説明

被覆用タイル

【課題】音響増強特性を有する床又は壁の被覆用タイルを提供すること。
【解決手段】主に歩行音を小さくするが衝撃音と空気伝播音も防ぐため、振動エネルギーの消散特性を付与する粘弾性ポリマータイプの制振材料の層(2)を一方の面に含む、床又は壁用のタイル(1)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響増強(acoustic enhancement)特性を有する床又は壁の被覆用タイルに関する。本発明との関連において、タイルとは、ファイアンス、テラコッタ、ストーンウエアなどのセラミックを基礎材料とするタイル、大理石のタイル、再生石(reconstituted stone)のタイル、あるいはまた、床の被覆を構成する場合にタイル上を歩くことができるような硬質の複合材料のタイル、を意味する。
【0002】
本発明はまた、音響増強特性を有する幾種かのタイルを組み合わせることにより得られる被覆にも関する。
【背景技術】
【0003】
音響増強の分野では、防音材による増強と音響補正による増強とは大体において区別されている。
【0004】
防音材は、床を介してであれ、天井を介してであれ、あるいは側壁を介してであれ、一つの部屋から別の部屋への音の伝導を減少させる。防音材は、衝突又は衝撃音のような、機械的発生源の音を低減し、そしてまた空気伝播音や、会話している人あるいはハイファイシステムにより発生するものも低減する。
【0005】
音響補正は、音源が位置している部屋の音を減少させる。音響補正は、機械的音源の音及び空気伝播音に適用される。床上の機械的音源の音の場合、これは歩行音の音響補正と称される。
【0006】
ここ数年では、特に衝撃音に対して防音するために、床に音響用の下層を設けて、その上をタイルタイプの床被覆材で覆っている。この目的のためにコルクタイルを使用し、あるいは、タイルの形をした又はレベリングスクリードからなるゴムを基礎材料とする下層を使用し、あるいはまた一般に合成繊維を基礎材料とする下層を使用することも知られている。
【0007】
フランス国特許出願公開第2361515号明細書には、ポリスチレンプレートを床に接着し、次にセメント、砂及びゴム混合物を含むモルタルスクリードを流延することが提案されている。スクリードが乾燥したならば、その上にタイルを配置する。
【0008】
ヨーロッパ特許第0413626号明細書には、重ねようとするタイルなどの被覆材と比べて表面が硬く、反対面に弾性反発支持材を有する防音タイルが開示されている。それは、弾性反発支持材を構成する、密度が60kg/m3と200kg/m3の間の極度に圧縮された繊維の緻密で可撓性の層と、このタイルの硬質面を構成するためビチューメン層の各面にそれぞれ固定されたガラス繊維の2つの薄い層で補強されたビチューメンの層とを含み、硬質層は厚さが約5〜6mm、単位面積あたりの質量が約10kg/m2である。
【0009】
フランス国特許出願公開第2693221号明細書には、ロールの形をした防音材の解決策が提案されている。この下層は、被覆側に配置される主層と、反対側、すなわち床側に配置される補助的な層を含む。
【0010】
この補助的な層は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタンゴム(PUR)、ポリエチレン(PE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)タイプのポリマーを基礎材料とする材料であり、厚さが0.1mmと5mmの間であり、密度は800kg/m3を超えない。
【0011】
上記下層の主層は、下層全体の機械的強度を提供する働きをする。その構成材料は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PE)、ポリエチレン(PE)などの合成ポリマー、あるいはビチューメンであるが、それは天然由来の材料、例えば木質繊維など、から製作してもよい。この層は、表面が比較的硬いが、下層をロールの形で供給することができるよう巻き上げるのに十分な可撓性を保持する。
【0012】
しかし、これらの防音材の全ての下層は、取り付けるための特別な装置、時間のかかる適用方法を必要とし、そして時により、特にノウハウを必要とし乾燥時間を生じさせるスクリードを用意するのに、専門家の関与を要求する。
【0013】
実際、職人であれ、タイルを自身で取り付けたい個人であれ、タイルに音響用の下層を設ける者にとっては、取り付ける時間を減らし、組み上げるのを促進することが常に望ましいことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】フランス国特許出願公開第2361515号明細書
【特許文献2】ヨーロッパ特許第0413626号明細書
