説明

補強材、エポキシ樹脂組成物およびその製造方法ならびにエポキシ樹脂複合材料

【課題】
層状粘土鉱物をナノ分散させることにより、曲げ強度、曲げ弾性率および破壊靱性値等の機械的特性の改良された、フェノール系硬化剤を使用して得られるエポキシ樹脂複合材料を提供することを目的とする。
【解決手段】
テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物と熱硬化性エポキシ樹脂とを3本ロール、ビーズミル、エクストルーダーまたはニーダーのいずれかの混練機を用いて混練し、得られた混練物に、熱硬化性エポキシ樹脂の残量部および1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール系硬化剤を添加混合して得られる組成物を熱硬化させることにより、該層状粘度鉱物が微分散し、曲げ強度等の機械的特性が大きく向上したエポキシ樹脂複合材料を製造することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機変性層状粘土鉱物がナノ分散したエポキシ樹脂複合材料に関する。さらに詳しくは、本発明は、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物からなる補強材、該補強材を含有するエポキシ樹脂組成物およびその製造方法ならびに該組成物を硬化して得られ、該層状粘土鉱物がナノ分散し、曲げ強度等の物性が改善されたエポキシ樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
層状粘土鉱物は、フィラーとして樹脂に添加したときに、樹脂中で分子レベルで分散(ナノ分散、ナノコンポジット化ともいう。)させることにより極めて大きな界面積を得ることができる。このため、少量の層状粘土鉱物の添加により、炭酸カルシウムやタルクなどの大量に添加する必要がある無機材料を用いた場合と同等もしくはそれ以上に、樹脂の物性を向上させることが可能となる樹脂複合材料が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これまで、ポリオレフィン樹脂やアクリル樹脂などの熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂複合材料は著しい進歩を遂げている(特許文献2参照)。一方、熱硬化性樹脂を用いた複合材料は開発初期段階であり、熱硬化性樹脂の1つであるエポキシ樹脂の硬化物中に層状粘土鉱物をナノ分散させることが困難なため、機械的特性を向上させたエポキシ樹脂複合材料を作製することができなかった。
【0004】
近年、層状粘土鉱物中の有機変性部位またはエポキシ樹脂複合材料の製造方法の改良により、エポキシ樹脂硬化物においても層状粘土鉱物をナノ分散させ、樹脂の物性を改善することが可能になった。例えば特許文献3には、アンモニウム基およびアミノ基を有する有機化合物にて有機化処理された層状粘土鉱物を配合することにより、弾性率の高いエポキシ樹脂組成物が得られることが記載されている。
【0005】
さらに、非特許文献1では、酸無水物硬化剤を使用したエポキシ樹脂複合材料において、4級アンモニウム変性合成スメクタイトを添加することにより、耐熱特性や機械的特性などが向上することが報告されている。
【0006】
しかし、難燃性、耐湿性および成型加工性に優れ、半導体封止成形材料やプリント回路基板などに使われる、フェノール系硬化剤を使用したエポキシ樹脂硬化物では、ナノコンポジット化により物性を向上させることが未だに困難である。
【0007】
特許文献4には、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂用硬化剤(フェノール化合物およびその誘導体)との混合物に、ドデシルトリフェニルホスホニウム塩(あるいはトリオクチルメ
チルアンモニウム塩:実施例1)などの4級ホスホニウム塩を用いて有機変性した層状珪
酸塩およびゴム成分を添加して攪拌することにより、得られるエポキシ樹脂組成物から高温物性や寸法安定性などが改善された成形体が得られることが記載されている。該特許文献4に記載されたエポキシ樹脂組成物では、そこに必須成分として含有されるゴム成分が該組成物を硬化させた場合の耐衝撃性等の改善効果に寄与しているものである。
【0008】
しかしながら、この特許文献4に記載のドデシルトリフェニルホスホニウム塩などと同様に1個の鎖状アルキル基(例:ドデシル、メチルなど)と3個のフェニル基とを有するホスホニウム塩、あるいは、4個の鎖状アルキル基を有するアンモニウム塩(例:トリオク
チルメチルアンモニウム塩)にてマイカ等を変性してなる有機変性層状珪酸塩(例:オクタデシルトリフェニルホスホニウム変性膨潤性合成マイカ)などを用いても、得られる複合材料の強度は著しく低下し、破壊靭性値や弾性率も低下してしまい、所望の物性の複合材料は得られない(本願比較例4参照)。
【0009】
なお、この特許文献4には、4級ホスホニウム塩のうちでもテトラフェニルホスホニウム塩を層状珪酸塩(粘土鉱物)の化学修飾に用いるとの技術的思想は具体的に何ら示されていない。まして、変性層状粘土鉱物を、エポキシ樹脂やその硬化剤などビーカー内で攪拌するだけでなく、特定の方法で混合等すれば、強度、弾性率、破壊靭性値等に優れた成形体が得られ、しかも成形体の製造に際しては、上記組成物を型内に流し込み成型加工性良く所望の形状に成形できることなど、示唆すらされていない。
【0010】
なお、本発明者らは以前に、テトラフェニルホスホニウム塩を除くホスホニウム塩で有機変性した層状粘土鉱物が高温でのみエポキシ樹脂用硬化促進剤として機能することを見出している(特許文献5参照)。ところが、これらの有機変性層状粘土鉱物についてはエポキシ樹脂硬化物に対する補強材としての効果を見出すことができない。(その原因としては、エポキシ樹脂硬化物との親和性が充分でないことなどが考えられる。)
【特許文献1】特開2003−105200号公報
【特許文献2】特開2003−119020号公報
【特許文献3】特開2004−307681号公報
【特許文献4】特開2004−051976号公報
