説明

表面粗化セラミックグリーンシートの製造方法

【課題】表面が均一に粗化されたセラミックグリーンシートを簡便かつ短時間に製造できる方法であって、しかもその表面粗度を容易に調節できる方法を提供する。また、当該方法で製造されたセラミックグリーンシート、当該グリーンシートを焼結したセラミックシート、および当該セラミックシートを電解質膜とする固体酸化物形燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明の表面粗化セラミックグリーンシートの製造方法は、未処理セラミックグリーンシートを第1粗化用シートで挟み3層積層体を形成し、該3層積層体を第2粗化用シートで挟み5層積層体を形成する工程;および、前記5層積層体を加圧処理する工程;を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が粗化されたセラミックグリーンシートを製造するための方法、当該方法により製造された表面粗化セラミックグリーンシート、当該セラミックグリーンシートを焼成して得られる表面粗化セラミックシート、および当該表面粗化セラミックシートを電解質膜とする固体酸化物形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックシート等のセラミック成形体は、タイル、レンガ、壁材などの建材や断熱材、棚板やセッター等の焼成用治具の他、近年では燃料電池の電解質膜やセパレータとしても利用されている。特に、燃料電池はクリーンなエネルギー源として注目されており、その用途は家庭用発電から業務用発電、更には自動車用発電などを主体にして急速に改良研究や実用化研究が進められている。かかる燃料電池の中でも、固体酸化物形燃料電池は効率が高く長期安定性にも優れるものとして家庭用や業務用の電力源として期待されている。
【0003】
この固体酸化物形燃料電池においては、電解質膜としてセラミックシートが用いられている。セラミックスは、耐熱性などの機械的性質に加え、電気的特性や磁気的特性に優れることによる。中でもジルコニアを主体とするセラミックシートは、優れた酸素イオン伝導性や、耐熱性、耐食性、靭性などを有することから、固体酸化物形燃料電池の電解質膜としては主にジルコニアシートが採用されている。
【0004】
燃料電池の固体電解質膜では、電池反応の有効面積を増大させて発電性能を高めるべく、電極との接触面積を大きくすることが求められる。また、発電中において固体電解質膜と電極層が剥離することによる発電効率の低下を防ぐ必要がある。そこで、固体電解質膜の表面に適度の凸凹を設けて粗化する技術が開発されている。
【0005】
例えば特許文献1には、固体電解質グリーンシートと電極グリーンシートとの間に電解質粒を存在せしめた上で圧着する工程等を含む固体電解質型燃料電池の製造方法が記載されている。しかし、当該方法によれば確かに固体電解質膜と電極との接触面積は大きくなるかもしれないが、単に電解質粒を付着したのみでは電解質膜と電極との密着性を高めることはできず、発電中に電極が剥離して安定的な発電が継続できなくなるおそれがある。
【0006】
また、当該特許文献によれば、固体電解質グリーンシートと電極グリーンシートを重ねたものに、上下にプラスチックフィルムを介して、#100の粗いサンドペーパーをさらに重ねた上で圧着することにより、固体電解質と電極との接合面も凸凹になるとされている。しかし、当該方法により得られる接合面の凸凹形状は全く十分なものではなく、電解質膜と電極との密着性を高めるには至らない。
【0007】
上記技術に対して、本発明者らは、電極を高い密着度で強力に接合することができ、発電性能に優れる燃料電池セルが得られる固体酸化物形燃料電池用の電解質シートとして、Rz、RaおよびRmaxを規定したものを開発している(特許文献2を参照)。かかる電解質シートは、粒度構成が規定されたスラリーを、塗工面のRzとRaが規定された高分子フィルム上に塗布してグリーンシートとした後、焼成することにより製造される。この方法によれば、高分子フィルムの粗面がグリーンシートに転写されることになる。
【0008】
しかし、この方法では粒度調整が必要であると共に、高分子フィルムの粗面はグリーンシートの片面にしか転写されない。そこで本発明者らは、紙や布などの表面粗化用シートでセラミックグリーンシートを挟んだ上で加圧処理することによって、表面が粗化されたセラミックグリーンシートを製造する技術を開発し、特許出願している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−73890号公報
【特許文献2】国際公開第2004/034492号
【特許文献3】特開2007−313650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した様に、セラミックグリーンシート、ひいてはセラミックシートの表面を粗化するための技術としては様々なものが開発されている。特に表面粗化用シートを用いる方法は、両面を適度に粗化できる技術として優れている。
【0011】
しかし、表面粗化用シート用いる従来の方法では、セラミックグリーンシートに所望の粗度を付与するためには、加圧処理時間に60秒間程度を要していた。また、加圧処理時間を短縮するためにプレス圧を高めた場合、加圧処理時または加圧処理後の表面粗化用シート剥離時に、セラミックグリーンシートの破れが多発してしまうという問題があった。特に、最近では固体酸化物形燃料電池の実用化が現実のものとなってきており、その電解質膜として利用できるセラミックシートの量産化は急務であるが、当該技術では量産化は難しいと考えられる。
【0012】
そこで、本発明が解決すべき課題は、表面が均一に粗化されたセラミックグリーンシートを簡便かつ短時間に製造できる方法であって、しかもその表面粗度を容易に調節できる方法を提供することにある。また、本発明は、当該方法で製造されたセラミックグリーンシート、当該グリーンシートを焼結したセラミックシート、および当該セラミックシートを電解質膜とする固体酸化物形燃料電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、セラミックグリーンシートを表面粗化用シートで挟んだ積層体を加圧処理して、セラミックグリーンシートの表面を粗化する場合、前記積層体をさらに第二の表面粗化用シートで挟むことにより、短時間で粗化することができ、その粗度の調節も簡便に行えることを見出して本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の表面粗化セラミックグリーンシートの製造方法は、未処理セラミックグリーンシートを第1粗化用シートで挟み3層積層体を形成し、該3層積層体を第2粗化用シートで挟み5層積層体を形成する工程;および、前記5層積層体を加圧処理する工程;を含むことを特徴とする。