【特許文献3】フランス国特許出願公開第2693221号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、タイルを素早く且つ簡単に取り付けるのに役立つと同時に、取り付けた被覆に音響増強特性を付与する解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、被覆用のタイルは、当該タイルで被覆すべき支持材に面するように設計された一方の面に接合された、タイルに振動エネルギー消散特性を付与する制振材料の層を含むことを特徴とする。
【0017】
よって、この解決策は、「オールインワン」タイプの製品、すなわち制振手段を既に設けられている被覆用のタイルを提案する。
【0018】
何よりも、この解決策は歩行音を低減するが、衝撃音及び空気伝播音に対する防音も行う。
【0019】
一つの特徴によれば、制振材料の層は、20℃及び10Hzと5000Hzの間の周波数において、109Paより小さい動的ヤング率E’と、0.08より大きいかそれと等しい、好ましくは0.3より大きい、動的損失率(loss factor)tanδを有する。このヤング率と動的損失率はビスコアナライザーを使用してそれ自体公知のやり方で測定される、ということに言及することができる。
【0020】
更に、発明者らは、制振材料の層は、その剪断作用により完全な制振機能を提供するために、タイルであり床又は壁タイプの支持材である2つの硬質構成要素の間に挟まれる必要がある、ということを実証した。この特徴は、タイルと制振材料との間に、そしてまた制振材料と支持材との間に存在しなければならないインピーダンス破壊(材料の剛性のはっきりとした不連続)により示される。従って、制振層の剪断作用はエネルギーを消散するのに役立つ。制振材料とタイルとの剛性比E’(材料)/E’(タイル)は0.09未満でなければならず、制振材料と支持材との剛性比E’(材料)/E’(支持材)も0.09未満でなければならない。
【0021】
一つの特徴によれば、制振材料の層は1種以上の粘弾性ポリマー材料、例えばビチューメン、スチレン−アクリル系ポリマー、ポリビニルブチラール、特に向上した音響減衰特性を有するポリビニルブチラール、などで構成される。
【0022】
制振材料の層は、シート、又はフィルム、又は流延された樹脂の形をとることができ、そして1種以上の制振ポリマー材料で構成することができる。
【0023】
もう一つの特徴によれば、制振材料の層は、水性接着剤タイプの結合手段、あるいは、粘着を特に熱により促進することができる制振材料の固有の接着特性により、タイルに接合される。
【0024】
タイルは、いずれの硬質材料から構成してもよく、例えばセラミック、例としてファイアンス、テラコッタ、砂岩など、ガラス質のペースト、大理石、再生石、又は硬質複合材料など、で製作することができる。
【0025】
タイルは、床又は壁タイプの硬質支持材に、制振材料の層の接着により接合される。
【0026】
最後に、本発明の複数のタイルを組み合わせることによって、床又は壁の被覆を提供することができる。
【0027】
本発明のこのほかの利点と特徴を、添付の図面と併せてより詳しく説明する。それらの図は、解釈を容易にするため一定の比率にはなっていない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による防音特性を備えたタイルの模式斜視図である。
【図2】図1によるタイルで被覆した床の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明による音響増強特性を備えたタイル1を示している。
【0030】
このタイルは、このタイルを配置しようとする硬質の支持材(床又は壁)に面するようにされた面10と、反対の面11を含む。
【0031】
面10は、接合された制振材料の層2を含む。
【0032】
面11は、例えばセラミックを基礎材料とし、あるいはタイル張りの被覆のために用いられるそのほかの任意の普通の材料を基礎材料とする。
【0033】
制振層と呼ばれる、制振材料の層2は、20℃及び10Hzと5000Hzの間の周波数において、少なくとも0.08に等しい、好ましくは0.3より大きい、動的損失率tanδと、109Paより小さい、好ましくは5×106Paと109Paの間の、ヤング率E’を特徴とする。
【0034】
制振層は、1種以上の粘弾性制振材料で構成される。制振材料としては、ビチューメン、スチレン−アクリル系又はブチル系のポリマー、例えばポリビニルブチラール(PVB)、を挙げることができる。
【0035】
好ましい材料の例は、向上した音響減衰特性を持つポリビニルブチラールである。
【0036】
