説明

表面改質剤、細胞親和性材料、細胞親和性材料の製造方法並びに、骨様移植物及び骨様移植物の製造方法。

【課題】 生体での骨組織に近い生体機能と機械的性質の双方を確保した細胞親和性材料及びこれを用いた骨様移植物を簡便に提供する。
【解決手段】 一般式A−(Sp)−B又はB−(Sp)−A−(Sp)−Bで表されるアミド誘導体であって、Aは、上記Sp又はBと結合可能な環を形成していてもよい特定のNR1CO構造を有するアミド結合含有部であり、Spは、あってもなくてもよいスペーサ部であり、Bは、上記Sp又はAと結合可能であると共に極性基を有する基材に対して結合可能な特定構造のシリル基並びに、特定構造のリン酸エステル及びリン酸エステル塩からなる群より選択された少なくとも1つの基材結合部を表す当該アミド誘導体、これからなる表面改質剤と、極性基を有する基材をこの表面改質剤によって表面処理することによる細胞親和性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質剤、細胞親和性材料及び細胞親和性材料の製造方法並びに、骨様移植物及び骨様移植物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、生体補修用材料等として、金属、プラスチック、ガラス、セラミックス等の非生体由来物質が多用されている。例えば、セラミックスには、人工関節用として焼結アルミナ及び焼結ジルコニアを挙げることができ、人工骨用としてバイオガラス、焼結水酸アパタイト、水酸アパタイト/β−リン酸三カルシウム複合体、β−リン酸三カルシウム及び結晶化ガラスA−W等を挙げることができる。
一方、骨や歯といった硬組織の形成や再生を可能とするような生体活性を有する部材は、硬組織の損傷を受けた際に自己修復の可能性を有するため、実用価値が高い。このような組織の再生能が付与された部材として、生体吸収性部材及び骨形成因子等が担持された部材が開発されている(例えば、特許文献1及び2)
【特許文献1】特開2003−325657号公報
【特許文献2】特開2003−342011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これまで使用されている人工材料はいずれも、生体骨に近い生体機能と機械的性質の双方を満足できるレベルで確保できるものではない。また、生物活性因子等を結合した部材では、複雑な工程を経て生物活性因子を部材に結合させる必要がある。
従って、本発明の目的は、生体での骨組織に近い生体機能と機械的性質の双方を確保した細胞親和性材料及びこれを用いた骨様移植物を簡便に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のアミド誘導体又はその縮合物は、一般式A−(Sp)−B又はB−(Sp)−A−(Sp)−Bで表されるアミド誘導体である。
ここでAは、上記Sp又はBと結合可能な環を形成していてもよい下記一般式(I)で表されるNR1CO構造を有するアミド結合含有部であり、
【0005】
【化1】

