説明

表面入射型半導体受光素子、それを備える光受信モジュール及び光トランシーバ

【課題】受光部を作製した後の作業において受光部が破壊されることを抑制される、表面入射型半導体受光素子、これを備える光受信モジュール及び光トランシーバの提供。
【解決手段】PN接合となる第1導電型半導体層及び第2導電型半導体層を含む半導体多層構造を有するメサ型受光部と、前記メサ型受光部を含む保護領域の少なくとも一部を囲う、保護メサ部と、が半導体基板上に形成される表面入射型半導体受光素子であって、前記保護メサ部は、前記メサ型受光部の前記第1導電型半導体層及び前記第2導電型半導体層のいずれにも電気的に接続されていない、非接続メサ部を含む、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メサ型の受光部を有する表面入射型半導体受光素子に関し、特に、受光部を作製した後の作業において受光部が破壊されることを抑制することにより、歩留まりが向上する表面入射型半導体受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ伝送システムに用いられる光受信モジュールに搭載される受光デバイスとして、PIN型フォトダイオード(以下、PIN−PDと記す)などの半導体受光素子が実用化されている。かかる半導体受光素子は、入射光により発生した電子および正孔が吸収層内の強いドリフト電界により移動するため、高周波応答に優れているという特徴がある。
【0003】
かかる半導体受光素子の受光部は、P型コンタクト層と、N型コンタクト層によって、キャリア濃度が低い吸収層を挟んだPN接合を有している。かかる半導体受光素子の動作原理は、PN接合に逆バイアス電圧を印加し空乏化した吸収層に光が入射されると、吸収層内でキャリア(電子と正孔)が発生し、P電極側に正孔が、N電極側に電子が拡散、走行し、電流として検出できるというものである。半導体受光素子の基本構造として、信号光が素子の表面側から入射される表面入射型、信号光が素子の裏面側(基板面側)から入射される裏面入射型、信号光が素子の端面側から入射される端面入射型、などが存在する。このうち、表面入射型半導体受光素子は、裏面プロセスが不要、または簡略化することが可能であり、ウエハー形態で特性検査を行うことが可能であり、素子を精密に位置あわせして固定するキャリア部材が不要であることから、製造コストを低減することが可能であるという利点を有する。さらに受光径を大きくすることにより光ファイバとの結合トレランスを大きくすることが可能であるため、モジュールに搭載した際に簡便な方法で光結合を確保でき、モジュール製造コストを低減することが可能であるという利点を有する。
【0004】
表面入射型半導体受光素子としては、プレーナ型構造とメサ型構造が実用化されている。プレーナ型構造の例としては、亜鉛をP型ドーピング材料として受光領域に拡散することにより受光部を形成する構造があるが、拡散深さのウエハー面内分布に起因する特性不均一化、特性歩留まり低減の問題がある。これに対しメサ型構造は、例えばP型コンタクト層、吸収層、N型コンタクト層からなる多層構造を有機金属気相成長法などにより形成した後、選択エッチングにより円形のメサ構造の受光メサ部を形成する方法であり、ウエハー内の特性均一化、特性歩留まり向上が期待できる構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−16535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
メサ型構造を有する表面入射型半導体受光素子が、例えば特許文献1に開示している。特許文献1に係る表面入射型半導体受光素子では、受光メサ部が素子内で最も高い位置にあり、特許文献1には、P型電極、N型電極、その他の部分の高さについての記述がない。
【0007】
素子内で受光メサ部のみが突起状に高くなっている構造の場合、例えば、素子選別工程、モジュール内への搭載工程など、受光メサ部を作製後に行う作業において、受光メサ部を破損する可能性が高くなるという問題が発生する。
【0008】
本発明はかかる事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、受光部を作製した後の作業において受光部が破壊されることが抑制される、表面入射型半導体受光素子、これを備える光受信モジュール及び光トランシーバの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る表面入射型半導体受光素子は、PN接合となる第1導電型半導体層及び第2導電型半導体層を含む半導体多層構造を有するメサ型受光部と、前記メサ型受光部を含む保護領域の少なくとも一部を囲う、保護メサ部と、が半導体基板上に形成される表面入射型半導体受光素子であって、前記保護メサ部は、前記メサ型受光部の前記第1導電型半導体層及び前記第2導電型半導体層のいずれにも電気的に接続されていない、非接続メサ部を含む、ことを特徴とする。
