被加工物の切断加工方法及びその装置
【課題】簡単な構成で、加工ヘッドと車両用バンパとの接触を防いで奥まった被加工部でも、被加工物の意図しない損傷を防ぎながら、確実に孔開加工又は切断加工できるようにする。
【解決手段】保持装置3に、車両用バンパ4を保持する保持機構5と、車両用バンパ4の被加工部12を第1姿勢位置と該第1姿勢位置から弾性変形させた第2姿勢位置Bとに保持する加工姿勢変更機構10と、加工姿勢変更機構10を操作する操作部材19とを設ける。この保持装置3に車両用バンパ4を第1姿勢位置に保持する。この後、ロボットで操作部材19を操作して加工姿勢変更機構10を作動させ、被加工部12を第2姿勢位置Bに保持し、被加工部12を加工ヘッド22から高密度エネルギービームを照射して切断加工する。
【解決手段】保持装置3に、車両用バンパ4を保持する保持機構5と、車両用バンパ4の被加工部12を第1姿勢位置と該第1姿勢位置から弾性変形させた第2姿勢位置Bとに保持する加工姿勢変更機構10と、加工姿勢変更機構10を操作する操作部材19とを設ける。この保持装置3に車両用バンパ4を第1姿勢位置に保持する。この後、ロボットで操作部材19を操作して加工姿勢変更機構10を作動させ、被加工部12を第2姿勢位置Bに保持し、被加工部12を加工ヘッド22から高密度エネルギービームを照射して切断加工する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用バンパなどの被加工物をレーザー光等を使って加工する切断加工方法及びその切断加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用バンパなどの樹脂部品よりなる被加工物をレーザー光を使って孔を開ける孔開加工や切断加工をする際に被加工物の位置決め又は固定を行う治具の構造や、該治具と産業用ロボットとを使用する切断加工方法は知られている。
【0003】
バンパ等の樹脂部品は、その使用に応じて孔開加工を行い、別部品を取り付ける等により、商品性に変化を付けることがしばしば行われている。フォグランプやヘッドランプウオッシャーをバンパに取り付けたり、最近ではCCDカメラ等をバンパに取り付けて車両前方の画像を運転者に表示したりすることが行われている。このような商品の多様化により、孔開、切断等といった加工法のニーズが高まっている。従来、孔開加工や切断加工は、油圧パンチや空圧パンチ、ドリルなどによる加工が大半を占めていた。
【0004】
近年、産業用ロボットが盛んに使われるようになり、安価に供給されるようになってきた。また、上述したようなニーズの多様化などからプログラムを変更するだけで異なる加工が行えるロボットの孔開加工が注目されるようになった。
【0005】
そこで、レーザー光線を被加工物に局部的に照射して、その部分を昇華させて切断するレーザー加工と、ロボットとを組み合わせて孔開加工、切断加工等を実施する方法がとられるようになった。
【0006】
例えば、特許文献1において、一定数のバンパを確保するベルトコンベア又はチェーンコンベアを備える搬入搬出部と、加工されるバンパを支持台に受け渡す受渡部と、レーザー加工機とを備えたプラスチック製バンパのレーザー加工装置とロボットとを組み合わせることが開示されている。
【特許文献1】特許第3320006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロボットによる加工は、自由度が高く、繰り返し精度も高いなどメリットが多い。
【0008】
しかし、ドリルなどの加工と同様にツール(ロボットやレーザートーチ)と被加工物とが接触しないことが加工の基本となっている。まして、最近の自動車用バンパのように車体と連続したデザインで綺麗に塗装され、車体と一体となってデザインを形成する部品の場合、表面への傷の発生は許されない。そのため、ツール隙と呼ばれる、装置と被加工物との間に一定以上の距離を設けることが行われている。さらにレーザー加工の場合、ツールから多少離れた場所でも、光線が当たってしまい、切断や溶融などの予期しない損傷を被加工物に与えてしまうおそれがある。
【0009】
治具で被加工物を固定した場合、加工の状態に応じて治具を移動させる方法がとられることがある。この方法では、エアシリンダやモータ他の各種のアクチュエータが使用されることが多いが、この場合には設備や制御が複雑となり、費用の増加や故障の増加など悪影響が大きい。
【0010】
これを人手で行う方法もあるが、加工に高出力レーザーを使用している場合には、レーザー発振を停止させない限り、加工場所には人が近付くことはできない。レーザー発振を停止させると、再度発振を開始させるまでに数分必要となり、効率的ではない。また、ロボットの可動範囲内に被加工物を支持した治具があるため、この範囲に人が入ることも安全上好ましくない。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な構成で、加工ヘッドと被加工物との接触を防いで奥まった被加工部でも、被加工物の意図しない損傷を防ぎながら、確実に孔開加工又は切断加工することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、この発明では、治具のアクチュエータを使用せず、ロボットの動きを利用して被加工物を弾性変形させ、さらに治具によってその位置を維持した上で、ロボットの加工ヘッドにより被加工部の切断加工をするようにした。
【0013】
具体的には、第1の発明では、支持台の保持装置に支持された被加工物をロボットの加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断する被加工物の切断加工方法を前提とする。
【0014】
そして、上記被加工物の切断加工方法は、
上記被加工物を保持する保持機構と、
上記被加工物の被加工部を第1姿勢位置と該第1姿勢位置から弾性変形させた第2姿勢位置とに保持する加工姿勢変更機構と、
上記加工姿勢変更機構を操作する操作部材と、
を備えた上記保持装置を準備する準備工程と、
上記保持機構に被加工物を保持すると共に、上記加工姿勢変更機構によって上記被加工部を第1姿勢位置に保持する第1姿勢変更工程と、
上記第1姿勢変更工程の後、ロボットで上記操作部材を操作して上記加工姿勢変更機構を作動させ、上記被加工部を上記第2姿勢位置に保持し、該被加工部を加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断加工する第2姿勢変更工程と、を含む。
【0015】
