説明

製紙用織物

【課題】製紙面側織物層と走行面側織物層の接結を強固にして耐摩耗性を向上させると共に、表面性を向上させることができる製紙用織物を提供する。
【解決手段】本発明の製紙用織物1Aは、製紙面側経糸21及び製紙面側緯糸22により構成され且つ製紙面側経糸21と製紙面側緯糸22とが平組織に織られた製紙面側織物層2、走行面側経糸31と走行面側緯糸とにより構成された走行面側織物層、及び製紙面側経糸21と走行面側経糸31とを織込んで製紙面側織物層2と走行面側織物層3とを接結した接結緯糸4、を有する製紙用織物1において、接結緯糸4のうちの第1接結緯糸4aが製紙面側経糸22のうちの第1製紙面側経糸22aを織込み、且つ第1接結緯糸4に隣接された少なくとも一方の製紙面側緯糸22である第1製紙面側緯糸22aが、第1製紙面側経糸21aの下を通って走行面側経糸31aを織込んでいる接結部51を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用織物に関し、更に詳しくは、製紙面側織物層と走行面側織物層とが接結糸により接結された平滑性に優れる製紙用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
今日製紙用織物には、抄造される紙の品質向上及び抄速の高速化による生産効率向上の要請に応えるため、優れた表面平滑性と優れた強度とを併せ有することが求められる。このために、異なる性質を有する2層以上の織物層を接合してなる製紙用織物が多く用いられている。このような2層以上の織物層を有する製紙用織物においては、下記特許文献1及び下記特許文献2の各タイプの製紙用織物が知られている。
即ち、下記特許文献1には、2本1組の縫合ヤーンを用いて製紙面側織物層と走行面側織物層とを接結した製紙用織物が開示されている。更に、下記特許文献2に示されるように、製紙面側織物層と走行面側織物層とを接結緯糸で接結した製紙用織物が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−020586号公報
【特許文献2】特開2003−013384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の製紙用織物では、縫合ヤーンを2本1組で用いるために、これら2本の緯糸は同様な頻度及び形状等で製紙面側に現れるために、太さ及び材質等において同質の糸を使用せざるを得ない制約があるという問題がある。一方、上記特許文献2に開示された製紙用織物では、接結緯糸は製紙面側緯糸とは異なる異質な糸を用いることができ、脱水性能の制御、製紙用織物の厚さ制御、及び製品歩留等の点において選択性が広いという点において優れている。しかし、更に優れた平滑性が求められている。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、製紙面側織物層と走行面側織物層とを接結糸により接結した製紙用織物において、その接結を十分に強固に保ちつつ、より優れた製紙面側織物層の平滑性が得られる製紙用織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示す通りである。
(1)製紙面側経糸及び製紙面側緯糸により構成され且つ該製紙面側経糸と該製紙面側緯糸とが平組織に織られた製紙面側織物層、走行面側経糸と走行面側緯糸とにより構成された走行面側織物層、及び該製紙面側経糸と走行面側経糸とを織込んで該製紙面側織物層と該走行面側織物層とを接結した接結緯糸、を有する製紙用織物において、
上記接結緯糸のうちの第1接結緯糸が上記製紙面側経糸のうちの第1製紙面側経糸を織込み、
且つ該第1接結緯糸に隣接された少なくとも一方の上記製紙面側緯糸である第1製紙面側緯糸が、該第1製紙面側経糸の下を通って上記走行面側経糸を織込んでいる接結部を有することを特徴とする製紙用織物。
(2)上記接結緯糸が上記走行面側経糸を織込む織込回数Nと、該接結緯糸が上記製紙面側経糸を織込む織込回数Nと、はN≧Nである上記(1)に記載の製紙用織物。
