説明

被検体内の放射性医薬品の分布を決定するシステム

本発明は、被検体内の放射性医薬品の生体内分布を決定するシステムに関する。本発明によれば、被検体内の複数の局所組織の位置で造影剤から放出された放射線を測定するために、複数の局所領域で被検体に取り付けられるように構成された2つ以上の検出器を有する検出器システムが用いられる。この測定は、複数の組織に関する個々の放射線データセットを生成する。検出器は更に、全ての関連データ点を捕捉するよう、複数の組織の薬物動態挙動に測定レートを適合させるように構成されている。そして、プロセッサがこれらデータセットを用いて、それぞれの組織各々内の放射能を決定し、且つそれに基づいて、被検体内の生体内分布を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内の放射性医薬品の生体内分布を決定するシステム及び該システムのための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば標的放射線治療などの、内部放射を用いた腫瘍過程の治療は、典型的に、人体内への放射性医薬品の導入を必要とする。これらの物質は人体内で空間的に分布し、時間とともに指数関数的に活量が減衰する。
【0003】
人体内の標識の空間分布に関する情報を得るため、放射性医薬品の放出放射線が時間をかけて測定される。これは、例えば陽電子放出断層撮影(PET)、単一光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)、プレーナ・シンチグラフィ、及び血液サンプルといった、対応する装置又は方法によって実行され(非特許文献1、2参照)、様々な器官における患者内の線量(ドーズ)分布を計算するために用いられる。特定の器官の時間−活量曲線、すなわち、特定の器官の経時的な放出放射線を測定することにより、それぞれの標識からそれぞれの器官内の放射線崩壊(すなわち、放射能)の量を計算することが可能である。同位元素の種類(放射線、エネルギー、電荷などの種類)は既知であるため、(時間をかけて積分された)積分活量は、この器官で吸収された局所的な線量に変換されることが可能である。そして、その結果が、治療の計画若しくは監視の評価や、線量の確認のために使用される。
【0004】
例えばシンチグラフィ、又は例えばSPECT若しくはPET等の放射型トモグラフィのような現行の線量測定法又は線量監視法の欠点は、これらの手順が高コストであるため、患者当たりの使用可能な検査が最大で約3から5にとどまることである。この時間的なサンプリング不足は容易に、時間−活量曲線の見積もり、ひいては、線量測定計算にかなりの誤差を生じさせる。異なる器官は薬物動態挙動を示すので、このことは、異なる器官では必ずしも、典型的に数日間にも及ぶ、それぞれの時間−活量曲線を最も特徴的に定める時点で撮像が行われないことを意味する。故に、重要性の高い情報が失われ、線量計算が不正確になり得る。このことを図1に例示する。図1は、或る特定の器官又は組織に関して、理論的な時間−活量曲線の一例を実線100で示し、例えばSPECTを用いて収集され得るデータ点の分布を○印101として示している。この図が示すように、SPECTのような方法が用いられるときのデータ点の不足により、SPECTでは、この器官からの時点tmaxでの最大放出は捕捉されない。線量を計算する唯一の方法は、先ず、これらの3から5個のデータ点全体でフィッティングし、その後、得られたフィッティング曲線に基づいて積分量を計算することである。明らかであるように、フィッティング曲線はかなりの誤った挙動を示して真の曲線から相当に逸脱しやすく、それにより、精度の低い線量計算がもたらされることになる。
【0005】
多数の核撮像手順を回避する一手法は、患者の前に配置された単一の非撮像検出器を用いて全身の線量を測定することである。この種の測定はSPECT法やPET法と比較して或る程度速く実行可能であり低コストであるが、人体内の放射能の空間分布に関する全ての情報が失われる。故に、高精度な治療計画を実現することは非常に困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sgouros. G、「Dosimetry of Internal Emitters」、2005年1月、Journal of Nuclear Medicine、第46巻、第1号、p.18-27