上記の構成によると、保持機構に被加工物を保持した状態で、加工姿勢変更機構によって、被加工物の被加工部を第1姿勢位置から弾性変形させて第2姿勢位置に保持することにより、被加工部を加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断加工しても、レーザー光線が被加工部を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を被加工物に与えることが防止される。また、治具のアクチュエータを使用せず、ロボットによって操作部材を操作して加工姿勢変更機構により被加工部を弾性変形させているので、特別な駆動手段が必要なく、設備や制御が簡単となり、費用の増加や故障の増加など悪影響が防止されると共に、人手で被加工部の姿勢変更を行わないため、レーザー発振を停止させる必要がなく、効率的に被加工部の切断加工が行われる。さらに、被加工部は弾性変形されているだけなので、永久変形することはない。
【0016】
第2の発明では、上記第1姿勢変更工程と第2姿勢変更工程との間に上記被加工部を加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断加工する工程を含む構成とする。
【0017】
上記の構成によると、第1姿勢位置で被加工部の加工可能な部分を切断加工した後、被加工部を第2姿勢位置に変更させて切断加工するので、加工しやすく、かつレーザー光線が被加工部を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を被加工物に与えることがない部分と、奥まった加工しにくい部分や、レーザー光線が被加工部を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を被加工物に与える部分とが、適宜姿勢を変えて加工ヘッドと被加工物との接触を防ぎながら加工される。
【0018】
第3の発明では、上記被加工物は、車両用樹脂製バンパである。
【0019】
上記の構成によると、車体と連続したデザインで、綺麗に塗装され、車体と一体となってデザインを形成する車両用樹脂製バンパにおいて、表面への傷の発生が確実に防止される。例えば、CCDカメラの取付部のような奥まった部分での切断加工に有効である。
【0020】
第4の発明では、支持台の保持装置に支持された被加工物をロボットの加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断する被加工物の切断加工装置を前提とする。
【0021】
そして、上記保持装置は、
被加工物を保持する保持機構と、
上記被加工物の被加工部を第1姿勢位置と該第1姿勢位置から弾性変形させた第2姿勢位置とに保持する加工姿勢変更機構と、
上記加工姿勢変更機構を操作する操作部材とを備え、
上記ロボットは、操作部材を操作して加工姿勢変更機構を作動させる操作部を備える構成とする。
【0022】
上記の構成によると、加工姿勢変更機構によって、被加工物の被加工部を第1姿勢位置から弾性変形させて第2姿勢位置に保持することにより、被加工部を加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断加工しても、レーザー光線が被加工部を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を被加工物に与えることが防止される。また、治具のアクチュエータを使用せず、ロボットの操作部によって操作部材を操作して加工姿勢変更機構により被加工部を弾性変形させているので、特別な駆動手段が必要なく、設備や制御が簡単となり、費用の増加や故障の増加など悪影響が防止されると共に、人手で被加工部の姿勢変更を行わないため、レーザー発振を停止させる必要がなく、効率的に被加工部の切断加工が行われる。さらに、被加工部は弾性変形されているだけなので、永久変形することはない。
【0023】
第5の発明では、上記加工姿勢変更機構は、
上記被加工部を支持し、第1姿勢位置と第2姿勢位置との間で揺動可能に支持台上に支持された支持部材と、
上記支持部材に装着された被加工部をクランプするクランプ機構と、
上記支持部材を揺動端で保持する付勢機構と、を備える構成とする。
【0024】
上記の構成によると、クランプ機構によって確実に被加工部が支持部材に装着された状態で、第1姿勢位置と第2姿勢位置とのいずれにおいても、付勢機構によって支持部材が安定して保持される。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、ロボットの動きを利用して被加工物を弾性変形させ、さらにその位置を維持した上で、ロボットの加工ヘッドにより被加工部の切断加工をすることにより、簡単な構成で、加工ヘッドと被加工物との接触を防いで奥まった被加工部でも、被加工物の意図しない損傷を防ぎながら、確実に孔開加工又は切断加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態の被加工物の切断加工装置1とロボット20の概略を示す。この切断加工装置1は、例えば移動可能に構成された平坦な支持台2に載置された保持装置3を備えている。
【0028】
保持装置3は、被加工物としての車両用バンパ4を保持する保持機構5を備えている。この保持機構5は、図2に示すように、車両用バンパ4の内面を下方から支える構成となっている。保持機構5は、角パイプ等を製缶溶接して組み立てた保持機構本体5aを有し、この保持機構本体5aの左右方向中央部に上方に延びる取付部5bが形成されている。取付部5bの上端には、ピン6が挿入されるピン挿通孔5cが形成されている。保持機構本体5aの下面が取付ボルト50等により、上記支持台2に位置決めされて固定されている。保持機構5には、車両用バンパ4の内面を下方から支える複数の支持部5dが上方に向けて突出して形成されている。
【0029】
図3に示すように、上記ピン挿通孔5cに挿入されたピン6により、加工姿勢変更機構10が取付部5bに回転可能に支持されている。加工姿勢変更機構10は、車両用バンパ4の被加工部12を支持する支持部材11を備えている。支持部材11は、左右方向に延びるベース部11aと該ベース部11a裏面の左右方向中央から垂直に延びる中央部11bと、ベース部11aの左右両端に表面からそれぞれ垂直に延び、車両用バンパ4をその内面から押さえ付ける押付部11cとを有している。本実施形態における被加工部12は、車両用バンパ4の中央のエンブレム取付部4aの下方に取り付けるCCDカメラ(図示せず)を取り付けるための取付孔を加工する部分である(図6〜図8参照)。支持部材11の押付部11cは、エンブレム取付部4a外周を内面側から押し付けるようになっている。
【0030】
