説明

表面修飾セルロース短繊維およびその製造方法

【課題】有機ポリマーや有機溶媒中に再分散可能な表面修飾セルロース短繊維およびその製造方法を提供する。
【解決手段】セルロース短繊維の水分散液と、重合度500〜2000、ケン化度85〜95モル%の水溶性ポリビニルアルコールと、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドまたはノルマルブチルアルデヒドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルデヒドとを、酸触媒を用いてアセタール反応させることを特徴とする表面修飾セルロース短繊維およびその製造方法。また、前記表面修飾セルロール短繊維が含まれてなる高分子複合材料の補強材および充填材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
表面修飾セルロース短繊維およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、セルロース短繊維の水分散液と、重合度500〜2000、ケン化度85〜95モル%の水溶性ポリビニルアルコールと、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドまたはノルマルブチルアルデヒドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルデヒドとを、酸触媒を用いてアセタール反応させることを特徴とする表面修飾セルロース短繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高い物性(硬度、強度、弾性など)が求められる高分子複合材料としては、ガラス繊維強化樹脂(以下、GFRPという)が一般的であり、広く用いられている。
【0003】
しかし、ガラス繊維を補強材として用いた場合、GFRPにかけられる負荷によって、ガラス繊維が高分子材料本体を傷つけ、高分子複合材料の劣化を招いたり、衝撃によりガラス繊維が微細化し、その結果、補強効果が低下するといった問題がある。また、GFRPは使用後の廃棄処理やリサイクルが簡便でないという問題がある。
【0004】
一方、近年、セルロース短繊維、特に繊維直径をサブミクロンさらにはナノレベルまでに微細化されたセルロースナノファイバーの高分子複合材料への利用の可能性について、検討がおこなわれている。
【0005】
セルロース短繊維とは、セルロース分子鎖が結晶集合した繊維状物質である。セルロースの大部分は樹木などの高等植物によって生産されるが、植物以外に微生物でもセルロース短繊維を生産するものがいる。植物セルロースは、セルロース分子鎖が多数集束し、まずミクロフィブリルと呼ばれる非常に細い繊維を形成する。このミクロフィブリルがさらに束になり、フィブリル、ラメラ、繊維細胞と段階的に高次構造を形成している。バクテリアセルロースは、菌細胞から分泌されたセルロースのミクロフィブリルが、そのままの太さで微細な網目構造を形成している。ミクロフィブリルは、その生成方法にもよるが、直径は通常数〜数十nmであり、長さは数百nm〜数十μmである。このミクロフィブリルを構成するセルロース分子鎖は、伸びきり鎖結晶となっていることにより、軽量であるにもかかわらず、鋼鉄の5倍以上の強度、高い弾性率および低熱膨張性を有するといった特徴を有する。また、セルロース短繊維は天然由来の原料であるため、再生利用が可能であり、微生物によって生分解できるため、環境負荷が少ない。
【0006】
セルロース短繊維は、従来から高分子複合材料の充填材として使用されているが、これらは通常繊維径数十μm以上のパルプや棉繊維である。GFRPに匹敵する性能を実現するためには、セルロース短繊維を微細化する必要がある。
【0007】
特許文献1には、パルプをナノファイバー化し接着剤で固めたセルロース短繊維複合材料は、GFRPよりはるかに強く、マグネシウム合金と比較して遜色のない強度が得られることが開示されている。
【0008】
しかし、通常乾燥状態で使用できるセルロース短繊維の直径は数十μm以上である。これらのセルロース短繊維を水中に分散し機械または化学的に数μm以下に解繊して作られるセルロース短繊維は、一旦乾燥すると繊維間の膨大な水素結合により、セラミックのように角質になり、再び分散できないので、高分子材料と複合化することは困難である。
【0009】
前記微細化されたセルロース短繊維を複合材料に使用するためには、分散剤である水を除去しても繊維間の強い水素結合による密着を防ぎ、さらに高分子材料に容易に分散し良好な界面結合を形成させる必要がある。
