説明

表面が被覆された円筒部材の表面錆検出方法及びその装置

【課題】本発明は、発錆部位の検出と共に、発錆部位の補修の要否を判定できる表面が被覆された円筒部材の錆検査方法及びその装置を提供することにある。
【解決手段】本発明は、表面が外被部材2被覆された円筒部材(1)の錆検査方法として、外被部材2の上から円筒部材(1)の表面の発錆部位を検出し、その後、外被部材2の上から発錆部位における円筒部材(1)の減肉量を測定するようにしたのである。
このように、発錆部位を検出した後、発錆部位における円筒部材(1)の減肉量を測定することで、発錆部位の補修の要否を判断することができ、外被部材を不用意に撤去する無駄な作業を無くすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面が被覆された円筒部材の表面錆検出方法及びその装置に係り、特に、高所に設置され表面が被覆された円筒部材において円筒部材表面に発生する錆を検出するのに好適な表面が被覆された円筒部材の表面錆検出方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、屋外の地上近傍のみならず、高所にも敷設されている化学プラントや原子力プラント等の鋼管類(円筒部材)は、鋼管類の表面を外被部材、例えば、断熱材や保冷材等で覆い、さらに断熱材や保冷材等の表面をステンレス薄鋼板等の保護材で覆った断面構造をしている。
【0003】
そして、これら屋外に敷設された鋼管や槽類は、外被部材の経年劣化により、雨水が外被部材を越えて鋼管や槽類の表面にまで侵入して溜まり、この雨水の溜まりにより鋼管類の表面が発錆し、鋼管類の肉厚を減肉させ、最悪な場合には穴が開いて鋼管類内の流体が外部に流出することになる。
【0004】
そこで、従来において、鋼管類上の外被部材を破壊せずに、鋼管類表面の錆の発生を検出し、発錆部位が検出された場合、発錆部位の外被部材を撤去して補修することが、既に行われている。関連技術として、例えば特許文献1が挙げられる。
【0005】
【特許文献1】特開平10−141935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術は、発錆部位の検出が主目的であり、したがって、発錆しても鋼管類の肉厚が十分に確保されて補修の必要のない状態であるにも拘らず、鋼管類上の外被部材を撤去してしまうことが散見される。
【0007】
本発明の目的は、発錆部位の検出と共に、発錆部位の補修の要否を判定できる表面が被覆された円筒部材の錆検査方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために、表面が被覆された円筒部材の錆検査方法として、外被部材の上から円筒部材の表面の発錆部位を検出し、その後、前記外被部材の上から発錆部位における前記円筒部材の減肉量を測定するようにしたのである。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、発錆部位を検出した後、発錆部位における円筒部材の減肉量を測定することで、発錆部位の補修の要否を判断することができ、外被部材を不用意に撤去する無駄な作業を無くすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の表面が被覆された円筒部材の表面錆検出装置の第1に実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。
【0011】
円筒部材である鋼管1の外周は、外被部材2で覆われている。外被部材2は、鋼管1の表面を覆う断熱材3と、さらに、断熱材3の表面を覆うステンレス薄鋼板製の保護材4で構成されている。さらに、鋼管1の端部にはフランジ1Fが設けられ、隣接フランジ1Fを接続することで、必要長さの鋼管1を得ている。このフランジ1Fの周囲にも同様な外被部材2で覆われている。
【0012】
このような鋼管1の外被部材2の外周に、錆検出装置5を装着して錆の発生部位の検出と当該部分の減肉量を測定している。
【0013】
錆検出装置5は、鋼管1を被覆する外被部材2の表面を周方向及び長手方向に移動する台車6と、この台車6に搭載された発錆部位検出手段7と減肉量測定手段8と、制御判定装置9とから構成されている。
【0014】
前記台車6は、鋼管1を被覆する外被部材2の表面を周方向に180度以上包囲するように断面C字状に形成された筐体10を有し、かつ、この筐体10に長手方向移動用車輪11A,11B及び周方向移動用車輪12A,12Bを夫々周方向に略120度間隔で軸支している。