【非特許文献2】Publications of the Medical Internal Radiation Dose (MIRD) Committee、インターネット(URL:http://interactive.snm.org/index.cfm?PageID=1372&RPID=2199)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の欠点を解消するため、異なる器官又は組織に関する放射能の吸収線量値の空間分布を、使用しやすい方法で正確に決定する簡易で安価なシステム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様に従って、本発明は、被検体内の放射性医薬品の生体内分布を決定するシステムであって:
− 被検体内の複数の局所組織の位置で放射性医薬品から放出された放射線を測定するための、少なくとも1つの測定レートを有し且つ複数の局所領域で被検体に取り付けられるように構成された2つ以上の検出器を有する検出器システムであり、測定された放射線は、前記複数の局所組織に関する個々の放射線データセットを生成し、検出器は更に、測定レートを前記複数の局所組織の薬物動態挙動に適合させるように構成されている、検出器システム、及び
− 個々の放射線データセットを処理して、前記複数の局所組織のうちのそれぞれの局所組織各々内の放射能を決定し、且つそれに基づいて、被検体内の放射性医薬品の生体内分布を決定するプロセッサ、
を有するシステムに関する。
【0009】
斯くして、例えば新たな調合薬の研究及び認可段階に重要な情報がもたらされる。例えば、放射性標識が付加された新たな抗ガン化学療法薬の場合、システムは、例えば研究目的で、あるいはFDA認可試験において、その薬剤が体内でどのように代謝されるかに関する情報を提供するように実現され得る。後のその薬物の認可後には、それは非標識(すなわち、放射線同位元素を用いない)バージョンでのみ投与されてもよい。決定された生体内分布はまた、後の治療段階において相異なる組織で吸収されるであろう線量の計算又は推定のために使用されてもよい。本発明によって解決される更なる問題は、検出器システムの単純性により、被検体は測定のために病院内に滞在したり病院に来たりする必要がなくなることである。本発明によって実現される他の1つの利点は、測定レートが複数の組織の薬物動態挙動に適合され、それにより、必要とされるとき、十分に高い測定レートが確保されること、すなわち、生体内分布の計算が遙かに正確になることが確保されることである。故に、例えば放射線治療を計画するとき、正常な組織又はリスク組織が損傷される危険を伴うことなく、体内放射線治療の最大許容線量に関して一層信憑性のある情報が提供される。
【0010】
組織という用語は、健康な組織及び/又はリスク組織、腫瘍部分、腫瘍、炎症組織、又は放射線医薬品による標的とされる何らかのその他の組織、健康な器官部分又は器官を含み得る。被検体という用語は、本発明によれば、ヒト、動物、又はその他の如何なる種類の生体種をも意味する。
【0011】
一実施形態において、前記2つ以上の検出器の各検出器は:
− 100keV−550keVのエネルギー範囲内のガンマ放射線を検知するように構成されたMOSFETベース検出器、
− ダイオードベース検出器、
− フィルムベース検出器、
− 熱ルミネセンス検出器(TLD)、
− ゲルベース検出器、及び
− 上記の組み合わせ、
のグループから選択される。
【0012】
一実施形態において、プロセッサは外部プロセッサであり、システムは更に、通信チャネルを介して個々の放射線データセットを外部プロセッサに送信する送信器を有する。
【0013】
斯くして、処理全体が被検体の外部で行われる。これは、検出器の軽量化及び小型化をもたらし、システムを使用しやすくする。通信チャネルは、例えば、無線通信ネットワーク、又は例えば光ファイバ等の有線通信チャネルを含み得る。
【0014】
一実施形態において、システムは更に、送信された個々の放射線データセットを受信する受信器を有する。
【0015】
他の一態様に従って、本発明は、被検体内の放射性医薬品の生体内分布を決定する方法であって:
− 被検体内の複数の局所組織の位置で放射性医薬品から放出された放射線を、被検体上の複数の局所領域で、前記複数の局所組織の薬物動態挙動に適合された少なくとも1つの測定レートを用いて測定する測定段階であり、前記複数の局所組織に関する個々の放射線データセットを生成する測定段階、及び
