説明

製紙用薬剤の効果監視装置及び方法並びに製紙用薬剤の供給装置及び方法

【課題】紙パルプ製造プロセスにおいて、製紙工程水に添加される製紙用薬剤の効果を迅速かつ確実に確認することができる製紙用薬剤の効果監視装置及び方法を提供する。
【解決手段】製紙用薬剤が添加された製紙工程水の水質を計測する計測部と、該計測部に、薬剤が添加された製紙工程水を導入する配管とを備えてなる製紙用薬剤の効果監視装置。薬剤が添加された製紙工程水を計測部に導入して該製紙工程水の水質を計測することにより、該製紙工程水に添加される製紙用薬剤の効果を監視する製紙用薬剤の効果監視方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙用薬剤の効果監視装置及び方法に係り、特に、紙パルプ製造プロセスにおいて、製紙工程水に添加される製紙用薬剤の効果を迅速かつ確実に確認することができる製紙用薬剤の効果監視装置及び方法に関する。本発明はまた、この製紙用薬剤の効果監視結果に基いて、製紙工程水に添加する製紙用薬剤の添加量を制御する製紙用薬剤の供給装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の原料には、LBKP、NBKP、TMPなどの他、近年は古紙の利用率の向上、ブロークパルプの配合率向上、系のクローズド化が進み、古紙、DIP、コートブロークなども多用されてきている。これらの原料にはアニオン性不純物、いわゆるアニオントラッシュが多く、アニオントラッシュによるピッチ、欠陥の発生だけでなく、断紙、生産スピードダウンといった生産性の低下を招いている。
【0003】
これらの問題に対して、カチオン性スターチ及びコロイドシリカを添加する方法(USP4388150)、合成カチオン性ポリマーを加えた後次のステップでベントナイトを添加する方法(EP235893、特開昭62−191598)、分子量の低いカチオン性ポリマーを添加し、次いでアニオン性ポリマーを添加する方法(特公平5−29719)等に開示されるような様々な薬剤添加による対策が講じられている。
【0004】
また、これらの薬剤の効果を確認する方法としては、
(1) 出来上がった紙の欠陥評価や生産スピードの管理
(2) 原料スラリーの粒子表面電荷(カチオン要求量)の測定
(3) 原料スラリーを濾過した濾液の透過光による濁度測定
等が行われている。
【特許文献1】USP4388150
【特許文献2】EP235893
【特許文献3】特開昭62−191598
【特許文献4】特公平5−29719
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紙の原料スラリー等の製紙工程水に各種の薬剤の適正量を添加して良好な添加効果を得るためには、当該薬剤が添加された製紙工程水の水質を精度良く計測し、薬剤添加効果を正確に確認する必要がある。
【0006】
また、製紙工程水の水質変動や処理条件の変動による薬剤の添加効果の変化に十分に追従して、薬剤添加量を調整するために、このような水質計測による薬剤添加効果の確認をなるべく頻繁にかつ迅速に行う必要がある。
【0007】
しかしながら、製紙工程水はパルプ繊維を含む粘性の高いスラリーであり、流動性に乏しく、配管機器類を汚染し易いため、このような製紙工程水を計測部に送給して計測部で水質を計測しようとすると、計測部においては、計測センサへの汚れ(パルプ繊維)付着による計測誤差、ひいては計測不能の問題があり、また、計測部周辺の配管等では配管閉塞等の問題を生じ易い。このため、配管閉塞や機器汚染等のトラブルを引き起こすことなく、製紙工程水の水質を安定的に計測することは不可能であった。
【0008】
また、前述の従来の薬剤の添加効果の確認方法では、各々次のような課題があった。
【0009】
(1) 出来上がった紙の欠陥評価や生産スピードの管理:
直接的に薬剤効果の影響を確認できるものの、すでに生産が始まった後または紙が出来上がった後での管理であり、トラブル解決への対応が著しく遅れるという課題がある。
【0010】
(2) 原料スラリーの粒子表面電荷(カチオン要求量)の測定:
表面電荷はあくまで間接的な評価であり、必ずしも表面電荷の変化とアニオントラッシュに起因する欠陥とは相関しない場合がある。
【0011】
(3) 原料スラリーを濾過した濾液の濁度測定:
アニオントラッシュ成分による濁度を直接測るものであり、信頼性が高いが、濾過工程が必須であるため、濾過装置の目詰まりトラブルが起き易いこと、メンテナンス頻度が高いこと、洗浄機構などを備えることにより装置が高価になることなど、課題が多い。
【0012】
本発明は上記従来の課題を解決し、紙パルプ製造プロセスにおいて、製紙工程水に添加される製紙用薬剤の効果を迅速かつ確実に確認することができる製紙用薬剤の効果監視装置及び方法、好ましくは、紙パルプ製造プロセスにおいて、配管閉塞や機器汚染等のトラブルを引き起こすことなく、製紙工程水の水質について安定的な計測を行うことにより、製紙工程水に添加される歩留向上剤、濾水性向上剤、凝結剤、ピッチコントロール剤等の製紙用薬剤の効果を確実に、更には迅速に確認することができる製紙用薬剤の効果監視装置及び方法を提供することを目的とする。
【0013】
本発明はまた、この製紙用薬剤の効果監視結果に基いて、製紙工程水に添加する製紙用薬剤の添加量を的確に制御する製紙用薬剤の供給装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明(請求項1)の製紙用薬剤の効果監視装置は、製紙工程水に添加される製紙用薬剤の効果を監視する装置において、製紙用薬剤が添加された製紙工程水の水質を計測する計測部と、該計測部に、薬剤が添加された製紙工程水を導入する配管と、を備えてなることを特徴とする。
【0015】
請求項2の製紙用薬剤の効果監視装置は、請求項1において、前記計測部は、前記製紙工程水を被測定流体として、該被測定流体中にレーザ光を照射するレーザ光照射部と、該被測定流体中の粒子により散乱された散乱光を受光する散乱光受光部とを備え、該装置は、更に、該散乱光受光部によって受光された散乱光を電気信号に変換する光電変換回路と、該変換された電気信号から最低値の信号強度を検出する最低値検出回路とを有し、前記散乱光受光部は光ファイバを介して前記光電変換回路と接続されることを特徴とする。
