説明

被覆体

【課題】 加工や熱膨張による基材の変形に対し、ガスバリア性被覆層の割れの発生を抑制した被覆体を提供する。
【解決手段】 基材表面の一部または全部に、アミノ基を分子内に有する有機化合物(I)と、アミノ基と反応し得る官能基を分子内に有する有機化合物(II)と、特定構造の有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物を含む組成物から得られる被覆層を有する被覆体であって、被覆層を、加水分解縮合による架橋構造に基づく緻密部分の量の異なる2層からなる積層構造とし、緻密部分の量の少ない層を基材表面側として柔軟性を持たせると共に、該部分の量の多い層でガスバリア性を確保する構成である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液晶表示装置のパネル用基板に好適な被覆体とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】液晶を用いた表示装置は、時計、電卓、自動車のパネル、ページャなどを始めとして様々な分野に用いられている。図1には単純な構造の液晶表示装置(パネル)の概略図を示す。液晶パネル1は、対向する2枚の基板2、2と配向膜3、3と透明電極4、4が夫々積層されて形成されたセルの中に液晶組成物5が封入されて構成されている。液晶表示装置(パネル)の適用範囲の拡大に伴って、パネルの薄膜化、軽量化、低コスト化の要求が高まり、最近では、基板2として従来のガラスに代わって樹脂フィルムが利用されることが多くなってきた。
【0003】基板に要求される特性としては、耐熱性、可撓性、透明性、耐湿性、耐溶剤性などであり、これらを満足する樹脂フィルムが基板に用いられている。しかし、ここで問題となってくるのは、樹脂フィルムの気体透過性である。すなわち、液晶組成物は一般的にセル内に減圧で封入されるが、基板の樹脂フィルムの気体透過性が大きい場合、酸素や窒素などの気体が樹脂フィルムを通過してセル内に気泡が生じてしまうのである。
【0004】このような問題を解決する方法として提案されていた従来のガスバリア性フィルム、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体や芳香族系ナイロンなどの気体不透過性素材は、耐湿性が悪く、ガスバリア性に温度依存性があるため不適であり、金属箔ラミネートフィルムは透明性がないため液晶パネルに使用できず、金属蒸着フィルムは可撓性が悪いといった問題があった。
【0005】上記従来のガスバリア性フィルムに存在していた問題点を解決する手段として、本発明者らは、特定構造の有機金属化合物などを含有するガスバリア用組成物を、樹脂フィルムに塗布して得られる基板を用いた液晶表示装置を開発し、既に特許を得ている(特許第3060903号)。この基板には、上記のガスバリア用組成物によって、耐熱性、可撓性、透明性、耐湿性、耐溶剤性に優れ、ガスバリア性の温度依存性の極めて小さなガスバリア層が設けられており、この基板を用いることで、上述の気泡の発生のない高性能な液晶表示装置の提供が可能となった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このように、特許第3060903号で開示する液晶表示装置に係る基板は、極めて優れた特性を有している。しかしながら、基板に設けられるガスバリア層は、架橋構造に基づく緻密で硬い被膜であり、以下の面で未だ改善の余地を残していた。
【0007】例えば、このガスバリア層を設けた樹脂フィルムを基板に加工などする際には、通常、樹脂フィルムは長尺であるため、一対のロールの間を通過させるなどしてフィルム送りをするが、このフィルム送り用ロールを通過する際に、ガスバリア層に割れ(クラック)が生じ、得られる基板のガスバリア性が低下する懸念があるため、フィルム送り用ロール間隙や、ロールの配置に、精密な調整が必要とされていた。
【0008】また、こうして得られる基板を用いた液晶表示装置では、使用に際して発熱するため、基板が熱膨張する。この熱膨張により、ガスバリア層に割れが生じてガスバリア性が低下する場合があるため、割れが生じないように、基板の取り付けに関する設計や、実際の取り付け作業に細心の注意が払われていた。
【0009】特許第3060903号に記載の基板に係るガスバリア層は、上記のような点に注意を払えば、十分に実用性のある可撓性を有するものであるが、上記の加工性や耐熱性を改善することで、液晶表示装置用基板や液晶表示装置の設計・生産をより容易なものとすることができる。
【0010】本発明は、上記の加工性や耐熱性をより改善した被覆層を有し、液晶表示用基板に好適な被覆体とその製造方法を提供することを、その課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の被覆体は、基材表面の一部または全部に、アミノ基を分子内に有する有機化合物(I)と、アミノ基と反応し得る官能基を分子内に有する有機化合物(II)と、下記一般式(1)
1mSi(OR2n (1)
(式中R1は、アミノ基と反応しない官能基で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、R2は、同一または異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは3以上の整数で、且つm+n=4である。)で表される有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物とを含む組成物から得られる被覆層を有する被覆体であって、前記被覆層は、下記の関係を有するA層およびB層を積層してなり、且つ、A層が基材表面側であるところに要旨を有する。
【0012】ここで、A層およびB層夫々の、有機化合物(I)由来の成分、有機化合物(II)由来の成分、および、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の合計量を100質量%とするとき、A層の有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の量XA(質量%)と、B層の有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の量XB(質量%)の関係は、XA<XBである。
