説明

表面処理装置および表面処理方法

【課題】処理むらを防止して、良好な被膜を安定的に形成できるようにした表面処理装置および表面処理方法を提供する。
【解決装置】本発明の表面処理方法は、大気圧よりも低い圧力下でシランカップリング剤Y1を気化させ、気化したシランカップリング剤Y2の雰囲気に無機膜10を有する基板Wを晒すことで無機膜10上にシランカップリング剤の被膜を形成する表面処理工程を有する。また、本発明の表面処理装置1は、上記表面処理方法に用いられる装置であって、シランカップリング剤Y1を気化させる処理剤気化装置21と、処理剤気化装置21に対してキャリアガスを供給するガス供給装置22と、無機膜10を有した基板10を配置するとともに気化したシランカップリング剤Y2が供給される成膜室3と、成膜室3内を減圧するポンプ5とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理装置および表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクタ等の投射型表示装置の光変調手段として用いられる液晶装置は、一対の基板間の周縁部にシール材が配設され、その中央部に液晶層が封止されて構成されている。その一対の基板の内面側には液晶層に電圧を印加する電極が形成され、これら電極の内面側には非選択電圧印加時において液晶分子の配向を制御する配向膜が形成されている。このような構成によって液晶装置は、非選択電圧印加時と選択電圧印加時との液晶分子の配向変化に基づいて光源光を変調し、表示画像を形成するようになっている。
【0003】
ところで、前述した配向膜としては、側鎖アルキル基を付加したポリイミド等からなる高分子膜の表面に、ラビング処理を施したものが一般に用いられている。しかし、このようなラビング法は簡便であるものの、物理的にポリイミド膜をこすることでポリイミド膜に対して配向特性を付与するために、種々の不都合が指摘されている。具体的には、(1)配向性の均一さを確保することが困難であること、(2)ラビング処理時の筋跡が残り易いこと、(3)配向方向の制御およびプレチルト角の選択的な制御が可能ではなく、また広視野角を得るために用いられるマルチドメインを使用した液晶パネルには適さないこと、(4)ガラス基板からの静電気による薄膜トランジスタ素子の破壊や、配向膜の破壊が生じ、歩留まりを低下させること、(5)ラビング布からのダスト発生による表示不良が発生しがちであること、などである。
【0004】
また、このような有機物からなる配向膜では、液晶プロジェクタのような高出力光源を備えた機器に用いた場合、光エネルギーにより有機物がダメージを受けて配向不良を生じてしまう。特に、プロジェクタの小型化および高輝度化を図った場合には、液晶パネルに入射する単位面積あたりのエネルギーが増加し、入射光の吸収によりポリイミドそのものが分解し、また、光を吸収したことによる発熱でさらにその分解が加速される。その結果、配向膜に多大なダメージが付加され、機器の表示特性が低下してしまう。
【0005】
そこで、材料からなる配向膜の適用が進められている。無機配向膜の形成には、蒸着法、スパッタ法等があるが、蒸着法では大型基板に低欠陥密度の膜を形成することが困難であり、スパッタ法での無機配向膜の形成が強く求められている。
ところが、スパッタ法などにより形成された無機配向膜は、その表面に分極した水酸基が多数存在してしまい、これら水酸基によって無機配向膜の防湿性が低くなるといった課題があった。無機配向膜が水分を吸着すると、この水分が液晶の劣化を引き起こしてしまう。
このような水分に起因する液晶の劣化を防止するために、無機配向膜に対して脂肪族アルコールやシランカップリング剤で表面処理する方法が開示されている(例えば、特許文献1,2)。
【特許文献1】特開2004−47211号公報
【特許文献2】特開2007−127757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、液相処理の過程においては、溶媒(アルコール)中の水分の存在によりシランカップリング剤の加水分解反応が生じて重合反応が起きてしまう。また、成膜室内にシランカップリング剤が過剰に残留した状態で溶媒を揮発させると、発塵が生じ、基板上に異物となって付着してしまう。このように、液相処理では基板表面を十分に被膜することができないことがある。
【0007】
一方、シランカップリング剤による表面処理として、上記した液相処理の他に、気相状態のシランカップリング剤を基板に供給する気相処理が知られている。ところがこの場合には、大気圧下で処理を行うと材料の拡散性があまり良くないために処理に時間がかかってしまうという問題がある。また、気流の影響を大きく受けるため、成膜室内における基板の設置場所によっては処理が不均一になりやすい。