支持部材11は、中央部11bにピン6が挿通されることにより、取付部5bにピン6を中心に前後に揺動可能に支持されている。加工姿勢変更機構10は、取付部5bの前後に図示しないボルト等により取り付けられた前側規制部材7と、後側規制部材8とを備えている。これら前側規制部材7及び後側規制部材8には、回転角度調整用ボルト9がそれぞれ取り付けられ、この回転角度調整用ボルト9により、加工姿勢変更機構10の回動範囲(図中に矢印Xで示す)を調整可能となっている。これら前側規制部材7及び後側規制部材8に回動範囲を規制されることで、支持部材11は、所定の範囲内を揺動可能となっている。
【0031】
加工姿勢変更機構10は、上記支持部材11の先端側に基端部が装着され、被加工部12をクランプするクランプ機構13を備えている。支持部材11のベース部11a底面の中央部には、左右に所定の間隔をあけて前方に延びるクランプ取付部14が溶接されている。各クランプ取付部14の先端側にクランプ機構13を連結するクランプ機構連結部15が締結されている。このクランプ機構連結部15に、クランプ機構13のアーム部13aの基端部が連結されている。アーム部13aは、中間部で後方へ折り曲げられ、その先端に所定の間隔をあけてネジ孔(図示せず)が開口され、このネジ孔にバンパ押圧部16が取り付けられている。バンパ押圧部16は、ネジ部16aとその先端に取り付けられたゴム部16bとナット16cとを有し、ネジ部16aをネジ孔に挿入してナット16cで締め付けることで長さ調整可能に構成されている。アーム部13aは、クランプ機構連結部15に前後方向に揺動可能に取り付けられ、その基端部にクランプ用ハンドル13bが連結されている。このクランプ用ハンドル13bを操作することで、図3の2点鎖線で示した位置から実線で示した位置まで回動可能に構成されている。このことで、ゴム部16bを車両用バンパ4の表面に近付けて上記押付部11cと挟んで支持したり、離したりすることで、車両用バンパ4が取り付け及び取り外し可能となっている。
【0032】
なお、図1に示すように、保持機構5は、上記クランプ機構13と同様のクランプ装置30を該クランプ機構13の左右両側に備え、このクランプ装置30により、車両用バンパ4が保持機構5に確実に保持されるようになっている。
【0033】
加工姿勢変更機構10は、支持部材11を揺動端で保持する付勢機構17を備えている。付勢機構17は、取付部5b側に設けられた下側バネ支持部17aと、支持部材11に設けられた上側バネ支持部17bと、これら下側及び上側バネ支持部17a,17bとの間に取り付けられた圧縮コイルバネ17cとを備えている。この付勢機構17により、クランプ機構13によって確実に被加工部12が支持部材11に装着された状態で、被加工部12を第1姿勢位置A(図3に示す)と、この第1姿勢位置Aから弾性変形させた第2姿勢位置B(図4に示す)とのいずれの揺動端においても保持するように圧縮コイルバネ17cの付勢力が調整されている。
【0034】
なお、この付勢機構17だけでも被加工部12を保持することは可能であるが、第2姿勢位置Bにおける被加工部12の反発力に耐えるために、加工姿勢変更機構10は、さらにマグネット機構18を備えている。すなわち、図5に示すように、マグネット機構18は、取付部5bに連結するための正面視L字状のマグネット機構取付部18aと、このマグネット機構取付部18aの先端に垂直に挿通される調整ボルト18bと、この調整ボルト18bの長さを調整する一対の調整ナット18cと、調整ボルト18bの先端に締結され、上端面にマグネット18eが嵌め込まれたマグネット部18dとを備えている。被加工部12が第2姿勢位置Bにあるときに、このマグネット部18dのマグネット18eが支持部材11のベース部11aに吸着することで、さらに確実に被加工部12を第2姿勢位置Bに保持するように構成されている。
【0035】
図3に示すように、保持装置3は、加工姿勢変更機構10を操作する操作部材19を備えている。操作部材19は、ベース部11aに連結されたハンドル形状のものとなっている。この操作部材19を操作することで、加工姿勢変更機構10が操作され、被加工部12を第1姿勢位置Aと、第2姿勢位置Bとに保持するように構成されている。
【0036】
一方、本実施形態の切断加工装置1では、支持部材11に支持された車両用バンパ4をロボット20の加工ヘッド22から高密度エネルギービームを照射して切断するように構成されている。図9に示すように、ロボット20は、例えば、第1〜第6回転軸J1,J2,…J6を有する6軸垂直多関節型ロボットが好適に用いられる。この第6回転軸J6を回転させる第6駆動モータ24が、操作部材19を操作して加工姿勢変更機構10を作動させる操作部を構成している。
【0037】
ロボット20は、制御盤21と接続されている。ロボット20の先端部には、上記加工ヘッド22が取り付けられている。この加工ヘッド22には、ハーネス23を介して高密度エネルギービームが供給されるようになっている。制御盤21内には制御ユニット(図示せず)が内蔵されている。この制御ユニットがロボット20を制御して、予め設定された所定の位置や傾きとなるように加工ヘッド22を動作させたり、第6駆動モータ24を第5回転軸J5周りに回転させて操作部材19に当接させ、該操作部材19を操作するようになっている。また、制御ユニットにより、適宜加工ヘッド22に高密度エネルギービームが供給されるようになっている。
【0038】
−車両用バンパの切断加工方法−
次に、本実施形態にかかる車両用バンパ4の切断加工方法について説明する。
【0039】
まず、上記保持装置3を準備する(準備工程)。
【0040】
次いで、図3に示すように、クランプ機構13及びクランプ装置30によって上記保持装置3に車両用バンパ4を保持し、加工姿勢変更機構10によって、被加工部12を第1姿勢位置Aに保持する(第1姿勢変更工程)。このとき、クランプ機構13によって確実に被加工部12が支持部材11に装着された状態で、付勢機構17により、被加工部12が第1姿勢位置Aに安定して保持される。
【0041】
次いで、保持装置3を支持台2ごと移動させて、ロボット20の作業位置に持ち込む。
【0042】
次いで、図7に示すように、被加工部12を加工ヘッド22から高密度エネルギービームを照射して切断加工する(第1切断工程)。この場合には、レーザー光線が被加工部12を通過しても、切断や溶融などの予期しない損傷を車両用バンパ4に与えることはない。
【0043】
次いで、図1に示すように、ロボット20を駆動し、第6駆動モータ24を移動させると共に、第5回転軸J5周りに回動させて操作部材19に当接させ、加工姿勢変更機構10を作動させる。このことで、被加工部12が下方へ押圧されて弾性変形して第2姿勢位置Bに保持される。このとき、クランプ機構13によって確実に被加工部12が支持部材11に装着された状態で、付勢機構17により、被加工部12が第2姿勢位置Bに安定して保持されると共に、マグネット18eが支持部材11のベース部11aに吸着することで、さらに確実に被加工部12が第2姿勢位置Bに保持される。この状態で被加工部12を加工ヘッド22から高密度エネルギービームを照射して切断加工する(第2姿勢変更工程)。