向上した音響減衰特性を持つPVBとしては、ソルーシア(Solutia)社によりSaflex(商標) Vanceva Quiet QC41の商標名で販売される材料を挙げることができ、それは20℃及び10Hzと5000Hzの間において、動的損失率tanδが0.4と1.1の間であり、ヤング率E’が7.8×106Paと1.2×108Paの間であり、特に1000Hzにおいて、動的損失率tanδが1及びヤング率E’が5×107Paである。
【0037】
層2は、この層の材料とタイルのそれとの間の相性のよい結合手段によってタイルに接合されるフィルムの形をとっている。一例として、音響用PVBフィルムを通常の水性接着剤を使ってセラミックタイルに接合することが可能である。
【0038】
別の態様として、層2は、高温であるときにタイル上に流延されそしてその材料がタイル材料に付着するのに必要な特性を有する樹脂の形をとる。一例として、それはスチレン−アクリル系の物質であることができる。
【0039】
樹脂の形をとろうとフィルムの形をとろうと、層は材料の積重体で構成してもよい。
【0040】
層の厚さは0.2mmと3mmの間であり、好ましくは0.2mmと1mmの間である。
【0041】
図2は、音響増強特性を持つタイルで覆った被覆4を形成する、床3の上に複数のタイルを結合させたものを示している。
【0042】
制振層は、より詳しく言うと、衝撃により発生するタイル中の屈曲波の振幅を減少させることにより歩行音に関して音響増強を行い、そしてそれによりタイルの音響放射を減らして室内の音を小さくするのに役立つ。
【0043】
発明者らは、この制振の機能は、制振層と組み合わせたタイルを硬質の支持材、すなわち床又は壁、に結合させるという事実により、相応により顕著になる、ということを証明するのに成功した。それによりサンドイッチタイプの構造が2つの硬質構成要素間に作られて、これが中間の制振層に剪断変形を生じさせそして振動エネルギーを消散させるのに役立つ。
【0044】
本発明のタイルが主に、それ自体で直接しかるべき音響増強被覆を提供するのに使用しようとするものである場合でも、開放気孔を有するとともにある程度の弾力性を有する下層、例えば、繊維を基礎材料とし衝撃音に対する防音により特別に適合する下層、を事前に被着するのを検討することが可能である。とは言え、この繊維質の下層と制振層との間には、後者が本発明によりその役割を十分に果たすことができるよう、硬質の構成要素を挿入しなければならない。
【0045】
タイルをその対象となる支持材へと結合するのは、制振層2及び支持材3と相性のよい結合手段5により行われる。これらの手段は、例えば、セメント、漆喰、木材、鉱物性の結合剤、不織、強化又は流延した合成もしくは無機質繊維である。
【0046】
本発明のタイルは、紛れもなく音響増強特性を有する。
【実施例】
【0047】
制振層なしの単純なタイルの試料(例1)と、ポリマーの制振層を備えたタイルの2つの試料(例2、3)とで、比較試験を行った。これらの試料はセメントの支持材へ結合させた。
【0048】
これらの試験は、ISO PAS 16940文書に記載された測定方法によって、200Hz、1000Hz及び3150Hzに一番近い共振周波数を、後処理の間に逐次的に選択して、20℃及びそれぞれ200Hz、1000Hz及び3150Hzで構造体の最頻減衰係数を得ることにより行った。各測定試料は、厚さ5mmのセメント支持材、通常のタイル用接着剤、及び0.12m2の面積に通常のタイル目地で接合した3つのセラミックタイルで構成した。
【0049】
これらの3つの例について得られた結果を下記の表1にまとめて示す。
【0050】
例1は、200mm×200mm×7.5mmの、制振層なしのきめの細かい光沢のあるストーンウエアのDESVRESタイルに関する。
【0051】
例2は、例1と同じセラミックタイルに関するものであり、慣用的なポリビニルブチラールフィルムを備えていて、このフィルムはソルーシア(Solutia)社により製造されるSaflex(商標) RC41の商標名を持ち、20℃及び10Hzと5000Hzの間で、動的損失率tanδが0.1と0.45の間、ヤング率E’が2.5×108Paと7×108Paの間であり、詳しく言えば動的損失率tanδが0.2及びヤング率E’が5.9×108Paである。
【0052】
例3は、例1と同じセラミックタイルに関するものであり、ソルーシア(Solutia)社により製造される商標名がSaflex(商標) Vanceva Quiet QC41の増強した音響減衰特性を持つポリビニルブチラールフィルムを備えていて、このフィルムは、20℃及び10Hzと5000Hzの間において、動的損失率tanδが0.4と1.1の間であり、ヤング率E’が7.8×106Paと1.2×108Paの間であり、特に1000Hzにおいて、動的損失率tanδが1及びヤング率E’が5×107Paである。
【0053】
下記の表1は、20℃及びいくつかの周波数での、各例の最頻の減衰係数を要約して示している。
