説明

補修装置および補修方法

【課題】補修作用を効率化できる補修装置および補修方法を提供すること。
【解決手段】この補修装置1は、ケーシング21と、このケーシング21に対してスライド可能に配置されるスライド軸22と、このスライド軸22に対して回転可能に配置されるターンテーブル24と、このターンテーブル24に設置されると共にバイト41を有する切削機構4と、ターンテーブル24の回転に対する切削機構4の回転半径を進退変位させる進退機構6とを備える。ケーシング21が管に対して芯出しされて位置決めされた状態にて、スライド軸22が軸方向にスライドしつつターンテーブル24が回転変位すると共に進退機構6が切削機構4を進退変位させることにより、バイト41が管の内周面形状に沿って螺旋状に旋回しつつ管の内周面を切削加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、補修装置および補修方法に関し、さらに詳しくは、補修作用を効率化できる補修装置および補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントでは、その安全性や信頼性を確保するために、原子炉容器の管台と管との溶接部を補修する補修作業が行われている。かかる補修作業に用いられる補修装置には、特許文献1に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−349596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、補修作用を効率化できる補修装置および補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、この発明にかかる補修装置は、管の内周面側の溶接部を補修する補修装置であって、ケーシングと、前記ケーシングに対してスライド可能に配置されるスライド軸と、前記スライド軸に対して回転可能に配置されるターンテーブルと、前記ターンテーブルに設置されると共に前記溶接部を切削するためのバイトを有する切削機構と、前記切削機構を進退変位させることにより前記ターンテーブルの回転にかかる前記バイトの回転半径を進退変位させる進退機構とを備え、且つ、前記ケーシングが前記管に位置決めされた状態にて、前記スライド軸が軸方向にスライドしつつ前記ターンテーブルが回転変位すると共に前記進退機構が前記バイトを進退変位させることにより、前記バイトが前記管の内周面形状に沿って螺旋状に旋回しつつ前記管の内周面を切削加工することを特徴とする。
【0006】
この補修装置では、スライド軸のスライド変位と、ターンテーブルの回転変位と、バイトの進退変位との相互作用により、バイトによる旋回切削加工が実現される。すると、略円筒形状を有する切削対象領域を滑らかに切削加工できるので、切削加工の精度が向上する。これにより、後処理が不要となるので、補修作用を効率化できる利点がある。
【0007】
また、この発明にかかる補修装置は、前記管の内周面形状に関する計測データを取得する計測手段を備え、且つ、前記計測データと所定の切削深さとの関係に基づいて、前記スライド軸のスライド速度と前記ターンテーブルの回転速度と前記切削機構の進退変位の速度との関係が算出されて、前記バイトの旋回軌跡が制御される。
【0008】
この補修装置は、切削対象領域を管の内周面形状に沿って切削加工できる(ならい旋回切削加工)。これにより、不均一な形状を有する切削対象領域を精度良く切削加工できる利点がある。
【0009】
また、この発明にかかる補修装置は、バフ研磨加工用のバフを有するバフ機構を備え、且つ、前記バフ機構と前記切削機構とが前記ターンテーブルにて切り替え可能に設置される。
【0010】
この補修装置は、補修装置がバフ機構と切削機構とを兼ねるので、バフ装置と切削装置とが別個に用いられる構成と比較して、装置の搬入および搬出や設置にかかる作業を省略できる利点がある。
【0011】
また、この発明にかかる補修装置は、前記進退機構が前記バフ機構を進退変位させることにより前記ターンテーブルの回転にかかる前記バフ機構の回転半径を進退変位させる。
【0012】
この補修装置では、スライド軸のスライド変位と、ターンテーブルの回転変位と、バフ機構の進退変位との相互作用により、バフを自転させつつ螺旋状に(または周上をステップで)公転旋回させてバフ研磨加工できる。これにより、略円筒形状を有するバフ研磨対象領域をスムーズにバフ研磨加工できる利点がある。
【0013】
また、この発明にかかる補修装置は、前記ケーシングを前記管に位置決めした状態で保持するクランプ機構を備える。
【0014】
この補修装置は、上記したバイトの旋回軌跡の制御にあたり、クランプ機構がケーシングの位置(特に切削対象に対する補修装置の相対的な管軸方向の位置)を適正に保持するので、補修装置が自立して管内に設置される。これにより、複数の補修装置を複数の管にそれぞれ配置して独立して稼動させ得るので、補修作業を効率化できる利点がある。
【0015】
また、この発明にかかる補修方法は、管の内周面側の溶接部を補修する補修方法であって、前記管の内周面形状に関する計測データを取得する計測ステップと、前記計測データと所定の切削深さとの関係に基づいて、バイトを管の内周面形状に沿って螺旋状に旋回させつつ前記管の内周面をならい切削加工する切削加工ステップとを備える。
【0016】
この補修方法では、切削対象領域を管の内周面形状に沿って切削加工(ならい旋回切削加工)できるので、不均一な形状を有する切削対象領域を精度良く切削加工できる。これにより、後処理が不要となるので、補修作用を効率化できる利点がある。
【発明の効果】
【0017】
この発明にかかる補修装置および補修方法では、補修装置では、スライド軸のスライド変位と、ターンテーブルの回転変位と、バイトの進退変位との相互作用により、バイトによる旋回切削加工が実現される。すると、略円筒形状を有する切削対象領域を滑らかに切削加工できるので、切削加工の精度が向上する。これにより、後処理が不要となるので、補修作用を効率化できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、この発明の実施の形態にかかる補修装置を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に記載した補修装置を示す軸方向断面図である。
【図3】図3は、図1に記載した補修装置のターンテーブルを示す平面図である。
【図4】図4は、図1に記載した補修装置のターンテーブルを示す正面図である。
【図5】図5は、図1に記載した補修装置のターンテーブルを示す側面図である。
【図6】図6は、図1に記載した補修装置による全周切削加工の工程を示すフローチャートである。
【図7】図7は、図1に記載した補修装置による全周切削加工の工程を示す説明図である。
【図8】図8は、図1に記載した補修装置による全周切削加工の工程を示す説明図である。
【図9】図9は、図1に記載した補修装置による全周切削加工の工程を示す説明図である。
