説明

表面処理金属板

【課題】耐食性、深絞り加工性、塗装性の優れる表面処理鋼板を提供する。
【解決手段】金属板表面に樹脂皮膜を有する表面処理金属板であって、前記樹脂皮膜が、アクリルウレタン系樹脂30〜50質量部と、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子50〜70質量部とを、両者の合計が100質量部となるように含有し、さらに、前記アクリルウレタン系樹脂とシリカ粒子の合計100質量部に対して、シランカップリング剤を5〜25質量部の比率で含有する樹脂皮膜形成用組成物から形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深絞り性に優れた表面処理金属板に関するものであり、より詳細には、オーディオシャーシ類、コンピューターケース、モーターケース、プーリー等、自動車、家電製品、建材に使用される深絞り製品に好適な表面処理金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用電気製品の部品に用いられる材料としては、電気亜鉛めっき鋼板や溶融亜鉛メッキ鋼板等の亜鉛めっき鋼板や、耐食性及び塗装性の一層の向上を目的として該亜鉛めっき鋼板上にクロメート処理やリン酸塩処理などの化成処理が施された無機系皮膜処理鋼板が多く用いられている。また、耐食性の更なる向上や、塗装性、加工性の向上を目的として、クロメート処理が施された表面処理鋼板上に有機樹脂皮膜を形成した樹脂塗装鋼板が提案されている。
【0003】
しかしながら、家電製品におけるモーターケース等のように深絞り加工が施される場合には、加工時に、樹脂塗装鋼板と金型との間で激しい摺動摩擦が生じるため、摺動面の樹脂皮膜が剥離して黒変する黒化現象が発生し、製品の外観を著しく損なうと共に、発生した黒化物が周辺設備に付着して他の不具合を発生するという問題があった。
【0004】
これらの問題解決を目的として改良された樹脂皮膜が種々提案されており、例えば、無機高分子化合物および固体潤滑剤を有する樹脂皮膜が形成された潤滑鋼板や、無機高分子化合物、固体潤滑剤に加えて水溶性樹脂を有する樹脂皮膜が形成された潤滑鋼板が提案されている。しかしながら、無機高分子をベースとした皮膜処理鋼板は、耐疵付き性や、深絞り加工時における皮膜の黒化物発生に対する改善効果は認められるものの、鋼板へ溶液を塗布する際に生じるはじきなどの塗布欠陥や、皮膜の高い透水性から、黒点状の錆や白錆が発生し易く、また、塗装を行った場合の塗膜の密着性に劣るといった問題を有していた。
【0005】
また、近年、環境問題への意識の高まりから、従来、亜鉛めっき鋼板の耐食性向上を目的として使用されてきたクロメート処理に代わり、6価クロムを使用しない鋼板の使用が拡大されている。そのため、より耐食性に優れた皮膜の開発が期待されている。
【0006】
耐食性の更なる向上を目的とした樹脂皮膜として、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂またはカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体との混合物を有する表面処理金属板が提案されている(特許文献1、2)。
【特許文献1】特開2005−200757号公報
【特許文献2】特開2006−43913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、電気製品の高性能化および小型化はさらに進み、加工品の寸法精度に対する要求レベルの厳格化にしたがって、鋼板の加工条件も一層厳しくなりつつある。特に、深絞り加工が施される場合には、寸法精度を高めるため、加工される鋼板の板厚よりも狭いクリアランスの成形装置が使用されることがあり、今まで以上に樹脂塗膜と金型との間で激しい摺動摩擦が生じ、摺動面の製品外観が劣化する問題が顕在化してきている。かかる問題は、上記従来技術の皮膜処理鋼板においても同様に生じるため、これまで以上に加工後の製品外観に対する改善要求が高まっている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐食性、塗装性および深絞り加工性が一層向上した表面処理金属板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明の表面処理金属板とは、金属板表面に樹脂皮膜を有する表面処理金属板であって、前記樹脂皮膜が、アクリルウレタン系樹脂30〜50質量部と、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子50〜70質量部とを、両者の合計が100質量部になるように含有し、さらに、前記アクリルウレタン系樹脂とシリカ粒子との合計100質量部に対して、シランカップリング剤を5〜25質量部の比率で含有する皮膜形成用樹脂組成物から形成されたものであるところに特徴を有する。
【0010】
前記アクリルウレタン系樹脂は、原料として、ポリイソシアネート、ポリオール及びジヒドロキシアルカン酸を含み、これらの合計3〜80質量部から合成されたウレタンプレポリマーから得られたポリウレタンと、10〜97質量部の(メタ)アクリルモノマーから得られた(メタ)アクリル系ポリマーとを含むものであることが好ましく、また、前記アクリルウレタン系樹脂が、ポリウレタンおよび/または(メタ)アクリル系ポリマーの構造中に、カルボニル基および/またはヒドラジン基を有するものであるのが好ましい。特に、アクリルウレタン系樹脂が、軟化点が120℃以上で、かつ、スォードロッカー硬度が25以上のものであることが好ましい。また、前記樹脂皮膜がアゾメチン架橋構造を有するものであるのがより好ましい。
【0011】
前記シランカップリング剤としては、下記化学式(1)で表される構造を有するものであるのが好ましい。
【0012】
【化1】

(上記化学式(1)中、R1はグリシドキシ基またはエポキシシクロヘキシル基、R2,R3は低級アルコキシ基、R4は低級アルコキシ基または低級アルキル基、Xは低級アルキレン基である。)
【0013】
また、金属板における前記樹脂皮膜の付着量は、0.05〜1g/m2であることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表面処理金属板は、耐食性、深絞り加工性および塗装性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の表面処理金属板は、金属板表面に樹脂皮膜を有する表面処理金属板であって、前記樹脂皮膜が、アクリルウレタン系樹脂30〜50質量部と、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子50〜70質量部とを含有し、さらに、前記アクリルウレタン系樹脂とシリカ粒子の合計100質量部に対して、シランカップリング剤を5〜25質量部の比率で含有する樹脂皮膜形成用組成物から形成されたものであることを特徴とする。以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
(1)皮膜形成用樹脂組成物
(1−1)アクリルウレタン系樹脂
本発明で使用されるアクリルウレタン系樹脂は、(メタ)アクリル系ポリマーと、ポリウレタンとを含む。このように、(メタ)アクリル系ポリマーとポリウレタンとを併用するのは、樹脂成分を(メタ)アクリル系ポリマーのみとすると、高い硬度を有する樹脂皮膜となるため加工性(耐黒化性)は確保されるものの、柔軟性が低いため、樹脂皮膜にクラックが入り、耐食性の低下が生じ易くなる。そこで、得られる樹脂皮膜に柔軟性を与えることができ、且つ、耐薬品性、耐摩耗性に優れ、さらに、得られる樹脂皮膜に強靭さを与え得るポリウレタンを(メタ)アクリル系ポリマーと併用することとし、樹脂皮膜(表面処理金属板)の加工性と柔軟性を両立させた。
【0017】
なお、本発明で目的とするのは、加工される鋼板の板厚よりも狭いクリアランスの金型を使用するシビアな加工条件が採用される場合にも、黒化現象などの外観不良が生じ難い表面処理鋼板の提供である。上述のようなシビアな加工条件が採用される場合、鋼板には瞬間的に大きな力が加えられる。この際、金属板表面に設けられた樹脂皮膜は、成形装置との接触による衝撃にも耐え得る硬度と共に、鋼板の変形に追随し得る柔軟性を備えることが必要となる。そこで、本発明では、これらの両性質を具備した表面処理鋼板とするため、上記構成のアクリルウレタン系樹脂を採用することとしたのである。
【0018】
上記(メタ)アクリル系ポリマーを構成する(メタ)アクリル系モノマー成分としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等のカルボキシル基を有するモノマー、2−ヒドロキシ(メタ)アクリル酸エチル、2−ヒドロキシ(メタ)アクリル酸プロピル、4−ヒドロキシ(メタ)アクリル酸ブチル等の水酸基を有するモノマー、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0019】
アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸イソボニル、アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸n−ステアリル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸トリメチロールプロパン、アクリル酸1,9−ノナンジオールなどが挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸アルキル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボニル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジメタクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジメタクリル酸ポリプロピレングリコール、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸ヘプタデカフルオロデシルなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリル系モノマー成分は、必要に応じて1種類または2種類以上を選択して使用できる。
【0020】
上記(メタ)アクリル系モノマー成分の中でも、アクリル酸ブチル、メタクリル酸n−ブチルが特に好ましい。
【0021】
本発明に係るポリウレタンは、ポリイソシアネート、ポリオール及びヒドロキシアルカン酸を重合して得られるものであるのが好ましく、より好ましくは、ポリイソシアネート、ポリオール及びヒドロキシアルカン酸からウレタンプレポリマーを合成し、これを鎖延長反応させて得られたものである。
【0022】