【0013】上記被覆体に係るA層およびB層は、上記の関係に加えて、夫々の層において、有機化合物(I)由来の成分、有機化合物(II)由来の成分、および、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の合計量を100質量%とするとき、A層:有機化合物(I)由来の成分が7〜95質量%、有機化合物(II)由来の成分が40〜5質量%、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分が75〜0質量%であり、B層:有機化合物(I)由来の成分が5〜25質量%、有機化合物(II)由来の成分が20〜5質量%、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分が90〜65質量%であることが好ましい。
【0014】上記被覆体において、有機化合物(II)としては、さらにSiOR3基(R3は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。以下同じ。)を分子内に有するものが好ましい。また、上記被覆体の基材としては、樹脂成形体が挙げられる。
【0015】本発明の被覆体は、基材表面の一部または全部に、アミノ基を分子内に有する有機化合物(I)と、アミノ基と反応し得る官能基を分子内に有する有機化合物(II)と、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物とを混合して得られ、下記の関係を有する組成物Cおよび組成物Dを塗布して積層構造の被覆層を形成するに当たり、組成物Cから得られる層が基材表面側となるように、組成物Cおよび組成物Dを塗布することによって製造することができる。
【0016】ここで、組成物Cおよび組成物D夫々の、有機化合物(I)、有機化合物(II)、および、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物の合計量を100質量%とするとき、組成物Cの有機ケイ素化合物および/またはその加水分解縮合物の量XC(質量%)と、組成物Dの有機ケイ素化合物および/またはその加水分解縮合物の量XD(質量%)の関係は、XC<XDである。
【0017】本発明の被覆体のうち、特に上述した好ましい組成のA層およびB層を有する被覆体の製造に当たっては、上記組成物Cおよび組成物Dとしては、上記関係に加えて、夫々の組成物において、有機化合物(I)、有機化合物(II)、および、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物の合計量を100質量%とするとき、組成物C:有機化合物(I)が7〜95質量%、有機化合物(II)が40〜5質量%、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物が75〜0質量%であり、組成物D:有機化合物(I)が5〜25質量%、有機化合物(II)が20〜5質量%、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物が90〜65質量%である組成のものを用いればよい。
【0018】
【発明の実施の形態】本発明者らは、基材に被覆層を設けた液晶表示装置用基板に好適な被覆体について、上述した基板加工時や、製品(液晶表示装置)使用時の発熱に伴う熱膨張の際などに生じる被覆層の割れ抑制を課題として、鋭意検討を重ねた結果、被覆層を同種の高分子層からなる積層構造とし、各層での緻密さの程度を変えることで、被覆層の割れ抑制が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】本発明の被覆体が有する被覆層は、上記アミノ基を分子内に有する有機化合物(I)と、上記アミノ基と反応し得る官能基を分子内に有する有機化合物(II)と、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物とを含む組成物から得られるものである。
【0020】分子内にアミノ基を有する有機化合物(I)としては、アリルアミン、ジアリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−エトキシへキシルアミン、ジイソブチルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、エチレンジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミンなどの低分子有機化合物や、ポリエチレンイミン類;ポリアリルアミン類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリレートのホモポリマーや、これらアミノ基含有(メタ)アクリレートと他の(メタ)アクリレート類や(メタ)アクリル酸とのコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルアミン類などの高分子有機化合物が挙げられる。上記ポリエチレンイミン類としては、例えば日本触媒社製エポミンシリーズ(エポミンSP−003、エポミンSP−006、エポミンSP−012、エポミンSP−018、エポミンSP−103、エポミンSP−110、エポミンSP−200、エポミンSP−300、エポミンSP−1000、エポミンSP−1020など)が、またポリアリルアミン類としては、例えば日東紡績社製PAA−L、PAA−Hなどが好ましいものとして例示され、これらは単独で使用し得る他、必要により2以上を適宜組み合わせて併用しても構わない。