【0010】
このような目的を達成する方法として、以下のセルロース短繊維の表面処理方法が提案されている。特許文献2にラテックス重合による表面修飾、特許文献3に乳液重合による表面修飾方法が開示されている。また、特許文献4には、セルロース短繊維の表面の水酸基をエーテル化することにより表面修飾し、繊維表面の水酸基を減じる方法が、特許文献5には、エステル化により表面修飾し、特許文献4と同様の効果を得る方法が開示されている。また、特許文献6には、界面活性剤を用いた表面処理によって有機溶媒に分散する方法が開示されている。
【0011】
しかし、前記の方法では、セルロース短繊維を処理する前に、有機溶媒を用いてセルロース短繊維水分散液の水分を置換する必要があるなどプロセスが煩雑であり、コスト面、環境面から好ましくないといった問題がある。
【0012】
また、繊維表面の水酸基の修飾度を向上するために、セルロース短繊維は、強酸や、高い温度条件にさらされるため、セルロースの結晶構造や分子構造が破壊され、本来の機能が低下してしまうおそれがある。
【0013】
セルロース短繊維と疎水性有機ポリマーとの複合化については、特許文献7にセルロース短繊維をシートに加工し、樹脂を含ませてから積層、加熱プレスすることによって、高分子複合材料を製造する方法が開示されている。
【0014】
また、特許文献8には、セルロース短繊維を水溶性ポリビニルアルコール(以下、PVAという。)、ポリエチレングリコールといった水溶性ポリマーとの水溶液で混合してキャストすることによって、フィルムを調製する方法が開示されている。
【0015】
しかし、セルロース短繊維は、前記のように、一旦乾燥すると繊維間の膨大な水素結合によりセラミックのように角質になるので、有機溶媒中に再分散することができない。そのため、ガラス繊維のように、熱可塑性樹脂と溶融混練することができなかった。
【0016】
【特許文献1】特開2003−201695号公報
【特許文献2】特表平9−509694号公報
【特許文献3】米国特許第6,103,790号明細書
【特許文献4】米国特許第6,703,497号明細書
【特許文献5】特表平11−513425号公報
【特許文献6】米国特許第6,967,027号明細書
【特許文献7】特開2007−51266号公報
【特許文献8】特開平11−117120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであり、有機ポリマーや有機溶媒中に再分散可能な表面修飾セルロース短繊維およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の表面修飾セルロース短繊維の製造方法は、セルロース短繊維の水分散液と、重合度500〜2000、ケン化度85〜95モル%の水溶性ポリビニルアルコールと、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドまたはノルマルブチルアルデヒドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルデヒドとを、酸触媒を用いてアセタール反応させることを特徴とする。
【0019】
また、前記アセタール反応が、前記水溶性ポリビニルアルコールがアセタール化度の増大により反応液から完全に析出する前に前記反応液を凍結させ、その後再び前記反応液を50〜90℃に加熱してアセタール化を完了させることが好ましい。
【0020】
また、前記セルロース短繊維の水分散液と、前記アルデヒドとを、酸触媒を用いてアセタール反応させる第1工程と、さらに前記水溶性ポリビニルアルコールを加えてアセタール反応させることからなる第2工程を有することが好ましい。
【0021】
また、前記アルデヒドが2種以上のアルデヒドであることが好ましい。
【0022】
また、前記アルデヒドがプロピオンアルデヒドまたはノルマルブチルアルデヒドであることが好ましい。
【0023】
また、前記セルロース短繊維の平均繊維径が3〜5000nmであることが好ましい。
【0024】
本発明は、請求項1、2、3、4、5または6記載の方法により製造される表面修飾セルロース短繊維であることを特徴とする。
【0025】
また、前記表面修飾セルロール短繊維が含まれてなる高分子複合材料の補強材であることを特徴とする。
【0026】
