説明

表面形状転写樹脂シートの製造方法

【課題】樹脂シートの表面に凹凸形状を高い転写率で転写できる表面形状転写樹脂シートの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、樹脂をダイ8から連続的に押し出して連続樹脂シート2を得る押出工程と、連続樹脂シート2を第一押圧ロール11と第二押圧ロール12とで挟み込む第一押圧工程とを含み、第二押圧ロール12の表面に転写型を備え、該転写型は複数の凹溝を有し、凹溝のピッチ間隔が30〜500μmであり、凹溝の溝深さが3〜500μmであり、第一押圧工程において、第一押圧ロール11と第二押圧ロール12との間に樹脂のメルトバンク3を形成し、該バンクの高さEを、連続樹脂シートの厚さFの3倍以上に設定し、第二押圧ロール12の温度を、樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対して10℃〜50℃高い温度に設定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートの表面に凹凸形状を高い転写率で転写することのできる表面形状転写樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に凹凸形状を有する樹脂シートの製造方法としては、樹脂を押出機のダイから押し出して得られる連続樹脂シートに押圧ロールの表面の転写型の形状を転写する方法が公知である(特許文献1参照)。即ち、ダイから連続的に押し出された連続樹脂シートを第一押圧ロールと第二押圧ロールとの間に挟み込んだ後、第二押圧ロールに密着させた状態で搬送し、次いで第二押圧ロールと第三押圧ロールとの間に挟み込む。この時、前記第二押圧ロールの表面に転写型が設けられており、第一押圧ロールと第二押圧ロールとの間に挟み込んだ際に連続樹脂シートの表面に転写型の凹凸形状が転写され、このようにして表面形状転写樹脂シートが製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−11328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、押圧ロールの転写型に形成されたV字溝の深さが40μmであるのに対し、転写により形成された畝状模様の高さは2〜15μmである(引用文献1の段落0022の表1の実施例1〜4参照)から、転写率は5〜37.5%程度であって転写率は低かった。即ち、転写ロールの凹凸形状を高い転写率で転写できないという問題があった。
【0005】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、樹脂シートの表面に凹凸形状を高い転写率で転写することのできる表面形状転写樹脂シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0007】
[1]樹脂を加熱溶融状態でダイから連続的に押し出して連続樹脂シートを得る押し出し工程と、
前記連続樹脂シートを第一押圧ロールと第二押圧ロールとで挟み込む第一押圧工程とを含み、
前記第二押圧ロールの表面に転写型を備え、該転写型は複数の凹溝を有し、前記凹溝のピッチ間隔が30μm〜500μmであり、前記凹溝の溝深さが3μm〜500μmであり、
前記第一押圧工程において、前記第一押圧ロールと前記第二押圧ロールとの間に樹脂のメルトバンクを形成し、該メルトバンクの高さを、前記ダイから押し出された連続樹脂シートの厚さの3倍以上に設定し、
前記第二押圧ロールの温度を、前記樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対して10℃〜50℃高い温度に設定することを特徴とする表面形状転写樹脂シートの製造方法。
【0008】
[2]前記樹脂として熱可塑性樹脂を用いる前項1に記載の表面形状転写樹脂シートの製造方法。
【0009】
[3]前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂である前項2に記載の表面形状転写樹脂シートの製造方法。
【0010】
[4]前記転写型の凹溝の断面形状における1つの溝を形成する形成線の長さを「L」とし、前記凹溝のピッチ間隔を「P」としたとき、L/Pが1.5〜5である前項1〜3のいずれか1項に記載の表面形状転写樹脂シートの製造方法。
【0011】