【図10】図10は、図1に記載した補修装置の切削機構を示す平面図である。
【図11】図11は、図10に記載した切削機構を示すB視断面図である。
【図12】図12は、図11に記載した切削機構を示すC視断面図である。
【図13】図13は、図10に記載した切削機構の作用を示す説明図である。
【図14】図14は、図10に記載した切削機構の作用を示す説明図である。
【図15】図15は、図10に記載した切削機構の作用を示す説明図である。
【図16】図16は、図10に記載した切削機構の作用を示す説明図である。
【図17】図17は、原子炉容器の補修工程を示すフローチャートである。
【図18】図18は、原子炉容器の管台と管との溶接部を示す説明図である。
【図19】図19は、局部切削加工の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0020】
[原子炉容器の補修工程]
図17は、原子炉容器の補修工程を示すフローチャートである。図18は、原子炉容器における管台と管との溶接部を示す説明図である。
【0021】
原子炉容器100では、その安全性や信頼性を確保するためのメンテナンスが定期的に行われる。例えば、原子炉容器100は、容器本体110の外周側部に設けられた管台120と、冷却水の管(入口管あるいは出口管)130とを有する(図18参照)。管台120および管130は、略円筒形状の内周面を有し、内周面側および外周面側の少なくとも一方から溶接されて接続される。一般的には、管台120および管130が相互に異なる材質から成り、600系ニッケル基合金により溶接される。かかる管台120と管130との溶接部には、補修作業などのメンテナンスが必要となる。ここでは、一例として、管台120および管130の内周面側の溶接部Xにて補修作業が行われる場合について説明する。
【0022】
まず、準備工程(ステップST1)として、円筒容器状の作業架台140が容器本体110に挿入されて設置される。この作業架台140は、補修作業に必要な各種の補修装置(後述する検査装置、切削装置、溶接装置およびバフ装置)を管台120内に搬入するための架台であり、管台120に対応する位置に開口部141を有する。次に、容器本体110と作業架台140との隙間がフランジを用いてシール接合される。次に、フランジより下の冷却水が排水され、冷却水の水位が少なくとも容器本体110の管台120よりも下になるように設定される(図17および図18参照)。次に、作業架台140の開口部141から、遮蔽体150が管台120に挿入されて設置される。この遮蔽体150は、作業架台140の開口部141と管台120との隙間を埋めて、開口部141を管台120の内周面まで延長する部材である。この遮蔽体150により、作業架台140の開口部141から管台120の溶接部Xに至る円筒形状の内壁面(補修装置の設置スペース)が形成される。なお、管130内の奥部には、止栓(図示省略)が設置されて、放射線遮蔽用および異物拡散防止用のシールが形成される。
【0023】
次に、装置搬送用治具(図示省略)が設置される(ステップST2)。この装置搬送用治具は、補修装置を搬送するための治具であり、作業架台140の底部に設置される。装置搬送用治具は、例えば、テレスコ式のアームを有するターンテーブルにより構成される。補修装置を溶接部Xに搬入するときは、補修装置が作業架台140内に吊降ろされ、装置搬送用治具がこの補修装置を管台120に搬入して設置する。このとき、装置搬送用治具が、補修装置をアームで把持しつつアームを伸ばして作業架台140の開口部141から管台120に挿入する。これにより、補修装置が管台120に搬入される。その後に、装置搬送用治具が、補修装置から切り離され、アームを縮めて元の位置に戻る。一方、補修装置を溶接部Xから撤去するときは、装置搬送用治具が、再びアームを伸ばして管台120内の補修装置を把持し、アームを縮めて補修装置を作業架台140内に回収する。そして、この補修装置が吊上げられて作業架台140の外部に搬出される。これらにより、補修装置の搬入および搬出が行われる。
【0024】
次に、超音波を用いた非破壊検査(UT:Ultrasonic Testing)が行われる(検査ステップST3)。このUTは、溶接部Xに関する必要なデータ(例えば、溶接部Xの欠陥の有無や位置に関するデータ)を取得するための検査である。このステップST3では、まず、UTを行うための検査装置(図示省略)が、装置搬送用治具により搬入されて管台120の溶接部Xの近傍に設置される。次に、この検査装置がUTを行って必要な検査データを取得する。この検査データは、例えば、溶接部Xの位置、溶接部Xに発生した大きなクラック(後述する局部切削が必要なクラック)の位置などのデータである。取得された検査データは、検査装置から原子炉容器100の外部にある監視施設の制御装置(図示省略)に送信される。また、検査装置が、溶接部Xの位置やクラックの位置を示す目印として、溶接部Xの近傍にポンチを打刻する。その後に、検査装置が管台120から搬出されて回収される。
【0025】
次に、必要に応じて、局部切削加工が行われる(局部切削ステップST4)。図19は、局部切削加工の様子を示す説明図である。この局部切削加工は、溶接部Xに大きなクラックが発生しているときに、この溶接部Xのクラック部分を局部的に深く切削する加工である。局部切削加工では、切削用のカッタ10が用いられる(図19参照)。このカッタ10は、複数のバイトを周方向に配列して成る回転工具である。また、カッタ10は、切削装置(あるいは他の補修装置)に取り付けられて使用される。このステップST4では、まず、カッタ10を装着した切削装置が、装置搬送用治具により搬入されて管台120の溶接部Xの近傍に設置される。次に、切削装置が管台120の内周面に対して芯出しされて固定設置される。次に、ステップST3にて取得された検査データ(およびポンチ打刻)に基づいて、切削装置が溶接部Xのクラック部に対して位置決めされる。次に、局部切削加工が行われる。この局部切削加工では、カッタ10が溶接部Xのクラック部分に当てられて回転することにより、溶接部Xの局所的な切削(例えば、最大49[mm]の深さの切削)が行われる。その後に、切削装置が管台120から搬出されて回収される。
【0026】
なお、局部切削加工(ステップST4)が行われた場合には、併せて、局部切削部を埋めるための溶接盛りが行われる。
【0027】
次に、全周切削加工が行われる(全周切削ステップST5)。全周切削加工は、溶接部Xを含む一定の領域を管台120の内周面の全周に渡って一定の深さで切削する加工である。このステップST5では、後述する溶接加工に先立って、補修対象である溶接部Xの切削が行われる。まず、切削装置が装置搬送用治具により搬入されて管台120の溶接部Xの近傍に設置される。次に、切削装置が管台120の内周面に対して芯出しされて固定設置される。次に、ステップST3にて取得された検査データ(およびポンチ打刻)に基づいて、切削装置が溶接部Xに対して管台120の軸方向に位置決めされる。次に、切削装置が溶接部Xを含む一定の領域に対して全周切削加工を行う。その後に、切削装置が管台120から搬出されて回収される。なお、この実施の形態では、切削装置が切削用のバイトを用いて全周切削加工を行っている。かかる切削装置の具体的構成および全周切削加工の具体的内容については、後述にて詳細に説明する。