また、前記表面修飾セルロール短繊維が含まれてなる高分子複合材料の充填材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の表面修飾セルロース短繊維は、表面がポリビニルアセタールのグラフトが形成および/または物理的に被覆されるため、高分子材料と容易に複合することができる。また、セルロース短繊維の表面にあるポリビニルアセタールは熱溶融性であり、さらにアセタール化度の制御により樹脂との親和性を向上することができるため、樹脂と複合する際、優れた分散性を示し、樹脂マトリックスとの高い界面接着性を示す。また、乾燥後にも再分散が可能であるため、通常の繊維状充填材と同様に熱可塑性樹脂と溶融混練により複合化できる。
【0028】
したがって、得られた表面修飾セルロース短繊維はそのまま利用することもできるが、ペレットまたは粉末としても利用できる。また、溶液キャスト成形をすることも可能である。また、セルロース短繊維表面が強靭なポリビニルアセタールで修飾されることによって、溶融加工過程において繊維表面の損傷を防ぎ、高い補強効果が得られる。
【0029】
本発明の表面修飾セルロース短繊維は、ガラス繊維と比較して、軽量、高強度、高弾性率および低熱膨張性を有する。また、天然由来の原料で再生利用が可能であるので、微生物によって生分解することができ、環境負荷が少ない。また、製造工程が簡単で、かつ水溶液中で行なわれるため環境にも優しい。
【0030】
本発明の表面修飾セルロース短繊維の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、繊維、塗料の補強剤、充填材、構造材として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、添付図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明に用いたセリッシュの電子顕微鏡(以下、SEMという。)写真であり、図2は、本発明の実施例1の表面修飾したセルロース短繊維およびそのテトラヒドロフラン(以下、THFという。)分散液とシートの外観であり、図3は、本発明の実施例4の表面修飾したセルロース短繊維およびそのTHF分散液の外観であり、図4は、本発明の実施例4、5と比較例2から得られた生成物のホットプレスシートである。
【0033】
(セルロース短繊維)
本発明に使用するセルロース短繊維は、特に限定されるものではないが、平均繊維径3〜5000nm、好ましくは3〜500nmのものを用いる。その繊維構造の一例を図1に示すが、特にこの構造に限定されるものではない。平均繊維径が5000nmを超えると、繊維の表面積およびアスペクト比が低下することにより補強効果が低下する傾向がある。平均繊維径が3nm未満のセルロース繊維の製造コストが高く実用に適さない。なお、セルロース短繊維には、5000nm以上の繊維径のものが含まれていても良いが、補強効果の観点から、その割合は15重量%以下であることが好ましい。
【0034】
セルロース短繊維の繊維長については、特に限定されないが、平均繊維長100nm〜100μmが好ましい。平均繊維長が100nmより短いと、アスペクト比が低いため補強効果が低く、繊維強化複合材料の強度が不十分となるからである。平均繊維長が100μmを超えると、マトリックス樹脂と複合化する際、繊維は均一分散しにくくなる。なお、セルロース短繊維には、繊維長100nm未満のものが含まれていても良いが、補強効果の観点から、その割合は30重量%以下であることが好ましい。
【0035】
セルロース短繊維は、植物から分離したものおよびバクテリアセルロースによって生産されるものを使用することができ、特にこれらに限定されることはない。
【0036】
(PVA)
PVAは、修飾したセルロース短繊維の分散性が高いという理由から、重合度が500〜3000、好ましくは重合度500〜2000、ケン化度は80〜95%であるが、水に溶解できる限り、特にこれらに限定されるものではない。
【0037】
(アルデヒド)
アルデヒドは、PVAおよびセルロース短繊維の表面の水酸基をアセタール反応することができるものであればよく、特に限定されるものではない。反応性およびコストから、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒドが好ましい。アルデヒド中の炭素数は低いほど親水性は高いため、セルロース短繊維表面の水酸基と反応しやすく、グラフト率は高くなる傾向がある。一方、炭素数の多いアルデヒドは疎水性が高くなり、有機溶媒によく分散するというため、溶融加工性に寄与する。したがって、炭素数の異なる2種以上のアルデヒドを併用することが好ましい。アルデヒドは、ノルマル、イソのどちらでもよい。また、耐熱性および難燃性に優れた芳香族アルデヒドを用いることもできる。
【0038】
