説明

補強された密封リングを備えた連結棒型のブースター

【課題】自動車用空圧ブレーキのブースターの可動仕切板を貫通する連結棒の密封性を向上する。
【解決手段】ブースターは、取り付けられる車両の隔壁34に、ブースター10のケーシング12と、可動仕切板14とを貫通する軸方向に向いた連結棒24で締結されるようになっており、カップ38は、各連結棒に関係付けられた穴46を有しており、この穴の中には、一方ではカップに締結され、他方では関係付けられた連結棒に滑動可能に取り付けられた密封リング48が入っている、ブレーキのブースターにおいて、カップは、管状要素50を備えており、管状要素は、穴が設けられており、少なくとも部分的には密封リングの周りを軸方向に伸張していることを特徴とするブースター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用連結棒型空圧ブレーキのブースターに関する。
【背景技術】
【0002】
より具体的には、本発明は、以下の様な自動車用連結棒型空圧ブレーキブースターに関しており、即ち、このブレーキブースターは、軸方向に向いた剛性のあるケーシングを備えており、ケーシングの内側には、第1圧力を受ける前室と、第1圧力と第1圧力より高い圧力の間で変動する第2圧力を受ける後室との境界を密封状態に定める実質的に横断する仕切板が可動的に取り付けられており、第2圧力は、ブースターに取り付けられたマスターシリンダーの作動ロッドに作用することができるようになっていて、作動ロッドの動きは、後室内の第2圧力を変化させるための吸気弁と平衡弁によって制御されており、可動仕切板は、少なくとも1つのカップを備えており、カップの少なくとも環状の部分は、ケーシングの軸方向に対して規定の角度だけ傾斜しており、カップの規定された面は、ケーシングの内周に接続された密封ダイアフラムで覆われており、ブースターは、取り付けられる車両の隔壁に、ブースターのケーシングと、可動仕切板の環状の部分とを貫通する軸方向に向いた連結棒で締結されるようになっており、カップは、各連結棒に関係付けられた穴を有しており、穴の中には、一方ではカップに締結され、他方では関係付けられた連結棒に滑動可能に取り付けられた密封リングが入っているブレーキブースターである。
【0003】
ブースター用の締結具には様々な型式のものがある。
第1の既知の設計によれば、ブースターは、車両の隔壁にスクリュー又は何らかの他の締結手段で締結されている取付板に締結される。
【0004】
第2の既知の設計によれば、ブースターは、車両の隔壁に、ブースターケーシングを貫通する連結棒で直接締結される。この様なブースターは、車両の隔壁に容易に締結でき、自身の重量が軽くなる、という利点を提供する。
【0005】
例えば、車両の隔壁に、ブースターを貫通する溶接された連結棒を装備して、ナットをケーシングの前面に向けて締め付けることによって前記ブースターを隔壁に締結する。
逆に、連結棒をブースターケーシングに締め付け、ナットを車両隔壁の後面に向けて締め付けることによって前記ブースターを隔壁に締結することもできる。
【0006】
この第2の設計の2つの変形例では、連結棒がブースターを貫通するため、必然的に、連結棒とブースターの可動壁との間に精巧な密封状態を設定することを伴う。
従来、この密封状態は、軸方向に平行に向いた密封リングを使って、この密封リングを各連結棒と可動壁の間に挿間し、連結棒上を滑動させることで動的に作り出されていた。
【0007】
また、小型化するために、可動壁の少なくとも環状の部分を、ブースターの軸方向に対して規定の角度だけ傾斜させて実質的に切頭円錐形状とするブースターを提案することも既知のやり方である。この設計は、同じ厚さであれば、可動壁により大きな剛性を提供する。密封リングは、従って一般的に、可動壁の傾斜した環状部分に配置される。
【0008】
しかしながら、後者の型式のブースターでは、可動壁の局所的な傾斜を想定すれば、密封リングには比較的高い半径方向の圧力変動が加わり、密封リングが連結棒の周囲から局所的に離れて、ブースターの前室と後室の間に密封状態に関わる問題を引き起こすことのあることが分かっている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記欠点を克服するため、本発明は、補強された密封リングを備えたブースターを提供する。