【0028】
次に、溶接加工が行われる(溶接ステップST6)。この溶接加工は、全周切削加工(ステップST5)済みの領域に溶接盛りを行う加工である。このステップST6では、まず、溶接装置が装置搬送用治具により搬入されて管台120の溶接部Xの近傍に設置される。次に、この溶接装置の芯出しおよび位置決めが行われる。次に、溶接装置が局部切削加工(ステップST4)済みの部分に溶接盛りを行う。次に、溶接装置が全周切削加工(ステップST5)済みの領域を全域に渡って溶接する。その後に、溶接装置が管台120から搬出されて回収される。
【0029】
次に、仕上げ切削加工が行われる(仕上げ切削ステップST7)。この仕上げ切削加工は、溶接加工(ステップST6)済みの領域に仕上げ切削加工を行う工程である。このステップST7では、まず、切削装置が装置搬送用治具により搬入されて管台120の溶接部Xの近傍に設置される。次に、この切削装置の芯出しおよび位置決めが行われる。次に、切削装置が溶接加工(ステップST6)済みの領域に仕上げ切削加工を行う。この仕上げ切削加工は、全周切削加工(ステップST5)と同様に行われ得る。なお、この実施の形態では、後述するように切削装置がバフ装置を兼ねている。このため、切削装置(補修装置)が管台120から回収されずに、そのまま次のステップST8が行われる。
【0030】
次に、バフ研磨加工が行われる(バフ研磨ステップST8)。このバフ研磨加工は、仕上げ切削加工(ステップST7)済みの領域にバフ研磨を行う加工であり、溶接部Xにおける残留応力の低減を目的とする。このステップST8では、後述するように切削装置がバフ装置を兼ねるので、バフ装置の設置工程、芯出し工程および位置決め工程が省略される。次に、バフ装置が仕上げ切削加工(ステップST7)済みの領域にバフ研磨加工を行う。その後に、バフ装置(兼ねる切削装置)が管台120から搬出されて回収される。
【0031】
ここで、一般的な原子炉容器100では、容器本体110が複数の管台120を有する(図18参照)。このため、これらの管台120の溶接部Xにおいて、ステップST3〜ステップST8の一連の工程がそれぞれ行われる。なお、この実施の形態では、後述する補修装置1がクランプ機構3を備えることにより、管台120内に自立して設置されている。このため、複数の補修装置1が各管台120にそれぞれ設置されて、補修作業が複数の管台120ごとに相互に独立して進められている。これにより、補修作業が効率的に行われている。なお、この点については、後述する。
【0032】
次に、装置搬送用治具が吊り上げられて作業架台140から容器本体110の外部に回収される(ステップST9)。その後に、遮蔽体150が管台120から取り外され、作業架台140が撤去される(ステップST10)。これにより、溶接部Xの補修作業が完了する。
【0033】
[原子炉容器の補修装置]
図1は、この発明の実施の形態にかかる補修装置を示す斜視図である。図2は、図1に記載した補修装置を示す軸方向断面図である。図3〜図5は、図1に記載した補修装置のターンテーブルを示す平面図(図3)、正面図(図4)および側面図(図5)である。
【0034】
補修装置1は、管の内周面側の溶接部を補修する装置であり、例えば、原子炉容器100の管台120と管130との内周面側の溶接部Xの補修作業に用いられる(図1参照)。この補修装置1は、駆動機構2と、クランプ機構3と、切削機構4と、バフ機構5と、進退機構6と、レーザーセンサ81および画像センサ82とを備える。したがって、この補修装置1は、切削装置およびバフ装置の双方の機能を備え、全周切削加工(ステップST5)、仕上げ切削加工(ステップST7)およびバフ研磨加工(ステップST8)をそれぞれ施工できる。
【0035】
駆動機構2は、ケーシング21と、スライド軸22と、回転軸23と、ターンテーブル24と、スライド軸用アクチュエータ25と、回転軸用アクチュエータ26とを有する(図1および図2参照)。
【0036】
ケーシング21は、略円筒形状の部材から成る。このケーシング21が管台120の内壁面に対して芯出しおよび位置決めされることにより、補修装置1の芯出しおよび位置決めが行われる。
【0037】
スライド軸22は、ケーシング21に対して軸方向(Y方向)にスライド変位する軸であり、中空構造を有する。このスライド軸22は、ケーシング21に挿入され、ケーシング21内部にてスライド軸用アクチュエータ25を介してケーシング21に連結される。スライド軸用アクチュエータ25は、スライダ機構を有するアクチュエータである。このスライド軸用アクチュエータ25は、スライド軸22の外周面に敷設されるガイドレール251と、ケーシング21の内周面に固定設置されるスライダ252と、このスライダ252を駆動するサーボモータ(図示省略)とから成る。スライド軸22は、このスライド軸用アクチュエータ25により駆動されて、ケーシング21に対して軸方向にスライド変位する。なお、スライド軸用アクチュエータ25のサーボモータは、監視センターの制御装置に接続されて駆動制御される。また、このスライド軸22は、例えば、200[mm]のストロークを有し、速度0[mm/s]〜2[mm/s]の範囲でスライド変位できる。
【0038】
回転軸23は、スライド軸22の軸周り(θ1方向)に回転変位する軸である。この回転軸23は、スライド軸22の中空部に挿入され、スライド軸22内部にある一対の軸受221、221により回転可能に支持される。また、回転軸23は、その一方の端部にフランジ部231を有し、このフランジ部231の外周にて回転軸用アクチュエータ26に連結される。この回転軸用アクチュエータ26は、例えば、サーボモータであり、スライド軸22側に設置される。この実施の形態では、スライド軸22の一方の端部にフランジ部222が形成され、このフランジ部222に回転軸用アクチュエータ26が取り付けられている。回転軸23は、この回転軸用アクチュエータ26により駆動されて、スライド軸22の軸周りに回転変位する。なお、回転軸用アクチュエータ26は、監視センターの制御装置に接続されて駆動制御される。また、この回転軸23は、例えば、回転数0[rpm]〜14[rpm]の範囲で回転変位できる。
【0039】
ターンテーブル24は、切削機構4、バフ機構5および進退機構6を設置するための回転台である。このターンテーブル24は、回転軸23のフランジ部231に固定設置されて回転軸23と共に回転する。例えば、この実施の形態では、ターンテーブル24が円形のテーブル形状を有し、そのテーブル面を回転軸23の軸方向に向けつつ、その脚部を回転軸23のフランジ部231に固定して設置されている。また、ターンテーブル24は、例えば、回転軸23と共に一定速度で回転する。
【0040】
