説明

表面プラズモン共鳴測定方法

【課題】 表面プラズモン共鳴測定装置を用いて生理活性物質と被験物質間の特異的な結合反応を測定する際において、ノイズを抑制した測定方法を提供すること。
【解決手段】 金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる表面プラズモン共鳴測定装置を用い、前記流路系内の液体を交換することで表面プラズモン共鳴の変化を測定する方法であって、前記流路系内の液体を、測定溶媒中の非可溶物を除去した液体で交換後、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定することを特徴とする測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴測定方法、及びそれを用いた生理活性物質と相互作用する物質を検出または測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床検査等で免疫反応など分子間相互作用を利用した測定が数多く行われているが、従来法では煩雑な操作や標識物質を必要とするため、標識物質を必要とすることなく、測定物質の結合量変化を高感度に検出することのできるいくつかの技術が使用されている。例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)測定技術、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した測定技術である。SPR測定技術はチップの金属膜に接する有機機能膜近傍の屈折率変化を反射光波長のピークシフト又は一定波長における反射光量の変化を測定して求めることにより、表面近傍に起こる吸着及び脱着を検知する方法である。QCM測定技術は水晶発振子の金電極(デバイス)上の物質の吸脱着による発振子の振動数変化から、ngレベルで吸脱着質量を検出できる技術である。また、金の超微粒子(nmレベル)表面を機能化させて、その上に生理活性物質を固定して、生理活性物質間の特異認識反応を行わせることによって、金微粒子の沈降、配列から生体関連物質の検出ができる。以下、当技術分野で最も使われている表面プラズモン共鳴(SPR)を例として、説明する。
【0003】
表面プラズモン共鳴法は高感度に金表面の屈折率変化を測定できることから、金表面にタンパク質を固定化してタンパク質に結合する分子を探索したり、結合速度を解析することに有効な手法である。一方、表面プラズモン共鳴法は金表面の屈折率の変化のみを計測している手法であり、試料液と屈折率の違う測定溶媒中の非可溶物(夾雑物)によっても信号が発生する。特に測定液中に埃などの大サイズの汚染物質が存在すると、体積が大きいため大きなノイズとなる。
【0004】
この問題を解決するため、従来は試料液を予め濾過することが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、液体の流れは連続的に続けた状態で分析を行っている。しかしながら、濾過に使うフィルターの分画サイズが小さいとフィルターが詰まりやすく充分な液量が採取できないという問題があり、またフィルターの分画サイズが大きいとノイズを低減するのに充分な汚染物質の除去ができないという問題があった。また、濾過する試料液量に対するフィルター面積を大きくすれば濾過液量を確保できるが、試料液中の被解析分子の現象が無視できなくなることが問題となる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−148188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、表面プラズモン共鳴測定装置を用いて生理活性物質と被験物質間の特異的な結合反応を測定する際において、ノイズを抑制した測定方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、表面プラズモン共鳴測定装置を用いて流路系内の液体を交換することにより表面プラズモン共鳴の変化を測定する際に、前記流路系内の液体を、測定溶媒中の非可溶物を除去した液体で交換後、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定することによって、上記課題を解決できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0008】
即ち、本発明によれば、金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる表面プラズモン共鳴測定装置を用い、前記流路系内の液体を交換することで表面プラズモン共鳴の変化を測定する方法であって、前記流路系内の液体を、測定溶媒中の非可溶物を除去した液体で交換後、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定することを特徴とする測定方法が提供される。
【0009】
好ましくは、前記流路系内の液体を、測定すべき被験物質を含有しない対照液体から、測定すべき被験物質を含有する試料液体であって測定溶媒中の非可溶物を除去した試料液体へと交換し、その後、試料液体の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定する。