【0015】
前記加圧処理における合計加圧時間を、0.1秒以上、5秒以下とすることが好ましく、前記加圧処理におけるプレス圧を1.9MPa以上、58.8MPa以下とすることが好ましい。加圧処理を上記の条件で行うことにより、粗化をより短時間で行うことができ、かつ、加圧処理時および加圧処理後に粗化用シートを剥離する際にセラミックグリーンシートが破れてしまうことが抑制され、セラミックグリーンシートをより効率よく製造することができる。
【0016】
前記第2粗化用シートとしては、そのRaが5μm以上、500μm以下のものを用いることが好ましい。また、前記第1粗化用シートとしては、そのRaが3μm以上、30μm以下のものを用いることが好ましい。
【0017】
本発明の表面粗化セラミックグリーンシートは、上記本発明方法で製造されるものであり、Raが0.5μm以上、5μm以下であることを特徴とする。また、本発明の表面粗化セラミックシートは、上記表面粗化セラミックグリーンシートを焼成することにより製造されるものであり、Raが0.4μm以上、4μm以下であることを特徴とする。かかる表面粗化セラミックシートは、固体酸化物形燃料電池の電解質膜として非常に有用であり、上記表面粗化セラミックグリーンシートは、この表面粗化セラミックシートの前駆体として有用である。
【0018】
本発明の固体酸化物形燃料電池は、上記表面粗化セラミックシートを電解質膜として有することを特徴とする。本発明の表面粗化セラミックシートは平坦なシートに比べて表面積が大きいことから、固体酸化物形燃料電池の電解質膜として利用した場合、電極との密着性に優れ且つ発電効率も高い。よって、本発明の固体酸化物形燃料電池は、耐久性と発電性能に優れる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、表面が適度に粗化されたセラミックグリーンシートを簡便かつ短時間に製造でき、しかもその表面粗度を容易に調節できる。よって、このセラミックグリーンシートを焼結したセラミックシートも同様の表面粗度を有している。このセラミックグリーンシートを焼結したセラミックシートは、含まれるバインダー等の有機物の種類・含有量や原料セラミック粉末の物性・性状等により異なるが、グリーンシート表面粗度の60〜100%の表面粗度、一般には70〜90%の表面粗度を有していることが多い。かかる表面粗化セラミックシートの中でも、表面粗化ジルコニアシートを固体酸化物形燃料電池の電解質膜として利用すれば、電極との接触面積が大きいことから高い発電効率が得られ、また、電極との密着性が高いことから安定的な発電が可能になる。さらに、本発明の表面粗化セラミックシートを焼成用セッターとして利用すれば、被焼成物との接触面積が小さくなることから、高温で熱処理する際にセッターと被焼成物との固相反応の進行が抑制されて、安定した品質の焼成物が得られる。従って、本発明は、固体酸化物形燃料電池など、或いはアルミナ質やムライト質の焼成用セッターなどとして利用できるセラミックシート、およびその前駆体であるセラミックグリーンシートの優れた製造方法として、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】セラミックグリーンシートの表面粗度の測定位置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の表面粗化セラミックグリーンシートの製造方法は、未処理セラミックグリーンシートを第1粗化用シートで挟み3層積層体を形成し、該3層積層体を第2粗化用シートで挟み5層積層体を形成する工程;および、前記5層積層体を加圧処理する工程;を含むことを特徴とする。
【0022】
グリーンシートに圧力をかけた時に起こる歪み特性(圧縮弾性特性)によっては、歪みが大き過ぎる場合はグリーンシートを破損し、逆に歪みが小さ過ぎる場合には粗化が不十分であったり、不均一な粗化になったりする。そこで、本発明では、圧縮弾性特性値の大きなものや小さなものなど、どのような圧縮弾性特性を有するグリーンシートであっても、目標とする表面粗さに粗化するために、第1粗化用シートと第2粗化用シートを併用する。
【0023】
本発明の製造方法において、第1粗化用シートおよび第2粗化用シートを併用することにより、短時間でセラミックグリーンシートの表面を粗化できる理由は必ずしも明らかでないが、以下のように考えられる。すなわち、第1粗化用シートと第2粗化用シートを併用することにより、粗化用シート自体の圧縮弾性特性が変化し、グリーンシートの圧縮弾性特性の影響を緩和できるためと考えられる。特に、第1、第2粗化用シートを併用することにより、グリーンシートの厚みによる圧縮弾性特性の影響を緩和することができ、グリーンシートの全面に均一且つ短時間で、所定の表面粗さを付与できたと推察される。
【0024】
以下、実際の実施の順番に従って、本発明方法を説明する。
(1) 原料スラリーまたは原料混練物の調製
先ず、セラミック粒子、溶媒、バインダー、可塑剤等を混合し、原料スラリーまたは原料混練物を調製する。
【0025】
原料とするセラミック粒子は常法により製造してもよいし、或いは市販のものを使用してもよい。また、セラミック粒子としては、粒子径が揃っているものが好適である。
【0026】
本発明で用いるセラミック粒子の材料は、通常用いられるものであれば特に制限されないが、例えば酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化クロム等の金属酸化物;コージェライト、βスポンジューメン、チタン酸アルミニウム、ムライト、スピネル等の複合酸化物;炭化ケイ素等の金属炭化物;窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の金属窒化物;酸化ニッケル、酸化鉄等の遷移金属酸化物;ランタンマンガネート、ランタンコバルタイト、ランタンクロマイト等のペロブスカイト構造酸化物を挙げることができ、これらから1種を選択するか、2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
