説明

補強された高分子電解質膜

【課題】化学的安定性、機械強度、耐熱性、乾湿寸法安定性に優れた高分子電解質膜の
提供
【解決手段】(a)30.00〜99.99質量%のプロトン交換樹脂と、(b)0.01〜70.00質量%のポリフェニレンエーテル樹脂を少なくとも有する高分子電解質膜であって、該プロトン交換樹脂と該ポリフェニレンエーテル樹脂とは互いに相分離しており、かつ、糸状、繊維状、針状から選ばれる1種以上の形態で分散したポリフェニレンエーテル樹脂が膜厚方向に垂直に配向していることを特徴とする高分子電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用の高分子電解質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電池内で、燃料(水素源)と酸化剤(酸素)から電気化学的反応により電気エネルギーを得るものである。つまり燃料の化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換している。燃料源としては、純水素をはじめ水素元素を含む石油、天然ガス(メタン等)、メタノールなどが使用できる。
燃料電池自体は、機械部分がないため騒音の発生が少なく、また外部からの燃料と酸化剤を供給し続け原理的には半永久的に発電させることができるのが特徴である。
電解質は、液体電解質や固体電解質に分類されるが、この中で電解質として高分子電解質膜を用いたものが固体高分子形燃料電池である。
特に、固体高分子形燃料電池は、他と比較して低温で作動することから、自動車等の代替動力源や家庭用コジェネレーションシステム、携帯用発電機として期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池には、電極触媒層とガス拡散層が積層されたガス拡散電極がプロトン交換樹脂膜の両面に接合された膜電極接合体が少なくとも備えられている。ここで言うプロトン交換樹脂膜は、高分子鎖中にスルホン酸基やカルボン酸基等の強酸性基を有し、プロトンを選択的に透過する性質を有する材料である。このようなプロトン交換樹脂膜としては、化学的安定性の高いNafion(登録商標、米国デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系プロトン交換樹脂膜が好適に用いられる。
【0004】
燃料電池の運転時においては、アノード側のガス拡散電極に燃料(例えば水素)、カソード側のガス拡散電極に酸化剤(例えば酸素や空気)をそれぞれ供給し、両電極間を外部回路で接続することにより作動する。具体的には、水素を燃料とした場合、アノード触媒上にて水素が酸化されてプロトンが生じ、このプロトンがアノード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通った後、プロトン交換樹脂膜内を移動し、カソード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通ってカソード触媒上に達する。一方、水素の酸化によりプロトンと同時に生じた電子は外部回路を通ってカソード側ガス拡散電極に到達し、カソード触媒上にて上記プロトンと酸化剤中の酸素と反応して水が生成され、このとき電気エネルギーを取り出すことができる。この際、プロトン交換樹脂膜はガスバリアとしての役割も果たす必要があり、プロトン交換樹脂膜のガス透過率が高いと、アノード側水素のカソード側へのリーク及びカソード側酸素のアノード側へのリーク、即ちクロスリークが発生して、いわゆるケミカルショート(化学的短絡)の状態となって良好な電圧を取り出せなくなる。
【0005】
このような固体高分子形燃料電池は、高出力特性を得るために80℃近辺で運転するのが通常である。しかしながら、自動車用途として用いる場合には、夏場の自動車走行を想定して、高温低加湿条件下(運転温度100℃近辺で、60℃加湿(湿度20%RHに相当))でも燃料電池を運転できることが望まれている。ところが、従来のパーフルオロ系プロトン交換樹脂膜を用いて高温低加湿条件下で燃料電池を長時間運転すると、プロトン交換樹脂膜にピンホールが生じクロスリークが発生するという問題があり、十分な耐久性を得られなかった。
【0006】
この課題に対し、フィブリル状PTFEの添加による補強を行う方法(特許文献1〜2参照)、延伸処理したPTFE多孔膜による補強を行う方法(特許文献3〜4参照)等が行われている。これらの方法により、膜の力学強度が向上することで物理的にピンホールができにくくなった。また、従来のパーフルオロプロトン交換樹脂膜に比べ、湿潤状態で
膨潤し、乾燥状態で収縮するという乾湿寸法変化が低減したことによっても、物理的にピンホールが生じにくくなった。
【0007】
一方、アノード触媒もしくはカソード触媒で副生成するヒドロキシラジカルによりプロトン交換樹脂が攻撃されて分解するという化学的劣化についても報告されている(非特許文献1参照)。上述の補強された膜における補強材のPTFEは、耐酸化性に優れてヒドロキシラジカルの攻撃を受けにくいが、ヒドロキシラジカルを捕捉することはできない。従って、上述の補強された膜を構成するプロトン交換樹脂はヒドロキシラジカルに長期間攻撃されると分解してしまう。つまり、上述の補強された膜では化学的耐性は不十分であるため、上記のような高温低加湿条件下では十分な耐久性を得られなかった。
【0008】
【特許文献1】日本国特開昭53−149881号公報
【特許文献2】日本国特公昭63−61337号公報
【特許文献3】日本国特公平5−75835号公報
【特許文献4】日本国特表平11−501964号公報
【非特許文献1】A. B. LaConti, M. Hamdan and R. C. McDonald, in Handbook ofFuel Cells, H. A. Gasteiger, A. Lamm, Editors, Vol.3, p.648, John Wiley & Sons,New York (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、化学的安定性、機械強度、耐熱性、及び乾湿寸法安定性に優れ、高温下でも高耐久性を有する高分子電解質膜を提供することを目的とする。また、高温低加湿条件下(例えば、運転温度100℃で60℃加湿(湿度20%RHに相当))において、長期間運転を行ってもクロスリークが発生しない高耐久性を有する燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討をした。その結果、補強材としてポリフェニレンエーテル樹脂を用いることで、それ自身が耐酸化性に優れているだけでなく、ヒドロキシラジカルを捕捉する役割も果たすことで、ヒドロキシラジカルによるプロトン交換樹脂の化学的劣化を抑制できることを見出した。また、該ポリフェニレンエーテル樹脂をある特定の構造でプロトン交換樹脂中に微細に相分離させることで、機械強度、耐熱性、及び乾湿寸法安定性にも優れた高分子電解質膜を得られることを見出した。その結果として、高温下でも高耐久性を有する高分子電解質膜を提供でき、高温低加湿条件下(例えば、運転温度100℃で60℃加湿(湿度20%RHに相当))において、長期間運転を行ってもクロスリークが発生しない高耐久性を有する燃料電池を提供できることを見出した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0011】
(1)(a)30.00〜99.99質量%のプロトン交換樹脂と、(b)0.01〜70.00質量%のポリフェニレンエーテル樹脂を少なくとも有する高分子電解質膜であって、該プロトン交換樹脂と該ポリフェニレンエーテル樹脂とは互いに相分離しており、かつ、糸状、繊維状、針状から選ばれる1種以上の形態で分散したポリフェニレンエーテル樹脂が膜厚方向に垂直に配向していることを特徴とする高分子電解質膜。
(2)該ポリフェニレンエーテル樹脂が膜厚方向に垂直な平面において、ランダムに配向していることを特徴とする(1)に記載の高分子電解質膜。
(3)糸状、繊維状、針状から選ばれる1種以上の形態で分散した該ポリフェニレンエーテル樹脂の短径が0.01〜100μmであり、長径/短径の比率が1〜10000であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の高分子電解質膜。
【0012】
(4)糸状、繊維状、針状から選ばれる1種以上の形態で分散した該ポリフェニレンエーテル樹脂が微少結節部を有し、かつ相互に連結された構造であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
(5)該微少結節部の大きさが0.01〜10μmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
(6)該プロトン交換樹脂が、フッ素系高分子電解質であることを特徴とする(1)〜(
5)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【0013】
(7)膜平面のある方向をX軸とし、それに直交する方向をY軸とした場合に、X軸、Y軸方向各々の25℃,20%RHで膜サンプルを8時間放置したときの寸法に対する、80℃水中で1時間放置したときの寸法の比である湿潤時の膨潤率が100〜105%であり、かつX軸方向の該膨潤率に対するY軸の該膨潤率の割合が0.5〜1.5であって、等方的に優れた乾湿寸法安定性を示すことを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
(8)プロトン交換樹脂を有するフィルム2層以上の積層体からなる高分子電解質積層膜であって、該フィルムの少なくとも1層のフィルムが(1)〜(7)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜であることを特徴とする高分子電解質積層膜。
【0014】
(9)高分子電解質膜の製造方法であって、
(a)プロトン交換樹脂が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して30.00〜99.99質量%と、
(b)ポリフェニレンエーテル樹脂が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.01〜70.00質量%とを、
液状媒体と混合してキャスト液とし、該キャスト液を支持体上に噴霧することにより高分子電解質膜を形成することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
(10)該キャスト液をスプレーガンのノズルに供給し、圧縮気体の渦巻き流を発生させて、ノズルから出た該キャスト液を砕き霧化して、支持体表面へ向け円錐状に噴霧することで高分子電解質膜を形成することを特徴とする(9)に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【0015】
(11)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜、もしくは高分子電解質積層膜がアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体であって、アノードはアノード触媒層からなり、プロトン伝導性を有し、カソードはカソード触媒層からなり、プロトン伝導性を有することを特徴とする膜/電極接合体。
(12)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜、もしくは高分子電解質積層膜がアノード触媒層及び/又はカソード触媒層のエッジに接する部分のみにおいて形成されていることを特徴とする(11)に記載の膜/電極接合体