【0010】
(2)上記(1)に記載の表面入射型半導体受光素子であって、前記第1導電型半導体層と電気的に接続されているとともに配線とワイヤボンディング接続するための第1導電型電極パッドと、前記第2導電型半導体層と電気的に接続されているとともに配線とワイヤボンディング接続するための第2導電型電極パッドと、をさらに備えてもよい。
【0011】
(3)上記(2)に記載の表面入射型半導体受光素子であって、前記保護領域は前記第1導電型電極パッド及び第2導電型電極パッドをさらに含み、前記保護メサ部はすべて前記非接続メサ部であってもよい。
【0012】
(4)上記(3)に記載の表面入射型半導体受光素子であって、前記保護メサ部は、前記保護領域すべてを囲っていてもよい。
【0013】
(5)上記(3)に記載の表面入射型半導体受光素子であって、前記第1導電型電極パッドの上面及び前記第2導電型電極パッドの上面は、ともに、前記非接続メサ部の上面より低くてもよい。
【0014】
(6)上記(4)に記載の表面入射型半導体受光素子であって、前記保護メサ部は、前記半導体基板の周縁に形成されてもよい。
【0015】
(7)上記(2)に記載の表面入射型半導体受光素子であって、前記保護メサ部は、上面に電極が形成される前記非接続メサ部と、前記第1導電型電極パッドが上面に形成される第1導電型電極メサ部と、を含んでいてもよい。
【0016】
(8)上記(7)に記載の表面入射型半導体受光素子であって、前記保護メサ部は、前記第2導電型電極パッドが上面に形成される第2導電型電極メサ部、をさらに含んでいてもよい。
【0017】
(9)上記(7)に記載の表面入射型半導体受光素子であって、前記上面に電極が形成される前記非接続メサ部は、前記メサ型受光部を挟んで、前記第1導電型電極メサ部の反対側に配置されてもよい。
【0018】
(10)上記(8)に記載の表面入射型半導体受光素子であって、前記半導体基板は矩形状をしており、前記第1導電型電極メサ部と前記第2導電型電極メサ部は、前記矩形の一辺側に並んで配置され、前記非接続メサ部は、前記メサ型受光部を挟んで、前記一辺の対辺側に配置されてもよい。
【0019】
(11)上記(7)に記載の表面入射型半導体受光素子であって、前記非接続メサ部の前記電極と、前記第1導電型電極パッドとは、前記半導体基板に対して同じ高さである箇所を含んでいてもよい。
【0020】
(12)上記(1)に記載の表面入射型半導体受光素子であって、前記非接続メサ部は、前記第1導電型半導体層及び前記第2導電型半導体層を含む半導体多層構造を有していてもよい。
【0021】
(13)上記(1)に記載の表面入射型半導体受光素子であって、前記非接続メサ部の上面は、前記メサ型受光部の上面より、それぞれ、同じ高さであるか高くてもよい。
【0022】
(14)本発明に係る光受信モジュールは、上記(1)乃至(13)のいずれかに記載の表面入射型半導体受光素子を備えていてもよい。
【0023】
(15)本発明に係る光トランシーバは、上記(14)に記載の光受信モジュールを備えていてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、受光部を作製した後の作業において受光部が破壊されることが抑制される、表面入射型半導体受光素子、これを備える光受信モジュール及び光トランシーバが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子の構造説明図である。
【図2A】本発明の第1の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子を真空吸着コレットにて吸着した状態を示す図である。
【図2B】本発明の第1の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子を真空吸着コレットにて吸着した状態を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の比較例に係る表面入射型半導体受光素子の構造説明図である。
【図4A】本発明の第1の実施形態の比較例に係る表面入射型半導体受光素子を真空吸着コレットにて吸着した状態を示す図である。
