説明

表面弾性波を用いたマイクロビーム照射領域検出方法

【課題】
従来の方法では不可能であったマイクロビーム照射による照射像の二次元的な形状を、長寿命な素子で、高分解能(時問・空間)に計測することにある。
【解決手段】
長寿命な素子で、高分解能(時間・空間)に計測する手段として、表面弾性波を効率的に誘起・伝播する特性を持ち、放射線に対して耐性をもつ物質にマイクロビームの形状を持つ放射線を照射することにより励起される表面弾性波を検出することにより、マイクロビーム照射による照射像の二次元的な形状を、計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロメートルのビーム形状をもつ放射線(以下、マイクロビームと称する)の照射面を、二次元的に検出する技術に関するものであり、表面弾性波を用いることにより高効率・高速度・高精度でマイクロビームの照射面を二次元的に検出することを可能にするものである。
【0002】
また、表面弾性波を使用するために、検出素子は電気的・光学的な変化を伴わないので、照射による劣化などを軽減させ、素子の有効寿命を向上させようとするものである。また、表面弾性波が伝播する複数の方向を二次元的に検出することにより、粒子一個あるいはビーム束の二次元的な空間情報を得ることができる。この方法を利用することにより、放射線照射技術の向上を目的としている。
【背景技術】
【0003】
放射線の照射領域の検出には、半導体素子に放射線を照射して、その電気的挙動を検出する方法が取られているが、マイクロビームの照射領域そのものの直接的な検出は、ほとんど行なわれていない。また、より径の大きなビームに関しては、CCDなどの二次元に配置された半導体検出器に、直接、あるいは蛍光板などからの二次光を検出すことが行われているが、これまでマイクロメートル以下の細いビームに関しては、検出器の空間分解能、および照射劣化のため素子の長寿命化の点において限界があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の方法では不可能であったマイクロビーム照射による照射像の二次元的な形状を、長寿命な素子で、高分解能(時問・空間)に計測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、長寿命な素子で、高分解能(時間・空間)に計測する手段として、表面弾性波を効率的に誘起・伝播する特性を持ち、放射線に対して耐性をもつ物質に放射線を照射することにより励起される表面弾性波を検出することにより、マイクロビーム照射による照射像の二次元的な形状を、計測するものである。
【0006】
即ち、本発明は、標的物質(板状、円盤状若しくは塊状の固形物、又は薄膜)に、マイクロビーム(マイクロメートルのビーム形状をもつ放射線(電子線、軽イオン、重イオン))を照射することによって励起する表面弾性波を用いて、照射面におけるビームの形状、強度、頻度を測定する、表面弾性波を用いたマイクロビーム照射領域検出方法である。
【0007】
上記放射線に対して耐性を持つ物質としては、シリカガラス、ITOガラス、グラファイト、金属(銅、アルミニウム等)、半導体(TiO2,CdS等)が使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明においては、表面弾性波を効率的に誘起・伝播する特性を持ち、放射線に対して耐性をもつ物質(例えば、圧電薄膜素子)に、マイクロビームを照射することによって表面弾性波を誘起させ、その表面弾性波を複数の揚所で検出することによりマイクロビームが照射されている二次元分布を測定するものである。
【0009】
この測定条件としては、標的物質、表面弾性波の検出方法が重要な項目である。
即ち、本発明は、表面弾性波を効率的に誘起・伝播する特性を持ち、放射線に対して耐性をもつ物質に、マイクロメートルの空間的な広がりを持つマイクロビームである加速イオン粒子(keV〜GeV)を照射した時に、粒子と物質表面との衝突により誘起される表面弾性波が、物質表面を等方的に同心円を描くように伝播する。その表面弾性波の振動を検出器で観測し、計測システムで二次元分布をマッピングすることにより、照射されている部分の位置、強度および頻度を測定する方法である。
【0010】
検出器には、圧電薄膜素子に二組以上の電極を用いる位相敏感検波器や、バルク素子に三箇所以上の光ピックアップを用いる非接触光学検出器を使用する。
図1は、マイクロビームを標的素子に照射し、それをセンサーで感知し、電気信号に変え、コンピューターなどで信号処理することを示している。
【0011】