【0010】
好ましくは、測定溶媒中の非可溶物を除去した液体は、濾過した液体である。
好ましくは、測定溶媒中の非可溶物を除去した液体は、2μm以下0.01μm以上の分画サイズを有するフィルターで濾過した液体である。
好ましくは、測定溶媒中の非可溶物を除去した液体が、外気に触れることなく流路系に導入される。
【0011】
好ましくは、前記セルの体積(Vs ml)に対する1回の測定あたりの液交換量(Ve ml)の比率(Ve/Vs)は1以上100以下であり、さらに好ましくはVe/Vsは1以上50以下である。
好ましくは、前記流路系内の液体の交換にかかる時間は0.01秒以上100秒以下である。
【0012】
本発明の別の側面によれば、生理活性物質が共有結合により表面に結合しているセルを少なくとも使用し、測定すべき被験物質を含有し、測定溶媒中の非可溶物を除去した試料液体と該セルとを接触させ、上記した本発明の方法により表面プラズモン共鳴の変化を測定する工程を含む、生理活性物質と相互作用する物質を検出または測定する方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の測定方法により、ノイズを抑制した信頼性の高い測定結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の方法は、金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる表面プラズモン共鳴測定装置を用い、前記流路系内の液体を交換することで表面プラズモン共鳴の変化を測定する方法であって、前記流路系内の液体を、測定溶媒中の非可溶物を除去した液体で交換後、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定することを特徴とする測定方法である。
【0015】
本発明の特徴の一つは、前記流路系内の液体を、測定溶媒中の非可溶物(夾雑物)を除去した液体で交換することにある。本発明において、測定溶媒中の非可溶物を除去する手段は特に限定されない。例えば、液体を濾過することによって測定溶媒中の非可溶物を除去してもよいし、液体に電場又は磁場をかけることによって測定溶媒中の非可溶物を除去してもよいし、あるいは液体を遠心分離に供することによって測定溶媒中の非可溶物を除去してもよい。好ましくは、液体を濾過することによって測定溶媒中の非可溶物を除去することができる。
【0016】
本発明において、濾過はフィルターによって行うことができる。濾過に用いられるフィルターの分画サイズは、好ましくは2μm以下0.01μm以上であり、より好ましくは1μm以下0.05μm以上である。
【0017】
濾過に用いられるフィルターの材質としてはいかなるものでもよいが、セルロース、アセチルセルロース、ニトロセルロース、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン、テフロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリル、ポリカーボネート、ガラス、ステンレスなどが好ましく用いられる。濾過に用いられるフィルターの形状はいかなるものでもよいが、メンブレン型ミクロフィルター、不織布、織布、電子線などでフィルムに所望の口径の穴を開けたもの、ビーズ状のものを筒に詰めたものなどが用いられる。
【0018】
本発明において濾過に用いられるフィルターは、被解析分子が吸着し難いように表面処理してもよい。また、特異的に測定溶媒中の非可溶物を除去するため、測定溶媒中の非可溶物と選択的に結合するものを固定化してもよい。
【0019】
本発明における試料液の濾過は表面プラズモン共鳴測定前に行うが、濾過後外気に触れないことが好ましく、測定部に試料を送液する流路の途中にあることがさらに好ましい。
【0020】
本発明においては、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定する。これにより、測定時間内における参照セルの信号変化のノイズ幅、及びベースライン変動を抑制することができ、これにより信頼性の高い結合検出データを取得することが初めて可能になった。液の流れを停止させる時間は特に限定されないが、例えば、1秒以上30分以下であり、好ましくは10秒以上20分以下であり、さらに好ましくは1分以上20分以下程度である。
【0021】
本発明においては好ましくは、流路系内の液体を、測定すべき被験物質を含有しない対照液体から、測定すべき被験物質を含有する試料液体であって測定溶媒中の非可溶物を除去した試料液体へと交換し、その後、試料液体の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定することができる。
【0022】
本発明においては好ましくは、被験物質と相互作用する物質を結合していない参照セルと、被験物質と相互作用する物質を結合した検出セルとを直列に連結して流路系内に設置し、該参照セルと該検出セルに液体を流すことにより、表面プラズモン共鳴の変化を測定することができる。