【特許文献5】特開2005−048047号公報
【非特許文献1】電気学会論文誌A、124(11)、1065(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、層状粘土鉱物をナノ分散させることにより機械的特性の改良された、フェノール系硬化剤を使用して得られるエポキシ樹脂複合材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、エポキシ樹脂硬化物中で層状粘土鉱物をナノ分散させ得るための有機変性剤ならびに有機変性層状粘土鉱物をナノ分散させたエポキシ樹脂複合材料の製造方法を鋭意検討した。その結果、特定の層状粘土鉱物(A)と、熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)とを、特定の方法で混合してエポキシ樹脂組成物を調製し、この組成物を硬化させることにより、特定の変性層状粘土鉱物(A)がエポキシ樹脂硬化物中でナノ分散しており、曲げ強度、曲げ弾性率および破壊靱性値等の機械的特性が大きく改善されたエポキシ樹脂複合材料を製造することが可能であることを見出した。
【0013】
また、この特定の変性層状粘土鉱物(A)は、エポキシ樹脂硬化物に対する補強材などとして作用することも見出された。
すなわち本発明の要旨は、下記[1]〜[7]および[8]にある。
[1] テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)からなり、熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)とを含む未硬化のエポキシ樹脂組成物中に配合され、該組成物を硬化させて得られる成形体の物性改善用の補強材。
[2] テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)が、膨潤性2:1型層状粘土鉱物を用いて調製されたものであることを特徴とする、上記[1]に記載の補強材。
[3] テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)と熱硬化性エポキシ樹脂(
B)と1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)とが含まれたエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、かつ、
上記[1]または[2]に記載のテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)からなる補強材と、熱硬化性エポキシ樹脂(B)とを、該熱硬化性エポキシ樹脂(B)に対して該補強材を0.01〜5重量倍の割合で用いて、予め3本ロール、ビーズミル、エクストルーダーまたはニーダーのいずれかの混練機を用いて混練する工程(1a)、
工程(1a)で得られた混練物と、残余の成分である該補強材または硬化性エポキシ樹脂(B)とを混合する工程(1b)、
その後、工程(1b)で得られた混合物と、上記エポキシ樹脂用硬化剤(C)とを混合する工程(2)
を含むことを特徴とする、成分(A)、(B)および(C)を含有するエポキシ樹脂組成物の製造方法。
[4] テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)と熱硬化性エポキシ樹脂(B)と1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)とが含まれたエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、かつ、
(上記[1]または[2]に記載のテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)からなる補強材全量)<(熱硬化性エポキシ樹脂(B)全量)の関係にある場合に、
該熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、上記補強材とを、該熱硬化性エポキシ樹脂(B)に対して該補強材を0.05〜4重量倍の割合で用いて、予め3本ロール、ビーズミル、エクストルーダーまたはニーダーのいずれかの混練機を用いて混練する工程(1a)、
次いで、工程(1a)で得られた混練物に残余の熱硬化性エポキシ樹脂(B)を添加し混合する工程(1b)、
その後、工程(1b)で得られた混合物に、上記エポキシ樹脂用硬化剤(C)を添加し混合する工程(2)
を含むことを特徴とする、上記[3]に記載のエポキシ樹脂組成物の製造方法。
[5] 上記所定量の熱硬化性エポキシ樹脂(B)と上記補強材とを、予め3本ロール、ビーズミル、エクストルーダーまたはニーダーのいずれかの混練機を用いて混練する工程(1a)において、熱硬化性エポキシ樹脂(B)に対して、補強材としてのテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)を0.9〜1.1重量倍の範囲で用いることを特徴とする、上記[3]〜[4]の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物の製造方法。
[6] 上記[3]〜[5]の何れかに記載の製造方法により得られることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
[7] 熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)との合計量((B)+(C))100重量部に対して、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)が0.5〜50.0重量部の範囲で配合されていることを特徴とする、上記[6]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[8] 上記[6]〜[7]の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化することにより得られることを特徴とするエポキシ樹脂複合材料。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、機械的特性、特に曲げ強度、曲げ弾性率および破壊靱性値が大きく向上したエポキシ樹脂複合材料が提供される。