【0021】有機化合物(I)は、得られる被覆層に柔軟性と可撓性を与え、硬度や強度、緻密さを低下させることなく、被覆層の耐曲げ性や耐衝撃性を高める作用を発揮するものである。上記例示の化合物のうち、高分子有機化合物、中でもポリエチレンイミン類が、被覆層の可撓性などを高める上で特に有効である。このポリエチレンイミン類は、分子内の一部のアミノ基が置換可能な任意の基や化合物で置換されていてもよい。
【0022】なお、有機化合物(I)が上記例示の高分子有機化合物の場合、上述した作用を有効に発揮させるためには、数平均分子量が250以上、好ましくは300以上で、30,000以下、好ましくは10,000以下のものが推奨される。
【0023】有機化合物(II)は、エポキシ基、カルボキシル基、イソシアネート基、オキサゾリニル基、(メタ)アクリロイル基、アルデヒド基、ケトン基などの、アミノ基と反応し得る官能基を分子内に有するものである。有機化合物(II)の上記官能基が有機化合物(I)のアミノ基と反応して形成される反応物が、有機化合物(I)と、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物との相溶化剤として作用するため、組成がより均一な被覆層を形成することができる。
【0024】有機化合物(II)の具体例としては、フェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類;アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステルなどのグリシジルエステル類;β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリイソプロポキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのエポキシ基とSiOR3基を有するシランカップリング剤(以下、「エポキシ基含有シランカップリング剤」と省略することがある);γ−イソシアノプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアノプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアノプロピルメチルジエトキシシランなどのイソシアネート基とSiOR3基を有するシランカップリング剤;トリレンジイソシアネート、1,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのイソシアネート類などが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また、有機化合物(II)が、有機化合物(I)のアミノ基と反応し得る官能基を分子内に有する高分子化合物、またさらにSiOR3基を有する高分子化合物であってもよい。
【0025】有機化合物(II)の具体例として上記した化合物のうち、SiOR3基を有するものは、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物の加水分解性縮合基と縮重合反応できるため、推奨される。この他、有機化合物(II)がエポキシ基を有する場合には、有機化合物(I)のアミノ基と反応する際に、このエポキシ基が開環して水酸基を生成するが、この水酸基も有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物の加水分解性縮合基と縮重合反応できる。よって、有機化合物(II)の具体例として上記した化合物のうち、エポキシ基を有するものも、好ましく用いることができる。
【0026】このような上記例示の有機化合物(II)の中でも、アミノ基との反応性が良好で、形成される被覆層の耐湿性が優れている点で、エポキシ基含有シランカップリング剤が特に推奨される。
【0027】有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物は、縮重合反応によって、架橋構造に基づく緻密部分(緻密なポリシロキサン部分)を被覆層中に形成する成分であり、この緻密部分の存在により、温度依存性の極めて小さなガスバリア性が確保される。
【0028】有機ケイ素化合物(III)は、上記一般式(1)で表される化合物であれば、特に限定されない。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン類、トリメチルシラノールなど、またはこれらの化合物を含む高分子有機化合物などが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。中でも、形成された被覆層が良好な耐湿性を示す点から、上記一般式(1)において、n=4であることが好ましく、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが推奨される。
【0029】なお、有機化合物(II)がSiOR3基を分子内に有する場合、有機化合物(II)と有機ケイ素化合物(III)は、分子内にアミノ基と反応し得る官能基を有するか否かで区別される。
【0030】被覆層形成時の乾燥の際(後述する)の蒸発を防ぐため、有機ケイ素化合物(III)は予め加水分解縮合したものであることが好ましい。この加水分解縮合は公知の触媒を用いて行うことができ、また後述の溶媒中で反応させるのが有利である。
【0031】本発明の被覆体に係る被覆層では、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物が加水分解縮合することによって形成される架橋構造に基づく緻密部分(より具体的には、緻密なポリシロキサン部分)により、温度依存性の小さなガスバリア性が確保されるが、他方、この緻密部分が多くなるほど、被覆層は硬く、かつ脆くなる。
【0032】そこで、被覆層を積層構造とし、各層毎の加水分解縮合による架橋構造に基づく緻密部分の量を変え、被覆層表面側の層(B層)は緻密部分を多くして高いガスバリア性を確保する一方、基材表面側の層(A層)は緻密部分の量をB層よりも減らす構成とする。
