説明

装飾部品用駒成形体およびこれを焼成してなる装飾部品用駒

【課題】 黄金色の色調を呈し、高級感,美的満足感および精神的安らぎが得られるとともに、寸法精度に優れ、新たな付加価値を創出することができる装飾部品用駒成形体およびこれを焼成してなる装飾部品用駒ならびにこの装飾部品用駒を連結してなる装飾部品を提供する。
【解決手段】 ニッケル,ニオブ,クロムおよび炭素を含む窒化チタン質材料からなり、被連結部材を連結する連結具2を挿入するための貫通孔3と、貫通孔3が開口している面の肉厚が厚い部分に配置された穴4とが形成された装飾部品用駒成形体である。脱脂温度を低くしても、肉厚の厚い部分が少なくなり成形体の内部のバインダを外部に排出しやすくなり十分に脱脂することができるため、これを焼成してなる装飾部品用駒1は、寸法精度に優れたものとなり、高い装飾性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美しい色調の黄金色を醸し出すことができる装飾部品用駒成形体およびこれを焼成してなる装飾部品用駒ならびにこの装飾部品用駒を連結してなる装飾部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、黄金色を呈する装飾部品には、色調や耐食性の面から金やその合金、または各種金属材料にメッキを施したものが用いられている。
【0003】
図8は、従来の装飾部品用駒を示す斜視図である。この装飾部品用駒11は、被連結部材を連結する連結具を挿入するための貫通孔12が形成されている。
【0004】
このような装飾部品用駒11に、金やその合金、あるいはメッキを施した金属材料を用いると、いずれも硬度が低いことから、硬質物質との接触により、表面に傷が生じたり変形したりするという問題があった。最近では、このような問題を解決するために、黄金色を呈するセラミックスが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、次式(A)で表わされる硬質相が70〜98重量%と、
(Tia,Mb)(Nw,Cx,Oy)Z・・・(A)
但し、M:Zr,Hf,V,Nb,Ta,Crの中の1種以上
a+b=1,1≧a≧0.4,0.6≧b≧0
W+X+Y=1,X+Y>0,1>W≧0.4
0.19≧X≧0,0.6≧Y≧0,0.93≧Z≧0.6
Fe,Ni,Co,Cr,Mo,Wの中から選ばれた1種以上の結合相が2〜30重量%と不可避不純物とから成る装飾用焼結合金が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、Fe,Ni,Co,Cr,Mo,Wの中から選ばれた1種以上の結合相が2〜30重量%とP,Al,B,Si,Mn,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Taの1種以上の金属、合金又はAl,Y,Zr,Mg,Ni,Siの酸化物、Al,Si,Bの窒化物、Moの炭化物もしくはこれらの相互固溶体の1種以上の化合物から成る強化相が0.1〜10重量%と残りが次式(A)で表わされる硬質相と不可避不純物とから成る装飾用焼結合金が開示されている。
【0007】
(Tia,Mb)(Nw,Cx,Oy)Z・・・(A)
但し、M:Zr,Hf,V,Nb,Ta,Crの中から選ばれた1種以上
a+b=1,1≧a≧0.4,0.6≧b≧0
W+X+Y=1,X+Y>0,1>W≧0.4
0.5≧X≧0,0.6≧Y≧0.06,0.93≧Z≧0.6
そして、特許文献1および2では、TiN(0.6≦Z≦0.95)を主体にした硬質相による、黄金色の色調を保持させた、装飾用焼結合金が開示されており、Zの値が化学量論組成よりも少なくなるほど黄金色から淡黄金色に変化し、この色調に、さらに黄金色を呈するTiO,ZrN,HfN,VN,NbN,TaN,CrN,CrN,TaC,NbCを加えることにより、深みのある淡黄金色から鮮明な黄金色までの色調コントロールが一層容易になると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58−204149号公報
【特許文献2】特開昭58−204150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1および2に開示されている装飾用焼結合金が図8に示す装飾部品用駒11として用いられる場合、装飾部品用駒11となる成形体の貫通孔12同士の間および貫通孔12と側面との間の肉厚の厚い部分を十分に脱脂しようとして脱脂工程における脱脂温度を高くすると、活性が高まり主成分であるTiNが酸化してしまい、この酸化によって体積が膨張し、密度が低下して、装飾面の光沢が低下するとともに、特に、装飾部品用駒11の寸法が、規格範囲から大きい方に外れるという問題があった。一方、この問題を避けるために脱脂温度を低くすると、装飾部品用駒11となる成形体の肉厚の薄い部分は十分に脱脂されたとしても、肉厚の厚い部分は脱脂が不十分となりやすく、寸法がばらつきやすいため、このばらつきを小さくしなければならないという課題があった。
【0010】
また、上述の課題に加えて、需要者の好みを満足するような新たな付加価値を有した装飾部品が求められるという課題もあった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、黄金色の色調を呈し、高級感,美的満足感および精神的安らぎが得られるとともに、寸法精度に優れ、新たな付加価値を有した装飾部品用駒成形体およびこれを焼成してなる装飾部品用駒ならびにこの装飾部品用駒を連結してなる装飾部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の装飾部品用駒成形体は、ニッケル,ニオブ,クロムおよび炭素を含む窒化チタン質材料からなり、被連結部材を連結する連結具を挿入するための貫通孔と、該貫通孔が開口している面の肉厚が厚い部分に配置された穴とが形成されたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の装飾部品用駒成形体は、上記構成において、前記穴は、前記貫通孔が開口している面から対向する面にかけて貫通していることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の装飾部品用駒成形体は、上記いずれかの構成において、前記穴は、断面が円形状であることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の装飾部品用駒成形体は、上記いずれかの構成において、複数の前記穴が、前記肉厚が厚い部分に並んで配置されていることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の装飾部品用駒成形体は、上記いずれかの構成において、前記穴の開口近傍の側面に装飾面と異なる色調となる成形材が配置されていることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の装飾部品用駒は、上記いずれかの構成の装飾部品用駒成形体が脱脂され、焼成されてなることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の装飾部品用駒は、上記構成の装飾部品用駒の前記穴の開口近傍の側面が装飾面と異なる色調に着色されていることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の装飾部品用駒は、上記いずれかの構成において、芳香剤が前記穴に配置されていることを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の装飾部品用駒は、上記いずれかの構成において、芳香剤が封入されているカプセルが、前記穴に挿入されていることを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の装飾部品用駒は、上記いずれかの構成において、温度に感応する色素が前記穴に配置されていることを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の装飾部品は、上記いずれかの構成の装飾部品用駒が複数個、前記貫通孔に連結具が挿入されて連結されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の装飾部品用駒成形体によれば、ニッケル,ニオブ,クロムおよび炭素を含む窒化チタン質材料からなり、被連結部材を連結する連結具を挿入するための貫通孔と、貫通孔が開口している面の肉厚が厚い部分に配置された穴とが形成されたことから、脱脂温度を低くしても、肉厚の厚い部分が少なくなり成形体の内部のバインダを外部に排出しやすくなり十分に脱脂することができるため、これを焼成してなる装飾部品用駒は、寸法精度に優れたものとなり、高い装飾性を得ることができる。
【0024】
また、本発明の装飾部品用駒成形体によれば、穴は、貫通孔が開口している面から対向する面にかけて貫通しているときには、穴は両側で開口しているため、成形体の内部のバインダを外部にさらに排出しやすくなり十分に脱脂することができるので、これを焼成してなる装飾部品用駒は、より寸法精度に優れたものとなり、高い装飾性を得ることができる。
【0025】
また、本発明の装飾部品用駒成形体によれば、穴は、断面が円形状であるときには、断面が矩形状であるときのように輪郭に角部がないので、成形工程時に角部近傍に集中する内部応力によって生じるクラックの発生を少なくすることができる。
【0026】
また、本発明の装飾部品用駒成形体によれば、複数の穴が、肉厚が厚い部分に並んで配置されているときには、成形体の肉厚の厚い部分が少なくなり、十分に脱脂することができるので、さらに寸法精度に優れたものとなる。また、脱脂温度をさらに低くすることができるので製造コストを抑えることができる。
【0027】
また、本発明の装飾部品用駒によれば、本発明の装飾部品用駒成形体が脱脂され、焼成されてなることから、寸法精度に優れているので、貫通孔に連結具を挿入しやすく、装飾部品を容易に作製することができる。さらに、穴を利用して新たな付加価値を創出することができる。
【0028】
また、本発明の装飾部品用駒によれば、穴の開口近傍の側面が装飾面と異なる色調に着色されているときには、装飾部品用駒の側面の色調が、紫色または黒色であると、本発明の装飾部品用駒の装飾面が呈する黄金色との組み合わせによって、例えば、腕時計,ブレスレットおよびアンクレット等に用いたときに、より装飾性を高めたものとすることができるうえに、装飾部品用駒の側面の色調が銀色であれば、より高級感に溢れ装飾性を高めることができるという新たな付加価値を有することができる。
【0029】
また、本発明の装飾部品用駒によれば、芳香剤が穴に配置されているときには、装飾部品用駒の色調による高い装飾性に併せて香りを楽しむことができる。また、好みの香りの芳香剤を穴に配置することにより、香りによる精神的安らぎを得ることができるという新たな付加価値を有することができる。
【0030】
また、本発明の装飾部品用駒によれば、芳香剤が封入されているカプセルが、穴に挿入されているときには、カプセルによって、芳香剤の劣化を防止し、安定化を図ることができるので、長期間に亘って香りを楽しむことができる。また、このような新たな付加価値を有することができる。
【0031】
また、本発明の装飾部品用駒によれば、温度に感応する色素が穴に配置されているときには、色素の色調が温度によって変化するので、より装飾性を高めることができるとともに、体調管理の指標として用いることもできるという新たな付加価値を有することができる。
【0032】
また、本発明の装飾部品によれば、寸法精度に優れ、装飾性の高い、本発明の装飾部品用駒が複数個、貫通孔に連結具が挿入されて連結されていることから、装飾性の高い装飾部品とすることができる。また、このような装飾部品は、高級感,美的満足感,視覚および嗅覚を通じて精神的安らぎを得ることができて、需要者の購買意欲を刺激するので、市場競争力の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態の一例である装飾部品用駒と、この装飾部品用駒に挿入される連結具とを示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態の他の例である装飾部品用駒と、この装飾部品用駒に挿入される連結具とを示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態の他の例である本発明の装飾部品用駒と、この装飾部品用駒に挿入される連結具とを示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態の他の例である本発明の装飾部品用駒と、この装飾部品用駒に挿入される連結具とを示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態の他の例である本発明の装飾部品用駒と、この装飾部品用駒に挿入される連結具とを示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態のさらに他の例である本発明の装飾部品用駒を示す斜視図である。
【図7】本発明の装飾部品である時計用バンドの構成の一例を示す模式図である。
【図8】従来の装飾部品用駒を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0035】
本発明の装飾部品用駒成形体(以下、単に成形体と記載する。)は、ニッケル,ニオブ,クロムおよび炭素を含む窒化チタン質材料からなるものである。
【0036】
本発明において、窒化チタン質材料とは、窒化チタン(TiN)を主成分とする材料のことであり、ここでいう主成分とは、成形体を構成する全成分100質量%に対して、50質量%以上を占める成分である。この主成分である窒化チタンは、装飾品として良好な黄金色を呈するとともに、強度や硬度等の機械的特性が高いという特徴を有していることから、本発明の成形体をなす窒化チタン質材料においては、窒化チタンを70質量%以上の含有量で含有させることが好適である。
【0037】
