説明

補体阻害物質としての改変OMCI

本発明の方法は、LK/E結合活性が欠如している改変OmCIポリペプチドまたは改変OmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および補体によって媒介される疾患または症状の治療のためのかかるポリペプチドおよびポリヌクレオチドの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補体によって媒介される疾患および症状の治療に有用な新規組成物、特に改変されたダニ由来の補体特異的阻害物質、および補体によって媒介される疾患および症状の治療のためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
補体は、重要な先天的免疫防御システムである。補体は、異物からの、また炎症過程における体の保護に関与する。補体系の機能および調節に関与することが知られている血清タンパク質および細胞表面タンパク質は30種類を超える。
【0003】
補体活性化には3つの経路:古典経路;代替経路およびレクチン経路がある。古典経路は、IgMもしくはIgG複合体または炭水化物によって活性化される。代替経路は、非自己表面および細菌内毒素によって活性化される。レクチン経路は、病原体の表面上のマンノースに結合するマンナン結合レクチン(MBL)によって活性化される。この補体の3つの経路は平行したカスケードを含み、このカスケードにおいては、類似形態のC3転換酵素とC5転換酵素が、それぞれC3成分およびC5成分を切断して活性化し、C3aとC3bおよびC5aとC5bを生じさせる。
【0004】
これらの活性化補体断片は、広範囲の免疫作用の媒介に関与している。C3aおよびC5aは肥満細胞の脱顆粒を引き起こし、血管透過性および平滑筋収縮を増大させる。C5aは走化性タンパク質としての役割も果たし、免疫細胞を動員する。C3bはオプソニン化し、病原体の貪食を増加させる。C5bは細胞膜傷害複合体(MAC)形成の開始に関与する。
【0005】
健常人では、3つの補体経路の活性化は、生理的条件下で注意深く調節されている。免疫系における補体の重要な役割および不適切な補体活性化の影響を背景として、共に作用して補体経路活性化を調節する複数の機構が存在する。補体経路の主な調節因子は、補体制御タンパク質である。これらは、血漿中で補体成分自体よりも高濃度で発現する。一部の補体制御タンパク質は、身体の自己細胞の表面上で発現し、これによりこれらの細胞が補体によって不適切に標的化されることを防ぐ。さらに、C3aおよびC5aなどの活性補体成分の多くは半減期が極めて短く、このためこれらが活性化された後、血漿中で活性状態なのは短時間のみである。
【0006】
補体活性化を調節する制御機構の不全は、身体の自己組織に損傷をもたらす可能性がある。補体制御機構の不全は、多くの病理学的症状および疾患に関与している。補体経路の制御欠如を伴うことが知られている症状としては、加齢性黄斑変性症(AMD)、アルツハイマー病、アレルギー性脳脊髄炎、同種移植、関節リウマチなどの種々の関節炎、喘息、成人呼吸窮迫症候群、熱傷、癌、クローン病、皮膚筋炎、糸球体腎炎、溶血性貧血、血液透析、遺伝性血管浮腫、特発性膜性腎症、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、虚血再灌流傷害、運動ニューロン疾患、多臓器不全、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋梗塞、腎炎、類天疱瘡、心肺バイパス法後、乾癬、敗血症性ショック、自然流産、脳卒中、全身性エリテマトーデス、ブドウ膜炎、血管漏出症候群および異種移植が挙げられる。
【0007】
補体経路は注意深く調節することが重要であるため、補体の調節不全を伴うことが知られている症状および疾患の予防または治療において使用するための補体阻害剤の開発に大きな関心がもたれている。研究は、特定の補体成分の抗体、RNAアプタマーおよび補体受容体を標的とする分子の開発に焦点が合わせられている。
【0008】
エイコサノイドは、20炭素脂肪酸であるアラキドン酸(AA)から誘導され、多様な細胞種および器官に多くの作用を生じさせる酸化生物活性脂質メディエーターのファミリーである。ロイコトリエン(LK)は、例えば血管緊張ならびに毛細血管および細静脈の透過性の調節、筋肉の収縮または弛緩(システイニルLK)、悪性細胞の増殖および/または伝播の抑制(Schwartzら, 2005; Aya, 2006)ならびに、特に自己免疫症状および炎症性症状における白血球の活性化(LK、HETE)(Samuelsson, 1983; Kimら, 2006)などの複数の作用を有する、エイコサノイドのサブファミリーである。
【0009】
ロイコトリエンB4(LTB4)は、報告されている最も強力な走化性且つ化学運動性のエイコサノイドであり、インテグリンのアップレギュレーションを介して好中球の血管内皮への接着を促進する(Hooverら, 1984)。またLTB4は好中球の完全な分泌促進物質でもあり、好中球の凝集を誘導し、微小血管の透過性を増加させる。LTB4は、ナチュラルキラー細胞、単球および好酸球を動員して活性化させる。LTB4は、スーパーオキシドラジカルの生成を増加させ(HarrisonおよびMurphy, 1995)、遺伝子発現(例えば組織の炎症を増加させ且つ長引かせ得る多数の炎症性サイトカインおよびメディエーターの産生など)を調節する(Ford-Hutchinson, 1990; Showellら, 1995)。またLTB4は、適応免疫応答の誘導および操作における役割も有する。例えば、流入領域リンパ節への樹状細胞輸送の調節(Klaasら, 2005;Del Preteら, 2007)、肺T細胞からのTh2サイトカインIL-13産生(Miyaharaら, 2006)、抗原特異的エフェクターCD8+T細胞の動員(Taubeら, 2006)ならびにヒトBリンパ球の活性化および増殖(Yamaokaら, 1989)。
【0010】
WO2004/106369は、補体C5成分(Nunnら, 2005)への直接結合により古典補体経路および代替補体経路の両方を阻害する、ヒメダニ科カズキダニ(オルニトドロス・モウバタ(Ornithodoros moubata))由来の補体(C)阻害物質OmCIについて記載している。OmCIは、吸血性節足動物の唾液腺から得られる。OmCIは、治療可能性を有することが証明されている(Hepburnら, 2007)。最近、OmCIがエイコサノイド、特にLK、とりわけLTB4に結合することが示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2004/106369
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Schwartzら、2005, Journal of Clinical Oncology, 23, 5365-5373.
【非特許文献2】Aya, 2006, Yokohama Medical Journal 57, 43-52.
【非特許文献3】Samuelsson, 1983, Science 220, 569-575.
【非特許文献4】Kimら, 2006, J. Exp. Med. 203, 829-835.
【非特許文献5】Hooverら, 1984, Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 81, 2191-2193.
【非特許文献6】Harrisonら, 1995, J. Biol. Chem. 270, 17273-17276.
【非特許文献7】Ford-Hutchinson, 1990, Crit. Rev. Immunol. 10, 1-12.
【非特許文献8】Showellら, 1995, J. Pharm. Exp. Ther. 273, 176-184.
【非特許文献9】Klaasら, 2005, J. Exp. Med. 201, 1281-1292.
【非特許文献10】Del Preteら, 2007, Blood, 109, 626-631.
【非特許文献11】Miyaharaら, 2006, Allergol Int. 55, 91-7.
【非特許文献12】Taubeら, 2006, J. Immunol. 176, 3157-3164.
【非特許文献13】Yamaokaら, 1989, J. Immunol. 143, 1996-2000.