【0033】このA層は、B層よりも柔軟性が高いため、基材が曲げられたり、熱膨張することなどによって変形が生じた場合に、A層が緩衝層としての役割を果たすものと考えられる。よって、より硬度の高いB層単層の場合よりも、A層を設ける方が、ガスバリア性を高いレベルで確保しつつ、基材のより大きな変形に対して、被覆層の割れ発生を抑制できるのである。
【0034】本発明の被覆体に係る被覆層において、基材表面側のA層をより柔軟な層とし、被覆層表面側のB層をより緻密なガスバリア層とする構成は、A層およびB層夫々の、有機化合物(I)由来の成分、有機化合物(II)由来の成分、および、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の合計量を100質量%とするとき、A層の有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の量XA(質量%)と、B層の有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の量XB(質量%)の関係が、「XA<XB」である場合に達成される。
【0035】上述の通り、被覆層中で加水分解縮合による架橋構造に基づく緻密部分を形成するのは、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物である。なお、例えば有機化合物(II)が「Si(OR33基」を有する化合物である場合などでは、この有機化合物(II)も上記緻密部分を形成し得る可能性はある。しかしながら、実際にはこのような官能基を有する有機化合物(II)であっても、上記緻密部分形成には、ほとんど寄与しない。これは、有機化合物(II)が、可撓性向上成分である有機化合物(I)との反応物を形成するためであると考えられる。
【0036】従って、上記のように、A層およびB層における有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の量の関係のみ規定すれば、各層の緻密部分の量の関係を制御することができるのである。
【0037】このようにして、A層(基材表面側の層)は緻密部分の量がより少なく、B層(被覆層表面側の層)は緻密部分の量がより多い構成を確保することで、A層に緩衝層としての作用を発揮させ、他方、B層にはガスバリア層としての作用を発揮させることができる。
【0038】上記A層およびB層については、各層夫々の、有機化合物(I)由来の成分、有機化合物(II)由来の成分、および、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の合計量を100質量%とするとき[被覆層中の(I)〜(III)の化合物由来の成分量について、以下同じ]、A層は、有機化合物(I)由来の成分が7質量%以上95質量%以下、有機化合物(II)由来の成分が5質量%以上40質量%以下、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分が0質量%以上75質量%以下であることが好ましい。他方、B層の組成は、有機化合物(I)由来の成分が5質量%以上25質量%以下、有機化合物(II)由来の成分が5質量%以上20質量%以下、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分が65質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0039】A層において、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分量が上記範囲を超えると、緩衝層として必要な柔軟性が損なわれる傾向にある。より好ましくは5質量%以上65質量%以下である。
【0040】また、B層において、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分量が上記範囲を超えると、可撓性向上成分である有機化合物(I)由来の成分や、相溶性向上成分である有機化合物(II)由来の成分量が非常に少なくなり、B層の可撓性や、B層中の組成の均一性が低下して安定したガスバリア性が確保し難くなる。他方、この成分が上記範囲を下回ると、十分なガスバリア性の確保が困難となり、被覆層の耐湿性も低下する。より好ましくは70質量%以上85質量%以下である。
【0041】さらにA層またはB層において、有機化合物(I)由来の成分量が夫々上記範囲を超えると、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分量が低下するため、これに伴う上述の不具合が生じる傾向にある。他方、A層またはB層において、この成分量が夫々上記範囲を下回ると、可撓性や柔軟性が不十分となる傾向にある。より好ましくは、A層:10質量%以上50質量%以下、B層:10質量%以上20質量%以下である。
【0042】加えてA層またはB層において、有機化合物(II)由来の成分量が夫々上記範囲を超えると、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分量が低下するため、これに伴う上述の不具合が生じる傾向にある。他方、A層またはB層において、この成分量が夫々上記範囲を下回ると、各層中で組成の均一性が低下し、安定した物性が確保し難くなる。より好ましくは、A層:10質量%以上30質量%以下、B層:10質量%以上15質量%以下である。
【0043】本発明の被覆体に係る被覆層において、A層とB層は同種の高分子層であるため、A層−B層界面の接着が極めて良好で、この界面での剥離の懸念がなく、また、両層の屈折率もほぼ同じであるため、液晶表示装置用の基板として重要な特性である高い透明性を確保することもできる。
【0044】本発明の被覆体に係る基材としては、液晶表示装置用基板用途の面からは、樹脂成形体、より具体的には樹脂フィルムが挙げられる。樹脂成形体の素材は、耐熱性、耐溶剤性や透明性などに優れ、通常、液晶表示装置用基板として使用されるもの、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルスルホンなどを使用すればよい。なお、本発明の被覆体が、液晶表示装置用基板に使用される場合、基材である樹脂成形体(フィルム)の厚みは、10μm〜300μm程度とするのが一般的である。