(3)上記製紙面側緯糸は、上記接結部を形成している製紙面側緯糸及び上記接結部を形成していない製紙面側緯糸からなり、
該接結部を形成している製紙面側緯糸の本数と、該接結部を形成していない製紙面側緯糸の本数と、の比は(1〜3):(1〜3)である上記(1)又は(2)に製紙用織物。
(4)完全組織中の上記製紙面側経糸と上記走行面側経糸の本数の合計が4の倍数である上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の製紙用織物。
(5)上記接結緯糸の太さは、上記製紙面側緯糸の太さ以下である上記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載の製紙用織物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製紙用織物によれば、製紙面側織物層と走行面側織物層の接結を強固にして耐摩耗性を向上させ、寿命延長を図ると共に、製紙面側織物層の平滑性を向上させることができる。
織込回数Nと織込回数NとがN≧Nである場合は、上下組織(製紙面側織物層と走行面側織物層)が固定されて、製紙用織物の組織がより強固となり、優れた耐久性を発揮できる。
接結部を形成している製紙面側緯糸の本数と接結部を形成していない製紙面側緯糸の本数との比が(1〜3):(1〜3)である場合は、特に接結性と表面性の両者のバランスに優れた製紙用織物とすることができる。
完全組織中の製紙面側経糸と走行面側経糸の本数の合計が4の倍数である場合は、特に耐久性に優れた長寿命な製紙用織物が得られる。
接結緯糸の太さが製紙面側緯糸の太さ以下である場合は、製紙面側の緯糸がより直線状に近い並び(緯糸方向)となるため、上記接結部を備えることによる優れた表面平滑性を更に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について、以下詳細に説明する。
本発明の製紙用織物1は、図1〜9に例示するように、製紙面側経糸21(21aを含む)及び製紙面側緯糸22(22a及び22bを含む)により構成され且つ該製紙面側経糸21と該製紙面側緯糸22とが平組織に織られた製紙面側織物層2、走行面側経糸31と走行面側緯糸32とにより構成された走行面側織物層3、及び該製紙面側経糸21と走行面側経糸31とを織込んで該製紙面側織物層2と該走行面側織物層3とを接結した接結緯糸4、を有する製紙用織物(1A、1B及び1C)において、上記接結緯糸4のうちの第1接結緯糸4aが上記製紙面側経糸21のうちの第1製紙面側経糸21aを織込み、且つ該第1接結緯糸4aに隣接された少なくとも一方の上記製紙面側緯糸22である第1製紙面側緯糸22aが、該第1製紙面側経糸21aの下(走行面側)を通って上記走行面側経糸31aを織込んでいる接結部51を有することを特徴とする。
【0009】
上記「製紙面側織物層2」は、通常、製紙の際、主に製品原料、中途製品及び完成品等と接する側に位置する織物層である。この製紙面側織物層2は上記平組織を有する。本発明における上記平組織とは、図1に示すように、接結部51(接結部51では、製紙面側緯糸22aが走行面側経糸31aを織込む)以外の他部において、製紙面側緯糸22が製紙面側経糸21の下に来るように織込み、続いて、隣りの製紙面側経糸21の上に来るように織込むことにより形成されている組織である。但し、一部にかかる織込みでない箇所があってもよい。
【0010】
上記「走行面側織物層3」は、通常、製紙の際、主に機械部品等と接する側に位置する織物層である。この走行面側織物層3の組織については特に限定はなく、走行面側緯糸31及び走行面側経糸32の本数、織込みパターン等を調節することにより、種々の組織とすることができる。例えば、走行面側織物層3の組織を粗くすると、運搬する湿紙の脱水性を向上させることができ、密にすると、走行時における耐摩耗性を向上させることができる。よって、要求される脱水性、耐摩耗性に応じて種々のものとすることができる。