また、ニッケルは、展性に富み、主成分である窒化チタンの結晶を結合する結合剤として作用し、ニオブは、色調調整剤として作用するものであって、金属ニオブ以外に組成式が例えばNbNi,NbCで示されるニオブ化合物として存在するものも含む。そして、クロムは空気中の酸素と結合し装飾面に緻密な酸化被膜を生成して耐食性を向上させることができ、炭素は靱性や硬度等の機械的特性を向上させることができる。
【0038】
図1は、本発明の実施の形態の一例である装飾部品用駒と、この装飾部品用駒に挿入される連結具とを示す模式図である。
【0039】
図1に示す例の装飾部品用駒1は、ニッケル,ニオブ,クロムおよび炭素を含む窒化チタン質材料からなり、被連結部材(図示しない)を連結する連結具2を挿入するための貫通孔3と、貫通孔3が開口している面の肉厚が厚い部分に配置された穴4とが形成された装飾部品用駒1となる成形体が脱脂され、焼成されてなる。図1に示す例の装飾部品用駒1となる成形体は、ニッケル,ニオブ,クロムおよび炭素を含む窒化チタン質材料からなり、被連結部材を連結する連結具2を挿入するための貫通孔3と、貫通孔3が開口している面の肉厚が厚い部分に配置された穴4とが形成されていることから、脱脂温度を低くしても、肉厚の厚い部分が少なくなり成形体の内部のバインダを外部に排出しやすくなり十分に脱脂することができるため、これを焼成してなる装飾部品用駒1は、寸法精度に優れたものとなる。
【0040】
図2〜5は、本発明の実施の形態の他の例である装飾部品用駒と、この装飾部品用駒に挿入される連結具とを示す模式図である。
【0041】
図2に示す例の装飾部品用駒1となる成形体は、貫通孔3が開口している面から対向する面にかけて穴4が貫通していることから、穴4が両側で開口しているため、成形体の内部のバインダを外部にさらに排出しやすくなり十分に脱脂することができるので、これを焼成してなる装飾部品用駒1は、図1に示す構成の装飾部品用駒1よりも寸法精度に優れたものとなる。
【0042】
図3に示す例の装飾部品用駒1となる成形体は、断面が円形状であることから、断面が矩形であるときのように角部がないので、成形工程時に角部近傍に集中する内部応力によって生じるクラックの発生を少なくすることができる。
【0043】
図4に示す例の装飾部品用駒1となる成形体は、複数の穴4が、肉厚が厚い部分に並んで配置されていることから、成形体内の肉厚の厚い部分が少なくなり、十分に脱脂することができるので、さらに寸法精度に優れたものとなる。また、脱脂温度をさらに低くすることができるので製造コストを抑えることができる。
【0044】
図5に示す例の装飾部品用駒1となる成形体は、複数の穴4が、肉厚が厚い部分に並んで配置され、複数の穴4は、貫通孔3が開口している面から対向する面にかけて貫通していることから、成形体内の肉厚ばらつきがさらに小さくなり、十分に脱脂することができるので、図4に示す構成の装飾部品用駒1よりも寸法精度に優れたものとなる。
【0045】
なお、図1〜5に示す連結具2は、JIS B 7010−2003の付図26に記載されている、例えば、ばね棒,パイプ,ねじおよびピンの少なくともいずれかである。
【0046】
図6は、本発明の実施の形態のさらに他の例である本発明の装飾部品用駒を示す斜視図である。図6に示す例の装飾部品用駒1は、複数の穴4が、肉厚が厚い部分に並んで配置され、(a)は穴4の断面が正方形であり、(b)は穴4の断面が、角部が円弧の正方形状であり、(c)は穴4の断面が菱形であり、(d)は穴4の断面が八角形であり、(e)は穴4の断面がギザギザの円形状であり、(f)は穴4の断面がハート形である。
【0047】
このように、穴4は、断面がどのような形状であっても、何等差し支えないが、円形状で示されるように、輪郭が曲線で形成されていることが好適である。穴4は、断面における輪郭が曲線で形成されていることが好適であるのは、その輪郭に角部がないので、成形工程時に角部近傍に集中する内部応力によって生じるクラックの発生を少なくすることができるからである。
【0048】
また、貫通孔3が開口している面から対向する面にかけて複数貫通しており、複数の貫通孔3がいずれも開口している面の内側に形成されているときには、複数の穴4は、複数の貫通孔3の外側に配置されていることが好適である。一方、貫通孔3が開口している面から対向する面にかけて複数貫通しており、複数の貫通孔3がいずれも開口している面の外側に形成されているときには、複数の穴4は、複数の貫通孔3の内側に配置されていることが好適である。
【0049】
そして、上記構成の黄金色を呈する装飾部品用駒1において、装飾的価値を求める需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎ等を与えるには、装飾面の算術平均高さRaが0.03μm以下であるとともに、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が72以上84以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ3以上9以下,27以上36以下であることが好ましい。
【0050】
ここで、明度指数L*とは色調の明暗を示す指数であり、明度指数L*の値が大きいと色調は明るく、明度指数L*の値が小さいと色調は暗くなる。また、クロマティクネス指数a*は色調の赤から緑の度合いを示す指数であり、a*の値がプラス方向に大きいと色調は赤色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、a*の値がマイナス方向に大きいと色調は緑色になる。さらに、クロマティクネス指数b*は色調の黄から青の度合いを示す指数であり、b*の値がプラス方向に大きいと色調は黄色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、b*の値がマイナス方向に大きいと色調は青色になる。
【0051】
また、装飾面の算術平均高さRaは、光の反射率に影響を及ぼして色調が変わるため、装飾面の算術平均高さRaを0.03μm以下としておくことが好ましい。これにより、光の反射率が高くなり、明度指数L*の値を上昇させることができる。この算術平均高さRaが0.03μmを超えると、明度指数L*の値が低下し、色調は暗くなり高級感が低下するおそれがある。
【0052】
この光の波長は380〜780nmを有する可視光線の集合であり、算術平均高さRaを0.03μm以下とすることによって、可視光線を分光し、青色を示す波長域450〜500nmの光の反射を少なくするとともに、黄色を示す波長域570〜590nmの光の反射を多くするように作用するので、高級感,美的満足感および精神的安らぎ等を与える黄金色を呈することができる。特に、波長域570〜700nmの光に対する装飾面の反射率は、50%以上であることが好適である。
【0053】
なお、算術平均高さRaはJIS B 0601−2001に準拠して測定すればよく、測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ5mmおよび0.8mmとし、触針式の表面粗さ計を用いて測定する場合であれば、例えば、装飾部品用駒1の装飾面に、触針先端半径が2μmの触針を当て、触針の走査速度は0.5mm/秒に設定し、この測定で得られた5箇所の平均値を算術平均高さRaの値とする。
