説明

表面被覆材、並びにこの表面被覆材を用いたヒータ及び過熱蒸気発生装置、並びにこの過熱蒸気発生装置を用いた加熱処理装置

【課題】短期間で容易に施工することが可能であり、十分な耐熱性向上効果を得ることができ、熱膨張係数の違いによる亀裂の発生が生じない表面被覆材と、この表面被覆材を用いたヒータ及び過熱蒸気発生装置、並びにこの過熱蒸気発生装置を用いた加熱処理装置を提供すること。
【解決手段】高温環境下で使用される物体表面を被覆する表面被覆材であって、多数のセラミック製ボールの隙間に、該セラミック製ボールと被覆対象物並びに該セラミック製ボール同士を接着可能である耐熱性セラミック接着剤を充填してなることを特徴とする表面被覆材とし、この表面被覆材をヒータ及び過熱蒸気発生装置、並びに加熱処理装置に適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下で使用される物体表面を被覆する表面被覆材、並びにこの表面被覆材を用いたヒータ及び過熱蒸気発生装置、並びにこの過熱蒸気発生装置を用いた加熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼却炉などの高温環境下に晒される設備においては、熱による損傷を防ぐために壁材がセラミックにより形成されているものが多く存在している。
しかしながら、壁材全体をセラミックで製造しようとすると、大型の焼成炉を使用しての高温での焼成処理が必要であるため、大掛かりな設備を必要とし、製造に長期間を要し、製造コストも高くなるという問題があった。
【0003】
一方、金属製の炉壁の表面にセラミック粉末を溶射してセラミック皮膜を形成する方法も知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
この方法によれば、壁材全体をセラミックで製造する場合に比べると、期間やコストの点で有利である。
しかしながら、この方法は、高温での溶射作業を必要とするため施工が容易ではなく、また厚い皮膜を形成することは困難であるため、十分な耐熱性向上効果が得られない場合があった。また、セラミックと金属との熱膨張係数の違いから、使用に伴って亀裂が生じるおそれがあった。
【0004】
また、従来、金属製の発熱体を備えたヒータや過熱蒸気発生装置においては、発熱体が高温になると空気中の酸素と反応して高温酸化することにより、破損が生じ易くなるという問題があった。
【0005】
また、近年、金や白金等のレアメタルの価格が急上昇しており、使用済のレアメタルの回収が盛んに行われている。
しかしながら、従来の方法では、レアメタルを含んだ被処理物を外部からヒータ等で加熱していたため、熱効率が悪く、回収効率も低かった。また、加熱により発生する酸性ガスによってヒータが損傷してしまうという問題があった。
また、従来、廃油・廃プラスチックの熱分解処理においても、熱効率やヒータの損傷等について同様の問題があり、医療系廃棄物の処理においては、使用済注射器等を確実に滅菌処理できる簡易な装置はなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−349675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記したような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、短期間で容易に施工することが可能であり、十分な耐熱性向上効果を得ることができ、熱膨張係数の違いによる亀裂の発生が生じない表面被覆材、この表面被覆材を用いることにより高温酸化による破損を防ぐことができるヒータ及び過熱蒸気発生装置、この過熱蒸気発生装置を用いることにより熱効率に優れ酸性ガスによるヒータの損傷を防止できる加熱処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、高温環境下で使用される物体表面を被覆する表面被覆材であって、多数のセラミック製ボールの隙間に、該セラミック製ボールと被覆対象物並びに該セラミック製ボール同士を接着可能である耐熱性セラミック接着剤を充填してなることを特徴とする表面被覆材に関する。