上記ウレタンプレポリマーを構成するポリイソシアネート成分としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するものが好ましく、具体的には、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4−トルエンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,2−フェニレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート等の黄変型のポリイソシアネート;o−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート等の難黄変型のポリイソシアネート;4,4’−ジシクロメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロメタンジイソシアネート、2,2’−ジシクロメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の無黄変型ポリイソシアネート;クルードトルエンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンイソシアネート等の重合体が挙げられる。これらのポリイソシアネートは、単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。上記ポリイソシアネートの中でも、金属板の外観を良好に保つ観点からは、無黄変型のイソシアネートを用いるのが最も好ましい。
【0023】
前記ウレタンプレポリマーを構成するポリオール成分としては、1分子中に2個以上の水酸基を有するものが好ましく、低分子量タイプ、高分子量タイプのいずれも使用できる。低分子量タイプとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどが挙げられ、上記低分子量タイプのポリオール中では、トリメチロールプロパン、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。また、高分子量タイプとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、エポキシポリオール、シリコンポリオール等が挙げられる。
【0024】
上記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド又はテトラヒドロフランなどの環式オキシドの重合によって得られた生成物、あるいは、1種又は2種以上の環式オキシドを、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールまたはビスフェノールAに付加することにより得られる生成物等が挙げられる。
【0025】
ポリエステルポリオールとしては、ジオールと二塩基酸とを重縮合させて得られるものが挙げられ、ジオール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−メチルペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が、二塩基酸としては、アジピン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、その他ダイマー酸等がそれぞれ挙げられる。上記「ダイマー酸」とは、通常、炭素数13〜22の不飽和長鎖脂肪族モノカルボン酸またはそのエステルを二量化させることにより製造されたものであり、具体的には、炭素数18及び22の不飽和カルボン酸から誘導された炭素数36あるいは44のダイマー酸、リノール酸やリノレン酸のような酸を包含する炭素数18の不飽和脂肪酸から誘導されるダイマー酸等がある。上記ポリエステルオポリオールの中では、ダイマー酸含有ポリエステルポリオールが好ましい。
【0026】
上記ウレタンプレポリマーを構成するジヒドロキシアルカン酸としては、2,2−ジメチロール酢酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、ジメチロールブタン酸等が挙げられるが、反応性、溶解性等の観点からジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸を用いるのが好ましい。
【0027】
本発明の表面処理金属板が有する樹脂皮膜は、アゾメチン架橋構造を有するものであるのが好ましい。アゾメチン架橋構造とは、下記式(2)で表される構造であり、有機ヒドラジン化合物と、ケトン系又はアルデヒド系カルボニル化合物との反応により形成される。
【0028】
【化2】

【0029】
アゾメチン架橋構造が樹脂皮膜中に形成されることにより、エタノール含浸布による往復摩擦に対する堅牢度が向上し、また、樹脂皮膜のケニッヒ硬度や100%モジュラス(伸び100%時の引張応力)が増大するので、表面処理金属板の諸物性を向上させることができる。また、上記有機ヒドラジン化合物とカルボニル化合物との反応は、塗膜中の水分及び樹脂の中和に用いられるアルカリ成分の除去(揮発)により進行するため、このような状態が確立される条件であれば、温度に関係なく進行する。したがって、架橋反応に特別な操作を行う必要がない。また、自己架橋性であるので、架橋反応にホルムアルデヒドなどの架橋剤の添加が不要である。
【0030】
上記アゾメチン架橋を形成させ得るアクリルウレタン系樹脂の態様としては、以下の1〜3の形態が挙げられる。
【0031】
1:アクリルウレタン系樹脂が、ヒドラジン基を有する少なくとも1種のポリウレタンと、カルボニル基を有する少なくとも1種の(メタ)アクリル系ポリマーとを含む態様、
2:アクリルウレタン系樹脂が、少なくとも1種のポリウレタンと、少なくとも1種の(メタ)アクリル系ポリマーとが、それぞれカルボニル基を有し、且つ、少なくとも2個のヒドラジン基を有する化合物を含む態様、
3:アクリルウレタン系樹脂が、少なくとも1種のポリウレタンと、少なくとも1種の(メタ)アクリル系ポリマーとが、それぞれヒドラジン基を有し、且つ、少なくとも2個のカルボニル基を有する化合物を含む態様。
【0032】
ポリウレタンへのヒドラジン基の導入は、ウレタンプレポリマーの合成時あるいはウレタンプレポリマーの鎖延長反応時に、水酸基等のイソシアネート基との反応性を有するヒドラジン化合物やヒドラジン基を有する鎖延長剤を使用すればよい。尚、このとき、ヒドラジン基が反応してしまうのを防ぐため、モノアルデヒド又はモノケトンでヒドラジン基を封鎖しておく必要がある。このようなヒドラジン化合物としては、モノアルデヒド又はモノケトンでヒドラジン基を封鎖したγ−ヒドロキシブチルヒドラジド、沸点30〜200℃のケトン/アルデヒドでヒドラジン基が封鎖され、且つ、エタノールアミンと反応させたセミカルバジドエチルメタクリレート等が挙げられる。上記ヒドラジン化合物は、ジアミンと0.2〜2モルの(メタ)アクリル酸誘導体(好ましくはエチルアクリレート)との反応生成物と、ヒドラジンと反応させることにより製造できる。なお、ヒドラジン基の封鎖に使用したモノアルデヒド及びモノケトンは、ウレタンアクリル系樹脂を含む皮膜形成用樹脂組成物から形成した樹脂塗膜を乾燥させる際に、前記樹脂組成物の水分散化に使用したアルカリ成分が除去されて、塗膜系内が酸性化することによりヒドラジン基から脱離する。その結果、ヒドラジン基が生成し、アゾメチン架橋反応が生じる。
【0033】
上記ジアミンとしては、炭素数2〜15の脂肪族ジアミン、炭素数6〜15の脂環族および芳香族ジアミンが挙げられ、具体的には、エチレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,2−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2,4−及び2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン及びジ(アミノメチル)ベンゼンなどが例示できる。
【0034】
なお、ヒドラジン基を有するポリウレタンを使用する場合、ポリウレタン100g中におけるヒドラジン基の量は2〜500ミリ当量であるのが好ましい。より好ましくは20〜200ミリ当量であり、さらに好ましくは50〜115ミリ当量である。したがって、上記ヒドラジン化合物の使用量は、ポリウレタンを構成するポリイソシアネートの有するイソシアネート基1当量に対して、上記ヒドラジン化合物中のイソシアネート基との反応性を有する官能基が100〜1000ミリ当量となるようにするのが好ましく、より好ましくは300〜800ミリ当量であり、さらに好ましくは450〜600ミリ当量である。
【0035】
ポリウレタンへのカルボニル基の導入は、ウレタンプレポリマーの合成時あるいはウレタンプレポリマーの鎖延長反応時に、イソシアネート基との反応性を有する官能基を1個、好ましくは2個以上有するカルボニル化合物を使用すればよい。このようなカルボニル化合物としては、ジヒドロキシアセトン等のジヒドロキシケトン、また、ジアセトンアクリルアミドと、ジアミン又はアルカノールアミンとのミカエル付加反応によって得られた生成物などが挙げられる。また、鎖延長反応時に使用可能なカルボニル化合物としては、2モルのジアセトンアクリルアミドと、1モルのジアミンとのミカエル付加生成物が挙げられる。
【0036】
なお、カルボニル基を有するポリウレタンを使用する場合、ポリウレタン100g中におけるカルボニル基の量は2〜230ミリ当量であるのが好ましい。より好ましくは5〜180ミリ当量であり、さらに好ましくは10〜55ミリ当量である。したがって、上記カルボニル化合物の使用量は、ポリウレタンを構成するポリイソシアネートの有するイソシアネート基1当量に対して、上記カルボニル化合物中のイソシアネート基との反応性を有する官能基が8〜880ミリ当量となるようにするのが好ましく、より好ましくは19〜690ミリ当量であり、さらに好ましくは38〜211ミリ当量である。
【0037】
一方、ヒドラジン基を有する(メタ)アクリル系ポリマーは、ヒドラジンあるいはヒドラジン一水和物と反応してヒドラジン基を生成する官能基を有するモノマー成分を重合することにより得られる。具体的なモノマー成分としては、クロトン酸、α−クロルアクリル酸、(メタ)アクリル酸、酸クロライド又はこれらのエステルが挙げられ、特に、低分子量アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが好ましく用いられる。低分子量アルコールの(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸エチルエステル、(メタ)アクリル酸プロピルエステル、(メタ)アクリル酸イソプロピルエステル、(メタ)アクリル酸n−ブチルエステルなどが挙げられる。また、共重合成分として、塩化ビニル、フッ化ビニル又は塩化ビニリデン等のビニルハライド、スチレン、置換スチレン等のビニル−アリール化合物、ブタジエン、2−クロルブタジエン等、ビニル基を有する化合物を使用してもよい。これらのモノマー成分は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
上記モノマー成分を重合させて得られたホモ又はコポリマーとヒドラジンあるいはヒドラジン一水和物と反応させることで、ヒドラジン基を有する(メタ)アクリル系ポリマーが得られる。なお、ヒドラジン基に転化し得る官能基は、(メタ)アクリル系ポリマー100g中に、5〜300ミリ当量存在するのが好ましい。より好ましくは10〜200ミリ当量であり、さらに好ましくは20〜150ミリ当量である。また、上記ヒドラジンあるいはヒドラジン一水和物の使用量は、(メタ)アクリル系ポリマー100gに対し5〜300ミリ当量とするのが好ましく、より好ましくは10〜200ミリ当量である。
【0039】
