説明

製紙用織物

【課題】 耐摩耗性を向上させた製紙用織物を提供する。
【解決手段】 本発明の製紙用織物は、粘度平均分子量が50万以下である母材樹脂と、母材樹脂中に含有された粘度平均分子量が50万以下である高分子量樹脂と、母材樹脂中に含有された粘度平均分子量が100万以上である超高分子量樹脂と、を含有し、糸全体に対する高分子量樹脂と超高分子量樹脂との合計含有量が30質量%以下である製紙用織物糸を少なくとも一部に備える。
特に、母材樹脂はポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂のうちの少なくとも1種の反応性母材樹脂であり、高分子量樹脂及び超高分子量樹脂は、不飽和カルボン酸系化合物(無水マレイン酸等)により変性されたものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙用織物に関し、更に詳しくは、耐摩耗性、剛性及び形態の安定性に優れた製紙用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用織物は、例えば、無端ベルト状に形成されて多数のロールを周廻して使用される。そして、使用する装置によってはサクションボックス等の脱水装置に接触する裏面(走行面)等が著しく摩耗される。このような摩耗が製紙用織物の耐久性を大きく左右する。
また、近年、製紙用織物を使用する装置は、高速化及び大型化が進んでおり、これらの製紙用織物の交換を要する回数、及び、交換に要する時間並びに手間等が、生産効率に及ぼす影響は大きくなっている。そのため、製紙用織物の耐久性、つまり、耐摩耗性に対する要求が大きくなっている。
【0003】
製紙用織物の耐久性を向上させるためには、織物を構成する繊維の線径を大きくすることが考えられる。これにより、製造工程中の損傷の軽減及び耐久時間を長くすることができる。しかし、一方で、製紙用織物の構造が変わり、得られる製品の品質に影響を与えることとなる。即ち、例えば、線径を大きくすると織物の厚さが大きくなり、水持ちが多くなり、抄造における弊害が懸念されることとなる。従って、例えば、製紙用フォーミングワイヤーでは構造変化に伴う濾水性の変化を生じ、製品品質に影響を及ぼすこととなる。
このように、線径を大きくして耐久性を得ようとすると、製品品質に変化をもたらすために、線径を変化させるのにも限界があり、耐久性向上の根本的な解決には至っていない。
【0004】
かかる観点から、従来より、製紙用織物の耐久性を向上させるべく、無機物質の微粒子を含有する剛性プラスチック糸である抄紙用ワイヤー(特許文献1)、特定のポリアミドと珪酸塩層からなる被覆部により芯部を部分的に被覆している複合繊維(特許文献2)、ポリアミドを含む樹脂に対して所定量の層状珪酸塩を含有させたポリアミド系樹脂組成物から得られるモノフィラメントを裏緯糸として用いた製紙用フォーミングワイヤー(特許文献3)等が開発されている。しかし、今日、抄紙機の高速化による生産効率向上の要請に応えるために、耐摩耗性、剛性及び形態の安定性に更に優れた製紙用織物糸及び製紙用織物等が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−250292号公報
【特許文献2】特開2000−273722号公報
【特許文献3】特開平7−331589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性、剛性及び形態の安定性に優れた製紙用織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す通りである。
(1)粘度平均分子量が50万以下である母材樹脂と、
該母材樹脂中に含有された粘度平均分子量が50万以下である高分子量樹脂と、
該母材樹脂中に含有された粘度平均分子量が100万以上である超高分子量樹脂と、を含有し、
糸全体に対する該高分子量樹脂と該超高分子量樹脂との合計含有量が30質量%以下である製紙用織物糸を少なくとも一部に備えることを特徴とする製紙用織物。
(2)上記母材樹脂は、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂のうちの少なくとも1種である上記(1)に記載の製紙用織物。
(3)上記高分子量樹脂は、不飽和カルボン酸系化合物により変性されている上記(1)又は(2)に記載の製紙用織物。
(4)上記超高分子量樹脂は、不飽和カルボン酸系化合物により変性されている上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
(5)上記不飽和カルボン酸系化合物は、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水イタコン酸及びイタコン酸、並びにこれらの誘導体のうちの少なくとも1種である上記(3)又は(4)に記載の製紙用織物。
(6)上記高分子量樹脂は、ポリオレフィンである上記(1)乃至(5)のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
(7)上記超高分子量樹脂は、ポリオレフィンである上記(1)乃至(6)のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
(8)上記製紙用織物糸が、最下層緯糸の少なくとも一部である上記(1)乃至(7)のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
(9)製紙用フォーミングワイヤーである上記(1)乃至(8)のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
(10)上記製紙用織物糸の少なくとも一部が熱硬化性樹脂によりコーティングされている上記(1)乃至(9)のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製紙用織物によれば、耐摩耗性、剛性及び形態の安定性に優れ、優れた耐摩耗性及び動摩擦係数抑制効果が得られ、高い耐久性が得られる。また、ワイヤーマーク等の不具合なく製紙製品を得ることができる。更に、特に薄い製紙用織物を得ることができる。