【0006】
(式中R1は、H又は炭素数1〜10アルキル基又はアルケニル基、フェニル基、アルキルフェニル基、ピリジル基を表し、n1は、1〜20の整数を表す。)
ここでSpは、あってもなくてもよいスペーサ部であり、存在する場合には、炭素数1〜10のアルキレン基、アルケニレン基、フェニレン基、炭素数1〜5のアルキル基若しくはアルケニル基又はハロゲンを置換基として有するフェニレン基を表し、
ここでBは、上記Sp又はAと結合可能であると共に極性基を有する基材に対して結合可能な下記一般式(II)で表されるシリル基並びに、一般式(III)で表されるリン酸エステル及びリン酸エステル塩からなる群より選択された少なくとも1つの基材結合部を表し、Bが複数存在する場合には互いに同一でも異なってもよい。
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、Y1、Y2及びY3はそれぞれ独立に、−R2、−OR3、−OCOR4、−NCO及びハロゲンからなる群から選択されたものを表し、互いに同一であっても異なってもよく、ここでR2は、炭素数1〜3のアルキル基若しくはアルケニル基、フェニル基を表し、R3及びR4はそれぞれ、炭素数1〜5のアルキル基若しくはアルケニル基を表す。)
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、Z1及びZ2はそれぞれ独立に、OH、OQ、フェニル基又はフェノキシ基を表し、互いに同一であっても異なってもよく、ここでQは、アルカリ金属若しくはNH4を表す。)
【0011】
また、本発明の表面改質剤は、上記アミド誘導体又はその縮合物を含むものである。
本発明の生体親和性材料は、上記アミド誘導体又はその縮合物で表面処理された有機又は無機基材を含むものである。
ここで、前記有機又は無機基材が、ハイドロキシアパタイト、ガラス、金属、プラスチック及びセラミックスからなる群より選択された少なくとも1つであることが好ましい。
【0012】
本発明の細胞親和性材料の製造方法は、表面に極性基を有する基材を、上記表面改質剤によって表面処理することを含むものである。
更に本発明の細胞親和性材料の製造方法は、表面に極性基を有する基材を、上記表面改質剤によって表面処理して、細胞親和性材料を得ること、細胞親和性材料を、骨形成能を有する細胞と共に培養すること、を含むものである。
本発明の骨様移植物は、上記細胞親和性材料と、骨形成能を有する細胞と、を含むものである。
更に本発明の骨様移植物の製造方法は、表面に極性基を有する基材を、上記表面改質剤によって表面処理して、細胞親和性材料を得ること、細胞親和性材料を、骨形成能を有する細胞と共に培養すること、を含むものである。
【0013】
本発明にかかる新規なアミド誘導体及びその縮合物並びに、表面改質剤では、タンパク質に対して弱く水素結合可能なNR1CO構造を有するアミド結合含有部と、極性基を有する基材に対して結合可能な基材結合部とを有している。このNR1CO構造は、細胞産生物質や、場合によっては細胞表面のタンパク質表面に対しても、弱く結合することができる。この結果、細胞に対しては強く結合することがなく、また、細胞産生因子等のタンパク質を周囲に集めることができる。このことは、本アミド誘導体で処理した表面に対して細胞親和性を付与できることを意味している。一方、基材結合部は、基材に対して強固に結合することができる。この結果、本新規化合物を表面改質剤として用いて基材を処理することによって、容易に、基材表面を細胞親和性にすることができる。
また、このような基材と骨形成能を有する細胞とを同時に培養することによって、基材の表面や内部に細胞を誘導することができるので、高い細胞親和性を有する骨様移植物とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生体での骨組織に近い生体機能と機械的性質の双方を確保した細胞親和性材料及びこれを用いた骨様移植物を簡便に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明にかかる新規なアミド誘導体は、一般式A−(Sp)−B又はB−(Sp)−A−(Sp)−Bで表されるアミド誘導体又はその縮合物である。ここで、Aは、後述するNR1CO構造を有するアミド結合含有部であり、Spは後述するスペーサ部であり、Bは、後述する基材結合部である。
本アミド誘導体では、タンパク質に対して弱く水素結合するアミド結合含有部と、基材に対して強固に結合する基材結合部とを有しているので、アミド誘導体及びその縮合物に対して細胞産生物質や細胞自身を弱く結合することができ、本化合物で表面処理した場合には、その表面に対して細胞親和性を付与することができる。
なお本発明のアミド誘導体は、通常、水添などによって容易に縮合するため、特に断らない限り、本発明において「アミド誘導体」との表現には縮合物も含まれる。
【0016】
アミド結合含有部、即ち、式中Aは、下記一般式(I)で表されるNR1CO構造を有するアミド結合含有部である。
【0017】
【化4】

【0018】
式中R1は、H又は炭素数1〜10アルキル基又はアルケニル基、フェニル基、アルキルフェニル基、ピリジル基を表し、水素結合形成容易性の観点から、R1は水素であることが好ましい。n1は、1〜20の整数を表し、好ましくは1〜3の整数である。
このアミド結合含有部は、上記NR1CO構造を構造の一部として有していればよく、N原子やC原子を含む任意の連結基を介して、Sp又はBと結合可能な環を形成していてもよい。
アミド結合含有部としては、分子全体に占める割合を考慮して、下記の(Ia)〜(Ic)のいずれかであることが好ましい。
【0019】
【化5】