特に、本発明の表面粗化セラミックグリーンシートを焼成した表面粗化セラミックシートを燃料電池の電解質膜として利用する場合には、セラミック粒子の材料として、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテルビウム等で安定化されたジルコニア;イットリア、サマリア、ガドリニア等でドープされたセリア;ランタンガレート、およびランタンガレートのランタンまたはガリウムの一部が、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅などで置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物などを使用することができる。
【0028】
さらに、本発明に係る表面粗化セラミックシートを燃料電池の電解質膜として利用する場合には、セラミック粒子の材料として、3〜10モル%の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア、4〜12モル%の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、8〜12モル%の酸化スカンジウムと0.5〜2モル%の酸化セリウムで安定化されたジルコニア、4〜15モル%の酸化イッテルビウムで安定化されたジルコニアを用いることが好ましい。また、これらの安定化ジルコニアへ、アルミナ、シリカ、チタニアなどを焼結助剤や分散強化剤として添加した材料も好適に用いることができる。
【0029】
また、本発明に係る表面粗化セラミックシートを燃料電池のセパレータとして利用する場合には、導電性のセラミック材料が好適である。例えば、ランタンクロマイトや、ランタンクロマイトのランタンまたはクロムの一部が、ストロンチウム、カルシウム、ニッケル、コバルト、アルミニウム、マグネシウム、チタンなどで置換されたランタンクロマイトペロブスカイト構造酸化物を使用することができる。
【0030】
原料であるセラミック粒子としては、平均粒子径が0.1μm以上、0.5μm以下と微細なものを用いることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、粒度分布から求められるメジアン径、即ち50体積%径(D50)をいうものとする。また、セラミック粒子としては、粒径分布の小さいものが好適である。具体的には、平均粒子径が0.1μm以上、0.5μm以下であり、且つ、90体積%径(D90)が1μm以下であるものが好ましい。より好ましくは、平均粒子径が0.2μm以上、0.3μm以下であり、90体積%径が0.7μm以下である。これら平均粒子径と90体積%径は、堀場製作所製のLA−920などのレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、0.2重量%メタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒として測定した粒度分布から求めることができる。
【0031】
原料スラリーまたは原料混練物に用いられるバインダーの種類にも格別の制限はなく、従来から知られた有機質のバインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系およびメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロース等のセルロース類等が例示される。
【0032】
これらの中でも、加圧処理時における粗化用シートの表面粗さ転写性と、200〜500℃での加熱工程における脱バインダー性に優れるものである必要があり、また、セラミックグリーンシートの成形性や打抜き加工性、強度、焼成時の収縮率のバラツキ抑制等の点から、熱可塑性で、且つ数平均分子量が20,000〜250,000、より好ましくは50,000〜200,000の(メタ)アクリレート系共重合体が好ましいものとして推奨される。かかる数平均分子量は、常法により測定できる。しかし、市販のバインダーでカタログ値がある場合には、それを参照すればよい。
【0033】
セラミック粒子とバインダーの使用比率は、前者100質量部に対して後者5〜30質量部が好ましく、より好ましくは後者10〜20質量部の範囲である。バインダーの使用量が不足する場合は、セラミックグリーンシートの成形性が低下し、また、強度や柔軟性が不十分となる。逆に多過ぎる場合はスラリーの粘度調節が困難になるばかりでなく、焼成時のバインダー成分の分解放出が多く且つ激しくなって収縮率のバラツキも大きくなり、寸法バラツキの小さなシートが得られ難くなり、また、バインダーが残留カーボンとして残留し易くなる。
【0034】
使用される溶媒としては、水;メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類等が挙げられ、これらから適宜選択して使用する。これらの溶媒も単独で使用し得る他、2種以上を適宜混合して使用することができる。これら溶媒の使用量は、セラミックグリーンシート成形時におけるスラリーの粘度を加味して適当に調節するのがよく、好ましくはスラリー粘度が1〜50Pa・s、より好ましくは2〜20Pa・sの範囲となる様に調整するのがよい。
【0035】
原料スラリーまたは原料混練物の調製に当たっては、セラミック原料粉末の解膠や分散を促進するための分散剤、セラミックグリーンシートに柔軟性を付与するための可塑剤、さらには界面活性剤や消泡剤などを必要に応じて添加することができる。
【0036】
