説明

被覆剤組成物とその硬化物および硬化方法

【課題】 活性エネルギー線照射による硬化前においてもタックがないため、塗工後の異物付着などによる汚染が少なく、また作業性の良好な、特に床材などとして有用な被覆剤組成物およびその硬化物を提供する。
【解決手段】 本発明の被覆剤組成物は、少なくとも、水に分散した光重合性プレポリマー及び光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化性の組成物であって、光重合性プレポリマーの重量平均分子量が15000〜30000であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活性エネルギー線硬化性樹脂を用いた被覆剤組成物及びその硬化物に関する。さらに詳しくは、紫外線照射前においても、タックの生じない塗布作業性の良好な被覆剤組成物及びその硬化物に関する。また、硬化物の耐摩耗性を向上させる硬化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被覆剤組成物は、主に床面等に塗布、乾燥して塗膜を形成し、床の美観を保ち、水汚れを防ぎ、基材を保護する目的で、木製床材あるいは合成樹脂の原料を用いた化学床材等に幅広く利用されている。
【0003】
従来、床用被覆剤としては、作業時の安全性等の観点から、スチレン樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、スチレン−アクリル共重合エマルジョン等が用いられている。しかし、これらの被覆剤は、硬化時の硬度の立ち上がりが遅く、完全に硬質化するまでには約1週間かかるため、硬化までの間に塗膜が汚染されるという欠点があった。これらを解決するために、紫外線などの活性エネルギー線照射によって瞬時に硬化可能な活性エネルギー線硬化型の被覆剤組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、これらの活性エネルギー線硬化型の被覆剤組成物は活性エネルギー線による硬化前はタックを伴う液状または塗膜であり、硬化前に上を歩いて作業することが不可能であり、作業性が著しく低いものであった。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−308076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、紫外線などにより瞬時に硬化可能な活性エネルギー線硬化型組成物であって、活性エネルギー線照射前でもタックを生じない、塗布作業性に優れた被覆剤組成物、さらには、該被覆剤組成物の硬化物を提供することにある。また、該被覆剤硬化物の耐摩耗性を向上させる硬化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定の分子量を有する光重合性プレポリマーの水分散体を含む被覆剤組成物によって、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、少なくとも、水に分散した光重合性プレポリマー及び光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化性の組成物であって、光重合性プレポリマーの重量平均分子量が15000〜30000であることを特徴とする被覆材組成物を提供する。
【0008】
さらに、本発明は、光重合性プレポリマーが、ポリオール、有機イソシアネート化合物、及び、(メタ)アクリロイル基および水酸基を少なくとも1つずつ有する化合物を含む前記の被覆剤組成物を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、光重合性プレポリマーが、カルボキシル基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含んでなる前記の被覆剤組成物を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、床面に塗布する用途である前記の被覆剤組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記の被覆剤組成物を活性エネルギー線により硬化した被覆剤硬化物を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、スチールウール(#0000)を用いて、荷重500g/cm2で表面を10往復擦過する試験を行った際の光沢保持率(試験後の光沢度(60°)/試験前の光沢度(60°)×100)が60%以上である前記の被覆剤硬化物を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記の被覆剤組成物を塗布、乾燥した後、塗布された被覆剤層を40〜90℃に加熱しながら紫外線照射により硬化させる被覆剤組成物の硬化方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の被覆剤組成物は、活性エネルギー線照射により瞬時に硬化するため、硬化時の被覆剤層の汚染がなく、また特定の分子量を有する水分散性の光硬化性プレポリマーを用いるため、被覆剤は低粘度であり、さらに硬化前においてもタックがないため、塗布性などの作業性に優れている。そのため、該被覆剤組成物の硬化物は、仕上がりが良好で優れた美観性、耐摩耗性、耐傷つき性、耐汚染性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の被覆剤組成物は、少なくとも、光重合性プレポリマーと光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化型組成物である。本発明の被覆剤組成物は、活性エネルギー線硬化型であるため、塗布後、硬化までの時間が非常に短く、硬化中に被覆層が汚染することがほとんどないため好ましい。なお、本発明の被覆剤組成物の硬化に用いられる活性エネルギー線は、可視光、紫外線、電子線など、特に限定されないが、反応性、コストなどの観点から、紫外線を用いることが好ましい。