【0045】なお、本発明の被覆体においては、例えば、基材が上記のようなフィルム状の場合などでは、基材の片面または両面に被覆層を有する態様が一般的である。
【0046】また、本発明の積層体に係る被覆層は、上述した通り、基材の曲げや熱膨張などに伴う変形に対する割れの発生を、高いレベルで抑制できるものであるため、基材として、様々な素材の樹脂フィルムを始めとする樹脂成形体(ボトル、容器など)や、FRP(繊維強化プラスチック)、編物、織物、不織布、紙、合成紙などを採用し、液晶表示装置用基板以外の用途に適用することもできる。
【0047】基材の素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどやこれらの共重合体などのポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリスチレンなどのスチレン系樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸およびそのエステルなどのアクリル系樹脂;ポリオキシメチレン;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA);ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリビニルアルコール;エチレン−ビニルアルコール共重合体;ポリエーテルケトン;セロファン;ポリエーテルサルホン;ポリサルホン;ポリフェニレンサルホン;アイオノマー樹脂、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂が好ましく用いられるが、この他、被覆成形体の用途や他の要求特性によっては、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ユリア樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミドなどの熱硬化性樹脂を使用することも可能である。また、樹脂以外にも、ステンレス鋼などの鉄基金属、銅などの金属などを、基材の素材として採用することもできる。
【0048】本発明の被覆体は、A層を形成するための組成物Cを基材表面に塗布し、続いて、B層を形成するための組成物Dを、組成物Cを塗布した上に重ねて塗布し、乾燥・硬化させて積層構造の被覆層を形成させることにより製造できる。組成物Cおよび組成物Dの塗布は、まず、組成物Cを塗布し、一旦乾燥し、場合によってはさらに硬化させた後に、組成物Dを塗布するといった段階的な方法でも良く、組成物Cの塗布後、連続して組成物Dを塗布してもよい。製造コストの面からは、後者の方法、すなわち、組成物Cと組成物Dを連続的に塗布する方法を採用することが好ましい。
【0049】なお、組成物Cおよび組成物Dは、後述する溶媒(IV)も含むものであるが、これらを連続的に塗布する場合、溶媒(IV)に比較的蒸発し易いものを選択し、組成物Cの塗布と組成物Dの塗布の間にある程度の間隔[例えば、5〜300秒程度(好ましくは60秒程度以下)]を設けることで、塗布された組成物C中の溶媒(IV)がある程度蒸発するため、組成物Cの塗布部分に組成物Dを塗り重ねても、組成物Cと組成物Dとが層間で混ざり合うことによる組成の変化を、ほぼ抑制することができる。
【0050】組成物Cと組成物D夫々の、有機化合物(I)、有機化合物(II)および有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物の合計量を100質量%とするとき(被覆層形成用の組成物中の量において、以下同じ)、組成物Cの有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物の量XC(質量%)と、組成物Dの有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物の量XD(質量%)の関係が「XC<XD」である場合に、上記「XA<XB」の関係を満足する本発明の被覆体を製造することができる。
【0051】さらに、組成物Cとしては、有機化合物(I)を7質量%以上95質量%以下、好ましくは10質量%以上50質量%以下、有機化合物(II)を5質量%以上40質量%以下、好ましくは10質量%以上30質量%以下、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物を0質量%以上75質量%以下、好ましくは5質量%以上65質量%以下混合して得られるものを用いることが推奨される。また、組成物Dとしては、有機化合物(I)を5質量%以上25質量%以下、好ましくは10質量%以上20質量%以下、有機化合物(II)を5質量%以上20質量%以下、好ましくは10質量%以上15質量%以下、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物を65質量%以上90質量%以下、好ましくは70質量%以上85質量%以下混合して得られるものを用いることが望ましい。上記の組成であって、且つ「XC<XD」を満たす組成物Cおよび組成物Dを用いることで、上述した組成のA層およびB層を形成することができる。
【0052】なお、組成物Cおよび組成物Dは、基材表面に塗布される液状のものであり、溶媒(IV)も含む。溶媒(IV)の種類に格別の制限はないが、有機化合物(I)、有機化合物(II)、および有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物を溶解し、若しくは分散させ得る溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;その他、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル、水などが挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0053】組成物Cおよび組成物Dでの溶媒(IV)の使用量は特に限定されないが、該組成物全量のうち20〜95質量%とすることが好ましい。20質量%未満では、塗工中に組成物の粘度が上昇して均一塗工ができなくなることがあり、他方、95質量%を超えると、被覆層形成成分が低濃度となりすぎるため、要求する特性を獲得するのに必要な厚みを確保できなくなる恐れが生じてくる。
