説明

製紙用織物糸及びこれを用いた製紙用織物

【課題】 耐摩耗性、剛性及び形態の安定性に優れた製紙用織物糸及びこれを用いた製紙用織物を提供する。
【解決手段】 本製紙用織物糸は、粘度平均分子量が50万以下である母材樹脂(ポリアミド等)と、粘度平均分子量が100万以上であり、不飽和カルボン酸系化合物により変性され、且つ、該母材樹脂中に分散含有された超高分子量樹脂粒子(ポリエチレン等)と、を含有し、本製紙用織物糸100質量%に対して該超高分子量樹脂粒子が20質量%以下含有される。また、本製紙用織物1は、製紙用織物を構成する織物糸の少なくとも一部が、本製紙用織物糸である。また、この製紙用織物糸が、最下層緯糸22の少なくとも一部に用いられているものとすることができる。更に、この製紙用織物は、製紙用フォーミングワイヤーとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙用織物糸及びこれを用いた製紙用織物に関し、更に詳しくは、耐摩耗性、剛性及び形態の安定性に優れた製紙用織物糸及びこれを用いた製紙用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用織物は、例えば、無端ベルト状に形成されて多数のロールを周廻して使用される。そして、使用する装置によってはサクションボックス等の脱水装置に接触する裏面(走行面)等が著しく摩耗される。このような摩耗が製紙用織物の耐久性を大きく左右する。
また、近年、製紙用織物を使用する装置は、高速化及び大型化が進んでおり、これらの製紙用織物の交換を要する回数、及び、交換に要する時間並びに手間等が、生産効率に及ぼす影響は大きくなっている。そのため、製紙用織物の耐久性、つまり、耐摩耗性に対する要求が大きくなっている。
【0003】
製紙用織物の耐久性を向上させるためには、織物を構成する繊維の線径を大きくすることが考えられる。これにより、製造工程中の損傷の軽減及び耐久時間を長くすることができる。しかし、一方で、製紙用織物の構造が変わり、得られる製品の品質に影響を与えることとなる。即ち、例えば、線径を大きくすると織物の厚さが大きくなり、水持ちが多くなり、抄造における弊害が懸念されることとなる。従って、例えば、製紙用フォーミングワイヤーでは構造変化に伴う濾水性の変化を生じ、製品品質に影響を及ぼすこととなる。
このように、線径を大きくして耐久性を得ようとすると、製品品質に変化をもたらすために、線径を変化させるのにも限界があり、耐久性向上の根本的な解決には至っていない。
【0004】
かかる観点から、従来より、製紙用織物の耐久性を向上させるべく、無機物質の微粒子を含有する剛性プラスチック糸である抄紙用ワイヤー(特許文献1)、特定のポリアミドと珪酸塩層からなる被覆部により芯部を部分的に被覆している複合繊維(特許文献2)、ポリアミドを含む樹脂に対して所定量の層状珪酸塩を含有させたポリアミド系樹脂組成物から得られるモノフィラメントを裏緯糸として用いた製紙用フォーミングワイヤー(特許文献3)等が開発されている。しかし、今日、抄紙機の高速化による生産効率向上の要請に応えるために、耐摩耗性、剛性及び形態の安定性に更に優れた製紙用織物糸及び製紙用織物等が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−250292号公報
【特許文献2】特開2000−273722号公報
【特許文献3】特開平7−331589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性、剛性及び形態の安定性に優れた製紙用織物糸及びこれを用いた製紙用織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す通りである。
(1)粘度平均分子量が50万以下である母材樹脂と、
粘度平均分子量が100万以上であり、不飽和カルボン酸系化合物により変性され、且つ該母材樹脂中に分散含有された超高分子量樹脂粒子と、を含有し、
本製紙用織物糸100質量%に対して該超高分子量樹脂粒子が20質量%以下含有されることを特徴とする製紙用織物糸。
(2)上記超高分子量樹脂粒子は、ポリオレフィンからなる上記(1)に記載の製紙用織物糸。
(3)上記不飽和カルボン酸系化合物は、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水イタコン酸及びイタコン酸、並びに、これらの誘導体のうちの少なくとも1種である上記(1)又は(2)に記載の製紙用織物糸。
(4)上記母材樹脂が、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂のうちの少なくとも1種である上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の製紙用織物糸。
(5)上記超高分子量樹脂粒子は、アスペクト比が3以上である上記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載の製紙用織物糸。
(6)表面に凹凸を有する上記(1)乃至(5)のうちのいずれかに記載の製紙用織物糸。
(7)製紙用織物を構成する織物糸の少なくとも一部が上記(1)乃至(6)のうちのいずれかに記載の製紙用織物糸であることを特徴とする製紙用織物。