なお、(メタ)アクリル系ポリマーの合成後に、ポリウレタンを生成させる(ウレタンプレポリマーの鎖延長反応を行う)場合には、(メタ)アクリル系ポリマーに導入されたヒドラジン基を、モノアルデヒドやモノケトンで封鎖しておくのが好ましい。
【0040】
(メタ)アクリル系ポリマーへのカルボニル基の導入は、(メタ)アクリル系モノマー成分として、カルボニル基含有モノマーを使用すればよい。このようなカルボニル基含有モノマーとしては、アクロレイン、メタクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドピバルアルデヒド、メタクリルアミドピバルアルデヒド、ジアセトンアクリレート等が挙げられる。なお、カルボニル基を有する(メタ)アクリル系ポリマーを使用する場合、(メタ)アクリル系ポリマー100g中におけるカルボニル基の量は2〜230ミリ当量であるのが好ましい。より好ましくは5〜180ミリ当量であり、さらに好ましくは10〜55ミリ当量である。
【0041】
前記2の態様で用いられる2個のヒドラジン基を有する化合物としては、ジカルボン酸ジヒドラジドが挙げられ、具体的には、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド等が挙げられる。前記3の態様で用いられる2個のカルボニル基を有する化合物としては、グリオキサル、2,5−ヘキサンジオン、グルタールジアルデヒド、コハク酸ジアルデヒド等のジ−又はポリケトン又はポリ−アルデヒドが例示できる。
【0042】
ヒドラジン基を有するポリウレタンと、カルボニル基を有するポリ(メタ)アクリル系ポリマーとを使用する場合(上記1の態様)、これらの配合量は、ポリウレタン中に存在するヒドラジン基1当量に対して、カルボニル基が0.02〜1.6当量存在するようにするのが好ましい。より好ましくは0.05〜0.9当量である。
【0043】
上記2個のヒドラジン基を有する化合物を使用する場合(すなわち、上記2の態様)、当該化合物の使用量は、アクリルウレタン系樹脂中のポリウレタンおよび/または(メタ)アクリル系ポリマーに由来するカルボニル基1当量に対して、0.02〜1.6当量となるようにするのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.9当量である。
【0044】
一方、上記2個のカルボニル基を有する化合物を使用する場合(上記3の態様)、その使用量は、アクリルウレタン系樹脂中に存在するポリウレタンおよび/または(メタ)アクリル系ポリマーに由来するヒドラジン基1当量に対して、0.02〜1.6当量となるようにするのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.9当量である。
【0045】
上記アクリルウレタン系樹脂は、別々に合成した(メタ)アクリル系ポリマー成分とポリウレタン成分とを混合したものであってもよいが、本発明においては、ポリウレタンあるいはウレタンプレポリマーを合成した後、ポリウレタン(又はウレタンプレポリマー)を合成したのと同じ系内で、これらの存在下に(メタ)アクリル系モノマーの重合反応を行って得られたものであるのが好ましい。ポリウレタンと(メタ)アクリル系ポリマーとを同一系内で合成することで、アクリルウレタン系樹脂中における、ポリウレタンと(メタ)アクリル系ポリマーとの混合状態をより均一に保てるからである。
【0046】
したがって、本発明に係るアクリルウレタン系樹脂の製造方法としては、ウレタン成分を合成した後に、同一系内でアクリル成分を重合するものであれば特に制限されることなく、従来公知の方法が用いられる。なお、後述するように、本発明に係るアクリルウレタン系樹脂は水性分散体として用いられるものであるため、アクリルウレタン系樹脂の製造段階において水分散体としておくのが好ましい。例えば、ウレタンプレポリマーの製造に続いて、(メタ)アクリル系モノマー成分の重合反応を行い、その後、得られたアクリルウレタン系樹脂を水分散させる方法;ウレタンプレポリマーを製造し、水分散させた後、(メタ)アクリル系モノマー成分を重合する方法などが挙げられる。また、(メタ)アクリル系モノマーを重合禁止剤と共にウレタンプレポリマーの合成系内に加えておくことで、(メタ)アクリル系モノマーをウレタンプレポリマーの合成の際の溶媒として使用することもできる。この場合、ウレタンプレポリマーを合成した後に、ラジカル重合開始剤を加えることにより、(メタ)アクリル系モノマーを重合すればよい。
【0047】
ウレタンプレポリマーを合成する際のポリイソシアネートとポリオールとの混合比は、NCO/OH比で1.0〜2.0とするのが好ましく、より好ましくは1.2〜1.9であり、さらに好ましくは1.3〜1.7である。
【0048】
また、ポリイソシアネート、ポリオールに対するヒドロキシアルカン酸の使用量は、ウレタンプレポリマーの酸価が20〜80mgKOH/gとなるような量で使用するのが好ましい。
【0049】
ウレタンプレポリマー合成時の温度は特に限定されないが、60〜95℃の温度とするのが好ましい。また、ウレタンプレポリマーの合成に際しては、必要に応じて重合触媒を使用してもよい。重合触媒としては、カルボン酸の錫(II)塩などの有機化合物、3級アミン、アルカリ金属水酸化物、アルコレートおよびフェノレート等の強塩基などが挙げられる。具体的には、ジ−n−オクチルメルカプタイド、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレートが挙げられる。
【0050】
上記ウレタンプレポリマーの重量平均分子量(Mw)は、400〜10000であるのが好ましい。より好ましくは3000〜9000であり、さらに好ましくは4000〜8000である。尚、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である(ポリスチレン換算値)。
【0051】
本発明に係るポリウレタン成分は、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長して得られるものであるのが好ましい。鎖延長反応は、水分散化前、水分散化後、あるいは水分散化と同時に行うことができる。
【0052】
鎖延長剤としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロへキシレンジアミン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、3,3’−ジニトロベンジン、4,4’−ジアミノフェニルメタン、メンタンジアミン、m−キシレンジアミン、イソホロンジアミン、イソホロンジアミン、ヒドラジン誘導体、または水等が挙げられ、これらの中ではヒドラジン誘導体が最も好ましい。ヒドラジン誘導体としては、例えば、ヒドラジン;ヒドラジン一水和物;メチルヒドラジン、エチルヒドラジン等のモノ置換ヒドラジン;2−ヒドロキシエチルヒドラジン、2−ヒドロキシプロピルヒドラジン等のヒドロキシアルキル置換ヒドラジン;メチレンジヒドラジン、エチレンジヒドラジン、プロピレンジヒドラジン等のアルキレンヒドラジン;シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、脂肪族ジカルボン酸ヒドラジド、不飽和脂肪族ジカルボン酸ヒドラジド、芳香族ジカルボン酸ヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、カーボジヒドラジド等のジヒドラジド類が挙げられる。これらの中でもヒドラジン一水和物が好ましく用いられる。
【0053】
上記鎖延長剤は、ウレタンプレポリマー中のNCO基1当量に対して、鎖延長剤中の官能基が0.3〜1.7当量となるように使用するのが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5当量であり、さらに好ましくは0.8〜1.2当量である。
【0054】
上記ウレタンプレポリマー又はポリウレタンは、塩基で中和することによって、水中へ乳化分散させることができる。なお、このとき系内にカルボキシル基やカルボキシル基のアルキルエステルを含む(メタ)アクリル系ポリマー(詳しくは後述する)が存在していれば、ウレタンプレポリマー又はポリウレタンと同様に(メタ)アクリル系ポリマー由来のカルボキシル基も中和される。このとき使用可能な中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア;トリエチルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチルアリルアミン、N−メチルピロリジン、テトラメチルジアミノメタン、トリメチルアミン等の3級アミン;N−メチルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジエチルアミン等の2級アミン;プロピルアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、イソブチルアミン、1,2−ジブチルプロピルアミン、3−ペンチルアミン等の1級アミン;モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等のモルホリン系の化合物;ピペラジン、ヒドロキシエチルピペラジン、2−メチルピペラジン、アミノエチルピペラジンなどのピペラジン系の化合物;N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−(β―アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−t−ブチルエタノールアミン、N−t−ブチルジエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)イソプロパノールアミン、N,N−ジエチルイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールなどのアミノアルコール類;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、アミノエチルエタノールアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタンなどのジアミン類;ココナットアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族アミン類とそれらのEO付加体などが挙げられる。これらの中では、皮膜形成時に揮発し中和剤が残存する虞のないアンモニアやトリエチルアミンが望ましく、より望ましいのはトリエチルアミンである。
【0055】
ウレタンプレポリマーの合成後、あるいは、ウレタンプレポリマーの鎖延長反応後の系内に、上記(メタ)アクリル系モノマーと重合開始剤とを添加して、又、(メタ)アクリル系モノマーを反応溶媒として使用していた場合には、ウレタンプレポリマーの合成後あるいはウレタンプレポリマーの鎖延長反応後の系内に重合開始剤を添加して、(メタ)アクリル系モノマーの重合を行う。
【0056】