また、走行面側織物層3を構成する走行面側経糸31及び走行面側緯糸32の織込みパターンについても特に限定はないが、走行面側緯糸32を先に摩耗させ、走行面側経糸31を摩耗から保護して製紙用織物1の寿命延長を図るべく、走行面側緯糸32を下方に突出させたロングクリンプを有する織込みパターンとすることができる。ロングクリンプを有する場合、そのクリンプ間隔は走行面側経糸3〜12本分が好ましく、3〜11本分がより好ましく、4〜10本分が更に好ましい。
【0011】
更に、本発明の製紙用織物1において、走行面側織物層3を構成している走行面側経糸31の配置は特に限定されない。即ち、例えば、(1)走行面側経糸31を直上の製紙面側経糸21に対して略垂直に配列するように織込んでもよい。また、(2)走行面側経糸31を直上の製紙面側経糸21に対して横方向に0.1〜1本分ずれるように織込んでもよい。上記(2)のように走行面側経糸31を直上の製紙面側経糸21に対してずらして織込んだ場合は、走行面側織物層3の多層性を崩すことができ、製紙用織物1の層厚を小さく抑えることができる。
【0012】
上記「接結緯糸4」は、製紙面側経糸21と走行面側経糸31とを織込んで、製紙面側織物層2と走行面側織物層3とを接結している緯糸である。この接結緯糸4は、全ての接結緯糸4が接結部51(以下、単に「タイプ1接結部」ともいう)を形成していてもよく、一部の接結緯糸4のみが接結部51を形成していてもよい。接結緯糸4のうちの少なくとも半数以上が接結部51を形成していることが好ましく、全ての接結緯糸4が接結部51を形成していることが更に好ましい。接結緯糸4は接結部51を形成する以外に、他の接結部を形成していてもよく、他の接結部を形成しなくてもよい。接結緯糸4は、通常、接結部51以外にも、走行面側経糸31を織込んで形成される接結部52(以下、単に「タイプ2接結部」ともいう。これについては後述もする)を備える。
【0013】
このタイプ2接結部52においては、接結緯糸4は走行面側経糸31を何本織込んでもよいが、通常、1〜16本(好ましくは1〜6本、更に好ましくは1〜2本)である。また、この接結緯糸4が走行面側経糸31を織込む織込回数をNとし、接結緯糸4が製紙面側経糸21を織込む織込回数をNとした場合に、N≧Nであることが好ましい。これにより、上下組織(製紙面側織物層2と走行面側織物層3)が固定されて、製紙用織物1の組織がより強固となり、優れた耐久性を発揮できるため好ましい。この相関は、更に、1≦N/N≦3がより好ましく、1≦N/N≦2が更に好ましい。この範囲では特により摩耗し易い条件下におかれる走行面側へ接結緯糸4の露出が少なくなるため長寿命化に寄与する。
【0014】
更に、この織込みは、接結緯糸4が1本の走行面側経糸31を織込む織込回数NM1と、接結緯糸4が1本の製紙面側経糸21を織込む織込回数NP1と、の相関において、NM1≧NP1であることが好ましい。更に、1≦NM1/NP1≦4がより好ましく、1≦NM1/NP1≦2が更に好ましい。特に1≦NM1/NP1≦4の範囲では、製紙面側織物層2の表面での凹みの形成を抑えつつ、製紙面側織物層2と走行面側織物層3とをより強固に接結することができる。即ち、接結回数が多くなるに連れて製紙面側織物層2と走行面側織物層3とが締まることに起因して接結部51の製紙面側織物層2の表面に凹みが生じ易くなる傾向にあるが、この凹みの形成を効果的に抑制できる。
【0015】
上記「接結部51」(タイプ1接結部51)は、第1接結緯糸4aが第1製紙面側経糸21aを織込み、且つ第1接結緯糸4aに隣接された第1製紙面側緯糸22aが第1製紙面側経糸21aの下(走行面側)を通って上記走行面側経糸31aを織込んでいる部分である。このタイプ1接結部51を備えることにより、接結緯糸だけでなく、製紙面側織物層2と走行面側織物層3とを直接的に接結することができ、尚かつ、製紙面側織物層2の平面性を保つことができる。尚、接結緯糸4に隣接された製紙面側緯糸22は、接結緯糸4の両隣にあるため2本ある。製紙面側経糸21aの下(走行面側)を通って走行面側経糸31aを織込むのは、これらのうちの少なくとも一方であればよいが、両方であってもよい。
【0016】