クランプ機構3は、管台120の内壁面にクランプして、ケーシング21を管台120内に固定する機構である(図1参照)。このクランプ機構3は、複数を一組としてケーシング21の外周面に設置される。例えば、この実施の形態では、計8つのクランプ機構3がケーシング21の両端部に4つずつ約90度間隔にてそれぞれ配置されている。また、クランプ機構3は、例えば、水圧式のシリンダ部31と、クランプ部33とがリンク部32を介して連結されて構成される(図1参照)。このクランプ機構3では、遠隔操作によりシリンダ部31が駆動されると、クランプ部33がリンク部32を介して駆動されてケーシング21の径方向に変位する。そして、クランプ部33が管台120の内壁面に押圧されてクランプすることにより、ケーシング21が管台120内に固定される。また、遠隔操作により複数のクランプ機構3が駆動されてクランプ部33の変位量を相互に調整することにより、ケーシング21の管台120の内周面に対する位置が調整される。これにより、補修装置1(ケーシング21)の芯出し作業が行われる。なお、クランプ機構3のシリンダ部31は、監視センターの制御装置に接続されて駆動制御される。
【0041】
切削機構4は、管台120の内周面を全周に渡って切削加工(全周切削加工)する機構である(図1、図3〜図5参照)。この切削機構4は、切削用のバイト41を有する。また、切削機構4は、後述する進退機構6に取り付けられてターンテーブル24上の縁部近傍に設置される。この切削機構4では、ターンテーブル24が回転すると、バイト41がターンテーブル24の回転軸周り(θ1方向)に旋回して管台120の内周面を切削(旋回切削)する。このとき、切削機構4が、進退機構6により駆動されてターンテーブル24上を所定方向(R方向)にスライド変位することにより、その切削深さを変化させ得る。なお、切削機構4の作用については、後述にて詳細に説明する。
【0042】
バフ機構5は、管台120の溶接部Xに対してハブ研磨加工を行う機構である(図1、図3〜図5参照)。このバフ機構5は、バフ51と、バフ51を回転駆動させるための駆動部52とを有する。また、バフ機構5は、後述する進退機構6に取り付けられてターンテーブル24上の縁部近傍に設置される。このバフ機構5は、バフ51を回転(自転)させて管台120の内周面に押圧することにより、管台120の内周面をハブ研磨加工する。また、バフ51が自転している状態でターンテーブル24が回転することにより、バフ機構5の位置がターンテーブル24の回転軸周り(θ1方向)に移動(公転)して、管台120の内周面の全周がハブ研磨加工される。なお、バフ機構5の駆動部52は、監視センターの制御装置に接続されて駆動制御される。なお、バフ機構5の作用については、切削機構4の作用と共に後述にて説明する。
【0043】
進退機構6は、切削機構4およびバフ機構5をターンテーブル24上にて進退変位させる機構である(図1、図3〜図5参照)。例えば、この実施の形態では、進退機構6がスライド機構であり、ターンテーブル24の上面に敷設されてターンテーブル24の径方向(R方向)に延在するレール61と、このレール61に沿ってスライド変位する長尺なスライダ62と、このスライダ62を駆動するサーボモータ(図示省略)とから成る。また、進退機構6が、切削機構4およびバフ機構5をスライダ62の両端部にてそれぞれ保持している。したがって、進退機構6がスライダ62を一方向に移動させることにより、切削機構4のバイト41がターンテーブル24から突出し、あるいは、バフ機構5のバフ51がターンテーブル24から突出する。これにより、切削機構4とバフ機構5とが切り替えられる。また、進退機構6は、R方向にかかるスライダ62の変位量を調整することにより、バイト41およびバフ51のターンテーブル24からの突出量を調整できる。なお、進退機構6のサーボモータは、監視センターの制御装置に接続されて駆動制御される。また、進退機構6は、例えば、85[mm]のストロークを有し、速度0[mm/s]〜15[mm/s]の範囲で進退変位できる。
【0044】
レーザーセンサ81は、管台120の内周面形状を測定するためのセンサである(図1、図3〜図5参照)。このレーザーセンサ81は、そのレーザーの照射方向をターンテーブル24の径方向外側に向けつつターンテーブル24の縁部近傍に設置される。したがって、ターンテーブル24が回転すると、レーザーセンサ81の位置がターンテーブル24の回転軸周りに移動する。これにより、レーザーセンサ81が管台120の内周面形状を全周に渡って計測できる。このレーザーセンサ81は、監視センターの制御装置にデータ通信可能に接続されて、出力信号を制御装置に送信する。
【0045】
画像センサ82は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラである(図1、図3〜図5参照)。この画像センサ82は、例えば、ターンテーブル24上のカメラスタンド(図示省略)に設置される。また、画像センサ82は、その撮像方向をターンテーブル24の周方向に移動させ得る。これにより、画像センサ82は、テーブル面の上方から切削機構4の切削位置、バフ機構5のバフ研磨位置、管台120内の様子などを撮像できる。この画像センサ82は、監視センターのモニタに接続される。
【0046】
なお、ターンテーブル24上には、バランス機構91が配置される(図3および図4参照)。このバランス機構91は、進退機構6の駆動により切削機構4およびバフ機構5が変位したときに、外力による進退機構6のたわみやガタを抑制して切削加工時における切削深さの精度を維持する機構である。また、バランス機構91は、例えば、油圧シリンダと、この油圧シリンダの前後室をオリフィスを介して接続した油循環流路により構成される。
【0047】
また、ターンテーブル24上には、配電ボックス92およびエアノズル93が配置される(図3〜図5参照)。配電ボックス92は、切削機構4、バフ機構5、進退機構6、バランス機構91などの配電系統を収納するボックスである。エアノズル93は、エアを噴射するノズルであり、例えば、切削工程にて発生した切削粉を吹き飛ばす機能を有する。このエアノズル93は、切削機構4側およびバフ機構5側の双方にそれぞれ設置される。なお、補修作業時に発生した切削粉などは、バキューム管(図示省略)から吸い取られて管台120の外部に回収される。
【0048】
また、回転軸23が中空構造を有し、その内部にスリップリング27が配置される(図2参照)。このスリップリング27は、切削機構4、バフ機構5および進退機構6への配線(電気配線や信号配線など)を収容するリングである。なお、切削機構4、バフ機構5および進退機構6は、これらの配線を介して監視センターの制御装置に接続されて駆動制御される。
【0049】
また、回転軸23が、フランジ部222の逆側の端部(補修装置1の設置状態にて容器本体110側に位置する側の端部)に複数のスイベルジョイント28を有する(図2参照)。これらのスイベルジョイント28は、切削機構4、バフ機構5および進退機構6、バランス機構91、エアノズル93などの作動流体を供給するための経路となる。