− 個々の放射線データセットを処理する処理段階であり、それにより、前記複数の局所組織のうちのそれぞれの局所組織各々内の放射能を決定し、且つそれに基づいて、被検体内の放射性医薬品の生体内分布を決定する処理段階、
を有する方法に関する。
【0016】
一実施形態において、決定された放射性医薬品の生体内分布は、後の被検体内の放射線治療薬の線量分布を推定するために使用される。
【0017】
故に、決定された生体内分布(すなわち、時間−活量曲線)から、例えばベータ又はアルファ放出放射線治療薬を用いた後の治療段階において相異なる組織で吸収されるであろう線量を計算あるいは推定することが可能である。故に、この情報は、医師又はその他の熟練者がリスク組織を損傷する危険を冒すことなく治療処置中のドーズ量を選択する助けとなり得る。
【0018】
一実施形態において、放射性医薬品は、当該放射性医薬品の生体内分布が被検体内の調合薬の生体内分布を反映するよう、前記調合薬に付加あるいは結合されるように適合される。
【0019】
故に、その薬物が体内でどのように代謝されるかに関する情報は、研究目的において、あるいは、その薬剤が非標識版でのみ投与される、すなわち、放射線医薬品を用いないで投与されるFDA認可試験において、非常に有益となる。
【0020】
一実施形態において、前記少なくとも1つの測定レートを前記複数の局所組織の薬物動態挙動に適合させることは、前記少なくとも1つの測定レートを前記複数の局所組織の活量ダイナミクスに適合させることを有する。
【0021】
高い活量ダイナミクスは放出放射線において一層速い変化にて写し示されるので、それに従って、測定レート又は計数率は全ての関連データが収集されるように高められることになる。一方、活量ダイナミクスが低い場合には、放出放射線における変化は一層遅くなるので、測定レートは低下されることになる。それにより、時間―活量曲線を特徴付ける関連データ点が捕捉されることが確保される。一例として、放出放射線が第1の期間中に最大値まで非常に急峻に変化する場合、時間活量曲線の正確な形状を捕捉するためには、この期間にわたって放出放射線を非常に高速に測定することが好ましい。しかしながら、放出放射線が比較的ゆっくりと減少する後続期間においては、情報が失われる危険を伴うことなく、測定レートは低下され得る。センサーのこのような調整は手動あるいは自動で行うことができる。
【0022】
一実施形態において、前記少なくとも1つの測定レートを前記複数の局所組織の薬物動態挙動に適合させることは、最大の活量ダイナミクスを有する組織に適合された単一の測定レートを用いることを有する。
【0023】
複数の組織の薬物動態挙動は大きく異なり得るため、最大の活量ダイナミクスを有する組織に測定レートを適合させることにより、如何なる関連データ点も見逃されなくなる。その結果、複数の組織内の造影剤の生体内分布における非常に高精度な計算がもたらされる。
【0024】
一実施形態において、データセットを処理する処理段階は:
− 個々の放射線データセットのうちのそれぞれのデータセット各々にフィッティング処理を適用し、それぞれのデータセット各々に関する時間−活量曲線を生成すること、及びその後、
− それぞれのデータセット各々に関する時間−活量曲線の積分値を決定すること、
を有する。
【0025】
一実施形態において、測定段階は、放射性医薬品から放出される放射線の計数率が所定の閾値を下回るまで実行される。斯くして、自動的な“停止”機能が提供される。すなわち、この閾値レベル未満の全ての収集データは特に関連性を有しないので、該当する検出器の測定は停止あるいは中断されることが可能である。
【0026】
更なる他の一態様に従って、本発明は、コンピュータ上で実行されるときに、上述の方法段階を実行するよう処理装置に命令するコンピュータプログラムに関する。
【0027】
本発明のこれらの態様の各々は、その他の態様の何れかと組み合わされてもよい。本発明のこれら及びその他の態様は、以下にて説明される実施形態を参照して明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図面を参照して、本発明の実施形態を単なる例として説明する。
【図1】実線で指し示される理論的な時間活量曲線の一例と、従来技術を用いて収集され得るデータ点の分布とを示す図である。
【図2】時間tとともに組織から放出された放射線の測定データの強度A(t)の一例を示す図である。
【図3】患者の皮膚に取り付けられた多数の放射線検出器を示す図である。
【図4】被検体内の放射性医薬品の空間分布を決定する、本発明に従ったシステムを示す図である。