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記耐熱性セラミック接着剤の熱膨張係数が8×10−6〜17×10−6であることを特徴とする請求項1記載の表面被覆材に関する。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記耐熱性セラミック接着剤が、耐熱温度1200℃以上であり且つ耐食性を有することを特徴とする請求項1又は2記載の表面被覆材に関する。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記セラミック製ボールの直径が0.3〜5.0mmであることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の表面被覆材に関する。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記セラミック製ボールと前記耐熱性セラミック接着剤の体積比が2:1〜3:1であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の表面被覆材に関する。
【0013】
請求項6に係る発明は、導電性材料からなる発熱体と、該発熱体に通電するための電流を供給する電源とからなり、前記発熱体の表面の全部又は一部が、請求項1乃至5いずれかに記載の表面被覆材により被覆されていることを特徴とするヒータに関する。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項6記載のヒータを備えた過熱蒸気発生装置であって、前記発熱体がパイプからなり、該パイプの内部に飽和蒸気を流通させて過熱蒸気として取り出すことを特徴とする過熱蒸気発生装置に関する。
【0015】
請求項8に係る発明は、前記電源から前記発熱体に電流を供給する電線を冷却するための冷却器を備えており、前記冷却器にて使用された後の冷却水を、前記飽和蒸気を発生させるボイラへの供給水として使用することを特徴とする請求項7記載の過熱蒸気発生装置に関する。
【0016】
請求項9に係る発明は、加熱処理される被処理物を収容する容器と、前記被処理物を加熱する加熱装置とを備えており、前記加熱装置が、請求項7又は8記載の過熱蒸気発生装置により発生した過熱蒸気を使用して前記被処理物を加熱することを特徴とする加熱処理装置に関する。
【0017】
請求項10に係る発明は、前記容器と前記過熱蒸気発生装置のヒータが隔壁により隔てられた別の空間に収容されており、前記過熱蒸気発生装置により発生した過熱蒸気は、パイプを通って前記容器に収容された被処理物に直接吹き付けられることを特徴とする請求項9記載の加熱処理装置に関する。
【0018】
請求項11に係る発明は、前記被処理物がレアメタルを含んだものであり、該被処理物からレアメタルを回収することを特徴とする請求項9又は10記載の加熱処理装置に関する。
【0019】
請求項12に係る発明は、前記被処理物が医療系廃棄物であることを特徴とする請求項9又は10記載の加熱処理装置に関する。
【0020】
請求項13に係る発明は、前記被処理物が廃油であることを特徴とする請求項9又は10記載の加熱処理装置に関する。
【0021】
請求項14に係る発明は、前記被処理物が廃プラスチックであることを特徴とする請求項9又は10記載の加熱処理装置に関する。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明によれば、多数のセラミック製ボールの隙間に、該セラミック製ボールと被覆対象物並びに該セラミック製ボール同士を接着可能である耐熱性セラミック接着剤を充填してなる表面被覆材であるから、被覆対象物に対して塗布・接着することにより短期間で容易に施工することが可能である。また、セラミック材料からなるために耐熱性・絶縁性・耐食性に優れており、被覆対象物の耐熱性・絶縁性・耐食性を向上させることができる。更に、金属等の被覆対象物が加熱により膨張した時に、セラミック製ボールが転動することにより、被覆対象物からの表面被覆材の剥離や亀裂の発生を防ぐことができる。
【0023】