【非特許文献14】Nunnら, 2005, J. Immunol.174, 2084-2091.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、OmCIを改変して、ロイコトリエン/ヒドロキシエイコサノイド(LK/E)結合活性を低下させまたは除去し得ることが示された。具体的には、本発明者らは、特定の残基におけるOmCIポリペプチドの改変が、LK/E結合活性を低下させまたは除去することを示した。従って本発明は、LK/E結合活性が欠如している改変OmCIポリペプチドおよびかかる改変OmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。特に本発明は、OmCIの結合ポケット中の特定の残基の改変によりLK/E結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドおよび該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。さらに本発明は、補体成分には結合するが、LK/Eには結合しないOmCIポリペプチドに関する。かかる改変OmCIポリペプチド、またはかかる改変OmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、補体阻害剤としての役割を果たし、LK/Eの役割を妨げることなく、補体によって媒介される疾患および症状の予防および治療に使用することができる。
【0014】
このように、本発明の1つの態様によれば、LK/E結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドが提供される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、OmCIポリペプチドは以下のものを含む:
(a) LK/E結合活性を除去するように改変されている配列番号3のアミノ酸配列;
(b) 配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有し、LK/E結合活性を除去するように改変されている変異アミノ酸配列;
(c) 配列番号2のアミノ酸残基19〜168のアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有し、LK/E結合活性を除去するように改変されている配列番号2の変異アミノ酸配列;または
(d) LK/E結合活性が欠如している、(a)、(b)または(c)のアミノ酸配列の断片。
【0016】
本発明はさらに、本発明のOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0017】
本発明はさらに、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0018】
本発明はさらに、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0019】
本発明はさらに、ロイコトリエン/ヒドロキシエイコサノイド(LK/E)結合活性が欠如しているOmCIポリペプチド;ロイコトリエン/ヒドロキシエイコサノイド(LK/E)結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;またはロイコトリエン/ヒドロキシエイコサノイド(LK/E)結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターおよび製薬上許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0020】
本発明はさらに、補体によって媒介される疾患または症状の治療のための組成物であって、ロイコトリエン/ヒドロキシエイコサノイド(LK/E)結合活性が欠如しているOmCIポリペプチド;ロイコトリエン/ヒドロキシエイコサノイド(LK/E)結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;またはロイコトリエン/ヒドロキシエイコサノイド(LK/E)結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む上記組成物を提供する。
【0021】
本発明はさらに、治療または予防を必要とする被験体において、補体によって媒介される疾患または症状を治療または予防する方法であって、ロイコトリエン/ヒドロキシエイコサノイド(LK/E)結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドまたはロイコトリエン/ヒドロキシエイコサノイド(LK/E)結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの治療有効量を被験体に投与することを含んでなる、上記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】パルミトレイン酸に結合している、細菌により発現されたOmCI(bOmCI)の結晶構造の詳細(図中央)。
【図2】PBS、OmCI、RaHBP2を含むまたは含まない12500pg/mLの12(S)-HETEのプレインキュベーションの20分後の溶液における、41.2μgのbOmCIによる12(S)-HETEの結合(pg/mL 12(S)-HETE)を示す酵素イムノアッセイ(EIA)。
【図3】bOMCIおよびLTB4の吸収スペクトル。(A) OmCI添加前の溶液中のLTB4(上の線)、およびbOmCI:LTB4複合体を添加し、次いで限外濾過によって除去した後の同溶液の再測定(下の線)(B) 限外濾過によって200μlに濃縮した直後のbOmCI:LTB4複合体(上の線)およびbOmCI(下の線)。
【図4】LTB4に結合したbOmCIの結晶構造の詳細(図中央)。LTB4中の酸素原子(C-5およびC-12のカルボキシ基及びヒドロキシル基)を示す。これらの基は、結合キャビティ中のアミノ酸と水素結合(点線)を形成する(実施例3の本文を参照)。
【図5】細菌中で発現された組換えOmCI中に存在する脂肪酸のガスクロマトグラフィー分析。パルミトレイン酸およびエライジン酸の識別は、質量分析および参照標準との比較によって確認した。
【図6】結合ポケットが大きなアミノ酸トリプトファンによって遮断されている変異OmCI(yOmCI-F36WおよびyOmCI-G59W)は、様々なタンパク質濃度において、野生型yOmCIよりもLTB4への結合が著しく低いことを示す。
【図7】RaHBP2(補体を阻害しないネガティブコントロールであるダニのリポカリン)を、野生型組換えOmCIならびにLTB4に結合しない変異yOmCI-F36WおよびyOmCI-G59Wと比較した古典経路溶血アッセイ。
【図8】結合ポケットが大きなアミノ酸トリプトファン(W)によって遮断されている変異yOMCI-F36WおよびyOMCI-G59Wは、野生型OMCIと同等の効力で補体活性化の古典経路を阻害する。
【図9】放射線標識LTB4の、OMCI単独およびOMCIとヒトC5との複合体による結合は、(a) 可飽和であり、また(b)類似の結合動態を有する。パネル(a)は、3つの実験の代表であり、生データを示す。パネル(b)は、2つの実験の代表であり、平均ネガティブコントロールc.p.m(n=16)を引いた後のc.p.m値を示す。対数回帰関数が示される:OMCI、y = 134.67Ln(x) + 521.6、R2 = 0.98;OMCI:hC5、y = 132.87Ln(x) + 479.2、R2 = 0.97。
【発明を実施するための形態】
【0023】
配列の説明
配列番号1は、カズキダニ(O.モウバタ(O. moubata))のOmCIのポリヌクレオチドおよびコードされるタンパク質配列である。
【0024】
配列番号2は、カズキダニのOmCIのアミノ酸配列である。
【0025】
配列番号3は、配列番号2に示されるアミノ酸19〜168のアミノ酸配列であり、配列番号2のタンパク質の最初のアミノ酸配列(シグナル配列)を含まないOmCIのアミノ酸配列である。
【0026】
配列番号4および5は、それぞれ、過剰グリコシル化を回避するように酵母中で発現させるため、AATおよびAACをそれぞれCAAにコドン変化させて、Asn78をGlnに、またAsn102をGlnに変化させるように改変されたOmCIのポリヌクレオチドおよびコードされるタンパク質配列である。
【0027】
配列番号6は、カズキダニのOmCI-F36W変異体のポリヌクレオチドおよびコードされるタンパク質配列である。
【0028】
配列番号7は、カズキダニのOmCI-F36W変異体のアミノ酸配列である。
【0029】
配列番号8は、配列番号6に示されるアミノ酸19〜168のアミノ酸配列であり、配列番号6のタンパク質の最初のアミノ酸配列(シグナル配列)を含まないOmCI-F36W変異体のアミノ酸配列である。
【0030】
配列番号9は、カズキダニのOMCI-G59W変異体のポリヌクレオチドおよびコードされるタンパク質配列である。
【0031】
配列番号10は、カズキダニのOMCI-G59W変異体のアミノ酸配列である。
【0032】
配列番号11は、配列番号9に示されるアミノ酸19〜168のアミノ酸配列であり、配列番号9のタンパク質の最初のアミノ酸配列(シグナル配列)を含まないOMCI-G59W変異体のアミノ酸配列である。
【0033】
このように本発明は、LK/E結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドまたは該OmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本明細書中で用いられる「LK/E結合活性」とは、野生型OmCIが、ロイコトリエンおよびヒドロキシエイコサノイド(例えば、限定するものではないが、LTB4、B4イソロイコトリエンおよびそれらの任意のヒドロキシル化誘導体、HETE、HPETEおよびEET)に結合する能力を指す。OmCIタンパク質は、カズキダニの唾液から単離されるダニ由来の補体阻害物質であってよく、またはその機能的等価物(そのホモログなど)およびそのいずれかの断片であってもよい。
【0034】
本発明のOmCIタンパク質は、カズキダニから得られるOmCIであることが好ましい。このタンパク質は、ダニの唾液腺から最初に単離され、古典補体経路および代替補体経路を阻害することが見出されている。このタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。本発明によるポリペプチドは、LK/E結合活性を特異的に除去するように改変されている、配列番号2に示される完全な配列を含み得る。別法として、シグナル配列を形成するタンパク質配列の最初の18アミノ酸を含まず、LK/E結合活性を特異的に除去するように改変されているポリペプチドが提供される。従って、本発明によるポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19〜168であり、LK/E結合活性を除去するようにさらに改変されている、配列番号3のポリペプチドであってよい。
【0035】
LK/E結合活性も欠如している、カズキダニに由来するOmCIタンパク質の変異体(例えばホモログまたは断片)は、本発明により提供される。ホモログは、配列番号2または3に示されるOmCI配列のパラログおよびオルソログも包含してよく、例えば、リピセファルス・アッペンジクラツス(Rhipicephalus appendiculatus)、R.サングイネウス(R. sanguineus)、R.ブルサ(R. bursa)、A.アメリカナム(A. americanum)、A.カジェネンセ(A. cajennense)、A.ヘブレウム(A. hebraeum)、オウシマダニ(Boophilus microplus)、B.アヌラツス(B. annulatus)、B.デコロラツス(B. decoloratus)、アミメカクマダニ(Dermacentor reticulatus)、D.アンデルソニ(D. andersoni)、D.マーギナツス(D. marginatus)、D.バリアビリス(D. variabilis)、ヘマフィサリス・イネルミス(Haemaphysalis inermis)、Ha.レアチイ(Ha. leachii)、Ha.プンクタタ(Ha. punctata)、ヒアロンマ・アナトリクム・アナトリクム(Hyalomma anatolicum anatolicum)、Hy.ドロメダリイ(Hy. dromedarii)、Hy.マルギナツム・マルギナツム(Hy. marginatum marginatum)、イクソデス・リシヌス(Ixodes ricinus)、I.ペルスルカトゥス(I. persulcatus)、I.スカプラリス(I. scapularis)、I.ヘキサゴヌス(I. hexagonus)、ペルシャダニ(Argas persicus)、ハトヒラタダニ(A. reflexus)、オルニトドロス・エラティクス(Ornithodoros erraticus)、O.モウバタ・モウバタ(O. moubata moubata)、O.m.ポルシヌス(O. m. porcinus)およびO.サビグニイ(O. savignyi)などの他のダニ種に由来する、LK/E結合活性を特異的に除去するように改変されているOmCIタンパク質配列などが挙げられる。また用語「ホモログ」は、イエカ属(Culex)、ハマダラカ属(Anopheles)、およびヤブカ属(Aedes)のもの、特にネッタイイエカ(Culex quinquefasciatus)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)、およびハマダラカ(Anopheles gambiae)などの蚊種、ノミ種(例えば、ネコノミ(Ctenocephalides felis))、ウマバエ、スナバエ、ブユ、ツエツエバエ、シラミ、ダニ、ヒル、および扁形動物に由来するOmCIタンパク質配列を包含することも意味する。