【0050】
[補修装置による切削加工]
図6〜図9は、図1に記載した補修装置による全周切削加工の工程を示すフローチャート(図6)および説明図(図7〜図9)である。これらの図において、図7は、補修装置1が管台120に設置された状態を示しており、図8および図9は、溶接部Xの切削の様子を示している。
【0051】
上記したように、この補修装置1は、切削装置およびバフ装置の双方の機能を備え、全周切削加工(ステップST5)、仕上げ切削加工(ステップST7)およびバフ研磨加工(ステップST8)をそれぞれ施工できる。ここでは、一例として、補修装置1が切削装置として用いられて全周切削ステップST5を行う場合について説明する(図6参照)。
【0052】
全周切削ステップST5では、まず、補修装置1の搬入が行われる(ステップST51)(図7参照)。具体的には、補修装置1が作業架台140の開口部141から管台120に挿入されて溶接部Xの近傍に設置される。
【0053】
このとき、補修装置1がクランプ機構3により管台120の内周面をクランプして固定される(図7参照)。したがって、補修装置1は、作業架台140側からの補助なしに、自立して管台120内に設置される。したがって、複数の補修装置1を複数の管台120に相互に独立して配置して稼動させ得るので、補修作業を効率化できる。なお、従来の補修装置では、管台内での自立設置が不能であったため、作業架台側から補修装置の後部を支持する等の補助が必要だった。このため、作業架台が一つの補修装置の補助のために占領されるため、複数の管台の補修作業を同時に行うことができないという問題があった。
【0054】
次に、補修装置1の芯出しが行われる(芯出しステップST52)。このステップST52では、8つのクランプ機構3がクランプ部33のクランプ高さを相互に調整することにより、ケーシング21の軸と管台120の軸とが略一致するように設定される。具体的には、スライド軸22の軸(Y方向)と管台120の軸とが略一致するように設定される。そして、各クランプ機構3がクランプ部33を固定することにより、補修装置1が管台120に対して芯出しされた状態で固定設置される。
【0055】
次に、切削機構4の位置決めが行われる(位置決めステップST53)。このステップST53では、ステップST3にて取得された検査データ(およびポンチ打刻)に基づいて、切削機構4と溶接部Xとの管台120の軸方向にかかる位置関係が設定される。具体的には、スライド軸22が軸方向(Y方向)にスライドして、ターンテーブル24が管台120の軸方向に移動する。これにより、ターンテーブル24上にある切削機構4の位置と溶接部Xの位置とが、管台120の軸方向にて所定の位置関係となるように設定される。このとき、画像センサ82からの画像データが制御装置に送られており、この画像データを制御装置のモニタで確認しつつ切削機構4と溶接部Xとの位置関係が調整される。
【0056】
次に、管台120の内周面形状が計測される(内周面形状計測ステップST54)。このステップST54では、ターンテーブル24がθ1方向に周回して、レーザーセンサ81が管台120の内周面形状を計測する。また、この計測は、少なくとも切削対象領域(切削加工の対象となる領域)の両端部についてそれぞれ取得される。具体的には、スライド軸22がY方向に変位してレーザーセンサ81の計測位置を移動させることにより、切削対象領域の両端部での計測データが取得される。そして、これらの計測データに基づいて、切削対象領域の全体における管台120の内周面形状が推定される。なお、切削対象領域は、溶接部Xを含む一定の領域であり、そのY方向の範囲がステップST3にて取得された検査データに基づいて設定される。
【0057】
次に、補修装置1が切削対象領域に対して全周切削加工を行う(全周切削加工ステップST55)。このステップST55では、まず、ターンテーブル24が所定の速度で回転する。このとき、バイト41の先端が設定された速度で旋回するように、ターンテーブル24の回転速度が制御される。次に、進退機構6が、切削機構4をターンテーブル24の径方向(R方向)に移動させて、切削機構4のバイト41を管台120の内壁面に当接させる。すると、ターンテーブル24の回転により、バイト41がθ1方向に旋回して管台120の内周面を切削する(図8参照)。また、スライド軸22が軸方向(Y方向)に一定速度で徐々にスライド変位することにより、バイト41が狭いピッチで螺旋状に旋回して管台120の内壁面を円筒形状に切削する(全周切削加工)。このとき、進退機構6が駆動されて、バイト41が管台120の内壁面方向(R方向)に進退変位する。これにより、バイト41の旋回半径が拡大縮小されて、切削深さhが調整される(図9参照)。なお、バイト41は、回転軸23が回転数0[rpm]〜14[rpm]の範囲で回転変位することにより、速度0[m/min]〜30[m/min]の範囲で旋回して切削加工できる。
【0058】
ここで、管台120の内周面形状は、必ずしも真円でなく、例えば、楕円形である場合、凹凸を有する場合、溶接線を境界とした内壁面の屈曲を有する場合などがある。また、補修装置1の軸と管台120の軸とがズレている場合もある。したがって、ステップST55では、管台120の内周面が一定の切削深さhにて切削されるように、バイト41の旋回軌跡が算出されて制御される。具体的には、切削対象領域における管台120の内周面形状に関する計測データ(ステップST54)と所定の切削深さhとの関係に基づいて、切削対象領域におけるバイト41の旋回軌跡が算出される。また、この算出結果に基づいて、ターンテーブル24のθ1方向への回転速度と、スライド軸22のY方向へのスライド速度と、進退機構6のR方向への進退変位との関係が算出される。そして、この算出結果に基づいて、スライド軸22および進退機構6が駆動されて、全周切削加工が行われる(ならい切削加工)。これにより、切削対象領域が管台120の内周面の全周に渡って所定の切削深さhで一様に切削される。
【0059】
次に、切削機構4およびスライド軸22が初期位置に戻され、その後に、補修装置1が管台120から搬出されて回収される(ステップST56)。これにより、全周切削ステップST5が終了する。
【0060】
なお、ここでは、一例として、全周切削加工(ステップST5)について説明したが、仕上げ切削加工(ステップST7)についても、同様に行われる(図示省略)。すなわち、切削対象領域における管台120の内周面形状に関する計測データ(ステップST54)と所定の切削深さhとの関係に基づいて、ターンテーブル24のθ1方向にかかる回転速度と、スライド軸22のY方向にかかるスライド速度と、進退機構6のR方向にかかる進退変位との関係が算出される。そして、この算出結果に基づいてターンテーブル24、スライド軸22および進退機構6が駆動されることにより、切削対象領域におけるバイト41の旋回軌跡が制御される。これにより、切削対象領域が所定の切削深さhで一様に切削されて、仕上げ切削加工が適正に行われる。
【0061】