前記分散剤としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム等の高分子電解質;クエン酸、酒石酸等の有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩あるいはアミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩等が挙げられる。前記可塑剤としては、セラミックグリーンシートに柔軟性を付与するためのフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル類;プロピレングリコール等のグリコール類やグリコールエーテル類;フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバチン酸系ポリエステル等のポリエステル系のコオリゴマーまたは高分子化合物が挙げられる。なお、前記ポリエステル系可塑剤は、下記式1で表わされるものが好適である。
R−(A−G)n−A−R 式1
(式中、Aは二塩基酸残基、Rは末端停止剤残基を示し、Gがグリコール残基を示し、nは重合度を示す)
【0037】
ここで、前記二塩基酸残基としてはフタル酸、アジピン酸、セバチン酸等の残基が挙げられる。前記末端停止剤残基としては、メタノール、プロパノール、ブタノール、ネオペンチルアルコール、トリデシルアルコール、イソノニルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール等の1価アルコールの残基が挙げられる。前記グリコール残基としてはエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類;ジエチレングリコール等のグリコールエーテル類;ポリエチレングリコールの誘導体等の残基が挙げられる。前記重合度は10〜200が好適であり、より好ましくは20〜100である。また、分子量は600〜3000のものが好適に使用される。
【0038】
原料スラリーまたは原料混練物は、上記成分を適量混合することにより調製する。その際、各粒子を細かくしたり粒子径を均一化するために、ボールミル等により粉砕しつつ混合してもよい。また、各成分の添加の順番は特に制限されず、従来方法に従えばよい。
【0039】
(2) 未処理セラミックグリーンシートの製造
次に、得られた原料スラリーまたは原料混練物を成形する。成形方法は特に制限されず、ドクターブレード法や押出成形法などの常法を用いて、適切な厚さのシートとする。その後、乾燥することにより未処理セラミックグリーンシートとする。乾燥条件は特に制限されず、例えば室温〜150℃の一定温度で乾燥してもよいし、50℃、80℃、120℃の様に順次連続的に昇温して加熱乾燥してもよい。
【0040】
得られた未処理セラミックグリーンシートの厚さは適宜調整すればよいが、通常、50〜1000μm程度とすることがきる。なお、本発明の製造方法では、第1粗化用シートと第2粗化用シートを併用しているため、同じプレス圧でも、高い粗化能が得られる。すなわち、プレス圧を高めることなく、加圧処理の合計加圧時間を減少させることができる。そのため、本発明は、プレス圧を高めると容易に破れてしまうような薄膜のセラミックグリーンシートの表面粗化に好適である。本発明で用いる未処理セラミックグリーンシートの厚さは350μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以下である。また、任意の方法で適当な大きさに打抜き若しくは切断加工してもよい。しかし量産化のためには、得られた未処理セラミックグリーンシートをロール状に巻き取ることが好ましい。もちろん、この時点で所望の形状に切断しても構わない。
【0041】
なお、未処理セラミックグリーンシートの表面粗さは、使用するセラミック粉末や原料スラリー等の粒度分布に依存するが、ドクターブレード法によるテープキャスティングの場合、一般的には、Raが0.01μm以上、0.08μm以下、RZが0.05μm以上、0.7μm以下、Rmaxが0.08μm以上、0.9μm以下の範囲であり、押出成形法によるテープ成形では、一般的にRaが0.1μm以上、0.4μm以下、RZが0.3μm以上、5μm以下、Rmaxが0.5μm以上、8μm以下の範囲である。
【0042】
未処理セラミックグリーンシートにおける「未処理」とは、その表面を粗化するための特別な処理を施していないことを意味する。
【0043】
(3)積層体の作製
本発明では、まず、前記未処理セラミックシートを第1粗化用シートで挟み3層積層体を形成する。
【0044】
前記第1粗化用シートは、表面が適度に粗化されており、且つ加圧処理後にセラミックグリーンシートから十分に剥離できる程度の強度と柔軟性を有するものであれば特に制限されない。例えば、適度な粗度を有する紙、布、樹脂フィルムなどから適宜選択して使用できる。
【0045】
紙としては、平滑度の高い塗工紙ではなく、非塗工紙;エンボス紙やクラフト紙などの特殊紙;濾紙;和紙;ダンボール原紙、紙器用板紙、紙管原紙等の雑板紙など、約200g/m2以上の板紙;レザーロイド紙などの圧縮紙やラダーダクト;石膏ボードなどの圧縮ボード;サンドペーパーなどから、適度な表面粗度を有するものを選択して用いることができる。樹脂フィルムとしては、例えばフッ素繊維紙、アラミド紙、ポリエステル紙、ポリイミドフィルムやそのプリプレグ、PETフィルムなどを、粗粒子コーティング、ブラスト加工、レーザー加工により表面を粗化したものを使用できる。布については、同様に適度な粗度、強度および柔軟性を有するものを用いればよいが、不織布では繊維がセラミックグリーンシートに付着するおそれがあるため、好適には長繊維からなる織布を用いる。具体的には、粗布、包袋やガーゼ、ウェス、ナイロンメッシュなどを用いることができる。その他、ガラス繊維紙、セラミック紙、ステンレス紙なども使用できる。
【0046】
前記第1粗化用シートの表面粗度の目安としては、Raで3〜30μm程度、Rzで5〜120μm程度、Rmaxで6〜180μm程度が好ましい。Raが3μm程度以上、Rzが5μm程度以上、Rmaxが6μm程度以上であれば、セラミックグリーンシートを適度に粗化し易い。一方、Raが30μm程度以下、Rzが120μm程度以下、Rmaxが180μm程度以下であれば、加圧処理後にセラミックグリーンシートから表面粗化用シートを剥離し易い。また、かかる範囲内の表面粗化用シートであれば、さらに加圧時間やプレス圧などを調節することにより、所望の表面粗度を有するセラミックグリーンシートを容易に得ることができる。なお、Ra、Rz、およびRmaxの好適な範囲は、Raが4〜20μm程度、Rzが6〜60μm程度、Rmaxが8〜80μm程度であり、さらに好ましくは、Raが5〜15μm程度、Rzが8〜40μm程度、Rmaxが10〜50μm程度である。粗化用シートの好適な表面粗度では、特にRaを好適な基準とすることができる。