【0023】
また、本発明においては、測定に用いるセルの体積(Vs ml)(上記した参照セルと検出セルを用いる場合はそれらのセルの合計体積)に対し、1回の測定あたりの液交換量(Ve ml)の比率(Ve/Vs)は、好ましくは1以上100以下である。Ve/Vsは、より好ましくは1以上50以下であり、特に好ましくは1以上20以下である。測定に用いるセルの体積(Vs ml)は特に限定されないが、好ましくは1×10-6〜1.0ml、特に好ましくは1×10-5〜1×10-1ml程度である。また、液体の交換にかける時間としては、0.01秒以上100秒以下が好ましく、0.1秒以上10秒以下がより好ましい。
【0024】
表面プラズモン共鳴の現象は、ガラス等の光学的に透明な物質と金属薄膜層との境界から反射された単色光の強度が、金属の出射側にある試料の屈折率に依存することによるものであり、従って、反射された単色光の強度を測定することにより、試料を分析することができる。以下、本発明で用いる表面プラズモン共鳴測定装置について説明する。
【0025】
表面プラズモン共鳴測定装置とは、表面プラズモンが光波によって励起される現象を利用して、被測定物質の特性を分析するための装置である。本発明で用いられる表面プラズモン共鳴測定装置は、誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成された金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備える。
【0026】
また、前記の通り、前記誘電体ブロックは、前記光ビームの入射面、出射面および前記金属膜が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして形成され、この誘電体ブロックに前記金属膜が一体化されている。
【0027】
本発明では、具体的には、特開2001−330560号公報記載の図1〜図32で説明されている表面プラズモン共鳴測定装置、特開2002−296177号公報記載の図1〜図15で説明されている表面プラズモン共鳴測定装置を好ましく用いることができる。特開2001−330560号公報および特開2002−296177号公報に記載の内容は全て本明細書の開示の一部として本明細書中に引用するものとする。
【0028】
例えば、特開2001−330560号公報記載の表面プラズモン共鳴測定装置としては、例えば、誘電体ブロック、この誘電体ブロックの一面に形成された金属膜からなる薄膜層、およびこの薄膜層の表面上に試料を保持する試料保持機構を備えてなる複数の測定ユニットと、これら複数の測定ユニットを支持した支持体と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと前記金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の入射角で入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して、表面プラズモン共鳴による全反射減衰の状態を検出する光検出手段と、前記複数の測定ユニットの各誘電体ブロックに関して順次前記全反射条件および種々の入射角が得られるように、前記支持体と前記光学系および光検出手段とを相対移動させて、各測定ユニットを順次前記光学系および光検出手段に対して所定位置に配置する駆動手段とを備えてなることを特徴とする表面プラズモン共鳴測定装置が挙げられる。
【0029】
なお、上記の測定装置においては、例えば前記光学系および光検出手段が静止状態に保たれるものとされ、前記駆動手段が、前記支持体を移動させるものとされる。
【0030】
その場合、前記支持体は、回動軸を中心とする円周上に前記複数の測定ユニットを支持するターンテーブルであり、また前記駆動手段は、このターンテーブルを間欠的に回動させるものであることが望ましい。またこの場合、前記支持体として、前記複数の測定ユニットを直線的に1列に並べて支持するものを用い、前記駆動手段として、この支持体を前記複数の測定ユニットの並び方向に間欠的に直線移動させるものを適用してもよい。
【0031】
一方、上記とは反対に、前記支持体が静止状態に保たれるものであり、前記駆動手段が、前記光学系および光検出手段を移動させるものであっても構わない。
【0032】
その場合、前記支持体は、円周上に前記複数の測定ユニットを支持するものであり、前記駆動手段は、前記光学系および光検出手段を、前記支持体に支持された複数の測定ユニットに沿って間欠的に回動させるものであることが望ましい。またこの場合、前記支持体として、前記複数の測定ユニットを直線的に1列に並べて支持するものを用い、前記駆動手段として、前記光学系および光検出手段を、前記支持体に支持された複数の測定ユニットに沿って間欠的に直線移動させるものを適用してもよい。
【0033】
他方、前記駆動手段が、その回動軸を支承するころがり軸受けを有するものである場合、この駆動手段は、該回動軸を一方向に回動させて前記複数の測定ユニットに対する一連の測定が終了したならば、この回動量と同量だけ該回動軸を他方向に戻してから、次回の一連の測定のためにこの回動軸を前記一方向に回動させるように構成されることが望ましい。