【0054】
そして、明度指数L*の値を72以上84以下としたのは、黄金色の色調に程良い明るさが発現するからであり、クロマティクネス指数a*の値を3以上9以下としたのは、色調の鮮やかさを落とさずに赤味を抑えることができるためである。また、クロマティクネス指数b*の値を27以上36以下としたのは、色調の鮮やかさを落とさずに黄金色を出せるからである。特に明度指数L*の値は、72以上79以下であることが好適である。
【0055】
また、本発明の装飾部品用駒1は、装飾面における開気孔率が2.5%以下であることが好ましい。装飾面における開気孔率は、特に明度指数L*の値に影響を及ぼし、開気孔率が高いと明度指数L*の値は小さくなり、開気孔率が低いと明度指数L*の値は大きくなる。装飾面における開気孔率を2.5%以下にすることで、明度指数L*の値を77以上にすることができ、より好まれる色調となる。さらに、明度指数L*の値を78以上とすることが好適であり、この場合には開気孔率は1.1%以下とすることが好ましい。
【0056】
なお、装飾面における開気孔率は、金属顕微鏡を用いて、倍率を200倍にしてCCDカメラで装飾面の画像を取り込み、画像解析装置((株)ニレコ製LUZEX−FS等)により画像内の1視野の測定面積を2.25×10−2mm,測定視野数を20,つまり測定総面積が4.5×10−1mmにおける開気孔の面積を求めて測定総面積における割合を装飾面の開気孔率とすればよい。
【0057】
なお、本発明の装飾部品用駒1における装飾面とは、装飾部品の装飾的価値が要求される面を指し、全ての面を指すものではない。
【0058】
そして、このような装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値およびクロマティクネス指数a*,b*の値は、JIS Z 8722−2000に準拠して測定することで求められる。例えば、分光測色計(コニカミノルタホールディングス(株)製CM−3700d等)を用い、光源をCIE標準光源D65,視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して測定することができる。
【0059】
また、本発明の装飾部品用駒1は、装飾面の光沢を維持するという観点から、結晶の平均結晶粒径が1μm以上10μm以下であることが好適である。この平均結晶粒径は、破断面を走査型電子顕微鏡によって1000倍〜3000倍に拡大した86〜110μm×65〜92μmの範囲で、同じ長さの直線を8本引き、この8本の直線上に存在する結晶の個数をこれら直線の合計長さで除すことで求められる。なお、倍率が1000倍のときには、直線1本当たりの長さを80μmとし、倍率が3000倍のときには、直線1本当たりの長さを27μmとすればよい。
【0060】
また、本発明の装飾部品用駒1では、装飾面のビッカース硬度(Hv)が長期信頼性に影響を与える要因の一つとなり、ビッカース硬度(Hv)が8GPa以上であることが好ましい。ビッカース硬度(Hv)をこの範囲にすると、装飾面は傷が入りにくくなるので、ガラスまたは金属からなる塵埃のような硬度の高い物質と接触しても装飾面に容易に傷が生じることがないからである。この装飾面のビッカース硬度(Hv)はJIS R 1610−2003に準拠して測定することができる。
【0061】
また、破壊靱性は装飾面の耐磨耗性に影響し、その値は高いほどよいので、本発明の装飾部品用駒1において、破壊靭性の値が4MPa・m1/2以上であることが好ましい。この破壊靱性の値はJIS R 1607−1995で規定する圧子圧入法(IF法)に準拠して測定することができる。
【0062】
また、本発明の装飾部品用駒1は、軽い方が好まれる場合、その見掛け密度は6g/cm以下(0g/cmを除く)であることが好適であり、この見掛け密度はJIS R 1634−1998に準拠して測定される。装飾部品用駒1が中駒20である場合には、引張荷重が頻繁に中駒20にかかるため、本発明の装飾部品用駒1では、引張強度は196N(ニュートン)以上であることが好適である。この引張強度を求めるには、貫通孔21の長さよりも長い超硬製のピン(図示しない)を中駒20の貫通孔21a,21bに挿入した後、このピンを引き離す方向に引っ張り、中駒20が破壊したときの強度をロードセルで読み取ればよい。また、本発明の装飾部品用駒1では、図示しないムーブメント(駆動機構)への悪影響を考慮すると、質量磁化が162G・cm/g以上の強磁性金属、例えばコバルト(Co)の比率は、装飾部品用駒1を構成する全成分100質量%に対し、合計で0.1質量%以下であることが好適である。このような強磁性金属の比率は、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合高周波プラズマ)発光分析法で測定することができる。
【0063】
また、窒化チタン質焼結体からなる本発明の装飾部品用駒1は、熱伝導率が22W/(m・K)以上26W/(m・K)以下であることが好適である。熱伝導率が22W/(m・K)以上26W/(m・K)以下の範囲であれば、放熱特性および熱衝撃抵抗性の2つの特性を併せ持つことができる。
【0064】
さらに、40℃〜800℃における熱膨張係数が8.5×10―6/℃以上9.7×10―6/℃以下であることがより好適である。この熱膨張係数は、JIS R 1618−2002に準拠して求めることができる。
【0065】
また、本発明の装飾部品用駒1は、ニッケル,ニオブ,クロムおよび炭素を含む窒化チタン質材料からなる成形体を脱脂して焼成した窒化チタン質焼結体からなるものであり、主成分である窒化チタンの組成式をTiNとしたときに0.8≦x≦0.96であることが好ましい。後述するように組成式をTiNとしたときの原子数xの値により、その色調は影響を受ける。原子数xが小さくなると色調は黄金色から薄い黄金色になり、原子数xが大きくなると色調はくすんだ濃い黄金色になる。このような観点から組成式をTiNとしたときの原子数xの値は、0.8以上0.96以下であることが好ましく、原子数xの値がこの範囲であるときには、光沢のある色調感がさらに増すため、より高い高級感および美的満足感を得ることができる。
【0066】
窒化チタンは、脱脂または焼成雰囲気中に含まれる酸素および炭素と置換または反応して酸炭窒化チタン(TiCNO)に成りうるため、窒化チタン質焼結体の組成式をTiNとしたときの原子数xの値は、酸素・窒素分析装置および炭素分析装置を用いて、次のようにして求めることができる。具体的には、これら分析装置により窒化チタン質焼結体の酸素、窒素および炭素の含有量を測定した後、100質量%より酸素,窒素および炭素の含有量を引いた値をチタンの含有量とする。そして、チタンの含有量と窒素の含有量とをそれぞれの原子量で除すことによりモル数が求められるので、チタンのモル数を1としたときの窒素の比の値を原子数xとする。
【0067】
