説明

被覆方法

【課題】ボルト接合部を有する鉄骨部材において、ボルト接合部領域の劣化を防止し、耐久性、耐熱性を高めることが可能な被覆方法を提供する。
【解決手段】被覆方法は、ボルト接合部を有する鉄骨部材1において、ボルト接合部領域3に対して、セメント及び合成樹脂を含むセメント組成物を塗付し、ボルト4どうしの間を充填かつボルト4全体を被覆する工程、次いで、該セメント組成物の上に、合成樹脂およびリン化合物を含む被覆材を積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な被覆方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物、土木建築物の柱や梁等の構造として、ボルト接合部が採用された鉄骨部材を使用した構造物がある。ボルト接合部は、通常ボルト、ナット及び必要に応じ座金からなる。このような構造物において、ボルト接合部は、耐熱性に劣る場合があり、火災時等の高温に晒された場合、機械的強度が低下するという問題があった。
【0003】
これに対して、特許文献1には、複数のボルト接合部を含むボルト接合部領域において、各ボルト・ナット(および座金)の突出した部分を局部的に熱遮蔽体で被覆する方法が記載されている。特許文献1の手法によれば、熱遮蔽された部位を部分的に熱輻射から遮蔽することができ、ボルト接合部に起因する鉄骨構造物全体の高温強度の低下を補うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3954882号公報
【0005】
しかしながら、ボルト接合部領域は形状が複雑であるため、ボルトどうしの間に水が溜まりやすく、場合によっては結露を生じることがある。これによりボルト接合部領域は、錆が発生しやすく、劣化するおそれがあり、火災時等の高温に晒された場合、機械的強度が著しく低下するおそれがある。
特許文献1のように、ボルト接合部を熱遮蔽体により、部分的に被覆する方法では、ボルトどうしの間で劣化しやすく、耐熱性が不十分となるおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、ボルト接合部を有する鉄骨部材において、ボルト接合部領域の劣化を防止し、耐久性、耐熱性を高めることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行なった結果、ボルト接合部領域に対する特定の被覆方法に想到し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の被覆方法は、下記の特徴を有するものである。
1.ボルト接合部を有する鉄骨部材の被覆方法であって、ボルト接合部領域に対して、セメント及び合成樹脂を含むセメント組成物を塗付し、ボルトどうしの間を充填かつボルト全体を被覆する工程、次いで、該セメント組成物の上に、合成樹脂及びリン化合物を含む被覆材を積層する工程を含むことを特徴とする被覆方法
2.上記合成樹脂及びリン化合物を含む被覆材が、合成樹脂として、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び芳香族モノマーを含むモノマー群の重合体であり、重合平均分子量が50,000以上である合成樹脂を含むことを特徴とする1.に記載の被覆方法
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ボルト接合部を有する鉄骨部材の被覆方法であり、ボルト接合部領域の劣化を防止し、優れた耐熱性、耐久性を発揮することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ボルト接合部を有する鉄骨部材の一例である。
【図2】本発明の被覆方法の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ボルト接合部を有する鉄骨部材の被覆方法に関するものであり、
ボルト接合部領域に対して、セメント及び合成樹脂を含むセメント組成物を塗付し、ボルトどうしの間を充填かつボルト全体を被覆する工程、次いで、該セメント組成物の上に、合成樹脂及びリン化合物を含む被覆材を積層する工程、を含むことを特徴とするものである。
なお、本発明では、ボルト、ナット及び必要に応じて座金を総じて「ボルト」と言う。ボルト接合部とは、一組のボルトで鉄骨部材が固定された部分(図1(A)−2)である。ボルト接合部領域とは、複数のボルト接合部及びその周辺を含む領域であり、接合対象物から外面側にボルトが突出した部分を含む領域(図1(A)−3)である。ボルト接合部領域には、図1に示すように、通常各種の接合部材(スプライスプレート、スプリットティ、エンドプレート、フランジプレート等)が用いられる(図1(B)−6)。本発明では、ボルト接合部領域として、少なくともこのような接合部材を含む領域を対象にすることが望ましい。
【0012】