また、バフ研磨加工(ステップST8)についても、同様に行われる(図示省略)。すなわち、バフ研磨対象領域(切削対象領域と同じ。)における管台120の内周面形状に関する計測データ(ステップST54)と管台120の内壁面に対するバフ51の押圧力との関係に基づいて、ターンテーブル24のθ1方向にかかる回転速度と、スライド軸22のY方向にかかるスライド速度と、進退機構6のR方向にかかる進退変位との関係が算出される。そして、バフ51が所定の回転速度にて自転しつつ螺旋状に公転してバフ研磨加工を行う。このとき、ターンテーブル24の回転速度およびスライド軸22のスライド速度が制御されることにより、バフ51が適正な移動速度にてバフ研磨対象領域をバフ研磨加工する。また、進退機構6の進退変位が制御されることにより、バフ51が適正な押圧力にてバフ研磨対象領域をバフ研磨加工する。これにより、バフ研磨対象領域が適正にバフ研磨加工される。
【0062】
[切削機構のバイト切替部]
図10は、図1に記載した補修装置の切削機構を示す平面図である。図11および図12は、図10に記載した切削機構を示すB視断面図(図11)およびC視断面図(図12)である。図13〜図16は、図10に記載した切削機構の作用を示す説明図である。
【0063】
この補修装置1では、切削機構4が複数のバイト41を切り替えできる構造を有する。以下、この切削機構4の構成について説明する。
【0064】
切削機構4は、複数のバイト41と、バイト切替部42と、バイト台43とを有する(図10参照)。複数のバイト41は、切削用のバイトであり、同一種類により構成されても良いし、異なる種類により構成されても良い。例えば、この実施の形態では、全周切削ステップST5にて、バイト41が順次交換されて使用されるため、同一種類かつ5本のバイト41が用いられている。バイト切替部42は、複数のバイト41を保持すると共に、これらのバイト41を移動させて切り替える駆動機構である。このバイト切替部42については、後述にて詳細に説明する。バイト台43は、切削機構4を進退機構6のスライダ62に固定するための部材である。例えば、この実施の形態では、バイト台43がバイト切替部42を支持して進退機構6のスライダ62に固定されている。これにより、切削機構4と進退機構6のスライダ62とが一体化されている。
【0065】
バイト切替部42は、切替部本体421と、バイト支持体422と、取付回転軸423と、ピニオン424およびラック425と、シリンダ426およびピストン427と、第一位置決めピン428および第二位置決めピン429とを有する(図11参照)。
【0066】
切替部本体421は、略円筒容器形状を有するケーシングである。バイト支持体422は、複数のバイト41を保持する部材である。ここでは、バイト支持体422が略円盤形状を有し、その上面側の外周縁上にて5本のバイト41を等間隔にて保持している。取付回転軸423は、バイト支持体422の回転軸である。バイト支持体422と切替部本体421の内部機構とは、この取付回転軸423を介して連結される。ここでは、切替部本体421の上面とバイト支持体422の下面とが突き合わされ、取付回転軸423がバイト支持体422の上面からバイト支持体422の内部に差し込まれている。また、取付回転軸423とバイト支持体422とがバイト支持体422の上面にてボルト結合されて一体化されている。また、取付回転軸423には、フランジ部4231が形成される。
【0067】
ピニオン424は、取付回転軸423のフランジ部4231に片面を突き合わせつつ、取付回転軸423に回転可能に嵌め合わされて設置される。ラック425は、切替部本体421内にて、シリンダ426にスライド可能に挿入されて配置される。これらのピニオン424およびラック425は、ラック・ピニオン機構424、245を構成する。シリンダ426は、切替部本体421内に埋設される。ピストン427は、ラック425を軸方向に押圧する部材である。このピストン427は、ラック425の端部に連結されて、ラック425と共にシリンダ426内に挿入されて配置される。このピストン427は、後方から空圧等の流体圧を付与されると、この流体圧により前方のラック425を軸方向に押圧する。なお、ピストン427に付与される流体圧は、補修装置1の外部からスイベルジョイント28および回転軸23を介して切削機構4に供給される(図2参照)。
【0068】
第一位置決めピン428は、切替部本体421とバイト支持体422との位置関係を規制するピンである(図11および図13参照)。ここでは、切替部本体421の上面にラチェット溝4212が形成され、バイト支持体422の下面にピン穴4221が開けられている。そして、第一位置決めピン428が、バイト支持体422のピン穴4221に挿入され、その頂部を切替部本体421のラチェット溝4212に係合させて配置されている。また、第一位置決めピン428は、バネ力により、その頂部をラチェット溝4212に付勢させる。これにより、第一位置決めピン428とラチェット溝4212とが係合して、第一ラチェット機構428、4212が構成される。
【0069】
第二位置決めピン429は、取付回転軸423のフランジ部4231とラック・ピニオン機構424、245のピニオン424との位置関係を規制するピンである(図11および図14参照)。ここでは、ピニオン424の上面にラチェット溝4241が形成され、フランジ部4231の下面にピン穴4232が明けられている。そして、第二位置決めピン429が、フランジ部4231のピン穴4232に挿入され、その頂部をピニオン424のラチェット溝4241に係合させて配置されている。また、第二位置決めピン429は、バネ力により、その頂部をラチェット溝4241に付勢させる。これにより、第二位置決めピン429とラチェット溝4241とが係合して、第二ラチェット機構429、4241が構成される。
【0070】
この第二ラチェット機構429、4241は、ピニオン424が順方向に回転したときに、分離してピニオン424のみを回転させる。また、ピニオン424が逆方向に回転したときに、係合してピニオン424とフランジ部4231とを連結する。ここでは、ピストン427が順方向に駆動されてピニオン424が回転したときに、ピニオン424の回転が逆方向となる。これにより、第二ラチェット機構429、4241が係合して、ピニオン424とフランジ部4231とが共に回転する。一方、ピストン427が逆方向に駆動されてピニオン424が回転したときに、ピニオン424の回転が順方向となる。これにより、第二ラチェット機構429、4241が分離して、ピニオン424のみが回転する。
【0071】
また、第一ラチェット機構428、4212および第二ラチェット機構429、4241が、バイト支持体422に保持される5本のバイト41の配置に対応して、それぞれ構成される(図15参照)。
【0072】
この切削機構4では、以下のようにバイト41の切替が行われる。
【0073】
