説明

被覆蛍光体及びLED発光装置

【課題】防湿膜を緻密で且つクラックの発生を抑制した膜として形成することができ、耐湿性に優れた被覆蛍光体を提供する。
【解決手段】蛍光体の表面を防湿膜で被覆した被覆蛍光体に関する。防湿膜は、化学式(1)で示される化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第1の層と、この第1の層の内側の、化学式(2)で示される化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第2の層を備えた複層被膜であることを特徴とする。
化学式(1) M(OR
化学式(2) M(ORn−x(R
(M,MはSi,Ti,Al,Zr,Ge,Yから選択される金属。R,Rはアルキル基又は水素、Rはアルキル基。mはMの価数と、nはMの価数と同じ整数。xは1以上の整数であり、n>x。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を防湿層で被覆した被覆蛍光体及び、この被覆蛍光体を用いて作製したLED発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(LED)の発光効率向上に伴い、LEDを応用した発光装置が普及、拡大しつつある。特に、LEDと蛍光体を組み合わせた発光装置は、高効率、小型・薄型、省電力であり、また白色や電球色など使用目的に応じた任意の色での発光が可能である等の特長を有する。このため蛍光体を用いた発光装置は、屋内外用の照明器具、液晶ディスプレイ、携帯電話若しくは携帯情報端末等のバックライト用光源、室内外広告等に利用される表示装置、車載用光源等に利用することができるものであり、高効率化、高信頼化、色ムラ、色バラツキ低減などの開発が行われている。
【0003】
これまで例えば、青色または近紫外光を発光する半導体発光素子と、蛍光体とを組み合わせて、白色等で発光する発光装置の開発が行われており、この発光装置に適した蛍光体としては、さまざまな酸化物、硫化物、窒化物の蛍光体が用いられている。しかし、例えばケイ酸塩や硫化物系の蛍光体、もしくは一部の窒化物系蛍光体は、空気中の水分と水和反応して加水分解するおそれがあり、このような加水分解による蛍光体の劣化によって、発光装置としての品質低下を招くという問題がある。
【0004】
そこで、蛍光体を表面処理して耐湿性を改善することが種々検討されている。例えば特許文献1では、蛍光体の粒子の表面にポリオルガノシロキサン被膜を形成することによって、この防湿性の被膜で湿気などの水分が蛍光体に作用することを防ぐようにしている。
【0005】
しかし、特許文献1のようなポリオルガノシロキサン被膜は緻密度が低いため、水分がポリオルガノシロキサンのマトリックス内を浸透するおそれがあって、湿気を完全に遮断することは難しく、蛍光体の劣化を防ぐ効果が低いという問題がある。
【0006】
一方、特許文献2では、蛍光体の表面を、金属酸化物粒子と金属酸化物マトリックスからなる疎水性被膜で被覆することによって、この疎水性被膜で湿気などの水分が蛍光体に作用することを防ぐようにしている。
【0007】
このものでは、金属酸化物粒子を含有することによって、被膜は緻密なものになり、水分の遮断性能を高く得ることができる。しかし、金属酸化物粒子の含有によって被膜の脆性が増し、また金属酸化物粒子とマトリックスの界面に隙間が生じ易く、この結果、疎水性被膜を蛍光体の表面に造膜する際の硬化収縮で、被膜にクラックが入り易くなるものであり、このクラックを通して水分が浸入するおそれがあるという問題がある。
【0008】
また特許文献3では、金属アルコキシドやその誘導体を加水分解・脱水重合させることによって形成される金属酸化物被膜で蛍光体粒子の表面を被覆し、さらにこの金属酸化物被膜を複数層に形成することによって、複数層の被膜で湿気などの水分が蛍光体に作用することを防ぐようにしている。
【0009】
このものでは、複数の金属酸化物被膜の一つにクラックが生じても、このクラックを通して水分が蛍光体に侵入することを他の金属酸化物被膜で防ぐようにしている。しかし、特許文献3の金属酸化物被膜は脆性が高く、造膜の際の硬化収縮でクラックが発生し易いが、クラックを防ぐ工夫はなされていないため、金属酸化物被膜を複数層に形成しても、クラックを通して水分が浸入する経路が延長されることになるだけであり、蛍光体に水分が作用することを遮断するうえでの根本的な解決策にはなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−298544号公報
【特許文献2】特開平9−272866号公報
【特許文献3】特開2008−111080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、防湿膜を緻密で且つクラックの発生を抑制した膜として形成することができ、耐湿性に優れた被覆蛍光体を提供することを目的とするものであり、また品質劣化を引き起こすことなく耐用年数の長いLED発光装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る被覆蛍光体は、蛍光体の表面を防湿膜で被覆した被覆蛍光体であって、防湿膜は、化学式(1)で示される金属アルコキシドまたはその加水分解物あるいはこれらの縮合物から形成される金属酸化物の第1の層と、この第1の層の内側の、化学式(2)で示される金属アルコキシドまたはその加水分解物あるいはこれらの縮合物から形成される金属酸化物の第2の層を備えた複層被膜であることを特徴とするものである。
【0013】
化学式(1) M(OR
化学式(2) M(ORn−x(R
(M,MはSi,Ti,Al,Zr,Ge,Yから選択される金属。R,Rはアルキル基又は水素、Rはアルキル基。mはMの価数と、nはMの価数と同じ整数。xは1以上の整数であり、n>x。)
この発明によれば、複数層で形成される防湿膜の外側の層は、側鎖を有せず緻密な金属酸化物の第1の層で形成することができ、この第1の層で水分の遮断性能を高く得ることができると共に、内側の層はアルキル基を側鎖に有する柔軟性をもつ金属酸化物の第2の層で形成することができ、この第2の層にクラックが生じないのは勿論、緻密な第1の層の硬化収縮を柔軟な第2の層で緩衝して、第1の層にクラックが生じることを防ぐことができるものである。
【0014】
また本発明は、防湿膜の第1の層に、粒子径1nm以上100nm以下の二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ゲルマニウム、酸化イットリウムから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物粒子が分散して含有されていることを特徴とするものである。
【0015】
このように金属酸化物粒子を含有させることによって、被膜を緻密に形成することができ、水分の遮断性能を高く得ることができるものである。
【0016】
また本発明は、防湿膜の厚みは10nm以上1000nm以下であることを特徴とするものである。