ボルト接合部を有する鉄骨部材としては、例えば、鉄骨構造物において柱と梁、柱と柱、梁と梁、等の鉄骨部材を、ボルト等を用いて接合(ボルト接合、高力ボルト接合等)したものが挙げられる。
【0013】
本発明では第(I)工程として、ボルト接合部領域に対して、セメント及び合成樹脂を必須成分として含むセメント組成物(以下、「セメント組成物」ともいう)を塗付し、ボルトどうしの間を充填かつボルト全体を被覆する(図2)。ボルトどうしの間をセメント組成物で充填することにより、ボルトどうしの間において、雨や結露等による水溜まりを抑制することができる。また、ボルト全体を被覆するため、酸素との接触を抑制することができる。これによって優れた防錆効果を発揮することができる。
さらに、ボルト接合部領域を容易に平滑に仕上げることができるため、ボルト接合部領域の劣化を防止し、耐久性を向上させることができる。
【0014】
<セメント組成物>
本発明のセメント組成物は、(a)セメント(以下、「(a)成分」ともいう)、及び合成樹脂(以下、「(b)成分」ともいう)を必須成分として含むものである。
【0015】
(a)セメント
(a)成分としては、公知のものであれば特に限定されないが、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等のポルトランドセメントのほか、アルミナセメント、超速硬セメント、膨張セメント、酸性リン酸塩セメント、シリカセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、キーンスセメント等が挙げられる。これらは1種または2種以上を混合して使用できる。これらの中でも、ポルトランドセメントが好ましい。より具体的には、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントの少なくとも1種が好ましいものとして挙げられる。
本発明では、上記のセメントを必須成分として含むことにより、錆の発生を抑制することができる。
【0016】
(b)合成樹脂
(b)成分としては、例えば、合成樹脂エマルション、水溶性樹脂、溶剤型樹脂、無溶剤型樹脂、粉末樹脂等を使用することができる。樹脂成分としては、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、プロピオン酸ビニル樹脂、ベオバ樹脂、アクリル酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アスファルト、ゴムアスファルト等があげられる。このうち、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等が好適に用いられる。
【0017】
上記合成樹脂のガラス転移温度は好ましくは−80〜30℃、より好ましくは−20〜20℃である。合成樹脂のガラス転移温度がこのような範囲であることにより、ボルト接合部領域に対し適度に追従することができるとともに、塗膜の剥がれ発生を防止することが可能となる。
【0018】
上記(b)成分は、上記(a)成分100重量部に対して、固形分換算で1〜100重量部、好ましくは3〜80重量部含まれる。このような重量比率で混合されていることにより、強度が向上し優れた耐久性を発揮することができる。また、ボルト接合部領域に対して優れた接着性を有するため防錆効果を高めることができる。
【0019】
さらに、本発明のセメント組成物は、金属水酸化物(c)(以下、「(c)成分」ともいう)を含むことが好ましい。(c)成分は、火災時等の高温に晒された場合、水蒸気等の不燃性ガスを多量に発生させ得るものであり、その吸熱作用により温度上昇を大幅に抑制する効果をもつものである。(c)成分としては、例えば水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム、水酸化スカンジウム等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。本発明では、このうち、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムの少なくとも1種がより好適に用いられる。
【0020】
上記(c)成分は、上記(a)成分と上記(b)成分の混合成分100重量部に対し、100〜1200重量部、好ましくは300〜1000重量部含まれる。このような範囲で混合されていることにより、優れた耐熱性を発揮することができる。
【0021】
上記の成分のほか、本発明の効果を妨げない範囲内で、珪砂、砂等の骨材、膨張パーライト、膨張バーミキュライト、シラスバルーン等の軽量骨材;タルク等の珪酸塩;炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩;酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物;粘土、クレー、シラス、マイカ、シリカ等の天然鉱物類の充填材;ガラス繊維、ロックウール、パルプ等の繊維物質;セルロース類等の水溶性樹脂;その他にも界面活性剤、減水剤、消泡剤、防錆剤、等の公知の添加剤を配合しても良い。