(8)上記製紙用織物糸が、最下層緯糸の少なくとも一部に用いられている上記(7)に記載の製紙用織物。
(9)製紙用フォーミングワイヤーである上記(7)又は(8)に記載の製紙用織物。
(10)上記製紙用織物糸の少なくとも一部が熱硬化性樹脂によりコーティングされている上記(7)乃至(9)のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製紙用織物糸によれば、優れた耐摩耗性及び動摩擦係数抑制効果が得られ、高い耐久性が得られる。また、これらの特性を有する製紙用織物を得ることができる。
ポリオレフィンである場合は、優れた自己潤滑性が得られ、特に優れた耐摩耗性及び動摩擦係数抑制効果が得られ、高い耐久性が得られる。
不飽和カルボン酸系化合物が所定の化合物である場合は、母材樹脂と超高分子量樹脂粒子との間で特に高い相互作用が得られ、高い耐摩耗性及び動摩擦係数抑制効果が得られる。
母材樹脂が所定の樹脂である場合は、優れた強度が得られ、少ない使用量で高い耐摩耗性を備える製紙用織物が得られる。
超高分子量樹脂粒子のアスペクト比が3以上である場合、更には、表面に凹凸を有する場合は、特に優れた耐摩耗性が得られ、高い耐久性が得られる。
本発明の製紙用織物によれば、優れた耐摩耗性が得られ、高い耐久性が得られる。また、ワイヤーマーク等の不具合なく製紙製品を得ることができる。更に、特に薄い製紙用織物を得ることができる。
製紙用織物糸が最下層緯糸の少なくとも一部に用いられている場合は、優れた耐摩耗性が得られ、高い耐久性が得られる。
製紙用織物が製紙用フォーミングワイヤーである場合には、優れた耐摩耗性が得られ、高い耐久性が得られる。また、ワイヤーマーク等の不具合なく製紙製品を得ることができる。更に、特に薄い製紙用フォーミングワイヤーを得ることができる。
製紙用織物糸の少なくとも一部が熱硬化性樹脂によりコーティングされている場合は、優れた耐摩耗性が得られ、高い耐久性が得られる。また、特に織成状態が安定化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製紙用織物糸は、母材樹脂と、この母材樹脂中に分散含有された超高分子量樹脂粒子と、を含有し、製紙用織物糸100質量%に対してこの超高分子量樹脂粒子が20質量%以下含有されることを特徴とする。
【0010】
上記「母材樹脂」は、超高分子量樹脂粒子に対して母相となる樹脂である。また、この母材樹脂の粘度平均分子量は50万以下(好ましくは1万〜30万、より好ましくは2万〜15万、通常1万以上)である。この範囲では、紡糸が問題なくでき、特に平均線経が450μm以下のモノフィラメントに成形した場合にも十分な柔軟性及び強度を得ることができる。例えば、ナイロン6では粘度平均分子量8〜11万が好ましく、ナイロン610では粘度平均分子量3〜5万が好ましく、ポリエチレンテレフタレートでは粘度平均分子量2〜3万が好ましい。
【0011】
更に、この母材樹脂は、反応性基を有することが好ましい。反応性基とは、後述する不飽和カルボン酸系化合物により変性された超高分子量樹脂粒子と、不飽和カルボン酸系化合物による変性に起因して相互作用(母材樹脂と超高分子量樹脂との架橋結合等であってもよい)を生じる基(構造部分)である。この反応性基としては、−NHCO−、−COO−、−SO−、−CO−、−CONCO−、−NHCO−等の2価の基、並びに、−OH、−NH、−NO、−COOH、−CHO、−OR、−COOR、−CN等の1価の基などが挙げられる。これらの反応性基は1種のみを備えてもよく、2種以上を備えてもよい。
【0012】
上記反応性基を備える母材樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂及びポリエーテル系樹脂などが挙げられる。上記ポリアミド系樹脂には、脂肪族系ポリアミド樹脂(ナイロンなど)、芳香族系ポリアミド樹脂(アラミド樹脂など)及び主鎖の一部に芳香族単位を含む強化ポリアミド樹脂などを含むものである。更に、上記ポリエステル系樹脂には、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族系ポリエステル樹脂及び主鎖の一部に芳香族単位を含む強化ポリエステル樹脂などを含むものである。更に、上記各樹脂以外にも、重合後の変性により、及び/又は、重合時に反応性基を有する単量体を用いて重合すること等により、反応性基が導入された各種樹脂を用いることもできる。更に、母材樹脂としては、反応性基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂、反応性基を有するポリプロピレン系樹脂等が挙げられる。これらの母材樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのなかでもポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂が好ましい。これらは加工性(紡糸)、細線化(線経450μm以下など)した場合の強度、耐摩耗性、低動摩擦性等のバランスに優れる。
【0013】