(メタ)アクリル系モノマーの使用量は、ウレタンプレポリマーの構成成分であるポリイソシアネート、ポリオールおよびヒドロキシアルカン酸の合計3〜80質量部に対し、10〜97質量部とすることが好ましい。この場合、上記ウレタンプレポリマーと(メタ)アクリル系モノマーの使用比率は、生成する(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度により左右されるが、ウレタンプレポリマーと(メタ)アクリル系モノマーとの合計を100質量部とした場合に、ウレタンプレポリマー成分3〜50質量部に対して、(メタ)アクリル系モノマー50〜97質量部とするのが好ましく、ウレタンプレポリマー成分3〜40質量部に対して、(メタ)アクリル系モノマー60〜97質量部とするのがより好ましい。なお、Foxの式から導かれる(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度は−30〜90℃であるのが好ましく、より好ましくは−20〜80℃である。また、本発明に係る(メタ)アクリル系ポリマーの酸価は0〜400mgKOH/gであるのが好ましい。
【0057】
(メタ)アクリル系モノマー重合時の重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリルおよびその塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ラウイロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過ホウ素酸塩、過コハク酸塩等の無機過酸化物等の過酸化物が挙げられる。
【0058】
重合開始剤の使用量は、(メタ)アクリル系モノマーの全質量に対して0.05〜3質量%とするのが好ましい。(メタ)アクリル系モノマー重合時の温度は特に限定されないが、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜70℃で重合反応を行うのが好ましい。
【0059】
(メタ)アクリル系モノマーは、重合反応に先立って乳化させておいてもよく、例えば、ウレタンプレポリマーの乳化と同時、あるいは、ウレタンプレポリマーの鎖延長時に行うことができるが、ウレタンプレポリマーの乳化と同時に行うのが好ましい。また、所望により、アニオン性界面活性剤を使用してもよい。
【0060】
本発明のアクリルウレタン系樹脂の合成に際しては(上記ウレタンプレポリマーの合成、ウレタンプレポリマーの鎖延長反応および(メタ)アクリルポリマーの重合反応)、公知の有機溶剤を使用することができる。有機溶剤としては、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルエステル系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種で又は2種以上を混合して使用することができる。また、ウレタン成分の重合の際には、(メタ)アクリルモノマー成分を溶媒として使用してもよい。なお、この場合、重合禁止剤としては従来公知のものであればいずれも使用可能であるが、好ましいものとしてはメトキシフェノールが挙げられる。
【0061】
本発明においては、アクリルウレタン系樹脂は、水あるいは水を主成分(50質量%以上)とする水系溶剤に容易に分散する自己分散型であるのが望ましい。しかしながら、アクリルウレタン系樹脂が、水又は水系溶剤に分散し難い場合、これを機械的に分散させると、エマルションの粒子径が大きくなり貯蔵安定性が劣る場合がある。したがって、このような場合には、必要に応じて界面活性剤を使用してもよい。
【0062】
界面活性剤としては、ノニオン、アニオン、カチオン界面活性剤などの従来公知の界面活性剤を使用することができるが、発明の効果の発現が阻害されないように、目的に応じて、種類と使用量を選択することが望ましい。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレン−2−エチル−ヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキエルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(合成系)、ナロー型ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシル(ゲルべ型)エーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンβ−ナフチルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル、ポリエチレングリコールモノアルキル脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールジアルキル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステルなどが挙げられる。
【0063】
尚、ノニオン界面活性剤のみでは安定な水性分散体を得難い場合があるため、アニオン界面活性剤、反応性界面活性剤等を併用することが望ましい。アニオン界面活性剤としては、半硬化牛脂脂肪酸石鹸Na塩、ステアリン酸石鹸Na塩、オレイン酸石鹸K塩、ガムロジン系不均化ロジンナトリウム塩、アルケニルコハク酸ジカリウム塩、ドデシル硫酸エステルNa塩、ポリオキシエチレンアルキル(C12,C13)エーテル硫酸エステルNa塩、ポリオキシエチレンドデシル硫酸エステルアンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸Na塩、カチオン活性剤として高級アルキルモノアミン塩、ジアルキルエチルメチルエチル硫酸アンモニウム塩などが挙げられる。
【0064】
また、反応性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、およびその硫酸エステル塩、スルホコハク酸型、アルケニルポリオキシアルキレンリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸アンモニウムグリシジルエーテル付加物などが挙げられる。また、界面活性剤の代わりに、ポリビニルアルコールのような保護コロイドを使用しても良い。
【0065】
具体的な水性分散体化の方法としては、例えば、(メタ)アクリル系モノマー含有プレポリマーをアミンで中和した後、ここに、界面活性剤、重合触媒および水を加えて重合反応をさせることで重合物を水分散体化させる方法;(メタ)アクリル系モノマー含有プレポリマーをアミンで中和したものと重合触媒とを、界面活性剤と水からなる水溶液に加えて、重合反応を行うことで重合物を水分散体化させる方法がある。いずれの場合も、界面活性剤の使用量は、(メタ)アクリル系モノマーの総質量に対して0〜30質量%とするのが好ましい。尚、上記方法においては、中和剤(アミン)を水と混合させた後に、(メタ)アクリル系モノマー含有プレポリマーを乳化させてもよい。
【0066】
(1−2)アクリルウレタン系樹脂の配合量
本発明で使用する皮膜形成用樹脂組成物は、上述したアクリルウレタン系樹脂30〜50質量部および、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子50〜70質量部を合計で100質量部になるように含有し、前記合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤を5〜25質量部の比率で含有することを特徴とする。なお、アクリルウレタン系樹脂の水性分散体を用いる場合は、アクリルウレタン系樹脂水性分散体の不揮発性樹脂成分を30〜50質量部とすることが好ましい。
【0067】
上記アクリルウレタン系樹脂成分が少なくなりすぎると、耐食性および塗装性が劣化する傾向がある。一方、上記アクリルウレタン系樹脂成分が多くなりすぎると、耐黒化性が低下する傾向がある。このような観点から、上記アクリルウレタン系樹脂は30質量部以上、より好ましくは35質量部以上、40質量部以下含有することが好ましい。ここで、前記アクリルウレタン系樹脂水性分散体の不揮発性樹脂成分は、上述したアクリルウレタン系樹脂であり、不揮発性樹脂成分は、水性分散液の技術分野において公知の方法により測定することができ、例えば、水性分散液を100℃〜130℃で1〜3時間加熱した時の蒸発残分である。
【0068】
上記黒化現象は、例えば、表面処理金属板がモーターケースを製造する場合のような厳しい深絞り加工を受けた場合には、金型摺動や、金型と金属板との間の摩擦熱の発生によって、金属板表面の皮膜が削り取られて剥離したり、軟化して、製品の摺動面に黒く付着することにより起こると考えられる。また、剥離した皮膜(樹脂成分)に、亜鉛めっき層から剥離した亜鉛粉やプレス油が一部混入し、これらが混練された結果、黒化物が生成して金型に付着し、製品表面に転写することも考えられる。
【0069】
アクリルウレタン系樹脂の軟化点が120℃以上であれば、上記黒化現象の発生を抑制できるため、特に厳しい深絞り加工用途の表面処理金属板の場合は、軟化点が120℃以上のアクリルウレタン系樹脂を用いることが好ましい。深絞り加工時の金型温度は、摩擦等によって約120℃程度まで上昇しているものと推定され、軟化点が120℃未満のアクリルウレタン系樹脂では、黒化現象を充分抑制することができないからである。
【0070】
樹脂の軟化点は、熱機械分析(TMA)で測定する。本発明では、「TMA/SS120」(セイコーインスツルメンツ社製)を用いた。測定温度範囲は室温(25℃程度)から250℃までとし、昇温速度:5℃/分、測定荷重:5gf、アルゴンガス100ml/minの気流中で、針入法にて行った。樹脂の水性分散体から測定試料を得る場合は、ポリテトラフルオロエチレン製の皿に水分散体を入れて、40℃の乾燥機で12時間以上乾燥させたものを用いた。
【0071】
また、黒化現象の発生をさらに低減させるためには、プレス加工時における皮膜剥離量を低減し、製品への付着を抑制する必要がある。このため、金属板上の皮膜の硬度が硬い方が好ましく、本発明では、アクリルウレタン系樹脂皮膜のスォードロッカー硬度が25以上であることが好ましい。アクリルウレタン系樹脂を硬くして皮膜の硬度を高めることで、金型摺動における皮膜へのダメージを軽減すると共に、皮膜が剥離したとしても剥離した皮膜自体が硬いため、金型への付着や製品への転写が抑制されるという効果が発現する。
【0072】
このような観点から、本発明では、軟化点が120℃以上、かつスォードロッカー硬度が25以上のアクリルウレタン系樹脂を用いることが好ましい。
【0073】
スォードロッカー硬度は、ASTM D2134−93に規定されている硬度であって、スォードロッカー硬度計(上島製作所(現在生産中止)やテスター産業社の他、多数の外国企業によって製造販売されている)によって測定される。なお、JIS K 5400-1959(現在は廃止されている)にも規定されていた。簡単には、振り子(スォードロッカー)を樹脂皮膜等が形成された試料の上で揺らし、減衰して振り子がある一定の振り幅になるまでの揺れ回数をカウントし、硬度を求める。硬い材料では、皮膜に下向きに作用する垂直力(ロッカーの自重)とロッカーに対する皮膜の反発力(上向き)が釣り合って左右の反復運動を妨げないため、振り子が止まるまでの回数が多くなる。軟らかい材料では、垂直力に比べて反発力が小さいため、左右の反復運動を妨げ、振り子が止まるまでの回数が小さくなる。
【0074】
スォードロッカーは、図1〜3に示したような構造であって、同形同大の平行した2枚の輪で転がり往復運動ができるように構成されている。図4には、測定時の側面視を示した。試験板固定装置の試験板の中央部には直方体状に凹部が形成され、凹部の底面に試験板を置き、その上でスォードロッカーを転がすことができるように構成されている。