[5]前記転写型の凹溝の断面形状が略V字状であり、該略V字状凹溝の底の開き角度が10°〜80°である前項1〜4のいずれか1項に記載の表面形状転写樹脂シートの製造方法。
【0012】
[6]前記第一押圧工程の後に、前記連続樹脂シートを前記第二押圧ロールに密着させた状態で搬送する搬送工程と、
前記搬送工程の後に、前記連続樹脂シートを前記第二押圧ロールと第三押圧ロールとで挟み込む第二押圧工程をさらに備える前項1〜5のいずれか1項に記載の表面形状転写樹脂シートの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
[1]の発明では、第一押圧ロールと第二押圧ロールとの間に設ける樹脂のメルトバンクの高さを、ダイから押し出された連続樹脂シートの厚さの3倍以上に設定するから、転写型の凹凸形状を高い転写率で転写できると共に、第二押圧ロールの温度を、前記樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対して10℃〜50℃高い温度に設定するから、さらに高い転写率で転写できる。
【0014】
[2]の発明では、樹脂として熱可塑性樹脂を用いるから、転写型の凹凸形状をより高い転写率で転写できる。
【0015】
[3]の発明では、樹脂としてポリカーボネート樹脂を用いるから、透明性、耐衝撃性、耐熱性に優れるという利点がある。
【0016】
[4]の発明では、転写型は、L/Pの値が1.5〜5であるシャープで深い溝形状を備えたものであるが、このような場合においても転写型の凹凸形状を高い転写率で転写できる。
【0017】
[5]の発明では、転写型の凹溝の断面形状が略V字状であり、該略V字状凹溝の底の開き角度が10°〜80°に設定されているから、断面形状が略三角形形状である複数の凸条部(プリズム部)を備えた表面形状転写樹脂シートを転写性良く製造することができる。
【0018】
[6]の発明では、第一押圧工程の後に、連続樹脂シートを第二押圧ロールに密着させた状態で搬送する搬送工程と、該搬送工程の後に、連続樹脂シートを第二押圧ロールと第三押圧ロールとで挟み込む第二押圧工程をさらに備えているから、シート表面を平滑化できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の製造方法で用いる製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】メルトバンクの高さの定義の説明図である。
【図3】第二押圧ロールの表面の転写型の拡大断面図(ロールの回転中心軸を含む平面で切断した断面図)である。
【図4】本発明の製造方法で製造された表面形状転写樹脂シートの一実施形態を示す断面図(図1におけるV−V線の断面図)である。
【図5】(a)(b)いずれも転写型の変形例を示す拡大断面図(ロールの回転中心軸を含む平面で切断した断面図)である。
【図6】バンクマークの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る表面形状転写樹脂シート1の製造方法について図面を参照しつつ説明する。図1に本製造方法で用いる製造装置の一例を示す。この製造装置は、ダイ8を備えた押出機7と、該押出機7の押出方向の前方位置において上下に並んで配置された第一押圧ロール11、第二押圧ロール(転写ロール)12、第三押圧ロール13とを備える。前記第一押圧ロール11の直下位置に前記第二押圧ロール12が配置され、該第二押圧ロール12の直下位置に前記第三押圧ロール13が配置されている。前記第一押圧ロール11の外周面は鏡面に形成され、前記第三押圧ロール13の外周面は鏡面に形成されている。前記第二押圧ロール12の外周面には複数の凹溝22aが形成されている、即ち前記第二押圧ロール12は、その表面に転写型22を備えている。
【0021】
前記第二押圧ロール12の表面に設けられた転写型22の拡大断面図(第二押圧ロールの回転中心軸を含む平面で切断した拡大断面図)を図3に示す。このように前記第二押圧ロール12の表面には断面形状が略V字状の凹溝(溝の傾斜面が外に膨らむ曲面状である)22aがロール12の回転方向に沿って多数本形成されている。前記転写型22の凹溝22aは、前記押出機7のダイ8から連続的に押し出されてきた連続樹脂シート2の表面(図1で下面)に接触してこの接触した表面に断面形状が略V字状(傾斜面が外に膨らむ曲面状である)の突条部32を形成せしめる。