【0016】
また、本発明の被覆剤組成物には、必要に応じ、本発明の硬化を損なわない範囲内で、反応性希釈剤(モノマー)、光重合触媒や、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、造膜助剤、可塑剤、撥水剤、増粘剤、着色剤、顔料、珪素化合物などの各種添加剤が含まれていてもよい。
【0017】
本発明の被覆剤組成物に用いられる光重合性プレポリマーは、活性エネルギー線によって重合するプレポリマーであれば、特に限定されず、ラジカル重合性であってもよいし、カチオン重合性のプレポリマーであってもよい。上記プレポリマーとしては、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエチレン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、ポリアミド(メタ)アクリレート等を例示できる。中でも、ラジカル重合性プレポリマーとしては、アクリロイル基やビニル基を有するプレポリマーであり、ウレタン(メタ)アクリレート系プレポリマーやエポキシ(メタ)アクリレート系、エステル(メタ)アクリレート系、(メタ)アクリレート系のプレポリマーが挙げられる。また、カチオン重合性プレポリマーとしては、エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタン基などを有するプレポリマーが挙げられる。上記の中でも、床用コーティング剤として弾性を付与する観点から、ウレタン(メタ)アクリレート系プレポリマーが好ましく用いられる(以後、ポリウレタン(メタ)アクリレートという)。さらに好ましくは、後述するとおり、カルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートである。なお、上記の「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および/または「メタクリレート」の意味であり、以下においても同様である。
【0018】
本発明の光重合性プレポリマーとして用いられるポリウレタン(メタ)アクリレートとしては、分子中に(メタ)アクリロイル基とウレタン結合を有する化合物であり、ポリオール化合物(以後、ポリオール(a)という)、有機ポリイソシアネート化合物(以後、ポリイソシアネート(b)という)、および、水酸基と(メタ)アクリロイル基を少なくとも1つずつ有する化合物(以後、化合物(c)という)を構成成分とする反応生成物である。
【0019】
上記ポリオール(a)は、2以上の水酸基を有する化合物であればよく、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の低分子量ポリオール、ビスフェノールA等のエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加物等、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等のカルボキシル基を有するポリオールが挙げられる。ポリオール(a)は、上記の中の1つのみのポリオールで構成されていてもよいし、2つ以上のポリオールの混合物であってもよい。中でも、分散安定性の観点から、ポリオール(a)には、分子中に少なくとも1つのカルボキシル基を有するポリオール化合物(以後、ポリオール(d)という)が含まれることが好ましい。すなわち、ポリウレタン(メタ)アクリレートはカルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートを含む場合が、特に好ましい。
【0020】
上記ポリイソシアネート(b)は、分子内に反応性イソシアネート基を2つ以上有する有機ポリイソシアネート類であり、特に限定されないが、例えば、1,6−ヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートが挙げられる。また、上記のジイソシアネートから得られる3量体、該ジイソシアネート類をトリメチロールプロパンなどの多価アルコールと反応させたプレポリマー、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートなどを用いることも可能である。ポリイソシアネート(b)は、上記の中の1つのみのイソシアネート化合物で構成されていてもよいし、複数のイソシアネート化合物の混合物であってもよい。
【0021】