【0054】組成物Cおよび組成物Dの調製方法は特に限定されず、必要な各化合物を溶媒(IV)中で混合すればよい。なお、化合物間で反応を行う場合は、溶媒(IV)中で予め有機化合物(I)と有機化合物(II)を反応させてから有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物を加える方法、有機化合物(I)の存在下で有機ケイ素化合物(III)と有機化合物(II)[例えば、有機化合物(II)が加水分解性基を有する場合]を加水分解する方法などが、組成物の安定性を高める点で好ましく採用される。また、上述の、有機ケイ素化合物(III)の加水分解縮合は、これらの反応前、あるいは反応後に行なってもよい。よって、基材に塗布する前の組成物Cおよび組成物D中には、上記の各化合物のみならず、これらの反応物が含まれている場合もある。この場合の組成物中の各化合物量は、未反応の化合物量に、反応物を形成した化合物量を加えた量である。
【0055】例えば好ましい一例の、ポリエチレンイミン[有機化合物(I)]、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン[有機化合物(II)]、およびテトラメトキシシランオリゴマー[有機ケイ素化合物(III)の加水分解縮合物]を含む組成物Cおよび組成物Dの調製では、まず、ポリエチレンイミンとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランをメタノール中、40〜65℃で0.5〜24時間反応させる。これを室温まで冷却した後、メタノール/水混合液を加え、さらに5分〜24時間反応させる。これにテトラメトキシシランオリゴマーのメタノール溶液を加え、30分〜24時間反応させて、上記各化合物の反応物も含む組成物が得られる。組成物Cと組成物Dは、ポリエチレンイミン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、およびテトラメトキシシランオリゴマーの混合比率を、上述の特定範囲とすることで作り分ける。
【0056】こうして得られる組成物Cおよび組成物Dを、上述の基材に、組成物C→組成物Dの順で塗布する。塗布方法は特に限定されず、例えば、ロールコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、ノズルコーティング法、ダイコーティング法、スプレーコーティング法などや、これらを組み合わせた方法を採用できる。なお、組成物Cと組成物Dの塗布のタイミングは、上述したように、段階的であっても、連続的であってもよい。
【0057】塗布後は、被覆層の乾燥・硬化を行なうが、このときの好ましい条件(温度、時間など)は、被覆層に使用する化合物の種類や塗布量などによって変化するため、一概には決められない。例えば、上記の、ポリエチレンイミン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、およびテトラメトキシシランオリゴマーと、これらの反応物を含む組成物C並びに組成物Dを用い、後述する好ましい厚みの被覆層を形成させる場合では、組成物Cを基材表面に塗布後、60〜100℃で5秒〜5分乾燥させる。その後組成物Dを、組成物Cの乾燥層上に塗布し、60〜100℃で5秒〜5分乾燥させる。その後、40〜60℃で1〜7日間熟成させて硬化を進めることで、本発明の被覆体が得られる。また、組成物Cと組成物Dを連続的に塗布する場合は、組成物Cの塗布と、組成物Dの塗布の間に、上述した程度の間隔を設ける。その後、40〜60℃で5秒〜5分乾燥させ、さらに上記条件で熟成させて硬化を進めればよい。上記の乾燥温度や熟成・硬化温度は一定でなくてもよく、製造装置などの都合に応じて、上記温度範囲内で変化させても構わない(例えば、乾燥に当たっては、始め100℃程度で数秒、その後50℃程度で数十秒とするなど)。なお、上記の各条件は、あくまで本発明の被覆体を製造し得る条件の一例であって、組成物Cと組成物Dの塗布順序を除き、上記製造条件に限定されるわけではない。
【0058】また組成物Cの塗工前にウレタン樹脂などの公知のアンカーコート層を設けてもよく、この他、本発明に係る被覆層の形成後に、例えば耐溶剤性を向上させるための保護層を設けてもよい。
【0059】上記乾燥・塗布後の被覆層の厚みは特に限定されないが、十分な特性(ガスバリア性、可撓性、柔軟性など)を確保するためには、通常、A層:0.1μm以上5μm以下、B層:0.1μm以上5μm以下とすることが好ましい。より一般的には、A層:0.3μm以上1.5μm以下、B層:0.3μm以上1.5μm以下である。また、被覆層全体の厚み(A層とB層の合計厚み)としては0.2μm以上10μm以下、より好ましくは0.6μm以上3μm以下が推奨される。A層またはB層が薄すぎると、これらによる作用(A層:主に緩衝層としての作用、B層:主にガスバリア層としての作用)が十分に発揮されない。他方、B層または被覆層全体が厚すぎると、可撓性不足となる傾向にあり、曲げや熱膨張によって基材が変形した際に、被覆層(特にB層)が割れを起こし易くなり、被覆体のガスバリア性が低下する場合がある。なお、被覆層全体の厚みの下限は、A層およびB層の各厚みの好ましい下限の和から決定される。この他、A層の厚みが上記上限を超えると、被覆層全体の厚みが大きくなりすぎて、上述したように被覆層の割れが生じ易くなる。
【0060】本発明の被覆体を液晶表示装置用基板として用いる場合、被覆体の片面または両面に、電極となる透明導電層を形成させる。透明導電層の素材としては特に限定されず、公知のもの、例えばITO(酸化インジウム・酸化スズ)などが使用できる。透明導電層の形成方法も特に限定されず、公知の方法、例えばスパッタリング法などが採用可能である。