【0047】
本発明において表面粗度とは、1990年5月に改正されたドイツ規格「DIN−4768」の電気接触式粗さパラメータRa(算術的粗さ中間値)、Rz(平均化された粗さ深度)、Rmax(最大粗さ深度)の測定に準拠して測定した値をいい、測定器としては、シート表面に非接触状態で測定するレーザー光学式非接触三次元形状測定装置を使用するものとする。この装置は、780nmの半導体レーザー光源から可動対物レンズを通して試料面で直径1μmのフォーカスを結び、この時、正反射光は同じ光路を戻りビームスリッターを介して4つのフォトダイオード上に均等に結像されるため、凹凸のある測定試料面では変位して像に不均等が生じ、即座にこれを解消する信号が発せられ対物レンズの焦点が常に測定物表面に合うようにレンズが制御される時の移動量をライトバリア測定機構で検出することで、高精度な測定を行うことができる。その仕様は、スポット径1μm、分解能は測定レンジの0.01%(最高0.01μm)である。ドイツ規格「DIN−4768」では、電気接触式粗さパラメータによるRa、Rz、Rmaxの測定を規定しているが、本発明で定める前記Ra、Rz、Rmaxは、上記測定装置に付帯しているRa、Rz、Rmaxの測定法と、Ra、Rz、Rmax計算解析プログラムから「DIN−4768」に準拠して求めたものである。
【0048】
なお、布などでは経糸と緯糸との織目の間に隙間があるためにRa等が測定できない場合があるが、その様な場合には、布を構成する繊維や目の粗さを参照して適当なものを選択し、さらに予備実験等により実際に用いるものを決定すればよい。
【0049】
また、第1粗化用シートの厚さは、0.1〜10mm程度が好ましい。0.1mm以上であれば、加圧後における第1粗化用シートの剥離時に損傷することなく、剥離し易い。一方、第1粗化用シートが過剰に厚い場合もかえって剥離し難いため、10mm程度以下が好適である。より好ましくは、0.12〜5mm程度である。
【0050】
続いて、前記未処理セラミックシートを第1粗化用シートで挟んで形成した3層積層体を、第2粗化用シートで挟み5層積層体を形成する。
【0051】
前記第2粗化用シートは、加圧処理後にも自身の表面粗さを十分保ちつつ、ハンドリング性強度を有するものであれば特に制限されない。なお、前記第2粗化用シートは、前記第1粗化用シートよりも表面粗度が高いことが好ましい。第2粗化用シートとして、前記第1粗化用シートよりも表面粗度の高いものを使用することにより、グリーンシートが350μm以下、特に300μm以下の薄膜の場合にも、粗化用シートの表面粗さが容易にグリーンシートに転写でき、Raが0.5〜5μmと広い範囲の表面粗さのグリーンシートを効率よく製造できる。
【0052】
加圧工程中の第1粗化用シートは、グリーンシートに接触してその表面粗さが転写されるときに、前記第1粗化用シートよりも表面粗度の高い第2粗化用シートにより背後から押圧されることとなる。そのため、第2粗化用シートによって第1粗化用シートの表面粗さの形状がよりシャープになり、グリーンシートへ有効に表面粗さが転写すると推察される。
【0053】
前記第2粗化用シートの表面粗度の目安としては、Raで5〜500μm程度、Rzで6〜800μm程度、Rmaxで8〜1000μm程度が好ましい。Raが5μm程度以上、Rzが6μm程度以上、Rmaxが8μm程度以上であれば、前記第1粗化用シートによるセラミックグリーンシートの表面粗化能を高めることができ、より短時間で粗化を達成できる。一方、Raが500μm程度以下、Rzが800μm程度以下、Rmaxが1000μm程度以下であれば、前記第1粗化用シートを必要以上にセラミックグリーンシートに押し込んでしまうことが抑制され、加圧処理後にセラミックグリーンシートから第1粗化用シートを剥離し易い。なお、Ra、Rz、およびRmaxの好適な範囲は、Raが6〜300μm程度、Rzが8〜600μm程度、Rmaxが10〜800μm程度であり、さらに好ましくは、Raが7〜100μm程度、Rzが9〜300μm程度、Rmaxが11〜500μm程度である。
【0054】
前記第2粗化用シートとしては、例えば、研磨布紙(研磨布、研磨紙、耐水研磨紙など)、スポンジ研磨剤、研磨フィルム、表面粗化金属板、表面粗化プラスチック板などが挙げられる。これらの中でも、安価であり、強度、硬度および柔軟性に優れることから、第2粗化用シートとしては研磨布紙が好適であり、特にサンドペーパー(研磨紙)が好適である。
【0055】
前記第2粗化用シートとして、研磨布紙を使用する場合も前記と同様に測定した研磨布紙のRaが所定の範囲に入っていれば、使用される研磨剤の粒度に特段の規定はなく、そのRaに対応する粒度のものを使用できる。本発明で使用する第2粗化用シートの好ましいRaの範囲(5〜500μm)に対応する研磨剤の粒度は#20〜#1000が好ましい。
【0056】
前記第2粗化用シートの厚さは、0.2〜20mm程度が好ましい。0.2mm以上であれば、加圧後における粗化用シートの剥離時に損傷することなく、剥離し易い。一方、第2粗化用シートが過剰に厚い場合もかえって剥離し難いため、20mm程度以下が好適である。より好ましくは、0.25〜10mm程度である。
【0057】
(4)セラミックグリーンシートの表面粗化
本発明では、上記5層積層体を加圧処理する。この処理によって、セラミックグリーンシートの表面が適度に粗化される。また、セラミックグリーンシートの表面粗度は、当該加圧処理において、使用する表面粗化用シートの粗度、加圧時間、プレス圧などにより容易に調節できる。かかる粗度の調節は、原料スラリーに添加したバインダーに応じて、加圧時の温度を制御することによっても可能である。
【0058】
本発明においては、前記5層積層体をプレス機などにより加圧処理する。この際、セラミックグリーンシートの粗度は、前記第1粗化用シートおよび第2粗化用シートの粗度の他、加圧時間、プレス圧、加圧時温度などにより調節することができる。即ち、プレス圧が高いほど、また、加圧時間が長いほど、グリーンシートの粗度を高めることができる。例えば、プレス圧を1.9MPa以上、58.8MPa以下、合計加圧時間を0.1〜5秒間とすることができる。