【図4B】本発明の第1の実施形態の比較例に係る表面入射型半導体受光素子を真空吸着コレットにて吸着した状態を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子の構造説明図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子の構造説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下に示す図は、あくまで、各実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0027】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1の構造説明図である。当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1は、たとえばPIN−PDであるが、これに限定されることはない。
【0028】
図1に示す通り、半絶縁性のFeドープInP基板11は、矩形状の半導体基板である。表面入射型半導体受光素子1は、半絶縁性のFeドープInP基板11上に、N型InPコンタクト層部13(キャリア濃度:5×1018/cm、厚さ:1μm)と受光メサ部12が形成されている。受光メサ部12は頂上部から見て、P型InGaAsコンタクト層(キャリア濃度:5×1019/cm、厚さ:0.1μm)、P型InGaAlAsバッファ層(キャリア濃度:1×1018/cm、厚さ:0.5μm)、N型InGaAs光吸収層(キャリア濃度:1×1015/cm以下、厚さ:2μm)、およびN型InGaAlAsバッファ層(キャリア濃度:1×1018/cm、厚さ:0.5μm)からなる多層構造である。メサ型受光部は、受光メサ部12とN型InPコンタクト層部13とでなっており、受光メサ部12とN型InPコンタクト層部13でPN接合を形成し、受光メサ部12の上面に入射される光を受光することが可能である。メサ型受光部は、PN接合となるP型半導体層とN型半導体層を含む多層構造を有している。表面全体は絶縁性の保護膜14により被膜されているが、受光メサ部12の上面にリング状パターンで、またN型InPコンタクト層部13の上面に受光メサ部12の外周の一部を取り囲むパターンで、開口部が設けられている。一辺(図の下辺)側の外周縁部にはP型電極メサ部15と、その両側に2個のN型電極メサ部16a,16bが並んで形成されている。受光メサ部12を挟んで対辺(図の上辺)側の外周縁部にはプロテクトメサ部17が形成されている。P型電極メサ部15、N型電極メサ部16a,16b、プロテクトメサ部17は受光メサ部12と同一の多層構造であり、同一の高さである。
【0029】
P型電極メサ部15の上面には保護膜14を挟んでP型電極18が形成されている。正方形状のP型電極パッドがP型電極メサ部15の上面に形成されており、P型電極パッドがP型電極18の一端となっている。P型電極18は、P型電極パッドから受光メサ部12の上面まで延伸しており、受光メサ部12の上面において、P型電極18の他端は、保護膜14のリング状パターンの開口部を覆うリング形状となっており、開口部を介してP型InGaAsコンタクト層に電気的に接続している。受光メサ部12の上面における直径は58μm、P型電極18のリング形状の内径は43μmである。
【0030】
N型電極メサ部16a,16bの上面には保護膜14を挟んでN型電極19が形成されている。正方形状のN型電極パッドがN型電極メサ部16a,16bの上面にそれぞれ形成されており、2個のN型電極パッドがそれぞれN型電極19の一端と他端となっている。N型電極19は、N型電極パッドからそれぞれN型InPコンタクト層部13に達するまで延伸されており、N型InPコンタクト層部13の上面において、保護膜14の開口部を覆う形状となっており、開口部を介してN型InPコンタクト層部13に電気的に接続している。なお、P型電極パッド及びN型電極パッドは、外部から接続される配線とワイヤボンディングするために用いられる。
【0031】
プロテクトメサ部17の上面にはプロテクト電極20が形成されており、プロテクト電極20は、受光メサ部12とも、N型InPコンタクト層部13とも、電気的に接続されていない。すなわち、P型電極18ともN型電極19とも電気的に接続されていない。よって、プロテクトメサ部17は、P型電極メサ部15やN型電極メサ部16a,16bと異なり、素子の電気系から電気的に独立しており、非接続メサ部となっている。
【0032】