【0022】
本発明のセメント組成物は、上記(a)成分、(b)成分の必須成分とし、このような成分を常法により均一に混合することで製造することができる。混合時には、適当量の水を均一に混合することが好ましい。
水の比率は、(a)成分100重量部に対し、好ましくは10〜1500重量部、より好ましくは15〜1000重量部、さらに好ましくは20〜700重量部である。この範囲の水を添加することにより、ボルト接合部領域に対する施工性に優れる。
【0023】
<被覆材>
本発明では第(II)工程として、第(I)工程で被覆されたセメント組成物の上に、合成樹脂及びリン化合物を含む被覆材(以下、「被覆材」ともいう)を積層する。これにより、火災時等の高温に晒された場合、耐熱性を発揮し、ボルト接合部領域の劣化防止性、耐久性を向上させることができる。
【0024】
本発明の被覆材は、(d)合成樹脂(以下、「(d)成分」ともいう)、及び(e)リン化合物(以下、「(e)成分」ともいう)を必須成分として含むものである。
【0025】
(d)合成樹脂
(d)成分としては、公知の合成樹脂を使用することができる。例えば、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、石油樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、プロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンゴム等の有機質結合剤が挙げられる。これらは1種又は2種以上で使用することができる。
【0026】
本発明では特に、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び芳香族モノマーを含むモノマー群の重合体であり、重量平均分子量が50,000以上である合成樹脂(d−1)(以下「(d−1)成分」という)を用いることが好ましい。本発明では、このような(d−1)成分を用いることにより、耐熱性、耐久性を高めることができる。その作用機構は明確ではないが、概ね以下の点が寄与しているものと推定される。
・上記特定組成及び特定重量平均分子量の合成樹脂を用いることにより、リン化合物等の粉体成分の分散性が高まるとともに、樹脂によって粉体成分が覆われる。粉体成分には適度な疎水性が付与され、外部からの水等に対する抵抗性が高まる。これら相乗作用によって、耐久性が向上する。
・合成樹脂が特定の重量平均分子量を有し、さらに芳香族モノマーによる共役不飽和環構造が有効に作用することで、加熱時に多孔質炭化層が形成され、耐熱性が向上する。
【0027】
(d−1)成分は、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び芳香族モノマーを含むモノマー群を重合することにより得られる。重合方法としては、公知の方法を採用することができる。
アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。この中でも特に、アルキル基の炭素数4〜8のものが好適である。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを合わせて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記する。
【0028】
芳香族モノマーとしては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
モノマー群における上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと芳香族モノマーの重量比率は、好ましくは80:20〜20:80、より好ましくは70:30〜30:70である。両者の比率がこのような範囲内であれば、本発明の効果発現の点で好適である。
【0029】
(d−1)成分におけるモノマー群には、上記以外のモノマー成分を混合することもできる。(d−1)成分としては特に、上記モノマーに加え、カルボキシル基含有モノマーを含むモノマー群の重合体が好適である。この場合、(d−1)成分の酸価は、好ましくは0.5〜15mgKOH/g、より好ましくは1〜10mgKOH/gである。本発明では、このような(d−1)成分を用いることにより、耐熱性を保持しつつ、耐久性を高めることができる。この効果には、粉体成分の分散性向上作用が寄与しているものと推定される。
【0030】
カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸またはそのモノアルキルエステル、イタコン酸またはそのモノアルキルエステル、フマル酸またはそのモノアルキルエステル等が挙げられる。このうち、特にアクリル酸、メタクリル酸から選ばれる1種以上が好適である。
なお、合成樹脂の酸価は、固形分1gに含まれる酸基と等モルの水酸化カリウムのmg数によって表される値である。