【図5】本発明に従った方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
例えば標的放射線治療などの、内部放射を用いた腫瘍過程の治療は、典型的に、所定量の造影剤の被検体の体内への導入を必要とする。このような薬剤は典型的に、例えばインジウム(111In)等のガンマ線を放出し、例えば造影版のゼバリン(Zevalin)(登録商標)の場合、使用される標識(label)の量はおよそ5mCiとなり得る。これらの標識は人体内で空間的に分布し、時間とともに指数関数的に活量が減衰する。時間をかけて様々な組織の放出放射線を測定することにより、それら組織内での生体内分布に関する情報が提供される。この情報に基づいて、例えば、それに続く体内治療計画でのベータ放出同位元素又はアルファ放出同位元素を用いた治療において組織(例として、器官の部分又は器官)内で吸収されるであろう線量を計算あるいは推定することが可能である。このようなベータ又はアルファ放出同位元素の例は、90Y又は211Atである。薬物ゼバリンの治療版である90Yゼバリンの場合、0.4mCi/kg体重(しかし、32mCi以下)の線量が投与される。従って、この情報は、リスク組織が損傷されないよう体内治療計画の最大許容線量を見積もることに高い関連性を有する。また、組織内の生体内分布は、例えば、そのような放射性標識を付加しての新たな抗ガン化学療法薬などの新たな調合薬の研究及び認可段階において重要な情報を与える。そして、薬剤の生体内分布は、例えば研究目的で、あるいはFDA認可試験において、その薬剤が体内でどのように代謝されるかに関する情報を提供する。後のその薬物の認可後には、それは非標識版でのみ投与されてもよい。
【0030】
図2は、時間tとともに組織から放出された放射線の測定データから得られた強度曲線A(t)の一例を示している。本発明によれば、リスク組織は健康な器官部分又は器官全体を形成し、標的組織は腫瘍を参照する。例えば、放射性標識された抗体が治療薬として用いられる場合、主なリスク器官は骨髄である。放射性標識されたペプチドが用いられる場合、主なリスク器官は腎臓である。組織に隣接して、被検体の皮膚に置かれた、あるいは取り付けられた少なくとも1つの放射線検出器によって、データ点が測定される。皮膚への取り付けは、例えば、検出器上にテープで貼られた接着ストリップを用いて行われ得る。人体から到来する放射線が測定されるので、当然ながら、皮膚と検出器との間には如何なる中間材も置かれないことが好ましい。
【0031】
検出器は、十分な量のデータ点が捕捉されることを確実にするため、測定レートを組織の薬物動態挙動に適合させるように設定される。高いデータ収集レートにより、多数のデータ点が、その特定組織からの時間−活量曲線201の実際の形状を非常に正確に反映する。
【0032】
センサーによって検出される時間−活量曲線は、単一の器官すなわち関心領域(ROI)における薬物動態に対応するだけでなく、その他の器官によっても影響を受けるので、異なるROI iのセンサー信号s(t)は:
【0033】
【数1】

によって与えられる。
【0034】
重み係数wijはROI iにおける活量aの、センサーjの信号への影響を記述する。各検出器は1つのROIに対応し、残りのバックグラウンドは同様に1つの更なるROIによってカバーされる。行列wijは、例えば、ROI iからセンサーjまでの距離rijの関数として選定されることが可能である。故に、係数行列wijが既知であり且つセンサー群からの信号s(t)が測定されると、器官iにおける活量a(t)が計算可能となる。
【0035】
(t)は更に、依然として必要とされることになる1つ又は2つの従来の撮像検査に基づいて、作り物の、補間によるSPECT画像又はPET画像を生成するために使用され得る。検出器の“視野”に対応する領域における核画像内で視認可能な活量は、後の時点での見積もりの活量画像を生成するために、それぞれの検出器のA(t)曲線に対応付けられることができる。相異なる領域は核画像の相異なる領域に影響を及ぼし得る。そして、これら領域間の好適な補間機構を用いて、更なる時点での合成PET画像又はSPECT画像を得ることができる。この一層多数の画像は、計画の精度を高めるために、標的放射線治療用の画像ベース計画作成ソフトウェアにて使用され得る。
【0036】
(先に定義した)重み行列wijは以下の方法によって決定され得る。
【0037】
I. ROI iの単純な点源モデルを用いた患者の物理モデルに基づいてwij行列を:
【0038】
【数2】