また、本発明に係るテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)は、エポキシ樹脂硬化物用の補強材として有効である。
【0015】
本発明によれば、機械的特性、特に曲げ強度、曲げ弾性率および破壊靱性値が大きく向上したエポキシ樹脂複合材料を製造し得る、新規なエポキシ樹脂複合材料の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るエポキシ樹脂組成物に含有される成分およびエポキシ樹脂複合材料の製造方法等について説明する。
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)、熱硬化性エポキシ樹脂(B)および1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)を含有する、後述するような特定の製法で調製された未硬化物である。
【0017】
また、本発明に係るエポキシ樹脂複合材料は、上記のエポキシ樹脂組成物を熱硬化させて得られ、この変性層状粘土鉱物(A)が複合材料中に良好に微分散、好ましくはナノ分散した状態にあり、曲げ強度、曲げ弾性率および破壊強靱性などの物性等に優れた硬化物である。
【0018】
すなわち、本発明では、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)は、熱硬化性エポキシ樹脂(B)および1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)が含まれたエポキシ樹脂組成物中に配合されることにより、得られるエポキシ樹脂硬化物に対する上記特性を発揮可能な補強材として働く化合物である。
【0019】
なお、本発明で「ナノ分散」とは、この変性層状粘土鉱物(A)が、エポキシ樹脂組成物中に、またその硬化物中にナノレベルの寸法で微分散している状態をいう。
<エポキシ樹脂組成物>
以下、エポキシ樹脂組成物に含まれている各成分(A)〜(C)について説明する。
【0020】
(A)テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物
本発明におけるテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)は、層状粘土鉱物の層間および/または表面に、(Ph)4+[式中、Phはフェニル基を示す。]で表されるテトラフェニルホスホニウムイオンがインターカレートした、すなわち、テトラフェニルホスホニウムイオンと、層状粘土鉱物の層間および/または表面の無機陽イオン(例:Na+、K+)とがイオン交換され、元々の無機陽イオンの部位にテトラフェニルホスホニウムイオンが物理的結合(例:吸着)および/または化学的結合(例:イオン結合)が形成された、有機化された層状粘土鉱物である。
【0021】
テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)は、層状粘土鉱物の層間や表面に存在するナトリウムやカリウムなどの交換性陽イオンがテトラフェニルホスホニウムイオンでイオン交換され、適度に疎水化された結果、1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール系硬化剤(C)を使用したエポキシ樹脂硬化物との親和性が向上し、エポキシ樹脂複合材料内でナノ分散することが容易になると考えられる。
【0022】
このようなテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)は、これを含有してなるエポキシ樹脂複合材料の、曲げ強度、曲げ弾性率および破壊強靱性などの物性を改善する「補強材」としての役割を果たす。
【0023】
このテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)は、公知の方法(例えば特開2001−254021号公報参照)を適宜利用し、層状粘土鉱物とテトラフェニルホスホニウム化合物とを接触させることにより調製することができる。例えば、テトラフェニルホスホニウムの水溶液、あるいはテトラフェニルホスホニウムと水とアルコールとの混合溶液を調製し、この水溶液(または混合溶液)を、層状粘土鉱物が水中に分散された水分散液に加えて混合し、得られた混合物から水(または、水とアルコール)を除去することにより、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)が得られる。なお、このようにして層状粘土鉱物を有機化するテトラフェニルホスホニウム化合物を「有機変性剤
」と呼ぶこともある。
【0024】
テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)の調製に用いられる層状粘土鉱物としては、膨潤性2:1型層状粘土鉱物が好ましい。より具体的には、層電荷が有限なマイカまたはスメクタイトが好ましく、このようなマイカまたはスメクタイトとしては、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイトなどのスメクタイト系層状粘土鉱物、膨潤性マイカなどが挙げられる。なかでも、モンモリロナイトおよび/または膨潤性マイカが特に好ましい。上記層状粘土鉱物は天然物または合成物のいずれであってもよい。これらの層状粘土鉱物は、単独で使用されてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0025】
上記層状粘土鉱物としては、さらに、下記数式:
「形状異方性効果=薄片状結晶の積層面の表面積/薄片状結晶の積層側面の表面積」
で定義される形状異方性効果の大きい層状粘土鉱物が好ましい。形状異方性効果の大きい層状粘土鉱物塩を用いることにより、本発明のエポキシ樹脂複合材料はより優れた機械的特性を有するものとなる。
【0026】