【0059】
ここで、上述したように本発明の製造方法では、第1粗化用シートと第2粗化用シートを併用しているため、粗化能が向上しており、加圧処理をより短時間で行うことができる。そのため、本発明では、前記加圧処理におけるプレス圧が1.9MPa以上、合計加圧時間が0.1秒間以上であれば、未処理セラミックグリーンシートを十分に粗化することができる。また、プレス圧が58.8MPa以下、合計加圧時間が5秒間以下であればエネルギーや時間の無駄が少なく、加圧処理後に粗化用シートが剥離できないという問題が生じ難い。さらに、かかる範囲で加圧処理を行なえば、それぞれプレス圧または合計加圧時間に応じて得られるセラミックグリーンシートの粗度を調節し易くなるという利点もある。前記加圧処理は、プレス圧を2.94MPa以上、49.0MPa以下、合計加圧時間を0.2秒間以上、4秒間以下とすることがより好ましく、更に好ましくは、プレス圧を4.90MPa以上、29.4MPa以下、合計加圧時間を0.3秒間以上、3秒間以下である。
【0060】
また、加圧処理時の温度が高いほど未処理セラミックグリーンシートの柔軟性が増し、粗化用シートの粗化表面が転写され易くなる。しかし温度制御による粗度の調節は、温度の制御手段が必要となるだけでなく、温度を上げ過ぎると粗化用シートがグリーンシートに接着されて、加圧後にグリーンシートを粗化用シートから剥離し難くなるなど、制御が難しい場合がある。よって、加圧処理は常温で行なうことが好ましい。
【0061】
また同様に、加圧処理時の湿度が高いほど未処理セラミックグリーンシートの柔軟性が増し、粗化用シートの粗化表面が転写され易くなる。しかし、温度を上げ過ぎると粗化用シートがグリーンシートに接着されて、加圧後にグリーンシートを粗化用シートから剥離し難くなるなど、制御が難しい場合がある。よって、加圧処理は適当な湿度条件、例えば、45%RH〜60%RHで行うことが好ましい。
【0062】
上述した様に、加圧処理におけるプレス圧や合計加圧時間等を調節することにより、セラミックグリーンシートの粗度を容易に調節することができる。当該粗度は、Raで0.5μm以上、5μm以下が好適である。Raが0.5μm以上であれば、焼成後のセラミックシートと電極層との接合に十分に良好な密着性が発揮されると共に、5μm以下であれば最終的に得られるセラミックシートの強度も十分に担保できる。また、同様の理由から、Rzは2μm以上、20μm以下程度、Rmaxは3μm以上、30μm以下程度が好ましい。なお、ここでいうセラミックグリーンシートのRa等は、例えば図1に示す10箇所でレーザー光学式非接触三次元形状測定装置により粗度を測定し、10点のRa測定値等の合計を10で割った数とすることができる。
【0063】
上記のように、第1粗化用シートおよび第2粗化用シートを用いることで、グリーンシートを粗化することができる。しかし、各セラミックグリーンシート内における表面粗度の分布や、セラミックグリーンシート間における表面粗度の分布をより一層低減するためには、以下に示す(a)および/または(b)を実施することが好ましい。
(a) プレス台にシム(スペーサー)を介して平板を配置する。
(b) プレス台(または前記平板)と5層積層体との間に緩衝材シートを配置する。
なお、各セラミックグリーンシート内における表面粗度の分布抑制には、上記(a)シムと平板の配置が効果的である。また、セラミックグリーンシート間における表面粗度の分布抑制には、(b)緩衝材シートの配置が効果的である。
【0064】
上記シム(スペーサー)の材質としては、SUS、アルミ、銅などが好適であり、その厚さは0.01〜0.1mm、好ましくは0.02〜0.05mmであり、その寸法は平板の寸法の10%〜75%、好ましくは15〜50%である。前記平板は、セラミックグリーンシートの粗化を行える程度の強度を有するものであれば特に制限されない。例えば、その材質としては超硬タングステン、ステンレス鋼、ダイス鋼、ステライト、特殊鋼、超硬合金を挙げることができ、いずれも用いることができる。なお、シムおよび平板は、プレス台、平板およびシムの中心が一致するように配置することが好ましい。
【0065】
上記緩衝材シートとしては、前記第1粗化用シートに使用可能なものとして例示したもののうち、紙を材質とするもの、樹脂フィルムを材質とするものが好適に使用される。特に、適度な弾性率を有する材質が、連続粗化等でのグリーンシート破損防止に効果が有り好ましく、塩化ビニルフィルムやPETフィルムが例示される。
【0066】
これらシム、粗化用シート、緩衝材シートをプレス台(または前記平板)に配置等するための補助材料は、固定具、接着剤、両面テープ等、作業性に問題が無いものを選択できる。
【0067】
(5) 表面粗化セラミックグリーンシートの切断
表面粗化セラミックシートの量産においては、ロール状、長尺状、短冊状等の未処理セラミックグリーンシートを粗化した後、所望の大きさへ連続的に切断することが好ましい。
【0068】
セラミックグリーンシートの形状は特に制限されず、所望のものとすることができる。例えば、円形、楕円形、角形、R(アール)を持った角形など何れでもよく、これらのシート内に同様の円形、楕円形、角形、Rを持った角形などの穴を1つもしくは2つ以上有するものであってもよい。
【0069】
セラミックグリーンシートの切断手段は特に制限されず、カッターなどを用いて切断することができる。この際、波型刃を用いれば、切断面におけるバリの発生を抑制可能である。しかし、金型を用いて切断すれば、加圧処理による表面粗化装置と同一または類似の装置を用いることができ、グリーンシートの表面粗化と切断とを連続的に効率良く実施することが可能になる。
【0070】
(6) 焼成工程
上記加圧処理工程を経て表面が粗化されたセラミックグリーンシートは、焼成することによりセラミックシートとする。具体的な焼結の条件は特に制限されず、常法によればよい。例えば、表面粗化セラミックグリーンシートからバインダーや可塑剤等の有機成分を除去するために150〜600℃、好ましくは250〜500℃で5〜80時間程度処理する。次いで、1000〜1600℃、好ましくは1200〜1500℃で2〜10時間保持焼成することによって、セラミックシートを得る。
【0071】