母材樹脂が所定の樹脂である場合は、優れた強度が得られ、少ない使用量で高い耐摩耗性を備える製紙用織物が得られる。
高分子量樹脂が不飽和カルボン酸系化合物により変性されている場合は、母材樹脂との相互作用を有することができ、特に優れた耐摩耗性及び動摩擦係数抑制効果が得られ、高い耐久性が得られる。
超高分子量樹脂が不飽和カルボン酸系化合物により変性されている場合は、母材樹脂との相互作用を有することができ、特に優れた耐摩耗性及び動摩擦係数抑制効果が得られ、高い耐久性が得られる。
不飽和カルボン酸系化合物が所定の化合物である場合は、特に強い相互作用が得られ、高い耐摩耗性及び動摩擦係数抑制効果が得られる。
高分子量樹脂がポリオレフィンである場合は、優れた自己潤滑性が得られ、特に優れた耐摩耗性及び動摩擦係数抑制効果が得られ、高い耐久性が得られる。
超高分子量樹脂がポリオレフィンである場合は、優れた自己潤滑性が得られ、特に優れた耐摩耗性及び動摩擦係数抑制効果が得られ、高い耐久性が得られる。
製紙用織物糸が最下層緯糸の少なくとも一部に用いられている場合は、優れた耐摩耗性が得られ、高い耐久性が得られる。
製紙用織物が製紙用フォーミングワイヤーである場合には、優れた耐摩耗性が得られ、高い耐久性が得られる。また、ワイヤーマーク等の不具合なく製紙製品を得ることができる。更に、特に薄い製紙用フォーミングワイヤーを得ることができる。
製紙用織物糸の少なくとも一部が熱硬化性樹脂によりコーティングされている場合は、優れた耐摩耗性が得られ、高い耐久性が得られる。また、特に織成状態が安定化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製紙用織物は、粘度平均分子量が50万以下である母材樹脂と、母材樹脂中に含有された粘度平均分子量が50万以下である高分子量樹脂と、母材樹脂中に含有された粘度平均分子量が100万以上である超高分子量樹脂と、を含有し、糸全体に対する高分子量樹脂と超高分子量樹脂との合計含有量が30質量%以下である製紙用織物糸を少なくとも一部に備えることを特徴とする。
【0010】
即ち、本発明の製紙用織物は、製紙用織物糸を少なくとも一部に備える。
更に、製紙用織物糸は、母材樹脂と、この母材樹脂中に含有された超高分子量樹脂と、この母材樹脂中に含有された高分子量樹脂と、を含有する。
上記「母材樹脂」は、超高分子量樹脂及び高分子量樹脂に対して母相となる樹脂である。また、この母材樹脂は粘度平均分子量が50万以下(好ましくは1万〜30万、より好ましくは2万〜15万、通常1万以上)である。この範囲では、紡糸が問題なくでき、特に平均線経が450μm以下のモノフィラメントに成形した場合にも十分な柔軟性及び強度を得ることができる。例えば、ナイロン6では粘度平均分子量8〜11万が好ましく、ナイロン610では粘度平均分子量3〜5万が好ましく、ポリエチレンテレフタレートでは粘度平均分子量2〜3万が好ましい。
【0011】
この母材樹脂の種類は特に限定されない。即ち、例えば、母材樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテル系樹脂及びポリフッ化ビニリデン系樹脂などが挙げられる。上記ポリアミド系樹脂には、脂肪族系ポリアミド樹脂(ナイロンなど)、芳香族系ポリアミド樹脂(アラミド樹脂など)及び主鎖の一部に芳香族単位を含む強化ポリアミド樹脂などを含むものである。更に、上記ポリエステル系樹脂には、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族系ポリエステル樹脂及び主鎖の一部に芳香族単位を含む強化ポリエステル樹脂などを含むものである。これらのなかでも、ポリアミド系樹脂及び/又はポリエステル系樹脂が好ましい。母材樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、母材樹脂は、高分子量樹脂及び/又は超高分子量樹脂と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0012】
上記ポリアミド系樹脂としては、例えば、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等が挙げられる。これらは単独でもよく、また、これらの共重合体あるいはブレンド物等を用いることができる。更に、ポリアミド系樹脂に他のモノマーとの共重合体や、他の樹脂とのブレンド物等を用いることができる。例えば、上記ポリアミド系樹脂にポリエーテルを共重合したブロックポリエーテルアミド系樹脂又は上記ポリアミド系樹脂とブロックポリエーテルアミド系樹脂のブレンド物等を用いることができる。ここで、ブロックポリエーテルアミド系樹脂としては、具体的には、ポリアミド形成性モノマーとジカルボン酸との重縮合によって得られる両末端にカルボキシル基を有するポリアミドと、末端アミノポリオキシアルキレン、及び脂肪族ジアミン又は脂環族ジアミン、芳香族ジアミンから選ばれるジアミンを重縮合させることによって得られるブロックポリエーテルアミド系樹脂(特公昭63−55535号公報)が例示される。
【0013】
ポリエステル系樹脂としては、ジカルボン酸とグリコールからなるポリエステルであれば特にその種類に限定はない。例えば、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。具体的には、上記ポリエステル系樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等を挙げることができる。これらは単独でもよく、また、これらの共重合体あるいはブレンド物等を用いることができる。更に、ポリエステル系樹脂に他のモノマーとの共重合体や、他の樹脂とのブレンド物等を用いることができる。
【0014】
