説明

製鋼スラグの水冷処理方法

【課題】 粒状の高温スラグを均一、高速に冷却することができる製鋼スラグの水冷処理方法を提供する。
【解決手段】 高温スラグを静置した深さ0.5〜3mのヤードの一角に、複数の直進ノズル2と充円錐ノズル3を備えたヘッダ管1を配設する。直進ノズル2は強い噴射力を有する直進棒流によって直進ノズル2より遠方にある高温スラグを冷却するものであって、方向微調整用のボールジョイントを備えている。また、充円錐ノズル3は水を円形状に噴霧して充円錐ノズル3近傍の高温スラグを冷却する。以上のような直進ノズル2と充円錐ノズル3によって、ヤード内の高温スラグの全面に0.3〜1.0m/m・hrの水を散水して冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼精錬炉から排出されて凝固した高温粒状の製鋼スラグの水冷処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鋼スラグの冷却処理方法として、特許文献1に開示されたものがある。この開示に係る冷却処理方法は、高温スラグを密閉容器内に入れて減圧した状態で散水して冷却するものである。この方法においてスラグを密閉容器内に入れて減圧するのは、スラグ内の微細孔に侵入している空気やCOガスを取り除き、代わりに散水で発生した水蒸気をその微細孔へ侵入せしめて、スラグ内部のCaO水和反応を促進するのが目的である。この方法は密閉容器内で水冷するので、当然ながら粉塵等の飛散がなく環境上の問題は発生しない。しかしながら、スラグが低塩基度である場合には水和反応促進の必要性は小さいうえに、固定費増、修繕費増となる上記密閉容器は過剰設備となるため導入することはできない。
【0003】
ところで、転炉型溶銑予備処理(LD-ORP)によって生成するスラグ、即ち、溶銑を脱珪脱リン処理後廃滓することなく脱硫処理を実施した場合に生成するスラグは、塩基度(CaO/SiO)が2〜2.5以下と低く、その形状も平均粒径30mm以下と小さい砂状ないし粒状スラグである。このような粒状スラグの冷却に際して、従来は深さ1.5m程度の広いスラグヤード内に高温スラグを静置して上部より散水冷却していた。しかしながら、スラグが小さい粒状であるので、スラグ同士が密着して抜熱されにくく、このため下層のスラグは容易に冷却されない。そこで、下層のスラグの冷却を速めるために、図6に示すようにショベルカーで攪拌した場合には、内部に残存する熱で上昇気流が発生して粉塵が巻き上がり、問題があった。このため、スラグを均一、高速に冷却することははなはだ困難であって、小さいスラグ処理能力が粗鋼増産のネックとなっていた。
【特許文献1】特開平6−127984号公報 (図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記した従来の問題点を解決して、粒状の高温スラグを均一、高速に冷却することができる製鋼スラグの水冷処理方法を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するためになされた本発明の製鋼スラグの水冷処理方法は、高温粒状の製鋼スラグを深さ0.5〜3mのヤード内に静置して、この製鋼スラグに、0.3〜1.0m/m・hrの水を散水して冷却することを特徴とするものである。なお、ヤード散水面内の水量ばらつきを、±30%以下とするのが望ましく、冷却水として、製鉄所内で発生した排水を使用することでき、また、直進ノズルと円錐ノズルとを用いて散水することもできる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製鋼スラグの水冷処理方法は、深さ0.5〜3mのヤード内に静置された高温粒状の製鋼スラグに、0.3〜1.0m/m・hrの水を、ヤード散水面内の水量ばらつきを±30%以下として冷却するようにしたので、スラグを均一かつ迅速に冷却することができる。冷却水として、製鉄所内で発生した排水を使用することによって、排水の施製鉄所外への排出量を減少させることができ、また、円錐ノズルと直進ノズルとを用いて散水することにより、ヤード内の高温スラグを均一迅速に冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に図面を参照しつつ本発明の好ましい実施形態を説明する。
図2は、本発明を実施するための散水装置のヘッダ管を示す図であって、1はヘッダ管であって、垂直状のヘッダ管1に3個一組とした直進ノズル2が4段にして配備され、さらに最下段には3本一組の充円錐ノズル3が配備されている。ここで、直進ノズル2は強い噴射力を有する直進棒流によって直進ノズル2より遠方にある高温スラグを冷却することを目的とするものであり、方向微調整用のボールジョイントを備えている。この直進ノズル2は異物通過径が大きいので、詰まり防止に効果がある。また、充円錐ノズル3は水を円形状に噴霧して充円錐ノズル3近傍の高温スラグを冷却することを目的とするものであり、構造がシンプルで異物通過径が大きく、やはり詰まり防止に効果がある。これらのノズルの個数、段数はヤードの面積、ヘッダ管1の設置本数に応じて適宜選定することができる。