請求項2に係る発明によれば、耐熱性セラミック接着剤の熱膨張係数が8×10−6〜17×10−6であることによって、炭素鋼やステンレス等からなる被覆対象物との熱膨張係数の差が小さくなり、加熱時における被覆対象物からの表面被覆材の剥離や亀裂の発生をより確実に防ぐことができる。
【0024】
請求項3に係る発明によれば、耐熱性セラミック接着剤が、耐熱温度1200℃以上であり且つ耐食性を有することにより、被覆対象物の耐熱性を大きく向上させることができ、高い耐熱性及び耐食性を要求される加熱炉内壁などの表面被覆材として好適に使用することが可能である。
【0025】
請求項4に係る発明によれば、セラミック製ボールの直径が0.3〜5.0mmであることにより、セラミック製ボールの転動作用を発揮させながら、被覆対象物の表面に塗布した時に平滑な表面を得ることができる。
【0026】
請求項5に係る発明によれば、セラミック製ボールと耐熱性セラミック接着剤の体積比が2:1〜3:1であることにより、優れた施工性と表面被覆材の破損防止効果とを両立させることができる。
【0027】
請求項6に係る発明によれば、導電性材料からなる発熱体と、発熱体に通電するための電流を供給する電源とからなり、発熱体の表面の全部又は一部が、請求項1乃至5いずれかに記載の表面被覆材により被覆されているヒータであるから、発熱体の伸縮に表面被覆材が追従して変形することが可能となり、セラミックの損傷が生じにくいセラミックヒータが得られる。
【0028】
請求項7に係る発明によれば、請求項6記載のヒータを備えた過熱蒸気発生装置であって、発熱体がパイプからなり、該パイプの内部に飽和蒸気を流通させて過熱蒸気として取り出す過熱蒸気発生装置であるから、短時間で効率良く過熱蒸気を発生させることが可能であるとともに、表面被覆材によって発熱体であるパイプの高温酸化を防ぐことができる。また、装置を小型化することが容易であり、様々な場所で簡単に使用することが可能な汎用性の高い装置とすることができる。
【0029】
請求項8に係る発明によれば、電源から発熱体に電流を供給する電線を冷却するための冷却器を備えており、冷却器にて使用された後の冷却水を、飽和蒸気を発生させるボイラへの供給水として使用することから、ボイラの熱効率を向上させることができる。
【0030】
請求項9に係る発明によれば、加熱処理される被処理物を収容する容器と、被処理物を加熱する加熱装置とを備えており、加熱装置が、請求項7記載の過熱蒸気発生装置により発生した過熱蒸気を使用して被処理物を加熱する加熱処理装置であるから、被処理物を過熱蒸気により効率良く加熱することができる。
【0031】
請求項10に係る発明によれば、容器と過熱蒸気発生装置が隔壁により隔てられた別の空間に収容されており、過熱蒸気発生装置により発生した過熱蒸気は、パイプを通って容器に収容された被処理物に直接吹き付けられることにより、加熱により発生する酸性ガスによってヒータが損傷してしまうことを防ぐことができるとともに、被処理物を過熱蒸気で効率良く加熱することが可能である。
【0032】
請求項11に係る発明によれば、レアメタルを含んだ被処理物を過熱蒸気で効率良く加熱することが可能であり、短時間で且つ高い回収率でレアメタルを回収することができる。
【0033】
請求項12に係る発明によれば、使用済注射器等の医療系廃棄物を、高温の過熱蒸気により確実に且つ簡単に滅菌処理することができる。
【0034】
請求項13に係る発明によれば、廃油を熱分解して燃料油を効率良く回収することができる。
【0035】
請求項14に係る発明によれば、廃プラスチックを熱分解して燃料油を効率良く回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明に係る表面被覆材、並びにこの表面被覆材を用いたヒータ及び過熱蒸気発生装置、並びにこの過熱蒸気発生装置を用いた加熱処理装置の好適な実施形態について、図面を適宜参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る表面被覆材を用いた過熱蒸気発生装置を示す断面図である。