上記ポリアミド系樹脂としては、例えば、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等が挙げられる。これらは単独でもよく、また、これらの共重合体あるいはブレンド物等を用いることができる。更に、ポリアミド系樹脂に他のモノマーとの共重合体や、他の樹脂とのブレンド物等を用いることができる。例えば、上記ポリアミド系樹脂にポリエーテルを共重合したブロックポリエーテルアミド系樹脂又は上記ポリアミド系樹脂とブロックポリエーテルアミド系樹脂のブレンド物等を用いることができる。ここで、ブロックポリエーテルアミド系樹脂としては、具体的には、ポリアミド形成性モノマーとジカルボン酸との重縮合によって得られる両末端にカルボキシル基を有するポリアミドと、末端アミノポリオキシアルキレン、及び脂肪族ジアミン又は脂環族ジアミン、芳香族ジアミンから選ばれるジアミンを重縮合させることによって得られるブロックポリエーテルアミド系樹脂(特公昭63−55535号公報)が例示される。
【0014】
ポリエステル系樹脂としては、ジカルボン酸とグリコールからなるポリエステルであれば特にその種類に限定はない。例えば、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。具体的には、上記ポリエステル系樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等を挙げることができる。これらは単独でもよく、また、これらの共重合体あるいはブレンド物等を用いることができる。更に、ポリエステル系樹脂に他のモノマーとの共重合体や、他の樹脂とのブレンド物等を用いることができる。
【0015】
この母材樹脂の、本製紙用織物糸100質量%に対する含有量は特に限定されないが、通常、80質量%以上(好ましくは80〜99質量%、より好ましくは94〜96質量%)である。この範囲では、本製紙用織物糸が脆くなることがなく安定した紡糸ができ、耐摩耗性を効果的に向上させることができる。
【0016】
上記「超高分子量樹脂粒子」は、粘度平均分子量が100万以上の樹脂からなる粒子であり、本製紙用織物糸を構成する母材樹脂中に分散されて含有される。この超高分子量樹脂粒子の粘度平均分子量は100万以上であれば特に限定されず、粘度平均分子量が大きい程好ましい。但し、紡糸の際に母材樹脂に伴って変形されることが好ましい。特に、紡糸の際に延伸工程を含み、この延伸工程で、母材樹脂に伴って変形されることが好ましい。従って、粘度平均分子量は100万〜600万であることが好ましく、200万〜400万であることがより好ましい。この範囲であれば、製紙用織物糸及び製紙用織物等が脆くなることを防止しつつ、耐摩耗性及び剛性を効果的に向上させることができる。尚、通常、粘度平均分子量が100万以上の超高分子量樹脂は粘度測定法により、その分子量を測定する。
【0017】
この超高分子量樹脂粒子を構成する樹脂の種類は特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン及びポリプロピレン等)、ポリアミド系樹脂(6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等の各種ナイロン等)、ポリアセタール系樹脂(ポリオキシメチレン等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)及びポリウレタン系樹脂等が挙げられる。但し、上記ポリアミド系樹脂及び上記ポリエステル系樹脂は、前記母材樹脂における各樹脂と同様に脂肪族系、芳香族系及び主鎖の一部に芳香族単位を含む強化樹脂などを含むものである。これらの超高分子量樹脂粒子を構成する樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
これらの超高分子量樹脂粒子を構成する樹脂のなかでも、ポリオレフィン系樹脂(特にポリエチレン)、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂及びポリウレタン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリアセタール系樹脂は自己潤滑性に優れるため摩擦係数を低減でき、その結果、優れた耐摩耗性を得ることができる。また、ポリウレタンは特に効果的に優れた耐摩耗性を得ることができる。また、ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリアミド系樹脂が更に好ましく、ポリオレフィン系樹脂が特に好ましく、とりわけポリエチレンが好ましい。ポリエチレンは少ない含有量(即ち、20質量%以下)においても優れた自己潤滑性が十分に発揮され、衝撃強度及び耐薬品性にも優れる。更に、このポリエチレンは配合量に殆ど影響されることなく、ポリエチレンが含有されない場合と同様に紡糸できるため製造上も好ましい。更に、前記母材樹脂がポリアミド系樹脂であり且つ超高分子量樹脂粒子を構成する樹脂がポリエチレンである組合せ、及び、母材樹脂がポリエステル系樹脂であり且つ超高分子量樹脂粒子を構成する樹脂がポリエチレンである組合せ、が特に好ましい。
【0019】
更に、この超高分子量樹脂粒子は、不飽和カルボン酸系化合物により変性された粒子である。