【0075】
JIS K 5400-1959に準拠した具体的な測定方法を説明する。まず、スォードロッカーを水平な面に置き、垂直軸が垂直になるように垂直安定用のオモリで調節する。試験板固定装置に標準ガラス板をセットして、試験板固定装置で固定し、板面に水準器を載せ、縦と横の方向について水平となるように、固定装置の調節足で高さを調節する。スォードロッカーを試験板の上に載せ、転がり運動を与えてから風よけを被せ、風よけの外部から水準器の状態を観察する。スォードロッカーの水準器BのアワがBのオオイの陰に隠れて初めて見えなくなった時を0(スタート)と数える。その後、ころがり運動1往復ごとにカウント数を1ずつ加え、水準器Cのアワがオオイの陰に隠れて初めて見えなくなるまで、カウントし、この値をスォードロッカー値とする。標準ガラス板のスォードロッカー値は50であるので、5回の測定でスォードロッカー値が50±1になるように、水準器B,Cそれぞれの傾きを調整する。また、50±1往復に要する時間が60±5秒になるように、周期調整用オモリの垂直位置を調整する。次に、試験板を標準メタクリルメチル板(ポリメチルメタクリレート)に変え、スォードロッカー値が、5個とも20±1になるように、水準器B,Cのそれぞれの傾きを調整する。これを繰り返して、両標準板でそれぞれの測定値が上記基準を満たしたとき、水準器B,Cを固定する。なお、雰囲気温度は20〜23℃、湿度は20〜40%RHとする。試験板を、スォードロッカーを測定したい試料へと変更し、上記と同様の方法で、スォードロッカー値を測定する。n=5とし、それぞれについてスォードロッカー値を測定し、5個のスォードロッカー値のうち大きい方から3個について平均を求め、それを最終値とする。最終値そのままが、試料のスォードロッカー値であり、これを2倍した値がスォードロッカー硬度となる。本発明では、固形分濃度20質量%に調整したアクリルウレタン系樹脂をガラス板上に#20のバーコーターで塗布し、0〜105℃で乾燥させた皮膜を用いて測定した。
【0076】
(1−3)シリカ粒子
本発明で使用される皮膜形成用樹脂組成物は、上述したアクリルウレタン系樹脂30〜50質量部に対して、シリカ粒子を50質量部以上、好ましくは60質量部以上であって、70質量部以下、好ましくは65質量部以下含有する(ただし、アクリルウレタン系樹脂成分とシリカ粒子との合計量を100質量部とする)。
【0077】
前記シリカ粒子は、得られる樹脂皮膜に耐食性、塗装性を付与すると共に、皮膜の硬度を高めて深絞り加工性を向上させる。シリカ粒子の含有量が50質量部より少なくなると、深絞り加工性が低下する傾向がある。一方、シリカの含有量が70質量部を超えると、樹脂皮膜の造膜性が低下し、耐食性が低下する傾向がある。
【0078】
前記シリカ粒子による効果を最大限に発揮させるためには、シリカ粒子の平均粒子径が4〜20nmの範囲にあることが好ましい。シリカ粒子の平均粒子径が小さくなるほど、樹脂皮膜の耐食性は向上するが、平均粒子径が4nm程度未満になると、耐食性の向上効果が飽和する傾向があり、また、樹脂水性分散液の安定性が低下してゲル化し易くなるからである。一方、シリカ粒子の平均粒子径が20nmを超えると、樹脂皮膜の造膜性が低下し、耐食性、塗装性が低下する傾向がある。
【0079】
なお、シリカ粒子の平均粒子径の測定方法としては、シアーズ法(4〜6nm)又はBET法(4〜20nm)を採用することが好ましい。
【0080】
本発明に係る皮膜形成用樹脂組成物に使用可能なシリカ粒子としては、通常、コロイダルシリカとして知られているものが好ましく、例えば「スノーテックス(登録商標)」シリーズ(日産化学工業社製のコロイダルシリカ)の「XS」、「SS」、「40」、「N」、「UP」等が好適に用いられる。
【0081】
(1−4)シランカップリング剤
本発明で使用する皮膜形成用樹脂組成物は、シランカップリング剤を含有する。シランカップリング剤は、耐食性、深絞り加工性、塗装性等の向上に加えて、金属板と金属板上に形成される樹脂皮膜との密着性の向上にも寄与する。
【0082】
皮膜形成用樹脂組成物中におけるシランカップリング剤の含有量は、上述したアクリルウレタン系樹脂(不揮発性樹脂成分)とシリカ粒子との合計100質量部に対して、5質量部以上、好ましくは7質量部以上であって、25質量部以下、好ましくは20質量部以下である。シランカップリング剤の含有量が少なすぎると、上述したアクリルウレタン系樹脂とシリカ粒子等との反応性が低下して、耐食性、塗装性、深絞り加工性等が低下する。一方、シランカップリング剤の含有量が多すぎると、ゲル状物が生じて後述する樹脂水性分散液の安定性が低下したり、反応に寄与しないシランカップリング剤量が多くなり、金属板と金属板上に形成される樹脂皮膜の密着性が低下する場合がある。
【0083】
前記シランカップリング剤としては、化学式(1)のシランカップリング剤を使用することが好ましい。
【0084】
【化3】

【0085】
上記化学式(1)中、R1はグリシドキシ基またはエポキシシクロヘキシル基、R2,R3は低級アルコキシ基、R4は低級アルコキシ基または低級アルキル基、Xは低級アルキレン基を示す。ここで「低級」とは、炭素数が1〜5、より好ましくは炭素数が1〜3であることを意味する。
【0086】
上記シランカップリング剤を含有させることによって、樹脂水性分散液の塗装性、得られる表面処理金属板の耐食性が高められる。上記化学式(1)で表される末端にグリシドキシ基またはエポキシシクロヘキシル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。グリシドキシ基やエポキシシクロヘキシル基を有するシランカップリング剤は、アクリルウレタン系樹脂に対する架橋反応性に富むため、このようなシランカップリング剤を用いることで得られる樹脂皮膜が強固になって、耐食性および深絞り加工性が向上する。
【0087】
(1−5)その他の添加剤
本発明では、より強固な皮膜を形成させるため、官能基間反応を利用した化学結合によってポリマー鎖同士を架橋させてもよい。このポリマー鎖同士の架橋形成に用いられる架橋剤としては、カルボキシル基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する架橋剤であれば特に限定されず、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、(ポリ)グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリストールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)エチレングリコールグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル類や、ポリグリシジルアミン類等のグリシジル基含有架橋剤;4,4−ビス(エチレンイミンカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、N,N−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、N,N−ジフェニルメタン−4,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トルエンビスアジリジンカルボキシアミド等の2官能アジリジン化合物;トリ−1−アジリジニルホスフィンオキサイド、トリス〔1−(2−メチル)アジリジニル〕ホスフィンオキサイド、トリメチロ−ルプロパントリス(β−アジリジニルプロピオネート)、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1,3,5−トリアジン、テトラメチルプロパンテトラアジリジニルプロピオネート等の3官能以上のアジリジン化合物あるいはこれらの誘導体等のアジリジニル基含有架橋剤が好適例として挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0088】
前記架橋剤は、前記アクリルウレタン系樹脂100質量部に対して、1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であって、20質量部以下、より好ましくは15質量部以下の比率で使用することが好ましい。架橋剤の使用量が少なすぎると、化学結合による架橋の効果(強固な皮膜の形成による耐食性、深絞り加工性の向上効果)が十分に得られず、一方、多すぎる場合には、増粘して樹脂水性分散液の安定性が低下する場合がある。
【0089】
また、前記樹脂皮膜形成用組成物には、耐食性、深絞り加工性などを低下させない範囲で、潤滑剤を含有させていてもよい。前記潤滑剤としては、例えば、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、ライスワックス、テフロン(登録商標)ワックス、二硫化炭素、グラファイトなどの固体潤滑剤が挙げられ、これらの固体潤滑剤の中から1種または2種以上を選択して使用することができる。
【0090】
(2)樹脂水性分散液の調製、樹脂皮膜の形成方法
本発明の表面処理金属板(樹脂皮膜)の製造には、上記皮膜形成用樹脂組成物が水あるいは水を主成分とする溶媒に分散された樹脂水性分散液を用いる。本発明で使用する樹脂水性分散液には、樹脂塗膜の形成及び得られる皮膜の物性を向上させるため、本発明の目的を阻害しない範囲で、希釈溶媒、皮張り防止剤、レべリング剤、消泡剤、浸透剤、乳化剤、造膜助剤、着色顔料、増粘剤、および潤滑剤等を含有させてもよい。
【0091】
前記樹脂水性分散液の調製方法は特に限定されるものではなく、前記アクリルウレタン系樹脂の水性分散体に、シリカ粒子、シランカップリング剤、及び、必要に応じて用いられる架橋剤、潤滑剤等の添加剤を所定量配合することにより得られる。シリカ粒子、シランカップリング剤、潤滑剤、及び架橋剤等はいずれの段階で添加しても良いが、シランカップリング剤および架橋剤の添加後は、架橋反応が進行してゲル化が生じないように、熱をかけないようにすることが望ましく、例えば、樹脂水性分散液は25℃以下で保存することが好ましい。また、樹脂水性分散液の粘度も特に限定されるものではなく、形成方法等に応じて好ましい粘度を適宜採用することができる。
【0092】
金属板上に樹脂皮膜を形成する方法も特に限定されず、従来公知の塗布方法が採用でき、例えば、上記樹脂水性分散液を、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法等を用いて、金属板表面の片面もしくは両面に塗布して、加熱乾燥すればよい。加熱乾燥温度は特に限定されるものではないが、架橋剤を使用する場合には、使用する架橋剤の架橋反応が進行する温度を採用することが好ましい。また、潤滑剤としてポリエチレンワックスを使用する場合には、ワックスが球形を維持していると、後の加工工程での加工性が良好となる。したがって、球形形状が損なわれないように、金属板の温度が70〜130℃の範囲となるように加熱乾燥を行うことが好ましい。なお、樹脂水性分散液塗布時の金属板の温度が高いと、塗膜の乾燥までに樹脂水性分散液中の成分が金属板と反応したり、乾燥前に水分が蒸発して外観むらが生じることがあるため、樹脂水性分散液塗布時の金属板の温度は50℃以下にすることが好ましい。
【0093】