【0017】
この発明によれば、光の透過を防湿膜で阻害するようなことなく、防湿膜による水分の遮断性能を高く得ることができるものである。
【0018】
また本発明に係るLED発光装置は、上記の被覆蛍光体を用いて形成したことを特徴とするものであり、耐湿性の高い被覆蛍光体を用いて、耐用年数の長いLED発光装置を得ることができるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る被覆蛍光体によれば、複数層で形成される防湿膜の外側の層は、側鎖を有せず緻密な金属酸化物の第1の層で形成することができ、この第1の層で水分の遮断性能を高く得ることができると共に、内側の層はアルキル基を側鎖に有する柔軟性をもつ金属酸化物の第2の層で形成することができ、この第2の層にクラックが生じないのは勿論、緻密な第1の層の硬化収縮を柔軟な第2の層で緩衝して、第1の層にクラックが生じることを防ぐことができるものであり、耐湿性に優れた被覆蛍光体を得ることができるものである。
【0020】
また本発明に係るLED発光装置は、このような耐湿性に優れた被覆蛍光体を用いて形成されるものであり、耐用年数の長い発光装置を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の他例を示すものであり、(a)(b)はそれぞれ概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態の他例を示すものであり、(a)(b)はそれぞれ概略断面図である。
【図4】本発明のLED発光装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
本発明において蛍光体としては、特に限定されることなく、LED照明などの発光装置に用いられる任意のもの、特に湿度劣化しやすいものを使用することができるものであり、赤色蛍光体粒子としては、例えば、組成が、(Ca, Sr)AlSiN:Eu2+、CaS:Eu2+、(Ca、Sr)Si:Eu2+、SrSiO:Eu2+のものなど、緑色蛍光体粒子としては、例えば、組成が、SrGa:Eu2+、(Ba,Sr)SiO:Eu2+のものなどがある。また黄色蛍光体粒子としては、例えば、組成が、(Ca,Sr)SiO:Eu2+のものなどがある。
【0024】
本発明に係る被覆蛍光体は、蛍光体1の粒子の表面に防湿膜2を被覆したものであり、この防湿膜2は2層以上の層を積層した複層被膜として形成してある。
【0025】
そして防湿膜2を形成する複数の層は、次の化学式(1)で表される金属アルコキシドまたはその加水分解物あるいはこれらの縮合物を、加水分解・縮合させて形成される金属酸化物の第1の層と、次の化学式(2)で表される金属アルコキシドまたはその加水分解物あるいはこれらの縮合物を、加水分解・縮合させて形成される金属酸化物の第2の層で形成されるものである。
【0026】
化学式(1) M(OR
化学式(2) M(ORn−x(R
ここで、化学式(1)(2)においてM,Mはそれぞれ、Si,Ti,Al,Zr,Ge,Yから選択される金属である。またR,Rはアルキル基又は水素であり、総て同じものであってもよく、異なるものが混在していてもよい。またRはアルキル基であり、総て同じであってもよく、異なるものが混在していてもよい。さらにmはMの価数と同じ整数,nはMの価数と同じ整数である。さらにxは1以上の整数であり、n>xである。
【0027】
上記の化学式(1)の化合物は、Rが全てメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のようなアルキル基である金属アルコキシドであっても良いし、Rの一部がアルキル基で、残りが水素であっても良い。またRの全てが水素である場合には、金属アルコキシドの加水分解物を用いることができる。化学式(1)のRのアルキル基は、特に限定されるものではないが、Cの数が1〜5の範囲のものであることが好ましい。
【0028】
化学式(1)の金属アルコキシドの具体例としては、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラキス(2−メトキシエトキシ)シランのような置換または非置換のアルコキシシラン類;アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリ−n−プロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリ−n−ブトキシド、アルミニウムトリイソブトキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、アルミニウムトリ−tert−ブトキシド、アルミニウムトリス(ヘキシルオキシド)、アルミニウムトリス(2−エチルヘキシルオキシド)、アルミニウムトリス(2−メトキシエトキシド)、アルミニウムトリス(2−エトキシエトキシド)、アルミニウムトリス(2−ブトキシエトキシド)のような置換または非置換のアルミニウムアルコキシド類;チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトラ−sec−ブトキシド、チタンテトラキス(2−エチルヘキシルオキシド)のようなチタンアルコキシド類;ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−sec −ブトキシド、ジルコニウムテトラキス(2−エチルヘキシルオキシド)のようなジルコニウムアルコキシド類;ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラ−n−プロポキシド、ゲルマニウムテトライソプロポキシド、ゲルマニウムテトラ−n−ブトキシド、ゲルマニウムテトラ−sec −ブトキシド、ゲルマニウムテトラキス(2−エチルヘキシルオキシド)のようなゲルマニウムアルコキシド類;イットリウムヘキサエトキシド、イットリウムヘキサエトキシド−n−プロポキシド、イットリウムヘキサエトキシドイソプロポキシド、イットリウムヘキサエトキシド−n−ブトキシド、イットリウムヘキサエトキシド−sec −ブトキシド、イットリウムヘキサエトキシドキス(2−エチルヘキシルオキシド)のようなイットリウムアルコキシド類;を挙げることができ、またこれらの金属アルコキシド類のオリゴマーである部分加水分解縮合物や、それら相互のまたはモノマーである金属アルコキシドとの混合物を用いることもできる。
【0029】
上記の化学式(2)の化合物は、Rが全てメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のようなアルキル基である金属アルコキシドであっても良いし、Rの一部がアルキル基で、残りが水素であっても良い。またRの全てが水素である、金属アルコキシドの加水分解物であってもよい。また金属Mに少なくとも一つのアルキル基Rが結合しているものであり、このアルキル基Rは直鎖状でも分岐状でもよく、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルおよびオクチルを例示することができ、また置換アルキル基として、2−メトキシエチル、2−エトキシエチルおよび2−ブトキシエチルのようなアルコキシ置換アルキル基を例示することができる。化学式(2)のRのアルキル基は、Cの数が1〜5の範囲のものであることが好ましく、Rのアルキル基は、Cの数が1〜10の範囲のものであることが好ましい。