上記「不飽和カルボン酸系化合物」は、ポリオレフィン系樹脂と結合できる不飽和結合(通常、炭素原子間不飽和結合である)と、カルボン酸基とを有する化合物である。不飽和結合は1つのみを有していてもよく、2つ以上有するものでもよいが、通常、1つのみを有する。また、カルボン酸基は1つのみ(1価カルボン酸)を有してもよく、2つ以上(多価カルボン酸)を有してもよい。不飽和カルボン酸系化合物として、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水イタコン酸、イタコン酸、クロトン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸及びメサコン酸等が挙げられる。更に、これらの各不飽和カルボン酸系化合物の誘導体(但し、不飽和結合とカルボン酸基は残存しいている)が挙げられる。これらの不飽和カルボン酸系化合物のなかでは、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水イタコン酸及びイタコン酸が好ましく、更には、無水マレイン酸及び無水イタコン酸がより好ましい。不飽和カルボン酸系化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記「変性」は、上記不飽和カルボン酸系化合物の不飽和結合を超高分子量樹脂粒子を構成する樹脂に結合させることをいう。この不飽和カルボン酸系化合物による変性量は特に限定されないが、FT−IR法で測定した場合に少なくとも0.1質量%以上(より好ましくは0.1〜0.8質量%)であることが好ましい。この範囲であれば特に母材樹脂と超高分子量樹脂粒子との結合を確実にすることができる。
尚、上記FT−IR法においては、不飽和カルボン酸系化合物が変性された超高分子量樹脂粒子(例えば、マレイン化ポリエチレン等)を熱キシレンに溶解させた後、アセトン中に再沈殿させ、次いで、沈殿物が含まれたアセトン混合液を濾過し、得られた濾過物(固形物)を洗浄して未反応マレイン酸を除去する。その後、この未反応マレイン酸が除去された超高分子量樹脂について透過法にてFT−IR測定を行う。得られた赤外吸収曲線の反応マレイン酸のC=O伸縮振動のピーク(792cm−1)から定量する。特に、超高分子量樹脂がポリエチレンである場合には、ポリエチレンのC−H変角振動のピーク(1464.1cm−1)を併用して行う。
【0021】
上記母材樹脂が上記反応性基を備える樹脂である場合には、超高分子量樹脂粒子に変性された不飽和カルボン酸系化合物と上記反応性基との相互作用により、母材樹脂と超高分子量樹脂粒子とは強固に接合できる。従って、超高分子量樹脂粒子に放射線照射、紫外線照射、酸化処理及びカップリング処理等のみの処理を施して母材樹脂と超高分子量樹脂粒子との親和性を向上させるよりも、更に、強固に接合させることができる。これにより、紡糸の際にも母材樹脂と超高分子量樹脂粒子との間の剥離を防止でき、非変性の超高分子量樹脂粒子を用いた場合に比べて高い耐摩耗性等を得ることができる。尚、本発明の製紙用織物糸では、上記変性に加えて上記各種親和性向上処理が施されていてもよい。
【0022】
この超高分子量樹脂粒子の含有量は、製紙用織物糸100質量%に対して20質量%以下(0を超える)であれば特に限定されず、製紙用織物において要求される性質に応じて種々の含有量とすることができる。この含有量は、好ましくは1〜20質量%、更に好ましくは2〜17質量%、より好ましくは2.5〜14質量%、特に好ましくは3〜10質量%、最も好ましくは4〜6質量%である。この範囲であれば、上記製紙用織物糸及び製紙用織物等が脆くなることを防止して、耐摩耗性及び剛性を効果的に向上させることができる。
尚、この超高分子量樹脂粒子の含有量は以下の方法により算出するものとする。即ち、超高分子量樹脂を溶解せず、且つ母材樹脂を溶解する溶媒(例えば、母材樹脂がポリアミドであり、超高分子量樹脂がポリエチレンの場合にはギ酸が好ましい)に製紙用織物糸を溶解(部分溶解)し、濾過又は遠心分離により不溶分を取り出して超高分子量樹脂粒子を抽出する処理を施す。この処理を行う前の製紙用織物糸の質量から、処理後に得られた不溶分の質量を差し引いた質量を超高分子量樹脂粒子の質量として上記質量割合を算出する。
【0023】
また、この超高分子量樹脂粒子は、通常、製紙用織物糸中に粒子状に分散されて含有される。この超高分子量樹脂粒子の粒径は特に限定はないが、繊維の長手方向に対して垂直な断面において、製紙用織物糸の線径よりも小さいことが好ましい。即ち、連続相としての母材樹脂が超高分子量樹脂粒子からなる粒子により寸断されないことが好ましい。
また、製紙用織物糸内の1つの超高分子量樹脂粒子の上記断面における粒径は、製紙用織物糸の線径(断面が円形でない場合は最小径)の1/5以下であることが好ましく、1/35〜1/5であることがより好ましく、1/30〜1/10であることが更に好ましく、1/23〜1/14であることが特に好ましい。この範囲であれば、製紙用織物糸及び製紙用織物等が脆くなることを防止しつつ、耐摩耗性及び剛性を効果的に向上させることができる。
【0024】
更に、この超高分子量樹脂粒子のアスペクト比は特に限定されないが、3以上(即ち、繊維状のものを含む意味である)であることが好ましく、3〜20であることがより好ましく、5〜15であることが特に好ましい。この範囲であれば、製紙用織物糸及び製紙用織物等が脆くなることを防止しつつ、耐摩耗性及び剛性を効果的に向上させることができる。更に、摺動部位との接触面積が広くなるため高い耐摩耗性が得られる。