なお、上記アゾメチン架橋構造は、樹脂皮膜形成時に、皮膜中に、アゾメチン架橋を形成し得る官能基が存在していれば、水分及び樹脂成分の中和に用いられるアルカリ成分の除去(揮発)により架橋形成反応が進行して形成される。したがって、斯かる条件下であれば、温度に関係なくアゾメチン架橋は生成する。
【0094】
本発明で使用する金属板は特に限定されるものではないが、亜鉛系めっき鋼板であることが好ましく、例えば、溶融純亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛−5%アルミめっき鋼板、亜鉛−55%アルミめっき鋼板、電気純亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケルめっき鋼板、アルミ板、チタン板等が好適に使用できる。また、樹脂皮膜を形成する前に、金属板表面にCo又はNi等の処理、インヒビター処理、あるいは各種クロメートフリー及び6価クロメートフリーの下地処理を行ってもよい。
【0095】
金属板への樹脂皮膜の付着量(厚み)は、乾燥後において、0.05g/m2以上、より好ましくは0.2g/m2以上であって、1g/m2以下、より好ましくは0.7g/m2以下であることが望ましい。付着量が少なすぎると、耐食性が劣化する。一方、付着量が多すぎると、耐黒化性が劣化する傾向がある。
【0096】
通常、FT−IR測定において、アゾメチン架橋に由来するピークは1660cm-1付近に観察されるが、本発明に係る樹脂皮膜には、同領域にピークが確認されるウレタン結合も含まれるため、FT−IRでこれらを明確に区別して確認することは困難である。しかしながら、例えば、ウレタン結合は含むがアゾメチン架橋を含まない樹脂を用いて同条件で作製した試料のFT−IR測定を行った場合に、当該試料と比較して、本発明に係る樹脂皮膜では1660cm-1付近のピークが増幅して確認される。
【0097】
なお、上述のように樹脂皮膜中のアゾメチン架橋の存在量を定量することは困難であるが、例えば、アクリルウレタン系樹脂製造時の仕込量から算出されるアゾメチン架橋の存在量(理論値)は、ポリウレタンと(メタ)アクリル系ポリマーの合計100g中に、5〜120ミリ当量であるのが好ましく、より好ましくは10〜90ミリ当量である。
【0098】
なお、本発明の表面処理金属板は、用途に応じて加工工程を得た後、そのまま用いてもよく、また、従来条件による電着塗装、粉体塗装、シルク印刷等を施した後、用いてもよい。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。実施例において採用した評価方法は以下の通りである。
【0100】
(1)耐食性
得られた表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)について、エッジシールをした平板材の塩水噴霧試験をJIS−Z2371(11.1 中性塩水噴霧試験)に従って実施し、以下の評価基準に沿って、白錆の発生量が、平板材の面積の5%に達するまでの時間にて評価した。
(評価基準)
◎:白錆発生 240時間以上
○:白錆発生 120時間以上〜240時間未満
△:白錆発生 72時間以上〜120時間未満
×:白錆発生 72時間未満
【0101】
(2)深絞り加工性
得られた表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)について、80トンのクランクプレス装置(アイダエンジニアリング社製、80TONクランクプレス、図5参照)でプレス成形品を作製し、成形品の摺動面の型かじり及び黒化現象(耐黒化性)について目視で観察して評価した。
【0102】
<プレス成形条件>
・しわ押さえ圧=9.8N
・成形速度=40SPM
・ビード高さ=3mm
・ミゾR(r4)=2mm
・ダイR(r3)=0.5mm
・ダイ径:51.640mm
・ポンチ径:50.120mm
【0103】
(型かじりの評価基準)
◎:かじりが生じている部分の面積が全体の40%未満。
○:かじりが生じている部分の面積が全体の40%以上、60%未満。
△:かじりが生じている部分の面積が全体の60%以上、80%未満。
×:かじりが生じている部分の面積が全体の80%以上。
【0104】
(黒化現象の評価基準)
◎:プレス成形品の摺動面に黒化現象は認められなかった(極めて良い)。
○:良い(図6(a)参照)。
△:悪い。
×:極めて悪い(図6(b)参照)。
【0105】
(3)塗装性
得られた表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)に、メラミンアルキッド系塗料(関西ペイント社製「アミラック(登録商標)#1000」)を、乾燥後の塗膜厚が約20μmになるようにスプレー塗装し、130℃で20分間焼き付けて、後塗装を行った。続いて、この供試材を沸騰水に1時間浸漬した後、取り出し、室温(25℃)で1時間放置した後、供試材表面に、カッターナイフで1mm角の碁盤目を100升刻み、これにテープ剥離試験(JIS K5600、使用したテープはニチバン社製「セロテープ(登録商標)品番No.405」)を実施して、塗膜の残存升目数によって塗膜密着性を下記4段階の評価基準で評価した。
(評価基準)
◎:残存率 95%以上
○:残存率 80%以上95%未満
△:残存率 70%以上80%未満
×:残存率 70%未満
【0106】
(4)硬さ スォードロッカー硬度
下記製造例で得られた各樹脂の水系分散体を、縦200mm、横150mmのガラス板上に、#20のバーコーターで塗布して評価用の試料を作成し、前記した方法で、樹脂皮膜のスォードロッカー値を測定し、スォードロッカー硬度を求めた。
【0107】
(5)樹脂皮膜の軟化点
樹脂皮膜の軟化点を熱機械分析(TMA:「TMA/SS120」:セイコーインスツルメンツ社製)で測定した。試料は、樹脂の水系分散体を適量ポリテトラフルオロエチレン製の皿に入れて、40℃の乾燥機で12時間以上乾燥させたものとした。測定温度範囲は室温から250℃までとし、昇温速度:5℃/分、測定荷重:5gf、アルゴンガス100ml/minの気流中で、針入法にて行った。
【0108】
[樹脂水系分散体の調製]
製造例1 アクリルウレタン系樹脂水系分散体1の調製(H−MDI系ウレタンアクリル樹脂)
攪拌機、加熱用ヒーター、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.0Lの加圧対応合成装置に、ポリオール成分として、ダイマー酸、トリメチロールプロパンおよびジエチレングリコールからなるポリエステルポリオール24.3g(「TA22−636」、日立化成ポリマー株式会社製)、1,4−シクロヘキサンジメタノール3.89g、ジメチロールプロピオン酸22.52g、ジヒドロキシアセトン8.82g(Merck Ltd., JAPAN製)を仕込み、ここに、アクリル酸ブチル370.01g,メタクリル酸n−ブチル370.01g,ジアセトンアクリルアミド13.32g,メチルエチルケトン13.32gおよびメトキノン1.51gを混合した反応溶媒96.01gを加えて、系全体が均一に分散するように攪拌した。
【0109】
次いで、上記ポリオールとアクリル系モノマーとの混合溶液を20℃に調節した後、ここに、イソシアネート成分として、ヘキサメチレンジイソシアネート(H−MDI)128.81gを添加し、その後、ジブチル錫ジラウレート0.12gを添加した。発熱が完了した後、反応溶液を1時間かけて90〜95℃まで昇温し、2.5時間反応させた。その後、50℃まで反応溶液を冷却し、上記アクリルモノマーを含有する反応溶媒96.01gを合成装置に導入し、50℃で1時間攪拌することによってアクリルモノマー含有プレポリマーを得た。得られたプレポリマーのイソシアネート基(NCO)含有率(%)は3.9%(理論値3.96%;NCO/OH比1.58)であった。
【0110】
上記アクリルモノマー含有プレポリマー250gを50℃まで加温した後、11.18gのトリエチルアミンを添加してカルボキシル基を中和した。この中和されたアクリルモノマー含有プレポリマーに、アニオン性界面活性剤45.64g(「アルスコープTH−330」(有効成分27%の水溶液):東邦化学工業株式会社製)と、イオン交換水358.94gに水溶性アゾ系重合開始剤1.23g(「VA−044」、和光純薬工業株式会社製)を混合したものを15分かけて導入し、発熱が完了したのを確認した後、80%ヒドラジン一水和物7.25gをイオン交換水72.54gで希釈したヒドラジン水溶液を添加して、鎖延長反応を行った。ヒドラジン水溶液の添加終了後、65℃で60分攪拌した。その後、0.1gの「KS−530」(信越化学工業株式会社製、抑泡剤)を添加して、分散液1を得た。
【0111】
300.00gの上記分散液1を50℃まで加熱した後、この分散液1に、上述のアクリルモノマーを混合した反応溶媒152.04gと、イオン交換水274.02gに、水溶性アゾ系重合開始剤1.49g(「VA−044」、和光純薬工業株式会社製)を混合した重合開始剤水溶液を45分かけて導入し、55℃〜60℃で4時間攪拌した。次いで、ここに、アジピン酸ジヒドラジド3.87gをイオン交換水7.19gに溶解させた水溶液を添加して、55℃〜60℃にて3時間攪拌した後、反応溶液を冷却してアクリルウレタン系樹脂水系分散体1を得た。
【0112】
製造例2 アクリルウレタン系樹脂水系分散体2の調製
攪拌機、加熱用ヒーター、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.0Lの加圧対応合成装置に、ポリオール成分として、ダイマー酸、トリメチロールプロパンおよびジエチレングリコールからなるポリエステルポリオール24.3g(「TA22−636」、日立化成ポリマー株式会社製)、1,4−シクロヘキサンジメタノール3.89g、ジメチロールプロピオン酸22.52g、ジヒドロキシアセトン8.82g(Merck Ltd., JAPAN製)を仕込み、ここに、アクリル酸ブチル370.01g,メタクリル酸n−ブチル370.01g,ジアセトンアクリルアミド13.32g,メチルエチルケトン13.32gおよびメトキノン1.51gを混合した反応溶媒96.01gを加えて、系全体が均一に分散するように攪拌した。
【0113】
次いで、上記ポリオールとアクリル系モノマーとの混合溶液を20℃に調節した後、ここに、イソシアネート成分として、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート128.81gを添加し、その後、ジブチル錫ジラウレート0.12gを添加した。発熱が完了した後、反応溶液を1時間かけて90〜95℃まで昇温し、2.5時間反応させた。その後、50℃まで反応溶液を冷却し、上記アクリルモノマーを含有する反応溶媒96.01gを合成装置に導入し、50℃で1時間攪拌することによってアクリルモノマー含有プレポリマーを得た。得られたプレポリマーのイソシアネート基(NCO)含有率(%)は3.9%(理論値3.96%;NCO/OH比1.58)であった。
【0114】
上記アクリルモノマー含有プレポリマー250gを50℃まで加温した後、11.18gのトリエチルアミンを添加してカルボキシル基を中和した。この中和されたアクリルモノマー含有プレポリマーに、アニオン性界面活性剤45.64g(「アルスコープTH−330」(有効成分27%の水溶液):東邦化学工業株式会社製)と、イオン交換水358.94gに水溶性アゾ系重合開始剤1.23g(「VA−044」、和光純薬工業株式会社製)を混合したものを15分かけて導入し、発熱が完了したのを確認した後、80%ヒドラジン一水和物7.25gをイオン交換水72.54gで希釈したヒドラジン水溶液を添加して、鎖延長反応を行った。ヒドラジン水溶液の添加終了後、65℃で60分攪拌した。その後、0.1gの「KS−530」(信越化学工業株式会社製、抑泡剤)を添加して、分散液2を得た。
