説明

表面を修飾したインプラント

【課題】骨への固着の強度が高く、結合が達成されるまでの期間が短い骨形成性インプラントを提供する。
【解決手段】改良された骨結合の特性を有する骨形成性インプラント、チタン金属またはチタンをベースとした合金で作製され骨においての移植に適した該インプラント、およびヒドロキシル化された状態にある粗面化された表面が、少なくとも部分的に、各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ホスホノ基および/または水酸基の少なくとも2個の基を分子内に含む化合物、またはそのような化合物の混合物によって被覆されている前記インプラント。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、骨結合(osteointegration)の特性がかなり改善された、骨への挿入に使用される表面が修飾された骨形成性インプラント、およびその製造方法に関する。
【0002】
骨への挿入に使用されるインプラントは、例えば、腰または膝の関節の人工補綴物(prostheses)または義歯を固定するために顎にねじでとりつけるピンなどとして、それ自体が知られている。そのようなインプラントは、好ましくはチタン、またはチタンをベースとした合金、例えば、チタン/ジルコニウム合金などで構成され、後者は、ニオブ、タンタルまたはその他の組織適合性の金属添加物を付加的に含むことも可能である。そのようなインプラントの中心的な特性は、骨への固着の強度、および結合が達成されるまでの期間である。従って、骨結合は、インプラント表面と骨組織の摩擦によって生じる、堅く耐久性のある接合を意味する。
【0003】
骨へのインプラントの固定の堅さは、機械的な測定、すなわち延伸、圧縮、剪断または回転といった、外力を測定することにより、確認することができる。このような力は、骨に固定されたインプラントをその固着から抜き取り、またはネジをはずして取り去るために必要であるが、インプラントの表面とその上に接合した骨質の間の接着に亀裂をもたらす。そのような測定方法はそれ自体知られており、例えばBrunslkiのClinical Materials 第10巻、1992年、第153〜201頁に記載されている。測定は、滑らかな表面構造を有するチタンインプラントは、骨において軽微な固着を示したのみである一方で、粗面化された表面を有するインプラントは、強度に関連して、著しく改善された骨−インプラント接合もたらすことを示した。
【0004】
そのため、EP0388576は、インプラントの表面に、第1の工程でサンドブラスト(sandblast)によってマクロな粗面(macro−rougheness)化を施し、第2の工程で酸浴中での処理により、その上にミクロな粗面(micro−rougheness)を加えることを提案している。従って、該インプラントは、サンドブラストによる粗面化、およびその後のエッチング試薬、例えば、フッ化水素酸、または塩酸/硫酸の混合物により処理されうる。該方法により定義した粗面化が施された表面は、溶媒および水により洗浄され、殺菌処理される。
【0005】
チタンおよびチタンベースの合金の表面の化学的状態は複雑である。チタン金属の表面は、空気および水中で自然発生的に酸化され、その後、該表面上で水との反応が起こる、すなわち、最も外側の酸化物の原子層においては、水酸基の形成を伴っていると考えられている。水酸基を含む該表面上は、本願明細書においては、「ヒドロキシル化された」表面と表現されている。H.P.Boehm著、「Acidic and Basic Properties of Hydroxylated Metal Oxide Surfaces」(Discussion Faraday Society、第52巻、1971年、第264〜275頁)を参照されたい。
【0006】
今回、金属の異物は骨組織と摩擦的な結合を形成する、すなわち骨結合を受けるために、表面が酸化されたチタン金属または酸化されたチタンベースの合金は生物的に活性な特性を有することを発見した。
【0007】
このヒドロキシル化された表面が、各々独立に、第1級アミノ基(−NH)、第2級アミノ基(−NH−)、カルボキシル基(−COOH)、アミド基(−C(O)NH−)、ホスホノ基(−P(O)(OH))および/または水酸基の少なくとも2個の基を分子内に含んでいる化合物によって被覆されているとき、またはヒドロキシル化された表面が、少なくとも部分的に上記の化合物または上記化合物の混合物により被覆されているとき、驚くべきことに、当該ヒドロキシル化され、生物的に活性な表面は、本願発明にしたがって処理されず、空気中で通常どおりに乾燥された同様の表面と比べて、より長期にわたってその活性を保持すること、および骨質と結合し、著しくより迅速に強い接合を与えることが明らかになった。この方法により、改善された骨結合特性、特に促進された固定化反応もまた伴う骨形成性インプラントが得られる。および、本願発明に従って処理された、ヒドロキシル化されたインプラントの表面の生物活性は、該インプラントが挿入されるまで本質的には変化せず維持される。
【0008】
本願発明は、請求項により定義される。特に本願発明は、改善された骨結合特性または改善された骨結合を伴う、表面が修飾された骨形成性インプラントに関するものであり、該インプラントはチタン金属またはチタンベースの合金からなり、少なくとも部分的に粗面化された表面を有し、ヒドロキシル化された状態にある該表面が、各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ホスホノ基および/または水酸基の少なくとも2個の基を分子内に含んでいる化合物、またはそのような化合物の混合物よって、少なくとも部分的に被覆されていること、によって特徴づけられる。
【0009】
該化合物は、好ましくは2000を超えない分子量を有する。
【0010】
該表面は、好ましくは、気体または液体密閉性の包装材料(envelope)内に、インプラント表面に不活性な雰囲気中で、すなわち、該インプラントの表面の生物活性を損なうことができる化合物が包装材料内に存在しない状況で、封入されて保存される。
【0011】
包装材料の内側は、好ましくは、例えば、酸素、窒素、希ガスまたはそれらのガスの混合物などが充填される。しかし、包装材料の内側は、場合によっては添加物を含んでいてもよい純水が、少なくとも部分的には注入されていてもよく、この場合、存在する水の量は、少なくとも、粗面化されたインプラントの表面を濡らすことが確実な程度である。包装材料の内側の残りの空間は、例えば、酸素、窒素、希ガスまたはそれらのガスの混合物などの、該インプラントの表面に対して不活性なガスが充填される。
【0012】
包装材料の内側に存在する純水は、好ましくは、1または複数の添加剤として、各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ホスホノ基および/または水酸基の少なくとも2個の基を分子内に含んでいる少なくとも1個の化合物、またはそのような化合物の混合物、すなわち、本願発明に従っての処理および少なくとも部分的にインプラントの表面を被覆することに用いることができる少なくとも1個の化合物を含む。
