説明

表面分析装置

【課題】画像が一方向に殆ど一様なパターンである場合でも、ドリフトによる補正用画像のずれを正確に検出して特性X線画像の位置ずれの補正を適切に行う。
【解決手段】時間を隔てた2枚のSEM画像が得られると、画像の並進対称性の有無の検出を行い(S1)、並進対称性がある場合には(S2でYES)、2枚のSEM画像に対し相互相関法による二次元的な画像マッチングを行って位置ずれの量及び方向を算出した(S3)後に、変動量が小さい方向に限定した一次元的な画像マッチングを実行することで位置のずれ量を算出する(S4)。その結果を用いて二次元画像マッチングの結果を修正してずれ量及び方向を求め(S5)、二次元/一次元マッチングを規定の回数に達するまで繰り返す(S6)。こうした求めた位置ずれ情報に基づいて二次元走査時のレーザ照射位置を微調整することで特性X線画像のずれを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の表面分析を行う表面分析装置に関し、さらに詳しくは、試料表面に電子線、陽子線、イオン線、高速原子線、α線、X線などの励起線を照射し、それによって試料から放出される特性X線やオージェ電子などを検出し、さらに励起線の照射位置を試料表面上で移動させることで試料の二次元範囲の表面画像を得る表面分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線等の粒子線やX線などの電磁波を励起線として試料に照射し、そこから放出される種々の粒子やX線を検出して画像化する表面分析装置として様々な種類の装置が実用化されている。例えば電子線マイクロアナライザ(EPMA:電子線プローブ微小部分析装置などともいう)では、微小径に集束させた電子線を励起線として試料に照射する。電子線の照射位置からは試料に含まれる元素に特有のエネルギーを有する特性X線が発生するため、この特性X線を検出してそのエネルギー及び強度を分析することにより、試料上の微小領域に含まれる元素の同定や定量を行うことができる。そして、試料上の所定の二次元範囲内で電子線の照射位置を走査して同様の分析を繰り返すことにより、該範囲内のそれぞれ異なる微小領域に含まれる元素やその含有量を調べることができ、それに基づいて試料上の所定範囲の元素の分布状態を示す元素マッピング像などを作成することができる。
【0003】
一般に、励起線照射に対応して試料から放出される特性X線やオージェ電子は、同様に試料から放出される二次電子や反射電子などに比べてかなり信号強度が弱い。そのため、実用的なS/N比の表面画像を得るためには或る程度の時間に亘って検出信号を積算する必要があり、1枚の精細な表面画像の取得に比較的長い時間を要する。そのため、画像取得中の試料の熱膨張や周囲の電磁的な条件の変動等により、本来同一範囲の画像信号を得ている筈のものが時間経過とともに徐々に位置ずれを生じるという現象(以下、本明細書ではこの現象をドリフトという)が起こり易い。
【0004】
いま1枚の特性X線による表面画像の取得中に、図10(a)に矢印で示すように円形状や矩形状の画像パターンが移動するドリフトが起こったものとする。このようにシフトしてゆく画像信号を積算すると、それにより得られた画像は図10(b)に示すように画像パターンに歪みが発生したり空間分解能が低下したりする要因となる。こうしたドリフトの影響を軽減するために、例えば従来、特許文献1に記載のように走査像を経時的に演算処理してずれ量を求め、このずれ量を補正するように電子線の照射軸の調整を行う方法が知られている。しかしながら、特性X線のように弱い信号強度に基づく走査像ではずれ量を求めることは難しい。そこで、信号強度が比較的高いために短時間で取得できる二次電子等によるSEM画像を利用してずれ量を算出して補正を行うことが考えられる(特許文献2など参照)。
【0005】
即ち、特性X線による表面画像(特性X線画像)の撮影前又は撮影中に、一定時間間隔で二次電子などによるSEM画像を撮影して補正用画像とし、この補正用画像を利用して撮影中の電子線照射位置のずれの量及び方向を求める。そして、その求まったずれの量及び方向を打ち消すように試料を保持する試料ステージの移動位置又は偏向レンズによる電子線の偏向を修正しながら、特性X線等による画像信号の収集を実行して得られた信号を各画素毎に積算してゆき、最終的に高いS/N比の特性X線画像を形成する。
【0006】