上記化合物(c)は、1分子中に水酸基と(メタ)アクリロイル基を少なくとも1つずつ有しておればよく、例えば、水酸基含有(メタ)アクリレートが例示される。特に1分子中に1つの水酸基を有することが好ましい。水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、2−ヒドキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン縮合物、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシフェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリエポキシアクリレートのごときポリオールポリアクリレート類などが挙げられる。化合物(c)は、上記に挙げた1つのみの化合物で構成されていてもよいし、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0022】
上記ポリオール(a)の水酸基とポリイソシアネート(b)のイソシアネート基の当量は、(a)が1に対して、(b)は1.2〜2が好ましく、より好ましくは1.4〜1.8である。また、化合物(c)の水酸基の当量が、イソシアネート(b)のイソシアネート基とポリオール(a)の水酸基の当量差以上になる((a)と(c)の水酸基当量の合計がイソシアネート基の当量以上となる)ように各成分を適宜に調整して使用するのが好ましい。イソシアネートは有害であるため、イソシアネート基が製品中に0.1重量%以上残らないようにする事が好ましい。
【0023】
本発明の光重合性プレポリマーとして、カルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートを用いる場合は、カルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートのアクリル当量は500〜15000g/モルが好ましく、より好ましくは2500〜15000g/モルである。アクリル当量はポリウレタン(メタ)アクリレートの分子量とアクリル基の1分子中の数(官能基数)より制御可能である。
【0024】
本発明の光重合性プレポリマーとして、カルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートを用いる場合は、カルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートの酸価は、15〜40mgKOH/gが好ましく、より好ましくは20〜35mgKOH/gである。酸価が15mgKOH/g未満である場合には、光重合性プレポリマーの親水性が低下し、エマルジョンの貯蔵安定性が低下する場合がある。また、酸価が40mgKOH/gを超える場合には、エマルジョンが高粘度となり、塗布加工性が低下する場合や、光重合性プレポリマーの濃度の高いエマルジョンが得られにくくなる場合がある。なお、上記の酸価は、ポリオール(a)の全量に対するポリオール(d)の割合によって、調整することができる。なお、ポリオール(a)を減少させ、ポリオール(d)を増加させれば酸価は高くなり、その逆であれば、酸価は下がる。ただし、系内の水酸基のモル数はイソシアネート基のモル数と等価以上でなければならない。
【0025】
本発明の光重合性プレポリマーとしては、上記(a)、(b)、(c)、(d)の他に、鎖伸長剤としてポリアミンを使用してもよい。ポリアミン成分としてはヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン等が好ましく例示される。
【0026】
本発明の光重合性プレポリマーは、水に分散していることが必要である。分散体にすることで、高分子量体を低粘度で取り扱うことができるため好ましい。光重合性プレポリマーが水や溶媒に溶解している場合には、光重合性プレポリマーの分子量を高くしてタックを抑制した場合に、被覆剤組成物溶液の粘度が高くなりすぎて塗布加工性が低下し、水に対して相分離を起こす場合には、保存安定性が悪いため、いずれも作業性、取り扱い性に劣る。
【0027】
本発明の光重合性プレポリマーの重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、15000〜30000であり、より好ましくは16000〜25000である。重量平均分子量が15000未満の場合には、被覆剤組成物を塗布後、活性エネルギー線照射前において、被覆層がタック性(粘着性)を有するため、活性エネルギー線照射作業の作業性が低下したり、被覆層の汚染原因となったりする。重量平均分子量が30000を超える場合には、光重合性プレポリマー製造時の攪拌トルクが大きくなる等の理由で、歩留まりが低下し製造コストが高くなる。
【0028】
上記、光重合性プレポリマーの重量平均分子量は、ポリオール(a)の分子量、ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)および化合物(c)の官能基当量、仕込み比等によって、制御することが可能である。上記重量平均分子量を好ましい範囲に制御するためには、ポリオール(a)の分子量は100〜5000が好ましく、より好ましくは500〜2000であり、ポリオール(a)の1分子中の水酸基数は2〜3が好ましい。また、ポリイソシアネート(b)の1分子中のイソシアネート基数は2〜3が好ましい。さらに、(a)の水酸基当量を1とした場合の(b)のイソシアネート基当量は1.2〜2が好ましく、より好ましくは1.4〜1.8である。また、化合物(c)の1分子中の水酸基数は、末端封止機能を発揮する観点から1であることが好ましい。
【0029】
本発明の光重合性プレポリマーのガラス転移温度(Tg)は、−20℃以上が好ましく、より好ましくは0℃以上である。Tgが−20℃未満の場合には、被覆剤組成物を塗布後、活性エネルギー線照射前において、被覆層がタック性を示し作業性が低下したり、硬化後の被覆層の耐熱性、耐傷つき性などの物性が低下することがある。
