説明

表面処理金属の耐食性評価方法

【課題】加工を受けた表面処理金属(表面処理鋼板)を接合して用いる場合の合わせ構造部における耐食性を評価する方法を提案する。
【解決手段】加工を受けた2つの表面処理金属の被加工面どうしを重ね合わせて接合し、その接合部に形成された合わせ構造部の腐食試験を行う表面処理金属の耐食性評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理金属の耐食性評価方法に関し、特に、成形加工後、重ね合わせた上で接合されて使用される部材に用いられる表面処理金属の合わせ構造部における耐食性を評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や家電製品、建築物、鋼構造物などの分野においては、製品等の長寿命化やライフサイクルコストの最小化を図ることが、社会的に求められるようになってきている。上記製品等は、素材金属同士を重ね合わせた上で、溶接等何らかの方法で接合されているのが普通であり、その接合部周辺の金属が重ね合わせられた部分(以降、この部分を「合わせ構造部」ともいう)の内部は、化成処理や電着塗装を完全に施すことが難しく、無処理に近い裸状態となっていることが多い。そのため、上記金属の合わせ構造部の内部は、腐食が起こり易く、製品等の寿命や耐久性に大きな影響を与えることになる。
【0003】
さらに、上記製品等には、表面処理を施した金属、例えば、亜鉛系やアルミ系の溶融めっきや電気めっき、あるいは、それらに合金化処理等を施した表面処理鋼板が多く用いられているが、斯かる表面処理金属は、曲げ加工、プレス加工あるいはそれらを組み合わせた複合成形等の種々の加工を施されてから使用されるのが普通である。
【0004】
上記加工により、表面処理金属の表面は、損傷を受けることが多い。そして、表面処理金属どうしの接合部分周辺の合わせ構造部の耐食性は、上記損傷の種類や度合いによって大きく影響され、また、製品としての耐久性は、上記合わせ構造部の耐久性によっても大きく影響される。したがって、斯かる合わせ構造部の耐食性を評価することは極めて重要である。
【0005】
しかしながら、製品の設計段階において、使用する表面処理金属を選定する際には、素材のまま、あるいは加工を施した状態での耐食性試験を実施することはあるものの、加工した表面処理金属を重ね合わせて接合した部分の重ね合わせ構造部の耐食性までは考慮していないのが普通である。例えば、非特許文献1には、各種亜鉛めっき鋼板(GI,EG,GA)を母材とするプレコート鋼板に、プレスによりリブ加工を施してから屋外暴露試験に供して、加工部の耐食性に及ぼすめっき皮膜の影響について評価した結果が開示されている。しかし、表面処理鋼板の合わせ構造部内部における耐食性を評価することまでは行われていない。
【非特許文献1】塩田、八内、壱岐島:CAMP−ISIJ vol.2(1989)p.608
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、加工した表面処理金属、特に、加工を受けた表面処理鋼板を重ね合わせて接合して用いる部材の合わせ構造部の耐食性については、その評価が必要とされているにも拘らず、未だ十分な検討がなされておらず、その評価方法についても、開発されているとは言えないのが実情である。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、加工を受けた表面処理金属(表面処理鋼板)を接合して用いる場合の合わせ構造部における耐食性を評価する方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた。その結果、加工を受けた2つの表面処理金属表面を対向させて、それぞれの一部を重ね合わせて接合した試験片を作製し、その接合部の合わせ構造部を対象として、公知の腐食試験を行うことにより、表面処理金属の被加工面の耐食性を精度よく評価できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、加工を受けた2つの表面処理金属の被加工面どうしを重ね合わせて接合し、その接合部に形成された合わせ構造部の腐食試験を行う表面処理金属の耐食性評価方法である。
【0010】
本発明の耐食性評価方法は、上記表面処理金属が、亜鉛めっき系のめっき処理を施した表面処理鋼板であることを特徴とする。
【0011】
上記表面処理鋼板は、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板のいずれかであることを特徴とする。
【0012】