当該実施形態におけるP型電極18やプロテクト電極20は、蒸着法で堆積したTi/Pt/Au膜(本明細書において、”/”は、基板に近い側、基板に遠い側の順に、配置されていることを記している)で形成され、N型電極19はAuGe/Ni/Ti/Pt/Au膜で形成されるが、これら電極材料に限定されない。受光メサ部12の上面の、P型電極18のリング形状部の内側の領域は受光領域となるため、この部分の保護膜14は受光波長に対する反射率が最低となる膜厚が望ましい。当該実施形態では、受光波長1550nmに対する反射率を最低とするため、屈折率2.02、厚さ194nmのSiN膜としたが、これに限定されるものではない。以上の構成により、P型電極18とN型電極19の間に適当な逆バイアス電圧を印加することにより、受光領域に入射される波長1550nmの光を受光することが可能となる。
【0033】
完成したウエハーをダイシング用テープ材に貼り付け、ダイシング装置により素子単位に分割し、ダイシング用テープ材から表面入射型半導体受光素子1を取り出し、N型電極19を接地し、P型電極18に3Vの逆バイアス電圧を印加し、波長1550nm、強度10μWの光信号を受光領域に入力したところ、0.9A/W以上の受光感度が得られ、受光トレランスは40μm以上が得られた。3Vの逆バイアス電圧における暗電流は、室温で3nA以下、85℃で30nA以下、と十分に低い値であった。高温逆バイアス通電試験(200℃,6V)では、2000時間後の暗電流は85℃で100nA以下であり、高い信頼性を示した。端子間容量は200fF、順方向抵抗は20Ωであった。3Vの逆バイアス電圧を印加し、波長1550nm、強度100μWの光信号を入力して、周波数応答特性を測定した結果、85℃にて、3dB遮断周波数は10GHz以上、帯域内偏差は1dB以下が得られた。
【0034】
量産工程では、ダイシング用テープ材から順次自動的に、真空吸着コレットにて表面入射型半導体受光素子1を取り出して、測定用ステージに置き、暗電流などの特性検査を実施した後、良品のみを出荷用ケースに整列して収納する機能を有する自動チップ選別装置を適用することにより、検査コストを大幅に低減することが可能である。真空吸着コレットにて表面入射型半導体受光素子1を取り出す際、真空吸着コレットの先端が受光メサ部12に接触し受光メサ部12が破損する可能性があるが、当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1は、受光メサ部12を作製後に行う作業において受光メサ部12が破損されるのを抑制する構造となっており、歩留まりが向上出来ている。
【0035】
図2A及び図2Bは、当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1を真空吸着コレット80にて吸着した状態を示す図である。図2Aは、真空吸着コレット80の断面から表面入射型半導体受光素子1を見た模式図であり、図には、真空吸着コレット80の断面が示されており、真空吸着コレット80の断面の向こう側に、表面入射型半導体受光素子1が示されている。
【0036】
図2Bは、図2AのIIB−IIB線の断面を示す断面図である。真空吸着コレット80の先端部は、同じ高さのメサ上にある、P型電極18、N型電極19、プロテクト電極20に接触しており、安定的に吸着することが可能である。また、受光メサ部12は真空吸着コレット80の内部にあるため、先端部と接触して破損する可能性が抑制されている。
【0037】
図3は、当該実施形態の比較例に係る表面入射型半導体受光素子101の構造説明図である。表面入射型半導体受光素子101の基本的な構造は、当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1と同じであるが、プロテクトメサ部が形成されていないことが主に異なっている。
【0038】
当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1と同様に、表面入射型半導体受光素子101は、半絶縁性のFeドープInP基板111上に、N型InPコンタクト層部113と受光メサ部112が形成されている。また、図の下側に、P型電極メサ部115と2個のN型電極メサ部116a,116bが形成されており、P型電極メサ部115の上面にP型電極118が、N型電極メサ部116a,116bの上面にN型電極119がそれぞれ形成されている。また、前述の通り、表面全体は保護膜114により被膜されている。
【0039】
表面入射型半導体受光素子101について特性検査を行ったところ、当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1と同様の特性を示しており、当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1にプロテクトメサ部17を形成することにより、素子の劣化は生じていない。