本発明に係る過熱蒸気発生装置(10)は、導電性材料からなる発熱体(1)と、発熱体(1)に通電するための電流を供給する電源(図示せず)とからなるとともに、発熱体(1)の表面の全部又は一部(図示例では全部)が表面被覆材(2)により被覆されているヒータ(3)により、飽和蒸気を過熱して過熱蒸気を発生させるものである。
【0037】
発熱体(1)は、図示例ではU字状に屈曲されたパイプから構成されており、インコネル、ハロステロイ、SUS310S、炭素繊維、黒鉛等の高耐熱性の導電性材料から形成されている。尚、発熱体(1)を構成するパイプは直線状であってもよいし、複数本使用してもよい。
発熱体(1)の一端部及び他端部には、それぞれフランジ部材(4)、パッキン(5)、接続部材(6)を介して、飽和蒸気供給管(7)及び過熱蒸気出口管(8)が接続されている。
【0038】
フランジ部材(4)は発熱体(1)に外嵌されており、その一面側がヒータ(3)に固定され、他面側には高温用の銅製パッキン(5)を介して筒状のセラミック製の接続部材(6)が外嵌固定されている。
接続部材(6)は、発熱体(1)と飽和蒸気供給管(7)及び過熱蒸気出口管(8)とを絶縁する為に設けられており、2つの孔を有するプレート状の金属製保持部材(9)の孔部分に保持固定されている。
【0039】
発熱体(1)の両端部には、それぞれ電力供給用の電線(11)を介して電源(図示せず)のプラス端子(12a)とマイナス端子(12b)が接続されており、これら2つの端子を介して電源から発熱体(1)に電流が印加される。
電線(11)は、保持部材(9)の外縁近傍位置に設けられた小孔を貫通して取り出されており、小孔には電線(11)と保持部材(9)とを絶縁するための筒状の絶縁材(13)が嵌合されている。
【0040】
電線(11)には、保持部材(9)と端子(12a)(12b)との中間位置に、電線の過熱を防止するための小型ジャケット式冷却器(14)が取り付けられている。
冷却水入口(15)から冷却器(14)に供給された冷却水は、電線(11)を冷却することにより加熱された後、冷却水出口(16)から取り出されて、飽和蒸気供給管(7)へと供給される飽和蒸気を発生するボイラ(図示せず)への供給水として使用される。これにより、ボイラの熱効率を向上させることができる。尚、冷却水ラインには、電気的被害(感電)を防止するためにアース(17)が施されている。
【0041】
図2は図1のヒータ部分の断面図であり、(a)は図1のA−A線断面図、(b)は(a)の部分拡大図である。
図示の如く、パイプからなる発熱体(1)の表面は、表面被覆材(2)により被覆されている。
表面被覆材(2)は、多数のセラミック製ボール(2a)の隙間に、セラミック製ボール(2a)と発熱体(被覆対象物)(1)並びにセラミック製ボール同士を接着可能である耐熱性セラミック接着剤(2b)を充填したものである。
【0042】
セラミック製ボール(2a)は、アルミナ、シリカ、ジルコニア等を主成分とする直径0.3〜5.0mm程度の球であり、多数のセラミック製ボール(2a)が耐熱性セラミック接着剤(2b)により互いに接着されて直方体状に成形されている。
セラミック製ボール(2a)は同じ直径のもののみを使用してもよいし、異なる直径のものを混合して使用してもよい。異なる直径のものを混合して使用すると、被覆対象物の変形に対する追従性が向上するため好ましい。
【0043】
耐熱性セラミック接着剤(2b)は、アルミナ、シリカ、ジルコニア等のセラミックを主成分とするペースト状の接着剤である。
耐熱性セラミック接着剤(2b)としては、熱膨張係数(線膨張率)8×10−6〜17×10−6、耐熱温度1200℃以上、接着強度200kgf/cm以上、曲げ強さ450kgf/cm以上であって、耐食性に優れているという特性を有するものを使用することが好ましい。
このような特性を有するものとしては、東亞合成株式会社製のアロンセラミックC及びアロンセラミックD(いずれも商品名)を例示することができる。但し、同様の特性を有するものであれば、他の接着剤を使用してもよいことは言うまでも無い。
尚、アロンセラミックCは、シリカを主成分とし、白色一液ペースト状、粘度70,000cps、密度1.9、pH12という物性を有する。アロンセラミックDは、アルミナを主成分とし、白色一液ペースト状、粘度50,000cps、密度2.3、pH12という物性を有する。