【0022】
上記製造装置を用いて表面形状転写樹脂シート1を次のようにして製造する。
【0023】
[押し出し工程]
樹脂を加熱溶融状態でダイ8から連続的に押し出して連続樹脂シート2を得る(図1参照)。
【0024】
前記樹脂を加熱溶融状態で連続的に押し出すためのダイ8としては、通常の押出成形法に用いられるのと同様の金属製のTダイ等が用いられる。ダイ8から樹脂を加熱溶融状態で押し出すには、通常の押出成形法と同様に、押出機7が用いられる。押出機7は、一軸押出機であっても良いし、二軸押出機であっても良い。樹脂は押出機7内で加熱され、溶融された状態でダイ8に送られ、押し出される。ダイ8から押し出された樹脂は、連続的にシート状となって押し出され、連続樹脂シート2となる。
【0025】
前記連続樹脂シート2は、単層でも良いし2以上の複層としても良い。連続樹脂シート2が単層の場合は、ダイ8から樹脂を加熱溶融状態で押し出す際にダイ8に1種の樹脂を供給し押し出しをすれば良く、2以上の複層の場合は、2種以上の樹脂をダイに供給し、積層した状態で共押し出しすれば良い。なお、2種以上の樹脂を積層した状態で共押し出しをするには、例えば、公知の2種3層分配型フィードブロックまたはマルチマニホールドダイを用い、これを経由してダイ8に樹脂を供給すれば良い。
【0026】
前記連続樹脂シート2の厚さFは、得られる表面形状転写樹脂シート1の用途に応じて適宜調整すれば良く、例えば光拡散板として用いる場合は連続樹脂シート2の厚さFを0.1〜3.0mmの範囲に設定するのが好ましく、中でも0.2〜2.0mmの範囲に設定するのがより好ましい。
【0027】
前記樹脂としては、特に限定されるものではないが、通常は、加熱されることにより溶融状態となる熱可塑性樹脂が用いられる。前記熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状オレフィン重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。中でも、前記熱可塑性樹脂としてはポリカーボネート樹脂を用いるのが、、透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性及び加工性に優れる点で、好ましい。なお、本発明の製造方法に適用できる範囲で、加熱されることにより硬化する熱硬化性樹脂を用いることもできる。
【0028】
前記樹脂に、光拡散剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、帯電防止剤等の添加剤などが添加されていても良い。
【0029】
前記光拡散剤は、無機系光拡散剤であっても良いし、有機系光拡散剤であっても良い。前記無機系光拡散剤としては、特に限定されるものではないが、例えば炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、シリカ、無機ガラス、タルク、マイカ、ホワイトカーボン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の無機化合物の粒子が挙げられる。前記無機系光拡散剤は、脂肪酸等の表面処理剤により表面処理されていても良い。
【0030】
また、前記有機系光拡散剤としては、特に限定されるものではないが、例えばスチレン系重合体粒子、アクリル系重合体粒子、シロキサン系重合体粒子等の有機化合物粒子が挙げられる。
【0031】
前記光拡散剤を添加する場合、添加される光拡散剤の屈折率と樹脂の屈折率との差の絶対値は、光拡散効果の十分な確保の観点から、通常0.02以上であり、得られる表面形状転写樹脂シートの光透過性の十分な確保の観点から、通常は0.13以下である。このように樹脂に光拡散剤を添加した場合、得られる表面形状転写樹脂シート1は、例えば光拡散板として使用できる。
【0032】
[第一押圧工程]
次に、図1に示すように、前記押出機7の押出方向の前方位置に配置された第一押圧ロール11と第二押圧ロール12との間に前記連続樹脂シート2を挿通せしめて両押圧ロール11、12で連続樹脂シート2を挟圧する。この時、前記第二押圧ロール12の表面に転写型22が設けられているから、前記連続樹脂シート2の一方の表面に、断面形状が略V字状(傾斜面が外に膨らむ曲面状である)の突条部32が転写される(図4参照)。前記突条部32は、前記連続樹脂シート2の搬送方向(押出方向)に沿って延設される。