また、この母材樹脂は、後述する高分子量樹脂及び/又は超高分子量樹脂が、不飽和カルボン酸系化合物により変性されている場合には、反応性基を有することが好ましい。反応性基とは、不飽和カルボン酸系化合物による変性に起因して相互作用(母材樹脂と高分子量樹脂との、母材樹脂と超高分子量樹脂との架橋結合等であってもよい)を生じる基(構造部分)である。この反応性基としては、−NHCO−、−COO−、−SO−、−CO−、−CONCO−、−NHCO−等の2価の基、並びに、−OH、−NH、−NO、−COOH、−CHO、−OR、−COOR、−CN等の1価の基などが挙げられる。これらの反応性基は1種のみを備えてもよく、2種以上を備えてもよい。
【0015】
上記反応性基を備える母材樹脂としては、上記各種樹脂のなかでもポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂及びポリエーテル系樹脂などが挙げられる。更に、上記各樹脂以外にも、重合後の変性により、及び/又は、重合時に反応性基を有する単量体を用いて重合すること等により、反応性基が導入された各種樹脂を用いることもできる。更に、母材樹脂としては、反応性基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂、反応性基を有するポリプロピレン系樹脂等が挙げられる。これらの母材樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのなかでもポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂が好ましい。これらは加工性(紡糸)、細線化(線経450μm以下など)した場合の強度、耐摩耗性、低動摩擦性等のバランスに優れる。
【0016】
この反応性基を備える母材樹脂(以下、単に「反応性母材樹脂」ともいう)は、製紙用織物糸に含有される母材樹脂の全部が反応性母材樹脂であってもよく、製紙用織物糸に含有される母材樹脂の一部のみが反応性母材樹脂であってもよい。即ち、母材樹脂は、反応性母材樹脂のみからなってもよく、反応性母材樹脂と非反応性母材樹脂との混合樹脂であってもよい。
【0017】
この反応性母材樹脂の、製紙用織物糸全体(100質量%)に対する含有量は特に限定されないが、70質量%以上(好ましくは70〜99質量%、より好ましくは80〜90質量%)である。更に、母材樹脂(反応性にかかわらず母材樹脂全体)の製紙用織物糸全体(100質量%)に対する含有量は特に限定されないが、通常、70質量%以上(好ましくは70〜99質量%、より好ましくは80〜90質量%)である。この範囲では、本製紙用織物糸が脆くなることがなく安定した紡糸ができ、耐摩耗性を効果的に向上させることができる。
【0018】
上記「高分子量樹脂」は、母材樹脂中に含有された樹脂であり、通常、母材樹脂との相互作用は弱い。高分子量樹脂は粘度平均分子量が50万以下(好ましくは1万〜50万、より好ましくは2万〜25万、通常5万以上)である。この範囲では、製紙用織物糸の耐摩耗性を効果的に向上させることができる。また、特に予め超高分子量樹脂と高分子量樹脂とを混合して用いる際には樹脂同士の分散性が向上(より均一な分散)されるため好ましい。
【0019】
上記「超高分子量樹脂」は、母材樹脂中に含有された樹脂である。但し、母材樹脂中に直接含有されてもよく、高分子量樹脂中に含有された上で間接的に母材樹脂中に含有されてもよい。超高分子量樹脂は、粘度平均分子量が100万以上の樹脂である。この超高分子量樹脂の粘度平均分子量は100万以上であれば特に限定されず、粘度平均分子量が大きい程好ましい。但し、紡糸の際に母材樹脂に伴って変形されることが好ましい。特に、紡糸の際に延伸工程を含み、この延伸工程で、母材樹脂に伴って変形されることが好ましい。従って、粘度平均分子量は100万〜600万であることが好ましく、200万〜400万であることがより好ましい。この範囲であれば、製紙用織物が脆くなることを防止しつつ、耐摩耗性及び剛性を効果的に向上させることができる。尚、通常、粘度平均分子量が100万以上の超高分子量樹脂は粘度測定法により分子量を測定する。
【0020】
これらの超高分子量樹脂と高分子量樹脂とは、同じ樹脂であってもよく、異なる樹脂であってもよいが、親和性のある樹脂同士であることが好ましく、更には同種の樹脂(例えば、下記例示において同系の樹脂)であることが好ましい。更に、超高分子量樹脂と高分子量樹脂とは、各々1種の樹脂からなってもよく、2種以上の樹脂からなってもよい。
これらの超高分子量樹脂及び高分子量樹脂を構成する樹脂の種類は特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン及びポリプロピレン等)、ポリアミド系樹脂(6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等の各種ナイロン等)、ポリアセタール系樹脂(ポリオキシメチレン等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)及びポリウレタン系樹脂等が挙げられる。但し、上記ポリアミド系樹脂及び上記ポリエステル系樹脂は、脂肪族系、芳香族系及び主鎖の一部に芳香族単位を含む強化樹脂などを含むものである。これらの超高分子量樹脂及び高分子量樹脂を構成する樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