図2においては、入力1、2から出力1、2に送られる平行な表面波に、照射されるマイクロビームにより励起された表面波2が重なり、入力1―出力1と入力2―出力2という2系統の表面波に与える位相の乱れによりそれぞれの方向の位置が分かるので、表面上でのビームの照射位置が検出できる。
【0012】
即ち、入力用として圧電素子1等の表面弾性波発生器を用いて進行波の表面弾性波を発生させる。その発生器からは、その辺と平行に波が伝播し、その辺と平行に配置された検出器で検出される。表面弾性波の経路上に、マイクロビームが照射されることにより表面弾性波2が誘起・伝播され、表面弾性波の位相の乱れとして検出される。この発生器と、検出器のペアを縦横に組む合わせることにより、マイクロビームの2次元平面構造を知ることができる。
【0013】
図3においては、図2とは異なり、薄膜素子3に表面弾性波2を発生させるのは、マイクロビームである。マイクロビームにより生成した表面弾性波を、光ピックアップを用いて観測する。この原理は、地震波の観測装置や、ごく一般的な振動計と同じもので、表面弾性波が光ピックアップの観測点を通過することにより、その観測点が標的に対して、法線方向に振動するので、その振動の速度、加速度、変位、継続時間を測定することができる。この測定を、複数の地点で行い、その相関を取ることにより、マイクロビームの中心点、強度、広がり、時間変化を知ることができる。
【0014】
図4には、マイクロビームに変調を加え、検出する信号との間で位相敏感検波を行うことにより精度を上げることを示している。
【実施例】
【0015】
図5に、マイクロビームであるレーザーで銅及びアルミニウム薄膜素子表面上に表面弾性波を発生させ、レーザー・ピックアップで検出した波形が示されている。横軸が時間で、縦軸が速度を示している。レーザーの加速度、変位は、それぞれ、微分値、積分値として得られる。特に、図5は、図3の素子を使用してマイクロビームを測定した場合の一つのピックアップ位置での振動を時間と速度に関して測定したもので、この波形からマイクロビームの強度、頻度等を知ることができる。
【0016】
レーザー・ピックアップとは、レーザーと反射光を検出する受光素子を組み合わせたもので、一般的にはCDに用いられており、CDでは読みとり面のデジタル信号を読みとるが、本発明においては、マイクロビームにより素子の表面が振動することにより検出信号強度が変化することにより検出が行われる(素子の表面が光ピックアップ側に振動したときには強く、逆の時には弱くなる)。複数の光ピックアップごとの検出信号の到達時刻の違いにより検出される。
[発明の効果]
【0017】
表面弾性波をマイクロビームの検出器として用いることは、単一表面のみで発生し、伝播する現象を扱うために、高効率・高分解能な測定が行なうことができる。また、標的表面の発光や電位差の変化などを測定対象としないので、放射線照射に関して高耐久性で長寿命の材料を利用できる。これにより、マイクロビーム照射の二次元位置観察技術が向上し、マイクロビーム照射技術全般の向上につながる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の計測系のシステム図である。
【図2】本発明で使用される、圧電薄膜素子と電極を用いたマイクロビーム誘起表面弾性波の検出器である。
【図3】光ピックアップを用いたマイクロビーム誘起表面弾性波の検出器である。
【図4】本発明における、連続的なマイクロビームに対する変調回路を加えた計測系のシステム図である。
【図5】レーザーで銅及びアルミニウム薄膜素子表面上に表面弾性波を発生させ、レーザー・ピックアップで検出した波形を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質に、マイクロビーム(マイクロメートルのビーム形状をもつ放射線(電子線、軽イオン、重イオン))を照射することによって励起する表面弾性波を用いて、照射面におけるビームの形状、強度、頻度を測定する、表面弾性波を用いたマイクロビーム照射領域検出方法。
【請求項2】
標的物質には、表面弾性波を効率的に誘起・伝播する特性をもち、放射線に対して耐性をもつ物質を用いる請求項1記載の方法。




























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−47244(P2006−47244A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232212(P2004−232212)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【Fターム(参考)】