【0115】
300.00gの上記分散液2を50℃まで加熱した後、この分散液2に、上述のアクリルモノマーを混合した反応溶媒152.04gと、イオン交換水274.02gに、水溶性アゾ系重合開始剤1.49g(「VA−044」、和光純薬工業株式会社製)を混合した重合開始剤水溶液を45分かけて導入し、55℃〜60℃で4時間攪拌した。次いで、ここに、アジピン酸ジヒドラジド3.87gをイオン交換水7.19gに溶解させた水溶液を添加して、55℃〜60℃にて3時間攪拌した後、反応溶液を冷却してアクリルウレタン系樹脂水系分散体2を得た。
【0116】
製造例3 カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水系分散体の調製
攪拌機、加熱用ヒーター、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置に、ポリオール成分としてポリテトラメチレンエーテルグリコール60g(平均分子量1000、保土ヶ谷化学工業株式会社製)、1,4−シクロヘキサンジメタノール14g、ジメチロールプロピオン酸20gを仕込み、反応溶媒としてN−メチルピロリドン30.0gを加えた。ここに、イソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート104gを添加し、この混合溶液を80〜85℃まで昇温させて5時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有率は8.9%であった。
【0117】
このプレポリマーに、さらにトリエチルアミン16gを加えて、50℃で4時間乳化し、鎖延長反応させてカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水系分散体を得た。
【0118】
製造例4 エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水系分散体の調製
攪拌機、加熱用ヒーター、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの乳化設備を有するオートクレーブに、水626質量部、エチレン−アクリル酸共重合体(アクリル酸20質量%、メルトインデックス(MI):1300、質量平均分子量(Mw):20,000、酸価:150、ダウケミカル社製「プリマコール(登録商標)5990I」)160質量部に加え、上記エチレン−アクリル酸共重合体の有する全カルボキシル基に対して、トリエチルアミンを0.6当量、水酸化ナトリウムを0.15当量加えて、150℃、0.5MPaの雰囲気下で高速攪拌を行い、反応溶液を40℃まで冷却してエチレン−アクリル酸共重合体の水系分散体を得た。
【0119】
上記で得られた水系分散体に、架橋剤として、4,4−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(「ケミタイト(登録商標)DZ−22E」、株式会社日本触媒製)を、エチレン−アクリル酸共重合体の不揮発性樹脂成分100質量部に対して5質量部の比率になるように添加して、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水系分散体を得た。
【0120】
製造例5 エチレン−アクリル酸共重合体を主成分とする水系分散体の調製
攪拌機、加熱用ヒーター、温度計、温度コントローラを備えた内容量1.0Lの乳化設備を有するオートクレーブに、エチレン−アクリル酸共重合体(上記「プリマコール(登録商標)5990I」)200質量部、ポリマレイン酸水溶液(日油社製「ノンポール(登録商標)PMA−50W」、Mw:約1100(ポリスチレン換算)、固形分50質量%品)8.0質量部、トリエチルアミン33.5質量部(上記エチレン−アクリル酸共重合体の有する全カルボキシル基に対して0.63当量分)、48%水酸化ナトリウム水溶液6.9質量部(上記エチレン−アクリル酸共重合体の有する全カルボキシル基に対して0.15当量)、トール油脂肪酸(ハリマ化成社製「ハートールFA3」)3.5質量部、イオン交換水792.6質量部を加えて密封し、150℃、0.5MPa(5気圧)で3時間、500rpmで攪拌し、反応溶液を30℃まで冷却した。次いでシランカップリング剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ(旧社名:GE東芝シリコーン)社製「TSL8350」、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)10.4質量部、ポリカルボジイミド(日清紡社製「カルボジライト(登録商標)SV−02」、Mw:2,700、固形分40質量%品)31.2質量部、イオン交換水72.8質量部を添加し、10分間攪拌した。エチレン−アクリル酸共重合体を主成分とする水系分散体を得た。
【0121】
[樹脂の軟化点とスォードロッカー硬度]
(実験例1)
上記製造例1〜5で得られたアクリルウレタン系樹脂水系分散体1および2、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水系分散体、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水系分散体およびエチレン−アクリル酸共重合体を主成分とする水系分散体を用いて、樹脂皮膜の軟化点とスォードロッカー硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
[皮膜形成用樹脂水性分散液の調製と表面処理金属板の作製]
(実験例2)
上述の各製造例で得られたアクリルウレタン系樹脂水系分散体1および2、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水系分散体、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水系分散体の混合液、エチレン−アクリル酸共重合体を主成分とする水系分散体のそれぞれに、表2に示す配合組成に従ってシリカ粒子(日産化学株式会社製「スノーテックス(登録商標)XS」、平均粒子径4〜6nm)を配合して不揮発性成分換算による両者の合計が100質量部となるようにし、ここに、シランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製「KBM403」)を10質量部添加して皮膜形成用樹脂水性分散液を調製した。
【0124】
これらの皮膜形成用樹脂水性分散液を、電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で塗膜を加熱乾燥して、付着量0.4g/m2の樹脂皮膜が形成された表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板の耐食性、深絞り加工性を評価した。結果を表2に併せて示す。なお、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気純亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量:20g/m2、板厚:0.8mm)を用いた。
【0125】
【表2】

【0126】
なお、表2中、AU1は、アクリルウレタン系樹脂水系分散体1の不揮発性樹脂成分、AU2は、アクリルウレタン系樹脂水系分散体2の不揮発性樹脂成分、PUは、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水系分散体の不揮発性樹脂成分、ECは、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水系分散体の不揮発性樹脂成分、EAは、エチレン−アクリル酸共重合体を主成分とする水系分散体の不揮発性樹脂成分をそれぞれ示す。
【0127】
鋼板No.1〜No.3は、製造例1のアクリルウレタン系樹脂水系分散体1を、鋼板No.4〜No.6は、製造例2のアクリルウレタン系樹脂水系分散体2をそれぞれ用いて形成した樹脂皮膜を有する表面処理金属板である。表2の結果より、これらの鋼板はいずれも耐食性並びに深絞り加工性に優れるものであることがわかる。
【0128】
これに対して、鋼板No.7〜9は、製造例3のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水系分散体を用いたものであり、鋼板No.10〜12は、製造例3のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水系分散体と製造例4のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水系分散体とを混合して用いたものである。上記鋼板No.1〜6と比較して、これらの鋼板はいずれも耐黒化性に劣るものであった。これは、樹脂皮膜中にアクリル樹脂が含まれておらず、十分な皮膜硬度が得られなかったためと考えられる。
【0129】
また、鋼板No.13〜15は、製造例4のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水系分散体、鋼板No.16〜18は、製造例5のエチレン−アクリル酸共重合体を主成分とする水系分散体を、それぞれ用いたものである。上記鋼板No.1〜6と比較して、これらの鋼板はいずれも耐黒化性に劣るものであった。これは、樹脂の軟化点が低いためと考えられる。
【0130】
(実験例3)
上記製造例1で得たアクリルウレタン系樹脂水系分散体1または製造例2で得たアクリルウレタン系樹脂水系分散体2と、シリカ粒子(日産化学製「スノーテックス(登録商標)XS」、平均粒子径4〜6nm)とを、表3に示す配合組成にしたがって、不揮発性成分で換算した両者の合計が100質量部となるように配合し、ここに、シランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製「KBM403」)を10質量部添加して皮膜形成用樹脂水性分散液を調製した。
【0131】
この皮膜形成用樹脂水性分散液を、電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で塗膜を加熱乾燥して、付着量0.4g/m2の樹脂皮膜を有する表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板の耐食性、深絞り加工性を評価した。結果を表3に示す。なお、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気純亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量:20g/m2、板厚:0.8mm)を用いた。
【0132】
【表3】

【0133】