これらの超高分子量樹脂及び高分子量樹脂を構成する樹脂のなかでも、ポリオレフィン系樹脂(特にポリエチレン)、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂及びポリウレタン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリアセタール系樹脂は自己潤滑性に優れるため摩擦係数を低減でき、その結果、優れた耐摩耗性を得ることができる。また、ポリウレタンは特に効果的に優れた耐摩耗性を得ることができる。また、ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリアミド系樹脂が更に好ましく、ポリオレフィン系樹脂が特に好ましい。更に、超高分子量樹脂と高分子量樹脂との両方の樹脂がポリエチレンであることがとりわけ好ましい。ポリエチレンは少ない含有量においても優れた自己潤滑性が十分に発揮され、衝撃強度及び耐薬品性にも優れる。更に、このポリエチレンは配合量に殆ど影響されることなく、ポリエチレンが含有されない場合と同様に紡糸できるため製造上も好ましい。尚、通常、前記母材樹脂と上記高分子量樹脂とは異なる樹脂同士である(即ち、例えば、上記各種樹脂のうちの異なる系の樹脂同士である)。
【0022】
更に、上記本発明の製紙用織物において、上記高分子量樹脂と上記超高分子量樹脂とは、各々母材樹脂と混合される前に、高分子量樹脂と超高分子量樹脂とで予め混合された(更には、後述するように変性された)複合樹脂として含有されることが好ましい。これにより高分子量樹脂及び超高分子量樹脂の母材樹脂中における含有形態になどに関わらず高い耐摩耗性、剛性及び形態の安定性を得ることができる。
【0023】
また、高分子量樹脂は、不飽和カルボン酸系化合物により変性されたものとすることができる。同様に、超高分子量樹脂は、不飽和カルボン酸系化合物により変性されたものとすることができる。
上記「不飽和カルボン酸系化合物」は、ポリオレフィン系樹脂と結合できる不飽和結合(通常、炭素原子間不飽和結合である)と、カルボン酸基とを有する化合物である。不飽和結合は1つのみを有していてもよく、2つ以上有するものでもよいが、通常、1つのみを有する。また、カルボン酸基は1つのみ(1価カルボン酸)を有してもよく、2つ以上(多価カルボン酸)を有してもよい。不飽和カルボン酸系化合物として、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水イタコン酸、イタコン酸、クロトン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸及びメサコン酸等が挙げられる。更に、これらの各不飽和カルボン酸系化合物の誘導体(但し、不飽和結合とカルボン酸基は残存しいている)が挙げられる。これらの不飽和カルボン酸系化合物のなかでは、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水イタコン酸及びイタコン酸が好ましく、更には、無水マレイン酸及び無水イタコン酸がより好ましい。不飽和カルボン酸系化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記「変性」は、上記不飽和カルボン酸系化合物の不飽和結合を高分子量樹脂又は超高分子量樹脂に結合させることをいう。この不飽和カルボン酸系化合物による変性量は特に限定されないが、FT−IR法で測定した場合に少なくとも0.1質量%以上(より好ましくは0.1〜0.8質量%)であることが好ましい。この範囲であれば特に母材樹脂と高分子量樹脂との結合、また、母材樹脂と超高分子量樹脂との結合を確実にすることができる。
【0025】
尚、上記FT−IR法においては、不飽和カルボン酸系化合物が変性された高分子量樹脂及び超高分子量樹脂(例えば、マレイン化ポリエチレン等)を熱キシレンに溶解させた後、アセトン中に再沈殿させ、次いで、沈殿物が含まれたアセトン混合液を濾過し、得られた濾過物(固形物)を洗浄して未反応マレイン酸を除去する。その後、この未反応マレイン酸が除去された高分子量樹脂及び超高分子量樹脂について透過法にてFT−IR測定を行う。得られた赤外吸収曲線の反応マレイン酸のC=O伸縮振動のピーク(792cm−1)から定量する。特に、高分子量樹脂及び超高分子量樹脂がポリエチレンである場合には、ポリエチレンのC−H変角振動のピーク(1464.1cm−1)を併用して行う。
【0026】
上記母材樹脂が上記反応性基を備える樹脂である場合には、高分子量樹脂に変性された不飽和カルボン酸系化合物と上記反応性基との相互作用により、母材樹脂と高分子量樹脂とは強固に接合できる。同様に、超高分子量樹脂に変性された不飽和カルボン酸系化合物と上記反応性基との相互作用により、母材樹脂と超高分子量樹脂とも強固に接合できる。従って、高分子量樹脂及び超高分子量樹脂に放射線照射、紫外線照射、酸化処理及びカップリング処理等のみの処理を施して母材樹脂と高分子量樹脂及び超高分子量樹脂との親和性を向上させるよりも、更に、強固に接合させることができる。これにより、紡糸(特に延伸工程を含む場合)の際にも母材樹脂と高分子量樹脂及び超高分子量樹脂との間の剥離を防止でき、非変性の高分子量樹脂及び超高分子量樹脂を用いた場合に比べて高い耐摩耗性等を得ることができる。また、超高分子量樹脂と高分子量樹脂との両方が不飽和カルボン酸系化合物により変性されている場合には、超高分子量樹脂と高分子量樹脂との相互作用も得ることができ、更に優れた耐摩耗性及び動摩擦係数抑制効果が得られ、高い耐久性が得られる。尚、本発明の製紙用織物糸では、上記変性に加えて上記各種親和性向上処理が施されていてもよい。
【0027】
また、上記超高分子量樹脂及び上記高分子量樹脂の含有量は、超高分子量樹脂と高分子量樹脂との合計含有量が、製紙用織物糸全体(100質量%)に対して30質量%以下(0を超える)である。この範囲において製紙用織物において要求される性質に応じて種々の含有量とすることができる。この合計含有量は、好ましくは1〜30質量%、更に好ましくは3〜28質量%、より好ましくは5〜25質量%、特に好ましくは10〜20質量%、最も好ましくは12〜18質量%である。この範囲であれば、製紙用織物が脆くなることを防止して、耐摩耗性及び剛性を効果的に向上させることができる。
【0028】