【0016】
請求項3の製紙用薬剤の効果監視装置は、請求項1又は2において、前記計測部と前記配管の洗浄手段をさらに備えてなることを特徴とする。
【0017】
請求項4の製紙用薬剤の効果監視装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記計測部に製紙工程水を導入する配管に洗浄用水を導入するための水導入口が設けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項5の製紙用薬剤の効果監視装置は、請求項4において、前記洗浄手段は、該水導入口から、洗浄用水を流速0.2m/sec以上で時間10秒以上導入して前記計測部及び配管を洗浄する手段であることを特徴とする。
【0019】
請求項6の製紙用薬剤の効果監視装置は、請求項2ないし5のいずれか1項において、濁度が既知の標準液について該製紙用薬剤の効果監視装置により計測を行って、濁度と前記最低値の信号強度との関係を示す検量線を作成し、この検量線と、前記製紙工程水について検出された最低値の信号強度とから、該製紙工程水の濁度を求める濁度検出手段を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明(請求項7)の製紙用薬剤の供給装置は、請求項1ないし6のいずれか1項の製紙用薬剤の効果監視装置と、該効果監視装置の監視結果に基いて、前記製紙工程水に添加する製紙用薬剤の添加量を制御する薬注手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明(請求項8)の製紙用薬剤の効果監視方法は、薬剤が添加された製紙工程水を計測部に導入して該製紙工程水の水質を計測することにより、該製紙工程水に添加される製紙用薬剤の効果を監視することを特徴とする。
【0022】
請求項9の製紙用薬剤の効果監視方法は、請求項8において、製紙用薬剤が添加された前記製紙工程水の流体中にレーザ光を照射し、該流体中の粒子により散乱された散乱光を電気信号に変換し、該変換された電気信号から最低値の信号強度を検出することにより、該製紙工程水の水質を計測することを特徴とする。
【0023】
請求項10の製紙用薬剤の効果監視方法は、請求項8又は9において、前記製紙工程水の水質の計測に先立ち或いは計測後に、該計測部と該計測部へ製紙工程水を導入する配管を洗浄することを特徴とする。
【0024】
請求項11の製紙用薬剤の効果監視方法は、請求項7ないし10のいずれか1項において、前記計測部に製紙工程水を導入する配管に洗浄用水を導入して前記計測部及び配管を洗浄することを特徴とする。
【0025】
請求項12の製紙用薬剤の効果監視方法は、請求項11において、前記洗浄用水を流速0.2m/sec以上で時間10秒以上導入して前記計測部及び配管を洗浄することを特徴とする。
【0026】
請求項13の製紙用薬剤の効果監視方法は、請求項9ないし12のいずれか1項において、濁度が既知の標準液について計測を行って、濁度と前記最低値の信号強度との関係を示す検量線を作成し、この検量線と、前記製紙工程水について検出された最低値の信号強度とから、該製紙工程水の濁度を求めることを特徴とする。
【0027】
本発明(請求項14)の製紙用薬剤の供給方法は、請求項8ないし13のいずれか1項の製紙用薬剤の効果監視方法による監視結果に基いて、前記製紙工程水に添加する製紙用薬剤の添加量を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明の製紙用薬剤の効果監視装置及び方法によれば、紙パルプ製造プロセスにおいて、製紙工程水に添加される製紙用薬剤の効果を迅速かつ確実に確認することができる(請求項1,8)。
【0029】
特に、計測の前後で、計測部と計測部へ製紙工程水を導入する配管を洗浄することにより、配管閉塞や機器汚染等のトラブルを引き起こすことなく、製紙工程水の水質について安定的な計測を行うことができ、これにより製紙工程水に添加される製紙用薬剤の添加効果を確実に確認することができる(請求項3,10)。
【0030】
また、特に、製紙用薬剤が添加された製紙工程水の流体中にレーザ光を照射し、流体中の粒子により散乱された散乱光を電気信号に変換し、変換された電気信号から最低値の信号強度を検出することにより、製紙工程水の水質、例えば、紙の原料スラリーのアニオントラッシュ成分による濁度に対応する測定値を即時的に計測することにより、製紙工程水に添加される製紙用薬剤の効果を迅速かつ確実に確認することができる(請求項2,9)。
【0031】
即ち、従来の薬剤効果の確認手法として最も信頼性が高いとされている原料スラリーの濾液の濁度測定による場合、原料スラリーのそのものの濁度を測定すると、原料スラリー中の紙原料をも濁度測定対象としてしまうため、濾過を行って原料スラリー中の紙原料を濾別した濾液について濁度測定を行う必要がある。
【0032】
これに対して、本発明の監視装置であれば、被測定流体である製紙工程水中に照射されると、原料スラリー中の粒子によってレーザ光の散乱が起こり、その散乱光が散乱光受光部で受光され、更に光電変換回路で光電変換され、更に好ましくは検波回路でAM検波された後に、最低値検出回路により上記信号から最低値の信号強度を検出することにより、原料スラリー中の紙原料等による散乱光が含まれなくなり、アニオントラッシュ成分による散乱光と区別され、アニオントラッシュ成分による散乱光のみが検出される。このため、原料スラリー等の製紙工程水を予め濾過する必要はなく、製紙工程水を必要に応じて単に希釈するのみで、そのまま測定に供することができる。
【0033】
本発明によれば、製紙工程水の濾過を行うことなく、製紙工程水の水質、例えば原料スラリー中のアニオントラッシュによる濁度に対応する値を直接計測することができ、このため、薬剤効果について高精度で信頼性の高い情報を迅速かつ確実に得ることができる。そして、製紙工程水の濾過が不要になったことにより、
(1) 濾過によるフィルターの目詰まりトラブルがなくなる、
(2) フィルターの洗浄などのメンテナンスが不要で省力化が図れる、
(3) 濾過装置が不要で装置を安価なものとすることができる、