【0044】
このように、加工姿勢変更機構10によって、被加工部12を第1姿勢位置Aから弾性変形させて第2姿勢位置Bに保持することにより、被加工部12を加工ヘッド22から高密度エネルギービームを照射して切断加工しても、レーザー光線が被加工部12を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を車両用バンパ4に与えることが防止される。
【0045】
また、治具のアクチュエータを使用せず、ロボット20によって操作部材19を操作して加工姿勢変更機構10により被加工部12を弾性変形させているので、特別な駆動手段が必要なく、設備や制御が簡単となり、費用の増加や故障の増加など悪影響が防止されると共に、人手で被加工部12の姿勢変更を行わないため、レーザー発振を停止させる必要がなく、効率的に被加工部12の切断加工が行われる。
【0046】
さらに、被加工部12は弾性変形されているだけなので、永久変形することはない。
【0047】
第1姿勢位置Aで被加工部12の加工可能な部分を切断加工した後、第2姿勢位置Bに変更させて切断加工するので、加工しやすく、かつレーザー光線が被加工部12を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を車両用バンパ4に与えることがない部分と、奥まった加工しにくい部分や、レーザー光線が被加工部12を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を車両用バンパ4に与える部分とが、適宜姿勢を変えて加工ヘッド22と車両用バンパ4との接触を防ぎながら加工される。
【0048】
また、車体と連続したデザインで、綺麗に塗装され、車体と一体となってデザインを形成する車両用バンパ4において、表面への傷の発生が確実に防止される。例えば、CCDカメラの取付部のような奥まった部分での切断加工に有効である。
【0049】
したがって、本実施形態にかかる車両用バンパ4の切断加工方法及び切断加工装置1によると、簡単な構成で、加工ヘッド22と車両用バンパ4との接触を防いで奥まった被加工部12でも、車両用バンパ4の意図しない損傷を防ぎながら、確実に孔開加工又は切断加工することができる。
【0050】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0051】
すなわち、上記実施形態では、被加工物として樹脂製の車両用バンパ4の場合を示したが、この被加工物は、車両用バンパに限られず、また、板金製のものでもよい。要は、被加工部が弾性変形可能な被加工物に適用可能である。
【0052】
上記実施形態では、付勢機構17及びマグネット機構18を設けたが、いずれか一方のみを設けてもよい。
【0053】
上記実施形態では、操作部は第6駆動モータ24としたが、ロボット20のどの部分を操作部としてもよい。
【0054】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態にかかる被加工物の切断加工装置及びロボットを示す斜視図である。
【図2】車両用バンパが支持された保持装置を示す正面図である。
【図3】車両用バンパの被加工部を第1姿勢位置で保持する加工姿勢変更機構を示す側面図である。
【図4】車両用バンパの被加工部を第2姿勢位置で保持する加工姿勢変更機構を示す側面図である。
【図5】マグネット機構を示す正面図である。
【図6】本発明の実施形態における車両用バンパの被加工部を第1姿勢位置で切断加工する様子を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施形態における車両用バンパの被加工部を第2姿勢位置で切断加工する様子を示す斜視図である。
【図8】車両用バンパを示す正面図である。
【図9】ロボットを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1 切断加工装置
2 支持台
3 保持装置
4 車両用バンパ(被加工物)
5 保持機構
10 加工姿勢変更機構
11 支持部材
12 被加工部
13 クランプ機構
17 付勢機構
19 操作部材
20 ロボット
22 加工ヘッド
24 第6駆動モータ(操作部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用バンパなどの被加工物をレーザー光等を使って加工する切断加工方法及びその切断加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用バンパなどの樹脂部品よりなる被加工物をレーザー光を使って孔を開ける孔開加工や切断加工をする際に被加工物の位置決め又は固定を行う治具の構造や、該治具と産業用ロボットとを使用する切断加工方法は知られている。
【0003】
バンパ等の樹脂部品は、その使用に応じて孔開加工を行い、別部品を取り付ける等により、商品性に変化を付けることがしばしば行われている。フォグランプやヘッドランプウオッシャーをバンパに取り付けたり、最近ではCCDカメラ等をバンパに取り付けて車両前方の画像を運転者に表示したりすることが行われている。このような商品の多様化により、孔開、切断等といった加工法のニーズが高まっている。従来、孔開加工や切断加工は、油圧パンチや空圧パンチ、ドリルなどによる加工が大半を占めていた。
【0004】
近年、産業用ロボットが盛んに使われるようになり、安価に供給されるようになってきた。また、上述したようなニーズの多様化などからプログラムを変更するだけで異なる加工が行えるロボットの孔開加工が注目されるようになった。
【0005】
そこで、レーザー光線を被加工物に局部的に照射して、その部分を昇華させて切断するレーザー加工と、ロボットとを組み合わせて孔開加工、切断加工等を実施する方法がとられるようになった。
【0006】
例えば、特許文献1において、一定数のバンパを確保するベルトコンベア又はチェーンコンベアを備える搬入搬出部と、加工されるバンパを支持台に受け渡す受渡部と、レーザー加工機とを備えたプラスチック製バンパのレーザー加工装置とロボットとを組み合わせることが開示されている。
【特許文献1】特許第3320006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロボットによる加工は、自由度が高く、繰り返し精度も高いなどメリットが多い。
【0008】