【0031】
(d−1)成分の重量平均分子量は、通常50,000以上であり、好ましくは50,000〜200,000、より好ましくは60,000〜100,000である。(A)成分の重量平均分子量がこのような範囲内であることにより、耐熱性、耐久性の両面において好適な効果を得ることができる。重量平均分子量が小さすぎる場合は、耐久性が不十分となりやすい。一方、重量平均分子量が大きすぎる場合は、耐熱性が不十分となりやすく、耐久性が不利となる場合もある。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定し、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0032】
(e)リン化合物
(e)成分は、温度上昇時において脱水冷却効果、不燃性ガス発生効果、炭化促進効果等の少なくとも1つの効果を発揮するものであり、多孔質炭化層の形成、耐熱性の発揮に不可欠な成分である。(e)成分としては、例えば、トリクレジルホスフェート、ジフェニルクレジルフォスフェート、ジフェニルオクチルフォスフェート、トリ(β−クロロエチル)フォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリ(ジクロロプロピル)フォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリ(ジブロモプロピル)フォスフェート、クロロフォスフォネート、ブロモフォスフォネート、ジエチル−N, N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルフォスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ヒドロキシメチルフォスフォネート、三塩化リン、五塩化リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン化合物等が挙げられる。このうち、本発明では特にポリリン酸アンモニウムが好ましい。これらリン化合物としては、未被覆品を使用することができるが、被覆処理品等を用いることもできる。
【0033】
(e)成分は、上記(d)成分100重量部に対し、通常150〜1000重量部、好ましくは200〜800重量部、より好ましくは250〜600重量部含まれる。本発明では、このように(e)成分が比較的高比率で含まれる場合であっても、十分な耐久性を確保することができる。(e)成分が少なすぎる場合は、耐熱性が不十分となる。(e)成分が多すぎる場合は、実用的な耐久性の確保が困難となる。
【0034】
本発明では、上記(e)成分に加え、多価アルコール化合物(f)(以下、「(f)成分」ともいう)、含窒素化合物(g)(以下、「(g)成分」ともいう)、充填材(h)(以下、「(h)成分」ともいう)から選ばれる1種以上の粉体成分を含むことが好ましい。このような成分を含むことにより、耐熱材として一層好適な多孔質炭化層を形成することが可能となる。本発明では特に、粉体成分として、リン化合物(e)、多価アルコール化合物(f)、含窒素化合物(g)を含むものが好ましく、これらに加えさらに充填材(h)を含むものがより好ましい。
【0035】
多価アルコール(f)としては、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ネオペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、イノシトール、マンニトール、グルコースフルクトース、デンプン、セルロース等が挙げられる。(f)成分の混合比率は、合成樹脂(d)100重量部に対し、好ましくは5〜600重量部、より好ましくは10〜400重量部である。
【0036】
含窒素化合物(g)としては、メラミン及びその誘導体、ジシアンジアミド及びその誘導体、アゾビステトラゾール及びその誘導体、アゾジカーボンアミド、尿素、チオ尿素等が挙げられる。(g)成分の混合比率は、合成樹脂(d)100重量部に対し、好ましくは5〜600重量部、より好ましくは10〜400重量部である。
【0037】
充填材(h)としては、例えば、タルク等の珪酸塩;炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩;酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物;粘土、クレー、シラス、マイカ、シリカ等の天然鉱物類等が挙げられる。この中でも特に、金属酸化物が好適である。(h)成分の混合比率は、合成樹脂(d)100重量部に対し、好ましくは5〜600重量部、より好ましくは10〜400重量部である。
【0038】
粉体成分としては、上記成分以外に、膨張性黒鉛、未膨張バーミキュライト等の膨張性物質、着色顔料、難燃剤等を混合することもできる。また、本発明の被覆材には、上記以外の成分として、各種添加剤等を配合することもできる。このような添加剤としては、例えば増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、繊維、触媒等が挙げられる。