【0008】
さらに、シランカップリング剤は蒸気圧が低いことから、表面処理中や処理後において僅かな温度低下が生じると、再液化して成膜室内に残留し易い。これが起因して前回の処理の影響を受け易くなり、処理毎に安定した処理を行うことができないという問題もある。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、処理むらを防止して、良好な被膜を安定的に形成できるようにした表面処理装置および表面処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の表面処理方法は、上記課題を解決するために、大気圧よりも低い圧力下で処理剤を気化させ、前記処理剤の雰囲気に無機膜を有する被処理基板を晒すことで前記無機膜上に前記処理剤の被膜を形成する表面処理工程を有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、大気圧よりも低い圧力下で処理剤を気化させ、前記処理剤の雰囲気に無機膜を有する被処理基板を晒すことで前記無機膜上に前記処理剤の被膜を形成する表面処理工程を有することとしたので、被処理基板全体に処理剤を接触させることができ、処理むらが防止されて被処理基板上に良好な被膜を形成することができる。また、表面処理を減圧雰囲気下で行うことにより、処理剤の拡散性が向上するので、均一性の高い表面処理を行うことが可能である。また、処理剤の気化率が高まり、処理剤の再液化を防止できる。
【0012】
また、前記表面処理工程における前記圧力が、50Pa〜5000Paの範囲内であることが好ましい。
本発明によれば、前記表面処理工程における前記圧力が、50Pa〜5000Paの範囲内であることとしたので、気化した処理剤の拡散性がさらに向上する。これにより、処理むらが防止され、被処理基板上に良好な被膜を形成することができる。また、被処理基板上の水分を揮発させることができ、該水分等に起因する表面処理の不都合を回避することができる。これにより、安定した表面処理を行うことができる。
【0013】
また、前記表面処理工程における前記圧力が、1000Pa以下であることが好ましい。
本発明によれば、前記表面処理工程における前記圧力を1000Pa以下とすることにより、処理剤を確実に拡散させることができるので、被処理基板に対する表面処理精度が向上し、良好な被膜を形成することができる。また、被処理基板上の水分の揮発性がさらに高まり、該水分等に起因する表面処理の不都合を回避することができる。したがって、より安定した表面処理を行うことができる。
【0014】
また、前記表面処理工程よりも前に、前記被処理基板の水分を除去する水分除去工程を有することが好ましい。
本発明によれば、表面処理工程よりも前に、被処理基板の水分を除去する水分除去工程を有することとしたので、無機膜に付着した水分や汚染物質を除去することができる。これにより、水分や汚染物質の影響を受けることなく表面処理を行うことができるので、高品位な被膜を被処理基板上に成膜することができる。また、被処理基板上の水分等を予め除去しておくことにより、表面処理において水分等に起因する不都合が回避されて未反応となる処理剤の量を減らすことができる。
【0015】
また、表面処理工程において、前記成膜室内を加熱しながら行うことが好ましい。
本発明によれば、成膜室内を加熱しながら表面処理を行うことによって、成膜室内において気相状態の処理剤が再液化するのを防止することができる。その結果、余剰処理剤の発塵が抑えられ、当該発塵に起因する処理むらを防止できる。これにより、被処理基板に対して安定した表面処理を行うことができる。
また、加熱することで処理剤の反応が促進されて、成膜時間を短縮することができる。つまり、加熱により被処理基板上に存在する水分等が容易に離脱し、無機膜表面に対する気化した処理剤の結合反応の速度が加速することになる。その結果、成膜時間を短縮することができる。
【0016】
また、前記処理剤が、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤であることが好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
本発明によれば、処理剤としてシランカップリング剤を用いることとしたので、被処理基板上に極めて薄い被膜を略均一に形成することができ、無機膜表面の物理的性質および化学的性質を改質することができる。また、シランカップリング剤が成膜されることによって無機膜表面が撥水面となり、被処理基板の耐水性を向上させることが可能である。