しかし、ドリルなどの加工と同様にツール(ロボットやレーザートーチ)と被加工物とが接触しないことが加工の基本となっている。まして、最近の自動車用バンパのように車体と連続したデザインで綺麗に塗装され、車体と一体となってデザインを形成する部品の場合、表面への傷の発生は許されない。そのため、ツール隙と呼ばれる、装置と被加工物との間に一定以上の距離を設けることが行われている。さらにレーザー加工の場合、ツールから多少離れた場所でも、光線が当たってしまい、切断や溶融などの予期しない損傷を被加工物に与えてしまうおそれがある。
【0009】
治具で被加工物を固定した場合、加工の状態に応じて治具を移動させる方法がとられることがある。この方法では、エアシリンダやモータ他の各種のアクチュエータが使用されることが多いが、この場合には設備や制御が複雑となり、費用の増加や故障の増加など悪影響が大きい。
【0010】
これを人手で行う方法もあるが、加工に高出力レーザーを使用している場合には、レーザー発振を停止させない限り、加工場所には人が近付くことはできない。レーザー発振を停止させると、再度発振を開始させるまでに数分必要となり、効率的ではない。また、ロボットの可動範囲内に被加工物を支持した治具があるため、この範囲に人が入ることも安全上好ましくない。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な構成で、加工ヘッドと被加工物との接触を防いで奥まった被加工部でも、被加工物の意図しない損傷を防ぎながら、確実に孔開加工又は切断加工することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、この発明では、治具のアクチュエータを使用せず、ロボットの動きを利用して被加工物を弾性変形させ、さらに治具によってその位置を維持した上で、ロボットの加工ヘッドにより被加工部の切断加工をするようにした。
【0013】
具体的には、第1の発明では、支持台の保持装置に支持された被加工物をロボットの加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断する被加工物の切断加工方法を前提とする。
【0014】
そして、上記被加工物の切断加工方法は、
上記被加工物を保持する保持機構と、
上記被加工物の被加工部を第1姿勢位置と該第1姿勢位置から弾性変形させた第2姿勢位置とに保持する加工姿勢変更機構と、
上記加工姿勢変更機構を操作する操作部材と、
を備えた上記保持装置を準備する準備工程と、
上記保持機構に被加工物を保持すると共に、上記加工姿勢変更機構によって上記被加工部を第1姿勢位置に保持する第1姿勢変更工程と、
上記第1姿勢変更工程の後、ロボットで上記操作部材を操作して上記加工姿勢変更機構を作動させ、上記被加工部を上記第2姿勢位置に保持し、該被加工部を加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断加工する第2姿勢変更工程と、を含む。
【0015】
上記の構成によると、保持機構に被加工物を保持した状態で、加工姿勢変更機構によって、被加工物の被加工部を第1姿勢位置から弾性変形させて第2姿勢位置に保持することにより、被加工部を加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断加工しても、レーザー光線が被加工部を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を被加工物に与えることが防止される。また、治具のアクチュエータを使用せず、ロボットによって操作部材を操作して加工姿勢変更機構により被加工部を弾性変形させているので、特別な駆動手段が必要なく、設備や制御が簡単となり、費用の増加や故障の増加など悪影響が防止されると共に、人手で被加工部の姿勢変更を行わないため、レーザー発振を停止させる必要がなく、効率的に被加工部の切断加工が行われる。さらに、被加工部は弾性変形されているだけなので、永久変形することはない。
【0016】
第2の発明では、上記第1姿勢変更工程と第2姿勢変更工程との間に上記被加工部を加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断加工する工程を含む構成とする。
【0017】
上記の構成によると、第1姿勢位置で被加工部の加工可能な部分を切断加工した後、被加工部を第2姿勢位置に変更させて切断加工するので、加工しやすく、かつレーザー光線が被加工部を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を被加工物に与えることがない部分と、奥まった加工しにくい部分や、レーザー光線が被加工部を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を被加工物に与える部分とが、適宜姿勢を変えて加工ヘッドと被加工物との接触を防ぎながら加工される。
【0018】
第3の発明では、上記被加工物は、車両用樹脂製バンパである。
【0019】
上記の構成によると、車体と連続したデザインで、綺麗に塗装され、車体と一体となってデザインを形成する車両用樹脂製バンパにおいて、表面への傷の発生が確実に防止される。例えば、CCDカメラの取付部のような奥まった部分での切断加工に有効である。
【0020】
第4の発明では、支持台の保持装置に支持された被加工物をロボットの加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断する被加工物の切断加工装置を前提とする。
【0021】
そして、上記保持装置は、
被加工物を保持する保持機構と、
上記被加工物の被加工部を第1姿勢位置と該第1姿勢位置から弾性変形させた第2姿勢位置とに保持する加工姿勢変更機構と、
上記加工姿勢変更機構を操作する操作部材とを備え、
上記ロボットは、操作部材を操作して加工姿勢変更機構を作動させる操作部を備える構成とする。
【0022】
上記の構成によると、加工姿勢変更機構によって、被加工物の被加工部を第1姿勢位置から弾性変形させて第2姿勢位置に保持することにより、被加工部を加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断加工しても、レーザー光線が被加工部を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を被加工物に与えることが防止される。また、治具のアクチュエータを使用せず、ロボットの操作部によって操作部材を操作して加工姿勢変更機構により被加工部を弾性変形させているので、特別な駆動手段が必要なく、設備や制御が簡単となり、費用の増加や故障の増加など悪影響が防止されると共に、人手で被加工部の姿勢変更を行わないため、レーザー発振を停止させる必要がなく、効率的に被加工部の切断加工が行われる。さらに、被加工部は弾性変形されているだけなので、永久変形することはない。