上述のように時間的に異なる時点で得られた2枚の補正用画像の間のずれの量及び方向を算出するために、従来から、二次元離散フーリエ変換/逆変換を用いた相互相関法などの二次元画像マッチングの手法が利用されている。図10に示したような通常の画像パターンであれば、そうした手法によりかなり正確にずれの量及び方向を計算することができる。ところが、画像パターンの性質によっては位置ずれを正確に求めることができない場合がある。
【0007】
例えば図9(a)に示すような、半導体基板表面等の拡大画像では、或る一方向に殆ど一様な画像パターンであって、その方向への二次元画像マッチングの精度は著しく低い。このように画像パターンが或る方向に殆ど変化がない、つまり並進対称性を有するものである場合、その方向への位置ずれを正確に求めることができないためにドリフト補正の精度も低下してしまうという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開昭63−190236号公報
【特許文献2】特開平05−290787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、画像パターンが並進対称性を有するような試料についても、高い精度で以て位置ずれの量及び方向を求めてドリフト補正を行うことができる表面分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、励起線を試料に照射する励起線照射部と、該励起線の照射によって試料から放出された特性X線や所定の粒子による相対的に弱い信号を検出する検出部と、を含み、前記励起線の照射位置を試料面上の所定範囲で移動するように試料と励起線との相対位置関係を二次元走査することにより前記所定範囲に対応する試料の表面画像を取得する表面分析装置において、
a)1枚の表面画像の取得の前及び途中に、前記励起線の照射に応じて試料から得られる所定の粒子による相対的に強い信号を検出し、該信号に基づいて前記所定範囲に対応する補正用画像をそれぞれ作成する補正用画像取得手段と、
b)前記補正用画像取得手段により異なる時点で得られた複数の補正用画像に対し、画像パターンを比較して並進対称性を有するか否かを判断する並進対称性検出手段と、
c)並進対称性が有ると判断された場合に、複数の補正用画像に対する二次元的な画像マッチングにより求まる位置ずれ情報と、並進対称性がみられる方向に限定した一次元的な画像マッチングにより求まる位置ずれ情報とにより、位置ずれの量及び方向を算出する位置ずれ情報算出手段と、
d)前記1枚の表面画像の取得のための二次元走査に際し、前記位置ずれ情報に基づく各画素の位置ずれを補正するように試料の移動及び/又は励起線の偏向を微調整しながら走査を実行する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る表面分析装置において、励起線とは電子線のほか、例えば陽子線、イオン線、高速原子線、α線、X線などを用いることができる。また、「試料から放出された特性X線や所定の粒子による相対的に弱い信号」とは、例えば特性X線のほか、オージェ電子などによる信号のことをいう。一方、「試料から得られる所定の粒子による相対的に強い信号」とは例えば二次電子や反射電子などによる信号のことをいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る表面分析装置では、或る時間だけ隔てて得られた2枚の補正用画像に基づいて画像マッチングを利用して位置ずれ情報(ずれの量(大きさ)と方向)を求めるが、その際に、並進対称性検出手段は画像パターンが並進対称性を有しているか否かを判定する。ここで並進対称性とは、二次元画像中の上下方向、左右方向、又は斜め方向など一定の方向に画像パターンを平行移動しても殆どパターンに変化がみられないことをいう。但し、或る一方向に完全に一様なパターンである場合には、その方向への平行移動が生じると位置ずれの検出が不可能であることは明らかである。したがって、ここでの並進対称性の判定とは、そうした完全な並進対称性の有無の判定ではなく、或る程度、並進対称性を有しているとみなし得るか否かを判定するものである。
【0013】