また、上記層状粘土鉱物の陽イオン交換容量は10〜300ミリ当量/100gであり、アスペクト比は30以上であることが好ましい。
テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)の調製に用いられるテトラフェニルホスホニウム化合物としては、トリフェニルホスフィン:(Ph)3P[式中、Phはフ
ェニル基を示す。]を、ハロゲン化ベンゼン:(Ph)X[式中、Phはフェニル基を、XはF、Cl、Br、Iなどのハロゲン基を示す。]で4級化した化合物:[(Ph)4+]X-[式中、Phはフェニル基を、Xはハロゲン基を示す。]が好適である。
【0027】
このような化合物としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムフルオライド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムアイオダイドが挙げられる。
【0028】
(B)熱硬化性エポキシ樹脂
本発明で使用される熱硬化性エポキシ樹脂(B)は、少なくとも1分子中に2個以上のエポキシ基を持つエポキシ樹脂であれば特に限定されない。
【0029】
このような熱硬化性エポキシ樹脂(B)としては、例えば、
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂;
ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールB型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂;
などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0030】
(C)エポキシ樹脂用硬化剤
本発明で使用されるエポキシ樹脂用硬化剤(C)は、1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有する化合物もしくは樹脂であれば特に限定されない。例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、トリスフェノール樹脂、キシリレン変性ノボラック樹脂、テルペン変性
ノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂用硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0031】
その他の成分
本発明に係るエポキシ樹脂組成物には、所望により、追加成分として難燃剤、無機充填剤などが含まれていてもよい。このような難燃剤としては、金属水和物、ホスフィンオキサイド等が挙げられる。また、無機充填剤としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ等が挙げられる。さらに必要により、例えばトリフェニルホスフィンなどの硬化促進剤が含有されていてもよい。
【0032】
成分の配合比
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、上記のテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)を、熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、上記のフェノール系硬化剤(C)との合計配合量((B)+(C))100重量部に対して、通常0.5〜50.0重量部、好ましくは1.0〜10.0重量部の範囲で含んでいることが望ましい。このエポキシ樹脂組成物中における変性層状粘土鉱物(A)の配合量が上記範囲より少な過ぎると、エポキシ樹脂組成物を加熱硬化して得られるエポキシ樹脂複合材料の物性改善効果が低下し、逆に上記範囲を超えて多過ぎても得られる複合材料の物性改善効果は低下し、さらにエポキシ樹脂組成物の流動性が低下することから、該組成物を所望の型内へ流し込み所望形状に成形加工する場合に、加工性が悪くなるおそれがある。
【0033】
また、本発明に係るエポキシ樹脂組成物では、熱硬化性エポキシ樹脂(B)100重量部{=後述する工程(1a)と工程(1b)で用いられる成分(B)の合計量。}に対して、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)は、通常、0.8〜81.0重量部、好ましくは1.6〜16.2重量部の範囲で含まれていることが、得られる複合材料中での補強材の微分散性、複合材料の強度、弾性率、破壊靭性値、あるいは熱膨張等を考慮すると望ましい。
【0034】
なお、成分(A)の割合が上記範囲を下回ると、エポキシ樹脂組成物から得られるエポキシ樹脂複合材料の物性が充分に向上せず、また成分(A)の割合が上記範囲を上回るとエポキシ樹脂組成物はボソボソしてうまく混練を行えない傾向がある。
【0035】
<エポキシ樹脂組成物の製造方法>
本発明に係るエポキシ樹脂組成物の製造方法は、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)からなる補強材と、熱硬化性エポキシ樹脂(B)とを、予め、図1に示す
ような3本ロール、あるいは図示せぬビーズミル、エクストルーダーまたはニーダーのいずれかの混練機を用いて混練する工程(1a)、ならびに、この混練物に、1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)を添加し混合する工程(2)を含む。
【0036】
すなわち、本発明では、所定量の成分(A)、(B)および(C)のうち、上記熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)からなる補強材とを、該熱硬化性エポキシ樹脂(B)に対して該補強材を0.01〜5重量倍、好ましくは0.05〜4重量倍、特に好ましくは0.9〜1.1重量倍の割合で用いて、予め3本ロール、ビーズミル、エクストルーダーまたはニーダーのいずれかの混練機を用いて混練する工程(1a)を行う。この混練工程(1a)で用いられるエポキシ樹脂成分(B)量を(b1)とする。
【0037】
