最小の0.005mmのときのグラフに対する相関係数を取ったものであり、横軸は対数表示となっている。また、以下に、各レンズピッチの場合の相関係数値を示している。この図8によれば、相関係数値が0.99を超えると、放射角度分布のグラフ形状が一致していると言える。すなわち、上記(12)式を満たす場合には、個々のマイクロレンズの放射角度分布が平均化されるため、発光部16R,16G,16Bに対するマイクロレンズアレイ13の位置がずれても、放射角度分布が変化しないようになる。よって、アライメントに対して強くなると言える。
0.005mmピッチ:相関係数=1.000
0.100mmピッチ:相関係数=0.996
0.250mmピッチ:相関係数=0.994
0.500mmピッチ:相関係数=0.986
1.000mmピッチ:相関係数=0.936
2.500mmピッチ:相関係数=0.506
【0043】
以上のように本実施の形態では、発光部16R,16G,16Bからの入射光に基づいてマイクロレンズアレイ13から射出される光の射出角θoが、観察面に対する垂直方向を中心として±5°以内となるように、マイクロレンズアレイ13における各マイクロレンズの傾斜角φが設定されているようにしたので(具体的には、上記(11)式を満たすようにしたので)、表示光をほぼ観察面の正面方向へ射出することができると共に、後方への光損失を回避あるいは最小限に抑えることができる。よって、射出角θoが±5°以内の範囲であれば、(主観的に)放射角度分布のばらつきの低減効果があると考えられるため、発光光Loutの損失を抑えつつ、視野角特性を向上させることが可能となる。
【0044】
また、発光部16R,16G,16Bの製造ばらつきなどによる個体差や、リフレクタ部17を含む周辺構造の形状ばらつき、発光部16R,16G,16Bと周辺構造との位置ずれ等に起因する、画素10R,10G,10Bごとまたは領域ごとの放射角度分布のばらつきを、正面方向の左右対称形状に近づけることで、ロバストに補正することができる。
【0045】
また、マイクロレンズアレイ13における各マイクロレンズのピッチdMLA1が、発光部16R,16G,16Bの大きさ(ピッチ)dELの(1/2)以下となっているようにした場合には、発光部16R,16G,16Bに対するマイクロレンズアレイ13の位置がずれても、放射角度分布が変化しないようになる。よって、アライメントに対して強くすることが可能となる。
【0046】
(変形例)
図9は、本発明の変形例に係る表示装置(有機EL表示装置1A)の断面構成を表したものである。この有機EL表示装置1Aは、上記実施の形態の有機EL表示装置1において、マイクロレンズアレイ13の代わりにマイクロレンズアレイ13Aを設けるようにしたものである。なお、上記実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0047】
マイクロレンズアレイ13Aでは、上記実施の形態のマイクロレンズアレイ13とは逆に、各マイクロレンズが、発光部16R,16G,16B側に凸部を有している。これにより、封止層12とマイクロレンズアレイ13Aとの隙間に、充填層14が配置されるようになっている。
【0048】
このマイクロレンズアレイ13Aでは、マイクロレンズアレイ13からの射出光の射出角が観察面に対する垂直方向を中心として±5°以内となるように、各マイクロレンズの傾斜角が設定されている。具体的には、図10を参照すると、各マイクロレンズの傾斜角φが、上記(13)式を満たすように設定されている。
n2×sin(φ+θo)=n1×sin(φ+θi) ……(13)
但し、
n1:マイクロレンズアレイ13Aの入射側(充填層14)における屈折率
n2:マイクロレンズアレイ13Aの屈折率
θi:マイクロレンズアレイ13Aへの入射光の入射角
θo:マイクロレンズアレイ13Aからの射出光の射出角(−5°≦θo≦5°)
【0049】
これにより、このマイクロレンズアレイ13Aでは、上記実施の形態のマイクロレンズアレイ13と同様に、表示光がほぼ観察面の正面方向(垂直方向)へ射出されることになると共に、後方(観察面の反対方向)への光損失が、回避されるか、あるいは最小限に抑えられる。したがって、射出光の射出角θo=0°となるように各マイクロレンズの傾斜角φを設定した場合、表示光における平均ピーク角度とレンズアスペクトhとの関係は、例えば図11に示したようになる。また、具体的には例えば図12に示したようにして、表示光がほぼ観察面の正面方向(放射角度=0°付近の方向)へ射出される。
【0050】
以上のように本変形例においても、発光部16R,16G,16Bからの入射光に基づいてマイクロレンズアレイ13Aから射出される光の射出角θoが、観察面に対する垂直方向を中心として±5°以内となるように、マイクロレンズアレイ13Aにおける各マイクロレンズの傾斜角φが設定されているようにしたので(具体的には、上記(13)式を満たすようにしたので)、上記実施の形態と同様の作用により同様の効果を得ることができる。すなわち、発光光Loutの損失を抑えつつ、視野角特性を向上させることが可能となる。
【0051】
なお、本変形例においても、マイクロレンズアレイ13AのピッチdMLA2と、発光部16R,16G,16Bの大きさ(ピッチ)dELとの間では、以下の(14)式を満たすようにするのが好ましい。すなわち、マイクロレンズアレイ13Aにおける各マイクロレンズのピッチdMLA2が、発光部16R,16G,16Bの大きさ(ピッチ)dELの(1/2)以下となっているようにするのが好ましい。そのように構成した場合には、上記実施の形態と同様に、発光部16R,16G,16Bに対するマイクロレンズアレイ13Aの位置がずれても、放射角度分布が変化しないようになる。よって、アライメントに対して強くすることが可能となる。
MLA2≦0.5×dEL ……(14)
【0052】
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0053】