更に、高分子量樹脂の含有量は、超高分子量樹脂と高分子量樹脂との合計量(100質量%)に対して、10〜40質量%(より好ましくは15〜35質量%、更に好ましくは20〜32質量%、特に好ましくは25〜30質量%)であることが好ましい。即ち、超高分子量樹脂の含有量は、超高分子量樹脂と高分子量樹脂との合計量(100質量%)に対して、60〜90質量%(より好ましくは65〜85質量%、更に好ましくは68〜80質量%、特に好ましくは70〜75質量%)であることが好ましい。この範囲であれば、製紙用織物糸の耐摩耗性を効果的に向上させることができる。また、特に予め超高分子量樹脂と高分子量樹脂とを混合して用いる際には樹脂同士の分散性が向上(より均一な分散)されるため好ましい。
【0029】
これらの超高分子量樹脂及び高分子量樹脂の製紙用織物糸内における形状は特に限定されない。即ち、例えば、粒子形状で含有されてもよく、無定形状で含有されてもよい。粒子形状で含有される場合は、長粒形状であってもよく、球形状であってもよく、その他種々の形状であってもよいが、通常、長粒形状である。更には、製紙用織物糸の長手方向に対して長径が略平行に配置される。
また、高分子量樹脂相及び超高分子量樹脂相は、繊維の長手方向に対して垂直な断面において、製紙用織物糸の線径よりも小さいことが好ましい。即ち、連続相としての母材樹脂が超高分子量樹脂相及び高分子量樹脂相により寸断されないことが好ましい。例えば、製紙用織物糸内の1つの相(超高分子量樹脂相及び高分子量樹脂相)の上記断面における大きさは、製紙用織物糸の線径(断面が円形でない場合は最小径)の1/5以下であることが好ましく、1/35〜1/5であることがより好ましく、1/30〜1/10であることが更に好ましく、1/23〜1/14であることが特に好ましい。この範囲であれば、使用時に製紙用織物糸の表面が摩耗されたとしても、各相(特に超高分子量樹脂相)が製紙用織物糸の表面に露出して高い耐摩耗性を維持することができる。尚、超高分子量樹脂相と高分子量樹脂相との上記大きさは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0030】
更に、超高分子量樹脂及び高分子量樹脂がそれぞれ粒子形状で含有される場合、この超高分子量樹脂からなる粒子及び高分子量樹脂からなる粒子の各々のアスペクト比は特に限定されないが、3以上(即ち、繊維状のものを含む意味である)であることが好ましく、3〜20であることがより好ましく、5〜15であることが特に好ましい。この範囲であれば、製紙用織物が脆くなることを防止しつつ、耐摩耗性及び剛性を効果的に向上させることができる。更に、摺動部位との接触面積が広くなるため高い耐摩耗性が得られる。但し、製紙用織物糸の長手方向に長径となる。また、複合樹脂からなる粒子(母材樹脂と混合する前に予め高分子量樹脂と超高分子量樹脂とが混合された複合樹脂の形態が母材樹脂中でも保たれている粒子)を有する場合には、複合樹脂からなる粒子のアスペクト比も上記と同様であることが好ましい。
【0031】
これらの超高分子量樹脂と高分子量樹脂と母材樹脂との関係は、下記(1)〜(5)のうちのいずれのものであってもよい。即ち、
(1)超高分子量樹脂422が高分子量樹脂421内に含有(好ましくは分散含有)された複合樹脂42(例えば、複合樹脂からなる粒子の形状で含有できる)が母剤樹脂41中に含有された形態(図2参照)、
(2)超高分子量樹脂422のうちの一部は高分子量樹脂421内に含有(好ましくは分散含有)された複合樹脂42として母剤樹脂41中に含有(好ましくは分散含有)され、且つ超高分子量樹脂422の残部は単独で母剤樹脂41中に含有(好ましくは分散含有)された形態(図3参照)、
(3)母材樹脂41に含有(好ましくは分散含有)された上記複合樹脂42と、単独で母材樹脂41に含有(好ましくは分散含有)された超高分子量樹脂422と、単独で母材樹脂41に含有(好ましくは分散含有)された高分子量樹脂421と、を備える形態(図4参照)、
(4)超高分子量樹脂422及び高分子量樹脂421が各々独立して母材樹脂41中に含有(好ましくは分散含有)された形態(図5参照)、
(5)上記(1)〜(4)以外の各種形態。
尚、各図2〜5は、各樹脂同士の配置を分かり易く表した模式図であり、例えば、各樹脂の含有割合や、各樹脂の分散粒径や、各樹脂の分散形状等を正確に表す図ではない。
【0032】
上記「製紙用織物糸」は、製紙用織物を構成する緯糸及び経糸等であり、これらが組まれて(織られて)本製紙用織物を構成している。この製紙用織物に用いる製紙用織物糸の形態は特に限定されず、例えば、モノフィラメント、マルチフィラメント、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、あるいはこれらを撚り合わせる等して組み合わせた撚糸が挙げられる。これらのうちモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントが好ましい。これらの製紙用織物糸は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記モノフィラメントの線径は特に限定はないが、通常、100〜450μmである。この線径は、例えば、200〜400μmとすることができ、更には300〜450μmとすることができる。この範囲であれば交絡部が製品に転写されてマークを生じることもなく、繊維が切断されるまでの耐久時間を長くできる。一方、上記製紙用織物糸を用いた場合には、線径を100〜200μm、更には100〜180μmとすることができる。このように、従来に比べて線径を細くしても、高い耐摩耗性を有するために、従来品(例えば、線径200〜300μm)と同等か又はそれを超える耐久性を製紙用織物において得ることができる。
【0034】
また、上記マルチフィラメントは、複数本のモノフィラメントで構成された繊維である。このマルチフィラメントを構成するモノフィラメントは全てが上記製紙用織物糸であってもよく、一部のみが製紙用織物糸であってもよい。このマルチフィラメントを構成するモノフィラメントの線径及び本数についても特に限定はないが、通常、その線径は10〜50μm、好ましくは10〜40μmであり、その本数は通常700本以下、好ましくは200〜700本、更に好ましくは200〜500本である。
【0035】