並進対称性が無いとみなせる場合には、複数の補正用画像に対する二次元的な画像マッチングによる位置ずれ情報を算出するだけであるが、並進対称性が有るとみなせる場合には、二次元的な画像マッチングによる位置ずれ情報を算出するほか、並進対称性がみられる方向、つまりは画像パターンの変動量が相対的に小さな方向に限定した一次元的な画像マッチングによる位置ずれ情報の算出も行う。こうした一次元的な画像マッチングによれば、二次元的な画像マッチングでは変動量の大きい方向に埋もれて(マスキングされて)しまって反映されにくい、変動量が小さい方向の位置ずれを捉え易く、そのずれの量と方向とを高い精度で検出することができる。こうして求めた一次元的な画像マッチングによる位置ずれ情報により、二次元的な画像マッチングにより得られた位置ずれ情報を修正することで、並進対称性の有る画像についても位置ずれの量と方向とを正確に求めることができる。
【0014】
もちろん、二次元的な画像マッチングによる位置ずれの計算と一次元的な画像マッチングによる位置ずれの計算とを繰り返すことにより、計算の精度を一層向上させることができる。こうして補正用画像に基づいて位置ずれ情報が得られたならば、制御手段は、1枚の表面画像の取得のための二次元走査に際し、上記のように修正された位置ずれ情報に基づいて各画素の位置ずれを補正するように試料の移動及び/又は励起線の偏向を微調整しながら走査を実行する。これにより、それまでのドリフトによる画像の位置ずれが補正により軽減される。
【0015】
このようにして本発明に係る表面分析装置によれば、従来方法では正確な位置ずれ補正が困難であった並進対称性を有するような画像であっても、ドリフトに起因する画像パターンの位置ずれの量と方向とを正確に検出することができる。それにより、こうした特定の性質の画像パターンを持つ画像についても、積算処理の結果得られる特性X線画像などの表面画像の歪みや空間分解能の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る表面分析装置の一実施例である電子線マイクロアナライザについて、図面を参照して説明する。図1は本実施例による電子線マイクロアナライザの要部の構成図である。
【0017】
この装置において、電子銃1から放出された励起線としての電子線Eは、偏向コイル2を経て対物レンズ3によって集束されて試料ステージ4上に載置されている試料Sの上面に照射される。試料ステージ4はモータを含むステージ駆動部5の駆動力により、X軸、Y軸、Z軸の三軸方向に移動可能となっており、X軸−Y軸方向への移動により試料S上での電子線Eの照射位置が変更(走査)され、Z軸方向への移動により照射径が変更される。試料Sに微小径の電子線Eが照射されたとき、その照射位置において試料Sに含まれる元素に特有の波長の特性X線が放出され、この特性X線はX線検出器6により検出される。
【0018】
X線検出器6による検出信号はパーソナルコンピュータ(PC)10に機能的に含まれるデータ処理部12に送られ、データ処理部12ではその検出値に基づいた元素の同定処理や定量処理などが実行されるとともに、後述するように二次元走査により得られる結果に基づいて各元素のマッピング像などの試料画像(本発明における表面画像)が作成される。
【0019】
一方、電子線Eの照射によって試料Sからは二次電子や反射電子も発生する。これら電子は電子検出器7により検出される。この電子検出器7の検出信号は画像信号処理部16に送られ、画像信号処理部16は後述するように二次元走査による試料Sの表面上のSEM像を作成する。このSEM像はPC10に送られて補正演算処理部13に入力される。補正演算処理部13はSEM像を構成するデータに基づいて所定の演算処理を実行することで位置ずれ補正に必要な情報を求める。
【0020】
PC10は、各部の動作を制御する中央制御部11、データ処理部12、補正演算処理部13を機能的に含むほか、操作部14、表示部15などが接続されている。偏向コイル制御部18はこの中央制御部11の統括的な制御の下に、偏向コイル2へ供給する励磁電流を制御することで試料Sに照射される電子線Eを磁場によって二次元的に曲げ、それにより電子線Eの照射位置を走査し得る。また試料ステージ制御部19は同じく中央制御部11の統括的な制御の下に、ステージ駆動部5の動作を制御し、試料S上で電子線Eの当たる位置を走査する。このように試料S上での電子線E照射位置の二次元的な走査は偏向コイル2の制御と試料ステージ4の駆動制御のいずれでも行うことができるが、前者は後者よりも走査速度は速いが走査可能範囲は狭い。したがって、通常、画像を取得したい目的範囲が或る程度広い場合には、基本的には試料ステージ4の駆動制御で二次元走査を行い、必要に応じて電子線Eの偏向を利用する。
【0021】