次いで、工程(1b)で得られた混練物と、残余の成分(上記補強材または硬化性エポキシ樹脂(B))とを混合する工程(1b)(これら工程(1a)と(1b)とを合わせて工程(
1)とも言う。)を行う。
【0038】
この工程(1b)で用いられるエポキシ樹脂成分(B)量を(b2)とすると、本発明で用いられるエポキシ樹脂(B)の全量(B)は、これら工程(1a)と(1b)で用いられる量の合計であり、全量(B)=(b1)+(b2)となる。
【0039】
本発明では、その後、工程(1b)で得られた混合物と、上記エポキシ樹脂用硬化剤(C)とを混合する工程(2)を行う。このような方法により、成分(A)がナノオーダーで一様に微分散された本発明に係るエポキシ樹脂組成物を効率よく短時間に製造することができる。
【0040】
特に、本発明の好ましい態様では、樹脂と層状粘土鉱物との親和性の観点から、上記補強材量と、熱硬化性エポキシ樹脂量とが、(テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)からなる補強材全量)<(熱硬化性エポキシ樹脂(B)全量)の関係にあるることが望ましい。
【0041】
このような好ましい態様では、上記工程(1a)において、該熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、上記補強材とを、該熱硬化性エポキシ樹脂(B)に対して該補強材(すなわち成分(A))を通常0.01〜5重量倍、好ましくは0.05〜4重量倍、特に好ましくは0.9〜1.1重量倍の量で用いて、予め3本ロール、ビーズミル、エクストルーダーまたはニーダーのいずれかの混練機を用いて混練する工程(1a)を行い(この工程(1a)で用いるエポキシ樹脂成分(B)の量を(b1)とする。)、
上記工程(1b)では、工程(1a)で得られた混練物に残余の熱硬化性エポキシ樹脂(B)を添加し混合する工程(1a)を行い(この工程(1b)で用いるエポキシ樹脂成分(B)の量を(b2)とする。)、
その後、上記と同様に、工程(1b)で得られた混合物に、上記エポキシ樹脂用硬化剤(C)を添加し混合する工程(2)を行うことが望ましい。
【0042】
以下、この好ましい態様における各工程(1)、(2)等について説明する。
工程(1)[(1a)および(1b)]>
本発明の好ましい態様である「補強材全量<成分(B)量」の場合は、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)に熱硬化性エポキシ樹脂(B)の添加を2回かそれ以上の工程に分けて行う必要があり、作業効率等の点から好適な、「成分(A)に成分(B)の添加を2回に分けて行う工程」につき説明する。
【0043】
成分(A)と成分(B)の混練工程(1)では、まず所定量(B){=(b1)+(b2)}の成分(B)のうちの一部(b1)と、成分(A)の全量とを配合し、下記の3本ロール等の混練機を用いて十分に混練する前段の混練工程(1a)が行われ、次いで、得られた混練物に成分(B)の残部(b2)を添加し混合する後段の混合工程(1b)が行われる。
【0044】
特に前段の混練工程(1a)は、熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)とを、3本ロール、ビーズミル、エクストルーダーまたはニーダーの4種類のいずれかの混練機を用いて入念に混練する工程である。
【0045】
上記3本ロール等の4種類の混練機は、何れもそれら自体は従来より公知のものであり、これらのうち3本ロールは、図1に示すように、フィードロールとセンターロールとエプロンロールとが互いの回転軸が平行となるようにこの順序で配設され、しかもセンターロールを挟持するようにフィードロールとエプロンロールとがセンターロールに強く押し当てられている。このような3本ロールを用いた上記配合成分の混練では、図1に示すように、フィードロールとセンターロールの接触部(狭隘部)上方より、例えば、成分(B
)と成分(A)とを投入すると、フィードロールよりセンターロールの方が混練物の付着性が大きい場合、これら成分はこれらロール間隙を通過することにより加圧下に微粉砕されながら混練されセンターロール面に付着するように押出されて、次いでセンターロールとエプロンロール間に移送され、これらロール間でさらに微粉砕されると共に、より均一に混合される。また、センターロールよりエプロンロールの方が混練物の付着性が大きい場合、これら間隙を通過した混練物はエプロンロール面に付着するように押出されてくるので、通常、エプローンロールに取り付けたドクターブレード(ナイフエッジ状のスクレーパー)等により掻き取られる。
【0046】
このように「補強材全量<成分(B)量」で用いる本発明の好ましい態様では、前段の混練工程(1a)において、3本ロール等の混練機に成分(A)全量と、成分(B)の一部(b1)とを上記配合比で投入して、十分に混練する。
【0047】
本発明ではこの3本ロール等の混練機を複数組(セット)用いてもよく、また、混練すべき成分を、必要によりこの3本ロール等の混練機に複数回挿通させてもよい。また、これら種々の混練機を1種または2種以上組合わせて用いてもよい。
【0048】
本発明では、3本ロール、ビーズミル、エクストルーダーまたはニーダーのいずれかの混練機を用いてこの前段の混練工程(1a)を行い、かつ後段の混合工程(1b)を行うことにより、最終的に得られるエポキシ樹脂複合材料中にテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)を十分にナノ分散させ、エポキシ樹脂複合材料の曲げ強度などの物性を改善することが可能となる。
【0049】
上記混練工程(1a)は、配合成分の添加順序、配合比等にも拠るが、通常30分〜1時間かけて行うことが好ましい。
上記のように前段の混練工程(1a)で最初に用いられる成分(B)の量(b1)は、特に限定されないが、成分(A)の重量に対して等量で用いることが、得られる複合材料中での補強材の微分散性、複合材料の強度、弾性率、破壊靭性値等を考慮すると最も望ましい。
【0050】