(13)(11)又は(12)に記載の膜/電極接合体を包含し、アノードとカソードが、高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
(14)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜、もしくは高分子電解質積層膜がアノードガス入口部、アノードガス出口部、カソードガス入口部、出口部から選ばれる少なくとも1種の入口部及び/又は出口部のみにおいて形成されていることを特徴とする(13)に記載の固体高分子形燃料電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高分子電解質膜は、化学的安定性、機械強度、耐熱性、及び乾湿寸法安定性に優れる。また、本発明の高分子電解質膜を用いることで、高温低加湿条件下(例えば、運転温度100℃で60℃加湿(湿度20%RHに相当))において、長期間運転を行ってもクロスリークが発生しない高耐久性を有する燃料電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の高分子電解質膜は、(a)30.00〜99.99質量%のプロトン交換樹脂と、(b)0.01〜70.00質量%のポリフェニレンエーテル樹脂とから構成される。
【0018】
プロトン交換樹脂としては、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリトリフルオロスチレン樹脂、トリフルオロスチレン樹脂、ポリ(2,3−ジフェニル−1,4−フェニレンオキシド)樹脂、ポリ(アリルエーテルケトン)樹脂、ポリ(アリルエーテルスルホン)樹脂、ポリ(フェニルキノサンリン)樹脂、ポリ(ベンジルシラン)樹脂、ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン樹脂、ポリスチレン−グラフト−ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリスチレン−グラフト−テトラフルオロエチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂といった炭化水素部を有する高分子にスルホン酸基やカルボン酸基を導入したものがこれに該当するが、最も好適なものは下記に示すようなフッ素系高分子電解質である。
【0019】
フッ素系高分子電解質としては特に限定されないが、Nafion(登録商標;米国デュポン社製)、Aciplex(登録商標;日本国旭化成ケミカルズ(株)社製)、Flemion(登録商標;日本国旭硝子(株)社製)に代表される、下記化学式(1)で表されるプロトン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体が代表例として挙げられる。[CF2 CX12a −[CF2 −CF(−O−(CF2 −CF(CF23 ))b
Oc −(CFR1d −(CFR2e −(CF2f −X4 )]g
・・・(1)
(式中、X1 、X2およびX3 はそれぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下
のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、0≦b≦8、cは0または1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0〜6の範囲の数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、R1 およびR2はそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基であり、X4 は、−COOH、−SO3H、−PO32 、−PO3 HZ(Zは水素原子、金属原子(Na、K、Ca等)、又はアミン類(NH4、NH3 R、NH22 、NHR3 、NR4(Rはアルキル基、又はアレーン基))
【0020】
中でも、下記化学式(2)又は(3)で表されるパーフルオロカーボン重合体が好ましい。
[CF2 CF2a −[CF2 −CF(−O−(CF2 −CF(CF3 ))b−O−
(CF2f−X4 )]g ・・・(2)
(式中0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、1≦b≦3、1≦f≦8、そしてX4 は−COOH、−SO3 H、−PO32 又は−PO3 Hである。)
[CF2 CF2a −[CF2 −CF(−O−(CF2f −X4)]g
・・・(3)
(式中0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、1≦f≦8、そしてX4 は−COOH、−SO3 H、−PO32 又は−PO3 Hである。)
上記のようなパーフルオロカーボン重合体は、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等のパーフルオロオレフィンや、パーフルオロアルキルビニルエーテル等のコモノマーに由来する単位をさらに含む共重合体であってもよい。
【0021】
本発明で用いるフッ素系高分子電解質の製造方法は、例えば、米国特許第5, 281,
680号明細書、日本国特開平7−252322号公報、米国特許第5, 608, 022
号明細書に記載されている。
本発明の高分子電解質膜における(a)プロトン交換樹脂の含有率は、30.00〜99.99質量%であり、好ましくは40.0〜99.9質量%、より好ましくは50〜99質量%、さらに好ましくは60〜90質量%、最も好ましくは65〜80質量%である。(a)プロトン交換樹脂の含有率を上記の範囲(30.00〜99.99質量%)に設定することにより、良好なプロトン伝導度を維持したまま、高耐久性を有する高分子電解質膜を得ることができる。
【0022】
本発明の高分子電解質膜に用いる(b)ポリフェニレンエーテル樹脂については特に制限されないが、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−i−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−i−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−i−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−メトキシ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ(p−フルオロフェニル)−1,4−フェニレン)エーテル、等のポリフェニレンエーテル単独重合体が挙げられる。このうち、下記化学式(4)で表されるポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが工業的に重要なポリフェニレンエーテル樹脂であり、旭化成ケミカルズ(株)製やGEプラスチックス(株)製のものが代表例として挙げられる。
【0023】
【化1】


(式中、nは1以上の整数)

【0024】
本発明の高分子電解質膜に用いる(b)ポリフェニレンエーテル樹脂としては、ポリフェニレンエーテル共重合体でもよく、2,6−ジメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体等、ポリフェニレンエーテル構造を主体としてなるポリフェニレンエーテル共重合体がこれに該当する。
また、本発明の高分子電解質膜に用いる(b)ポリフェニレンエーテル樹脂としては、本発明の趣旨に反しない限り、従来ポリフェニレンエーテルに存在させても良いことが提
案されている他の種々のフェニレンエーテルユニットが含有していてもかまわない。例えば2,6−ジメチルフェノールを主体としてなるモノマーから誘導されるポリフェニレンエーテルについて例を挙げれば次のような異種構造が挙げられる。該ポリフェニレンエーテルの末端構造の例としては、下記化学式(α)で表される特公平7−47634号公報等記載のアミノアルキル置換末端基や、下記化学式(β)で表される4−ヒドロキシビフェニル末端基が挙げられる。
【0025】
【化2】


(式中、R,Rは各々独立に1〜20の炭化水素基を示す)
【0026】
【化3】


【0027】
また、高分子鎖中の異種構造としては、下記化学式(γ)で示すような特開平1−297428号公報、特開昭63−301222号公報記載の、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニットや、下記化学式(δ)で表される2−(N−アルキル−N−フェニル−アミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニットが例示できる。
【0028】
【化4】


(式中、R,Rは各々独立に1〜20の炭化水素基を示す)
【0029】
【化5】


(式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基、アルカノール基を示し、Rは水素、炭素数1〜10の置換あるいは非置換アルキル基を示し、mは該フェニル環の置換基の数で1から5の整数である)
【0030】
更には、特殊な構造を持つポリフェニレンエーテルで例えば、特公昭61−20575号公報記載の下記化学式(ε)で表されるキノン結合ポリフェニレンエーテル、特公昭55−46015号公報や特開昭62−39628号公報記載の下記化学式(ζ)で表される二官能性ポリフェニレンエーテルであっても良い。
【0031】
【化6】

(式中、p、qは連鎖の数で1以上の整数である)
【0032】
【化7】

(式中、x、yは連鎖の数で0または1以上の整数であるが同時に0ではない)
【0033】
本発明の高分子電解質膜における(b)ポリフェニレンエーテル樹脂の含有率は、0.01〜70.00質量%であり、好ましくは0.1〜60.0質量%、より好ましくは1〜50質量%、さらに好ましくは10〜40質量%、最も好ましくは20〜35質量%である。ポリフェニレンエーテル樹脂の含有率を上記の範囲(0.01〜70.00質量%)に設定することにより、良好なプロトン伝導度を維持したまま、高耐久性を有する高分子電解質膜を得ることができる。
【0034】
また、本発明の高分子電解質膜においては、該プロトン交換樹脂と該ポリフェニレンエーテル樹脂とが互いに相分離していることを特徴とする。ここでいう相分離とは、該プロトン交換樹脂と該ポリフェニレンエーテル樹脂とが完全に相溶していない状態だけでなく、部分的に相溶した状態もこれに該当する。このような相分離状態を形成することで、化学的安定性及び耐熱性に優れた高分子電解質膜を得ることができる。
【0035】
そして、本発明の高分子電解質膜においては、糸状、繊維状、針状から選ばれる1種以上の形態で分散した該ポリフェニレンエーテル樹脂が膜厚方向に垂直に配向していることを特徴とする。ここで言う配向とは、高分子辞典(第4版),高分子学会編,(株)朝倉書店,p.522〜524(昭和51年)に記載されているように、物質を構成する構造単位が物質のある特定方向に優先的に配列する状態を指す。このような具体的な例としては、図1〜図3が挙げられる。このように、該ポリフェニレンエーテル樹脂が膜厚方向に垂直に配向することで、機械強度及び乾湿寸法安定性に優れた高分子電解質膜を得ることができる。
【0036】