【0030】
本発明の光重合性プレポリマーの固形分濃度は、30〜50重量%が好ましい。固形分濃度が30重量%未満の場合には、被覆剤を塗布した後に水を乾燥する時間が長くなることがあり、50重量%を超える場合には分散液の粘度が高くなって、塗布加工性、作業性が低下する場合がある。
【0031】
本発明の被覆剤組成物に用いられる光重合開始剤は、活性エネルギー線の種類や、光重合性プレポリマーの種類によっても異なり、特に限定されないが、公知の光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を用いることができる。具体的には、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系光重合開始剤;ベンジルジメチルケタール、ジエトキシアセトフェノン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−トリクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1等のアセトフェノン系光重合開始剤;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系光重合開始剤;チオキサンソン、2−クロルチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4−ジクロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等のチオキサントン系光重合開始剤などが挙げられる。中でも、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが特に好ましく例示される。
上記光重合開始剤の含有量は、光重合性プレポリマーに対して1〜15重量%が好ましい。
【0032】
本発明の被覆剤組成物の粘度(25℃)は、塗布加工性の観点から、1〜5000mPa・sが好ましく、より好ましくは10〜100mPa・sである。粘度は、光重合性プレポリマーの水分散体の粒子径及び増粘剤の添加によって制御することが可能である。
【0033】
本発明の被覆剤組成物は常温〜90℃で1分〜1時間の乾燥条件で乾燥を施した後は、紫外線を照射する前においても、25℃まで冷却すれば表面にタックを生じない。本発明の粘着剤組成物は紫外線硬化前においてもタックを有しないため、硬化までの間に異物などの付着により被覆層が汚染されないため好ましい。また、床材の被覆の場合には床の上で紫外線硬化作業が可能なため、作業性が向上する。さらに、店舗などの床材として使用する場合には、被覆剤の塗布・乾燥後であれば、紫外線照射前または紫外線照射後で完全に硬化する前であっても、店舗の営業が行えるため好ましい。
【0034】
本発明の被覆剤組成物は、ビル、工場、駅、駐車場、家屋などの床面や壁面に直接塗布される被覆剤の他、合板、ボード、タイルなどの床材、壁材、天井材や家具材などに塗布される被覆剤等としても好ましく用いることができる。中でも、硬化時間が短時間であり、硬化前にもタック性がないことから、建造物の床面や壁面の被覆用途に特に好ましく用いられる。なおかつ、直接塗布用途に特に好ましく用いられる。また、塗布される相手材の材質は、特に限定されないが、木材、合成樹脂、金属などである。
【0035】
本発明の被覆剤組成物の硬化物は、活性エネルギー線硬化により架橋密度が高いため、上記作業性向上に加え、優れた耐汚染性、耐摩耗性を有する。後述するように、活性エネルギー線照射の際に、加熱する場合には特に耐摩耗性が良好となる。
【0036】
本発明の被覆剤組成物の硬化物の、スチールウール(#0000)を用いて、荷重500g/cm2で表面を10往復擦過する試験を行った際の光沢保持率(試験後の光沢度(60°)/試験前の光沢度(60°)×100)は60%以上であることが好ましい。上記光沢保持率は硬化物表面の耐摩耗性を表し、上記の通り、活性エネルギー線照射時の加熱処理により向上(例えば、加熱を行わない場合の約2倍)させることが可能である。
【0037】
[被覆剤組成物の製造方法および硬化方法]
以下に、本発明の被覆剤組成物の製造方法を説明する。ここでは、光重合性プレポリマーとしてカルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートを用いた一例を示すが、製造方法は、ここに挙げる方法に限定されるものではない。
[光重合性プレポリマー(水分散液)]
本発明の光重合性プレポリマーとして用いるカルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートは、上記のポリオール(a)(ポリオール(d)を含む)、ポリイソシアネート(b)および化合物(c)の各成分を反応させることにより製造する。製造工程は、主に、(1)有機溶媒の存在下、上記3成分を反応させる工程、(2)得られたカルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートのカルボキシル基を中和する工程、(3)水を加えて乳化した後、有機溶媒を除去して水分散液とする工程からなる。
【0038】
(1)反応工程