【0034】
また上記の測定装置においては、前記複数の測定ユニットが連結部材により1列に連結されてユニット連結体を構成し、前記支持体が、このユニット連結体を支持するように構成されていることが望ましい。
【0035】
また上記の測定装置においては、前記支持体に支持されている複数の測定ユニットの各試料保持機構に、自動的に所定の試料を供給する手段が設けられることが望ましい。
【0036】
さらに上記の測定装置においては、前記測定ユニットの誘電体ブロックが前記支持体に固定され、測定ユニットの薄膜層および試料保持機構が一体化されて測定チップを構成し、この測定チップが上記誘電体ブロックに対して交換可能に形成されていることが望ましい。
【0037】
そして、このような測定チップを適用する場合は、この測定チップを複数収納したカセットと、このカセットから測定チップを1つずつ取り出して、前記誘電体ブロックと組み合う状態に供給するチップ供給手段とが設けられることが望ましい。
【0038】
あるいは、測定ユニットの誘電体ブロック、薄膜層および試料保持機構が一体化されて測定チップを構成し、この測定チップが前記支持体に対して交換可能に形成されてもよい。
【0039】
測定チップをそのような構成とする場合は、この測定チップを複数収納したカセットと、このカセットから測定チップを1つずつ取り出して、支持体に支持される状態に供給するチップ供給手段とが設けられることが望ましい。
【0040】
他方、前記光学系は、光ビームを誘電体ブロックに対して収束光あるいは発散光の状態で入射させるように構成され、そして前記光検出手段は、全反射した光ビームに存在する、全反射減衰による暗線の位置を検出するように構成されることが望ましい。
【0041】
また上記光学系は、光ビームを前記界面にデフォーカス状態で入射させるものとして構成されることが望ましい。そのようにする場合、光ビームの上記界面における、前記支持体の移動方向のビーム径は、この支持体の機械的位置決め精度の10倍以上とされることが望ましい。
【0042】
さらに上記の測定装置において、測定ユニットは前記支持体の上側に支持され、前記光源は前記支持体より上の位置から下方に向けて前記光ビームを射出するように配設され、前記光学系は、前記下方に向けて射出された前記光ビームを上方に反射して、前記界面に向けて進行させる反射部材を備えていることが望ましい。
【0043】
また、上記の測定装置において、前記測定ユニットは前記支持体の上側に支持され、前記光学系は、前記光ビームを前記界面の下側から該界面に入射させるように構成され、前記光検出手段は前記支持体よりも上の位置で光検出面を下方に向けて配設されるとともに、前記界面で全反射した光ビームを上方に反射して、前記光検出手段に向けて進行させる反射部材が設けられることが望ましい。
【0044】
他方、上記の測定装置においては、前記支持体に支持される前および/または支持された後の前記測定ユニットを、予め定められた設定温度に維持する温度調節手段が設けられることが望ましい。
【0045】
また、上記の測定装置においては、前記支持体に支持された測定ユニットの試料保持機構に貯えられた試料を、前記全反射減衰の状態を検出する前に撹拌する手段が設けられることが望ましい。
【0046】
また、上記の測定装置においては、前記支持体に支持された複数の測定ユニットの少なくとも1つに、前記試料の光学特性と関連した光学特性を有する基準液を供給する基準液供給手段が設けられるとともに、前記光検出手段によって得られた、試料に関する前記全反射減衰の状態を示すデータを、前記基準液に関する前記全反射減衰の状態を示すデータに基づいて補正する補正手段が設けられることが望ましい。
【0047】
そのようにする場合、試料が被検体を溶媒に溶解させてなるものであるならば、前記基準液供給手段は、基準液として前記溶媒を供給するものであることが望ましい。
【0048】
さらに、上記の測定装置は、測定ユニットの各々に付与された、個体識別情報を示すマークと、測定に使用される測定ユニットから前記マークを読み取る読取手段と、測定ユニットに供給される試料に関する試料情報を入力する入力手段と、測定結果を表示する表示手段と、この表示手段、前記入力手段および前記読取手段に接続されて、各測定ユニット毎の前記個体識別情報と前記試料情報とを対応付けて記憶するとともに、ある測定ユニットに保持された試料について求められた測定結果を、その測定ユニットに関して記憶されている前記個体識別情報および前記試料情報と対応付けて前記表示手段に表示させる制御手段とを備えることが望ましい。
【0049】
上記した測定装置を用いて生理活性物質と相互作用する物質を検出または測定する場合、前記測定ユニットの1つにおける試料に関して全反射減衰の状態を検出した後、前記支持体と前記光学系および光検出手段とを相対移動させて、別の測定ユニットにおける試料に関して全反射減衰の状態を検出し、その後前記支持体と前記光学系および光検出手段とを相対移動させて、前記1つの測定ユニットにおける試料に関して、再度全反射減衰の状態を検出することにより測定を行うことができる。
【0050】