さらに、本発明の高分子電解質膜においては、該ポリフェニレンエーテル樹脂が膜厚方向に垂直な平面においてランダムに配向していることが好ましい。このように、該ポリフェニレンエーテル樹脂が等方的に配向することで、本発明の高分子電解質膜は膜平面のどの方向に対しても、等方的に優れた乾湿寸法安定性を示す。乾湿寸法安定性とは、25℃,20%RHで膜サンプルを8時間放置したときの寸法に対する、80℃水中で1時間放置したときの寸法の比である湿潤時の膨潤率が100〜115%、好ましくは100〜110%、より好ましくは100〜105%、最も好ましくは100〜101%であることを意味する。また、ここで等方的に優れた乾湿寸法安定性を示すとは、膜平面のある方向をX軸とし、それに直交する方向をY軸とした場合に、X軸方向の該膨潤率に対するY軸の該膨潤率の割合が0.5〜1.5、好ましくは0.8〜1.2、より好ましくは0.9〜1.1、最も好ましくは0.95〜1.05であることを指す。
【0037】
配向したポリフェニレンエーテル樹脂は、例えば、糸状、繊維状、針状といった形態で分散していることが望ましい。分散している該ポリフェニレンエーテル樹脂の短径(膜厚方向)としては、0.01〜100μmであることが好ましく、より好ましくは0.01〜30μm、さらに好ましくは0.01〜10μm、最も好ましくは0.1〜5μmである。また、分散している該ポリフェニレンエーテル樹脂の長径/短径の比率であるアスペクト比としては、1〜10000であることが好ましく、より好ましくは2〜5000、さらに好ましくは5〜3000、最も好ましくは10〜1000である。尚、図1〜図3中の黒色に染色された部分がポリフェニレンエーテル樹脂であり、透明部がフッ素系高分子電解質である。さらに、以上のような該ポリフェニレンエーテル樹脂は、膜厚方向にも、膜平面方向においても膜中に均一にしているのが好ましい。図1〜図3のような膜断面図を示す高分子電解質膜においては、該ポリフェニレンエーテル樹脂は膜中に均一に分散しているとみなすことができる。
【0038】
また、糸状、繊維状、針状に分散した該ポリフェニレンエーテル樹脂が相互に該ポリフェニレンエーテルで連結された構造である場合があり、具体例として図2に示すような微小結節部を多数含んだ微細構造が挙げられる。ここで言う微小結節部の大きさとしては特に限定されないが、0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.02〜8μm、さらに好ましくは0.05〜5μm、最も好ましくは0.1〜2μmである。図2中の黒色に染色された部分がポリフェニレンエーテル樹脂であり、透明部がフッ素系高分子電解質である。該微少結節部の個数密度としては、膜断面1μm×1μmの領域あたり、1〜1000個であることが好ましく、より好ましくは2〜500個、さらに好ましくは5〜300個、最も好ましくは10〜100個である。
【0039】
また、以上のような本発明の高分子電解質膜を補強層とし、該ポリフェニレンエーテル樹脂を含まずに該プロトン交換樹脂からなるフィルム(以下、無補強層と称する)と積層し、2層以上の積層体とした高分子電解質積層膜として用いてもよい。例えば、2層の場合は、補強層/無補強層、3層の場合は、補強層/無補強層/補強層、無補強層/補強層/無補強層、4層の場合は、補強層/無補強層/補強層/無補強層、無補強層/補強層/無補強層/補強層、5層の場合は、補強層/無補強層/補強層/無補強層/補強層、無補強層/補強層/無補強層/補強層/無補強層等の構成が挙げられる。3層以上を積層する場合、異なる組成や物性の補強層及び無補強層を用いてもよい。例えば、補強層1/無補強層1/補強層2/無補強層2/補強層3、無補強層1/補強層1/無補強層2/補強層2/無補強層3等の構成ができる。
さらに、高分子電解質膜の一部においてのみ、以上のような本発明の高分子電解質膜が形成されていても良い。
【0040】
本発明の高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜のプロトン交換容量としては特に限定されないが、1g当たり0.5〜4.0ミリ当量が好ましく、より好ましくは0.8〜4.0ミリ当量、最も好ましくは0.9〜1.5ミリ当量である。より大きいプロトン交換容量の高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜を用いる方が、高温低加湿条件下においてより高いプロトン伝導性を示し、燃料電池に用いた場合、運転時により高い出力を得ることができる。
【0041】
プロトン交換容量は、以下の方法で測定することができる。まず、10cm2 程度に切り出した高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜を110℃にて真空乾燥して、乾燥重量W(g)を求める。この膜を50mlの25℃飽和NaCl水溶液に浸漬してH+ を遊離させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.01N水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定を行い、中和に要したNaOHの等量M(ミリ等量)を求める。このようにして求めたMをWで割って得られる値がプロトン交換容量(ミリ等量/g)である。また、WをMで割って1000倍した値が当量質量EWであり、プロトン交換基1当量当りの乾燥質量グラム数である。
【0042】
本発明の高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜の厚みは制限されないが、1〜500μmであることが好ましく、より好ましくは2〜150μm、さらに好ましくは5〜75μm、最も好ましくは5〜50μmである。膜厚が厚いほど耐久性は良くなる一方で、初期特性は悪くなるため、上記の範囲(1〜500μm)で膜厚を設定するのが好ましい。
【0043】
また、本発明の高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜は、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリイミダゾール、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ポリアニリン、ポリフェニレンサルファイド等の耐熱性ポリマーを含んでいてもよい。この中でも、ポリベンズイミダゾール及びポリフェニレンサルファイドを添加することにより、耐酸化性を向上できるため好ましい。本発明の高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜における該耐熱性ポリマーの含有率は、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.5〜10質量%、最も好ましくは1〜5質量%以下である。該耐熱性ポリマーは、本発明の高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜において、粒子状で存在していても構わない。この際の平均粒径(50%体積ベース)としては、0.1〜20μmが好ましく、より好ましくは0.5〜15μm、最も好ましくは1〜10μmである。
【0044】
本発明の高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜は、無機粒子(Al23 、SiO2 、TiO2、ZrO2 など)の添加による補強(日本国特開平6−111827号、
日本国特開平9−219206号公報及び米国特許第5, 523, 181号明細書参照)、架橋による補強(日本国特開2000−188013号公報参照)、ゾルゲル反応を利用して膜内にシリカを含有させることによる補強((K. A. Mauritz, R. F. Storey and C. K. Jones, in Multiphase Polymer Materials: Blends and Ionomers, L. A. Utracki and R. A. Weiss, Editors, ACS Symposium Series No. 395, p. 401, American Chemical Society, Washington, DC (1989)参照)等の公知の方法で補強が施されていてもよい。
【0045】
(本発明の高分子電解質膜の製造例)
本発明の高分子電解質膜の製造方法を以下に説明するが、以下に例示する製造方法には限定されない。
本発明の高分子電解質膜は、例えば、以下の方法で製造することができる。
高分子電解質膜の製造方法であって、
(a)プロトン交換樹脂が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して30.00〜99.99質量%と
(b)ポリフェニレンエーテル樹脂が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.01〜70.00質量%とを、
液状媒体と混合したキャスト液とし、該キャスト液を支持体上にキャストして塗膜を形成すると同時に液状媒体を除去して高分子電解質膜を形成する方法を挙げることができる。
【0046】
上記キャスト液は、例えば、乳濁液(液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として分散して乳状をなすもの)、懸濁液(液体中に固体粒子がコロイド粒子あるいは顕微鏡で見える程度の粒子として分散したもの)、コロイド状液体(巨大分子が分散した状態)、又はミセル状液体(多数の小分子が分子間力で会合して出来た親液コロイド分散系)などであり、これらの複合系であってもよい。
【0047】
キャスト液中の(a)プロトン交換樹脂の濃度は限定されないが、キャスト液の総質量に対して、0.01〜40質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜20質量%、最も好ましくは0.5〜8質量%である。
また、キャスト液中の(b)ポリフェニレンエーテル樹脂の濃度は限定されないが、キャスト液の総質量に対して、0.01〜40質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜20質量%、最も好ましくは0.5〜4質量%である。
【0048】
尚、前記キャスト液中のプロトン交換樹脂(a)とポリフェニレンエーテル樹脂(b)の質量比(プロトン交換樹脂(a):ポリフェニレンエーテル樹脂(b))は、99.99:0.01〜30.00:70.00の範囲であり、好ましくは99.9:0.1〜40.0:60.0、より好ましくは99:1〜50:50、さらにより好ましくは90:10〜60:40、最も好ましくは80:20〜65:35である。
キャスト液中の液状媒体の濃度は限定されないが、キャスト液の総質量に対して、20〜99.98質量%が好ましく、60〜99.8質量%がより好ましく、88〜99質量%が最も好ましい。
【0049】
キャスト液中の液状媒体としては、特に限定されないが、プロトン溶媒と非プロトン溶媒の混合溶媒であることが好ましい。ここで言うプロトン溶媒とは、プロトンを出すことができる官能基を有する溶媒であり、その例として、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等)、フェノール類が挙げられる。プロトン溶媒の量としては特に限定されないが、キャスト液の総質量に対して1〜99質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜97質量%であり、最も好ましくは30〜85質量%である。
また、これらのプロトン溶媒は1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。特に、水とアルコールの混合溶媒を用いることが好ましく、水/エタノール=3/1〜1/3(
体積割合)、水/イソプロパノール=3/1〜1/3(体積割合)の混合溶媒を用いることがより好ましい。
【0050】