先ず、有機溶媒の存在下において、ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)および化合物(c)の各成分を反応させる。各成分は一括仕込みにより同時に反応させてもよいし、ポリオール(a)とポリイソシアネート(b)を先に反応させてもよい。反応制御の観点からは、先ずポリオール(a)とポリイソシアネート成分を反応させて、末端イソシアネート基含有のウレタンプレポリマーとし、さらに、ウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基に対して、化合物(c)を反応させるのが好ましい。
上記反応の反応温度は、反応効率と劣化・副生成物抑制の観点から、40〜100℃が好ましく、より好ましくは60〜80℃である。全反応時間は4〜12時間が好ましい。なお、反応の終了は、反応溶液をサンプリングして、イソシアネート残基をIRまたは滴定で定量することにより容易に確認しうる。イソシアネート残基量が0.1%以下となれば反応終了である。
上記のウレタン化反応(ポリオール(a)とポリイソシアネート(b)の反応)の際には、反応促進の観点から、オクチル酸第一スズなどの公知のウレタン化触媒を使用することが好ましい。また、さらに、ウレタン化反応に際して、化合物(c)の重合防止の観点から、重合防止剤を添加したり、エアーシールを行うことが好ましい。重合防止剤としては、例えば、ハイドロキノン、メトキシフェノール、フェノチアジンなどが挙げられる。また、重合防止剤の添加量は、保存時の安定性及び使用時の反応性の観点から、反応系全体に対して10〜5000ppmが好ましく、より好ましくは50〜2000ppmである。
上記で用いる有機溶媒は、各成分および生成物との親和性の観点から、極性の高い有機溶剤が好ましく、特に、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤や酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤などが好ましい。なお、有機溶剤は、反応系の粘度が高くなり撹拌が困難となる前に加えればよく、反応開始時から系に加えておいても、反応途中で加えてもよい。
【0039】
(2)中和工程
次に、得られたカルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートのカルボキシル基を、アミンにより中和して、アミン塩にする。上記アミンは、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等の3級アミンが好ましく例示される。上記の中和反応におけるカルボキシル基の中和率は70%以上が好ましく、特に好ましくは完全中和である。中和率が70%未満の場合には、カルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートの親水性が不十分であり、得られたエマルジョンの貯蔵安定性が低下することがある。なお、中和反応はカルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートの製造途中に行なってもよく、また製造終了後に行なってもよい。製造時の安定性の観点からは、終了後が好ましい。
【0040】
(3)乳化、有機溶媒除去工程
さらに、反応生成物の有機溶剤溶液に、撹拌しながら水を加えて乳化し、エマルジョンとする。ポリウレタン(メタ)アクリレートの分散性の観点から、水の添加は数回に分割して加える方が好ましい。水の添加量は、反応生成物の固形分量100重量部に対して、100〜230重量部であることが好ましい。添加量が100重量部未満の場合には、被覆剤組成物の粘度が高くなり、塗布加工性が低下することがある。また、添加量が230重量部を超える場合には、被覆剤塗工後の水の乾燥に長時間を要することがある。
得られたエマルジョンから有機溶剤を除去することにより、水に分散した光重合性プレポリマーが得られる。
【0041】
本発明の光重合性プレポリマーは、上記の方法で製造することができる他、Cytec Industries製「Uceocat 7770、7772、7773、7825、7849、7571」を用いることも可能である。
【0042】
[被覆剤組成物]
上記で得られた光重合性プレポリマーに光重合開始剤を加えて被覆剤組成物を得る。光重合開始剤は、市販品を用いることができ、例えば、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「ダロキュア 1173」や「イルガキュア 500、651、184、907」などが挙げられる。中でも、「ダロキュア 1173」、「イルガキュア 500」が、液状であるため、添加後の分散安定性が良好であるため好ましい。また必要に応じて、各種添加剤を添加してもよい。
【0043】
[被覆剤組成物の塗布と活性エネルギー線照射による硬化]
本発明の被覆剤組成物は、相手部材に塗布した後、活性エネルギー線を照射して硬化することにより、相手部材表面に硬化物層を形成する。
【0044】
本発明の被覆剤組成物を塗布する場合、塗布方法としては、特に限定されず、吹き付け法、エアレススプレー法、エアスプレー法、ロールコート法、バーコート法などを用いることが可能である。塗布される被覆剤組成物の被覆量も、同様に特に限定されないが、一般的には10〜100g/m2が好ましい。
【0045】
次に、塗工された被覆剤層から、被覆剤組成物を分散させていた水を乾燥する。乾燥方法としては、特に限定されず、自然乾燥でもよいし、熱風ドライヤーやヒーター等を用いて強制乾燥を行ってもよい。乾燥中に被覆剤層の汚染を防ぐ観点からは、熱風ドライヤーによる乾燥が好ましい。例えば、床またはタイルの場合、活性エネルギー線による硬化前に熱風ドライヤー又は石英ヒーターで5分〜10分乾燥させ、表面温度が60℃〜80℃になるのが好ましい。