【0061】なお、こうしたセラミックス製の透明導電層もまた、基板加工や液晶表示装置内での熱膨張による基材の変形に伴う割れの発生が懸念されていたが、本発明の被覆体では、緩衝層としての働きを有すると考えられるA層の存在により、透明導電層の割れも、非常に高いレベルで抑制することができた。
【0062】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0063】なお、本実施例において、酸素透過度は、温度20℃、湿度60%RHの条件で、モダンコントロールズ社製の酸素透過度測定装置によって測定した。
【0064】組成物C(A層形成用の組成物)の調製ポリエチレンイミン(日本触媒社製、エポミンSP−018)10g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン10gおよびメタノール270gの混合液を窒素雰囲気下、65℃で3時間反応後、室温まで冷却し、水5gとメタノール25gの混合液を加え、撹拌しながら30分反応させた。これにテトラメトキシシランオリゴマー(多摩化学社製、Mシリケート51)30gとメタノール120gの混合液を加え、撹拌しながら1時間反応させて組成物Cを得た。
【0065】組成物D(B層形成用の組成物)の調製テトラメトキシシランオリゴマーの量を60gに変更した他は、上記組成物Cと同様にして組成物Dを調製した。
【0066】実験1実施例1組成物Cを100μm厚のポリカーボネートフィルムに、乾燥後の層の厚みが0.5μmとなるように塗布し、100℃で10秒乾燥後、さらに50℃で1分乾燥した。この組成物Cの乾燥層上に、組成物Dを、乾燥後の被覆層全体の厚みが1μmとなるように塗布し、100℃で10秒乾燥後、さらに50℃で7日間熟成させて硬化を進め、被覆体1を得た。次に、被覆体1の被覆層上に、スパッタリング法によってITO透明導電層(厚さ1000Å)を形成させた。
【0067】透明導電層を形成させた被覆体1について、透明導電層が外側となるように90°折り曲げ試験を行い、被覆層側表面(透明導電層表面)の状態を目視評価すると共に、酸素透過度測定を行った。結果を表1に示す。なお、被覆層側表面の状態評価の基準は、○:変化なし,×:クラックが観察される,とした。
【0068】比較例1組成物Dを100μm厚のポリカーボネートフィルムに、乾燥後の層の厚みが1μmとなるように塗布し、100℃で10秒乾燥後、さらに50℃で7日間熟成させて硬化を進め、被覆体2を得た。次に、被覆体2の被覆層上に、スパッタリング法によってITO透明導電層(厚さ1000Å)を形成させた。透明導電層を設けた被覆体2について、実施例1と同様にして被覆層側表面の状態評価、および酸素透過度測定を行った。結果を表1に示す。
【0069】比較例2組成物Dを100μm厚のポリカーボネートフィルムに、乾燥後の層の厚みが0.5μmとなるように塗布し、100℃で10秒乾燥後、さらに50℃で1分乾燥した。この組成物Dの乾燥層上に、さらに組成物Dを、乾燥後の被覆層全体の厚みが1μmとなるように塗布し、100℃で10秒乾燥後、さらに50℃で7日間熟成させて硬化を進め、被覆体3を得た。次に、被覆体3の被覆層上に、スパッタリング法によってITO透明導電層(厚さ1000Å)を形成させた。透明導電層を設けた被覆体3について、実施例1と同様にして被覆層側表面の状態評価、および酸素透過度測定を行った。結果を表1に示す。
【0070】比較例3組成物Cを100μm厚のポリカーボネートフィルムに、乾燥後の層の厚みが0.5μmとなるように塗布し、100℃で10秒乾燥後、さらに50℃で1分乾燥した。この組成物Cの乾燥層上に、さらに組成物Cを、乾燥後の被覆層全体の厚みが1μmとなるように塗布し、100℃で10秒乾燥後、さらに50℃で7日間熟成させて硬化を進め、被覆体4を得た。次に、被覆体4の被覆層上に、スパッタリング法によってITO透明導電層(厚さ1000Å)を形成させた。透明導電層を設けた被覆体4について、実施例1と同様にして被覆層側表面の状態評価、および酸素透過度測定を行った。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】


【0072】本発明の要件を満足し、A層とB層が積層された被覆層を有する被覆体1では、90°折り曲げといった苛酷な基材の変形にもかかわらず、良好な表面状態と酸素透過度(ガスバリア性)を維持している。
【0073】これに対し、本発明の要件を満足しない被覆体2〜4のうち、被覆体2,3は、緻密なポリシロキサン部分(加水分解縮合による架橋構造に基づく緻密部分)を構成するテトラメトキシシランオリゴマー由来の成分が多い上記B層のみから構成される被覆層を有する例であり、90°折り曲げ試験により、表面状態、ガスバリア性のいずれもが低下している。
【0074】また、緻密なポリシロキサン部分を構成するテトラメトキシシランオリゴマー由来の成分が少ない上記A層のみから構成される被覆層を有する例である被覆体4では、90°折り曲げ試験後の表面状態は良好であるものの、ガスバリア性が劣っている。
【0075】実験2実施例2組成物Cをステンレス鋼板(SUS304,厚み1mm)に、乾燥後の層の厚みが0.5μmとなるように塗布し、100℃で10秒乾燥後、さらに50℃で1分乾燥した。この組成物Cの乾燥層上に、組成物Dを、乾燥後の被覆層全体の厚みが1μmとなるように塗布し、100℃で10秒乾燥後、さらに50℃で7日間熟成させて硬化を進め、被覆体5を得た。得られた被覆体5について、被覆層が外側となるように90°折り曲げ試験を行った。
【0076】比較例4組成物Dをステンレス鋼板(SUS304,厚み1mm)に、乾燥後の層の厚みが1μmとなるように塗布し、100℃で10秒乾燥後、さらに50℃で7日間熟成させて硬化を進め、被覆体6を得た。この被覆体6について、実施例2と同様に90°折り曲げ試験を行った。