【0019】
また、前記無機膜上に前記被膜を形成することで前記被処理基板上に配向膜を形成することが好ましい。
本発明によれば、無機膜上にシランカップリング剤の被膜を形成することで被処理基板上に配向膜を形成することとしたので、撥水性に優れた無機配向膜を備えた被処理基板は、液晶表示装置の被処理基板として好適なものとなる。
【0020】
本発明の表面処理装置は、先に記載の表面処理方法に用いられる表面処理装置であって、処理剤を気化する処理剤気化装置と、前記処理剤気化装置に対してキャリアガスを供給するガス供給装置と、無機膜を有した被処理基板を配置するとともに気化された前記処理剤が供給される成膜室と、前記成膜室内を減圧する圧力調整装置と、を有することを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、処理剤を気化する処理剤気化装置と、処理剤気化装置に対してキャリアガスを供給するガス供給装置と、無機膜を有した被処理基板を配置するとともに気化した処理剤が供給される成膜室と、成膜室内を減圧する圧力調整装置とを備えた構成としたことから、被処理基板を気化した処理剤に晒すことにより、処理むらを防止して良好な被膜を形成することができる。また、減圧雰囲気下に被処理基板を配置することによって、均一性の高い表面処理を行うことができる。
【0022】
また、前記成膜室内を加熱する加熱装置を有することが好ましい。
本発明によれば、成膜室内を加熱する加熱装置を有することから、処理剤の反応が促進されて、成膜時間をさらに短縮することができる。また、成膜室内において気相状態の処理剤が再液化するのを防止できる。その結果、余剰処理剤の発塵が抑えられ、当該発塵に起因する処理むらを防止することが可能である。これにより、被処理基板に対して安定した表面処理を行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0024】
[表面処理装置]
図1は、本実施形態の表面処理装置の概略構成を示す模式図、図2は、表面処理装置1の概略構成を示すブロック図である。
図1に示すように、表面処理装置1は、無機膜10を有する基板W(被処理基板)に対してシランカップリング剤Y1の蒸気を導入して表面処理を行うことにより、基板W上に無機配向膜を形成する装置であって、処理剤供給機構2と、成膜室3と、抵抗加熱ヒータ4(加熱装置)と、ポンプ5(減圧装置)と、バルブ8とを備えている。
【0025】
基板Wは、石英、ガラス、サファイア等からなり、表面に透明電極、配線、層間絶縁膜など(いずれも図示略)を有し、最表層にスパッタ法や蒸着法などによって成膜された無機膜10が設けられている。無機膜10は、SiO2などの酸化膜から構成されたものである。
【0026】
処理剤供給機構2は、処理剤としてのシランカップリング剤Y1を気化させ、気化したシランカップリング剤Y2を成膜室3へと供給するためのものである。この処理剤供給機構2は、処理剤気化装置21と、ガス供給装置22とを備えている。
【0027】
処理剤気化装置21は、シランカップリング剤Y1を貯留する気化容器211と、気化容器211に貯留されたシランカップリング剤Y1を加熱する加熱部212と、不図示の圧力調整バルブなどを備えている。そして、これら加熱部212と圧力調整バルブが、図2に示す制御装置7によって制御されることによって、気化容器211の内部雰囲気が制御される。
【0028】
用いるシランカップリング剤Y1としては、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤を用いることができる。
【0029】
【化2】

【0030】
例えば、オクタデシルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−トリフルオロメチルフェニルトリメトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、及び3− グリシドキシプロピルトリメトキシシランを好適に用いることができる。また、シランカップリング剤として、オクチルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及びトリデカフルオロテトラヒドロオクチルトリエトキシシラン等を用いることもできる。
【0031】