(4) バッチ計測ではなく連続的な計測ができるため、安定した紙の生産管理ができる
といった優れた効果が得られる。
【0034】
本発明の監視装置にあっては、散乱光受光部は光ファイバを介して光電変換回路と接続されているため、特別な測定部を別途設ける必要がなく、簡易な装置構成にすることができ、好ましい。
【0035】
本発明の製紙用薬剤の供給装置及び方法によれば、本発明に従って薬剤効果を迅速かつ確実に監視し、この結果に基いて薬注ポンプや製紙工程水の送液ポンプ等を制御することにより、最適な薬注条件を維持することができ、これにより、紙の生産性の向上、及び抄造の安定化と、省エネルギー並びにコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0037】
なお、本発明において、計測対象となる製紙工程水とは、紙の原料スラリー、インレットにおけるスラリー、プレス搾水等、各種の製紙工程水である。また、このような製紙工程水に添加する製紙用薬剤としては、歩留向上剤、濾水性向上剤、凝結剤、ピッチコントロール剤等の各種の製紙用薬剤が挙げられる。
【0038】
まず、図5を参照して、本発明の製紙用薬剤の効果監視装置及び方法の実施の形態を説明する。図5は本発明の製紙用薬剤の効果監視装置及び方法の実施の形態を示す系統図である。
【0039】
図5において、100は計測槽(図1〜4に示すレーザ散乱光計測部)であり、槽内にはセンサプローブ101が浸漬されている。102はセンサ本体(制御部)である。103は計測槽100に、製紙工程水を導入する配管であり、ポンプPと、電磁弁103Vと電磁流量計103Fとを備える。104は、計測槽100からの排水を排出する配管であり電磁流量計104Fを備える。105は洗浄水(又は希釈用水)の導入配管であり、計測槽100の入口側の配管103に接続される希釈用配管106と、配管103の電磁弁103VとポンプPとの間に接続される洗浄用配管107とに分岐している。希釈用配管106は、電磁弁106V、定流量弁106T、電磁流量計106Fを備える。また、洗浄用配管107は、電磁弁107Vを備える。
【0040】
この製紙用薬剤の効果監視装置により、製紙工程水の水質を計測するには、例えば、次のような操作手順で計測及び洗浄を行う。
【0041】
〈工程1〉
電磁弁103V開、電磁弁106V開、電磁弁107V閉とし、送液ポンプPを作動させて、計測槽100での濃度が所定の濃度になるよう配管103より製紙工程水を、配管105,106より工水等の希釈水を所定の流量で通水開始し、希釈された製紙工程水が通過する計測槽100でセンサプローブ101により計測を行う。計測後の希釈製紙工程水は配管104より排出される。計測結果は、センサ本体102から制御信号として出力される。
【0042】
〈工程2〉
電磁弁103V閉、電磁弁106V閉、電磁弁107V開、送液ポンプPはそのまま動かして、工水等の洗浄水を、配管105,107より製紙工程水が流れた配管103に通水して洗浄する。洗浄排水は配管104より排出する。
【0043】
〈工程3〉
電磁弁103V閉のまま、電磁弁106V開、電磁弁107V閉として、配管105,106より水を計測槽100に通し、計測槽100内を洗浄する。洗浄排水は配管104より排出する。
【0044】
〈工程4〉
電磁弁106V開、電磁弁107V閉のまま、電磁弁103Vを開とし、製紙工程水を通水し、工程1に戻り、次の計測を開始する。
【0045】
このようにして、1回の計測の毎に、製紙工程水の導入配管103(及び排出配管104)と計測槽100内を洗浄水により洗浄することにより、製紙工程水中のパルプ繊維等による配管閉塞やセンサプローブ101の汚れ付着を防止して安定な計測を行うことができる。
【0046】
なお、計測槽や製紙工程水導入配管等の洗浄に当っては、洗浄水を流速0.2m/秒以上、特に0.2〜2.0m/秒で、時間10秒間以上、特に特に30〜120秒通水して洗浄することが好ましい。この洗浄水の流速が0.2m/秒未満であったり、洗浄時間が10秒以下であると十分な洗浄効果が得られない。ただし、洗浄時間が過度に長くても、それ以上の洗浄効果は得られず、洗浄水量が無駄になると共に、計測効率が低下する。
【0047】
なお、洗浄は、1回の計測毎に行うことが好ましいが、後述するような定期的な洗浄であっても良い。
【0048】
次に、図1〜4に基いて、本発明に好適な製紙用薬剤の効果監視装置について説明する。
図1は、本発明の好適例に係る製紙用薬剤の効果監視装置の概略構成を示す構成図であり、図2は、図1に示すレーザ光照射部と散乱光受光部の構成を示す拡大図である。なお、以下においては、製紙工程水として紙の原料スラリーの計測を行う場合を示すが、前述の如く、本発明における計測対象は何ら監視に限定されず、その他インレットにおけるスラリー、プレス搾水等の各種の製紙工程水が挙げられる。
【0049】
この製紙用薬剤の効果監視装置は、レーザ発振器1、第1の光ファイバ2、レーザ光照射部3、散乱光受光部4、第2の光ファイバ5、光電変換回路6、検波回路7、最低値検出回路8から構成される。20は、原料スラリー21が貯えられる計測槽であり、計測槽20内の原料スラリー21中には、遮蔽部材22の底部に配設されたレーザ光照射部3と散乱光受光部4が投入されている。この遮蔽部材22は上方からの自然光がレーザ光照射部3と散乱光受光部4間の測定領域23に到るのを遮蔽している。
【0050】
すなわち、遮蔽部材22は図3に示す通り、底面が下方に突出し、突出した両側面に溝部24が形成された五角柱であり、この溝部24に、第1の光ファイバ2と第2の光ファイバ5とが固定され、第1の光ファイバ2の一端であるレーザ光照射部3と第2の光ファイバ5の一端である散乱光受光部4が、図2中、左右対称(線対称)に配設されている。さらに第1の光ファイバ2のレーザ光照射部3と第2の光ファイバ5の散乱光受光部4の中心線は互いに90度で交差していることが好ましい。
【0051】