本発明の耐食性評価方法は、上記腐食試験が、SAE J2334に規定された複合サイクル腐食試験であることを特徴とする。
【0013】
本発明の耐食性評価方法は、上記加工が、ドロービード加工またはしごき加工による摺動加工、縮みフランジ加工、二軸引張り加工および伸びフランジ加工のいずれかであることを特徴とする。
【0014】
本発明の耐食性評価方法は、上記加工が、ドロービード加工またはしごき加工による摺動加工、縮みフランジ加工、二軸引張り加工および伸びフランジ加工のいずれか2以上の複合加工であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面処理金属、特に、加工後の表面処理鋼板が重ね合わせられた合わせ構造部の耐食性を精度よく評価できるので、例えば、自動車の耐久性の評価試験として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の表面処理金属の耐食性評価方法は、加工を受けた2つの表面処理金属の被加工面どうしを対向して重ね合わせて接合して合わせ構造部を形成し、この合わせ構造部を対象として腐食試験を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明が対象とする表面処理金属には、鋼、アルミ、銅、それらの合金等からなる板や形材、棒線等が含まれ、制限はない。しかし、実用上は、合わせ構造部の耐食性の評価に対する要望が最も強い、自動車や家電製品等に多く使用されている鋼板類、中でも、亜鉛系めっき処理を施した表面処理鋼板、例えば、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板などに、本発明の耐食性評価方法を適用するのが好ましい。また、接合させる2つの表面処理金属の種類は、自動車や家電製品等に実用されている合わせ構造部の状況に合わせて選択すればよく、同種であっても異種であってよい。
【0018】
次に、本発明が腐食試験に用いる試験片は、本発明の目的が、加工を受けた表面処理面の耐食性、特に、それらが重ね合わされて接合され、合わせ構造部を形成している部分の耐食性を評価することにあることから、斯かる条件を具備したものであることが必要である。そこで、本発明では、加工を受けた金属の表面処理面を対向して重ね合わせてから、スポット溶接等で接合して合わせ構造部を形成し、それをそのまま、あるいは、必要に応じて適当な大きさに切断後、腐食試験に供するものとする。
【0019】
上記、腐食試験方法については、金属材料の腐食試験法として古くから用いられている、暴露試験や塩水噴霧試験等を用いることができ、特に制限はない。なお、本発明を、自動車鋼板に適用する場合には、自動車用外観腐食試験法として内外で規格化されている試験法、例えば、国内では、JASOM 609−91で規定された試験法、米国では、米国自動車技術会で定めたSAE J2334などの複合サイクル試験法を用いることができる。ただし、発明者らの調査結果によれば、SAE J2334に規定された腐食試験の結果は、実車試験における鋼板合わせ部の腐食試験の結果とよく一致していることが明らかとなっている。そこで、自動車用鋼板には、SAE J2334に規定された複合サイクル腐食試験法を適用するのが好ましい。
【0020】
また、本発明において、表面処理金属に施される加工方法としては、特に制限はなく、例えば、表面処理金属が鋼板である場合には、曲げ加工、深絞り加工、張り出し加工、フランジ加工、ドロービード加工またはしごき加工による摺動加工、縮みフランジ加工、伸びフランジ加工、二軸引張り加工等を挙げることができる。また、上記加工方法は1種類に制限されるものではなく、2以上の加工方法が組み合わされた複合加工であってもよい。
【実施例1】
【0021】
表1に示した冷延鋼板(SPC)と、その鋼板の表面に6種類の表面処理を施した表面処理鋼板(ZnNi30,GA45,EG50,GI100,GA45+有機被覆、EG50+有機被覆)の合計7種類の試験用鋼板を準備し、これらの鋼板から、幅:80mm×長さ:350mmの1次試験片をそれぞれ2枚ずつ採取し、これに、図1に示したようなダイスとビードを模した冶具を用いて高速ドロービード加工を施し、鋼板の表面処理面とダイス肩およびビード部との間で長さ150mm以上の摺動を起こさせ、図2に示したような形状の2次試験片を得た。なお、上記試験は、用いた冶具のダイス肩およびビード部の局率半径はそれぞれ2mmRおよび5mmR、ダイスの押付け圧力は5.88×104N/m、ドロービード加工の引き抜き速度は2m/minで行った。また、試験片には、潤滑油(プレトン303P:スギムラ化学製)を両面で3g/m塗布した。