一般的には、本発明では前段の混練工程(1a)では、成分(B)の量(b1)に対して補強材としての成分(A)は、通常、0.01〜5重量倍、好ましくは0.05〜4重量倍で使用でき、また特に好ましくは0.9〜1.1重量倍程度の重量で用いることが混合効率、微分散性、上記物性等の点で最も望ましい。
(換言すれば成分(A)全量に対して成分(B)の初期配合量(b1)は、0.5〜1.5倍、好ましくは0.8〜1.2倍、特に好ましくは0.9〜1.1倍程度の重量であることが混合効率、微分散性等の点で望ましい。)
後段の混合工程(1b)で新たに添加される成分(B)の量、すなわち残部量(b2)は、本発明に係るエポキシ樹脂組成物中に含まれる熱硬化性エポキシ樹脂(B)100重量部{工程(1a)と工程(1b)で用いられる成分(B)の合計量(b1)+(b2)}に対して、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)が、通常、0.8〜81.0重量部、好ましくは1.6〜16.2重量部の範囲の関係を満たす量であることが前記した理由から望ましい。
【0051】
後段の混合工程(1b)は、上記の混練工程(1a)から得られた混練物に残部量(b2)の成分(B)を添加し、常法により混合することにより実施できるが、この混合工程(1b)は例えば混合機(例:「スリーワンモーター BL 1200」(新東科学(株)製)を使用し、成分(B)および(C)の溶融温度条件下である100℃前後の温度条件で数時間(例:1〜24時間)、よく攪拌して行うことが好ましい。なお、この混合工程(1b)で添加される残部量の成分(B)は、前述した成分(A)、(B)および(C)の配合比ならびに混練工程(1a)で添加される成分(B)の量に応じて変動する。
【0052】
なお、本発明では前記混練工程(1a)の前に、予め、これら成分[(A)と(b1)]を1時間程度攪拌しておいてもよい。この予備攪拌に際しては、上記したような汎用の混合機(例えばニーダー、バンバリーミキサー、インターミックス、1軸押出機、2軸押出機など)を用いてもよい。また必要により、硬化反応等が実質上進行しない程度の低い温度(例:20〜100℃)で短時間(例:10〜30分)、加熱等してもよい。
【0053】
<工程(2)>
本発明では、上記工程(1b)の後、上記エポキシ樹脂用硬化剤(C)、さらに必要により前記の「その他の成分」を添加し、混合する工程が行われる。この工程(2)も常法により行うことができるが、例えば、100℃前後の温度下に保持し、添加される成分(C)、その他の成分等を溶融しておき、これに前工程(1b)で得られた混合物を添加し、100℃前後の温度条件で数分間攪拌して行うことが望ましい。なお、この混合工程(2)で添加される成分(C)の量は、前述した(A)、(B)および(C)の配合比に基づき決定される。
【0054】
本発明では、配合成分(A)〜(C)等が含まれたエポキシ樹脂組成物を上記工程により製造しているので、層状粘土鉱物がナノ分散して樹脂との親和性が向上するため物性が改質するという効果が得られる傾向にある。
【0055】
<エポキシ樹脂複合材料の製造方法及び利用>
本発明におけるエポキシ樹脂複合材料は、上記(1a)〜(2)の工程によるエポキシ樹脂組成物の調製後、このエポキシ樹脂組成物を常法に従って熱硬化させることにより製造することができる。この際には、所望の金型等を用いてもよい。
【0056】
これにより得られる、テトラフェニルホスホニウムイオン変性層状粘土鉱物(A)が含有された熱硬化エポキシ樹脂複合材料は、曲げ試験(JIS K 7203準拠)では強度が180MPa以上200MPa程度以下と優れ、また弾性率が3.8GPa以上4.3GPa以下と優れ、しかも破壊靭性試験(ASTM−E399準拠)では破壊靭性値が1.5MN/m3/2以上2.0MN/m3/2以下程度と優れており、コーティング材料、電気絶縁材料、積層物、建築材料、接着材料として、従来のエポキシ樹脂と同様の分野に好適に使用することができる。
【0057】
[実施例]
次に、本発明に係るテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物を添加したエポキシ樹脂複合材料の製造方法などについて、実施例等をもって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等により何ら限定されるものではない。
【0058】
[有機変性層状粘土鉱物の調製例1]
未変性膨潤性合成マイカ(a)(商品名「DMA350」、トピー工業社製、全陽イオン交換容量0.8mmol/g)30.0gを80℃のイオン交換水400gに分散させた。次いで、テトラフェニルホスホニウムブロマイド(商品名「TPP―PB」、北興化学工業社製、分子量:419.3)11.4gをメタノール80.0g、イオン交換水40.0gの混合溶媒に20℃で溶解し、この溶液を膨潤性合成マイカ分散液中に加えたところ沈殿物を得た。この沈殿物を濾過し80℃の水で2回洗浄した後に、凍結乾燥することによりテトラフェニルホスホニウム変性膨潤性合成マイカ(A−1)を調製した。
【0059】
[有機変性層状粘土鉱物の調製例2]
上記調製例1において、テトラフェニルホスホニウムブロマイド11.4gの代わりに、オクタデシルトリフェニルホスホニウムブロマイド(分子量:595.7)16.2g
を使用した以外は調製例1と同様にして、オクタデシルトリフェニルホスホニウム変性膨潤性合成マイカ(A−2)を調製した。
【実施例1】
【0060】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B−1)(商品名「エピコート807」、ジャパンエポキシレジン社製)5重量部と、先に調製したテトラフェニルホスホニウム変性膨潤性合成マイカ(A−1)5重量部とをビーカーに加えて1時間攪拌した後、3本ロール{EXAKT社製、運転条件:室温(20〜30℃)}で1時間混練した。
【0061】