バイト41の固定状態では、切替部本体421内の所定の位置に流体圧(例えば、水圧)が付与される。例えば、この実施の形態では、取付回転軸423に固定されたフランジ部と、切替部本体421の内壁面との狭い隙間(図示省略)に流体圧が付与される。あるいは、取付回転軸423に固定されたフランジ部と、切替部本体421内に固定されたフランジ部との接合面の狭い隙間(図示省略)に流体圧が付与されても良い。すると、取付回転軸423が流体圧により切替部本体421側に押圧されて固定される。すると、この取付回転軸423にバイト支持体422が固定されているので、バイト支持体422が切替部本体421に対して固定される。これにより、バイト切替部42が外力および内回転力に対して固定されて、バイト41が固定状態となる。なお、この状態では、ピストン427に流体圧が付与されていない。
【0074】
バイト41の切替時には、まず、バイト41(バイト切替部42)を固定するための水圧(切替部本体421内の所定の位置に付与されている水圧)が解除される。すると、バイト切替部42が自由に回転できるようになり、バイト41の切り替えが可能となる。次に、ピストン427に流体圧が付与される(図12参照)。また、第一位置決めピン428および第二位置決めピン429への空圧の供給が停止されて、第一ラチェット機構428、4212および第二ラチェット機構429、4241のロック状態が解除される。ここで、流体圧によりピストン427が順方向に駆動されると、ラック425が押圧されてシリンダ426の奥まで移動する(バイト41を一つ分送るときの移動量)。すると、ピニオン424がラック425に送られて回転する。この状態では、ピニオン424の回転が逆方向となる。これにより、第二ラチェット機構429、4241が係合して、ピニオン424とフランジ部4231とが共に回転する。すると、フランジ部4231と共に取付回転軸423が回転し、この取付回転軸423と共にバイト支持体422が回転する(図11参照)。この回転方向は、第一ラチェット機構428、4212に対して順方向となる。このため、バイト支持体422が切替部本体421に対して回転して、バイト41が一つ分送られる。これにより、バイト41の切替が行われる。
【0075】
なお、ピストン427は、流体圧の解除により元の位置に戻る。すると、ピストン427が逆方向に駆動されて、ラック425が引き戻される。すると、ピニオン424がラック425に送られて回転する。この状態では、ピニオン424の回転が順方向となる。これにより、第二ラチェット機構429、4241が分離して、ピニオン424のみが回転する。したがって、フランジ部4231(取付回転軸423)は回転しないため、バイト41が固定状態のままとなる。
【0076】
また、バイト41の切替は、切削加工時(ステップST5およびステップST7)に行われる。例えば、管台120の補修作業では、切削対象領域が広範な場合もあるため、単一のバイト41のみではすべての切削対象領域を切削加工できない場合がある。そこで、切削機構4がバイト切替部42を有し、このバイト切替部42によりバイト41を交換しつつ切削加工することにより、補修装置1を管台120内に設置したまま切削作業を継続できる。これにより、補修作業が効率化される。
【0077】
[効果1]
以上説明したように、この補修装置1は、ケーシング21と、このケーシング21に対してスライド可能に配置されるスライド軸22と、このスライド軸22に対して回転可能に配置されるターンテーブル24と、このターンテーブル24に設置されると共にバイト41を有する切削機構4と、この切削機構4を進退変位させることによりターンテーブル24の回転に対するバイト41の回転半径を進退変位させる進退機構6とを備える(図1〜図5参照)。そして、ケーシング21が管(管台120)に対して芯出しされて位置決めされた状態にて、スライド軸22が軸方向にスライドしつつターンテーブル24が回転変位すると共に進退機構6が切削機構4を進退変位させることにより、バイト41が管の内周面形状に沿って螺旋状に旋回しつつ管の内周面を切削加工する(図6〜図9参照)。かかる構成では、スライド軸22のスライド変位と、ターンテーブル24の回転変位と、切削機構4の進退変位の速度との相互作用により、バイト41による旋回切削加工が実現される。すると、略円筒形状を有する切削対象領域を滑らかに切削加工できるので、切削加工の精度が向上する。これにより、後処理が不要となるので、補修作用を効率化できる利点がある。例えば、切削機構がバイトを自転させつつ螺旋状に公転して切削加工する構成(特許文献1参照)では、切削加工跡に段差が生じる等により、後処理が必要となる問題がある。
【0078】
また、この補修装置1は、管の内周面形状に関する計測データを取得する計測手段(レーザーセンサ81)を備える(図1および図3〜図5参照)。そして、取得された計測データと所定の切削深さhとの関係に基づいて、スライド軸22のスライド速度とターンテーブル24の回転速度と切削機構4の進退変位との関係が算出されて、バイト41の旋回軌跡が制御される(図6のステップST54およびステップST55参照)。かかる構成では、切削対象領域を管の内周面形状に沿って切削加工できる(ならい旋回切削加工)。これにより、不均一な形状を有する切削対象領域を精度良く切削加工できる利点がある。また、かかる構成では、バイト41の旋回軌跡を微調整できるので、管台120に対する補修装置1の芯出し作業(ステップST42)を簡略化できる利点がある。すなわち、補修装置1を管台120内に設置するときに、スライド軸22の軸(Y方向)と管台120の軸とが略一致する程度に芯出しできれば良く、ターンテーブル24の外周円と管台120の内周面との位置関係を厳密に位置決めする必要がない。
【0079】
また、この補修装置1は、バフ研磨加工用のバフ51を有するバフ機構5を備える(図1および図3〜図5参照)。そして、バフ機構5と切削機構4とがターンテーブル24にて切り替え可能に設置される。かかる構成では、補修装置1がバフ機構5と切削機構4とを兼ねるので、バフ装置と切削装置とが別個に用いられる構成と比較して、装置の搬入および搬出や設置にかかる作業を省略できる利点がある。
【0080】
また、この補修装置1では、進退機構6がバフ機構5を進退変位させることによりターンテーブル24の回転に対するバフ機構5の回転半径を進退変位させる(図1および図3〜図5参照)。かかる構成では、スライド軸22のスライド変位と、ターンテーブル24の回転変位と、バフ機構5の進退変位との相互作用により、バフ51を自転させつつ螺旋状に公転旋回させてバフ研磨加工できる。これにより、略円筒形状を有するバフ研磨対象領域をスムーズにバフ研磨加工できる利点がある。特に、バフ研磨対象領域における管の内周面形状に関する計測データ(ステップST54)と管の内壁面に対するバフ51の押圧力との関係に基づいて、バフ51の旋回軌跡を制御することにより、バフ研磨対象領域を所定の押圧力かつ所定の移動速度にて適正にバフ研磨加工できる利点がある。
【0081】