【0039】
本発明の被覆材は、以上のような成分を常法により均一に混合することで製造することができる。混合時には、必要に応じ溶剤を混合したり、加熱したりすることも可能である。ビーズ状、ペレット状等の合成樹脂を使用する場合は、この樹脂の軟化温度まで加熱装置によって加熱し、ニーダー等によって混練しながら、各成分を混合すればよい。
【0040】
<被覆方法>
本発明のボルト接合部を有する鉄骨構造体の被覆方法は、少なくとも以下の2工程を含むものである。この方法によれば、ボルト接合部において優れた耐久性、耐熱性を発揮することができる。
(I)ボルト接合部領域に対して、セメント組成物を塗付し、ボルトどうしの間を充填かつボルト全体を被覆する工程、
(II)該セメント組成物の上に、被覆材を積層する工程
【0041】
上記(I)工程において、ボルトどうしの間を充填かつボルト全体を被覆するようにセメント組成物を塗付する。この場合、少なくともボルト頭部を覆うように塗付すればよいが、乾燥厚みがボルト頭部から1〜10mm程度の厚みとなるように塗付することが好ましい。
これにより、ボルトどうしの間に錆が発生することを抑制し、劣化を防止することができる。これにより、火災時等の高温に晒された場合にも、機械的強度を維持することができる。また、接合対象物から外面側にボルトが突出した部分全体を被覆するため、ボルト接合部領域を平滑に仕上げることが可能であり、(II)工程において、被覆材の積層が容易となり、作業性に優れる。
【0042】
上記(I)において、セメント組成物を塗付する際には、例えば、スプレー、ローラー、こて、刷毛塗り、等の手段を用いた方法を採用することができる。また、セメント組成物を乾燥させる際には、通常常温で行えばよい。
【0043】
上記(II)工程において、セメント組成物の上に、被覆材を積層する方法としては、例えば、被覆材をセメント組成物に対し塗装する方法、あるいは、被覆材を予めシート状に成形しておき、接着剤、釘、鋲等を使用してセメント組成物の上に貼着する方法等を採用することができる。
被覆材の厚みは、適用部位用等に応じて適宜設定すれば良いが、好ましくは0.2〜10mm、より好ましくは0.5〜6mm程度である。
被覆材を積層することにより、火災時等の高温に晒された場合に、優れた耐熱性を発揮することができる。
【0044】
さらに、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内であれば、表面保護性、意匠性等を高める目的で、公知の保護層及び/または化粧層を被覆材の上に積層することもできる。例えば、JIS
A6909 建築用仕上塗材、JIS K5654アクリル樹脂エナメル、JIS K5656 建築用ポリウレタン樹脂塗料、JIS K5658建築用ふっ素樹脂塗料、JIS
K5660 つや有合成樹脂エマルションペイント、JIS K5663 合成樹脂エマルションペイント等に規定されるものや、シート材料等を公知の方法で積層すればよい。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0046】
<セメント組成物>
原料としては以下のものを使用した。
・ポルトランドセメント
・アクリル樹脂エマルション(固形分47%、Tg−10℃)
・酢酸ビニル樹脂エマルション(固形分50%、Tg0℃)
・水酸化アルミニウム
・膨張パーライト(かさ比重0.07)
・ヒル石(かさ比重0.12)
・炭酸カルシウム
・メチルセルロース
【0047】
(セメント組成物1)
ポルトランドセメント100重量部に対して、アクリル樹脂エマルションを10重量部、メチルセルロース0.5重量部、及び水を40重量部加えて、十分に攪拌してスラリー状のセメント組成物1を作製した。
【0048】
(セメント組成物2)
ポルトランドセメント100重量部に対して、アクリル樹脂エマルションを10重量部、水酸化アルミニウムを200重量部、メチルセルロース0.7重量部、及び水を100重量部加えて、十分に攪拌してスラリー状のセメント組成物2を作製した。
【0049】
(セメント組成物3)
ポルトランドセメント100重量部に対して、酢酸ビニル系エマルションを15重量部、膨張パーライトを10重量部、ヒル石を10重量部、水酸化アルミニウムを200重量部、メチルセルロース1.2重量部、及び水を500重量部加えて、十分に攪拌してスラリー状のセメント組成物3を作製した。
【0050】
<被覆材>
原料としては以下のものを使用した。