上記で得られた表面粗化セラミックグリーンシートの焼成によって、セラミックシートの表面粗度は、一般的にグリーンシートの表面粗度に対して70〜90%となる。よって、所望の表面粗度を有するセラミックシートを得るには、同様のセラミックグリーンシートが得られる様に、上記加圧処理工程の条件を調節すればよい。なお、前記表面粗化セラミックグリーンシートを焼成することにより製造される表面粗化セラミックシートの粗度は、Raで0.4μm以上、4μm以下が好適である。
【0072】
(7) 固体酸化物形燃料電池の製造
本発明のセラミックシートは、その表面が適度に粗化されている。従って、本発明のセラミックシートを固体酸化物形燃料電池の電解質膜とした場合、電極との接触面積が大きいことから効率的な発電が可能になり、また、電極との密着性が高いことから長期にわたる安定的な発電が可能になる。
【0073】
本発明のセラミックシートを電解質膜として利用する場合には、一方の面に燃料極を形成し、他方の面に空気極をスクリーン印刷等で形成し燃料電池セルとする。ここで、燃料極、空気極の形成の順序は特に制限されないが、必要な焼成温度が低い電極を先に電解質上に製膜後焼成し、或いは燃料極と空気極を同時に焼成してもよい。また、電解質と空気極との固相反応による高抵抗成分が生成するのを防止するために、電解質と空気極との間にバリア層としての中間層を形成してもよい。この場合は、中間層を形成した面または形成すべき面とは逆の面上に燃料極を形成し、中間層の上に空気極を形成する。ここで、中間層と燃料極の形成の順序は特に制限されず、また、電解質膜の各面にそれぞれ中間層ペーストと燃料極ペーストを塗布乾燥した後に焼結することによって、中間層と燃料極を同時に形成してもよい。
【0074】
燃料極および空気極の材料、さらには中間層材料、また、これらを形成するためのペーストの塗布方法や乾燥条件、焼成条件などは、従来公知の方法に準じて実施できる。
【0075】
燃料極および空気極が形成された本発明に係る電解質膜、或いは燃料極および空気極と中間層が形成された本発明に係る電解質膜は、電解質と電極または中間層との接触面積が大きいことから耐久性と発電性能に極めて優れる。よって本発明方法は、性能に優れた固体酸化物形燃料電池の電解質膜として利用可能な表面粗化セラミックシートおよびその前駆体である表面粗化セラミックグリーンシートを製造できるものとして、燃料電池の実用化に寄与し得るものである。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0077】
1.表面粗化セラミックグリーンシートの製造
製造例1
6モル%スカンジウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「6ScSZ」、比表面積:11m2/g、平均粒子径:0.5μm)100質量部、トルエン/イソプロパノール混合溶媒(質量比:3/2)50質量部、および分散剤としてソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部との混合物をボールミルにより粉砕しつつ混合した。当該混合物へ、バインダーとしてメタアクリレート系共重合体(分子量:100,000、ガラス転位温度:−8℃、固形分濃度:50%)を固形分換算で15質量部と可塑剤としてジブチルフタレート3質量部を添加し、さらに混合してスラリーとした。
【0078】
得られたスラリーを、碇型の撹拌機を備えた内容積50Lのジャケット付丸底円筒型減圧脱泡容器へ移し、撹拌機を30rpmの速度で回転させながら、ジャケット温度40℃で減圧(約4〜21kPa)下に濃縮・脱泡し、粘度を3Pa・sに調整し、塗工用スラリーとした。この塗工用スラリーを塗工装置のスラリーダムに移し、ドクターブレード法によってPETフィルム上に塗工し、塗工部に続く乾燥機(50℃、80℃、110℃の3ゾーン)を0.2m/分の速度で通過させて乾燥することにより、巾95cmで、厚さ340μm、280μm、150μmの3種のシートを得、これらを正方形状(150mm×150mm)に打抜き、各1000枚の未処理グリーンシートを製造した。
【0079】
これらの未処理グリーンシートをそれぞれ第1粗化用シートで挟み3層積層体を形成し、該3層積層体を第2粗化用シートで挟み5層積層体を形成した。なお、第1粗化用シートには、正方形状(160mm×160mm)、厚さ300μmで、グリーンシートと接する面の粗度がRa4.4μmの特殊紙を用いた。第2粗化用シートには、正方形状(160mm×160mm)の#80サンドペーパー(Ra37μm)を用いた。
【0080】
前記5層積層体を圧縮成形機(神籐金属工業所製、型式「S−37.5」)のプレス台に載置して、加圧温度25℃、プレス圧32.4MPa、加圧時間2秒間の条件で、それぞれ1000枚ずつ粗化を行った。
【0081】
各厚さ(340μm、280μm、150μm)について、それぞれ粗化グリーンシートを任意に10枚選び出し、その表面と裏面の表面粗さを測定した。測定は、レーザー光学式非接触三次元形状測定装置(UBM社製、マイクロフォーカスエキスパート、型式「UBC−14システム」)を用いて、図1に示す10箇所を測定区間4mmでスキャンし、各箇所におけるRa(算術的粗さ平均値)を測定した。なお、図1中、(a)と(b)ではそれぞれ対角線の交点を上下と左右に直角に測定し、(c)〜(f)では対角線上で交点から40mmの位置から測定し、(g)〜(j)では粗化面各辺の中央部からそれぞれ5mm内側の位置で測定した。各面での測定値から最大値、平均値、最小値、標準偏差を算出した。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
上記結果のとおり、第1粗化用シートと第2粗化用シートを併用することにより、短時間(2秒)で、目的とする表面粗さを有する表面粗化グリーンシートが得られることが実証された。
【0084】
製造例2
第2粗化用シートとして正方形状(160mm×160mm)、厚さ300μmで、グリーンシートと接する面の粗度がRa7μmの特殊紙を用い、加圧時間を5秒間に変更したこと以外は、製造例1と同様にして表面粗化グリーンシートを作製した。また、製造例1と同様に、各厚さ(340μm、280μm、150μm)について、それぞれ粗化グリーンシートを任意に10枚選び出し、その表面と裏面の表面粗さを測定した。結果を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