【0036】
1つの実施形態において、OmCIポリペプチドは以下のものを含む:
(a) LK/E結合活性を除去するように改変されている配列番号3のアミノ酸配列;
(b) 配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有し、LK/E結合活性を除去するように改変されている変異アミノ酸配列;
(c) 配列番号2のアミノ酸残基19〜168のアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有し、LK/E結合活性を除去するように改変されている配列番号2の変異アミノ酸配列;または
(d) LK/E結合活性が欠如している、(a)、(b)または(c)のアミノ酸配列の断片。
【0037】
変異体ポリペプチドは、そのアミノ酸配列が配列番号2または3のアミノ酸配列から変化しているが、本発明のOmCIポリペプチドと同じ本質的特性を保持し、LK/E結合活性を除去するように改変されているポリペプチドである。
【0038】
典型的には、本発明の改変OmCIポリペプチドに見られる位置に相当する位置における1つ以上のLK/E結合活性除去改変に加えて、配列番号2または3のアミノ酸配列と約50%、55%、60%または65%を超える同一性、好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、および特に好ましくは少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドが、タンパク質の変異体とみなされる。このような変異体は、ペプチドが本発明のOmCIポリペプチドの活性を維持する限り、対立遺伝子変異体、およびタンパク質配列内の単一アミノ酸またはアミノ酸群の欠失、改変または付加を含んでいてよく、LK/E結合活性を除去するようにさらに改変されている。配列番号3の変異体の同一性は、配列番号3に示される配列の近接アミノ酸の少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも130個、もしくは少なくとも140個、もしくはそれを超える領域にわたって、またはより好ましくは配列番号3の全長にわたって測定することができる。
【0039】
アミノ酸同一性は、任意の適切なアルゴリズムを用いて計算することができる。例えば、UWGCGパッケージは、ホモロジーを計算するのに使用し得る(例えば、そのデフォルト設定で使用される)BESTFITプログラムを提供する(Devereuxら (1984年) Nucleic Acids Research、12巻、387〜395頁)。PILEUPおよびBLASTアルゴリズムは、例えば、Altschul S.F.(1993年)J Mol Evol、36巻、290〜300頁、Altschul,S,Fら(1990年)J Mol Biol、215巻、403〜10頁に記載されているように、(典型的にはそのデフォルト設定で)等価の、または対応する配列を同定するなど、ホモロジーまたは整列配列を計算するのに使用することができる。
【0040】
BLAST解析を行うためのソフトウエアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通して公的に入手可能である。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードと整列させた場合、いくつかの正の値の閾値スコアTとマッチし、またはTを満たす問い合わせ配列中の長さWの短いワードを同定することによってハイスコア配列ペア(HSP)を最初に同定することを含む。Tは近傍ワードスコア閾値と呼ばれる(Altschulら、上述)。これら最初の近傍ワードヒットは、これらを含むHSPを見つけるための検索を開始するためのシードとしての役割を果たす。ワードヒットは、累積アラインメントスコアが増加し得る限り、各配列に沿って両方向に伸長する。各方向のワードヒットの伸長は、累積アラインメントスコアがその最大達成値から量Xだけ下がった場合、1以上の負のスコアの残基アラインメントの蓄積により累積スコアがゼロもしくはそれ未満になった場合、またはいずれかの配列の終端に達した場合に停止する。BLASTアルゴリズムパラメータであるW、T、及びXはアラインメントの感度及び速度を決定する。BLASTプログラムは、デフォルトとして11のワード長(W)、50のBLOSUM62スコアマトリックス(HenikoffおよびHenikoff(1992年)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89巻、10915〜10919頁を参照)アラインメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=4、および両鎖の比較を使用する。
【0041】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計学的分析を行う。例えば、KarlinおよびAltschul(1993年)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90巻、5873〜5787頁を参照されたい。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は、2つのポリヌクレオチド間またはアミノ酸配列間の一致が偶然生じる確率の指標を提供する最小和確率(P(N))である。例えば、第1の配列の第2の配列に対する比較における最小和確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、ある配列は別の配列に類似しているとみなされる。
【0042】
変異配列は、典型的には、少なくとも1、2、3、5、10、20、30、50、またはそれを超える変異(アミノ酸の置換、欠失または挿入であってよい)だけ異なる。例えば、1個から50個、2個から40個、3個から30個、または5個から20個のアミノ酸の置換、欠失または挿入がされていてよい。置換は、好ましくは、例えば以下の表1による保存的置換である。第2列の同じブロック中のアミノ酸、好ましくは第3列の同じ行中のアミノ酸は、相互に置換し得る。
【表1】

【0043】
本発明において使用されるOmCIポリペプチドの断片は、それが改変OmCIポリペプチドのLK/E結合活性の欠如を保持する限り、典型的には、少なくとも50個の、例えば少なくとも80個またはそれを超える長さのアミノ酸であり、最高で90個、100個、120個、130個、または140個までの長さのアミノ酸である。好ましい実施形態において、OmCIポリペプチドの断片は、カズキダニのOmCIによって示される補体阻害活性を保持する。
【0044】
本発明のOmCIポリペプチド(そのホモログまたは断片などの変異体ポリペプチドを含む)は、LK/E結合活性が欠如している。LK/E結合活性は、OmCIポリペプチドのアミノ酸配列の改変によって除去することができる。LK/E結合活性は、コードされるOmCIポリペプチドに適切な改変を生じさせる、本発明のOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのヌクレオチド配列の改変によっても除去することができる。
【0045】
本発明のOmCIポリペプチドは、OmCIアミノ酸配列中の特定の残基の変異によってLK/E結合活性を欠如するように改変することができる。1つの実施形態において、特定のアミノ酸残基の変異は非保存的であり、野生型OmCIポリペプチドの1つ以上のアミノ酸残基が異なる極性のアミノ酸部分によって置換される。例えば、表1によれば、第3列の異なるブロック中のアミノ酸は互いに置換することができる。別の実施形態において、OmCIは、野生型OmCIポリペプチドの1つ以上のアミノ酸残基を、LK/Eへの結合を妨げる立体干渉を増加させる大きな側鎖を含むアミノ酸部分で置換することによって改変することができる。
【0046】
1つの実施形態において、LK/E結合活性は、OmCIポリペプチドのLK/E結合ポケット中のアミノ酸を改変することによって除去される。LK/E結合に特に必要とされる可能性が高いアミノ酸としては、(配列番号2を基準として):Phe36、Arg54、Leu57、Gly59、Val72、Met74、Phe76、Thr85、Trp87、Phe89、Gln105、Arg107、His119、Asp121、Trp133が挙げられる。他の実施形態において、これらのアミノ酸の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個を変異させてLK/E結合活性を除去する。好ましい実施形態において、OmCI中の少なくとも1つの変異は、Phe36TrpおよびGly59Trpから選択される。別の実施形態において、改変OmCIポリペプチドは、Phe36Trp変異およびGly59Trp変異の両方を含む。
【0047】
別の実施形態において、LK/E結合活性は、LK/E結合ポケットの外側のアミノ酸を改変することによって除去され、この場合、当該アミノ酸の改変は、OmCIポリペプチドのLK/E結合部位の内側または外側に構造変化を生じさせ、LK/E結合活性の喪失をもたらす。
【0048】
本発明のOmCI変異体ポリペプチド、例えばそのホモログまたは断片も、LK/E結合活性を欠如するように改変される。このような変異体は、上述の配列変異に加えて、本発明の改変OmCIポリペプチドに見られる位置に相当する位置でさらに改変される。OmCI中の特定の位置に相当するアミノ酸は、OmCIとその変異体のLK/E結合ポケットのアミノ酸配列を整列させ、対応するアミノ酸残基を同定することによって決定することができる。
【0049】
特定の改変OmCIポリペプチドのLK/E結合活性が低下または欠如しているか否かを決定する方法としては、酵素イムノアッセイ、光散乱、質量分析、表面プラズモン共鳴、UV吸収、放射性リガンドまたは蛍光標識リガンド結合アッセイおよび結晶学が挙げられる。このような方法は、当業者によく知られている。OmCIポリペプチドのLK/E結合を決定するための具体的な方法の例は、実施例の項に記載されている。
【0050】
典型的には、本発明による改変OmCIポリペプチドは、LK/E結合活性が低下しており、またはこの活性が欠如している。典型的には、LK/Eに対する結合親和性、例えばLTB4に対する結合親和性は、改変されていないOmCIと比較して少なくとも50%低下しており、例えば少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%低下しており、または消失している。
【0051】
本発明のポリペプチドは、別のペプチドに遺伝的または化学的に融合したOmCIポリペプチドを含む融合タンパク質として提供することもできる。この「他のペプチド」の目的は、タンパク質の検出、発現、分離または精製を助けることであり得る。別法として、本タンパク質を、Fcペプチドなどのペプチドに融合して、該タンパク質の循環半減期を増加させることができる。他の融合パートナーの例としては、β-ガラクトシダーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、またはルシフェラーゼが挙げられる。
【0052】
本発明において用いられるポリペプチドは、化学的に修飾(例えば翻訳後修飾)することができる。例えば、ポリペプチドは、グリコシル化、PEG付加、リン酸化されていてよく、または修飾されたアミノ酸残基を含んでいてよい。ポリペプチドは、その精製を助けるためにヒスチジン残基の付加によって修飾されていてもよく、または細胞膜への挿入を促すためのシグナル配列の付加によって修飾されていてもよい。このような改変ポリペプチドは、本明細書で用いられる「ポリペプチド」という用語の範囲内に含まれる。