【0030】
化学式(2)のアルキル置換金属アルコキシドの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシランのようなメトキシシラン類;メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルビニルジエトキシシランのようなエトキシシラン類;メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシランのようなプロポキシシラン類;メチルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シランのような置換アルコキシシラン類を挙げることができ、これらの単独または相互の部分加水分解、縮合物を用いることもできる。また金属種がアルミニウム、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、イットリウムの金属アルコキシド類も同様に用いることができる。
【0031】
そして、蛍光体1の粒子の表面に上記の化学式(2)の化合物あるいはその縮合物を被覆し、必要に応じて加熱処理等して、加水分解及び脱水縮合することによって、金属酸化物の第2の層2bを形成することができる。次にこの第2の層2bの上から蛍光体1の粒子の表面に、上記の化学式(1)の化合物あるいはその縮合物を被覆し、必要に応じて加熱処理等して、加水分解及び脱水縮合することによって、金属酸化物の第1の層2aを形成することができる。このようにして、図1に示すような、2層構成の防湿膜2で蛍光体1の表面を被覆することができるものである。
【0032】
ここで、化学式(1)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第1の層2aは、化学式(2)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第2の層2bの外側に接して形成されるものであり、化学式(1)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第1の層2aが蛍光体1の表面に直接接しないようにしてある。従って図1のように防湿膜2が2層構成の場合には、外層が化学式(1)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第1の層2aで、内層が化学式(2)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第2の層2bで形成されるものである。
【0033】
また防湿膜2が3層構成の場合には、図2(a)のように、最外層を化学式(1)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第1の層2aで、内側2層を化学式(2)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第2の層2bで形成することができるものであり、もしくは、外側2層を化学式(1)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第1の層2aで、最内層を化学式(2)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第2の層2bで形成することもできる。
【0034】
さらに防湿膜2が4層構成の場合には、例えば図2(b)のように、内側から2層目と最外層を化学式(1)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第1の層2aで、最内層と内側から3層目を化学式(2)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第2の層2bで形成することができる。勿論これに限られることはなく、外側2層を化学式(1)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第1の層2aで、内側2層を化学式(2)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第2の層2bで形成することもできる。
【0035】
そして、化学式(1)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物は、アルキル基を側鎖として有するようなことがないため、緻密なマトリックスを形成することができるものであり、この金属酸化物で形成される第1の層2aは緻密な層である。このため、この緻密な第1の層2aによって空気中の水分を遮断することができ、第1の層2aを備えて形成される防湿膜2を水分が浸透して蛍光体1に作用することを防ぐことができるものである。この反面、化学式(1)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物は緻密であるために脆性が高く、第1の層2aを蛍光体1の表面に直接形成すると、硬化収縮等によってクラックが発生し易い。
【0036】
一方、化学式(2)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物は、アルキル基を側鎖として有するために緻密なマトリックスを形成することができず、水分の遮断性能は低いが、柔軟性の高いマトリックスを形成することができるものであり、この金属酸化物で形成される第2の層2bは、上記の第1の層2aより高い柔軟性を有する層である。そして上記の第1の層2aはこの第2の層2bの上に形成されるので、第2の層2bが第1の層2aと蛍光体1との間の緩衝層となって、第1の層2aの硬化収縮が第2の層2bによって緩衝され、緻密な第1の層2aに硬化収縮等が発生してもこの緩衝作用で第1の層2aにクラックが生じることを防ぐことができるものである。従って、クラックによって水分が防湿膜2を通過して蛍光体1に作用することを防ぐことができるものである。
【0037】
ここで、蛍光体1の表面を被覆する防湿膜2の総厚みは、10nm〜1000nmの範囲が好ましい。防湿膜2の膜厚が10nm未満であると、水分を遮断する効果を十分に得ることができないことがあり、耐湿性の向上が不十分になるおそれがある。逆に防湿膜2の膜厚が1000nmを超えると、防湿膜2の光透過性が低くなって、蛍光体1による波長変換の発光効率が低下するおそれがある。また防湿膜2中での、第1の層2aと第2の層2bの膜厚の比は、前者対後者の比で、1:0.5〜1:1.5の範囲が好ましい。第1の層2aの厚みの比が大き過ぎると、第2の層2bによる緩衝作用が不十分になって、クラックが発生し易くなり、逆に第2の層2bの厚みの比が大き過ぎると、第1の層2aの厚みが不十分になって、この第1の層2aによる水分の遮断性が低くなる。