鋼板No.24〜No.28は製造例1のアクリルウレタン系樹脂水系分散体1から、鋼板No.37〜No.41は製造例2のアクリルウレタン系樹脂水系分散体2から得られた樹脂皮膜を備えた表面処理金属板であり、前記皮膜形成用樹脂水性分散液は、アクリルウレタン系樹脂水系分散体を30〜50質量部(不揮発性樹脂成分換算)、シリカ粒子50〜70質量部とを両者の合計で100質量部含有し、さらに、前記合計100質量部に対して、前記シランカップリング剤を10質量部の比率で含有するものである。これらの鋼板はいずれも、耐食性、深絞り加工性に優れるものであった。
【0134】
これに対して、鋼板No.19〜No.23およびNo.32〜No.36は、皮膜形成用樹脂水性分散液に含まれるアクリルウレタン系樹脂の配合量が少ない例であり、No.24〜28およびNo.37〜No.41の鋼板に比べて耐食性に劣るものであった。鋼板No.29〜No.31およびNo.42〜No.44は、不揮発性樹脂成分の配合量が多過ぎる例であり、No.24〜28およびNo.37〜No.41の鋼板に比べて耐黒化性に劣るものであった。
【0135】
(実験例4)
上記で得たアクリルウレタン系樹脂水系分散体1または2と、シリカ粒子(日産化学株式会社製「スノーテックス(登録商標)XS」、平均粒子径4〜6nm)とを、アクリルウレタン系樹脂水系分散体の不揮発性樹脂成分が40質量部、シリカ粒子が60質量部となるように配合し、両者の合計100質量部に対して、シランカップリング剤(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業製「KBM403」)を0〜30質量部添加して皮膜形成用樹脂水性分散液を調製した。
【0136】
この皮膜形成用樹脂水性分散液を、電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で塗膜を加熱乾燥して、付着量0.4g/m2の樹脂皮膜が形成された表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。
【0137】
得られた樹脂塗装鋼板の耐食性、深絞り加工性および塗装性を評価した。結果を表4に示す。なお、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気純亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量:20g/m2、板厚:0.8mm)を用いた。
【0138】
【表4】

【0139】
鋼板No.46〜No.51はアクリルウレタン系樹脂水系分散体1から、鋼板No.54〜No.59はアクリルウレタン系樹脂水系分散体2から得られた樹脂皮膜を有する表面処理金属板であり、前記皮膜形成用樹脂水性分散液は、アクリルウレタン系樹脂水性分散体を40質量部(不揮発性樹脂成分換算)、シリカ粒子を60質量部含有し、両者の合計100質量部に対して、シランカップリング剤を5〜25質量部の比率で含有するものである。表4より、いずれの鋼板も、耐食性、深絞り加工性、塗装性に優れるものであることがわかる。
【0140】
これに対して鋼板No.45およびNo.53は、シランカップリング剤を含まない例であり、鋼板No.52およびNo.60は、シランカップリング剤の含有量が25質量部を超える例であるが、No.46〜No.51およびNo.54〜No.59の鋼板と比較して、いずれの鋼板も塗装性が劣るものであった。
【0141】
(実験例5)
上記アクリルウレタン系樹脂水系分散体1または2を40質量部(不揮発性樹脂成分換算)と、平均粒子径が4〜100nmのシリカ粒子(日産化学製「スノーテックス(登録商標)」XS)60質量部とを混合し、両者の合計100質量部に対して、シランカップリング剤(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業製「KBM403」)を10質量部添加して皮膜形成用樹脂水性分散液を調製した。
【0142】
この皮膜形成用樹脂水性分散液を、電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で塗膜を加熱乾燥して、付着量0.4g/m2の樹脂皮膜が形成された表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。なお、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気純亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量:20g/m2、板厚:0.8mm)を用いた。
【0143】
得られた樹脂塗装鋼板の耐食性、深絞り加工性、塗装性を評価した。結果を表5に示す。
【0144】
【表5】

【0145】
表5の結果より、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子を使用することによって、耐食性、深絞り加工性、および塗装性に優れる表面処理金属板が得られることがわかる。
【0146】
(実験例6)
上記アクリルウレタン系樹脂水系分散体1または2を40質量部(不揮発性樹脂成分換算)と、シリカ粒子(日産化学株式会社製「スノーテックス(登録商標)XS」、平均粒子径4〜6nm)60質量部とを配合し、両者の合計100質量部に対して、表6に示す各種シランカップリング剤を10質量部添加して皮膜形成用樹脂水性分散液を調製した。
【0147】
この皮膜形成用樹脂水性分散液を、電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で塗膜を加熱乾燥して、付着量0.4g/m2の樹脂皮膜が形成された表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。得られた樹脂塗装鋼板の耐食性、深絞り加工性、塗装性を評価した。結果を表6に示す。なお、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気純亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量:20g/m2、板厚:0.8mm)を用いた。
【0148】
【表6】

【0149】
表6の結果より、シランカップリング剤として末端にグリシドキシ基やエポキシシクロヘキシル基を有するシランカップリング剤を使用することによって、皮膜形成用の樹脂水性分散液を安定に保つことができることがわかる(鋼板No.69〜71およびNo.75〜No.77)。また、これらNo.69〜71およびNo.75〜No.77の鋼板は、耐食性、深絞り加工性および塗装性にも優れていた。
【0150】
(実験例7)
上記アクリルウレタン系樹脂水系分散体1または2を40質量部(不揮発性樹脂成分換算)と、シリカ粒子(日産化学製「スノーテックス(登録商標)XS」、平均粒子径4〜6nm)60質量部とを混合し、両者の合計100質量部に対して、シランカップリング剤(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業製「KBM403」)を10質量部添加して、皮膜形成用樹脂水性分散液を調製した。
【0151】
この皮膜形成用樹脂水性分散液を、電気純亜鉛めっき鋼板の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で塗膜を加熱乾燥して、付着量0.05〜2.0g/m2の樹脂皮膜を有する表面処理金属板(樹脂塗装鋼板)を得た。
【0152】
得られた樹脂塗装鋼板の耐食性、深絞り加工性、塗装性を評価した。結果を表7に示す。なお、上記電気純亜鉛めっき鋼板としては、クロメート処理を施さない電気純亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量:20g/m2、板厚:0.8mm)を用いた。
【0153】
【表7】

【0154】
表7の結果より、金属板の表面の樹脂皮膜付着量を0.05〜1g/m2の範囲とすることによって、表面処理金属板の耐食性、深絞り加工性および塗装性を向上できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明の表面処理金属板は、耐食性、深絞り加工性および塗装性に優れるため、オーディオシャーシ類やコンピューターケース、モーターケースおよびプーリー等、自動車、家電製品、建材などに使用される深絞り製品に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】スォードロッカーの正面図である。
【図2】スォードロッカーの背面図である。
【図3】スォードロッカーの側面図である。
【図4】スォードロッカー値を測定している状態を示す図である。
【図5】深絞り加工性評価に用いた加工装置を示す図である。
【図6】深絞り加工後の鋼板の摺動部の外観を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板表面に樹脂皮膜を有する表面処理金属板であって、
前記樹脂皮膜が、アクリルウレタン系樹脂30〜50質量部と、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子50〜70質量部とを、両者の合計が100質量部となるように含有し、さらに、
前記アクリルウレタン系樹脂とシリカ粒子の合計100質量部に対して、シランカップリング剤を5〜25質量部の比率で含有する皮膜形成用樹脂組成物から形成されたものであることを特徴とする表面処理金属板。
【請求項2】
前記アクリルウレタン系樹脂が、原料として、ポリイソシアネート、ポリオール、および、ジヒドロキシアルカン酸を含み、これらの合計3〜80質量部から合成されたウレタンプレポリマーから得られたポリウレタンと、10〜97質量部の(メタ)アクリルモノマーから得られた(メタ)アクリル系ポリマーとを含むものである請求項1に記載の表面処理金属板。
【請求項3】
前記アクリルウレタン系樹脂が、ポリウレタンおよび/または(メタ)アクリル系ポリマーの構造中に、カルボニル基および/またはヒドラジン基を有するものである請求項1または2に記載の表面処理金属板。
【請求項4】
前記アクリルウレタン系樹脂の軟化点が120℃以上であり、かつ、スォードロッカー硬度が25以上である請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理金属板。
【請求項5】
前記樹脂皮膜が、アゾメチン架橋構造を有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理金属板。
【請求項6】
前記シランカップリング剤が、下記化学式(1)で表される構造を有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理金属板。
【化1】

(上記化学式(1)中、R1はグリシドキシ基またはエポキシシクロヘキシル基、R2,R3は低級アルコキシ基、R4は低級アルコキシ基または低級アルキル基、Xは低級アルキレン基である。)
【請求項7】
前記樹脂皮膜の付着量が0.05〜1g/m2である請求項1〜6のいずれかに記載の表面処理金属板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−137283(P2009−137283A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271345(P2008−271345)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】