【0046】
続いて、活性エネルギー線を照射して、被覆剤組成物の塗膜を硬化させ、硬化物を作製する。この際に、照射する活性エネルギー線としては、可視光、赤外線、紫外線、X線、α線、β線、γ線、電子線などを用いることができる。中でも、安全性、反応効率などの工業性の観点などから紫外線が最も好ましく用いられる。用いられる紫外線の波長は200〜400nmが好ましく、好ましい照射条件としては、例えば、照度1〜1000mW/cm2、照射量0.1〜10000mJ/cm2である。活性エネルギー線の照射装置としては、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマランプなどのランプ光源、アルゴンイオンレーザーやヘリウムネオンレーザーなどのパルス、連続のレーザー光源などを用いることが可能である。
特に、活性エネルギー線を照射する際には、架橋密度の観点から、硬化前の被覆剤層の温度を40〜90℃にすると、硬化後の膜の耐摩耗性が良好となるため好ましい。より好ましくは60〜90℃である。
【0047】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
以下に、本願で用いられる測定方法および効果の評価方法について例示する。
【0048】
(1)タック性
実施例、比較例で作製した被覆剤組成物を、バーコーター(NO.22)を用いて、ポリ塩化ビニル(PVC)タイルの表面に塗布した。活性エネルギー線照射は行わず、塗布後1時間乾燥した後に、塗膜を指触し、タックの有無を判定した。判定は、タックなしの場合を良好(○)、タックを感じる又は未硬化液が指に残る場合を不良(×)の2段階で行った。
【0049】
(2)密着性
(1)と同様にして被覆剤組成物を塗布した塗膜を、対流式乾燥機を用いて、60℃で5分間乾燥させた後、高圧水銀灯(アイグラフィックス社製、商品名「ECS−301」)を用いて、照射量500mJ/cm2の条件で紫外線を照射し、塗膜を硬化させた。
JIS K 5600に準拠して、セロハンテープ剥離試験(クロスカットなし)を行い、剥離が見られない場合は密着性良好(○)、一部剥離が見られる場合は使用可能なレベル(△)、全面に剥離が見られる場合は密着性不良(×)と判断した。
【0050】
(3)光重合性プレポリマーの重量平均分子量
重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーション・ガスクロマトグラフィー)法により、下記の測定条件で、標準ポリスチレンを基準にして求めた。
移動相流量 : 0.35ml/分
移動相 : テトラヒドロフラン
カラム温度 : 40℃
試料注入量 : 20μl
試料濃度 : 1%
なお、光重合性プレポリマーは、開始剤などと混合する前のもので、固形分についてのみ測定した。
【0051】
(4)粘度
E型粘度計を用いて、25℃において測定した。
【0052】
(5)耐摩耗性
(2)と同様にしてサンプルを作製した。スチールウール(#0000)でサンプル表面を10往復擦過した(荷重500g/cm2)。擦過試験前および試験後のサンプルについて、光沢計(日本電色工業(株)社製 「VGS−SENSOR」)を用いて、入射角60°の光沢度(グロス)を測定し、光沢保持率を次のようにして算出した。
光沢保持率(%)=(擦過試験後のグロス)/(擦過試験前のグロス)×100
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0054】
実施例1
光重合性プレポリマーとして、重量平均分子量が19530のカルボキシル基含有ポリウレタンアクリレート(Cytec Industries製、商品名「Uceocat 7770」)を用いた。光重合性プレポリマー100重量部に対して、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア 500」)5重量部を添加・攪拌し、被覆剤組成物を得た。
得られた被覆剤組成物は、表1に示すとおり、紫外線硬化前にもタックがなく、優れた作業性を有していた。
【0055】
実施例2
光重合性プレポリマーとして、重量平均分子量が20840のカルボキシル基含有ポリウレタンアクリレート(Cytec Industries製、商品名「Uceocat 7820」)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、被覆剤組成物を得た。
得られた被覆剤組成物は、表1に示すとおり、紫外線硬化前にもタックがなく、優れた作業性を有していた。
【0056】
実施例3
光重合性プレポリマーとして、重量平均分子量が23020のカルボキシル基含有ポリウレタンアクリレート(Cytec Industries製、商品名「Uceocat 7772」)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、被覆剤組成物を得た。
得られた被覆剤組成物は、表1に示すとおり、紫外線硬化前にもタックがなく、優れた作業性を有していた。
【0057】
実施例4
光重合性プレポリマーとして、重量平均分子量が17300のカルボキシル基含有ポリウレタンアクリレート(Cytec Industries製、商品名「Uceocat 7773」)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、被覆剤組成物を得た。