このタイプ1接結部51の数は特に限定されないが、製紙面側経糸3〜10本あたりに1ヶ所以上を有することが好ましい。この範囲では平面性を保ちつつ接結強度に優れた耐久性の高い製紙用織物を得ることができる。更に、接結部51の数は、製紙面側経糸3〜8本あたりに1ヶ所以上を有することがより好ましく、製紙面側経糸3〜6本あたりに1ヶ所以上を有することが更に好ましく、製紙面側経糸3〜4本あたりに1ヶ所以上を有することが特に好ましい。これらの好ましい範囲では、更に優れた耐久性を得ながら十分な平面性を確保することができる。
【0017】
本発明の製紙用織物1においては、上記タイプ1接結部51以外にも他の接結部を備えることができる。他の接結部としては、図1〜9に例示されるように、接結緯糸4が走行面側経糸31を織込んでいる接結部52(タイプ2接結部52)が挙げられる。また、図13に例示されるように、第1接結緯糸4aとこれに隣接された第1製紙面側緯糸22aとが第1製紙面側経糸21aを織込み、更に、第1製紙面側緯糸22aが上記第1製紙面側経糸21aに続いてその略下方に位置する第1走行面側経糸31aを織込んでいる接結部53(以下、単に「タイプ3接結部」という)が挙げられる。更に、図12に例示されるように、接結緯糸4が製紙面側経糸21を織込んでいる接結部54(以下、単に「タイプ4接結部」という)が挙げられる。
【0018】
これらのタイプ1〜4の接結部のなかでは、タイプ3接結部53の数がより少ないことが好ましい。即ち、同じ製紙面側経糸を互いに隣接された製紙面側緯糸と接結緯糸とによって織込まれた接結部の数ができるだけ少ないことが好ましい。このタイプ3接結部の数は接結緯糸1本に対して1ヶ所以下であることが好ましく、更には本発明の製紙用織物上に存在しないものとすることができる。
【0019】
また、本発明の製紙用織物1では、(1)全ての製紙面側緯糸22が走行面側経糸31を織込んで接結部51(製紙面側緯糸1本あたりに少なくとも1ヶ所以上)を形成してもよく、(2)一部の製紙面側緯糸22のみが走行面側経糸31を織込んで接結部51(製紙面側緯糸1本あたりに少なくとも1ヶ所以上)を形成してもよい。上記(1)の場合は接結性が極めて高い製紙用織物1を得ることができ、上記(2)の場合には上記(1)に比べて製紙面側表面の平滑性に優れた製紙用織物1を得ることができる。
【0020】
上記のうち(2)のように接結部51を形成していない(1本の製紙面側緯糸22あたりに接結部51を1つも構成していない)製紙面側緯糸22を有する場合、接結部51を形成している(走行面側経糸を織込んでいる)製紙面側緯糸の本数と、接結部51を形成していない(走行面側経糸を織込んでいない)製紙面側緯糸の本数と、の比は特に限定されず、要求される接結力及び表面性等により種々の範囲とすることができる。通常は、接結部51を形成している製紙面側緯糸の本数と、接結部51を形成していない製紙面側緯糸の本数と、の比は(1〜3):(1〜3)である。更に、この比は1:1、2:1、3:2(1:1と2:1との混成)又は2:2であることが好ましい。この範囲では特に接結性と表面性の両者のバランスに優れた製紙用織物とすることができる。
【0021】
本発明の製紙用織物1において、完全組織を構成する緯糸及び経糸の本数には特に限定はない。通常、製紙面側経糸21と走行面側経糸31の本数の合計が4の倍数(好ましくは8本、12本、16又は20本)で完全組織を構成している。本発明の製紙用織物1では、製紙面側織物層2と走行面側織物層3からなり、且つ、製紙面側織物層2が平組織で構成されるので、製紙面側経糸21と走行面側経糸31の本数の合計の最小値は各層2本ずつの4本である。しかし、製紙用織物1の寿命を考慮した場合、製紙面側経糸21と走行面側経糸31の本数の合計を8本、12本、16又は20本とするのが好ましい。また、製紙面側緯糸22と走行面側緯糸32の比は、通常(1〜3):(1〜2)であり、好ましくは1:1、2:1又は3:2である。
【0022】