【0020】
式中、R1は前述したものと同一であり、n2は2〜20の整数を表し、n3は1〜20の整数を表し、n2及びn3は、好ましくはそれぞれ1〜3の整数である。(Ib)では、任意の連結基を介した環の一部を構成していてもよい。
このようなアミド結合含有部としては、以下のものを例示することができる。なお下記において*は、スペーサ部又は基材結合部との連結部分を示す。
【0021】
【化6】

【0022】
【化7】

【0023】
このうち、特に下記のものが細胞親和性の観点及び合成容易性の観点から特に好ましい。
【0024】
【化8】

【0025】
スペーサ部、即ち上記式中Spは、あってもなくてもよいスペーサ部であり、存在する場合には、炭素数1〜10のアルキレン基、アルケニレン基、フェニレン基、炭素数1〜5のアルキレン基若しくはアルケニレン基又はハロゲンを置換基として有するフェニレン基を表し、好ましくは、炭素数1〜3のアルキレン基、アルケニレン基、フェニレン基、炭素数1〜3のアルキル若しくはアルケニレン置換フェニレン基である。炭素数が多いと、分子の柔軟性が高くなり過ぎ、基材最表面からアミド結合含有部が基材側に潜り込んで、細胞親和性が減少する場合があるので、好ましくない。
【0026】
基材結合部、即ち式中Bは、上記Sp又はAと結合可能であると共に極性基を有する基材に対して結合可能な下記一般式(II)で表されるシリル基並びに、一般式(III)で表されるリン酸エステル及びリン酸エステル塩からなる群より選択された少なくとも1つである。ここで、Bが複数存在する場合には互いに同一でも異なってもよい。
【0027】
【化9】

【0028】
上記式(II)中、Y1、Y2及びY3はそれぞれ独立に、−R2、−OR3、−OCOR4、−NCO及び、塩素又は臭素などのハロゲンからなる群から選択されたものを表し、互いに同一であっても異なってもよい。ここでR2は、炭素数1〜3のアルキル基若しくはアルケニル基、フェニル基を表し、R3及びR4はそれぞれ、炭素数1〜5のアルキル基若しくはアルケニル基を表す。
【0029】
【化10】

【0030】
上記式(III)中、Z1及びZ2はそれぞれ独立に、OH、OQ、フェニル基又はフェノキシ基を表し、互いに同一であっても異なってもよく、ここでQは、ナトリウムなどのアルカリ金属若しくはNH4を表す。
【0031】
このような基材結合部としては、以下のものを例示することができる。
【0032】
【化11】

【0033】
これらのうち、特に細胞親和性及び合成容易性の観点から、(II−1)、(II−2)、(II−3)、(III−1)、(III−2)及び(III−6)が好ましく、基材との結合部位が3カ所になる(II−1)が特に好ましい。
【0034】
このようなアミド誘導体としては、下記のものを好ましく挙げることができる。中でも、基板との結合部位の数が多い下記(1)、(2)及び(4)の化合物が特に好ましい。
【0035】
【化12】