【0040】
次に、当該実施形態と同様に、表面入射型半導体受光素子101に自動チップ選別装置を適用する場合について説明する。図4A及び図4Bは、当該実施形態の比較例に係る表面入射型半導体受光素子101を真空吸着コレット80にて吸着した状態を示す図である。図4Aは、真空吸着コレット80の断面から表面入射型半導体受光素子101を見た模式図であり、図4Bは、図4AのIVB−IVB線の断面を示す断面図である。
【0041】
表面入射型半導体受光素子101には、当該実施形態と異なり、プロテクトメサ部を有しておらず、真空吸着コレット80の先端部は、図4Aの右側においては、P型電極118及びN型電極119と、図4Aの左側においては、FeドープInP基板111の表面に接触している。図4Bに示す通り、FeドープInP基板111の表面は、P型電極118やN型電極119より高さが低いので、図4Bに示す通り、真空吸着コレット80に対して表面入射型半導体受光素子101が傾いて吸着される。この結果、吸着ミスが多発し、さらに受光メサ部112が真空吸着コレット80の先端部と接触すると破損する現象が発生してしまう。このように、メサ型受光部の周りに複数のメサ部を設けている場合であっても、かかるメサ部が素子の片側に偏在する場合は、かかる問題が生じている。
【0042】
当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1は、受光メサ部12を、P型電極メサ部15と、N型電極メサ部16a,16bに加えて、非接続メサ部であるプロテクトメサ部17で囲うことにより、例えば、真空吸着コレットによる吸着をする際に、安定的に吸着されることが可能となり、受光メサ部12が破壊されるのが抑制されており、素子の歩留まりが向上している。
【0043】
当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1の製造工程では、FeドープInP基板11の上側に、有機金属気相成長法などに多層を形成した後に、選択エッチングにより、受光メサ部12、P型電極メサ部15、N型電極メサ部16a,16b、プロテクトメサ部17を形成する。すなわち、P型電極メサ部15、N型電極メサ部16a,16b、及びプロテクトメサ部17は、受光メサ部12などを形成する共通のプロセスによって形成されている。プロテクト電極20は、前述の通り、蒸着法によりP型電極18とともに形成される。よって、工程やコストの増大を抑制しつつ、受光メサ部12が破壊されるのが抑制される構造が実現出来ている。また、プロテクトメサ部17は、受光メサ部12の多層構造形成と共通するプロセスで形成されているので、プロテクトメサ部17は、受光メサ部12の多層構造と同じ多層構造を有しており、P型半導体層とN型半導体層を含んでいる。
【0044】
なお、当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1において、P型電極メサ部15、N型電極メサ部16a,16b、プロテクトメサ部17は、受光メサ部12を含む領域(保護領域)の一部をそれぞれ囲っており、かかる領域を保護している保護メサ部となっている。また、当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1において、接続される配線の寄生インダクタンスを抑制する観点から、配線とワイヤボンディングされる電極パッドがそれぞれ形成されているP型電極メサ部15及びN型電極メサ部16a,16bが、受光メサ部12に対して一方側に並んで配置される場合には、前述の通り、真空吸着コレットの吸着時に素子に傾くなどの問題が生じるところ、プロテクトメサ部17が、受光メサ部12を挟んで、P型電極メサ部15及びN型電極メサ部16a,16bの反対側に配置されていることにより、受光メサ部12の破壊が抑制される構造が実現出来ている。
【0045】
さらに、プロテクトメサ部17の上面にプロテクト電極20が形成されており、プロテクトメサ部17のプロテクト電極20上面は、P型電極メサ部15のP型電極パッド上面やN型電極メサ部16a,16bのN型電極パッド上面と、FeドープInP基板11に対して同じ高さとなっており、たとえば、真空吸着コレットの吸着が安定的になされる。同じ高さであるのが安定性の観点からは望ましいが、ほぼ同じ高さであってもよい。このとき、少なくとも、P型電極パッド又はN型電極パッドのいずれかは、プロテクト電極20と同じ高さである箇所を含んでいればよい。プロテクトメサ部17を含む保護メサ部の上面は、共通するプロセスで形成されるので、受光メサ部12の上面と同じ高さとなっているが、これに限定されることはない。受光メサ部12を保護する観点からは、保護メサ部の上面が受光メサ部の上面より高くなっていてもよい。このとき、非接続メサ部であるプロテクトメサ部17の上面も受光メサ部の上面より高い。