【0022】
【表1】

【0023】
次いで、上記2枚の2次試験片の摺動面(ビード通過部)から、幅:50mm×長さ:100mmの3次試験片を切断採取し、同種の鋼板の被加工面(摺動面)どうしを重ね合わせてスポット溶接して接合し、図3に示したような耐食試験用の試験片とした。その後、この耐食試験用試験片に化成処理と電着塗装処理を施したのち耐食試験に供した。なお、上記化成処理は、日本パーカライジング社製のパルボルトを使用し、35℃で2分間浸漬する条件で行い、付着量は片面当たり2.5g/mとした。また、電着塗装は、自動車用の電着塗料を使用し、170℃で25分の焼付処理を行う条件で行い、電着塗装膜厚は20μmとした。なお、表1に示した6種類の表面処理鋼板については、比較材として、ドロービード加工を施さない1次試験片を用いて、上記と同様にして3次試験片を切断採取し、スポット溶接して、耐食性試験片を作製した。
【0024】
次いで、上記のようにして得た耐食性試験片について、SAE J2334に規定された、乾燥・湿潤・塩水シャワーの工程からなる複合サイクル腐食試験(図4参照)を行った。なお、各鋼板の耐食性は、試験後の試験片の合わせ構造部から腐食生成物を除去したのち、合わせ構造部に生じた最大浸食深さをポイントマイクロメータで測定することで評価した。
【0025】
上記測定の結果を、図5に示した。図5から、ZnNi30、GA45および表面に有機被覆したGA45およびEG50の鋼板は、摺動(ドロービード)加工による耐食性の劣化が大きいが、他のEG50およびGI100は、摺動(ドロービード)加工の影響が小さいことがわかる。
【実施例2】
【0026】
表面処理鋼板の耐食性に及ぼす縮みフランジ加工の影響を調査するため、表1に示した7種類の鋼板のそれぞれから、図6(a)に示したような、ブランク径が100mmφの円盤状の1次試験片を2枚ずつ採取し、次いで、これらの1次試験片に、50mmφの円柱ポンチを用いて、成形高さ10mmの深絞り成形を行い、円盤状の1次試験片の周辺部に縮みフランジ変形を起こさせ、図6(b)に示したような形状の2次試験片とした。なお、深絞り成形するに当たり、1次試験片には、潤滑油(プレトン303P:スギムラ化学製)を両面で3g/m塗布した。
【0027】
次いで、上記同種鋼板の2個の2次試験片の被加工面(縮みフランジ部)どうしを、図7に示したように重ね合わせてスポット溶接して接合し、その後、この接合したサンプルには、実施例1と同様にして化成処理と電着塗装処理を施して耐食性試験片とし、同じく、実施例1と同様の条件でSAE J2334に規定された複合サイクル腐食試験を行った。なお、表1に示した6種類の表面処理鋼板については、比較材として、縮みフランジ加工を施さない1次試験片を用いて、上記と同様にして耐食性試験片を作製し、同様の化成処理と電着塗装処理を施し、耐食性試験に供した。
【0028】
上記試験の結果を、図8に示した。図8から、縮みフランジ加工による耐食性の劣化の程度は、表面処理鋼板の種類にかかわらずほぼ同じであることがわかる。
【実施例3】
【0029】
表面処理鋼板の耐食性に及ぼす二軸引張加工の影響を調査するため、表1に示した7種類の鋼板のそれぞれから、200mm×200mmの1次試験片を2枚ずつ採取し、これらの1次試験片を、エリクセン試験機を用いて、先端径150mmφの円錐台ポンチで成形高さ10mmの張り出し加工を行い、図9に示したような形状の2次試験片とした。なお、1次試験片には、潤滑油(プレトン303P:スギムラ化学製)を両面で3g/m塗布した。
【0030】
次いで、上記同種鋼板の2枚の張り出し加工した2次試験片の被加工面(ポンチ底)どうしを、図10に示したように重ね合わせてスポット溶接により接合して耐食性試験片とし、その後、この耐食性試験片には、実施例1と同様にして化成処理と電着塗装処理を施してから、実施例1と同様の条件でSAE J2334に規定された複合サイクル腐食試験を行った。なお、表1に示した6種類の表面処理鋼板については、比較材として、二軸引張加工を施さない1次試験片を用いて、上記と同様にして耐食性試験片を作製し、同様の化成処理と電着塗装処理を施し、耐食性試験に供した。
【0031】
上記試験の結果を、図11に示した。図11から、GA45およびEG50に有機被覆を施した表面処理鋼板は、他の鋼板と比較して、等二軸引張加工による耐食性の劣化が大きいことがわかる。
【実施例4】
【0032】