【0038】
図3は本発明の他の実施の形態を示すものであって、化学式(1)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物の第1の層2a中に、金属酸化物粒子3を分散させて含有させるようにしたものであり、金属酸化物から成るマトリックス中に金属酸化物粒子3が分散された層として形成してある。このように金属酸化物粒子3を分散させて含有させることによって、第1の層2aをより緻密化することができると共に、第1の層2aを水分が透過することを金属酸化物粒子3で遮って遮断することができるものであり、水分の遮断性能がより高い防湿膜2を形成することができるものである。
【0039】
図3(a)のように防湿膜2が内側の第2の層2bと外側の第1の層2aの2層構成で形成される場合には、金属酸化物粒子は外側の第1の層2aに含有されるものである。図3(b)のように防湿膜2が内側2層が第2の層2b、外側1層が第1の層2aの3層構成で形成される場合には、金属酸化物粒子は外側の第1の層2aに含有されるものである。また防湿膜2に複数の第1の層2aが含まれる場合、金属酸化物粒子3は総ての第1の層2aに含有させるようにしてもよいが、一部の第1の層2aにのみ含有させるようにしてもよい、金属酸化物粒子3を一部の第1の層2aにのみ含有させる場合、最外層の第1の層2aに金属酸化物粒子3を含有させるようにするのが好ましい。
【0040】
この金属酸化物粒子3としては、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ゲルマニウム及び酸化イットリウムの粒子を用いることができ、これらのうち1種を単独で用いる他、2種以上を併用することもできる。
【0041】
金属酸化物粒子3の粒径は、1〜100nmの範囲のものが好ましい。粒径が1nm未満のものは工業的に入手し難く実用的でない。逆に粒径が100nmを越えると、蛍光体のような粒子の表面に好適な被膜を形成することが困難となり、また発光時に蛍光体1の表面で散乱が発生して発光特性が低下するおそれがある。尚、本発明において粒径は平均粒径を意味するものであり、レーザ回折散乱法で測定した数値である。また第1の層2a中の金属酸化物粒子3の含有量は、特に限定されるものではないが、1〜40体積%の範囲が好ましい。
【0042】
次に、化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物から形成される金属酸化物で蛍光体1の表面を被覆して防湿膜2を形成する方法について説明する。この被覆方法には、種々の方法があり、特に限定されるものではないが、ゾルゲルコーティング法、噴霧乾燥法、流動層コーティング法について説明する。
【0043】
ゾルゲルコーティング法は、まず蛍光体1の粒子を液状の媒体中に分散させ、撹拌しながら、化学式(1)又は化学式(2)の化合物あるいはその縮合物、あるいはその溶液を添加し、蛍光体1の粒子表面において、化学式(1)又は化学式(2)の化合物あるいはその縮合物の加水分解と縮合を進行させて、金属酸化物のマトリックスからなる被膜層を蛍光体1の粒子表面に形成するようにしたものである。そしてこの処理を繰り返して行なうことによって、複数層の防湿膜2を形成することができる。また層中に金属酸化物粒子3を含有させる場合には、化学式(1)又は化学式(2)の化合物あるいはその縮合物を添加する際に、同時に金属酸化物粒子3を添加することによって、金属酸化物マトリックス相に金属酸化物粒子3が分散した被膜層を形成することができる。
【0044】
上記の媒体や、化学式(1)又は化学式(2)の化合物あるいはその縮合物を溶解する溶媒としては、化学式(1)又は化学式(2)の化合物あるいはその縮合物の加水分解速度や縮合速度が遅い場合は水を用いてもよいが、通常は有機溶媒を用いる。
【0045】
この有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系溶媒;トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、石油エーテル、石油ベンジン、ガソリン、ナフサのような炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル系溶媒;およびアセトン、メチルエチルケトンのようなケトン系溶媒を例示することができるものであり、これらは単独で用いても、相互の混合物として用いてもよい。また化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物の加水分解速度が小さい場合は、水を共存させていてもよい。
【0046】
有機溶媒中で蛍光体1を化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物で処理する場合、この化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物を加水分解させるために、化学量論量または過剰量の水を系内に存在させることができる。水は、最初に蛍光体1を分散させる系に用いても、加水分解速度が比較的小さい化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物とともに添加しても、これらとは別個に系に添加してもよい。あるいは、化学式(1)又は化学式(2)の化合物あるいはその縮合物を蛍光体1の粒子表面に付着させ、溶媒を留去、またはろ過によって、化学式(1)又は化学式(2)の化合物あるいはその縮合物が付着した蛍光体1を回収した後に、気相または液相の水と蛍光体1を接触させて、その表面の化学式(1)又は化学式(2)の化合物あるいはその縮合物を加水分解、縮合させ、化学式(1)又は化学式(2)の化合物あるいはその縮合物の被膜層を形成させることもできる。
【0047】
噴霧乾燥法は、液状媒体中に蛍光体1を分散した液に、化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物と、金属酸化物粒子を加えた分散液を調製し、この分散液を噴霧させるようにしたものであり、化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物で蛍光体1を包含した液滴状態で乾燥することによって、蛍光体1の粒子表面に金属酸化物被膜を付着させ、防湿膜2を形成することができる。液状媒体としては上記に例示した有機溶媒を使用することできる。そしての処理を繰り返して行なうことによって、複数層の防湿膜2を形成することができる。また層中に金属酸化物粒子3を含有させる場合には、化学式(1)又は化学式(2)の化合物あるいはその縮合物に金属酸化物粒子3を混合したものを噴霧して霧状にして、蛍光体1の粒子表面に接触させるようにしたり、液状媒体中に蛍光体1の粒子を分散した液に、化学式(1)又は化学式(2)の化合物あるいはその縮合物を加えて調製した分散液を噴霧するにあたって、この分散液にさらに金属酸化物粒子3を混合するようにしたりして、金属酸化物マトリックス相に金属酸化物粒子3が分散した被膜層を形成することができる。