例えば、上記実施の形態等では、マイクロレンズアレイ13,13Aが封止層12の直上に配置されている場合について説明したが、それらの間に他の層が挿入されていてもよく、また、封止層12上に、マイクロレンズアレイ13の形状を直接作り込むようにしてもよい。
【0054】
また、マイクロレンズアレイ13,13Aの形状や材質、形成方法等は、上記実施の形態で説明したものには限られず、他の形状や材質、形成方法等としてもよい。
【0055】
また、上記実施の形態等では、有機EL表示装置1,1A内にリフレクタ部17を設けるようにした場合について説明したが、場合によっては、必ずしもそのようなリフレクタ部17を設けなくともよい。
【0056】
また、上記実施の形態等では、発光素子を備えた表示装置の一例として、有機EL素子を発光部16R,16G,16Bにおいて備えた有機EL表示装置1,1Aを挙げて説明したが、本発明はこれには限られない。具体的には、本発明は、例えば、発光素子として無機EL素子を備えた無機EL表示装置や、FED(Field Emission Display;電界放出ディスプレイ)などの他の表示装置にも適用することが可能である。
【0057】
さらに、上記実施の形態等で説明した表示装置は、テレビジョン装置,デジタルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施の形態に係る表示装置の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した発光部の詳細構成を表す断面図である。
【図3】図1に示したマイクロレンズアレイにおける傾斜角の設定範囲について説明するための断面図である。
【図4】図1に示した表示装置における平均ピーク角度とレンズアスペクトとの関係の一例を屈折率ごとに表す特性図である。
【図5】図1に示した表示装置における放射角度と表示光の強度との関係の一例を表す特性図である。
【図6】放射角度と表示輝度との関係を(A)比較例および(B)実施例について表した特性図である。
【図7】図1に示した表示装置における放射角度と表示光の強度との関係の一例をレンズピッチごとに表す特性図である。
【図8】図1に示した表示装置における発光部の大きさに対するレンズピッチの比と相関係数との関係の一例を表す特性図である。
【図9】本発明の変形例に係る表示装置の構成を表す断面図である。
【図10】図9に示したマイクロレンズアレイにおける傾斜角の設定範囲について説明するための断面図である。
【図11】図9に示した表示装置における平均ピーク角度とレンズアスペクトとの関係の一例を屈折率ごとに表す特性図である。
【図12】図9に示した表示装置における放射角度と表示光の強度との関係の一例を表す特性図である。
【符号の説明】
【0059】
1,1A…有機EL表示装置、10R,10G,10B…画素、11…駆動用基板、12…封止層、12−1開口部、13,13A…マイクロレンズアレイ、14…充填層、15…接着層、16R,16G,16B…発光部、161…第1電極、162…正孔注入層、163…正孔輸送層、164…発光層、165…電子輸送層、166…第2電極、17…リフレクタ部、18…対向基板、Lout…発光光、n1,n2…屈折率、θi…入射角、θo…射出角、φ…傾斜角、H…レンズ高さ、R…レンズ直径、h…レンズアスペクト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各画素に配置された発光素子と、
前記発光素子の観察面側に配置されたマクロレンズアレイと
を備え、
前記発光素子からの入射光に基づいて前記マイクロレンズアレイから射出される光の射出角が、前記観察面に対する垂直方向を中心として±5°以内となるように、前記マイクロレンズアレイにおける各マイクロレンズの傾斜角が設定されている
表示装置。
【請求項2】
前記マイクロレンズアレイにおける各マイクロレンズが、前記観察面側に凸部を有しており、
各マイクロレンズの傾斜角φが、以下の(1)式を満たすように設定されている
請求項1に記載の表示装置。
n1×sin(φ+θo)=n2×sin(φ−θi) ……(1)
但し、
n1:マイクロレンズアレイの射出側における屈折率
n2:マイクロレンズアレイの屈折率
θi:マイクロレンズアレイへの入射光の入射角
θo:マイクロレンズアレイからの射出光の射出角(−5°≦θo≦5°)
【請求項3】
前記マイクロレンズアレイにおける各マイクロレンズが、前記発光素子側に凸部を有しており、
各マイクロレンズの傾斜角φが、以下の(2)式を満たすように設定されている
請求項1に記載の表示装置。
n2×sin(φ+θo)=n1×sin(φ+θi) ……(2)
但し、
n1:マイクロレンズアレイの入射側における屈折率
n2:マイクロレンズアレイの屈折率
θi:マイクロレンズアレイへの入射光の入射角
θo:マイクロレンズアレイからの射出光の射出角(−5°≦θo≦5°)
【請求項4】
前記マイクロレンズアレイにおける各マイクロレンズのピッチが、前記発光素子のピッチの(1/2)以下である
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項5】
前記発光素子の観察面側に、この発光素子からの光を観察面側へ導くための反射鏡が設けられている
請求項1に記載の表示装置。
【請求項6】
前記発光素子が有機EL素子であり、有機EL表示装置として構成されている
請求項1に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−72084(P2010−72084A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236718(P2008−236718)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】