表面処理金属の耐食性に及ぼす伸びフランジ加工の影響を調査するため、ブランク径が200mmφで中央に30mmφの打抜き孔を有するドーナツ状の1次試験片を、表1に示した7種類の鋼板のそれぞれから2枚ずつ採取し、これらの1次試験片に、直径が150mmφの円柱状ポンチで成形高さ50mmの加工を施して、打抜き孔の周縁部に伸びフランジ変形を起こさせ、図12に示したような形状の2次試験片とした。なお、1次試験片には、潤滑油(プレトン303P:スギムラ化学製)を両面で3g/m塗布した。
【0033】
次いで、上記同種鋼板の伸びフランジ加工した2枚の2次試験片の被加工面(ポンチ底部分)どうしを、図13に示したように重ね合わせてスポット溶接により接合して耐食性試験片とした。その後、この耐食性次試験片には、実施例1と同様にして化成処理と電着塗装処理を施してから、実施例1と同様の条件でSAE J2334に規定された複合サイクル腐食試験を行った。なお、表1に示した6種類の表面処理鋼板については、比較材として、伸びフランジ加工を施さない1次試験片を用いて、上記と同様にして耐食性試験片を作製し、同様の化成処理と電着塗装処理を施し、耐食性試験に供した。
【0034】
上記試験の結果を、図14に示した。図14から、伸びフランジ加工が表面処理金属の耐食性に及ぼす影響は小さいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の技術は、自動車または家電製品等の防錆仕様を決める防錆鋼板の選定あるいは防錆鋼板の開発に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ドロービード加工に用いた冶具と加工方法を説明する図である。
【図2】ドロービード加工後の2次試験片の形状を示した図である。
【図3】ドロービード加工した耐食性試験片を説明する図である。
【図4】SAE J2334の腐食試験サイクルを説明する図である。
【図5】ドロービード加工が表面処理鋼板の耐食性に及ぼす影響を示す図である。
【図6】深絞り加工に用いた1次試験片と加工後の2次試験片を説明する図である。
【図7】深絞り加工した耐食性試験片を説明する図である。
【図8】深絞り加工が表面処理鋼板の耐食性に及ぼす影響を示す図である。
【図9】張り出し加工に用いた1次試験片と加工後の2次試験片を説明する図である。
【図10】張り出し加工した耐食性試験片を説明する図である。
【図11】張り出し加工が表面処理鋼板の耐食性に及ぼす影響を示す図である。
【図12】伸びフランジ加工に用いた1次試験片と加工後の2次試験片を説明する図である。
【図13】伸びフランジ加工した耐食性試験片を説明する図である。
【図14】伸びフランジ加工が表面処理鋼板の耐食性に及ぼす影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工を受けた2つの表面処理金属の被加工面どうしを重ね合わせて接合し、その接合部に形成された合わせ構造部の腐食試験を行う表面処理金属の耐食性評価方法。
【請求項2】
上記表面処理金属は、亜鉛めっき系のめっき処理を施した表面処理鋼板であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性評価方法。
【請求項3】
上記表面処理鋼板は、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐食性評価方法。
【請求項4】
上記腐食試験が、SAE J2334に規定された複合サイクル腐食試験であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐食性評価方法。
【請求項5】
上記加工が、ドロービード加工またはしごき加工による摺動加工、縮みフランジ加工、二軸引張り加工、伸びフランジ加工のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐食性評価方法。
【請求項6】
上記加工が、ドロービード加工またはしごき加工による摺動加工、縮みフランジ加工、二軸引張り加工および伸びフランジ加工のいずれか2以上の複合加工であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐食性評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−175554(P2008−175554A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6852(P2007−6852)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】