【0015】
前記発錆部位検出手段7は、鋼管1の表面の残留水分を検出して錆の有無を検出する中性子水分計であり、その原理は、カルフォル二ア252の中性子を照射すると、残留水分のH原子により減速して熱中性子を散乱するので、その熱中性子を検出して残留水分の存在を検出するのである。したがって、発錆部位検出手段7は、筐体10に、中性子照射部7Aと、熱中性子を検出するセンサ部7Bとを備えている。ここで、検出作業を早くするために、中性子照射部7Aとセンサ部7Bとを対をなすように周方向に複数配列した例を示した。
【0016】
前記減肉量測定手段8は、鋼管1の外周の接線方向にX線の中心軸が合致するようにX線を照射するX線照射部(放射線照射部)8Aと、照射されたX線を受けるX線撮像部8Bとを前記筐体10に搭載している。
【0017】
前記制御判定装置9は、前記長手方向移動用車輪11A,11B及び周方向移動用車輪12A,12Bに駆動指令を与えると共に、前記発錆部位検出手段7に対しては、中性子の照射指令と熱中性子数の検出指令及び水分の有無による発錆部位の有無を判定し、前記減肉量測定手段8に対しては、X線の照射指令とX線撮像データ処理による減肉量の測定を行う。
【0018】
上記構成の錆検出装置5を鋼管1の外被部材2上の装着し、周方向及び長手方向に移動させながら、鋼管1表面上の発錆部位の検出と減肉量を測定する。
【0019】
このような発錆部位の検出と減肉量の測定を行うことで、多少の減肉が存在していても十分に鋼管1の肉厚を確保できている場合には、補修の必要は無いので、不用意に外被部材2を撤去して、再被覆するような無駄な作業を無くすことができる。
【0020】
尚、上記実施の形態においては、前記長手方向移動用車輪11A,11B及び周方向移動用車輪12A,12Bが駆動源をもって回転することで、台車6を自走させるようにしたものであるが、錆検出装置5を簡易な構成とするために、駆動源をもたずに作業員が直接的或いはロボット等を用いて台車6を移動させるようにしてもよい。
【0021】
ところで、前記台車6を構成する筐体10は、図2に示すように、断面C字状に形成されているので、そのC字状の開口部10Mが発錆部位検出手段7や減肉量測定手段8を筐体10に搭載したとき開かないように、複数のフック15で連結している。フック15により開口部10Mを連結することで、筐体10は外被部材2の全周を囲む形態となり、発錆部位検出手段7や減肉量測定手段8を安定して支持でき、長手方向移動用車輪11A,11B及び周方向移動用車輪12A,12Bが外被部材2の表面から浮き上がるのを防止できる。
【0022】
一方、前記鋼管1は、例えば10〜15m間隔で架台13に支持されており、架台13と鋼管1との間には支持座14が設けられている。
【0023】
このように、鋼管1が架台13や支持座14で支持されていると、筐体10の開口部10Mを連結するフック15が架台13や支持座14が障害となって長手方向に台車6を移動できなくなる。
【0024】
そこで、前記フック15を二組の係合レバー15A,15Bで構成し、台車6が架台13や支持座14の位置を通過する際に、係合レバー15A,15Bの係合を解いて開放し、通過後に、再係合することで、自由に台車6を長手方向に移動させることができる。
【0025】
ただ、係合レバー15A,15Bの開放・再係合を人手によって行うには作業が煩雑となって多大な労力と作業時間を必要とするので、好ましくない。そこで、図3に示すように、複数のフック15の長手方向への移動方向の前後に、障害物検知センサ16,17を設置し、障害物検知センサ16,17での障害物接近と通過を検出して、係合レバー15A,15Bの開放・再係合を行うようにすることが望ましい。
【0026】
前記障害物検知センサ16,17は、例えば、赤外線ビームを照射するビーム照射部16A,17Aと、赤外線ビームを受光するビーム受光部16B,17Bとを有し、ビームが障害物で遮断されたときに、信号を出して前記係合レバー15A,15Bの係合を開放し、遮断されたビームが受光されたときに前記係合レバー15A,15Bを再係合するようにしている。そのために、前記係合レバー15A,15Bは、前記障害物検知センサ16,17からの信号を受けて作動する駆動源、例えば、前記係合レバー15A,15Bを90度回動させる回動マグネット18A,18Bを夫々係合レバー15A,15Bの回転支点部に設けている。
【0027】
上述のように、係合レバー15A,15Bの開放・再係合を、障害物検知センサ16,17及び回動マグネット18A,18Bとの連携で行うことにより、障害物である架台13や支持座14を通過するたびに順番に開放・再係合を行うので、複数のフック15が一度に開放されることがなく、筐体10の開口部10Mが開くことがなくなる。