【0013】
本願発明は、また、本願発明にかかるインプラントの製造方法および本願発明に従って製造されるインプラントにも関する。
【0014】
本願発明にかかるインプラントは、好ましくはチタンをベースとした合金、好ましくはチタン/ジルコニウム合金からなり、当該合金は、加えて、ニオブ、タンタルまたはその他の組織適合性の金属性の添加物を含むことができる。これらのインプラントは、好ましくは腰または膝の関節の人工補綴物または義歯を固定するために顎にねじでとりつけるピンとして用いられる。このようなタイプのインプラント、その特性および製造に用いられる金属材料は、広く知られており、例えばJ.Black、G.Hanstings著、「Handbook of Biomaterials Properties」、第135〜200頁(Chapman&Hallにより出版、ロンドン、1998年)に記載されている。
【0015】
骨においてのインプラントの適切な固定が、かなりの部分においてインプラントの表面の特性、特に粗度に依存することが、研究により示されている。本願発明によれば、本願発明に従って処理された表面の生物活性は、表面の粗度の本質的な物理的効果を相乗的に補完し、骨結合において著しい改善をもたらす。本願発明の歯のインプラントは、好ましくは、例えば表面上のネジ山またはくぼみなどの、マクロな粗面(macro−roughness)を有し、該マクロな粗面は、例えば機械的な処理および構成、ショットピーンまたはサンドブラストにより得ることができる。加えて、該粗面化された表面は、好ましくは重なり合ったミクロな粗面(micro−roughness)を有し、該ミクロな粗面は、好ましくは表面の化学的エッチングまたは電気化学的な(電解質の:electrolytic)処理またはこれらの方法の組み合わせによって形成される。これにより、表面はヒドロキシル化され、同時に親水性にもなる。該ヒドロキシル化された表面は、本願発明に従って、各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ホスホノ基および/または水酸基の少なくとも2個の基を分子内に含んでいる化合物、またはそのような化合物の混合物を用いて処理される。
【0016】
ヒドロキシル化された表面は、例えば望ましい粗面または構成の表面を準備すること、特に、最初にショットピーン、サンドブラストおよび/またはプラズマ技術の使用により、その後に機械的に粗面化された表面を、ヒドロキシル化および親水性化された表面が形成されるまで、電解的または化学的方法により処理することにより、形成できる。該インプラントは、好ましくは無機酸または無機酸の混合物、好ましくはフッ化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸またはそれらの酸の混合物を用いてエッチングされる。あるいは約1:1:5の重量比の塩酸、過酸化水素および水を用いて、表面は活性化される。
【0017】
製造方法は好ましくは以下の通りである。
【0018】
インプラントはショットピーンされ、続いて希フッ化水素酸により室温でエッチングされ、蒸留されてCOが除去された純水で洗浄される;または、
インプラントは、例えば0.1−0.25mmまたは0.25−0.5mmの平均粒子径を有するアルミナ粒子を用いてサンドブラストされ、続いて塩酸/硫酸混合物により昇温下で処理され、蒸留されてCOが除去された純水で洗浄される;または、
インプラントは、例えば既に定義した粒子の混合物の粗い粒子を用いてサンドブラストされ、続いて塩酸/硝酸混合物により昇温下で処理され、蒸留されてCOが除去された純水で洗浄される;または、
インプラントは、約1:1:5の重量比の塩化水素、過酸化水素および水の混合物で処理され、蒸留されてCOが除去された純水で洗浄される;または、
インプラントは、プラズマ技術を用いることにより粗面化され、続いて約1:1:5の重量比の塩化水素、過酸化水素および水の混合物中でヒドロキシル化され、蒸留されてCOが除去された純水で洗浄される;または、
必要に応じて表面があらかじめ機械的に粗面化されたインプラントは、電解的方法により処理され、続いて蒸留されてCOが除去された純水で洗浄される。
【0019】
全ての場合において、該インプラントとそのヒドロキシル化された表面は、本願発明に従って直接的に、各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ホスホノ基および/または水酸基の少なくとも2個の基を分子内に含んでいる化合物、またはそのような化合物の混合物を用いて処理される。特に、該インプラントおよびそのヒドロキシル化された表面は、アルコール、アセトンまたは他の有機溶媒または消毒薬で処理されず、またはヒドロキシル化され親水性の表面に対して不活性でなく例えば親水的な表面の特性を低下または破壊する、例えば炭化水素などの、ガス状物質または空気にさらされない。該製造方法で使用される「純水」は、二酸化炭素および炭化水素の蒸気をともに含まず、メタノールまたはエタノールなどのアルコール、およびアセトンまたは関連するケトンも含まない。しかし、当該純水は以下に記載する特定の添加物を含んでもよい。
【0020】
洗浄に用いられる「純水」は、好ましくは数回蒸留されるかまたは逆浸透で調製され、好ましくは不活性な雰囲気下、すなわち、例えば減圧下、窒素または希ガス雰囲気下で調製された水である。特に、当該純水は少なくとも2mohmcmの電気抵抗(電気抵抗>2mohmcm)を有し、有機体炭素の総含有量(総有機体炭素:total organic carbon、TOC)は10ppbを超えない(≦10ppb)。
【0021】
洗浄工程の後に、得られたインプラントは、好ましくは、場合によっては添加物を含んでいてもよい純水中に保存される。得られたインプラントは、好ましくは、例えば窒素、酸素または、例えばアルゴンのような希ガスといったインプラントの表面に対して不活性な気体が充填された、密閉された包装材料中に、および/または場合によっては添加物を含んでいてもよい純水中に、本願発明による更なる工程まで保存される。包装材料は、好ましくは気体および液体に対して実質的に不浸透性である。
【0022】
ヒドロキシル化された表面を有するインプラント、またはインプラントのヒドロキシル化された表面は、本願発明に従ってヒドロキシル化された状態で、各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ホスホノ基および/または水酸基の少なくとも2個の基を分子内に含んでいる化合物、またはそのような化合物の混合物を用いて処理され、少なくとも部分的にこれらの化合物またはこれらの化合物の混合物によって被覆されている。さらに、これらの化合物は、1またはそれ以上のヒドロスルヒド基(−SH)もまた含んでいてもよい。これらの化合物は、意図する医薬品としての目的について医薬品として承認されていなければならない。