【0036】
【化13】

【0037】
本発明の上記アミド誘導体は、アミド結合含有部及び基材結合部を有するので、極性基を有する基材に対する表面改質剤として好ましく用いることができる。
即ち、本発明の細胞親和性材料の製造方法は、本発明の表面改質剤によって、表面に極性基を有する有機又は無機基材を表面処理することを含むものである。
【0038】
表面処理されることができる基材としては、極性基を有する有機又は無機の基材であればよい。ここで極性基とは、水酸基、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル結合、エーテル結合をいい、これらを単独で又は組み合わせて有するものであってもよい。
【0039】
基材としては、ハイドロキシアパタイト、ガラス、金属、プラスチック、セラミックスを挙げることができ、使用対象、例えば生体内の部位や使用目的から適宜選択される。
ハイドロキシアパタイトとしては、一般組成をCa5(PO43OH、とする化合物であり、その反応の非化学量論性によって、CaHPO4、Ca3(PO42、Ca4O(PO42、Ca10(PO46(OH)2、CaP411、Ca(PO32、Ca227、Ca(H2PO42・H2Oなどリン酸カルシウムと称される1群の化合物を挙げることができる。また、ハイドロキシアパタイトは、Ca5(PO43OH、またはCa10(PO46(OH)2の組成式で示される化合物を基本成分とするもので、Ca成分の一部分は、Sr、Ba、Mg、Fe、Al、Y、La、Na、K、Hなどから選ばれる1種以上で置換されてもよい。また、(PO4)成分の一部分が、VO4、BO3、SO4、CO3、SiO4等から選ばれる1種以上で置換されてもよい。更に、(OH)成分の一部分が、F、Cl、O、CO3等から選ばれる1種以上で置換されてもよい。また、これらの各成分の一部が欠陥となっていてもよい。生体骨中のアパタイトのPO4およびOH成分の一部は通常CO3に置換されているため、本複合生体材料の製造中、大気中からのCO3の混入と各成分への一部置換(0〜10質量%程度)があってもよい。
【0040】
ガラスとしては、生体材料としての用途に一般的に用いられている材質及び形状のものを挙げることができ、例えばガラス繊維やガラス粉体などをあげることができる。
金属としては、表面吸着水を有するものであればよく、銀、金、チタン、コバルト、ニッケル、パラジウムを例示することができ、これらの合金であってもよい。合金としては、歯科等で一般に用いられているものをそのまま適用することができ、例えば、Co−Cr合金、Au−Ag−Pd合金等を挙げることができる。
プラスチックとしては、極性基を有するポリマーであればよく、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン等を挙げることができる。
【0041】
基材に対して本発明の表面改質剤で表面処理をする場合には、通常、上記表面改質剤を適当な溶剤や分散剤、例えばエタノール等に溶解して溶液を調製し、基材の表面に塗布又は、基材を処理溶液に浸せばよい。これにより、基材の極性基と本発明の表面改質剤の基材結合部とが結合し、基材の表面に細胞親和性部が配置され、基材が細胞親和性に改質される。
なお表面処理液を調製する際には、このような用途に一般に使用されている少量の酢酸や硫酸などの縮合促進剤を使用してもよい。
【0042】
また、表面処理工程の後には、表面改質剤と基材との結合を強固にするために、加熱工程を設けてもよい。例えばアルキルシリル基を基材結合部として含む表面改質剤を用いた場合には、基材の表面に所謂シロキサンネットワークが構築されて、基材と強固に結合することができるため、特に好ましい。
【0043】
本発明の細胞親和性材料は、上記表面改質剤によって表面にアミド構造含有部を有するので、細胞産生物質等のタンパク質と弱く水素結合することができる。このため、細胞親和性が高く、生体内に移植・埋設した場合には、周囲組織との適合性に優れている。
従って、本細胞親和性材料は、生体内に移植・埋設する移植物として好ましく用いることができ、このような用途としては、人工骨、人工歯、人工関節等を始めとする人工臓器のみならず、ボルト等の部材やその他の補綴材としても好ましく用いることができる。