キャスト液中の液状媒体は、更に非プロトン溶媒を包含することが好ましい。ここで、非プロトン溶媒とは上記プロトン溶媒以外の溶媒であり、その例として、N, N−ジメチルホルムアミド、N, N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、クロロホルム、四塩化炭素等が挙げられる。これらの非プロトン溶媒は1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。この中でも特にN, N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、トルエン、クロロホルムを用いることが特に好ましい。非プロトン溶媒の量としては特に限定されないが、キャスト液の総質量に対して0.98〜98.98質量%であることが好ましく、より好ましくは2.8〜89.8質量%、最も好ましくは3〜69質量%である。
【0051】
このようなキャスト液を用いることで、プロトン交換樹脂中にポリフェニレンエーテル樹脂が、微細に相分離した高分子電解質膜の製造が可能となり、良好なプロトン伝導度を維持したまま、高耐久性を有する高分子電解質膜を得ることができる。
キャスト液は、例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂(b)をトルエン等の非プロトン溶媒に溶解したポリマー溶液(以下、「前段階溶液A」、と称する)と、プロトン交換樹脂(a)をプロトン溶媒に溶解したポリマー溶液(以下、「前段階溶液B」、と称する)を添加して撹拌することで得ることができる。
【0052】
ポリフェニレンエーテル樹脂(b)の製造方法としては特に制限されず、既知のいかなるモノマー及び既知の重合方法、特にフェノール性化合物をモノマーとして利用する多くの合成方法が利用できる。たとえば、特公昭36−18692号公報、米国特許第3306875号、同3344116号、同3432466号明細書をはじめ多くの製法が提案されている。これらの公知の公報において、工業的に最も重要なモノマーは2,6−ジメチルフェノールである。
ポリフェニレンエーテル樹脂(b)の重量平均分子量は限定されないが、好ましくは10000〜1000000であり、より好ましくは20000〜100000であり、最も好ましくは50000〜100000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定できる。
【0053】
また、このような重量平均分子量に代わる指標として、固有粘度(dl/g)を用いても良い。固有粘度は、ポリフェニレンエーテル樹脂(b)をクロロホルムに溶解して得られるポリマー溶液の粘度ηp(mPa・s)とクロロホルムの粘度ηs(mPa・s)、及び該ポリマー溶液の濃度Cp(g/dL)から、下記式を用いて求めることができる。ここでいう粘度とは、例えば30℃にてウベローデ型粘度管により測定される値である。
固有粘度=ln(ηp/ηs)/Cp
(式中、lnは自然対数を表す。)
ポリフェニレンエーテル樹脂(b)の固有粘度としては、0.5g/dlのポリマー溶液を用いた場合に0.05〜1.0dl/gの範囲のものが好ましく、さらに0.06〜0.70dl/gの範囲のものを使用することがより好ましい。
【0054】
このような(b)ポリフェニレンエーテル樹脂をトルエンやクロロホルム等の非プロトン溶媒中に入れ、20〜90℃で10分〜100時間加熱処理する等の方法によって前段階溶液Aを得ることができる。前段階溶液Aにおける(b)ポリフェニレンエーテル樹脂の含有率は、前段階溶液Aの質量に対して、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜30質量%以下、最も好ましくは1〜10質量%である。
前段階溶液Bに含まれる(a)プロトン交換樹脂の代表例であるプロトン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体は、下記化学式(5)で示される前駆体ポリマーを下記の
方法で重合した後、加水分解、酸処理を行って製造することができる。
[CF2 CX12a −[CF2 −CF(−O−(CF2 −CF(CF23 ))b
−(CFR1d −(CFR2e −(CF2f−X5 )]g
・・・(5)
(式中、X1 、X2およびX3 は、それぞれ独立に、ハロゲン元素または炭素数1〜3の
パーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、bは0〜8の数、cは0または1、d、eおよびfはそれぞれ独立に0〜6の数(但し、d+e+fは、0に等しくない)、R1 およびR2はそれぞれ独立に、ハロゲン元素、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基、X5 は−COOR3、−COR4 または−SO24 (R3 は、炭素数1〜3のアルキル基(フッ素置換されていないもの)、R4はハロゲン元素))
【0055】
上記化学式(5)で示される前駆体ポリマーは、フッ化オレフィンとフッ化ビニル化合物とを共重合させることにより製造される。具体的なフッ化オレフィンとしては、CF2=CF2 ,CF2 =CFCl,CF2 =CCl2 等が挙げられる。具体的なフッ化ビニル化合物としては、CF2=CFO(CF2z −SO2 F,CF2 =CFOCF2CF(CF3 )O(CF2z −SO2 F,CF2=CF(CF2z −SO2 F,CF2 F(OCF2CF(CF3 ))z −(CF2z-1 −SO2F,CF2 =CFO(CF2z −CO2 R,CF2=CFOCF2 CF(CF3 )O(CF2z −CO2R,CF2 =CF(CF2z −CO2 R,CF2=CF(OCF2 CF(CF3 ))z −(CF22−CO2 R(Zは1〜8の整数、Rは炭素数1〜3のアルキル基(フッ素置換されていないもの)を表す)等が挙げられる。
【0056】
このような前駆体ポリマーの重合方法としては、フッ化ビニル化合物をフロン等の溶媒に溶かした後、テトラフルオロエチレンのガスと反応させ重合する溶液重合法、フロン等の溶媒を使用せずに重合する塊状重合法、フッ化ビニル化合物を界面活性剤とともに水中に仕込んで乳化させた後、テトラフルオロエチレンのガスと反応させ重合する乳化重合法等が挙げられる。上記のいずれの重合方法においても、反応温度は30〜90℃が好ましく、また、反応圧力は280〜1100kPaが好ましい。
このように製造された前駆体ポリマーの、JIS K−7210に基づいた270℃、荷重2.16kgf、オリフィス内径2.09mmで測定されるメルトインデックスMI(g/10分)は限定されないが、0.001以上1000以下が好ましく、より好ましくは0.01以上100以下、最も好ましくは0.1以上10以下である。
【0057】
次に、前駆体ポリマーを、塩基性反応液体に浸漬させて、10〜90℃で10秒〜100時間の加水分解処理を行う。塩基性反応液体は限定されないが、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液が好ましい。塩基性反応液体におけるアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の含有率は限定されないが、塩基性反応液体の質量に対して10〜30質量%であることが好ましい。塩基性反応液体は、ジメチルスルホキシド、メチルアルコール等の膨潤性有機化合物を含有するのが好ましい。塩基性反応液体における膨潤性有機化合物の含有率としては、塩基性反応液体の質量に対して1〜30質量%であることが好ましい。
このように加水分解処理した後、さらに塩酸等で酸処理を行うことにより、プロトン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体が製造される。プロトン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体のプロトン交換容量は限定されないが、1g当り0.50〜4.00が好ましく、より好ましくは1.00〜4.00、最も好ましくは1.25〜2.50である。
【0058】
次に、プロトン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体とプロトン溶媒をオートクレーブに入れ、40〜300℃で10分〜100時間加熱処理する等の方法により、プロ
トン溶媒にプロトン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体を溶解させた前段階溶液Bを得ることができる。ここで言う溶液には、前記パーフルオロカーボン重合体がミセル状に分散した状態も含む。前段階溶液Bにおける前記パーフルオロカーボン重合体の含有率は、前段階溶液Bの質量に対して、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.1〜30質量%、最も好ましくは1〜10質量%である。
【0059】
以上のように製造した前段階溶液Aと前段階溶液Bとを公知の攪拌方法により混合する。また、所望により濃縮を行う。こうして、キャスト液が得られる。
【0060】
本発明では、上記のキャスト液を用いて、支持体上にキャストすると同時にキャスト液を構成する液状媒体を除去して本発明の高分子電解質膜を得ることができる。このような製造方法におけるキャスト方法としては、公知の噴霧(スプレー)技術を使用することができる。液状媒体を急激に除去する方法をとることで、該プロトン交換樹脂と該ポリフェニレンエーテル樹脂とが一気に相分離するため、より微細な相分離状態を有する本発明の高分子電解質膜を製造することができ、好ましい。
【0061】
スプレー方式としては、流体の微粒化の方法で分けると、1流体スプレー方式と2流体スプレー方式に大別できるが、そのどちらの方式とも使用することができる。
前者の代表例としては、塗料が適正の液体圧力にて小さなオリフィスから押し出され、押し出される速度により塗液を霧化するエアレススプレー方式が挙げられる。オリフィスノズルとしては、エアレスコーンノズルやエアレスフラットノズル、クロスカットノズル、ドームノズル等を使うことができる。また、遠心力霧化のスプレー方式、超音波スプレー等も1流体スプレー方式に該当する。
【0062】
さらに好ましい形態で本発明の高分子電解質膜を得るには、該キャスト液をカップからサイホンにて吸い上げる、またはタンクから加圧してスプレーガンのノズルに該キャスト液を供給し、圧縮気体がノズルから出た該キャスト液を砕き霧化するエアスプレーという2流体スプレー方式を使用することが望ましい。このようなエアスプレーを行うことで、空孔のない緻密な高分子電解質膜を得ることができる。最も好ましい形態で本発明の高分子電解質膜を得るためには、特殊加工を施したノズル、エアキャップを使用して圧縮気体の渦巻き流を発生させ、ノズルから出た該キャスト液を砕き霧化して平均粒径0.1〜100μm、好ましくは1〜10μmの細かな液滴にし、支持体上に直径1mm〜100mm、好ましくは10〜50mmの円錐状に塗布することで高分子電解質膜を形成するスワールスプレーと呼ばれるエアスプレー方式を使用することがより望ましい。このようなスワールスプレーを行うことで、空孔がなく緻密で、かつ膜厚分布が小さい高分子電解質膜を得ることができる。
【0063】
また、ビードやドット塗布、部分的にフィルム状塗布を行うモノフィラメントパターンと呼ばれる吐出パターン、パルス状にスプレーを行ってもよい。塗料をサブミクロンに微粒化し、静電気力で基板に吸着、積層させるエアロコートスプレーを用いることも可能である。