【0023】
ヒドロキシル化されたインプラントの表面の処理に好ましい化合物は、各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基および/またはホスホノ基である少なくとも2個の基を分子内に含んでいる。より好ましい化合物は、各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基および/またはアミド基である少なくとも2個の基を分子内に含んでいる化合物である。特に好ましい化合部は、各々異なる少なくとも2個の基を分子内に含んでいる化合物である。ホスホニウム化合物、アミノ酸およびポリアミノ酸、特にアミノ酸またはポリアミノ酸が好ましい。これらの化合物の分子量は、既に述べたとおり、好ましくは2000までの範囲内、好ましくは60〜1500の範囲内、好ましくは200〜1100の範囲内である。
【0024】
少なくとも1個の第1級および/または第2級アミノ基を有する化合物は、例えばエチレンジアミン、トリメチレンジアミン、HNCHCHNHCHCHNHのような式HN[(CH1−3NH]1−4(CH1−3NHの化合物、および関連するまたはホモローグの化合物である。
【0025】
少なくとも1個のカルボキシル基および少なくとも1個の水酸基を有する化合物は、例えばグリコール酸、ベータ−ヒドロキシプロピオン酸、ベータ−ヒドロキシ酪酸、ガンマ−ヒドロキシ酪酸または6−ヒドロキシカプロン酸などの1〜12個の炭素原子を有するヒドロキシカルボン酸である。
【0026】
少なくとも1個のカルボキシル基および少なくとも1個のアミノ基を有する化合物は、それ自体知られているアミノ酸、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン、システイン、リシン、ヒスチジン、およびその他のそれ自体知られているアミノ酸である。さらなる例としては、ガンマ−アミノ酪酸またはアミノサリチル酸が挙げられる。
【0027】
少なくとも1個のアミド基を有する化合物は、例えば低分子量のポリアミノ酸(ポリペプチド)、好ましくは、例えば2〜10のアミノ酸、好ましくは3、5または7のアミノ酸からなる低分子量のポリアミノ酸である。そのようなポリアミノ酸は非常に多数知られており、例えばLys−Lys−Arg、Arg−Gly−Asp、Leu−Gly−Asp、Leu−Asp−Val、Gly−Arg−Gly−Asp−Ser、Gly−Arg−Gly−Asp−Tyr、Val−Arg−Gly−Asp−Glu、Val−Arg−Gly−Asp−Phe、Arg−Glu−Asp−Arg−Val、Arg−Gly−Asp−Phe−Val、Arg−Gly−Asp−Phe−Lys、Arg−Gly−Asp−Ser−Lys、Arg−Ala−Asp−Phe−Val、Tyr−Ile−Gly−Ser−Asp、Ile−Lys−Val−Ala−Val、Arg−Glu−Asp−Arg−Val、Asp−Gly−Glu−Ala−Lys、Lys−Gln−Ala−Gly−Asp、Gly−Arg−Gly−Asp−Ser−Pro−Cys、Phe−His−Arg−Arg−Ile−Lys−Alaなどが挙げられる。好ましいポリアミノ酸は、Arg−Gly−Asp、またはLeu−Asp−Val、またはArg−Glu−Asp−Arg−Val、またはPhe−His−Arg−Arg−Ile−Lys−Alaのシークエンスを有している。適切なポリアミノ酸は、植物または動物のゼラチンの生産の結果物のような低分子量のタンパク質のフラクションと同様である。特に適切なポリペプチドは、インプラント表面と反応性を有する末端基の間の最小距離が少なくとも約3.5nm(ナノメートル)であるものである。
【0028】
同様に適切なものは、例えばシクロ(Arg−Gly−Asp−[D−フェニルアラニン]−Lys)、またはシクロ(Arg−Gly−Asp−[D−バリン]−Lys)、またはシクロ[D−Val−Arg−Gly−Asp−Glu(−εAhx−Tyr−Cys−NH−)]であり、好ましくは該環状ポリアミノ酸がアンカー基を有する直鎖ポリペプチド基に接続している、環状の形態のポリアミノ酸である。ポリアミノ酸は、例えばイプシロン−アミノヘキサン酸または例えば2量体または3量体の当該酸のポリマーとの反応により、または3−メルカプト酪酸、エチレングリコールユニットまたはジエチレングリコールユニットとの反応により、他のスペーサーに連結していてもよい。式(−NH−CHCHOCHCHOCHC(O)OH)の基および類似の基は、末端基として適切である。
【0029】
同様に適切なものは、式R−C(O)NHOH(式中、Rは[HO(CHCHO)1−4(CH1−4]−である)のヒドロキサム酸である。本願発明の意味する範囲において、ヒドロキサム酸は、アミド基(−C(O)NH−)を有する化合物の中に含まれる。ホスホノ基を有する化合物は、例えば式R−P(O)(OH)(式中、Rは[HO(CHCHO)1−4(CH1−4]−である)の化合物である。そのような化合物の例は、式HOCHCH(OCHCHOCHC(O)NHOHまたはHOCHCH(OCHCHOCHP(O)(OH)である。
【0030】
上述した、各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ホスホノ基および/または水酸基の少なくとも2個の基を分子内に含んでいる化合物は、好ましくは2000を超えない分子量を有し、好ましくは60〜1500の範囲内であり、好ましくは200〜1100の範囲内である。
【0031】
上述の化合物のうち多くは、一般式(I):

(A)(C2n+2−p−r)(B) (I)、

(式中、同一分子中の独立の置換基Aは、各々独立に、カルボキシル、ホスホノ、−C(O)NHOH、フェニル、ヒドロキシフェニル、4−イミダゾリル、グアニジノおよび/または3−インドリルであり;好ましくは、カルボキシル、ホスホノ、フェニル、ヒドロキシフェニル、4−イミダゾリル、グアニジノおよび/または3−インドリルであり;
同一分子中の独立の置換基Bは、各々独立に、ヒドロキシル、アミノ(−NH−/NH)、アミド(−C[O]NH−)、ヒドロキシメチル(−CHOH)および/またはヒドロスルヒド(−SH)であり;好ましくは、ヒドロキシル、アミノおよび/またはアミドであり、
nは、1〜12の整数であり、好ましくは、1〜8であり、好ましくは、1、2、3または4であり;
pは、0、1、2、または3であり、
rは、0、1、2、または3であり、
[p+r]の合計は、2〜6の整数であり、好ましくは、2、3または4であり;
2n+2−p−rは、少なくとも1であり、好ましくは少なくとも2である)
の化合物として表すことができる。基(C2n+2−p−r)は、好ましくは直鎖またはイソプロピルである。
【0032】
同様に適切なものは、一般式(II)または式(IIa):

(D−L)(OCHCHO)(CHCHO)(Q−G) (II)、

(D−L)(OCHCHCHO)(CHCHCHO)(Q−G) (IIa)、