【0028】
次に、前記台車6を自走式の台車とした場合の一例を図4に示す長手方向移動用車輪11A及び周方向移動用車輪12Aに基づいて説明する。
【0029】
まず、台車6を構成する筐体10の内径は、鋼管1のフランジ部1Fを覆う外被部材2の外径よりもG1寸法大きく形成されている。前記長手方向移動用車輪11A及び周方向移動用車輪12Aは、長手方向に間隔を置いて設置されており、一方が外被部材2上を転動しているときに他方が転動しないように、上下する支柱19A,19Bに軸支されている。この支柱19A,19Bの上部には、駆動ベルト20A,20Bを介して駆動用モータ21A,21Bが設けられている。さらに、支柱19A,19Bには、垂直ギア22A,22Bが設けられている。
【0030】
一方、これら支柱19A,19Bの間の筐体10上には、車輪昇降手段23が設置されている。この車輪昇降手段23は、駆動モータ24と、揺動アーム25と、この揺動アーム25の先端に軸支され前記垂直ギア22A,22Bと噛み合う駆動ギア26と、前記駆動モータ24の動力を駆動ギア26に伝達する動力伝達ベルト27と、前記揺動アーム25を垂直ギア22A側及び垂直ギア22B側に転倒させる転倒アーム28と、この転倒アーム28を駆動する切替用マグネット29とを有している。
【0031】
上記構成において、今、台車6を周方向に移動させたい場合には、車輪昇降手段23を垂直ギア22A側に倒して、駆動モータ24を回転させて駆動ギア26によって垂直ギア22Aと共に支柱19Aを引き上げ、周方向移動用車輪12Aを駆動用モータ21Bで駆動するのである。反対に、台車6を長手方向に移動させたい場合には、車輪昇降手段23を垂直ギア22B側に倒して、駆動モータ24を回転させて駆動ギア26によって垂直ギア22Bと共に支柱19Bを引き上げ、周方向移動用車輪11Aを駆動用モータ21Aで駆動するのである。
【0032】
図5は、図1に示す制御判定装置9の機能図である。
【0033】
発錆部位検出手段7は、中性子照射部7Aからの中性子の照射のオン・オフを行う照射制御部30と、センサ部7Bで検出した熱中性子数の信号を処理して強弱を判定する熱中性子量処理部31と、中性子照射部7Aのオンと熱中性子量処理部31からの信号とのand条件で水分の有無を判定して出力する判定処理部32を有する。
【0034】
一方、減肉量測定手段8は、X線照射部8Aに高電圧を与える高圧電源33と、X線撮像部8で受けたX線の透過像データを処理する透過像データ処理部34と、透過像データに基づいて錆の状態をコントラスト比で判定する画像処理判定部35とを有する。
【0035】
そして、前記判定処理部32での水分有りの条件と画像処理判定部35の出力のand条件で鋼管1の減肉量の判定を有効とし、その減肉量の大小を表示部36に出力して表示する。したがって、制御判定装置9は、発錆部位検出手段7で水分の存在が確認されたことを条件に減肉量測定手段8による減肉量の測定を行う機能を有する。
【0036】
さらに、測定部位の位置決めは、駆動用モータ21A,21B、駆動モータ24、切替用マグネット29が存在するドライバ部37と、障害物検知センサ16,17による一検出部38と、回動マグネット18A,18Bのドライバ部39と、走行制御部40で統合し、走行プログラム41にしたがって総合制御部42で全体を統括して総合判定出力を行わせる。尚、SW1,SW2は、個別試験用のスイッチである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による表面が被覆された円筒部材の表面錆検出装置の第1の実施の形態を示し、(a)は概略側面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図。
【図2】図1に示す台車の詳細図で、(a)は側面図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図、(c)は(a)の底面図。
【図3】図2に示す筐体の詳細図で、(a)は底面図、(b)は(a)の左側面図。
【図4】図2に示す台車の走行部を示す詳細図で、(a)は縦断側面図、(b)は平面図。
【図5】図1に示す制御判定装置の機能図。
【符号の説明】
【0038】