【0044】
また、本発明の細胞親和性材料は、特に多孔質の基材を用いた場合には、細胞親和性材料の周囲のみならず内部に細胞を誘導することができる。これにより、基材を足場として細胞親和性材料の内部で細胞を増殖させることができる。基材として骨と同様の機械特性を有する多孔質の基材を選択し、細胞として例えば骨形成能を有する細胞を用いた場合には、基材を足場として効率よく増殖する。
【0045】
本発明の骨様移植物は、本発明の細胞親和性材料と、骨形成能を有する細胞とを含むものである。上述したように、基材の表面及び内部に骨形成能を有する細胞を容易に配置することができ、このような骨様移植物は、移植部位への生着性に優れている。
このような骨様移植物は、上述したように細胞親和性材料を得ること及び、この細胞親和性材料を、骨形成能を有する細胞と共に培養することによって、容易に製造することができる。
【0046】
ここで用いられる細胞としては、骨形成能を有するものであればよく、例えば、骨髄間質細胞等をあげることができる。また拒絶反応を回避する観点から、自家の細胞であることが好ましい。
培養条件及び培養期間としては、細胞の種類及び増殖能によって異なるが、それぞれの細胞の状態に合わせて当業者であれば適宜適切な条件及び培養期間を容易に設定することができる。
【0047】
なお、移植物としては、骨様移植物に限定されず、細胞種を適切に選択することによって、当業者であれば細胞種に応じた培養条件を選択して、所望の移植物を容易に製造することができる。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、重量(質量)基準である。
【0049】
[実施例1]
表面改質剤DAU6Mの合成
(1)試薬及び装置
N,N−ジアリル尿素[C710ON2](F.W.:140.09、mp:64℃、日東紡株式会社製)
マレイミド[C432N](F.W.:97.07、mp:94℃、Aldrich株式会社製)
トリメトキシシラン[HSi(OCH33](F.W.:122.2、bp:81℃、d:0.96、東京化成工業株式会社製)。市販品をTrop to Trapにより精製したものを使用した。
塩化白金(IV)酸六水和物[H2PtCl6・6H2O](F.W.:517.9、小島化学薬品株式会社製)。市販品を窒素下で蒸留THFに溶解し、0.1M溶液に調整したものを使用した。
【0050】
テトラヒドロフラン[C48O](F.W.:72.11、bp:66℃、d:0.89、関東化学株式会社製)。市販品を塩化カルシウムによって数日間予備脱水したものに、水素化カルシウム、ベンゾフェノン、金属ナトリウムを加えて青変するまで還流し,十分に水分を除去した後、常圧蒸留して、66℃の留分を窒素下で保存したものを使用した。
塩化カルシウム(乾燥用)[CaCl2](F.W.:110.98、mp:163℃、関東化学株式会社製)
水素化カルシウム(粉末)[CaH2](F.W.:42.09、ナカライテスク株式会社製)
金属ナトリウム[Na](F.W.:22.99、mp:97.8℃、d:0.97、ナカライテスク株式会社)
ベンゾフェノン[(C652CO](F.W.:182、mp:47〜49℃、東京化成工業株式会社製)
以上は市販品をそのまま使用した。
【0051】
使用装置は以下のとおりである。
1H−NMRスペクトル:
Bruker DPX 400型NMR装置
FT−IR スペクトル:
Nicolet AVATAR 360 FT-IR Spectrometer
Mass スペクトル:
日本電子 JMS−SX 102A
日立製作所(株) M−003 データ処理システム
【0052】
(2)合成
合成は下記のスキーム1に従った。還流冷却器、滴下ロートを装備した100mlナスフラスコ内にN,N−ジアリル尿素3.98g(28.41mmol)、溶媒としてTHF約20ml、触媒として0.1M塩化白金酸THF溶液0.1mlを加え、トリメトキシシラン7.26g(56.82mmol)を氷冷下で徐々に攪拌しながら加えた。その後77℃で15時間還流し、これを減圧留去した。得られた生成物の同定は1H−NMR、FT−IRおよびMassの各スペクトルにより行った。
【0053】
【化14】