上記結果のとおり、第2粗化用シートの粗度を変更することにより、製造例1よりも表面粗化グリーンシートの表面粗さを小さくできた。
【0087】
製造例3
製造例1と同様にして、巾95cmで、厚さ280μmのシートを得、これを正方形状(150mm×150mm)に打抜き、未処理グリーンシートを製造した。
この未処理グリーンシートをそれぞれ第1粗化用シートで挟み3層積層体を形成し、該3層積層体を第2粗化用シートで挟み5層積層体を形成した。なお、第1粗化用シートには、正方形状(160mm×160mm)、厚さ300μmで、グリーンシートと接する面の粗度がRa7.0μmの特殊紙を用いた。
【0088】
第2粗化用シートには、正方形状(160mm×160mm)で粗さの異なるサンドペーパーを7種用いた。各サンドペーパーの粗さは、#40(Ra50μm)、#80(Ra37μm)、#120(Ra29μm)、#150(Ra25μm)、#180(Ra22μm)、#240(Ra16μm)、#400(Ra6μm)であった。
【0089】
前記5層積層体を圧縮成形機(神籐金属工業所製、型式「S−37.5」)のプレス台に載置して、加圧温度25℃、プレス圧32.4MPa、加圧時間4秒間の条件で、それぞれ1000枚ずつ粗化を行った。
【0090】
各第2粗化用シートを用いて粗化した表面粗化グリーンシートから任意に3枚選び出し、製造例1と同様にして、その表面と裏面の表面粗さを測定した。結果を表3、表4に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
【表4】

【0093】
上記結果のとおり、同じ第1粗化用シートを用いた場合でも、第2粗化用シートに表面粗さの異なるシート(Ra6〜50μm)を用いることにより、得られる表面粗化グリーンシートの表面粗さを調整できることがわかる。また、第2粗化用シートが#40〜240sサンドペーパー(Ra16〜50μm)の場合、すなわち、第1粗化用シート(Ra7.0μm)よりも第2粗化用シートの表面粗度が大きい場合、より粗化能が高くなっている。
【0094】
製造例4
製造例1と同様にして、巾95cmで、厚さ280μmのシートを得、これを正方形状(150mm×150mm)に打抜き、未処理グリーンシートを製造した。この未処理グリーンシートをそれぞれ第1粗化用シートで挟み3層積層体を形成した。なお、第1粗化用シートには、正方形状(160mm×160mm)、厚さ300μmで、グリーンシートと接する面の粗度がRa7.0μmの特殊紙を用いた。
【0095】
前記3層積層体を圧縮成形機(神籐金属工業所製、型式「S−37.5」)のプレス台に載置して、加圧温度25℃、プレス圧32.4MPa、加圧時間5秒間および60秒間の条件で、それぞれ1000枚ずつ粗化を行った。各加圧時間で粗化した表面粗化グリーンシートから任意に10枚選び出し、製造例1と同様にして、その表面と裏面の表面粗さを測定した。結果を表5に示す。
【0096】
【表5】

【0097】
上記結果のとおり、第2粗化用シートを使用しない場合は、加圧処理時間が60秒間であれば、グリーンシートのRaは1.2μmであり、十分に粗化ができている。しかし、第2粗化用シートを使用しない場合には、加圧処理時間を5秒間と短くした場合、グリーンシートのRaは0.4μmであり、粗化が不十分であった。
【0098】
2.表面粗化セラミックシートの製造
前記製造例1〜3で得た各条件で表面粗化された表面粗化グリーンシートを、空気雰囲気下、1400℃で3時間焼成して表面粗化セラミックシートを得た。各粗化条件を経て製造された表面粗化グリーンシート群から、それぞれ任意に10枚ずつ選び出し、前記製造例1と同様にして、その表面と裏面の表面粗さを測定し平均値を求めた。結果を表6に示す。
【0099】
【表6】

【0100】
上記結果のとおり、本発明の製造方法により得られたRaが0.5μm以上、5μm以下の表面粗化セラミックグリーンシートを焼成することによって、Raが0.4μm以上、4μm以下に調整された表面粗化セラミックシートが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が粗化されたセラミックグリーンシートを製造する方法であって、
未処理セラミックグリーンシートを第1粗化用シートで挟み3層積層体を形成し、該3層積層体を第2粗化用シートで挟み5層積層体を形成する工程;および、
前記5層積層体を加圧処理する工程;を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記加圧処理における合計加圧時間を、0.1秒以上、5秒以下とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第2粗化用シートとして、そのRaが5μm以上、500μm以下のものを用いる請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記加圧処理におけるプレス圧を1.9MPa以上、58.8MPa以下とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1粗化用シートとして、そのRaが3μm以上、30μm以下のものを用いる請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法で製造されるものであり、Raが0.5μm以上、5μm以下であることを特徴とする表面粗化セラミックグリーンシート。
【請求項7】
請求項6に記載の表面粗化セラミックグリーンシートを焼成することにより製造されるものであり、Raが0.4μm以上、4μm以下であることを特徴とする表面粗化セラミックシート。
【請求項8】
請求項7に記載の表面粗化セラミックシートを電解質膜として有することを特徴とする固体酸化物形燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−46127(P2011−46127A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197352(P2009−197352)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】