また、2種以上のアルデヒドの混合割合は特に限定されないが、例えば、ノルマルブチルアルデヒドとアセトアルデヒドとの混合割合は、1.5:1が好ましく、ノルマルブチルアルデヒドとプロピオンアルデヒドとの混合割合は、1.5:1が好ましい。
【0039】
(酸触媒)
酸触媒は、例えば、塩酸、硫酸、燐酸といった無機酸、または酢酸、蟻酸、パラトルエンスルホン酸といった有機酸を用いることができ、特にこれらに限定されるものではないが、比較的安価な塩酸、硫酸が好ましい。また、酸触媒は、1種類のみを単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。これらの酸触媒は、一般に反応液のpHが0.2〜3になるように、適量が一度にあるいは反応の進行に応じて数回に分割して添加される。
【0040】
(その他)
表面修飾セルロース短繊維の製造に際して、他の添加剤、例えば界面活性剤を添加してもよい。
【0041】
(表面修飾セルロース短繊維の製造方法)
本発明の表面修飾セルロース短繊維は、セルロース短繊維の水分散液とPVA水溶液とアルデヒドとを、酸を触媒としてアセタール反応させることにより製造される。このとき、セルロース短繊維とPVAとの乾燥重量比率は、95:5〜1:99であり、好ましくは90:10〜3:97である。95:5を超えると、得られた表面修飾セルロース短繊維は、有機樹脂に対する分散性が悪化する傾向がある。一方、1:99より少ないと十分な補強効果が得られない。
【0042】
アセタール化度は、35〜95モル%、好ましくは40〜75モル%である。アセタール化度が35モル%より低くなると、セルロース短繊維表面の親水性が高くなり、有機溶媒および有機ポリマーへの分散性が悪化する傾向がある。アセタール化度が95モル%より高くなると、表面修飾セルロース短繊維の生産性が低下する傾向がある。
【0043】
アセタール反応は、セルロース表面の水酸基および/またはPVAの水酸基とアルデヒドとの間に起こる。アルデヒドはまず一つの水酸基と反応しセミアセタールを形成した後、さらにもう一つの水酸基と反応してアセタールを形成するが、2つの水酸基はそれぞれセルロース表面の水酸基とPVAの水酸基とからなるとき、セルロース表面にポリビニルアセタールのグラフトが形成される。また、ポリビニルアセタールは、グラフトを形成せずに単にセルロース表面に被覆するものであってもよい。
【0044】
セルロース短繊維の表面にグラフトを形成させた方が、被覆するよりも良好な界面密着性が得られるので、グラフト率を上げるため前記アセタール反応を2段階に分けることができる。すなわち、まずセルロース短繊維とアルデヒドのみをアセタール反応させ(第1工程)、次いで、水溶性PVAを添加してさらに反応させる(第2工程)というものである。
【0045】
前記アセタール反応は、セルロース短繊維を30〜90℃の温度範囲内でアルデヒドと酸を触媒として30分〜数時間で反応させてから、反応系内の温度を0〜15℃まで下げた後、PVAを添加し、さらに反応を進行させる。その後、アセタール化度を高めるため、反応温度を55℃以上に昇温し、数分から数時間で反応を完成させる。
【0046】
PVAはアセタール化の進行に伴い疎水性が増し、反応液から析出するが、析出したポリビニルアセタール樹脂の比重がセルロース短繊維と異なるので、セルロース短繊維の表面に付着せずに樹脂とセルロース短繊維とは分離し、均一な表面修飾セルロース短繊維が得られない場合がある。この問題を克服する方法として、PVAがアセタール化の進行により反応液から析出する前に、反応混合液を凍結して水溶性のPVAをセルロース短繊維の周りに沈積させ、その後再び加熱反応することにより、ポリビニルアセタールとセルロース短繊維とが分離することなく均一な表面修飾セルロース短繊維を得ることができる。
【0047】
反応設備は、例えば、攪拌機を備えた槽型反応器、管状のループ型反応器と攪拌機を備えた槽型反応器とを備えた反応器や、ホモジナイザー反応器がある。利便性の観点から、ホモジナイザー反応器が好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0048】
また、低沸点のアルデヒドを用いる場合、完全に密閉された反応器内で加圧しながら反応する。
【0049】
製造プロセスは、一般ポリビニルアセタールの製造プロセスであれば、前記反応器を用いて行なわれるほか、特に限定されない。
【0050】
反応、熟成の終了後、反応液に含まれる酸触媒の中和が行われる。反応生成液のpHは、7〜10、pH値が高いほどアセタール構造の安定性は高くなり、樹脂と複合するとき分解しにくいという理由から、好ましくは9付近のアルカリ性に調整される。中和は、苛性ソーダや重曹の水溶液を攪拌しながら添加することにより行われる。