ガス供給装置22は、気化容器211内にキャリアガスを供給するためのもので、配管6Aを介して処理剤気化装置21と接続されている。キャリアガスとしては、気化容器211内に貯留されるシランカップリング剤Y1の種類に応じて選択され、例えば窒素ガス(N2)やアルゴンガス(Ar)を用いることができる。このガス供給装置22は、供給量を制御しつつ気化容器211の内部へキャリアガスを供給することが可能となっている。
【0032】
成膜室3は、内部に無機膜10を有した基板Wを収容可能な容器であって、例えばステンレスなどの金属からなる。成膜室3は密閉可能に構成されており、配管6Cを介して接続されるポンプ5によって内部を減圧可能になっている。この成膜室3には、処理剤供給機構2から配管6Bを介して、気化したシランカップリング剤Y2が導入されるようになっている。
【0033】
成膜室3の内部には、基板保持部20が設けられており、該基板保持部20に上記基板Wが保持されることになる。なお、成膜室3内に複数の基板Wを収容する場合には、基板W同士を互いに離間させた状態で保持するようにする。
【0034】
抵抗加熱ヒータ4は、成膜室3内に密封収納され、成膜室3からは抵抗加熱用電源41に接続する電源線42だけが引き出されている。抵抗加熱ヒータ4は、例えばリング状に形成され、収容する基板Wの周囲を囲うようにして成膜室3内の内周面に沿って設けられている。抵抗加熱ヒータ4は、抵抗加熱用電源41を介して通電することにより、成膜室3内を加熱する。抵抗加熱ヒータ4により成膜室3内を加熱することで、室内温度を気化容器211の温度と同等かそれよりも高温に維持することが可能となっている。
【0035】
バルブ8は、成膜室3と処理剤気化装置21との間を繋ぐ配管6B上に配置されており、制御装置7によって制御される。このバルブ8と上記した抵抗加熱ヒータ4とが制御装置7によって制御されることによって、成膜室3内の処理雰囲気が制御される。
【0036】
ポンプ5は、配管6Cを介して成膜室3へと接続されている。このポンプ5は制御装置7の制御のもとに駆動され、バルブ8が閉状態のときに、成膜室3内の空気を排出して、成膜室3の内部に減圧雰囲気を形成することが可能である。また、バルブ8が開状態のときには、成膜室3のみならず、気化容器211の内部にも減圧雰囲気を形成することが可能である。
【0037】
なお、ポンプ5の駆動によって、気化容器211よりも成膜室3内の気圧が低くなるように、気化容器211および成膜室3を接続する配管6Bと、成膜室3およびポンプ5を接続する配管6Cとの管径や長さを適宜設定しておくようにする。
【0038】
制御装置7は、図2に示すように、処理剤気化装置21、ガス供給装置22、抵抗加熱用電源41、ポンプ5、バルブ8の各々と電気的に接続されており、表面処理装置1の動作を統括的に制御する。
本実施形態の表面処理装置1においては、制御装置7が、処理剤気化装置21における気化容器211内の処理雰囲気と、成膜室3内の処理雰囲気とを制御する。
【0039】
具体的に、制御装置7は、処理剤気化装置21内の加熱部212およびガス供給装置22を制御することによって、気化容器211内の処理雰囲気を制御し、シランカップリング剤Y1の気化に最適な条件とすることが可能である。このシランカップリング剤Y1の気化に最適な条件とは、制御可能な処理雰囲気の中において、最も短時間でシランカップリング剤Y1が気化する条件である。すなわち、本実施形態においては、制御装置7によって、気化容器211の内部の温度や圧力などが、最も短時間でシランカップリング剤Y1が気化する条件に制御される。
【0040】
また、制御装置7は、抵抗加熱用電源41、ポンプ5およびバルブ8を制御することによって、成膜室3内の処理雰囲気を制御し、気化したシランカップリング剤Y1による基板Wの表面処理に最適な条件とすることが可能である。この気化したシランカップリング剤Y2による基板Wの表面処理に最適な条件とは、制御可能な処理雰囲気中において、最も短時間で高精度な表面処理が完了する条件である。そして、基板Wの表面に所定の膜厚のシランカップリング剤が成膜されたことで表面処理が完了するものとする。つまり、本実施形態においては、制御装置7によって、成膜室3の内部の温度や圧力などが、基板Wの表面に最も短時間で所定の膜厚のシランカップリング剤が成膜される条件に制御される。
【0041】
[表面処理方法]
次に、本発明にかかる表面処理装置を用いた表面処理方法の一例について説明する。
図3は、基板に対する表面処理の説明図である。なお、図3においてはシランカップリング剤の反応状態を模式的に示す図である。
「処理条件」
シランカップリング剤:(C10H21Si(OCH3)3)
表面処理温度:130〜200℃
表面処理時間:90〜240分