【0008】
図1に上記したような構成のヘッダ管1をヤードの一角に配置したものを示す。図示のようにヤード内においては、ヘッダ管1の近傍の高温スラグは充円錐ノズル3により冷却され、ヘッダ管より離れた位置にある高温スラグは直進ノズル2によって冷却されるようにしてある。
【0009】
以上のようなヘッダ管1を用いてヤード内の高温スラグを冷却するに当たっては、ヤードの全面に0.3〜1.0m/m・hrの大量の水を噴射することが必要である。0.3m/m・hr未満の散水量では広いヤード全面に均一に散水することが困難だからである。つまり、散水量を0.3m/m・hr以上としないと直進ノズルの棒流の直進性が確保できずヤード全面への散水が不可能になる。
一方、1.0m/m・hrを超えて散水しても散水が粒状スラグに浸透する速度が律速となり、スラグ上面に水溜まりができるだけで、冷却速度の増大がそれ以上望めないからである。散水量と室温までの完全冷却に要する時間との関係を図3に示す。0.3m/m・hr未満では高温スラグを高速に冷却することができず、一方、1.0m/m・hrの水量で十分高速に冷却できることが分かる。
【0010】
なお、ヤードは、深さを0.5〜3mとする必要がある。0.5m未満の深さでは、大量の高温スラグを一度に処理することができないからであり、一方、3mを超えると、処理済みスラグの取り出しなどの作業性が低下するからである。また、ヤードの面積は、10m以上とするのが大量処理の面から望ましい。
【0011】
ヤード内の散水量の分布を図4に示す。図4は、ヤード内に散水された単位面積、単位時間当たりの散水量分布を示すものであって、少ない所で37mm、多い所で67mmの散水量であって、平均値52mmの±30%以内のばらつきに収まるように散水されている。この結果、冷却速度が全体的にならされて、高温スラグを全面にわたり11時間以内で高速に冷却することができた。
【0012】
なお、冷却水として製鉄所内で発生した排水を使用するのが、排水処理量を減少させることができて望ましい。即ち、従来は製鉄所内の各工場から出された排水は、戻水処理施設にて処理して循環使用するのであるが、処理水中の不純物の沈殿除去を促進するために水処理剤の添加が必要となりコストアップの原因となっていた。しかし、図5に示すように、工場からの排水を高温スラグの冷却に循環使用することにより、散水の大部分を蒸発させることができ、その分新水を添加できるため、水処理剤の添加量が削減できコスト低減が可能となる。
【0013】
以上説明したように、本発明の製鋼スラグの水冷処理方法は、粒状の高温スラグを均一かつ迅速に冷却することができる。したがって、本発明方法は高温スラグの処理コストを大幅にアップさせることがない、環境への影響が小さいという大きな利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る製鋼スラグの水冷処理方法を説明する平面図である。
【図2】直進ノズルと充円錐ノズルを備えたヘッダ管の斜視図である。
【図3】散水量と冷却時間の関係を示すグラフである。
【図4】ヤード内の散水量の分布図である。
【図5】製鉄所内排水のフロー図である。
【図6】高温スラグを攪拌した時の粉塵の舞い上がりを説明する概略図である。
【符号の説明】
【0015】
1 ヘッダ管
2 直進ノズル
3 充円錐ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温粒状の製鋼スラグを深さ0.5〜3mのヤード内に静置して、この製鋼スラグに、0.3〜1.0m/m・hrの水を散水して冷却することを特徴とする製鋼スラグの水冷処理方法。
【請求項2】
ヤード散水面内の水量ばらつきを、±30%以下としたことを特徴とする請求項1に記載の製鋼スラグの水冷処理方法。
【請求項3】
冷却水として、製鉄所内で発生した排水を使用することを特徴とする請求項1または2に記載の製鋼スラグの水冷処理方法。
【請求項4】
直進ノズルと円錐ノズルとを用いて散水することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の製鋼スラグの水冷処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−193760(P2006−193760A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−4042(P2005−4042)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】