【0051】
中和の後、水溶解成分である中和塩、酸、アルカリ、アルデヒドを除去するため、固体分と水溶液を分離する。脱水は通常の固液分離法、例えば、加圧ろ過、遠心ろ過、凍結脱水によりなされる。反応液の固体物濃度は、得られた表面修飾セルロース短繊維の性能およびコスト面から、0.1〜50%、好ましくは1〜10である。
【0052】
表面修飾したセルロースの表面・空隙に残留している水溶解成分をさらに十分除去するため、脱水後に室温〜50℃において、洗浄・乾燥がおこなわれる。この温度範囲が脱水に効率的だからである。
【0053】
本発明の表面修飾セルロース短繊維は、乾燥後にも再分散が可能であるため、通常の繊維状充填材と同様に熱可塑性樹脂と溶融混練により複合化できる。したがって、得られた表面修飾セルロース短繊維はそのまま利用することもできるが、ペレットまたは粉末としても利用できる。また、溶液キャスト成形をすることも可能である。
【0054】
セルロース短繊維は高強度、高弾性であるため折れにくく、高分子材料との界面接着性が高いため、高分子材料に対して高い補強効果を有し、GFRPが利用されている用途、例えば、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、繊維および塗料の補強剤、充填材または構造材として利用することができる。
【実施例】
【0055】
実施例にもとづいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0056】
以下に実施例および比較例において使用した各種薬品を記載する。
ミクロフィブリルセルロース(以下、MFCという。):ダイセル(株)製のセリッシュFG−100。
バクテリアセルロース:フジッコ(株)製。除菌したバクテリアセルロースに蒸留水を加え、ホモジナイザーで固体分0.5重量%のバクテリアセルロース水分散液を調製した。
ポリビニルアルコールA:平均重合度500、ケン化度85モル%。
ポリビニルアルコールB:平均重合度2000、ケン化度95モル%。
【0057】
実施例1
温度調節および攪拌装置を備えた反応容器中で平均重合度500、ケン化度85モル%のPVA10重量部を、攪拌下に790重量部の水に溶解し、これに2重量%にしたセリッシュ水分散液500重量部と35重量%塩酸水溶液10重量部を加え、均一になるまで攪拌をした後、温度を10℃に調節した。そのときの混合液のpHは0.5であった。次いで、10℃に保持された混合液を攪拌しながらノルマルブチルアルデヒド4.2重量部とアセトアルデヒド2.8重量部を温度10〜15℃に調節しながら連続的に添加混合した。添加開始約15分後に攪拌を停止した。その後反応系を60℃に昇温し、1時間保持した。反応終了後、40℃まで冷却し、1モル%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して前記混合液をpH9に調整した。ろ過により洗浄・脱水を実施した。次に水分を完全除去するために、脱水した生成物を40℃送風乾燥機でさらに乾燥させた。
【0058】
図2に示されるように、得られた表面修飾セルロース短繊維を、THF、エタノールとトルエンの混合溶媒(エタノール:トルエン=2:1(重量比))および蒸留水とに分散させ、それらの分散性を確認した。得られた表面修飾セルロース短繊維は、水には分散しなかったが、THF、エタノールとトルエンの混合溶媒には攪拌しながら分散した。得られた分散液は、室温下において48時間経過後に観察すると、相分離しなかった。この粉を190℃、200kg/cm2でホットプレスすると、図2に示されるような半透明なシートが得られた。また、ホットプレスでシートにすることによって熱形成性も確認した。
【0059】
実施例2
500mLのビーカに平均重合度500、ケン化度85モル%のPVA2.5重量部を、攪拌下に197.5重量部の水に溶解し、これに2重量%セリッシュ水分散液125重量部と35重量%塩酸水溶液2.5重量部を加え、ホモジナイザーを用いて均一になるまで攪拌をしてから温度を10℃に調節した。次いで、10℃に保持された混合液にホモジナイザーで攪拌しながらノルマルブチルアルデヒド1.05重量部とプロピオンアルデヒド0.7重量部を添加した。添加した後、15分攪拌し、得られた中間反応物を急速に凍結させた。その後、60℃の水浴に移し、60分間加熱処理すると白い沈殿物が析出した。反応終了後、40℃まで冷却し、1モル%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して前記反応液をpH9に調整した。ろ過により洗浄・脱水を実施し、水分を完全除去するために、脱水した生成物を40℃送風乾燥機でさらに乾燥させた。