また、この超高分子量樹脂粒子の長さも特に限定されないが、平均長径は20μm以上であることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましく、50〜150μmであることが特に好ましい。この範囲であれば、製紙用織物糸及び製紙用織物等が脆くなることをより効果的に防止しつつ、耐摩耗性及び剛性をより効果的に向上させることができる。更に、摺動部位との接触面積が広くなるためより高い耐摩耗性が得られる。
【0025】
本発明の製紙用織物糸の形態は特に限定されず、例えば、モノフィラメント、マルチフィラメント、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、あるいはこれらを撚り合わせる等して組み合わせた撚糸が挙げられる。これらのうちモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントが好ましい。これらの製紙用織物糸は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記モノフィラメントの線径は特に限定はないが、通常、100〜450μmである。この線径は、例えば、200〜400μmとすることができ、更には300〜450μmとすることができる。この範囲であれば交絡部が製品に転写されてマークを生じることもなく、繊維が切断されるまでの耐久時間を長くできる。一方、上記製紙用織物糸を用いた場合には、線径を100〜200μm、更には100〜180μmとすることができる。このように、従来に比べて線径を細くしても、高い耐摩耗性を有するために、従来品(例えば、線径200〜300μm)と同等か又はそれを超える耐久性を得ることができる。
【0027】
また、上記マルチフィラメントは、複数本のモノフィラメントで構成された繊維である。このマルチフィラメントを構成するモノフィラメントは全てが上記製紙用織物糸であってもよく、一部のみが製紙用織物糸であってもよい。このマルチフィラメントを構成するモノフィラメントの線径及び本数についても特に限定はないが、通常、その線径は10〜50μm、好ましくは10〜40μmであり、その本数は通常700本以下、好ましくは200〜700本、更に好ましくは200〜500本である。
【0028】
この製紙用織物糸の断面形状は特に限定されず、円形、楕円形状、星型、矩形状及び中空等とすることができる。また、製紙用織物糸は、表面に凹凸を有することが好ましい。この凹凸は、上記超高分子量樹脂粒子を含有するために生じる凹凸であり、通常、長尺であり、シワ状に認められる。この1つの凸部からなる1つのシワ状部は、通常、長さが10μm以上(更には10〜50μm)である。また、その高さは、通常、1μm以上(更には、1〜10μm)である。
【0029】
更に、この製紙用織物糸は、そのままで用いてもよいが、少なくとも一部が熱硬化性樹脂によりコーティングされていてもよい。コーティングされることで、製紙用織物の剛性を高めることができる。この熱硬化性樹脂の種類は特に限定されず、例えば、エポキシ系樹脂及びフェノール系樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。この製紙用織物糸をコーティングする方法については特に限定はないが、例えば、製紙用織物糸に対して溶液状又はエマルジョン状の熱硬化性樹脂を噴霧又は塗布することでコーティングすることができる。
【0030】
この製紙用織物糸の製造方法は特に限定されず、上記構成であればどのようにして得られたものであってもよいが、例えば、溶融させた母材樹脂に、不飽和カルボン酸系化合物により変性した超高分子量樹脂粒子粉末を配合し、混合して得られた混合物を紡糸して得ることができる。この超高分子量樹脂粒子は粉末として混合することが好ましい。超高分子量樹脂粒子は、その分子量のために極めて剪断され難く、塊状体等の状態で母成分に混合して分散状態を形成することは困難である。このため、超高分子量樹脂粒子は粉末として混合することが好ましい。また、上記紡糸は、通常、加熱溶融させた上記混合物を紡糸口金の細孔から繊維状に押出して行う。この際には、上記押出し後に、延伸を行ってもよく、延伸を行わなくてもよいが、特に延伸を行うことが好ましい。
【0031】
尚、前述のように超高分子量樹脂粒子は、紡糸(延伸工程を含む)により変形されることが好ましいが、製造時には略球形状の粒子として添加することができる。この場合、添加前の超高分子量樹脂粒子の平均粒径は、特に限定されないが、製紙材料に含有される無機粒子の平均粒径と同じか又はそれよりも大きいことが好ましい。この無機粒子とは、例えば、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク及びクレー等の1種又は2種以上である。これらの粒径は、通常、0.1〜20μmであることから、添加前の超高分子量樹脂粒子の平均粒径は20μm以上であることが好ましく、20〜50μmであることがより好ましく、30〜40μmであることが特に好ましい。この範囲であれば、製紙用織物糸が上記無機粒子により損傷を受けることを防止しつつ、前述のこのましい粒子形状を得ることができ、特に高い耐久性を得ることができる。
【0032】
本発明の製紙用織物は、製紙用織物を構成する糸の少なくとも一部が、本発明の製紙用織物糸であることを特徴とする。