また、一般にレーザ発振器1から発振されるレーザ光の強度は、自然光と区別するために変調することが好ましく、光電変換回路6で受光した散乱光強度を元の電気信号に戻すためには、70〜150kHz程度の変調が好ましい。そこで、本実施形態の構成において、レーザ発振器1はファンクションゼネレータ11とレーザダイオード12とからなり、ファンクションゼネレータ11から発生する所定周波数、例えば95kHzの電気信号で振幅変調(AM)したレーザ光をレーザダイオード12から第1の光ファイバ2の一端に出射している。このレーザ光は第1の光ファイバ2を介してレーザ光照射部3となっている光ファイバ2の他の一端から原料スラリー中に出射している。なお、レーザ発振器は、ファンクションゼネレータとレーザダイオードに限定されるものではなく、例えば発光ダイオード等を用いることも可能である。
【0052】
原料スラリー中には、アニオントラッシュ成分の粒子が存在しており、レーザ光照射部3からアニオントラッシュ成分の粒子に照射されたレーザ光は散乱して散乱光となり、散乱光受光部4となっている第2の光ファイバ5の一端から光ファイバ5に入射している。本実施形態において、測定領域23は、レーザ光照射部3から出射されるレーザ光が照射する領域と、散乱光受光部4が散乱光を受光できる領域との重なり合った領域となっており、散乱光受光部4は測定領域23から90度(第2の光ファイバ5の中心線)方向に散乱した散乱光を受光している。
【0053】
なお、遮蔽部材22におけるレーザ光照射部の構成は、図2に示すものに何ら限定されず、図4に示す如く、遮蔽部材22の測定領域23近傍にレーザーダイオード12を設けて電流ケーブル12Aを引き、遮蔽部材22の測定領域近傍で直接レーザ光を発光させるものであっても良く、この場合には、レーザ光照射部まで光ファイバを使用しないことにより、光ファイバの破損等を防止することができる。図4において、レーザ照射部以外の構成は図2に示すものと同様であり、同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。
【0054】
光電変換回路6は、フォトデテクター61、バンドパスフィルタ62及び増幅器63とからなり、第2の光ファイバ5の他の一端に接続されたフォトデテクター61によって散乱光の光信号を電気信号に変換し、バンドパスフィルタ62で自然光と区別するために電気信号から変調周波数成分の信号を取り出し、増幅器63において増幅して検波回路7に出力する。なお、光電変換回路6は、光信号を電気信号に変換するものであれば上記構成のものに限らず、例えばフォトデテクターの代わりにフォトダイオードを用いても良いし、バンドパスフィルタの代わりに低域フィルタを用いても良い。
【0055】
変調周波数成分の信号は、散乱光強度の変化を測定するために、検波回路7にてAM検波を行ってその検波後の信号を最低値検出回路8に出力する。なお、検波回路7によって出力された信号は、低域フィルタを通過する信号と同等の信号処理が施されることとなる。従って、バンドパスフィルタ62のカットオフ周波数を適当に選択することによって、検波回路7はこのカットオフ周波数の変動を取り除いた直流分の出力波形の信号として検出し、最低値検出回路8に出力することができる。このように本実施形態では、フォトデテクター61で検出された光信号のうち、バンドパスフィルタ62で変調周波数成分を取り出し増幅器63で増幅した後、AM検波を行うことで、アニオントラッシュ成分の微小粒子の散乱に伴う光強度の変化を信号強度の変化として測定できる。ただし、AM検波は必ずしも必要とされず、変調周波数成分の信号を直接最低値検出回路8に出力しても良い。
【0056】
最低値検出回路8は、入力する直流分の信号から最低値の信号強度を検出している。この最低値の検出とは、図1に示した増幅器63から出力される信号波形で説明すると、波形のくびれ部分を測定することである。くびれ部分以外の部分は、粗大な紙原料及び微小なアニオントラッシュ成分粒子が測定領域23に存在している時であり、くびれ部分は、紙原料が、測定領域から出ていった時である。従って、最低値検出回路8が信号強度の最低値を検出することにより、アニオントラッシュ成分の微小粒子のみが存在する時の散乱光強度、すなわちアニオントラッシュ成分の微小粒子数を測定することが可能となる。そして、この最低値の減少は、測定領域でのアニオントラッシュ成分の微小粒子が減少することを現し、また最低値の増大は、アニオントラッシュ成分の微小粒子が増大することを現す。
【0057】
具体的に、薬剤効果の測定原理は以下のようなものである。すなわち、計測槽20内の原料スラリー21の攪拌に伴って測定領域23にコロイド状の微小なアニオントラッシュ成分粒子(以下「微小コロイド粒子」と称す。)が流入出するときに散乱光の変動が生じることとなる。この変動の周期は、測定領域を粒子と見なして、微小コロイド粒子との間に生じる衝突回数を想定することにより概算することができる。すなわち、測定領域23を直径Rの球体、微小コロイド粒子を直径rの球体でそれぞれ近似すると、この場合の衝突断面積Qは、Q=π(R+r)で与えられる。また、微小コロイド粒子密度をN、測定領域に対する粒子の相対速度をvとすると、単位時間当たりに微小コロイドが測定領域に流入する回数νは、ν=NQvとなる。同じく、微小コロイド粒子が測定領域から出て行く時にも同様の変動が生じるので、散乱光強度を微分した値の周期は、この回数の2倍の値となる。そして、散乱光強度は微小コロイド粒子の粒径のn乗に比例すると仮定し、多重散乱を無視すると、微小コロイド粒子1個の流出入に伴う散乱光強度の変動Aは、A=Aとなる。なお、Aは測定系に依存する定数であり、標準試料を用いて校正される。
【0058】
ここで、微小コロイド粒子は、直径rが小さく粒子密度Nが大きいので、散乱光の微小な変動が短い周期で生じることとなる。そこで、検波回路7で変調周波数成分の検波を行うことにより、上述したごとく出力波形は低域フィルタを通過するのと等価な信号処理が施されるので、フィルタ62のカットオフ周波数を適当に選ぶことにより、この変動を取り除いた直流分の信号として検出することができる。
【0059】
一方、原料スラリー中の紙原料では、測定領域に流出入する際の変動が大きく、かつこの変動の平均周期は長くなる。従って紙原料の密度と測定領域体積との積が1より小さい時には、検波後の出力波形の最低値が微小コロイド粒子の散乱に対応していることになる。これにより本実施形態では、検波回路7の後段に最低値検出回路8を接続させることによって、原料スラリー中の微小コロイド粒子、即ちアニオントラッシュ成分による散乱光と紙原料による散乱光とを区別し、アニオントラッシュ成分による散乱光のみを取り出すことが可能となるので、薬剤によるアニオントラッシュ成分の低減効果が適切に把握できる。