得られた被覆剤組成物は、表1に示すとおり、紫外線硬化前にもタックがなく、優れた作業性を有していた。
さらに、上記被覆剤組成物を用い、常温条件(25℃)および加熱条件(80℃)において、それぞれ紫外線硬化(高圧水銀灯、照射量500mJ/cm2)を行い、前記測定法に従って耐摩耗性の評価を行った。その結果、常温条件において紫外線硬化した場合は光沢保持率が37%であったのに対し、加熱条件において紫外線硬化した場合は光沢保持率が98%であり、加熱下で紫外線硬化することによる耐摩耗性の向上が確認された。
【0058】
実施例5
光重合性プレポリマーとして、重量平均分子量が17555のカルボキシル基含有ポリウレタンアクリレート(Cytec Industries製、商品名「Uceocat 7849」)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、被覆剤組成物を得た。
得られた被覆剤組成物は、表1に示すとおり、紫外線硬化前にもタックがなく、優れた作業性を有していた。
【0059】
比較例1
攪拌機、温度計および還流冷却器を備えたフラスコに、ポリプロピレングリコール(重量平均分子量700)262重量部と、ポリオール(d)成分として、ジメチロールブタン酸28重量部を投入し、100℃においてジメチロールブタン酸を溶解した後、60℃まで冷却して、ポリオール化合物(ポリオール(a)成分)を得た。
次いで、溶媒としてメチルエチルケトン56重量部の存在下、ポリオール(a)成分としての上記のポリオール化合物(290重量部)に、ポリイソシアネート(b)成分としてイソホロンジイソシアネート167重量部、及び、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.5重量部を加え、75〜80℃で3時間反応させた後、化合物(c)成分として2−ヒドロキシエチルアクリレート44重量部、ウレタン化触媒としてオクチル酸第一スズ0.1重量部を加え、さらに4時間反応させて、カルボキシル基含有ポリウレタンアクリレートを得た。上記反応の(a)成分の水酸基と(b)成分のイソシアネート基、(c)成分の水酸基の当量比は、1:1.31:0.33であった。
IR測定によりイソシアネート基の消滅を確認した後、60℃まで冷却し、トリエチルアミン20重量部を加え、中和を行なった。この生成物に脱イオン水1014重量部を加えてエマルジョンとした後、高真空下(10Torr)でメチルエチルケトンを除去し、光重合性プレポリマーの水分散体を得た。得られた光重合性プレポリマーの重量平均分子量は10000であった。
得られた光重合性プレポリマー100重量部に対して、実施例1と同様にして、光重合開始剤として、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア 500」)5重量部を添加・攪拌し、被覆剤組成物を得た。
得られた被覆剤組成物は、紫外線照射前にタックを有し、作業性に劣るものであった。
【0060】
比較例2
特開昭63−308076の実施例の「水性ウレタン系プレポリマーM」の製造方法に従って、光重合性プレポリマーを得た。得られた光重合性プレポリマーの重量平均分子量は1600であった。さらに、特開昭63−308076の実施例4と同様にして、被覆剤組成物を得た。
得られた被覆剤組成物は、紫外線照射前にタックを有し、作業性に劣るものであった。
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水に分散した光重合性プレポリマー及び光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化性の組成物であって、光重合性プレポリマーの重量平均分子量が15000〜30000であることを特徴とする被覆材組成物。
【請求項2】
光重合性プレポリマーが、ポリオール、有機イソシアネート化合物、及び、(メタ)アクリロイル基および水酸基を少なくとも1つずつ有する化合物の反応物を含んでなる請求項1に記載の被覆剤組成物。
【請求項3】
光重合性プレポリマーが、カルボキシル基含有ウレタン(メタ)アクリレートを含んでなる請求項1または請求項2に記載の被覆剤組成物。
【請求項4】
床面に塗布する用途である請求項1〜3のいずれかの項に記載の被覆剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの項に記載の被覆剤組成物を活性エネルギー線により硬化した被覆剤硬化物。
【請求項6】
スチールウール(#0000)を用いて、荷重500g/cm2で表面を10往復擦過する試験を行った際の光沢保持率(試験後の光沢度(60°)/試験前の光沢度(60°)×100)が60%以上である請求項5に記載の被覆剤硬化物。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかの項に記載の被覆剤組成物を塗布、乾燥した後、塗布された被覆剤層を40〜90℃に加熱しながら紫外線照射により硬化させる被覆剤組成物の硬化方法。

【公開番号】特開2007−112938(P2007−112938A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307434(P2005−307434)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(592019589)ダイセル・サイテック株式会社 (16)
【Fターム(参考)】