この目的で、本発明は、上記型式のブースターであって、カップは、その傾斜した環状部分に管状要素を備えており、管状要素は、穴が設けられており、少なくとも部分的には密封リングの周りを軸方向に伸張して、密封リング周りの圧力がより一様に分布する様に確保されており、密封リングがブースターの前室と後室との間の圧力差を受けたときに、前記密封リングの変形を抑制する様になっていることを特徴とするブースターを提供する。
【0010】
本発明のこの他の特徴によれば、
−管状要素は、カップと一体に形成されており、
−管状要素は、カップに嵌め込まれており、
−密封リングは、密封のダイアフラムと一体に形成されており、
−密封リングは、管状要素の内径より大きな直径を有する端部を備えており、端部は、管状要素の穴の中に、カップの規定の面に向いた側から変形させて挿入し、その後、密封リングを軸方向に動かないようにするため、管状要素の、規定の面と反対の側から突き出させるようになっており、
−密封リングの端部は、管状要素の中へ挿入し易くするための面取り部を備えており、
−ダイアフラムを受けるカップの規定の面は、カップの後面であり、管状要素は、カップの前面から軸方向に前に向いて突き出ており、密封リングの端部は、管状要素の前部から突き出ている。
【0011】
本発明のこの他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明を、添付図面を参照しながら読めば理解できるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下の説明において、同一の符号は、同一の、又は同様な機能を有する部分又は部品を示している。
便宜的に、「前(方)」「後(方)」「上(方)」「下(方)」という用語は、それぞれ、図1から図3で、左、右、上、下に向いた要素又は位置を指すものとする。
【0013】
図1は、自動車用連結棒型空圧のブレーキブースター10の全体を示している。
既知の様式では、ブースター10は、軸方向“A”に向いた剛性のあるケーシング12を備えており、ケーシング12の内側には、第1圧力“P1”を受ける前室16と、第1圧力“P1”と第1圧力“P1”より高い圧力“Pa”との間で変動する第2圧力“P2”を受ける後室18と、の境界を密封状態に定める実質的に横断する可動仕切板14が可動的に取り付けられている。後室18内に存在する第2圧力“P2”は、吸気弁と平衡弁(図示せず)を選択的に開くことによって変化させて、可動仕切板14を動かすことができ、それによって、可動仕切板14がブースター10に取り付けられたマスターシリンダー22の作動ロッド20に作用するようになっている。
【0014】
この様なブースター10の作動については、先行技術から広く知られているので、本発明で詳細に説明することはしない。
既知の様式では、図1と図2に示すように、ブースター10は、取り付けられる車両の隔壁34に、ブースター10のケーシング12及び可動仕切板14を貫通する軸方向の連結棒24で締結されるよう意図されている。連結棒24は、例えば、ブースター12のケーシング12の前部26に堅く接続され、その後端28は、ナット37を隔壁34の背面36に対して締め付けることによってブースター10を締結できるようにするため、車両の隔壁34の穴32通すように意図されたねじ部30を有している。
【0015】
既知の様式では、可動仕切板14は、少なくとも1つのカップ38を備えており、カップ38の環状の部分39は、ケーシング12の軸方向“A”に対して規定の角度“α”だけ傾斜している。
【0016】
図2に更に詳細に示しているように、カップ38の規定された面(規定の面)40は、図1に示すように、ケーシング12の内周44に接続された密封ダイアフラム42で覆われている。カップ38は、各連結棒24に関係付けられた穴46を有しており、穴46の中には、密封リング48が入っている。
【0017】
密封リング48は、一方ではカップ38に締結され、他方では関係付けられた連結棒24に滑動可能に取り付けられている。
図2は、従来型のブースター10を示しているが、ブースター10が作動している間、カップ38は、上記管状部分39の傾斜面に実質的に垂直な力を受けており、一方、密封リング48は半径方向の方向性を有している。
【0018】
その結果、カップ38の管状部分39の傾斜のために、密封リング48は比較的高い半径方向の圧力変動を受けることになり、この状況は、密封リング48が連結棒24の周囲から局所的に離れて、ブースター10の前室16と後室18との間に密封状態に関わる問題を引き起こすことになりかねない。
【0019】