【0054】
反応は定量的に進行し、得られた生成物は粘性の白色液体であった。得られた生成物の同定は1H−NMR、FT−IRおよびMassの各スペクトルにより行った。各チャートは図1〜3にDAU6Mの1H−NMR、FT−IRおよびMassの各スペクトルチャートを示す。
1H−NMRスペクトルではアリル基プロトンに由来するピークが消失し、ケイ素が導入されたことに由来する−SiOCH3のピークが確認され、積分比も目的物と一致した。FT−IRスペクトルでは、二重結合に由来するC=C伸縮振動の特性吸収帯が消失し、ケイ素が導入されたことに由来するSi−O−C伸縮振動の特性吸収帯が新たに確認された。Massスペクトルでは、分子イオンピークが確認でき、各フラグメントからも生成物が目的物であることを裏付ける結果が得られた。
これらの解析結果から生成物が目的物であることを確認した。
【0055】
[実施例2]
表面改質剤MI3Mの合成
合成は下記スキーム2に従った。還流冷却器、滴下ロートを装備した100mlナスフラスコ内にマレイミド3.32g(34.20mmol)、溶媒としてTHF約10ml、触媒として0.1M塩化白金酸THF溶液0.2mlを加え、トリメトキシシラン5.05g(41.33mmol)を氷冷下で徐々に攪拌しながら加えた。その後、77℃で50時間還流した。これを減圧留去した後、ジクロロメタンでろ過を行ない、ろ液を減圧留去した。得られた生成物の同定は1H−NMR、FT−IRおよびMassの各スペクトルにより行った。
【0056】
【化15】