【0033】
前記第一押圧工程において、第一押圧ロール11と第二押圧ロール12との間に樹脂のメルトバンク3を形成すると共に、前記メルトバンク3の高さEを、ダイ8から押し出された連続樹脂シート2の厚さFの3倍以上に設定する(図2参照)。このようにメルトバンク3の高さEを連続樹脂シート2の厚さFの3倍以上に設定することにより、転写型22の凹凸形状を連続樹脂シート2に高い転写率で転写することができる。なお、前記メルトバンク3の高さEは、15mm未満であるのが好ましい。15mm以上である場合にはシートにおける転写面(突条部32が形成された面)とは反対側の面に図6に示すようなバンクマーク91が現出するので好ましくない。
【0034】
前記メルトバンク3の高さEは、メルトバンク3の最も高い位置(第二押圧ロール12の回転中心から最も遠い位置)と第二押圧ロール12の回転中心を結ぶ仮想線K(第二押圧ロール12の径方向の線)上における前記連続樹脂シート2の上面位置(シート2の厚さFに相当する部分の上面位置)からメルトバンク3の最も高い上面位置までの距離を意味するものである(図2参照)。
【0035】
なお、前記メルトバンク3の高さEは、例えば、樹脂の押出量、押出ライン速度、第一押圧ロール11と第二押圧ロール12との間隔などを調整することにより、調整することができる。例えば、樹脂の押出量を増大させる、押出ライン速度を小さくする、第一押圧ロール11と第二押圧ロール12との間隔を狭くする、等の手段によりメルトバンク3の高さEを大きくすることができる。また、例えば、樹脂の押出量を低減する、押出ライン速度を大きくする、第一押圧ロール11と第二押圧ロール12との間隔を大きくする、等の手段によりメルトバンク3の高さEを小さく設定することができる。
【0036】
前記第一押圧工程において、第二押圧ロール12の温度を、前記連続樹脂シート2を構成する樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対して10℃〜50℃高い温度に設定する。(Tg+10)℃より低い温度では、転写型22の凹凸形状を高い転写率で転写することができない。また、(Tg+50)℃より高い温度では、第二押圧ロール12にシート2が貼り付く恐れがある。中でも、第二押圧ロール12の温度を、前記樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対して15℃〜35℃高い温度に設定するのが好ましい。
【0037】
前記第一押圧ロール11の温度は、特に限定されないものの、80℃〜150℃に設定するのがよい。
【0038】
前記第一押圧ロール11及び前記第二押圧ロール12としては、通常は、ステンレス鋼、鉄鋼等の金属材で構成された金属製ロールが用いられ、その直径は通常100〜500mmである。前記第一押圧ロール11及び/又は前記第二押圧ロール12として金属製ロールを用いる場合、その表面は、例えばクロムメッキ、銅メッキ、ニッケルメッキ、ニッケル−リンメッキ等のメッキ処理が施されていても良い。
【0039】
[搬送工程]
次に、前記第一押圧工程を経た連続樹脂シート2を前記第二押圧ロール12の外周面に密着させた状態で搬送する(図1参照)。この搬送工程で、前記連続樹脂シート2は、第二押圧ロール12の回転に従動して搬送される。
【0040】
前記連続樹脂シートは、前記第一押圧工程及びこの搬送工程において、押圧ロール11、12に接することによる冷却や、外気との接触による冷却によって、ダイ8から押し出された加熱溶融状態よりも温度が低下する。このように押出直後の加熱溶融状態よりも温度が低下した状態で連続樹脂シート2は搬送され、次の第二押圧工程に供給される。なお、第一、第二押圧ロール11、12は、温度調節機能を備え、所望の温度に調節可能であることが望ましい。
【0041】
[第二押圧工程]
次いで、前記搬送工程を経た連続樹脂シート2を第二押圧ロール12と第三押圧ロール13との間に挿通せしめて両押圧ロール12、13で連続樹脂シート2を挟圧する。
【0042】
前記第三押圧ロール13としては、通常は、ステンレス鋼、鉄鋼等の金属材で構成された金属製ロールが用いられ、その直径は通常100〜500mmである。前記第三押圧ロール13として金属製ロールを用いる場合、その表面は、例えばクロムメッキ、銅メッキ、ニッケルメッキ、ニッケル−リンメッキ等のメッキ処理が施されていても良い。前記第三押圧ロール13は、温度調節機能を備え、所望の温度に調節可能なものであるのが望ましい。