1…鋼管、1F…フランジ、2…外被部材、3…断熱材、4…保護材、5…錆検出装置、6…台車、7…発錆部位検出手段、7A…中性子照射部、7B…センサ部、8…減肉量測定手、8A…X線照射部(放射線照射部)、8B…X線撮像部(放射線撮像部)、9…制御判定装置、10…筐体、11A,11B…長手方向移動用車輪、12A,12B…周方向移動用車輪、13…架台、14…支持座、15…フック、15A,15B…係合レバー、16,17…障害物検知センサ、16A,17A…ビーム照射部、16B,17B…ビーム受光部、18A,18B…回動マグネット、19A,19B…支柱、20A,20B…駆動ベルト、21A,21B…駆動用モータ、22A,22B…垂直ギア、23…車輪昇降手段、24…駆動モータ、25…揺動アーム、26…駆動ギア、27…動力伝達ベルト、28…転倒アーム、29…切替用マグネット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が外被部材で覆われた円筒部材の表面錆検出方法において、前記外被部材の上から円筒部材の表面の発錆部位を検出し、その後、前記外被部材の上から発錆部位における前記円筒部材の減肉量を測定することを特徴とする表面が外被部材で覆われた円筒部材の表面錆検出方法。
【請求項2】
表面が外被部材で覆われた円筒部材の表面錆検出方法において、前記外被部材の上から前記円筒部材の表面の残留水分量を測定して発錆部位を検出し、その後、前記外被部材の上から放射線を照射して発錆部位における前記円筒部材の減肉量を測定することを特徴とする表面が外被部材で覆われた円筒部材の表面錆検出方法。
【請求項3】
表面が外被部材で覆われた円筒部材の表面錆検出方法において、前記外被部材の上から前記円筒部材の表面の残留水分量を測定して発錆部位を検出し、その後、放射線の中心軸が前記円筒部材の発錆部位における表面の接線方向に沿うように前記外被部材の上から放射線を照射し、前記円筒部材の発錆部位における表面を透過した放射線を撮像手段に結像させ、撮像手段での結像を処理して前記円筒部材の減肉量を判定することを特徴とする表面が外被部材で覆われた円筒部材の表面錆検出方法。
【請求項4】
表面が外被部材で覆われた円筒部材の表面錆検出装置において、前記円筒部材の表面の発錆部位を前記外被部材の上から検出する発錆部位検出手段と、前記発錆部位における前記円筒部材の減肉量を測定する減肉量測定手段とを設けたことを特徴とする表面が被覆された円筒部材の表面錆検出装置。
【請求項5】
表面が外被部材で覆われた円筒部材の表面錆検出装置において、前記円筒部材の外被部材の外周を周方向及び長手方向に移動する台車を設け、この台車に、前記円筒部材の表面の発錆部位を前記外被部材の上から検出する発錆部位検出手段と、前記発錆部位における前記円筒部材の減肉量を測定する減肉量測定手段とを搭載したことを特徴とする表面が被覆された円筒部材の表面錆検出装置。
【請求項6】
表面が外被部材で覆われた円筒部材の表面錆検出装置において、前記円筒部材の外被部材の外周を周方向及び長手方向に移動する台車を設け、この台車に、前記外被部材の上から前記円筒部材の表面に中性子を照射して残留水分量を測定して発錆部位を検出する発錆部位検出手段と、前記発錆部位における円筒部材の表面の接線方向に放射線の中心軸が沿うように前記外被部材の上から放射線を照射して前記円筒部材の減肉量を測定する減肉量測定手段とを搭載したことを特徴とする表面が被覆された円筒部材の表面錆検出装置。
【請求項7】
前記台車は、前記円筒部材の外被部材と同心状に形成された筐体と、この筐体に軸支され前記筐体を前記外被部材に対して間隔をもって支持する複数の車輪とを備え、これら複数の車輪の一部に軸方向移動用の駆動車輪と周方向移動用の駆動車輪を設けたことを特徴とする請求項5又は6記載の表面が被覆された円筒部材の表面錆検出装置。
【請求項8】
前記台車は、前記外被部材に対して周方向に180度以上包囲するように断面C字状に形成された筐体を有し、この筐体の断面C字状の開口端同士を連結する連結手段を設けると共に、前記筐体の軸方向への移動の際に障害物の接近及び通過を検出して前記連結手段の連結・開放を行わせる障害物センサを設けたことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の表面が被覆された円筒部材の表面錆検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−76072(P2008−76072A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252401(P2006−252401)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】