本発明で用いる測定チップは、本明細書中に記載した構成を有する表面プラズモン共鳴測定装置に用いられるための測定チップであって、誘電体ブロックとこの誘電体ブロックの一面に形成された金属膜とから構成され、上記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記金属膜が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして形成され、この誘電体ブロックに前記金属膜が一体化されている。
【0051】
金属膜を構成する金属としては、表面プラズモン共鳴が生じ得るようなものであれば特に限定されない。好ましくは金、銀、銅、アルミニウム、白金等の自由電子金属が挙げられ、特に金が好ましい。それらの金属は単独又は組み合わせて使用することができる。また、上記金属膜への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。
【0052】
金属膜の膜厚は任意であるが、例えば、表面プラズモン共鳴測定装置用を考えた場合、1オングストローム以上5000オングストローム以下であるのが好ましく、特に10オングストローム以上2000オングストローム以下であるのが好ましい。5000オングストロームを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、1オングストローム以上、100オングストローム以下であるのが好ましい。
【0053】
金属膜の形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。
【0054】
金属膜は好ましくは基板上に配置されている。ここで、「基板上に配置される」とは、金属膜が基板上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属膜が基板に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む意味である。本発明で使用することができる基板としては例えば、表面プラズモン共鳴測定装置用を考えた場合、一般的にはBK7等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどのレーザー光に対して透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。
【0055】
金属膜は、最表面に生理活性物質を固定化することができる官能基を有することが好ましい。ここで言う「最表面」とは、「金属膜から最も遠い側」という意味である。
【0056】
好ましい官能基としては−OH、−SH、−COOH、−NR12(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−CHO、−NR3NR12(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−NCO、−NCS、エポキシ基、またはビニル基などが挙げられる。ここで、低級アルキル基における炭素数は特に限定されないが、一般的にはC1〜C10程度であり、好ましくはC1〜C6である。
【0057】
最表面にそれらの官能基を導入する方法としては、例えば、それらの官能基の前駆体を含有する高分子を金属表面あるいは金属膜上にコーティングした後、化学処理により最表面に位置する前駆体からそれらの官能基を生成させる方法が挙げられる。
【0058】
上記のようにして得られた測定チップにおいて、上記の官能基を介して生理活性物質を共有結合させることによって、金属膜に生理活性物質を固定化することができる。
【0059】
本発明の測定チップの表面上に固定される生理活性物質としては、測定対象物と相互作用するものであれば特に限定されず、例えば免疫蛋白質、酵素、微生物、核酸、低分子有機化合物、非免疫蛋白質、免疫グロブリン結合性蛋白質、糖結合性蛋白質、糖を認識する糖鎖、脂肪酸もしくは脂肪酸エステル、あるいはリガンド結合能を有するポリペプチドもしくはオリゴペプチドなどが挙げられる。
【0060】
免疫蛋白質としては、測定対象物を抗原とする抗体やハプテンなどを例示することができる。抗体としては、種々の免疫グロブリン、即ちIgG、IgM、IgA、IgE、IgDを使用することができる。具体的には、測定対象物がヒト血清アルブミンであれば、抗体として抗ヒト血清アルブミン抗体を使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を抗原とする場合には、例えば抗アトラジン抗体、抗カナマイシン抗体、抗メタンフェタミン抗体、あるいは病原性大腸菌の中でO抗原26、86、55、111 、157 などに対する抗体等を使用することができる。
【0061】
酵素としては、測定対象物又は測定対象物から代謝される物質に対して活性を示すものであれば、特に限定されることなく、種々の酵素、例えば酸化還元酵素、加水分解酵素、異性化酵素、脱離酵素、合成酵素等を使用することができる。具体的には、測定対象物がグルコースであれば、グルコースオキシダーゼを、測定対象物がコレステロールであれば、コレステロールオキシダーゼを使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を測定対象物とする場合には、それらから代謝される物質と特異的反応を示す、例えばアセチルコリンエステラーゼ、カテコールアミンエステラーゼ、ノルアドレナリンエステラーゼ、ドーパミンエステラーゼ等の酵素を使用することができる。