上記「製紙用織物を構成する糸」は、製紙用織物を構成する緯糸及び経糸等であり、これらが組まれて(織られて)製紙用織物を構成している。この製紙用織物を構成する糸のうちの本製紙用織物糸を除く他の糸の種類は特に限定されない。即ち、例えば、合成繊維、天然繊維及び複合繊維が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。更に、モノフィラメント、マルチフィラメント、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、あるいはこれらを撚り合わせる等して組み合わせた撚糸が挙げられる。これらのうちモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントが好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
また、本発明の製紙用織物の構成は特に限定されない。即ち、例えば、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。また、本発明の製紙用織物では、製紙用織物のどの部位に上記製紙用織物糸が用いられていてもよいが、特に、最下層緯糸及び最下層経糸(経糸のうち裏面にまで露出される糸)のうちの少なくとも一部として用いることが好ましい。即ち、例えば、最下層緯糸及び最下層経糸の各々一部を上記製紙用織物糸とし残りの糸は他の繊維を用いてもよい。更に、最下層緯糸及び最下層経糸の各々全部を上記製紙用織物糸とすることもできる。
【0034】
これらのなかでも、本発明の製紙用織物では最下層緯糸のうちの少なくとも一部として用いることが好ましい。即ち、多層構造(通常、2〜3層)の製紙用織物において、最下層緯糸のうちの少なくとも一部として用いることがより好ましい。更に、最下層緯糸の3本に1本の割合又はそれより多い割合で用いることが特に好ましく、最下層緯糸の2本に1本の割合又はそれより多い割合で用いることがとりわけ好ましい。全ての最下層緯糸に上記本発明の製紙用織物糸を用いることもできる。尚、最下層緯糸は、製紙用織物を用いる装置において機器部材(ロール等)と多く接する側の層(即ち、湿紙等を載置する層である最上層の反対側の層)に配置される緯糸である。例えば、図1に示すように、製紙用織物1が最上層緯糸21と最下層緯糸22と経糸3とを有する場合には、最下層緯糸22の一部又は全部として用いることができる。最下層は製紙用織物の寿命に大きく影響するため、最下層の製紙用織物糸の損傷(摩耗等)を抑制することで製紙用織物全体の寿命延長を効率よく実現できる。
【0035】
本発明の製紙用織物糸を製紙用織物を構成する糸のうちの一部として用いる場合、その他の糸(緯糸及び経糸)は特に限定されず種々のものを用いることができる。即ち、例えば、ポリエステルモノフィラメント、上記超高分子量樹脂粒子を含有しない通常のナイロンモノフィラメント(6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等)等のポリアミドモノフィラメントなどが挙げられる。この場合、上記経糸や緯糸は、単一材質で構成されているものの他、経糸又は緯糸ごとに材質が異なる2種以上の材質で構成されているものとすることができる。これらの繊維は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明の製紙用織物は、製紙用織物糸の少なくとも一部が熱硬化性樹脂によりコーティングされたものとすることができる。この製紙用織物には、前述のように、熱硬化性樹脂をコーティングした製紙用織物糸を用いて得られた製紙用織物であってもよく、また、製紙用織物糸(コーティングされていなくてもよく、コーティングされていてもよい)を織り込んで製紙用織物とした後、この製紙用織物に熱硬化性樹脂をコーティングした製紙用織物も含まれる。即ち、例えば、液状の熱硬化性樹脂からなる熱硬化性樹脂、熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂溶液、熱硬化性樹脂が分散されて含有された熱硬化性樹脂含有エマルジョン等を製紙用織物に塗布(噴霧、刷毛塗り、ロールコート及び含浸等を含む)してられたコーティングされた製紙用織物である。更に、製紙用織物糸を最下層緯糸として織り込んだ製紙用織物の表面に溶液状又はエマルジョン状の熱硬化性樹脂を噴霧又は塗布し、その後、自然乾燥又はロールドライヤー等による加熱乾燥を行うことによりコーティングを行うこともできる。
【0037】
この製紙用織物糸を織り込んだ製紙用織物をコーティングする方法によれば、ナックル部等、経糸と緯糸の接触する部分をもコーティングすることができる。このため経糸と緯糸とが樹脂で固められて織成状態を安定化できる。
また、コーティングに用いる熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む液体等は、粘度が過度に高いと、製紙用織物の目詰まりを生じて脱水効率が低下する等の問題を生じることがあるため粘度の低い液体(即ち、熱硬化性樹脂の含有量が少ない液体等)を用いることが好ましい。必要に応じてコーティングは複数回に分けて行うこともできる。
【0038】