また、装飾面における窒化チタンの結晶粒子の格子定数によっても装飾面の美観は影響を受け、装飾面における窒化チタンの結晶粒子の格子定数が0.4242nm以上0.4252nm以下であることが好適である。格子定数がこの範囲であるときには、窒化チタンの結晶粒子の格子定数がその理論値である0.4242nm近傍に制限されていることから、炭素や酸素等が窒化チタンにほとんど固溶できなくなるため、装飾面の美観を損なうおそれがさらに減少する。なお、窒化チタンの結晶粒子の格子定数の理論値は0.4242nmであり、格子定数は0.4242nmよりも小さい値となることはない。装飾面における窒化チタンの結晶粒子の格子定数は高分解能X線回折法を用いて求められる。
【0068】
具体的には、CuKα1特性X線を装飾部品用駒1に照射し、回折角(2θ)が20°≦2θ≦110°の範囲で、0.008°のステップでスキャンして得られたX線回折パターンをRIETAN−2000プログラム(泉富士夫氏作成:F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, 321-324 (2000) 198)を用いてリートベルト法で解析することにより、格子定数を求めることができる。
【0069】
但し、上述のように、RIETAN−2000を用いてリートベルト法で解析する場合には、窒化チタンの結晶粒子の各結晶面からのX線回折パターンのピーク形状によって格子定数が変動するため、虎谷の分割psedo−voigt関数を用いてピーク形状を限定すればよい。
【0070】
本発明の装飾部品用駒1は、ニッケルを7質量%以上14.5質量%以下、ニオブを2.5質量%以上10質量%以下の含有量で含むことが好ましい。
【0071】
ニッケルは、展性に富み、主成分である窒化チタンの結晶同士を結合する結合剤として作用するために、できる限り多く加えることが好ましいが、一方で、装飾部品用駒1における比率が高過ぎる場合は、装飾部品用駒1を身に付けていると汗と反応してニッケルが溶出してしまい、色調は赤みを帯びて、需要者の求める高級感,美的満足感および精神的安らぎ等の装飾的価値を与える黄金色とならなくなるおそれがある。また、CIE1976L*a*b*色空間におけるクロマティクネス指数a*は高くなるものの、明度指数L*,クロマティクネス指数b*とも低くなるため、ニッケルの含有量は7質量%以上14.5質量%以下であることが好ましい。特に、この装飾用部品用駒1は、身に付けるものである場合には、ニッケルの含有量は7質量%以上10質量%以下であることがより望ましい。
【0072】
また、ニオブの含有量を2.5質量%以上10質量%以下としたのは、ニオブが窒化チタンに固溶する、あるいはニッケルの内部に溶融することによって、明度指数L*の値を高くする色調調整剤としての作用がある反面、ニオブの含有量が多いと共有結合性が高いために焼結が難しくなるおそれがあるからである。
【0073】
また、ニオブの含有量は3質量%以上8質量%以下であることがより望ましい。これは、ニオブは粒成長を抑制するように働くので、結晶粒界は増加し、入射した光は装飾面を形成する結晶による鏡面反射と併せて結晶粒界による拡散反射の影響を強く受ける結果、装飾面における明度指数L*は高くなるとともに、その色調は優れた相乗効果を生むため、光沢のある色調感が増し、さらに高級感,美的満足感を得ることができる。その結果、視覚を通じて精神的安らぎが得られるからである。
【0074】
なお、反射は一般的に鏡面反射と拡散反射とからなり、本発明における鏡面反射とは、光が鏡面である装飾面、微視的には装飾面を形成する結晶に入射した後、反射したときにその入射角と反射角が同じになる反射をいい、拡散反射とは光が結晶粒界に入り込み、ランダムな反射を繰り返した後、再び外部に向かう反射をいう。
【0075】
ただし、装飾面を形成する結晶を後述するバレル研磨により表面粗さを調整することができ、原子間力顕微鏡で測定したときの粒界を含まない結晶面の表面粗さを算術平均高さ(Ra)で1〜2nmにすると、結晶面での反射が鏡面反射から拡散反射に一部変化する傾向が見られ、装飾面におけるクロマティクネス指数b*を32以上にすることができて鮮やかな黄金色となるので好適である。
【0076】
また、上述した本発明の装飾部品用駒1は、内部に実質的にニオブの酸化物を含んでいないことが好適である。上記構成の装飾部品用駒1の内部に実質的にニオブの酸化物を含んでいないことにより、脱脂工程でニオブが酸化されることによって生じる体積膨張が抑制されて、密度が低下しにくくなるため、装飾面の光沢が得られるとともに、規格寸法の範囲から外れることがほとんどない。
【0077】
なお、内部に実質的にニオブの酸化物を含んでいないとは、装飾部品用駒1の表面から0.1mm以内の領域を除く装飾部品用駒1において、ニオブの酸化物が0.5質量%以下であることをいい、ニオブの酸化物とは組成式がそれぞれNbO,NbO,Nb,Nbで表される一酸化ニオブ,二酸化ニオブ,三酸化二ニオブおよび五酸化二ニオブ等である。このようなニオブの酸化物はX線回折法により検出することができ、検出されなかった場合をニオブの酸化物が0.5質量%以下であるものとみなすことができる。
【0078】
また、ニッケルはニオブと化合してニッケルニオブ、例えばNbNiとして析出していることが好適で、NbNiの析出により、明度指数L*の値は大きくなって、気品漂う明るさが醸し出される。このNbNi等のニッケルニオブは、X線回折法で検出することができる。
【0079】
また、本発明の装飾部品用駒1は、クロムを1.5質量%以上6.5質量%以下の含有量で含むことが好ましい。クロムは、空気中の酸素と結合して装飾面に緻密な酸化被膜を生成するので耐食性を向上させることができるとともに、ニッケルがクロムを包囲した状態で窒化チタンを結合する粒界相を形成すると、ニッケルがクロムと反応してニッケルクロム化合物を生成して、ニッケルがイオン化して流出することを抑制することができる。しかしながら、クロムの含有量は色の鮮やかさに影響を及ぼすため、ニッケルの流出を抑制し、耐食性と鮮やかさとを兼ね備えるためには、クロムを1.5質量%以上6.5質量%以下の含有量で含むことが好ましいのである。
【0080】
なお、ニッケルがクロムを包囲した状態とは、クロムが窒化チタンの結晶と接することなく粒界相に周囲を取り囲まれた状態をいい、この状態については、走査型電子顕微鏡で得られた装飾面の画像と、エネルギー分散型(EDS)X線マイクロアナライザーによって検出されるニッケル,クロムの分布状態を示す装飾面の画像とを照合することで確認することができる。
【0081】
チタン,ニッケル,ニオブおよびクロムの含有量は、蛍光X線分析(XRF)法を用いて測定することができる。具体的には、予め窒化チタン,ニッケル,ニオブおよびクロムの各元素の濃度の異なる混合粉末を少なくとも2種類以上用意して、それぞれプレス法により成形して標準試料とする。次に、これら各標準試料にX線を照射して、蛍光X線の強度と既知の濃度との関係から最小二乗法を用いて検量線を作成する。そして、本発明の装飾部品用駒1を粉砕して粉末とし、プレス法により成形して測定試料とする。この測定試料にX線を照射して、蛍光X線の強度を測定し、検量線より濃度である含有率を求める。また、窒素については酸素・窒素分析装置で測定すればよい。
【0082】