【0062】
微生物としては、特に限定されることなく、大腸菌をはじめとする種々の微生物を使用することができる。
核酸としては、測定の対象とする核酸と相補的にハイブリダイズするものを使用することができる。核酸は、DNA(cDNAを含む)、RNAのいずれも使用できる。DNAの種類は特に限定されず、天然由来のDNA、遺伝子組換え技術により調製した組換えDNA、又は化学合成DNAの何れでもよい。
低分子有機化合物としては通常の有機化学合成の方法で合成することができる任意の化合物が挙げられる。
【0063】
非免疫蛋白質としては、特に限定されることなく、例えばアビジン(ストレプトアビジン)、ビオチン又はレセプターなどを使用できる。
免疫グロブリン結合性蛋白質としては、例えばプロテインAあるいはプロテインG、リウマチ因子(RF)等を使用することができる。
糖結合性蛋白質としては、レクチン等が挙げられる。
脂肪酸あるいは脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ステアリン酸エチル、アラキジン酸エチル、ベヘン酸エチル等が挙げられる。
【0064】
生理活性物質が抗体や酵素などの蛋白質又は核酸である場合、その固定化は、生理活性物質のアミノ基、チオール基等を利用し、金属表面の官能基に共有結合させることで行うことができる。
【0065】
上記のようにして生理活性物質を固定化した測定チップは、当該生理活性物質と相互作用する物質の検出及び/又は測定のために使用することができる。
【0066】
即ち、本発明によれば、生理活性物質が共有結合により表面に結合している測定チップ(セル)を少なくとも使用し、測定すべき被験物質を含有する試料液体と該セルとを接触させ、流路系内の液体を、測定溶媒中の非可溶物を除去した液体で交換後、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定する工程を含む、生理活性物質と相互作用する物質を検出または測定する方法が提供される。
被験物質としては例えば、上記した生理活性物質と相互作用する物質を含む試料などを使用することができる。
【実施例】
【0067】
以下の実験は、GWC社製SPRimagerを用いて実験した。
【0068】
(1)デキストラン測定チップの作製:
ガラス板(HOYA社製BSC7)を厚さ0.3mmに光学研磨したものに金属膜として50nmの金が蒸着し、Model-208UV−オゾンクリーニングシステム(TECHNOVISION INC.)で30分間処理した後、エタノール/水(80/20)中11-ヒドロキシ-1-ウンデカンチオールの5.0mM溶液を金属膜に接触するように添加し、25℃で18時間表面処理を行った。その後、エタノールで5回、エタノール/水混合溶媒で1回、水で5回洗浄を行った。
【0069】
次に、11-ヒドロキシ-1-ウンデカンチオールで被覆した表面を10重量%のエピクロロヒドリン溶液(溶媒:0.4M水酸化ナトリウム及びジエチレングリコールジメチルエーテルの1:1混合溶液)に接触させ、25℃の振盪インキュベーター中で4時間反応を進行させた。表面をエタノールで2回、水で5回洗浄する。
【0070】
次に、25重量%のデキストラン(T500,Pharmacia)水溶液40.5mlに4.5mlの1M水酸化ナトリウムを添加し、その溶液をエピクロロヒドリン処理表面上に接触させた。次に振盪インキュベーター中で25℃で20時間インキュベートした。表面を50℃の水で10回洗浄する。
続いて、ブロモ酢酸3.5gを27gの2M水酸化ナトリウム溶液に溶解した混合物を上記デキストラン処理表面に接触させて、28℃の振盪インキュベーターで16時間インキュベートした。表面を水で洗浄し、その後上述の手順を1回繰り返す。
【0071】
(2)トリプシン固定チップの作製:
上記(1)で作製したデキストラン測定チップ内の溶液を除去した後、200mM EDC(N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド ハイドロクロライド)と50mM NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)の混合溶液に浸漬し、10分間放置した。混合溶液を除去した後、水で3回バッファ1(10mM HEPES(N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸), 150mM NaCl, 10mM CaCl2)で3回洗浄した。
【0072】
次いで、図1に示す黒部分が穴の空いたテフロンで作成した厚さ100μmのマスクをチップに押し付け穴の部分にトリプシン溶液(1mg/mlになるようバッファ1に溶解したもの)に入れ替え30分間放置し、トリプシンを固定した。図1中の黒部分は内径500μmであり黒部分は隣接する黒部分と中心感距離で2mm離れている。チップ内を1M エタノールアミン溶液に置き換え、10分間放置した。穴内をバッファ1で10回洗浄した。こうして、図2に示す黒部分にトリプシンを固定した。