【0060】
また、本実施形態の監視装置では、特別な測定部を別途設ける必要がなく、遮蔽部材に取り付けたレーザ光照射部と散乱光受光部を計測槽に投入するのみで散乱光を測定することができるので、簡易な装置構成の監視装置を提供することができる。さらに、本実施形態の監視装置は、装置構成が簡易で軽量、小型化が図られるため、投げ込み式の監視装置にすることも可能である。
【0061】
次に、このような本発明の製紙用薬剤の効果監視装置を用いて、製紙用薬剤の添加効果を監視する本発明の製紙用薬剤の効果監視方法について説明する。
【0062】
本発明において、測定対象となる製紙工程水のうち、紙の原料スラリーは、通常の紙パルププロセスにおける原料スラリーであり、この原料スラリー中の紙原料としては、例えばLBKP、NBKP、TMP、古紙、DIP、コートブロークなどが挙げられ、これらの任意の2種以上の混合物でも良い。
【0063】
このような原料スラリーに添加する製紙用薬剤としては特に制限はなく、紙パルププロセスにおいて通常使用されているカチオン系合成ポリマー、或いはカチオン系合成ポリマーとアニオン系合成ポリマーとの組み合わせ、両性合成ポリマーなど、任意のものを用いることができる。これらの製紙用薬剤の添加量は処理対象の紙パルププロセスの設定条件や原料スラリーの性状に応じて適宜決定される。
【0064】
測定にあたっては、原料スラリー等の製紙工程水は原液のままでも良く、必要に応じて水で希釈して測定に供しても良い。即ち、製紙工程水のパルプ繊維濃度が過度に高い場合には照射光やアニオントラッシュ成分からの散乱光が高濃度に存在するパルプ繊維により妨害を受けやすくなることにより、アニオントラッシュ成分に対応する正確な計測値を確実に得ることができない場合があるので、製紙工程水は必要に応じて希釈する。希釈倍率については特に制限はなく、任意に決定することができるが、測定に供する製紙工程水の固形分濃度としては、一般的には500〜60000mg/Lの範囲であることが好ましいことから、このような濃度となるように希釈を行うことが好ましい。
【0065】
測定時の製紙工程水は、濁度成分の沈降を防止して均一分散液状とするために、流動状態とし、必要に応じて攪拌を行ってもよい。この被測定流体の流速としては特に制限はなく、測定に供する製紙工程水濃度によっても異なるが、測定値の安定性の面から、0.2〜5.0m/s、特に0.5〜3.0m/sの範囲であることが好ましい。
【0066】
測定部の大きさは、レーザー光発光面から壁面までの距離(図1において、レーザ光照射部3の先端と計測槽20の内壁面との距離)が1cm以上離れていることが好ましい。この距離が1cmよりも近いと、壁面でのレーザー光の反射が測定値に影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。
【0067】
本発明においては、紙パルププロセスの所定の箇所から紙の原料スラリー等の製紙工程水を抜き出し、図1に示すような装置で測定を行っても良く、図2又は図4に示す遮蔽部材22を、紙パルププロセスの所定の箇所に直接投入して測定を行っても良い。紙パルププロセスから製紙工程水を抜き出して測定を行う場合、図1に示す装置には更に必要に応じて希釈槽を設けることが好ましい。
【0068】
測定は連続的に行っても良く、間欠的に行っても良い。間欠的に測定を行う場合の測定頻度は、薬剤効果の推移を確認できれば良く、任意に設定することができ、例えば1〜2時間に1回の測定頻度とすることができる。測定を行っていない場合には、例えば、計測槽に水を流して、後述のレーザー光照射部/受光部の洗浄を行っても良い。
【0069】
本発明においては、好ましくは予め濁度が既知の標準液を用いて同様の測定を行って、濁度と測定値との関係を示す検量線を作製しておき、この検量線に測定値をあてはめて、製紙工程水の濁度を求めることが好ましい。
【0070】
前述の本発明の装置は、1ヶ月ないしは1週間に1回の頻度でレーザー光照射部/受光部の清浄度や照射されたレーザー光の輝度確認を行うことが好ましいが、このようなメンテナンス頻度は状況に応じて任意に決定することができる。
【0071】
本発明の製紙用薬剤の効果監視装置及び方法により得られた薬注効果の情報は、これを出力信号として出力し、この信号に基いて薬注ポンプや原料スラリーの送液ポンプの制御を行って、最適な薬注条件を維持することができる。
【0072】
即ち、例えば、本発明の製紙用薬剤の効果監視装置及び方法により得られた測定値から、原料スラリーのアニオントラッシュ成分に基く濁度が上昇傾向にあることが判明したときには、薬注量を増加し、逆にこの濁度が低下傾向にあることが判明したときには、薬注量を低減することにより、薬剤の過剰薬注を防止した上で、良好な薬注効果を得ることができる。
【0073】
以下に、このような本発明の製紙用薬剤の効果監視装置及び方法により求められた製紙工程水の濁度測定データから、その経時的変化分を求めて、製紙用薬剤の薬注量を制御する場合の本発明の製紙用薬剤の供給方法について図6を参照して説明する。
【0074】
この場合、具体的には、濁度測定データの経時的変化分が増加(濁度が増加した、すなわち、懸濁物質が増加)したときには、濁度の増加を抑制するべく、製紙用薬剤の薬注量を増加させる。他方、濁度測定データの経時的変化分がゼロまたは減少(懸濁物質が変化しないあるいは減少)であるときには、製紙用薬剤の薬注量を減少させる。
【0075】
図6は、上記濁度測定データの経時的変化分に基づく製紙用薬剤の薬注量制御を示すフローチャートである。製紙用薬剤の薬注量制御は、制御開始(処理システムに起動時)のステップ70において、制御部が制御を開始して最初の製紙用薬剤注入を行う。このときの薬注量は、製紙工程水の懸濁固形物の濃度の如何にかかわらず、一定の初期薬注量である。
【0076】