キャリアガス流量:500cc/min以下(大気圧換算)
成膜室内の圧力:500Pa程度
【0042】
まず、基板Wが配置された成膜室3内を減圧加圧することによって、無機膜10を有した基板Wに対して水分除去処理を行う(水分除去工程)。
図3(a)に示すように、無機膜10の表面には分極した水酸基が多数存在し、シラノール基(Si−OH)を形成している。特にその親水性のシラノール基の存在により、図中の破線で示す領域Rに水(湿気)が存在し易くなっている。この状態で表面処理を行うと、基板W上の水分による影響を受けてシランカップリング剤Y2が未反応となる領域が発生してしまう。このような表面処理の不都合を回避すべく、本実施形態では無機膜10上の水分(付着水や揮発性の汚染物質)等を除去する。
【0043】
具体的には、制御装置7によって成膜室3内の処理雰囲気が水分除去処理に好適な条件とされる。制御装置7は、バルブ8を閉状態にすることで成膜室3を密閉にし、その後、ポンプ5を駆動させることにより成膜室3内を大気圧よりも低い圧力(所定の減圧雰囲気)にする。このとき、抵抗加熱ヒータ4によって、成膜室3内(基板W)を上記した表面処理温度(130〜200℃)まで加熱する。こうした高温および減圧雰囲気下で、基板W上の付着水および揮発性の汚染物質を除去するようにする。
以下、表面処理が終了するまで、成膜室3内(基板W)の温度を維持する。
【0044】
次に、処理剤気化装置21の気化容器211内に貯留されたシランカップリング剤Y1を気化させる。
ポンプ5は前工程に引き続き駆動させておく。加えて、制御装置7によってバルブ8を開状態にすることで、ポンプ5の作用により気化容器211内が大気圧よりも低い圧力となる。本工程では、減圧雰囲気下において、貯留されているシランカップリング剤Y1を加熱部212で加熱することによってシランカップリング剤Y1を気化させる。このような減圧雰囲気下において加熱することによって、シランカップリング剤Y1の気化速度を高めることが可能である。
【0045】
次に、ガス供給装置22から気化容器211へ所定量のキャリアガスを導入する。ここでは、キャリアガスの流量を500cc/min以下(大気圧換算)とする。気化したシランカップリング剤Y2は、気化容器210に導入されたキャリアガス(N2)とともに成膜室3内へと供給される。
【0046】
次に、配管6Bを介して成膜室3内へ送り込まれたシランカップリング剤Y2によって基板Wの表面処理を行う(表面処理工程)。
成膜室3内は、シランカップリング剤Y2とキャリアガスの導入によって500Pa程度になる。具体的には、成膜室3に対してキャリアガス(シランカップリング剤Y2)の導入および排出を所定時間並行して行い、成膜室3内の減圧雰囲気を一定にする。なお、必要に応じてポンプ5による排気量を調整する。
【0047】
表面処理時における成膜室3内の圧力は、大気圧よりも低く設定される。具体的には、50〜5000Paの範囲内で設定され、気化したシランカップリング剤Y2の拡散性や再液化を考慮すると、1000Pa以下に設定されることがより好ましい。
【0048】
成膜室3を気化容器211よりも減圧雰囲気にすることで、気化容器211から導入されたシランカップリング剤Y2の拡散性が高められ、成膜室3全体にシランカップリング剤Y2が充満する。成膜室3内には基板Wが配置されているため、当該基板Wが気化したシランカップリング剤Y2の飽和雰囲気中に晒されて、図3(b),(c)に示すように、シランカップリング剤Y2の加水分解基とOH基とが反応する。このようにして、基板Wに対して表面処理が施され、その結果、無機膜10上にシランカップリング剤の被膜が形成される。
【0049】
表面処理中、ポンプ5は常に駆動させておき、成膜室3に対してキャリアガス(シランカップリング剤Y2)の供給および排出を行うことが適当である。これにより、成膜室3内の雰囲気を均一にすることができる。その結果、成膜室3内における配置場所に関わらず、基板Wの全体がシランカップリング剤Y2に晒されることになる。これにより、処理むらが防止され安定した表面処理を行うことができる。
また、未反応のシランカップリング剤Y2を気相状態のまま排出させることができるので、シランカップリング剤由来の付着物が成膜室3内に残存するのを抑制できる。
【0050】
なお、基板Wには予め水分除去処理(水分除去工程)が施されているので、水分等の影響を受けることなく均一な表面処理を実行することが可能である。
【0051】
このようにして、基板Wの表面がシランカップリング剤によって表面処理される。