(式中、同一分子中の独立の置換基Dは、各々独立に、カルボキシル、ホスホノ、または−C(O)NHOHまたはGの意味する置換基であり;好ましくは、カルボキシル、ホスホノ、または−C(O)NHOHであり;好ましくは、カルボキシルまたはホスホノであり;
同一分子中の独立の置換基Gは、各々独立に、水素原子、アミノ(−NH)、アミド(−C(O)NH)、ヒドロキシメチル(−CHOH)、ヒドロスルヒド(−SH)またはDの意味する置換基であり;好ましくは、水素原子、アミノ、アミド、ヒドロキシメチル、ヒドロスルヒドであり;好ましくは、水素原子、アミノまたはアミドであり;
LおよびQは、各々独立に、直接結合、または置換基Dおよび/もしくはGを連結するための連結基であり、好ましくは−(C2n)−であり、ここで式中のnは、1〜8の整数であり、好ましくは、−CH−または−CHCH−であり;
mは、0または1〜8の整数であり、好ましくは0、1、2、3、4または5であり、好ましくは、0または1であり、好ましくは0である)
Gが水素原子またはヒドロキシメチレンのとき、好ましくはLおよびQは、直接結合である。DおよびGが他の意味を持つとき、好ましくはLおよびQは−(C2n)−である。
【0033】
式(II)の化合物の例は前述の項で既に述べている。
【0034】
好ましいのは、アミノ酸およびポリアミノ酸であり、特にArg−Gly−Aspのシークエンスを有するポリアミノ酸、例えばArg−Gly−Aspそれ自体、Gly−Arg−Gly−Asp−SerまたはArg−Gly−Asp−Arg−Gly−Aspである。
【0035】
金属表面の同定および分析の方法はそれ自体知られている。これらの方法は被覆密度の測定、確認および観察にも用いることができる。そのような分析方法もそれ自体知られており、例えば赤外分光法、レーザー脱離質量分析(LDMS)、X線励起光電子分光法(XPS)、マトリックス支援レーザーイオン化質量分析法(MALDI)、飛行時間二次イオン質量分析法(TOFSIMS)、電子およびイオンミクロ分析、光導波路光モード分光法(optical waveguide light mode spectroscopy:OWLS)、X線光電子回折(XPD)の使用などが挙げられる。これは、例えば金属表面上で利用可能なチタン原子または水酸基の測定に使用できる。金属表面上で利用可能な金属原子または水酸基は、通常、単分子層(「単層」)による表面の最大被覆密度を与える。それ自体知られている既に述べた分析方法は、金属表面の化学組成、その前処理および化学吸着した化合物に依存する、単分子膜の濃度および厚さを測定するために用いられる。従って、例えば、酸化チタンは、酸または塩基との反応で、表面のnmごとに約4〜5の反応性の基を有する。このことは酸化チタンの表面は、表面のnmごとにアミノ酸またはポリアミノ酸の約4分子により被覆されうることを意味している。本願発明に従えば、上述した化合物の単分子層を用いての金属表面の最大被覆に対して、単に5%〜70%の被覆が存在することが好ましい。本願発明に従えば、上述した化合物の単分子層を用いての金属表面の最大被覆に対して、10%〜50%の被覆、特に約20%であることが特に好ましい。その意味では、金属表面は、「遊離の」水酸基を保持し続けることで、少なくとも部分的にヒドロキシル化された状態を保持し続け、2つの効果の組み合わせは、インプラントに非常に優れた骨結合の特性を与える。
【0036】
各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ホスホノ基および/または水酸基の少なくとも2個の基を分子内に含んでいる化合物、またはそのような化合物の混合物は、適した方法、例えば水溶液から、または有機溶媒から、または純粋な化合物または純粋な化合物の混合物を噴霧する方法によって、インプラントのヒドロキシル化された表面上に塗布される。該化合物はこのようにしてヒドロキシル化された表面に吸収または結合される。この関連において「結合した」(bound)とは、化合物が、直接的に水で洗い流すことによっては除去されないことを意味する。該化合物においては、ヒドロキシル化された金属表面に水または有機溶媒の溶液中で非常に低い濃度、化合物によるが、0.01μmol/l(マイクロモルパーリットル)またはそれ以上のオーダーで、例えば0.01μmol/l〜約100μmol/l、好ましくは0.1μmol/l〜約10μmol/l、好ましくは約1μmol/lで、所望の被覆を形成するために、接触させることで十分である。しかし、これらの濃度の限定は重要ではない。前記化合物によって達成されている、表面の被覆密度は、特に液体担体中の化合物の濃度、接触時間および接触温度、および酸の値(pH値)を用いて決定される。
【0037】
この意味では、本願発明はまた、インプラントの表面をショットピーン、サンドブラスト、および/またはプラズマ技術を用いて粗面化することにより本願発明に係るインプラントを製造する方法で、
(i) 機械的にまたはプラズマ技術により粗面化された表面が、ヒドロキシル化された表面が形成されるまでに、電解質または化学的エッチングの工程、好ましくは無機酸または無機酸の混合物、好ましくはフッ化水素酸、塩酸、リン酸、硝酸、またはこれらの酸の混合物、または重量比が約1:1:5である塩化水素、過酸化水素および水、により処理されること、および、
(ii) 上述の、少なくとも2個の基を含む化合物、または当該化合物の混合物により、表面が少なくとも部分的に被覆されていること、
により特徴づけられる、前記方法に関連する。
【0038】
上記化合物、または上記化合物の混合物によるヒドロキシル化された金属表面の被覆は、化学吸着または化学結合によって説明することができる。このことは、例えば式:
≡TiOH + −CH2C(O)OH → ≡TiOC(O)CH2− + H2O
(式中、≡Ti−は金属表面の金属イオンをである。)
に従う、加えた化合物の反応性基が金属表面に存在する水酸基との縮合反応を起こすことを意味する。両性の性質は、表面を取り巻く電解質の酸性度に依存する当該表面に由来し、電解質中の酸とヒドロキシルの酸化物表面上の塩基性反応を伴う、または電解質中のアニオンとヒドロキシルの酸性反応を伴う相互作用が存在する。該表面反応は、共有結合の形成、静電的効果および/または水素結合の形成によって説明される。しかし、本願発明はこのような説明に縛られるものではない。明白な事実は、明細書中に記載した表面処理が、ヒドロキシル化された表面の生物活性を保持し、改善することである。
【0039】
分子中に少なくとも2個の基を含む上述の化合物、またはこれらの化合物の混合物を金属表面に結合させるために、好ましくは該表面を、当該化合物を水または有機溶媒の溶液で、好ましくは水溶液による湿式で、または純粋な化合物をスプレーすることにより、該化合物が塗布される。必要に応じた圧力下で、必要に応じて約70℃〜120℃の温度での加熱がなされる。表面への該化合物の結合は、UV照射によっても同様に促進される。さらなる方法は、該化合物の性質に依存するが、酸性または塩基性の水溶液から表面に該化合物を塗布することより成る。この場合、当該溶液は、好ましくは2と4の間または8と11の間の酸性度(pH値)を有する。該インプラントは、続いて必要に応じた圧力下で、必要に応じて約70℃〜120℃の温度で加熱され、またはUV照射で処理されうる。