【0053】
本発明により用いられるポリペプチドは、LK/E結合活性が欠如している。野生型OmCIは、16〜20個の炭素原子の長さの任意の非環状脂肪酸に結合する傾向がある。特定の脂肪酸、特にLTB4は、他の脂肪酸よりも緊密に結合する。本発明のポリペプチドが結合し得る他の脂肪酸としては、アラキドン酸、12-epi LTB4、20-ヒドロキシLTB4、ならびに12(S)-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)および12(S)-ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸(HPETE)などのヒドロキシエイコサノイドが挙げられる。本ポリペプチドのLK/E結合活性または他の脂肪酸に対する結合活性の存在または非存在は、上述の技術などを用いて決定することができる。このような結合アッセイの1つは、実施例に例示されている。幾つかの実施形態において、LTB4などの特定の脂肪酸に対する結合活性を選択的に欠如しているポリペプチドを選択することが好ましい場合がある。このような結合活性の選択的欠如は、好適なアッセイ、例えば実施例に例示される競合アッセイによって決定することができる。
【0054】
本発明の幾つかの態様によれば、好ましくは、本発明により用いられるポリペプチドは、カズキダニのOmCIによって示される補体阻害活性を保持している。好ましくは、このポリペプチドは、補体活性化の古典経路と代替経路の両方を阻害する。「阻害する」とは、補体活性化の代替経路及び古典経路の作用を低減することを意味する。分子が古典補体経路および代替補体経路の作用を低減する能力は、Giclasら(1994年)およびWO2004/106369号に記載されているものなど、当技術分野において公知の標準的な溶血アッセイによって測定することができる。好ましくは、本発明の補体阻害ポリペプチドの存在は、補体活性化の古典経路及び代替経路についての標準的な溶血アッセイにおける赤血球溶解を、補体阻害ポリペプチドの非存在下の標準アッセイに比べて少なくとも20%低減し、より好ましくは少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、または80%低減する。
【0055】
好ましくは、補体阻害ポリペプチドは、古典経路のC5転換酵素、および代替経路のC5転換酵素によるC5の切断を阻害する。C5転換酵素によるC5のC5bへの転換は、代替補体経路及び古典補体経路の両方において生じる。古典経路のC5転換酵素はC4b3b2aであり、代替経路のC5転換酵素はC3b2Bbである。これらの両C5転換酵素によるC5切断の阻害は、このように補体活性化の古典経路および代替経路の両方を阻害する。古典経路及び代替経路のC5転換酵素によるC5の切断を阻害する分子の能力は、標準的なin vitroアッセイによって決定することができる。好ましくは、補体阻害ポリペプチドの存在は、補体阻害ポリペプチド非存在下の標準アッセイに比べて、古典経路及び代替経路のC5転換酵素によるC5の切断を、少なくとも20%低下させし、より好ましくは少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、または80%低下させる。好ましくは、本発明のポリペプチドの補体阻害活性は、様々な哺乳動物種に由来する古典経路および代替経路のC5転換酵素によってC5の切断を阻害する。
【0056】
本発明において用いられるポリペプチドは、実質的に単離された形態であってよい。ポリペプチドは、ポリペプチドの意図される目的を妨げない担体または希釈剤と混合することが可能であり、且つ依然として実質的に単離されているとみなされ得ることが理解されよう。本発明において用いるためのポリペプチドは、実質的に精製された形態であってもよく、この場合、一般に、このポリペプチドは、50重量%を超える、例えば、80重量%、90重量%、95重量%、または99重量%を超えるポリペプチドが本発明のポリペプチドである調製物中のポリペプチドを包含する。
【0057】
本発明において用いられるポリペプチドは、このような単離されたポリペプチドの断片として調製することもできる。さらに、OmCIポリペプチドは、合成的に、または組換え手段によって生成することもできる。例えば、組換えOmCIポリペプチドは、培地中の哺乳動物、真菌、細菌または昆虫の細胞に、適切な制御配列に機能的に連結したポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターをトランスフェクトし、細胞を培養し、細胞によって生成されたOmCIポリペプチドを抽出して精製することによって生成することができる。
【0058】
本発明において用いられるポリペプチドのアミノ酸配列は、天然に存在しないアミノ酸を含むように改変してもよく、または化合物の安定性を増大させるように改変してもよい。合成手段によってポリペプチドを生成する場合は、生成中にこのようなアミノ酸を導入してもよい。ポリペプチドは、合成または組換えによる生成の後に改変することもできる。
【0059】
本発明において用いられるポリペプチドは、D-アミノ酸を用いて生成することもできる。このような場合、アミノ酸はCからNの方向に逆配列で連結される。これは、このようなポリペプチドを生成するため当技術分野において慣例的である。
【0060】
当技術分野において多くの側鎖改変が知られており、本ポリペプチドがOmCI活性は保持するがLK/E結合活性は欠如するという条件で、本発明のOmCIポリペプチドの側鎖に対して側鎖改変を行うことができる。
【0061】
ポリヌクレオチド
本発明は、LK/E結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。1つの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、カズキダニに由来するOmCIタンパク質をコードする。カズキダニに由来するOmCIをコードするヌクレオチド配列は、配列番号1に示される。本発明によるポリヌクレオチドは、コードされるポリペプチドのLK/E結合活性を特異的に除去するように改変されている、配列番号1に示される完全配列を含み得る。
【0062】
カズキダニに由来するOmCIタンパク質の変異体(例えばホモログまたは断片)(これらもLK/E結合活性を欠如している)をコードするポリヌクレオチドが、本発明により提供される。付加的な縮重置換がなされることがあり、および/または例えば上記の表1に示されるように、改変された配列が翻訳されるときに保存的アミノ酸置換を生じさせる置換がなされることもある。このようにコードされる変異体は上述されており、本発明の改変OmCIポリペプチドに見られる位置に相当する位置にさらに改変を含む。
【0063】
本発明のポリヌクレオチド(ホモログまたは断片などの変異体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む)は、典型的には、配列番号1のコード配列またはこのコード配列の相補鎖に、バックグラウンドを有意に上回るレベルでハイブリダイズすることができる。バックグラウンドハイブリダイゼーションは、例えば、DNAライブラリ中に存在する他のDNAによって生じ得る。本発明のポリヌクレオチドと、配列番号1のコード配列またはこのコード配列の相補鎖との相互作用によって生成されるシグナルレベルは、他のポリヌクレオチドと配列番号1のコード配列との相互作用よりも、典型的には少なくとも10倍、好ましくは少なくとも100倍強力である。相互作用の強度は、例えば32Pを用いてプローブを放射性標識することによって測定することができる。選択的ハイブリダイゼーションは、典型的には、中〜高ストリンジェンシー条件を用いて達成し得る。しかし、このようなハイブリダイゼーションは、当技術分野で公知の任意の好適な条件下で行うこともできる(Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、1989年を参照)。例えば、高ストリンジェンシーが必要とされる場合、好適な条件としては、60℃〜65℃における0.1〜0.2×SSCが挙げられる。比較的低いストリンジェンシーが必要とされる場合は、好適な条件として、60℃における2×SSCが挙げられる。
【0064】
配列番号1のコード配列は、本発明の改変OmCIポリペプチドに見られる位置に相当する位置における1つ以上のLK/E結合活性除去改変のコーディングに加えて、例えば、1、2または3個〜10、25、50または100個のヌクレオチド置換によって改変することができる。配列番号1のポリヌクレオチドは、代替的にまたは付加的に、1つ以上の挿入および/または欠失、および/またはいずれか一端もしくは両端の伸長によって改変され得る。シグナル配列などの付加配列も含めてよく、あるいはタンパク質の検出、発現、分離もしくは精製を助けるための別のペプチドもしくはタンパク質をコードする配列、またはタンパク質の循環半減期を増加させるためのFcペプチドなどのペプチドをコードする配列も含めることができる。他の融合パートナーの例としては、β-ガラクトシダーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、またはルシフェラーゼが挙げられる。
【0065】
配列番号1のDNAコード配列の相補鎖に選択的にハイブリダイズし得るヌクレオチド配列は、一般的に、本発明の改変OmCIポリペプチドに見られる位置に相当する位置における1つ以上のLK/E結合活性除去改変のコーディングに加えて、配列番号1、または配列番号1に示される配列を有するポリペプチドをコードする配列番号1の長さの少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば少なくとも40個、少なくとも60個、少なくとも100個、少なくとも200個、少なくとも420個の領域にわたって、または最も好ましくは全長にわたって、配列番号3のコード配列に、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する。配列同一性は、例えば上述のような任意の適切な方法によって決定することができる。
【0066】
上記の配列同一度と最小サイズとの任意の組み合わせを用いて本発明のポリヌクレオチドを規定してもよく、よりストリンジェントな組合せ(すなわち、より長い長さにわたるより高い配列同一性)が好ましい。このように、例えば、60個、好ましくは100個を超えるヌクレオチドにわたって少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドは本発明の一態様を形成し、同様に、420個のヌクレオチドにわたって少なくとも95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドも本発明の一態様を形成する。
【0067】
ポリヌクレオチド断片の長さは、好ましくは少なくともヌクレオチド20個であり、例えば少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくとも50個である。これらの長さは典型的には、ヌクレオチド100個、150個、250個、または400個以下である。断片の長さはヌクレオチド400個より長くてよく、例えば、配列番号1のコード配列に数ヌクレオチド(例えばヌクレオチド5個、10個または15個)足りない長さまで長くてよい。
【0068】
本発明のOmCIポリヌクレオチド(ホモログまたは断片などの変異体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む)は全て、LK/E結合活性が低下または欠如しているポリペプチドをコードする。このようなポリヌクレオチド変異体は、これらがLK/E結合活性が欠如しているポリペプチドをコードするように、上述の配列変異に加えて、本発明の改変OmCIポリヌクレオチドに見られる位置に相当する位置でさらに改変されている。OmCI中の特定の位置に相当する核酸は、改変OmCIおよび変異体の核酸配列を整列させ、対応する核酸残基を同定することによって決定することができる。
【0069】
LK/E結合活性は、コードされるOmCIポリペプチドに適切な改変を生じさせる、本発明のOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのヌクレオチド配列の改変によって除去することができる。
【0070】