【0060】
得られた表面修飾セルロース短繊維をTHF、エタノールとトルエンとの混合溶媒(エタノール:トルエン=2:1(重量比))および蒸留水に分散させ、それらの分散性を確認した。得られた表面修飾セルロース短繊維は水に分散しないが、THF、エタノールとトルエンとの混合溶媒には攪拌しながら分散した。得られた分散液を室温下において48時間経過後に観察すると、相分離しなかった。この粉を190℃、200kg/cm2でホットプレスすると、図2に示されるような半透明なシートを得られた。ホットプレスでシートにすることによって熱形成性も確認した。
【0061】
実施例3
混合液の加熱温度60℃を90℃に変えた以外は実施例2と同様に実施した。
【0062】
得られた表面修飾セルロース短繊維をTHF、エタノールとトルエンとの混合溶媒(エタノール:トルエン=2:1(重量比))および蒸留水に分散させ、それらの分散性を確認した。得られた表面修飾セルロース短繊維は水に分散しないが、THF、エタノールとトルエンとの混合溶媒に攪拌しながら分散した。得られた分散液を室温下において48時間経過後に観察すると、相分離しなかった。この粉を190℃、200kg/cm2でホットプレスすると、半透明なシートを得られた。ホットプレスでシートにすることによって熱形成性も確認した。
【0063】
実施例4
PVA重合度500に変えて、重合度2000、ケン化度90モル%のものを用いること以外は実施例2と同様に実施した。
【0064】
得られた表面修飾セルロース短繊維をTHF、エタノールとトルエンとの混合溶媒(エタノール:トルエン=2:1(重量比))および蒸留水に分散させ、それらの分散性を確認した。得られた表面修飾セルロース短繊維は水に分散しないが、THF、エタノールとトルエンとの混合溶媒には攪拌しながら分散した。得られた分散液を室温下において48時間経過後に観察すると、相分離しなかった。この粉を190℃、200kg/cm2でホットプレスすると、半透明なシートを得られた。ホットプレスでシートにすることによって熱形成性も確認した。
【0065】
実施例5
2重量%にしたセリッシュ水分散液の代わりに0.2重量%セリッシュ水分散液を用いた以外は実施例2と同様に実施した。得られた生成物について、THFへの分散性を確認した。また、本実施例で得られた生成物は、5重量%セルロース短繊維を含有するポリビニルブチラール複合材料であり、直接複合材料として利用できる。得られた生成物をホットプレスによってシートを成形し、引張試験と表面硬度を測定した。ホットプレスによってシート化した結果を表1、図3および図4に示す。
【0066】
実施例6
2重量%セリッシュ水分散液に変えて、0.1重量%セリッシュ水分散液を用いた以外は実施例2と同様に実施した。得られた生成物について、THFへの分散性を確認した。また、本実施例で得られた生成物は、2.5重量%のセルロース短繊維を含有するポリビニルブチラール複合材料であり、直接複合材料として利用できる。得られた生成物をホットプレスによってシートを成形し、引張試験と表面高度を測定した。ホットプレスによってシート化した結果を表1と図4に示す。
【0067】
実施例7
2重量%セリッシュ水分散液に変えて、0.5重量%バクテリアセルロース水分散液を用いた以外は実施例2と同様に実施した。得られた表面修飾バクテリアセルロースをTHFに分散させ、均一かつ安定な分散液を得た。また、ホットプレスによってシート化することも確認した。
【0068】
実施例8
プロピオンアルデヒド0.7重量部に変えて、アセトアルデヒド0.6部を用いた以外は実施例2と同様に実施した。得られた表面修飾セルロース短繊維をTHFに分散させ、均一かつ安定な分散液を得た。また、190℃のホットプレスによってシート成形できることを確認した。
【0069】
比較例1
2重量%のセリッシュFG‐100水分散液を濾過によって脱水してから、40℃送風乾燥機でさらに乾燥させた。乾燥したセリッシュを粉砕してから蒸留水やTHFに分散させたが、両方とも粒子のまま沈殿した。また実施例1と同様にホットプレスさせたが、シートになれなかった。
【0070】
比較例2
2重量%セリッシュ水分散液を添加しないこと以外は実施例2と同様に実施した。得られたセルロース短繊維を含有しないポリビニルブチラールをホットプレスによってシートを成形し、引張試験と表面硬度を測定した。結果は表1と図4に示す。
【0071】
(ダイナミック硬さ)
島津ダイナミック微小光度計DUH−200で稜間角115℃の三角錐圧子を用いてホットプレスシートの表面硬度を測定した。