【0040】
本願発明に係るインプラント、少なくとも本願発明によるその表面の被覆は、好ましくは気体および液体密閉性の包装材料に封入され、包装材料の内側にはインプラント表面の生物活性を損なうことができる化合物は存在しない、すなわち、インプラント表面に不活性であるのが好ましい。この気体および液体気密性の包装材料は、好ましくは、ガラス、金属、合成ポリマーまたはその他の気体および液体密閉性の材料またはその組み合わせでできた密封したアンプルである。該金属は、好ましくは薄い金属のシートの形状であり、ポリマー材料と金属製のシートを組み合わせることができ、ガラスもまた、それ自体知られた方法で適した包装を形成するために、各々と組み合わせることができる。
【0041】
包装材量の内側は不活性な雰囲気であり、不活性ガスおよび/または少なくとも部分的に、場合によっては添加物を含んでいてもよい純水が充填されているのが好ましい。本願発明に従って保存を改善するために純水に添加されうる、適当な添加剤は、特に、分子中に各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ホスホノ基および/または水酸基の少なくとも2個の基を有する化合物、またはこれらの化合物の混合物、および特に前記インプラントの表面を被覆している化合物または化合物の混合物と、同じ化合物または混合物である。この場合、純水は前記化合物または化合物の混合物を、好ましくは約0.01μmol〜100μmolの範囲の濃度で、好ましくは約0.1μmol〜10μmolおよび好ましくは1μmolの濃度で含む。
【0042】
本願発明に従って純水に添加されるより適した添加物は、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩素酸ナトリウムまたはカリウム、硝酸ナトリウムまたはカリウム、リン酸ナトリウムまたはカリウムもしくはそれらの塩の混合物のような無機塩の形態で適切なアニオンを伴った、NaまたはK、またはNaおよびKの混合物のような1価のアルカリ金属カチオンである。同様に、水溶性の無機塩の形態の2価のカチオンを添加することも可能である。適したカチオンは、特に、塩化物、塩素酸塩、硝酸塩またはそれらの混合物の形態のMg+2、Ca+2、Sr+2および/またはMn+2である。適した無機のアニオンは、上述のカチオンを伴う組み合わせとしての、モノオルソリン酸アニオンおよびジオルソリン酸アニオン、およびモノオルソホスホン酸アニオンおよびジオルソホスホン酸アニオンをもまた各々の場合意味する、リン酸またはホスホン酸アニオンである。
【0043】
好ましい無機のカチオンおよびアニオンは、特に各生理濃度で、および好ましくは4〜9の範囲の生理的酸性度で、および好ましくは6〜8の生理的酸性度で、既に体液に存在するものである。好ましいカチオンは、Na、K、Mg+2またはCa+2である。好ましいアニオンはClである。前記カチオンおよびアニオンの総量は、好ましくは各々の場合において、約50mEq/l〜250mEq/lの範囲内、好ましくは約100mEq/l〜200mEq/l、好ましくは約150mEq/lである。ここで、Eq/lは、(式)当量((formula)equivalent weight)を意味し、およびEq/lは、式単位の原子量を価数で割ったものに相当する。mEq/lはリットルごとのミリ当量を意味する。包装材量が2価のカチオン、特にMg+2、Ca+2、Sr+2および/またはMn+2を、単独または上述の1価のカチオンとの組み合わせで含む場合は、存在する2価のカチオンの総量は、好ましくは1mEq/l〜20mEq/lの範囲内である。同様に上述の有機化合物は、純水に溶解している既述の無機塩の混合物中に存在することもでき、この場合、存在する添加物の既述の濃度はやはり適用され、通常はそれで十分である。
【0044】
金属本体の有効表面領域(effective surface area)の測定方法は、それ自体知られている。従って、例えば電気化学的測定方法が知られており、詳細はP.W.Atkins著「Phisical Chemistry」(Oxford University Press、1994年)に記載されている。有効表面領域をハイブリッドパラメーターLrの二乗、すなわち、粗さ曲線の展開長さ率(profile−length ratio)の二乗として粗度の測定から求めることも可能である。該パラメーターLは、ドイツ工業規格4762に、展開された2次元的形状の長さと測定距離の長さの比として定義されている。しかし、当該測定の必須条件は、測定方法の垂直方向および水平方向の解像度が、1μm以下であること、および実際0.1μmに近いことである。
【0045】
全てのこれらの測定方法の対照領域は、平らで磨かれた表面である。平らで磨かれた表面の測定値と比較される粗面化された表面の測定値は、平らで磨かれた表面と比べてどれほど粗面化された表面が優れているかを示す。本願発明にかかるインプラントの骨形成の特性は、平らで磨かれた表面と比べて、粗面化された表面が好ましくは少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍の大きさのとき、特に高いということを、本願発明のインプラントについての骨細胞を用いたin vitroの研究および組織形態計測的なin vivoの研究は示す。粗面化されたインプラントの表面は平らで磨かれた表面と比べて、好ましくは少なくとも2〜12倍、好ましくは約2.5〜6倍の大きさである。
【0046】
実験室または病院での加工のために、工業的に製造されるチタンまたはチタン合金の表面は、通常、本質的には炭素化合物および痕跡量の窒素、カルシウム、硫黄、リンおよびケイ素からなる不純物を有している。当該不純物は、最外の金属酸化物層において集結している。ヒドロキシル化され、親水性のインプラントの表面は、XPSまたはAESまたはそれ自体知られているその他の方法などの分光学的方法によって測定される炭素が、好ましくは20原子%を超えない量含む。
【0047】
以下の実施例は、本願発明を説明するものである。
【実施例】
【0048】
実施例1
A) 4mmの直径、10mmの長さのねじ込み式の歯のインプラントの慣用の形式を製造した。基本形式はそれ自体既知の方法で、旋削により材料を取り除き、円筒形の予備的形成品(プレフォーム:preform)を機械加工することにより入手した。骨に挿入される表面を、平均粒径0.25−0.50mmの粒子を用いてサンドブラストすることにより、EP0388576に記載された様なマクロな粗面化を施した。続いて、粗面化された表面(マクロな粗面)を、HCl:HSO:HOの比が2:1:1の塩酸/硫酸水性混合物により約80℃の温度で約5分間処理し、0.15MのNaClをn含む水性電解質中のボルタンメトリーを測定することにより、粗面化したインプラント表面の対照のインプラント表面に対する比は3.6となった(0.1MのNaSO電解質中のインピーダンススペクトロメトリーによって測定した3.9の比に対応している)。このようにして形成したインプラントを水で洗浄した。