【0044】
耐熱性セラミック接着剤(2b)の熱膨張係数が8×10−6〜17×10−6であると、炭素鋼やステンレス等の金属の熱膨張係数と同等となるため、発熱体(被覆対象物)が金属である場合に、発熱体と耐熱性セラミック接着剤との熱膨張係数の差が小さくなり、発熱体が熱膨張した時に表面被覆材の剥離や亀裂が生じることを確実に防止できるようになる。
【0045】
耐熱性セラミック接着剤(2b)の耐熱温度が1200℃以上であると、発熱体(被覆対象物)の耐熱性を大きく向上させることができ、高い耐熱性を要求される加熱炉内壁などの表面被覆材として好適に使用することが可能となる。
【0046】
また、耐熱性セラミック接着剤(2b)は、90〜150℃程度の温度による1〜2時間程度の加熱により硬化するものであることが好ましい。
この程度の低温で且つ短時間で硬化することができれば、施工性に優れるためである。
上述したアロンセラミックC及びアロンセラミックDは、塗布後、室温で16時間以上放置し、約90℃で1時間加熱脱水し、150℃で1時間以上加熱硬化させた後、自然放冷することにより使用することができる。
【0047】
表面被覆材(2)におけるセラミック製ボール(2a)と耐熱性セラミック接着剤(2b)の体積比は特に限定はされないが、2:1〜3:1の範囲、好ましくは2:1程度に設定することが好ましい。
セラミック製ボール(2a)の割合が少なすぎると、耐熱性セラミック接着剤の硬化に時間がかかるために施工性が低下し、逆に多すぎると、被覆対象物が熱膨張した時に追従して変形することができずに表面被覆材の剥離や亀裂が生じるおそれがある。
【0048】
本明細書及び図面では、上述した本発明に係る表面被覆材(2)の代表的な適用例として、セラミックヒータ、過熱蒸気発生装置、加熱処理装置への適用例を示している。
しかし、本発明に係る表面被覆材(2)の用途はこれらに限定されるものではなく、高温環境下で使用される物体表面を被覆する被覆材として、他の多種多様な用途に適用可能である。
例えば、ロータリーキルンの内面処理、耐酸性を要求される熱分解装置の内面処理、焼却炉の内面処理などに適用することができる。
【0049】
以下、本発明に係る過熱蒸気発生装置の作用について説明する。
先ず、電源(図示せず)から電線(11)を介して発熱体(1)に電流を印加することにより、発熱体(1)を約950℃まで加熱する。この発熱体の昇温は、非常に短時間で達成できる。
次いで、加熱された発熱体(1)の内部に、ボイラ(図示せず)にて発生した飽和蒸気を、飽和蒸気供給管(7)を通して供給する。
すると、飽和蒸気は、発熱体(1)の内部を通過する間に過熱され、約800〜850℃の過熱蒸気となって過熱蒸気出口管(8)から取り出される。
尚、発熱体(1)の加熱温度は、所望する過熱蒸気の温度に応じて適宜変更することができる。
【0050】
このように、本発明に係る過熱蒸気発生装置によれば、ボイラより供給された飽和蒸気を、約950℃まで加熱された発熱体(1)の内部を流通させることにより、短時間で約800〜850℃の過熱蒸気を得ることができる。また、装置を小型化することも容易である。
また、発熱体(1)の表面が、上述した表面被覆材(2)により被覆されていることによって、発熱体(1)であるパイプの高温酸化を防ぐことができるとともに、発熱体(1)の伸縮に対して表面被覆材(2)が追従変形することが可能であるため、表面被覆材(2)の発熱体(1)表面からの剥離や亀裂発生を防ぐことができる。
【0051】
また、過熱蒸気発生装置の一部を構成しているヒータ(本発明に係るヒータ)は、表面被覆材を構成するセラミックの遠赤外線放射によって周囲を加熱することができるセラミックヒータであって、短時間で効率良く加熱することが可能であり、セラミックの損傷が生じにくいものとなる。
【0052】
図3は、本発明に係る過熱蒸気発生装置を用いた加熱処理装置を示す図である。
加熱処理装置(30)は、加熱処理される被処理物(18)を収容する容器(19)と、容器(19)内の被処理物(18)を加熱する加熱装置とを備えており、この加熱装置として上述した過熱蒸気発生装置を利用したものである。