次いで、得られた混練物を別の容器内に入れ、この混練物にビスフェノールF型エポキシ樹脂(B−1)95重量部を添加し、100〜110℃の温度条件で、混合機{新東科学(株)製、型番:「スリーワンモーター BL 1200」}にて5時間攪拌した後、予め設定温度100℃で溶融したフェノールノボラック樹脂(C−1)(商品名「ショウノールBRG−556」、昭和高分子社製)62重量部と、トリフェニルホスフィン(D−1)(北興化学工業社製)0.8重量部との溶融物に加えた。次いで、100〜110℃の温度条件で2分間攪拌し、次いで、あらかじめ設定温度110℃で熱した金型(200mm×200mm×9mm)に注型した後、脱泡して135℃で3時間硬化させ、さらに200℃で5時間後硬化させて、エポキシ樹脂複合材料を製造した。
【0062】
[比較例1]
100〜110℃の温度条件でフェノールノボラック樹脂(C−1)62重量部と、トリフェニルホスフィン(D−1)0.8重量部とを30分間攪拌した後、あらかじめ設定温度110℃で保温しておいたビスフェノールF型エポキシ樹脂(B−1)100重量部を加えた。次いで、100〜110℃の温度条件で2分間攪拌し、あらかじめ設定温度110℃で熱した同上の金型(200mm×200mm×9mm)に注型した後、脱泡して135℃で3時間硬化させ、さらに200℃で5時間硬化させて、エポキシ樹脂複合材料を製造した。
【0063】
[比較例2]
実施例1におけるテトラフェニルホスホニウム変性膨潤性合成マイカ(A−1)5重量部の代わりに、未変性膨潤性合成マイカ(a)5重量部を使用し、それ以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂複合材料を製造した。
【0064】
[比較例3]
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B−1)100重量部とテトラフェニルホスホニウム変性膨潤性合成マイカ(A−1)5重量部との混合物を100〜110℃の温度条件で5時間攪拌した後、あらかじめ設定温度100℃で溶融したフェノールノボラック樹脂(C−1)62重量部とトリフェニルホスフィン(D−1)0.8重量部との溶融物に加えた。100〜110℃の温度条件で2分間攪拌し、あらかじめ設定温度110℃で熱した金型(200mm×200mm×9mm)に注型した後、脱泡して135℃で3時間硬化させ、さらに200℃で5時間後硬化させて、エポキシ樹脂複合材料を製造した。
【0065】
[比較例4]
実施例1におけるテトラフェニルホスホニウム変性膨潤性合成マイカ(A−1)5重量部の代わりに、オクタデシルトリフェニルホスホニウム変性膨潤性合成マイカ(A−2)5重量部を使用し、それ以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂複合材料を製造した。
【0066】
[比較例5]
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B−1)(商品名「エピコート807」、ジャパン
エポキシレジン社製)100重量部と、先に調製したテトラフェニルホスホニウム変性膨潤性合成マイカ(A−1)5重量部とをビーカーに加えて1時間攪拌した後、上記3本ロールで60分間混練した。
【0067】
次いで、100〜110℃の温度条件で5時間攪拌した後、あらかじめ設定温度100℃で溶融したフェノールノボラック樹脂(C−1)(商品名「ショウノールBRG−556」、昭和高分子社製)62重量部と、トリフェニルホスフィン(D−1)(北興化学工業社製)0.8重量部との溶融物に加えた。100〜110℃の温度条件で2分間攪拌し、あらかじめ設定温度110℃で熱した金型(200mm×200mm×9mm)に注型した後、脱泡して135℃で3時間硬化、200℃で5時間後硬化し、エポキシ樹脂複合材料を製造した。
【0068】
[曲げ試験]
実施例1および比較例1〜5により得られたエポキシ樹脂複合材料から、長さ80〜85mm、幅約10mm、高さ約4mmの物性試験用の試験片を成形し、曲げ強度および曲げ弾性率をJIS K 7203、破壊靱性試験をASTM-E399に基づき測定した。
【0069】
結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から明らかなように、実施例1のエポキシ樹脂複合材料の調製に際しては、上記したように、所定量の熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)と、硬化剤(C)のうちで、まず成分(A)と(B)とを混練するが、予め、樹脂(B)に対して成分(A)を等重量の割合で配合して3本ロールを用いて十分に混練し、その後、残余量の成分(B)を配合しさらに混合するなどの工程を実施しているが、このような方法で製造したエポキシ樹脂組成物を用いたことにより、得られたエポキシ樹脂複合材料は、曲げ強度、曲げ弾性率および破壊靱性値が著しく向上していることが分かる。
【0072】
他方、実施例1において、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)を添加しない[比較例1]、および、実施例1において成分(A)に代えて、未変性層状粘土鉱物(a)を添加した[比較例2]では、得られたエポキシ樹脂複合材料の曲げ強度、曲げ弾性率および破壊靱性値はいずれも実施例1に比して、劣るものであった。
【0073】
また[比較例3]では、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)と熱硬化性エポキシ樹脂(B)とを3本ロールを用いて混練しなかった結果、得られたエポキシ樹脂複合材料の曲げ強度、曲げ弾性率および破壊靱性値はいずれも実施例1に比して劣るものであった。
【0074】
また、比較例4では、実施例1のテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)に代えて、特許文献4(特開2004−051976)に準じて、オクタデシルトリフェニルホスホニウム変性膨潤性合成マイカを使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキ
シ樹脂複合材料を製造しているが、実施例1に比して、曲げ強度、破壊靭性値が特に低下し、曲げ弾性率も低下している。
【0075】
また、比較例5では、実施例1と異なり、成分(A)の全量と成分(B)の全量を一度に配合して3本ロールで混練しているが、このような方法でエポキシ樹脂組成物を調製し