【0077】上記90°折り曲げ試験後の被覆体5および6の被覆層表面の状態を目視観察したところ、本発明の要件を満足する被覆体5では、試験前後で被覆層表面に特に変化は生じなかったが、本発明の要件を満たさない被覆体6では、試験後に折り目部分でクラックが生じていた。
【0078】
【発明の効果】本発明は以上のように構成されており、基材表面に形成する被覆層を、ガスバリア性に優れた緻密層と、柔軟性に優れた層の積層構造とすることで、基材の変形に対する被覆層の割れを抑制した被覆体とその製造方法を提供することができた。本発明の被覆体は、従来の液晶表示装置用樹脂フィルム基板よりも、加工時のフィルム送りや熱膨張による基材の変形に対して、被覆層の割れ発生が極めて少なく、特にガスバリア性の低下が抑えられる。
【0079】さらに本発明の被覆体に係る被覆層は、同種の高分子層を積層したものであるため、層間での剥離もなく、透明性も良好である。
【0080】よって、液晶表示装置用基板に好適であり、本発明の被覆体を採用することで、液晶表示装置の設計・生産がより容易となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 単純な構造の液晶表示装置の一例を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材表面の一部または全部に、アミノ基を分子内に有する有機化合物(I)と、アミノ基と反応し得る官能基を分子内に有する有機化合物(II)と、下記一般式(1)
1mSi(OR2n (1)
(式中R1は、アミノ基と反応しない官能基で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、R2は、同一または異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは3以上の整数で、且つm+n=4である)で表される有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物とを含む組成物から得られる被覆層を有する被覆体であって、前記被覆層は、下記の関係を有するA層およびB層を積層してなり、且つ、A層が基材表面側であることを特徴とする被覆体。ここで、A層およびB層夫々の、有機化合物(I)由来の成分、有機化合物(II)由来の成分、および、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の合計量を100質量%とするとき、A層の有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の量XA(質量%)と、B層の有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の量XB(質量%)の関係は、XA<XBである。
【請求項2】 前記A層および前記B層は、夫々の層において、有機化合物(I)由来の成分、有機化合物(II)由来の成分、および、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分の合計量を100質量%とするとき、A層:有機化合物(I)由来の成分が7〜95質量%、有機化合物(II)由来の成分が40〜5質量%、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分が75〜0質量%であり、B層:有機化合物(I)由来の成分が5〜25質量%、有機化合物(II)由来の成分が20〜5質量%、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物由来の成分が90〜65質量%である請求項1に記載の被覆体。
【請求項3】 前記有機化合物(II)は、さらにSiOR3基(R3は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す)を分子内に有するものである請求項1または2に記載の被覆体。
【請求項4】 前記基材は、樹脂成形体である請求項1〜3のいずれかに記載の被覆体。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれかに記載の被覆体を製造する方法であって、基材表面の一部または全部に、アミノ基を分子内に有する有機化合物(I)と、アミノ基と反応し得る官能基を分子内に有する有機化合物(II)と、下記一般式(1)
1mSi(OR2n (1)
(式中R1は、アミノ基と反応しない官能基で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、R2は、同一または異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは3以上の整数で、且つm+n=4である)で表される有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物とを混合して得られ、下記の関係を有する組成物Cおよび組成物Dを塗布して積層構造の被覆層を形成するに当たり、組成物Cから得られる層が基材表面側となるように、組成物Cおよび組成物Dを塗布することを特徴とする被覆体の製造方法。ここで、組成物Cおよび組成物D夫々の、有機化合物(I)、有機化合物(II)、および、有機ケイ素化合物(III)および/またはその加水分解縮合物の合計量を100質量%とするとき、組成物Cの有機ケイ素化合物および/またはその加水分解縮合物の量XC(質量%)と、組成物Dの有機ケイ素化合物および/またはその加水分解縮合物の量XD(質量%)の関係は、XC<XDである。

【図1】
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【公開番号】特開2003−71989(P2003−71989A)
【公開日】平成15年3月12日(2003.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−270334(P2001−270334)
【出願日】平成13年9月6日(2001.9.6)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】