と計算することができる。
【0039】
ここで、Cは全体の倍率であり、μは患者の組織内での検出放射線の平均減衰係数である。μ及びrijは、前もって収集されたCT画像から得ることができる。検出器の数が関連ROIの数に等しいか、それより多い場合、等式(1)における全ての検出器に関する一次方程式の組は、ROI内の薬剤の薬物動態挙動a(t)を得るため反転され得る。さらに、検出器での測定活量と関心領域での活量との間の一層信頼できる関係を得るため、好適なファントムを用いた校正手順が実行してもよい。このモデルの幾何学構成は、例えば、代表的な標準患者又は例えばCT画像などからの患者特定データに基づき得る。
【0040】
II. wij行列を、例えばモンテカルロ法を用いて、患者モデルの数値シミュレーションに基づいて計算することができる。このモデルの幾何学構造は、例えば、代表的な標準患者又は例えばMR画像からの患者特定データに基づき得る。
【0041】
III. SPECT画像又PET画像を有する相異なる時点に関して、wij行列を直接的に計算することができる。sが測定され、aが画像データから既知であるので、等式(1)を用いて相異なる時点に関してwijを計算することが可能である。その後、得られた行列は1つの最終wijに平均化され得る。
【0042】
線量の計算は、好ましくは、非特許文献1、2に記載されているように、時間活量曲線の積分を計算することによって行われる。なお、非特許文献1及び2をここに援用する。故に、積分結果により、被検体内の生体内分布、ひいては、それに続くベータ放出同位元素又はアルファ放出同位元素を用いた治療処置において組織によって吸収されることになる線量が決定される。非特許文献1に開示されているように、時間−活量曲線を時間積分することにより、崩壊の総数を注入活量で割った値が得られる。これは、等式:
【0043】
【数3】

で与えられる所謂“滞留時間”をもたらす。ここで、a(t)はROI i内の時間活量曲線であり、Ainjは診断薬/造影剤の注入活量である。滞留時間は、例えばモンテカルロシミュレーション又は所謂S値手法に基づく線量計算の出発点である。S値行列は、被検体の幾何学特性及び放射線の物理特性を考慮に入れたソース(源)と標的領域との間のクロストークを記述する。例えば、S値行列は、ソース器官内での累積活量当たり、どれだけの線量が標的内で吸収されるかを提示する。故に、滞留時間が既知である場合、特定の同位元素及び特定の患者モデルに関する吸収内部線量を計算することが可能である。従って、用語“滞留時間”は、用語“線量”の代わりに用いてもよく、また、線量という用語に変換されてもよい。
【0044】
図1のデータ点は、ここでは、本発明の重要な観点のうちの1つ、すなわち、組織内の生体内分布を正確に反映するように測定レートを高めること、を示すための比較として示されている。背景技術にて述べたように、体内の線量分布に関する空間情報を提供することが可能な従来手法は、例えば、人体の3次元(3D)核画像を捕捉することに基づく陽電子放出断層撮影(PET)法や単一光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)法である。これらの画像の処理は、単一の時点に(すなわち、撮像が行われるときに)様々な器官から放出された放射線の量を指し示す空間データが生じさせる。図2は、4回の撮像手順から得られた単一器官に関する4つのデータ点101を示している(他の器官も4つのデータ点に然るべく関連付けられる)。このようにデータ点の数が少ないのは、これらの撮像手順に付随する高いコストのためである。今日の習慣では、患者は典型的に3回から4回の間の検査のみを受ける。限られた数のデータ点に起因して、得られる時間−活量曲線は非常に誤ったものになり得る。そして、このことは明らかに、生体内分布の不正確な見積もりをもたらす。この生体内分布は、放射線治療計画の最大許容線量を決定する主要なパラメータであるので、リスク組織に永久的な障害を生じさせる虞が急激に増大され得る。このことはまた、治療処置の線量が過小になることをもたらし得る。医師又はその他の熟練者は安全を期することを望むからである。
【0045】
一実施形態において、データ点は、例えば1/2時間ごと又は1時間ごとといった一定の時間間隔で収集されるが、この時間間隔は好ましくは、例えば測定される器官に応じて、調整可能にされる。異なる組織は異なる薬物動態挙動を有し得るからである。従って、一部の組織では、その他の組織より高いレートで放出放射線データを検出することが好ましいことがあり得る。検出器はまた、得られるデータセットが最大の活量ダイナミクスを有する組織の薬物動態挙動を非常に正確に反映することが確保される場合、例えば1/2時間ごと、10分ごと、又は1分ごとといった一定の測定レートで放出放射線データを収集するように構成されてもよい。