【0048】
流動層コーティング法は、化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物とを噴霧状にするか、あるいは化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物の沸点が比較的に低い場合には気化させることにより、流動層内で流動している蛍光体1の粒子表面に接触させるようにしたものである。蛍光体1に化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物を接触させる際に、蛍光体1を流動化させると同時に、化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物等を、窒素、アルゴンのような不活性ガスとともに供給するようにしてあり、それと同時に、または接触後に、蛍光体1の表面に存在する化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物を化学量論量または過剰量の水と接触させるようにしてある。水は、化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物と同様に、噴霧状または気相で接触させるものである。
【0049】
上記の分散液混合法及び噴霧乾燥法のいずれの方法においても、化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物の加水分解反応や縮合反応を促進して、より低温、より短時間で金属酸化物被膜を形成させるために、触媒を添加するようにしてもよい。触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸のような酸;水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウムのような塩基;ヘキサン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ナフテン酸などのカルボン酸の亜鉛塩のようなカルボン酸金属塩;アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリ−n−プロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリ−n−ブトキシド、アルミニウムイソブトキシドのようなアルミニウムアルコキシドおよびそれらの部分加水分解縮合物;ジイソプロポキシ(アセチルアセトナト)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ(アセチルアセトナト)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセタト)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ(エチルアセトアセタト)アルミニウム、n−ブトキシビス(エチルアセトアセタト)アルミニウムのようなアルミニウムキレート化合物;酢酸テトラメチルアンモニウムのような第四級アンモニウム塩;ならびにトリエタノールアミンのようなアミノ化合物を例示することができる。またそれ自体が金属アルコキシドである3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(N−2−アミノエチル)プロピルトリメトキシシランのようなアミノ基含有アルコキシシランを触媒と併用してもよい。上記の触媒はどのような方法で系に添加されるようにしてもよい。
【0050】
上記の化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物による表面処理や、水との接触は、常温から約500℃までの任意の温度で行うことができる。分散液混合法のように液相中で表面処理を行なう際に、処理に用いる化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物または溶媒の沸点付近、あるいは沸点を超える温度で表面処理を行う場合は、必要に応じて還流冷却器を設け、また高圧密閉容器を用いるのが好ましい。噴霧乾燥法のように化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物の溶液や、これにさらに蛍光体1を分散した液を噴霧乾燥する際には、処理に用いる溶媒の沸点以上、もしくは化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物の加水分解、縮合反応が進行する温度以上で噴霧を行なうのが好ましい。
【0051】
また、上記の化学式(1)や化学式(2)の化合物あるいはその縮合物による表面処理を、常温または60℃までの比較的低い加熱温度で行なった場合、分散液混合法の場合には表面処理された蛍光体1をろ過によって回収した後、金属酸化物被膜層を形成する縮合反応を完結させるために、さらに60〜300℃の温度で加熱するのが好ましい。この加熱温度は蛍光体1の熱劣化が進行しない範囲で任意に設定することできる。加熱時間は特に限定されないが、0.5〜3時間程度でよい。
【0052】
次に、上記のようにして得た本発明の被覆蛍光体を用いて作製されるLED発光装置について説明する。
【0053】
図4はLED発光装置Aの一例を示すものであり、導体パターン23を設けた実装基板20の表面に、応力緩和用のサブマウント部材30を介してLEDチップ10が実装してあり、LEDチップ10はワイヤ14で導体パターン23に接続してある。このLEDチップ10を囲むように透光性材料からなるドーム状の光学部材60が実装基板20の表面に取り付けてあり、LEDチップ10から放射された光の配光がこの光学部材60で制御されるようにしてある。この光学部材60の内側にはLEDチップ10とボンディングワイヤ14を封止する透光性の封止材50が充填してある。さらにこの光学部材60を空間80を介して覆うようにドーム状の波長変換部材70が実装基板20に取り付けてある。この波長変換部材70は、本発明の被覆蛍光体を、透光性媒体(例えばシリコーン樹脂など)に分散させることによって形成されるものである。
【0054】
ここで上記のように形成されるLED発光装置Aにあって、例えば、LEDチップ10として、青色光を放射するGaN系の青色LEDチップを用い、波長変換部材70に分散させる被覆蛍光体として、LEDチップ10から放射された光で励起されて緑色光を放射する緑色蛍光体粒子と、LEDチップ10から放射された光で励起されて赤色光を放射する赤色蛍光体粒子とを用いることができる。そして、LEDチップ10を発光させて青色光を放射させると、この光が波長変換部材70を透過する際に、青色光の一部が緑色蛍光体粒子で緑色に変換されると共に、青色光の他の一部が赤色蛍光体粒子で赤色に変換され、青色と緑色と赤色の光が混合されて白色光としてLED発光装置Aから出射されるものである。従ってLED発光装置Aを白色光を発光する照明装置として用いることができるものである。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。尚、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製「SALD2000」)を用いて計測した数値である。