【0043】
前記第二押圧工程の後、連続樹脂シート2を第三押圧ロール13の表面に密着させた状態で搬送する、即ち連続樹脂シート2を第三押圧ロール13の回転に従動して搬送する。この後、通常は、さらに冷却を行って、一方の面に転写型22の凹凸形状が高い転写率で転写された表面形状転写樹脂シート1(図4参照)を得る。
【0044】
本製造方法によれば、前記転写型22の凹溝22aの断面形状(第二押圧ロール12の回転中心軸を含む平面で切断した断面形状)における1つの溝22aを形成する形成線の長さを「L」とし、前記凹溝22aのピッチ間隔を「P」としたとき(図2参照)、凹溝22aがL/Pが1.5〜5であるような深い形状を備えたものである場合においても、転写型22の凹凸形状が高い転写率で転写された表面形状転写樹脂シート1を製造することができる。
【0045】
このようにして得られた表面形状転写樹脂シート1は、通常、枚葉に切断されて、例えば液晶表示装置を構成するプリズムシート等として用いられる。また、樹脂として光拡散剤が添加されたものを用いた場合には、光拡散板として好適に用いることができる。
【0046】
本製造方法において、前記転写型22における凹溝22aのピッチ間隔Pは、通常、30μm〜500μmに設定される。また、前記転写型22における凹溝22aの溝深さDは、通常、3μm〜500μmの範囲に設定される。前記転写型22において、隣り合う凹溝は、通常、間隔dをあけて平行状に設けられる(図3参照)。これら凹溝22aのピッチ間隔P、溝深さDは、1つの転写型全体で必ずしも一定である必要はなく、隣り合う凹溝間で異なる構成であってもよい。
【0047】
前記間隔dは、得られる表面形状転写樹脂シートの用途により任意に設定すれば良いが、間隔dは、通常は、10μm以下に設定される。なお、前記間隔dが設けられていない(即ちd=0である)構成であっても良い。
【0048】
前記転写型22の断面形状としては、図3に示す略V字凹溝の他、例えば、略V字凹溝を一部に含む断面形状、略半円凹溝、略半円凹溝を一部に含む断面形状等を例示できるが、特にこのような断面形状に限定されるものではない。
【0049】
前記略V字凹溝22aの底の開き角度θ(頂角θ)は、通常、160°以下であるが、本製造方法によれば、略V字凹溝22aがその底の開き角度θが10°〜80°であるシャープな溝形状の場合でも、転写型22の凹凸形状を高い転写率で転写できる。
【0050】
前記略半円凹溝としては、例えば、円柱体をその中心軸線に平行であって、該中心軸線を含まない平面で切断した場合の断面のいずれかの弧状である形状であっても良いし、或いは断面が半楕円弧状や、該半楕円弧状の一部である扁平湾曲状等の形状であっても良い。また、上記略半円凹溝が反転した略半円凹溝を備えた形状、楕円弧状以外の曲線からなる形状を採用した場合も本願の特許請求の範囲に含むものとする。また、前記略半円凹溝としては、例えば図5(a)に示す断面形状を有した凹溝22aであってもよいし、図5(b)に示すような曲線の断面形状を有した凹溝22aであってもよい。前記「略半円凹溝」とは、このような略半円形状の断面の凹溝をも含むものとする。
【0051】
前記転写型22の作製方法としては、ステンレス鋼、鉄鋼等からなる転写ロールの表面に、例えばクロムメッキ、銅メッキ、ニッケルメッキ、ニッケル−リンメッキ等のメッキ処理を施した後に、そのメッキ面に対してダイヤモンドバイトや金属砥石等を用いた除去加工、レーザー加工、又はケミカルエッチングを行なう方法等が挙げられるが、これらの手法に特に限定されるものではない。
【0052】
また、前記第二押圧ロール(転写ロール)12の表面は、前記転写型22を形成した後に、例えば表面形状の精度を損なわないレベルで、クロムメッキ、銅メッキ、ニッケルメッキ、ニッケル−リンメッキ等のメッキ処理が施されていてもよい。
【0053】
なお、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、前記第一、第二、第三押圧ロール11、12、13以外に他のロールを設けた構成の製造装置を用いて製造しても良い。前記他のロールとしては、例えば、連続樹脂シート2を第一押圧ロール11に搬送するためのガイドロール(タッチロール)、連続樹脂シート2を第二押圧ロール12に密着させておくためのタッチロール等が挙げられる。
【0054】