この製紙用織物糸の断面形状は特に限定されず、円形、楕円形状、星型、矩形状及び中空等とすることができる。また、製紙用織物糸は、表面に凹凸を有することが好ましい。この凹凸は、上記超高分子量樹脂及び/又は複合樹脂を含有するために生じる凹凸であり、通常、長尺であり、シワ状に認められる。この1つの凸部からなる1つのシワ状部は、通常、長さが10μm以上(更には10〜50μm)である。また、その高さは、通常、1μm以上(更には、1〜10μm)である。
【0036】
この製紙用織物糸の製造方法は特に限定されず、上記構成であればどのようにして得られたものであってもよいが、特に、予め高分子量樹脂と超高分子量樹脂とを混合して混合樹脂を得て、得られた混合樹脂を母材樹脂に更に混合し、得られた混合物を紡糸して得ることが好ましい。また、高分子量樹脂及び超高分子量樹脂を不飽和カルボン酸系化合物により変性する場合には、高分子量樹脂と超高分子量樹脂とを各々不飽和カルボン酸系化合物により変性したのち両樹脂を混合して複合樹脂を得てもよく、高分子量樹脂と超高分子量樹脂とを混合したのち不飽和カルボン酸系化合物により変性して複合樹脂を得てもよい。その他、例えば、溶融させた母材樹脂に高分子量樹脂及び超高分子量樹脂の両樹脂を配合し、混合して得られた混合物を紡糸して得ることもできる。尚、上記紡糸は、通常、加熱溶融させた上記混合物を紡糸口金の細孔から繊維状に押出して行う。この際には、上記押出し後に、延伸を行ってもよく、延伸を行わなくてもよいが、特に延伸を行うことが好ましい。
【0037】
製造時に用いる超高分子量樹脂粒子の平均粒径は特に限定されないが、製紙材料に含有される無機粒子の平均粒径と同じか又はそれよりも大きいことが好ましい。この無機粒子とは、例えば、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク及びクレー等の1種又は2種以上である。これらの粒径は、通常、0.1〜20μmであることから、添加前の超高分子量樹脂粒子の平均粒径は20μm以上であることが好ましく、20〜50μmであることがより好ましく、30〜40μmであることが特に好ましい。この範囲であれば、製紙用織物糸が上記無機粒子により損傷を受けることを防止しつつ、前述のこのましい粒子形状を得ることができ、特に高い耐久性を得ることができる。
【0038】
尚、前述の複合樹脂からなる粒子を有する場合には、紡糸により変形されることが好ましく、特に紡糸の際に延伸工程を含み、この延伸工程で母材樹脂に伴って変形されることが好ましいが、製造時には略球形状の粒子として添加することができる。この場合、添加前の複合樹脂からなる粒子の平均粒径は、特に限定されないが、70〜250μmであることが好ましく、85〜250μmであることがより好ましく、100〜150μmであることが特に好ましい。この範囲であれば、母材樹脂内に複合樹脂からなる高分子量樹脂および超高分子量樹脂が均一に分散含有させることができる。
【0039】
また、本発明の製紙用織物の構成は特に限定されない。即ち、例えば、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。また、本発明の製紙用織物では、製紙用織物のどの部位に前記製紙用織物糸が用いられていてもよいが、特に、最下層緯糸及び最下層経糸(経糸のうち裏面にまで露出される糸)のうちの少なくとも一部として用いることが好ましい。即ち、例えば、最下層緯糸及び最下層経糸の各々一部を前記製紙用織物糸とし残りの糸は他の繊維を用いてもよい。更に、最下層緯糸及び最下層経糸の各々全部を前記製紙用織物糸とすることもできる。
【0040】
これらのなかでも、本発明の製紙用織物では最下層緯糸のうちの少なくとも一部として用いることが好ましい。即ち、多層構造(通常、2〜3層)の製紙用織物において、最下層緯糸のうちの少なくとも一部として用いることがより好ましい。更に、最下層緯糸の3本に1本の割合又はそれより多い割合で用いることが特に好ましく、最下層緯糸の2本に1本の割合又はそれより多い割合で用いることがとりわけ好ましい。全ての最下層緯糸に前記製紙用織物糸を用いることもできる。尚、最下層緯糸は、製紙用織物を用いる装置において機器部材(ロール等)と多く接する側の層(即ち、湿紙等を載置する層である最上層の反対側の層)に配置される緯糸である。例えば、図1に示すように、製紙用織物1が最上層緯糸21と最下層緯糸22と経糸3とを有する場合には、最下層緯糸22の一部又は全部として用いることができる。最下層は製紙用織物の寿命に大きく影響するため、最下層の製紙用織物糸の損傷(摩耗等)を抑制することで製紙用織物全体の寿命延長を効率よく実現できる。
【0041】
本発明の製紙用織物糸を製紙用織物を構成する糸のうちの一部として用いる場合、その他の糸(緯糸及び経糸)は特に限定されず種々のものを用いることができる。即ち、例えば、ポリエステルモノフィラメント、上記超高分子量樹脂及び上記高分子量樹脂を含有しない通常のナイロンモノフィラメント(6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等)等のポリアミドモノフィラメントなどが挙げられる。この場合、上記経糸や緯糸は、単一材質で構成されているものの他、経糸又は緯糸ごとに材質が異なる2種以上の材質で構成されているものとすることができる。これらの繊維は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明の製紙用織物は、製紙用織物糸の少なくとも一部が熱硬化性樹脂によりコーティングされたものとすることができる。即ち、少なくとも一部が熱硬化性樹脂によりコーティングされた製紙用織物糸を用いて得られた製紙用織物であってもよく、コーティングされてない製紙用織物糸を用いて得られた製紙用織物に熱硬化性樹脂をコーティングして得られた製紙用織物であってもよい。これらのコーティングに用いる熱硬化性樹脂の種類は特に限定されず、例えば、エポキシ系樹脂及びフェノール系樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