そして、このような表面処理を、基板W上に所定の厚さの被膜が形成されるまで継続する。表面処理時間は90〜240分となっており、成膜室3内の圧力や表面処理温度によって異なる。本実施形態では、成膜室3の内部圧力が500Pa程度に設定されているので、処理温度(130〜200℃)等によって処理時間を設定する。
【0052】
なお、処理温度が低ければ均一な表面処理が可能となり、処理温度が高ければ短時間で表面処理が完了する。そのため、処理温度や処理時間は、用いるシランカップリング剤の種類等に応じて適宜設定すればよい。
【0053】
以上述べたように、本実施形態の表面処理装置1および表面処理方法によれば、所定温度に加熱された減圧雰囲気下で基板Wの表面処理を行うことから、大気圧下で行う場合よりもシランカップリング剤Y2の拡散性が高まるので、シランカップリング剤Y2の雰囲気(飽和雰囲気)中に基板Wの表面全体を晒すことが可能となる。そのため、成膜室3内における基板Wの設置場所に関わらず、処理むらのない均一な表面処理を安定して行うことができる。
【0054】
さらに、表面処理中、成膜室3に対してキャリアガス(シランカップリング剤Y2)の導入および排出を行うようにしている。こうすることで、成膜室3内の雰囲気を均一にすることができるので、成膜室3内におけるシランカップリング剤Y2の濃度を一定に維持することが可能となって、表面処理の均一性がより一層向上したものとなる。これにより、安定した表面処理を行える。
【0055】
また、本実施形態では、表面処理を高温および減圧雰囲気下で行うことから、気化容器211から導入されたシランカップリング剤Y2が再液化するのを防止して成膜室3内に残留するのを抑制できる。つまり、シランカップリング剤Y2を気化状態のまま成膜室3から排出させることができるので、成膜室3内に残留する量を格段に減らすことができる。これによって、余剰シランカップリング剤の付着に起因する処理むらを防止することが可能である。
【0056】
また、本実施形態では、表面処理を行う前に無機膜10を有した基板Wに対して予め水分除去処理を施すようにしたので、基板W上の水分による影響を受けて未反応となる部分が少なくなって処理むらが防止される。つまり、基板W上の水分を除去しておくことによって、無機膜10に対するシランカップリング剤Y2の結合反応が加速するため、成膜時間が短縮される。
【0057】
このように、無機膜10を有する基板Wに対してシランカップリング剤による表面処理を行うことにより、撥水性を有した基板Wが得られ、液晶装置の基板として好適な無機配向膜を備えたものとなる。
【0058】
[純水接触角の比較]
次に、表面処理を行った後のサンプル基板および表面処理を行う前のサンプル基板に対し、各表面上の数箇所の純水接触角をデータとしてそれぞれ取得して比較した。
この結果、表面処理前のサンプル基板の純水接触角の平均値が5度以下であったのに対し、表面処理を行った後のサンプル基板の純水接触角の平均値は40〜100度に上昇した。また、複数のサンプル基板に対して連続して表面処理を行った場合に、基板毎の純水接触角を比較した。ここでは、表面処理工程を5回以上繰り返して行い、各回の処理で得られた基板W間の純水接触角のバラツキは±5度以内であった。
【0059】
以上の結果から分かるように、本実施形態の表面処理装置1および表面処理方法によれば、表面処理中、所定の雰囲気とされた成膜室3内にシランカップリング剤Y2を導入しつつ排出を行うことによって、成膜室3内にシランカップリング剤由来の付着物や残留物が発生する量を大幅に減らせることが分かった。これにより、複数の基板に対して表面処理を連続して行ったとしても安定して表面処理を行うことができるので、基板上に良好な被膜を得ることができた。従って、処理むらが防止されて均一な表面処理が可能であることを確認できた。
【0060】
また、本実施形態の表面処理装置1および表面処理方法によれば、基板W上にシランカップリング剤の被膜が形成されたことで、無機膜10表面の物理的性質および化学的性質が改善され、無機膜10の表面が撥水面となって基板Wの耐水性が向上する。また、本実施形態で得られた基板Wを液晶装置の基板として用いる場合、純水接触角によって液晶分子のプレチルト角を制御可能となっている。純水接触角は、表面処理回数によって調整することができ、所望のプレチルト角を得るべく、純水接触角の検出を表面処理中に適宜行うようにしてもよい。
【0061】
また、純水接触角は、成膜室3内におけるシランカップリング剤Y2の濃度、処理温度、処理時間、および処理圧力によっても制御可能である。処理圧力が低いほど、成膜室3内におけるシランカップリング剤Y2の拡散性が高まるので、処理むらを防止できて良好な被膜を形成することができる。また、処理圧力が低ければ、シランカップリング剤Y2の気化率が向上し、シランカップリング剤Y2の再液化が防止される。