・合成樹脂1:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=17:83、重量平均分子量68000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂2:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=33:67、重量平均分子量76000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂3:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量74000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂4:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=60:40、重量平均分子量79000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂5:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=82:18、重量平均分子量66000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂6:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量95000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂7:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量72000、酸価7mgKOH/g)
・合成樹脂8:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量71000、酸価1mgKOH/g)
・合成樹脂9:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量69000、酸価20mgKOH/g)
・合成樹脂10:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量70000、酸価0mgKOH/g)
・合成樹脂11:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量28000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂12:アクリル樹脂
(Ac:St=100:0、重量平均分子量67000、酸価3mgKOH/g)
・リン化合物:ポリリン酸アンモニウム
・多価アルコール:ジペンタエリスリトール
・窒素化合物:メラミン
・充填材:酸化チタン
なお、合成樹脂1〜12におけるAcは(メタ)アクリル酸アルキルエステル、Stはスチレンを示す。合成樹脂1〜11では、Acとしてイソブチルメタクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートを含む。合成樹脂12では、Acとしてメチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートを含む。合成樹脂10以外の各合成樹脂には、メタクリル酸が共重合されている。
【0051】
(被覆材1)
合成樹脂1を100重量部、リン化合物400重量部、多価アルコール75重量部、含窒素化合物75重量部、充填材90重量部を混合し、キシレンを加えて各成分が均一になるように十分攪拌し、被覆材1を得た。
【0052】
(被覆材2〜12)
合成樹脂1に代えて、合成樹脂2〜12を使用した以外は、被覆材1と同様にしてそれぞれ被覆材2〜12を得た。
【0053】
(試験例1)
ボルト接合部を有する鉄骨構造体として、鋼板(150mm×300mm×1.6mm)にボルトを50mm間隔で取り付けた基材を用いた。なお、鋼板からボルト頭部までの高さは20mmである。
上記ボルト接合部領域に対して、セメント組成物1をコテで塗布し、ボルトどうしの間を充填かつボルト全体を被覆し、温度20℃・相対湿度65%下で乾燥させた。このとき、セメント組成物の乾燥厚みがボルト頭部から3mmとなるようにボルト接合部領域を平滑に仕上げた。
次いで、被覆材1を乾燥膜厚が約1mmとなるように塗装を行い、温度20℃・相対湿度65%下で1週間乾燥させたものを試験体とした。試験体について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
・評価1(防錆性試験)

試験体に対し、JIS K 5400:1990 9.1に記載の方法で、120時間、耐塩水噴霧試験を行った。評価は、以下に示す通りである。
A:塗膜の膨れ・はがれが見当たらず、錆の発生も見当たらなかった。
B:錆の発生がほとんど見当たらなかった。
C:錆の発生が一部見られた。
D:塗膜の膨れ・はがれが見られ、錆の発生が見られた。
【0055】
・評価2(耐熱性試験)
試験体の側面及び裏面を無機断熱板で囲い、試験体裏面と無機断熱板の間に熱電対を設置し、試験体の被覆材1側にからガスバーナーにて直接炎を試験体に当て、15分間加熱した後、試験体1の裏面温度を測定した。評価は、以下に示す通りである。