【0023】
第5の発明では、上記加工姿勢変更機構は、
上記被加工部を支持し、第1姿勢位置と第2姿勢位置との間で揺動可能に支持台上に支持された支持部材と、
上記支持部材に装着された被加工部をクランプするクランプ機構と、
上記支持部材を揺動端で保持する付勢機構と、を備える構成とする。
【0024】
上記の構成によると、クランプ機構によって確実に被加工部が支持部材に装着された状態で、第1姿勢位置と第2姿勢位置とのいずれにおいても、付勢機構によって支持部材が安定して保持される。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、ロボットの動きを利用して被加工物を弾性変形させ、さらにその位置を維持した上で、ロボットの加工ヘッドにより被加工部の切断加工をすることにより、簡単な構成で、加工ヘッドと被加工物との接触を防いで奥まった被加工部でも、被加工物の意図しない損傷を防ぎながら、確実に孔開加工又は切断加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態の被加工物の切断加工装置1とロボット20の概略を示す。この切断加工装置1は、例えば移動可能に構成された平坦な支持台2に載置された保持装置3を備えている。
【0028】
保持装置3は、被加工物としての車両用バンパ4を保持する保持機構5を備えている。この保持機構5は、図2に示すように、車両用バンパ4の内面を下方から支える構成となっている。保持機構5は、角パイプ等を製缶溶接して組み立てた保持機構本体5aを有し、この保持機構本体5aの左右方向中央部に上方に延びる取付部5bが形成されている。取付部5bの上端には、ピン6が挿入されるピン挿通孔5cが形成されている。保持機構本体5aの下面が取付ボルト50等により、上記支持台2に位置決めされて固定されている。保持機構5には、車両用バンパ4の内面を下方から支える複数の支持部5dが上方に向けて突出して形成されている。
【0029】
図3に示すように、上記ピン挿通孔5cに挿入されたピン6により、加工姿勢変更機構10が取付部5bに回転可能に支持されている。加工姿勢変更機構10は、車両用バンパ4の被加工部12を支持する支持部材11を備えている。支持部材11は、左右方向に延びるベース部11aと該ベース部11a裏面の左右方向中央から垂直に延びる中央部11bと、ベース部11aの左右両端に表面からそれぞれ垂直に延び、車両用バンパ4をその内面から押さえ付ける押付部11cとを有している。本実施形態における被加工部12は、車両用バンパ4の中央のエンブレム取付部4aの下方に取り付けるCCDカメラ(図示せず)を取り付けるための取付孔を加工する部分である(図6〜図8参照)。支持部材11の押付部11cは、エンブレム取付部4a外周を内面側から押し付けるようになっている。
【0030】
支持部材11は、中央部11bにピン6が挿通されることにより、取付部5bにピン6を中心に前後に揺動可能に支持されている。加工姿勢変更機構10は、取付部5bの前後に図示しないボルト等により取り付けられた前側規制部材7と、後側規制部材8とを備えている。これら前側規制部材7及び後側規制部材8には、回転角度調整用ボルト9がそれぞれ取り付けられ、この回転角度調整用ボルト9により、加工姿勢変更機構10の回動範囲(図中に矢印Xで示す)を調整可能となっている。これら前側規制部材7及び後側規制部材8に回動範囲を規制されることで、支持部材11は、所定の範囲内を揺動可能となっている。
【0031】
加工姿勢変更機構10は、上記支持部材11の先端側に基端部が装着され、被加工部12をクランプするクランプ機構13を備えている。支持部材11のベース部11a底面の中央部には、左右に所定の間隔をあけて前方に延びるクランプ取付部14が溶接されている。各クランプ取付部14の先端側にクランプ機構13を連結するクランプ機構連結部15が締結されている。このクランプ機構連結部15に、クランプ機構13のアーム部13aの基端部が連結されている。アーム部13aは、中間部で後方へ折り曲げられ、その先端に所定の間隔をあけてネジ孔(図示せず)が開口され、このネジ孔にバンパ押圧部16が取り付けられている。バンパ押圧部16は、ネジ部16aとその先端に取り付けられたゴム部16bとナット16cとを有し、ネジ部16aをネジ孔に挿入してナット16cで締め付けることで長さ調整可能に構成されている。アーム部13aは、クランプ機構連結部15に前後方向に揺動可能に取り付けられ、その基端部にクランプ用ハンドル13bが連結されている。このクランプ用ハンドル13bを操作することで、図3の2点鎖線で示した位置から実線で示した位置まで回動可能に構成されている。このことで、ゴム部16bを車両用バンパ4の表面に近付けて上記押付部11cと挟んで支持したり、離したりすることで、車両用バンパ4が取り付け及び取り外し可能となっている。
【0032】
なお、図1に示すように、保持機構5は、上記クランプ機構13と同様のクランプ装置30を該クランプ機構13の左右両側に備え、このクランプ装置30により、車両用バンパ4が保持機構5に確実に保持されるようになっている。
【0033】
加工姿勢変更機構10は、支持部材11を揺動端で保持する付勢機構17を備えている。付勢機構17は、取付部5b側に設けられた下側バネ支持部17aと、支持部材11に設けられた上側バネ支持部17bと、これら下側及び上側バネ支持部17a,17bとの間に取り付けられた圧縮コイルバネ17cとを備えている。この付勢機構17により、クランプ機構13によって確実に被加工部12が支持部材11に装着された状態で、被加工部12を第1姿勢位置A(図3に示す)と、この第1姿勢位置Aから弾性変形させた第2姿勢位置B(図4に示す)とのいずれの揺動端においても保持するように圧縮コイルバネ17cの付勢力が調整されている。
【0034】
なお、この付勢機構17だけでも被加工部12を保持することは可能であるが、第2姿勢位置Bにおける被加工部12の反発力に耐えるために、加工姿勢変更機構10は、さらにマグネット機構18を備えている。すなわち、図5に示すように、マグネット機構18は、取付部5bに連結するための正面視L字状のマグネット機構取付部18aと、このマグネット機構取付部18aの先端に垂直に挿通される調整ボルト18bと、この調整ボルト18bの長さを調整する一対の調整ナット18cと、調整ボルト18bの先端に締結され、上端面にマグネット18eが嵌め込まれたマグネット部18dとを備えている。被加工部12が第2姿勢位置Bにあるときに、このマグネット部18dのマグネット18eが支持部材11のベース部11aに吸着することで、さらに確実に被加工部12を第2姿勢位置Bに保持するように構成されている。