また、本発明の装飾部品用駒1は、装飾面における炭素の含有量が0.4質量%以上0.9質量%以下であり、装飾面に実質的にアルミニウムを含んでいないことが好適である。装飾面に炭素がこの含有量で含まれることにより、炭素は窒化チタンに拡散して固溶体を形成して焼結を促進するため、靱性や硬度等の機械的特性を高くすることができる。また、炭素はクロマティクネス指数a*および以下の式(A)で規定される色調感の差である色差(△E*ab)に影響を与える。炭素をこの含有量で含むことによって、炭素の呈する黒色により無彩色化の傾向が僅かに現れて色むらが抑制されるため、装飾部品間で発生する色差をほとんど感じることのない好ましい黄金色とすることができる。
【0083】
△E*ab=((△L*)+(△a*)+(△b*)))1/2・・・(A)
なお、炭素の含有量については、炭素分析法を用いて測定すればよい。
【0084】
また、装飾面に実質的にアルミニウムを含んでいなければ、アルミニウムが窒化チタン質材料に含まれるニッケル,ニオブおよびクロムと結合して銀白色の斑点状の異物として装飾面に付着しにくくなるので、装飾面の美観が損なわれることがほとんどない。
【0085】
また、装飾面に実質的にアルミニウムを含んでいない状態とは、装飾面の全面におけるアルミニウムの含有量が0.1質量%以下である状態をいい、アルミニウムの含有量はICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合高周波プラズマ)発光分析法で測定すればよい。
【0086】
ところで、図1〜6に示す例の装飾部品用駒1の穴4の開口近傍の側面が装飾面と異なる色調に着色されているときには、装飾部品用駒1の側面の色調が紫色または黒色であると、本発明の装飾部品用駒1の装飾面が呈する黄金色との組み合わせによって、例えば、腕時計、ブレスレットおよびアンクレット等に用いたときに、より装飾性を高めたものとすることができる。さらに、装飾部品用駒の側面の色調が銀色であれば、より高級感に溢れた装飾性を高めることができる。
【0087】
また、本発明の装飾部品用駒1は、芳香剤が穴4に配置されているときには、装飾部品用駒の色調による高い装飾性に併せて香りを楽しむことができる。また、好みの香りの芳香剤を穴に配置することにより、香りによる精神的安らぎを得ることができるという新たな付加価値を有することができる。このような芳香剤として、例えば、α−ピネン,β−ピネン,ミルセン,リモネン,1,8−シネオールのようなテルペン系炭化水素類、アミルアセテート,アミルプロピオネート,プレニルアセテート,ヘキシルアセテー,シス−3−ヘキセニルアセテート,アリルカプロエート,テトラヒドロリナリルアセテート,エチルカプロエート,エチルブチレート,エチルアセトアセテート,アリルイソアミルオキシアセテートのようなエステル類、炭素数6〜13の脂肪族アルデヒド,ベンズアルデヒド,2,4−ジメチル−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒドのようなアルデヒド類、レモン油,オレンジ油,ライム油,ユーカリ油,ヒノキ油,ヒバ油,パイン油,テルピン油,ホー油,ラベンダー油,ジャスミン油,バニラのような精油などを用いればよい。これらは単独で用いてもよいし、また2種以上混合して用いてもよい。
【0088】
また、本発明の装飾部品用駒1は、芳香剤が封入されているカプセルが、穴4に挿入されているときには、カプセルによって、芳香剤の劣化を防止し、安定化を図ることができるので、長期間に亘って香りを楽しむことができる。
【0089】
このようなカプセルは、例えば、ポリアミド,ポリエステル,ポリ尿素,エポキシ,ポリウレタンおよびポリスルホネートの少なくともいずれかを用いて、従来知られている界面重合法や In-situ法等で形成すればよい。
【0090】
また、本発明の装飾部品用駒1は、温度に感応する色素が穴4に配置されているときには、色素の色調が温度によって変化するので、より装飾性を高めることができる。また、例えば、37℃以上になると色調が変化する色素を配置すれば、体調管理の指標として用いることもできるという新たな付加価値を有することができる。
【0091】
このような温度に感応する色素としてはトリフェニルメタンフタリド系化合物,フタリド系化合物,フタラン系化合物,アシルリコメチレンブルー系化合物,フルオラン系化合物,トリフェニルメタン系化合物,ジフェニルメタン系化合物およびスピロピラン系化合物の少なくともいずれかを用いればよい。
【0092】
このような装飾部品用駒1は、穴4の容積が貫通孔3を除いた装飾部品用駒1の体積の5%以上20%以下であることが好適である。穴4の容積をこの範囲にすることによって、装飾部品用駒1としての強度や寸法精度に影響を及ぼすおそれが少なくなる。
【0093】
また、本発明の装飾部品は、寸法精度に優れ、装飾性の高い、本発明の装飾部品用駒が複数個、貫通孔に連結具が挿入されて連結されてなるものである。
【0094】
図7は、本発明の装飾部品である時計用バンドの構成の一例を示す模式図である。
【0095】
図7に示す例の時計用バンドは、連結具2を挿入するための貫通孔3aと、貫通孔3aが開口している面の肉厚が厚い部分に配置された穴4aとを有する中駒5と、中駒5を挟むようにして配置され、連結具2を挿入するための貫通孔3bと、貫通孔3bが開口している面の肉厚が厚い部分に配置された穴4bとを有する外駒6とから構成されており、中駒5の貫通孔3aに連結具2が挿入され、挿入された連結具2の両端が外駒6の貫通孔3bに差し込まれることにより、中駒5と外駒6とが順次連結されて時計用バンド7が構成されている。
【0096】
このような本発明の装飾部品は、寸法精度に優れ、装飾性の高い、発明の装飾部品用駒1が複数個、貫通孔に連結具が挿入されて連結されていることから、装飾性の高い装飾部品とすることができる。また、このような装飾部品は、高級感,美的満足感および視覚を通じて精神的安らぎを得ることができて、需要者の購買意欲を刺激するので、市場競争力の高いものとなる。
【0097】
なお、本発明の装飾部品は、時計部分に替えて心拍計や脈拍計を連結させた心拍計用装飾部品および脈拍計用装飾部品も含むものである。
【0098】
次に、本発明の装飾部品用駒1の製造方法について説明する。
【0099】
本発明の装飾部品用駒1を得るには、まず、焼結体中で主成分となる窒化チタンと、ニッケル,ニオブ,クロムおよび炭素の各粉末とを所定量秤量し、粉砕・混合して調合原料とする。より具体的には、平均粒径が10〜30μmの窒化チタンの粉末と、平均粒径が10〜20μmのニッケルの粉末と、平均粒径が20〜50μmのニオブの粉末、平均粒径が30〜60μmのクロムの粉末および平均粒径が0.1〜10μmの炭素の粉末とを準備し、ニッケルの粉末が7〜14.5質量%、ニオブの粉末が2.5〜10質量%、クロムの粉末が1.5〜6.5質量%および炭素の粉末が0.4〜0.9質量%であって、残部が窒化チタンの粉末となるように秤量して粉砕・混合すればよい。
【0100】
なお、ニッケルがクロムを包囲した状態で窒化チタンを結合する粒界相を形成するには、ニッケルの粉末とクロムの粉末とが接触する頻度を高くすることが必要である。この頻度を高くするためには、粉砕・混合時間を長くすればよく、例えば、粉砕・混合時間を150時間以上にすればよい。このとき、この調合原料における不可避不純物としては珪素,リン,イオウ,マンガン,鉄等が挙げられるが、これらは装飾面の色調に悪影響を及ぼすおそれがあるので、各々0.5質量%未満であることが好適である。