また、上記実施形態では、転写型22は、第二押圧ロール12のみに設けられていたが、特にこのような構成に限定されるものではなく、例えば第二押圧ロール12及び第三押圧ロール13の両方に転写型22が設けられた構成であってもよい。
【0055】
なお、本発明に係る表面形状転写樹脂シートの製造方法は、上記例示の実施形態のものに特に限定されるものではなく、請求の範囲内であれば、その精神を逸脱するものでない限りいかなる設計的変更をも許容するものである。
【実施例】
【0056】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0057】
(製造装置A)
図1に示す構成からなる製造装置Aを準備した。この製造装置Aは、Tダイ8を備えた押出機7と、第一押圧ロール11と、第二押圧ロール12と、第三押圧ロール13とを備える。第一押圧ロール11及び第三押圧ロール13の表面は鏡面である。
【0058】
第二押圧ロール12は、図3に示すように、複数の凹溝22aを有した転写型22を表面に備えている。この第二押圧ロール12の表面の転写型22において、凹溝22aのピッチ間隔Pは100μm、凹溝22aの深さDは105μm、断面形状における1つの凹溝22aを形成する形成線の長さLは232μm、L/P=2.32、間隔dは5μm、角度θは51°である(図3参照)。
【0059】
<実施例1>
ポリカーボネート樹脂(住友ダウ社製「PC200−30」、JIS K7121−1987に準拠して測定したガラス転移温度Tg;147℃)を上記製造装置Aのスクリュー径40mmの押出機7に供給してTダイ8を経由させてダイ温度260℃でシート状に押し出すことによって、厚さFが0.8mmの連続樹脂シート2を得た(押し出し工程)。
【0060】
次いで、図1に示すように、この連続樹脂シート2を上記製造装置Aの第一押圧ロール11と第二押圧ロール12の間に挿通せしめて両押圧ロール11、12で連続樹脂シート2を挟圧した後(第一押圧工程)、連続樹脂シート2を第二押圧ロール12の外周面に密着させた状態で搬送し(搬送工程)、次いで連続樹脂シート2を第二押圧ロール12と第三押圧ロール13の間に挿通せしめて両押圧ロール12、13で連続樹脂シート2を挟圧した後(第二押圧工程)、冷却ロール(図示しない)で冷却しながら引取速度0.90m/分で引き取ることによって、厚さSが0.8mmの表面形状転写樹脂シート1を得た(図4参照)。
【0061】
この時、第二押圧ロール12の温度を180℃、第一押圧ロール11の温度を130℃、第三押圧ロール13の温度を150℃にそれぞれ設定し、第一押圧ロール11と第二押圧ロール12との間に樹脂のメルトバンク3を形成せしめ、該メルトバンクの高さEが6.0mmになるように調整して(図2参照)、表面形状転写樹脂シート1を製造した。
【0062】
<実施例2>
樹脂としてポリカーボネート樹脂(住友ダウ社製「PC200−13」、JIS K7121−1987に準拠して測定したガラス転移温度Tg;150℃)を用い、第二押圧ロール12の温度を185℃に設定し、連続樹脂シート2の厚さFを1.2mmに設定した以外は、実施例1と同様にして厚さSが1.2mmの表面形状転写樹脂シート1を得た(図4参照)。
【0063】
<比較例1>
押出機7のスクリューの単位時間当たりの回転数を低下させることによりメルトバンクの高さEを1.5mmに調整して実施した以外は、実施例1と同様にして厚さSが0.8mmの表面形状転写樹脂シート1を得た。
【0064】
<比較例2>
押出機7のスクリューの単位時間当たりの回転数を低下させることによりメルトバンクの高さEを1.5mmに調整して実施した以外は、実施例2と同様にして厚さSが1.2mmの表面形状転写樹脂シート1を得た。
【0065】
次に、上記のようにして得られた表面形状転写樹脂シートにおける転写率を下記評価法に基づいて評価した。これらの評価結果を表1に示す。
【0066】
<転写率評価法>
得られた表面形状転写樹脂シートの突条部32の高さを「H」とし(図4参照)、転写型の凹溝22aの深さを「D」としたとき(図3参照)、
転写率(%)=(H/D)×100 …(1)
転写率は上記式(1)で求められる。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかように、本発明の製造方法で製造された実施例1、2の表面形状転写樹脂シートは、転写型の凹凸形状が高い転写率で転写されていた。また、実施例1、2では、第二押圧ロールは、L/Pが2.32であり、深いシャープな凹凸形状を有する転写型を備えたものであるが、このような深くシャープな凹凸形状を91.6%、90.0%という高い転写率で転写することができた。