この欠点を克服するため、本発明は、補強された密封リング48を備えたブースターを提供する。
この目的で、図3に示すように、本発明は、上記型式のブースター10であって、カップ38は、その傾斜した環状部分39に管状要素50を備えており、管状要素50は、穴46が設けられており、かつ、少なくとも部分的には密封リング48の周りを軸方向に伸張しており、これにより、密封リング48周りの圧力がより一様に分布する様に確保されており、密封リング48がブースター10の前室16と後室18との間の圧力差を受けたときに、上記密封リング48の変形を抑制する様になっている、ことを特徴とするブースター10を提供する。
【0020】
本発明によれば、管状要素50には2つの実施形態が考えられる。
本発明の図3に示している第1の実施形態によれば、管状要素50は、カップ38と一体に形成されている。実際に、カップ38は、鋼鈑をプレス加工することによって、又はプラスチック材をモールド成形することによって、この様に製作することができる。
【0021】
本発明の第2の実施形態(図示せず)によれば、管状要素50は、カップ38に嵌め込むこともできる。この場合、嵌め込み手段(図示せず)が、管状要素50とカップ38との間に挿間される。
【0022】
上に述べた実施形態と同様なやり方で、カップ38は、鋼鈑をプレス加工して、又はプラスチック材をモールド成形して製作することができ、管状要素50は、鋼管を切断して、又はプラスチック材をモールド成形して製作することができる。
【0023】
本発明のこれら2つの好適な実施形態では、密封リング48とダイアフラム42との間の完全な密封状態を保証して、前室16と後室18との間の空気漏れが一切起きないようにするために、密封リング48は、ダイアフラム42と一体成形で製作するのが望ましい。
【0024】
好都合なことに、密封リング48は、管状要素50の内径“d”より大きな直径“D”を有する端部52を備えており、この端部52は、連結棒24を挿入する前に、管状要素50の穴46の中に、カップ38の規定の面40に向いた側から変形させて挿入し、その後、密封リング48を軸方向に動かないようにするため、管状要素50の、前記規定の面40と反対の側から突き出させるようになっている。
【0025】
この様にして、一旦挿入されると、密封リング48の端部52は、管状要素50の端部に対する第1当接部を形成する。
更に、密封リング48は、カップ38の規定の面40に取り付けられるダイアフラム42と一体に形成されているので、密封リング48は、こうして軸方向の両方向に動かなくなる。
【0026】
好適なことに、密封リング48の端部52は、管状要素50に挿入し易くするための面取り54を備えている。
ブースター10は、図3に示すように、ダイアフラム42を受けるカップ38の規定の面40が、前記カップ38の後面であり、管状要素50は、カップ38の前面56から軸方向前方に突き出ており、密封リング48の端部52は、管状要素50の前方に突き出ている。
【0027】
この構成は、前室16にエンジンの負圧が働き、後室18に大気圧とエンジンの負圧の間で変動する圧力が働くブースター10に特に適しているが、本発明に何ら制限を課すものではなく、本発明の性格を変えることなく、異なる原理で作動するブースターの場合には、逆転させることもできる。
【0028】
従って、本発明は、連結棒型ブースター10の前室16と後室18の間の最適な密封状態を提供できるようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】先行技術により製作されたブースターの全体断面図である。
【図2】図1のブースターの、密封リングの周辺を表している詳細断面図である。
【図3】本発明に従って製作されたブースターの、密封リングの周辺を表している詳細断面図である。
【符号の説明】
【0030】
10:ブースター
12:ケーシング
14:可動仕切板
16:前室
18:後室
20:作動ロッド
24:連結棒
34:隔壁
38:カップ
39:環状部分
40:規定の面
42:ダイアフラム
46:穴
48:密封リング
50:管状要素
52:端部
54:面取り
56:前面
A :軸方向
D :直径
d :内径
P1:第1圧力
P2:第2圧力
Pa:圧力
α :角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の連結棒型空圧ブレーキのブースター(10)であって、