【0057】
反応は定量的に進行し、得られた生成物は白色固体であった。得られた生成物の同定は1H−NMR、FT−IRおよびMassの各スペクトルにより行なった。図4〜6に、MI3Mの1H−NMR、FT−IRおよびMassの各スペクトルチャートを示す。
1H−NMRスペクトルではオレフィンのプロトンに由来するピークが消失し、ケイ素が導入されたことに由来する−SiOCH3のピークが確認され、積分比も目的物と一致した。FT−IRスペクトルでは、二重結合に由来するC=C伸縮振動の特性吸収帯が消失し、ケイ素が導入されたことに由来するSi−O−C伸縮振動の特性吸収帯が新たに確認された。Massスペクトルでは、分子イオンピークが確認でき、各フラグメントからも生成物が目的物であることを裏付ける結果が得られた。
これらの解析結果から生成物が目的物であることを確認した。
【0058】
[実施例3]
表面改質剤によるハイドロキシアパタイトの表面改質
実施例1で得られたシランカップリング剤(DAU6M)を、エタノールに混合して50mmol/L(約2.4質量%)とし、表面改質処理液とした。ハイドロキシアパタイト[β−TCP、商品名:オスフェリオン(登録商標)、オリンパス社製]に、表面改質処理液を1ml加えて、24時間撹拌し、常法に従って湿式法にて表面改質を行った。処理後、β−TCPを取り出して大気中にて自然乾燥させ、ガス滅菌して、試料部材とした。
ここで用いたβ−TCP(β−リン酸三カルシウム)は、気孔率約75%、気孔径100〜400μm、φ5×2.5mmであった。
表面の改質は、ESCAのよる表面の元素分析から窒素,炭素,ケイ素の存在を確認した。
【0059】
[実施例4]
in vivo 分化誘導アッセイ
in vivo 分化誘導アッセイは、基本的にはGrzeskiらの方法(J. Bone Miner. Res., 1998, Vol.13, pp.1547-1554)に従って下記のように行った。
また、実施例3の試料部材のin vivo 分化誘導能を確認するために、ヒト下顎骨由来骨髄間質細胞(hMdBMSC)を用いた。この細胞株は、LXSN−Bmi−1(Bmi−1:ヒトBmi−1遺伝子)及びLXSH−hTERT(hTERT:ヒトテトメラーゼリバーストランスクリプターゼ)レトロウイルスを用いて不死化した細胞株である(J. Bone Miner. Res., 2005, Vol.20(1), pp.50-56)。この細胞株に骨形成能があることが、前述の文献中で確認されている。
【0060】
実施例3で表面改質を行った試料部材を、1×106個のhMdBMSC細胞を含む200μLのα−MEMと共に37℃12時間培養した。それから、細胞とβ−TCPの混合物を回収して、細胞接着β−TCP複合材料を得た。
その後、この複合材料を、オス5週齢のSCIDマウス(日本クレア)の背側皮下に移植して、8週間後に移植片を摘出した。
摘出した移植片を、4%パラフォルムアルデヒドで固定後、10%ギ酸で2日間脱灰し、パラフィンにて包埋して標本を作製した。その後、3μmの切片を作製し、ヘマトキシリン−エオジン(HE)染色を行った。
結果を図7に示す。なお図中Hはハイドロキシアパタイトを示している。
【0061】
図7に示されるように、本実施例の表面改質剤で処理した試料部材は、試料部材の内部にhMdBMSC由来の骨様構造物の形成が認められた(矢印部)。このことは、本実施例の表面改質剤によってβ−TCPが改質されて表面の親水性が向上し、細胞の定着が容易となったことを示している。その結果、β−TCPの内部にまで細胞が遊走され、β−TCPの深部に骨が形成可能となった。
【0062】
[比較例]
表面改質剤による処理を行わなかった以外は実施例5と同様にして、β−TCPをhMdBMSCと共に培養した。結果を図8に示す。
図8に示されるように、β−TCPの内部又は表層部に、骨様構造物の形成は認められなかった。
従って、本発明の表面改質剤によって表面処理を行うことが、β−TCPの内部でのhMdBMSC由来の骨様構造物の形成に必要であることが明らかとなった。
【0063】
このことから、本発明によれば、生体での骨組織に近い生体機能と機械的性質の双方を確保した細胞親和性材料及びこれを用いた骨様移植物を簡便に提供できることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例1にかかる表面改質剤の1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図2】本発明の実施例1にかかる表面改質剤のFT−IRスペクトルを示すチャートである。
【図3】本発明の実施例1にかかる表面改質剤のマススペクトルを示すチャートである。
【図4】本発明の実施例2にかかる表面改質剤の1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図5】本発明の実施例2にかかる表面改質剤のFT−IRスペクトルを示すチャートである。
【図6】本発明の実施例2にかかる表面改質剤のマススペクトルを示すチャートである。
【図7】実施例4にかかる試料部材を用いた場合の細胞のHE染色像である(倍率×300)。
【図8】比較例にかかる試料部材を用いた場合の細胞のHE染色像である(倍率×300)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式A−(Sp)−B又はB−(Sp)−A−(Sp)−Bで表されるアミド誘導体であって、
Aは、上記Sp又はBと結合可能な環を形成していてもよい下記一般式(I)で表されるNR1CO構造を有するアミド結合含有部であり、
【化1】