本発明の製紙用織物としては、例えば、製紙用フォーミングワイヤー、織り生地、編み生地、フエルト生地、コンベアベルト、製紙用プレスフエルト及び繋ぎ合わせプレスフエルト、製紙用ドライヤーキャンバス等が挙げられる。これらのなかでも、特に製紙用フォーミングワイヤーとして用いると本製紙用織物の効能が特に効果的に得られる。即ち、製紙用フォーミングワイヤーは、最下層緯糸のうちの少なくとも一部が製紙用織物糸であり、該製紙用織物糸は、粘度平均分子量が100万以上の上記超高分子量樹脂粒子を、該製紙用織物糸100質量%中に20質量%以下含有するものであることが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の製紙用織物について実施例を挙げて具体的に説明する。
[1]製紙用織物糸の製造
(1)変性超高分子量樹脂粒子の調製
超高分子量樹脂粒子として超高分子量ポリエチレン樹脂粒子(分子量200万:三井化学株式会社製、品名「ミペロンXM−220」)を用いた。この超高分子量樹脂粒子100質量部に対して、無水マレイン酸を1質量部、過酸化ベンゾイルを0.1質量部、及び、適量のアセトンを加えて溶液化して混合した。得られた混合物を80℃で8時間保持することで反応させて、無水マレイン酸が変性された変性超高分子量樹脂粒子を得た。
【0040】
(2)製紙用織物糸(実施例1〜2及び比較例1〜2)の製造
(2−1)
母材樹脂としてナイロン6樹脂を用い、この母材樹脂(ナイロン6)と上記(1)で得られた変性超高分子量樹脂粒子との合計を100質量%とすると、母材樹脂(ナイロン6)が95質量%、上記で得られた変性超高分子量樹脂粒子が5質量%となるように混合し、二軸混練機により混練した。次いで、この混練物を紡糸(延伸工程を含む)して、線径が350μmの変性超高分子量樹脂粒子を含有するナイロンからなる実施例1の製紙用織物糸(モノフィラメント)を製造した。
(2−2)
変性超高分子量樹脂粒子の添加量を15質量%とした以外は、上記(2−1)と同様にして、実施例2の製紙用織物糸(モノフィラメント)を製造した。
(2−3)
変性を行っていない前記超高分子量ポリエチレン樹脂粒子(分子量200万:三井化学株式会社製、「ミペロンXM−220」)を用いた以外は、上記(2−1)と同様にして、比較例1の製紙用織物糸(モノフィラメント)を製造した。
(2−4)
変性を行っていない前記超高分子量ポリエチレン樹脂粒子(分子量200万:三井化学株式会社製、「ミペロンXM−220」)を用い、その添加量を15質量%とした以外は、上記(2−1)と同様にして、比較例2の製紙用織物糸(モノフィラメント)を製造した。
【0041】
[2]製紙用織物(製紙用ワイヤー)の製造
経糸として線径220μmのポリエチレンテレフタレートを用い、最上層緯糸として線径250μmのポリエチレンテレフタレートを用い、最下層緯糸として線径350μmのポリエチレンテレフタレートと上記[1](2)で得られた実施例1〜2及び比較例1〜2のうちのいずれかの製紙用織物糸とを1対1の数量比で用いて二重織構造の製紙用織物(実施例1〜2及び比較例1〜2)を製造した。但し、経糸本数は100本/2.54cm、最上層緯糸本数は35本/2.54cm、最下層緯糸本数は35本/2.54cm{このうちの半数が上記[1](2)で得られた各製紙用織物糸である}とした。
【0042】
[3]比較試験
(1)製紙用織物糸の耐摩耗試験
長さ65cmに切断した実施例1〜2及び比較例1〜2の各製紙用織物糸を試験片として、摩耗試験機により切断に至るまでのカウント数を計測した。この摩耗試験機は、研磨紙(粒度320)を表面に巻いたドラムを備える。また、試験片の一端を固定し他端に350gの荷重を掛けて固定し、pH7の水を試験片に散水しながら、試験片の中央部が研磨紙により摺動されるようにドラムを回転させるものである。ドラムは回転速度500rpmで回転させ、試験片が完全に切断するまでのカウント数(ドラムが1回転した時を1カウントとする)を計測した。その結果を表1に示した。
【0043】
(2)製紙用織物の耐摩耗試験
幅2cm且つ長さ65cmに切断した実施例1〜2及び比較例1〜2の各製紙用織物を試験片とした以外は、上記(1)と同様にして試験片が完全に切断するまでのカウント数を計測した。その結果を表1に併記した。
【0044】
(3)製紙用織物の動摩擦係数
実施例1〜2及び比較例1〜2の各製紙用織物の最下層部の動摩擦係数を測定装置(カトーテック株式会社製、品名「摩擦感テスター KES−SE」)により計測した。測定環境は20℃且つ湿度は65%であった。
また、この動摩擦係数の測定においては、上記[1](2)で得られた紡糸直後の各製紙用織物糸では超高分子量樹脂粒子は母材樹脂に覆われた状態と考えられる。このため、各試験片は織り上げた状態のままの面を被測定面とした「研磨前」の測定値と、同面を50μm研磨した後の面を被測定面とした「研磨後」の測定値とを計測した。その結果を表1に併記した。
【0045】
【表1】

【0046】
[4]評価
表1の結果より、製紙用織物糸の耐摩耗試験における切断時カウント数を比較した。その結果、実施例1の製紙用織物糸は比較例1の製紙用織物糸の1.27倍であった。また、実施例2の製紙用織物糸は比較例2の製紙用織物糸の1.34倍であった。同様に、製紙用織物の耐摩耗試験における切断時カウント数を比較した。その結果、実施例1の製紙用織物は比較例1の製紙用織物の1.23倍であった。また、実施例2の製紙用織物は比較例2の製紙用織物の1.19倍であった。即ち、不飽和カルボン酸系化合物変性した超高分子量樹脂粒子を用いることにより、変性されていない超高分子量樹脂粒子を用いる場合に比べて高い耐摩耗性が得られていることが分かる。