【0046】
また、当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1では、保護領域を保護している保護メサ部は、P型電極メサ部15、N型電極メサ部16a,16b及びプロテクトメサ部17の4個のメサ部としたが、これに限定されることはない。保護メサ部に非接続メサ部であるプロテクトメサ部17が含まれていれば、他のメサ部は、P型電極メサ部とN型電極メサ部のいずれか一方であってもよい。
【0047】
[第2の実施形態]
図5は、本発明の第2の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子2の構造説明図である。当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子2の基本的な構造は、第1の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1と同じである。当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子2の受光メサ部32を囲う保護メサ部の構造が、第1の実施形態と主に異なっている。当該実施形態に係る保護メサ部とは、矩形状のFeドープInP基板31の周縁に形成されるプロテクトメサ部37である。
【0048】
当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子2は、第1の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子1と同様に、半絶縁性のFeドープInP基板31上に、N型InPコンタクト層部33と受光メサ部32が形成されており、受光メサ部32の上面に入射される光を受光することが可能である。表面全体は絶縁性の保護膜34により被膜されているが、受光メサ部32の上面にリング状パターンで、またN型InPコンタクト層部33の上面に受光メサ部32の外周の一部を取り囲むパターンで、開口部が設けられている。P型電極38及びN型電極39が、第1の実施形態と同様に、受光メサ部32の上面及びN型InPコンタクト層部33の上面に、それぞれ延伸して形成されている。第1の実施形態と異なり、図5の右上に示す通り、P型電極38のP型電極パッドは円形状をしており、保護膜34を挟んでFeドープInP基板31上に形成されている。同様に、図5の右下と左上にそれぞれ示す通り、N型電極39の2個のN型電極パッドはそれぞれ円形状をしており、保護膜34を挟んでFeドープInP基板31上に形成されている。受光メサ部32の上面における直径は58μm、P型電極38のリング形状の内径は43μmである。P型電極38は、第1の実施形態と同様に、蒸着法で堆積したTi/Pt/Au膜で、N型電極39はAuGe/Ni/Ti/Pt/Au膜で形成される。受光メサ部32の上面の、P型電極38のリング形状部の内部の保護膜34は、第1の実施形態と同様に、屈折率2.02、厚さ194nmのSiN膜とした。以上の構成により、P型電極38とN型電極39の間に適当な逆バイアス電圧を印加することにより、受光領域に入射される波長1550nmの光を受光することが可能となる。
【0049】
第1の実施形態において、保護メサ部は、P型電極メサ部15、N型電極メサ部16a,16b、プロテクトメサ部17によって構成されていたが、当該実施形態において、保護メサ部は、非接続メサ部であるプロテクトメサ部37のみであり、矩形状のFeドープInP基板31の外周縁部全体に形成されている。プロテクトメサ部37は、受光メサ部32と同一の多層構造であり、同一の高さである。なお、プロテクトメサ部37には、第1の実施形態と異なり、P型電極メサ部15やN型電極メサ部16a,16bの上面に形成される電極パッドと高さを揃える必要がなく、プロテクト電極は形成されていない。しかし、これに限定されることもなく、必要があればプロテクト電極が形成されてもよい。
【0050】
[第3の実施形態]