前記ブースターは、軸方向(A)に向いた剛性のあるケーシング(12)を備えており、前記ケーシングの内側には、第1圧力(P1)を受ける前室(16)と、前記第1圧力(P1)と前記第1圧力(P1)より高い圧力(Pa)との間で変動する第2圧力(P2)を受ける後室(18)と、の境界を密封状態に定める実質的に横断する可動仕切板(14)が可動的に取り付けられており、前記可動仕切板は、前記ブースター(10)に取り付けられたマスターシリンダーの作動ロッド(20)に作用することができるようになっていて、前記作動ロッドの動きは、前記後室(18)内の前記第2圧力(P2)を変化させるための吸気弁と平衡弁とによって制御されており、
前記可動仕切板(14)は、少なくとも1つのカップ(38)を備えており、前記カップの少なくとも環状部分(39)は、前記ケーシング(12)の前記軸方向(A)に対して規定の角度(α)だけ傾斜しており、前記カップの規定された面(40)は、前記ケーシング(12)の内周に接続された密封のダイアフラム(42)で覆われており、
前記ブースター(10)は、取り付けられる車両の隔壁(34)に、前記ブースター(10)のケーシング(12)と、前記可動仕切板(14)の前記環状部分(39)とを貫通する軸方向に向いた連結棒(24)で締結されるようになっており、
前記カップ(38)は、前記各連結棒(24)に関係付けられた穴(46)を有しており、前記穴の中には、一方では前記カップ(38)に締結され、他方では前記関係付けられた連結棒(24)に滑動可能に取り付けられた密封リング(48)が入っている、ブースター(10)において、
前記カップ(38)は、その傾斜した環状部分(39)に管状要素(50)を備えており、前記管状要素は、前記穴(46)が設けられており、少なくとも部分的には前記密封リング(48)の周りを軸方向に伸張して、前記密封リング(48)周りの圧力が、より一様に分布する様に確保されており、前記密封リング(48)が前記ブースター(10)の前記前室(16)と前記後室(18)との間の圧力差を受けたときに、前記密封リング(48)の変形を抑制する様になっている、ことを特徴とするブースター。
【請求項2】
請求項1に記載のブースター(10)であって、
前記管状要素(50)は、前記カップ(38)と一体に形成されている、ことを特徴とするブースター。
【請求項3】
請求項1に記載のブースター(10)であって、
前記管状要素(50)は、前記カップ(38)に嵌め込まれている、ことを特徴とするブースター。
【請求項4】
請求項1乃至3のうち何れかに記載のブースター(10)であって、
前記密封リング(48)は、前記密封のダイアフラム(42)と一体に形成されている、ことを特徴とするブースター。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載のブースター(10)であって、
前記密封リング(48)は、前記管状要素(50)の内径(d)より大きな直径(D)を有する端部(52)を備えており、前記端部は、前記管状要素(50)の前記穴(46)の中に、前記カップ(38)の前記規定の面(40)に向いた側から変形させて挿入し、その後、前記密封リング(48)を軸方向に動かないようにするため、前記管状要素(50)の、前記規定の面(40)と反対の側から突き出させるようになっている、ことを特徴とするブースター。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載のブースター(10)であって、
前記密封リング(48)の前記端部(52)は、前記管状要素(50)の中へ挿入し易くするための面取り部(54)を備えている、ことを特徴とするブースター。
【請求項7】
請求項5及び6のうち何れかに記載のブースター(10)であって、
前記ダイアフラム(42)を受ける前記カップ(38)の前記規定の面(40)は、前記カップ(38)の後面であり、前記管状要素(50)は、前記カップ(38)の前面(56)から軸方向に前に向いて突き出ており、前記密封リング(48)の前記端部(52)は、前記管状要素(50)の前部から突き出ている、ことを特徴とするブースター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−24293(P2008−24293A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−163301(P2007−163301)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】