【0101】
また、窒化チタンの粉末は化学量論的組成のTiNであっても、あるいは非化学量論的組成のTiN1−x(0<x<1)であってもよいが、耐磨耗性および装飾的価値が高い色調という観点からは、各粉末の純度は99%以上であることが好ましく、窒化チタンの粉末が一部ニッケルの粉末と反応してTiNiを微量生成しても何等差し支えない。特に、装飾部品用駒1を成す窒化チタン質焼結体について組成式をTiNとしたときに0.8≦x≦0.96とするには、窒化チタンの粉末は組成式をTiNとしたときに0.7≦x≦0.9のものを用いればよい。
【0102】
次いで、調合原料に例えば水を加え、ミルを用いて混合粉砕した後、結合剤としてパラフィンワックスを所定量添加し、所望の成形法、例えば、乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法等を用いることによって、被連結部材を連結する連結具を挿入するための貫通孔3と、貫通孔3が開口している面の肉厚が厚い部分に配置された穴4とが形成された装飾部品用駒1となる成形体を得ることができる。
【0103】
また、成形法として乾式加圧を選択した場合は、成形圧力は装飾面における開気孔率およびビッカース硬度(Hv)に影響を与えることから、成形圧力を49〜196MPaとすることが好適である。成形圧力を49〜196MPaとするのは、相対密度が95%以上で開気孔率が2.5%以下の焼結体を得ることができるとともに、ビッカース硬度(Hv)を8GPa以上にすることができるからである。また、金型の寿命を長くすることもできる。
【0104】
そして、得られた成形体を不活性ガス雰囲気中で、この不活性ガスの温度および圧力をそれぞれ310〜390℃,30〜60kPaに維持しながら脱脂して脱脂体とした後、窒素および不活性ガスから選択される少なくとも1種のガス雰囲気中あるいは真空中で脱脂体をセラミックス製の容器内に収納して焼成することで、理論密度に対する相対密度が95%以上の焼結体を得る。
【0105】
なお、セラミックス製の容器内には予め、比較的融点の高い粉末として、例えば、窒化アルミニウム,酸化イットリウム,酸化カルシウム,窒化硼素,酸化ジルコニウムおよび酸化マグネシウムの少なくともいずれか1種を主成分とする粉末を焼成用の敷粉として散布しておく。ここでいう主成分とは、焼成用の敷粉を構成する全成分100質量%に対して、90質量%以上を占める成分であり、装飾面における窒化チタンの結晶粒子の格子定数が0.4242nm以上0.4252nm以下である装飾部品用駒1を得るには、窒化物を主成分とし、その含有量が93質量%以上の焼成用の敷粉をセラミックス製の容器上に敷いて、その上に脱脂体を載置して焼成を行なえばよい。
【0106】
また、焼成用の敷粉として酸化物の粉末を選んだ場合には、この粉末の表面が窒化改質されていることが好適である。焼成用敷粉が脱脂体に接触しても、脱脂体の接触部分は酸素による汚染の影響を受けにくくなるからである。なお、窒素および不活性ガスから選択される少なくとも1種のガス雰囲気中あるいは真空中で焼成するのは、酸化性雰囲気中で焼成すると、チタンが酸化してそのほとんどが組成式TiOで表される酸化チタンとなり、この酸化チタンが本質的に備えている白色の色調の影響を受けてしまい、装飾部品用駒1の全体の色調が白っぽくかすむからである。
【0107】
また、真空中で焼成して装飾部品用駒1を得る場合は、その真空度が1.33Pa以下であることが好適である。真空度を1.33Pa以下とするのは、チタンが焼成中に酸化して装飾部品用駒1の色調が白っぽくかすむことなく、黄金色の装飾部品用駒1を得るためである。さらに、焼成温度を1200〜1800℃とすることが好適である。これにより、相対密度が95%以上で開気孔率が2.5%以下の焼結体を得ることができる。
【0108】
また、窒化チタン質焼結体の熱伝導率を22W/(m・K)以上とするには、熱伝導率を低下させる要因となるリチウム,ナトリウム,カリウム,鉄,カルシウム,マグネシウム,ストロンチウム,バリウム,マンガンおよび硼素の含有量は、装飾部品用駒1を構成する全成分100質量%に対し、合計で0.3質量%以下にすればよい。一方、窒化チタン質焼結体の熱伝導率を26W/(m・K)以下とするには、粒成長を抑制することが求められるため、1200℃以上1550℃以下とすればよい。
【0109】
そして得られた焼結体の装飾的価値が求められる面に、必要に応じてラップ盤を用いてラップ加工を行なった後、バレル研磨を行なうことにより、焼結体のその表面は黄金色の色調を有する装飾面となって、本発明の装飾部品用駒1を得ることができる。なお、このような装飾面に現れる気孔は、その開口部の最大径を30μm以下にすることが好適で、この範囲にすることで、気孔内への雑菌,異物や汚染物等の凝着を低減することができる。
【0110】
装飾部品用駒1の形状が複雑な形状の場合には、予め乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法および射出成形法等によってブロック形状または製品形状に近い形状に成形した後に切削加工を施したり、成形体を焼結した後に製品形状になるように研削加工を施したりして製品形状とし、順次ラップ加工,バレル研磨を行なってもよく、あるいは最初から射出成形法によって製品形状とし、焼成後に、順次ラップ加工,バレル研磨を行なってもよい。
【0111】
ここで、装飾面となる表面の算術平均高さRaを0.03μm以下とするには、錫製のラップ盤に平均粒径の小さいダイヤモンド砥粒を供給してラップ加工すればよく、例えば平均粒径が1μm以下のダイヤモンド砥粒を用いればよい。また、バレル研磨では、回転バレル研磨機を用い、メディアとしてグリーンカーボランダム(GC)を回転バレル研磨機に投入し、湿式で24時間行なえばよい。
【0112】
また、装飾部品用駒1の穴4に、芳香剤を配置したり、芳香剤が封入されているカプセルを穴4に挿入したり、温度に感応する色素を穴4に配置したりすることによって新たな付加価値を創出することができる。
【0113】
以上のようにして得られる本発明の装飾部品用駒1は、特に美しい色調として評価の高い黄金色を呈し、高級感があって、美的満足感を得ることができ、その結果、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができるので、複数個、貫通孔に連結具が挿入されて連結されている腕時計,ブレスレット,アンクレットおよび装飾用チェーン等の装飾部品としても好適に用いることができる。
【0114】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0115】
まず、窒化チタン粉末(純度が99%,平均粒径が22.3μm),ニッケル粉末(純度が99.5%,平均粒径が12.8μm),ニオブ粉末(純度が99.5%,平均粒径が33μm),クロム粉末(純度が99%,平均粒径が55μm)および炭素粉末(純度が99%以上,平均粒径が0.5μm)を焼結体での比率(含有量)がそれぞれ80.76質量%,10.0質量%,6.0質量%,2.5質量%,0.74質量%となるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。