キャストに用いる支持体は限定されないが、一般的なポリマーフィルム、金属箔、アルミナ、Si等の基材等が好適に使用できる。本発明では、支持体上にキャストする際、支持体を予め40〜200℃、好ましくは60〜160℃に加熱しておくことが好ましい。尚、このような支持体は、膜/電極接合体(後述する)を形成する際には、所望により、高分子電解質膜から除去される。また、場合によっては、プロトン交換樹脂からなるフィルムに塗布しても良い。
【0064】
以上のようにキャストされた塗膜は一回のキャストで目標の膜厚までキャストしてもかまわないが、数回に分けてキャストして目標の膜厚としてもかまわない。また、高分子電
解質積層膜を製造する方法として、上記キャスト液と前段階溶液Bとを別々に用意し、これらの液を交互にキャスト及び乾燥させることで、補強層と無補強層を交互に多層積層した本発明の高分子電解質積層膜を製造することができる。
このようにして得られた高分子電解質膜は、所望により、40〜300℃、好ましくは80〜200℃で加熱処理(アニーリング)に付してもよい。(加熱処理により、液状媒体を完全に除去でき、また、成分(a)と成分(b)の構造が安定化する。)更に、本来のイオン交換容量を充分に発揮させるために、所望により、塩酸や硝酸等で酸処理を行ってもよい。(高分子電解質膜のプロトン交換基の一部が塩で置換されている場合、この酸処理によりプロトン交換基に戻すことができる。)また、横1軸テンターや同時2軸テンターを使用することによって延伸配向を付与することもできる。
【0065】
以上の方法で製造された高分子電解質膜を用いて高分子電解質積層膜を製造する方法としては、本発明の高分子電解質膜及びプロトン交換樹脂からなるフィルムを別々に用意し、これらを積層した状態で、ホットプレス、ロールプレス、真空プレス等の公知のプレス技術やラミネーション技術を用いることにより接合する方法等が例示できる。この際、必要に応じて、本発明の高分子電解質膜とプロトン交換樹脂からなるフィルムを、一般的なポリマーフィルム、金属箔、アルミナ、Si等の基材上に形成した状態で接合を行ってもよい。また、必要に応じて接合後に用いた基材を剥離してもよい。
【0066】
(膜/電極接合体)
本発明の高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜を固体高分子形燃料電池に用いる場合、本発明の高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜がアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体(membrane/electrode assembly )( 以下、しばしば「MEA」と称する) として使用される。ここでアノードはアノード触媒層からなり、プロトン伝導性を有し、カソードはカソード触媒層からなり、プロトン伝導性を有する。また、アノード触媒層とカソード触媒層のそれぞれの外側表面にガス拡散層(後述する)を接合したものもMEAと呼ぶ。
【0067】
アノード触媒層は、燃料(例えば水素)を酸化して容易にプロトンを生ぜしめる触媒を包含し、カソード触媒層は、プロトン及び電子と酸化剤(例えば酸素や空気)を反応させて水を生成させる触媒を包含する。アノードとカソードのいずれについても、触媒としては白金もしくは白金とルテニウム等を合金化した触媒が好適に用いられ、10〜1000オングストローム以下の触媒粒子であることが好ましい。また、このような触媒粒子は、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、活性炭、黒鉛といった0.01〜10μm程度の大きさの導電性粒子に担持されていることが好ましい。触媒層投影面積に対する触媒粒子の担持量は、0.001mg/cm2 〜10mg/cm2 以下であることが好ましい。
【0068】
さらにアノード触媒層とカソード触媒層は、上記式(2)又は上記式(3)で表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含有することが好ましい。触媒層投影面積に対する担持量として、0.001mg/cm2 〜10mg/cm2 以下であることが好ましい。
MEAの作製方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。まず、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーをアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、触媒として市販の白金担持カーボン(例えば、日本国田中貴金属(株)社製TEC10E40E)を分散させてペースト状にする。これを2枚のPTFEシートのそれぞれの片面に一定量塗布して乾燥させて触媒層を形成する。次に、各PTFEシートの塗布面を向かい合わせにして、その間に本発明の高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜を挟み込み、100〜200℃で熱プレスにより転写接合してから、PTFEシートを取り除くことにより、MEAを得ることができる。当業者にはMEAの作製方法は周知である。MEAの作製
方法は、例えば、JOURNAL OF APPLIED ELECTROCHEMISTRY,22(1992)p.1−7に詳しく記載されている。
【0069】
また、本発明のMEAを構成するアノード触媒層及び/又はカソード触媒のエッジに接する部分においてのみ、以上のような本発明の高分子電解質膜が形成されていることが好ましい。ここで言うエッジとは、その周辺0.1〜10cmを含む場合がある。
ガス拡散層としては、市販のカーボンクロスもしくはカーボンペーパーを用いることができる。前者の代表例としては、米国DE NORA NORTH AMERICA社製カーボンクロスE−tek,B−1が挙げられ、後者の代表例としては、CARBEL(登録商標、日本国ジャパンゴアテックス(株))、日本国東レ社製TGP−H、米国SPCTRACORP社製カーボンペーパー2050等が挙げられる。また、電極触媒層とガス拡散層が一体化した構造体は「ガス拡散電極」と呼ばれる。ガス拡散電極を本発明の高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜に接合してもMEAが得られる。市販のガス拡散電極の代表例としては、米国DE NORA NORTH AMERICA社製ガス拡散電極ELAT(登録商標)(ガス拡散層としてカーボンクロスを使用)が挙げられる。
【0070】
(固体高分子形燃料電池)
基本的には、上記MEAのアノードとカソードを高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合させると、作動可能な固体高分子形燃料電池を得ることができる。当業者には固体高分子形燃料電池の作成方法は周知である。固体高分子形燃料電池の作成方法は、例えば、FUEL CELL HANDBOOK(VAN NOSTRAND REINHOLD、A.J.APPLEBY et.al、ISBN 0−442−31926−6)、化学One Point,燃料電池(第二版),谷口雅夫,妹尾学編,共立出版(1992)等に詳しく記載されている。
【0071】
電子伝導性材料としては、その表面に燃料や酸化剤等のガスを流すための溝を形成させたグラファイトまたは樹脂との複合材料、金属製のプレート等の集電体を用いる。上記MEAがガス拡散層を有さない場合、MEAのアノードとカソードのそれぞれの外側表面にガス拡散層を位置させた状態で単セル用ケーシング(例えば、米国エレクトロケム社製 PEFC単セル)に組み込むことにより固体高分子形燃料電池が得られる。
高電圧を取り出すためには、上記のような単セルを複数積み重ねたスタックセルとして燃料電池を作動させる。このようなスタックセルとしての燃料電池を作成するためには、複数のMEAを作成してスタックセル用ケーシング(例えば、米国エレクトロケム社製 PEFCスタックセル)に組み込む。このようなスタックセルとしての燃料電池においては、隣り合うセルの燃料と酸化剤を分離する役割と隣り合うセル間の電気的コネクターの役割を果たすバイポーラプレートと呼ばれる集電体が用いられる。
【0072】
燃料電池の運転は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素または空気を供給することによって行われる。燃料電池の作動温度は高温であるほど触媒活性が上がるために好ましい。通常は、水分管理が容易な50〜80℃で作動させることが多いが、80℃〜150℃で作動させることもできる。
また、本発明の燃料電池のアノードガス入口部のみ、アノードガス出口部のみ、カソードガス入口部のみ、カソードガス出口部のみから選ばれる1種以上において、本発明の高分子電解質膜が形成されていることが好ましい。ここで言う入口部及び出口部とは、ガスが導入される部分(マニホールド)の周辺0.1〜10cmを含む場合がある。
【0073】
本発明の高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜は、クロルアルカリ電解、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に用いることも可能である。高分子電解質膜を酸素濃縮器に利用する方法については、例えば、化学工学,56(3),p.178−180(1992)や、米国特許第4, 879, 0
16号を参照できる。高分子電解質膜を湿度センサーに利用する方法については、例えば、日本イオン交換学会誌,8(3),p.154−165(1997)や、J. Fang et al., Macromolecules, 35, 6070 (2002) を参照できる。高分子電解質膜をガスセンサーに利用する方法については、例えば、分析化学,50(9),p.585−594(2001)や、X. Yang, S. Johnson, J. Shi, T. Holesinger, B. Swanson: Sens. Actuators B, 45, 887 (1997) を参照できる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例に制限されるものではない。本発明に用いられる評価法および測定法は以下のとおりである。
(TEM観察)
高分子電解質膜を0.5mm×15mm程度に切ってシャーレに入れ、0.1gの塩化ルテニウム(III)n水和物と次亜塩素酸ナトリウム溶液5mlを添加して、膜中のポリフェニレンエーテル樹脂をRuで染色した。その後、エポキシ樹脂(例えば、日本国日新EM社製Quetol−812)で包埋し、ミクロトーム(ドイツ国LEICA社製ULTRACUT(登録商標) UCT)(ダイヤモンドナイフを使用)を用いて膜厚方向に切り、厚さ80〜100nmの超薄切片を作製した。銅製メッシュにこの超薄切片を載せ、透過型電子顕微鏡(日本国日立社製 H7100型)を用いて加速電圧125kVで膜断面を50000倍の倍率で観察した。観察は断面の1箇所を無作為に選んで行った。
【0075】
(プロトン伝導度測定)
膜サンプルを湿潤状態にて切り出し、厚みTを測定する。そして、幅1cm、長さ5cmの膜長さ方向の伝導度を測定する2端子式の伝導度測定セルに装着した。このセルを80℃のイオン交換水中に入れ、交流インピーダンス法により、周波数10kHzにおける実数成分の抵抗値Rを測定し、以下の式からプロトン伝導度σを導出した。
σ=L/(R×T×W)
σ:プロトン伝導度(S/cm)
T:厚み(cm)
R:抵抗値(Ω)
L(=5):膜長(cm)
W(=1):膜幅(cm)
【0076】
(引張クリープ特性)
3本掛クリープ試験機((株)オリエンテック社製CP3−P−20)を用いて、引張クリープ特性を調べた。まず、膜サンプルを湿潤状態にて切り出し、厚みTを測定する。そして、幅1cm、長さ5cmの膜をチャック間隔2cmでチャックに装着した。試験は恒温恒湿槽中で行い、80℃,95%RHに保持した。試験荷重は20kg/cm2 で行い、試験開始から40時間時点で伸びた長さの初期値(2cm)に対する割合(%)を算出し、クリープ量とした。