次に、上記構成を有する本実施例の電子線マイクロアナライザにおいて試料S上の表面画像(特性X線画像)を取得する際の特徴的な動作について、図2〜図7を参照して説明する。図2は画像取得動作のタイミング図、図3は位置ずれ補正情報算出の際の概略フローチャート、図4は並進対称性の検出動作の説明図、図5は並進対称性がある画像間の相関状態を示す図、図6及び図7は並進対称性がある場合の位置ずれ算出方法を説明するための図である。
【0022】
電子線Eの照射に対応して試料Sから放出される特性X線は強度が弱いため、試料S上の目的範囲の二次元走査を繰り返してその範囲内の各微小領域に対応して得られた特性X線検出信号を微小領域毎に積算することで目的範囲の表面画像を形成する。このため、1枚の特性X線画像(表面画像)を取得するのには或る程度の時間が掛かり、その間にドリフトによって画像ずれが生じる可能性が高い。
【0023】
そこで、本実施例による電子線マイクロアナライザでは、図2(a)に示すように、1枚の特性X線画像の取得期間W1を複数に分割して(w1、w2、…)それぞれの間に休止期間を設け、図2(b)、(c)に示すように、その休止期間及び特性X線画像取得開始前に補正用画像としてのSEM画像の取得期間u1、u2、…及び補正演算処理期間を設けるようにする。電子線Eの照射に対応して試料Sから放出される二次電子や反射電子による信号強度は特性X線に比べて遙かに強いため、SEM画像は短時間でS/N比が比較的高いものを得ることができる。
【0024】
まず特性X線画像取得開始前のSEM画像取得期間u1において、中央制御部11の指示を受けた試料ステージ制御部19の制御の下に、試料S上の目的範囲内で電子線Eの照射位置が二次元的に走査されるようにステージ駆動部5が試料ステージ4を移動させる。この二次元走査の際に電子線Eの照射に応じて試料S上から出た二次電子及び反射電子は電子検出器7により検出され、画像信号処理部16で目的範囲のSEM画像が作成される。ここでは最初に作成されるSEM画像をU1と呼ぶ。このSEM画像U1は補正演算処理部13に入力されて、例えばフレームメモリに一旦格納される。
【0025】
分割された1回目の特性X線画像取得期間w1で試料S上の目的範囲内の二次元走査に対応する特性X線の検出が実行された後に1回目の休止期間に入ると、2回目のSEM画像取得期間u2において上記と同様にして目的範囲のSEM画像が取得される。ここでは2回目に取得されるSEM画像をU2と呼ぶ。このSEM画像U2が補正演算処理部13に入力されると、補正演算処理部13では先にフレームメモリに保存されたSEM画像U1と合わせた2枚のSEM画像U1、U2を用いて次のような補正演算処理を実行する。
【0026】
一般に、2枚の画像のパターンの位置ずれの量と方向とを算出するためには、前述のように相互相関法などの二次元画像マッチング手法が用いられる。しかしながら、通常の画像であればそうした手法により精度良く位置ずれの量及び方向を求めることができるが、並進対称性を有する画像の場合には位置ずれが正しく求まらない。そこで、本実施例の表面分析装置では、以下のように特徴的な手法により2枚のSEM画像から位置ずれの情報を求めるようにしている。
【0027】
まず補正演算処理部13は、2枚のSEM画像U1、U2に基づいて並進対称性の有無の検出を行う(ステップS1)。即ち、両画像U1、U2の各画素において相互相関関数の勾配ベクトルをそれぞれ求め、これらを測定値とした主成分分析を行う。これにより例えば図4に示すような、第i(i=1,2)主成分ベクトルα↑、第i因子θ(>0)が求まる(但し本明細書中ではA↑はベクトルAを表すものとする)。なお、α↑は正規直交基底を構成することに注意する。このとき第1因子θと第2因子θとを比較し、θ>>θであれば並進対称性があると判断する(ステップS2でYES)。具体的には例えばθ≧θ×100であるときに並進対称性があると判断することができるが、この判断条件は適宜に変更してもよい。
【0028】
並進対称性が有ると判断された場合には、図5に三次元的に示すように相互相関関数形状が尾根状となる。そのため、相互相関関数のピークを探索してもα↑方向への変動量がα↑方向への変動量に埋もれてしまって正しく検出することができない。そこで、補正演算処理部13は、一旦、2枚のSEM画像U1、U2に対し相互相関法による二次元的な画像マッチングを行って位置ずれの量及び方向を算出した(ステップS3)後に、画像パターンの変動量が小さいα↑方向に限定した一次元的な画像マッチングを実行することで位置のずれ量を算出し(ステップS4)、その結果を用いて二次元画像マッチングの結果を修正して位置のずれ量及び方向を求める(ステップS5)。そして、このような二次元/一次元マッチングを規定の回数に達するまで繰り返す(ステップS6)。