A:350℃未満
B:350℃以上400℃未満
C:400℃以上500℃未満
D:500℃以上
【0056】
・評価3(加熱試験)
試験体1の樹脂組成物被膜面側に600℃のヒーターを設置し、15分間加熱した後の被膜の状態(膨張性、緻密性)を観察した。評価は、以下に示す通りである。
(膨張性)
A:加熱後の厚みが20倍以上
B:加熱後の厚みが10〜20倍未満
C:加熱後の厚みが10倍未満
(緻密性)
A:多孔質炭化層の内部が緻密
B:多孔質炭化層の内部一部に空洞が認められた
C:多孔質炭化層の内部に空洞が多数認められた
【0057】
・評価4(耐久性試験)
試験体を水に浸漬し(23℃、24時間)、浸漬後の異常(膨れ、剥れ、凹み、溶出等)の有無を観察した。評価は、以下に示す通りである。
A:異常が認められなかった
B:一部に異常が認められた
C:明らかに異常が認められた
【0058】
(試験例2〜14)
次いで、表2に示すセメント組成物及び被覆材を使用して、試験例1と同様に試験体を作製し、得られた試験体について、試験例1と同様の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0059】
試験例1〜14は、防錆性試験、耐熱性試験において良好な結果であった。さらに、試験例1〜12では加熱試験、耐久性試験でも良好な結果であった。
【0060】
(試験例15)
試験例1と同様のボルト接合部領域に対して、セメント組成物1をコテで塗布し、ボルトどうしの間を充填かつボルト全体を被覆し、温度20℃・相対湿度65%下で乾燥させた。このとき、セメント組成物の乾燥厚みがボルト頭部から3mmとなるようにボルト接合部領域を平滑に仕上げ、試験体を得た。得られた試験体について、試験例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(試験例16)
試験例1と同様のボルト接合部領域に対して、被覆材1を乾燥膜厚が約1mmとなるように塗装を行い、温度20℃・相対湿度65%下で1週間乾燥させ、試験体を得た。得られた試験体について、試験例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
試験例15では耐熱性に劣り、試験例16ではボルト間に水が溜まりやすく、防錆性に劣る結果であった。このため、試験例15、16について評価3(加熱試験)および評価4(耐久性試験)は実施しなかった。
【0063】
【表1】

【0064】
(試験例17)
合成樹脂3を100重量部、リン化合物400重量部、多価アルコール75重量部、含窒素化合物75重量部、充填材90重量部を含む原料混合物をニーダーにて十分に混練した。その後、混練物をカレンダーロールで圧延することにより、膜厚2mmのシート状の被覆材13を製造した。
試験例1と同様のボルト接合部領域に対して、セメント組成物1をコテで塗布し、ボルトどうしの間を充填かつボルト全体を被覆し、温度20℃・相対湿度65%下で乾燥させた。このとき、セメント組成物の乾燥厚みがボルト頭部から3mmとなるようにボルト接合部領域を平滑に仕上げた。
次いで、被覆材13を接着剤を介して貼り付け、試験体とした。試験体について、試験例1と同様の評価を行った。その結果、全ての試験について評価Aであり、防錆性、耐熱性、耐久性において優れた結果であった。
【符号の説明】
【0065】
1…ボルト接合部を有する鉄骨部材
2…ボルト接合部
3…ボルト接合部領域
4…ボルト
5…ナット
6…スプライスプレート
7…梁
8…セメント組成物
9…被覆材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト接合部を有する鉄骨部材の被覆方法であって、
ボルト接合部領域に対して、セメント及び合成樹脂を含むセメント組成物を塗付し、ボルトどうしの間を充填かつボルト全体を被覆する工程、
次いで、該セメント組成物の上に、合成樹脂及びリン化合物を含む被覆材を積層する工程
を含むことを特徴とする被覆方法
【請求項2】
上記合成樹脂及びリン化合物を含む被覆材が、
合成樹脂として、
アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び芳香族モノマーを含むモノマー群の重合体であり、重合平均分子量が50,000以上である合成樹脂
を含むことを特徴とする請求項1に記載の被覆方法


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−17602(P2012−17602A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155462(P2010−155462)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(510114125)株式会社エフコンサルタント (32)
【Fターム(参考)】