【0046】
図3は、多数の放射線検出器310a−310fが、ここではヒトとして示される被検体409の皮膚に取り付けられる場所を示している。この特定の例においては、局所的な組織領域は、心臓300、腎臓301、脾臓302、脊髄303、及び標的ボリューム304を形成している。ここに示すように、検出器はこれらの器官又は腫瘍の上に実質的に直接的に取り付けられる。一例として、1つの検出器310eが心臓300の上に直接的に配置され、1つの検出器がそれぞれの腎臓301各々の上に直接的に配置され、1つの検出器310dが脾臓302の上に直接的に配置され、4つの検出器301cが脊髄303に沿って配置され、2つの検出器310a、bが肝臓305に沿って配置され、そして、1つの検出器310fが標的ボリューム304の上に直接的に配置される。
【0047】
上述のように、治療処置に先立って、後の放射能治療薬の線量分布を決定するため、あるいは、放射性標識を付加しての新たな調合薬の研究及び/又は認可段階において使用されるべき情報を提供するため、被検体内の放射能造影剤の生体内分布が決定されなければならない。
【0048】
ここに示すように、心臓300、腎臓301、脾臓302、骨髄303、肝臓305及び標的ボリューム304内の造影剤の生体内分布が決定される。これは、例えばアルファ及びベータ放出同位元素を用いた、続く体内治療段階を計画するために行われてもよい。一実施形態において、検出器群の機能は、それらが自動的に、器官/リスク領域300−305内の造影剤から放出された放射線を検出することによって局所的な活量の累積測定を実行するようにされる。そのとき、その測定は好ましくは、放射能造影剤の注入の直後に開始され、例えば10日間、最大で2週間又はそれ以上といった複数の日数の後になり得る、活量が或る一定の閾値レベルを下回る時まで継続される。それぞれの検出器各々の測定値は、放出放射線の強度A(t)が時間tとともにどのように変化するかを指し示す図2に示したようなプロットをもたらす。故に、検出器ごとに、データセット全体で時間−活量曲線がフィッティングされ、組織群の放射能及びそれに基づいて被検体内の薬剤の生体内分布を決定するため、積分値が計算される。この例において、生体内分布は、後に実行される治療処置中に各器官で吸収されるであろう線量を推定するために用いられる。心臓の位置には1つの検出器310eのみが配置されているため、心臓300に関しては1つの線量値のみが推定されるが、例えば、脊髄に関しては各々の値がそれぞれの検出器310c各々の関連する4つの線量値が推定され、各々の値が脊髄303内の局所的な線量分布をもたらす。これら4つの測定値を脊髄内の単一の平均線量値へと合成することも可能である。
【0049】
図4は、被検体409内の放射性医薬品の生体内分布404を決定するための、本発明に従ったシステム400を示している。システム400は、検出器システム(D_S)401及びプロセッサ(P)402を有する。検出器システム(D_S)401は、100keV−550keVのエネルギー範囲内のガンマ放射線を検知するように適応されたMOSFETベース検出器、ダイオードベース検出器、熱ルミネセンス検出器(Thermal Luminescent Detectors;TLD)、フィルムベース検出器、ゲル(gel)ベース検出器、及び放出放射線を測定するように適応された何らかの装置、から成るグループからの1つ以上の検出器を有する。それらは、集積回路及びメモリチップ403を有するように構成されてもよい。そのような検出器の一例は、P. H. Halvorsenの論文(2005年、Medical Physics、第32巻、p.110-117)に開示されているような、集積回路及びメモリチップ403を更に有するMOSFETベース検出器である。なお、この文献をここに援用する。ルミネセンス検出器は、捕捉された放射線データが結晶に記憶され、該結晶を加熱することによって“記憶”データが放出光の形態で解放される結晶学メモリに基づき得る。これらのセンサーは更に、コンピュータ装置410に手動で転送され得るように可搬式メモリ機能を含んでいてもよい。コンピュータ装置410は、例えば、通常のPCコンピュータ、PDA、移動電話、メディアプレイヤー、又はプロセッサ402及びメモリ403を有する何らかの種類の知的装置を有し得る。