【0077】
(乾湿寸法変化)
湿潤時の膨潤率(以下X、と称する)は、25℃,20%RHで膜サンプルを8時間放置したときの縦方向の寸法に対する、80℃水中で1時間放置したときの縦方向の寸法の比として求めた。一方、該再乾燥時の収縮率(以下X’、と称する)は、25℃,20%RHで膜サンプルを8時間放置したときの縦方向の寸法に対する、80℃水中で1時間放置した後に25℃,20%RHで2時間放置して再乾燥したときの縦方向の寸法の比として求めた。また、縦方向に垂直な横方向の膨潤率を上記と同様に測定し、この膨潤率の上記Xに対する割合Yを算出することで、乾湿寸法変化の等方性を評価した。
【0078】
(OCV加速試験)
高温低加湿条件下における高分子電解質膜の耐酸化性を加速的に評価するため、以下のようなOCV加速試験を実施した。ここで言う「OCV」とは、開回路電圧(Open Circuit Voltage)を意味する。このOCV加速試験は、OCV状態に保持することで高分子電解質膜の化学的劣化を促進させることを意図した加速試験である。(OCV加速試験の詳細は、平成14年度日本国新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「固体高分子形燃料電池の研究開発(膜加速評価技術の確立等に関するもの)」日本国旭化成(株)成果報告書p.53〜57に記載されている。)
【0079】
まず、アノード側ガス拡散電極とカソード側ガス拡散電極を向い合わせて、その間に高分子電解質膜を挟み込み、評価用セルに組み込んだ。ガス拡散電極としては、米国DE NORA NORTH AMERICA社製ガス拡散電極ELAT(登録商標)(Pt担持量0.4mg/cm2 、以下同じ)に、5質量%のパーフルオロスルホン酸ポリマー溶液SS−910(旭化成(株)製、当量質量(EW):910、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)を塗布した後、大気雰囲気中、140℃で乾燥・固定化したものを使用した。ポリマー担持量は0.8mg/cm2 であった。
この評価用セルを評価装置(日本国(株)チノー社製)にセットして昇温した後、アノード側に水素ガス、カソード側に空気ガスを200cc/minで流してOCV状態に保持した。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガス、空気ガスともに加湿してセルへ供給した。試験条件としては、セル温度100℃、ガス加湿温度50℃、また、アノード側とカソード側の両方を無加圧(大気圧)とした。
【0080】
上記試験の開始から10時間ごとに、高分子電解質膜にピンホールを生じたか否かを調べるため、日本国GTRテック(株)製フロー式ガス透過率測定装置GTR−100FAを用いて水素ガス透過率を測定した。評価セルのアノード側を水素ガスで0.15MPaに保持した状態で、カソード側にキャリアガスとしてアルゴンガスを10cc/minで流し、評価セル中をクロスリークによりアノード側からカソード側に透過してきた水素ガスとともにガスクロマトグラフG2800に導入し、水素ガスの透過量を定量化する。水素ガス透過量をX(cc)、補正係数をB(=1.100)、高分子電解質膜の膜厚T(cm)、水素分圧をP(Pa)、高分子電解質膜の水素透過面積をA(cm2 )、測定時間をD(sec)とした時の水素ガス透過率L(cc×cm/cm2/sec/Pa)は、下記式から計算される。
L=(X×B×T)/(P×A×D)
水素ガス透過率がOCV試験前の値の10倍に達した時点でクロスリークと判定し、試験終了とした。
【0081】
(燃料電池評価)
下記に作製する膜/電極接合体の初期における電池特性(以下、初期特性と称する)を調べるため、次のような燃料電池評価を実施した。
Pt担持カーボン(日本国田中貴金属(株)社製TEC10E40E、Pt36.4質量%)1.00gに対し、上記前段階溶液を7.33g添加した後、ホモジナイザーでよく混合して電極触媒組成物を得た。この電極触媒組成物をスクリーン印刷法にてPTFEシート上に塗布した。塗布後、室温下で1時間、空気中160℃にて1時間、乾燥した。このようにして、3.5cm角で厚み10μmの電極触媒層を得た。これらの電極触媒層のうち、Pt担持量が0.15mg/cmのものをアノード触媒層とし、Pt担持量が0.30mg/cmのものをカソード触媒層とした。
アノード触媒層、カソード触媒層及び下記に作製する高分子電解質膜を中心部を揃えて向い合わせ、その間に挟み込み、180℃、面圧0.1MPaでホットプレスすることにより、アノード触媒層とカソード触媒層を高分子電解質膜に転写、接合してMEAを作製した。
【0082】
次に、アノード側ガス拡散層とカソード側ガス拡散層を向い合わせて、MEAを挟み込み、評価用セルに組み込んだ。ガス拡散層としては、カーボンクロス(米国DE NORA NORTH AMERICA社製ELAT(登録商標)B−1)をセットして評価用セルに組み込んだ。この評価用セルを評価装置(日本国(株)チノー社製)にセットして80℃に昇温した後、アノード側に水素ガスを300cc/min、カソード側に空気ガスを800cc/minで流し、アノード・カソード共に0.15MPa(絶対圧力)で加圧した。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガスは85℃、空気ガスは75℃で加湿してセルへ供給した状態にて、電流電圧曲線を測定して初期特性を調べた。
【0083】
(耐久性加速評価)
上記のように初期特性を調べた後、以下のように高温低加湿条件下における耐久性を加速的に評価した。
まず、セル温度を100℃とし、アノード側とカソード側共にガス加湿60℃飽和水蒸気圧、無加圧(大気圧)とした。そして、アノード側に水素ガス、カソード側に空気ガスを100cc/minで流してOCV状態に保持した。ここで言う「OCV」とは、開回路電圧(Open Circuit Voltage)を意味する。
【0084】
上記試験の開始から10時間ごとに、高分子電解質膜にピンホールを生じたか否かを調べるため、日本国GTRテック(株)製フロー式ガス透過率測定装置GTR−100FAを用いて水素ガス透過率を測定した。評価セルのアノード側を水素ガスで0.15MPaに保持した状態で、カソード側にキャリアガスとしてアルゴンガスを10cc/minで流し、評価セル中をクロスリークによりアノード側からカソード側に透過してきた水素ガスとともにガスクロマトグラフG2800に導入し、水素ガスの透過量を定量化する。水素ガス透過量をX(cc)、補正係数をB(=1.100)、高分子電解質膜の膜厚T(cm)、水素分圧をP(Pa)、高分子電解質膜の水素透過面積をA(cm)、測定時間をD(sec)とした時の水素ガス透過率L(cc・cm−1・sec−1・Pa−1)は、下記式から計算される。
L=(X×B×T)/(P×A×D)
水素ガス透過率が試験前の値の10倍に達した時点で試験終了とした。
【0085】
[実施例1]
プロトン交換樹脂として、[CF2 CF20.812 −[CF2 −CF(−O−(CF22−SO3 H)]0.188 で表されるパーフルオロスルホン酸重合体(以下、「PFS」と称する)を用いた。また、ポリフェニレンエーテル樹脂として、下記化学式(4)で表されるポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)(旭化成ケミカルズ(株)社製、以下PPE)を用いて、PFS/PPE=87/13(質量比)、プロトン交換容量1.22ミリ当量/g、膜厚20μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
【0086】
【化8】


(式中、nは1以上の整数)

【0087】
まず、PFSの前駆体ポリマーとして、テトラフルオロエチレンとCF2 =CFO(CF22 −SO2 Fとのパーフルオロカーボン重合体(MI:3.0)を製造した。この前駆体ポリマーを、水酸化カリウム(15質量%)とジメチルスルホキシド(30質量%)を溶解した水溶液中に、60℃で4時間接触させて、加水分解処理を行った。その後、60℃水中に4時間浸漬した。次に60℃の2N塩酸水溶液に3時間浸漬した後、イオン交換水で水洗、乾燥することで、イオン交換容量1.41ミリ当量/gのPFSを得た。
【0088】
このPFSをエタノール水溶液(水:エタノール=50.0:50.0(質量比))とともにオートクレーブ中に入れて密閉し、180℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、PFS:水:エタノール=5.0:47.5:47.5(質量比)の組成の前段階溶液Bを製造した。
一方、PPEとしては、30℃、0.5g/dlのクロロホルム溶液で測定した固有粘度が0.52(dl/g)のものを使用した。このPPEをトルエン中に入れ室温にて攪拌し、PPE/トルエン=5.7/94.3(質量比)の組成の前段階溶液Aを作製した。
【0089】
次に13.1gの前段階溶液Aに100gの前段階溶液Bを加えて攪拌してキャスト液とした。このキャスト液中のPFSとPPEの濃度は、各々4.4質量%と0.7質量%であった。
このキャスト液30gをスプレーガン(アネスト岩田(株)社製W−100)に仕込み、60℃に予備加熱したSUS304の金属板に向けて、約15cm離れたところからエアー圧7kg/cm2 で繰り返し吹き付けた。そして、金属板を160℃のオーブンに30分間入れて加熱処理を行った後、水で濡らして金属板から膜を剥がすことにより、膜厚20μmの本発明の高分子電解質膜を得た。この膜は薄い黄白色がかっていた。膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、図1に示すようにPFS(透明な部分)とPPE(黒い部分)とが相分離し、PPEが短径0.01〜4μm、かつアスペクト比が1〜400で針状に均一に分散し、かつ膜厚方向に垂直に配向しているのが確認された。
【0090】
この膜のプロトン伝導度は0.21S/cm、クリープ量は15%であった。また、乾湿寸法変化測定を行ったところ、X=110%、X’=98%と膜の膨潤収縮は小さかった 、Y=0.9と膜の膨潤収縮変化は小さく、また寸法変化は等方的であった。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、100hr試験を行ってもクロスリークは発生しなかった。以上のように、プロトン伝導性を維持しつつ、化学的安定性、機械強度、耐熱性、乾湿寸法安定性に優れた高分子電解質膜が得られた。
【0091】
[実施例2]
34.0gの前段階溶液Aに100gの前段階溶液Bを加えて攪拌してキャスト液(PFSとPPEの濃度は、各々3.7質量%と1.4質量%)としたこと以外は、実施例1と同じ方法によりPFS/PPE=72/28(質量比)、プロトン交換容量0.99ミリ当量/g、膜厚20μmの高分子電解質膜を製造した。この膜は薄い黄白色がかっていた。膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、図2に示すようにPFS(透明な部分)とPPE(黒い部分)とが相分離し、PPEは短径0.01〜0.5μm、かつアスペクト比が1〜10000で繊維状に均一に分散し、かつ膜厚方向に垂直に配向しており、かつさらに分散したPPEが相互に接続された微細構造が観察された。このときの微少結節部の大きさは0.1〜2μmであった。
【0092】
この膜のプロトン伝導度は0.19S/cm、クリープ量は6%であった。また、乾湿