ステップ71において、制御部は所定期間の経過を待つ(インターバル)。ステップ72において、制御部は計測部から濁度測定データを読込む。そして、ステップ73で、制御部は、制御開始(ステップ70)以後、最初に計測部から読込んだ濁度データか否かを判断し、最初の濁度データであったときには、ステップ74で、この最初の濁度データを初期濁度データM(0)とする。そして、ステップ71で、再び制御部は期間の経過を待つ。そして、ステップ72において、制御部は計測部から濁度測定データを読込むが、このとき読込んだ濁度データM(1)は、既に初期濁度データM(0)が読込まれているので、ステップ73で、制御部が制御開始後の最初の濁度データと判断することはなく、ステップ75で、制御部が、濁度の変化分dMを算出する。この算出は、
dM=M(1)−M(0)
として行われる。
【0077】
こうして、ステップ75では、制御部が、制御部に入力される濁度測定データから変化分(濁度測定値の増減)dMを算出する。すなわち、濁度測定データが経過時間で微分されることになる。ステップ76では、制御部が、ステップ75で算出された濁度測定データの変化分dMが増加(すなわち、dM>0)か否か(すなわち、dM=0またはdM<0)を判断する。
【0078】
濁度測定データの変化分dMが(dM=0またはdM<0)と判断されると、ステップ77において、制御部は、製紙用薬剤の注入路に設けられた薬注制御部を制御して製紙用薬剤の薬注量を減少させる。そして、ステップ71に戻り、再び制御部は期間の経過を待ち、ステップ72で濁度データM(2)を読込む。そして、濁度データの変化分算出とそれに基づく製紙用薬剤の薬注量制御を繰り返す。
【0079】
ここで、濁度データの変化分は、
dM=M(2)−M(1)
であり、例えば、時間の経過に伴い、濁度の変化分は、
dM=M(n+1)−M(n)
と繰り返し算出される。
【0080】
一方、濁度測定データの変化分dMが(dM>0)と判断されると、さらにステップ78において、制御部が、濁度測定データの変化分dMが所定の増加量(m)を超えたか(dM>m)否か(dM=mまたはdM<m)を判断する。濁度測定データの変化分dMが所定の増加量(m)を超えたとき(dM>m)は、制御部は、濁度の増加が著しいと判断し、ステップ79で薬注制御部を制御して製紙用薬剤の薬注量を増加させ(例えば、増加量dC1)、製紙工程水の濁度を速やかに低下させる。そして、ステップ71に戻り、再び制御部は期間の経過を待ち、濁度データの変化分算出、薬注量制御を繰り返す。
【0081】
他方、濁度測定データの変化分dMが所定の増加量(m)を超えないとき(dM=mまたはdM<m)は、制御部は、濁度の増加は著しいものではないと判断し、ステップ80で薬注制御部を制御して製紙用薬剤の薬注量を増加させる(例えば、増加量dC2)。なお、増加量dC2は増加量dC1よりも少ない値であり、製紙工程水の濁度は緩やかに低下する。そして、ステップ71に戻り、再び制御部は期間の経過を待ち、濁度データの変化分算出、薬注量制御を繰り返す。
【0082】
このような、制御部による製紙用薬剤の薬注は、計測部からの濁度測定データからその経時的変化分を求めて、すなわち経過時間で微分して進相要素として作用するので、薬注部における薬注効果の時間遅れの影響を補償する。従って、製紙工程水の質(pH値等)や流量等に変化が生じ、薬注効果が変化しても、製紙工程水の濁度をリアルタイムに測定できることとあいまって、製紙用薬剤の薬注量を最適化することができる。
【0083】
なお、本発明においては、薬剤添加後の製紙工程水について測定を行ってその濁度情報から薬剤効果を監視しても良く、薬剤添加前の製紙工程水と薬剤添加後の製紙工程水との両方について測定を行い、その濁度情報の差から薬剤効果を監視するようにしても良い。特に、薬剤添加前の製紙工程水と薬剤添加後の製紙工程水との両方について測定を行った場合には、薬剤添加量に対応した薬剤効果を把握することができ、薬剤効果が十分でない場合に、増量する薬剤量の推定を容易に行うことができる。
【実施例】
【0084】
以下に比較例及び実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0085】
[計測部及び配管の洗浄による効果の確認]
(実施例1)
図1の製紙用薬剤の効果監視装置を用いて、製紙工程水の水質の計測を行った。図1に示す装置の各部の仕様は次の通りである。
〈装置仕様〉
製紙工程水導入配管103:口径50mm
洗浄水・希釈用水導入配管105:口径50mm
排水排出配管104:口径40mm
洗浄用配管107:口径40mm
希釈用配管106:口径40mm
送液ポンプP:4.9L/分一定にして使用(最大能力20L/分)
計測槽100:通水部口径30mm
定流量弁106T:20L/分
【0086】
計測した製紙工程水は、製紙工場DIPスラリー(SS濃度=25600mg/L)であり、撹拌機を備えた1000Lタンクから製紙工程水導入用配管103に導入した。また、洗浄及び希釈用水としては工水を供給し、排水は排水溝に排出した。また、1000Lタンクには、製紙工場DIPスラリーを1000L入れて、パルプ繊維が沈降しないように、試験中は200rpm程度で常時攪拌を行った。
【0087】
センサ本体(制御部)、センサプローブとしては、図1〜4に示すものを用いた。
【0088】
操作手順は次の通りである。
・工程1:電磁弁103V開、電磁弁106V開、電磁弁107V閉としてポンプPを作動させ、計測槽100での濃度が5000mg/Lになるように、配管103からDIPスラリーを4.9L/分で、配管105,106から工水を20L/minで計測槽100に通水開始した。この時、工水の流量は流量計106Fで、DIPスラリーの流量は流量計103Fで計測し、希釈後の流量は流量計104Fで確認した。センサによる計測は、希釈されたDIPスラリーが通過する計測槽100でセンサプローブ101により5分間行った。
・工程2:電磁弁103V閉、電磁弁106V閉、電磁弁107V開、送液ポンプPはそのまま動かして、工水をDIPスラリーが流れた配管103に通水して2分間洗浄した。
・工程3:電磁弁103V閉のまま、電磁弁106V開、電磁弁107V閉として水だけを計測槽100に通し、1分間洗浄した。
・工程4:電磁弁106V開、電磁弁107V閉のまま、電磁弁103Vを開とし、2分間そのまま通水し、その後、工程1に戻し、次の計測を開始した。
・以上のサイクル10分を10回行った。
・計測は、10分に1回で、10点の計測を行った。