本発明の製紙用織物1を構成する各種糸(製紙面側経糸21、製紙面側緯糸22、走行面側経糸31、走行面側緯糸32、接結緯糸4など)の形態は特に限定されず、モノフィラメント及びマルチフィラメント{通常700本以下(好ましくは200〜500本)の構成糸からなる}を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは耐久性の観点から製紙面側及び走行面側共にモノフィラメントを用いることが好ましい。更に、各糸は捲縮加工や嵩高加工等を施した加工糸でもよく、非加工糸であってもよい。これらのなかでは非加工糸が好ましい。
【0023】
また、本発明の製紙用織物1を構成する各種糸を構成する材料は特に限定されないが、通常、樹脂を用い、更には、熱可塑性樹脂を用いる。熱可塑性樹脂としては、ポリアミド系樹脂{脂肪族ポリアミド樹脂(ナイロン等)、芳香族ポリアミド樹脂(パラフェニレンジアミンとテレフタル酸との重合体など)}、ポリエステル系樹脂、ビニル系樹脂(疎水化ポリビニルアルコール樹脂等、特にビニロン)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂等)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかではポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂が好ましい。
【0024】
上記ポリアミド系樹脂のなかでも脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、更には、ナイロンが好ましい。ナイロンとしては、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン610、ナイロン612等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸とグリコールとからなるポリエステルであれば特にその種類に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、本発明の製紙用織物1を構成する各糸は、各々単一材質で構成されていてもよく、経糸又は緯糸ごとに材質が異なる2種以上の材質で構成されているものとすることもできる。更に、各糸には、無機フィラー及び/又は有機フィラーを含有されてもよい。
【0025】
更に、本発明の製紙用織物1を構成する各種糸の線径は特に限定されない。通常、いずれの糸も50〜600μmの範囲のものを用いる。また、この各種糸のなかでも、接結緯糸4の太さは、製紙面側緯糸22の太さ以下であることが好ましい。即ち、接結緯糸4の太さをTとし、製紙面側緯糸22の太さをT22とした場合に、T22/T≧1であることが好ましく、1≦T22/T≦2がより好ましく、1≦T22/T≦1.16が更に好ましい。これにより、製紙面側緯糸22がより直線に近い並びになる(製紙面側緯糸22の経糸方向へのうねりが抑えられる)ため、接結部51を備えることによる優れた表面平滑性を更に向上させることができる。この接結緯糸4は100〜300μm(より好ましくは100〜250μm)であることが特に好ましい。この範囲では、製紙用織物1の厚さを小さく抑えつつ、適度な空隙量を有する構造を得ることができる。
【0026】
また、製紙面側の各糸と走行面側の各糸との太さの関係は特に限定されないが、製紙面側緯糸22の太さは走行面側緯糸32の太さ以下であることが好ましい。即ち、製紙面側緯糸22の太さをT22とし、走行面側緯糸32の太さをT32とした場合に、T32/T22≧1であることが好ましく、1≦T32/T22≦3.5がより好ましく、1<T32/T32<3が更に好ましい。これにより製紙面側を走行面側に比べてより緻密にして表面平滑性を向上させつつ優れた脱水性能(即ち適度な空隙量を有する構造)及び優れた耐久性をも得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(1)製紙用織物の構造
本実施例の製紙用織物1A〜1Cの各々の横断面模式図(走行面側緯糸32を省略)及び対応する部分の製紙面側の部分組織図を図1〜3に、また、横断面模式図(走行面側緯糸32を省略)及び製紙面側の完全組織図を図4〜6に、更に、走行面側緯糸32を含む横断面模式図及び製紙面側から見た完全組織図を図7〜9に示す。