また、この補修装置1は、ケーシング21を管に位置決めした状態で保持するクランプ機構3を備える(図1および図7参照)。かかる構成では、上記したバイト41の旋回軌跡の制御にあたり、クランプ機構3がケーシング21の位置(特に切削対象に対する補修装置の相対的な管軸方向の位置)を適正に保持するので、補修装置1が自立して管内に設置される。これにより、複数の補修装置1を複数の管にそれぞれ配置して独立して稼動させ得るので、補修作業を効率化できる利点がある。
【0082】
また、この補修方法では、管の内周面形状に関する計測データを取得する内周面形状計測ステップ(ステップST54)と、取得された計測データと所定の切削深さhとの関係に基づいて、バイト41を管の内周面形状に沿って螺旋状に旋回させつつ管の内周面をならい切削加工する切削加工ステップ(ステップST55)とを備える(図6〜図9参照)。かかる構成では、切削対象領域を管の内周面形状に沿って切削加工(ならい旋回切削加工)できるので、不均一な形状を有する切削対象領域を精度良く切削加工できる。これにより、後処理が不要となるので、補修作用を効率化できる利点がある。
【0083】
[効果2]
また、この補修装置1では、ケーシング21と、このケーシング21に対してスライド可能に配置されるスライド軸22と、このスライド軸22に対して回転可能に配置されるターンテーブル24と、このターンテーブル24に設置されると共にバイト41を有する切削機構4とを備える(図1〜図5参照)。そして、スライド軸22が軸方向にスライドしつつターンテーブル24が回転変位することにより、バイト41が螺旋状に旋回しつつ管(管台120)の内周面を切削加工する(図6〜図9参照)。そして、切削機構4が複数のバイト41を切り替えるバイト切替部42を備える(図10〜図12参照)。かかる構成では、バイト41が螺旋状に旋回しつつ管の内周面を切削加工するので、切削対象領域が広範であるときに、バイト41の交換が必要となる。このとき、切削機構4がバイト切替部42によりバイト41を交換しつつ切削加工することにより、補修装置1を管内に設置したまま切削作業を継続できる。これにより、補修作業が効率化される利点がある。
【0084】
また、この補修装置1では、バイト切替部42が、ターンテーブル24側に設置される切替部本体421と、複数のバイト41を支持すると共に回転変位によりバイト41を切り替えるバイト支持体422と、バイト支持体422に連結される取付回転軸423と、ラチェット機構(第二ラチェット機構429、4241)を介して取付回転軸423に連結される駆動機構(ピストン427)とを備える(図11および図12参照)。かかる構成では、駆動機構(ピストン427)が所定の順方向に駆動されたときに、ラチェット機構(第二ラチェット機構429、4241)が係合して取付回転軸423を回転させる。これにより、バイト支持体422が回転して、バイト41の切替が行われる。一方、駆動機構(ピストン427)が逆方向に駆動されたときに、ラチェット機構(第二ラチェット機構429、4241)が取付回転軸423の回転を禁止する。これにより、バイト41を切り替えることなく、駆動機構(ピストン427)が初期位置に戻る。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように、この発明にかかる補修装置および補修方法は、補修作用を効率化できる点で有用である。
【符号の説明】
【0086】
1 補修装置
2 駆動機構
21 ケーシング
22 スライド軸
221 軸受
222 フランジ部
23 回転軸
231 フランジ部
24 ターンテーブル
25 スライド軸用アクチュエータ
251 ガイドレール
252 スライダ
26 回転軸用アクチュエータ
27 スリップリング
28 スイベルジョイント
3 クランプ機構
31 シリンダ部
32 リンク部
33 クランプ部
4 切削機構
41 バイト
42 バイト切替部
421 切替部本体
4212 ラチェット溝
422 バイト支持体
4221 ピン穴
423 取付回転軸
4231 フランジ部
4232 ピン穴
424 ピニオン
4241 ラチェット溝
425 ラック
426 シリンダ
427 ピストン
428 第一位置決めピン
429 第二位置決めピン
43 バイト台
5 バフ機構
52 駆動部
51 バフ
6 進退機構
61 レール
62 スライダ
81 レーザーセンサ
82 画像センサ
91 バランス機構
92 配電ボックス
93 エアノズル
10 カッタ
100 原子炉容器
110 容器本体
120 管台
130 管
140 作業架台
141 開口部
150 遮蔽体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の内周面側の溶接部を補修する補修装置であって、
ケーシングと、前記ケーシングに対してスライド可能に配置されるスライド軸と、前記スライド軸に対して回転可能に配置されるターンテーブルと、前記ターンテーブルに設置されると共に前記溶接部を切削するためのバイトを有する切削機構と、前記切削機構を進退変位させることにより前記ターンテーブルの回転にかかる前記バイトの回転半径を進退変位させる進退機構とを備え、且つ、
前記ケーシングが前記管に位置決めされた状態にて、前記スライド軸が軸方向にスライドしつつ前記ターンテーブルが回転変位すると共に前記進退機構が前記バイトを進退変位させることにより、前記バイトが前記管の内周面形状に沿って螺旋状に旋回しつつ前記管の内周面を切削加工することを特徴とする補修装置。
【請求項2】
前記管の内周面形状に関する計測データを取得する計測手段を備え、且つ、
前記計測データと所定の切削深さとの関係に基づいて、前記スライド軸のスライド速度と前記ターンテーブルの回転速度と前記切削機構の進退変位の速度との関係が算出されて、前記バイトの旋回軌跡が制御される請求項1に記載の補修装置。
【請求項3】
バフ研磨加工用のバフを有するバフ機構を備え、且つ、前記バフ機構と前記切削機構とが前記ターンテーブルにて切り替え可能に設置される請求項1または2に記載の補修装置。
【請求項4】
前記進退機構が前記バフ機構を進退変位させることにより前記ターンテーブルの回転にかかる前記バフ機構の回転半径を進退変位させる請求項3に記載の補修装置。
【請求項5】
前記ケーシングを前記管に位置決めした状態で保持するクランプ機構を備える請求項1〜4のいずれか一つに記載の補修装置。
【請求項6】
管の内周面側の溶接部を補修する補修方法であって、
前記管の内周面形状に関する計測データを取得する計測ステップと、前記計測データと所定の切削深さとの関係に基づいて、バイトを管の内周面形状に沿って螺旋状に旋回させつつ前記管の内周面をならい切削加工する切削加工ステップとを備えることを特徴とする補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−143506(P2011−143506A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6075(P2010−6075)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】