また、製紙用織物糸の切断時カウント数では、比較例1に対して実施例1は26.5%の向上が認められる。一方、製紙用織物による切断時カウント数では、比較例1に対して実施例1は23.3%の向上が認められる。即ち、実施例1では最下層緯糸の半数に本発明の製紙用織物糸を用いただけであるにも関わらず、製紙用織物糸のみによる性能向上とほぼ同程度の性能向上が製紙用織物においても認められている。即ち、製紙用織物糸の性能向上は極めて効果的に製紙用織物に反映されていることが分かる。
【0047】
更に、動摩擦係数測定では、研磨後には比較例1に対して実施例1は0.003とわずかではあるが動摩擦係数が小さい。同様に、研磨後には比較例2に対して実施例2は0.003とわずかではあるが動摩擦係数が小さい。即ち、不飽和カルボン酸系化合物変性した超高分子量樹脂粒子を用いることにより、変性されていない超高分子量樹脂粒子を用いる場合に比べて、実使用時の動摩擦係数を小さくできることが分かる。
また、比較例1では研磨前に比べて研磨後は織物動摩擦係数は15.3%増加している。これに対して、実施例1では10.6%の増加に抑制されている。同様に、比較例2では8.9%の増加であるのに対して、実施例2では6.3%の増加に抑制されている。即ち、不飽和カルボン酸系化合物変性した超高分子量樹脂粒子を用いることにより、変性されていない超高分子量樹脂粒子を用いる場合に比べて、使用時の摩耗による動摩擦係数の増加を抑制できることが分かる。
【0048】
尚、本発明においては、上記具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて種々変更し適用することができる。即ち、例えば、織物を構成する組織、経糸及び緯糸等の材質とその線径を用途に応じて変更できる。また、織物を構成する材質全てに上記超高分子量樹脂粒子を含有する製紙用織物糸を適用して良いく、所定量だけ。即ち、所定本数おきに適用する構成とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の製紙用織物繊維及び製紙用織物は製紙分野において広く用いられる。特に、製紙用フォーミングワイヤー、織り生地、編み生地、フエルト生地、コンベアベルト、製紙用プレスフエルト及び繋ぎ合わせプレスフエルト、製紙用ドライヤーキャンバス等として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本製紙用織物の縦断面模式図である。
【符号の説明】
【0051】
1;製紙用織物、21;最上層緯糸、22;最下層緯糸、3;経糸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量が50万以下である母材樹脂と、
粘度平均分子量が100万以上であり、不飽和カルボン酸系化合物により変性され、且つ該母材樹脂中に分散含有された超高分子量樹脂粒子と、を含有し、
本製紙用織物糸100質量%に対して該超高分子量樹脂粒子が20質量%以下含有されることを特徴とする製紙用織物糸。
【請求項2】
上記超高分子量樹脂粒子は、ポリオレフィンからなる請求項1に記載の製紙用織物糸。
【請求項3】
上記不飽和カルボン酸系化合物は、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水イタコン酸及びイタコン酸、並びに、これらの誘導体のうちの少なくとも1種である請求項1又は2に記載の製紙用織物糸。
【請求項4】
上記母材樹脂が、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂のうちの少なくとも1種である請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の製紙用織物糸。
【請求項5】
上記超高分子量樹脂粒子は、アスペクト比が3以上である請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の製紙用織物糸。
【請求項6】
表面に凹凸を有する請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の製紙用織物糸。
【請求項7】
製紙用織物を構成する織物糸の少なくとも一部が、請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の製紙用織物糸であることを特徴とする製紙用織物。
【請求項8】
上記製紙用織物糸が、最下層緯糸の少なくとも一部に用いられている請求項7に記載の製紙用織物。
【請求項9】
製紙用フォーミングワイヤーである請求項7又は8に記載の製紙用織物。
【請求項10】
上記製紙用織物糸の少なくとも一部が熱硬化性樹脂によりコーティングされている請求項7乃至9のうちのいずれかに記載の製紙用織物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−70763(P2007−70763A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259843(P2005−259843)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】