【0049】
B) 続いて、セクションA)で得られたインプラントを、ソクスレー中の酸性溶液の、化合物(HO)(O)P(CHCOOH(既知の方法で調製)を100μmol/lの濃度で含む純水からなる溶液中で、窒素雰囲気下2時間煮沸した。インプラントを取り除いて、窒素雰囲気下純水で洗浄した。測定により金属表面の約30%が被覆したことが明らかになった。このインプラントを次に:
a) 純水で満たされたガラスアンプルに直接封入し、4週間後に開封し、移植した;
b) 0.2Mの重炭酸ナトリウムでpH=9に調整され、ペンタペプチドGly−Arg−Gly−Asp−Serを1μmol/lの濃度で含む純水で満たされたガラスアンプルに直接封入した。該ガラスアンプルは4週間後に開封し、簡単に生理食塩水で洗浄し、移植した;
c) セクションA)に記載した処理の完了後、周囲の空気で乾燥し、移植した(対照実験)。
【0050】
試験a)、b)およびc)の試験の記載の通りに得たインプラントは、ミニ豚の上顎に移植した。骨への固着は、ミニ豚の上顎に移植したネジのゆるめトルク(loosening torque)として測定した。得られた結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
固着は、ゆるめトルクとしてNcmで示されている(平均値)。
【0053】
試験a)およびb)(本願発明のインプラント)の結果として、上記の結合時間に対応するゆるめトルクは、試験c)のものより明らかに高いことが示されている。これらはより短い結合時間および促進された骨結合を示している。
【0054】
実施例2
A) インプラントの表面は、実施例1、セクションA)に記載されたとおりに調製された。
【0055】
B) 続いて、セクションA)で得られたインプラントを、ソクスレー中の酸性溶液の、化合物HOCHCH(OCHCHOCHC(O)NHOH(既知の方法で調製)を10μmol/lの濃度で含む純水からなる溶液中で、窒素雰囲気下2時間煮沸した。インプラントを取り除いて、窒素雰囲気下純水で洗浄した。測定により金属表面の約20%が被覆したことが明らかになった。このインプラントを次に:
d) 純水で満たされたガラスアンプルに直接封入し、4週間後に開封し、移植した;
e) 0.2Mの重炭酸ナトリウムでpH=9に調整され、環状のペンタペプチドAsp−Ser−Lys−Arg−Glyを0.1〜1μmol/lの濃度で含む純水で満たされたガラスアンプルに直接封入した。該ガラスアンプルは4週間後に開封し、簡単に生理食塩水で洗浄し、移植した;
f) セクションA)に記載した処理の完了後、周囲の空気で乾燥し、移植した(対照実験)。
【0056】
試験d)、e)およびf)の試験の記載の通りに得たインプラントは、ミニ豚の上顎に移植した。骨への固着は、ミニ豚の上顎に移植したネジのゆるめトルク(loosening torque)として測定した。得られた結果を表1に示された値にほとんど一致した。
【0057】
実施例3
セクションB)の化合物(HO)(O)P(CHCOOHをペンタペプチドGly−Arg−Gly−Asp−Serに置き換えたことを除いて、実施例1を繰り返した。表1のものと同様の結果が得られた。
【0058】
実施例4
セクションB)の化合物HOCHCH(OCHCHOCHC(O)NHOHを環状ペンタペプチドAsp−Ser−Lys−Arg−Glyに置き換えたことを除いて、実施例2を繰り返した。表1のものと同様の結果が得られた。
【0059】
実施例5
対照の磨いた表面に対する、粗面化したインプラント表面の比が1.9(0.1M NaSO電解質中のインピーダンススペクトロメトリーによって測定した)であるインプラントを製造したことを除いて、実施例1〜4(各々の場合のセクションA)およびB))を繰り返した。この目的のために、インプラント表面は旋削により単に機械的に切断されたのみであり、続いて、実施例1に示されたとおりにエッチングした。この方法で得られたインプラントは、純水で洗浄された。このインプラントを次に:
g) 0.2Mの重炭酸ナトリウムでpH=9に調整され、ペンタペプチドGly−Arg−Gly−Asp−Serを0.1〜1μmol/lの濃度で含む純水で満たされたガラスアンプルに直接封入した。該ガラスアンプルは4週間後に開封し、簡単に生理食塩水で洗浄し、移植した;
h) 周囲の空気で乾燥し、移植した(対照実験)。
【0060】
試験g)およびh)で得られたインプラントは、ミニ豚の上顎に移植した。骨への固着は、ミニ豚の上顎に移植したネジのゆるめトルク(loosening torque)として測定した。得られた結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
固着は、ゆるめトルクとしてNcmで示されている(平均値)。
【0063】
試験g)(本願発明のインプラント)の結果として、上記の結合時間に対応するゆるめトルクが、試験h)のものより明らかに高いことが示されている。歯科手術において上部構造を構築するために、少なくとも35Ncmのゆるめトルクが確実に必要であるとされると仮定すれば、本願発明のインプラントでは、遅くとも3週間後にはその値を達成されている。
【0064】
実施例6
実施例1および2に類似の試験を、各々の場合において化合物(HO)(O)P(CHCOOH(実施例1において)および化合物HOCHCH(OCHCHOCHC(O)NHOH(実施例2において)を、グリシン(分子量[MW]:75.07)、セリン(MW:105.09)、Lys−Lys−Arg(MW:466.58)、アミノサリチル酸、エチレンジアミンおよび乳酸によって置き換えて行った。それぞれの場合において、表1に示した結果と同様の結果が得られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン金属またはチタンをベースとした合金で作製された骨形成性インプラントであって、少なくとも一部に粗面化された表面を有し、ヒドロキシル化された状態の該表面が、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ホスホノ基、および/または水酸基を、各々独立に少なくとも2個の基として分子中に含む化合物、または該化合物の混合物に、少なくとも部分的に被覆されていることにより特徴づけられる、前記骨形成性インプラント。
【請求項2】