【0029】
ステップS3〜S5の処理を一例を挙げて具体的に説明する。2枚の補正用画像f、gの間の位置ずれの計算は次の式で表されるf、gの相互相関
[f,g](x,y)=Σf(x’−x,y'−y)g(x’,y’)
=F−1{F[f](−u,−v)F[g](u,v)}(x,y) …(1)
のピークの位置を求めることによって行われる。但し、(1)式でΣはx’,y’についての総和、F、F−1はそれぞれ二次元離散フーリエ変換とその逆変換である。そこでSEM画像U1、U2に対応する二次元画像h、hの二次元的な相互相関関数をC[h;h]で表す。
【0030】
また、画像hのd↑方向への平行移動をS[h;d↑]、図6(a)、(b)に示すように画像hの直線L上に限定した、つまり直線Lを含む垂直断面内での表面輪郭線を表す(1変数)プロファイルをR[h;L]で表し、位置ずれをα↑方向に限定した相互相関関数をC[h,h;α↑]で表す。
[f,g;α↑](t)=Σ{ΣR[f;L](t’−t)R[g;L](t’)}
=Σ{F−1{F[R[f;L]](−u)F[R[g;L]](u)}(t)} …(2)
但し、(2)式で1つ目のΣはiについての総和、2つ目のΣはt’についての総和、F、F−1はそれぞれ一次元離散フーリエ変換とその逆変換である。
【0031】
またL(i=1,2,…)はα↑方向に平行な直線のうち、fのプロファイルR[f;L]の変動量が大きいものを何本か選び出したものである。即ち、図7に示すように、二次元画像上においてα↑方向に平行な直線はほぼ無数に引くことができるが、その方向に一様でない画像パターンが存在するような直線は変動量が相対的に大であり、そうした画像パターンが存在しないような直線は変動量が小である。但し、近接した直線のみを選択すると精度が悪くなるから、存在するのであれば互いに離れた直線を選択するのが望ましい。
【0032】
上記のような定義の下に、2枚の画像f、gの間の位置ずれの量と方向とを含むずれベクトルd↑は次の手順で求めることができる。即ち、
:=g; d↑=0
とし、収束するまでn=0,1,2,…について、(1)式に基づきC[f,g]を最大化するα↑方向へのずれベクトルλ↑を求める。
:=S[g;λ↑]
↑ :=d↑+λ
これにより上記ステップS3における二次元的な画像マッチングによる位置ずれ情報が求まる。次いで、(2)式に基づきC[f,g;α↑]を最大化するα↑方向へのずれ量tを求める。
n+1 :=S[g;tα↑]
n+1↑ :=d↑+tα
これにより上記ステップS4における一次元的な画像マッチングによるずれ量が求まるとともにステップS5におけるずれ量の修正が達成される。
【0033】
ステップS6からS2に戻る場合には、上記手順の処理を繰り返せばよい。この繰り返しにより位置ずれの計算精度を一層向上させることができるが、この繰り返しは必須ではない。
【0034】
なお、ステップS2で並進対称性が無いと判断された場合には、ステップS7に進んで、通常の二次元的な画像マッチングによる位置ずれ情報の算出のみを実行すればよい。
【0035】
上述したようにして並進対称性を考慮して算出された位置ずれ情報(位置ずれの量及び方向)は中央制御部11に送られ、メモリ等に記憶される。次の特性X線画像取得期間w2において特性X線の検出を再開して二次元走査を行う際に、中央制御部11はメモリに記憶してある位置ずれ情報に基づいて各画素の補正量(つまり想定される位置ずれを打ち消せる移動量と方向)算出し、各画素に対応する特性X線を得るように電子線Eの照射位置を決める際に各画素毎の補正量の分だけ試料ステージ4の駆動量又は偏向コイル2の制御量を調整する。これにより、特性X線画像取得期間w2においてはSEM画像U2が取得される時点までに生じたドリフトの影響は軽減される。特にそのドリフトの方向が画像パターンの並進対称性の方向であった場合でも、精度の高い補正が可能となり、特性X線画像取得期間w1で得られる画像と特性X線画像取得期間w2で得られる画像との間の位置ずれは殆どなくなる。
【0036】
分割された特性X線画像取得期間w2を経て2回目の休止期間に入ると、上記と同様に新たにSEM画像取得期間u3において新たなSEM画像U3が取得される。直前の特性X線画像取得期間w2中にドリフトが生じていれば、SEM画像U2とU3との間にも画像のずれがある。そこで、SEM画像U1、U3を用いて上記と同様の補正処理を実行して新たな位置ずれ情報を求め、これに基づいて次の特性X線画像取得期間w3における二次元走査時の補正を実行する。