【0056】
(実施例1)
イソプロパノール700質量部にイオン交換水25質量部を加えて均一に混合した液に、蛍光体(母体(Sr,Ca,Ba)SiO:Eu2+、平均粒子径15μm)の粉末100質量部を分散させ、蛍光体分散液を調製した。また、メチルトリメトキシシラン130質量部と0.1規定−塩酸水溶液9.5mlを、イソプロパノール700質量部に溶解したアルコキシシラン溶液を調製した。そして蛍光体分散液を攪拌しながらアルコキシシラン溶液を加えることによって、スラリー分散液を得た。
【0057】
そして、このスラリー分散液を、窒素雰囲気(酸素濃度3%以下)、150℃、アトマイザー回転数15000rpm、液供給速度40g/minの条件でスプレードライヤーに供給して噴霧乾燥することによって、イソプロパノールを揮散させると共に、メチルトリメトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリメチルシロキサンの層を蛍光体の表面に被覆し、これを更に300℃で1時間加熱して乾燥することによって、一重被覆蛍光体粉末を得た。
【0058】
次に、イソプロパノール700質量部にイオン交換水25部を加えて均一に混合した液に、上記のポリメチルシロキサンの層で被覆した一重被覆蛍光体粉末100質量部を分散させて蛍光体分散体を調製した。また、テトラエトキシシラン200質量部と0.1規定−塩酸水溶液9.5mlを、イソプロパノール700質量部に溶解したアルコキシシラン溶液を調製した。そして蛍光体分散液を攪拌しながらアルコキシシラン溶液を加えることによって、スラリー分散液を得た。
【0059】
そしてこのスラリー分散液を、窒素雰囲気(酸素濃度3%以下)、150℃、アトマイザー回転数15000rpm、液供給速度40g/minの条件でスプレードライヤーに供給して噴霧乾燥することによって、イソプロパノールを揮散させると共に、テトラエトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリシロキサンの層が、一重被覆蛍光体粉末の表面に被覆された二重被覆蛍光体粉末を得た。この二重被覆蛍光体粉末を更に300℃で1時間加熱して乾燥した。
【0060】
このようにして、蛍光体1の表面に、メチルトリメトキシシランから形成されるポリメチルシロキサンの第2の層2bと、テトラエトキシシランから形成されるポリシロキサンの第1の層2aがこの順に積層された防湿膜2を被覆した被覆蛍光体を製造した(図1参照)。
【0061】
(実施例2)
メチルトリメトキシシラン130質量部の代わりに、n−プロピルトリメトキシシラン160質量部を用いるようにした他は、実施例1と同様に噴霧乾燥することによって、n−プロピルトリメトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリプロピルシロキサンの層が蛍光体の表面に被覆された一重被覆蛍光体粉末を得た。
【0062】
後は実施例1と同様にして、この一重被覆蛍光体粉末の表面に、テトラエトキシシランの加水分解と重縮合によって生成されるポリシロキサンの層を被覆した二重被覆蛍光体粉末を得た。
【0063】
このようにして、蛍光体1の表面に、n−プロピルトリメトキシシランから形成されるポリプロピルシロキサンの第2の層2bと、テトラエトキシシランから形成されるポリシロキサンの第1の層2aがこの順に積層された防湿膜2を被覆した被覆蛍光体を製造した(図1参照)。
【0064】
(実施例3)
実施例2と同様にして、n−プロピルトリメトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリプロピルシロキサンの層を蛍光体の表面に被覆した一重被覆蛍光体粉末を得た。
【0065】
次に、イソプロパノール700質量部にイオン交換水25部を加えて均一に混合した液に、上記のポリプロピルシロキサンの層で被覆した上記の一重被覆蛍光体粉末100質量部を分散させて蛍光体分散体を調製した。また、メチルトリメトキシシラン130質量部と0.1規定−塩酸水溶液9.5mlを、イソプロパノール700質量部に溶解したアルコキシシラン溶液を調製した。そして蛍光体分散液を攪拌しながらアルコキシシラン溶液を加えることによって、スラリー分散液を得た。
【0066】
そして、このスラリー分散液を、窒素雰囲気(酸素濃度3%以下)、150℃、アトマイザー回転数15000rpm、液供給速度40g/minの条件でスプレードライヤーに供給して噴霧乾燥することによって、イソプロパノールを揮散させると共に、メチルトリメトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリメチルシロキサンの層を一重被覆蛍光体の表面に被覆し、これを更に300℃で1時間加熱して乾燥することによって、二重被覆蛍光体粉末を得た。
【0067】
次に、イソプロパノール700質量部にイオン交換水25部を加えて均一に混合した液に、上記の二重被覆蛍光体粉末100質量部を分散させて蛍光体分散体を調製した。また、テトラエトキシシラン200質量部と0.1規定−塩酸水溶液9.5mlを、イソプロパノール700質量部に溶解したアルコキシシラン溶液を調製した。そして蛍光体分散液を攪拌しながらアルコキシシラン溶液を加えることによって、スラリー分散液を得た。
【0068】
そしてこのスラリー分散液を、窒素雰囲気(酸素濃度3%以下)、150℃、アトマイザー回転数15000rpm、液供給速度40g/minの条件でスプレードライヤーに供給して噴霧乾燥することによって、イソプロパノールを揮散させると共に、テトラエトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリシロキサンの層が、二重被覆蛍光体粉末の表面に被覆された三重被覆蛍光体粉末を得た。この三重被覆蛍光体粉末を更に300℃で1時間加熱して乾燥した。
【0069】
このようにして、蛍光体1の表面に、n−プロピルトリメトキシシランから形成されるポリプロピルシロキサンの第2の層2bと、メチルトリメトキシシランから形成されるポリメチルシロキサンの第2の層2bと、テトラエトキシシランから形成されるポリシロキサンの第1の層2aがこの順に積層された防湿膜2を被覆した被覆蛍光体を製造した(図2(a)参照)。
【0070】
(実施例4)