本発明のOmCIポリヌクレオチドは、改変してコードされるOmCIポリペプチドのアミノ酸配列中の特定の残基を変異させ、LK/E結合活性の除去をもたらすことができる。1つの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドにおいて非縮重置換を行うことが可能であり、この置換は、例えば上記の表1に示すとおり、改変された配列が翻訳されるときに非保存的アミノ酸置換をもたらす。
【0071】
1つの実施形態において、LK/E結合活性は、本発明のポリヌクレオチドを、それにコードされるOmCIポリペプチドのLK/E結合ポケット中のアミノ酸を変異させるように改変することによって除去される。LK/E結合に特に必要とされる可能性が高いアミノ酸としては、(配列番号2を基準として):Phe36、Arg54、Leu57、Gly59、Val72、Met74、Phe76、Thr85、Trp87、Phe89、Gln105、Arg107、His119、Asp121、Trp133が挙げられる。他の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、コードされるOmCIポリペプチドが、LK/E結合活性を除去するためにこれらのアミノ酸の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個において変異されるように改変される。好ましい実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、コードされるOmCIポリペプチド中の少なくとも1つの変異が、Phe36TrpおよびGly59Trpから選択されるように改変される。
【0072】
本発明のポリヌクレオチドは、補体によって媒介される疾患または症状を治療または予防するために使用することができる。典型的には、ポリヌクレオチドはDNAである。しかし、ポリヌクレオチドは、RNAポリヌクレオチドであってもよい。ポリヌクレオチドは一本鎖であっても二本鎖であってもよく、鎖中に合成ヌクレオチドまたは改変ヌクレオチドを包含し得る。
【0073】
本発明において用いられるポリヌクレオチドは、組換え的に、合成的に、または当業者が利用し得る任意の手段によって生成することができる。これらのポリヌクレオチドは、標準的な技術によってクローニングすることができる。ポリヌクレオチドは、典型的には、単離形態および/または精製形態で提供される。
【0074】
一般的に、短いポリヌクレオチドは、一度に1ヌクレオチドずつの、所望の核酸配列の段階的製造を包含する合成的手段によって生成される。これを達成するための自動化技術を用いた技術は、当技術分野において容易に利用可能である。
【0075】
比較的長いポリヌクレオチドは、一般的に、組換え手段を用いて、例えばPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)クローニング技術を用いて生成される。この技術は、クローン化することが望ましいOmCI遺伝子領域に対する一対のプライマー(例えば、約15〜30ヌクレオチドのもの)を作成し、このプライマーを節足動物細胞から得たDNAと接触させ、所望の領域の増幅をもたらす条件下でポリメラーゼ連鎖反応を実施し、増幅した断片を単離し(例えば、アガロースゲル上で反応混合物を精製することによって)、増幅したDNAを回収することを含む。プライマーは、増幅されたDNAが適切なクローニングベクター中にクローン化され得るように、適切な制限酵素認識部位を含むよう設計することができる。
【0076】
このような技術を用いて、本明細書に記載されるOmCI遺伝子配列の全部または一部を得ることができる。概ね、本明細書中で言及した技術は当技術分野において周知であるが、具体的にはSambrookら(1989)を参照するとよい。
【0077】
本明細書に記載したOmCIポリヌクレオチドは、in vitro、in vivoまたはex vivoで行い得る本発明において用いられるポリペプチドの生成に有用である。ポリヌクレオチドは、それ自体で治療剤として使用してもよいし、または組換えタンパク質の合成に関わらせてもよい。
【0078】
本発明において用いられるポリヌクレオチドは、典型的には、組換え複製可能なベクターに組み込まれる。このベクターは、適合宿主細胞中で核酸を複製するために使用することができる。従って、本発明において用いられるポリヌクレオチドは、OmCIポリヌクレオチドを複製可能なベクターに導入し、このベクターを適合宿主細胞中に導入し、この宿主細胞を、ベクターの複製をもたらす条件下で増殖させることによって作製することができる。宿主細胞は、例えば、大腸菌(E. coli)細胞であってよい。
【0079】
好ましくは、ベクターは、OmCIポリペプチドをコードする核酸配列を含む発現ベクターである。このような発現ベクターは、分子生物学の技術分野において日常的に構築され、例えば、プラスミドDNAおよび適切なイニシエーター、プロモーター、エンハンサーならびに例えば、必要とされる場合があり、タンパク質の発現を可能とするために正しい向きに配置されるポリアデニル化シグナルなどの他のエレメントの使用を伴うことがある。コード配列は、使用される宿主生物に適した好ましいコドン使用頻度を与えるように選択することもてきる。他の好適なベクターは、当業者には明らかである。これに関するさらなる例として、本発明者らはSambrookら(1989年)を参照する。
【0080】
好ましくは、本発明において用いられるポリヌクレオチドは、ベクター中で、宿主細胞によるコード配列の発現をもたらし得る制御配列に機能的に連結されており、つまりこのベクターは発現ベクターである。「機能的に連結されている」という用語は、記載される構成成分が、これらが意図されるように機能することを可能とする関係にある並置を指す。コード配列に「機能的に連結している」プロモーターなどの調節配列は、コード配列の発現が、該調節配列に適合する条件下で達成されるように配置されている。
【0081】
ベクターは、例えば、複製起点と、場合により上記ポリヌクレオチドを発現するためのプロモーター、および場合によりプロモーターのレギュレーターを備えた、プラスミド、ウイルスベクターまたはファージベクターであってよい。ベクターは、典型的には、in vivoで使用されるように適合されている。
【0082】
プロモーターおよび他の発現調節シグナルは、発現が宿主細胞用に設計されたその宿主細胞と適合するように選択することができる。β-アクチンプロモーターなどの哺乳動物プロモーターを使用し得る。組織特異的プロモーターが特に好ましい。ウイルスプロモーター、例えばモロニーマウス白血病ウイルス末端反復配列(MMLV LTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター、SV40プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)IEプロモーター、アデノウイルス、HSVプロモーター(HSV IEプロモーターなど)、またはHPVプロモーター、特にHPV上流調節領域(URR)も使用することができる。ウイルスプロモーターは、当技術分野において容易に入手可能である。
【0083】
ベクターは、真核細胞のゲノム配列(好ましくは哺乳動物のゲノム配列)に相同な配列を含むポリヌクレオチドを生じさせる、ポリヌクレオチドに隣接する配列をさらに含み得る。これにより、相同的組換えによって、本発明のポリヌクレオチドを真核細胞のゲノムに導入することが可能となる。具体的には、ウイルス配列が両側に隣接している発現カセットを含むプラスミドベクターを用いて、本発明のポリヌクレオチドを哺乳動物細胞に送達するのに適したウイルスベクターを調製することができる。好適なウイルスベクターの他の例として、単純ヘルペスウイルスベクター、ならびにレンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびHPVウイルスなどのレトロウイルスが挙げられる。これらのウイルスを用いた遺伝子導入技術は当業者に公知である。例えば、レトロウイルスベクターを用いて、本発明のポリヌクレオチドを生じさせるポリヌクレオチドを宿主ゲノムに安定的に組み込むことができる。複製欠損アデノウイルスベクターは、対照的に、エピソーム性のままであるため、一過性の発現が可能となる。
【0084】
疾患および症状
野生型OmCIは、補体とLK/E分子(例えばLTB4)の両方に結合することが知られている。本発明者らは、OmCIを改変させてLK/E結合活性を特異的に除去し得ることを見出した。本発明者らは、変異させてLTB4結合活性を除去することができるが、OmCIが補体成分に結合する能力には影響を及ぼさない、OmCIの結合ポケット中の特定の残基を同定した。LTB4は、報告されている最も強力な走化性および化学運動性のエイコサノイドであり、インテグリンのアップレギュレーションを介して好中球の血管内皮への接着を促進する。LTB4は好中球の凝集を誘発し、様々な過程を通じて炎症の役割を果たす。
【0085】
従って、LK/E結合活性の特異的除去は、このような改変OmCIポリペプチドおよびこのような改変OmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、免疫系におけるロイコトリエンおよびエイコサノイドの役割を妨げることなく補体によって媒介される疾患および症状を治療するために使用する機会を提供する。
【0086】
補体活性化は阻害されるが、野生型OmCIには結合されるLTB4または他の脂肪酸は存在するような病理学的症状の治療が望ましいのは、以下:
a)疾患または症状が補体によって媒介され、LTB4は何の役割も果たさない場合;または
b) 疾患または症状が補体によって媒介され、且つLTB4もしくはこれが動員する好中球が、疾患または症状を悪化させるよりもむしろ有益な役割を果たす場合
である。本発明により治療し得るこのような特定の病気の例には、動物モデルにおいてC5a受容体遮断が腫瘍の成長を損なうことが最近示されたが、好中球が炎症部位への動員を介して抗腫瘍活性を示す癌の治療がある。
【0087】
C) 免疫抑制者などの患者は、2つの免疫防御機構(補体およびLTB4)の抑制よりもむしろ1つの免疫防御機構(すなわち補体)の抑制から利益を得るであろう。本発明により治療し得るこのような特定の病気の例には、患者が化学療法を受けたために好中球遊走反応が抑制され、細菌感染しやすくなる癌の治療がある。
【0088】
本発明により治療し得る特定の病気の例として、加齢性黄斑変性症(AMD)、アルツハイマー病、アレルギー性脳脊髄炎、同種移植、関節リウマチなどの種々の関節炎、喘息、成人呼吸窮迫症候群、熱傷、癌、クローン病、皮膚筋炎、糸球体腎炎、溶血性貧血、血液透析、遺伝性血管浮腫、特発性膜性腎症、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、虚血再灌流傷害、運動ニューロン疾患、多臓器不全、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋梗塞、腎炎、類天疱瘡、心肺バイパス法後、乾癬、敗血症性ショック、自然流産、脳卒中、全身性エリテマトーデス、ブドウ膜炎、血管漏出症候群および異種移植が挙げられる。
【0089】
好ましい実施形態において、本発明により治療し得る特定の病気として、加齢性黄斑変性症(AMD)、アルツハイマー病、アレルギー性脳脊髄炎、同種移植、成人呼吸窮迫症候群、熱傷、癌、皮膚筋炎、糸球体腎炎、溶血性貧血、血液透析、遺伝性血管浮腫、特発性膜性腎症、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、虚血再灌流傷害、運動ニューロン疾患、多臓器不全、重症筋無力症、類天疱瘡、心肺バイパス法後、敗血症性ショック、自然流産、血管漏出症候群および異種移植が挙げられる。
【0090】
治療および予防
本発明は、補体によって媒介される疾患または症状を治療または予防するためのOmCIポリペプチドおよびポリヌクレオチドの使用を提供する。治療は、治療的であってもよいし、または予防的であってもよい。
【0091】
疾患または症状の1つ以上の症候の発症を予防するために、OmCIポリペプチドまたはポリヌクレオチドを個体に投与することができる。この実施形態において、被験体は無症候であってよい。被験体は、疾患に対する遺伝的素因を有していてもよい。予防有効量のポリペプチドまたはポリヌクレオチドを、このような個体に投与する。予防有効量は、疾患または症状の1つ以上の症候の発症を予防する量である。
【0092】
OmCIポリペプチドまたはポリヌクレオチドの治療有効量は、疾患または症状の1つ以上の症候を改善するのに有効な量である。好ましくは、治療対象の個体はヒトである。
【0093】
OmCIポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、任意の適切な手段によって被験体に投与してよい。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、経口、頬側、経肛門、経肺、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、関節内、局所または他の適切な投与経路などの経腸または非経口経路によって投与することができる。
【0094】
OmCIポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、特定の部位に対する標的治療などの方法で被験体に投与してもよい。
【0095】
本明細書で言及されるポリペプチドおよびポリヌクレオチドのいずれかの製剤は、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの性質、および治療対象の症状などの因子によって決まる。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、様々な剤形で投与することができる。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、経口的に(例えば、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水性もしくは油性懸濁剤、分散性散剤もしくは顆粒剤として)、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、胸骨内に、経皮的に、局所的に、または注入技術によって投与することができる。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、坐剤として投与してもよい。医師は、特定の患者それぞれに必要とされる投与経路を決定することができる。
【0096】
典型的には、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、製薬上許容される担体または希釈剤と共に使用するために製剤化され、この製剤化は、製薬の技術分野の常法を用いて行うことができる。医薬担体または希釈剤は、例えば等張溶液であってよい。例えば、固体経口剤形は、活性化合物と共に、希釈剤(例えば、ラクトース、デキストロース、ショ糖、セルロース、コーンスターチ、またはポテトスターチ);滑沢剤(例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウム、および/またはポリエチレングリコール);結合剤(例えば、デンプン、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはポリビニルピロリドン);脱凝集剤(例えば、デンプン、アルギン酸、アルギン酸塩、またはデンプングリコール酸ナトリウム);発泡混合物;染料;甘味料;湿潤剤(レシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸塩など);ならびに、一般的に、医薬製剤において用いられる非毒性の薬理学的に不活性な物質を含み得る。これらの医薬調製物は、例えば、混合、顆粒化、打錠、糖衣、またはフィルムコーティング法を用いて、公知の方法で製造することができる。
【0097】
経口投与用の液体分散剤は、シロップ剤、乳剤および懸濁剤であってよい。シロップ剤は、担体として、例えばショ糖、あるいはショ糖と共にグリセリンおよび/またはマンニトールおよび/またはソルビトールを含み得る。
【0098】
懸濁剤及び乳剤は、担体として、例えば天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、またはポリビニルアルコールを含み得る。筋肉内注射用の懸濁剤または液剤は、活性化合物と共に、製薬上許容される担体、例えば滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチル、グリコール(例えばプロピレングリコール)、および所望により適切な量の塩酸リドカインを含み得る。
【0099】
静脈内または注入用の液剤は、担体として、例えば滅菌水を含んでいてよく、または好ましくは、滅菌溶液、水溶液、等張生理食塩水溶液の形態であってよい。
【0100】
坐剤については、伝統的な結合剤および担体として、例えば、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドが挙げられ、このような坐剤は、0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%の範囲の有効成分を含む混合物から形成することができる。
【0101】
経口製剤は、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等のような通常用いられる賦形剤を含む。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放製剤、または散剤の剤形を採り、有効成分を10%〜95%、好ましくは25%〜70%含む。医薬組成物が凍結乾燥されている場合、凍結乾燥された材料は、投与前に(例えば懸濁剤などに)再構成することができる。再構成は、好ましくはバッファー中で行う。
【0102】
患者への経口投与用のカプセル剤、錠剤、および丸剤は、例えば、ユードラジット(Eudragit)「S」、ユードラジット(Eudragit)「L」、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む腸溶コーティングと共に提供することができる。
【0103】
無針注射によって(例えば経皮的に)送達するのに適した医薬組成物も使用することができる。本発明による組成物は、局所適用に通常用いられるあらゆる剤形で提供することが可能であり、特に、水性、水性/アルコール性、もしくは油性の液剤、ローション型もしくはセラム型の分散剤、無水もしくは親油性ゲル剤、脂肪相を水相中に分散させることによって得られる(O/W)もしくはその逆によって得られる(W/O)液体もしくは半固体の稠度のミルク型の乳剤、軟らかい半固体の稠度のクリーム型もしくはゲル型の懸濁剤または乳剤、あるいはマイクロエマルション、マイクロカプセル、微粒子、またはイオン型および/もしくは非イオン型の小胞分散剤の形態で提供し得る。これらの組成物は、標準的な方法に従って調製される。
【0104】
これらは、水性、アルコール性、もしくは水性/アルコール性の液剤の形態で、またはクリーム剤、ゲル剤、乳剤、もしくは泡沫剤の形態で、あるいは、加圧下の噴射剤も含有するエアロゾル組成物の形態で頭皮に使用することもできる。
【0105】
本発明による組成物の様々な構成成分の量は、当該分野において伝統的に用いられている量である。
【0106】
治療有効量のポリペプチドまたはポリヌクレオチドが投与される。用量は、様々なパラメータに従って、特に、使用するポリペプチドまたはポリヌクレオチド、治療対象の患者の年齢、体重および症状、投与経路、および必要とされるレジメンに従って決定することができる。また、医師は、任意の特定の患者に必要とされる投与経路及び投与量を決定することができる。典型的な日用量は、ポリペプチドの活性、治療対象の被験体の年齢、体重、および症状、疾患の種類および重症度、ならびに投与頻度および投与経路により、体重1kgあたり約0.001mg〜50mg、好ましくは約0.01mg/kg〜10mg/kgである。日用量レベルが0.5mg〜2gであるのが好ましい。局所投与には、より低い投与量を用いることができる。
【0107】
上記の改変OmCIヌクレオチド配列およびかかる配列を含む発現ベクターも、上に概説した医薬製剤として使用することができる。好ましくは、RNAまたはDNAなどの核酸(特にDNA)は、治療対象の個体の細胞中で発現し得る発現ベクターの形で提供される。製剤は、裸のヌクレオチド配列を含んでいてよく、または陽イオン性脂質、ポリマー、もしくは標的化系との組み合わせであってもよい。製剤は、任意の利用可能な技術によって送達することができる。例えば核酸は、針注射によって、好ましくは、皮内、皮下、または筋肉内に導入することができる。別法として、核酸を、粒子媒介遺伝子送達などの核酸送達装置を用いて皮膚を超えて直接送達してもよい。核酸は、例えば、鼻腔内投与、経口投与、膣内投与、または直腸内投与によって、皮膚、または粘膜表面へと局所的に投与してもよい。
【0108】
核酸構築物の取込みは、例えば、トランスフェクション剤の使用を含むトランスフェクション技術などの、いくつかの公知のトランスフェクション技術によって増強することができる。これらの薬剤の例として、カチオン剤(例えばリン酸カルシウムおよびDEAE-デキストラン)、ならびにリポフェクタント(例えば、リポフェクタムおよびトランスフェクタム)が挙げられる。投与対象の核酸の投与量は変化させることができる。典型的には、核酸は、粒子媒介遺伝子送達については核酸1pg〜1mgの、好ましくは1pg〜10μgの範囲で、他の経路については10μg〜1mgの範囲で投与される。
【実施例】
【0109】
実施例1:競合ELISAにおいて、野生型OmCIは12(S)-HETE(12(S)-ヒドロキシエイコサテトラエン酸)に結合する
背景:
OmCIは脂肪酸に結合する(図1)。質量分析法により、リシノール酸(C18H34O3)、およびパルミトレイン酸(C16H30O2)が、P.メタノリカ(P. methanolica)および大腸菌中でそれぞれ発現されるOmCI中に見出される主な脂肪酸型であることが示される。しかし、真の生理学的リガンドは、炎症、酸化ストレス、および細胞シグナル伝達を媒介する多くの宿主細胞膜由来のエイコサノイドの1種以上である可能性が高い。
【0110】
Assay Designs Inc.から販売されている競合的酵素イムノアッセイ(EIA)は、数多くのエイコサノイドの定量に使用することができる。このようなEIAキットの1つは、12(S)-HETEに対するポリクローナル抗体を使用し、アルカリホスファターゼで標識されていて試料中または既知濃度の標準中の非標識の12(S)-HETEと競合する12(S)-HETEに結合させる。室温での同時にインキュベートし、抗体をプレートに捕捉した後、過剰の試薬を洗い流し、基質を加え、反応をマイクロプレートリーダーによって測定した。非標識の脂肪酸は、結合についてアルカリホスファターゼ標識した分子と競合するので、試料中または標準中の12(S)-HETE濃度が高いほど、吸光度の読取値は低い。
【0111】
本発明者らは、OmCIが、上記のイムノアッセイにおいて使用したエイコサノイド特異的抗体との結合について競合するだろうという仮説を立てた。この見解を検証するため、12(S)-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(12(S)-HETE)を選択した。なぜなら、12(S)-HETEは、(おそらく)リシノール酸(本発明者らの結晶学的データから、パルミトレイン酸よりも堅固に結合することが予想される)に最も類似した物理化学的性質を有するエイコサノイドであるからである。他の作用の中でもとりわけ、12(S)-HETEは、多形核白血球および血管平滑筋細胞に対して走化性および化学運動性であることが示されている。
【0112】
方法
12(S)-HETE EIAキットは、Assay Designsから入手した(カタログ番号900-050)。使用したOmCIのストックは、酵母(yOmCI)または細菌(bOmCI)のいずれかで発現されたものであった。いずれのストックも≧98%純粋で、リン酸緩衝生理食塩水pH7.2(PBS)中8.3mg/mLであった。OmCIと同様にリポカリンであるネガティブコントロールのダニヒスタミン結合タンパク質RaHBP2(Paesenら、1999年)は細菌中で発現され、同様に≧98%純粋で、PBS中8.3mg/mLであった。12(S)-HETE標準を、キットと一緒に供給されるアッセイバッファー中で50000、12500、3125、781、195pg/mLまで希釈した。100μlの12500、3125および0pg/mL溶液を、≦9μlのリン酸緩衝生理食塩水pH7.2(PBS)、またはOmCIもしくはRaHBP2のPBS溶液と混合した。混合物を室温で20分間インキュベートし、次いで製造者の使用説明書に従って12(S)-HETEイムノアッセイ中で使用した。処理した試料の吸光度の読取値を検量線と比較して、溶液中の、抗12(S)-HETEポリクローナル抗体による結合に利用可能な12(S)-HETEの濃度を推定した。
【0113】
結果:
bOmCIは溶液中の抗体結合に利用可能な12(S)-HETEの量を低下させるが、RaHBP2は12(S)-HETEの量を低下させず、bOmCIが12(S)-HETEに直接結合することを示唆している(図2)。PBSならびにbOmCIおよびRaHBP2精製タンパク質調製物の両方は、いくらかの(≦1000pg/mL)12(S)-HETEを含有すると考えられる。同様の方法を用いて、OmCIがLTB4に結合することを示した。(データ示さず)。