【0050】
一実施形態において、システム400は更に、通信チャネル406上で測定データをコンピュータ装置410に送信する送信器(T)408を有する。コンピュータ装置410では、受信器(R)405が送信データを受信し、それを例えばROM、RAM、DRAM、SRAM等のメモリ403に格納する。上述のデータ処理、すなわち、時間−活量曲線を決定するために測定データが先ずフィッティングされるフィッティング処理とその後の積分計算は、典型的に、コンピュータ装置410で実行される。しかしながら、プロセッサ(P)402及びこのメモリ403は、ユーザ側に配置され(ここでは図示せず)、検出システム(D_S)401に一体化されるか、被検体に配置あるいは取付けされるかの何れかにされてもよい。
【0051】
図5は、被検体内の放射性医薬品の生体内分布を決定するための、本発明に従った方法のフローチャートを示している。
【0052】
先ず、段階(S1)501にて、被検体内の局所的な標的組織及び/又はリスク組織の位置で造影剤から放出された放射線が測定される。そのとき、段階(S2)503にて、測定レートは組織の薬物動態挙動に適合され、組織群に関連する別々の(例えば図2に示されるような)放射線データセットを生じさせる。
【0053】
一実施形態において、測定レートを組織の薬物動態挙動に適合させることは、測定レートを組織の活量ダイナミクスに適合させることを有する。他の一実施形態において、これは、全ての検出器に対して同一の、最大の活量ダイナミクスを有する組織に適合された測定レートを用いることを含む。これは、例えば最大のA(t)値の付近のデータ点といった、図2に示した最も関連性の高いデータ点が捕捉されることを確実にするためである。プロットの急峻な部分が、放出放射線がその最大値に到達する部分とともに捕捉されるように、測定レートを組織の薬物動態挙動に適合させることが特に重要である。プロットの“テール部分”は当然ながら高い関連性を有するが、測定レートは、関連情報が失われる虞を生じさせることなく低下され得る。測定データに基づくテールのモデルが用いられ得る。
【0054】
そして、段階(S3)505にて、それぞれの組織各々の生体内分布を決定するためにデータセットが処理される。
【0055】
一実施形態において、得られた生体内分布は、段階(S4)507にて、例えば、後の段階での組織内の、薬剤ゼバリン(登録商標)の治療版内の90Y又は薬剤ベクザー(登録商標)の場合の131I等の、アルファ及びベータ放出同位元素を含む放射性治療薬の線量分布の指標として用いられる。
【0056】
他の一実施形態において、得られた生体内分布は、放射性標識が付加された新たな薬物の研究及び認可のために用いられる。その場合、段階(S4)507にて、生体内分布は、これらの薬物が体内でどのように代謝されるかという情報を得るために用いられる。
【0057】
段階(S3)505において、データセットの処理は、それぞれのデータセット各々にフィッティング処理を適用してそれぞれの組織各々に関する経時的な生体内分布を示す時間−活量曲線を決定することと、その後、それぞれのデータセット各々の時間−活量曲線の積分値を決定することとを含む。
【0058】
本発明が明瞭且つ完全に理解されるよう、限定目的でなく説明目的で、開示の実施形態の特定の具体的詳細事項を説明した。しかしながら、当業者に理解されるように、本発明は、この開示の精神及び範囲を有意に逸脱することなく、ここで説明した詳細事項に厳密には一致しない他の実施形態において実施されることも可能である。また、この文脈においては、簡潔性及び明瞭性の目的で、いたずらに詳細にすること及び当惑させてしまい得ることを回避するため、周知の装置、回路及び方法の詳細な説明は省略した。
【0059】
請求項に含まれる参照符号は、単に明瞭化のためであり、請求項の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内の放射性医薬品の生体内分布を決定するシステムであって:
− 前記被検体内の複数の局所組織の位置で前記放射性医薬品から放出された放射線を測定するための、少なくとも1つの測定レートを有し且つ複数の局所領域で前記被検体に取り付けられるように構成された2つ以上の検出器を有する検出器システムであり、測定された放射線は、前記複数の局所組織に関する個々の放射線データセットを生成し、前記検出器は更に、前記測定レートを前記複数の局所組織の薬物動態挙動に適合させるように構成されている、検出器システム、及び