・計測項目は、センサ出力値、DIPスラリー流量(流量計103Fの読み)、工水流量(流量計106Fの読み)、計測槽100での流量(流量計104Fの読み)とし、試験後に、計測槽100の汚れ、詰まり状態を目視により調べ、結果を表1に示した。
【0089】
(比較例1)
実施例1において、工程1のまま、洗浄を行うことなく、100分間希釈製紙工程水のみを通水して計測を行った。計測は、実施例1に合わせて、10分ごとのデータを採用した。計測項目も実施例1と同様とした。試験後に、計測槽100の汚れ、詰まり状態を目視により調べ、結果を表1に示した。
【0090】
【表1】

【0091】
表1より次のことが明らかである。
比較例1では、試験開始後約30分で、プローブ先端の汚れ、付着物のために、レーザ散乱光が大きくなり、センサ出力は飽和レベルで計測不能になった。そして、試験開始後約40分で、プローブへの付着物による計測槽の閉塞が始まり、流量低下が起きた。
これに対して、実施例1では、比較例1で認められたようなトラブルは無く、安定して計測を行うことができた。
【0092】
[紙の原料スラリーについて効果の確認]
以下の比較例及び実施例においては、添加薬剤、原料スラリーとして以下のものを用いた。
【0093】
薬剤:カチオン系合成ポリマー
(構造)ポリエチレンイミン
(物性:粘度)1000mPa・s(30wt%濃度)
(使用時の濃度)0.1wt%
(添加率)対SSで、200〜1000mg/L
原料スラリー:コートブロークパルプスラリー
(濃度)4.1wt%
(繊維分)3.6wt%
(外観)繊維分含有の白色スラリー
【0094】
(比較例2)
以下の手順で濁度の測定を行った。
(1) 500mLビーカーに原料スラリーを300mL入れて、薬剤を所定量添加した。
(2) 撹拌機にて500rpmで40秒間攪拌した。
(3) (2)の液を水で3.5倍に希釈しよく撹拌後、保留粒子径5μm以上のものを濾紙(ADVANTEC社製 No.3)で吸引濾過した。
(4) (3)の濾液の濁度を濁度計(HACH社製2100P型)にて計測した。
(5) 薬剤添加量と計測された濁度との関係を図7に示した。
【0095】
(実施例2)
図1に示す装置を用い、以下の手順で濁度の測定を行った。
(1) 500mLビーカーに原料スラリーを300mL入れて、薬剤を所定量添加した。
(2) 撹拌機にて500rpmで40秒間攪拌した。
(3) (2)の液を3Lビーカーに移し、水で7倍に希釈した。
(4) 希釈後の液にレーザー散乱光のセンサプローブ(図2に示す遮蔽部材22)を浸漬し、250rpmの攪拌下(流速1.3m/s)で2分間センサ出力を計測した。
(5) 標準濁度溶液にて測定した場合のセンサ出力から求めた換算係数を用い、センサ出力を濁度として算出した。
(6) 薬剤添加量と濁度算出値との関係を図7に示した。
【0096】
また、比較例2と実施例2の結果を図8に対比して示した。なお、図7,8中、NTUは、比濁計濁度単位(Nephelometric Turbidity Unit)である。
【0097】
図7,8より、実施例2と比較例2の結果はよく対応しており、実施例2では濾過を行うことなく、アニオントラッシュ成分のみの濁度を検出することができ、従って、製紙用薬剤の添加効果を監視することができることが分かる。
【0098】
[インレットスラリーについて効果の確認]
以下の比較例及び実施例においては、添加薬剤、インレットスラリーとして以下のものを用いた。
薬剤:ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル四級化物/アクリルアミド
=30/70(mol%)
(物性)1N−NaCl、30℃の固有粘度=12(dl/g)
(使用時の濃度)0.1wt%
(添加率)対スラリーで、0〜5.6(mg/l)
インレットにおけるスラリー
(濃度)0.74wt%
(外観)繊維分含有の白色スラリー
【0099】
(比較例3)
以下の手順で濾液量の測定を行った。
(1) 3Lビーカーにインレットスラリーを1L入れて、薬剤を所定量添加した。
(2) 撹拌機にて500rpmで40秒間攪拌した。
(3) 目開き150μmのナイロン濾布を備えた内径50mmの円筒状濾過試験装置に、薬剤を加えた上記インレットスラリー200mLを注ぎ入れ、10秒間の濾液量を測定した。
(4) 薬剤添加量と測定された濾液量との関係を表2に示した。
【0100】
(実施例3)
図1に示す装置を用い、以下の手順で濁度の測定を行った。
(1) 比較例3において、(3)の操作でビーカー内に残ったインレットスラリーに、水を800ml追加して希釈し、レーザー散乱光のセンサプローブ(図2に示す遮蔽部材22)を浸漬し、250rpmの攪拌下(流速1.3m/s)で2分間センサ出力を計測した。
(2) センサ出力と薬剤添加量との関係を表2に示した。
【0101】
上記比較例3と実施例3の結果を図9に対比して示した。なお、表2、図9中、及び以下の実施例、比較例において、NTUは、比濁計濁度単位(Nephelometric Turbidity Unit)である。
【0102】
【表2】

【0103】
表2、図9より、実施例3と比較例3の結果はよく対応しており、実施例3では濾過を行うことなく濁度を検出することができ、従って、製紙用薬剤の添加効果を監視することができることが分かる。
【0104】
[プレス搾水について効果の確認]
以下の実施例においては、プレス搾水としてプレス工程搾水(SS濃度=564mg/l)を用いた。
(実施例4)
計測用のサンプル調製
プレス工程搾水原水に水道水を所定量加えて、以下の希釈液を調製した。
(1) 6倍希釈液
(2) 3倍希釈液
(3) 1.5倍希釈液
(4) 原水そのまま
また、原水のSSを自然沈降させて、上澄液をすくい、以下の濃縮液を調製した。
(5) 1.54倍濃縮液
1Lビーカーに上記調製サンプル(1)〜(5)を各々1L入れ、撹拌機にて250rpm(流速1.3m/s)で120秒間攪拌しながら実施例1と同様にして計測を行い、センサ出力とサンプルのSS濃度との関係を表3及び図10に示した。
【0105】
【表3】

【0106】