(式中R1は、H又は炭素数1〜10アルキル基又はアルケニル基、フェニル基、アルキルフェニル基、ピリジル基を表し、n1は、1〜20の整数を表す。)
Spは、あってもなくてもよいスペーサ部であり、存在する場合には、炭素数1〜10のアルキレン基、アルケニレン基、フェニレン基、炭素数1〜5のアルキル基若しくはアルケニル基又はハロゲンを置換基として有するフェニレン基を表し、
Bは、上記Sp又はAと結合可能であると共に極性基を有する基材に対して結合可能な下記一般式(II)で表されるシリル基並びに、一般式(III)で表されるリン酸エステル及びリン酸エステル塩からなる群より選択された少なくとも1つの基材結合部を表し、Bが複数存在する場合には互いに同一でも異なってもよい、
【化2】

(式中、Y1、Y2及びY3はそれぞれ独立に、−R2、−OR3、−OCOR4、−NCO及びハロゲンからなる群から選択されたものを表し、互いに同一であっても異なってもよく、ここでR2は、炭素数1〜3のアルキル基若しくはアルケニル基、フェニル基を表し、R3及びR4はそれぞれ、炭素数1〜5のアルキル基若しくはアルケニル基を表す。)
【化3】

(式中、Z1及びZ2はそれぞれ独立に、OH、OQ、フェニル基又はフェノキシ基を表し、互いに同一であっても異なってもよく、ここでQは、アルカリ金属若しくはNH4を表す。)
当該アミド誘導体。
【請求項2】
前記アミド結合含有部が、下記式(Ia)、(Ib)又は(Ic)であることを特徴とする請求項1記載のアミド誘導体。
【化4】

(式中、R1は、前述したものと同一である。n2は2〜20の整数を表し、n3は1〜20の整数を表し、前記式(Ib)はスペーサ又は基材結合部との結合可能な環を形成していてもよい。)
【請求項3】
前記アミド結合含有部が、下記のものから選択されたいずれかである請求項1記載のアミド誘導体。
【化5】

【請求項4】
前記基材結合部が、下記のものから選択された少なくとも1つである請求項1アミド誘導体。
【化6】

【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のアミド誘導体の縮合物。
【請求項6】
一般式A−(Sp)−B又はB−(Sp)−A−(Sp)−Bで表されるアミド誘導体若しくはその縮合物である表面改質剤であって、
Aは、上記Sp又はBと結合可能な環を形成していてもよい下記一般式(I)で表されるNR1CO構造を有するアミド結合含有部であり、
【化7】

(式中R1は、H又は炭素数1〜10アルキル基又はアルケニル基、フェニル基、アルキルフェニル基、ピリジル基を表し、n1は、1〜20の整数を表す。)
Spは、あってもなくてもよいスペーサ部であり、存在する場合には、炭素数1〜10のアルキレン基、アルケニレン基、フェニレン基、炭素数1〜5のアルキル基若しくはアルケニル基又はハロゲンを置換基として有するフェニレン基を表し、
Bは、上記Sp又はAと結合可能であると共に極性基を有する基材に対して結合可能な下記一般式(II)で表されるシリル基並びに、一般式(III)で表されるリン酸エステル及びリン酸エステル塩からなる群より選択された少なくとも1つの基材結合部を表し、Bが複数存在する場合には互いに同一でも異なってもよい、
【化8】

(式中、Y1、Y2及びY3はそれぞれ独立に、−R2、−OR3、−OCOR4、−NCO及びハロゲンからなる群から選択されたものを表し、互いに同一であっても異なってもよく、ここでR2は、炭素数1〜3のアルキル基若しくはアルケニル基、フェニル基を表し、R3及びR4はそれぞれ、炭素数1〜5のアルキル基若しくはアルケニル基を表す。)
【化9】

(式中、Z1及びZ2はそれぞれ独立に、OH、OQ、フェニル基又はフェノキシ基を表し、互いに同一であっても異なってもよく、ここでQは、アルカリ金属若しくはNH4を表す。)
当該表面改質剤。
【請求項7】
請求項6記載の表面改質剤で表面処理された有機又は無機基材を含む細胞親和性材料。
【請求項8】
前記有機又は無機基材が、ハイドロキシアパタイト、ガラス、金属、プラスチック及びセラミックスからなる群より選択された少なくとも1つであることを特徴とする請求項7記載の細胞親和性材料。
【請求項9】
表面に極性基を有する基材を、請求項6記載の表面改質剤によって表面処理することを含む細胞親和性材料の製造方法。
【請求項10】
請求項7記載の細胞親和性材料と、
骨形成能を有する細胞と、
を含む骨様移植物。
【請求項11】
表面に極性基を有する基材を、請求項6記載の表面改質剤によって表面処理して、細胞親和性材料を得ること、
細胞親和性材料を、骨形成能を有する細胞と共に培養すること、
を含む骨様移植物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−241084(P2006−241084A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59750(P2005−59750)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(505079785)学校法人神奈川歯科大学 (6)
【Fターム(参考)】