【0037】
このようにして1枚の特性X線画像を取得する期間の途中でそれまでに生じたドリフトの影響を軽減することにより、最終的に積算処理により得られる特性X線画像での歪みなどを少なくすることができ、また空間分解能も高くすることができる。
【0038】
上述した本発明による補正方法による画像歪み低減効果をシミュレーションにより検証した結果を図8及び図9に示す。図8及び図9はそれぞれ通常画像及び並進対称画像に対する検証結果であり、いずれも(a)は初期画像、(b)は特性X線画像取得中の或る時点での画像である。そして、この両画像を元に上述したように位置ずれ情報を求め、この情報に基づいて電子線の照射位置を修正した場合に得られる画像をシミュレーションにより計算して求めたのが(c)である。いずれにおいても、(a)の状態から(b)の状態にドリフトが生じているものが、補正の結果(c)に示すようにほぼ初期画像と同じ位置に戻っていることが分かる。即ち、通常画像のみならず、従来方法では補正が困難であった並進対称画像でもドリフト補正が達成されている。
【0039】
上記実施例は本発明の一実施例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施例による電子線マイクロアナライザの要部の構成図。
【図2】本実施例の電子線マイクロアナライザにおける画像取得動作のタイミング図。
【図3】本実施例の電子線マイクロアナライザにおける位置ずれ補正情報算出の際の概略フローチャート。
【図4】本実施例の電子線マイクロアナライザにおける並進対称性の検出動作の説明図。
【図5】本実施例の電子線マイクロアナライザにおいて並進対称性がある画像間の相関状態を示す図。
【図6】本実施例の電子線マイクロアナライザにおいて並進対称性がある場合の位置ずれ算出方法を説明するための図。
【図7】本実施例の電子線マイクロアナライザにおいて並進対称性がある場合の位置ずれ算出方法を説明するための図。
【図8】通常画像に対する本実施例による位置ずれ補正方法の検証結果を示す図。
【図9】並進対称画像に対する本実施例による位置ずれ補正方法の検証結果を示す図。
【図10】ドリフトによる画像ずれの問題点を説明するための模式図。
【符号の説明】
【0041】
1…電子銃
2…偏向コイル
3…対物レンズ
4…試料ステージ
5…ステージ駆動部
6…X線検出器
7…電子検出器
E…電子線
10…PC
11…中央制御部
12…データ処理部
13…補正演算処理部
14…操作部
15…表示部
16…画像信号処理部
18…偏向コイル制御部
19…試料ステージ制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起線を試料に照射する励起線照射部と、該励起線の照射によって試料から放出された特性X線や所定の粒子による相対的に弱い信号を検出する検出部と、を含み、前記励起線の照射位置を試料面上の所定範囲で移動するように試料と励起線との相対位置関係を二次元走査することにより前記所定範囲に対応する試料の表面画像を取得する表面分析装置において、
a)1枚の表面画像の取得の前及び途中に、前記励起線の照射に応じて試料から得られる所定の粒子による相対的に強い信号を検出し、該信号に基づいて前記所定範囲に対応する補正用画像をそれぞれ作成する補正用画像取得手段と、
b)前記補正用画像取得手段により異なる時点で得られた複数の補正用画像に対し、画像パターンを比較して並進対称性を有するか否かを判断する並進対称性検出手段と、
c)並進対称性が有ると判断された場合に、複数の補正用画像に対する二次元的な画像マッチングにより求まる位置ずれ情報と、並進対称性がみられる方向に限定した一次元的な画像マッチングにより求まる位置ずれ情報とにより、位置ずれの量及び方向を算出する位置ずれ情報算出手段と、
d)前記1枚の表面画像の取得のための二次元走査に際し、前記位置ずれ情報に基づく各画素の位置ずれを補正するように試料の移動及び/又は励起線の偏向を微調整しながら走査を実行する制御手段と、
を備えることを特徴とする表面分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−303910(P2007−303910A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131285(P2006−131285)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】