【0035】
図3に示すように、保持装置3は、加工姿勢変更機構10を操作する操作部材19を備えている。操作部材19は、ベース部11aに連結されたハンドル形状のものとなっている。この操作部材19を操作することで、加工姿勢変更機構10が操作され、被加工部12を第1姿勢位置Aと、第2姿勢位置Bとに保持するように構成されている。
【0036】
一方、本実施形態の切断加工装置1では、支持部材11に支持された車両用バンパ4をロボット20の加工ヘッド22から高密度エネルギービームを照射して切断するように構成されている。図9に示すように、ロボット20は、例えば、第1〜第6回転軸J1,J2,…J6を有する6軸垂直多関節型ロボットが好適に用いられる。この第6回転軸J6を回転させる第6駆動モータ24が、操作部材19を操作して加工姿勢変更機構10を作動させる操作部を構成している。
【0037】
ロボット20は、制御盤21と接続されている。ロボット20の先端部には、上記加工ヘッド22が取り付けられている。この加工ヘッド22には、ハーネス23を介して高密度エネルギービームが供給されるようになっている。制御盤21内には制御ユニット(図示せず)が内蔵されている。この制御ユニットがロボット20を制御して、予め設定された所定の位置や傾きとなるように加工ヘッド22を動作させたり、第6駆動モータ24を第5回転軸J5周りに回転させて操作部材19に当接させ、該操作部材19を操作するようになっている。また、制御ユニットにより、適宜加工ヘッド22に高密度エネルギービームが供給されるようになっている。
【0038】
−車両用バンパの切断加工方法−
次に、本実施形態にかかる車両用バンパ4の切断加工方法について説明する。
【0039】
まず、上記保持装置3を準備する(準備工程)。
【0040】
次いで、図3に示すように、クランプ機構13及びクランプ装置30によって上記保持装置3に車両用バンパ4を保持し、加工姿勢変更機構10によって、被加工部12を第1姿勢位置Aに保持する(第1姿勢変更工程)。このとき、クランプ機構13によって確実に被加工部12が支持部材11に装着された状態で、付勢機構17により、被加工部12が第1姿勢位置Aに安定して保持される。
【0041】
次いで、保持装置3を支持台2ごと移動させて、ロボット20の作業位置に持ち込む。
【0042】
次いで、図7に示すように、被加工部12を加工ヘッド22から高密度エネルギービームを照射して切断加工する(第1切断工程)。この場合には、レーザー光線が被加工部12を通過しても、切断や溶融などの予期しない損傷を車両用バンパ4に与えることはない。
【0043】
次いで、図1に示すように、ロボット20を駆動し、第6駆動モータ24を移動させると共に、第5回転軸J5周りに回動させて操作部材19に当接させ、加工姿勢変更機構10を作動させる。このことで、被加工部12が下方へ押圧されて弾性変形して第2姿勢位置Bに保持される。このとき、クランプ機構13によって確実に被加工部12が支持部材11に装着された状態で、付勢機構17により、被加工部12が第2姿勢位置Bに安定して保持されると共に、マグネット18eが支持部材11のベース部11aに吸着することで、さらに確実に被加工部12が第2姿勢位置Bに保持される。この状態で被加工部12を加工ヘッド22から高密度エネルギービームを照射して切断加工する(第2姿勢変更工程)。
【0044】
このように、加工姿勢変更機構10によって、被加工部12を第1姿勢位置Aから弾性変形させて第2姿勢位置Bに保持することにより、被加工部12を加工ヘッド22から高密度エネルギービームを照射して切断加工しても、レーザー光線が被加工部12を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を車両用バンパ4に与えることが防止される。
【0045】
また、治具のアクチュエータを使用せず、ロボット20によって操作部材19を操作して加工姿勢変更機構10により被加工部12を弾性変形させているので、特別な駆動手段が必要なく、設備や制御が簡単となり、費用の増加や故障の増加など悪影響が防止されると共に、人手で被加工部12の姿勢変更を行わないため、レーザー発振を停止させる必要がなく、効率的に被加工部12の切断加工が行われる。
【0046】
さらに、被加工部12は弾性変形されているだけなので、永久変形することはない。
【0047】
第1姿勢位置Aで被加工部12の加工可能な部分を切断加工した後、第2姿勢位置Bに変更させて切断加工するので、加工しやすく、かつレーザー光線が被加工部12を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を車両用バンパ4に与えることがない部分と、奥まった加工しにくい部分や、レーザー光線が被加工部12を通過して切断や溶融などの予期しない損傷を車両用バンパ4に与える部分とが、適宜姿勢を変えて加工ヘッド22と車両用バンパ4との接触を防ぎながら加工される。
【0048】
また、車体と連続したデザインで、綺麗に塗装され、車体と一体となってデザインを形成する車両用バンパ4において、表面への傷の発生が確実に防止される。例えば、CCDカメラの取付部のような奥まった部分での切断加工に有効である。
【0049】
したがって、本実施形態にかかる車両用バンパ4の切断加工方法及び切断加工装置1によると、簡単な構成で、加工ヘッド22と車両用バンパ4との接触を防いで奥まった被加工部12でも、車両用バンパ4の意図しない損傷を防ぎながら、確実に孔開加工又は切断加工することができる。
【0050】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0051】
すなわち、上記実施形態では、被加工物として樹脂製の車両用バンパ4の場合を示したが、この被加工物は、車両用バンパに限られず、また、板金製のものでもよい。要は、被加工部が弾性変形可能な被加工物に適用可能である。
【0052】
上記実施形態では、付勢機構17及びマグネット機構18を設けたが、いずれか一方のみを設けてもよい。
【0053】
上記実施形態では、操作部は第6駆動モータ24としたが、ロボット20のどの部分を操作部としてもよい。
【0054】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態にかかる被加工物の切断加工装置及びロボットを示す斜視図である。
【図2】車両用バンパが支持された保持装置を示す正面図である。
【図3】車両用バンパの被加工部を第1姿勢位置で保持する加工姿勢変更機構を示す側面図である。
【図4】車両用バンパの被加工部を第2姿勢位置で保持する加工姿勢変更機構を示す側面図である。
【図5】マグネット機構を示す正面図である。