イソプロパノール700質量部にイオン交換水25質量部を投入して均一に混合した液に、実施例1で得た、メチルトリメトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリメチルシロキサンの層を被覆した一重被覆蛍光体粉末100質量部と、平均粒径が10nmの二酸化ケイ素粒子1質量部とを分散させて蛍光体分散液を調製した。またテトラエトキシシラン200質量部と0.1規定−塩酸水溶液9.5mlをイソプロパノール700質量部に溶解したアルコキシシラン溶液を調製した。そして蛍光体分散液を攪拌しながらアルコキシシラン溶液を加えることによって、スラリー分散液を得た。
【0071】
次にこのスラリー分散液を、窒素雰囲気(酸素濃度3%以下)、150℃、アトマイザー回転数15000rpm、液供給速度40g/minの条件でスプレードライヤーに供給して噴霧乾燥することによって、イソプロパノールを揮散させると共に、テトラエトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリシロキサンのマトリックス中に二酸化ケイ素粒子が均一に分散した層を一重被覆蛍光体の表面に被覆し、これを更に300℃で1時間加熱して乾燥することによって、二重被覆蛍光体粉末を得た。
【0072】
このようにして、蛍光体1の表面に、メチルトリメトキシシランから形成されるポリメチルシロキサンの第2の層2bと、テトラエトキシシランから形成されるポリシロキサンのマトリックス中に二酸化ケイ素粒子が分散した第1の層2aが、この順に積層された防湿膜2を被覆した被覆蛍光体を製造した(図3(a)参照)。
【0073】
(実施例5)
二酸化ケイ素粒子の代わりに、平均粒径が10nmの二酸化チタンを用いるようにした他は、実施例4と同様にして、蛍光体1の表面に、メチルトリメトキシシランから形成されるポリメチルシロキサンの第2の層2bと、テトラエトキシシランから形成されるポリシロキサンのマトリックス中に二酸化チタン粒子が分散した第1の層2aが、この順に積層された防湿膜2を被覆した被覆蛍光体を製造した(図3(a)参照)。
【0074】
(実施例6)
イソプロパノール700質量部にイオン交換水25質量部を投入して均一に混合した液に、実施例3で得た、n−プロピルトリメトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリプロピルシロキサンの層と、メチルトリメトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリメチルシロキサンの層を被覆した二重被覆蛍光体粉末100質量部と、平均粒径が10nmの二酸化ケイ素粒子1質量部とを分散させて蛍光体分散体を調製した。また、テトラエトキシシラン200質量部と0.1規定−塩酸水溶液9.5mlをイソプロパノール700質量部に溶解したアルコキシシラン溶液を調製した。そして蛍光体分散液を攪拌しながらアルコキシシラン溶液を加えることによって、スラリー分散液を得た。
【0075】
次にこのスラリー分散液を、窒素雰囲気(酸素濃度3%以下)、150℃、アトマイザー回転数15000rpm、液供給速度40g/minの条件でスプレードライヤーに供給して噴霧乾燥することによって、イソプロパノールを揮散させると共に、テトラエトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリシロキサンのマトリックス中に二酸化ケイ素粒子が均一に分散した層を二重被覆蛍光体の表面に被覆し、これを更に300℃で1時間加熱して乾燥することによって、三重被覆蛍光体粉末を得た。
【0076】
このようにして、蛍光体1の表面に、n−プロピルトリメトキシシランから形成されるポリプロピルシロキサンの第2の層2bと、メチルトリメトキシシランから形成されるポリメチルシロキサンの第2の層2bと、テトラエトキシシランから形成されるポリシロキサンのマトリックス中に二酸化ケイ素粒子が分散した第1の層2aが、この順に積層された防湿膜2を被覆した被覆蛍光体を製造した(図3(b)参照)。
【0077】
(実施例7)
イソプロパノール700質量部にイオン交換水25質量部を投入して均一に混合した液に、蛍光体(母体(Sr,Ca,Ba)SiO:Eu、平均粒子径15μm)の粉末100質量部と、平均粒径が10nmの二酸化ケイ素粒子1質量部とを分散させて蛍光体分散液を調製した。またメチルトリメトキシシラン130質量部と0.1規定−塩酸水溶液9.5mlをイソプロパノール700質量部に溶解したアルコキシシラン溶液を調製した。そして蛍光体分散液を攪拌しながらアルコキシシラン溶液を加えることによって、スラリー分散液を得た。
【0078】
そしてこのスラリー分散液を、窒素雰囲気(酸素濃度3%以下)、150℃、アトマイザー回転数15000rpm、液供給速度40g/minの条件でスプレードライヤーに供給して噴霧乾燥することによって、イソプロパノールを揮散させると共に、メチルトリメトキシシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリメチルシロキサンのマトリックス中に二酸化ケイ素粒子が均一に分散した層を蛍光体の表面に被覆し、これを更に300℃で1時間加熱して乾燥することによって、一重被覆蛍光体粉末を得た。
【0079】
次に、イソプロパノール700質量部にイオン交換水25部を加えて均一に混合した液に、上記の一重被覆蛍光体粉末100質量部を分散させて蛍光体分散体を調製した。また、テトラエトキシシラン200質量部と0.1規定−塩酸水溶液9.5mlを、イソプロパノール700質量部に溶解したアルコキシシラン溶液を調製した。そして蛍光体分散液を攪拌しながらアルコキシシラン溶液を加えることによって、スラリー分散液を得た。
【0080】
そしてこのスラリー分散液を、窒素雰囲気(酸素濃度3%以下)、150℃、アトマイザー回転数15000rpm、液供給速度40g/minの条件でスプレードライヤーに供給して噴霧乾燥することによって、イソプロパノールを揮散させると共に、テトラエトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリシロキサンの層が、一重被覆蛍光体粉末の表面に被覆された二重被覆蛍光体粉末を得た。この二重被覆蛍光体粉末を更に300℃で1時間加熱して乾燥した。
【0081】
このようにして、蛍光体の表面に、メチルトリメトキシシランから形成されるポリメチルシロキサンのマトリックス中に二酸化ケイ素粒子が分散した層と、テトラエトキシシランから形成されるポリシロキサンの層をこの順に積層した防湿膜を被覆した被覆蛍光体を製造した。
【0082】
(比較例1)
イソプロパノール700質量部にイオン交換水25質量部を加えて均一に混合した液に、蛍光体(母体(Sr,Ca,Ba)SiO:Eu、平均粒子径15μm)の粉末100質量部を分散させ、蛍光体分散液を調製した。また、テトラエトキシシラン200質量部と0.1規定−塩酸水溶液9.5mlを、イソプロパノール700質量部に溶解したアルコキシシラン溶液を調製した。そして蛍光体分散液を攪拌しながらアルコキシシラン溶液を加えることによって、スラリー分散液を得た。
【0083】