また、製紙用織物糸をコーティングする場合、その方法は特に限定れず、例えば、製紙用織物糸に対して溶液状又はエマルジョン状の熱硬化性樹脂を噴霧又は塗布することでコーティングすることができる。更に、製紙用織物に熱硬化性樹脂をコーティングする場合は、その方法は特に限定されないが、例えば、液状の熱硬化性樹脂からなる熱硬化性樹脂、熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂溶液、熱硬化性樹脂が分散されて含有された熱硬化性樹脂含有エマルジョン等を製紙用織物に塗布(噴霧、刷毛塗り、ロールコート及び含浸等を含む)して得ることができる。更に、製紙用織物糸を最下層緯糸として織り込んだ製紙用織物の表面に溶液状又はエマルジョン状の熱硬化性樹脂を噴霧又は塗布し、その後、自然乾燥又はロールドライヤー等による加熱乾燥を行うことにより得ることができる。
【0044】
この製紙用織物糸を織り込んだ製紙用織物をコーティングする方法によれば、ナックル部等、経糸と緯糸の接触する部分をもコーティングすることができる。このため経糸と緯糸とが樹脂で固められて織成状態を安定化できる。
また、コーティングに用いる熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む液体等は、粘度が過度に高いと、製紙用織物の目詰まりを生じて脱水効率が低下する等の問題を生じることがあるため粘度の低い液体(即ち、熱硬化性樹脂の含有量が少ない液体等)を用いることが好ましい。必要に応じてコーティングは複数回に分けて行うこともできる。
【0045】
本発明の製紙用織物としては、例えば、製紙用フォーミングワイヤー、織り生地、編み生地、フエルト生地、コンベアベルト、製紙用プレスフエルト及び繋ぎ合わせプレスフエルト、製紙用ドライヤーキャンバス等が挙げられる。これらのなかでも、特に製紙用フォーミングワイヤーとして用いると本製紙用織物の効能が特に効果的に得られる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の製紙用織物について実施例を挙げて具体的に説明する。
[1]製紙用織物の製造(実施例1〜2及び比較例1)
(1−1)実施例1(複合樹脂含量15質量%の糸を用いた製紙用織物)
高分子量樹脂としてポリエチレン樹脂(分子量7万)、及び、超高分子量樹脂として超高分子量ポリエチレン樹脂(分子量200万:三井化学株式会社製、品名「ミペロンXM−220」)を用意した。これらは、非高分子量樹脂と高分子量樹脂との合計を100質量%とした場合に、高分子量樹脂が70質量%、超高分子量樹脂が30質量%となるように配合し、混合して複合樹脂用混合粉末を得た。
【0047】
得られた複合樹脂用混合粉末に、更に、複合樹脂用混合粉末100質量部に対して、無水マレイン酸を1質量部及び過酸化ベンゾイルを0.1質量部を加え、二軸混練機を用いて温度220℃で混練して、各樹脂が無水マレイン酸により変性された不飽和カルボン酸変性された複合樹脂のペレットを得た。次いで、母材樹脂としてナイロン6樹脂(反応性母材樹脂)を用い、溶融させたナイロン6樹脂と上記複合樹脂との合計を100質量%とした場合に、ナイロン6樹脂が85質量%且つ複合樹脂が15質量%となるように混合し、二軸混練機を用いて温度280℃で混練し、次いで、紡糸(延伸工程を含む)して線径が350μmの不飽和カルボン酸変性された複合樹脂(超高分子量樹脂と高分子量樹脂とを含有)が反応性母材樹脂中に含有されたモノフィラメントの製紙用織物糸(実施例1)を製造した。
【0048】
経糸として線径220μmのポリエチレンテレフタレートを用い、最上層緯糸として線径250μmのポリエチレンテレフタレートを用い、最下層緯糸として線径350μmのポリエチレンテレフタレートと上記製紙用織物糸(実施例1)とを1対1の数量比で用いて二重織構造の実施例1の製紙用織物を製造した。但し、経糸本数は100本/2.54cm、最上層緯糸本数は35本/2.54cm、最下層緯糸本数は35本/2.54cmとした。
【0049】
(1−2)実施例2(複合樹脂含量5質量%の糸を用いた製紙用織物)
不飽和カルボン酸変性された上記複合樹脂の添加量を5質量部とした以外は、上記(1−1)と同様にして、複合樹脂を含有するナイロンからなるモノフィラメントの製紙用織物糸(実施例2)を製造した。
その後、上記(1−1)と同様にして製紙用織物(実施例2)を得た。
【0050】
(1−3)比較例1(複合樹脂を含有しない糸を用いた製紙用織物)
溶融させたナイロン6樹脂のみを(複合樹脂を含有させない)紡糸(延伸工程を含む)して、線径が350μmのナイロンからなるモノフィラメントの製紙用織物糸(比較例1)を製造した。次いで、上記(1−1)における実施例1の製紙用織物糸に換えて、比較例1の製紙用織物糸を用いたこと以外は、上記(1−1)と同様にして製紙用織物(比較例1)を得た。
【0051】
[2]比較試験
(1)製紙用織物糸の耐摩耗試験
長さ65cmに切断した実施例1〜2及び比較例1の各製紙用織物の製造に用いた製紙用織物糸を試験片として、摩耗試験機により切断に至るまでのカウント数を計測した。この摩耗試験機は、研磨紙(粒度320)を表面に巻いたドラムを備える。また、試験片の一端を固定し他端に350gの荷重を掛けて固定し、pH7の水を試験片に散水しながら、試験片の中央部が研磨紙により摺動されるようにドラムを回転させるものである。ドラムは回転速度500rpmで回転させ、試験片が完全に切断するまでのカウント数(ドラムが1回転した時を1カウントとする)を計測した。その結果を表1に示した。
【0052】
(2)製紙用織物の耐摩耗試験
幅2cm且つ長さ65cmに切断した実施例1〜2及び比較例1の各製紙用織物を試験片とした以外は、上記(1)と同様にして試験片が完全に切断するまでのカウント数を計測した。その結果を表1に併記した。
【0053】
(3)製紙用織物の動摩擦係数
実施例1〜2及び比較例1の各製紙用織物の最下層部の動摩擦係数を測定装置(カトーテック株式会社製、品名「摩擦感テスター KES−SE」)により計測した。測定環境は20℃且つ湿度は65%であった。