本発明に係る加熱処理装置としては、レアメタル回収装置、医療系廃棄物処理装置、廃油処理装置、廃プラスチック処理装置などが例示できるが、これらに限定はされない。
【0053】
図3に示されている過熱蒸気発生装置は、図1に示した装置と比較して若干の形状・配置の変更(例えば、発熱体は、図1ではU字状であるが、図3では直線状である)や細部の図示の省略(フランジ部材等)があるが、基本構成は図1に示した装置と同じであり、図1と図3とで同じ符号を付しているものは、同一又は対応する構成要素である。
【0054】
過熱蒸気発生装置は、商用電源(図示せず)から電源トランス(21)及び電線(11)を介して発熱体(1)に電流を印加することにより、発熱体(1)を約950℃まで加熱する。
次いで、加熱された発熱体(1)の内部に、ボイラ(22)にて発生した飽和蒸気を、飽和蒸気供給管(7)を通して供給する。
すると、飽和蒸気は、発熱体(1)の内部を通過する間に過熱され、約800〜850℃の過熱蒸気となって過熱蒸気出口管(8)から取り出される。
【0055】
容器(19)と過熱蒸気発生装置とは、上下に隣接して隔壁(23)により隔てられた別々の空間(24)(25)に配置されている。
これにより、レアメタル、医療系廃棄物、廃油、廃プラスチック等の被処理物を収容する容器(19)を加熱した時に被処理物から酸性ガスが発生した場合でも、酸性ガスにより過熱蒸気発生装置のヒータ(2)が損傷してしまうことを防ぐことができる。
【0056】
容器(19)を収容する上部空間(24)は、上部に熱分解ガス出口(26)を有し、その他の部分は密閉された空間である。
容器(19)は、この上部空間(24)の下方位置に配置され、容器(19)の加熱によって被処理物から発生する熱分解ガスは熱分解ガス出口(26)から排出される。
熱分解ガス出口(26)の周囲には、第2の小型ジャケット式冷却器(27)が取り付けられており、冷却器(27)を流れる冷却水により熱分解ガス出口(26)を冷却することができる。
【0057】
ここで、冷却水の流れについて説明する。
冷却水は、水道(図示せず)から供給されて純水装置(28)により純水に変質された後、ポンプ(29)の駆動により冷却水入口(15)から小型ジャケット式冷却器(14)に供給されることにより、電線(11)を冷却する。
電線(11)を冷却した冷却水は、その後、第2の小型ジャケット式冷却器(27)へと供給されることにより、熱分解ガス出口(26)を冷却する。
電線(11)及び熱分解ガス出口(26)を冷却した後の冷却水は、飽和蒸気供給管(7)へと供給される飽和蒸気を発生するボイラ(22)への供給水として使用される。電線(11)及び熱分解ガス出口(26)を冷却した後の冷却水は、熱交換により温度が高くなっているため、これをボイラ(22)に供給することにより、ボイラの熱効率を向上させることができる。尚、図中(22a)はボイラ(22)のフロートスイッチであり、(21a)は電源トランス(21)へと供給される電力を制御する制御盤である。
【0058】
過熱蒸気発生装置のヒータ(3)を収容する下部空間(25)は、上部空間(24)の下方に隣接しており、ヒータは下部空間(25)の上方位置に配置される。これにより、ヒータを構成する表面被覆材(2)のセラミックの発熱を、隔壁(23)を介して容器(19)へと伝達することができる。
また、ヒータを通過して過熱蒸気出口管(8)から取り出された約800〜850℃の過熱蒸気は、そのまま過熱蒸気出口管(パイプ)(8)を通って下部空間(25)から取り出された後、上部空間(24)へと導入されて容器(19)に収容された被処理物に対して直接吹き付けられる。
これにより、被処理物を、熱容量の大きい過熱蒸気(乾燥熱風の約4倍の熱量)により内部から効率良く加熱することが可能である。
【0059】
このように、容器(19)に収容された被処理物が下部からヒータ(3)の熱により加熱され、同時に過熱蒸気の吹き付けにより直接加熱されることにより、被処理物中に含まれる汚泥や高分子油等は短時間で熱分解・乾留して熱分解ガス出口(26)から排出され、容器(19)に残ったレアメタル等を効率良く回収することができる。