【0073】
上記のトリプシンを固定化したチップを1M エタノールアミン溶液に浸10分間漬し、バッファ1で10回洗浄することでトリプシン固定チップを作製した。
【0074】
(3)抗トリプシン抗体結合性能評価:
上記(2)で作製したトリプシン固定チップを表面プラズモン測定装置にセットする。予め屈折率のわかっているショ糖溶液を送液し、屈折率に対する表面プラズモン装置の出力との検量線を作成する。ここで、金属表面近傍の屈折率変化は被解析分子(抗トリプシン抗体)の吸着量と線形に相関する。この検量線を用いて表面プラズモン装置の出力値を屈折率に校正したものを表面プラズモン信号とする。
【0075】
流路系内をバッファ2(10mM HEPES, 150mM NaCl)で満たす。トリプシンが固定化されていない図2中の基準部分の信号を基準としてトリプシン固定化部分の中央部の信号変化(R)を測定しつつ、流路系内に抗トリプシン抗体溶液(1μg/mlになるようバッファ2に溶解したもの)(下記の試料1〜6)を送液し、液が置換したらすぐに送液を停止する。次いで、流路系内にバッファ2を送液し、基準部分が抗トリプシン抗体を流す前の値に戻ったところすぐに送液を停止する。図2中の黒丸12箇所の中心部分の信号を計測し、抗トリプシン抗体結合量とする。この12箇所の信号の標準偏差を平均で除した値で測定の再現性を評価し、値が小さいほどノイズが小さいことを示す。
【0076】
試料1:抗トリプシン抗体溶液を25℃で蓋をせず実験室に8時間放置したもの
試料2:上記試料1を測定直前に分画サイズ0.45μmのポリエチレンテレフタレート製フィルターで濾過した直後のもの
試料3:上記試料2を再び25℃で蓋をせず実験室に1時間放置したもの
試料4:上記試料2を再び25℃で蓋をして実験室に1時間放置したもの
試料5:上記試料1を測定する際に、表面プラズモン測定部分の直前に分画サイズ0.22μmのセルロースアセテート製ミクロフィルターを挿入して濾過し、濾過直後に測定した。
試料6:試料5と同様の条件で抗トリプシン抗体溶液を10分間流しつづけ、次いで流路系内にバッファ2を送液し続けた。
【0077】
上記の測定の結果を以下の表1に示す。本発明の試料(試料2〜5)の場合に、良好な結果が得られた。
【0078】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、穴の空いたテフロンで作成したマスクを示す。
【図2】図2は、黒部分にトリプシンを固定したチップを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる表面プラズモン共鳴測定装置を用い、前記流路系内の液体を交換することで表面プラズモン共鳴の変化を測定する方法であって、前記流路系内の液体を、測定溶媒中の非可溶物を除去した液体で交換後、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定することを特徴とする測定方法。
【請求項2】
前記流路系内の液体を、測定すべき被験物質を含有しない対照液体から、測定すべき被験物質を含有する試料液体であって測定溶媒中の非可溶物を除去した試料液体へと交換し、その後、試料液体の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定する、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
測定溶媒中の非可溶物を除去した液体が、濾過した液体である、請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
測定溶媒中の非可溶物を除去した液体が、2μm以下0.01μm以上の分画サイズを有するフィルターで濾過した液体である、請求項1から3の何れかに記載の測定方法。
【請求項5】
測定溶媒中の非可溶物を除去した液体が、外気に触れることなく流路系に導入される、請求項1から4の何れかに記載の測定方法。
【請求項6】
前記セルの体積(Vs ml)に対する1回の測定あたりの液交換量(Ve ml)の比率(Ve/Vs)が1以上100以下である、請求項1から5の何れかに記載の測定方法。
【請求項7】
Ve/Vsが1以上50以下である、請求項6に記載の測定方法。
【請求項8】
前記流路系内の液体の交換にかかる時間が0.01秒以上100秒以下である、請求項1から7の何れかに記載の測定方法。
【請求項9】
生理活性物質が共有結合により表面に結合しているセルを少なくとも使用し、測定すべき被験物質を含有し、測定溶媒中の非可溶物を除去した試料液体と該セルとを接触させ、請求項1から8の何れかに記載の方法により表面プラズモン共鳴の変化を測定する工程を含む、生理活性物質と相互作用する物質を検出または測定する方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−78212(P2006−78212A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259665(P2004−259665)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】