【0116】
次に、得られた各調合原料に水を加えて、振動ミルを用いて72時間粉砕・混合した後、バインダとしてパラフィンワックスを調合原料に対し3質量部添加して、噴霧乾燥法により乾燥させて顆粒とした。そして、得られた顆粒を98MPaの圧力で加圧成形して、図1〜5および図8に示す装飾部品用駒となる成形体をそれぞれ50個作製した。なお、表1に示す試料No.は、それぞれ図面の番号と一致している。
【0117】
次に、この成形体を不活性ガス雰囲気中にて、ガスの温度を350℃および圧力を45kPaに維持しながら脱脂して脱脂体とした後、窒化アルミニウムを主成分とする焼成用敷粉が散布されたセラミックス製の容器内に脱脂体を載置し、窒素雰囲気中にて1530℃で2時間保持して焼成して、焼結体を得た。
【0118】
そして、得られた焼結体を回転バレル研磨機に投入して、溶媒としての水とメディアとしてのグリーンカーボランダム(GC)とともに、24時間バレル研磨を行ない、試料No.1〜5および8の装飾部品用駒を得た。
【0119】
そして、各試料の貫通孔が開口している一方の主面を第1主面とし、この面と対向する面を第2主面として、それぞれの面の長辺の長さおよび隣り合う貫通孔の各中心間の間隔を100倍の倍率で光学顕微鏡を用いて測定し、測定結果から平均値および標準偏差を計算して、その値を表1に示した。
【0120】
また、光学顕微鏡を用いた測定の際に、第1主面と第2主面とにおけるクラックの有無を観察し、クラックの個数を表1に示した。
【0121】
【表1】

【0122】
表1に示す通り、本発明の範囲外である試料No.8は、貫通孔が開口している面の肉厚が厚い部分に穴が形成されていないことから、長辺の長さおよび貫通孔の各中心間の間隔とも標準偏差が大きく、ばらつきが大きいことが分かった。
【0123】
一方、本発明である試料No.1〜5は、貫通孔が開口している面の肉厚が厚い部分に穴が形成されていることから、脱脂温度が350℃と低くても、肉厚の厚い部分が少なくなり成形体の内部のバインダを外部に排出しやすくなり十分に脱脂することができるため、第1主面と第2主面とにおける、長辺の長さおよび貫通孔の各中心間の間隔ともに標準偏差が小さく、すなわち製品間の寸法のばらつきが小さく、寸法精度が優れていることが分かった。
【0124】
特に、試料No.2,4は、穴は貫通孔が開口している面から対向する面にかけて貫通していることから、両側で開口しているため、さらに、成形体の内部のバインダを外部にさらに排出しやすくなり十分に脱脂することができるので、試料No.1,3よりも第2主面側の長辺の長さおよび貫通孔の各中心間の間隔とも標準偏差が小さく、寸法精度が優れていることが分かった。
【0125】
また、試料No.3〜5は、穴の断面が円形状であることから、断面が矩形状であるときのように輪郭に角部がないので、成形工程時に角部近傍に集中する内部応力によって生じるクラックは発生していないことが分かった。
【0126】
さらに、試料No.4,5は、複数の穴が、肉厚が厚い部分に並んで配置されていることから、成形体内の肉厚の厚い部分が少なくなり、十分に脱脂することができるので、さらに寸法精度に優れたものとなることが分かった。
【0127】
また、肉厚が厚い部分に形成された穴に、芳香剤や芳香剤が封入されているカプセルを穴に挿入することによって、高い装飾性に併せて香りを楽しむことができるとともに、好みの香りの芳香剤を穴に配置することにより、香りによる精神的安らぎの得られる装飾部品用駒1とできることが分かった。また、温度に感応する色素を穴に配置したりすることによって、色素の色調が温度によって変化するので、より装飾性を高めることができることが分かった。さらに、37℃以上になると色調が変化する色素を配置することによって、体調管理の指標として用いることができることが分かった。このように、本発明の装飾部品用駒1は、新たな付加価値を創出できることが分かった。
【0128】
さらに、このように寸法精度に優れ、装飾性の高い、本発明の装飾部品用駒1が複数個、貫通孔に連結具が挿入されて連結されていることから、装飾性の高い装飾部品とすることができる。また、このような装飾部品は、高級感,美的満足感および視覚を通じて精神的安らぎを得ることができて、需要者の購買意欲を刺激するので、市場競争力の高いものとできることが分かった。
【符号の説明】
【0129】
1:装飾部品用駒
2:連結具
3:貫通孔
4:穴
5:中駒
6:外駒
7:時計用バンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル,ニオブ,クロムおよび炭素を含む窒化チタン質材料からなり、被連結部材を連結する連結具を挿入するための貫通孔と、該貫通孔が開口している面の肉厚が厚い部分に配置された穴とが形成されたことを特徴とする装飾部品用駒成形体。
【請求項2】
前記穴は、前記貫通孔が開口している面から対向する面にかけて貫通していることを特徴とする請求項1に記載の装飾部品用駒成形体。
【請求項3】
前記穴は、断面が円形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の装飾部品用駒成形体。
【請求項4】
複数の前記穴が、前記肉厚が厚い部分に並んで配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の装飾部品用駒成形体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の装飾部品用駒成形体が脱脂され、焼成されてなることを特徴とする装飾部品用駒。
【請求項6】
前記穴の開口近傍の側面が装飾面と異なる色調に着色されていることを特徴とする請求項5に記載の装飾部品用駒。
【請求項7】
芳香剤が前記穴に配置されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の装飾部品用駒。
【請求項8】
芳香剤が封入されているカプセルが、前記穴に挿入されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の装飾部品用駒。
【請求項9】
温度に感応する色素が前記穴に配置されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の装飾部品用駒。
【請求項10】
請求項5乃至請求項9のいずれかに記載の装飾部品用駒が複数個、前記貫通孔に連結具が挿入されて連結されていることを特徴とする装飾部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−130894(P2011−130894A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292203(P2009−292203)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】