前記インプラントが、場合によってはさらにニオブ、タンタルまたは組織適合性の金属添加物を含んでいてもよい、チタン/ジルコニウム合金からなることにより特徴づけられる、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記インプラントがマクロな粗面を有し、ミクロな粗面がマクロな粗面に重なり合っており、ここで該ミクロな粗面は表面の化学的なエッチングおよび/または電解処理の手段により作製され、好ましくは無機酸又は無機酸の混合物、好ましくはフッ化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸またはそれらの酸の混合物を用いてのエッチング、あるいは重量比が約1:1:5の塩酸、過酸化水素および水を用いての表面の処理によるものであることにより特徴づけられる、請求項1または2のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項4】
分子中に少なくとも2個の基を含む前記化合物が、以下の化合物の群:
エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、式HN[(CH1−3NH]1−4(CH1−3NHの化合物で好ましくはHNCHCHNHCHCHNH、および関連するまたはホモローグの化合物;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンおよび関連するもしくはホモローグの化合物、
から選択されることにより特徴づけられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項5】
分子中に少なくとも2個の基を含む前記化合物が、以下の化合物の群:
1〜12個の炭素原子を有するヒドロキシカルボン酸で好ましくはグリコール酸、ベータ−ヒドロキシプロピオン酸、ベータ−ヒドロキシ酪酸、ガンマ−ヒドロキシ酪酸、6−ヒドロキシカプロン酸;既知のアミノ酸で好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン、システイン、シスチン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リシン、ヒスチジン、ガンマ−アミノ酪酸および/またはアミノサリチル酸、
から選択されることにより特徴づけられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項6】
分子中に少なくとも2個の基を含む前記化合物が、好ましくは2〜10のアミノ酸、好ましくは3、5または7個のアミノ酸、によって構成される低分子量のポリアミノ酸の群、好ましくはLys−Lys−Arg、Arg−Gly−Asp、Leu−Gly−Asp、Leu−Asp−Val、Gly−Arg−Gly−Asp−Ser、Gly−Arg−Gly−Asp−Tyr、Val−Arg−Gly−Asp−Glu、Val−Arg−Gly−Asp−Phe、Arg−Glu−Asp−Arg−Val、Arg−Gly−Asp−Phe−Val、Arg−Gly−Asp−Phe−Lys、Arg−Gly−Asp−Ser−Lys、Arg−Ala−Asp−Phe−Val、Tyr−Ile−Gly−Ser−Asp、Ile−Lys−Val−Ala−Val、Arg−Glu−Asp−Arg−Val、Asp−Gly−Glu−Ala−Lys、Lsy−Gln−Ala−Gly−Asp、Gly−Arg−Gly−Asp−Ser−Pro−Cys、Phe−His−Arg−Arg−Ile−Lys−Ala、
から選択されることにより特徴づけられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項7】
前記ポリアミノ酸が、Arg−Gly−Asp、またはLeu−Asp−Val、またはArg−Glu−Asp−Arg−Val、またはPhe−His−Arg−Arg−Ile−Lys−Alaのシークエンスを有することにより特徴づけられる、請求項6に記載のインプラント。
【請求項8】
前記ポリアミノ酸が、植物または動物性のゼラチンの生成の結果物のような低分子量のタンパク質のフラクションを表すことにより特徴づけられる、請求項6に記載のインプラント。
【請求項9】
前記ポリアミノ酸が、環状ポリアミノ酸で好ましくはシクロ(Arg−Gly−Asp−[D−フェニルアラニン]−Lys)、またはシクロ(Arg−Gly−Asp−[D−バリン]−Lys)、またはシクロ[D−Val−Arg−Gly−Asp−Glu(−εAhx−Tyr−Cys−NH−)]であり、好ましくは該環状ポリアミノ酸がアンカー基(anchor group)を有する直鎖ポリペプチド基に接続しており、または該環状ポリアミノ酸が好ましくはイプシロン−アミノヘキサン酸または好ましくは2量体または3量体であるこの酸のポリマーを用いた反応により、もしくは3−メルカプト酪酸を用いた反応によって、スペーサーに連結しており、または末端基として式(−NH−CHCHOCHCHOCHC(O)OH)の基を有することにより特徴づけられる、請求項6または7のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項10】
前記ポリアミノ酸が、少なくとも約3.5nmのインプラントの表面と反応性の末端基との間の最小距離を有することにより特徴づけられる、請求項6〜9のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項11】
分子中に少なくとも2個の基を含む前記化合物が、以下の化合物の群:
1〜12の炭素原子を有するヒドロキシカルボン酸で好ましくは式R−C(O)NHOH(式中、Rは、[HO(CHCHO)1−4(CH1-4]−である)であり、好ましくはHOCHCH(OCHCHOCHC(O)NHOH;ホスホノ基を有する化合物で好ましくは式R−P(O)(OH)(式中、Rは、[HO(CHCHO)1−4(CH1−4]−である)であり、好ましくはHOCHCH(OCHCHOCHP(O)(OH)
から選択されることにより特徴づけられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項12】
分子中に少なくとも2個の基を含む前記化合物が、2000を超えない、好ましくは60〜1500の範囲内にあり、好ましくは200〜1100の範囲内にある分子量を有することにより特徴づけられる、請求項1〜10のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項13】
分子中に少なくとも2個の基を含む前記化合物が、一般式(I):
(A)(C2n+2−p−r)(B) (I)、
(式中、同一分子中の独立の置換基Aは、各々独立に、カルボキシル、ホスホノ、−C(O)NHOH、フェニル、ヒドロキシフェニル、4−イミダゾリル、グアニジノおよび/または3−インドリルであり;好ましくは、カルボキシル、ホスホノ、フェニル、ヒドロキシフェニル、4−イミダゾリル、グアニジノおよび/または3−インドリルであり;
同一分子中の独立の置換基Bは、各々独立に、ヒドロキシル、アミノ(−NH−/NH)、アミド(−C[O]NH−)、ヒドロキシメチレン(−CHOH)および/またはヒドロスルヒド(−SH−)であり;好ましくは、ヒドロキシル、アミノおよび/またはアミドであり、
nは、1〜12の整数であり、好ましくは、1〜8であり、好ましくは、1、2、3または4であり;
pは、0、1、2、または3であり、