寸法変化測定を行ったところ、X=102%、X’=99%と膜の膨潤収縮変化は小さかった 、Y=0.95と膜の膨潤収縮変化は小さく、また寸法変化は等方的であった。この膜のOCV加速試験を行ったところ、100hr試験を行ってもクロスリークは発生しなかった。以上のように、プロトン伝導性を維持しつつ、化学的安定性、機械強度、耐熱性、乾湿寸法安定性に優れた高分子電解質膜が得られた。
【0093】
[実施例3]
膜厚10μm、PFS/PPE=80/20(質量比)の本発明の高分子電解質膜を以下のように作製した。
実施例1と同じ前段階溶液B,100.0gに対しイソプロピルアルコールを4.2g添加して、PFS:水:エタノール:イソプロピルアルコール=4.8:45.6:45.6:4.0(質量比)の組成の前段階溶液B1を作製した。
一方、実施例1と同じ前段階溶液A,50.0gに対しトルエンを42.5g添加して、PPE:トルエン=2.0:98.0(質量比)の組成の前段階溶液A1を作製した。
【0094】
次に、100.0gの前段階溶液B1に対し62.5gの前段階溶液A1を添加、混合して、白濁した乳濁液状のキャスト液C1を得た。
このキャスト液C1をスワールスプレーガン(ノードソン(株)社製)に仕込み、50℃に加熱したSUS304の金属板に向けて、5cm離れたところから、霧化エアー圧0.4MPa、液圧0.04MPaでキャスト液C1を吹き付けた。この際、スワールスプレーガンをACサーボモーター制御によるX,Y,Zの3軸ロボットに取り付け、X軸速度150 mm/sec、Y軸ピッチ2.5mmで駆動した。この動作を計2回行った。
【0095】
この金属板を160℃のオーブンに30分間入れて加熱処理を行った後、イオン交換水に浸漬して金属板から膜を剥がし、膜厚10μm、PFS/PPE=80/20(質量比)の本発明の高分子電解質膜を得た。この膜は透明だが、僅かに白色がかっていた。膜断面のTEM観察を行ったところ、図3に示すようにPFS(白色部)とPPE(灰色部)とが互いに相分離し、かつ糸状に相分離したPPEが膜厚方向に垂直に配向しているのが確認された。糸状のPPEの短径は0.1〜2μm、長径に対する短径の比率は10〜1000で膜中に均一に分散していた。また、長径に対する短径の比率が1〜2のPPEも観察されているが、これは膜断面と直交していた糸状PPEが切断された断面であると考えられる。
【0096】
この膜のプロトン伝導度は0.21S/cm、クリープ量は6%であった。また、乾湿寸法変化測定を行ったところ、X=100.5%、X’=100%、Y=1.01と膜の膨潤収縮変化は極めて小さく、また寸法変化は等方的であった。この膜のOCV加速試験を行ったところ、100hr試験を行ってもクロスリークは発生しなかった。以上のように、プロトン伝導性を維持しつつ、化学的安定性、機械強度、耐熱性、乾湿寸法安定性に優れた高分子電解質膜が得られた。
【0097】
[実施例4]
実施例2と同じ高分子電解質膜と下記に示す2枚のプロトン交換樹脂膜とをプレス接合して得た高分子電解質積層膜の例について、以下に示す。
実施例1で使用した前段階溶液Bを直径9.1cmのステンレスシャーレに流し込み、これをオーブン中に入れて200 ℃に昇温し、2時間熱処理することにより溶媒の除去を行った。その後、オーブンから取り出し、冷却したステンレスシャーレにイオン交換水を注ぎ、剥離させたフィルムをろ紙ではさんで乾燥させて、膜厚15μmのプロトン交換樹脂膜を得た。このプロトン交換樹脂膜を2枚準備した。
【0098】
このようにして得られた2枚のプロトン交換樹脂膜の間に、実施例2と同じ高分子電解
質膜を入れ、これらの膜をカプトンフィルム(デュポン(株)社製300H、膜厚75μm)で挟み込んだ。これを圧縮成形機(神藤金属工業(株)社製、VSF−10)にセットして、雰囲気が1.6kPaになるまで真空脱気を行い、190℃まで昇温した後、1.5MPaで10分間プレスした。プレス終了後に圧力を開放して50℃まで降温させた後、雰囲気を大気圧に戻し、サンプルを取り出した。
さらに、サンプルをイオン交換水中に浸漬し、カプトンフィルムから膜を剥離させ乾燥させることで、本発明の高分子電解質積層膜を得た。
【0099】
この積層膜のプロトン伝導度は0.22S/cm、クリープ量は6%であった。また、乾湿寸法変化測定を行ったところ、X=102.0%、X’=100%、Y=1.1と膜の膨潤収縮変化は極めて小さく、また寸法変化は等方的であった。この膜のOCV加速試験を行ったところ、100hr試験を行ってもクロスリークは発生しなかった。以上のように、プロトン伝導性を維持しつつ、化学的安定性、機械強度、耐熱性、乾湿寸法安定性に優れた高分子電解質膜が得られた。
【0100】
[実施例5]
実施例4と同じ方法で作製した膜厚10μmプロトン交換樹脂膜上に実施例2と同じキャスト液を噴霧して得た高分子電解質膜2枚と、実施例4と同じ方法で作製した膜厚10μmのプロトン交換樹脂膜1枚とをプレス接合した高分子電解質積層膜の例について、以下に示す。
実施例2で使用したキャスト液を実施例3で用いたものと同じスワールスプレーガンに仕込み、実施例4と同じ方法で作製した膜厚10μmのプロトン交換樹脂膜を金属板に固定後に50℃に加熱し、5cm離れたところから、霧化エアー圧0.4MPa、液圧0.04MPaでキャスト液を吹き付けた。この際、スワールスプレーガンをACサーボモーター制御によるX,Y,Zの3軸ロボットに取り付け、X軸速度150 mm/sec、Y軸ピッチ2.5mmで駆動した。この動作を計2回行った。
【0101】
この金属板を160℃のオーブンに30分間入れて加熱処理を行った後、金属板から膜を剥がして高分子電解質膜を得た。このような高分子電解質膜を2枚準備した。
このようにして得られた高分子電解質膜のキャスト液吹き付け面を上にして2枚重ね、さらにその上に膜厚10μmのプロトン交換樹脂膜をのせ、これらの膜をカプトンフィルム(デュポン(株)社製300H、膜厚75μm)で挟み込んだ。これを実施例4で用いたものと同じ圧縮成形機にセットし、実施例4と同じ手順で本発明の高分子電解質積層膜を得た。
【0102】
この積層膜のプロトン伝導度は0.22S/cm、クリープ量は6%であった。また、乾湿寸法変化測定を行ったところ、X=102.5%、X’=100.5%、Y=0.95と膜の膨潤収縮変化は極めて小さく、また寸法変化は等方的であった。この膜のOCV加速試験を行ったところ、100hr試験を行ってもクロスリークは発生しなかった。以上のように、プロトン伝導性を維持しつつ、化学的安定性、機械強度、耐熱性、乾湿寸法安定性に優れた高分子電解質膜が得られた。
【0103】
[実施例6]
ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、PPSと称する)の微粒子を含んだ、膜厚10μm、PFS/PPE/PPS=80/20/7(質量比)の本発明の高分子電解質膜を以下のように作製した。
PPSレジンとして、シェブロンフィリップス化学(株)社製PR11-10を用い、これをジェットミルで微粉砕し、平均粒径(50%体積ベース)7μmの微粒子を得た。このPPS微粒子を実施例3で作製したものと同じキャスト液C1に添加、混合して白濁したキャスト液C2を得た。
【0104】
このキャスト液C2をスワールスプレーガンに仕込み、実施例3と同じ方法で高分子電解質膜を作製し、膜厚10μm、PFS/PPE/PPS=80/20/7(質量比)の本発明の高分子電解質膜を得た。
この膜のプロトン伝導度は0.20S/cm、クリープ量は6%であった。また、乾湿寸法変化測定を行ったところ、X=100.5%、X’=99%、Y=1.00と膜の膨潤収縮変化は極めて小さく、また寸法変化は等方的であった。この膜のOCV加速試験を行ったところ、200hr試験を行ってもクロスリークは発生しなかった。以上のように、プロトン伝導性を維持しつつ、化学的安定性、機械強度、耐熱性、乾湿寸法安定性に優れた高分子電解質膜が得られた。
【0105】
[実施例7]
PFS/PPE/PPS=80/20/7(質量比)からなる補強層とPFSのみからなる無補強層とが交互に16層積層した本発明の高分子電解質積層膜を以下のように作製した。
キャスト液C2を実施例3で用いたものと同じスワールスプレーガンに仕込み、50℃に加熱したSUS304の金属板に向けて、5cm離れたところから、霧化エアー圧0.4MPa、液圧0.04MPaでキャスト液C2を吹き付けた。この際、スワールスプレーガンをACサーボモーター制御によるX,Y,Zの3軸ロボットに取り付け、X軸速度150 mm/sec、Y軸ピッチ2.5mmで駆動した。この動作を1回行った。
【0106】
引き続き、前段階溶液Bを別のスワールスプレーガンに仕込み、上記と同じように金属板に向けて吹き付けた。この際、スワールスプレーガンをACサーボモーター制御によるX,Y,Zの3軸ロボットに取り付け、X軸速度150 mm/sec、Y軸ピッチ2.5mmで駆動した。この動作を1回行った。
以上のようなキャスト液C2の吹き付けと前段階溶液Bの吹き付けとを各々4回繰り返した。この金属板を160℃のオーブンに30分間入れて加熱処理を行った後、イオン交換水に浸漬して金属板から膜を剥がし、膜厚25μm、補強層と無補強層とが交互に8層積層した膜を得た。
【0107】
以上のような膜を2枚準備し、無補強層側が上に向くように2枚重ね、これらの膜をカプトンフィルムで挟み込んだ。これを実施例4で用いたものと同じ圧縮成形機にセットし、実施例4と同じ手順で本発明の高分子電解質積層膜を得た。この積層膜は、PFS/PPE/PPS=80/20/7(質量比)からなる補強層とPFSのみからなる無補強層とが交互に16層積層されていた。
この膜のプロトン伝導度は0.20S/cm、クリープ量は6%であった。また、乾湿寸法変化測定を行ったところ、X=101.5%、X’=99%、Y=1.03と膜の膨潤収縮変化は極めて小さく、また寸法変化は等方的であった。この膜のOCV加速試験を行ったところ、200hr試験を行ってもクロスリークは発生しなかった。以上のように、プロトン伝導性を維持しつつ、化学的安定性、機械強度、耐熱性、乾湿寸法安定性に優れた高分子電解質膜が得られた。
【0108】
[実施例8]
PFS/PPE/PPS=80/20/7(質量比)からなる補強層とPFSのみからなる無補強層とが交互に16層積層した本発明の高分子電解質積層膜を以下のように作製した。
キャスト液C2を実施例3で用いたものと同じスワールスプレーガンに仕込み、50℃に加熱したSUS304の金属板に向けて、5cm離れたところから、霧化エアー圧0.4MPa、液圧0.04MPaでキャスト液C2を吹き付けた。この際、スワールスプレーガンをACサーボモーター制御によるX,Y,Zの3軸ロボットに取り付け、X軸速度150 mm/sec、
Y軸ピッチ2.5mmで駆動した。この動作を1回行った。
【0109】
引き続き、前段階溶液Bを別のスワールスプレーガンに仕込み、上記と同じように金属板に向けて吹き付けた。この際、スワールスプレーガンをACサーボモーター制御によるX,Y,Zの3軸ロボットに取り付け、X軸速度150 mm/sec、Y軸ピッチ2.5mmで駆動した。この動作を1回行った。
以上のようなキャスト液C2の吹き付けと前段階溶液Bの吹き付けとを各々8回繰り返した。この金属板を160℃のオーブンに30分間入れて加熱処理を行った後、イオン交換水に浸漬して金属板から膜を剥がし、膜厚50μm、補強層と無補強層とが交互に16層積層した本発明の高分子電解質積層膜を得た。この積層膜は、PFS/PPE/PPS=80/20/7(質量比)からなる補強層とPFSのみからなる無補強層とが交互に16層積層されていた。
【0110】