そして、このスラリー分散液を、窒素雰囲気(酸素濃度3%以下)、150℃、アトマイザー回転数15000rpm、液供給速度40g/minの条件でスプレードライヤーに供給して噴霧乾燥することによって、イソプロパノールを揮散させると共に、テトラエトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリシロキサンの層を蛍光体の表面に被覆し、これを更に300℃で1時間加熱して乾燥することによって、一重被覆蛍光体粉末を得た。
【0084】
このようにして、蛍光体の表面に、テトラエトキシシランから形成されるポリシロキサンの防湿層を被覆した被覆蛍光体を製造した。
【0085】
(比較例2)
テトラエトキシラン200質量部の代わりに、メチルトリメトキシシラン130質量部を用いるようにした他は、比較例1と同様にして、メチルトリメトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリメチルシロキサンの層を被覆した一重被覆蛍光体を得た。
【0086】
このようにして、蛍光体の表面に、メチルトリメトキシシランから形成されるポリメチルシロキサンの防湿層を被覆した被覆蛍光体を製造した。
【0087】
(比較例3)
イソプロパノール700質量部にイオン交換水25質量部を投入して均一に混合した液に、蛍光体(母体(Sr,Ca,Ba)SiO:Eu、平均粒子径15μm)の粉末100質量部と、平均粒径が10nmの二酸化チタン粒子1質量部とを分散させて蛍光体分散液を調製した。またテトラエトキシシラン130質量部と0.1規定−塩酸水溶液9.5mlをイソプロパノール700質量部に溶解したアルコキシシラン溶液を調製した。そして蛍光体分散液を攪拌しながらアルコキシシラン溶液を加えることによって、スラリー分散液を得た。
【0088】
そしてこのスラリー分散液を、窒素雰囲気(酸素濃度3%以下)、150℃、アトマイザー回転数15000rpm、液供給速度40g/minの条件でスプレードライヤーに供給して噴霧乾燥することによって、イソプロパノールを揮散させると共に、テトラエトキシシランの加水分解と重縮合によって生成したポリシロキサンのマトリックス中に二酸化チタン粒子が均一に分散した層を蛍光体の表面に被覆し、これを更に300℃で1時間加熱して乾燥することによって、一重被覆蛍光体粉末を得た。
【0089】
このようにして、蛍光体の表面に、テトラエトキシシランから形成されるポリシロキサンのマトリックス中に二酸化チタン粒子が分散した層からなる防湿膜を被覆した被覆蛍光体を製造した。
【0090】
上記の実施例1〜7及び比較例1〜3について、防湿膜の層の金属アルコキシドの種類と、分散した金属酸化物粒子の種類を、表1にまとめて示す。
【0091】
尚、表1において、内側の層から順に第1層、第2層、第3層とした。また「金属アルコキシド」の欄の丸括弧内の数値は、各層の膜厚を示すものであり、「金属酸化物粒子」の欄の丸括弧内の数値は層中の金属酸化物粒子の含有率を示すものである。尚、膜厚と被膜の亀裂発生の有無は、被覆処理した蛍光体をFIB加工により切断し、その断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察して測定した数値である。
【0092】
【表1】

【0093】
そして上記の実施例1〜7及び比較例1〜3で得た被覆蛍光体について、発光輝度を評価した。発光輝度の評価は、被覆処理する前の蛍光体と、被覆処理した後の被覆蛍光体の
蛍光体の発光輝度を、蛍光分光光度計(日本分光株式会社製「FP−6000Series」)を用いて計測し、被覆処理後の蛍光体の発光輝度の維持率を次の式に従って求めることによって行なった。
【0094】
被覆処理後の維持率(%)
=(被覆処理後の発光輝度/被覆処理前の発光輝度)×100
また、実施例1〜7及び比較例1〜3で得た被覆蛍光体を用い、耐湿試験を行なった。耐湿試験は、被覆蛍光体粉末をガラス容器に投入し、85℃、相対湿度85%の環境下で500時間放置することによって行なった。また比較のために、防湿膜で被覆していない未処理の蛍光体(母体(Sr,Ca,Ba)SiO:Eu、平均粒子径15μm)についても、同様に耐湿試験を行なった(これを比較例4とする)。
【0095】
このように耐湿試験を行なった実施例1〜7及び比較例1〜4の蛍光体の耐湿性を評価した。耐湿性の評価は、蛍光体の耐湿試験前後の発光輝度を測定し、その変化量から発光輝度の維持率を次の式に従って求め、これを耐湿性の指標とした。
【0096】
耐湿試験後の維持率(%)
=(耐湿試験後の発光輝度/耐湿試験前の発光輝度)×100
【0097】
【表2】

【0098】
表2にみられるように、各実施例の被覆蛍光体は被膜に亀裂が発生しておらず、耐湿試験後においても発光輝度を高く維持しており、耐湿性が向上していることが確認される。尚、実施例7は、防湿膜のうち内側の第2の層に金属酸化物粒子を含有させたものであり、実施例4〜6より耐湿性が劣っている。従って、金属酸化物粒子は実施例4〜6のように外側の第1の層に含有させることが望ましいものである。
【符号の説明】
【0099】
1 蛍光体
2 防湿膜
2a 第1の層
2b 第2の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体の表面を防湿膜で被覆した被覆蛍光体であって、防湿膜は、化学式(1)で示される金属アルコキシドまたはその加水分解物あるいはこれらの縮合物から形成される金属酸化物の第1の層と、この第1の層の内側の、化学式(2)で示される金属アルコキシドまたはその加水分解物あるいはこれらの縮合物から形成される金属酸化物の第2の層を備えた複層被膜であることを特徴とする被覆蛍光体。
化学式(1) M(OR
化学式(2) M(ORn−x(R
(M,MはSi,Ti,Al,Zr,Ge,Yから選択される金属。R,Rはアルキル基又は水素、Rはアルキル基。mはMの価数と、nはMの価数と同じ整数。xは1以上の整数であり、n>x。)
【請求項2】
防湿膜の第1の層に、粒子径1nm以上100nm以下の二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ゲルマニウム、酸化イットリウムから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物粒子が分散して含有されていることを特徴とする請求項1に記載の被覆蛍光体。
【請求項3】
防湿膜の厚みは10nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の被覆蛍光体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の被覆蛍光体を用いて形成したことを特徴とするLED発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−68789(P2011−68789A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221482(P2009−221482)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】