また、この動摩擦係数の測定においては、上記[1](2)で得られた紡糸直後の各製紙用織物糸では複合樹脂は反応性母材樹脂に覆われた状態と考えられる。このため、各試験片は織り上げた状態のままの面を被測定面とした「研磨前」の測定値と、同面を50μm研磨した後の面を被測定面とした「研磨後」の測定値とを計測した。その結果を表1に併記した。
【0054】
【表1】

【0055】
[3]評価
表1の結果より、製紙用織物糸の耐摩耗試験における切断時カウント数を比較した。その結果、実施例1の製紙用織物糸は比較例1の製紙用織物糸の2.27倍であった。また、実施例2の製紙用織物糸は比較例2の製紙用織物糸の1.49倍であった。同様に、製紙用織物の耐摩耗試験における切断時カウント数を比較した。その結果、実施例1の製紙用織物は比較例1の製紙用織物の2.01倍であった。また、実施例2の製紙用織物は比較例2の製紙用織物の1.27倍であった。即ち、複合樹脂が含有されることにより、耐摩耗性が向上されていることが分かる。
【0056】
更に、動摩擦係数測定では、研磨前は実施例1、実施例2及び比較例1の間に大きな差がない。これに比して研磨後は、比較例1に対して実施例1は測定値で0.039小さく、25%も動摩擦係数が小さいことが分かる。同様に、比較例1に対して実施例2は測定値で0.036小さく、23%も動摩擦係数が小さいことが分かる。即ち、複合樹脂を含有する製紙用織物糸を、半数の最下層緯糸に用いるだけであっても製紙用織物では大幅な耐摩耗性向上が認められることが分かる。
【0057】
尚、本発明においては、上記具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて種々変更し適用することができる。即ち、例えば、織物を構成する組織、経糸及び緯糸等の材質とその線径を用途に応じて変更できる。また、織物を構成する材質全てに上記複合樹脂を含有する製紙用織物糸を適用して良いく、所定量だけ。即ち、所定本数おきに適用する構成とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の製紙用織物は製紙分野において広く用いられる。特に、製紙用フォーミングワイヤー、織り生地、編み生地、フエルト生地、コンベアベルト、製紙用プレスフエルト及び繋ぎ合わせプレスフエルト、製紙用ドライヤーキャンバス等として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本製紙用織物の縦断面の模式図である。
【図2】本製紙用織物に用いる製紙用織物糸の一例の長手方向に垂直な断面における模式図である。
【図3】本製紙用織物に用いる製紙用織物糸の他例の長手方向に垂直な断面における模式図である。
【図4】本製紙用織物に用いる製紙用織物糸の更に他例の長手方向に垂直な断面における模式図である。
【図5】本製紙用織物に用いる製紙用織物糸のその他の例の長手方向に垂直な断面における模式図である。
【符号の説明】
【0060】
1;製紙用織物、21;最上層緯糸、22;最下層緯糸、3;経糸、4;製紙用織物糸、41;母材樹脂、42;複合樹脂、421;高分子量樹脂、422;超高分子量樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量が50万以下である母材樹脂と、
該母材樹脂中に含有された粘度平均分子量が50万以下である高分子量樹脂と、
該母材樹脂中に含有された粘度平均分子量が100万以上である超高分子量樹脂と、を含有し、
糸全体に対する該高分子量樹脂と該超高分子量樹脂との合計含有量が30質量%以下である製紙用織物糸を少なくとも一部に備えることを特徴とする製紙用織物。
【請求項2】
上記母材樹脂は、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂のうちの少なくとも1種である請求項1に記載の製紙用織物。
【請求項3】
上記高分子量樹脂は、不飽和カルボン酸系化合物により変性されている請求項1又は2に記載の製紙用織物。
【請求項4】
上記超高分子量樹脂は、不飽和カルボン酸系化合物により変性されている請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
【請求項5】
上記不飽和カルボン酸系化合物は、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水イタコン酸及びイタコン酸、並びにこれらの誘導体のうちの少なくとも1種である請求項3又は4に記載の製紙用織物。
【請求項6】
上記高分子量樹脂は、ポリオレフィンである請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
【請求項7】
上記超高分子量樹脂は、ポリオレフィンである請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
【請求項8】
上記製紙用織物糸が、最下層緯糸の少なくとも一部である請求項1乃至7のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
【請求項9】
製紙用フォーミングワイヤーである請求項1乃至8のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
【請求項10】
上記製紙用織物糸の少なくとも一部が熱硬化性樹脂によりコーティングされている請求項1乃至9のうちのいずれかに記載の製紙用織物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−70764(P2007−70764A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259844(P2005−259844)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】