【図6】本発明の実施形態における車両用バンパの被加工部を第1姿勢位置で切断加工する様子を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施形態における車両用バンパの被加工部を第2姿勢位置で切断加工する様子を示す斜視図である。
【図8】車両用バンパを示す正面図である。
【図9】ロボットを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1 切断加工装置
2 支持台
3 保持装置
4 車両用バンパ(被加工物)
5 保持機構
10 加工姿勢変更機構
11 支持部材
12 被加工部
13 クランプ機構
17 付勢機構
19 操作部材
20 ロボット
22 加工ヘッド
24 第6駆動モータ(操作部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持台の保持装置に支持された被加工物をロボットの加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断する被加工物の切断加工方法において、
上記被加工物を保持する保持機構と、
上記被加工物の被加工部を第1姿勢位置と該第1姿勢位置から弾性変形させた第2姿勢位置とに保持する加工姿勢変更機構と、
上記加工姿勢変更機構を操作する操作部材と、
を備えた上記保持装置を準備する準備工程と、
上記保持機構に被加工物を保持すると共に、上記加工姿勢変更機構によって上記被加工部を第1姿勢位置に保持する第1姿勢変更工程と、
上記第1姿勢変更工程の後、ロボットで上記操作部材を操作して上記加工姿勢変更機構を作動させ、上記被加工部を上記第2姿勢位置に保持し、該被加工部を加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断加工する第2姿勢変更工程と、を含む
ことを特徴とする被加工物の切断加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の被加工物の切断加工方法において、
上記第1姿勢変更工程と第2姿勢変更工程との間に上記被加工部を加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断加工する工程を含む
ことを特徴とする被加工物の切断加工方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の被加工物の切断加工方法において、
上記被加工物は、車両用樹脂製バンパである
ことを特徴とする被加工物の切断加工方法。
【請求項4】
支持台の保持装置を備え、該保持装置に支持された被加工物をロボットの加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断する被加工物の切断加工装置において、
上記保持装置は、
被加工物を保持する保持機構と、
上記被加工物の被加工部を第1姿勢位置と該第1姿勢位置から弾性変形させた第2姿勢位置とに保持する加工姿勢変更機構と、
上記加工姿勢変更機構を操作する操作部材とを備え、
上記ロボットは、操作部材を操作して加工姿勢変更機構を作動させる操作部を備えている
ことを特徴とする被加工物の切断加工装置。
【請求項5】
請求項4に記載の被加工物の切断加工装置において、
上記加工姿勢変更機構は、
上記被加工部を支持し、第1姿勢位置と第2姿勢位置との間で揺動可能に支持台上に支持された支持部材と、
上記支持部材に装着された被加工部をクランプするクランプ機構と、
上記支持部材を揺動端で保持する付勢機構と、を備えている
ことを特徴とする被加工物の切断加工装置。
【請求項1】
支持台の保持装置に支持された被加工物をロボットの加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断する被加工物の切断加工方法において、
上記被加工物を保持する保持機構と、
上記被加工物の被加工部を第1姿勢位置と該第1姿勢位置から弾性変形させた第2姿勢位置とに保持する加工姿勢変更機構と、
上記加工姿勢変更機構を操作する操作部材と、
を備えた上記保持装置を準備する準備工程と、
上記保持機構に被加工物を保持すると共に、上記加工姿勢変更機構によって上記被加工部を第1姿勢位置に保持する第1姿勢変更工程と、
上記第1姿勢変更工程の後、ロボットで上記操作部材を操作して上記加工姿勢変更機構を作動させ、上記被加工部を上記第2姿勢位置に保持し、該被加工部を加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断加工する第2姿勢変更工程と、を含む
ことを特徴とする被加工物の切断加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の被加工物の切断加工方法において、
上記第1姿勢変更工程と第2姿勢変更工程との間に上記被加工部を加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断加工する工程を含む
ことを特徴とする被加工物の切断加工方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の被加工物の切断加工方法において、
上記被加工物は、車両用樹脂製バンパである
ことを特徴とする被加工物の切断加工方法。
【請求項4】
支持台の保持装置を備え、該保持装置に支持された被加工物をロボットの加工ヘッドから高密度エネルギービームを照射して切断する被加工物の切断加工装置において、
上記保持装置は、
被加工物を保持する保持機構と、
上記被加工物の被加工部を第1姿勢位置と該第1姿勢位置から弾性変形させた第2姿勢位置とに保持する加工姿勢変更機構と、
上記加工姿勢変更機構を操作する操作部材とを備え、
上記ロボットは、操作部材を操作して加工姿勢変更機構を作動させる操作部を備えている
ことを特徴とする被加工物の切断加工装置。
【請求項5】
請求項4に記載の被加工物の切断加工装置において、
上記加工姿勢変更機構は、
上記被加工部を支持し、第1姿勢位置と第2姿勢位置との間で揺動可能に支持台上に支持された支持部材と、
上記支持部材に装着された被加工部をクランプするクランプ機構と、
上記支持部材を揺動端で保持する付勢機構と、を備えている
ことを特徴とする被加工物の切断加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2008−68272(P2008−68272A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247233(P2006−247233)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]