但し、図1〜6の各部分組織図では、分かり易さのために製紙面側の経糸21並びに緯糸22及び接結緯糸4のみを表している。図7〜9では走行面側の経糸31及び緯糸32も反映させている。
尚、製紙用織物1A〜1Cを構成する各糸は次の通りである。即ち、製紙面側経糸21及び製紙面側緯糸22はポリエステル製で径が0.25mmである。走行面側経糸31はポリエステル製で径が0.27mmである。走行面側緯糸32はポリエステル製とナイロン製の併用で径が0.35mmである。接結緯糸4はナイロン製で径が0.20mmである。
【0028】
本実施例である製紙用織物1A(走行面4/1クズシ)は、図1、図4及び図7に示すように、完全組織中の経糸の総数が20シャフトである。また、製紙面側緯糸22と走行面側緯糸32の比は1:1である。更に、製紙面側緯糸22は製紙面側緯糸22のうちの隣接する2本に1本の割合で接結部51を形成している製紙用織物である。即ち、接結部を形成している製紙面側緯糸22の本数と接結部を形成していない製紙面側緯糸22の本数との比は1:1である。また、第1接結緯糸4aに隣接された第1製紙面側緯糸22aが、第1製紙面側経糸21aの下を通って走行面側経糸31aを織込んでいる接結部51を有する。更に、接結緯糸4が走行面側経糸31を織込む織込回数Nと、接結緯糸4が製紙面側経糸21を織込む織込回数Nと、の比N/Nは2(=2/1)である。また、接結緯糸4は、各々経糸を織込む際には1本づつを織込んでいる。更に、製紙面側織物層2を構成する製紙面側経糸21及び製紙面側緯糸22は平組織に織られている。また、この組織では、製紙面側経糸10本と走行面側経糸10本との合計20本において1本の走行面側経糸が製紙面側緯糸により織込まれている(即ち、接結部51が図1に1ヶ所)。更に、走行面側緯糸32は、走行面側経糸31のうちの隣接する5本に1本の割合で走行面側経糸31を織り込んでいる。
【0029】
本実施例である製紙用織物1B(走行面4/1クズシ)は、図2、図5及び図8に示すように、完全組織中の経糸の総数が20シャフトである。また、製紙面側緯糸22と走行面側緯糸32の比は3:2である。更に、製紙面側緯糸22は全ての糸が接結部51を形成している。更に、第1接結緯糸4aに隣接された第1製紙面側緯糸22aが、第1製紙面側経糸21aの下を通って走行面側経糸31aを織込んでいる接結部51を有する。また、接結緯糸4が走行面側経糸31を織込む織込回数Nと、接結緯糸4が製紙面側経糸21を織込む織込回数Nと、の比N/Nは2(=2/1)である。更に、接結緯糸4は、各々経糸を織込む際には1本づつを織込んでいる。また、製紙面側織物層2を構成する製紙面側経糸21及び製紙面側緯糸22は平組織に織られている。また、この組織では、製紙面側経糸10本と走行面側経糸10本との合計20本において1本の走行面側経糸が製紙面側緯糸により織込まれている(即ち、接結部51が図2に1ヶ所)。更に、走行面側緯糸32は、走行面側経糸31のうちの隣接する5本に1本の割合で走行面側経糸31を織り込んでいる。
【0030】
本実施例である製紙用織物1C(走行面8/2クズシ)は、図3、図6及び図9に示すように、完全組織中の経糸の総数が20シャフトである。また、製紙面側緯糸22と走行面側緯糸32の比は2:1である。更に、製紙面側緯糸22は製紙面側緯糸22のうちの隣接する4本に2本の割合で接結部51を形成している製紙用織物である。即ち、接結部を形成している製紙面側緯糸22の本数と接結部を形成していない製紙面側緯糸22の本数との比は2:1である。更に、第1接結緯糸4aに隣接された第1製紙面側緯糸22aが、第1製紙面側経糸21aの下を通って走行面側経糸31aを織込んでいる接結部51を有する。また、接結緯糸4が走行面側経糸31を織込む織込回数Nと、接結緯糸4が製紙面側経糸21を織込む織込回数Nと、の比N/Nは1(=2/2)である。更に、接結緯糸4は、各々経糸を織込む際には1本づつを織込んでいる。更に、製紙面側織物層2を構成する製紙面側経糸21及び製紙面側緯糸22は平組織に織られている。また、この組織では、製紙面側経糸10本と走行面側経糸10本との合計20本において2本の走行面側経糸が製紙面側緯糸により織込まれている(即ち、接結部51が図3に2ヶ所)。更に、走行面側緯糸32は、走行面側経糸31のうちの隣接する10本に2本の割合(8本非織り込み−2本織り込みの繰り返し)で走行面側経糸31を織り込んでいる。