さらに、処理温度が高ければ、より短時間で所望とする膜厚の被膜を形成することができるとともに、所望の純水接触角が得られる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもなく、上記各実施形態を組み合わせても良い。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
また、先の実施形態では、表面処理における成膜室3内の圧力を、水分除去処理における成膜室3内の圧力よりも低く設定するとしたが、各処理を同じ圧力下で行うようにしても良い。これにより、ポンプ5の出力を一定に維持することができるので圧力の制御が容易となる。
【0064】
また、例えば、基板Wに対して水分除去工程を施す際、ポンプ5を駆動させることで成膜室3内を大気圧よりも低い圧力(所定の減圧雰囲気)にした状態で、成膜室3へのキャリアガスの導入および排気を繰り返し、基板Wの表面に付着した水分子などをキャリアガス分子に置換するとしてもよい。この際、気化容器211内に気化したシランカップリング剤Y2が存在していないことを確認した上で行うようにする。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態の表面処理装置の概略構成を示す模式図。
【図2】本実施形態の表面処理装置のブロック図。
【図3】基板に対する表面処理の説明図。
【符号の説明】
【0066】
1…表面処理装置、2…処理剤供給機構、3…成膜室、4…抵抗加熱ヒータ(加熱装置)、5…ポンプ(減圧装置)、W…基板(被処理基板)、Y1…シランカップリング剤(液体)、Y2…シランカップリング剤(気体)、21…処理剤気化装置、22…ガス供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧よりも低い圧力下で処理剤を気化させ、前記処理剤の雰囲気に無機膜を有する被処理基板を晒すことで前記無機膜上に前記処理剤の被膜を形成する表面処理工程を有する
ことを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
前記表面処理工程における前記圧力が、50Pa〜5000Paの範囲内である
ことを特徴とする請求項1記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記表面処理工程における前記圧力が、1000Pa以下である
ことを特徴とする請求項1または2記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記表面処理工程よりも前に、前記無機膜の水分を除去する水分除去工程を有する
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記表面処理工程において、前記成膜室内を加熱しながら行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記処理剤が、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤である
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【化1】

【請求項7】
前記無機膜上に前記被膜を形成することで前記被処理基板上に配向膜を形成する
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の表面処理方法に用いられる表面処理装置であって、
処理剤を気化させる処理剤気化装置と、
前記処理剤気化装置に対してキャリアガスを供給するガス供給装置と、
無機膜を有した被処理被処理基板を配置するとともに気化した前記処理剤が供給される成膜室と、
前記成膜室内を減圧する減圧装置と、を有する
ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項9】
前記成膜室内を加熱する加熱装置を有する
ことを特徴とする請求項8記載の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−7168(P2010−7168A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171159(P2008−171159)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】