表3及び図10より、センサ出力とSS濃度が十分に対応していることが分かる。この結果より、プレス搾水のセンサ出力を測定することにより、系内の汚れ状態が判定でき、例えば、洗浄剤、ピッチコントロール剤、濾水歩留剤等の薬剤の効果を確認することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】実施の形態に係る製紙用薬剤の効果監視装置の概略構成を示す構成図である。
【図2】図1に示したレーザ光照射部と散乱光受光部の構成を示す拡大図である。
【図3】図2に示した遮蔽部材22の斜視図である。
【図4】レーザ光照射部と散乱光受光部の他の構成例を示す拡大図である。
【図5】実施の形態に係る製紙用薬剤の効果監視装置の概略構成を示す系統図である。
【図6】濁度測定データの変化分に基づく製紙用薬剤の薬注量制御を示すフローチャートである。
【図7】比較例2および実施例2における薬剤添加率と、計測された濁度との関係を示すグラフである。
【図8】比較例2および実施例2の濁度計測結果を対比したグラフである。
【図9】比較例3および実施例3の結果を対比したグラフである。
【図10】実施例4の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0108】
1 レーザ発振器
2 第1の光ファイバ
3 レーザ照射部
4 散乱光受光部
5 第2の光ファイバ
6 光電変換回路
7 検波回路
8 最低値検出回路
11 ファンクションゼネレータ
12 レーザダイオード
20 計測槽
22 遮蔽部材
23 測定領域
24 溝部
61 フォトデテクター
62 バンドパスフィルタ
63 増幅器
100 計測槽
101 センサプローブ
102 センサ本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙工程水に添加される製紙用薬剤の効果を監視する装置において、
製紙用薬剤が添加された製紙工程水の水質を計測する計測部と、
該計測部に、薬剤が添加された製紙工程水を導入する配管と、
を備えてなる製紙用薬剤の効果監視装置。
【請求項2】
請求項1において、前記計測部は、前記製紙工程水を被測定流体として、該被測定流体中にレーザ光を照射するレーザ光照射部と、該被測定流体中の粒子により散乱された散乱光を受光する散乱光受光部とを備え、
該装置は、更に、該散乱光受光部によって受光された散乱光を電気信号に変換する光電変換回路と、該変換された電気信号から最低値の信号強度を検出する最低値検出回路とを有し、
前記散乱光受光部は光ファイバを介して前記光電変換回路と接続されることを特徴とする製紙用薬剤の効果監視装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記計測部と前記配管の洗浄手段をさらに備えてなる製紙用薬剤の効果監視装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記計測部に製紙工程水を導入する配管に洗浄用水を導入するための水導入口が設けられていることを特徴とする製紙用薬剤の効果監視装置。
【請求項5】
請求項4において、前記洗浄手段は、該水導入口から、洗浄用水を流速0.2m/sec以上で時間10秒以上導入して前記計測部及び配管を洗浄する手段であることを特徴とする製紙用薬剤の効果監視装置。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか1項において、濁度が既知の標準液について該製紙用薬剤の効果監視装置により計測を行って、濁度と前記最低値の信号強度との関係を示す検量線を作成し、この検量線と、前記製紙工程水について検出された最低値の信号強度とから、該製紙工程水の濁度を求める濁度検出手段を備えることを特徴とする製紙用薬剤の効果監視装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項の製紙用薬剤の効果監視装置と、該効果監視装置の監視結果に基いて、前記製紙工程水に添加する製紙用薬剤の添加量を制御する薬注手段とを備えることを特徴とする製紙用薬剤の供給装置。
【請求項8】
薬剤が添加された製紙工程水を計測部に導入して該製紙工程水の水質を計測することにより、該製紙工程水に添加される製紙用薬剤の効果を監視することを特徴とする製紙用薬剤の効果監視方法。
【請求項9】
請求項8において、製紙用薬剤が添加された前記製紙工程水の流体中にレーザ光を照射し、該流体中の粒子により散乱された散乱光を電気信号に変換し、該変換された電気信号から最低値の信号強度を検出することにより、該製紙工程水の水質を計測することを特徴とする製紙用薬剤の効果監視方法。
【請求項10】
請求項8又は9において、前記製紙工程水の水質の計測に先立ち或いは計測後に、該計測部と該計測部へ製紙工程水を導入する配管を洗浄することを特徴とする製紙用薬剤の効果監視方法。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれか1項において、前記計測部に製紙工程水を導入する配管に洗浄用水を導入して前記計測部及び配管を洗浄することを特徴とする製紙用薬剤の効果監視方法。
【請求項12】
請求項11において、前記洗浄用水を流速0.2m/sec以上で時間10秒以上導入して前記計測部及び配管を洗浄することを特徴とする製紙用薬剤の効果監視方法。
【請求項13】
請求項9ないし12のいずれか1項において、濁度が既知の標準液について計測を行って、濁度と前記最低値の信号強度との関係を示す検量線を作成し、この検量線と、前記製紙工程水について検出された最低値の信号強度とから、該製紙工程水の濁度を求めることを特徴とする製紙用薬剤の効果監視方法。
【請求項14】
請求項8ないし13のいずれか1項の製紙用薬剤の効果監視方法による監視結果に基いて、前記製紙工程水に添加する製紙用薬剤の添加量を制御することを特徴とする製紙用薬剤の供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−57516(P2007−57516A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370143(P2005−370143)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】