【0031】
このような構成を有することにより製紙用織物1A〜1Cはいずれも、製紙面側緯糸22が走行面側経糸31を織込んでいない組織(図12)のみからなる場合に比べて、製紙面側織物層2と走行面側織物層3とが強固に接結されて耐摩耗性に優れる。また、第1接結緯糸4aに隣接された第1製紙面側緯糸22aが、第1製紙面側経糸21aの上を通って走行面側経糸31aを織込んでいる組織(図13)のみからなる場合に比べて、優れた表面平滑性を発揮させることができる。更に、製紙面側緯糸22がより直線に近い並びになる(製紙面側緯糸22の経糸方向へのうねりが抑えられる)ため、更に平面性に優れている。また、本実施例3の製紙用織物1Cは、走行面側緯糸がロングクリンプを有する構成であることから、耐摩耗性においても特に優れている。
【0032】
上記のうちの実施例2である製紙用織物1Bについて、光学式顕微鏡により65倍に拡大して得られたデジタル画像による説明図を図10に示した。この結果から、接結緯糸4によるうねりがほとんど生じていないことが分かる。即ち、製紙面側緯糸22がより直線に近い並びになり、製紙面側緯糸22の経糸方向へのうねりが抑えられることが分かる。
更に、この製紙用織物1Bについて、プレスケールテストを行った。このプレススケールテストは、プレスケール感圧紙(富士写真フィルム株式会社性、品名「プレスケール低圧用感圧紙」、寸法;縦100mm×横100mm)に、面圧3.4MPaの定荷重で製紙用織物1Bを加圧して押しつけて発色斑を生じさせた。この結果を図11に示した。この結果、白斑(即ち、圧力がかからず他部に対して凹部を形成している部位)は認められず、全面において発色されていることが分かる。即ち、圧力抜けを生じた部位がない。更に、濃淡の割合は均一であり、全面にわたって優れた平滑性を有することが分かる。
【0033】
また、実施例1(製紙用織物1A)と、実施例2(製紙用織物1B)と、実施例3(製紙用織物1C)と、を比較した場合、接結緯糸4の割合が少ない製紙用織物1Aは他の製紙用織物に比べると優れた接結性を維持しながら、優れた通気度も有している。一方、接結緯糸4の割合が多い製紙用織物1Bは他の製紙用織物に比べて製紙面側織物層2と走行面側織物3との接結性に特に優れている。
【0034】
尚、本発明においては、前記具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて種々変更した実施例とすることができる。即ち、例えば、上記実施例1では、走行面側緯糸32の織り込み態様は4/1クズシとしているが、これに限定されるものではなく、実施例3のように8/2クズシとしてもよく、更にその他の織り込み態様としてもよい。上記実施例2についても同様である。更に、上記実施例3では、走行面側緯糸32の織り込み態様は8/2クズシであるが、これに限定されるものではなく、実施例1及び2のように4/1クズシとしてもよく、更にその他の織り込み態様としてもよい。
その他、シャフト数、製紙面側緯糸と走行面側緯糸との比、接結部を形成している製紙面側緯糸の本数と接結部を形成していない製紙面側緯糸の本数との比、N/N、接結緯糸が経糸を織込む本数、接結部51の数、走行面側緯糸が走行面側経糸織り込む態様、等は各々異なる態様とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製紙用織物は、製紙分野において広く用いられ、製紙用フォーミングワイヤー、製紙用ベルト、製紙用プレスフエルト、繋ぎ合わせプレスフエルト及び製紙用ドライヤーカンバス等として利用される。これらの中でも、製紙用フォーミングワイヤーとして用いると本製紙用織物の効能が特に効果的に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一例である製紙用織物1Aの横断面模式図(走行面側緯糸を省略)及び対応する部分組織図(走行面側経糸及び緯糸を省略)である。