この膜のプロトン伝導度は0.20S/cm、クリープ量は6%であった。また、乾湿寸法変化測定を行ったところ、X=101.3%、X’=99.5%、Y=1.02と膜の膨潤収縮変化は極めて小さく、また寸法変化は等方的であった。この膜のOCV加速試験を行ったところ、200hr試験を行ってもクロスリークは発生しなかった。以上のように、プロトン伝導性を維持しつつ、化学的安定性、機械強度、耐熱性、乾湿寸法安定性に優れた高分子電解質膜が得られた。
【0111】
[実施例9]
PFS/PPE=80/20(質量比)からなる本発明の高分子電解質膜が触媒層エッジに接する部分のみおいて形成した膜/電極接合体について、以下に例示する。
まず、SUS304の金属板に50μmのテフロン(登録商標)テープを4cm角で貼り付けた後、4cm角の中心から3cm角で切り出し中心部を剥がした。この金属板を50℃に加熱し、前段階溶液Bを実施例3で用いたものと同じスワールスプレーガンに仕込み、該金属板に向けて5cm離れたところから、霧化エアー圧0.4MPa、液圧0.04MPaで前段階溶液Bを吹き付けた。この際、スワールスプレーガンをACサーボモーター制御によるX,Y,Zの3軸ロボットに取り付け、X軸速度150 mm/sec、Y軸ピッチ2.5mmで駆動した。この動作を10回行った。
【0112】
次にテフロン(登録商標)テープを剥がし、再び50℃に加熱し、キャスト液C1を実施例3で用いたものと同じスワールスプレーガンに仕込み、該金属板のテフロン(登録商標)テープを剥がした部分に向け5cm離れたところから、霧化エアー圧0.4MPa、液圧0.04MPaでキャスト液C1を吹き付けた。この際、スワールスプレーガンをACサーボモーター制御によるX,Y,Zの3軸ロボットに取り付け、テフロン(登録商標)テープを剥がした部分上を速度150 mm/secで駆動した。この動作を10回行った。
【0113】
この後、金属板を160℃のオーブンに30分間入れて加熱処理を行い、イオン交換水に浸漬して金属板から膜を剥がして本発明の高分子電解質膜を得た。
この高分子電解質膜を用いてMEAを作製し、電池評価を行った。電圧0.6Vにおける電流密度は1.00A/cmであり、初期特性は良好であった。また、耐久性加速評価では、200hr以上の耐久性を示した。この結果から、本発明の高分子電解質膜が触媒層エッジに接する部分のみおいて形成した膜/電極接合体が良好な初期特性と高い耐久性が得られることがわかった。
【0114】
[実施例10]
PFS/PPE=80/20(質量比)からなる本発明の高分子電解質膜がガス入口部及びガス出口部に接する部分のみにおいて形成した膜/電極接合体について、以下に例示する。
まず、SUS304の金属板に50μmのテフロン(登録商標)テープを5cm角で貼り付けた後、5cm角の中心から4cm角で切り出し中心部を剥がした。この金属板を50℃に加熱し、前段階溶液Bを実施例3で用いたものと同じスワールスプレーガンに仕込み、該金属板に向けて5cm離れたところから、霧化エアー圧0.4MPa、液圧0.04MPaで前段階溶液Bを吹き付けた。この際、スワールスプレーガンをACサーボモーター制御によるX,Y,Zの3軸ロボットに取り付け、X軸速度150 mm/sec、Y軸ピッチ2.5mmで駆動した。この動作を10回行った。
【0115】
次にテフロン(登録商標)テープを剥がし、再び50℃に加熱し、キャスト液C1を実施例3で用いたものと同じスワールスプレーガンに仕込み、該金属板のテフロン(登録商標)テープを剥がした部分に向け5cm離れたところから、霧化エアー圧0.4MPa、液圧0.04MPaでキャスト液C1を吹き付けた。この際、スワールスプレーガンをACサーボモーター制御によるX,Y,Zの3軸ロボットに取り付け、テフロン(登録商標)テープを剥がした部分上を速度150 mm/secで駆動した。この動作を10回行った。
この後、金属板を160℃のオーブンに30分間入れて加熱処理を行い、イオン交換水に浸漬して金属板から膜を剥がして本発明の高分子電解質膜を得た。
この高分子電解質膜を用いてMEAを作製し、電池評価を行った。電圧0.6Vにおける電流密度は1.00A/cmであり、初期特性は良好であった。また、耐久性加速評価では、200hr以上の耐久性を示した。この結果から、本発明の高分子電解質膜がガス入口部及びガス出口部に接する部分のみおいて形成した膜/電極接合体が良好な初期特性と高い耐久性が得られることがわかった。
【0116】
[比較例1]
実施例1で使用した前段階溶液Bを直径9.1cmのステンレスシャーレに流し込み、これをオーブン中に入れて200 ℃に昇温し、2時間熱処理することにより溶媒の除去を行った。その後、オーブンから取り出し、冷却したステンレスシャーレにイオン交換水を注ぎ、剥離させたフィルムをろ紙ではさんで乾燥させて、膜厚50μmのプロトン交換樹脂膜を得た。
この膜のプロトン伝導度は0.25S/cm、クリープ量は120%であった。また、乾湿寸法変化測定を行ったところ、X=125.0%、X’=99%と膜の膨潤収縮変化が大きかった。この膜のOCV加速試験を行ったところ、30hr後にクロスリークが発生した。
以上のように、プロトン伝導度は高いものの、化学的安定性、機械強度、耐熱性、乾湿寸法安定性は不十分であり、耐久性は悪かった。
【0117】
[比較例2]
比較例1で作製したものと同じプロトン交換樹脂膜を用いて、MEAを作製し、電池評価を行った。電圧0.6Vにおける電流密度は1.00A/cmであり、初期特性は良好であったが、耐久性加速評価では、100hrでクロスリークが発生し試験を終了した。このように耐久性は不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の高分子電解質膜は、化学的安定性、機械強度、耐熱性、乾湿寸法安定性に優れ、高温下の使用の際にも高耐久性を有する。本発明の高分子電解質膜を用いる固体高分子形燃料電池は、高温低加湿条件下(運転温度100℃近辺で、60℃加湿(湿度20%RHに相当))において長時間運転を行っても、高分子電解質膜の破れ(ピンホールの発生など)が起きることがないので、クロスリーク(膜の破れにより燃料と酸化剤が混合すること)が発生せず、厳しい条件下でも長時間安定に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】針状のポリフェニレンエーテル樹脂が膜厚方向に垂直に配向している実施例1の高分子電解質膜の膜断面図。
【図2】繊維状のポリフェニレンエーテル樹脂が膜厚方向に垂直に配向し、かつ微少結節部を介して相互に連結された構造を有する実施例2の高分子電解質膜の膜断面図。
【図3】糸状のポリフェニレンエーテル樹脂が膜厚方向に垂直に配向している実施例3の高分子電解質膜の膜断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)30.00〜99.99質量%のプロトン交換樹脂と、(b)0.01〜70.00質量%のポリフェニレンエーテル樹脂を少なくとも有する高分子電解質膜であって、該プロトン交換樹脂と該ポリフェニレンエーテル樹脂とは互いに相分離しており、かつ、糸状、繊維状、針状から選ばれる1種以上の形態で分散したポリフェニレンエーテル樹脂が膜厚方向に垂直に配向していることを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項2】
該ポリフェニレンエーテル樹脂が膜厚方向に垂直な平面において、ランダムに配向していることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
糸状、繊維状、針状から選ばれる1種以上の形態で分散した該ポリフェニレンエーテル樹脂の短径が0.01〜100μmであり、長径/短径の比率が1〜10000であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
糸状、繊維状、針状から選ばれる1種以上の形態で分散した該ポリフェニレンエーテル樹脂が微少結節部を有し、かつ相互に連結された構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
該微少結節部の大きさが0.01〜10μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
該プロトン交換樹脂が、フッ素系高分子電解質であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項7】
膜平面のある方向をX軸とし、それに直交する方向をY軸とした場合に、X軸、Y軸方向各々の25℃,20%RHで膜サンプルを8時間放置したときの寸法に対する、80℃水中で1時間放置したときの寸法の比である湿潤時の膨潤率が100〜105%であり、かつX軸方向の該膨潤率に対するY軸の該膨潤率の割合が0.5〜1.5であって、等方的に優れた乾湿寸法安定性を示すことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項8】
プロトン交換樹脂を有するフィルム2層以上の積層体からなる高分子電解質積層膜であって、該フィルムの少なくとも1層のフィルムが請求項1〜7のいずれか1項に記載の高分子電解質膜であることを特徴とする高分子電解質積層膜。
【請求項9】
高分子電解質膜の製造方法であって、
(a)プロトン交換樹脂が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して30.00〜99.99質量%と、
(b)ポリフェニレンエーテル樹脂が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.01〜70.00質量%とを、
液状媒体と混合してキャスト液とし、該キャスト液を支持体上に噴霧することにより高分子電解質膜を形成することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項10】
該キャスト液をスプレーガンのノズルに供給し、圧縮気体の渦巻き流を発生させて、ノズルから出た該キャスト液を砕き霧化して、支持体表面へ向け円錐状に噴霧することで高分子電解質膜を形成することを特徴とする請求項9に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の高分子電解質膜、もしくは高分子電解質積層膜がアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体であって、アノードはアノ
ード触媒層からなり、プロトン伝導性を有し、カソードはカソード触媒層からなり、プロトン伝導性を有することを特徴とする膜/電極接合体。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の高分子電解質膜、もしくは高分子電解質積層膜がアノード触媒層及び/又はカソード触媒層のエッジに接する部分のみにおいて形成されていることを特徴とする請求項11に記載の膜/電極接合体
【請求項13】
請求項11又は12に記載の膜/電極接合体を包含し、アノードとカソードが、高分子電解質膜もしくは高分子電解質積層膜の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の高分子電解質膜、もしくは高分子電解質積層膜がアノードガス入口部、アノードガス出口部、カソードガス入口部、出口部から選ばれる少なくとも1種の入口部及び/又は出口部のみにおいて形成されていることを特徴とする請求項13に記載の固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−128095(P2006−128095A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283243(P2005−283243)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】