【0069】
これに対し、メルトバンクの高さが連続樹脂シートの厚さの3倍未満であった比較例1、2では、転写率がそれぞれ81.3%、74.1%であり、転写率は低かった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の製造方法で製造された表面形状転写樹脂シートは、転写型の凹凸形状が高い転写率で転写されているから、例えばプリズムシート、光拡散板、光偏向構造板、導光板等の光学シートとして好適に用いられるが、特にこのような用途に限定されるものではない。中でも、液晶表示装置等の画像表示装置用の光学シートとして特に好適である。
【符号の説明】
【0071】
1…表面形状転写樹脂シート
2…連続樹脂シート
3…メルトバンク
7…押出機
8…ダイ
11…第一押圧ロール
12…第二押圧ロール
13…第三押圧ロール
22…転写型
22a…凹溝
E…メルトバンクの高さ
F…連続樹脂シートの厚さ
D…凹溝の深さ
L…凹溝の断面形状において1つの凹溝を形成する形成線の長さ
P…凹溝のピッチ間隔
θ…凹溝の底の開き角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を加熱溶融状態でダイから連続的に押し出して連続樹脂シートを得る押し出し工程と、
前記連続樹脂シートを第一押圧ロールと第二押圧ロールとで挟み込む第一押圧工程とを含み、
前記第二押圧ロールの表面に転写型を備え、該転写型は複数の凹溝を有し、前記凹溝のピッチ間隔が30μm〜500μmであり、前記凹溝の溝深さが3μm〜500μmであり、
前記第一押圧工程において、前記第一押圧ロールと前記第二押圧ロールとの間に樹脂のメルトバンクを形成し、該メルトバンクの高さを、前記ダイから押し出された連続樹脂シートの厚さの3倍以上に設定し、
前記第二押圧ロールの温度を、前記樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対して10℃〜50℃高い温度に設定することを特徴とする表面形状転写樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂として熱可塑性樹脂を用いる請求項1に記載の表面形状転写樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂である請求項2に記載の表面形状転写樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記転写型の凹溝の断面形状における1つの溝を形成する形成線の長さを「L」とし、前記凹溝のピッチ間隔を「P」としたとき、L/Pが1.5〜5である請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面形状転写樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
前記転写型の凹溝の断面形状が略V字状であり、該略V字状凹溝の底の開き角度が10°〜80°である請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面形状転写樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
前記第一押圧工程の後に、前記連続樹脂シートを前記第二押圧ロールに密着させた状態で搬送する搬送工程と、
前記搬送工程の後に、前記連続樹脂シートを前記第二押圧ロールと第三押圧ロールとで挟み込む第二押圧工程をさらに備える請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面形状転写樹脂シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−194725(P2011−194725A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64311(P2010−64311)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】