【図2】本発明の他例である製紙用織物1Bの横断面模式図(走行面側緯糸を省略)及び対応する部分組織図(走行面側経糸及び緯糸を省略)である。
【図3】本発明の他例である製紙用織物1Cの横断面模式図(走行面側緯糸を省略)及び対応する部分組織図(走行面側経糸及び緯糸を省略)である。
【図4】本発明の一例である製紙用織物1Aの横断面模式図(走行面側緯糸を省略)及びこれを含む製紙面側の完全組織図(走行面側経糸及び緯糸を省略)である。
【図5】本発明の他例である製紙用織物1Bの横断面模式図(走行面側緯糸を省略)及びこれを含む製紙面側の完全組織図(走行面側経糸及び緯糸を省略)である。
【図6】本発明の他例である製紙用織物1Cの横断面模式図(走行面側緯糸を省略)及びこれを含む製紙面側の完全組織図(走行面側経糸及び緯糸を省略)である。
【図7】本発明の一例である製紙用織物1Aの横断面模式図及びこれを含む完全組織図である。
【図8】本発明の他例である製紙用織物1Bの横断面模式図及びこれを含む完全組織図である。
【図9】本発明の他例である製紙用織物1Cの横断面模式図及びこれを含む完全組織図である。
【図10】本発明の製紙用織物1Bの表面を光学式顕微鏡により65倍に拡大して得られたデジタル画像による説明図である。
【図11】本発明の製紙用織物1Bの表面のプレススケールテストにより発色斑を示す説明図である。
【図12】参考組織の横断面模式図及び対応する平面組織図である。
【図13】参考組織の横断面模式図及び対応する平面組織図である。
【符号の説明】
【0037】
1A,1B,1C;製紙用織物、2;製紙面側織物層、21;製紙面側経糸、21a;第1製紙面側経糸、22,22b;製紙面側緯糸、22a;第1製紙面側緯糸、3;走行面側織物層、31;走行面側経糸、31a;第1走行面側経糸、4;接結緯糸、4a;第1接結緯糸、51,52,53,54;接結部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙面側経糸及び製紙面側緯糸により構成され且つ該製紙面側経糸と該製紙面側緯糸とが平組織に織られた製紙面側織物層、走行面側経糸と走行面側緯糸とにより構成された走行面側織物層、及び該製紙面側経糸と走行面側経糸とを織込んで該製紙面側織物層と該走行面側織物層とを接結した接結緯糸、を有する製紙用織物において、
上記接結緯糸のうちの第1接結緯糸が上記製紙面側経糸のうちの第1製紙面側経糸を織込み、
且つ該第1接結緯糸に隣接された少なくとも一方の上記製紙面側緯糸である第1製紙面側緯糸が、該第1製紙面側経糸の下を通って上記走行面側経糸を織込んでいる接結部を有することを特徴とする製紙用織物。
【請求項2】
上記接結緯糸が上記走行面側経糸を織込む織込回数Nと、該接結緯糸が上記製紙面側経糸を織込む織込回数Nと、はN≧Nである請求項1に記載の製紙用織物。
【請求項3】
上記製紙面側緯糸は、上記接結部を形成している製紙面側緯糸及び上記接結部を形成していない製紙面側緯糸からなり、
該接結部を形成している製紙面側緯糸の本数と、該接結部を形成していない製紙面側緯糸の本数と、の比は(1〜3):(1〜3)である請求項1又は2に製紙用織物。
【請求項4】
完全組織中の上記製紙面側経糸と上記走行面側経糸の本数の合計が4の倍数である請求項1乃至3のいずれかに記載の製紙用織物。
【請求項5】
上記接結緯糸の太さは、上記製紙面側緯糸の太さ以下である請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の製紙用織物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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