尚、被処理物が、廃油や廃プラスチックである場合には、熱分解ガス出口(26)から排出された熱分解ガスから燃料油を回収することができる。また、被処理物が、医療系廃棄物(医療系特別管理廃棄物)である場合には、医療系廃棄物を確実に滅菌処理することができる。
【0060】
尚、空間(24)(25)は、隔壁(23)を介して左右に隣接するように配置してもよい。この場合、容器(19)とヒータとは隔壁(23)を挟んだ熱伝達が可能なように、隔壁(23)を挟んで近い位置に配置することが好ましい。
【0061】
図4は、本発明に係る過熱蒸気発生装置の応用例を示す概略図である。
これらは、ボイラと過熱蒸気発生装置とを1つのケーシング内に収容したものであり、図4(a)はボイラ(22)と過熱蒸気発生装置(10)とを別体の状態で1つのケーシング内に収容した過熱蒸気発生装置であり、図4(b)はボイラと過熱蒸気発生装置とを一体化して蒸気発生機能を含む過熱蒸気発生装置(10a)として1つのケーシング内に収容した過熱蒸気発生装置である。
尚、図中の(32)は水道水入口、(33)は蒸気調整装置、(34)(35)はトランスである。
図4に示す過熱蒸気発生装置は、ボイラと過熱蒸気発生装置とを1つのケーシング内に収容しているので、使い勝手が良く、様々な場所で簡易に使用できる、汎用性に優れた過熱蒸気発生装置となる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明に係る加熱処理装置の実施例及び比較例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例により何ら限定されない。
(実施例)
図3に示す加熱処理装置を使用し、容積30Lの容器内に、25L(約15kg)のレアメタルを含んだ汚泥(被処理物)を収容した。
発熱体としては、インコネル600製のシームレスパイプ(外径17.1mmの10A、長さ5.2m)をコイル状に加工したものを使用した。
表面被覆材としては、アルミナを主体とした多数のセラミック製ボール(直径0.3〜5.0mmの異なる径のものをランダムに混合したもの)とアロンセラミックC(東亞合成株式会社製)とを2:1の割合としたものを使用した。
電源トランスは10kWのものを使用し、発熱体に10V・500Aの電流を印加したところ、発熱体の温度は約25分で900℃まで上昇し、45分後に800℃の過熱蒸気を過熱蒸気出口管から取り出すことができた。取り出した過熱蒸気は、図3に示すように容器に収容された被処理物へと直接吹き付けられた。
2時間処理を継続した後、処理を終了して装置内部を確認した。
容器に収容されていた被処理物に含まれる汚泥は全て熱分解・乾留され、容器内には乾燥した炭化物に近い状態の残渣が残っていた。
容器内の残留物を分析した結果、レアメタルの回収率は95%であった。
【0063】
(比較例)
実施例と同じ容器内に同じ汚泥(被処理物)を同じ量収容した後、この容器を加熱炉内に投入して灯油バーナで加熱して約8時間加熱した。
容器内の残留物を分析した結果、レアメタルの回収率は86%であった。
【0064】
(考察)
上記結果から明らかなように、実施例(本発明に係る加熱処理装置)を使用した場合は、比較例(従来の装置)を使用した場合に比べて、レアメタルの回収率は110.5%と向上し、処理時間は約1/4に大幅に短縮された。更に、COの排出量は0であるため、耐環境性の観点でも非常に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る表面被覆材は、ロータリーキルンの内面処理、耐酸性を要求される熱分解装置の内面処理、焼却炉の内面処理等に利用可能であり、本発明に係る過熱蒸気発生装置は、医療系廃棄物処理、廃プラスチック処理、廃油処理(特に船舶系廃油の船内処理)、産業汚泥処理、食品加熱処理、衣料クリーニング、清掃作業等に利用可能であり、本発明に係る加熱処理装置は、レアメタルの回収、廃油・廃プラスチック、医療系廃棄物の処理のために利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る表面被覆材を用いた過熱蒸気発生装置を示す断面図である。
【図2】図1のヒータ部分の断面図であり、(a)は図1のA−A線断面図、(b)は(a)の部分拡大図である。