試験力=0.2mN。
【0072】
(引張特性の測定)
得られた厚さ0.1mmの帯状体を、JIS K 6251記載のダンベル28号で打ち抜いて試験片を作製した。この試験片を用いて、島津製作所(株)製AGS−20KNG強度試験機で25℃、切断引張応力、切断引張伸び、弾性率を測定した。
使用ロードセル:1KN
つかみ具間距離:30mm
試験速度:5mm/min
【0073】
【表1】

【0074】
表1からMFCの添加量が増加するにつれて、硬度、引張強度、弾性率が向上したことがわかる。また、実施例5および6の表面修飾セルロース短繊維のシートは、比較例2のシートと比べて、硬度、引張強度に優れ、高い弾性率を有することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に用いたセリッシュのSEM写真である。繊維直径は10〜500nmと推定される。
【図2】本発明の実施例1の表面修飾したセルロース短繊維およびそのTHF分散液とシートの外観である。実施例1により製造された表面修飾セルロース短繊維は、中央の写真に示されるように、角質化せず粉末状態であることがわかる。また、実施例1により製造された表面修飾セルロース短繊維は、左図に示されるように、THFによく分散し、1重量%のTHF分散液になることができ、有機溶媒に対して高い分散性を示した。また、右図に示されるように、実施例1の表面修飾セルロース短繊維は、ホットプレスによってシートになることができたことがわかる。
【図3】本発明の実施例4の表面修飾したセルロース短繊維およびそのTHF分散液の外観である。実施例4の表面修飾セルロース短繊維は、左図に示されるように、乾燥状態においても角質化せず、粉末状態であることがわかる。また、右図に示されるように、THFによく分散し、5重量%のTHF分散液になることができ、有機溶媒に対して高い分散性を示した。
【図4】本発明の実施例5、6と比較例2から得られた生成物のホットプレスシートである。実施例5および6のセルロース短繊維は、THFによく分散し、ホットプレスによってシートになることができたことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース短繊維の水分散液と、
重合度500〜2000、ケン化度85〜95モル%の水溶性ポリビニルアルコールと、
アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドまたはノルマルブチルアルデヒドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルデヒドとを、
酸触媒を用いてアセタール反応させることを特徴とする表面修飾セルロース短繊維の製造方法。
【請求項2】
前記アセタール反応が、前記水溶性ポリビニルアルコールがアセタール化度の増大により反応液から完全に析出する前に前記反応液を凍結させ、その後再び前記反応液を50〜90℃に加熱してアセタール化を完了させることを特徴とする請求項1記載の表面修飾セルロース短繊維の製造方法。
【請求項3】
前記セルロース短繊維の水分散液と、前記アルデヒドとを、酸触媒を用いてアセタール反応させる第1工程と、
さらに前記水溶性ポリビニルアルコールを加えてアセタール反応させることからなる第2工程を有する請求項1または2記載の表面修飾セルロース短繊維の製造方法。
【請求項4】
前記アルデヒドが2種以上のアルデヒドである請求項1、2または3記載の表面修飾セルロース短繊維の製造方法。
【請求項5】
前記アルデヒドがプロピオンアルデヒドまたはノルマルブチルアルデヒドである請求項1、2、3または4記載の表面修飾セルロース短繊維の製造方法。
【請求項6】
前記セルロース短繊維の平均繊維径が3〜5000nmである請求項1、2、3、4または5記載の表面修飾セルロース短繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6記載の方法により製造される表面修飾セルロース短繊維
【請求項8】
前記表面修飾セルロール短繊維が含まれてなる高分子複合材料の補強材。
【請求項9】
前記表面修飾セルロール短繊維が含まれてなる高分子複合材料の充填材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−144262(P2009−144262A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320076(P2007−320076)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】