− 前記個々の放射線データセットを処理して、前記複数の局所組織のうちのそれぞれの局所組織各々内の放射能を決定し、且つそれに基づいて、前記被検体内の前記放射性医薬品の前記生体内分布を決定するプロセッサ、
を有するシステム。
【請求項2】
前記2つ以上の検出器の各検出器は:
− 100keV−550keVのエネルギー範囲内のガンマ放射線を検知するように構成されたMOSFETベース検出器、
− ダイオードベース検出器、
− フィルムベース検出器、
− 熱ルミネセンス検出器、及び
− ゲルベース検出器、
のグループから選択されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサは外部プロセッサであり、当該システムは更に、通信チャネルを介して前記個々の放射線データセットを前記外部プロセッサに送信する送信器を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
送信された前記個々の放射線データセットを受信する受信器、を更に有する請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
被検体内の放射性医薬品の生体内分布を決定する方法であって:
− 前記被検体内の複数の局所組織の位置で前記放射性医薬品から放出された放射線を、前記被検体上の複数の局所領域で、前記複数の局所組織の薬物動態挙動に適合された少なくとも1つの測定レートを用いて測定する測定段階であり、前記複数の局所組織に関する個々の放射線データセットを生成する測定段階、及び
− 前記個々の放射線データセットを処理する処理段階であり、それにより、前記複数の局所組織のうちのそれぞれの局所組織各々内の放射能を決定し、且つそれに基づいて、前記被検体内の前記放射性医薬品の前記生体内分布を決定する処理段階、
を有する方法。
【請求項6】
決定された前記放射性医薬品の前記生体内分布は、後の前記被検体内の放射線治療薬の線量分布を推定するために使用される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記放射性医薬品は、当該放射性医薬品の前記生体内分布が前記被検体内の調合薬の生体内分布を反映するよう、前記調合薬に付加あるいは結合されるように適合される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの測定レートを前記複数の局所組織の前記薬物動態挙動に適合させることは、前記少なくとも1つの測定レートを前記複数の局所組織の活量ダイナミクスに適合させることを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの測定レートを前記複数の局所組織の前記薬物動態挙動に適合させることは、最大の活量ダイナミクスを有する組織に適合された単一の測定レートを用いることを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記個々の放射線データセットを処理する前記処理段階は:
− 前記個々の放射線データセットのうちのそれぞれのデータセット各々にフィッティング処理を適用し、前記それぞれのデータセット各々に関する時間−活量曲線を生成すること、及びその後、
− 前記それぞれのデータセット各々に関する前記時間−活量曲線の積分値を決定すること、
を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記測定段階は、前記放射性医薬品から放出される放射線の計数率が所定の閾値を下回るまで実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
コンピュータ上で実行されるときに、請求項5に記載の方法を実行するよう処理装置に命令するコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−509605(P2010−509605A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536840(P2009−536840)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054578
【国際公開番号】WO2008/059426
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】