【0054】
【表1】

【0055】
最頻減衰係数が有意に増大することは、本発明のタイルが提供することのできる真の音響増強性能を示している。
【0056】
200Hzにおける最頻減衰係数は、低周波数での音響性能の指標である。この減衰係数が0.02から0.07に増大することは、構造体におけるエネルギーの消散がより多いこと、従って発散される音が有意に少ないことを示している。この状況は、1000Hzでの最頻減衰係数の増大により中域周波数において、及び3150Hzでの最頻減衰係数の増大により高周波数において、よりいっそう顕著になっている。
【0057】
高及び中域周波数において、最頻減衰係数は、従来の被覆と本発明による制振層を備えた被覆では5倍になっており、あるいは音響性能に関してよりいっそう増強された制振材料を用いることによって10倍にさえなっていることを認めることができる。
【0058】
これらの測定値を補足するために、1000Hz及び20℃で、音響用PVBのSaflex(商標) Vanceva Quiet QC41(例3)とセラミックタイルとの弾性率比E'PVBac/E'tileは0.001であり、従って本発明により0.09未満である。1000Hz及び20℃において、音響用PVBのSaflex(商標) Vanceva Quiet QC41とセメントとの弾性率比E'PVBac/E'supportは0.004であり、従って0.09未満である。
【0059】
このようなタイルには更に、音響増強特性を提供するように指定された被覆を施工する速度において明らかな利点がある。一式そろったキットの形で音響手段を組み入れたタイルを提供することによって、本発明は、複数のタイルを供給しそしてそれらを支持材へ直接結合させて所望の被覆を簡単に且つ素早く作ることにより、それを可能にする。
【符号の説明】
【0060】
1 タイル
2 制振材料層
3 床
4 被覆
5 結合手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に接合された、振動エネルギー消散特性を付与する制振材料の層(2)を含む、被覆用タイル(1)。
【請求項2】
制振材料の層(2)が、20℃、10Hzと5000Hzの間において、少なくとも0.08に等しい、好ましくは0.3より大きい、動的損失率tanδと、5×106Paと109Paの間の動的ヤング率E’を有する、請求項1記載のタイル。
【請求項3】
制振材料の層(2)、タイル(1)、及び当該タイルが対象とする支持材(3)がそれぞれ、ヤング率E'(材料)、E'(タイル)、E'(支持材)を有し、それらはE'(材料)/E'(タイル)比が0.09より小さく、且つE'(材料)/E'(支持材)比が0.09より小さいようなものである、請求項1又は2記載のタイル。
【請求項4】
制振材料の層(2)が1種以上の粘弾性ポリマー材料、例えば、ビチューメン、スチレン−アクリル系ポリマー、ポリビニルブチラールなど、特に増強した音響減衰特性を持つポリビニルブチラール、で構成されている、請求項1から3までのいずれか一つに記載のタイル。
【請求項5】
制振材料の層(2)が、シートもしくはフィルム、又は流延された樹脂で構成され、且つ1種以上の制振性ポリマー材料で構成されている、請求項1から4までのいずれか一つに記載のタイル。
【請求項6】
制振材料の層(2)が水性接着剤タイプの結合手段により当該タイルに接合されている、請求項1から5までのいずれか一つに記載のタイル。
【請求項7】
制振材料の層(2)が当該制振材料の固有の接着特性により当該タイルに接合されている、請求項1から5までのいずれか一つに記載のタイル。
【請求項8】
前記制振材料の層を含む一方の面の反対側の面がセラミック、例えばファイアンス、テラコッタ、ストーンウエアなど、又はガラス質ペースト、又は大理石、又は再生石、又は硬質複合材料で構成されている、請求項1から7までのいずれか一つに記載のタイル。
【請求項9】
前記制振材料の層(2)の接着力により、床又は壁タイプの硬質支持材(3)に接合する用途向けである、請求項1から8までのいずれか一つに記載のタイル。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか一つに記載のタイル(1)を複数含む床又は壁の被覆。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−31638(P2010−31638A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171537(P2009−171537)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(509207070)サン−ゴバン ウェベル フランス (2)
【Fターム(参考)】