図6は、本発明の第3の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子3の構造説明図である。当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子3の基本的な構造は、第2の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子2と同じであるが、半絶縁性のFeドープInP基板51の形状とP型電極58及びN型電極59の形状が、第2の実施形態と主に異なっている。当該実施形態に係る保護メサ部とは、図6の横方向に延びる矩形状のFeドープInP基板51の周縁に形成されるプロテクトメサ部57である。
【0051】
当該実施形態に係る表面入射型半導体受光素子3は、第2の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子2と同様に、半絶縁性のFeドープInP基板51上に、N型InPコンタクト層部53と受光メサ部52が形成されており、受光メサ部52の上面に入射される光を受光することが可能である。なお、N型InPコンタクト層部53は、第1及び第2の実施形態と異なり、矩形状である。表面全体は絶縁性の保護膜54により被膜されているが、受光メサ部52の上面にリング状パターンで、またN型InPコンタクト層部53の上面に受光メサ部52の外周の一部を取り囲むパターンで、開口部が設けられている。P型電極58及びN型電極59が、第2の実施形態と同様に、受光メサ部52の上面及びN型InPコンタクト層部53の上面に、それぞれ延伸して形成されている。図6の右側に示す通り、P型電極38のP型電極パッドは円形状をしており、保護膜34を挟んでFeドープInP基板31上に形成されている。第2の実施形態と異なり、図6の左側に示す通り、N型電極59は円形状のN型電極パッドを1個有しており、保護膜54を挟んでFeドープInP基板51上に形成されている。かかる構成により、P型電極58とN型電極59の間に適当な逆バイアス電圧を印加することにより、受光領域に入射される波長1550nmの光を受光することが可能となる。
【0052】
なお、第2及び第3の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子は、受光メサ部を含む領域(保護領域)の周縁をすべて、プロテクトメサ部で囲うことにより、例えば、真空吸着コレットによる吸着をする際に、安定的に吸着されることが可能となり、受光メサ部が破壊されるのが抑制されており、素子の歩留まりが向上している。プロテクトメサ部が保護領域すべてを囲うことにより、P型電極メサ部やN型電極メサ部を設ける必要がなく、P型電極のP型電極パッドやN型電極のN型電極パッドは、FeドープInP基板上に形成すればよく、P型電極パッドの上面及びN型電極パッドの上面は、ともに、非接続メサ部であるプロテクトメサ部の上面より低い。なお、ここで、保護領域は、受光メサ部に加えて、P型電極パッド及びN型電極パッドを含む領域であり、さらに、素子が破壊されるのが抑制されている。
【0053】
また、第2及び第3の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子について、第1の実施形態と同様に、自動チップ選別装置を適用した結果、真空吸着コレットの先端部は、同じ高さのプロテクトメサ部に接触しており、安定的に吸着することが可能であった。また、受光メサ部は真空吸着コレットの内部にあるため、先端部と接触して破損する可能性が抑制されていることが確認できている。
【0054】
第2及び第3の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、プロテクトメサ部(保護メサ部)の上面は、共通するプロセスで形成されるので、受光メサ部の上面と同じ高さとなっているが、これに限定されることはなく、受光メサ部を保護する観点からは、保護メサ部の上面が受光メサ部の上面より高くなっていてもよい。
【0055】
以上、本発明の実施形態に係る表面入射型半導体受光素子について説明した。本発明に係る表面入射型半導体受光素子を備える光受信モジュールは、低価格で高性能が実現される。さらに、光送信モジュールと本発明に係る光受信モジュールを備える光トランシーバは、同様に低価格で高性能が実現される。なお、ここでは、第1導電型をP型と、第2導電型をN型としたが、これに限定されることはなく、第1導電型をN型と、第2導電型をP型としてもよい。受光メサ部を作製後に行う作業について、自動チップ選別装置の真空吸着コレットによる素子吸着を例に説明したが、これに限定されることはなく、素子選別工程やモジュール内への搭載工程などにおける作業であってもよいのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