rは、0、1、2、または3であり、
[p+r]の合計は、2〜6の整数であり、好ましくは、2、3または4であり;
2n+2−p−rは、少なくとも1であり、好ましくは少なくとも2である)
の化合物であることにより特徴づけられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項14】
分子中に少なくとも2個の基を含む前記化合物が、一般式(II)または式(IIa):
(D−L)(OCHCHO)(CHCHO)(Q−G) (II)

(D−L)(OCHCHCHO)(CHCHCHO)(Q−G) (IIa)
(式中、同一分子中の独立の置換基Dは、各々独立に、カルボキシル、ホスホノ、または−C(O)NHOHまたはGの意味する置換基であり;好ましくは、カルボキシル、ホスホノ、または−C(O)NHOHであり;好ましくは、カルボキシルまたはホスホノであり;
同一分子中の独立の置換基Gは、各々独立に、水素原子、アミノ(−NH)、アミド(−C(O)NH)、ヒドロキシメチレン(−CHOH)、ヒドロスルヒド(−SH−)またはDの意味する置換基であり;好ましくは、水素原子、アミノ、アミド、ヒドロキシメチレン、ヒドロスルヒドであり;好ましくは、水素原子、アミノまたはアミドであり;
LおよびQは、各々独立に、直接結合、または置換基Dおよび/もしくはGを連結するための連結基であり、好ましくは−(C2n)−であり、ここで式中のnは、1〜8の整数であり、好ましくは、−CH−または−CHCH−であり;
mは、0または1〜8の整数であり、好ましくは0、1、2、3、4または5であり、好ましくは、0または1であり、好ましくは0である)
の化合物であることにより特徴づけられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項15】
前記表面が、単分子層による金属表面の最大被覆に対して、前記化合物により5%〜70%を被覆されており、好ましくは10%〜50%であり、特に約20%であることにより特徴づけられる、請求項1〜14のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項16】
前記インプラントの少なくとも被覆された表面が、該インプラントの表面に対して不活性である気体、好ましくは窒素、酸素または希ガス、および/または少なくとも部分的に、場合によっては添加物を含む純水が充填されている、気体および液体に密閉性の包装材料(envelope)に封入されていることにより特徴づけられる、請求項1〜15のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項17】
前記包装材料中の純水が、分子中に、各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ホスホノ基および/または水酸基の少なくとも2個の基を有する化合物、またはこれらの化合物の混合物、好ましくは前記インプラントの表面を被覆している化合物または化合物の混合物と同じ化合物または混合物を含むことにより特徴づけられる、請求項16に記載のインプラント。
【請求項18】
前記純水が、分子中に少なくとも2個の基を有する前記化合物、または前記化合物の混合物を0.01μmol/l〜100μmol/lの範囲内の濃度、好ましくは0.1μmol/l〜10μmol/lの範囲、好ましくは約1μmol/lの濃度で含むことにより特徴づけられる、請求項17に記載のインプラント。
【請求項19】
前記純水が、適切なアニオンとともに1価のアルカリ金属カチオンの形態の無機塩、好ましくはNaまたはK、またはNaおよびKの混合物を、および/または水溶性の無機塩の形態の2価のカチオン、好ましくは塩化物、塩素酸塩、硝酸塩、リン酸塩および/またはホスホン酸塩の形態のMg+2、Ca+2、Sr+2および/またはMn+2を含むことにより特徴づけられる、請求項16に記載のインプラント。
【請求項20】
前記純水が、各々の場合において前記カチオンおよびアニオンの総量で、50mEq/l〜250mEq/lの範囲で、好ましくは100mEq/l〜200mEq/l、好ましくは約150mEq/lの量で、無機塩を含むことにより特徴づけられる、請求項16または19のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項21】
インプラントの表面を、ショットピーン、サンドブラストおよび/またはプラズマ技術の使用により粗面化する(roughened)ことによる、請求項1〜15のいずれか1項に記載のインプラントを製造するための方法であって、
(i) 機械的にまたはプラズマ技術により粗面化された表面が、ヒドロキシル化された表面が形成されるまで、電解的(electrolytic)または化学的エッチングの工程、好ましくは無機酸または無機酸の混合物、好ましくはフッ化水素酸、塩酸、リン酸、硝酸、またはこれらの酸の混合物、または重量比が約1:1:5である塩化水素、過酸化水素および水、により処理されること、および、
(ii) 少なくとも、1個の第1級および/または第2級アミノ基および/または1個のカルボキシル基および/または1個のアミド基および/またはホスホノ基を含む化合物により、表面が、分子層による金属表面の最大被覆に対して5%〜70%被覆されていること、
により特徴づけられる、前記方法。
【請求項22】
分子中に、各々独立に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルボキシル基、アミド基、ホスホノ基および/または水酸基の少なくとも2個の基を有する化合物、またはこれらの化合物の混合物が、適切な酸性または塩基性の水溶液として湿式でまたは純粋な化合物をスプレーすることにより、表面に塗布され、その後必要に応じて約80℃〜120℃の温度で、適切な気圧下で、加熱されることにより特徴づけられる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記化合物がヒドロキシル化された金属表面と、少なくとも10μmol/lの濃度の水溶液中で接触することにより特徴づけられる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項21〜23のいずれか1項に記載の方法で製造されたインプラント。


【公開番号】特開2009−148581(P2009−148581A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31722(P2009−31722)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【分割の表示】特願2002−513524(P2002−513524)の分割
【原出願日】平成13年7月24日(2001.7.24)
【出願人】(505104836)シュトラウマン・ホールディング・アクチェンゲゼルシャフト (18)
【氏名又は名称原語表記】STRAUMANN HOLDING AG
【Fターム(参考)】