、エポキシ樹脂複合材料を製造すると、比較例3〜4とほぼ同程度に曲げ試験結果は低下し、実施例1に比して、曲げ強度、破壊靭性値が特に低下し、曲げ弾性率も低下している。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、上記特定の方法で製造した特定の組成のエポキシ樹脂組成物から、曲げ強度、曲げ弾性率および破壊靱性値等の機械的特性に優れたエポキシ樹脂複合材料を製造することが可能となる。このエポキシ樹脂複合材料は、電気絶縁材料、積層物、建築材料として使用できる。また本発明に係る上記補強材は、熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)とを含む未硬化のエポキシ樹脂組成物中に配合され、該組成物を硬化させると、上記特性に優れたエポキシ樹脂複合材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を調製する際に使用される3本ロールの装置構成を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)からなり、熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)とを含む未硬化のエポキシ樹脂組成物中に配合され、該組成物を硬化させて得られる成形体の物性改善用の補強材。
【請求項2】
テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)が、膨潤性2:1型層状粘土鉱物を用いて調製されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の補強材。
【請求項3】
テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)と熱硬化性エポキシ樹脂(B)と1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)とが含まれたエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、かつ、
請求項1または2に記載のテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)からなる補強材と、熱硬化性エポキシ樹脂(B)とを、該熱硬化性エポキシ樹脂(B)に対して該補強材を0.01〜5重量倍の割合で用いて、予め3本ロール、ビーズミル、エクストルーダーまたはニーダーのいずれかの混練機を用いて混練する工程(1a)、
工程(1a)で得られた混練物と、残余の成分である該補強材または硬化性エポキシ樹脂(B)とを混合する工程(1b)、
その後、工程(1b)で得られた混合物と、上記エポキシ樹脂用硬化剤(C)とを混合する工程(2)
を含むことを特徴とする、成分(A)、(B)および(C)を含有するエポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)と熱硬化性エポキシ樹脂(B)と1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)とが含まれたエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、かつ、
(請求項1または2に記載のテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)からなる補強材全量)<(熱硬化性エポキシ樹脂(B)全量)の関係にある場合に、
該熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、上記補強材とを、該熱硬化性エポキシ樹脂(B)に対して該補強材を0.05〜4重量倍の割合で用いて、予め3本ロール、ビーズミル、エクストルーダーまたはニーダーのいずれかの混練機を用いて混練する工程(1a)、
次いで、工程(1a)で得られた混練物に残余の熱硬化性エポキシ樹脂(B)を添加し混合する工程(1b)、
その後、工程(1b)で得られた混合物に、上記エポキシ樹脂用硬化剤(C)を添加し混合する工程(2)
を含むことを特徴とする、請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
上記所定量の熱硬化性エポキシ樹脂(B)と上記補強材とを、予め3本ロール、ビーズミル、エクストルーダーまたはニーダーのいずれかの混練機を用いて混練する工程(1a)において、熱硬化性エポキシ樹脂(B)に対して、補強材としてのテトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)を0.9〜1.1重量倍の範囲で用いることを特徴とする、請求項3〜4の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物の製造方法により得られることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
熱硬化性エポキシ樹脂(B)と、1分子内に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)との合計量((B)+(C))100重量部に対して、テトラフェニルホスホニウム変性層状粘土鉱物(A)が0.5〜50.0重量部の範囲で
配合されていることを特徴とする、請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物。


【図1】
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【公開番号】特開2007−84759(P2007−84759A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278170(P2005−278170)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【出願人】(591138038)株式会社龍森 (4)
【Fターム(参考)】