1,2,3,101 表面入射型半導体受光素子、11,31,51,111 FeドープInP基板、12,32,52,112 受光メサ部、13,33,53,113 N型InPコンタクト層部、14,34,54,114 保護膜、15,115 P型電極メサ部、16a,16b,116a,116b N型電極メサ部、17,37,57,117 プロテクトメサ部、18,38,58,118 P型電極、19,39,59,119 N型電極、20,120 プロテクト電極、80 真空吸着コレット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PN接合となる第1導電型半導体層及び第2導電型半導体層を含む半導体多層構造を有するメサ型受光部と、
前記メサ型受光部を含む保護領域の少なくとも一部を囲う、保護メサ部と、
が半導体基板上に形成される表面入射型半導体受光素子であって、
前記保護メサ部は、前記メサ型受光部の前記第1導電型半導体層及び前記第2導電型半導体層のいずれにも電気的に接続されていない、非接続メサ部を含む、
ことを特徴とする、表面入射型半導体受光素子。
【請求項2】
前記第1導電型半導体層と電気的に接続されているとともに配線とワイヤボンディング接続するための第1導電型電極パッドと、
前記第2導電型半導体層と電気的に接続されているとともに配線とワイヤボンディング接続するための第2導電型電極パッドと、
をさらに備える、
ことを特徴とする、請求項1に記載の表面入射型半導体受光素子。
【請求項3】
前記保護領域は前記第1導電型電極パッド及び第2導電型電極パッドをさらに含み、
前記保護メサ部はすべて前記非接続メサ部である、
ことを特徴とする、請求項2に記載の表面入射型半導体受光素子。
【請求項4】
前記保護メサ部は、前記保護領域すべてを囲っている、
ことを特徴とする、請求項3に記載の表面入射型半導体受光素子。
【請求項5】
前記第1導電型電極パッドの上面及び前記第2導電型電極パッドの上面は、ともに、前記非接続メサ部の上面より低い、
ことを特徴とする、請求項3に記載の表面入射型半導体受光素子。
【請求項6】
前記保護メサ部は、前記半導体基板の周縁に形成される、
ことを特徴とする、請求項4に記載の表面入射型半導体受光素子。
【請求項7】
前記保護メサ部は、上面に電極が形成される前記非接続メサ部と、前記第1導電型電極パッドが上面に形成される第1導電型電極メサ部と、を含む、
ことを特徴とする、請求項2に記載の表面入射型半導体受光素子。
【請求項8】
前記保護メサ部は、前記第2導電型電極パッドが上面に形成される第2導電型電極メサ部、をさらに含む、
ことを特徴とする、請求項7に記載の表面入射型半導体受光素子。
【請求項9】
前記上面に電極が形成される前記非接続メサ部は、前記メサ型受光部を挟んで、前記第1導電型電極メサ部の反対側に配置される、
ことを特徴とする、請求項7に記載の表面入射型半導体受光素子。
【請求項10】
前記半導体基板は矩形状をしており、
前記第1導電型電極メサ部と前記第2導電型電極メサ部は、前記矩形の一辺側に並んで配置され、
前記非接続メサ部は、前記メサ型受光部を挟んで、前記一辺の対辺側に配置される、
ことを特徴とする、請求項8に記載の表面入射型半導体受光素子。
【請求項11】
前記非接続メサ部の前記電極と、前記第1導電型電極パッドとは、前記半導体基板に対して同じ高さである箇所を含む、
ことを特徴とする、請求項7に記載の表面入射型半導体受光素子。
【請求項12】
前記非接続メサ部は、前記第1導電型半導体層及び前記第2導電型半導体層を含む半導体多層構造を有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の表面入射型半導体受光素子。
【請求項13】
前記非接続メサ部の上面は、前記メサ型受光部の上面より、それぞれ、同じ高さであるか高い、
ことを特徴とする、請求項1に記載の表面入射型半導体受光素子。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれかに記載の表面入射型半導体受光素子を備える、光受信モジュール。
【請求項15】
請求項14に記載の光受信モジュールを備える、光トランシーバ。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−253138(P2012−253138A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123503(P2011−123503)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(301005371)日本オクラロ株式会社 (311)
【Fターム(参考)】