【0114】
考察:
細菌で発現されたタンパク質を用いたこれらの初期結果は、OmCIが、パルミトレイン酸(C16で二重結合1個)またはリシノール酸(C18で二重結合1個)よりも長く(C20)、より多くの不飽和結合数(4個)を有する脂肪酸に結合できることを示唆している。さらに、12(S)-HETEは、リガンド結合にとって重要であると予想されたC9-C10に二重結合を有していない。この結果は、パルミトレイン酸が、12(S)-HETEによってbOmCIの結合ポケットから押しのけられた可能性も示唆している。この仮定には注意が必要であるが、OmCIは大過剰のモル数で(1000〜4000倍)使用されたため、一部の精製bOmCIはいずれのリガンドによっても占有されていない可能性がある。
【0115】
実施例2:野生型OmCIによるLTB4結合は吸光度によって明らかとなる
背景:
ロイコトリエンは、それらの共役二重結合系(トリエン発色団)により、特徴的で強力なUV吸収スペクトルを有する。LTB4は、水性媒体中で271nmにピーク吸光度を有し、また262nmおよび282.5nmに「ショルダー(shoulder)」を有する。タンパク質のピーク吸光度は280nmにある。タンパク質単独と比較して、LTB4に結合しているOmCIは280nm付近にUV吸光度の増大を示し、LTB4の特徴的なショルダーはピーク吸光度のいずれかの側10nmにあるはずである。
【0116】
方法:
bOmCI(4.5mg)を、39mLのPBS中1.8mLのLTB4(純粋エタノール中50ng/μLストック、Biomol International)と共に、10分間振盪しながら室温でインキュベートした。この混合物は、OmCIとLTB4とのモル比が1:1である。混合物を、Vivaspin(Sartorious)5kDaカットオフ限外ろ過装置中で200μlに濃縮した。残余分をさらに30mLのPBSで洗浄し、200μlに濃縮した。並行して、同量(4.5mg)のbOmCIを、39mLのPBS中1.8ml超純粋エタノールと共にインキュベートし、次いで濃縮し、上記のとおりに洗浄した。濃縮されたタンパク質の最終体積は200μlであった。タンパク質のUV吸収スペクトルを、Nanodrop ND-1000分光光度計を用いて試験した。
【0117】
結果:
得られたスペクトルを図3に示す。LTB4単独では、リン酸緩衝生理食塩水pH7.4中で予想される特徴的な吸光度ピークを有する(271nm、261nm、および281nmにピークを有する)(図3A)。LTB4と共にインキュベートし、残余のLTB4を除去するために広範に洗浄したbOmCIの吸収スペクトルは、LTB4結合を示すショルダーを有し、ピーク吸光度は、純粋エタノールと共にインキュベートしたbOmCIよりも著しく高い(図3B)。これは、bOmCIがLTB4に選択的に結合し、LTB4を溶液から除去することを示唆している。実際、最初の限外ろ過ステップを通した流れの中にLTB4は検出できず(図3A)、これは(検出限界内で)最初の混合物に加えたLTB4全てにbOmCIが結合したことを示している。
【0118】
bOmCIが結合したLTB4のUVスペクトルに著しい変化が見られた。最大UVは、277nm、267nm、及び287nmへの+6nmの深色(赤色シフト)を示した(図3AおよびB)。このシフトは、抱合されたロイコトリエンとbOmCIアミノ酸との間の分散相互作用によって引き起こされた可能性が最も高い。このことは、トリエン発色団がタンパク質によって完全に包含されていることと一致している。同様の相互作用が、トリエン発色団によるUV吸収の淡色効果を引き起こす。これは直接的には測定されなかったが、200μl(濃縮されたタンパク質の最終体積)に濃縮された投入LTB4から予想されるピーク吸収が55.8であり(計算41.32ml/0.2ml×0.27 10mm吸光度)、bOmCIに結合したLTB4のピーク吸収の合計が約35.07であった(計算bOmCI:LTB4のピーク10mm吸収マイナスbOmCIのピーク吸収、即ち61.19-26.12)ことは注目に値する。タンパク質の喪失が最小であると仮定すると、計算は淡色効果を意味する。
【0119】
実施例3:結晶学的構造のデータは、野生型bOmCIの結合ポケット中のLTB4を示す
方法:
LTB4をローディングしたbOmCIタンパク質を、上記の通りに作製し(実施例2)、次いで25mg/mLに濃縮し、バッファーをTris-HCl pH7、30mM NaCLに交換し、結晶を成長させるのに使用した。回折データセットは、2008年7月にBM14@ESRF上でP21OmCI: LTB4単斜晶(a=41.76Å b=112.81Å c=62.40Å β=101.89°、4コピー/非対称単位)から収集した。このデータを2.0Å解像度に加工し、分子置換によって構造を最初に決定し、OmCI:LTB4モデルを構築し、R=20.7 R遊離=23.7、rmsd結合=0.005、rmsd=0.9まで精密化した。
【0120】
結果:
図4は、bOMCI結合ポケット中のLTB4の球状及び棒状の表現を示す。以下の残基は、LTB4への結合に直接関与する:
−Arg54、Thr85、Trp87:これらの残基はLTB4の頭部(カルボキシ基)に水素結合し、これらの残基の改変は、頭基の化学的性質が異なるリガンドに結合するように操作することができる
−LTB4の疎水体は、ポケットの疎水性側鎖:Phe36、Tyr43、Pro61、Leu70、Val72、Phe76、Leu57、Met74、Arg107、Phe89、Trp133、Trp87、Gly59と接触する
−Arg107およびGln105はLTB4の炭素5(C5)の-OHを認識する
−His119およびAsp121はLTB4の炭素12(C12)の-OHを認識する
リシノール酸は炭素5の-OH基が欠如しており、C9とC10の間に単一の二重結合のみを有し、LTB4よりも炭素原子2個分短い。LTB4に結合したOMCIと比較した、リシノール酸に結合したOMCIの主な構造上の相違は、C5阻害に必要とされる132〜142ループの領域にある(MansおよびRibeiro、2008年)。相違は、以下のようにまとめることができる:
−Glu141およびHis164の側鎖フリップ(His164およびGlu14におけるこれらの変更は、Arg47およびArg148の側鎖からの2個の水素結合を介して関連している);これらの側鎖フリップの結果として、His164:Asp136の塩橋は失われ、132〜142ループは、G139に水素結合しているHis117の側鎖フリップおよび架橋している水の喪失によって引き込まれる。LTB4結合によって誘導されるこの立体構造の変化は、C5に対するOmCIの結合動態の作用を有する可能性があるが、本発明者らは、現在のところ、これについていかなる直接的な証拠も有していない。
【0121】
−小さな再構成を示す第2の領域は155〜159である。C5阻害領域の132〜142とポケットとの間には直接的な接触は存在しない。132〜142ループ構造は、4つのコピー各々で3つの異なる結晶充填環境にあるにもかかわらず、このループは、非対称単位中の4つのコピー全てにおいて同一である。したがって、リシノール酸構造に関する相違は、小さな変更点の中間層を介したリガンドからループまでの構造のわずかな伝播に起因するものである可能性がある。
【0122】
実施例4:細菌中で発現される組換えOmCIに含まれる脂肪酸
背景:
リシノール酸(47%)、パルミチン酸メチルエステル(21%)、およびステアリン酸メチルエステル(11%)は、酵母中で発現される組換えOmCIによって結合される主な脂肪酸であることが知られている。最近、OmCIは12(S)-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)に結合することが可能であり、またLTB4に最も強く結合し得ることも示された。OmCIのホモログは、アラキドン酸に結合することが知られている。本発明者らは、細菌中で発現されるOmCIが、さらに他の脂肪酸に結合することを示した。
【0123】
方法:
粗OMCIタンパク質抽出物(CHCl3、130μl)を、窒素の緩流で室温にて蒸発させて乾燥させた。ジアゾメタンのエーテル溶液を数滴加え、遊離酸をメチルエステルに変換した。10分後、溶媒と過剰のジアゾメタンを窒素の緩流によって除去し、試料をジクロロメタン(50μl)に吸収させた。さらに10μlまで濃縮した後、試料をGC-MS分析に直接使用した。同様に、溶融石英Alltech EC5(D-82008 Unterhaching, Germany)キャピラリー(15m x 0.25mm, 0.25μm)を備え、キャリアガスとして1.5ml min-1のヘリウム(He)を用いるTraceMS (ThermoFinnigan, D-63329 Egelsbach, Germany)上でのGC-MS分析の前に、ジアゾメタンによって基準脂肪酸をメチルエステルに変換した。試料(1μl)をスプリットレスモードで注入し(1分間)、60℃で開始(1分間)した後、毎秒(min-1)10℃〜180℃、さらに毎秒(min-1)4℃〜280℃で加熱して2分間維持するプログラム条件下で分離した。70eVの電子衝撃(EI)モード(源温度200℃、トランスファーライン280℃、および放出電流250μA)でフルスキャンスペクトルを測定した。この機器を、毎秒(sec-1)2スキャンで、m/z 50からm/z 540まで操作した。真正試料との比較により、パルミトレイン酸メチルエステルおよびエライジン酸メチルエステルの存在が確認された。
【0124】
結果:
タンパク質結合脂肪酸の同定のため、エステル化した試料をガスクロマトグラフィー(図5)および質量分析(示さず)によって分析した。主成分(64%)は、パルミトレイン酸のシス異性体(C16:1 シス)であると考えられる。微量成分(7.6%)の、シス異性体とトランス異性体の両方が含まれるC17:1一価不飽和脂肪酸が存在する。最終化合物は、トランス異性体が優勢であるC18:1である。オレイン酸(C18:1 シス)は、微量化合物(2.7%)である。主なC18:1成分はおそらくエライジン酸であるが、その保持時間は、基準と完全に同じではないのに対して、オレイン酸の保持時間は基準と完全に同じである。本発明者らがエライジン酸と称したものは、実際には、バクセン酸(C18:1トランスであるが、エライジン酸またはオレイン酸のようにC9に二重結合を有するのではなく、C11に二重結合を有する)である可能性がある。トランス脂肪酸の発生は、細菌由来のOMCIと整合している。飽和酸は、試料に由来するものではないが、シリル化試薬(C16:0およびC18:0)中に既に存在しており、定量には含めなかった。
【0125】
考察:
OmCIは、不飽和結合およびヒドロキシル基の数および位置が異なる、長さが炭素数16〜20の様々な脂肪酸に結合することができる。組換え的に発現されたOmCI中には、様々な脂肪酸が存在する。結合キャビティ中に存在する脂肪酸の識別は、各脂肪酸のタンパク質溶液中の濃度および結合特異性によって決定される。
【0126】
実施例5:OmCIの結合ポケット中の特定の残基の部位特異的突然変異誘発は、LTB4結合を切断する
背景:
LTB4は、OmCIによって結合ポケットに入れられる。部位特異的突然変異誘発を利用して野生型タンパク質に存在する比較的小さな残基の代わりにトリプトファンなどの大きな残基を挿入することにより、このポケットを遮断してLTB4結合を妨げることができる。LTB4のOmCIに対する結合は、エイコサノイドの定量に使用し得る競合的酵素イムノアッセイ(EIA)などの様々な技術によって測定することができる。このアッセイでは、OmCIは、EIAにおいて用いられるLTB4特異的抗体と、結合について競合する。
【0127】
方法:
PCR部位特異的突然変異誘発を使用して、フェニルアラニン36をトリプトファン(yOmCI-F36W)に変更し、それとは別に、グリシン59をトリプトファン(yOmCI-G59W)に変更した。この変異タンパク質を酵母(ピシア・メタノリカ(Pichia methanolica))中で発現させ、均一(>95%純粋)になるまで精製し、吸収によって濃度を測定した。LTB4に対する変異体の結合は、Assay Design IncのEIAキット(実施例1を参照)を使用して野生型と比較した。
【0128】
結果:
図6に示されるとおり、yOMCI-F36WおよびyOMCI-G59Wは、野生型yOmCIよりもLTB4に対する結合が著しく低いことを示した。モデリングは、変異が結合ポケットを遮断することを示唆している。これらの変異体は、LTB4だけでなく、全ての脂肪酸の結合を妨げる可能性が高い。
【0129】
考察:
OmCIがLTB4などのLK/E分子に結合する能力は、OmCIの結合ポケット中の主要な残基を変異させることにより低下させまたは除去することができる。この結合部位は、OmCIの補体結合部位とは明確に区別することができる。このため、LK/E結合活性を特異的に除去することにより、改変OmCIポリペプチドは、LK/Eの作用を妨げることなく補体媒介性疾患および症状を標的とするために使用することがきる。
【0130】
実施例6:LTB4に結合することができないOmCIの部位特異的変異体は、補体を阻害することができる
背景:
LTB4結合を妨げる残基の変異は、yOMCI-F36WおよびyOMCI-G59Wが補体阻害物質として作用するのを妨げる可能性がある。このため本発明者らは、野生型OmCIによる補体の古典経路の阻害と、yOMCI-F36WおよびyOMCI-G59W変異体による補体の古典経路の阻害とを比較した。
【0131】
方法:
ヒツジ血液細胞はTissue Culture Servicesから入手した。溶血素(ヘモリジン)はSigmaから入手した。モルモット血清は家畜から得た。5mlの新鮮なヒツジ血液をAlsever溶液(1:1 vol/vol)に添加したものを、50mlのゼラチンベロナールバルビタール-EDTA(GVB-EDTA)中で1回、さらに50mlのGVB2+バッファー(Mg2+とCa2+を含むGVBバッファー)中で3回洗浄した。この血液を、1x109細胞ml-1の濃度まで希釈した。ウサギ溶血素を用いて赤血球を感作し、報告されているとおりに滴定した(Coligan, 1994)。アッセイは、標準プロトコル(Giclas, 1994)に従い、補体源として100μlのGVB2+中モルモット血清(1:320希釈)を、さらに50μlの2x108感作した赤血球(EA)を使用して、全量100μlで実施した。最後に5μgの組換えタンパク質OmCIまたはPBS(5μl)を加え、反応を37℃で振盪しながら(500rpm)インキュベートした。30分後、全細胞を12000 x gで5秒間遠沈し、溶血を412nmで分光光度的に測定した(Coligan, 1994)。アッセイは全て3重に実施した。
【0132】
結果:
図7に示されるとおり、yOMCI-F36WおよびyOMCI-G59Wは、使用濃度(1反応当たり5μg)において、野生型OmCIと同程度に強力に補体活性化の古典経路を阻害した。
【0133】
さらなる実験では、ウサギ溶血素(Sigma)を用いてヒツジ赤血球を感作し、GVB2+バッファー(Mg2+とCa2+を含むGVBバッファー)中で洗浄し、1x109細胞ml-1に調整した。アッセイは、標準プロトコル(Giclas, 1994)に従い、補体源として50μlのGVB2+中モルモット血清(1:320希釈)を、さらに50μlの2x108活性化赤血球(EA)細胞ml-1を使用して、全量100μlで実施した。最後に5μlの、PBS中に希釈した組換え野生型OmCIもしくは組換え変異体OmCIまたはRaHBP2コントロールタンパク質を加え、反応を37℃で30分間インキュベートした。次いで、全細胞を12000 x gで5秒間遠沈し、溶血を412nmで分光光度的に測定した。EAに対してGVB2+バッファーの代わりに水を加えることによって生じる
100%細胞溶解の吸光度値を用いて、試料の溶解パーセントを計算した。
【0134】
結果:
図8は、野生型OMCIによる補体活性化の古典経路の阻害と、LTB4に結合することができないOMCIによる補体活性化の古典経路の阻害に相違がないことを示す。このことは、LTB4結合が、C5に対するOMCIの結合に影響を及ぼさないことを示唆している。
【0135】
考察:
OmCIの2つの変異型(yOmCI-F36WおよびyOmCI-G59W)の、補体を阻害する能力は、OmCIが補体を阻害するために脂肪酸結合は必要ではないことを示唆している。このことは、OmCIがLTB4または非生理学的リガンド(例えばパルミトレイン酸)に結合した場合に、C5との相互作用を媒介するOmCIの外部構造がわずかにしか変化しないことを示す結晶学的構造データによって裏付けられている(実施例3を参照)。
【0136】
実施例7:OMCI単独と、ヒトC5に結合したOMCIとはLTB4に対して同じ結合動態を示す
背景:
LTB4結合は、OMCIがC5に結合した場合に変化する可能性がある。この変化は、立体障害によって、またはエンタルピーおよび/または構造の変化によって起こり得るだろう。放射線標識したLTB4の、OMCIに対する結合動態と、ヒトC5(hC5)と複合したOMCIに対する結合動態とを比較することにより、この可能性を評価した。
【0137】
方法:
組換え精製した細菌で発現されたOMCIとhC5(Calbiochem)(1:2モル比)を、PBS中で室温(RT)にて10分間インキュベートし、OMCI:hC5複合体を形成させた。複合体の形成は、ネガティブポリアクリルアミドゲルシフトによって確認した(データ示さず)。等量のOMCI:hC5またはOMCI単独を、75μlのPBS中で連続希釈し、その後、〜24000c.p.mの[5,6,8,9,11,12,14,15-3H(n)]-LTB4(Perkin Elmer, NEN Biotech, Lot 3589956;総活性5μCiまたは185kBq;比活性190 Ci/mmol)を含有する75μlのPBSを加えた。インキュベーション(3時間、RT)後、試料を8000gで2分間遠心分離し、20μlの上清を4mlのBeckman Ready valueシンチレーションカクテルに移した後、Wallac 1217 Rackbeta液体シンチレーションカウンターで溶液中に残っている放射能を測定した。PBS単独、およびPBS中RaHBP2およびPBS中hC5の連続希釈液をネガティブコントロールとして使用した。
【0138】
結果:
図9aは、OMCIとOMCI:hC5が3H-LTB4に対する飽和結合を示すのに対し、PBS(示さず)、RaHBP2およびhC5は3H-LTB4に対する飽和結合を示さないことを示す。ここで用いたアッセイは、OMCIがLTB4に結合し、これを溶液中に保つ能力を実際に測定する。ネガティブコントロール試料の溶液中に残っていたのは標識されたLTB4の20%にすぎなかったのに対し、より高濃度のOMCIの溶液中には、50%を上回る標識されたLTB4が残っていた(図9a)。このデータを使用して結合定数および解離定数を正確に導き出すことはできないが、等濃度のOMCIおよびOMCI:hC5についての対数回帰関数の傾きの比較は、LTB4とOMCI間の結合動態が、C5に対する結合によっては変化しないことを示唆する(図9b)。このデータは、OMCIの、C5結合用とリポカリン結合キャビティへのLTB4の侵入用の、正反対の面の使用と合致している。
【0139】
参考文献




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコトリエン/ヒドロキシエイコサノイド(LK/E)結合活性が低下または欠如しているOmCIポリペプチド。
【請求項2】
前記OmCIポリペプチドが、ロイコトリエン/ヒドロキシエイコサノイド(LK/E)結合活性が低下または欠如している、カズキダニ(O.モウバタ(O. moubata))のダニ由来補体阻害物質またはその機能的等価物である、請求項1に記載のOmCIポリペプチド。
【請求項3】
前記OmCIポリペプチドが、以下:
(a) LK/E結合活性を除去または低下するように改変されている配列番号3のアミノ酸配列;
(b) 配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有し、LK/E結合活性を除去または低下するように改変されている変異アミノ酸配列;
(c) 配列番号2のアミノ酸残基19〜168のアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有し、LK/E結合活性を除去または低下するように改変されている配列番号2の変異アミノ酸配列;または
(d) LK/E結合活性が欠如している、(a)、(b)または(c)のアミノ酸配列の断片
を含む、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記OmCIポリペプチドの結合キャビティ中の1つ以上のアミノ酸残基が変異している、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
変異対象のアミノ酸残基の1つ以上が、Phe36、Arg54、Leu57、Gly59、Val72、Met74、Phe76、Trp87、Phe89、Gln105、Arg107、His119、Asp121およびTrp133から選択され、この場合該アミノ酸の番号付けは配列番号2を基準とする、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
少なくとも1つのアミノ酸変異が、Phe36TrpおよびGly59Trpから選択される、請求項4または5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
LTB4結合活性が欠如している、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項10】
請求項8に記載のポリヌクレオチドまたは請求項9に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項11】
以下:
(a) LK/E結合活性が欠如しているOmCIポリペプチド;
(b) LK/E結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(c) LK/E結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクター;
および製薬上許容される担体
を含む医薬組成物。
【請求項12】
補体によって媒介される疾患または症状の治療のための、以下:
(a) LK/E結合活性が低下または欠如しているOmCIポリペプチド;
(b) LK/E結合活性が低下または欠如しているOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(c) LK/E結合活性が低下または欠如しているOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクター;
を含む組成物。
【請求項13】
前記OmCIポリペプチドが請求項1〜5のいずれか1項に定義されるとおりであり、前記OmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが請求項6もしくは7に定義されるとおりであり、または前記ベクターが請求項9に定義されるとおりである、請求項11または12に記載の組成物。
【請求項14】
疾患または症状が、加齢性黄斑変性症(AMD)、アルツハイマー病、アレルギー性脳脊髄炎、同種移植、関節リウマチなどの種々の関節炎、喘息、成人呼吸窮迫症候群、熱傷、癌、クローン病、皮膚筋炎、糸球体腎炎、溶血性貧血、血液透析、遺伝性血管浮腫、特発性膜性腎症、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、虚血再灌流傷害、運動ニューロン疾患、多臓器不全、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋梗塞、腎炎、類天疱瘡、心肺バイパス法後、乾癬、敗血症性ショック、自然流産、脳卒中、全身性エリテマトーデス、ブドウ膜炎、血管漏出症候群および異種移植から選択される、請求項11〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
治療または予防を必要とする被験体において、補体によって媒介される疾患または症状を治療または予防する方法であって、LK/E結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドまたはLK/E結合活性が欠如しているOmCIポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの治療有効量を被験体に投与するステップを含んでなる、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−516694(P2012−516694A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548772(P2011−548772)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000213
【国際公開番号】WO2010/100396
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(508133271)
【Fターム(参考)】