【図3】本発明に係る過熱蒸気発生装置を用いた加熱処理装置を示す図である。
【図4】本発明に係る過熱蒸気発生装置の応用例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0067】
1 発熱体
2 表面被覆材
2a セラミック製ボール
2b 耐熱性セラミック接着剤
3 ヒータ
8 過熱蒸気出口管(パイプ)
10 過熱蒸気発生装置
11 電線
14 冷却器
19 容器
21 電源トランス
23 隔壁
24 空間(上部空間)
25 空間(下部空間)
30 加熱処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温環境下で使用される物体表面を被覆する表面被覆材であって、
多数のセラミック製ボールの隙間に、該セラミック製ボールと被覆対象物並びに該セラミック製ボール同士を接着可能である耐熱性セラミック接着剤を充填してなることを特徴とする表面被覆材。
【請求項2】
前記耐熱性セラミック接着剤の熱膨張係数が8×10−6〜17×10−6であることを特徴とする請求項1記載の表面被覆材。
【請求項3】
前記耐熱性セラミック接着剤が、耐熱温度1200℃以上であり且つ耐食性を有することを特徴とする請求項1又は2記載の表面被覆材。
【請求項4】
前記セラミック製ボールの直径が0.3〜5.0mmであることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の表面被覆材。
【請求項5】
前記セラミック製ボールと前記耐熱性セラミック接着剤の体積比が2:1〜3:1であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の表面被覆材。
【請求項6】
導電性材料からなる発熱体と、
該発熱体に通電するための電流を供給する電源とからなり、
前記発熱体の表面の全部又は一部が、請求項1乃至5いずれかに記載の表面被覆材により被覆されていることを特徴とするヒータ。
【請求項7】
請求項6記載のヒータを備えた過熱蒸気発生装置であって、
前記発熱体がパイプからなり、該パイプの内部に飽和蒸気を流通させて過熱蒸気として取り出すことを特徴とする過熱蒸気発生装置。
【請求項8】
前記電源から前記発熱体に電流を供給する電線を冷却するための冷却器を備えており、
前記冷却器にて使用された後の冷却水を、前記飽和蒸気を発生させるボイラへの供給水として使用することを特徴とする請求項7記載の過熱蒸気発生装置。
【請求項9】
加熱処理される被処理物を収容する容器と、
前記被処理物を加熱する加熱装置とを備えており、
前記加熱装置が、請求項7又は8記載の過熱蒸気発生装置により発生した過熱蒸気を使用して前記被処理物を加熱することを特徴とする加熱処理装置。
【請求項10】
前記容器と前記過熱蒸気発生装置のヒータが隔壁により隔てられた別の空間に収容されており、
前記過熱蒸気発生装置により発生した過熱蒸気は、パイプを通って前記容器に収容された被処理物に直接吹き付けられることを特徴とする請求項9記載の加熱処理装置。
【請求項11】
前記被処理物がレアメタルを含んだものであり、該被処理物からレアメタルを回収することを特徴とする請求項9又は10記載の加熱処理装置。
【請求項12】
前記被処理物が医療系廃棄物であることを特徴とする請求項9又は10記載の加熱処理装置。
【請求項13】
前記被処理物が廃油であることを特徴とする請求項9又は10記載の加熱処理装置。
【請求項14】
前記被処理物が廃プラスチックであることを特徴とする請求項9又は10記載の加熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−266669(P2009−266669A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115771(P2008−115771)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(597120972)オリエントコンピュータ株式会社 (56)
【出願人】(503251868)株式会社エコテックビジネス (2)
【Fターム(参考)】